仕事に慣れる+難しい依頼を受ける=ゴーレムにレイプされる
「それでは、こちらが報酬になります。
ご苦労様でした!」
「ありがとうございます!」
冒険者ギルドのカウンターで、サイカはミリーから報酬となる硬貨を受け取って、満足げな表情を浮かべる。
「すごいですね、サイカさん。
今、このギルドはあなたの噂で溢れてますよ?」
「え? そうなんですか?」
「ええ。
採集などの依頼で、これだけの上質の品を期限以内に持ってくる人は少ないので」
ミリーは店の奥でバカ騒ぎをしている一団を見ながら、声を潜めて言った。
「あぁ。なるほど……」
ミリーの態度を見て、サイカも何となく察した。
サイカがテルシオの冒険者ギルドで仕事をして一週間あまりが経ったが、ここの冒険者ギルドでは、サイカはかなり重宝されていた。
実際、サイカがこの一週間で受けた依頼はほとんど採集関係の依頼だったが、今までそのような依頼を受ける者がほとんどいなかったため、現在ではこの町に限らず、近隣の集落や村からも依頼が来るほどだ。
その理由としては、サイカの納品する品が上質な物である事。
後ろでバカ騒ぎをしている荒くれ者達が採集依頼を完了した際には、納品時期が遅れるのは当たり前、品物も手ひどく扱うために傷ついたりするので、納品さえしてくれればいいと、半ば割り切った気持ちで依頼を出すのが通例となっていた。
だがサイカは、納品時期は必ず守るし、納品する品物もほとんどイタミがない。
そのため、サイカはギルド内であらゆる意味で人気者となっていた。
荒くれ者達からは採集しか出来ないヘタレ、ギルド関係者からは真面目ないい人、常連の依頼者達からはマトモな冒険者。
だが、実際には少しタネがある。
サイカは採集はキッチリこなすが、採取した品物は、アカ子とスラ子がそれぞれ自身の体内に保管して、傷つかないように町まで持って行っているのだ。
アカ子から、テルシオが親魔物領という、魔物娘に対して寛容な考え方を持つ町であることを聞かされたサイカは、アカ子とスラ子の存在をギルドや町の人に知らせてもいいじゃないかと提案したが、断られた。
最近、町の中で魔物娘に対する抗議などがあることが、その理由だった。
なぜそのような抗議が起きているのか、二人には分からないため、しばらくは自分達の存在を隠したいという思いがあった。
「実は……」
サイカがボーッとしていると、ミリーが周囲に聞こえないように、サイカに体を近づけて口を開いた。
「緊急の依頼が入ってまして……ギルドの皆と話した結果、この依頼……サイカさんにやってもらおうということになったのですが……いかがでしょう?」
「はぁ……? あの、どういった内容ですか?」
サイカがそう言うと、ミリーはこっそりと一枚の紙を渡してきた。
その紙には、
【緊急討伐依頼】
討伐対象:盗賊一味
討伐期間:一週間
生息場所:テルシオより北の洞窟
報酬:金貨五十枚
「……討伐ですか」
「えぇ……討伐です」
二人の間に重い空気が流れた。
この一週間、サイカは討伐依頼を受けたことがない。
ギルドの規定では、冒険者にはランクが五つ存在し、下からD、C、B、A、Sとなっている。
現在のサイカのランクはDだ。
これもギルドの規定だが、Bランク以上の冒険者は一年の内に規定されている回数の討伐依頼をこなさないと、ランクを格下げされてしまう。
だが、D、Cランクの冒険者はそれを免除されている。
というのも、それらのランクはいわゆる初心者のランクであり、討伐という危険が伴う依頼を受けるには力不足と言われているためだ。
サイカはそれらの規定を知っていたので、不安な表情でミリーを見た。
なぜ、自分にこの依頼がきたのか、と……
「……言いたいことは分かります。
ですが、これには事情があって―」
「私が説明する」
「あっ、カナリアさん」
受付の奥の扉から出てきたのはカナリアだった。
彼女はサイカを受付の中に招き、自分が出てきた扉に戻ってさらに奥へと進む。
すると、突き当りに観音開きの大きな扉があった。
「入って」
カナリアは扉の片方を開けると、サイカを招いた。
サイカが入った部屋は質素倹約という言葉がピッタリと当てはまる、非常に簡素な部屋だった。
カナリアは呆然と立ち尽くすサイカをソファに座らせ、自身はサイカの横に座った。
「なんでこの依頼を君に出したかと言うと―」
彼女は座ってすぐ、口を開いた。
「この依頼はかなり複雑な政治的判断と……君しか信頼できる人物がいないからなんだ」
今の彼女は、初めて会った時に感じた女性らしさも、酒場で再会した時の陽気で面倒見のいい性格も見えてこない。
しいて言うなら、歴戦の女戦士といった印象だ。
「……というと?」
サイカは緊張しながらも質問した。
「まず政治的判断の方だが……君は最近、魔物娘に対する抗議がこの町で起きていることを知っているか?」
「はい……何度か見たことが」
「元々、この町は親魔物領だ。
だが、最近になって教団の連中が町にやってきてな。
まだ証拠は見つかっていないが、奴らは暇な人間を見つけては、給金を払って抗議をやらせているらしい。
そのせいか、とうとう町議会で魔物娘排斥法案が提出されることになった」
サイカは耳を疑った。
この世界における教団が、魔物を悪としているということは、酒場や宿のなどで調べものや人の話を聞いて知っていたが……
魔物娘排斥法案……もしそんなものが可決されたら、スラ子とアカ子はどうなってしまうのだろうか?
