読切小説
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『ロールユー』
「どいつもこいつも…ろくな男がいないわね……」

『メドューサ』と呼ばれる魔物の周りには、無数の石像が置かれている。
これらの石像は全て人の形をしている。

「弱くてブサイクな男ばっかり……」

蛇のような足をうねらせる。

「もうウンザリ……あぁあ、早く私好みのイイ男来ないかしら…」

欲求不満な蛇女。
次に来るのが運命の男とも知らずに………






「なぁオッサン…その話、もう一度詳しく聞かせてくれ」
「え? 洞窟に入っていった男が一人も帰らない……って話かい?」
「そっ! できれば、その洞窟とやらの場所も教えてほしい」
「う〜む…教えるのは構わんが、もしやお前さん…そこに行こうって言うんじゃ…」
「そのつもりだけど…なんで?」
「………」

面白そうな話が聞けそうだ。
洞窟に入った男が帰らない……典型的な冒険の匂い!

「なぁ〜〜頼むよオッサ〜ン!」
「そうだな…そこまで言われたら、教えないわけにはいかないな……」
「おっ! いいねオッサン! 話がわかる!!」
「煽てても何も出んよ。 ところでお前さん、名前は?」
「名前? あぁ、言ってなかったな。 俺はシド」
「シド? うむ…どこかで聞いたような……」
「んなことよりオッサン! 早く場所教えてくれ!」
「お、おぉ……」

カクカクシカシガ………

「西の洞窟だな!? わかった! 早速行ってくる!!」
「お、おい! あの洞窟は危険だと……!」

ダダダダダダダダダダダダダダダダ………

「やれやれ、嵐の様な奴だったな………待てよ、シドと言えば確か…」


人々は彼をこう呼ぶ。

『勇者?シド』







「おっ、ここだな?」

三時間はかかる道のりを一時間で走破。

「あっ……薬草・毒消し・きんのはり・その他諸々買い揃えておくの忘れたなぁ…」

ん〜〜〜………

「まっ…いっか!」

ムリそうだったら早めに引き返せばいい。
とはいっても、俺ぐらいのレベルなら大抵の魔物は一掃できるから問題ない。
さすがにバフォメットとか、そういった上級種族が相手なら話しは別だけど。

「さて…なにが出るかなぁ〜」

別にお宝目当てじゃない。
ただ単に冒険がしたい…それだけ。
仮にそれで命を落としても、俺としては本望だったりする。
大好きな冒険で死ねるわけだから。

「………」(ダンジョン探索中)

まぁでも…死ぬ前に一つだけやっておきたいことがある。
これを達成しないと死ぬに死ねない。

「あれ? 魔物の気配がしない……つまらないなぁ」

『脱童貞』
………。
まぁそれもある。
冒険ばっかりしてたから出会いが極端に少ないのは事実。
だけどやっぱり一番は………

「あ、あれ……もう最深部?」

『結婚』
これが俺の目標。
絶対に叶えたい夢でもある。
結婚は脱童貞にも繋がるはず。
………。
いや、最優先は結婚だから!
脱童貞は二の次!
わかった!?
誤解すんなよ!?






「なんだこれ?」

色々と説明してる間に、いつの間にかBOSSの間らしき場所に到着していた。
30分普通に歩いてただけなんだけどなぁ…。
魔物も出なかったし。

「妙にリアルな石像だなぁ…」

それにしても…なんか嫌な雰囲気の場所だなぁ、ここ。
不気味な、人の形をした(男の)石像が何十体も置いてある。
ここの住人(魔物?)の美的センスを疑いたくなる。

カタッ………

「んん?」

奥の方から物音。

「ここのBOSS様ってとこかな…?」

慎重に音のした方へ進む。
経験上どんな魔物がいるのか、大方予想はつく。
薄暗い洞窟だから……エキドナの可能性が高い。
あいつは強いからなぁ…不本意だけど、トンズラも頭の片隅に置いておかなくてはならない。
この緊張感はいつまで経っても慣れない。
そんな事を考えていると……

