『新米と俺』
「へぇ…けっこう大きな町だなぁ」
「そうだよ。 ちなみに地名は『港町ウラノス』っていうの!」
「ウラノスか…確かここからヘルゼンに行けるはずなんだけど……」
「ヘルゼン? どこそれ?」
「俺の兄貴が住んでた村だよ。 兄貴は魔王を討つための旅をしてた」
「ふ〜ん……あれ? ゼロはどうしてお兄さんと暮らしてないの?」
「あ〜それなんだけど……」
あんまり話したくないんだけど……まぁいいか。
「俺達の家は貧乏だったらしくてさ、息子二人を養う金が無かったらしい」
「お父さん、頑張っちゃったんだね…」
「黙って聞いてろ…。 んで両親は、俺を祖父母の家にあずけたんだ」
「島流し?」
「ある意味そうだな。 言い方は良くないけど」
おかげで俺は親の愛情を知らない。
でも爺ちゃんと婆ちゃんは優しかった。
この二人のおかげで、俺は両親を恨むことをしなかった。
「でもいいの? お爺さんとお婆さん置いてきて…」
「あぁ、二人は数年前に死んだよ。 同時期に両親も…旅から帰ってきた兄貴もな」
「あ…ごめん……」
「いいって、気にすんな」
ちなみに兄貴達の死はガゼルさんからの手紙により判明した。
(旅に出る前に書いた置き手紙は、村の人達から失踪だと思われないようにするため)
「兄貴は子供を残しててな。 残された子供は、兄貴の旅仲間だったガゼルさんが育ててくれることになった」
「そうなんだ…」
「本当は俺が面倒見なくちゃいけないんだけどさ……ガゼルさんには頭が上がらないよ」
「………」
「んで両親と兄貴、義姉さんの墓参りがてら、甥の…ルークの世話してもらってるガゼルさんの様子も見ておきたくてさ。 ちゃんとお礼も言っておかないと…」
遠方に住んでいたせいで、家族の葬式にも出られなかった。
いくら疎遠だったとしても、せめて墓参りぐらいはしておかないとな。
「じゃぁ目的地は…そのヘルゼンって村でいいのかなぁ…?」
「あぁ。 まぁ海を越える前に、色々とここで旅用の道具も揃えるつもりだ」
「……そっか」
あれ…リムの奴、何か元気ないな?
あ、暗い話しちゃったからか?
「悪いな…しんみりさせちゃって」
「ううん…そうじゃなくて……」
え、そうじゃなくて?
「ゼロのお兄さんかぁ〜…じゅる…美味しそう……♪」
「そっちかよ!?」
心配した俺が馬鹿だった…。
「ゼロのお兄さん……まろやかなんだろうなぁ〜〜♪」
「まろやか…?」
「それで底無しの精力を持ってたんだろうなぁ〜〜♪」
「底無し…?」
「懐もさぞかし気持ち良かったんだろうなぁ〜〜♪」
「俺の兄貴がそこまで万能かどうか知らんけど…会えなくて残念だな」
「うん……だけどいいもん! アタシにはゼロがいるもん♪」
「そりゃどうも…」
全然ありがたくないけどな。
どっちみち俺はコイツの食事係なわけだし。
「ところでリム、さっきまでスルーしてたけど…お前二足歩行できるんだな」
「うん! すごいでしょ♪」
「まぁな。 これで服着れば完璧だよ」
「ふえ? どうして服なんて着なくちゃいけないの?」
「え? お前わかって立ってたんじゃないのかよ?」
「???」
俺はてっきり、町に入るから人の格好して変装しようとしてるのかと思った。
はぁ…まぁ好色者がそこまで考えてるはずないか。
「アタシはただ、立って歩いた方がゼロとお喋りしやすいと思ったから」
「あぁ、なるほどね」
コイツは俺の事しか頭にないな?
嬉しいような悲しいような……。
「予備の服があるからそれ着てくれ。 男物だけど、お前なら着れるよな?」
「ええ〜どうしても着ないとダメ〜〜?」
「ダ〜メ〜だ! そのまま町に入ったら大騒ぎになるぞ?」
「大騒ぎって…?」
「大騒ぎと聞いて、お前なら何を想像する?」
「う〜ん……」
そんなに深く考えることか?
「わかった! アタシのナイスな体に欲情した男達が一斉にオナニーを始めて……」
「うん、違うね」
「ガーン!?」
もう変態以外の何者でもないな、コイツ。
「大騒ぎって言ったら、『凶悪な魔物め! 町から出て行けーーー!!』的な運動が始まることを指す」
「ええ…ど、どうして!? ハーピーとかホルスタウロスなんて、普通に町中歩いてるじゃん!?」
「スライムの…いや、ダークスライムの印象はそこまで悪いってことだな」
「そんなの魔物差別だよ〜!? 贔屓だよ贔屓!!」
魔物差別ってなんだ……?
「日頃の行いが悪いんだな、きっと」
「うぅ…ぐす……」
やれやれ…。
「だからそういった迫害を受けないように、変装してくれって言ってんの」
「服を着さえすれば…アタシも町に入れる…?」
「あぁ、もちろん!」
「好き放題できる…?」
「内容にもよるけどな」
「じゃぁ着る〜♪」
切り替えが早い……。
宿屋にリムを待たせて、俺は旅に必要な道具を買いに商業区へと足を運んだ。
「にしても広いなぁ…」
聞く話によると、港町ウラノスは世界でも有数の貿易拠点だという。
船を使い様々な貿易品を輸出・輸入しているらしい。
そのおかげで品揃えの良さは世界一だと言われている。
普段はお目にかかれない珍品も売られているとのこと。
「珍品か……まっ、俺には興味ないさ」
必要な物だけ揃えられればOK。
となると大事なのは……店選び。
露店の方が安いと聞いたことがある。
「露店とは言っても…百は超えてるぞ?」
さすがは貿易の町。
出店の数も尋常ではない。
……困った。
田舎者の俺には店の善し悪しがまるでわからない。
う〜ん…どうしたもんか。
「……よし!」
こうなったら虱潰しに探していくしかない。
そうと決まれば、まずは目の前の露店に直行だ!
「すいません、品を見させてもらいます」
「うむ。 好きなだけ見て行くがよいぞ」
どうやらハズレだったらしい。
それも質の悪いハズレ…。
「真っ先に儂の店に来るとは…くくっ……素質があるぞ、お主」
「えっ…それはどういう……っ!?」
店主はバフォメットだった。
「あ、い…いやっ…これは…その……」
「む? 何を慌てておる?」
そりゃ慌てるよ!?
魔界の覇者が目の前で露店開いてんだから!!
「そう怖がらずとも良い。 何もとって食おうというわけではないのじゃぞ?」
「あ…そ、そうですか…」
リム連れてくれば良かった…。
「で、儂の店に何用じゃ? 種切れかのう?」
「え、あ…いや……」
「む? もしやお主、儂の店に来るのは初めてかのう?」
「は、はい」
「おお、そうかそうか! ならば店を紹介してやらんといかんのう!」
「は、はぁ…」
対応を間違えると死ぬな…。
「この店にはのう、儂が直々に作り上げた媚薬や魔具を並べておる」
「…なぜですか?」
「娘(魔物)達のためじゃ。 精力増強剤や興奮剤、快感増幅剤に男根硬化剤など幅広く取り扱っておる!」
「それじゃぁこの魔具は…?」
「基本的には男を捕らえるための道具じゃ」
「なるほど…」
どれも危険な匂いがする。
「ところでお主は、一体何を所望するのじゃ?」
「えっと…」
どれも必要無い…なんて言ったらどうなるか…。
ここは無難に……
「なにかオススメは?」
これが最善だと思う。
「うむ、そうじゃのう……」
品物をあさり始める。
「これなんてどうじゃ? 儂が最近開発した、その名も『性魂爆発エキス』じゃ!」
ネーミングセンスが……。
「それは一体…?」
「なに、効果は至ってシンプルじゃ。 これを体に塗るだけで、塗った対象の性欲を爆発的に上昇させることができるのじゃ!」
性欲を上昇させる意味は…?
