Cults of the Ghouls
魔物娘の全ては愛のためにある。
腕は愛する者を抱くためにあり、足は愛する者を追うためにある。
目は愛する者を見るためにあり、口は愛する者を誘うためにある。
決して。
人を狩り、喰らうためにあるのではない。
それなのに───
どうして私には、人が『肉』にしか見えないのだろうか。
答は簡単だ。
私が屍を食らう鬼だからに違いない。
その腕は、足は、目は、口は。
どうしようもなく血に染まっているからに違いない─────
『肉』で溢れる町を歩く。
夥しい量の『肉』達が右往左往、縦横無尽に歩き回っている。
本当は外などで歩きたくない。あの頃の抑えられないほどの食欲はないが、今でも『肉』を見ると腹が空く。
腹が空くと。
つい『肉』へと手を、爪を、牙を向けたくなる。
だが、教団の力もある程度は強いこの国でそんなことをしでかせば───いや、そうでなくとも一瞬で私の首にお縄がかかることだろう。ただでさえ過去の人喰らいの罪を隠して生きているのだ。新たな罪を重ねるわけには行かない。
というわけで、私は今日も食欲を抑えつつ買い物をする。『肉』ではない肉、その他の食糧を求めて。
他の人ならば、他の魔物娘ならば、買い物など難なくすませてしまうのだろう。羨ましい限りだ。これが狩りならばどんなに楽なことであろうか。『肉』と接する必要もないし、気晴らしにもなる。
少しだけ、昔が恋しくなってしまった。
そんな懐古に浸っているうちに一層濃い『肉』だかりにぶつかる。
しまった。何か催し物があるようだ。
しかし、この道はいつも通っている店への最短ルートなのだ。迂回するとなるとだいぶ時間がかかってしまう。
「………………仕方ない」
私はこの『肉』だかりを突っ切ることにした。
「失礼。失礼。少し後ろを。すまない。ありがとう」
ごちゃごちゃとした『肉』を掻き分け、右も左もわからなくなっていく。どうやら進んでいくうちに行く必要もない中心部へとやってきてしまったようだ。
「次はこいつだ!」
荒々しい『肉』の声が響く。どうやら奴隷市場が開かれているらしい。
悪趣味な話だ。
あんなに高い金を出して『肉』を買うだなんて。
だが、そうか、そういう手があるのか。『肉』を買う………いつか飢えの限界が来たときにはこの手をとるしかないのか。
「前時代の悪魔の呪いに侵された『罪人』だ!」
厭な考えに捕らわれている間に、商品が出てきた。それは────
それは綺麗な少年だった。
「…………………」
目を奪われた。
確かに土や泥で汚れた襤褸を着せられ、顔も髪も体もろくに洗っていないような清潔感のかけらもない少年だ。
だけれども、私の目には綺麗に見えた。
いや、違う。そうではない。私がいいたいのはそんなことではない。
私の目には、彼が『人間』に見えるのだ。『肉』ではなく『人間』に。
「…………………」
少年は、静かに顔を上げる。絶望の闇に覆われた瞳が見えた。
「…………………」
私は少年と。
目があったような気がした。
「………………ぁ」
気が付くと私は手を挙げ、こう言い放っていた。
「そいつは私が買う!いくら出せばいいんだ!」
「……………………くっ」
恥をかいた。
何か、こう、もっと違うやり方で競りをしていたようだ。手を挙げた瞬間、周りから嘲笑が………いや、爆笑が飛んできた。
死にたい。アンデッド族が言うのもなんだが死にたい。
「死にたいぃぃぃ…………」
だから自分の屋敷につくやいなや、頭抱え叫んでみる。
「……………悶えているところ悪いんだけどもお姉さん」
「! 何だ!」
「お姉さんはこれから僕のことどうするの」
「…………そうだな」
嫌だな、本当のことを言ってしまうのは。
