This is Halloween!!
TRICK OR TREAT
今日は待ちに待ったハロウィーンだ。
TRICKと称して異性に悪戯にしたり、TREATと称してお菓子を食べまくったりしても許されちゃう日だ。というか基本的には何でも許されちゃう感があるな。もちろん、ゴミのポイ捨てとかはOUTだが。
しかし、そういう社会規範から外れた行為以外にもハロウィンでしてはいけないことが一つだけある。
『暗くなってから外に出る』。一番やっちゃいけないことだ。
例えゴキブリが出ようが、火事になろうが、マイケルジャクソンが外でスリラー踊っていようが家ん中に籠もってなきゃいけない。
何故かって?
そりゃあ、魔物娘に襲われるからに決まっているだろうが。
奴らこの日は特に目を光らせて獲物を探してる。一人で出歩いたら間違いなく童貞を落っことす事になるだろう。
まぁ、魔物娘と恋人になりたいなら止めはしないがな──────
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
重々承知していたはずなんだ、ハロウィンの夜の怖さについては。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
だけれども、友達が引き留めるもんだからつい長居しちまった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
俺は襲われたくはない。相手は魔物娘でも人間でも構わないが、できるだけ段階を踏んだお付き合いがしたかったんだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
だから走る。必死に走る。早く家に帰って戦利品のチョコでも食って寝てしまいたい。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
でも、知っているか?
魔物娘からは逃げられない。
「おーい、そこの………なんだ?えぇと、照る照る坊主!」
「はひっ!」
後ろから声をかけられ、足が止まる。
え?俺のこと?
俺は今シーツを被っている。ハロウィンの幽霊、と言ったら九割が想像するようなアレの仮装だ。それと照る照る坊主………確かに照る照る坊主と表現できないことはないだろう。
さぁっ、と血の気が引く。
「───────っ」
動けない。まるで金縛りにあったみたいだ。恐怖のあまり、ってのもあるが、それよりもまず呼吸がうまくできていない。走ってたせいで荒くなっていた呼吸のリズムがさっきの裏返った叫びで乱れてしまい、うまく酸素が肺へと送られないのだ。
「おーい」
コッ、コッ、カチャ、ガチャと固いものと固いものがぶつかる音が近づいてくる。どうやら足音のようだ。
コッ、コッ、コッ
「………………………ゴクリ」
もう、すぐ背後にいる。
汗が滝のように流れる。
「よっ!こんばんはー!」
次の瞬間、そいつは俺の正面に素早く回り込んでくる。
現れたのはスケルトンの少女だった。
「こ、こんばんはー……」
また声が盛大に裏返る。まるで喉がぶっ壊れたインコのようだ。
「ん?あまり見ない顔……っていうか魔力だなー……新人さん?」
「?」
新人…………?
「あれ?一緒にハロウィンするからここに来たんじゃないの?」
「あ、いや、まぁ、はい」
何だか話が見えない。もそもそとした返事しかできないんだが。
「うんうん、よくぞ来てくれた」
彼女は軽く頷きながらどこからかメモ帳を取り出す。
「さて、じゃあ名前と種族名をお願いしまーす」
「?…………………!」
人間、境地に立たせると脅威の発想力を発揮できるらしい。
現在グルグルとフル回転で運用している我が司令塔は一つの推理とも願望ともつかない結論を出す。
こいつ………もしかして………
馬鹿馬鹿しいアイデアに、俺は賭けることにした。
「ご、ゴーストの幽鬼霊(ゆうき りょう)です」
あまり誇らしく言えることではないのだが、僕の声は周りの同性より少し高い。だからと言って女声に聞こえるわけではないのだが……はたして。
「ユウキ リョウ…………ふむ、オッケー!じゃあついてきてー」
「は、はい」
…………………
やっぱりか。まさかとは思ったが。
この子、俺のことを魔物娘と勘違いしてる!