「男を対象にした品じゃが、もちろん魔物にも効果を発揮するぞい」
「人間の女性には?」
「ただのヌルヌルした液体じゃ」
「なにかと都合のいいアイテムですね」
「そんなもんじゃろ。 で……買うかのう?」
「………」
死にたくないから買うことにした。
「毎度あり〜なのじゃ!」
ニコニコと上機嫌なバフォメットさん。
「ちなみにそのアイテムはダークスライムを原料としておる。 じゃから、スライム系に使っても無意味じゃぞ」
リムが聞いたら泣いてたな。
「わ、わかりました。 それとあの、お聞きしたいことが…」
「む? なんじゃ? 遠慮せず申してみい?」
「あ、はい。 えっと…魔界の覇者であるあなたが、こんな町中で露店出してるなんて…騒ぎにならないんですか?」
「うむ、もっともな質問じゃな」
どうしても気になったので聞いてみた。
上級種族のバフォメットが町中で平然と商売をしていて、なおかつ騒ぎにならない。
気にならないわけがない。
「儂とこの店の周囲は空間が歪んでおるのでな。 魔物以外の者には見ることも触れることもできんのじゃ」
「えっ? じゃぁ俺は…」
「素質があると言ったであろう? 稀におるのじゃ、お主のような男が」
「…そうなんですか?」
そもそも素質ってなんだろう……。
「それに…お主は儂の好みじゃからのう……今すぐにでも魔界に連れ帰り『ブチ犯して』やりたいところじゃが…」
………『ブチ犯す』?
「お主にはどうやら、先約がおるようじゃのう…」
「え…先約?」
「体中に魔力がへばり付いておるぞ? どこぞの娘(魔物)と勤しんだのかは知らぬが……相当愛し合ったようじゃのう? まったく…羨ましい限りじゃ!!」
先約って……ああ! リムのことか!
良かった…あいつのおかげで『ブチ犯される』ことはなくなった。
「他人の男を奪うほど、儂も鬼ではないからのう。 ここはグッと我慢するのじゃ!」
「す、すいません…」
なんか俺の方が悪いみたいになってるぞ…。
「良いのじゃ良いのじゃ…お主とは星の巡り合わせが悪かっただけの話じゃ…気にすることはない……」
「は、はぁ」
星の巡り合わせ……ねぇ。
「ほれ! 儂の気が変わらん内に、早う立ち去るのじゃ!」
「わかりました…。 これ、ありがとうございます」
「うむ。 大切に使うのじゃぞ?」
本当に気が変わりそうだったので足早にその場を後にする。
ゼロンが立ち去った少し後。
「むむ…ちと惜しい事をしたかのう? せめて子種だけでも頂戴しておけば子を残せたんじゃが……」
激しく後悔する店主。
「むむむむ……はぁ。 後悔先に立たず…じゃな」
やれやれと溜め息をつく店主。
「早う良い男を見つけて、子を作らんとのう……」
将来の心配をするバフォメットさんでした。
「ただいまって……あれ? リムの奴どこ行った?」
旅用の道具はテキトーな店に入ってテキトーに見つけた。
あの店主と関わって極端に疲れた…。
それにより半ば道具のことはどうでも良くなっていた。
「出かけたのかな?」
騒ぎを起こさなければいいんだけど…。
そんな心配をしつつ、ベットにボフッと身を投げ出す。
すると……
「ぁあ〜ん♪」
ベットの中からリムの声。
「もっと優しくしてよ〜ん♪ いきなり押し倒すなんて〜…ゼロのエッチ♪」
「押し倒したんじゃなくて、押し『潰した』って方が正しいと思うぞ…」
ていうかどこに潜んでんだよコイツ…。
「ゼロが帰ってきたってことはぁ、買い物はもう終わったの〜?」
「あぁ、まぁとりあえずは…」
テキトーに見繕ったとは言えない。
俺の沽券に関わる。
「はぁ…にしても慣れない旅で、さすがに疲れた…」
「じゃぁ今日はここで一泊!?」
「そのつもりだけど…何でそんなに嬉しそうなんだよ?」
「むふふふ〜〜♪ べっつに〜?」
「………」
なんか企んでるな?
大方予想はつくけど…。
「ちょっと早いけど、俺はもう寝るよ」
「うん! アタシの事は気にせず、ゆっっっくり休んでね♪」
「あ、あぁ…」
「『警戒』なんてしたら疲れるだけだよ? ゼロは体を休めることだけに専念してね!」
「………」
休息するのに何故『警戒』という二文字が出てくるのかは敢えて指摘しない。
「わかった。 俺は『無警戒』で休むことにする」
「うんうん♪ いい夢見てね〜ん♪」
とりあえずは従うフリ。
無警戒なんてとんでもない!
今この時をもって、俺は体の全神経を警戒という名の任に就かせる。
わかってんだよ……あいつが寝込みを襲ってくることぐらい。
さぁ…我慢比べだ! いつでもかかって……
「いっただっきま〜〜〜す♪♪♪」
「早っ!?」
俺が警戒を敷いたほんの三秒後に奇襲。
リムは液状の体をいっぱいに広げて俺を包み込もうとする。
まぁでも…その攻め方は想定内。
俺は転げ落ちるようにベットから離脱する。
バチャッ!!
