『小さいはアナタのため』
「ねぇ、アタシのどこが好きなのさ?」
「小さいとこ」
「小さいどんなところが?」
「全体的に」
「じゃぁ…小さなおっぱいは?」
「微妙」
「死ね!」
「ふぐっ!?」
彼女はドワーフのルゥナ。
一応新婚カップルだけど、そう思われたことは1度もない。
「全体的に好きって言ったじゃないか!?」
ガッ! ゴッ!!
「胸は…ぶっ…例外…ごふっ……」
「じゃ何で結婚したのさ!?」
「小さいところが…好きだから」
「……おっぱいは?」
「微妙」
「死ね!!」
「ぐふっ!?」
胸元にちょこんと馬乗りになった彼女が俺の顔を凄まじい力で殴打するこの光景を見て、『一方的な暴力を受けている』と解釈する人間が多すぎる。
断じてそのようなことはない。
「うぅ…ロリ好きな男は溺愛者が多いはずなのに!」
「え、けっこう溺愛してるつもりだけど?」
「どこが!?」
「毎日種付けしてあげてる」
「仕方なく仕込んでるみたいな言い方は止めろコラァ!?」
「そんなつもりはないんだけどなぁ;」
ルゥナは時折こんな風に怒り出すことがある。
だけど理由は良くわからない。
「うぅ…元包茎童貞野郎に言い負かされるなんて……」
最初は誰でもそうじゃないのかな?
「なぁ、ルゥナ」
「ん…なにさ?」
「ルゥナは、俺のどこが好き?」
「え……?」
「……よし、後は柄の接合だけで完成だな」
お得意様から武器の発注があった。
数が多くて大変だったけど、期限日までに何とか終わらせることができそうだ。
ま、ドワーフとして当然のことさ!
「ルゥナ姐さーん、鉱石の採掘が一段落しましたー!」
「こっちも柄の作成完了しやしたー!」
「よしよし、順調順調♪」
鍛冶屋は大都市『ゾルアクア』の東商業地区の一角に存在する。
ここでは多くのドワーフが日夜働いている。
「姐さん! 休憩しましょうよ!」
「あっしはもうクタクタですたい……」
「そうだな、そうしよう。 みんな良く頑張ったな!」
「いえ、それを言うなら姉御の方こそ」
「そうそう! 姐さんが1番頑張ってましたよー!」
「ん、そうか?」
1週間徹夜しただけだけどなぁ。
ま、そう言われて悪い気はしないな。
「よし! 晩飯はアタシの手料理を振舞ってやる!」
「「「「ご馳走になりまーす!!」」」」
こうして働いている間に、何故かアタシはルゥナ姐さんと呼ばれるようになった。
別になにか特別なことをしたわけじゃない。
周りからは『面倒見が良い』『姉御肌』『ドワーフの鑑』なんて言われてるけど、自分じゃイマイチピンとこない。
「姐さん最高やわ〜♪」
「私が男だったら、姐さんにあんなことやこんなことを……」
「いや、姉御を百合に目覚めさせる手も……」
「なにアホなこと言ってるのさ;」
「うぅ〜…げふ」
「あぅ〜〜」
「ん〜姐さ〜ん……♪」
しまった、酒を飲ませ過ぎた。
まぁ明日は休日ということにしよう。
残りの作業はアタシが今夜中にやればいい。
「姉御ぉ〜…」
「ん、どうした?」
「ん〜〜…zz」
「……やれやれ」
仕事場の仮眠室に全員を運んでいく。
「よい…しょっと! よし、お前で最後だ」
「すいやせん…姐さん……zz」
仕事に関しては優秀なんだけどなぁコイツら。
アタシが見てないと、どうにも心配になってしまう。
「じゃ、早速始め……」
「姐さん!」
「うひゃ!?」
いきなり背中に抱きつかれる。
「ちょ、コラ!?」
「うぅ〜〜!」
ん、こいつは1番若いやつだな?
「おい、どうしたのさ?」
「………」
普段はこんなことする奴じゃないんだけどなぁ。
「姐さん…自分達は、もう大丈夫ですから……」
「……え?」
「姐さんは、早く身を固めるべきです……」
「な、なに言ってるのさ!?」
身を固めるって…け、結婚!?
