読切小説
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『信じる心』
「うああああん…ママ〜〜〜……!」
「ごめんねぇ〜お母さんが目を離しちゃったばっかりにぃ…」
「ふぅ、見つかって良かったですね」

迷子を無事に発見し母親のもとへ連れて行った。

「見ず知らずのあなたにこんなお願いをしてしまってぇ…申し訳ないことをしましたぁ〜……」
「いえ、どうぞお気になさらず。 迷子捜しは得意ですから」
「本当にありがとうございましたぁ〜」
「次からは、ちゃんと手を繋いで歩いてくださいよ?」
「はぁい、気を付けます〜」

ホルスタウロスは基本ノンビリノホホ〜ンとしているため、一緒に歩いていた子供が迷子になっていることに気が付かないことが多い。

「それじゃぁ俺はこれで…」
「あぁ〜待ってくださぁ〜い」
「あ、はい?」
「何かお礼をしないとぉ〜」
「そんな…お礼なんてとんでもない!」

お礼をもらうために人助けをしているわけじゃないので。

「でもぉ〜…」
「どうか気を遣わないでください。 当然の事をしただけですから」
「う〜ん……」

大きな大きな胸を両腕で抱えるようにして考え込むお母さん。

「それならぁ〜…今晩わたしの家に寄っていきませんかぁ〜?」
「え?」
「夕食だけでも御馳走したいんです〜」
「そ、そうですねぇ…」

お礼をもらわないとは言っても、折角の厚意を無下にはできない。

「あの、ご主人は?」
「夫は子作りの最中に亡くなりましたぁ〜。 毎晩毎晩励み続けていたからでしょうかぁ〜…」
「………」

嫌な予感がする。

「夕食の後ぉ〜ついでに夜のお相手…お願いできますかぁ〜?」
「謹んでお断り致します!」

逃げるように駆け出す。
相手が子持ちでも独り身でも、魔物を助けるといつもこうなる。









「さて…どこに行こうかな?」

草原を1人歩く青年。

「困ってる人、どこかにいないかな?」

本当は困っている人なんていない方がいいんだけど。


ライラ=ルドルフは22歳の冒険家、こう見えて戦闘能力は非常に高い。
5年前に母親が亡くなったことを機に、若干17歳にして故郷を旅立った。
人助けをしているのは彼の性格からもあるが、一番の理由は母親の遺言でもあるから。
そんな彼は5年もの間ずっと独りで旅をしてきた。
心の片隅では、そろそろ何処かで腰を据えようと考えている。
ただ、彼にはそのキッカケがないだけ…。


「……ん、なんだ?」

前方に村を発見する。
宿は村で確保しようと思っていたけど……どこか様子がおかしい。
村人らしき人々がこちらへ駆け寄ってくる。

「何かあったんですか?」
「村に…ワーウルフの群れが……」
「なっ…魔物が!?」

老人は息を切らしながら状況を説明する。

「奴らは…食料だけでは飽き足らず…村の若い男達をも……ゴホッゴホッ!」
「「そ、村長!」」
「ゴホッ…はぁ…儂は…大丈夫じゃ……」

周りの村人が老人の体を気遣う。
どうやらこの人は村長らしい。

「あんた…もしかして冒険者かい!? だ、だったら頼む! オレ達の村を…どうか……!」
「お願いします…! 村には魔物に捕まった夫が……!」
「っ………」

無抵抗の村人達を群れで襲うなんて……酷すぎる。

「……わかりました。 できる限りのことはやってみます」
「ほ、本当ですか!?」
「はい…見捨てるわけにはいきませんから」
「しかしお若いの…無関係のお前さんを…巻き込むわけには……」
「俺なら大丈夫です。 皆さんはここで待機を!」

そう言って村へと走る。

「…行ってしまわれたか……」
「しかし村長…今はあの青年に賭けるしか……」
「……そうじゃな。 お若いの…どうか無事でいてくれ……」







「ほ〜らお前達! 食い物と男は、1つ残らず全部かっぱらうよ!」

物陰から様子を窺う。
村の中心には仲間に指示を出すワーウルフの親玉がいた。
他の四つん這いのワーウルフとは異なり、1匹だけ人間のように立っている。
建物などの損壊はなく、やはり狙いは食料と男のようだ。
捕らえられた男達は食料と一緒に中央へ集められている。

「リーダー、もうこれで全てかと」
「ふん、そうか。 大して集まらなかったねぇ」

あちこちに散っていたワーウルフが一斉に集まってくる。
数は6匹…いや、頭を入れて7匹。

「チッ…ろくな男がいないねぇ。 こいつらも食用にしちまおうか…」
「ひっ…ひぃぃ!?」
「まっ、下手物を食って腹を下すのも癪だ。 ここは…一思いに殺っちまうとするかね」
「そ、そんな!? お、お助けを…!!」
「わ、わたしには妻がいるんです! どうかお見逃しを…」
「ああ五月蠅い奴らだ……。 お前達、とっとと殺っちまいな!」
「はい、リーダー」
「そ、そんなぁ……!?」

くっ…どこまで残酷な奴らなんだ!
隙を見て奇襲をかけるつもりだったけど…もうそんなことは言ってられない!
そう思い身を乗り出そうとすると……
「貴様ら! 私の村で何をしている!?」
「……えっ?」
前のめりにコケそうになってしまう。

「おやぁ? 誰かと思えば…人間なんぞの家畜に成り下がった、アタシらウルフ種の面汚しじゃないか」
「………」

ワーウルフ達の前に立ちはだかったのは1人の女性。
見事なまでに黒い長髪はポニーテールにしてまとめてある。
頭の上には獣耳が2つと、腰からは尻尾が生えている。
………あれ? 尻尾と獣耳?