離脱した直後にリムがベットに落下した音が聞こえた。
「う、うそ!? 逃げられた!?」
「良い線いってたけど…詰めが甘かったな、リム」
俺の勝ちだ。
まぁ勝敗なんて無いんだけど…。
「うぅ〜〜ゼロの裏をかいたつもりだったのに〜!」
「安心しろって…完全に裏をかかれたから」
まさか、あれほどまで早く襲ってくるとは思わなかった。
少なくとも俺が寝静まる三十分…いや、一時間後ぐらいだと思ってた。
「も〜ゼロったら…警戒しないって言ったじゃ〜ん!」
「あそこまで警戒すんなって言われたんだ…警戒したくなるのが人ってもんだろ?」
「むぅ〜〜……」
まったく…油断の隙もない。
まぁでも……
「息子が世話になるわけにはいかないけど…腹が減ってんだったら、上の口だけで我慢してくれ」
「…ふえ? フェラはOKってこと?」
「ああ違う違う! スライムってのは、人の唾液も好むんだろ?」
「え…じゃぁ…」
「まぁなんだ…俺なんかので良ければ好きなだけ……むぐっ!?」
「んちゅううう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
キスを許した瞬間にこうだ。
「〜〜〜〜〜ぷはぁ!」
散々吸った後に…
「やっぱり……ゼロだ〜い好き♪♪」
憎めないな、コイツは………。
「想像してたより、船っていうのは揺れないもんだな。 水の上に浮かんでるのに」
「あれ? ゼロって船に乗ったことあるんじゃないの?」
「それは小さい頃の話。 記憶に残ってないよ」
翌日。
朝一番の船で海を渡る。
もちろん今は船内。
「ヘルゼンに行くにはぁ……そうだ、港で船を降りたら、確か道なりに真っ直ぐだったなぁ」
「港にはどれくらいで着くの?」
「三時間ぐらいって船長が言ってた」
「けっこう掛かるね〜…」
「あっという間さ。 なんだったら、暇つぶしに船内でも見てきたらどうだ?」
「うん! そうする〜!」
「間違っても変装は解くなよ?」
「大丈夫だよん♪」
不安を感じさせる受け答えだな…。
「じゃぁ行ってくるね〜ん!」
「気ぃつけろよ〜」
とりあえず解散。
「さぁてと、俺はどうしようかな?」
操舵室にでも行ってみようか。
舵をとる船長の勇姿を是非見てみたい。
「よし、行くか!」
操舵室にて。
「『セイレーン』…ですか?」
「おうよ! この海路には決まって奴が現れる…迷惑な話だぜ!!」
「乗客が少ないのはそのせいなんですか?」
「ああ…こっちは商売あがったりだ! たくよぉ……」
『セイレーン』
ハーピー種。
歌声で男を魅了するとされている。
その他詳細は不明………
海は穏やかだけど、船長の方はかなり荒れてる。
セイレーンか…確かに迷惑そうだなぁ。
「彼女の目的は?」
「大方『男探し』だろうよ! 魔物なんざ、みんな好色者だ!!」
魔物はみんな好色者……か。
訂正させたいけど、リムを見てると否定できない。
「でも、実害は無いんですよね?」
「害の有無が問題じゃねえ。 重要なのは『魔物が現れる』ってところだ! 客はそれを聞いて足を止めちまう…」
言えてる。
「客は俺等船乗りにとって神様みてえなもんだ! 絶対の安全を保証しなきゃならん!」
「………」
「魔物の現れる可能性がある事を内密にしたら、後々取り返しのつかない事になるかもしれん!」
ふむ。
「だから俺等は、出港前には必ず『魔物と遭遇の危険有り』と提示しておくんだ!!」
「稼ぎより客の命……ご立派ですね」
「ふん! んなもん、船乗りにとっちゃ当然の心構えだぜ!!」
船長を名乗るに相応しい技量と器の持ち主だ、この人は。
この仁義ある船長のためにも、どうにかしてやりたいと思う俺がいる。
「船長…」
「あん?」
「セイレーンを…捕獲すればいいんですね?」
「な…お前さん…まさか…!?」
大仕事を引き受けた。
「この辺りが出没海域だ」
「わかりました」
「他の乗客は船内に避難させといた」
「はい」
「くれぐれも無茶はするな……連れのお嬢さんがいるんだろ?」
「あ、あぁ…まぁ…」
一応リムにも避難してもらった。
まぁあいつを連れと言うのかどうかは謎だけど…。
「兄さん……健闘を祈るぜ!」
「……はい!」
甲板には俺一人が残される。
自信過剰じゃないけど、連れ去られる可能性は大いに有り得る。
「………」
捕獲とまではいかなくても、どうにか説得を試みたいところ。
ハーピー種のセイレーンになら、きっと話が通じるはず。
「……ん?」
遠くの方から不思議な歌声が聞こえる。
こんなにも離れているのに、既に頭がくらくらする。
〜〜♪ ♪♪ ♪〜♪〜〜〜〜♪
歌声が近づく。
そして……
「♪♪ ん……んん? 珍しいっすねぇ? ウチを見て逃げ出さないなんて」
上空からゆっくりと降下してくる。
「……きみがこの海域に出るっていうセイレーンかな?」
強気に出てみた。
「ん、そうっすよ」
「単刀直入に聞くけど…どうしてこの船にこだわるのかな?」
「ん〜〜〜…いつもいろんな男を乗せて同じ海路を通る船……ウチの目的達成にはもってこいだと思ったからっす!」
「目的…?」
やっぱり船長の言う通りか?
「男探し…ってやつかな?」
「半分当たりで半分はずれっすねぇ」
「え?」
じゃぁ一体…
「ウチは………優秀な『マネージャー』を探してるっすよ!」
「え……ま、ねー…じゃー?」
聞き慣れない言葉だ。
「要するに助手みたいなものっすよ」
「助手? なんのために?」
「ウチは世界一有名な(歌手兼)アイドルになることが夢なんすよ!」
「あ、あいどる…?」
「そうっす! そしてその夢を実現させるためには、どうしても優秀なマネージャーが必要になるっす!」
有名になるための助手探し?
う〜ん…まぁ言わんとすることはわかる。
「でもその様子だと、まだ見つかっていない?」
「そうなんすよ〜…今まで沢山の男を見てきたっすけど、いまいちピンとこないっす……」
「人間の男じゃないとダメなのかな?」
「マネージャーといったら当然! 男で決まりっすよ!」
男にこだわるのは、さすが魔物といったところ。
「それにしても…ふ〜ん…ふむふむ……」
「?」
俺をまじまじと凝視してくるセイレーン。
「お兄さんって…なんだか不思議な感じがするっす」
「え…不思議な感じ?」
「上手く言えないっすけど、こう…エロい匂いがすると言うか……」
「え、エロい匂い!?」
遂にリムの毒気(好色)が俺に移ったと!?
「俺…そんな好色に見える…?」
「いやいや、そうじゃないっす。 これはものの例えっすよ」
「そ、そっか…良かった……」
本当に良かった…。
「それでエロい匂いって…要するに?」
「魅力的ってことっす! お兄さん、きっと全種族の魔物にモテモテっすよ!」
「あ…そ、そうなんだ……」
あんまり嬉しくないなぁ…。
「もちろん、ウチも例外じゃないっすけど…」
「えっ?」
「な、なんでもないっす!」
良く聞こえなかったけど…まぁいいか。
それよりも、彼女をどうやってこの船から引き離そうか…。
いや、ただ遠ざけるだけじゃダメだ。
また同じ事の繰り返しになるかもしれない。
だからといって、本当に捕獲するのも気が引けるし…どうしたもんかなぁ……。
この後の処遇に一人思考を巡らせていると…
「え〜っとぉ…ものは相談なんすけどぉ……」
「え? なにかな?」
「ウチの〜…その……マネージャーにならないっすか!?」
「へっ?」
突然スカウトされた。
「俺がその…助手とやらを?」
「そうっす! ウチ、お兄さんにピンと来たっす!」
リムにしろこの子にしろ…俺なんかのどこがいいんだろうか?
「お兄さん以上の男は、もうこの世のどこにも存在しないっす!」
「そ、それは大袈裟な気が…」
「お願いっす! どうかウチのマネージャーに!!」
「う〜ん……」
一つ返事でYESとは言えないなぁ…。
いやでも…俺がこの子を引き取れば、船長達は魔物の驚異から解放される。
それを考えれば……
「そのマネージャーっていうのは、具体的にはなにをすればいいのかな?」
「その気になってくれたんすか!?」
「仕事内容次第…てところかな」
ハードスケジュールになりそうなら御免被る。
「マネージャーと言っても、別に大した仕事はないっす。 ウチはまだデビュー前っすから、とりあえず世界中を旅して名を売ろうと思ってるっす。 マネージャーは、そんなウチの付き人みたいなものっすよ!」
「付いていくだけ?」
「もしもの時は…ウチを守ってほしいっす」
「なるほど、護衛ってことね」
「平たく言えば、そういうことになるっす」
それぐらいなら…。
「旅路はもう決まってるのかな?」
「マネージャーに任せるつもりっす!」
よし、この子は俺が引き取ろう!