要するに『君に言いようもない魅力を感じた』という理由でこいつを買ったのだが………それをこいつに言うのはどうなんだろうか。
「その、あの、だな、えぇと……………」
「隠してるようだけどもさ、お姉さん魔物娘でしょ?」
「っ!」
バレてしまった。だが、こいつにバレても周りにバレることはないだろうから問題はないだろう。
ただ、その次が問題だった。
「まさかさ、僕にいやらしいことするつもりじゃないよな」
と、ゴミクズムシを見るような目で私を見てきたのだ。
「………………」
尚更言いにくくなった。
というか奴隷として買ったはずなのだが………妙にふてぶてしいな、この餓鬼は。
少年呼びを餓鬼呼びにランクダウンさせるくらいには腹が立ったぞ、その目。
「…………あんまり調子に乗るなよ、奴隷」
さすがにこのまま調子に乗らせておくのは癪だ。高圧的に脅すことにした。
よい口実も見つかったことだし。
「そうだ、私は魔物娘だ────魔物娘のグールだ」
「いいか、奴隷。私がお前をここに連れてきた理由はな、『お前を喰うためだ』」
「…………………」
わずかだが、彼の眉間に皺が寄る。
「そう、お前を働かせ、ちょうどよく肉が熟成した頃に喰うために連れてきたんだ。楽ができる、腹が満たせるの一石二鳥だ」
声にドスを利かせ、私は彼を脅す。
誰が上かを知らしめるために。
「…………へぇ、そうか。まぁ、死ねるなら拷問されるとかよりはマシかな」
諦めたように俯く餓鬼。
どうやら、ここに来るまでに相当悲惨な目に遭っているらしい。
「……………」
興が削がれた。張りつめていたものが抜けていく。
私にも似たような経験がある。遙か昔の話だが死んだ方がマシ、そんな状況に遭遇したことがあるのだ。
「……………おい奴隷」
だから、私はシンパシーを感じたのだろうか。
つい、優しさを見せてしまったのだ。
「いつまで汚い面見せているんだ。風呂、入るぞ」
「………………はぁ?」
一体、私は何を言っているのだろうか。
このことを私は、さっきのこと以上に後で恥じることになるのだった。
「なん、で、お前も一緒なんだ!」
「窓から逃げられたら困るからな」
屋敷の風呂場は豪華だ。浴槽や床は大理石でできているし、魔法エーテル装置を搭載した湯沸かし機やシャワーも完備している。
この場合、問題となるのは窓となっている大きいステンドグラスだ。
割れば脱走するには持ってこいの抜け穴になる、
「じゃあなんだその手に持っているスポンジみたいなのと石鹸は!見張るだけならいらないだろ!」
このスポンジは………なんだっけか。確か少し前に石鹸の泡立ちが良くなるとか言われて買ったのだったか。
なんでも、空気がどうたらで泡立つとか。
「私の餌だ、私が責任を持って洗う」
「じゃあ全裸にならなくてもいいだろうが!」
「………」
「やっぱりいやらしいことするつもりじゃないか!」
正直、そこは私にも答えられなかった。
ノリ………というやつかな。
「う、うるさいぞ!奴隷!お前は私に大人しく現れてればいいんだ!」
わしゃわしゃとスポンジで石鹸を泡立たせ、じりじりと彼に近づく。
「や、やめ………うわぁぁぁぁ!」
「おら!大人しくしろ!」
「ぎゃあああ!」
「きったないなぁ………そんなんで風呂には入れさせないぞ!」
「いやぁぁぁぁ!」
「ほらほら!だいぶ見れる顔になってきたじゃないか」
「た、助けてぇぇぇ!」
「綺麗になってきたぞ〜♪」
「ひぃぃぃぃっ!」
「………………」
「どうだ、気持ちいいか」
「…………なんで、お前に抱かれながら入んなきゃいけないんだ」
一時間弱の格闘を終え、彼はようやく浴槽に浸かる。私が背後から抱きかかえながらだが。
「お前を逃がさないためだ」
どうやらこの少年。風呂が嫌いらしい。まるで猫か何かのようだった。