馬鹿じゃないのかこの娘。さすがにシーツの中から話しかけているとはいえ判別はつくだろうに……
まぁ、何とか救われた。よかったよかった。
と、内心でほくそ笑んでいると。
「ん、ちゃんと聴くとかなり低い声をしてるね………どうしたんだい?」
「!」
一瞬にして突っ込まれる。
だがやはりまだ脳みそはフル回転しているらしく。
「あ、これはですね、訪問の時男の声だったら相手もすぐ出てきてくれるかなぁ、と思ってですね」
立て板に水のごとく嘘が口から流れ出る。内心ではかなりビクビクしているが、ここは平然とした風を装わなければならない。
「ふむ、それはなかなかにいい案だね。最近は魔物娘への警戒が激しくなって女の人の声がするだけで鍵二つ掛け+チェーンって始末だからねー」
「へぇ………」
大変なんだな、魔物娘も。
「来年はその手でいこうかな。有益なアイデアサンキュ♥!」
「…………………」
全国の男性諸君、すまない。敵にハイポーションを送ってしまいました。
「そうだ!リョウちゃんみたいに覗かれたとき用に布を被るのもいいね」
「…………………」
本当に申し訳ない。
童貞達にフレンドリーファイヤーを食らわせた後も、さすがに少しは自重しつつ彼女と談笑しながら歩いていた。
「へぇ、じゃあリョウちゃんはこのあたりに住んでるのかー」
「そうなんです」
「じゃあ同じだね♥こんな狭い町なのに今まで会えてなかったのが不思議だよー………今度偶然会ったりしたら美味しいものでも食べよっ!」
そりゃあゴーストの幽鬼霊なんていないからな。お誘いはありがたいがそれが実現することはないだろう。
別の機会で会っていたならば違ったかもしれないが。
「…………あれ?スケルトンさん。いつまで歩くんですか?」
結構、独身が住んでいそうな家とかも素通りして来ちゃったけども………
そういえば、何をやるかは詳しく聞いていなかったな。てっきり普通に家に殴り込むものだとばかり思っていたが。
「もうすぐもうすぐ、大丈夫♥ちゃんとうまくいくから。ね♥?」
「……………」
小首を傾げ、俺に笑顔を向けるスケルトン。
見た目とか性質とか何もかも反対なんだけれども、そんな彼女の姿は天使のように見えた。
見えてしまった。
少しドキドキしてしまう。
「お、見えてきたぞ」
「ん?──────え?」
彼女が指さした先。そこには小さな公園があるのだが────
「え?あれ?」
「うん、あれ」
「……………嘘でしょ」
公園の中には、人だかり───もとい魔物娘だかりができていた。
一人ならなんとか誤魔化せるでしょ。
男と交わっている隙に逃げてやろう、そうしよう。
そういう策略だったのに………
「TRICK OR TREAT〜♥」「ぎゃはははっ!」「やだ〜久しぶり〜♥」「にゃははっ!血が騒ぐニャー!」「ゔぁ゙ぁ゙」「最近、どうなん?」「ショタ来いぃぃぃ!!」「やったるで!やったるで!」「絶対婚約までこぎ着けてやる……」「がんばるのですっ!」「どんな殿方と出会えるのでしょうか……♥」
魔物娘百鬼夜行の坩堝。甘ったるい女の子の匂いと熱気が染み付き、こちらまで魔物娘になってしまいそうだ。
「…………どうしよう」
どうあがいても絶望である。こんな人数は誤魔化せないぞ。
「いや、待てよ」
これだけいるんなら帰ってもバレないんじゃ…………メモされてるけども、あれ即興の偽名だし何とかなるでしょ。
そろりそろり、と抜き足差し足で公園から逃げ出そうとする。
「おい!男のにおいがするぞ!」
が、失敗。
狼娘──多分ヘルハウンドがこちらを指し叫んだ。
「!!!!」
なんてことしてくれてんだよぉ!
「「「「「「「「「「「「「「「「マジで!?」」」」」」」」」」」」」」」」
皆の視線が、一斉に僕に注がれる。その圧が、実在しているかのように思えた。
危うく心臓が止まるところだった。
「むむっ、リョウちゃん。私、鼻利かないからよくわかんないんだけども、そうなの?」
スケルトンも訝しげな目で見てくる。
「い、いやぁ、そのぉ」
まずい、完全に油断していた。言い訳が思いつかない。
「魔物娘の集会に紛れ込むとは………いい度胸じゃないの♥」
さっきのヘルハウンドが、ジリジリと距離を詰めてくる。
「度胸のある男を全力でレイプする………ぞくぞくするわねぇ♥」
あぁ、まずいまずいまずい。何とかしないと公開レイプが始まってしまう!
「す、すいませんでしたぁ!」
時間稼ぎの土下座である。狙い通りざわつき始め、俺への追求が一瞬だけ止まる。しかし、そう長いこと保たないはずだ。すぐに彼女達のおやつになってしまうだろう。
考えなくては。考えなくては。考えなくては…………
「こ、これ!勝手にどっかの家から拝借してきちゃったシーツなんです!!」
「………このシーツ、が」
「多分、男が毎日使ってる奴だと思うんで、その匂いなのではないでしょうか!」
多少どころではなく、かなり苦しい。
だが押し通さなければ俺の童貞は死ぬ!
どうだ、納得してくれるか?