「あんたの留守を狙ってきたんだけどねぇ…ちょいとのんびりし過ぎたよ」
「ワーウルフ程度の知能ではこれが限界だろうな」
「堕ちた『アヌビス』が風情が……吠えるんじゃねえよ!?」

親玉が怒鳴ると同時に、取り巻きのワーウルフ達が一斉に女性へと飛び掛かる。

「………!」

武器を持っていない女性は攻撃を避けることしかできない。

「……ぐっ!?」

一匹のワーウルフから噛み付かれ、怯んだところを体当たりされる。

「…うっ……」
「はっ! ざまあないね! 家畜のアヌビスが…野生のアタシらとやり合えるわけないんだよ!!」

フラリと立ち上がる女性。

「…っ……」
「同族の好であんたには手を出さなかったけど…もう我慢できないね!!」

親玉が動く。

「アタシが直接……あんたを葬ってやるよ!!」

目にも留まらぬ速さで女性へと近づく。

「死になあああ!!!」

ワーウルフの鋭い爪が喉元を狙う。

「くっ……!」


………………………ドッ!!
鈍い音がした。

「………え?」
「なっ…なんだいお前!?」

相手の手首を掴み、間一髪のところで斬撃を止める。
見ていられずに飛び出してきた。

「俺が相手する! だからこの人には手を出すな!」
「……チッ!!」

親玉ウルフは掴まれていた手を振り払い距離をとる。

「リ、リーダー…大丈夫ですか!?」
「アタシのことはいい。 それより…なんだい、あいつは?」
「匂いからして…恐らく村の人間ではありません」
「だろうね。 こんな寂れた村に、あんな達人がいるはずないよ」

ワーウルフはこちらの分析を図る。

「大丈夫ですか?」
「………」
「あ、あの…」
「助けを頼んだ覚えはない」
「えっ?」
「あの程度の輩、私1人で十分だ」
「いやでも……!」
「余所者の…ましてや汚らわしい男の力など……私は借りん!」

すごい威圧…。
でも引くわけにはいかない。

「他人事に首を挟んだことには謝ります。 でもだからといって、この状況を俺は見過ごせません!」
「………!」

とりあえず威圧返し。

「待たせたねぇ」
「!」

再び警戒を敷く。

「アタシの攻撃を見切るなんて…あんた、ただ者じゃないね」
「………」

女性を背に隠しながら相手の話を聞く。

「そんな実力があるんなら…どうだ? アタシらと一緒に来ないかい?」
「………」
「こんな村、守ったところで何の特にもなりゃしないよ?」
「き、貴様ら……!」
「断る」
「っ!?」

いい加減腹が立ってきた。

「お前達がここを『こんな村』と蔑むなら…俺は『こんな村』を全力で守ってやろうじゃないか!」
「お、おい貴様! 余所者が何を勝手な……」
「なら俺は今から…この村の『住人』になる!!」
「なっ!?」

無茶苦茶な事を言う。
女性から強烈な殺気を感じるが、そんなこと今は気にしていられない。

「へぇ〜…言うじゃないか?」
「リーダー、我々が…」
「手を出すんじゃないよ? あの男はお前達の手に余る」
「は、はい…」

どうやら一騎打ちになりそうだ。

「一応誘っておいてやったけどよ、まぁ端から期待なんてしちゃいないよ」
「………」
「本当は食い物なんてどうでもいいんだ。 アタシら本来の目的は…あんたみたいな強い雄の精子なんだよ」
「………」
「大人しく誘いに乗ってりゃぁ手荒なマネはしなかったんだけどねぇ…」
「リーダー?」
「お前達、気が変わったよ。 あの男を連れ帰る」

標的が村からライラに変わる。

「死なない程度に痛めつけて、アタシらの子種袋になってもらおうじゃないか…くくっ♪」
「………」
「ほら、かかってきな!」

先制攻撃をくれるというので、その言葉に甘える。

「……ふぅ」

足を広げ腰を落とす。

「ん? 何のつもりだい?」

間合いは10メートルと少し。
この距離なら……

「………?」

後ろの女性もライラのことを怪訝そうな顔で窺う。

「………」
「なんだ、来ないのかい? だったらアタシが……!」

親玉ウルフが攻撃態勢に入る。
この瞬間を待っていた。

フッ……………ズドッ!!

「ぐっ……がはっ!?」
「………」
「………!?」

相手の腹を深くえぐる、急所を狙った見事な正拳突き。

「うぅ…ぐ…ぉぉ…げほっ……!」

親玉は腹を抱えながら後ろへよろける。

「リ、リーダー!?」
「はぁ…はぁ…くっ…そんな…まさか……」

殺傷能力の低い技なので死に至ることはない。

「ぐっ…はぁ…お、お前達…はぁ…ここは、退くよ……!」
「えっ…で、でも……」
「いいから退くよ!! はぁ…はぁ…あの男には…敵わないよ……」
「は、はい…!」

頭の命令でワーウルフ達が撤退を始める。
親玉は数匹の部下に支えられながら、よろよろと逃げ帰っていく。

「良かった、逃げてくれたか…」
「………」

村にはライラと女性、気絶した捕虜数名が残される。

「はぁ…ほんと良かった……」
「貴様…助けを頼んだ覚えはないと言ったはずだが?」
「そ、それは……」
「余計なことを…! 早くこの村から出て行くがいい!!」
「あ…わ、わかりました……」

女性は耳と尻尾を逆立て激しくライラを威嚇する。
ライラは素直にその指示を受け入れる。
が……
「あ、あれ……?」
足がもつれて倒れてしまう。

「……何をしている?」
「す、すいません…すぐ…行きますから……」

うつ伏せの状態から立ち上がろうと腕に力を入れる。
だが…上手く力が入らない。

「あ…そうか……」

先程出した技に原因があることに気付く。
あの技は、一瞬だが人知を越えた速度で移動することができる秘術。
もちろん体にかかる負担も膨大なものとなる。
戦闘後に動けなくなるのも道理。