そう思うと、背中に背負ったリュックが気になってしまう。
「私としては、この町に無用な混乱は招きたくない。
あいにく、町長をはじめとした議員達は教団のロビー活動や献金によって、すっかり骨抜きにされてしまった。
よって、彼らを頼ることはできないだろう。
問題は……教団が、盗賊団を雇ったということだ」
「えっ!? どういうことですか!?」
サイカは驚いて大声をあげてしまったが、カナリアは平然としている。
「実は……ギルドの密偵が、教団の連中を調べていた際、そのような会話を聞いてしまったのだ。
その者が言うには、今日から一週間以内に、この町に対して盗賊団が襲撃をかけるらしい。
そして、襲撃が鎮圧された際、教団が『盗賊団は魔物娘達に操られていた』とデマを流し、排斥法案を通す。
それによって、この辺りは反魔物領となるわけだ」
「そんな……ひどい…」
「あぁ……我が主も、そのような事は―」
「え? なんですか?」
サイカが顔を近づけて質問すると、
「あ! いや! なんでもない!」
カナリアは首を振って元の調子に戻った。
「続いて君しか信用できない理由なんだが……だいたい察しはつかないか?」
サイカは顎に手を当てて考える。
「ひょっとして……ここのギルドの冒険者がその……荒くれ者が多いから、ですか?」
「その通りだ。
正直言って、盗賊や教団にうまい話を聞かされれば、簡単に寝返るだろう。
そのため、君しか頼める者はいないんだ」
「……分かりました、やります」
「本当かっ!?」
「ただし!」
カナリアの表情がパッと明るくなったとき、サイカが釘をさすようにカナリアに詰め寄る。
「一つ、教えて下さい。
あなたはこのような事態が起こることを知っていて、僕をギルドに加入させたのですか?」
その質問に、カナリアはサイカの目をしっかりと見据えて答える。
「……いや、それは違う。
だが、このような事態が起きた時のために対処できる人材を欲していたのは事実だ。
そこに君が現れた……まだ一週間しか経っていないが……我々ギルドの人間が動くわけにもいかんのだ。
ギルドが預かった依頼を、ギルドの人間が引き受けるのは規定に違反するからな」
「そうですか……分かりました。
頑張ります」
「あぁ、よろしく頼む」
カナリアの返事を聞いて、サイカはソファから立ち上がった。
「今から行くと、夜になってしまう。
出立は明日の朝がいいだろう」
「分かりました、そうします」
そして、サイカはギルドを後にして宿の自分の部屋に向かった。
「はぁ……」
この一週間、毎日が楽しかった。
スラ子とアカ子との夜の情事も、もはや日常茶飯事となっていた。
その日常が……壊れるかもしれない。
そう思った瞬間、サイカの身体から冷や汗が出た。
嫌だ……純粋にそう思った。
サイカはリュックサックをテーブルに置き、蓋を開けてボール場となったスラ子とアカ子を取り出した。
二人共、元気がない。
「……ホントなの?」
アカ子が不安げに口を開く。
「……アタシ達……どうなるの?」
スラ子も、心なしか、弱った声色でサイカに質問した。
サイカは密かに決心し、二人に笑顔で話しかけた。
「心配いらないよ。
もしここが反魔物領になっちゃったら……親魔物領まで引っ越せばいいんだからさ」
二人はサイカのその言葉を聞いて、パッと明るい表情になった。
「うん!」
「…わかった…」
二人はサイカとカナリアの会話を聞いていたのだろう。
その後は先程までの表情が嘘のように、サイカと体を重ねた。
※
「う…ぐっ…」
翌朝、ベッドの上には疲れ切った様子のサイカと、何となく表皮が艶やかに輝いているスラ子とアカ子がいた。
「ほらほらぁ〜、今日は討伐なんでしょ?
アタシ達も手伝ってあげるから、早く行きましょうよ!」
「……その意見には肯定する……」
「ちょ…ちょっと休ませて…」
「……こうしている間も、敵は待ってはくれない……」
スラ子はそう言って、二人はあれよあれよという間にサイカに服と装備を身に付けさせ、さっさとリュックサックの中に入ってしまった。
「早くしなさいよ!」
と、アカ子が言い残して……
「……はぁ」
サイカは重い体をベッドから起き上がらせると、リュックを背負って部屋を後にした。
受付まで言うと、お婆さんに声を掛けられた。
「坊や」
「……はい?」
「なにやら思い悩んでいるようじゃのぉ」
「はぁ、分かります?」
サイカは疲れ切った視線をお婆さんに向けた。
「……どうやらこれから修羅場に赴くようじゃのぉ」
お婆さんのその言葉を聞いて、サイカはハッとした。
「ど、どうして!?」
「ホッホッホッ!
年寄りを甘く見なさんな?
