連載小説
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両手の花

 ラリサは自室で枕に顔を押し付けて肩を震わせていた。

「……っ……っ」

 嗚咽が部屋に虚しく木霊している。そんな時間がもう随分と続いていた。
 枕を抱きしめ、言葉にならない想いを吐き出しては身をよじる。

 と、その時大きな音が発生した。

「――?」

 屋敷全体を震わせるかのような大音に、ラリサは顔を上げた。周囲を見回すが、続く音はない。

 首を傾げるラリサ。ガラスが割れるような二次的な音は無かったとはいえ、床なり壁なり、屋敷のどこかには何らかの被害が出たであろうと想像できる程度には大きな音だった。
 と、なれば。

「一応、確認しておこうかな……」

 のっそりとラリサは起き上がる。
 涙や鼻水やらで汚れた顔面を袖口で擦り、ため息をつく――と、また音がした。

 今度は先のように大きな音ではないが、一度だけでは終わらなかった。
 ほぼ一定の割合でタ、タ、タ、タ、タ……と続く音はまるで足音のようで、

「誰か居るの?」

 使用人に暇が出されたため、今この屋敷には誰も居ないはず。このような音が聞こえるはずがない。しかし、足音らしき音は部屋の前を駆け抜けていく。

「蘇ったばかりの子がお姉ちゃんの言うことが分からずに遊びに来ちゃったかも」

 ――だとしたら、最初に聞こえた大きな音もその子がいたずらしたという解釈をラリサはするだろう。

 私の予想どおり、ラリサは立ち上がると部屋を出た。

   ●

 ラリサが足音がしている方へと視線を向けると、丁度廊下の角を曲がっていく影が見えた。

「まったく……」

 ラリサがその影を追いかけて廊下の角を曲がると、ちょうどドレスの裾が滑るように消え、一瞬だけ小等部くらいの背丈の位置で靡く金髪が見えた。

「ちょっと、走り回っちゃだめだよ」

 声に返事は無い。
 軽快な足音からするにゾンビではないし、足が無いゴーストでもない。それにドレスの裾が見えたことから貴族の子ということになるはずだ。

 だとしたら、前を行く侵入者はこの屋敷で働いている子たちではない。

 両親と知り合いの、夜会にやって来た向こうの世界の貴族のご息女がやって来た。というのが回答としてあり得るだろう。

「貴族の子がそんなことしちゃだめだよ!」

 自分は階段を一気に跳び下りながら言うラリサにやはり返事はなく、代わりに彼女の前で一つの扉が閉まるのが見えた。
 その扉の前まで行くが、部屋の中は打って変わって静かだ。
 扉の上にはレクリエーションルームの表示がある。

「こんな気持ちの時に、よりによってここかぁ……」

 呟くラリサ。レクリエーションルームは姉妹そろって武彦に尻を叩かれた場所だった。
 ラリサとしても思い入れがある場所だろう。
 扉を開けたラリサは絶句した。

「……なに? これ」

 部屋の中でラリサを待ち構えていたのは、こちらの世界にやってきたばかりの年頃の私たち姉妹だった。

 ラリサが周囲を見回す。

 調度品などはそのままのものが置かれている。部屋の中に不審な点は無い。ただ、目の前に要る姉妹だけが異常であった。

 紅い瞳の姉妹の内、ラリサについてはこの頃はまだ長い髪をしていた。彼女が髪を短くしたのは傍目にも彼女が武彦に惚れていることが明らかになった後のことだ。

 姉とは明確に区別して自分を見てもらいたかったということだろうか? もしそうならば、なんと微笑ましいことだろう。

「誰かのイタズラ? やめて」

 姉妹を見ながらラリサが言う。
 それに対して姉妹からも、その他からも返事はなく、ラリサはそのことにため息をついた。と、彼女の髪がふわりと浮いた。その周囲で魔力を帯びた空気が帯電したかのように火花を散らす。

 次の瞬間、彼女から魔力が放出された。

 部屋の中を圧が満たす。

 それが空気に馴染んで溶け消えていくまでの数秒を魔力の放出で荒れた呼吸を整えるために使っ
たラリサは、相変わらず自分の前で微笑む姉妹に焦れたように言う。

「私の魔力で消えないってことは、お姉ちゃんが作ったものじゃないんだ? じゃあ誰? あんまりだんまりだと私も怒っちゃうよ?」

 そう言いながら、ラリサは明確に警戒を始めていた。
 賊が侵入した可能性を本格的に視野に入れ始めたのかもしれない。
 ならばこちらも雰囲気重視。
 音を立ててレクリエーションルームの扉を閉めた。

「――――っ」

 ノブが回されるが、魔法的に開かないようにされた扉はびくともしない。

「ただのイタズラじゃ、ないってことだね


 そう言うラリサの後ろで少女の私が口を開いた。

「お姉ちゃんに手を上げるなんて、わるい子」

 ラリサは少女の私を見て、でも、と言う。

「ああでもしないとお姉ちゃんは好きな人を諦めてたじゃない」

 少女の私は微笑んだまま問う

「だからって貴女が不幸になるの?
 貴方自身が不幸になるようなことを、お姉ちゃんが喜ぶとでも思ったの?」
「お姉ちゃんが先に武兄ィを好きになったんだからこれでいいの!」

 ラリサはそう言うと、破壊せんばかりの勢いで扉に蹴りを入れた。
 魔法的な防御を枠ごと粉砕し、最初に屋敷に鳴り響いた大音量並の音を上げて扉が吹き飛ぶ。
 廊下に飛び出ていくラリサを追って少女の私は声を送る。

「本当にこれでいいの?」「彼と一緒に居ることを楽しんでいたのに、これからは離れられるの?」「あなたの恋は相手を他の誰かに明け渡すことを良しとするものなの?」「彼を諦められるの?」

「――――!」

 ラリサは自室に飛び込むと鍵をかけ、その上に防音と扉の堅牢化の魔法をかけて肩で息をする。
 扉の外からは少女の私の声はもう聞こえなくなっていた。
 息を整えながら扉を睨みつけていたラリサは、やがてその場で腰を落として泣き始めた。

「もう……なんでこんなもの見せるの……」

 先程の言葉なり映像なりが相当こたえたようだ。
 数分彼女に泣く時間を与え、私は魔法を解除して扉を開いた。

 ラリサが驚いた顔で頭二つは小さくなった私を見ている。
 その視線を受けながら室内に踏み入ると、ラリサは目元をこすっていじけた声で言う。

「いつもそう……。何をしても敵わない。生まれついての君主なんだもんお姉ちゃんは。
 それなのに、好きな人を諦めようとした。自分勝手なひと……」

 ラリサの頬に流れる涙を指先でぬぐい、手を広げると、彼女が飛び込んできた。
 胸元にある頭を撫でてやると、今の私の見た目に合わせるようにラリサの背も小さくなっていく。
 ……演出過多では……?

「ラリサ。君も武彦が好きなのだな?」

 確認するように問うと、胸に頭を擦り付けるようにしてラリサが頷いた。

 そう言う声はもう幼い私のものではなくなっている。
 そのことに気付いたのか、ラリサが顔を上げた。驚いた表情で私を見た妹は私の胸に顔をくっつけ、

「……柔らかい」
「成長したのでな」

 彼女は再度顔を上げる。

「お姉ちゃん……大きくなった」
「正確には元に戻った、だ。見事な幻術だったろう?」
「幻術……」

 ラリサは納得したのか驚きを収め、緊張した顔になった。
 私に捕まっている状態であると改めて認識したためだろう。
 そして直後に私に向けて魔力を放出した。
 ダンピールの魔力。我々ヴァンパイアに対して特別な効果を有する警戒すべき代物だが、私はそれを正面かつ至近で受けて尚、無事でいた。

「……うそ」
「しかしこれが現実だ。さて、言質はとれたことであるし……」

 私はラリサを抱きしめたまま部屋の奥へと声をかけた。

「武彦よ。自身がどれほど罪作りだったのか、理解が及んでいるか?」

 腕の中でラリサが後ろに振り向いた。
 その視線の先には幻術で隠されていた武彦が姿を現している。
 神妙な顔をしている彼を認めたラリサは今度は私の方へと首を戻し、

「お、お姉ちゃん?!」
「よいではないか。本心を過たず知ってもらわねばこの男は勘違いしたままでいようとする」

 だから、と笑みを見せてやり、

「こうして同席させたし、ラリサ、お前の言質もとったのだ」

 さて、これで必要な手続きは終わったと言ってもよいだろう。私は天井に向けて適当に声をかけた。

「よい劇だった。今度は三人で観劇させてもらおう」

『ではその時は私共の最高の劇を愉しんでいただくといたしましょう』

 天井からの応えの直後、屋敷全体を薄く囲んでいた魔力の気配が消えた。

「ミレイさん……?」
「いつでも力を貸してくれるというのでな」

 既にミレイの気配はない。撤退は迅速。演劇テロで鍛えた俊足は流石と言う他ない。
 ラリサは私への抵抗を諦めたのか、もがくのをやめてうな垂れた。

「さて……ラリサ、よくもやってくれたものだな」

 捕食者の笑みが浮かんでいるのが自覚できる言葉を受けても妹は引かなかった。

「お姉ちゃんが素直じゃないからじゃない……」

 それを言われてしまうと、実際にニンニクを盛られて乱れた末に開き直った私としては返す言葉もない。

「私の中にそういう気持ちがあったというのは、まあ、認めよう」
「そうだよ! それにお姉ちゃん、高等部に上がった頃から武兄ィに冷たくなったから、このままじゃいけないって思ったんだもん」

 勢いづいてきたラリサだが、それならば私にも返す言葉がある。

「それはラリサが武彦のことを好きなのだと分かっていたからだ。ダンピールの恋は実るまでに時間がかかる。ゆえに中等部の頃からいつか武彦からは離れてラリサとの二人の時間を確保し、愛を育む時間を作らねばなるまいと考えていた。
 高等部に上がれば生徒会に権力がある。領主の勉強として生徒会入りしようと決め、それを機会として自立の道を往くと決めたのだ」
「私のためだって言うの? さっきお姉ちゃんも言ってたけど、私だってそんなことされたって嬉しくなんかないよ!」

「だいたい……」と彼女は続ける。

「武兄ィを先に好きになったのはお姉ちゃんだって私知ってるんだからね!」

 ……ん?