旅に何の影響もないなら、連れて行くのが吉だ。
まぁ旅の目的なんて俺にはないわけだけど…。
「その仕事……引き受けるよ」
「ええ!? ほ、ほんとっすか!?」
「あぁ。 俺なんかで良ければ」
「そ、そんな! お兄さんがマネージャーやってくれるなんて……ウチには勿体ないぐらいっすよ!!」
要は一緒に旅をするってことなんだから、なんの問題もない。
リムとだってなんとかやってきたんだ。
この子とも、きっと上手くやっていけるだろう。
「至らないところもあるだろうけど、どうかよろしくお願いするよ。 えっと…」
「セラって呼んでほしいっす! こちらこそ不束な娘っすけど…どうぞ可愛がってやってほしいっす!!」
「あ、あぁ。 よろしく、セラ」
「はいっす♪」
任務完了!
表向きは捕獲ということにしておこう。
さて、早速船長に報告を……
ドサッ
………あ、あれ?
なんで俺…セラに押し倒されてるんだ?
「セ、セラ…これは……?」
「口約束だけじゃ心許ないっす。 ちゃんと契りを交わすっすよぉ♪」
「ち、契り…?」
契約ってこと?
「き、聞いてないんだけど…」
「魔物の間では暗黙の了解っす!」
リムに魔物のなんたるを聞いておくべきだった。
「でも…ここで?」
「いいじゃないっすかぁ♪」
まさか船上でヤろうとするとは…。
「海の上で一つになる…実は憧れてたんすよぉ♪」
「いやぁ…でも……」
「そんな事言ってぇ♪ マネージャーだってその気じゃないっすか〜♪」
「あ…い、いや……」
セラの際どく露出の高い姿に興奮し始める俺の息子。
「それにこんなモノも用意してくれてたんすね〜♪」
「あっ! そ、それは…」
ウラノスで購入させられた例のアイテム、『性魂爆発エキス』。
ポケットに入れっぱなしだったそれを、セラは目敏く発見する。
「これを塗ってモチベーションを上げようってことっすね♪」
まずいな…ただでさえ性欲の高まってきてる魔物に、こんなドーピングみたいなものを使ったら……。
俺…跡形もなく消えそうな気がする。
「よい…しょっと…!」
セラは自分の服を脱ぎ始める。
(元々露出度の高い服を着ていたためあまり違和感がない)
それと同時に俺の下半身にも手を伸ばす。
「うわ! ちょ、ちょっと!?」
「服なんて交尾の邪魔っすよ!」
元気一杯、精力最大の息子が姿を現す。
「うわ〜……お、おっきいっすねぇ……///」
ガン見されるとさすがに恥ずかしい。
「あとは…コレを体にぶっかけるっす!」
そう言うとセラはエキスの入ったビンの蓋を開け、それを頭から一気にかぶり始める。
どぼ…とぽ…とぽ……
みるみる内に彼女の体が粘ついた液体で覆われていく。
そして、体からいやらしい光沢を放ち始める。
うぅ…エ、エロい……///
「あぁ…はぁ……な、なんだか…はぁ…体が…熱く、なってきたっす…///」
効果抜群のご様子。
さっきより魅惑的になっているのは決して気のせいではない。
「もう…我慢できないっす……!」
前戯無し。
ピンク色の割れ目から、俺の一部が一瞬にして飲み込まれた。
「あっ…ん…んん…! ふ…ん…はっ…はぁ……」
数にして既に四回、俺は彼女の中で果てている。
「ん…はぁ…はぁ…も、もっと…ん…もっと…ほしいっすぅ…♪」
エキスの影響か、セラの性に対する執着は一向に収まらない。
同じく俺の性欲も高まり、肉棒の堅さがなお衰えない。
……あれ? 俺はどうしてこんなに興奮してるんだ?
「う…くっ……ぅう!?」
「♪♪♪ また…出てるっす……///」
彼女に塗られたエキスの影響も少なからずある。
でも…たぶんそれだけじゃない。
「お腹…マネージャーの種で…もうタプタプっすよぉ……///」
俺が異常なまでに興奮する第一の原因。
それは……
「胸は…小さいっすけど……んん…はぁ…ちゃんと…気持ち良くしてあげるっす…♪」
セイレーンであるセラの『声』にあった。
「ん…はっ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……♪♪」
セイレーンの歌声には男を誘い、そして魅了させる力がある。
しかしだからと言って、歌を聴かなければ大丈夫…というわけでもはない。
この不思議な力の元々は、やはり彼女達の『声』。
性欲の高まっている時、彼女達の発する声の全てが歌の代わりとなる。
言葉、喘ぎ、呻き……これらは全て例外ではない。
………。
あぁ、ちなみにこれは俺の推論。
切れかかっている理性をどうにか保とうと、冷静に考えて気を紛らわせていた。
「はぁ…はぁ…う…くぅ…!」
「はっ…はっ…んん……はぁ…我慢なんて…体に毒っすよぉ…♪」
「うっ…そ、そんなに…締められると……うぐっ!?」
びゅっ…びゅく…びゅぐ! びゅぐん! びゅるる〜〜……
「うぅ……」
「はぁぁぁぁぁ♪ 熱いのが…びゅるびゅるって…流れてくるっすぅ〜…♪」
プツッ……
理性より先に意識が途切れた……………。
「先に気絶するなんて…もっと頑張ってほしかったっすよぉ!」
「けっこう努力したつもりだったんだけど……」
気絶した俺はすぐセラに起こされた。
エキスの効果時間が短くて助かった…。
「でも…また相手してほしいっす……///」
「誰も見てなかったからいいけど…もう公前はゴメンだよ……」
交尾が無事に済んだ後、俺達二人は操舵室に足を向けた。
セラには『俺に捕獲された魔物』という役を演じてもらった。
二度と邪魔をしないということで、船長も寛大な心でセラを許してくれた。
今はリムの待つ部屋に向かっている。
「言ってなかったけど、俺には連れが一匹…いや一人いるんだ」
「そうなんすか?」
「あぁ。 キミと同じ魔物だけどね」
「どんな人なんすか?」
「一言で言えば…変態かな。 まぁ根は良い奴だから、すぐに仲良くなれるよ」
「会うのが楽しみっす!」
「期待しない方がいいよ…」
その後顔合わせも無事に済み、同時に船も目的地に到着。
港を出て、俺の本当の故郷ヘルゼンへと向かう。
「へぇ〜…セラってアイドル目指してるんだ〜」
「世界一になるつもりっす! リムはどうしてマネージャーと?」
「なんとなくかなぁ〜?」
「なんとなくっすか? 自由でいいっすねぇ」
「魔物は自由が一番だよぉ♪」
「だったら俺と一緒にいることないだろ?」
「それは違うもん! ゼロがいてこその自由だもん!」
「良くわからん…」
「リムとマネージャーって仲いいっすよねぇ……羨ましいっす!」
「これは仲がいいって言うのかなぁ……」
ヌルヌルと這う魔物。
バサバサと進む魔物。
テクテクと歩く人間の俺。
奇妙な仲間を二人連れ、俺は広い草原をのんびりと進む。
旅は始まったばかり。
いつ終わるとも知れない。
でも……寂しい想いをすることは、きっと無いと思う。
人間ではないけど、俺のことを想ってくれる子が近くにいてくれる。
それだけで俺は、前へ進むための勇気をもらえる。
リムとセラ。
二人のことを…大切にしてあげないと……
心の奥で…小さな決意を固める……俺がいた……………
俺の旅は終わらない
「そうだよ。 ちなみに地名は『港町ウラノス』っていうの!」
「ウラノスか…確かここからヘルゼンに行けるはずなんだけど……」
「ヘルゼン? どこそれ?」
「俺の兄貴が住んでた村だよ。 兄貴は魔王を討つための旅をしてた」
「ふ〜ん……あれ? ゼロはどうしてお兄さんと暮らしてないの?」
「あ〜それなんだけど……」
あんまり話したくないんだけど……まぁいいか。
「俺達の家は貧乏だったらしくてさ、息子二人を養う金が無かったらしい」
「お父さん、頑張っちゃったんだね…」
「黙って聞いてろ…。 んで両親は、俺を祖父母の家にあずけたんだ」
「島流し?」
「ある意味そうだな。 言い方は良くないけど」
おかげで俺は親の愛情を知らない。
でも爺ちゃんと婆ちゃんは優しかった。
この二人のおかげで、俺は両親を恨むことをしなかった。
「でもいいの? お爺さんとお婆さん置いてきて…」
「あぁ、二人は数年前に死んだよ。 同時期に両親も…旅から帰ってきた兄貴もな」
「あ…ごめん……」
「いいって、気にすんな」
ちなみに兄貴達の死はガゼルさんからの手紙により判明した。
(旅に出る前に書いた置き手紙は、村の人達から失踪だと思われないようにするため)
「兄貴は子供を残しててな。 残された子供は、兄貴の旅仲間だったガゼルさんが育ててくれることになった」
「そうなんだ…」
「本当は俺が面倒見なくちゃいけないんだけどさ……ガゼルさんには頭が上がらないよ」
「………」
「んで両親と兄貴、義姉さんの墓参りがてら、甥の…ルークの世話してもらってるガゼルさんの様子も見ておきたくてさ。 ちゃんとお礼も言っておかないと…」
遠方に住んでいたせいで、家族の葬式にも出られなかった。
いくら疎遠だったとしても、せめて墓参りぐらいはしておかないとな。
「じゃぁ目的地は…そのヘルゼンって村でいいのかなぁ…?」
「あぁ。 まぁ海を越える前に、色々とここで旅用の道具も揃えるつもりだ」
「……そっか」
あれ…リムの奴、何か元気ないな?