「はぁ…はぁ……」

全身に気怠い疲労感が一気に押し寄せてくる。
1発だけでこの様か…まだまだ修行が足りないな……。

「貴様! いつまで寝ている気だ!?」
「………」
「おい! 聞いているのか!?」
「………」

だんだん…声が……遠く………なって……………………………









「……ど…えば……るんですか……」

誰かが喋っている。

「…んな……者…村に……るべきでは……」

断片的にしか聞こえない。

「皆が……おうと…たしは……んたいです!」

バタンッと扉が大きな音をたてて閉まる。
何事かと体を動かそうとするが…全身が鉛のように重く感じる。

「………」

どうにか動く首を横に振り、自分のいる場所を確認する。

「………」

寝室。
どうやら誰かの家のベットで寝かされているようだ。

「……はぁ」

どこかホッとしてしまう。
と、部屋の扉が開き村長が顔を出す。

「おぉ、お若いの…気分はどうじゃ?」
「はい…体は動きませんけど、調子は良いですよ」
「おぉ、そうかそうか…」

安堵する村長。

「お若いの…村を救ってくれたこと……心から感謝する」
「いえ、そんな…」
「お前さんには、感謝してもしきれんよ…」

村長は深々と頭を下げてくる。

「村長…どうか顔を上げてください」
「う〜む…何か礼をしたいのじゃが……」
「村長、お礼なんていいですよ」
「いや、こればっかりは譲れんよ! 命を賭けて村を救ってくれた恩人に…何も礼ができんとあっては……」
「………」

村長の意志は固い。

「なら村長、1つお願いがあります」
「おぉ、なんじゃ!? 儂らにできることなら、何でもするぞ?」







「ここを…こうして……はい、完成!」
「ぉおお〜!」
「こ、ここまで立派な荷台車が作れるとは…!」
「ライラお兄ちゃんすっご〜い!!」

あれから1週間。
体が完治するまでの間、療養という名目でこの村に滞在することになった。
村長からは『こんなことで良いのか…?』と言われたけど、宿代が浮く分、俺にとっては十二分にありがたい。

「この荷車なら前の3倍…いや、5倍は多く運べるぞ!」
「ライラさん、本当に…タダでいいんですかい!?」
「もちろんですよ。 こんな駄作で良ければ、いくらでもお作りしますよ」
「だ、駄作なんて滅相もない! これで仕事の効率がぐ〜んと上がるってもんです!!」
「本当にありがとうございます!」
「お兄ちゃんありがとう♪」
「い、いえいえ…/// お役に立てたみたいで、俺も嬉しいですよ!」

ジッとしていると体が鈍ってしまう。
そう思い、3日前からこうして村人達に『何か困ったことはないですか?』と聞き回っている。

「それじゃぁ俺はこれで。 何かあったら、また遠慮なく言ってくださいね!」
「は、はい! 本当にありがとうございました!」

村では店番、住宅屋根の修復、恋愛相談など困り事は実に様々。
今回は畑仕事について相談されたので、俺の知る限りの知識をフルに使って大きな荷台を作った。
良かった、喜んでくれたみたいだ。
なんだか俺まで嬉しくなってしまう。
人助けをするって…やっぱりいいな……。

「………」
「あ……」

厳しい目つきの女性と目が合う。
彼女はナオさん。(年上ということで、一応さん付けして呼んでいる)
一週間前、俺がワーウルフから守ったアヌビスの女性。

「こ、こんにちわ」
「……ふん」

無視して通り過ぎていく。
3日前からずっとこうだ。

「……はぁ」

でもどうして嫌われているのかが良くわからない。
というより、会った当初から嫌われていたような…。
う〜ん…やっぱり俺が余所者だから……?







村長宅にて。

「ライラ殿、もう体は大丈夫そうですな」
「えぇ、おかげさまで」
「儂らの村はどうですかな? とは言うも…何もない辺鄙な村じゃが……」
「そんなことないですよ、村長。 のんびりとした、静かで良い村だと思います」
「何もない…という所は否定せんのか?」
「あぁいや…それは……」
「ほっほっほっ…ライラ殿は正直で良いことじゃな」
「あ…あっはは……」

村長は意外と話し上手だった。

「それはそうと、ライラ殿…」
「なんでしょう?」
「体が治るまで、この村に滞在したい…というお願いじゃったな?」
「はい、確かにそういう約束でした」
「そうか…ふ〜む……」
「あ、あの…村長?」

何やら1人で考え込んでしまう。

「えっと…何か悩み事でも?」
「……聞いてくれるか?」
「俺で良ければ是非!」
「ふむ……」

顔を上げて話し始める村長。

「ある日この村に、大きな災いがやってきたのじゃ」
「………」
「じゃがその災いから村を、1人の勇敢な青年が見事救ってくれた」
「………」
「傷ついた青年は傷が癒えるまで、この村に滞在したいと言った」
「………」
「青年は治りかけの体のまま、困っている村人達の願いを次々と叶えていった」
「………?」
「そして傷の癒えた青年は、当初の約束通り村から出て行くと言った」
「その青年って…」
「旅立とうとする青年に、儂ら村人はこう言ったんじゃ…」
「………」
「『行かないでくれ』……とな」
「村長……」
「ほっほっほっ……」

俺が村から旅出ってしまうことが悩みだなんて…。

「でも村長…村の人達が承諾するとは……」
「承諾もなにも、これは村の皆全員で決めたことじゃ」
「………」
「もちろん強制はせんよ。 これはライラ殿…お前さんが決めることじゃ」