「ア、アタシはまだ結婚なんて……」
「想い人が…いるんでしょう?」
「うっ」
想い人…まぁ、片想いだろうけどさ。
「たまにフラっと現れる…あの人、ですよね?」
「むぅ……」
不思議と鋭い奴だ。
ドワーフは普通こういうことには疎いはずだけど……。
「んん…だから…姐…さん…ん……zzz」
「……寝たか」
まったく、ビックリさせてくれる;
「……はぁ」
なんか、仕事する気分じゃないな。
アタシも、休むとするか……。
あの夜から数日後。
「「「「お疲れさまでしたー!!」」」」
「気を付けて帰りなよー」
1日の終わり。
仲間を家に帰して、アタシは後片付けをする。
「そろそろ長期休暇でも設けようかな……」
そんなことを考えていると……
コンコン
扉を叩く音が聞こえた。
「ん、誰か忘れ物でもしたか? ノックなんていいから入りなー」
てっきり仲間の誰かかと思った。
でも、そうじゃなかった。
「……あ、ども」
「んな!?」
例の客がやってきた。
アタシは童貞って呼んでるけど。
「な、なにしに来たのさ!? 店はもうとっくに閉まって……」
「いや、出てきたドワーフ達が『まだやってますよ〜』って」
「あ、あいつら……!」
ハメられた…!
上手く2人きりにされてしまった。
「えっと、武器の修理…頼んでもイイかな?」
「……はぁ。 仕方ないなぁ、折角来た客を追い返せないじゃないか……」
な、なんでアタシはこの男に甘いのさ!?
普通の客なら平気で追い返すのに……!
「助かる。 明日は重要な仕事が入ってるから」
「ふ〜ん? アンタ、護衛人だっけ?」
「あぁ。 この町は広いけど、護衛人の数が少なくて」
「だから頻繁に武器の修理に来るのか」
「あ、あぁ…まぁね」
「?」
ちょっと口ごもった?
……気のせいか。
「にしても…なにさ、この有り様は?」
「ごめん…武器の扱いは苦手で;」
「それで良く護衛人なんてやってるよな?」
「ソコを突かれると痛いな……」
童貞男は来るたびに武器である剣をボロボロにして持ってくる。
短期間で剣をこんな状態にするのも、ある意味才能と言える。
「直すアタシがアホみたいじゃないか……」
「そ、そう言わないでくれ! 俺は元々格闘家なんだから!」
「格闘家? じゃぁ武器なんていらないだろ?」
「事情があるんだよ……」
「ふ〜ん? その事情って?」
会話をしながら効率良く剣を直していく。
何万回と剣を研いできたアタシには朝飯前さ。
「クライアントは見た目も評価基準に入れるんだ。 だから武器を持ってないと……」
「依頼がこない? 難儀な仕事だなぁ」
「しかも護衛中の仕事っぷりも評価対象なんだ。 そこで剣を使うんだけど……」
「上手く扱えない?」
「ん〜…そこなんだよ」
「?」
童貞は意味深に言葉を区切る。
「戦闘中に武器が壊れたら、えっと、君は……」
「ルゥナ」
初めて名乗った。
「ルゥナはどうする?」
「素手で戦うに決まってるさ」
「そう、俺としては武器がない方が戦いやすい」
「んん?」
「でも、武器を持ってるのに素手で戦うのって変じゃないか?」
「確かに」
「だから武器が壊れれば、俺の大義名分がたつんだ」
「………」
まさか、こいつ……。
「わざと武器を…壊すのか?」
「………」
「………」
「ごめん!!!」
童貞男は見事なorzを再現する。
「お、お前……!」
「ご、ごめん! 隠すつもりはなかったんだ!!」
「じゃ何で今まで言わなかったのさ!?」
「こうでもしないと仕事がもらえないんだ!」
「だからって、武器をわざと壊すなんて……!」
武器職人として、純粋に怒りが込み上げてきた。
汗水垂らして精魂込めて叩いた武器を、そんな理由で破壊される。
同時にこの男にも幻滅した。
「面貸せ!!」
「ぐっ……!」
男を突き飛ばして馬乗りする。
「アンタはもっとマシな男かと思ってた! 武器を毎回壊すほど大変な仕事してるのかと勘違いしてた! でも違う! アンタは最低な男だ!!」
「……っ…」
男はアタシの言葉を全て受け止め反論しない。
「一発殴らせろ!」
「………」
拳を振り上げる。
しかし、
「……だから、明日で最後にする」
「は……?」
「明日で、護衛人の仕事を辞める」
「い、いきなり何さ?」
振り上げた拳をゆっくりと下ろす。
今更言い訳でもしたら殺す。
「ルゥナ…君を見て、やっと決心がついた」
「………」
「これは職人の心を踏みにじる行為だって、前々から思ってた。 わざと壊した武器を君のところへ持って行くのにも気が引けた」
「………」
「もちろん俺も稼いで生きていかなくちゃいけない。 でも、それは君達を利用してまで成すべきことじゃないって、今ようやく気付いた」
「………」
「ごめん…信じてくれとは言わない。 好きなだけ殴ってくれ……」
な、なにさ…この童貞男……。
「辞めたところで、仕事はどうするのさ?」
「探すしかないよ」
「簡単に見つかるわけないだろ!?」
「君の…職人の顔に泥を塗るよりはマシだ」
「………」
ほんとに…なんなのさ?