あ、暗い話しちゃったからか?
「悪いな…しんみりさせちゃって」
「ううん…そうじゃなくて……」
え、そうじゃなくて?
「ゼロのお兄さんかぁ〜…じゅる…美味しそう……♪」
「そっちかよ!?」
心配した俺が馬鹿だった…。
「ゼロのお兄さん……まろやかなんだろうなぁ〜〜♪」
「まろやか…?」
「それで底無しの精力を持ってたんだろうなぁ〜〜♪」
「底無し…?」
「懐もさぞかし気持ち良かったんだろうなぁ〜〜♪」
「俺の兄貴がそこまで万能かどうか知らんけど…会えなくて残念だな」
「うん……だけどいいもん! アタシにはゼロがいるもん♪」
「そりゃどうも…」
全然ありがたくないけどな。
どっちみち俺はコイツの食事係なわけだし。
「ところでリム、さっきまでスルーしてたけど…お前二足歩行できるんだな」
「うん! すごいでしょ♪」
「まぁな。 これで服着れば完璧だよ」
「ふえ? どうして服なんて着なくちゃいけないの?」
「え? お前わかって立ってたんじゃないのかよ?」
「???」
俺はてっきり、町に入るから人の格好して変装しようとしてるのかと思った。
はぁ…まぁ好色者がそこまで考えてるはずないか。
「アタシはただ、立って歩いた方がゼロとお喋りしやすいと思ったから」
「あぁ、なるほどね」
コイツは俺の事しか頭にないな?
嬉しいような悲しいような……。
「予備の服があるからそれ着てくれ。 男物だけど、お前なら着れるよな?」
「ええ〜どうしても着ないとダメ〜〜?」
「ダ〜メ〜だ! そのまま町に入ったら大騒ぎになるぞ?」
「大騒ぎって…?」
「大騒ぎと聞いて、お前なら何を想像する?」
「う〜ん……」
そんなに深く考えることか?
「わかった! アタシのナイスな体に欲情した男達が一斉にオナニーを始めて……」
「うん、違うね」
「ガーン!?」
もう変態以外の何者でもないな、コイツ。
「大騒ぎって言ったら、『凶悪な魔物め! 町から出て行けーーー!!』的な運動が始まることを指す」
「ええ…ど、どうして!? ハーピーとかホルスタウロスなんて、普通に町中歩いてるじゃん!?」
「スライムの…いや、ダークスライムの印象はそこまで悪いってことだな」
「そんなの魔物差別だよ〜!? 贔屓だよ贔屓!!」
魔物差別ってなんだ……?
「日頃の行いが悪いんだな、きっと」
「うぅ…ぐす……」
やれやれ…。
「だからそういった迫害を受けないように、変装してくれって言ってんの」
「服を着さえすれば…アタシも町に入れる…?」
「あぁ、もちろん!」
「好き放題できる…?」
「内容にもよるけどな」
「じゃぁ着る〜♪」
切り替えが早い……。
宿屋にリムを待たせて、俺は旅に必要な道具を買いに商業区へと足を運んだ。
「にしても広いなぁ…」
聞く話によると、港町ウラノスは世界でも有数の貿易拠点だという。
船を使い様々な貿易品を輸出・輸入しているらしい。
そのおかげで品揃えの良さは世界一だと言われている。
普段はお目にかかれない珍品も売られているとのこと。
「珍品か……まっ、俺には興味ないさ」
必要な物だけ揃えられればOK。
となると大事なのは……店選び。
露店の方が安いと聞いたことがある。
「露店とは言っても…百は超えてるぞ?」
さすがは貿易の町。
出店の数も尋常ではない。
……困った。
田舎者の俺には店の善し悪しがまるでわからない。
う〜ん…どうしたもんか。
「……よし!」
こうなったら虱潰しに探していくしかない。
そうと決まれば、まずは目の前の露店に直行だ!
「すいません、品を見させてもらいます」
「うむ。 好きなだけ見て行くがよいぞ」
どうやらハズレだったらしい。
それも質の悪いハズレ…。
「真っ先に儂の店に来るとは…くくっ……素質があるぞ、お主」
「えっ…それはどういう……っ!?」
店主はバフォメットだった。
「あ、い…いやっ…これは…その……」
「む? 何を慌てておる?」
そりゃ慌てるよ!?
魔界の覇者が目の前で露店開いてんだから!!
「そう怖がらずとも良い。 何もとって食おうというわけではないのじゃぞ?」
「あ…そ、そうですか…」
リム連れてくれば良かった…。
「で、儂の店に何用じゃ? 種切れかのう?」
「え、あ…いや……」
「む? もしやお主、儂の店に来るのは初めてかのう?」
「は、はい」
「おお、そうかそうか! ならば店を紹介してやらんといかんのう!」
「は、はぁ…」
対応を間違えると死ぬな…。
「この店にはのう、儂が直々に作り上げた媚薬や魔具を並べておる」
「…なぜですか?」
「娘(魔物)達のためじゃ。 精力増強剤や興奮剤、快感増幅剤に男根硬化剤など幅広く取り扱っておる!」
「それじゃぁこの魔具は…?」
「基本的には男を捕らえるための道具じゃ」
「なるほど…」
どれも危険な匂いがする。
「ところでお主は、一体何を所望するのじゃ?」
「えっと…」
どれも必要無い…なんて言ったらどうなるか…。
ここは無難に……
「なにかオススメは?」
これが最善だと思う。
「うむ、そうじゃのう……」
品物をあさり始める。
「これなんてどうじゃ? 儂が最近開発した、その名も『性魂爆発エキス』じゃ!」
ネーミングセンスが……。
「それは一体…?」
「なに、効果は至ってシンプルじゃ。 これを体に塗るだけで、塗った対象の性欲を爆発的に上昇させることができるのじゃ!」
性欲を上昇させる意味は…?