村の人々全員が…?
いやでも、どうしても気に掛かることがある。

「村長、1つお聞きしたいことがあります」
「なんじゃ?」
「その全員の中に…ナオさんは入っていますか?」
「む…も、もちろんじゃとも!」
「………」
「………」
「嘘がお下手ですね」
「むむ…参ったのう……」

あそこまで嫌われているのに、俺の事を村人として認めてくれるはずがない。

「しかしライラ殿…ナオのことは気にせんでも……」
「それはできません。 俺が村人になることを1人でも不快に思う人がいるのなら…いくら村長や皆の頼みでも、受け入れることはできません」
「ふ〜む…」

たとえそれが100人に1人でも1000人に1人でも、俺の答えは変わらない。

「ふむ…困ったのう……」
「おじいちゃん、ここからは私が話すわ」
「む…おぉ、ティエナか」

ティエナさんは村長のお孫さんにあたる。
寝たきりだった俺を必死で介抱してくれたのがこの人。
早くに夫を亡くした未亡人らしい。

「もう遅いから、おじいちゃんは先に寝てて」
「おぉ、そうじゃな…」

ティエナさんは村長を寝室へ向かわせる。

「ふぅ…ライラ君と2人っきりで話すの、これが初めてね」
「そうですね」
「ナオちゃんのこと…話してたんでしょ?」
「あ…はい」
「君に失礼な態度をとってるみたいだから、代わりにわたしが謝るわ…ごめんなさいね」
「い、いいんです! 気にしていませんから!」
「本当に…?」
「あ…う……」
「ふふっ…嘘が下手なところ、わたしのおじいちゃんと似てるわ」

妙に勘が鋭いティエナさん。

「5年も前になるかな……ナオちゃんが村の外で倒れていたところを、わたしが助けたの」
「えっ…倒れていた?」
「どうやら、遺跡荒らしの集団に襲われたらしいの」
「襲われたって…アヌビスが遺跡荒らしに引けを取るとは思えません」
「数が異常なまでに多かったみたいで、対処しきれなかったそうよ」
「そしてこの村の近くに逃げて来た…」
「そういうことになるかな」
「じゃぁ俺を嫌う理由は…俺が冒険者だからってことですか?」
「う〜ん…少し違うわね」
「えっ?」
「実はね、あの子………」







「………」

何なんだ…あの男は……!
人様の村に土足で入り込もうとする余所者が…!
困った人を放っておけない…だと?
ふん…偽善者め……。
所詮はあの男も…下界の薄汚い下種共と一緒……。
村人に取り繕い…私達から全てを奪うチャンスを窺っているに違いない……。

「…くっ……」

認めない…!
村の皆が何と言おうと…私は……認めない………!







「おはようございます、ナオさん!」
「………」

村からの出立は保留となった。
ティエナさんからナオさんの境遇を聞いた後、俺は考えを改めた。

「今日も良い天気ですね!」
「………」

もう少しの間だけ、ナオさんが俺に心を開いてくれるよう頑張ることにした。

「水汲みなら俺が…」
「ええーい…鬱陶しい!!」
「ぅうっ!?」

毎日のようにマミーの呪いを受ける日々。
おかげで少し耐性が付いてしまった。

「……ふんっ!」
「ぅぐっ…!?」

倒れた俺を豪快に踏み付けて去っていく。
これもまぁいつものこと。

「あらあら…またナオちゃんが?」
「え、えぇ…なかなか…上手くいきませんね……」
「でも諦めちゃだめよ? ライラ君…じっくりと粘るの!」
「は、はい…頑張り…ます……」

やれやれ、いつになったら心を開いてくれるのやら……。
………あれ?
俺なんで……こんなになるまで頑張ってるんだろ………?







「………」

最近…あの男は私に付きまとうようになった。
いくら呪いをかけても立ち上がる。
まったく…不気味なやつだ……。

「………」

私があの男を信用していないのは今も変わらない。
きっと…私が隙を見せるところを狙っているに違いない……。



男なんて………大嫌いだ……………







「ライラ君、今日で何日目?」
「20日ですから…およそ3週間目です」
「なにか手応えは?」
「………」
「そう……改めて思うけど、あの子の男嫌いは筋金入りね」
「……はぁ」

ナオさんとの仲は未だ進展なし。
呪われては踏まれ…呪われては踏まれ……永遠にループしてしまいそうな勢いだ。

「そんな報われないライラ君に吉報よ。 明日はなんと…村で年に1度の『心祭り』が行われるの!」
「こころまつり…ですか?」
「えぇ。 とは言っても、祭りらしい祭りじゃないんだけどね」
「? それはどういった祭りなんですか?」
「内容は簡単よ。 自分の気持ちを伝えたい人に贈り物をするの!」
「贈り物?」
「そう。 それと贈り物に決まりはないわ。 気持ちが伝わるものなら何でもOK」
「………」
「両親に贈るもよし…恋人に贈るもよし…仲を深めたい相手にだって……」
「すいません、失礼します!」

贈り物…気持ちが伝わる贈り物……何がある?