「なんで…なんで本当のことを話したのさ?」
「え?」
「しらばっくれてれば、いくらでも隠し通せたじゃないか?」
「……君に…君だけには、嘘をつきたくなかった」
「………」
「たぶん、君のことが…好きだからかな」
「〜〜〜〜〜〜!?」
ゴスッ! ガスッ!! グシャ!!!
「「「「「ええええええええ!!??」」」」」
中間達に昨晩の出来事を伝える。
男の意を汲んでほとんど作り話にした。
が、問題はそこじゃない。
「き、記憶喪失って!?」
「大変やないですか!?」
「記憶はちゃんと戻るんすか!?」
「一時的なものらしいから、心配ないそうだ」
昨晩殴り過ぎたせいで、童貞男の記憶が飛んでしまった。
そのまま放り出すわけにもいかず、記憶が戻るまで鍛冶屋で面倒を見ることにした。
「修理した後に帰ろうとしたら足を滑らせ鍛冶台に頭をぶつけオマケにその衝撃で落ちてきた金槌が顔面に直撃して記憶を失ったと……」
「だから顔がアザだらけなんすね」
「不幸なお人やな〜」
「そ、そうなんだ。 いやぁ、コイツが頑丈で良かったよ」
殴り飛ばしたとは言えない;
「でも、さすがに自分の名前くらいは覚えてるんじゃないですか?」
「確かに。 どうだ?」
「え、えっと……」
「「「「「………」」」」」
「……るぅ…ルゥ…ナ?」
「それはアタシの名前だ!」
なんでアタシの名前だけ覚えてるのさ!?
「姐さん愛されてまんな〜♪」
「自分の名前より姉御を優先するとは……」
「兄さんは男の中の男っす!」
「か、勝手に盛り上がるな!」
こ、こいつが変なこと言うから……!
「あの…俺、どうすれば?」
「ゆっくり療養するのが1番ですたい!」
「そうっす! それがいいっす!」
「ダーメーだ! アタシらのとこで世話するんだ、働かざる者食うべからずだ!」
「でも姐さん、それはさすがにキツイんじゃ……」
「1から教えていけば問題ないさ。 教育係はアタシが務めるから、皆は普段通り仕事に専念してくれ」
「あの、姐さん…その仕事は私が……」
「有りもしない記憶を植え付けるつもりじゃないだろうなぁ?」
「ギク!? い、嫌だな〜そんなわけないじゃないですか〜;」
「とにかく、世話係はアタシだ。 助けが必要な時は呼ぶから、皆そのつもりでいてくれ」
「「「「「は〜〜〜い」」」」」
はぁ…早いとこ記憶を戻してやらないと。
……まぁ、アタシのせいだけど。
「3時間でこれだけの鉱石を採掘するなんて! とても素人とは思えないっす!」
「そう、ですか?」
「姐さんもそう思うっすよね!?」
「ま、まぁまぁじゃないか?」
「兄さんさすがっす! 記憶喪失しているとは思えないっす!」
「ど、どうも」
………。
まぁ採掘は基本中の基本。
こ、これぐらいできて当然さ。
「兄さんは元鍛冶職人か何かですか!? 刀身の打ち方がとても素人とは思えません!」
「お、覚えてないです」
「姉御もそう思うでしょ!?」
「ま、まぁまぁだな」
「兄さんは原石です! 腕を磨けば極上の輝きを見せるに違いないです!!」
「ど、どうも」
………。
打つだけなら誰にでもできる。
た、たまたま型が良かっただけさ!
