『となりのヌコ』
「……ふにゃ〜」
寝心地の良いベッドの中で目が覚める。
ここで言うベッドというのは、身体を丸めてギリギリ入れるくらいの狭いカゴのこと。
あいつには『窮屈じゃないのか?』と良く聞かれるけど、決してそんなことはない。
むしろ、『狭い方が心地良い』。
理屈では説明できない、猫の体質・本能・性(さが)というものだ。
「ん〜〜〜……」
ベッドへの名残惜しさを綺麗さっぱりに捨て去り、わたしはお尻を突き出すようにして目一杯の伸びを披露。
猫はこうやって固まった身体をほぐすわけ。
人間でいう、背伸びしながら手を上にやるポーズと同じかな?
良くわかんないけど、あいつがいつもやってるからたぶんそうだと思う。
ペロペロ ワシワシ
もちろん洗顔も忘れない。
自分の手を使って身だしなみをしっかりと整える。
これは猫だからというより、女子なら当然のこと。
それに、みっともない姿をあいつに見られるのは嫌。
しばらく前まではそんなこと気にもしなかったけど。
今は何故だか、『あいつ』という存在を強く意識するようになっていた。
でも、理由は深く考えない。
だってわたしは……猫だから。
「起きろーーー」
「ん…んん……」
いつだったか。
こいつはわたしを見るなり、突然悲鳴を上げて家から飛び出していったことがあった。
理由を考える以前に、かなり傷ついた……女として。
「起ーきーるーにゃーーー!」
「んん…嫌だ……」
まぁ、理由はすぐにわかったけど。
こいつが出て行った後、鏡の前を通りかかったわたしも一瞬悲鳴を上げてしまった。
何故なら私は……『人間』になっていたから。
いや、正確には『人間っぽく』かな?
耳とか尻尾は健在、手足もフサフサのままだったし。
んー…ま、どっちでもいいや。
「zzz」
「………」
後になってわかったけど、こいつは人間になったわたしを見て驚いたというより、『素っ裸』であったわたしを見て混乱してしまったらしい。
『見知らぬ全裸の女が自分の家を何食わぬ顔で平然と歩いていたら誰だって驚く』、とのこと。
まぁ、ギリギリ許してあげた。
「どうしても起きないと?」
「zzz」
「あ〜ニケは活きの良い『フランクフルト』が『今すぐ』にでも食べたいにゃ〜ちょうどここに1本あるから『今すぐ』にでも食べちゃおうかにゃ〜?」
「んーー! そろそろ起きちゃおっかなーーー!!」
なんでもない、普段通りのやりとり。
だけどわたしが魔物化して家事などをこなすようになってから、こいつは少し怠け気味だ。
……おもいっきり引っ掻いてやろうか?
朝食の席にて。
「ニケ、街に買い物行くけど……」
「行くにゃ!」
「はいはい」
アルとお出かけすることに。
あ、アルっていうのはこいつの名前。
「にゃーにゃー」
「ん?」
「デムニのショートパンツが欲しい!」
「あぁ、最近流行りの? いいよ」
「にゃ〜♪」
嬉しいときは喉をゴロゴロ鳴らして喜ぶ。
これは猫として当然のこと。
「デムニ買った後はニケ暇だろうし、街中ウロウロしててよ」
「了解にゃ〜ノ」
お小遣いもくれた。
何だかんだでアルは優しい。
だからこそ、わたしはこいつと一緒に居られるのかもしれない。
「ふ〜んふ〜んにゃっにゃっにゃ〜♪」
お目当てのショートパンツを買ってもらい気分上々。
やっぱり買い物にはしばらく時間が掛かるみたいなので、今はアルと別行動中。
「どこに行こうかにゃ〜?」
そういえばこの前、アルは恥ずかしそうにこんなことを聞いてきたことがあった。
『なぁニケ。し、下着とかは……いいのか?』
『にゃ? 下着?』
『え……そこから教えるの?』
今思えば恥ずかしい会話だった。
いくらわたしが無知であったとはいえ、アルには悪いことをしたと思う。
「うにゃ」
そうと決まれば、クランベリーショップ(ランジェリーショップ)にゴーにゃ!