きっと風呂にもちゃんと浸からないだろうと言う判断でこういう姿勢になったのだ。
「…………よけいなお世話だ」
………そういう判断でなったのだが、予想に反してかなり大人しい。
体の動きとかじゃなくて、言葉が………
「どうした、顔も真っ赤だし。もう上せたのか」
精神的にキツいのではなく、もしかしたら暑いのが駄目だ、という肉体的にキツいのかもしれない。
「………お前の」
「? 私の?」
「お前のおっ…………胸が当たっているんだ!」
「……………」
なるほど、意識していなかった。
しばらく食欲としか向き合っていなかったせいで『性』というものに疎くなってしまっていた。
「ふぅん、そんなに恥ずかしいか、胸を当てられるのが」
「…………あぁ」
「気持ちよくは………ないか?」
「………………………あぁ」
私は腕に力を入れ、彼をさらに強く抱く。
当然、密着も強くなり…………
「なっ!……………………や、やめろ!」
「どうやら、身体は気持ちいいと言っているようだが?」
「そんなバカな…………ひぃっ!」
「だってほら、固くなってるぞ」
私は『性』の象徴でもある彼のペニスを、優しく握ってやる。
「お、お前…………」
「ふふふ……さぁて、湯を汚すのは気が進まないからいったん出ようか」
嫌がる少年を見て、私はだんだんと興奮してきた。
これが。
魔物娘ってやつなのかな……………?
少年を浴槽の縁に座らせ、私は彼の足元に跪く。奴隷と主人の立場が逆転しているようにも見えるが、彼の方にはそんなことを考える余裕もなさそうなのでよしとしよう。
「ここを弄られるのがそんなにいいのか?」
「っ……………っ!」
まだ幼く、皮をかぶっているペニスを撫でる。一撫でする度に、そこだけ別の生き物のようにピクリと跳ねる。
その様が楽しくて、可愛らしくて、私はつい遊んでしまう。
「声我慢したって無駄だぞ………これから我慢できないくらいにすごく気持ちよくしてやるからな♥」
「っ…………………っ!」
確か………皮を剥くんだっけか?どうやって?
とりあえず私は訳も分からず、その包茎ペニスに空いている穴に指を突っ込む。
「っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
「え、あ、い、痛いのか?す、すまない!」
またまた訳も分からず指を抜き、痛みを鎮めるため口で咥えてやる。
「っ!」
その瞬間。
勢いよく、口の中に何かが発射される。
変に温くて変な味………
「んんっ!んっ!………らんかれはぞ………んへ」
私はそれを手のひらに出して、正体を確認する。
白くて、ドロドロしてて、臭い液体だった。
「これが……精液か………」
「い、いきなり、咥えるやつがあるかよ………」
そんな声は私には届かない。私の興味はすべてこの真っ白な液体にのみ向いていた。この匂い、味………もしかしたら、これが私の飢えを満たしてくれるのかもしれない。
「ちゅる、じゅるる、んくっ、ごくっ」
そう思い、私は手のひらを傾け、勢いよく精液を喉に流し込む。
「んっ、んぐっ、んくっ………んっ♥ぐちゅ♥ぷちゅ♥」
喉に絡みついて、なかなか飲み込めない。
でもその方がいい。だって長く、ゆっくりとこの精液の感触を楽しめるのだから。
「ごくんっ…………はぁ♥………はぁ♥………精液ってこんなにおいしいのか……」
少し。少しだけだが。
何かが満たされた気がする。
「………………」
「どうした?まさか精液を飲んでいるところを見るだけで興奮するだなんてことはない………………………よな?」
「………………」
少年は真っ赤になりながら目を反らす。しかも少ししなっていたペニスがもう屹立していた。
もう答えは明白だった。
「…………はぁ、手間のかかる奴隷だよ、お前は」