こう見えても、人を見る目はあるつもりじゃて」
なんだか、出会った日にも同じことを言っていたような気がする……
「坊や」
「は、はい!」
再びお婆さんに呼び止められ、サイカは返事をする。
お婆さんを見ると、普段の穏やかな表情は消え失せ、その顔は真剣そのものだった。
「……これからどこへ行くか、何をするかは聞きませぬ。
じゃが、少しこの老いぼれに言わせて下され。
もしそれが退くことのできるものならば、ためらいなく退きなされ。
一時の感情と名誉よりも、何より命が大事じゃ。
もし……それが退くことができぬものならば―」
ゴクッ
サイカは息を飲む。
その時、お婆さんは二カッと笑った。
「諦めなされ」
「はいっ!?」
「ホッホッホッホッホッ!」
その後は客の対応に取り組み、サイカの声は聞こえないふりをしていた。
※
「まだかなぁ……」
「ホント…どこにあるのかしら?
ちゃんと地図に書いててほしいわよね!」
「…仕方ない…もう少し探すべき…」
その後、サイカとスラ子、アカ子は町から北にある森林地帯を進んでいた。
サイカの背負うリュックからは二本の赤と青の触手が伸び、それぞれサイカの首筋に触れていた。
森林地帯を歩いている途中で、スラ子とアカ子がいきなりサイカの首筋に触手を伸ばしたかと思うと、そのままサイカに二人の声が聞こえたのだ。
最初はサイカも驚いていたが、すでに慣れている。
もはやこの世界では、何が起きてもおかしくないと開き直っているのだ。
「あっ!」
しばらく林の中を歩いていると、前方に大きな穴が空いた岸壁が見えた。
「なにっ!? 見つけたの!?」
「…どこ?…」
触手から目が形成され、前方を見る。
「ふっ、とうとう見つけたわ!」
そう言って、赤い触手はそのままリュックの中から出てきて、やがて人型に変形した。
「あそこに……盗賊が……」
スラ子も同じようにして人型となる。
サイカは剣を抜き、
「それじゃ……行くよ?」
と二人に声をかけ、洞窟の中に入っていった。
洞窟の中は薄暗かったが、宿から持ってきたロウソクを点けるほどではない。
しばらく入り組んだ道を進み、やがて大きな空洞に出た。
「ここは……」
その空洞は天井の岩が欠けており、外から光が入ってきていた。
空洞には、通路は今サイカ達が入ってきた場所しかない。
「結局、盗賊団は見つからなかったわね」
「……火の臭いがする……」
「僕らがこの洞窟に来た時は誰にも会わなかったから……どこかに出かけてるのかな?」
「たぶん…待ち伏せするべき…」
「そうね、それがいいわ」
そして、三人は適当に隠れられそうな場所を探し始めようとした。
「ちょっと! あれ見て!」
アカ子にそう言われて、サイカは空洞の中央部分を見た。
そこには石棺がある。
かなり乱雑に成形されたようだが、長方形の箱に蓋がしてあることから考えて、間違いないだろう。
サイカは剣を構えながらゆっくりと近づき、剣を納めて石棺の蓋を開けた。
「うん!…しょっと!」
ドスンッと石棺が地面に落ち、サイカは石棺の中を見た。
「……なに…コレ……?」
サイカが見たのは人だった。
だが、ただの人ではない。
顔や胴体の大部分は人肌のような質感の物体で構成されているが、手足は岩石のような素材で形作られ、両肩には装甲のように岩石が装着されていた。
しかも、その人には二つの乳房がついており、股間には女性器がついている。
いわゆる女性だった。
サイカが思わず見とれていると、女性の目がデュンッと見開かれた。
「うわぁっ!?」
サイカは思わずたじろぐ。
「ちょっと! 大丈夫!?」
「…敵?…」
アカ子とスラ子がサイカに近寄り、女性を睨む。
女性はしばらく起立したまま呆然とし、やがてサイカの方を見た。
「対象発見」
そう言ったかと思うと、女性はサイカへと歩み寄っていった。
だが、石棺をまたぐようなことはせず、そのまま石棺を破壊しながら近づいて行ったのだ。
「…っ!…ゴーレム!…」
「な、なによ! コイツ!」
その様子を見て、スラ子とアカ子は戦慄を覚えた。
『このオスを守らなければいけない』……
その時、彼女達の頭に思い浮かんだのは、そのような感情だった。
二人はそれぞれ触手を形成して反動をつけ、ゴーレムにぶつけた。
しかし、ゴーレムは少し怯んだだけで、何事も無かったかのようにサイカに近づいてくる。
「対象に接敵。
搾精を開始します」
そう言って、ゴーレムは度重なるスラ子とアカ子の触手攻撃をものともせず、サイカを押し倒し、その上にまたがった。
「うわっ! ちょ、ちょっと!」
サイカはうろたえた。
ゴーレムは、下半身に何も身に纏っていなかったからだ。
スラ子とアカ子の性器なら見たことはあるが、不透明でハッキリと形を成していなかった。
だが、目の前のゴーレムの性器は人間のようにハッキリと形作られており、サイカの男根は見る見るうちに大きくなってしまった。
「ちょっと! そんな女の裸なんかで勃起しないでよ!」
「……浮気者……」
「べふっ!?」
二本の触手の攻撃を受け、サイカは意識が飛びかけるが、下腹部に感じた快感により、すぐさま意識を覚醒させた。
「あふっ!?」
「対象性器の挿入を確認。
ピストン運動を開始します」
そう言うと、ゴーレムはサイカの胸に両手を置き、高速で腰を打ち付けた。
「あっ!…あひっ!?…き、気持ちいい!」
「対象の射精準備挙動を確認。
ピストン運動を強化します」
すると、ゴーレムの腰を打ち付ける動作は目にも止まらぬ速さとなり、サイカはたまらず、ゴーレムの膣内に射精してしまう。
「ああぁぁあああっ!」
ビュルルルッ! ビューッ!