「………………なぁんだ、そうなのかよー」「期待させないでよ〜」「本当にいるのかと思ったよ………」「しかし、シーツだなんて………奥手だねぇ」
いいのか……………
「ほっ」
どうやらかなり適当な奴らが集まっているらしいな。
『はぁーい、じゃあ解決したみたいなんでいったん静粛にー!』
ざわつきの中、拡声器越しのスケルトンの声が聞こえてくる。
『えー、みんな揃ったみたいなんで早速出発しちゃいましょー。ルートはこちらで決めてるんでついてきてくださーい』
「「「「「「「「「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」」」」」」」」」
どうやらあの娘はこの百鬼夜行をまとめるリーダー的存在らしい…………
そんな恐ろしい存在と談笑していたのか、俺は。
『んじゃ、レッツHalloween!』
こうして魔物娘百鬼夜行は。
行進を始めたのだった。
ピンポーン
『はーい』
チャイムを押すと、インターホンから男性の声が聞こえてくる。
「Trick or Treat〜」
この受け答えの係は俺がやることになった。さっきあんなことを言ったのだから当然である。
ガチャっ
鍵が開く。
「突っ込めーーーー!」
哀れ、その刹那に魔物娘が雪崩れ込んでくる。
「うわぁぁぁぁぁ!」
「えぇい!大人しくしろ!」
男はなすすべなくロープで縛られ、外に連れ出される。
南無南無。本当にごめんね。
「なんだ!?なんだお前ら!?」
必死の抗議も虚しく、外に用意された装置に彼は拘束される。
その姿は、十字架に磔、というよりはカカシにされた、といった感じだった。
「…………?で、これからどうするんですか?」
俺は隣にいるスケルトンに聞く。
「まずは、これを囲むようにして輪になる」
言われたとおり、装置を中心にして魔物娘達は輪になる。
「スイッチを押す」
彼女は手に持ったスイッチを押す。
ギュイイイイイイイイイイイイン!!!!
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!」
まるでドリルのように、装置ごと彼は回転する。
え?何?この拷問。
「な、なにしてんすか!なんですかこのバター製造機みたいなの!」
「恋人発見機!名付けて『素希愛苦労』!」
ピッ、とまたスイッチが押される。
すると回転は段々と弱まり、そのうちピタリと止まった。
大丈夫なのコレ?男の人めっちゃぐったりしてるけども………ピクリとも動いてないけども。
「さてさて」
そんなことは気にせず、彼女は装置に近づく。
「今回の〜成立カップルは〜」
男が向いている方角を向き、彼の目線の延長線を見定める。
そこには───
「はい!魔女のイザベルちゃん!!」
「え?うそ!?やったぁ!」
途端に、割れんばかりの拍手が起こる。
そのイザベルちゃんはとても嬉しそうに男に近づき、拘束を外し、抱えたまま彼の家へと入っていった。
「………………」
何コレ。
「よっし!じゃあ次行きましょー!」
「え!?今のでいいの!?スケルトンさん!」
今のでカップル成立なの?
「うん、そうだよ」
「……………」
「だいじょーぶだって〜心配しなくても、リョウちゃんにも出番はまわってくるよっ♥」
「は、はぃ……………」
頭がついていかない。マジか………あんな風にカップルってできるもんなのか………世界観が違いすぎるよ。
なんだよ、結局家に籠もっていても危険じゃないか。
来年からどうすりゃいいんだよ!
その来年が、無事来るのならいいのだけれども………
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ラミアの它憑(たつき)ちゃん!」
その後も。
「助けてぇぇぇーーーーーーーっ!!!」
「アカオニの立里(りゅうり)ちゃん!」
家に殴り込んでは。
「ひぇぇぇぇっっっ!」
「ワーキャットのシルフィちゃん!」
男をマワし。
「─────────っ!」
「アラクネの朱知(あかち)ちゃん!」
お持ち帰りを決行していった。
「ん?もうリョウちゃん一人なんだ」
気がつくとあんなにいた魔物娘達は皆、それぞれの男を見つけ列から抜けていった。今この静かな夜道を歩くのは俺とスケルトンだけである。
「そっかー、そろそろハロウィンも終わりだね」
「そう、ですね」
認めたくない。認めたくはないが、正直寂しいと思ってしまっている。最初のうちは唖然とするしか無かったのだが、見ているうちにこっちも楽しくなってきて、ついには他の魔物娘を応援するくらいになってしまった。
「………でも、今日成立したカップルってうまくいくんですかね?」
「うん、もちろんさ」
「でも、あんな運試しみたいに……」
「この『素希愛苦労』が試しているのは運は運でも運命の方なんだよ。ちゃんとその二人が幸運になるような組み合わせを選んでくれるんだよ」
「へぇ…………」
にわかには信じがたいな。
でも魔法ならそれもあり………なのか?
「さてと、ここからが大変なんだよ。最後の一人はあの回転方式じゃ決められないからねぇ」
「ん?最後の一人って…………」
「リョウちゃんのことだけれども?」
「え?」
それじゃあお前は───
「私は別だよ。そういうのはいいのっ。私はほら、来年もこれの幹事やらなきゃいけないし」
「…………でも、それじゃあ一人だけ損しちゃいませんか?他の人に任せるっていうことはできないんですか?」
別に幹事は代替わりでいいんじゃないのか?どうして損な役回りを演じるのだろうか?