「ライラ君…頑張ってね……」







「心祭り…もうそんな時期か……」

思えば贈り物を貰うのは毎年ティエナからの1つだけ。
他の村人からは貰ったことがない。

「………」

村の皆は親切で優しい。
特にティエナには、5年も前からずっと世話になりっぱなしだ。

「………」

村人とは普通に接しているつもりだが…やはり男は苦手だ……。

「はぁ…」

あの男…村からいつになったら出て行くんだ?
あいつが来てから、もう1ヶ月は経っている…。

「………」

ライラ…とかいったな。
なぜ私にまとわりつく?
呪いを使ってまで奴を遠ざけているというのに…。
本当に…不気味な奴だ………。







「寝ずに頑張れば…きっと明日の夜までには……!」







「ナオちゃん、こんばんわ」
「あぁ、ティエナか」
「今日は心祭りだけど、誰かから贈り物…貰った?」
「いつも通りだ」
「そっか。 それじゃぁわたしから…はい! ナオちゃんにプレゼント♪」
「毎年そうだが…ティエナはなぜ私に?」
「贈り物を渡せば、言葉に表さなくてもいいはずだけど?」
「ふふ…そうだったな」
「それに今年はもう1つ貰えるかもね…」
「えっ?」
「ううん、何でも!」

来年は私も、ティエナに何か贈らなくてはな…。

「ティエナ…」
「ん? なに?」
「お前は、あの男の事を……どう思う?」
「あの男って…もしかしてライラ君の事?」
「………」
「良い人だと思うよ。 わたしがもう少し若ければねぇ…」
「随分と買っているんだな…」
「ねぇナオちゃん。 ライラ君と…もっと距離を縮めてみたらどうかな?」
「な、なぜ私が……」
「外からだけじゃ見えない部分が、きっとあると思うの」
「………」
「ナオちゃんの男嫌いは、わたしも理解してるつもり」
「だったらなぜ…」
「だから…だからこそナオちゃんには、もっと彼のことを知ってほしいの」
「………」

私が…あの男のことを?

「今すぐにとは言わない。 ゆっくり、時間を掛けて……」
「ティエナ、すまない…1人にしてくれ……」
「あ…ナオちゃん……」

ティエナの言いたいことはわかる。
奴に…あのライラとかいう男に、もっと接してやれということだろう。

「っ………」

そんなこと…私には……………







「ひ、日付は…まだ変わってないな!?」

1日掛かりでようやく贈り物を完成させた。
そしてそれを届けるため、俺は今全速力でナオさんの自宅に向かっている。

「す、少し遅くなったけど…まだ起きてるかな?」

折角作った贈り物を渡せないで終わるのはさすがに寂しい。

「はっ…はっ…ようやく…着いた……」

まだ家の明かりは点いていた。

コンコン……

扉の戸を軽く叩く。

「ふぅ……」

受け取ってもらえるだけでいい。
俺はそれで十分だと思っている。

ガチャッ……

「あ…夜分遅くにすいません!」
「………」
「聞きました、今日は心祭りという催しがあるってことを」
「………」

あ、相変わらず鋭い目つきで睨んでくる…。
でも…ここで引き下がるわけにはいかない……!

「こ、これを…受け取ってください!」
「……これは?」
「贈り物です。 俺、ナオさんに認めてもらいたくて…それで……!」

バシッ……!

贈り物を包んだ箱を、ナオさんは手ではたいた。

「あっ……」
「余計なことを…! 私は……貴様など認めるつもりはない!!」
「………」
「物で釣れば私の心が変わるとでも思ったか!?」
「そ、そんなことは……!」
「私の前から消えろ! 貴様など…顔も見たくない!!」
「っ……!」

胸がズキリと痛んだ。

「す、すいません…俺…出過ぎた真似を……」
「……ふん!」

バタンッと扉を閉められる。

「………」

胸が………

「…っ……」

胸が…痛い……。

「………」

予想はしていた。
いや…こうなる可能性の方が高かった。
それでも…どうしてこんなに……胸が熱いんだろう……………







「………」

奴が去った後、私は再び外に出た。

「………」

対処の仕方がわからず、思わずはたいてしまった。
悪い事を…してしまったか……?
いや…何を考えているんだ、私は……。
泥に汚れた奴の贈り物を拾い上げる。

「………」

直方体の細長い箱に、明るい色のリボンが綺麗に巻かれている。

「………」

中身が…気になる。
贈り物を貰うのはティエナ以外初めてだ。
それも余所者の男からだ。

「…っ……」


……
………
誘惑に勝てず開けてみた。

「ん…これは……」

ネックレスだった。
先にピラミッドの形を模したルビーが装飾してある。
この村には到底売っていない代物だ。

「………?」

だが良く見ると、宝石の部分が不自然にゴツゴツしている。
………手作り?

「………」

はぁ……。
こうして中身を見てしまったからには、私には受け取る義務がある。
仕方ない…一応捨てずに保管しておいてやろう……。

「………」

このネックレスは、不思議と私の目を惹き付けた。







翌朝。

「ティエナさん、村長…お世話になりました」
「ライラ殿…本当に行ってしまわれるのか? お前さんさえ良ければ、好きなだけこの村にいても構わないんじゃぞ?」
「そうよ、ライラ君…いきなり出て行くなんて……」
「すいません、もう決めたことですから」
「ふ〜む…」
「ナオちゃんと、何かあったの?」
「………」

心祭りでもナオさんと進展がなければ出て行こうと思っていた。
まぁ受け取ってもくれなかったけど…。

「ねぇ、ライラ君……」
「ティエナや、もう止しなさい…」
「でもおじいちゃん!」
「ライラ殿が決めたことじゃ…儂らがどうこう言う資格はない……」
「だけど……」
「ティエナ…」
「う……」

止めてくれるティエナさんには申し訳ないけど…これ以上俺がこの村にいる理由はない。

「それでは村長…」
「うむ。 村の皆には、儂から言っておこう」
「よろしくお願いします」
「ライラ君…」
「ティエナさん、今までありがとうございました」
「………」

村から外に出る。

「達者でな…」
「はい、村長」
「………」

ティエナさんは顔を俯けたまま。
それでも俺は歩み続ける。

「おじいちゃん…」
「ライラ殿にはライラ殿の、何か思うところがあるのじゃろうて…」
「………」

俺は歩く。
消しきれない名残惜しさを噛み締めたまま……………







「ふぅ……」

朝早くから日課の水汲み。
今日はライラ……あの男は来ない。

「………」

呪いも大して効かないから、どうしようかと困っていたが…ようやく解放されたか。

「………」

それにしても、今日はやけに村が静かだ…。
何か変化があるわけではないが…どことなくそんな気がする。

「……はぁ」

仕方ない……。
不本意だが、奴には後で礼を言いに行かねばならない。
贈り物を貰っておいて礼をしないのは非常識だからな…。

「………」

む……なぜだ?
今日は本当に村が静かだ。
いや…もしやそう感じているのは私だけか?