「精液の放出を確認。
搾精を続けます」
「こ、この〜!
いい加減、離れなさいよ!」
「……本気を出す……」
その後もスラ子とアカ子の猛攻にも耐え、ゴーレムはサイカから精液を吸い上げていった。
その時、
「おや?」
広い空洞……その唯一の出入り口の方から、女性の声が聞こえた。
「みんな! ちょいと見てみな!」
女性はヨレヨレの魔導士の衣装を着て、汚らしい顔を歓喜に歪ませて、出入り口の方に声を掛けた。
すると、出入り口の奥の方から、数十人の男達が出てきた。
「あ? なんだ、ありゃ?」
「ひゃはははっ! こりゃ、おもしれぇ!」
男達や女の服装を見る限り、カタギには見えない。
「ちょっとスラ子……まずいんじゃない、コレ…」
「……アカ子の言う通り……」
ゴーレムへの攻撃を止め、スラ子とアカ子は出入り口に群がる者達を見る。
「アンタら、ドコのモンだい?」
サイカの嬌声が響き渡るなか、男達のリーダーと思われる女性が声を上げた。
その質問に、スラ子とアカ子は答えない。
「しかたないねぇ……」
返事が返ってこないことを悟ると、女は大声を上げた。
「おい、ゴーレム!
そいつが干からびるまでセックスしな!」
その言葉を聞いて、ゴーレムは腰を高速で打ち付けながら、女性の方を見る。
「了解しました、マスター」
その時、スラ子とアカ子は悟った。
このゴーレムが女性の所有物であることを。
「ふふ、アタシ達は盗賊団さ。
たまたまこの洞窟を根城にしてたら、この場所にそいつが眠っててね。
ゴーレムの知識は多少はあったから、アタシ達の物にしたってわけさ。
そいつが言う事を聞いてからは、男共も満足してるみたいさね」
女の言葉に、男たちはゲスな笑い声をあげる。
女は表情を一変させ、スラ子とアカ子を睨んだ。
「誰だか知らないけど……死んでもらうよ!」
そう言って、女は手を挙げた。
次の瞬間、男達が一斉に襲い掛かってきた!
「くっ! スラ子、右をお願い!」
「…わかった!…」
そう言って、スラ子とアカ子は二人に別れ、触手で盗賊達を弾き飛ばしていった。
盗賊達の着ている鎧はひしゃげ、その体を岩壁に叩き付ける。
剣はスッとスラ子達の身体に入り、バキッと根元から折られる。
一方、石棺の方では、未だにサイカがゴーレムにレイプされていた。
「あぅ!…あひっ!…も、もう無理だよぅ!」
「問題ありません」
そう言いながら、ゴーレムは再び超高速ピストンを始めた。
「あひぃぃいいいっ!!」
サイカは洞窟中に響き渡るように嬌声をあげ、ゴーレムの子宮内に一回目と変わらない量の精液を放出した。
サイカが精液を放出し終えると、ゴーレムは再びピストンを開始すると思いきや、そのまま停止する。
「あ、あの……」
サイカが不安げにゴーレムを見ると、ゴーレムは恥ずかし気に目を逸らし、やがて何事も無かったかのように、サイカを恐る恐る見つめた。
「お名前は?」
「え?」
「あなたのお名前は?」
洞窟内でスラ子とアカ子、盗賊団の死闘が繰り広げられるなか、二人は静かにお互いを見つめ合っていた。
「ミツルギ……サイカです」
「ミツルギ……サイカ……」
ゴーレムはサイカの名前を復唱し、そのまま彼を見つめる。
一方、盗賊団はスラ子とアカ子により、すでに半数は倒されていた。
「クソッ! なにやってんだい!」
「お頭! あいつら、強すぎますぜ!」
盗賊団のリーダーは部下からの情けない報告を聞くと、舌打ちをしてゴーレムに向かって叫んだ。
「ゴーレム!
こっちにこい!」
その言葉を聞いて、ゴーレムは立ち上がった。
「搾精完了」
彼女はそう言って、リーダーの元へ歩いて行った。
「やめな! アンタ達!」
リーダーにそう言われ、盗賊達は戦いを止め、彼女の周りに集まった。
「な、なによ……」
「……分からない……」
スラ子とアカ子は、その隙にサイカの元へと駆け寄る。
「大丈夫、サイカ?」
「う、うん、大丈夫」
「…けがはないみたい…よかった…」
三人が話していると、
「アンタ達!」
と、リーダーの声が響き渡る。
「一つ忘れちゃいないかい!