「……昔ね、私もこれに参加してたんだけど……一人だけ余っちゃったの」
「………………」
「その時は仕切り役なんていなくて、私一人で恋人探しをすることになったの………寂しくて、恥ずかしくて、途中で諦めて帰っちゃったわ」
「………スケルトンさん」
「だから、その時思ったの。「もう私みたいに寂しい思いをする人が出ないように、私がリーダーになって最後まで導こう」ってね」
彼女は、力無く笑う。途端に、今までの記憶の中にある彼女の笑顔の印象が、少しだけ変わった。
きっと楽しかったんだろう。だけれどもそれ以上に、一人、また一人とカップルが成立していくのを見て安堵する気持ちが大きかったんだろう。
自分の事なんてどうでもよくて、周りの奴らが幸せになってくれればいい。そんな優しさに溢れた笑顔だったんだろう。
馬鹿馬鹿しい、だなんて思っていた自分が恥ずかしい。
「だからね、私のためにも、私みたいになるのはやめてね。今は自分の事を考えなさいな」
「…………」
俺は頷く。
「それよりも、なかなか見つからないね………このカカシが向いてる方向に運命の相手はいるんだけれども……」
スケルトンに引きずられている装置に縛り付けられたカカシは進行方向を向いたまま動かない。彼女の言い方だと方位磁石のように運命の相手なる者を指すのだろう。きっとこのまままっすぐ行けば───
ん、いや。このまままっすぐ行ったら多分、誰もいない廃病院にぶち当たるはずなんだけど。歩いている人を指しているわけでもないだろうし、一回迂回することになるのだろうか。
いや、待て。
そもそも男である俺に相手なんているのか?
そっちの趣味はないし、そこんところはどうなんだろうか。この道具は魔物娘専用で、男しか指さないとかあるのだろうか。
運命の「女の子」を指すことはできるのだろうか?
どうなんだろ。
しばらくまっすぐに歩くと、やはり道は曲がっていた。直進するには敷地内を突っ切っていかなければならない。
「うわぁ、このままじゃあ変なとこ突っ込んじゃうなぁ……しょうがない、迂回しよう」
そう言って道を曲がる。
あれ?
今、カカシがずれたような………
「す、スケルトンさん。ちょっと気になることがあるので一旦戻りましょう」
「? 何かあったの?」
「そう、そうです」
スケルトンは困ったような顔をしながら後ろに方向転換する。
「あ」
すると、思った通り。
カカシも彼女を追うように向きを変えた。
「……………………」
それに彼女は気づいていない。
あー…………これってもしかして。
「…スケルトンさん」
「? なぁに?」
そうか、そうなのか。
運命、ってそういうことなのか。
「………………」
いや、でも運命の相手だからってなんでこんなドキドキするんだ?なんでこんなに心臓が高鳴るんだ?
今日会ったばかりでお互いのことは何も知らないのに、なんでこんなにときめいちゃってるんだ?
「はぁ───」
────あぁ、そうだとも簡単な話だ。
「一目惚れ……………か」
これ以上単純明快で。
確かな恋の理由なんてあってたまるか。
吊り橋効果の逆。最初っから俺は彼女に惹かれていたんだ。ただ、走ってた時のドキドキと紛れて気がつかなかっただけなんだ。
決めた。これが一番幸せだと思う。
きっと俺の望むプラトニックな関係って奴だ。
「スケルトンさん」
カカシが示すのは運命。だけれども、カカシが示さないことも、それはそれで運命なのではないだろうか
その昔に、彼女が余ったのもカカシが導いた──あるいは、導かなかったという運命。
今日、俺が最後まで指されず、彼女と二人きりになったのも同じだ。
せっかくここまで導いてくれたんだ。
ありがたく受け止めよう。
「…………」
「? どうしたの?手なんか差し出しちゃって」
「わからないんですか?スケルトンさん。今日はハロウィンですよ」
「ハロウィン………もしかして、その手はいわゆる……」
「はい、trick or treatです」
「………んー、今はお菓子持ってないなぁ」
「そうですか、残念。だったら、イタズラしないとですね」
そう言って俺は、ゆっくりとシーツを脱いでいく。
「え?────えっ!?」
彼女は目を見開き、信じられないとでも言いたげな顔になる。
それでこそ、イタズラのしがいがあるってもんだ。
「もしかして、中身はかわいい魔物娘だと思ってた?」
「残念だったな、Trickだよ」
「──────────うそ」
俺は、俺として彼女と向き合う。
ゴーストの幽鬼霊ではなく、人間の俺として。
「リョウちゃん………あぁ、うそ……やっぱり男の子だったんじゃないの」
「すいません、今まで騙してきて」
「バカ……………もーっ」
頬を膨らませ涙目になりながら、それでも笑顔で彼女は俺に向けて手を差し出す。
「でもさぁ、リョウちゃんもバカだよね。きっとこのままだったら気がつかなかったのにさー………いいの?魔物娘前に姿を現して。私、このまま人生の半分くらいはいただいちゃうけども」
もちろん、構わないさ。
「というわけで、そんな生意気なリョウちゃんに仕返しね!」
「Trick or Treat♥!」
もちろん、お菓子なんて持っていない。
だから、俺は彼女のイタズラを受けなければならないのだろう。
きっと。
ずーっと続くイタズラを。
HAPPY HALLOWEEN
今日は待ちに待ったハロウィーンだ。
TRICKと称して異性に悪戯にしたり、TREATと称してお菓子を食べまくったりしても許されちゃう日だ。というか基本的には何でも許されちゃう感があるな。もちろん、ゴミのポイ捨てとかはOUTだが。
しかし、そういう社会規範から外れた行為以外にもハロウィンでしてはいけないことが一つだけある。
『暗くなってから外に出る』。一番やっちゃいけないことだ。
例えゴキブリが出ようが、火事になろうが、マイケルジャクソンが外でスリラー踊っていようが家ん中に籠もってなきゃいけない。
何故かって?