私はゆっくりと胸をペニスに押し当てる。それだけでも彼は快楽のあまり震えてしまう。
「胸が、好きなんだろ?ならこれで挟んだら気持ちいいんじゃないか?」
私の胸は大きい方だと自負している。これならばきっと挟めてしまうだろう。
「…………………………」
「拒否、しないんだな♥?」
勝った。これでこの場は完全に制した。
「んっ♥ほぅら、全部包まれたぞ♥気持ちいいか♥?」
彼はもう限界のようだ。顔を手で覆ってぶつぶつとつぶやいている。
ぼそぼそと聞こえてくる内容はわりと危険な内容なのだが、この際気にしないでおこう。
「ふふふ、私は構わないからな、胸の中でさっきみたいに出してもいいぞ♥」
「っ!っ!んむっ!」
胸を上下に揺らし、ペニスをしごく。ペニスに付着したままの唾液と精液のおかげでぬるぬると動かせる。小さなペニスの頭が、透明な汁を垂れ流しながら時々胸の間から顔をのぞかせる
「っ!っ!んむっ!」
今まで抑えていた声が漏れ始める。じっとしているのがもどかしいのか、身体が揺れる。
「…………泣くほど気持ちいいのか?」
こっちとしては性的な快感はないのだが………
「っっぅ!」
どうやら気持ちがいいらしい。
なんだか楽しくなってきてしまった。
彼が悶えている姿を見ると、いじらしいというか、いじめてやりたいという気持ちが高ぶって抑えられない。
これが………愛なのだろうか。
「っ!っ!」
「なんだ、そろそろ出そうなのか?………もっと楽しみたかったのだが……」
これから鍛えていく必要があるな。
いずれは本番の子作りも………
「じゃあ、仕上げだ…………それっ」
私は彼のペニスの先端を、軽く噛んでやる。
食べる時みたいに強くではなく、優しく押しつぶすように。
「っっぅぅうああああああっ!」
びゅるっ
また、口の中で精液が発射される。あの愛おしい味が、感触が、口いっぱいに広がる。
今まで食欲に振り回されてきた自分が馬鹿みたいだ。
もう、これさえあれば何もいらない。
もう飢えることはない。
そう確信した。
「あっ、あっ、ぅ…………………」
「あ」
しかし、どうも出せる量には限界があるらしい。
最後にびゅっと精を吐き出し、彼は気を失ってしまった。
少し自重しなくてはいけないようだ……………
「……………」
次の日、私は少年に我が屋敷に相応しい召使いの衣装を着させた。なんとも可愛らしい格好だ。
「さぁて、今日から働いてもらうからな。仕事内容はそうだな、普通に家事全般をしてもらおうか」
「お前は何もしないのか………」
「小声で言っても聞こえてるからなー」
お前じゃなくて御主人様、な。
「私はそうだな、貴様を愛してやる。それが私のするべきことだ」
愛を忘れてしまった私にはぴったりの仕事だ。
「ちっ………」
まずは、その生意気な態度も愛せるように頑張ろうかな。
「あぁ、そうだ、その制服以外に渡す物があったな……お前の名前だ」
「っ………お前」
「そうだ、名付けられたからにはお前は一生私の物だ。覚悟するがいい」
「……?」
「…………喰われるまでの短い一生を私の元で暮らせるんだ、いい話だろう?」
危ない危ない。
「さぁて、お前の名前だが」
「『ネルケ』だ。いい名前だろう?」
「…………ださっ」
「文句は受け付けん、さぁ働け働け」
私の身体には力があふれていた。
これまでの日々は過去の食欲に支配され、疲弊していくだけの物だった。
だがこれからは違う。これからは愛のために、未来のために日々を生きるのだ。
そう思うと胸が弾むのを止められない。
「さてさて、私は優雅に茶でも………」
「最後に一つだけ言わせてもらうぞ………お、御主人様」
「何だ?」
「この服、女の子用だ」
「……………………」
愛を知る前に。
いろいろと勉強をしなければならないようだ。