こいつの存在をさぁ!」
そう言って、リーダーはゴーレムを見た。
「ゴーレム、やっちまいな!」
「了解しました、マスター」
そう、盗賊団を壊滅させる実力を持つスラ子とアカ子が束になってもビクともしなかった相手、ゴーレムは未だに盗賊団の手中にある。
「クソッ!」
「……ピンチ!……」
「…やるしかないね」
スラ子とアカ子は触手を形成し直し、サイカは剣を抜く。
ゴーレムは三人に近づく……かと思われたが、彼女は自分の肩に書かれている何かの文字をガリガリと削り、そのまま動かなくなる。
しばらく沈黙が空洞を支配するが、やがてリーダーがハッとした表情になって、慌ててゴーレムに向かって手をかざした。
すると、再びゴーレムの肩に文字が浮かび上がった。
「ふぅ〜、危ないねぇ……
こいつ、そこの坊やにホレたみたいだね。
自分で魔法文字を消すなんざ、正気の沙汰じゃないよ」
「え?」
サイカが思わず声を漏らすが、リーダーは構わず高笑いをする。
「ア―ハッハッハッ!
でも残念!
またアタシの名前を刻んどいたよ!
ヒヒッ!
死ぬまでこき使ってやるっ!
アーハッハッギャッ!?」
耳障りな高笑いをするリーダーの顔面に、強固な岩で出来た裏拳が叩き込まれた。
一瞬、何が起きたのか、誰もがすでに床に倒れるリーダーを見る。
そして次には、
「そ、そんな……」
「ゴーレムが……動いてる」
その場にいる者達の視線は右の拳で裏拳を叩き込んだ姿勢で固まるゴーレムに集まる。
「て、てめぇ、どういうつもりだ!」
「そうだ! 奴らを殺せ!」
「黙れ、クズ共」
空洞に、この世の者とは思えないほどの冷徹な声が響き渡る。
その迫力に、サイカ達はおろか、盗賊団達も黙り込む。
「マスター、ご命令を」
そして、ゴーレムはサイカの方を見て、先程とは違って柔らかな声色で話しかけた。
サイカは咄嗟に答えた。
「こ、ここにいる盗賊団を倒して!」
「了解しました、マスター」
ゴーレムはそう言うと、コンマ数秒で隣の盗賊団の男を倒していた。
何が起こったのか、どうしてこんなことが起きているのか……自分達の勝利を確信していた盗賊団の男達には、様々な感情が溢れていた。
その感情は生まれたばかりの小鹿のようにか弱く、台風に晒される草花のように儚いものだった。
やがて、彼らの感情が疑問から恐怖に変わったとき、彼らは一斉に出入り口目がけて逃走した。
しかし、そこにはすでにゴーレムがいる。
彼女は降りかかる刃や矢じりなど気にせず、男達を薙ぎ払っていく。
やがて盗賊団の男達が全員地面に倒れたことを確認すると、ゴーレムはサイカを見てスタスタと近づき、
「敵を殲滅しました」
と、短く述べた。
「あ…うん…ありがとう」
「どういたしまして」
うろたえながら言葉を紡ぎ出すサイカに比べ、ゴーレムはあくまで淡々と述べる。
「マスター」
「ふぇ!?」
ゴーレムに突然話しかけられ、サイカは挙動不審になる。
だが、ゴーレムはあまり気にしていない様子だった。
「よろしければ、私に名前を付けて頂けないでしょうか?」
「あ…そうだね…それじゃあ……イワ子で」
「はぁ!? 何よ、その変な名前!?」
「き、君だってアカ子じゃないか!」
そう言ってサイカはアカ子を見るが、彼女はプイッとそっぽを向いてしまう。
「ふん! アタシは特別なの!」
「どう特別なの!?」
「アンタに言う必要ないでしょ!?」
二人の不毛な争いを前に、イワ子はデレデレと笑っていた。
「イワ子…私の名前はイワ子…フフ…フフフフ…ハハ…アハッハハハッ!」
「…大丈夫?…魔王様みたいな笑い方だった……」
「問題ない」
スッと表情を戻し、何事も無かったかのように答える。
「ま、とにかく」
アカ子との喧嘩を終え、サイカはイワ子を見る。
「これからもよろしくね! イワ子!」
サイカがそう言うと、イワ子は微笑んだ。
「はい、マスター」
その笑顔は、サイカが初めて見る、イワ子の笑顔だった……
ご苦労様でした!」
「ありがとうございます!」
冒険者ギルドのカウンターで、サイカはミリーから報酬となる硬貨を受け取って、満足げな表情を浮かべる。
「すごいですね、サイカさん。
今、このギルドはあなたの噂で溢れてますよ?」
「え? そうなんですか?」
「ええ。
採集などの依頼で、これだけの上質の品を期限以内に持ってくる人は少ないので」
ミリーは店の奥でバカ騒ぎをしている一団を見ながら、声を潜めて言った。
「あぁ。なるほど……」
ミリーの態度を見て、サイカも何となく察した。
サイカがテルシオの冒険者ギルドで仕事をして一週間あまりが経ったが、ここの冒険者ギルドでは、サイカはかなり重宝されていた。