「う〜ん…胸のあたりが…ちょっとキツイわね……」

………?
なんだ? 今の…

「ああ〜んもう! なにが『パツパツの服に男は欲情するもんじゃぞ』よ! これじゃぁキツすぎるわよ! あの貧乳ロリ店主に騙された〜!!」

そこにはサイズの合わないメイド服に一人虚空に向かってイチャモンをつけるメドューサの姿があった。
エキドナじゃなかったけど、ある意味正解かな。

「えっと…キミがここのBOSSかな?」
「っ!?」

幽霊でも見たのかという表情で俺を凝視してくる。

「なっ…なっ…なっ……!?」
「あ、あの〜…」
「な、なによあんた!? いつの間に!? どこから入ってきたのよ!?」
「いや…普通に入り口から……」

メイド服姿のあなたの方がよっぽど気になる。

「………(じ〜〜〜)」
「ちょ…ちょっとあんた…なに見てんのよ?」
「いや、珍しい物着てるなぁ〜って…」
「!?」

そう言うと、メドューサは顔を真っ赤にしながら両腕で胸元を隠す。

「ど、どこ見てんのよ変態!! わ、私は別にコスプレが趣味だったり…男に色目使うために着てるとか…そ、そういう不純な理由でこんな格好してるわけじゃないんだからね!? か、勘違いしないでよ!?」
「………」
「そ、それに服のサイズが小さいのは偶然なんだからね!? べ、別に男を誘惑させようなんて微塵も思ってないんだから! ただ…ちょっと品定めを誤っただけよ!!」
「………(やっぱりコスプレが趣味なんだ)」
「ご、誤解しないでよね!? サイズを小さくすれば大きい胸をより強調できるとか…そ、そういった邪な感情なんてまったく持ち合わせていないわよ! じ、自信過剰なんかじゃないんだから!!」

何も聞いてないのに良く喋るなぁこの子。

「ところでさぁ、なんでこの洞窟にはキミ以外の魔物がいないんだ?」
「な、なんであんたにそんな事教えなくちゃならないのよ?(あら…良く見るとなかなかハンサムね)」
「あ、いや…ムリにとは言わないけど」
「…ふんっ! まぁいいわ、特別に教えてあげる!」
「?」

急に態度を変えた。
気難しい性格だな、きっと。

「ほんとに特別なんだからね!? ありがたく思いなさい!」
「はぁ…」

ワガママお嬢様みたいだなぁ…。

「理由は簡単よ。 私はただ『婿探し』をしてるだけ。」
「婿探し?」
「そうよ。 それと洞窟に魔物を配置しないのは、イイ男をネコババされる可能性があるから」
「経験がお有りで?」
「う、うるさいわね!」

あるんだ……。

「ちなみにいつもそんな格好を?」
「し、してないわよ! ひ、暇だったから着てただけ!」

へぇ〜。

「まぁそんな事はどうでもいいや。 もう一つ聞いておきたいことがあるんだけど…」
「…なによ?」
「ここにある石像は一体…?」
「人間の男よ。 気に入らなかったから石になってもらったわ」
「なるほど、だからこんなにリアルなのか…」

いや待てよ…俺も危ないんじゃ……?

「でも安心しなさい。 あんたを石になんてしないわ」

あ、なんか大丈夫そうだ。

「どうして?」
「言ったでしょ? あんたは『特別』よ」

特別?
なにが特別なんだ?

「喜びなさい! あんたは今この時をもって、死ぬまで私の夫として生きていくことを約束されたわ!」
「えっ?」

………夫?
あ、そうか。
この子は婿探しをしてるんだっけ。
ということはつまり……石化しない=夫決定ってことか。
………。
え、俺……魔物と結婚???

「し、仕方なくよ!? 仕方なくあんたで妥協してあげるって言ってるの! もっと喜んだらどうなのよ!?」
「え…え〜っと……」

正直な話、結婚できるんならすぐにでもしたい。
子供も欲しいし。
でも…相手が魔物となると……

「な、なによ? 私じゃ不服だって言うの?」
「いやほら、俺は人間だし…やっぱり魔物が嫁だと世間体が……」
「もう! いちいちうるさいわね!? あんた男でしょ!? 腹括ったらどうなのよ!?」
「いやだから…そう言われても……」
「だったら嫌でも私のモノにしてあげる!」

ピキッ

「うっ!?」

足下から妙な違和感。
………う、動かない?