腕は愛する者を抱くためにあり、足は愛する者を追うためにある。
目は愛する者を見るためにあり、口は愛する者を誘うためにある。
決して。
人を狩り、喰らうためにあるのではない。
それなのに───
どうして私には、人が『肉』にしか見えないのだろうか。
答は簡単だ。
私が屍を食らう鬼だからに違いない。
その腕は、足は、目は、口は。
どうしようもなく血に染まっているからに違いない─────
『肉』で溢れる町を歩く。
夥しい量の『肉』達が右往左往、縦横無尽に歩き回っている。
本当は外などで歩きたくない。あの頃の抑えられないほどの食欲はないが、今でも『肉』を見ると腹が空く。
腹が空くと。
つい『肉』へと手を、爪を、牙を向けたくなる。
だが、教団の力もある程度は強いこの国でそんなことをしでかせば───いや、そうでなくとも一瞬で私の首にお縄がかかることだろう。ただでさえ過去の人喰らいの罪を隠して生きているのだ。新たな罪を重ねるわけには行かない。
というわけで、私は今日も食欲を抑えつつ買い物をする。『肉』ではない肉、その他の食糧を求めて。
他の人ならば、他の魔物娘ならば、買い物など難なくすませてしまうのだろう。羨ましい限りだ。これが狩りならばどんなに楽なことであろうか。『肉』と接する必要もないし、気晴らしにもなる。
少しだけ、昔が恋しくなってしまった。
そんな懐古に浸っているうちに一層濃い『肉』だかりにぶつかる。
しまった。何か催し物があるようだ。
しかし、この道はいつも通っている店への最短ルートなのだ。迂回するとなるとだいぶ時間がかかってしまう。
「………………仕方ない」
私はこの『肉』だかりを突っ切ることにした。
「失礼。失礼。少し後ろを。すまない。ありがとう」
ごちゃごちゃとした『肉』を掻き分け、右も左もわからなくなっていく。どうやら進んでいくうちに行く必要もない中心部へとやってきてしまったようだ。
「次はこいつだ!」
荒々しい『肉』の声が響く。どうやら奴隷市場が開かれているらしい。
悪趣味な話だ。
あんなに高い金を出して『肉』を買うだなんて。
だが、そうか、そういう手があるのか。『肉』を買う………いつか飢えの限界が来たときにはこの手をとるしかないのか。
「前時代の悪魔の呪いに侵された『罪人』だ!」
厭な考えに捕らわれている間に、商品が出てきた。それは────
それは綺麗な少年だった。
「…………………」
目を奪われた。
確かに土や泥で汚れた襤褸を着せられ、顔も髪も体もろくに洗っていないような清潔感のかけらもない少年だ。
だけれども、私の目には綺麗に見えた。
いや、違う。そうではない。私がいいたいのはそんなことではない。
私の目には、彼が『人間』に見えるのだ。『肉』ではなく『人間』に。
「…………………」
少年は、静かに顔を上げる。絶望の闇に覆われた瞳が見えた。
「…………………」
私は少年と。
目があったような気がした。
「………………ぁ」
気が付くと私は手を挙げ、こう言い放っていた。
「そいつは私が買う!いくら出せばいいんだ!」
「……………………くっ」
恥をかいた。
何か、こう、もっと違うやり方で競りをしていたようだ。手を挙げた瞬間、周りから嘲笑が………いや、爆笑が飛んできた。
死にたい。アンデッド族が言うのもなんだが死にたい。
「死にたいぃぃぃ…………」
だから自分の屋敷につくやいなや、頭抱え叫んでみる。
「……………悶えているところ悪いんだけどもお姉さん」
「! 何だ!」
「お姉さんはこれから僕のことどうするの」
「…………そうだな」
嫌だな、本当のことを言ってしまうのは。
要するに『君に言いようもない魅力を感じた』という理由でこいつを買ったのだが………それをこいつに言うのはどうなんだろうか。