実際、サイカがこの一週間で受けた依頼はほとんど採集関係の依頼だったが、今までそのような依頼を受ける者がほとんどいなかったため、現在ではこの町に限らず、近隣の集落や村からも依頼が来るほどだ。
その理由としては、サイカの納品する品が上質な物である事。
後ろでバカ騒ぎをしている荒くれ者達が採集依頼を完了した際には、納品時期が遅れるのは当たり前、品物も手ひどく扱うために傷ついたりするので、納品さえしてくれればいいと、半ば割り切った気持ちで依頼を出すのが通例となっていた。
だがサイカは、納品時期は必ず守るし、納品する品物もほとんどイタミがない。
そのため、サイカはギルド内であらゆる意味で人気者となっていた。
荒くれ者達からは採集しか出来ないヘタレ、ギルド関係者からは真面目ないい人、常連の依頼者達からはマトモな冒険者。
だが、実際には少しタネがある。
サイカは採集はキッチリこなすが、採取した品物は、アカ子とスラ子がそれぞれ自身の体内に保管して、傷つかないように町まで持って行っているのだ。
アカ子から、テルシオが親魔物領という、魔物娘に対して寛容な考え方を持つ町であることを聞かされたサイカは、アカ子とスラ子の存在をギルドや町の人に知らせてもいいじゃないかと提案したが、断られた。
最近、町の中で魔物娘に対する抗議などがあることが、その理由だった。
なぜそのような抗議が起きているのか、二人には分からないため、しばらくは自分達の存在を隠したいという思いがあった。
「実は……」
サイカがボーッとしていると、ミリーが周囲に聞こえないように、サイカに体を近づけて口を開いた。
「緊急の依頼が入ってまして……ギルドの皆と話した結果、この依頼……サイカさんにやってもらおうということになったのですが……いかがでしょう?」
「はぁ……? あの、どういった内容ですか?」
サイカがそう言うと、ミリーはこっそりと一枚の紙を渡してきた。
その紙には、
【緊急討伐依頼】
討伐対象:盗賊一味
討伐期間:一週間
生息場所:テルシオより北の洞窟
報酬:金貨五十枚
「……討伐ですか」
「えぇ……討伐です」
二人の間に重い空気が流れた。
この一週間、サイカは討伐依頼を受けたことがない。
ギルドの規定では、冒険者にはランクが五つ存在し、下からD、C、B、A、Sとなっている。
現在のサイカのランクはDだ。
これもギルドの規定だが、Bランク以上の冒険者は一年の内に規定されている回数の討伐依頼をこなさないと、ランクを格下げされてしまう。
だが、D、Cランクの冒険者はそれを免除されている。
というのも、それらのランクはいわゆる初心者のランクであり、討伐という危険が伴う依頼を受けるには力不足と言われているためだ。
サイカはそれらの規定を知っていたので、不安な表情でミリーを見た。
なぜ、自分にこの依頼がきたのか、と……
「……言いたいことは分かります。
ですが、これには事情があって―」
「私が説明する」
「あっ、カナリアさん」
受付の奥の扉から出てきたのはカナリアだった。
彼女はサイカを受付の中に招き、自分が出てきた扉に戻ってさらに奥へと進む。
すると、突き当りに観音開きの大きな扉があった。
「入って」
カナリアは扉の片方を開けると、サイカを招いた。
サイカが入った部屋は質素倹約という言葉がピッタリと当てはまる、非常に簡素な部屋だった。
カナリアは呆然と立ち尽くすサイカをソファに座らせ、自身はサイカの横に座った。
「なんでこの依頼を君に出したかと言うと―」
彼女は座ってすぐ、口を開いた。
「この依頼はかなり複雑な政治的判断と……君しか信頼できる人物がいないからなんだ」
今の彼女は、初めて会った時に感じた女性らしさも、酒場で再会した時の陽気で面倒見のいい性格も見えてこない。
しいて言うなら、歴戦の女戦士といった印象だ。
「……というと?」
サイカは緊張しながらも質問した。
「まず政治的判断の方だが……君は最近、魔物娘に対する抗議がこの町で起きていることを知っているか?」
「はい……何度か見たことが」
「元々、この町は親魔物領だ。
だが、最近になって教団の連中が町にやってきてな。
まだ証拠は見つかっていないが、奴らは暇な人間を見つけては、給金を払って抗議をやらせているらしい。
そのせいか、とうとう町議会で魔物娘排斥法案が提出されることになった」
サイカは耳を疑った。
この世界における教団が、魔物を悪としているということは、酒場や宿のなどで調べものや人の話を聞いて知っていたが……
魔物娘排斥法案……もしそんなものが可決されたら、スラ子とアカ子はどうなってしまうのだろうか?