「あら、いらっしゃいニケちゃん」
「にゃノ」
この店を訪れるのは3回目。
今まではアルと一緒に私の下着選びだった。
そしてその時に知り合ったのが、
「アル君は一緒じゃないみたいね。今日は1人?」
「一緒に来てるけど別行動にゃ」
「あら、そうなの。じゃぁ今日はお忍びってことね?」
「そ、そうにゃ! お忍びにゃ!」
「ふふっ」
この店の店長、ローザ。
下着選びに苦戦するアルに救いの手を差し伸べた張本人である。
ちなみにホルスタウロスで未亡人。
「ニケちゃん成長期だから、すぐに小さくなっちゃうのよね〜」
「苦しいから今なにも付けてないにゃ」
「そうよね〜……って、ええ!?」
「うにゃ!?」
ノーブラを宣告されたローザは、わたしの着ていたキャミソールを光の速さでガバリと翻す。
「ほ、本当だわ……」
「にゃ!? にゃにゃーーー!!」
「もう…ダメじゃないニケちゃん! 女の子がこんな無防備な格好しちゃぁ……」
そう言うとローザはわたしの胸をモミモミ……
「にゃ!?」
ムニムニ……
「にゃにゃ!?」
グニグニ……
「うにゃーーー!?」
「あらあら、Cもあるじゃない。Bじゃ小さいはずよねぇ」
「ふー…ふー……」
「さぁニケちゃん、こっちに来て試着しましょ!」
「キシャーーーーーー!?」
「威嚇してもダ〜メ! さ、いらっしゃい!」
「や、やめ……うにゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?!?!?」
1人で来るべき場所ではない。
わたしは貴重な体験をした。
「にゃ〜……」
ローザに弄ばれ早1時間。
ようやく解放されたわたしはアルを探しに再び街中へ。
「これは……紐?」
普通の下着に紛れた異物を引っ張り出す。
ローザに『勝負下着よ!』と言われ押し付けられたは良いものの、どう見ても布の面積が少ない。
うん、紐にしか見えない。
たぶん未来永劫身に着けることはないと思う。
でも勿体無いし、釣り糸の代用として使わせてもらおう。
「……にゃ! にゃ! にゃっと!」
手っ取り早くアルを見つけ出すため、自慢の跳躍力で建ち並ぶ家の屋根に飛び乗る。
ここは中央商業区なので人探しにはもってこいのポジションである。
「ど〜こかにゃ〜?」
東商業区で別れたから、たぶんあの辺にいると思う。
おおよその目星をつけジッと目を凝らすと…………発見。
見慣れた顔が大荷物を両手にフラフラと歩いている。
実にアッサリ見つかった。
逆につまらない。
「ふぅ、手伝ってあげるかにゃ〜」
まったく、手間の掛かる同居人である。
「すいません、見ず知らずの方に荷物なんて持たせて……」←アル
「なに、困っているときはお互い様だ。気にするな」←見知らぬアヌビス
「本当に助かります」
「………」←ニケ
大変だろうと駆けつけてみたらこの有様。
アルは褐色美人のアヌビスと荷物を分担して『楽しそう』に歩いていた。
あの野郎……ケモ耳娘なら誰でもお構いなしか?
「賊に住処を追われてな、今はこの街で1人暮らしをしている」
「それは、大変でしたね」
「いやなに、悪い事ばかりではない。確かに故郷は失ったが…この街も捨てがたいと実感した」
「そうですね。お店も多いし、優しい人達ばかりで……」
「そうではない」
「え?」
「お前と知り合えた。それだけだ」
「そんな…俺はそこまで大層な人間じゃ……」
「謙遜するな。人を見る目には自信がある」
逆ナン!?