「ね、姐さん大変やわ〜!」
「どうした? あいつがヘマでもしたか?」
「その逆! 兄さんが1人でとんでもない刀剣を作ってしまったんや!!」
「な、なんだって!?」
渡された刀剣は見事な曲線を描き、刀身から発せられる輝きには思わず目を細めてしまう。
「こ、これは……」
「兄さんホンマ大物やわ〜! 記憶喪失なんて嘘なんちゃうか?」
「じ、自分の名前も覚えてないですから」
「………」
な、なんなのこの童貞は?
何をやらせても満点以上のことをやってのける。
わざと武器を壊していた男とは思えない。
本当に何者なんだろう……。
「1週間経ったぞ。 さすがに自分の名前くらいは思い出してもいいんじゃないか?」
「え、えっと……」
未だに何も思い出さない童貞男。
ここ1週間、世話が焼けるどころか鍛冶職人としての腕が信じられないくらい上達した。
「……すいません」
「はぁ……」
本当に記憶が戻るんだろうか?
「ルゥナさんの名前だけ覚えてるのが、自分でも不思議なくらいです」
「ま、まったくだ!」
こいつの中では、アタシは大きな存在なのだろうか……。
はっ!? な、何を考えてるんだアタシは!
自信過剰にもほどがある!
「記憶がなくなる前から、俺にとって…ルゥナさんは大切な存在だったんでしょうね」
「んな!?」
ななななななな!?
「やっぱり、ルゥナさんとは初めて会った気がしません」
「な…んな!?」
なななななななななななななな!?
「俺、ルゥナさんのことが…好きだったのかもしれまs」
ボスッ!(ボディ)
「かは!?」
ベキ! バキ!! グシャ!!!(顔面三連打)
「はぁ…はぁ……!」
ゴンッと鍛冶台に頭を打ち付けて倒れる童貞男。
思わず殴り倒してしまった……。
「………」
「い、生きてるか?」
「………」
さ、殺害…してしまった?
「お、おい! 起きろ童貞男! おい!!」
「………」
ま、まずい…こんなとこ誰かに見られたら……!
「ん…ん〜?」
「き、気がついたか!?」
良かった…生きてた!
「あ、あれ…ルゥナ? 何してるの?」
「……え?」
ま、まさか?
「い、いててて…俺、頭打ったのか?」
「お、おい! 自分の名前を言ってみろ!!」
「え? ―――――に決まってるだろ?」
「き、記憶が戻ったのか!?」
「記憶? え、俺…記憶失くしてたの?」
「〜〜〜〜〜!!」
ギュウウウ!!!
「い、いてててて!?」
「勝手に忘れるんじゃない! 勝手に好きだとか言うんじゃない!!」
力いっぱい抱きしめる。
「ル、ルゥナ?」
「ぅぅ〜……!」
あいつが、戻ってきてくれた。
アタシの知ってるあいつが。
「……そっか。 俺、流れで君に好きって言ったんだった」
「………」
「嘘じゃないよ。 君が好きだ」
「………」
………。
答えはもう出てる。
ずっと待ってた。
「え?」
「断るはずない…断れるはずない!!」
……ちゅっ
「ん!?」
「………///」
アタシの精一杯。
こいつに伝えた。
「出して…全部出して!」
「でも…はぁ…はぁ…子供が……」
「できていい! できて…ん…いいから……!」
「う…ぐ…ルゥナ……!」
「奥に…奥に出して……!」
「ぐ…あぁ!?」
「ひぅ!?」
びゅ…ぶびゅ! びゅる〜〜〜!!
「〜〜〜〜〜!」
「う…くは……!」
びちゅびちゅと子宮を刺す精子。
卵管まで満たされてしまった。
「はぁ…はぁ……」
「ん…あ…随分…濃いの…出してくれたな?」
「ル、ルゥナが…出せって……」
「ふふ…嬉しいのさ…バカ……///」
「ルゥナ……」
仮眠室で初夜を遂げた。
仲間達に見られていたことも知らずに……。
「ルゥナは、俺のどこが好き?」
「え……?」
「俺はさ…おっぱいが微妙なのは冗談。 どこが好きとかじゃなくて、『君』が好き」
「………」
「ルゥナは?」
「………」
「ねぇねぇルゥナ?」
「う、うるさいバカ!!!」
ガッ! ゴッ! ボキ!! ベシャ!! グチャ!!!