そう思うと、背中に背負ったリュックが気になってしまう。
「私としては、この町に無用な混乱は招きたくない。
あいにく、町長をはじめとした議員達は教団のロビー活動や献金によって、すっかり骨抜きにされてしまった。
よって、彼らを頼ることはできないだろう。
問題は……教団が、盗賊団を雇ったということだ」
「えっ!? どういうことですか!?」
サイカは驚いて大声をあげてしまったが、カナリアは平然としている。
「実は……ギルドの密偵が、教団の連中を調べていた際、そのような会話を聞いてしまったのだ。
その者が言うには、今日から一週間以内に、この町に対して盗賊団が襲撃をかけるらしい。
そして、襲撃が鎮圧された際、教団が『盗賊団は魔物娘達に操られていた』とデマを流し、排斥法案を通す。
それによって、この辺りは反魔物領となるわけだ」
「そんな……ひどい…」
「あぁ……我が主も、そのような事は―」
「え? なんですか?」
サイカが顔を近づけて質問すると、
「あ! いや! なんでもない!」
カナリアは首を振って元の調子に戻った。
「続いて君しか信用できない理由なんだが……だいたい察しはつかないか?」
サイカは顎に手を当てて考える。
「ひょっとして……ここのギルドの冒険者がその……荒くれ者が多いから、ですか?」
「その通りだ。
正直言って、盗賊や教団にうまい話を聞かされれば、簡単に寝返るだろう。
そのため、君しか頼める者はいないんだ」
「……分かりました、やります」
「本当かっ!?」
「ただし!」
カナリアの表情がパッと明るくなったとき、サイカが釘をさすようにカナリアに詰め寄る。
「一つ、教えて下さい。
あなたはこのような事態が起こることを知っていて、僕をギルドに加入させたのですか?」
その質問に、カナリアはサイカの目をしっかりと見据えて答える。
「……いや、それは違う。
だが、このような事態が起きた時のために対処できる人材を欲していたのは事実だ。
そこに君が現れた……まだ一週間しか経っていないが……我々ギルドの人間が動くわけにもいかんのだ。
ギルドが預かった依頼を、ギルドの人間が引き受けるのは規定に違反するからな」
「そうですか……分かりました。
頑張ります」
「あぁ、よろしく頼む」
カナリアの返事を聞いて、サイカはソファから立ち上がった。
「今から行くと、夜になってしまう。
出立は明日の朝がいいだろう」
「分かりました、そうします」
そして、サイカはギルドを後にして宿の自分の部屋に向かった。
「はぁ……」
この一週間、毎日が楽しかった。
スラ子とアカ子との夜の情事も、もはや日常茶飯事となっていた。
その日常が……壊れるかもしれない。
そう思った瞬間、サイカの身体から冷や汗が出た。
嫌だ……純粋にそう思った。
サイカはリュックサックをテーブルに置き、蓋を開けてボール場となったスラ子とアカ子を取り出した。
二人共、元気がない。
「……ホントなの?」
アカ子が不安げに口を開く。
「……アタシ達……どうなるの?」
スラ子も、心なしか、弱った声色でサイカに質問した。
サイカは密かに決心し、二人に笑顔で話しかけた。
「心配いらないよ。
もしここが反魔物領になっちゃったら……親魔物領まで引っ越せばいいんだからさ」
二人はサイカのその言葉を聞いて、パッと明るい表情になった。
「うん!」
「…わかった…」
二人はサイカとカナリアの会話を聞いていたのだろう。
その後は先程までの表情が嘘のように、サイカと体を重ねた。
※
「う…ぐっ…」
翌朝、ベッドの上には疲れ切った様子のサイカと、何となく表皮が艶やかに輝いているスラ子とアカ子がいた。
「ほらほらぁ〜、今日は討伐なんでしょ?
アタシ達も手伝ってあげるから、早く行きましょうよ!」
「……その意見には肯定する……」
「ちょ…ちょっと休ませて…」
「……こうしている間も、敵は待ってはくれない……」
スラ子はそう言って、二人はあれよあれよという間にサイカに服と装備を身に付けさせ、さっさとリュックサックの中に入ってしまった。
「早くしなさいよ!」
と、アカ子が言い残して……
「……はぁ」
サイカは重い体をベッドから起き上がらせると、リュックを背負って部屋を後にした。
受付まで言うと、お婆さんに声を掛けられた。
「坊や」
「……はい?」
「なにやら思い悩んでいるようじゃのぉ」
「はぁ、分かります?」
サイカは疲れ切った視線をお婆さんに向けた。
「……どうやらこれから修羅場に赴くようじゃのぉ」
お婆さんのその言葉を聞いて、サイカはハッとした。
「ど、どうして!?」
「ホッホッホッ!
年寄りを甘く見なさんな?
こう見えても、人を見る目はあるつもりじゃて」
なんだか、出会った日にも同じことを言っていたような気がする……
「坊や」
「は、はい!」
再びお婆さんに呼び止められ、サイカは返事をする。
お婆さんを見ると、普段の穏やかな表情は消え失せ、その顔は真剣そのものだった。
「……これからどこへ行くか、何をするかは聞きませぬ。
じゃが、少しこの老いぼれに言わせて下され。
もしそれが退くことのできるものならば、ためらいなく退きなされ。
一時の感情と名誉よりも、何より命が大事じゃ。
もし……それが退くことができぬものならば―」
ゴクッ
サイカは息を飲む。
その時、お婆さんは二カッと笑った。
「諦めなされ」
「はいっ!?」
「ホッホッホッホッホッ!」
その後は客の対応に取り組み、サイカの声は聞こえないふりをしていた。
※
「まだかなぁ……」
「ホント…どこにあるのかしら?