「どうだ? この後お茶でもしないか?」
「あ〜、えっと……」
お茶したら殺すお茶したら殺すお茶したら殺すお茶したら殺すお茶したら殺すお茶したら……
「ん、どうした?」
「すいません、連れを待たせているので」
「……そうか」
あ……。
「せっかくのお誘いを……ほんとに申し訳ないです」
「気にするな。連れを放って女と遊ぶような男など、こちらから願い下げだからな」
「あ、あはは……」
………。
「あ、荷物ありがとうございます」
「ここで良いのか?」
「はい」
南商業区の出口付近で、アルは自分の荷物をアヌビスから受け取る。
「俺はここで連れを待ちます」
「そうか。その連れとやらに、よろしく伝えておいてくれ」
「はい、ありがとうございます」
「お茶は次の機会に、な」
「へ?」
まだ諦めてませんよ的な言葉を残し、アヌビスは何処かへと去っていった。
二度と現れるな泥棒犬!
「さて、ニケはどこに……」
「早く帰るにゃ!!」
「うわっ!?」
自宅にて。
「にゃーーーーーーーーーーー!!!」
「痛っ!?」
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!!!」
「い、痛い…ちょ、ちょっと待…いった!?」
ムシャクシャしたから引っ掻く。
猫として当然の行為。
「いってー……まったく、何なんだよ?」
「………」
「? ニケ?」
「キシャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「ぐほっ!?」
わたしは猫。
気まぐれである。
「あぁ、見てたんだ」
「にゃ」
「あの人が親切にしてくれたっていう、ただそれだけの話だよ」
「鼻の下伸ばしてたくせに……」
「あいや、それはぁ……」
「別にいいんじゃにゃい? 美人だったし……」
「んー…まいったなぁ」
アルは頭をポリポリと掻き困り顔。
まぁお誘いを断った時点で、わたしとしてはどうでも良かったんだけど。
ただ悔しかったからちょっと困らせてやりたかった。
「なぁニケ、機嫌直してくれよ」
「………」
そろそろかな?
でも、もう少しだけ。
「……条件があるにゃ」
「条件?」
「わたしと『交尾』するにゃ!」
「ぇえ!?」
もちろん冗談。
アルの反応が見たいだけ。
「こ、交尾?」
「にゃ」
「意味、わかってる?」
「ギシギシアンアンにゃ」
「さ、左様で……」
困ってる困ってる♪
さて!
アルの困り顔も見れたことだし、そろそろネタばらしを……
「ニ、ニケ……」
「にゃ?」
「痛いのは………………………………最初だけだから!!!」
「にゃにゃ!?!?」
ギシギシ!
ニャンニャン♪
ドピュッ!!!
「zzz」
「………」
……犯された。
そして、一瞬にして奪われた……わたしの初めて。
交尾なんて生易しいものじゃない、あれは……強姦・陵辱・レイプ。
抵抗なんてする余地もなく、あっという間の種付けだった。
「zzz」
「………」
アルの顔にはわたしの爪痕が。
精子を飲まされた時はさすがに驚いたので思わず。
「zzz」
「………」
冗談混じりの成り行きでこんなことになってしまったけど……1つだけ、良かったことがある。
2人とも初めてだったことはもちろんだけど、それよりも……
「ん……ニケ?」
「にゃ…なんでもないよ」
「そっか……おやすみ」
「うん。おやすみ」
アルがわたしを、誰よりも大切に想っていてくれた。
たったこれだけの事実を、わたしはこいつと身体を重ねるまで気が付けないでいた。
「zzz」
「………」
不器用で鈍感で甲斐性なしで
それでいてケモ耳好き。
だけど、そんなこいつが
どうしようもなく愛おしい。
「zzz」
「……にゃぁ〜♪」
ずっと一緒に居たいと
心から想えるほどに―――――
寝心地の良いベッドの中で目が覚める。
ここで言うベッドというのは、身体を丸めてギリギリ入れるくらいの狭いカゴのこと。
あいつには『窮屈じゃないのか?』と良く聞かれるけど、決してそんなことはない。
むしろ、『狭い方が心地良い』。
理屈では説明できない、猫の体質・本能・性(さが)というものだ。
「ん〜〜〜……」
ベッドへの名残惜しさを綺麗さっぱりに捨て去り、わたしはお尻を突き出すようにして目一杯の伸びを披露。
猫はこうやって固まった身体をほぐすわけ。
人間でいう、背伸びしながら手を上にやるポーズと同じかな?