記憶喪失になっても
アタシのこと好きだって言ってくれたから―――――
「小さいとこ」
「小さいどんなところが?」
「全体的に」
「じゃぁ…小さなおっぱいは?」
「微妙」
「死ね!」
「ふぐっ!?」
彼女はドワーフのルゥナ。
一応新婚カップルだけど、そう思われたことは1度もない。
「全体的に好きって言ったじゃないか!?」
ガッ! ゴッ!!
「胸は…ぶっ…例外…ごふっ……」
「じゃ何で結婚したのさ!?」
「小さいところが…好きだから」
「……おっぱいは?」
「微妙」
「死ね!!」
「ぐふっ!?」
胸元にちょこんと馬乗りになった彼女が俺の顔を凄まじい力で殴打するこの光景を見て、『一方的な暴力を受けている』と解釈する人間が多すぎる。
断じてそのようなことはない。
「うぅ…ロリ好きな男は溺愛者が多いはずなのに!」
「え、けっこう溺愛してるつもりだけど?」
「どこが!?」
「毎日種付けしてあげてる」
「仕方なく仕込んでるみたいな言い方は止めろコラァ!?」
「そんなつもりはないんだけどなぁ;」
ルゥナは時折こんな風に怒り出すことがある。
だけど理由は良くわからない。
「うぅ…元包茎童貞野郎に言い負かされるなんて……」
最初は誰でもそうじゃないのかな?
「なぁ、ルゥナ」
「ん…なにさ?」
「ルゥナは、俺のどこが好き?」
「え……?」
「……よし、後は柄の接合だけで完成だな」
お得意様から武器の発注があった。
数が多くて大変だったけど、期限日までに何とか終わらせることができそうだ。
ま、ドワーフとして当然のことさ!
「ルゥナ姐さーん、鉱石の採掘が一段落しましたー!」
「こっちも柄の作成完了しやしたー!」
「よしよし、順調順調♪」
鍛冶屋は大都市『ゾルアクア』の東商業地区の一角に存在する。
ここでは多くのドワーフが日夜働いている。
「姐さん! 休憩しましょうよ!」
「あっしはもうクタクタですたい……」
「そうだな、そうしよう。 みんな良く頑張ったな!」
「いえ、それを言うなら姉御の方こそ」
「そうそう! 姐さんが1番頑張ってましたよー!」
「ん、そうか?」
1週間徹夜しただけだけどなぁ。
ま、そう言われて悪い気はしないな。
「よし! 晩飯はアタシの手料理を振舞ってやる!」
「「「「ご馳走になりまーす!!」」」」
こうして働いている間に、何故かアタシはルゥナ姐さんと呼ばれるようになった。
別になにか特別なことをしたわけじゃない。
周りからは『面倒見が良い』『姉御肌』『ドワーフの鑑』なんて言われてるけど、自分じゃイマイチピンとこない。
「姐さん最高やわ〜♪」
「私が男だったら、姐さんにあんなことやこんなことを……」
「いや、姉御を百合に目覚めさせる手も……」
「なにアホなこと言ってるのさ;」
「うぅ〜…げふ」
「あぅ〜〜」
「ん〜姐さ〜ん……♪」
しまった、酒を飲ませ過ぎた。
まぁ明日は休日ということにしよう。
残りの作業はアタシが今夜中にやればいい。
「姉御ぉ〜…」
「ん、どうした?」
「ん〜〜…zz」
「……やれやれ」
仕事場の仮眠室に全員を運んでいく。
「よい…しょっと! よし、お前で最後だ」
「すいやせん…姐さん……zz」
仕事に関しては優秀なんだけどなぁコイツら。
アタシが見てないと、どうにも心配になってしまう。
「じゃ、早速始め……」
「姐さん!」
「うひゃ!?」
いきなり背中に抱きつかれる。
「ちょ、コラ!?」
「うぅ〜〜!」
ん、こいつは1番若いやつだな?
「おい、どうしたのさ?」
「………」
普段はこんなことする奴じゃないんだけどなぁ。
「姐さん…自分達は、もう大丈夫ですから……」
「……え?」
「姐さんは、早く身を固めるべきです……」
「な、なに言ってるのさ!?」
身を固めるって…け、結婚!?