「先程も言っていたが……私が先に武彦を好きになった?」
「そうだよ。お姉ちゃん、レクリエーションルームでお尻叩かれた時から武兄ィを見る目が変わったもん」

 言われた内容に思う所があった私は武彦に問うてみた。

「あれ以降、私が抱いていたものはいつかぐうの音も出ないほどに見返してやるという反骨心だと思っていたのだが、君はどう思う?」
「いえ、僕には……あの後から話しかけてくれることが多くなったなとは思いましたけど」

 うむ、まあ武彦に訊いたところで分からないか。

「それを言うならあの時より前からラリサは武彦に懐いてたような気がするのだが」
「初めてできた人間のお友達だもん。興味はあったけど、私が武兄ィを、その、好き、になったのは、お姉ちゃんを叱って考え方を変えさせた後からだよ。あのお姉ちゃんをあそこまで完璧に叱れるひとって居なかったから、かっこいいなぁって思ったの!」

 いつから彼を好きになったかなど、私の中では彼への好意を認めて以降、感情が混然としていて判然としない。ラリサが言った通りなら、私たちは時期的にあまり変わらない頃にそれぞれ彼を好きになったということになる。
 まあ、あの時彼がとった態度は確かに格好よかったと言えなくもなかった。好意を寄せるきっかけになるのも分からなくはない。私が負かされているところまでを含めて、というのがいまいち釈然としないが。

 当の武彦はどうも信じられない。と言いたげな顔で言う。

「本当に、二人とも僕なんかを好いていてくれたんですね……」

 何を今更。

「私はともかく、ラリサは家庭教師を続けさせるなど、明らかに接点を保とうとしていたではないか」

 あれだけいじらしかったというのにそこに好意の存在を感じなかったのだろうかと思えば、

「それは、先生として僕が仕事をうまくこなせていたから、教師として認めてくれていたってことではないのですか?」

「ルアナお嬢様も教師としての力量については認めてくださってましたし」などと言われてしまうと私としても勘違いを助長させてしまった責任を感じないわけではないが、それにしたってこれは朴念仁過ぎるだろう。

「そのように無自覚でいて、そのくせ愛想をばらまくから、私もラリサを焚きつけようとつい過激な手に出てしまったのだ」
「使用人の皆に暇を出したのはまさか」
「これくらいして屋敷に二人だけの時間を作れば進展するだろうと思ったのだ。無駄だったがな」

 ラリサは武彦を私に譲るつもりだったし、武彦は好意の存在に気付いてすらいなかった。

「とんだ道化だ」

 しかし、まあここでようやく私とラリサの本心は赤裸々になった

「お姉ちゃんをうまく操ることができると思ったのに、結局お姉ちゃんの手の上だったんだね」

 自嘲気味にラリサは言う。

「それにしたって、私が武兄ィをどう思ってるのか伝える方法はもう少しやり方があったと思うんだけど」
「あんなことをされたのだからな。相応のやり方で返さなければなるまいよ」
「そうだね……ごめんなさいお姉ちゃん」
「謝らなくても構わない。お楽しみはこれからなのだからな」
「え?」

 不安そうに視線で訊ねてくるラリサに取り合わず、武彦に声をかける。

「私たち姉妹を惚れさせた責任をとってくれるのだったな」
「え、あれ? なんだかちょっと話が違うような」
「ん?」
「いえ……お二人の好きなようにしてもらえればいいです」
「そうか。ゆくゆくは私たちの全てに対する覚悟を決めてもらうことにもなるので心しておくように」
「え? どういうこと?」

 訝しむラリサを反転させて武彦と正対させた。

「こういうことだ。ラリサ」

 私は背後から手を回し、ラリサの胸を誇張するようにわし掴んだ。

「え――?」

 かわいらしい悲鳴を上げて再び私から逃れようともがき始めるラリサをマントから放った魔力の鎖が縛り上げる。

「お姉ちゃん?!」

 抗議の言葉を無視し、指の動きで縛り上げたラリサを宙に浮かせる。
 吊るされたラリサの腰から手を入れて、脇を撫で上がり、乳房を直接掴み――む、ブラジャーなど着けておるな。

「え?! あ――、ん」

 突然のことに驚きの色が強い悲鳴を上げる妹のブラジャーを手際良く外し、今度こそ彼女の乳房を直接掴んだ。

「お姉ちゃ……っ」
「成長しているようでなによりだ」

 私が最後に直接見た時よりも喜ばしいことにラリサの胸は成長していた。永くを生きる我々はつい軽く見てしまいがちだが、数年の時の流れは確実に降り積もっている。

「やめ――んぅ!」

 乳房の頂きに触れると、くすぐったそうに反応する。
 状況に戸惑ってはいるが、好いている相手に自らの本心を知られたことによって体はスイッチを入れているようだ。

「せっかくだ。どの程度成長しているのか、武彦に見てもらうとしよう」
「え?!」

 何をされるのか考えが至らない内にラリサの服に内側から爪を立てる。
 動きやすさを重視された服は多少丈夫にできているようではあるが、私の力をもってすれば紙を裂くようなもの。上から一直線に指を下ろすと裂けた服が落ちて抑え込まれていた乳房が露わになった。

「――ッ」

 悲鳴の上がりばなを潰すように右手で乳首を挟み、左手は腰からズボンの中へと侵入させた。

「あ、ちょっと待――」

 逃れるためにか本格的に魔力を放ってきたラリサだが、私の縛めを逃れることはかなわない。
 右手の指で強めに乳首を転がすと、放出される魔力が乱れた。
 蒸れ気味のぬくもりを感じる左手を股に通し、掌で陰部全体を揉み込むように刺激すると、ラリサは悲鳴を上げながら身を捩った。

「お、お願いお姉ちゃ……ごめんなさい。に、ニンニク食べさせて本当にごめんなさっ、だから、ゆるして……っ」
「いやなに、ニンニクを盛られたことに関しては別に怒ってはいないんだ。ただな。好いている者を諦めようとするその態度が許せないのだ。お前も私に対して同じような気持ちを抱いていたな。ならば分かってくれるな?」
「……うぅ」

 ラリサは私の手を押し出すように脚を擦り合わせ始めた。
 私は力強く掌を股に食い込ませ――明確に股の湿度が上がった。

「ふむ、ではそろそろお披露目といこうか」

 存在感を増した乳首を捏ねながらラリサの耳元で告げる。

「や、お姉ちゃ――」
「安心するといい。私も先にやったのだ」

 妙に誇らしい気分で言うと、私は股を弄っていた掌から魔力を放ち、彼女のズボンを切り裂いた。
 あっさりとズボンが落ちて太ももが露わになる。

「敏感だな、素晴らしい」

 指摘すると、ラリサは脚を固く閉じ合わせた。太腿には雫が伝ってり、その源泉を覆うショーツは濡れてシミを広げていた。

「お姉ちゃんが武兄ィの匂いをさせて触ってくるから」
「ふむ、なるほど」

 絡めた鎖を使って閉じた脚を開かせると、宙に固定した姿勢を変えてやり、濡れた部分が武彦によく見えるようにしながら私は殊更に水音を立てて妹の陰部を弄った。

「え、いや、待って、ね……、……お願い!」

 懇願してくるようになったラリサの陰部に両手をあてがい、濡れて貼り付いたショーツの上から淫蜜の源泉を開いてやる。
 秘部の形も明らかなそれを正面に据えられた武彦からはさぞや素晴らしい光景が見えていることだろう。

「ちょっと、ねえ、お姉ちゃん……っ」

 焦った声のラリサが何振り構わず拘束から逃れようとし始めた。同年代の者たちと比べてやはりダンピールであるラリサは羞恥心が強いようだ。

 必死の抵抗をしたくなる気持ちも分からないでもない。しかし、いくらダンピールといえども吸血と吸精直後で、更にはつがいの居る私の魔力は破れないようで、拘束を解かれる気配はない。

「た、武兄ィ、見ないでぇ……っ」

 その訴えは聞き届けられない。なぜなら私が事前に誠意を見せたいのなら起きることから目を逸らすなと厳命しているからだ。

 武彦は葛藤しているようだが、私たちを見る視線は逸らされないままだった。素晴らしい。

 と、突然拘束に抗おうとする力が無くなった。
 放出しすぎたせいで魔力が尽きたのだろうと思いラリサを見上げると、彼女は肩を震わせて泣いていた。
 紅い瞳を涙でいっぱいにしながらラリサは言う。

「私の体、お姉ちゃんみたいな魅力はないって分かってるんだから、いじめないでよ」

 自らの体型のことを気にしているとは意外だった。その器量だ。もっと自信を持っても良いのだが……。まあいい。ここまで殊勝ならお仕置きはここまでだ。

 先程から感じる武彦の気遣わしげな目もある。私は指を一つ鳴らしてラリサを床に下ろした。

「泣くな泣くな。私とてお前を本気で苦しめる意図などないのだ」
「う"ん……」

 そのまま床にうずくまって泣き出すラリサを哀れに思いながら、私は武彦を手招きした。
 おずおずとやってくる武彦をラリサの正面に立たせ、「そのまま何も隠すな」と命じる。

「う……はい」

 武彦の気まずい返事に頷いて、ラリサに声をかける。

「まずは勘違いを改めよう。さあ、ラリサ。顔を上げるんだ」
「……?」

 促すままに顔を上げたラリサの眼前には武彦の股間がある。
 今そこは傍目にも明らかに盛り上がっていた。

「魅力がないだなどと、己を卑下するものではない。見てみるがいい。武彦はお前の体と痴態とを
見てこんなにも欲情しているぞ」

 ラリサは眼前の膨らみをまじまじと見つめた。そして、嗚咽を噛み殺すように深く呼吸をすると、縛めがなくなって自由を取り戻した自分の体を隠すことを忘れてズボンの膨らみに手を伸ばした。
 膨らみの頂きに指が触れ、布地を下から押し上げていたモノがビクっと脈動する。

「わ、ズボン……はち切れちゃいそうだ。本当に私の体でこうなったの……?」
「……は、はい。その通りだよラリサちゃん」

 不安を含んだ声に、武彦は咳払い混じりに頷いてみせた。
 それに対応するようにラリサの顔が輝く。

「良い返事だったぞ武彦」

 はっとした気分で言うと、彼はとても複雑そうな表情で唸った。泣いた女を微笑ませたのだからもっと誇れば良いものを……。そう思っていると、ラリサが俯いた。

「武兄ィ、やっぱり私の体、魅力がなかった? 私を安心させるために頷いてくれたの?」

 悲しそうに言うラリサだが、あれは演技だ。自分の体に反応してもらったという事実を正確に把握しての行動だろう。現金な奴め。
 とはいえ、私には一目瞭然だが、武彦ではあの演技を演技と見破ることは不可能だろう。教えてやってもいいが……敢えて黙っているのも一興か。