「その、あの、だな、えぇと……………」
「隠してるようだけどもさ、お姉さん魔物娘でしょ?」
「っ!」
バレてしまった。だが、こいつにバレても周りにバレることはないだろうから問題はないだろう。
ただ、その次が問題だった。
「まさかさ、僕にいやらしいことするつもりじゃないよな」
と、ゴミクズムシを見るような目で私を見てきたのだ。
「………………」
尚更言いにくくなった。
というか奴隷として買ったはずなのだが………妙にふてぶてしいな、この餓鬼は。
少年呼びを餓鬼呼びにランクダウンさせるくらいには腹が立ったぞ、その目。
「…………あんまり調子に乗るなよ、奴隷」
さすがにこのまま調子に乗らせておくのは癪だ。高圧的に脅すことにした。
よい口実も見つかったことだし。
「そうだ、私は魔物娘だ────魔物娘のグールだ」
「いいか、奴隷。私がお前をここに連れてきた理由はな、『お前を喰うためだ』」
「…………………」
わずかだが、彼の眉間に皺が寄る。
「そう、お前を働かせ、ちょうどよく肉が熟成した頃に喰うために連れてきたんだ。楽ができる、腹が満たせるの一石二鳥だ」
声にドスを利かせ、私は彼を脅す。
誰が上かを知らしめるために。
「…………へぇ、そうか。まぁ、死ねるなら拷問されるとかよりはマシかな」
諦めたように俯く餓鬼。
どうやら、ここに来るまでに相当悲惨な目に遭っているらしい。
「……………」
興が削がれた。張りつめていたものが抜けていく。
私にも似たような経験がある。遙か昔の話だが死んだ方がマシ、そんな状況に遭遇したことがあるのだ。
「……………おい奴隷」
だから、私はシンパシーを感じたのだろうか。
つい、優しさを見せてしまったのだ。
「いつまで汚い面見せているんだ。風呂、入るぞ」
「………………はぁ?」
一体、私は何を言っているのだろうか。
このことを私は、さっきのこと以上に後で恥じることになるのだった。
「なん、で、お前も一緒なんだ!」
「窓から逃げられたら困るからな」
屋敷の風呂場は豪華だ。浴槽や床は大理石でできているし、魔法エーテル装置を搭載した湯沸かし機やシャワーも完備している。
この場合、問題となるのは窓となっている大きいステンドグラスだ。
割れば脱走するには持ってこいの抜け穴になる、
「じゃあなんだその手に持っているスポンジみたいなのと石鹸は!見張るだけならいらないだろ!」
このスポンジは………なんだっけか。確か少し前に石鹸の泡立ちが良くなるとか言われて買ったのだったか。
なんでも、空気がどうたらで泡立つとか。
「私の餌だ、私が責任を持って洗う」
「じゃあ全裸にならなくてもいいだろうが!」
「………」
「やっぱりいやらしいことするつもりじゃないか!」
正直、そこは私にも答えられなかった。
ノリ………というやつかな。
「う、うるさいぞ!奴隷!お前は私に大人しく現れてればいいんだ!」
わしゃわしゃとスポンジで石鹸を泡立たせ、じりじりと彼に近づく。
「や、やめ………うわぁぁぁぁ!」
「おら!大人しくしろ!」
「ぎゃあああ!」
「きったないなぁ………そんなんで風呂には入れさせないぞ!」
「いやぁぁぁぁ!」
「ほらほら!だいぶ見れる顔になってきたじゃないか」
「た、助けてぇぇぇ!」
「綺麗になってきたぞ〜♪」
「ひぃぃぃぃっ!」
「………………」
「どうだ、気持ちいいか」
「…………なんで、お前に抱かれながら入んなきゃいけないんだ」
一時間弱の格闘を終え、彼はようやく浴槽に浸かる。私が背後から抱きかかえながらだが。
「お前を逃がさないためだ」
どうやらこの少年。風呂が嫌いらしい。まるで猫か何かのようだった。
きっと風呂にもちゃんと浸からないだろうと言う判断でこういう姿勢になったのだ。