「男を対象にした品じゃが、もちろん魔物にも効果を発揮するぞい」
「人間の女性には?」
「ただのヌルヌルした液体じゃ」
「なにかと都合のいいアイテムですね」
「そんなもんじゃろ。 で……買うかのう?」
「………」
死にたくないから買うことにした。
「毎度あり〜なのじゃ!」
ニコニコと上機嫌なバフォメットさん。
「ちなみにそのアイテムはダークスライムを原料としておる。 じゃから、スライム系に使っても無意味じゃぞ」
リムが聞いたら泣いてたな。
「わ、わかりました。 それとあの、お聞きしたいことが…」
「む? なんじゃ? 遠慮せず申してみい?」
「あ、はい。 えっと…魔界の覇者であるあなたが、こんな町中で露店出してるなんて…騒ぎにならないんですか?」
「うむ、もっともな質問じゃな」
どうしても気になったので聞いてみた。
上級種族のバフォメットが町中で平然と商売をしていて、なおかつ騒ぎにならない。
気にならないわけがない。
「儂とこの店の周囲は空間が歪んでおるのでな。 魔物以外の者には見ることも触れることもできんのじゃ」
「えっ? じゃぁ俺は…」
「素質があると言ったであろう? 稀におるのじゃ、お主のような男が」
「…そうなんですか?」
そもそも素質ってなんだろう……。
「それに…お主は儂の好みじゃからのう……今すぐにでも魔界に連れ帰り『ブチ犯して』やりたいところじゃが…」
………『ブチ犯す』?
「お主にはどうやら、先約がおるようじゃのう…」
「え…先約?」
「体中に魔力がへばり付いておるぞ? どこぞの娘(魔物)と勤しんだのかは知らぬが……相当愛し合ったようじゃのう? まったく…羨ましい限りじゃ!!」
先約って……ああ! リムのことか!
良かった…あいつのおかげで『ブチ犯される』ことはなくなった。
「他人の男を奪うほど、儂も鬼ではないからのう。 ここはグッと我慢するのじゃ!」
「す、すいません…」
なんか俺の方が悪いみたいになってるぞ…。
「良いのじゃ良いのじゃ…お主とは星の巡り合わせが悪かっただけの話じゃ…気にすることはない……」
「は、はぁ」
星の巡り合わせ……ねぇ。
「ほれ! 儂の気が変わらん内に、早う立ち去るのじゃ!」
「わかりました…。 これ、ありがとうございます」
「うむ。 大切に使うのじゃぞ?」
本当に気が変わりそうだったので足早にその場を後にする。
ゼロンが立ち去った少し後。
「むむ…ちと惜しい事をしたかのう? せめて子種だけでも頂戴しておけば子を残せたんじゃが……」
激しく後悔する店主。
「むむむむ……はぁ。 後悔先に立たず…じゃな」
やれやれと溜め息をつく店主。
「早う良い男を見つけて、子を作らんとのう……」
将来の心配をするバフォメットさんでした。
「ただいまって……あれ? リムの奴どこ行った?」
旅用の道具はテキトーな店に入ってテキトーに見つけた。
あの店主と関わって極端に疲れた…。
それにより半ば道具のことはどうでも良くなっていた。
「出かけたのかな?」
騒ぎを起こさなければいいんだけど…。
そんな心配をしつつ、ベットにボフッと身を投げ出す。
すると……
「ぁあ〜ん♪」
ベットの中からリムの声。
「もっと優しくしてよ〜ん♪ いきなり押し倒すなんて〜…ゼロのエッチ♪」
「押し倒したんじゃなくて、押し『潰した』って方が正しいと思うぞ…」
ていうかどこに潜んでんだよコイツ…。
「ゼロが帰ってきたってことはぁ、買い物はもう終わったの〜?」
「あぁ、まぁとりあえずは…」
テキトーに見繕ったとは言えない。
俺の沽券に関わる。
「はぁ…にしても慣れない旅で、さすがに疲れた…」
「じゃぁ今日はここで一泊!?」
「そのつもりだけど…何でそんなに嬉しそうなんだよ?」
「むふふふ〜〜♪ べっつに〜?」
「………」
なんか企んでるな?
大方予想はつくけど…。
「ちょっと早いけど、俺はもう寝るよ」
「うん! アタシの事は気にせず、ゆっっっくり休んでね♪」
「あ、あぁ…」
「『警戒』なんてしたら疲れるだけだよ? ゼロは体を休めることだけに専念してね!」
「………」
休息するのに何故『警戒』という二文字が出てくるのかは敢えて指摘しない。
「わかった。 俺は『無警戒』で休むことにする」
「うんうん♪ いい夢見てね〜ん♪」
とりあえずは従うフリ。
無警戒なんてとんでもない!
今この時をもって、俺は体の全神経を警戒という名の任に就かせる。
わかってんだよ……あいつが寝込みを襲ってくることぐらい。
さぁ…我慢比べだ! いつでもかかって……
「いっただっきま〜〜〜す♪♪♪」
「早っ!?」
俺が警戒を敷いたほんの三秒後に奇襲。
リムは液状の体をいっぱいに広げて俺を包み込もうとする。
まぁでも…その攻め方は想定内。
俺は転げ落ちるようにベットから離脱する。
バチャッ!!