「ア、アタシはまだ結婚なんて……」
「想い人が…いるんでしょう?」
「うっ」
想い人…まぁ、片想いだろうけどさ。
「たまにフラっと現れる…あの人、ですよね?」
「むぅ……」
不思議と鋭い奴だ。
ドワーフは普通こういうことには疎いはずだけど……。
「んん…だから…姐…さん…ん……zzz」
「……寝たか」
まったく、ビックリさせてくれる;
「……はぁ」
なんか、仕事する気分じゃないな。
アタシも、休むとするか……。
あの夜から数日後。
「「「「お疲れさまでしたー!!」」」」
「気を付けて帰りなよー」
1日の終わり。
仲間を家に帰して、アタシは後片付けをする。
「そろそろ長期休暇でも設けようかな……」
そんなことを考えていると……
コンコン
扉を叩く音が聞こえた。
「ん、誰か忘れ物でもしたか? ノックなんていいから入りなー」
てっきり仲間の誰かかと思った。
でも、そうじゃなかった。
「……あ、ども」
「んな!?」
例の客がやってきた。
アタシは童貞って呼んでるけど。
「な、なにしに来たのさ!? 店はもうとっくに閉まって……」
「いや、出てきたドワーフ達が『まだやってますよ〜』って」
「あ、あいつら……!」
ハメられた…!
上手く2人きりにされてしまった。
「えっと、武器の修理…頼んでもイイかな?」
「……はぁ。 仕方ないなぁ、折角来た客を追い返せないじゃないか……」
な、なんでアタシはこの男に甘いのさ!?
普通の客なら平気で追い返すのに……!
「助かる。 明日は重要な仕事が入ってるから」
「ふ〜ん? アンタ、護衛人だっけ?」
「あぁ。 この町は広いけど、護衛人の数が少なくて」
「だから頻繁に武器の修理に来るのか」
「あ、あぁ…まぁね」
「?」
ちょっと口ごもった?
……気のせいか。
「にしても…なにさ、この有り様は?」
「ごめん…武器の扱いは苦手で;」
「それで良く護衛人なんてやってるよな?」
「ソコを突かれると痛いな……」
童貞男は来るたびに武器である剣をボロボロにして持ってくる。
短期間で剣をこんな状態にするのも、ある意味才能と言える。
「直すアタシがアホみたいじゃないか……」
「そ、そう言わないでくれ! 俺は元々格闘家なんだから!」
「格闘家? じゃぁ武器なんていらないだろ?」
「事情があるんだよ……」
「ふ〜ん? その事情って?」
会話をしながら効率良く剣を直していく。
何万回と剣を研いできたアタシには朝飯前さ。
「クライアントは見た目も評価基準に入れるんだ。 だから武器を持ってないと……」
「依頼がこない? 難儀な仕事だなぁ」
「しかも護衛中の仕事っぷりも評価対象なんだ。 そこで剣を使うんだけど……」
「上手く扱えない?」
「ん〜…そこなんだよ」
「?」
童貞は意味深に言葉を区切る。
「戦闘中に武器が壊れたら、えっと、君は……」
「ルゥナ」
初めて名乗った。
「ルゥナはどうする?」
「素手で戦うに決まってるさ」
「そう、俺としては武器がない方が戦いやすい」
「んん?」
「でも、武器を持ってるのに素手で戦うのって変じゃないか?」
「確かに」
「だから武器が壊れれば、俺の大義名分がたつんだ」
「………」
まさか、こいつ……。
「わざと武器を…壊すのか?」
「………」
「………」
「ごめん!!!」
童貞男は見事なorzを再現する。
「お、お前……!」
「ご、ごめん! 隠すつもりはなかったんだ!!」
「じゃ何で今まで言わなかったのさ!?」
「こうでもしないと仕事がもらえないんだ!」
「だからって、武器をわざと壊すなんて……!」
武器職人として、純粋に怒りが込み上げてきた。
汗水垂らして精魂込めて叩いた武器を、そんな理由で破壊される。
同時にこの男にも幻滅した。
「面貸せ!!」
「ぐっ……!」
男を突き飛ばして馬乗りする。
「アンタはもっとマシな男かと思ってた! 武器を毎回壊すほど大変な仕事してるのかと勘違いしてた! でも違う! アンタは最低な男だ!!」
「……っ…」
男はアタシの言葉を全て受け止め反論しない。
「一発殴らせろ!」
「………」
拳を振り上げる。
しかし、
「……だから、明日で最後にする」
「は……?」
「明日で、護衛人の仕事を辞める」
「い、いきなり何さ?」
振り上げた拳をゆっくりと下ろす。
今更言い訳でもしたら殺す。
「ルゥナ…君を見て、やっと決心がついた」
「………」
「これは職人の心を踏みにじる行為だって、前々から思ってた。 わざと壊した武器を君のところへ持って行くのにも気が引けた」
「………」
「もちろん俺も稼いで生きていかなくちゃいけない。 でも、それは君達を利用してまで成すべきことじゃないって、今ようやく気付いた」
「………」
「ごめん…信じてくれとは言わない。 好きなだけ殴ってくれ……」
な、なにさ…この童貞男……。
「辞めたところで、仕事はどうするのさ?」
「探すしかないよ」
「簡単に見つかるわけないだろ!?」
「君の…職人の顔に泥を塗るよりはマシだ」
「………」
ほんとに…なんなのさ?