そりゃあ、魔物娘に襲われるからに決まっているだろうが。
奴らこの日は特に目を光らせて獲物を探してる。一人で出歩いたら間違いなく童貞を落っことす事になるだろう。
まぁ、魔物娘と恋人になりたいなら止めはしないがな──────
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
重々承知していたはずなんだ、ハロウィンの夜の怖さについては。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
だけれども、友達が引き留めるもんだからつい長居しちまった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
俺は襲われたくはない。相手は魔物娘でも人間でも構わないが、できるだけ段階を踏んだお付き合いがしたかったんだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
だから走る。必死に走る。早く家に帰って戦利品のチョコでも食って寝てしまいたい。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
でも、知っているか?
魔物娘からは逃げられない。
「おーい、そこの………なんだ?えぇと、照る照る坊主!」
「はひっ!」
後ろから声をかけられ、足が止まる。
え?俺のこと?
俺は今シーツを被っている。ハロウィンの幽霊、と言ったら九割が想像するようなアレの仮装だ。それと照る照る坊主………確かに照る照る坊主と表現できないことはないだろう。
さぁっ、と血の気が引く。
「───────っ」
動けない。まるで金縛りにあったみたいだ。恐怖のあまり、ってのもあるが、それよりもまず呼吸がうまくできていない。走ってたせいで荒くなっていた呼吸のリズムがさっきの裏返った叫びで乱れてしまい、うまく酸素が肺へと送られないのだ。
「おーい」
コッ、コッ、カチャ、ガチャと固いものと固いものがぶつかる音が近づいてくる。どうやら足音のようだ。
コッ、コッ、コッ
「………………………ゴクリ」
もう、すぐ背後にいる。
汗が滝のように流れる。
「よっ!こんばんはー!」
次の瞬間、そいつは俺の正面に素早く回り込んでくる。
現れたのはスケルトンの少女だった。
「こ、こんばんはー……」
また声が盛大に裏返る。まるで喉がぶっ壊れたインコのようだ。
「ん?あまり見ない顔……っていうか魔力だなー……新人さん?」
「?」
新人…………?
「あれ?一緒にハロウィンするからここに来たんじゃないの?」
「あ、いや、まぁ、はい」
何だか話が見えない。もそもそとした返事しかできないんだが。
「うんうん、よくぞ来てくれた」
彼女は軽く頷きながらどこからかメモ帳を取り出す。
「さて、じゃあ名前と種族名をお願いしまーす」
「?…………………!」
人間、境地に立たせると脅威の発想力を発揮できるらしい。
現在グルグルとフル回転で運用している我が司令塔は一つの推理とも願望ともつかない結論を出す。
こいつ………もしかして………
馬鹿馬鹿しいアイデアに、俺は賭けることにした。
「ご、ゴーストの幽鬼霊(ゆうき りょう)です」
あまり誇らしく言えることではないのだが、僕の声は周りの同性より少し高い。だからと言って女声に聞こえるわけではないのだが……はたして。
「ユウキ リョウ…………ふむ、オッケー!じゃあついてきてー」
「は、はい」
…………………
やっぱりか。まさかとは思ったが。
この子、俺のことを魔物娘と勘違いしてる!