「…………よけいなお世話だ」
………そういう判断でなったのだが、予想に反してかなり大人しい。
体の動きとかじゃなくて、言葉が………
「どうした、顔も真っ赤だし。もう上せたのか」
精神的にキツいのではなく、もしかしたら暑いのが駄目だ、という肉体的にキツいのかもしれない。
「………お前の」
「? 私の?」
「お前のおっ…………胸が当たっているんだ!」
「……………」
なるほど、意識していなかった。
しばらく食欲としか向き合っていなかったせいで『性』というものに疎くなってしまっていた。
「ふぅん、そんなに恥ずかしいか、胸を当てられるのが」
「…………あぁ」
「気持ちよくは………ないか?」
「………………………あぁ」
私は腕に力を入れ、彼をさらに強く抱く。
当然、密着も強くなり…………
「なっ!……………………や、やめろ!」
「どうやら、身体は気持ちいいと言っているようだが?」
「そんなバカな…………ひぃっ!」
「だってほら、固くなってるぞ」
私は『性』の象徴でもある彼のペニスを、優しく握ってやる。
「お、お前…………」
「ふふふ……さぁて、湯を汚すのは気が進まないからいったん出ようか」
嫌がる少年を見て、私はだんだんと興奮してきた。
これが。
魔物娘ってやつなのかな……………?
少年を浴槽の縁に座らせ、私は彼の足元に跪く。奴隷と主人の立場が逆転しているようにも見えるが、彼の方にはそんなことを考える余裕もなさそうなのでよしとしよう。
「ここを弄られるのがそんなにいいのか?」
「っ……………っ!」
まだ幼く、皮をかぶっているペニスを撫でる。一撫でする度に、そこだけ別の生き物のようにピクリと跳ねる。
その様が楽しくて、可愛らしくて、私はつい遊んでしまう。
「声我慢したって無駄だぞ………これから我慢できないくらいにすごく気持ちよくしてやるからな♥」
「っ…………………っ!」
確か………皮を剥くんだっけか?どうやって?
とりあえず私は訳も分からず、その包茎ペニスに空いている穴に指を突っ込む。
「っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
「え、あ、い、痛いのか?す、すまない!」
またまた訳も分からず指を抜き、痛みを鎮めるため口で咥えてやる。
「っ!」
その瞬間。
勢いよく、口の中に何かが発射される。
変に温くて変な味………
「んんっ!んっ!………らんかれはぞ………んへ」
私はそれを手のひらに出して、正体を確認する。
白くて、ドロドロしてて、臭い液体だった。
「これが……精液か………」
「い、いきなり、咥えるやつがあるかよ………」
そんな声は私には届かない。私の興味はすべてこの真っ白な液体にのみ向いていた。この匂い、味………もしかしたら、これが私の飢えを満たしてくれるのかもしれない。
「ちゅる、じゅるる、んくっ、ごくっ」
そう思い、私は手のひらを傾け、勢いよく精液を喉に流し込む。
「んっ、んぐっ、んくっ………んっ♥ぐちゅ♥ぷちゅ♥」
喉に絡みついて、なかなか飲み込めない。
でもその方がいい。だって長く、ゆっくりとこの精液の感触を楽しめるのだから。
「ごくんっ…………はぁ♥………はぁ♥………精液ってこんなにおいしいのか……」
少し。少しだけだが。
何かが満たされた気がする。
「………………」
「どうした?まさか精液を飲んでいるところを見るだけで興奮するだなんてことはない………………………よな?」
「………………」
少年は真っ赤になりながら目を反らす。しかも少ししなっていたペニスがもう屹立していた。
もう答えは明白だった。
「…………はぁ、手間のかかる奴隷だよ、お前は」
私はゆっくりと胸をペニスに押し当てる。それだけでも彼は快楽のあまり震えてしまう。