「なんで…なんで本当のことを話したのさ?」
「え?」
「しらばっくれてれば、いくらでも隠し通せたじゃないか?」
「……君に…君だけには、嘘をつきたくなかった」
「………」
「たぶん、君のことが…好きだからかな」
「〜〜〜〜〜〜!?」
ゴスッ! ガスッ!! グシャ!!!
「「「「「ええええええええ!!??」」」」」
中間達に昨晩の出来事を伝える。
男の意を汲んでほとんど作り話にした。
が、問題はそこじゃない。
「き、記憶喪失って!?」
「大変やないですか!?」
「記憶はちゃんと戻るんすか!?」
「一時的なものらしいから、心配ないそうだ」
昨晩殴り過ぎたせいで、童貞男の記憶が飛んでしまった。
そのまま放り出すわけにもいかず、記憶が戻るまで鍛冶屋で面倒を見ることにした。
「修理した後に帰ろうとしたら足を滑らせ鍛冶台に頭をぶつけオマケにその衝撃で落ちてきた金槌が顔面に直撃して記憶を失ったと……」
「だから顔がアザだらけなんすね」
「不幸なお人やな〜」
「そ、そうなんだ。 いやぁ、コイツが頑丈で良かったよ」
殴り飛ばしたとは言えない;
「でも、さすがに自分の名前くらいは覚えてるんじゃないですか?」
「確かに。 どうだ?」
「え、えっと……」
「「「「「………」」」」」
「……るぅ…ルゥ…ナ?」
「それはアタシの名前だ!」
なんでアタシの名前だけ覚えてるのさ!?
「姐さん愛されてまんな〜♪」
「自分の名前より姉御を優先するとは……」
「兄さんは男の中の男っす!」
「か、勝手に盛り上がるな!」
こ、こいつが変なこと言うから……!
「あの…俺、どうすれば?」
「ゆっくり療養するのが1番ですたい!」
「そうっす! それがいいっす!」
「ダーメーだ! アタシらのとこで世話するんだ、働かざる者食うべからずだ!」
「でも姐さん、それはさすがにキツイんじゃ……」
「1から教えていけば問題ないさ。 教育係はアタシが務めるから、皆は普段通り仕事に専念してくれ」
「あの、姐さん…その仕事は私が……」
「有りもしない記憶を植え付けるつもりじゃないだろうなぁ?」
「ギク!? い、嫌だな〜そんなわけないじゃないですか〜;」
「とにかく、世話係はアタシだ。 助けが必要な時は呼ぶから、皆そのつもりでいてくれ」
「「「「「は〜〜〜い」」」」」
はぁ…早いとこ記憶を戻してやらないと。
……まぁ、アタシのせいだけど。
「3時間でこれだけの鉱石を採掘するなんて! とても素人とは思えないっす!」
「そう、ですか?」
「姐さんもそう思うっすよね!?」
「ま、まぁまぁじゃないか?」
「兄さんさすがっす! 記憶喪失しているとは思えないっす!」
「ど、どうも」
………。
まぁ採掘は基本中の基本。
こ、これぐらいできて当然さ。
「兄さんは元鍛冶職人か何かですか!? 刀身の打ち方がとても素人とは思えません!」
「お、覚えてないです」
「姉御もそう思うでしょ!?」
「ま、まぁまぁだな」
「兄さんは原石です! 腕を磨けば極上の輝きを見せるに違いないです!!」
「ど、どうも」
………。
打つだけなら誰にでもできる。
た、たまたま型が良かっただけさ!