「ナオちゃん……!」
「ん、ティエナか。 どうした? そんなに慌てて…」
「彼が…ライラ君が……!!」
「………?」

次にティエナから発せられた言葉は、私を村の外へと駆り出した。

不器用に研磨されたルビーを…胸元で揺らしながら……………







「さて、どこに行こうか…」

1ヶ月ぶりの1人旅。
少し体が鈍ってるみたいだけど、冒険に支障はない。

「………」

今思えば…作ったネックレスをナオさんの家の近くに、そのまま置いてきてしまった。
まぁでも、今更取りに引き返すのもアレだ…。
誰かが拾ってくれていることを祈ろう。

「………」

1人旅って…こんなに寂しかったっけ……………







「はっ…はっ……!」
「ナ、ナオちゃん…待って……!」

必死であいつを追いかける。
私の後を追うティエナの姿はすぐに見えなくなる。

「はっ…はぁ……!」

なぜだ…あいつごときに……。
あの男とは…ここまで必死に追いかける程の仲ではない……。
それに私は男が嫌いなはず…。

「はぁ…はぁ……」

礼を言うため…?
それだけの理由で…私は……?
わからない…。

「はぁ…はぁ……くっ……!」

わからない……わからないわからないわからない………!!
でも今は…あいつに追いつかなくては……!

「はぁ…はぁ……ん?」

前方に複数の人影。
どうやらあの男ではないようだ。
ちょうどいい、マヌケ面を見なかったか聞いてみるとするか。

「すまない、尋ねたいことがある…こっちに…男が来なかったか?」

悪人面の男達が4人。
本当は口も聞きたくないが…。

「男ですかい? おめえら見たか?」
「いんや…?」
「見てねえなぁ」
「おれも見てな…いや、待てよ…それならさっき見たような……」
「ほ、本当か!?」

尋ねて正解だったな。

「それで…その男はどこに……」
「おっとお嬢さん? まさかタダで教えてほしい…なんて言うつもりじゃないでしょうねぇ?」
「えっ?」
「良く見りゃ…へへっ…随分とイイ体してるなぁ?」
「情報を聞きたきゃ…『体』で払ってもらいやすぜ?」
「なっ!?」
「でもこの女魔物だぜ?」
「女は女だ、構いやしねえ!」
「そうそう! それに魔物の方が、人間の女より気持ちいいって噂もある…ひひひっ……♪」
「くっ…下種共が……!!」
「へっ! 何とでもいいな!」

まさか…この様な連中だったとは……!

「そぉら…捕まえた!」
「ぐっ!?」

後ろから羽交い締めにされる。

「おい、おめえら! 鎖で両手両足縛っちまえ!!」
「へへへっ♪ 大人しくしてろよ…お嬢さん?」
「は、放せ! 私に触るな!!」

4人の男に押さえつけられる。

「ぐっ……!」

あの忌々しい記憶と今の状況が重なる。
私が男嫌いになった理由…5年前、遺跡荒らしに私の体を狙われてからだ。

「うっひょ〜! でっけぇ乳だぜ〜♪」
「おい、先俺に揉ませろよ!」
「やめろ…さ、触るな……!」

あの時は逃げられた。
だが今は……。

「ほれ! これが俺のカワイイ息子だ、たっぷりと可愛がってくれ!!」
「っ!?」

顔に汚い逸物を押し付けられる。

「おれらを呪いたきゃ呪っていいんだぜ〜?」
「まっ…お嬢さんが口を開いた瞬間、俺の息子が入り込むことになるけどな! ひひひっ♪」
「ぐぅ……!」

助けて……………ライラ……………………!!!



「ナ、ナオちゃん…?」

遠くから男達に囲まれているナオを発見するティエナ。

「…っ……」

自分が助けに入ったところで無駄なことは目に見えていた。

「………!」

ティエナは走る。
先行くライラを追って……………







「………?」

ザワッとした。
胸騒ぎ?
………
気のせい…かな……。







「おいおい、早くおれのしゃぶってくれよ!」
「こっちもしっかりシゴけや!!」
「ぐぅ……!」

く、くそ…どうして私が…こんな目に……!

「やめとけやめとけ、口に入れて噛み千切られでもしたら堪んねえからな」
「へへっ…違いねぇ」
「それもそうだな……だったら、このエロい顔見ながら抜かせてもらうとするか!!」
「そりゃいい! 濃いのタップリぶっかけてやろうぜ!!」
「…っ……!?」

私に…何をするつもりだ!?

「ああ〜〜〜その反抗的な表情…興奮しちまう……♪」
「待ってろよ〜? すぐに濃厚ザーメン御馳走してやるからな〜♪」

男達は私の眼前で汚らしい肉棒をネチネチと擦り始める。

「あぁ…あああ〜〜///」
「うっ…下種め……!」
「いいねぇ〜もっと言ってくれ〜♪ ますます興奮してくるぜ〜♪」
「強気な女をチンポで屈服させる……あぁ〜堪んねぇ〜〜///」
「くぅ……!」

く、臭い………。
こんなものを嗅がされ続けたら…気がおかしくなってしまう……。

「あ…あぁぁぁ〜〜もう出そうだ……!」
「お、おれもだ…!」
「1週間ぶりのザーメンだぜ…ありがたく受け取りな!!」
「で…出る……!!」
「っ!?」

ぶっ…ぶびゅ!! どぴゅっ! どぷっ…どぷっ……
びゅっ…びゅぐん! びゅぐん!! びゅるる〜〜〜〜!!