「そのように曖昧な態度でいるからラリサが不安に思うのだ。好意を顕にした女にお前の態度をはっきりと示してやるといい」

 そう言うと、私に演技がばれていると悟ったのだろう。ラリサがこちらにちらりと視線を向けてきた。片目を閉じて応じると、彼女はほっとした様子で演技に戻る。
 私たちのそんなやりとりにも気づかず、武彦は膝を着いてラリサに視線の位置を合わせた。

「その……態度といっても僕なんか無教養だから、うまくできる自信なんてないけど……」

 彼は深く息を吸った。

「僕はこの通り、反応しちゃってるのを見て分かると思うけど、ラリサちゃんをとても魅力的だと思ってるよ。もちろんルアナお嬢様も」

 その言葉を聞いた直後、ラリサは武彦の胸の中に飛び込んだ。

「ありがとう! 私も武兄ィのこと魅力的に思ってるよ! お姉ちゃんに負けないくらい、いっぱい私の体のことを教えるから、いっぱい武兄ィの体のこと、私に教えてね?」
「……はい。これからよろしくお願いします」

 抱き返す武彦。その所作は包容力を感じさせるもので、とても数時間前まではろくに女の体を知らなかった男には見えない……というより、なんだ今の答えは、態度をはっきり示せとは言ったが、姉妹を両方に欲情するなどと告白するとは驚きだ。ああいう時はラリサ一人に対して欲情すると言えばいいものを……っ。

「お姉ちゃん、照れてる……?」
「……んな」

 変な声が出た。
 確かに、不意打ちの返答に驚いてはいたが、それは照れとは違う。

「あくまで想定していたしていたよりも強欲だった私の所有物のことを見直していただけだ」
「惚れ直してくれてたんだって。良かったね武兄ィ!」
「それは、僕の方こそ照れてしまいますね」

 二人。特にラリサは緊張から解放されて想いも成就したためか浮かれており、私の話など耳に入っていないようだった。
 まあ、いいだろう……。ここまでほぼ私が当初考えていた通りに事態は推移している。
 ただ、思惑よりもヤる気が増しているだけだ。ヤる気にさせた責任は当然きっちりと果たしてもらうとしよう。
 私はなごやかな雰囲気を出しつつある二人に言った。

「互いに本心が通じた所で、そろそろ本番といこうか」
「……え」

 二人の表情が疑問に変わるより早く、私は先ほどの鎖で二人を引き寄せ、羽でくるむようにして抱え上げてベッドに向けて跳躍した。

 三人でベッドの上に落ちてスプリングに任せて跳ねていると、まるで子供に戻ったかのようでひどく愉快だ。
 その上機嫌のままに、私は武彦にラリサを押し渡した。

「体は出来上がっている。もらってやるがいい」

 転がってきたラリサを見事受け止めた武彦に言うと、武彦は戸惑った表情で私を見てきた。
 ええい。ここまできて一体何をためらうことがあるというのか。その下半身の欲望のままにラリサを犯してしまえばいいのだ。

「お姉ちゃんはせっかち過ぎなんだよ」
「なに?」

 ラリサの言葉に疑問する。

「この国の人は一人の男の人に一人の女の人って形が多いし、武兄ィからしてみたら教え子とスるってことになるんだから、心の準備だって必要ってことだよ。ね? 武兄ィ」

 そう言いながらも武彦を掴んで離していないあたり、我が妹の心は決まっているようだ。……ふむ。ここに来る前に武彦には妹ともまぐわってもらうと説明しておいた方が良かっただろうか。
 そんなことを考えていると、武彦の股間をしきりに気にしつつ、ラリサが言った。

「お姉ちゃんってそういう情緒とかあんまり分かってないよね」
「ほう……?」

 ラリサの発言に私は説明を求めた。

「武兄ィは人間で、お姉ちゃんとセックスする前は童貞だったんだし、やっぱりもう少し雰囲気とか、そういうものを大事にした方が良いと思うんだよね。ほら、私もお姉ちゃんに素直になってもらう時に夕暮れの教室っていう胸キュンな場所を用意していたわけじゃない? ああいう配慮って経験の浅い人には大事だと思うの。
 お姉ちゃんも、怖い映画ばっかり見てないでこういうことも勉強しておくのも大事だよ」

 本人は最高にロマンティックな場を整えた気でいるようだが、実際にはニンニクで発情してしまった私が自慰を始めてその姿を見られるという屈辱的な状況になっていた。
 武彦が私の顔をうかがいながら何かしら訂正をしようとしているようだが、あの時の私のことを話してもいいものかと考えあぐねているのかオロオロしているだけになっている。見ていて飽きない。

 しかしまあ、ラリサの口が調子よく回りだしたな。
 いよいよとなって緊張しているのだろう。
 とはいえあまり話させていてはせっかく欲情した彼のペニスが萎えてしまいかねん。せっかく高まらせたのだから、この場のホストとしては高まった欲情のままに最後までイッて欲しいではないか。
 なので、私は魔力の口枷を妹の口に巻きつけた。

「んん……っ?!」
「うむ、そうかそうか。武彦。どうやらラリサは激しいまぐわいをお望みのようだ。遠慮なく妹をファックしていいぞ」
「その言い回しはあの演劇の――ミレイちゃんの影響かな?」
「分かるか。以前そのような内容の映画を共に見たのだ」

 故にラリサが思っている以上にはシチュエーションというものを理解しているつもりだが、そればかりを優先していてはいつまでも本懐は遂げられまい。それに、こういう趣向もまた一興だ。

「さあどうした武彦。早くラリサを泣くほど犯してやるがいい」
「いえ、そう簡単にはいきません」
「何だ。君は襲われたい側の人間なのか?」

 これまでずっと童貞だったのはそういうことなのだろうか……。よくこれまで同僚に襲われずにいてくれたものだ。

「そういうわけでもないですよ」
「では私の時といい、君は女に恥をかかせて悦ぶタイプなのかな?」
「いえ、とんでもない!」

 焦った声でそういうと、彼はただ……と続けた。

「ラリサちゃんはまだ中等部ですし、それにフロレスク家のお嬢様をお二人とも僕が関係をもってしまって良いのかと考えてしまって……」

 ラリサが静かになった。妹は仰向けに寝てしおらしく目を閉じている。いつでも襲ってくれといわんばかりの体勢だ。
 私は妹の思いを代弁するつもりで言ってやる。

「またそれで悩むのか。当の本人たちが抱いて欲しいと思っているのだから気にする必要はない。家についても、人間とはまた別の理で統治がなされているのはお前も知っての通りだ。つまらない迷いは捨てよ。ここでは欲望をそのままに果たすことこそが正解なのだ」

 ラリサが首肯し、武彦は私たちに視線を向けて難しい顔をしている。責任を取るということをよく考えてくれているということだ。血を吸ってしまえばそんな葛藤一瞬で融解させることができる。
 だが、例え欲情が一度覚めてしまうとしてもそれはしない。これは彼に与えられた大事な時間だ。私たちと共に生きるという覚悟を、人間とは違う理で生きるという、その意味を理解しようとしているのだろう。色恋以外には聡い彼には今夜にこそ、決めてもらいたい。

 本当なら私とまぐわう時に決めさせるべきだったのだがな……私が先に発情してしまった以上仕方ない。しばし黙っていた武彦はやがて意を決したように面を上げて私に言った。

「ルアナお嬢様、僕は僕の意思でラリサちゃんを抱きます。拘束を解いてあげてください」
「……うむ」

 よく言った。そんな思いと共に、私はラリサにかけていた拘束を解いてやった。
 自由になったラリサに覆いかぶさった武彦が言う。

「ラリサちゃん。いいかい?」

 すぐに頷きが返り、その応答に続くように武彦はラリサに顔を近付けた。
 そして、

「――や、やっぱりダメ!」

 直後にラリサの手でその顔は押し返された。

   ●

「えーと……」

 武彦が情けない声を上げる。
 私も予想外のことに困惑していた。
 ここまでお膳立てができていて、しかもこれはラリサも望んだ性交のはずだ。一体なにがあの子に二の足を踏ませていうというのか……。ダンピール故の恥じらい? 私に発情した体を晒された今となってはそんなもの吹っ切れたものだと思っていたが……。何より、つい今しがたまでラリサ本人も武彦とのまぐわいに肯定的な態度だったではないか。

 こうなってしまうと私でも妹の胸の内は分からない。いっそのこと真意を問いただしてやろうと思っていると、ラリサの方から私に視線を投げてきた。
 その瞳は私に助けを求めるように揺らいでおり、

『お姉ちゃん……ど、どうしよう。私、あの後、その、口、すすいでなくて……』

 念話で送ってこられた話の内容で合点がいく。
 ああ、なるほど。うん。これは確かに恥じらい故の反応だな。
 私に摂取させるためという理由でもなければニンニクの臭いについてこのタイミングで悩むこともなるまいと考えれば、ダンピール故の悩みでもある。

 しかし、劇薬を飲ませたその相手に助けを求めてくるとは……いやまったくあまりにも可愛らしすぎていじめたくなってしまうな。
 私は委細承知したという思いを込めて頷いてやった。ラリサはほっとした顔で頷きを寄越し、そのやり取りを見ていた武彦が戸惑ったまま私たちの顔を交互に見る。

 ああ、可哀想に。出鼻をくじかれてしまって彼の陰茎が少し元気を無くしてしまっているではないか。まったく……、

「世話のやける」

 私は彼の首筋に牙を突き立てた。

「――――?!」

 例の、僅かな皮膚の抵抗が感じられ、そのささやかな障害をあっけなく破って彼の体内に牙を潜り込ませる。

 ……あぁ。

 すっかりこの感触の虜になってしまっている。直後に口いっぱいに広がる彼の命の味も私を捕らえて放さない。

「ル、アナ……」

 血と共に力を抜かれた武彦の体がラリサの上に崩れてしまう前に支える。そのまま吸血を続け、私の口の中に彼を満たしていく。体の深い所で彼の味を楽しみたいと本能が血を嚥下しようとするが、そこをこらえて私は彼の血を口に溜めつつ吸血行為を続けた。

 これ以上血を溜めておくことができなくなって口を離す。武彦が自力で自身を支えることができるようになるまで待ってやると、涙目でこちらを見ているラリサと目が合った。
 まったく、細かいことを気にしているから私が武彦を構ってしまうのだぞ?