「ね、姐さん大変やわ〜!」
「どうした? あいつがヘマでもしたか?」
「その逆! 兄さんが1人でとんでもない刀剣を作ってしまったんや!!」
「な、なんだって!?」
渡された刀剣は見事な曲線を描き、刀身から発せられる輝きには思わず目を細めてしまう。
「こ、これは……」
「兄さんホンマ大物やわ〜! 記憶喪失なんて嘘なんちゃうか?」
「じ、自分の名前も覚えてないですから」
「………」
な、なんなのこの童貞は?
何をやらせても満点以上のことをやってのける。
わざと武器を壊していた男とは思えない。
本当に何者なんだろう……。
「1週間経ったぞ。 さすがに自分の名前くらいは思い出してもいいんじゃないか?」
「え、えっと……」
未だに何も思い出さない童貞男。
ここ1週間、世話が焼けるどころか鍛冶職人としての腕が信じられないくらい上達した。
「……すいません」
「はぁ……」
本当に記憶が戻るんだろうか?
「ルゥナさんの名前だけ覚えてるのが、自分でも不思議なくらいです」
「ま、まったくだ!」
こいつの中では、アタシは大きな存在なのだろうか……。
はっ!? な、何を考えてるんだアタシは!
自信過剰にもほどがある!
「記憶がなくなる前から、俺にとって…ルゥナさんは大切な存在だったんでしょうね」
「んな!?」
ななななななな!?
「やっぱり、ルゥナさんとは初めて会った気がしません」
「な…んな!?」
なななななななななななななな!?
「俺、ルゥナさんのことが…好きだったのかもしれまs」
ボスッ!(ボディ)
「かは!?」
ベキ! バキ!! グシャ!!!(顔面三連打)
「はぁ…はぁ……!」
ゴンッと鍛冶台に頭を打ち付けて倒れる童貞男。
思わず殴り倒してしまった……。
「………」
「い、生きてるか?」
「………」
さ、殺害…してしまった?
「お、おい! 起きろ童貞男! おい!!」
「………」
ま、まずい…こんなとこ誰かに見られたら……!
「ん…ん〜?」
「き、気がついたか!?」
良かった…生きてた!
「あ、あれ…ルゥナ? 何してるの?」
「……え?」
ま、まさか?
「い、いててて…俺、頭打ったのか?」
「お、おい! 自分の名前を言ってみろ!!」
「え? ―――――に決まってるだろ?」
「き、記憶が戻ったのか!?」
「記憶? え、俺…記憶失くしてたの?」
「〜〜〜〜〜!!」
ギュウウウ!!!
「い、いてててて!?」
「勝手に忘れるんじゃない! 勝手に好きだとか言うんじゃない!!」
力いっぱい抱きしめる。
「ル、ルゥナ?」
「ぅぅ〜……!」
あいつが、戻ってきてくれた。
アタシの知ってるあいつが。
「……そっか。 俺、流れで君に好きって言ったんだった」
「………」
「嘘じゃないよ。 君が好きだ」
「………」
………。
答えはもう出てる。
ずっと待ってた。
「え?」
「断るはずない…断れるはずない!!」
……ちゅっ
「ん!?」
「………///」
アタシの精一杯。
こいつに伝えた。
「出して…全部出して!」
「でも…はぁ…はぁ…子供が……」
「できていい! できて…ん…いいから……!」
「う…ぐ…ルゥナ……!」
「奥に…奥に出して……!」
「ぐ…あぁ!?」
「ひぅ!?」
びゅ…ぶびゅ! びゅる〜〜〜!!
「〜〜〜〜〜!」
「う…くは……!」
びちゅびちゅと子宮を刺す精子。
卵管まで満たされてしまった。
「はぁ…はぁ……」
「ん…あ…随分…濃いの…出してくれたな?」
「ル、ルゥナが…出せって……」
「ふふ…嬉しいのさ…バカ……///」
「ルゥナ……」
仮眠室で初夜を遂げた。
仲間達に見られていたことも知らずに……。
「ルゥナは、俺のどこが好き?」
「え……?」
「俺はさ…おっぱいが微妙なのは冗談。 どこが好きとかじゃなくて、『君』が好き」
「………」
「ルゥナは?」
「………」
「ねぇねぇルゥナ?」
「う、うるさいバカ!!!」
ガッ! ゴッ! ボキ!! ベシャ!! グチャ!!!
記憶喪失になっても
アタシのこと好きだって言ってくれたから―――――
11/01/31 17:22更新 / HERO