「胸が、好きなんだろ?ならこれで挟んだら気持ちいいんじゃないか?」
私の胸は大きい方だと自負している。これならばきっと挟めてしまうだろう。
「…………………………」
「拒否、しないんだな♥?」
勝った。これでこの場は完全に制した。
「んっ♥ほぅら、全部包まれたぞ♥気持ちいいか♥?」
彼はもう限界のようだ。顔を手で覆ってぶつぶつとつぶやいている。
ぼそぼそと聞こえてくる内容はわりと危険な内容なのだが、この際気にしないでおこう。
「ふふふ、私は構わないからな、胸の中でさっきみたいに出してもいいぞ♥」
「っ!っ!んむっ!」
胸を上下に揺らし、ペニスをしごく。ペニスに付着したままの唾液と精液のおかげでぬるぬると動かせる。小さなペニスの頭が、透明な汁を垂れ流しながら時々胸の間から顔をのぞかせる
「っ!っ!んむっ!」
今まで抑えていた声が漏れ始める。じっとしているのがもどかしいのか、身体が揺れる。
「…………泣くほど気持ちいいのか?」
こっちとしては性的な快感はないのだが………
「っっぅ!」
どうやら気持ちがいいらしい。
なんだか楽しくなってきてしまった。
彼が悶えている姿を見ると、いじらしいというか、いじめてやりたいという気持ちが高ぶって抑えられない。
これが………愛なのだろうか。
「っ!っ!」
「なんだ、そろそろ出そうなのか?………もっと楽しみたかったのだが……」
これから鍛えていく必要があるな。
いずれは本番の子作りも………
「じゃあ、仕上げだ…………それっ」
私は彼のペニスの先端を、軽く噛んでやる。
食べる時みたいに強くではなく、優しく押しつぶすように。
「っっぅぅうああああああっ!」
びゅるっ
また、口の中で精液が発射される。あの愛おしい味が、感触が、口いっぱいに広がる。
今まで食欲に振り回されてきた自分が馬鹿みたいだ。
もう、これさえあれば何もいらない。
もう飢えることはない。
そう確信した。
「あっ、あっ、ぅ…………………」
「あ」
しかし、どうも出せる量には限界があるらしい。
最後にびゅっと精を吐き出し、彼は気を失ってしまった。
少し自重しなくてはいけないようだ……………
「……………」
次の日、私は少年に我が屋敷に相応しい召使いの衣装を着させた。なんとも可愛らしい格好だ。
「さぁて、今日から働いてもらうからな。仕事内容はそうだな、普通に家事全般をしてもらおうか」
「お前は何もしないのか………」
「小声で言っても聞こえてるからなー」
お前じゃなくて御主人様、な。
「私はそうだな、貴様を愛してやる。それが私のするべきことだ」
愛を忘れてしまった私にはぴったりの仕事だ。
「ちっ………」
まずは、その生意気な態度も愛せるように頑張ろうかな。
「あぁ、そうだ、その制服以外に渡す物があったな……お前の名前だ」
「っ………お前」
「そうだ、名付けられたからにはお前は一生私の物だ。覚悟するがいい」
「……?」
「…………喰われるまでの短い一生を私の元で暮らせるんだ、いい話だろう?」
危ない危ない。
「さぁて、お前の名前だが」
「『ネルケ』だ。いい名前だろう?」
「…………ださっ」
「文句は受け付けん、さぁ働け働け」
私の身体には力があふれていた。
これまでの日々は過去の食欲に支配され、疲弊していくだけの物だった。
だがこれからは違う。これからは愛のために、未来のために日々を生きるのだ。
そう思うと胸が弾むのを止められない。
「さてさて、私は優雅に茶でも………」
「最後に一つだけ言わせてもらうぞ………お、御主人様」
「何だ?」
「この服、女の子用だ」
「……………………」
愛を知る前に。
いろいろと勉強をしなければならないようだ。
19/11/05 23:31更新 / 鯖の味噌煮