『要反省だな』

 そう伝えながら、私は妹の唇に口を押し付けた。

「――んむ?!」

 不意打ちに驚いたらしいラリサが口を固く閉ざす前に私は妹の口の中に舌をねじ込み、繋がった口と口の間から武彦の血を流し込んだ。

 突然口の中に侵入してきた異物の感触に一瞬排除の姿勢を見せたラリサだったが、その異物がなんであるのかを認識したのだろう。私の舌を押し出そうという動きもなりを潜めて大人しく私からの口移しを享受していた。

 彼女の喉がこくん、と鳴る。

 同時に脱力したラリサの口内に彼の血を塗りたくってやる。そうしてから口を離そうとすると、最後の最後で名残惜しそうにラリサの舌が私を追って伸びてきた。

 それに先端で触れてやってから口を離す。
 艶めく妹の唇を舐めてやり、武彦の血で鮮やかに映えさせる。そうして最後の彼女の舌の動きを指摘するつもりで笑んでやると、意図は通じたようで彼女は顔を紅潮させた。

「――」

 ラリサが何かしら言おうと口を開きかけるが、そんなことよりも優先すべきことがあるということを諭してやる。

「これで口がすすげたろう?」

 そしてそろそろ彼の血が――我々にとっての劇薬が身体に回ってくるだろう。

「え?」

 武彦が私の言葉に問いかけを投げてくるが、それに答えてやるよりも早く、ラリサが行動を起こしていた。
 彼女は武彦の頭を掴むと、彼の口を塞ぎにかかる。

「――っ?!」

 吸血から解放されたと思ったら、今度は口を吸われた武彦だが、今回は私がしたものとはその貪欲さが違った。両の手は彼の頭を捕らえたまま、淫液を伝わせていた両脚が彼の腰を挟み、自分の傍から彼が離れることがないように特に念を入れていた。

 それは余裕の欠片もない行動で、だからこそラリサが武彦を必死に求めているのだと分かる。目と目を見つめ合いながら口中を差し出す武彦とそれを貪るラリサの構図を見ていると、その行為はキスというよりも、お互いがそうする関係にあるのだということを確かめるための儀式のようにも見えた。

 武彦の口の中が干上がるのではないかと心配になり始めた頃、ようやくラリサが彼の顔を押しのけるようにして彼の頭を解放した。
 突然口の中を吸われた武彦は、自分の身に何が起こっていたのか理解しきれていないようで、表情を困惑の色に染めていた。

 ようやく私たち姉妹と関係をもつことを承知したというのに、自分から我が妹を犯すことができずにいる。あれほど猛っていた陰茎を萎え気味にさせる程初手でつまずかせてしまった点については多少は同情の余地があるだろう。
 ともあれ、ラリサから積極的に絡んだことによって互いが性交を望んでいるということが明らかになった。私も血を分け与えたかいがあったというものだ。

 ここから仕切り直しとなるだろう。
 もはや二人の間には何の障害もありはすまい。

 佳きかな。と考えていると、ラリサが脚を絡めたまま、口端のだ液を舌で掬った。

「……なにこれ。私、こんな味、知らない」

 生まれて初めて血を口にし、口内粘膜を味わった素直な感想がこぼれていた。
 妹が口にしたのはよりにもよって彼女が愛してやまない人間のものだ。それはもう、大層効いていることだろう。

「とろっとしてて、それで私の中がふわってしてきて、それから、何か体の中からカッて熱くなってきて……」

 うわごとのように訥々と武彦の体液の感想を呟く妹。その顔は本人の言通り、とろとろになるくらいに蕩けている。
 こうなってしまっては、もはやラリサは人間の羞恥を解するダンピールではあってもそれ以上に、より強い快楽への欲求を抑えることのできない魔物の一人だ。

「ねえ、武兄ィ。もっとくれる?」

 よって、発されたその言葉は情欲の熱に浮かされており、それが彼女を普段よりもコケティッシュに見せていた。
 その言葉に返事をできない内に、ラリサは武彦に吸い付いた。

 再三唇を奪われた武彦はもがいている。本人としては不本意だろうが、もがくその様が妙に似合っていて、見ていて飽きがこないのは一体どうしたことだろう。

 とはいえ、今の彼は一方的に体液を吸われているだけではない。彼の股間ではそそり立つ陰茎が体液を射ち込む瞬間に焦がれている。

 武彦本人は捕まった状態から脱しようとしてもがいているのかもしれない。しかし、私からは逃げようとする動きにかこつけてズボンを押し上げて存在感を示しているソレをラリサの太腿に擦り付けているようにしか見えなかった。
 夢中で口を啜っていたラリサも武彦の無意識での行動を理解したのか、それともこちらもまた無意識でなのか、脚をこすり合わせて陰茎に刺激を与え始めた。

 応じるように彼の腰が跳ね、ラリサの喉が幾度目かの嚥下に鳴る。
 武彦の反応に気を良くしたのか、ラリサと武彦の口の中で絡み合う舌の音が濃厚さを増し、武彦の口の中が干上がってしまうのではないかと危惧してしまう程となった。

 そうでなくとも、本能的な動きに終始していて技巧はないとはいえ、魔物の接吻と陰茎への刺激を同時に受け続けているのだ。射精まで昇りつめる瞬間も近いだろう。
 暴発でもしようものなら、私たち全員にとって悲劇だ。
 姉としても、所有者としても、そのような悲劇は回避しなければなるまい。故に、私は絡み合う二人にそっと身を寄せた。

 絡んだラリサの脚を撫でるように触れ、絡め取られていた武彦の腰に手を伸ばす。
 無心に快楽を貪っていた下半身に触れられた武彦は、まるで咎められたかのように動きを止め、その隙に私は彼のズボンを引きずり下ろした。
 次いでシャツへと爪を通して剥ぎ取っていく。

 腕に残った衣服の残骸を破り捨てる頃には、ラリサも私のすることに協力的になっており、衣服を剥ぎ取りやすいように動きを変えるようになっていた。
 そうしながらも彼の口内を蹂躙するような接吻を止める気配がないのには感心する。

 これがダンピールの乱れ具合ということだろうか。ニンニクを盛られた私以上ではないか?
 といっても仕方のない話だろう。普段から輸血パックで血を飲んでいた私と違ってまったく耐性のない状態で武彦の血を飲んだのだ。未知の味に未知の快楽。今まで抑圧されてきた分、余計に身体が求めているのだろう。

 私が最後まで残っていた下着を脱がすと、下着に窮屈を強いられていた陰茎がバネ仕掛けのように勢い良くラリサの太腿を叩いた。
 ペチン、という間の抜けた音がして、ラリサが頭を掴んだまま口は解放する。

 至近距離で彼の顔を見ながら脚が陰茎を挟む。それによる表情の微妙な変化をラリサは楽しんでいるようだった。
 放っておくと射精が始まるまで陰茎をいじり回されるままでそうな武彦を焚き付けるために、私は耳元で囁いた。

「このままされるがままでいいのか? 先生。
 君を求めてよだれを垂らしている生徒の穴はすぐそこだ。君は妹を抱いてくれるのだろう?」

 言うと、脱力していた武彦の肩に力が篭り、陰茎が跳ねてラリサの腿に先走りの橋が繋がった。

「武兄ィ?」
「ラリサちゃん。そろそろ、いいかな?」
「……うん。お姉ちゃんの見ている前で私を犯して。私も武兄ィのものにして」

 答えるラリサの陰部ではまだ幼さを残している無毛の性器が精一杯開いて淫蜜をこぼしながら挿れられる用意を整えている。
 二人共、体と同じくらいには行為が素直になったではないか。素直な二人の姿は私としても喜ばしい。

 だから初めての交接を少し手伝ってやろうと私は武彦の脚の間から手を突っ込んで彼の陰茎を掴んでやった。
 武彦の下半身がビクリと跳ねて、尻がきゅっと締まる。旅暮らしだった上に今でも教壇に立って下肢を日常的に使っている身。尻は見事に引き締まっていた。が、これはいささか力み過ぎだろう。尻穴が隠れるような力の入れ具合から見て、どうやら私の動きで危うく暴発しかけたといったところだろうか……うむ、よし。よく耐えた。
 射精に達しようとする波が収まってきたのか、武彦は尻に過剰に入っていた力を緩めると細く息を吐き出した。一気に濃くなった精の香りに私もクラクラしてくる。

 ともあれ、雄としての意地で暴発をこらえた彼を立て、あまり刺激しないよう配慮しつつ私は陰茎の位置を整えて妹の女陰に狙いを定めた。
 あとはほんの少し、武彦が陰茎を突き出せばそれだけで挿入は完了する。そんな位置だ。
 至近にある互いの性器の熱が伝わっているかのように、雌雄の秘穴から漏れ出る粘液はその量を増していた。

「た、武兄ィ……」

 催促のような、最後通牒のようなラリサの涙声に、武彦はただ行動をもって応えた。
 彼の腰が突き出され、性器の先端が触れ合う。

「――――」
「――――!」

 クチッと粘液にまみれた肉が接触する音を微かに奏でた瞬間。ラリサの腰が跳ねるようにして武彦の陰茎を体内に呑み込んだ。

   ●

 互いが互いを求め合ってぶつかるように挿入の動きを取ったため、ラリサの処女膜が破れる音は一瞬で、ほぼ同時に膣の奥深くまで彼を受け入れていた。

「ぁ、は、入っ……あッ」
「――――――!」

 ラリサは突き上げた腰を激しく痙攣させた。挿入されると同時に絶頂を迎えたのだ。
 絶頂の痙攣に伴う膣の蠕動に、武彦がうめき声を上げる。

 その時にはもう吸い上げられるように彼の射精は始まっていた。

 陰茎を求め続けていた膣がその本懐を遂げることができて淫液をこぼしてむせび泣いて締め付ける動きも、射精のために精液が彼の尿道を駆け抜けていく動きも、その両方が私にはありありと映っていた。