離脱した直後にリムがベットに落下した音が聞こえた。
「う、うそ!? 逃げられた!?」
「良い線いってたけど…詰めが甘かったな、リム」
俺の勝ちだ。
まぁ勝敗なんて無いんだけど…。
「うぅ〜〜ゼロの裏をかいたつもりだったのに〜!」
「安心しろって…完全に裏をかかれたから」
まさか、あれほどまで早く襲ってくるとは思わなかった。
少なくとも俺が寝静まる三十分…いや、一時間後ぐらいだと思ってた。
「も〜ゼロったら…警戒しないって言ったじゃ〜ん!」
「あそこまで警戒すんなって言われたんだ…警戒したくなるのが人ってもんだろ?」
「むぅ〜〜……」
まったく…油断の隙もない。
まぁでも……
「息子が世話になるわけにはいかないけど…腹が減ってんだったら、上の口だけで我慢してくれ」
「…ふえ? フェラはOKってこと?」
「ああ違う違う! スライムってのは、人の唾液も好むんだろ?」
「え…じゃぁ…」
「まぁなんだ…俺なんかので良ければ好きなだけ……むぐっ!?」
「んちゅううう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
キスを許した瞬間にこうだ。
「〜〜〜〜〜ぷはぁ!」
散々吸った後に…
「やっぱり……ゼロだ〜い好き♪♪」
憎めないな、コイツは………。
「想像してたより、船っていうのは揺れないもんだな。 水の上に浮かんでるのに」
「あれ? ゼロって船に乗ったことあるんじゃないの?」
「それは小さい頃の話。 記憶に残ってないよ」
翌日。
朝一番の船で海を渡る。
もちろん今は船内。
「ヘルゼンに行くにはぁ……そうだ、港で船を降りたら、確か道なりに真っ直ぐだったなぁ」
「港にはどれくらいで着くの?」
「三時間ぐらいって船長が言ってた」
「けっこう掛かるね〜…」
「あっという間さ。 なんだったら、暇つぶしに船内でも見てきたらどうだ?」
「うん! そうする〜!」
「間違っても変装は解くなよ?」
「大丈夫だよん♪」
不安を感じさせる受け答えだな…。
「じゃぁ行ってくるね〜ん!」
「気ぃつけろよ〜」
とりあえず解散。
「さぁてと、俺はどうしようかな?」
操舵室にでも行ってみようか。
舵をとる船長の勇姿を是非見てみたい。
「よし、行くか!」
操舵室にて。
「『セイレーン』…ですか?」
「おうよ! この海路には決まって奴が現れる…迷惑な話だぜ!!」
「乗客が少ないのはそのせいなんですか?」
「ああ…こっちは商売あがったりだ! たくよぉ……」
『セイレーン』
ハーピー種。
歌声で男を魅了するとされている。
その他詳細は不明………
海は穏やかだけど、船長の方はかなり荒れてる。
セイレーンか…確かに迷惑そうだなぁ。
「彼女の目的は?」
「大方『男探し』だろうよ! 魔物なんざ、みんな好色者だ!!」
魔物はみんな好色者……か。
訂正させたいけど、リムを見てると否定できない。
「でも、実害は無いんですよね?」
「害の有無が問題じゃねえ。 重要なのは『魔物が現れる』ってところだ! 客はそれを聞いて足を止めちまう…」
言えてる。
「客は俺等船乗りにとって神様みてえなもんだ! 絶対の安全を保証しなきゃならん!」
「………」
「魔物の現れる可能性がある事を内密にしたら、後々取り返しのつかない事になるかもしれん!」
ふむ。
「だから俺等は、出港前には必ず『魔物と遭遇の危険有り』と提示しておくんだ!!」
「稼ぎより客の命……ご立派ですね」
「ふん! んなもん、船乗りにとっちゃ当然の心構えだぜ!!」
船長を名乗るに相応しい技量と器の持ち主だ、この人は。
この仁義ある船長のためにも、どうにかしてやりたいと思う俺がいる。
「船長…」
「あん?」
「セイレーンを…捕獲すればいいんですね?」
「な…お前さん…まさか…!?」
大仕事を引き受けた。
「この辺りが出没海域だ」
「わかりました」
「他の乗客は船内に避難させといた」
「はい」
「くれぐれも無茶はするな……連れのお嬢さんがいるんだろ?」
「あ、あぁ…まぁ…」
一応リムにも避難してもらった。
まぁあいつを連れと言うのかどうかは謎だけど…。
「兄さん……健闘を祈るぜ!」
「……はい!」
甲板には俺一人が残される。
自信過剰じゃないけど、連れ去られる可能性は大いに有り得る。
「………」
捕獲とまではいかなくても、どうにか説得を試みたいところ。
ハーピー種のセイレーンになら、きっと話が通じるはず。
「……ん?」
遠くの方から不思議な歌声が聞こえる。
こんなにも離れているのに、既に頭がくらくらする。
〜〜♪ ♪♪ ♪〜♪〜〜〜〜♪
歌声が近づく。
そして……
「♪♪ ん……んん? 珍しいっすねぇ? ウチを見て逃げ出さないなんて」
上空からゆっくりと降下してくる。
「……きみがこの海域に出るっていうセイレーンかな?」
強気に出てみた。
「ん、そうっすよ」
「単刀直入に聞くけど…どうしてこの船にこだわるのかな?」
「ん〜〜〜…いつもいろんな男を乗せて同じ海路を通る船……ウチの目的達成にはもってこいだと思ったからっす!」
「目的…?」
やっぱり船長の言う通りか?
「男探し…ってやつかな?」
「半分当たりで半分はずれっすねぇ」
「え?」
じゃぁ一体…
「ウチは………優秀な『マネージャー』を探してるっすよ!」
「え……ま、ねー…じゃー?」
聞き慣れない言葉だ。
「要するに助手みたいなものっすよ」
「助手? なんのために?」
「ウチは世界一有名な(歌手兼)アイドルになることが夢なんすよ!」
「あ、あいどる…?」
「そうっす! そしてその夢を実現させるためには、どうしても優秀なマネージャーが必要になるっす!」
有名になるための助手探し?
う〜ん…まぁ言わんとすることはわかる。
「でもその様子だと、まだ見つかっていない?」
「そうなんすよ〜…今まで沢山の男を見てきたっすけど、いまいちピンとこないっす……」
「人間の男じゃないとダメなのかな?」
「マネージャーといったら当然! 男で決まりっすよ!」
男にこだわるのは、さすが魔物といったところ。
「それにしても…ふ〜ん…ふむふむ……」
「?」
俺をまじまじと凝視してくるセイレーン。
「お兄さんって…なんだか不思議な感じがするっす」
「え…不思議な感じ?」
「上手く言えないっすけど、こう…エロい匂いがすると言うか……」
「え、エロい匂い!?」
遂にリムの毒気(好色)が俺に移ったと!?
「俺…そんな好色に見える…?」
「いやいや、そうじゃないっす。 これはものの例えっすよ」
「そ、そっか…良かった……」
本当に良かった…。
「それでエロい匂いって…要するに?」
「魅力的ってことっす! お兄さん、きっと全種族の魔物にモテモテっすよ!」
「あ…そ、そうなんだ……」
あんまり嬉しくないなぁ…。
「もちろん、ウチも例外じゃないっすけど…」
「えっ?」
「な、なんでもないっす!」
良く聞こえなかったけど…まぁいいか。
それよりも、彼女をどうやってこの船から引き離そうか…。
いや、ただ遠ざけるだけじゃダメだ。
また同じ事の繰り返しになるかもしれない。
だからといって、本当に捕獲するのも気が引けるし…どうしたもんかなぁ……。
この後の処遇に一人思考を巡らせていると…
「え〜っとぉ…ものは相談なんすけどぉ……」
「え? なにかな?」
「ウチの〜…その……マネージャーにならないっすか!?」
「へっ?」
突然スカウトされた。
「俺がその…助手とやらを?」
「そうっす! ウチ、お兄さんにピンと来たっす!」
リムにしろこの子にしろ…俺なんかのどこがいいんだろうか?
「お兄さん以上の男は、もうこの世のどこにも存在しないっす!」
「そ、それは大袈裟な気が…」
「お願いっす! どうかウチのマネージャーに!!」
「う〜ん……」
一つ返事でYESとは言えないなぁ…。
いやでも…俺がこの子を引き取れば、船長達は魔物の驚異から解放される。
それを考えれば……
「そのマネージャーっていうのは、具体的にはなにをすればいいのかな?」
「その気になってくれたんすか!?」
「仕事内容次第…てところかな」
ハードスケジュールになりそうなら御免被る。
「マネージャーと言っても、別に大した仕事はないっす。 ウチはまだデビュー前っすから、とりあえず世界中を旅して名を売ろうと思ってるっす。 マネージャーは、そんなウチの付き人みたいなものっすよ!」
「付いていくだけ?」
「もしもの時は…ウチを守ってほしいっす」
「なるほど、護衛ってことね」
「平たく言えば、そういうことになるっす」
それぐらいなら…。
「旅路はもう決まってるのかな?」
「マネージャーに任せるつもりっす!」
よし、この子は俺が引き取ろう!