「両足だけ石にさせてもらったわ」
「え!? ちょ……うわ!?」

そのままバランスを崩して仰向けに倒れ込む。
足だけ石化とか…こんな器用なことできるんだ。

ゴンッ

「いっ!?」

と同時に頭も打つ。

「い、いててて……」
「念のため巻き付いておかないと…」

そう言うとメドューサは、倒れて動けない俺の体にシュルシュルと巻き付いてくる。

「んんっ!?」

ふくよかな胸が俺の顔に沈み込んでくる。

「ぐ、ぐるぐる巻きにされて喜んじゃってるんでしょ? こ、この変態…///」
「ん…んぐっ!?」

ギリギリと締め付けてくる。
い、痛いし…それに苦しい……。

「……? (この男に巻き付いてると…なぜだか安心するわね)」
「んっ…んん!」

胸の隙間から僅かに見える彼女の蛇達(髪)も、どうやら俺に敵意は無い様子。

「わ、私はあんたなんて触るのも嫌なんだから! べ、別にあんたとこうしてると落ち着くだとか…そ、そんなこと絶対に思ってないんだから…///」

嫌だと言っているわりには、満更でもない感じのする口調。

「んぐ……」

く…苦しい……何とかしないと!
動く右腕を彼女へ向けてゆっくり伸ばす。

「な、なによ? 私に手を出そうっていうの?」

腕を伸ばしたが、彼女の手がそれを制する。
そして……

ピキッ

「むぐっ!?」

遂に右腕も石化。

「男の分際で私に触れようだなんて……千年早いのよ!」

もう既に触れ合ってるんじゃ……ぐあああ!!
さらに強く締め付けられる。

「ちょっと! さっきから隠れてないで…あ、あんたの顔……わ、私に見せなさいよ…///」

お嬢様…見せたいのは山々なんですが、この立派なお胸が邪魔をしていまして……。
と、思いが通じたのか胸の乳圧が和らぐ。

「そんなに胸が好きなの? や、やっぱり変態ね……///」
「はっ…はぁ…はぁ…」

ようやく満足に空気を吸えた。
しかしそれも束の間………

「はぁ…はぁ……むぐっ!?」

今度は唇で唇を塞がれた。

「んちゅ…ちゅっ…じゅる…はむ…んっ……」

細く長い彼女の舌が俺の口内を泳ぎ回る。

「んちゅ…ちゅ…じゅる…じゅるううう〜〜……」

口の中の水分という水分を全て吸い取られる。

「ぷはっ! はぁ…はぁ…」
「ん…ん……」

唇が離れた。
彼女は自分の唾液と俺の唾液を口内で混ぜ合わせている。
うぅ…口の中が乾いてしょうがない……。
み、水が欲しい…。
すると………

「んちゅううう〜〜〜!」
「んぐっ!?」

またしてもディープキス再来。
今度はミックスされた唾液を俺の口に流し込んでくる。

「んっ…んっ……!」

身動きのとれない俺は受け入れざるを得ない。

「……ふぅ。 どう? 満足したかしら?」
「はぁ…はぁ……」

なんか…酸素不足で…意識が朦朧と……………






「イイところで気絶するなんて…ほんと最低な男ね!」
「それは君が間髪入れずに続けるから……」
「わ、私のせいする気!?」

目が覚めても、彼女はまだ俺に巻き付いていた。
ちなみにまだメイド服姿のまま。

「わ、わかった…俺が悪かったから……早く離れてくれ」
「……仕方ないわね」

スルスルと体から離れていく。

「あれ、石化が治ってる……これは君が?」
「あ、あんたは逃げないと思ったから……」
「そっか…ありがとう」
「っ!? お、お礼を言われる筋合いなんてないんだから……///」

意外と良い人?だなぁ。

「わ、悪かったわね…いきなりこんな事して……」
「え?」
「な、なんでもないわよ!!」

プイっとそっぽを向いてしまった。

「そういえば、さっきの返事なんだけど…」
「………」
「俺なんかで良ければ、君の夫として生きていこうと思う」
「………え?」

再びこちらに向き直る。

「ここまでアプローチされたんだ…男として、応えてあげないとダメだろ?」
「………」
「家に案内するよ。 そう遠くないから、今日の夜には……」

ぎゅっ!

「!?」
「べ、別に嬉しくなんか…ないんだから……///」

今度は蛇の様な足ではなく、彼女の上半身だけの温かいぬくもり。

「あ、あんたの狭い家で…我慢してあげるわよ!」
「あぁ、助かるよ」



こうして俺は、洞窟の最奥から自分の嫁となる魔物を見つけ出した。
相手は人間じゃないけど、そんなの些細な問題だ。

彼女といれば…不思議と幸せになれそうな気がして………。










「いやあああああああああああああああああああああ!!!」
「ど、どうしたんだよサラ?」
「わ…私の体重が…また……」
「あぁ、また増えたんだ」

ぎゅう ぎりぎりぎり…

「ぐあああああ! わ、悪かった…悪かったから!!」
「ううう……それもこれも…みんなあんたのせいよ!」
「ど、どうして俺が…ぐおおおおお!?」
「私に降りかかる災難は…全部全部ぜ〜んぶ……あんたのせいなんだから!!」
「わ、わかった…全部俺のせいでいいから…鬱憤晴らしに力一杯締め付けるのはがはああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………………



原因が妊娠だと判明するまではもうしばらく時間が掛かった。


10/01/24 23:05更新 / HERO

■作者メッセージ
お久しぶりのHEROです。
課題やその他色々のおかげで精神的に不安定な時期が続いたもので、完成までかなりの期間を空けてしまいました。
どうもすいませんでしたorz

今回も趣向を変えた一品?に仕上げたつもりです。
ツンデレはありふれていますが、いざ書くとなると非常に難しかったです。
ちなみにこの話は、クロビネガ本館のギャラリーにある『貴方のためのロールユー』をイメージして書きました。
イメージ・・・というよりはコメントも少々拝借いたしまたがww:
どうでしょうか?

感想を是非お願いします。
かなり喜びます!

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33