良くわかんないけど、あいつがいつもやってるからたぶんそうだと思う。
ペロペロ ワシワシ
もちろん洗顔も忘れない。
自分の手を使って身だしなみをしっかりと整える。
これは猫だからというより、女子なら当然のこと。
それに、みっともない姿をあいつに見られるのは嫌。
しばらく前まではそんなこと気にもしなかったけど。
今は何故だか、『あいつ』という存在を強く意識するようになっていた。
でも、理由は深く考えない。
だってわたしは……猫だから。
「起きろーーー」
「ん…んん……」
いつだったか。
こいつはわたしを見るなり、突然悲鳴を上げて家から飛び出していったことがあった。
理由を考える以前に、かなり傷ついた……女として。
「起ーきーるーにゃーーー!」
「んん…嫌だ……」
まぁ、理由はすぐにわかったけど。
こいつが出て行った後、鏡の前を通りかかったわたしも一瞬悲鳴を上げてしまった。
何故なら私は……『人間』になっていたから。
いや、正確には『人間っぽく』かな?
耳とか尻尾は健在、手足もフサフサのままだったし。
んー…ま、どっちでもいいや。
「zzz」
「………」
後になってわかったけど、こいつは人間になったわたしを見て驚いたというより、『素っ裸』であったわたしを見て混乱してしまったらしい。
『見知らぬ全裸の女が自分の家を何食わぬ顔で平然と歩いていたら誰だって驚く』、とのこと。
まぁ、ギリギリ許してあげた。
「どうしても起きないと?」
「zzz」
「あ〜ニケは活きの良い『フランクフルト』が『今すぐ』にでも食べたいにゃ〜ちょうどここに1本あるから『今すぐ』にでも食べちゃおうかにゃ〜?」
「んーー! そろそろ起きちゃおっかなーーー!!」
なんでもない、普段通りのやりとり。
だけどわたしが魔物化して家事などをこなすようになってから、こいつは少し怠け気味だ。
……おもいっきり引っ掻いてやろうか?
朝食の席にて。
「ニケ、街に買い物行くけど……」
「行くにゃ!」
「はいはい」
アルとお出かけすることに。
あ、アルっていうのはこいつの名前。
「にゃーにゃー」
「ん?」
「デムニのショートパンツが欲しい!」
「あぁ、最近流行りの? いいよ」
「にゃ〜♪」
嬉しいときは喉をゴロゴロ鳴らして喜ぶ。
これは猫として当然のこと。
「デムニ買った後はニケ暇だろうし、街中ウロウロしててよ」
「了解にゃ〜ノ」
お小遣いもくれた。
何だかんだでアルは優しい。
だからこそ、わたしはこいつと一緒に居られるのかもしれない。
「ふ〜んふ〜んにゃっにゃっにゃ〜♪」
お目当てのショートパンツを買ってもらい気分上々。
やっぱり買い物にはしばらく時間が掛かるみたいなので、今はアルと別行動中。
「どこに行こうかにゃ〜?」
そういえばこの前、アルは恥ずかしそうにこんなことを聞いてきたことがあった。
『なぁニケ。し、下着とかは……いいのか?』
『にゃ? 下着?』
『え……そこから教えるの?』
今思えば恥ずかしい会話だった。
いくらわたしが無知であったとはいえ、アルには悪いことをしたと思う。
「うにゃ」
そうと決まれば、クランベリーショップ(ランジェリーショップ)にゴーにゃ!