馬鹿じゃないのかこの娘。さすがにシーツの中から話しかけているとはいえ判別はつくだろうに……
まぁ、何とか救われた。よかったよかった。
と、内心でほくそ笑んでいると。
「ん、ちゃんと聴くとかなり低い声をしてるね………どうしたんだい?」
「!」
一瞬にして突っ込まれる。
だがやはりまだ脳みそはフル回転しているらしく。
「あ、これはですね、訪問の時男の声だったら相手もすぐ出てきてくれるかなぁ、と思ってですね」
立て板に水のごとく嘘が口から流れ出る。内心ではかなりビクビクしているが、ここは平然とした風を装わなければならない。
「ふむ、それはなかなかにいい案だね。最近は魔物娘への警戒が激しくなって女の人の声がするだけで鍵二つ掛け+チェーンって始末だからねー」
「へぇ………」
大変なんだな、魔物娘も。
「来年はその手でいこうかな。有益なアイデアサンキュ♥!」
「…………………」
全国の男性諸君、すまない。敵にハイポーションを送ってしまいました。
「そうだ!リョウちゃんみたいに覗かれたとき用に布を被るのもいいね」
「…………………」
本当に申し訳ない。
童貞達にフレンドリーファイヤーを食らわせた後も、さすがに少しは自重しつつ彼女と談笑しながら歩いていた。
「へぇ、じゃあリョウちゃんはこのあたりに住んでるのかー」
「そうなんです」
「じゃあ同じだね♥こんな狭い町なのに今まで会えてなかったのが不思議だよー………今度偶然会ったりしたら美味しいものでも食べよっ!」
そりゃあゴーストの幽鬼霊なんていないからな。お誘いはありがたいがそれが実現することはないだろう。
別の機会で会っていたならば違ったかもしれないが。
「…………あれ?スケルトンさん。いつまで歩くんですか?」
結構、独身が住んでいそうな家とかも素通りして来ちゃったけども………
そういえば、何をやるかは詳しく聞いていなかったな。てっきり普通に家に殴り込むものだとばかり思っていたが。
「もうすぐもうすぐ、大丈夫♥ちゃんとうまくいくから。ね♥?」
「……………」
小首を傾げ、俺に笑顔を向けるスケルトン。
見た目とか性質とか何もかも反対なんだけれども、そんな彼女の姿は天使のように見えた。
見えてしまった。
少しドキドキしてしまう。
「お、見えてきたぞ」
「ん?──────え?」
彼女が指さした先。そこには小さな公園があるのだが────
「え?あれ?」
「うん、あれ」
「……………嘘でしょ」
公園の中には、人だかり───もとい魔物娘だかりができていた。
一人ならなんとか誤魔化せるでしょ。
男と交わっている隙に逃げてやろう、そうしよう。
そういう策略だったのに………
「TRICK OR TREAT〜♥」「ぎゃはははっ!」「やだ〜久しぶり〜♥」「にゃははっ!血が騒ぐニャー!」「ゔぁ゙ぁ゙」「最近、どうなん?」「ショタ来いぃぃぃ!!」「やったるで!やったるで!」「絶対婚約までこぎ着けてやる……」「がんばるのですっ!」「どんな殿方と出会えるのでしょうか……♥」
魔物娘百鬼夜行の坩堝。甘ったるい女の子の匂いと熱気が染み付き、こちらまで魔物娘になってしまいそうだ。
「…………どうしよう」
どうあがいても絶望である。こんな人数は誤魔化せないぞ。
「いや、待てよ」
これだけいるんなら帰ってもバレないんじゃ…………メモされてるけども、あれ即興の偽名だし何とかなるでしょ。
そろりそろり、と抜き足差し足で公園から逃げ出そうとする。
「おい!男のにおいがするぞ!」
が、失敗。
狼娘──多分ヘルハウンドがこちらを指し叫んだ。
「!!!!」
なんてことしてくれてんだよぉ!
「「「「「「「「「「「「「「「「マジで!?」」」」」」」」」」」」」」」」
皆の視線が、一斉に僕に注がれる。その圧が、実在しているかのように思えた。
危うく心臓が止まるところだった。
「むむっ、リョウちゃん。私、鼻利かないからよくわかんないんだけども、そうなの?」
スケルトンも訝しげな目で見てくる。
「い、いやぁ、そのぉ」
まずい、完全に油断していた。言い訳が思いつかない。
「魔物娘の集会に紛れ込むとは………いい度胸じゃないの♥」
さっきのヘルハウンドが、ジリジリと距離を詰めてくる。
「度胸のある男を全力でレイプする………ぞくぞくするわねぇ♥」
あぁ、まずいまずいまずい。何とかしないと公開レイプが始まってしまう!
「す、すいませんでしたぁ!」
時間稼ぎの土下座である。狙い通りざわつき始め、俺への追求が一瞬だけ止まる。しかし、そう長いこと保たないはずだ。すぐに彼女達のおやつになってしまうだろう。
考えなくては。考えなくては。考えなくては…………
「こ、これ!勝手にどっかの家から拝借してきちゃったシーツなんです!!」
「………このシーツ、が」
「多分、男が毎日使ってる奴だと思うんで、その匂いなのではないでしょうか!」
多少どころではなく、かなり苦しい。
だが押し通さなければ俺の童貞は死ぬ!
どうだ、納得してくれるか?