「ひっ……!?」

強烈な悪臭を放つ4本の肉棒から、大量の生臭い精液が私へ向け放出される。

ビチャ…ビチャッ!!

「へへへっ…もっとぶっかけてやんよ!!」
「おう!? まだ…出る……!!」
「……っ…!?」

ドロドロと黄ばんだ精液が褐色の肌を、獣耳を、黒髪を容赦なく汚していく。

「お…おおお〜〜………♪」
「へへっ…その整った顔にもチンポ擦り付けてやるぜ……♪」
「うぅ…や、やめ……」
「いくぞ…2発目だ……!」
「……!?」

臭い肉棒をグイグイと顔に押し付けられながらの射精。

「はぁ…はぁ……ひひひっ♪」
「へへっ…お嬢さん…おれらのザーメン臭が染み込むまで受け取ってもらうぜ……!」
「うぅ…臭い……」

い、意識が……。

「やべ…おれもう我慢できねぇ……」
「あぁおれもだ…」
「………?」
「おい、足の鎖外してやれ」
「え、なんでだよ?」
「このままだとマンコにチンポ入れづらいだろ?」
「なっ!!?」
「あ、そうか」
「外したら2人は両足開いた状態で押さえとけ。 暴れられたら厄介だからな」
「いいぜ! その代わり、次はおれにヤらせろよ?」
「へへっ…わかってるよ!」

男達は鎖を緩め、私の足を限界まで開く。

「や、やめろ……!!」
「おい…この女処女だぜ!?」
「ほんとか!?」
「へへへっ…こりゃ思わぬ拾い物したってもんだ♪」
「み、見るな………!」

服を剥ぎ取られ、私の秘部を舐めるような目つきで凝視してくる。

「おい、おれは何すればいいんだよ?」
「おまえはこの女の頭を押さえてろ」
「頭?」
「自分の処女が奪われるところを見せつけてやるんだよ♪」
「ああ! そいつは名案だ!!」
「ふ、ふざけるな! 誰が貴様ら下種なんぞに……!!」
「うるせぇな…口も一緒に塞いじまえ!」
「了解〜♪」
「むぐっ!?」

布を巻かれ口を塞がれる。

「よしよし。 そんじゃ、お嬢さんの初めて…美味しくいただくとしますかね!」
「んんっ…んむううう!?」

こんな下種共に…私は奪われてしまうのか……?

「へへっ♪ このぷっくりとしたすじマン…おれの形に広げてやるぜ♪」
「んんん!? むううううう!!」

男なんて…男なんて………

「そぉら! 一気に置くまで………」

男なんて………………………!!!!!



「………ぐわっ!?」
「お、おい!?」
「な、なんだ!?」
「おい! 大丈夫か!?」

………?
なん…だ?
何が起こった?
私を犯そうとしていた男が、急に後方へと吹き飛んだ。

「っ…っ……」
「泡吹いて気絶してるぜ…」
「だ、誰だ! 誰がやりやがった!?」
「おい、これ……」
「なんだよ、それ……石?」
「これがこいつの近くに……」
「おいおい、ただの石っころで人があんなに吹っ飛ぶか?」
「そ、それもそうだな! たまたま近くに落ちてただけだよな!」
「当たり前だ! こんなふざけた話しがあってたまる………げへっ!?」
「お、おい!?」

2人目の男がその場で突っ伏す。
その男の近くには石ころが転がっている。

「く、くそ…! 一体誰が………」
「石ころで人を吹き飛ばせるんだろうな?」
「なっ!?」
「だ、誰だてめえ!?」

私の目の前には、マヌケ面を提げた見知った顔の男がいた。

「お、お前……」
「すいません、遅くなりました」
「………」
「助けは頼まれていませんけど……今回はティエナさんから依頼されたんで、問題ないですね?」
「……ティエナが…?」
「ナオちゃん!!」

マヌケ面に少し遅れてティエナが到着する。

「ティエナ…」
「ごめんねナオちゃん……わたし…1度あなたを見捨てて……」
「ティエナ…お前の判断は正しかった」
「ナオちゃん……」

ティエナの目から涙が零れ落ちる。

「ひどい…ナオちゃんにこんなことするなんて……」

ティエナは私の体にこびり付いた男達の精液を拭き取っていく。

「あとはライラ君に任せるしか……あれ? ナオちゃん、そのネックレス……」
「………」

あいつは残り2人の男達と対峙している。
片方はナイフ、片方はブレードを手にしている。

「おれらは今忙しいんだよ!? ガキは帰って寝てな!!」
「それともおれ達とやり合おうってか!?」
「………」
「2対1だぜ? てめえに勝ち目はねえよ!!」
「へへっ! てめえをボコボコにした後、そこの女も一緒に犯してやるぜ!!」
「………」
「とっととくたばれやあああ!!!」

1人の男があいつに襲いかかる。

「………むん!!」
「え……げはっ!?」

上段の回し蹴り。
問題なく対処される。

「ぐっ…て、てめえ……」
「うおおりゃあああ!!!!!」

続いて2人目の攻撃。

「………せい!!」
「な……ぐを!?」

相手の斬撃を回避し、カウンターで鳩尾を襲撃。

「ライラ君…すごい……!」
「………」

そこそこ腕がたつのは知っていたが…まさかここまでの実力者とは……。

「く、くそってれええ!」
「おい…ここは逃げた方が……」

男達は既に逃げの態勢に入ろうとしている。
どうやら勝負は決まったようだ。
無理もない、あんな化け物相手では分が悪いだろう。

「早く俺の前から消えろ!」
「ぐ、ぐううう……!」
「は、早く逃げようぜ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

…………………パーンッ!