旅に何の影響もないなら、連れて行くのが吉だ。
まぁ旅の目的なんて俺にはないわけだけど…。
「その仕事……引き受けるよ」
「ええ!? ほ、ほんとっすか!?」
「あぁ。 俺なんかで良ければ」
「そ、そんな! お兄さんがマネージャーやってくれるなんて……ウチには勿体ないぐらいっすよ!!」
要は一緒に旅をするってことなんだから、なんの問題もない。
リムとだってなんとかやってきたんだ。
この子とも、きっと上手くやっていけるだろう。
「至らないところもあるだろうけど、どうかよろしくお願いするよ。 えっと…」
「セラって呼んでほしいっす! こちらこそ不束な娘っすけど…どうぞ可愛がってやってほしいっす!!」
「あ、あぁ。 よろしく、セラ」
「はいっす♪」
任務完了!
表向きは捕獲ということにしておこう。
さて、早速船長に報告を……
ドサッ
………あ、あれ?
なんで俺…セラに押し倒されてるんだ?
「セ、セラ…これは……?」
「口約束だけじゃ心許ないっす。 ちゃんと契りを交わすっすよぉ♪」
「ち、契り…?」
契約ってこと?
「き、聞いてないんだけど…」
「魔物の間では暗黙の了解っす!」
リムに魔物のなんたるを聞いておくべきだった。
「でも…ここで?」
「いいじゃないっすかぁ♪」
まさか船上でヤろうとするとは…。
「海の上で一つになる…実は憧れてたんすよぉ♪」
「いやぁ…でも……」
「そんな事言ってぇ♪ マネージャーだってその気じゃないっすか〜♪」
「あ…い、いや……」
セラの際どく露出の高い姿に興奮し始める俺の息子。
「それにこんなモノも用意してくれてたんすね〜♪」
「あっ! そ、それは…」
ウラノスで購入させられた例のアイテム、『性魂爆発エキス』。
ポケットに入れっぱなしだったそれを、セラは目敏く発見する。
「これを塗ってモチベーションを上げようってことっすね♪」
まずいな…ただでさえ性欲の高まってきてる魔物に、こんなドーピングみたいなものを使ったら……。
俺…跡形もなく消えそうな気がする。
「よい…しょっと…!」
セラは自分の服を脱ぎ始める。
(元々露出度の高い服を着ていたためあまり違和感がない)
それと同時に俺の下半身にも手を伸ばす。
「うわ! ちょ、ちょっと!?」
「服なんて交尾の邪魔っすよ!」
元気一杯、精力最大の息子が姿を現す。
「うわ〜……お、おっきいっすねぇ……///」
ガン見されるとさすがに恥ずかしい。
「あとは…コレを体にぶっかけるっす!」
そう言うとセラはエキスの入ったビンの蓋を開け、それを頭から一気にかぶり始める。
どぼ…とぽ…とぽ……
みるみる内に彼女の体が粘ついた液体で覆われていく。
そして、体からいやらしい光沢を放ち始める。
うぅ…エ、エロい……///
「あぁ…はぁ……な、なんだか…はぁ…体が…熱く、なってきたっす…///」
効果抜群のご様子。
さっきより魅惑的になっているのは決して気のせいではない。
「もう…我慢できないっす……!」
前戯無し。
ピンク色の割れ目から、俺の一部が一瞬にして飲み込まれた。
「あっ…ん…んん…! ふ…ん…はっ…はぁ……」
数にして既に四回、俺は彼女の中で果てている。
「ん…はぁ…はぁ…も、もっと…ん…もっと…ほしいっすぅ…♪」
エキスの影響か、セラの性に対する執着は一向に収まらない。
同じく俺の性欲も高まり、肉棒の堅さがなお衰えない。
……あれ? 俺はどうしてこんなに興奮してるんだ?
「う…くっ……ぅう!?」
「♪♪♪ また…出てるっす……///」
彼女に塗られたエキスの影響も少なからずある。
でも…たぶんそれだけじゃない。
「お腹…マネージャーの種で…もうタプタプっすよぉ……///」
俺が異常なまでに興奮する第一の原因。
それは……
「胸は…小さいっすけど……んん…はぁ…ちゃんと…気持ち良くしてあげるっす…♪」
セイレーンであるセラの『声』にあった。
「ん…はっ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……♪♪」
セイレーンの歌声には男を誘い、そして魅了させる力がある。
しかしだからと言って、歌を聴かなければ大丈夫…というわけでもはない。
この不思議な力の元々は、やはり彼女達の『声』。
性欲の高まっている時、彼女達の発する声の全てが歌の代わりとなる。
言葉、喘ぎ、呻き……これらは全て例外ではない。
………。
あぁ、ちなみにこれは俺の推論。
切れかかっている理性をどうにか保とうと、冷静に考えて気を紛らわせていた。
「はぁ…はぁ…う…くぅ…!」
「はっ…はっ…んん……はぁ…我慢なんて…体に毒っすよぉ…♪」
「うっ…そ、そんなに…締められると……うぐっ!?」
びゅっ…びゅく…びゅぐ! びゅぐん! びゅるる〜〜……
「うぅ……」
「はぁぁぁぁぁ♪ 熱いのが…びゅるびゅるって…流れてくるっすぅ〜…♪」
プツッ……
理性より先に意識が途切れた……………。
「先に気絶するなんて…もっと頑張ってほしかったっすよぉ!」
「けっこう努力したつもりだったんだけど……」
気絶した俺はすぐセラに起こされた。
エキスの効果時間が短くて助かった…。
「でも…また相手してほしいっす……///」
「誰も見てなかったからいいけど…もう公前はゴメンだよ……」
交尾が無事に済んだ後、俺達二人は操舵室に足を向けた。
セラには『俺に捕獲された魔物』という役を演じてもらった。
二度と邪魔をしないということで、船長も寛大な心でセラを許してくれた。
今はリムの待つ部屋に向かっている。
「言ってなかったけど、俺には連れが一匹…いや一人いるんだ」
「そうなんすか?」
「あぁ。 キミと同じ魔物だけどね」
「どんな人なんすか?」
「一言で言えば…変態かな。 まぁ根は良い奴だから、すぐに仲良くなれるよ」
「会うのが楽しみっす!」
「期待しない方がいいよ…」
その後顔合わせも無事に済み、同時に船も目的地に到着。
港を出て、俺の本当の故郷ヘルゼンへと向かう。
「へぇ〜…セラってアイドル目指してるんだ〜」
「世界一になるつもりっす! リムはどうしてマネージャーと?」
「なんとなくかなぁ〜?」
「なんとなくっすか? 自由でいいっすねぇ」
「魔物は自由が一番だよぉ♪」
「だったら俺と一緒にいることないだろ?」
「それは違うもん! ゼロがいてこその自由だもん!」
「良くわからん…」
「リムとマネージャーって仲いいっすよねぇ……羨ましいっす!」
「これは仲がいいって言うのかなぁ……」
ヌルヌルと這う魔物。
バサバサと進む魔物。
テクテクと歩く人間の俺。
奇妙な仲間を二人連れ、俺は広い草原をのんびりと進む。
旅は始まったばかり。
いつ終わるとも知れない。
でも……寂しい想いをすることは、きっと無いと思う。
人間ではないけど、俺のことを想ってくれる子が近くにいてくれる。
それだけで俺は、前へ進むための勇気をもらえる。
リムとセラ。
二人のことを…大切にしてあげないと……
心の奥で…小さな決意を固める……俺がいた……………
俺の旅は終わらない
10/01/31 13:34更新 / HERO
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