「あら、いらっしゃいニケちゃん」
「にゃノ」
この店を訪れるのは3回目。
今まではアルと一緒に私の下着選びだった。
そしてその時に知り合ったのが、
「アル君は一緒じゃないみたいね。今日は1人?」
「一緒に来てるけど別行動にゃ」
「あら、そうなの。じゃぁ今日はお忍びってことね?」
「そ、そうにゃ! お忍びにゃ!」
「ふふっ」
この店の店長、ローザ。
下着選びに苦戦するアルに救いの手を差し伸べた張本人である。
ちなみにホルスタウロスで未亡人。
「ニケちゃん成長期だから、すぐに小さくなっちゃうのよね〜」
「苦しいから今なにも付けてないにゃ」
「そうよね〜……って、ええ!?」
「うにゃ!?」
ノーブラを宣告されたローザは、わたしの着ていたキャミソールを光の速さでガバリと翻す。
「ほ、本当だわ……」
「にゃ!? にゃにゃーーー!!」
「もう…ダメじゃないニケちゃん! 女の子がこんな無防備な格好しちゃぁ……」
そう言うとローザはわたしの胸をモミモミ……
「にゃ!?」
ムニムニ……
「にゃにゃ!?」
グニグニ……
「うにゃーーー!?」
「あらあら、Cもあるじゃない。Bじゃ小さいはずよねぇ」
「ふー…ふー……」
「さぁニケちゃん、こっちに来て試着しましょ!」
「キシャーーーーーー!?」
「威嚇してもダ〜メ! さ、いらっしゃい!」
「や、やめ……うにゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?!?!?」
1人で来るべき場所ではない。
わたしは貴重な体験をした。
「にゃ〜……」
ローザに弄ばれ早1時間。
ようやく解放されたわたしはアルを探しに再び街中へ。
「これは……紐?」
普通の下着に紛れた異物を引っ張り出す。
ローザに『勝負下着よ!』と言われ押し付けられたは良いものの、どう見ても布の面積が少ない。
うん、紐にしか見えない。
たぶん未来永劫身に着けることはないと思う。
でも勿体無いし、釣り糸の代用として使わせてもらおう。
「……にゃ! にゃ! にゃっと!」
手っ取り早くアルを見つけ出すため、自慢の跳躍力で建ち並ぶ家の屋根に飛び乗る。
ここは中央商業区なので人探しにはもってこいのポジションである。
「ど〜こかにゃ〜?」
東商業区で別れたから、たぶんあの辺にいると思う。
おおよその目星をつけジッと目を凝らすと…………発見。
見慣れた顔が大荷物を両手にフラフラと歩いている。
実にアッサリ見つかった。
逆につまらない。
「ふぅ、手伝ってあげるかにゃ〜」
まったく、手間の掛かる同居人である。
「すいません、見ず知らずの方に荷物なんて持たせて……」←アル
「なに、困っているときはお互い様だ。気にするな」←見知らぬアヌビス
「本当に助かります」
「………」←ニケ
大変だろうと駆けつけてみたらこの有様。
アルは褐色美人のアヌビスと荷物を分担して『楽しそう』に歩いていた。
あの野郎……ケモ耳娘なら誰でもお構いなしか?
「賊に住処を追われてな、今はこの街で1人暮らしをしている」
「それは、大変でしたね」
「いやなに、悪い事ばかりではない。確かに故郷は失ったが…この街も捨てがたいと実感した」
「そうですね。お店も多いし、優しい人達ばかりで……」
「そうではない」
「え?」
「お前と知り合えた。それだけだ」
「そんな…俺はそこまで大層な人間じゃ……」
「謙遜するな。人を見る目には自信がある」
逆ナン!?