「う、あ"、ナカ……いいよ、武兄ィ、武兄ィ……!!」
「ら――りさ……ッ」

 武彦の腰が震えるごとに、尿道を抜けてラリサの膣内に注がれる精液。その量は震えを繰り返す内に徐々に減っていく。
 やがて射精が収まるのをとっくりと見守った私は、呼吸がつい荒くなってしまうのを唾を呑み込んで抑えた。

 最も深い位置に精液を注がれるために武彦に下半身を押し付けていたラリサは、彼の吐精が終わると「……ぁ」という気の抜けた声を挙げてベッドの上に脱力した。

 一緒に倒れそうになって、だがなんとかラリサを潰しはすまいと武彦が身体を捻る。それによってラリサから陰茎が抜け、膣からゴポリ、と淫液がこぼれ出た。
 互いの性器に幾条も糸を引いてラリサの横に倒れ伏した武彦は、射精の間止まっていた呼吸を思い出したかのように再開した。

「――っはぁ、は……っ」
「へぁ……、……ん……っ」

 なんともいえない気怠さと充足を混ぜたような印象を受ける二人の間の空気。それを数十秒見守って、私は武彦に声をかけた。

「よくやった。見ているだけで孕んでしまいそうな、見事な射精だった」
「え、っと……は、はい……」

 褒めているというのに、なんとも曖昧な表情をしてくれるものだ。

「さあ、そのままでは息をするのも苦しかろう。仰向けになるといい」

 そう促すと、武彦は自分の身体の調子を確かめるようにゆっくりと身を反転させた。
 天井を見上げてぼんやりとしている彼の姿は、それはそれで淫蕩に染まった愛嬌がある。

「見事な射精であったが、ソレはいただけまい?」

 私は彼の陰部で多少大人しくなってはいても未だに十分な硬さを保っているソレに視線をやる。

「いきなり引き抜かれてしまったものだから君のソレから寝具に体液が付いてしまったではないか」
「す、すみません」

 そうは言うが、既に二人の淫液によってシーツはシミだらけになっている。今更陰茎から垂れた淫液がシーツに付いた所で咎めるようなこともないが、こう言っておけば彼も次の私の行動を拒否することはできまい。

「うむ、だからそれは一度きれいに清めてやらねばなるまい」

 どういうことか? という質問よりも早く、私は武彦の陰茎に舌を這わせた。

「…………っ」

 挨拶代わりに亀頭を舌でこすると、武彦の腿に力が入ってビクビクと震えるが、逃げるような気配はない。
 一度達して満足し、二人の情事の匂いを香らせる陰茎。まさに先程精液が駆けていった裏筋を舐め辿っては体液を口の中に収めていく。

「ルアナ様……そんな、ところ……」
「君は……ん、そんな、人に舐めさせることもできないような所を私と妹の大事な所に挿れたのか?」
「い、いえ……ですが……っ」

 喘ぐ武彦を困らせながら、私は陰嚢を口で包んでは離してといった行為を繰り返し、口に玉が含まれるたびに陰茎が力を取り戻していく様を観察した。
 屹立したそれは私たち姉妹を貫いた己を誇るように雄々しく濡れ光っており、思わず見とれてしまいそうだった。

 ……ふふ、もう次のために準備をしているのか、愛い奴め。

 先端に膨らんだ先走りの滴を唇で吸い上げ、武彦の小さな呻きを聞きながら陰茎にしばしの別れを告げる。
 そして私は幸せそうな顔でまどろんでいる妹へとにじり寄った。

「あ、お姉ちゃん……」

 呆けたような純粋な笑顔が向けられてくる。
 しばらく向けられることのなかった表情だ。
 見慣れていたはずのそれに安堵を感じながら、私は妹に口付けた。

「――?」

 反抗する様子もなく、素直に口付けが受け入れられる。
 素直なのは良いことだ。ではご褒美をあげなければな。
 私は口に含んでいたものをラリサの中に分け与えた。

「ん……! ん、ん、ん」

 それは武彦の精液とラリサの淫液と破瓜の血を混ぜ合わせたもので、私の味覚には例えようもなく甘く、それでいてほのかに舌が痺れるような苦みを残すものとして感じられた。

 ラリサにはどのように感じられるのかと思えば、彼女は私の口の中に自分から舌を差し込んで、熱心に私の舌を舐め取り始めた。
 ……美味であるようだ。

 舌に絡む軟体の生暖かい感触には武彦の精の気配が残っており、妹の唾液と混ざって複雑さを増した味は、私の味覚に未知の快感を送ってくる。
 だが、これが最高ではあるまい。
 もっと芳醇な味を知りたくなり、私は自らの舌を牙で突いた。

 体液のカクテルに起きた変化は劇的だった。

 後を引いていた苦味が消え失せ、味蕾から幸福な満足感が全身に伝播していく。

 ラリサに与えるだけのつもりだったカクテルは、いつの間にか与えたものを送り返され、それを堪能してはまた送り、ついでとばかりに相手の口内を舌で愛撫している。同じようにラリサも返してきて、互いに口内のものを交換しては刻一刻と変わるその味を愉しんでいた。

 いつまでも愉しんでいたいところだったが、無意識の内に液体が喉の奥に滑り落ちていくせいで極上のカクテルは少しずつ量を減らしていった。
 最後の一滴まで大事に舐めしゃぶってようやく私たちは口を離す。

 ラリサの喉が妙に官能的にコクン、と動き、その体が荒い息とともに小刻みに震える。

 軽い絶頂の震えが収まるまでラリサを抱いてやり、呼吸が落ち着くのを待って手をどけると、絡んでいた脚がそっと閉じられて私を離してくれない。その件について触れることなく、妹は言う。

「……武兄ィの、すごかった」
「そうだな」
「私、トんじゃってた」
「幸せそうだったぞ」
「うん……お姉ちゃん。今の、何を飲ませてくれたの?」
「お前たちの体液のカクテルに、途中から私の血も追加した」
「頭ふわふわしちゃうくらいおいしかった。お姉ちゃんの血の味も、お口の味も良かったよ。――武兄ィには敵わないけどね」
「それは同感だ」

 言うと、少し芯を持ち直した声でラリサが問うてきた。

「ね、どう? お姉ちゃん、私たちが居なくなっちゃったら、嫌?」
「……そうだな」

 より密着してくる脚に口元が緩む。
 今朝までは二人が幸せになるのならば最悪、二人が私のもとから去っていくことになろうとも構わないと考えていたはずだというのに、もはや二人が手元に居ないということに耐えられそうもなかった。

「お前たちの居ない生は、きっとつまらないな」

 言うと、ラリサは「そうでしょ?」と返してきた。
 その自信に溢れた顔に苦笑しながら、私は頷きを返す。
 改めて自分に誓う。

 二人を私のもとで幸福にする。そうすることによって私自身が幸福を得るので、これはつまりは二人の幸福は私のためにこそ満たされることとなる。
 強欲なことだという自覚はある。が、やると決めたからには私の全てをもって彼らを満足させる所存なので問題はあるまい。
 これから先の生の展望が明るいことにほくそ笑んでいると、ラリサが「また何か良くないこと考えてそう」とからかってきた。

 私としては、はなはだ心外だ。鼻で息を吐くと、ラリサは私を抱きしめた。

「ラリサ?」

 返事はないが、甘えているのだろう。
 悪い気はしないので好きなようにさせてやろうと思っていると、不意に唇に生ぬるい感触が来た。
 口を吸われたのだ。
 それくらいならば大した問題でもない。が、ラリサからは含み笑いのような声が聞こえてきた。
 様子がおかしいと思った時にはもう手遅れだった。
 ラリサは口を通して自身の魔力を流し込んできたのだ。

「――っ?!」

 振りほどこうにも、もう完全に体を掴まれていて抜け出せない。何より武彦とラリサの体液のカクテルは私の性感を刺激しており、ヴァンパイアとしての私の力は今や大いに制限されている。

 ――油断した。

 普段ならばある程度警戒をしているのだが、先程までの、私が主導権を握っていた状況と、そのことに対するラリサの納得の態度とで警戒するという心構えがなくなっていた。

 それ以上に、この、狙ったようなタイミングでのコレはラリサが思いつけるようなことではない。生徒会室での襲撃といい、あの師範の影が覗える。あのご老体、剣道以外にも暗殺術でも仕込んでいるのだろうか。

 どうすることもできないうちに身体にダンピールの魔力が浸透してくる。
 既に妹と彼とのまぐわいを見せられて発情している私にはこれを耐える術はない。
 瞬く間に頭の中が熱っぽくなり、武彦のことが気になり、彼の姿を探そうとする。しかしそれはラリサに止められた。

 合わさった唇越しに彼女の口が「だぁめ」と動く。
 舌が差し入れられてカクテルのお返しとばかりに私の舌に魔力が押し付けられた。

「――ん、ぐ、む……っ」

 ダンピールの魔力は、二人のまぐわいを見守るために発情を押さえ込んでいた私の理性と共に腰を砕いた。
 情事の後の淫臭薫る妹の体に崩れ落ちた私は、淫気にあてられながら全身を震わせて浅いオーガズムを迎えた。

「……っ、……ん……っ」

 それをかわきりとして、膣の中から内脚の微細な痙攣と共に淫液が滾々とあふれ出る。
 これ以上高められては熱を鎮めてもらわねば外を歩くことすらままならなくなってしまう。
 私を受け止めて頭を撫でつけてきているラリサへと私は言う。

「も、もう戯れは良いだろう」
「だーめ」

「だって」と彼女は言葉を継いだ。
「私たちの旦那様が、もっとシたいって思ってるんだもん、ね?」

 そんなラリサの呼びかけに応じてか、倒れていた武彦がもぞもぞと動き出す気配がした。
 彼の方に振り向こうとすると、ラリサは私の脚を解放し、その代わりに顔を掴んできた。

 首を止められて振り向くことができずに何のつもりかと訊こうとすると、背後で腰が掴まれ、持ち上げられる。
 下半身が浮いてしまうので仕方なしに力がうまく入らず震え気味の脚で体を支えると、私の腰を掴んでいた武彦がショーツを引っ張った。
 サイドで留められているヒモがちぎれて陰部が武彦の眼前で露わになる。

