前日譚
「あーぁ。向こうの人に穏便に安全に私たちを宣伝するいい方法ないかなー」
幾たびかの戦争を経て科学を発展させた魔物娘のいない異界、通称「人間社会」。その中でもごく平和な地域への広報を任された一人のリリムは投げやりにボヤいていた。
えんじ色で踏むのが躊躇われるほどの高級な絨毯、黒檀で作られ一流職人の意匠が施された机。そのどれもが部下からの報告書とバツ印の目立つ計画書で埋まっている。深く長い溜息と力のない目が今までの苦労を物語っていた。
「やっぱりてっとり早く襲撃させちゃわない?隣の部署じゃ強行案を採用して大成功したみたいじゃない。」
「だめです。そもそも隣の管轄は貴重な男性を使いつぶすブラック企業。こちらとは事情が違います。緊急でもないんですから布教には事を荒立てず済ませるのが一番なんです。」
「ちぇー」
秘書に止められ、気だるげに書類をあさる。人間社会の流行や習慣をリサーチした資料だ。と、その山から何かが落ちた。
「…ん?」
拾い上げたのは資料として買い込んだ本の一つ。主人公の少年が仲間とともにカードゲームで戦う少年漫画だ。
「これよ!これだわ!どうして思いつかなかったのかしら!」
「私たちでカードゲームを作ればいのよ!!」
「カードゲーム、ですか…?」秘書のサキュバスは首をかしげていた。
「そうよ。カードゲームのキャラクターなら向こうの人間にも抵抗なく受け入れられるわ。」これとかこれとか、リリムは資料を探り当てて秘書に見せていく。
「なるほど。とくに我々の管轄では美少女イラストを売りにしたカードゲームが多いようですね…」
「でしょでしょ!?なるべく一人のキャラクター…もとい魔物娘をバトルの中心としたシステムを構築すればさらにグッドよ!」熱く語りながら計画書を書き上げていく。その動きは先ほどまでとは比べ物にならない速さだった。
「と、いいますと?」
「たとえば、サキュバス中心としたデッキを何回も使っていたら愛着が湧くわよね!そこに本物のサキュバスが現れたらどう思うかしら」
「……」
「『うわぁ本物のサキュバスだ!しかもカードで見たよりずっと美人!結婚して!!』こうなるハズよ!!」
「……なりますかねぇ…」
「なるなる絶対なる!!よーし!そうと決まったらさっそくシステムから作っていくわよ!!完成したら刑部狸に流通をお願いして広めていきましょう!!」
「ええぇ……」
その後独自のシステムを作ろうとするも難解になりすぎて断念、他のゲームを少しずつ参考にしていくことにした。
こうして魔物娘によるカードゲーム「デュエルモンスターガールズ(DMG)」は完成した。
17/08/04 15:47更新 / からくりにんじゃ
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