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エピローグ&プロローグ 『ハワード』 |
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もう我々の血は流れない。
故に繋がることなどないはずなのに。 愛さえあれば家族になれてしまうのだ。 ───────────────────────── ハワードは。 もしかしたらここに来ないかもしれない。 この朝食の席につかないかもしれない。 もう一生会えないかもしれない。 私はそう考える。ライラもエイミーもそう考えているみたいで、不安そうな表情が消えない。彼の部屋を見ればすぐにわかることだが、どうしても足は動かなかった。 彼が明日まで待ってほしいと言ったのは多分、逃げるか残るかを決めるための時間、もしくは逃げるための時間が欲しかったからだろう。 本当なら縛ってでもここに残らせたい。洗脳してでも一生ここで一緒に暮らしたい。 でも、それはできない。 それは私たちのエゴだ。 なにせ、私たちは彼に嘘までついてしまっているのだから…… ガチャリ 「「「!!」」」 ドアの開く音がした。 続いて階段を降りてくる足音も。 やがてハワードは、姿を見せた。 「おはよう」 「「「おはよう」」」 私たちはほっと一息つく。とりあえず逃げたわけではないのがわかったのだ。だが、まだ彼はここに残るとは言っていない。 まだ『家族』になるとは言っていない。 「……」 彼は少し居づらそうに席についた。私たちの期待のまなざしを一身に受けているからだろう。椅子に座っても彼はしばらく何も言わなかった。だが、確かに何かを言いたそうではあった。 「──ねぇ」 空気が。一気に張り詰める。 「僕、聞きたいことがあるんだ」 あぁ、ついに来てしまったか。 わかっていた。ずっと隠しきれるだなんて思っていなかった。 だから正直に答える覚悟はしてきた。 ハワードを傷つける覚悟も。 「僕のお母さんとお父さんは──どうして死んだの?」 「叫びが聞こえたんだ」 ハワードはその場に立ち尽くし、誰に向けるでもなく呟く。 「ハワード。逃げて。逃げて。って両親の叫び声が眠る度に聞こえてくるんだ──どう考えても病気で死んだようには思えなかったんだ」 「ハワード……」 「でも、よかった」 「両親を殺したのがヴィオラたちじゃないってわかっただけでも、僕は満足だよ」 私たち四人は今、とある村の残骸を前にしている。 それはハワードの故郷。 大虐殺によって滅ぼされた故郷── 「虐殺が起こった理由は私にもわからない。宗教的なものか、あるいは通り魔的に蛮族に襲われたのか──わからない」 「……ねぇ、みんな」 ハワードはゆっくりとこちらに振り返る。 「僕は、幸せになってもいいのかな?」 「……もちろんだ」「もちろん」「もちろんよ」 「……そう、だよね」 彼は悲しく笑った。きっと納得は出来ていないだろう。それでも彼は幸せに生きようとしているのだろう。 私たちはそれを支える。心でそう誓った。 「……じゃあね、お母さん、お父さん」 彼は手に持っていた花束を村の入り口に置いた。もちろんそれは供養なんかではないのだろう。本当の供養は多分、彼らの屍の上で幸せになることなのだろう。 そして名残惜しそうに振り返る。 「じゃあ、帰ろっか」 ひゅぅ、と一陣の風が。 「?」 ハワードの頬を撫でていった。 まるで前途の幸せを祈るかのように。 それは、どこかへ消えていった。 寂しそうに笑う彼を横目に私は思う。 ──神様、いるならどうかお許しください。 私はこの秘密を、彼には話さないことにしました。 ───────────────────────── それでも、始まりは愛ではなかったんだ。 ───────────────────────── 「ヴィオラお姉さま!」「ねぇちゃん!」 私はゆっくりと振り返る。 そこには息の上がったライラとエイミーがいた。 「……どうしたんだい? そんなにあわてて」 私はそれでも、平静を装った。 「ここでお姉さまの魔力を感じまして」 「あぁ、それも飛びっきりでかいの」 やはり、気づかれてしまったか。できるだけ外には魔力が漏れないようにしていたが……やはり、『家族』。隠し事はできないようだ。 「……いや、なんでもないよ。ただ新魔術の実験を」 「──嘘言わないでください」 ライラはぴしゃりと言う。やっぱり、無理だったか。 「その、足元にあるのはなんですか?」 「ん、あぁ、この子かい……この子は」 「新しい『家族』だ」 私は足元で寝る少年を抱き上げる。 「お姉さま……それは間違いです。正しくなんてありませんよ」 「……何がだい?」 「その子を生き返らせたことです!」 「……本当に、『家族』には隠し事なんてできないねぇ」 「何故! その子を蘇らせたんですか!?」 「……」 「お姉さま……お姉さま」 「憐れみや同情は愛ではないのですよ!?」 「……」 「そんな理由でその子を蘇らせるだなんて……それはお姉さまのエゴでしかないんですよ」 「わかっているよ」 「その子は永遠に、死という傷を背負うことになるんですよ」 「わかっている」 「こんなに小さな子が、それに耐えられると思ってるんですか!?」 「わかってるよ!」 私は叫ぶ。 「……わかってるよそんなこと。生き返らせるのがこの子のためにはならないって。わかってるよ」 でも。 「でも、仕方ないじゃないか。このまま死なせるだなんて、こんなに早く全てを終わらせるだなんて……あんまりじゃないか」 私もそうだ。 幼い頃に死んだ。 死の瞬間に感じる、これから先の全てが失われる絶望感は計り知れない。 それこそ、精神が壊れてしまうほどに。 「あぁ、そうさ。これは同情さ。可哀想だから助けたのさ。これを見てて辛いから助けたのさ」 そこに愛は、なかった。 「それの……何が悪いんだ」 ぽろぽろと、涙がこぼれ落ちて止まらない。 こんな感情は今まで封印していたはずなのに…… 「っ……」 「ライラねぇちゃん……ヴィオラねぇちゃんの言うとおりだ。目の前で散った命を助けたくなるのは当たり前のことだろ?」 「そうだけど」 「同情だって、憐れみだって、いつかはきっと愛になるさ……ヴィオラねぇちゃんはその子を愛するつもりなんだろう?」 「あぁ、もちろんだ」 「なら、それでいいじゃねぇか。きっと大事なのは始まりじゃなくてその結果なんだよ。みんなでその子を愛してあげようぜ」 「……」 ライラは納得がいかないように顔をしかめる。だが、彼女だってやさしい子だ。この少年のことを愛してくれるだろう。 「……じゃあ、決まりだ。この子は今日から『家族』だ」 私は彼を抱えながら家へと向かう。 「ケーキを食べよう。とびっきり美味しいのを。そして祝おう」 「彼の再誕日を」 ───────────────────────── 私たちは『家族』だ。 17/05/25 23:30 鯖の味噌煮
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次回からは整合性もくそもない単純エロエロSSを書いていく予定です
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