「武彦。そう急くな。待――」

 言いかけた言葉は性器を貫いた突然の衝撃に打ち消された。

「――くぁッ?!」

 間違えようもない彼の陰茎。それが私の膣内に侵入していた。
 このタイミングでの二度目の挿入を予想していなかったこともあり、すっかり発情してしまっていた私はその一突きで膝を崩してしまった。
 いきなり力が抜けた私の体を支えきれなかったのだろう、武彦の手から私の腰が滑る。深くまで挿入された陰茎が抜けてしまいそうになるが、寸でのところでラリサが膝を立てて私の下半身を支えた。

「もう、危ないよお姉ちゃん。武兄ィも、お姉ちゃんをちゃんと支えてあげてね」
「……ッ、……ッ」
「――ぁ、は、はい」

 辛うじて応えられている武彦と違い、私は膣を焼く灼熱感と、それがもたらす快感を処理しきれずそれどころではなかった。

「ルアナおじょう、さま……申しわけ……ご、ざいません……っ!」

 謝罪の言葉と共に、私の中に侵入している陰茎が引いて襞を逆撫でしてくる。

「――っ――!」

 そうして加えられる刺激がたまらず、また、私の襞に触れて素直に悦んでいる彼の陰茎が愛おしい。

 膣が彼を逃さないように締め付けを強くすると、先端の膨らみが私の入り口に引っかかった。

「――っぐ!」

 カリのくびれを締められる形になった武彦が呻き、私の腰が一層強く掴まれる。

 肉に浅く彼の指が食い込んでくる感触が私の興奮を高め、次の瞬間には彼の腰が私の尻に打ち付けられていた。
 パンッ! という音と共に結合部から淫液がブジュっと噴出する。

 密着させた腰の奥では子宮の入り口に彼の先端が食い込んで、ぐりぐりと抉られていく。

「――っ……! ……っ――!!」

 体の芯を貫く快感に為す術もなく弄ばれる身体は、彼を歓迎して熱烈な抱擁を行う。
 背後に彼の食いしばった歯の間からこぼすような吐息と、腰を引き抜きまた打ち付ける音を聞いて私は鳴いた。

「ッ――ぁ、っ……ん、が! っ! ッ!」

 一突きごとに私の奥が彼の子種を迎えるための入り口を開いていく。
 快楽に染まる女陰が私の中心を彼に明け渡すことを望んでいた。

「武兄ィ、幸せそう。お姉ちゃんのナカ、いいんだね」

 ラリサの声がして、武彦の腰の動きが大人しいものになった。
 誰かに見られているということが気になるのだろうか?

「……あ、つい僕……その、濡れてて、ルアナお嬢様の中に誘われたような気がして、しまって……」

 主を犯しておいてする言い訳としては最悪なものだが、まあ武彦が言わんとしていることは分からなくもない。何より、私自身彼の認識は正しいと思う。ラリサもうんうんと頷いており、

「その通りだよ。流石武兄ィ」

 そうして私の顔に手を触れた。

「お姉ちゃんも、すっごく嬉しそうだもんね?」
「……っ……っ……!」

 妹の言葉に応えらる程の余裕は私にはなく、せめて言葉の代わりになるようにと、力の入らない腰をなんとか捻って彼が最初の勢いを取り戻すように激励する。

 膣の中で彼の陰茎をこね回しながら背後に視線を送ると、彼の顔は陶酔に染め上げられていた。

 当然だ。吸血によって高められた性欲とラリサとのまぐわいで交歓された精と魔力。放っておいても射精してしまってもおかしくないところに吸血した当人である私の膣へと挿入できたのだ。今射精せずに居られるのは射精を済ませたことによって蘇った彼の一欠片の理性と、思いの外きっちりと彼の精を搾っていたラリサのおかげにほかならない。……我が妹ながら貪欲なものだ。

 そのおかげというべきか、彼は今、常ならば絶頂に至る程の快楽を常に受け続けている状態ということになる。
 教師としての立場や所有物としての大人しい、覇気に乏しい人柄がなりを潜めて私の中から人生最高の快楽を引き出そうとしている獣のような雄々しさをその顔に浮かべているのもむべからぬことであろう。

 それでもラリサと会話を交わすことができ、今こうして腰の勢いが殺しきれないまでも弱まっているということは、それだけ彼の中で理性が幅を利かせているということだろう。

 まったく、ラリサがその通りだと肯定したというのに、本能のままに私を犯すことすら私の明確な許可がなければダメだと考えているのだろうか? だとしたら、なんと愛いのだろう。

「おじょうさ――」

 目が合った私に何かを言いかけた武彦を遮って私は言った。

「構わ、な……い……っ、私が、ゆるすっ! 私を、使って、私の中に、子種を……まいてっ!」
「――――!」

 震える呼吸が聞こえた。
 絞り出した言葉は、彼に遠慮の一線を超えさせる言葉足り得たようだ。
 腰を掴む力が戻り、入り口付近まで引き抜かれた陰茎がビクビクと震えて私の膣に擦り付けられる。

「僕は……もうっ!」
「いい……あいして……る……っ、武彦!」

 何故か泣きそうな武彦にもう一度許しを与える。
 もう彼からの言葉はなかった。
 バジュッ、という音と共に彼の陰茎が私の奥を抉りにかかる。

「――ああッ!」

 先の言葉で私の中の何もかもが完全に彼のものになると決めたようで、子宮の入り口が亀頭を内部に受け入れ始めていた。

「――――ぁ、はぅ……!」

 生徒会室での時のように溶け落ちていく私たち。どろどろになる理性そのもののように、結合部から溢れた淫液がとろとろと垂れてはラリサの上に滴っていく。
 学園の者たちや使用人の皆にはとても見せることができない顔をしているであろう私を眺めながらラリサが「うわぁ……」とどこか羨ましそうに感嘆の声を漏らす。

「お姉ちゃん。それを言ったら自分が不利になるって分かっててもその人に言うべきことを言っちゃうことあるよね」

 どことなく尊敬されているような、それでいて呆れられているような不思議な口調で彼女は続ける。

「私も、もっと早くにそういう所に気付いていたら、ケンカなんてしなかったのかもしれないね」

 最後はしんみりと言うと、妹は私の後頭部を掴んだ。

「だから、今度はお姉ちゃんが私の目の前で気持ちよく犯されて、ね?」

 いまいち繋がらないことを言った笑顔のラリサは、私の後頭部を抱き寄せて口を塞いだ。

 ハイペースで貪り、交換し、与えあったためか、すっかり馴染んだ妹の唇から再度魔力が流し込まれる。

 そうなればもう他所に思考を巡らせる余裕は蒸発し、口と背後から与えられる違う種類の快楽の重なりにしか頭が回らなくなる。
 そこにだけ特化された感覚が膣内の彼の存在を確かめる。

 妹の中に思うさま射精してからほとんど間をおかずにいるというのに、武彦の陰茎は生徒会室で私を貫いた時と何の遜色もない硬さと大きさを保って――いや、今まさに私の膣内で私の子宮を埋めようとするように彼の陰茎は膨張を続けていた。

 私の身体を掘削しようとでもいうような荒っぽい彼の動きで作られる尻臀を打つ音がだんだんと激しくなっていく。
 ラリサの舌が私の舌と絡む粘質の音以上に私の耳朶を打つそれは、どこかで聞いたことのある音律で――ああ……。

 そうだ。これは昔、私の尻を彼が叩いて叱った時の音に似ている。
 よく考えてみれば、二人にいいように責められているという今のこの状態も、私が妹に対して傍若無人に振る舞った責めを受けているように思えなくもない。

 そう考えてみると、昔を思い出したことと相まって、私を攻める痛みにもならない尻と腰とが奏でる打擲音は、あの時初めて味わった、いいようにされるという弱者の側の感覚の再現のようだった。

 あの時はそれを屈辱と感じた。しかし今、彼に愛情と欲望をもって同じようなものを与えられてみると、理性とともに自尊心すら溶け出してしまったのか、不思議と今のコレが甘美な響きをもつものとして感じられた。
 これまで良いようにしてきた相手と立場を入れ替えて犯される。そういうやり取りの倒錯的な愉しみに目覚め、気付けばもっと激しく突いてくれといわんばかりにかりに武彦に腰を押し付けている。

「おじょうさま……っ!」

 彼の手が私の手を掴んで強引に引っ張り上げた。
 そのまま手綱を引くようにして私への責めが激化する。
 武彦の荒々しい息遣いが伝わってきて、この男の中に隠れていた獣性に惚れ直していく。

 上体が上がってラリサの口が離れた。
 唾液の橋が繋がり、それが彼の欲望に翻弄される私の身体の動きに合わせて大きく揺れては儚く切れる。

「あ"あ"あ"あ"ッ」

 バチュッ! と一突きが加えられるたびに私の総身が高みで果てる。
 果てているのに落ちることなく更に高みへ快感が打ち鳴らされていく。

「……ん。ぁ、いいなぁ……っ」

 ラリサがぽつりともらす。
 彼女の指は自分の性器を弄っていた。私と武彦の混合液を絡めた指で自身の膣内の精液を塗り込もうとするような自慰は、視覚から私たちを愛撫するように官能的で、限界にあった私たちは、それぞれの刺激に影響され合うようにその瞬間を共に迎えた。

「ッ――あっ、ぃッ――ああ!!」

 部屋中に反響した悲鳴が誰のものであったのかを判断できるだけの理性を残している者は居なかった。
 ただ、その瞬間、私の一番奥に到達した武彦の先端がぷっくりと膨らんで、やがて私たちの子が宿るその場所に直接精の奔流が注ぎ込まれたことだけは本能で理解できた。

「あああああああああ――!!」

 子宮が彼の精液で満たされていくのを幸福と感じながら、私は意識を暗転させた。

   ●

 目を覚ました時には、私はラリサの上に倒れており、私の上には武彦の体がのしかかっていた。

 体の下にある妹の体温と、上から被さってくる武彦の体温。たしかな存在感を伴うそれらを一身に感じることができることを幸福だと思い、寝ぼけたままでしばらくその幸福を味わっていると、ラリサと目が合った。

「……私はどれほど眠っていた?」
「一分くらいしか経ってないよ……ところでお姉ちゃん。ちょっと重い……」
「ああ、胸が重かったか。すまないな」
「ちーがーいーまーすぅ〜」