「………………なぁんだ、そうなのかよー」「期待させないでよ〜」「本当にいるのかと思ったよ………」「しかし、シーツだなんて………奥手だねぇ」
いいのか……………
「ほっ」
どうやらかなり適当な奴らが集まっているらしいな。
『はぁーい、じゃあ解決したみたいなんでいったん静粛にー!』
ざわつきの中、拡声器越しのスケルトンの声が聞こえてくる。
『えー、みんな揃ったみたいなんで早速出発しちゃいましょー。ルートはこちらで決めてるんでついてきてくださーい』
「「「「「「「「「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」」」」」」」」」
どうやらあの娘はこの百鬼夜行をまとめるリーダー的存在らしい…………
そんな恐ろしい存在と談笑していたのか、俺は。
『んじゃ、レッツHalloween!』
こうして魔物娘百鬼夜行は。
行進を始めたのだった。
ピンポーン
『はーい』
チャイムを押すと、インターホンから男性の声が聞こえてくる。
「Trick or Treat〜」
この受け答えの係は俺がやることになった。さっきあんなことを言ったのだから当然である。
ガチャっ
鍵が開く。
「突っ込めーーーー!」
哀れ、その刹那に魔物娘が雪崩れ込んでくる。
「うわぁぁぁぁぁ!」
「えぇい!大人しくしろ!」
男はなすすべなくロープで縛られ、外に連れ出される。
南無南無。本当にごめんね。
「なんだ!?なんだお前ら!?」
必死の抗議も虚しく、外に用意された装置に彼は拘束される。
その姿は、十字架に磔、というよりはカカシにされた、といった感じだった。
「…………?で、これからどうするんですか?」
俺は隣にいるスケルトンに聞く。
「まずは、これを囲むようにして輪になる」
言われたとおり、装置を中心にして魔物娘達は輪になる。
「スイッチを押す」
彼女は手に持ったスイッチを押す。
ギュイイイイイイイイイイイイン!!!!
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!」
まるでドリルのように、装置ごと彼は回転する。
え?何?この拷問。
「な、なにしてんすか!なんですかこのバター製造機みたいなの!」
「恋人発見機!名付けて『素希愛苦労』!」
ピッ、とまたスイッチが押される。
すると回転は段々と弱まり、そのうちピタリと止まった。
大丈夫なのコレ?男の人めっちゃぐったりしてるけども………ピクリとも動いてないけども。
「さてさて」
そんなことは気にせず、彼女は装置に近づく。
「今回の〜成立カップルは〜」
男が向いている方角を向き、彼の目線の延長線を見定める。
そこには───
「はい!魔女のイザベルちゃん!!」
「え?うそ!?やったぁ!」
途端に、割れんばかりの拍手が起こる。
そのイザベルちゃんはとても嬉しそうに男に近づき、拘束を外し、抱えたまま彼の家へと入っていった。
「………………」
何コレ。
「よっし!じゃあ次行きましょー!」
「え!?今のでいいの!?スケルトンさん!」
今のでカップル成立なの?
「うん、そうだよ」
「……………」
「だいじょーぶだって〜心配しなくても、リョウちゃんにも出番はまわってくるよっ♥」
「は、はぃ……………」
頭がついていかない。マジか………あんな風にカップルってできるもんなのか………世界観が違いすぎるよ。
なんだよ、結局家に籠もっていても危険じゃないか。
来年からどうすりゃいいんだよ!
その来年が、無事来るのならいいのだけれども………
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ラミアの它憑(たつき)ちゃん!」
その後も。
「助けてぇぇぇーーーーーーーっ!!!」
「アカオニの立里(りゅうり)ちゃん!」
家に殴り込んでは。
「ひぇぇぇぇっっっ!」
「ワーキャットのシルフィちゃん!」
男をマワし。
「─────────っ!」
「アラクネの朱知(あかち)ちゃん!」
お持ち帰りを決行していった。
「ん?もうリョウちゃん一人なんだ」
気がつくとあんなにいた魔物娘達は皆、それぞれの男を見つけ列から抜けていった。今この静かな夜道を歩くのは俺とスケルトンだけである。
「そっかー、そろそろハロウィンも終わりだね」
「そう、ですね」
認めたくない。認めたくはないが、正直寂しいと思ってしまっている。最初のうちは唖然とするしか無かったのだが、見ているうちにこっちも楽しくなってきて、ついには他の魔物娘を応援するくらいになってしまった。
「………でも、今日成立したカップルってうまくいくんですかね?」
「うん、もちろんさ」
「でも、あんな運試しみたいに……」
「この『素希愛苦労』が試しているのは運は運でも運命の方なんだよ。ちゃんとその二人が幸運になるような組み合わせを選んでくれるんだよ」
「へぇ…………」
にわかには信じがたいな。
でも魔法ならそれもあり………なのか?
「さてと、ここからが大変なんだよ。最後の一人はあの回転方式じゃ決められないからねぇ」
「ん?最後の一人って…………」
「リョウちゃんのことだけれども?」
「え?」
それじゃあお前は───
「私は別だよ。そういうのはいいのっ。私はほら、来年もこれの幹事やらなきゃいけないし」
「…………でも、それじゃあ一人だけ損しちゃいませんか?他の人に任せるっていうことはできないんですか?」
別に幹事は代替わりでいいんじゃないのか?どうして損な役回りを演じるのだろうか?