「っ……!?」
「お、おい!? さすがに銃は……」
「お、おれは悪くねえ! 悪いのはあのガキだ!!」
「…っ……」

一瞬、あいつがフラリとよろめく。

「と、とにかく逃げるぞ! 殺しはさすがにまずい!!」
「あ、ああ!」

男達は倒れた仲間を担いで去っていく。

「………」
「ティエナ、先程の音は一体…」
「わ、わからない……でも、みんなが無事で良かったわ!」
「あぁ、そうだな。 不本意だが…奴にも感謝しなければ……」

…………………ドサッ

あいつが…仰向けに倒れ込んだ。

「………!?」
「ラ、ライラ君!!」

私とティエナはすぐさま奴の傍に駆け寄る。

「こ、これは……」
「ライラ君…しっかりして!」

ライラの左胸から鮮血が流れ出ている。
何かに貫かれたかのような小さな傷跡も見える。

「は、早く血を止めないと……!」
「ぅっ…ぁ……」
「………」

私の…私のせい……なのか?
………。
こいつは…死ぬのか?
村中を毎日のように走り回っていた…こいつが……?
私の…せいで……?

「…許さん……」
「ナ、ナオ…ちゃん?」
「おい貴様! 私に…私に礼を言わせる前に死ぬつもりか!?」
「ぅっ……」
「断じて許さんぞ!? 勝手に私を守り…勝手に貴様は死んでいくのか!?」
「ナオちゃん……」
「贈り物の礼もまだしていない…! それなのに…貴様は死ぬのか……!?」

おかしい…。
私はなぜ…こんな男のために……泣いているんだ?

「いつもの威勢はどうしたんだ!? おい……!」

隣でティエナは必死でライラの止血を試みている。

「貴様が…私を守る理由などないはずだ! 私は…ライラ、貴様に何度も何度も酷いことを……」
「ナオ…さん……」
「!!」

ライラの手が私の頬に触れる。

「名前…初めて…呼んで…くれましたね……」
「っ……」
「ネックレス……付けて…くれたん…ですね……」
「っ……!」
「そのルビー…お袋の……形見…なんです……」
「……え?」
「大切な…人に……渡せって……」
「大切な…人?」

こいつは…何を言っているんだ……?

「ナオさん…俺……あなたの…ことが……」
「も、もういい! 喋るな!!」
「俺……俺……………」

ライラの腕が地に落ちる。
何かを伝えようとした直前に。

「………」
「……? お、おい? どうした…?」
「ラ、ライラ…君……」

ティエナが泣いている。

「………」

ライラは動かない。

「…ライラ? おいライラ!?」
「………」

返事をしない。

「っっっっっっっ!!??」



いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………………………………













「ふぅ……」

早朝、私は日課である水汲みをする。

「………」

だがいつにも増して体が重く感じる。
今日が3年前の…あの忌々しい事件の起こった日だからか?
それとも………
「ナ、ナオさーん!!」
向こうから走ってくる男は…私の夫。

「水汲みは…俺が代わりにやるって…言ったじゃないですか!?」
「ほう? お前は私の日課を奪うつもりか?」
「う、奪うつもりはありませんけど…もう8ヶ月目なんですから……」
「腹に子が宿っているとはいえ、ずっと家に籠もっているのは退屈なんだ」
「家で大人しくしてるのが、今のナオさんの仕事です! さあ!」
「ちょ…な、何をする!? お、降ろせ!!」

お姫様抱っこ…というのか?
最近良く夫が私にしてくる。

「次に許可なく出歩いたら、さすがの俺も怒りますよ?」
「ふふっ…仕方ない……」

まぁしかし、夫が私に怒ったことなど1度もないがな。

「ところで…産まれてくる子の名は考えたのか?」
「あ、はい。 一応……」
「聞かせてみろ」
「え、えっと……『レオナ』…なんてどうですか? 8ヶ月掛けて考えたんですけど…」
「………」
「あ、ダメ…ですか?」
「いや……なかなか良い名だ。 気に入ったぞ」
「はぁ、良かった……」

力強く凛々しい感じが良く出ている。
8ヶ月考えただけのことはある。

「もしかしたら、子供の心臓も右にあるかもしれませんね!」
「ふふっ…さぁ、どうだろうな?」

3年前、夫は確かに左胸を打ち抜かれていた。
しかし…奇跡的に助かった。
この村の村長が、引退した名医という偶然もあってのことだが。

「だが正直言えば…右胸に心臓など、お前だけ十分だ」
「それ、褒めてます?」
「さぁな…」

そう、私の夫は心臓を右の胸に持っている。
この稀少な体質が、あの時生死を分けた。
よくよく運の強い男だ…。

「朝食は俺が作りますね」
「お前は…私から家事まで取り上げるのか?」
「妊婦を持つ夫は皆こうしてます!」
「はぁ…やれやれ……」

だが私は、そんな規格外な男と1つになった。
いや…1つにならなければいけない気がした。

「子供…楽しみですね」
「あぁ、そうだな」

責任を感じたから…というわけではない。

「おい…」
「あ、はい?」
「………」
「?」
「いや、なんでもない…気にするな」
「は、はぁ…」



                         ライラ……… 
                     愛しているぞ……………///
10/02/22 11:59更新 / HERO

■作者メッセージ
こんにちわ、HEROです。
一応純愛を表現をしたつもりなんですど…やや話しが長々としてしまいました。
こういった話しはまだ不得意なので、これからも精進していきたいです!

感想を是非いただけたらと思います!!

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