 そう言うと、ラリサはヌルついた手で私の胸を揉み「……む」と唸った。

「わ、私だってその内お姉ちゃんくらいおっきくなるもん――あ、でも武兄ィがちっさい方が好きっていうんならこのままでもいいかな」

 虚脱した体で荒い呼吸を繰り返していた武彦がとぎれとぎれに口を開く。

「ぼ、僕は……どちらでも……というか、おじょう様方がお嬢様方であるなら……僕はそれがいいので」

 言いながら、武彦は私の上でもぞもぞと動いた。

 私の子宮に全て出し切ったのか、徐々に小さくなっていく陰茎を感じる。膣を締めて刺激を加えてみるが、身震いするように陰茎が跳ねはするものの大きくなる様子はない。どうやら今の彼の限界が訪れたようだ。

 彼は腕に力を入れて私の上からどこうとしているようだが、しばらく腰を震わせた後に脱力して、申し訳なさそうに私の上に体重を戻した。

「ルアナお嬢様……すみません」
「腰が抜けてしまったのか。しようのない奴め」

 ラリサが不満をこぼしたこともあるので、私は彼に潰されていた羽に力を入れて彼を包み込みラリサの横に転がした。
 私も力がうまく入らない体を動かしてラリサとは逆側に仰向けで寝そべる。
 天井を漫然と眺めて呼吸を整えているのも味気なくなり、彼の腕に寄り添うようにすると、同じように彼に頭を預けるラリサと目が合った。

 彼女はためらうように口をモゴモゴさせ、

「あの、お姉ちゃん」
「うん?」
「ごめんなさい」
「何度も聞いたな」

 これが何に対しての謝罪なのか、このようにドロドロになってしまっていては判然としないが、それが何に対しての謝罪であろうとも、最愛の妹が謝ってくるのならば私の返事は決まっていた。

「かまわないさ。
 それよりも、武彦とのまぐわいは気持ち良かったか?」

「うん、私、こんなに幸せでいいのかなって思っちゃった」
「そうか……」

 そうであるのなら、私としては願ったりだ。

「私も、夜会で武彦が生徒人気があると聞いてから少し焦ってしまっていたところもある。ラリサにはラリサの考えがあるということを深く考慮しなかったのは失策だった。二人には理不尽に当たってしなっていたことだろう。反省している」
「いいよお姉ちゃん。やっぱりお姉ちゃんは優しい私のお姉ちゃんだって分かって嬉しかったから」

 姉妹でお互いの反省を許し合っていると、武彦が「えっと……」と呟いた。

「僕、生徒の皆からいい先生だって思われてるってこと?」
「……そういう所がダメなせいで人気があるということだ」

 私の言葉の意が汲み取れないのか、疑問符を頭に浮かべていそうな顔の武彦にどう諭してやろうかと考えていると、ラリサが誇らしそうに呟いた。

「そっか、武兄ィ、人気なんだね……」
「まあそういうことだな。我々姉妹を懸想させているのだから、そのくらいの魅力は持っていて然るべきだろう」
「やっぱりそうだよね。お姉ちゃん!」

 ラリサは武彦に強く抱きついた。
 私もそれに倣って自分がどれほど罪作りなのか分かっていない彼の腕を抱きしめる。

「なんかいいね。こういうの」
「……そうだな」
「あの、お二人とも……?」

 困惑している武彦を置いて二人で笑みを交わしていると、やがて彼は嬉しそうに言った。

「お二人とも、仲直りをされたみたいで、本当に良かったです」

 無邪気なものだ。そう思いながら、私は彼に言葉を放つ。

「それはそれとして、君にはこれから人間の身でありながら私たちを惚れさせて更に処女を受け取った。その責任について話さねばならない。覚悟はいいか?」

 本当ならラリサの処女を散らした後にするつもりの話だったのだが、少し遅くなってしまった。
 連続して射精した結果弛緩していた武彦の体に力が篭もる。

「はい。何なりと申し付けてください」
「お姉ちゃん……?」

 ラリサがどことなく不安そうに私を見てくる。
 私としてもここのやり取りを今更間違えるつもりはない。

「責任の取り方など、いちいち言う程のことでは無いと思うのだがな、敢えて言おうか。
 なに、単純なことだ。だが、とても重要なことだ。
 どうか、私たちをその生涯に渡って愛し続けると、今この場でそう誓って欲しい」

 傲然と言い放つつもりが何故か懇願の形になったそれに、武彦は続く言葉を待つようにしばらく間を空けて、だが私から続く言葉がないことで拍子抜けしたように言った。

「……あの、それだけですか?」
「それだけとは、また随分と大きく出てきてくれたものだ」
「いえ、お嬢様のお言葉を軽く考えているわけではもちろんないんですけど……」

 武彦はしばらく迷うように逡巡し、

「その、僕みたいな地位も生まれの高貴さも持ち合わせがないような奴がお二人の生涯の相手でいいのかと思いまして……。
 ルアナお嬢様が高等部に上がってから家庭教師の任を解かれたり、ラリサちゃんにも僕を頼らないようにと言い含めておられたので、僕、その内に屋敷から追い出されたりするのかな。とか、考えていたので……嬉しいといいますか、驚いているんです」

「ほら、お姉ちゃんが武兄ィをいじめるから武兄ィ、自信無くしちゃったよ」

 ラリサが片手を伸ばして武彦の頭を撫でる。
 よしよしと頭を撫で回している妹が少し羨ましくもあるが、そうさせる原因となった私は彼女の特権を眺めているしかない。
 彼の負担にならないようにと思って言ったことで彼が追い詰められていたとあってはどうしようもない。

「すまない。私としては武彦の教員としての仕事に差し障りがないようにと思っていたのだが、うまく意図を伝えられなかった私のミスだ」
「あ、いえ……」
「ここ最近になって使用人の仕事に手を出し始めたのは、まさか本当に使用人として屋敷に残ろうとしていたのか?」
「え、ええ、まあ。お恥ずかしながら、僕でもまだ役に立つことはあるんだと知ってもらいたくて……」

 ……やはり、そういうことか。
 師範が言っていた、武彦が引きずっている疲れとはこのことが原因だったのだろう。
 ラリサとも、結局は互いに劇物の送り合いになってこうなるのだったら最初から私の中にある武彦への想いを認めた上で全て話してしまえばよかったのかもしれん。
 どうにもこの件については失策続きだ。

「私は、てっきり、君がこの屋敷から出て行きたいがために私の指示を無視しているのではと考えてしまっていた」

 その時に感じていたイライラは、つまりは彼が居なくなってしまうかもしれないということに対する不安だったのだろう。

「すみません。僕はこのお屋敷……というよりもお二人からできるならば離れたくはないと思っていて、なんとか僕のことを捨てないでいてもらえるようにと色々やってみたのですが……目立とうなどと、慣れないことはするものではないですね。裏目にばかり出てしまいました」

 困った笑みで言う彼に、ラリサが反応した。

「え、武兄ィ、そんなに私たちと離れたくなかったの? いつから? 昔から?」

 その問いかけは、私もラリサもその内心を白状した問いだ。
 しかもこれは私としては最初のときに強引に襲ってしまったこともあって積極的に訊くことにためらいがあった、まぐわう前の彼の気持ちに対する問いだった。ここでラリサが追究したのは天然なのか計算なのか。いずれにせよ、ここまで三者がすれ違っていた以上、改めて全員の彼の本心がどういったものだったのか確認するのはおそらく悪いことではないだろう。

 武彦は沈黙している。何やら悩んでいるようだ。

「答えづらいのなら無理に答える必要はないぞ。私もラリサも大して気にしない。未来において君が私たちから離れがたくなることは決定しているのだからな」

 逃げ道を用意すると、武彦は「いえ、そうではなくて」と歯切れ悪く返してきた。

「僕の中にあったお二人と離れがたくなっていったこの想いを伝えるにはどうしたらいいだろうと考えていまして……ええと、お二人に僕の過去のことをお話してもよろしいですか?」

「詳しく」「聴こうか」

 私たちは彼を放さないようにガッチリと掴んでいた。
 興味津津の私たちの様子に安心したのか、武彦は「それでは……」と遠い所を見るように目を細めた。

   ●

「小さい頃に僕の両親は死んでしまいました。

 あの当時はアンデッド化する可能性もそう高くはなくて、僕は遠縁の親戚の家に引き取られることになったんです。
 悪い人たちでは決してなくて、だからこそ僕はおじさんやおばさんに迷惑をかけないように生きなくちゃいけないと思いました。強迫観念みたいなもので、それはもう頑張って手のかからない子供でいようとしたんです。

 最初はけっこう苦労したのですけど、いつの頃からかそれが普通になって、気がつけば何も考えなくても僕は地味な、居ても居なくても問題がないような位置に潜り込んで学校生活を送るようになっていました。

 やがて独り立ちできる年齢になって、育ててくれた家を出てから気付いたら、僕には学校という枠を離れた後でも友達で居てくれる人とか、頼ってくれる後輩とか、そういった僕個人と繋がる知り合いが一人も居なかったんです。

 そういう生き方をしてきたのだから仕方ないこと、と思っていたのですけど……でも、僕は家を出た。
 本当はそんな生き方にずっと寂しさを感じていたんだと思います。こんな僕でも替えが利かないたった一人だと誰かに認めてもらいたいと思って、そういった出会いを求めて僕は新天地に旅立ちました。

 だけど、どうもあまり器用な生き方が出来る性質じゃないのか、行く先行く先で馴染むことはできても、どうしても他人との繋がりを作ることはうまくできませんでした。

 そんな自分に嫌気が差しては別の場所に移動して、という生活を繰り返していたある時に、僕は魔界に流されてしまった。
 何が起きたのか分からずに彷徨って行き倒れていた所を救われて、紹介されたフロレスクの屋敷で使用人として旦那様のお世話をさせていただいて、その時にお嬢様方と出会ったんです。

 魔界っていう、これ以上無いほどの新天地での生活だったんですけど、そこでも僕はうまく使用人仲間たちと仲良くなることはできなかった……まあ、屋敷の使用人は女性ばかりだったから元から難易度は高かったのだけど、それでもこんなざまの自分は嫌でしたね。

 やがてフロレスク家がこっちの世界の学園に興味を持った時、僕はお嬢様方の留学に合わせてこちらの世界に戻って来て、家庭教師という立場になりました。

 家庭教師――それも幼い頃から知っている君たちのです。親戚のおじさんおばさん以外だと初めてこんなに長い間付き合いが続いた人ということになるし、家庭教師という立場はあの広い屋敷にあって僕一人に与えられた職務で、これは僕が僕として認められるチャンスだと思いました。

 ルアナお嬢様は覚えておられるか分かりませんが、家庭教師としての職務を全うするためにお嬢様を叱ったことが一度だけあったんです。あの後、お嬢様は僕を所有物と言ってフロレスクの家付きではなく、お嬢様直属の家庭教師としてくれた。

 正直、替えの利かない道具になれたかもしれないと、その時は嬉しかったです。

 よりいっそう役割を頑張って果たして、そうしている内に月日が経ってお二人が成長して、僕なんかじゃあ隣に立つのも気後れするぐらいに可愛く綺麗になっていくのを見ていて、僕は……きっと心を奪われていました。愛着と執着が湧いたんです。今でもよく理解できないけど、これが、たぶん恋なんじゃないかなと思います。たぶん初恋ってことになるのかな?