「……昔ね、私もこれに参加してたんだけど……一人だけ余っちゃったの」
「………………」
「その時は仕切り役なんていなくて、私一人で恋人探しをすることになったの………寂しくて、恥ずかしくて、途中で諦めて帰っちゃったわ」
「………スケルトンさん」
「だから、その時思ったの。「もう私みたいに寂しい思いをする人が出ないように、私がリーダーになって最後まで導こう」ってね」
彼女は、力無く笑う。途端に、今までの記憶の中にある彼女の笑顔の印象が、少しだけ変わった。
きっと楽しかったんだろう。だけれどもそれ以上に、一人、また一人とカップルが成立していくのを見て安堵する気持ちが大きかったんだろう。
自分の事なんてどうでもよくて、周りの奴らが幸せになってくれればいい。そんな優しさに溢れた笑顔だったんだろう。
馬鹿馬鹿しい、だなんて思っていた自分が恥ずかしい。
「だからね、私のためにも、私みたいになるのはやめてね。今は自分の事を考えなさいな」
「…………」
俺は頷く。
「それよりも、なかなか見つからないね………このカカシが向いてる方向に運命の相手はいるんだけれども……」
スケルトンに引きずられている装置に縛り付けられたカカシは進行方向を向いたまま動かない。彼女の言い方だと方位磁石のように運命の相手なる者を指すのだろう。きっとこのまままっすぐ行けば───
ん、いや。このまままっすぐ行ったら多分、誰もいない廃病院にぶち当たるはずなんだけど。歩いている人を指しているわけでもないだろうし、一回迂回することになるのだろうか。
いや、待て。
そもそも男である俺に相手なんているのか?
そっちの趣味はないし、そこんところはどうなんだろうか。この道具は魔物娘専用で、男しか指さないとかあるのだろうか。
運命の「女の子」を指すことはできるのだろうか?
どうなんだろ。
しばらくまっすぐに歩くと、やはり道は曲がっていた。直進するには敷地内を突っ切っていかなければならない。
「うわぁ、このままじゃあ変なとこ突っ込んじゃうなぁ……しょうがない、迂回しよう」
そう言って道を曲がる。
あれ?
今、カカシがずれたような………
「す、スケルトンさん。ちょっと気になることがあるので一旦戻りましょう」
「? 何かあったの?」
「そう、そうです」
スケルトンは困ったような顔をしながら後ろに方向転換する。
「あ」
すると、思った通り。
カカシも彼女を追うように向きを変えた。
「……………………」
それに彼女は気づいていない。
あー…………これってもしかして。
「…スケルトンさん」
「? なぁに?」
そうか、そうなのか。
運命、ってそういうことなのか。
「………………」
いや、でも運命の相手だからってなんでこんなドキドキするんだ?なんでこんなに心臓が高鳴るんだ?
今日会ったばかりでお互いのことは何も知らないのに、なんでこんなにときめいちゃってるんだ?
「はぁ───」
────あぁ、そうだとも簡単な話だ。
「一目惚れ……………か」
これ以上単純明快で。
確かな恋の理由なんてあってたまるか。
吊り橋効果の逆。最初っから俺は彼女に惹かれていたんだ。ただ、走ってた時のドキドキと紛れて気がつかなかっただけなんだ。
決めた。これが一番幸せだと思う。
きっと俺の望むプラトニックな関係って奴だ。
「スケルトンさん」
カカシが示すのは運命。だけれども、カカシが示さないことも、それはそれで運命なのではないだろうか
その昔に、彼女が余ったのもカカシが導いた──あるいは、導かなかったという運命。
今日、俺が最後まで指されず、彼女と二人きりになったのも同じだ。
せっかくここまで導いてくれたんだ。
ありがたく受け止めよう。
「…………」
「? どうしたの?手なんか差し出しちゃって」
「わからないんですか?スケルトンさん。今日はハロウィンですよ」
「ハロウィン………もしかして、その手はいわゆる……」
「はい、trick or treatです」
「………んー、今はお菓子持ってないなぁ」
「そうですか、残念。だったら、イタズラしないとですね」
そう言って俺は、ゆっくりとシーツを脱いでいく。
「え?────えっ!?」
彼女は目を見開き、信じられないとでも言いたげな顔になる。
それでこそ、イタズラのしがいがあるってもんだ。
「もしかして、中身はかわいい魔物娘だと思ってた?」
「残念だったな、Trickだよ」
「──────────うそ」
俺は、俺として彼女と向き合う。
ゴーストの幽鬼霊ではなく、人間の俺として。
「リョウちゃん………あぁ、うそ……やっぱり男の子だったんじゃないの」
「すいません、今まで騙してきて」
「バカ……………もーっ」
頬を膨らませ涙目になりながら、それでも笑顔で彼女は俺に向けて手を差し出す。
「でもさぁ、リョウちゃんもバカだよね。きっとこのままだったら気がつかなかったのにさー………いいの?魔物娘前に姿を現して。私、このまま人生の半分くらいはいただいちゃうけども」
もちろん、構わないさ。
「というわけで、そんな生意気なリョウちゃんに仕返しね!」
「Trick or Treat♥!」
もちろん、お菓子なんて持っていない。
だから、俺は彼女のイタズラを受けなければならないのだろう。
きっと。
ずーっと続くイタズラを。
HAPPY HALLOWEEN
19/11/05 23:28更新 / 鯖の味噌煮