「どうだ? この後お茶でもしないか?」
「あ〜、えっと……」
お茶したら殺すお茶したら殺すお茶したら殺すお茶したら殺すお茶したら殺すお茶したら……
「ん、どうした?」
「すいません、連れを待たせているので」
「……そうか」
あ……。
「せっかくのお誘いを……ほんとに申し訳ないです」
「気にするな。連れを放って女と遊ぶような男など、こちらから願い下げだからな」
「あ、あはは……」
………。
「あ、荷物ありがとうございます」
「ここで良いのか?」
「はい」
南商業区の出口付近で、アルは自分の荷物をアヌビスから受け取る。
「俺はここで連れを待ちます」
「そうか。その連れとやらに、よろしく伝えておいてくれ」
「はい、ありがとうございます」
「お茶は次の機会に、な」
「へ?」
まだ諦めてませんよ的な言葉を残し、アヌビスは何処かへと去っていった。
二度と現れるな泥棒犬!
「さて、ニケはどこに……」
「早く帰るにゃ!!」
「うわっ!?」
自宅にて。
「にゃーーーーーーーーーーー!!!」
「痛っ!?」
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!!!」
「い、痛い…ちょ、ちょっと待…いった!?」
ムシャクシャしたから引っ掻く。
猫として当然の行為。
「いってー……まったく、何なんだよ?」
「………」
「? ニケ?」
「キシャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「ぐほっ!?」
わたしは猫。
気まぐれである。
「あぁ、見てたんだ」
「にゃ」
「あの人が親切にしてくれたっていう、ただそれだけの話だよ」
「鼻の下伸ばしてたくせに……」
「あいや、それはぁ……」
「別にいいんじゃにゃい? 美人だったし……」
「んー…まいったなぁ」
アルは頭をポリポリと掻き困り顔。
まぁお誘いを断った時点で、わたしとしてはどうでも良かったんだけど。
ただ悔しかったからちょっと困らせてやりたかった。
「なぁニケ、機嫌直してくれよ」
「………」
そろそろかな?
でも、もう少しだけ。
「……条件があるにゃ」
「条件?」
「わたしと『交尾』するにゃ!」
「ぇえ!?」
もちろん冗談。
アルの反応が見たいだけ。
「こ、交尾?」
「にゃ」
「意味、わかってる?」
「ギシギシアンアンにゃ」
「さ、左様で……」
困ってる困ってる♪
さて!
アルの困り顔も見れたことだし、そろそろネタばらしを……
「ニ、ニケ……」
「にゃ?」
「痛いのは………………………………最初だけだから!!!」
「にゃにゃ!?!?」
ギシギシ!
ニャンニャン♪
ドピュッ!!!
「zzz」
「………」
……犯された。
そして、一瞬にして奪われた……わたしの初めて。
交尾なんて生易しいものじゃない、あれは……強姦・陵辱・レイプ。
抵抗なんてする余地もなく、あっという間の種付けだった。
「zzz」
「………」
アルの顔にはわたしの爪痕が。
精子を飲まされた時はさすがに驚いたので思わず。
「zzz」
「………」
冗談混じりの成り行きでこんなことになってしまったけど……1つだけ、良かったことがある。
2人とも初めてだったことはもちろんだけど、それよりも……
「ん……ニケ?」
「にゃ…なんでもないよ」
「そっか……おやすみ」
「うん。おやすみ」
アルがわたしを、誰よりも大切に想っていてくれた。
たったこれだけの事実を、わたしはこいつと身体を重ねるまで気が付けないでいた。
「zzz」
「………」
不器用で鈍感で甲斐性なしで
それでいてケモ耳好き。
だけど、そんなこいつが
どうしようもなく愛おしい。
「zzz」
「……にゃぁ〜♪」
ずっと一緒に居たいと
心から想えるほどに―――――
11/08/13 16:27更新 / HERO