 いままでの僕に足らなかったのは、この執着だったんだと思います。それを持ってから、僕はなんとしてもここに居たいと思うようになったから。美しい二人の中で自分が居なくてはならない人物になれるように頑張って働いて、でも、家庭教師も解任されてしまったから怖くなってしまったんです。

 教師としての居場所も学園にできて、新しく師範のような凄い方と会えて友人になれたっていうのにね。すっかり目的が変わっていて、僕はもうお二人の中に居場所が欲しくて仕方がなくなっていました。

 それで、家庭教師が無理ならせめて使用人としてでもと思って頑張ってみたんですが、ついにルアナお嬢様に怒られてしまった。慣れないことはするもんじゃないですね。おかげでラリサちゃんとルアナお嬢様の仲まで悪くなって気が気じゃなくなって、それを見抜かれて師範には相当心配をかけてしまいました。
 なんとかルアナお嬢様にご機嫌を直していただこうとしていたら、学園でラリサちゃんにルアナお嬢様がおかしくなったと聞いて……あとはお嬢様もご存知の通りです」

 そこまで話して、武彦は長くため息をついた。

「――僕は、とうの昔にお嬢様方が居なくては生きていけなくなっていたんだと思います。
 これで教師だなんて、笑わせる話ですよね」

「じめじめした話で申し訳ないです」と笑う武彦に私は言ってやった。

「そんなことに思い悩んでいたのか」

 武彦が長く胸に秘めていた想いを聞いて、私はこの男がよりいっそう愛しくなっていた。

「お前は、あの叱責の時に私に対して領主としての生き方を示した人間だ。私の生き方を決定づけた、私の人生に消えない標を立てた唯一無二の人間だ。自分の価値を過小評価するのはやめろ。私の所有物なら胸を張れ」
「これまで絶対だったお姉ちゃんをビシっと躾けた武兄ィは私のヒーローなんだよ。
 それに、先生としても私にとっては唯一かな。他の先生の授業だとなんか頭に入らないんだもん」

 そう言ってラリサは武彦に脚を絡めた。
 積極的な妹に負けまいと私も脚を絡める。

「皆が惚れあっていたわけだ……思えば遠回りをしたものだな」
「ええ……ありがとう、ございます」
「泣くな。今日はただでさえ体液を出しっぱなしなのに、これ以上出すと倒れるかもしれんぞ」

 涙声の武彦に苦笑して、私は彼の頬を伝う涙を舐めとった。
 血と似た、だが塩の風味が強いそれは、私の身体をほんのりと温めていく。
 なんと美味なのか。この男はやはり罪作りだ。
 そう感想していると、向かいで私の行為を見ていたラリサが私に負けまいと彼の顔をそっと舐めようとして――その時部屋の扉が開いた。

「?!」「?!」「……っ」

 私たちが注視する中、扉を開けたまま動きを止めて呆然としていたのは落ち武者の使用人だった。
 彼女の方からも私たちを見返してくる……というか、私たちが裸であるのを確認して目を見開いて固まっていた。

 私たちが武彦に寄り添う姿。そうでなくともこの部屋に満ちる淫臭だ。何が行われていたのかなどわざわざ考えるまでもない。

「こういうことなので、今夜は食事も何も必要ない。壊れた扉の補修も明日してもらえれば良い。それと、もう私用の血は必要なくなったと病院に連絡しておいてくれ」
「は、はっ! かしこまりました!」

 何度も私たちのことを盗み見ながら部屋から出ていく彼女を見送ると、ラリサが口を開いた。

「あの、お姉ちゃん。これってどういうこと?」
「私が武彦と結ばれて、そこに至る流れがラリサの奸計であると判明した際、こうすることは決めていたのでな。元々武彦に懸想する娘が現れないように彼女たちに暇を出していたので、お前たちが結ばれるのならもう屋敷から遠ざける必要もない。だから、まあ時間がある者だけでも明朝から顔を出してくれると助かると言っておいたのだが……仕事熱心な者が居たようだな」

 あのジパング産の落ち武者娘は真面目に見えて実はなかなかにそういう事に興味津津な娘だ。もしかしたらミレイ辺りから私たちがどうしているのか聞いたのかもしれない。

「そうなんだ……。これで私たち皆に公認だね!」

 はしゃいでいるラリサと違って武彦は頭が痛そうだ。

「……僕、旦那様たちに殺されたりしないですかね……」
「大丈夫だよ武兄ィ! ね? お姉ちゃん」
「そうだな。私たちが選んだ相手のことをだめだと言うのなら私たちが家を乗っ取るなり出るなりして私たちの心を貫くまでだ」
「は、話し合いでいきましょうね……?」
「武兄ィが言うんなら私そうするー」

 そう言ってラリサは武彦の股間に手を伸ばす。私も同じタイミングで彼の陰茎を掴んでいた。
 手の中のモノを二人でマッサージしてみるが、やはり陰茎には力がなかなか戻ってこない。

「しっかりするんだ武彦。君を私たち付けにした父様はともかく、母様の方は説得が必要かもしれないのだから、そのためにも君には早くインキュバスになってもらいたいのだ。それだけで交渉の難易度は各段に下がる」
「そのためには私たちといっぱいエッチしなきゃいけないんだから、ね? がんばれ、がんばれ」
「いえ、そうはいいましても……そうでなくても美人なお二人に囲まれていると萎縮する部分もあると言いますか……」
「美人だってお姉ちゃん!」
「まあ、事実ではあるが、これから毎日まぐわうのだ。気後れしてどうする」

 私たちは武彦の首に顔を寄せた。

「じゃあ、早く私たちに慣れるのと、褒めてくれたお礼にチューってしてあげる」
「言われて悪い気がするものでもないしな。もっと褒めるといい」

 そういえば、ラリサは自身での吸血はこれが初めてとなる。

「直接吸う感覚。心して味わうといい」
「うん……っ!」
「え、ちょっと。もう今夜は一度おやすみにしませんか? お二人も初めてで辛いのでは?」
「ここでお預けの方が辛いよ?」
「まったくだな」

 なに、私たちの吸血を受ければ武彦とて今の私たち以上に交わりたくてたまらなくなるのは目に見えている。だから、

「期待しているぞ。我が所有物」
「武兄ィ、もっともっと、愛してね?」

 私たちがその首筋に情愛たっぷりに牙を埋めた瞬間、固く繋がれた私たちの手の中で彼が膨らみ、熱い精が溢れた。

   ●

「武彦どうした? そろそろ出発する時間だぞ?」

 早朝の屋敷。朝支度を整えた私は武彦の部屋の前で声をかける。
 部屋の中からはガタガタと音がして、彼の声が返ってきた。

「はい、すみませんルアナお嬢様。すぐに」

 そう言って出てきた彼は手になにやら封筒を握っていた。

「武兄ィ、誰かにお手紙?」

 彼の腕に抱きつきながらラリサが問う。
 師範の代わりに武彦を生徒会顧問にしてからというもの、私の方が彼と居る時間が長いということが不満なのか、最近妹は所構わずスキンシップを取ろうとするようになった。教師に猛烈なアピールをする姿は中等部では有名なようだ。

 私たちの関係がそういうものになってからというもの、私の生活の方でも変化が起きた。
 様々な階層の者に声をかけるようになったのだ。
 人間である彼のことをもっと知りたいと、そう思ったことが出発点であろうか。
 彼らの話を聞き、抱える問題に手を貸している内に思わぬ副産物として、私に欠けていた対外交渉能力が補填されて生徒会長としての仕事が楽になった。
 これも武彦のおかげと思うとなんとも面映い。

「ええ、親戚のおじさんおばさんに」
「ふむ、君が連絡を取ろうとするのはこれが初めてではないか?」

 武彦の手荷物を羽で取り上げ、代わりに私の体をねじ込みながら訊く。
 彼は慣れてきたのか、自然な動きで私を抱き寄せ懐に受け入れて頷いた。

「そうですね。なんとなく送りづらくて」
「が、心境の変化があったということだな。
 よし、今度その者たちを屋敷に招待しよう。積もる話もあろうし、私たちも挨拶をしておきたい」

「そうですね……では。お願いしても?」
「任せておくといい」
「ありがとうございます。では文面も少し変えなくてはなりませんね。お嬢様方についても、もう少し詳しく書かないといきなりこんな屋敷に招かれたおじさんたちはびっくりするでしょうし」
「あまりにも私たちが美しすぎて表現する言葉が見つからないようならば、よい劇作家を紹介するのでいつでも声をかけるように」
「その時はお願いします」
「ああ」

 応じると、ラリサが「じゃあ!」と声を上げる。

「そのお手紙に私たちの写真をつけたらどう?」
「良いな。では写真を取り急ぎ撮ってもらおうか」
「よろしいのですか?」
「当然だ」
「すっごくエッチな吸血シーンをとってもらお!」
「ぁ……も、もう少し普通の感じでお願いします」
「私たち姉妹と君との仲がどのようなものなのか一目で判るものがよいな」

 その日は三人とも登校するのが随分と遅れてしまったのは、まあ仕方のない話である。

18/01/03 09:55更新 / コン
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■作者メッセージ
これにて完結。
姉妹とセンセの仲はこのようになりましたとさ。
この後姉妹とセンセが吸血鬼の居城に攻め入ってイチャイチャを見せつけたりしたとかしないとか。

しかし二話目書いてる時点で気付いたのですが、ルアナってアナグラムでアナルだったなあ……。
今回そっち系のプレイはありませんでしたがたぶん潜在的な感度はこれまで書いてきたどの娘たちよりいいんじゃないかな?

それでは次の作品ができたらその時にお会いできれば幸いです。もしよろしければ投票・感想などくれるとペースが速くなりますので何卒。

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