ちゃんと地図に書いててほしいわよね!」
「…仕方ない…もう少し探すべき…」
その後、サイカとスラ子、アカ子は町から北にある森林地帯を進んでいた。
サイカの背負うリュックからは二本の赤と青の触手が伸び、それぞれサイカの首筋に触れていた。
森林地帯を歩いている途中で、スラ子とアカ子がいきなりサイカの首筋に触手を伸ばしたかと思うと、そのままサイカに二人の声が聞こえたのだ。
最初はサイカも驚いていたが、すでに慣れている。
もはやこの世界では、何が起きてもおかしくないと開き直っているのだ。
「あっ!」
しばらく林の中を歩いていると、前方に大きな穴が空いた岸壁が見えた。
「なにっ!? 見つけたの!?」
「…どこ?…」
触手から目が形成され、前方を見る。
「ふっ、とうとう見つけたわ!」
そう言って、赤い触手はそのままリュックの中から出てきて、やがて人型に変形した。
「あそこに……盗賊が……」
スラ子も同じようにして人型となる。
サイカは剣を抜き、
「それじゃ……行くよ?」
と二人に声をかけ、洞窟の中に入っていった。
洞窟の中は薄暗かったが、宿から持ってきたロウソクを点けるほどではない。
しばらく入り組んだ道を進み、やがて大きな空洞に出た。
「ここは……」
その空洞は天井の岩が欠けており、外から光が入ってきていた。
空洞には、通路は今サイカ達が入ってきた場所しかない。
「結局、盗賊団は見つからなかったわね」
「……火の臭いがする……」
「僕らがこの洞窟に来た時は誰にも会わなかったから……どこかに出かけてるのかな?」
「たぶん…待ち伏せするべき…」
「そうね、それがいいわ」
そして、三人は適当に隠れられそうな場所を探し始めようとした。
「ちょっと! あれ見て!」
アカ子にそう言われて、サイカは空洞の中央部分を見た。
そこには石棺がある。
かなり乱雑に成形されたようだが、長方形の箱に蓋がしてあることから考えて、間違いないだろう。
サイカは剣を構えながらゆっくりと近づき、剣を納めて石棺の蓋を開けた。
「うん!…しょっと!」
ドスンッと石棺が地面に落ち、サイカは石棺の中を見た。
「……なに…コレ……?」
サイカが見たのは人だった。
だが、ただの人ではない。
顔や胴体の大部分は人肌のような質感の物体で構成されているが、手足は岩石のような素材で形作られ、両肩には装甲のように岩石が装着されていた。
しかも、その人には二つの乳房がついており、股間には女性器がついている。
いわゆる女性だった。
サイカが思わず見とれていると、女性の目がデュンッと見開かれた。
「うわぁっ!?」
サイカは思わずたじろぐ。
「ちょっと! 大丈夫!?」
「…敵?…」
アカ子とスラ子がサイカに近寄り、女性を睨む。
女性はしばらく起立したまま呆然とし、やがてサイカの方を見た。
「対象発見」
そう言ったかと思うと、女性はサイカへと歩み寄っていった。
だが、石棺をまたぐようなことはせず、そのまま石棺を破壊しながら近づいて行ったのだ。
「…っ!…ゴーレム!…」
「な、なによ! コイツ!」
その様子を見て、スラ子とアカ子は戦慄を覚えた。
『このオスを守らなければいけない』……
その時、彼女達の頭に思い浮かんだのは、そのような感情だった。
二人はそれぞれ触手を形成して反動をつけ、ゴーレムにぶつけた。
しかし、ゴーレムは少し怯んだだけで、何事も無かったかのようにサイカに近づいてくる。
「対象に接敵。
搾精を開始します」
そう言って、ゴーレムは度重なるスラ子とアカ子の触手攻撃をものともせず、サイカを押し倒し、その上にまたがった。
「うわっ! ちょ、ちょっと!」
サイカはうろたえた。
ゴーレムは、下半身に何も身に纏っていなかったからだ。
スラ子とアカ子の性器なら見たことはあるが、不透明でハッキリと形を成していなかった。
だが、目の前のゴーレムの性器は人間のようにハッキリと形作られており、サイカの男根は見る見るうちに大きくなってしまった。
「ちょっと! そんな女の裸なんかで勃起しないでよ!」
「……浮気者……」
「べふっ!?」
二本の触手の攻撃を受け、サイカは意識が飛びかけるが、下腹部に感じた快感により、すぐさま意識を覚醒させた。
「あふっ!?」
「対象性器の挿入を確認。
ピストン運動を開始します」
そう言うと、ゴーレムはサイカの胸に両手を置き、高速で腰を打ち付けた。
「あっ!…あひっ!?…き、気持ちいい!」
「対象の射精準備挙動を確認。
ピストン運動を強化します」
すると、ゴーレムの腰を打ち付ける動作は目にも止まらぬ速さとなり、サイカはたまらず、ゴーレムの膣内に射精してしまう。
「ああぁぁあああっ!」
ビュルルルッ! ビューッ!
「精液の放出を確認。
搾精を続けます」
「こ、この〜!
いい加減、離れなさいよ!」
「……本気を出す……」
その後もスラ子とアカ子の猛攻にも耐え、ゴーレムはサイカから精液を吸い上げていった。
その時、
「おや?」
広い空洞……その唯一の出入り口の方から、女性の声が聞こえた。
「みんな! ちょいと見てみな!」
女性はヨレヨレの魔導士の衣装を着て、汚らしい顔を歓喜に歪ませて、出入り口の方に声を掛けた。
すると、出入り口の奥の方から、数十人の男達が出てきた。
「あ? なんだ、ありゃ?」
「ひゃはははっ! こりゃ、おもしれぇ!」
男達や女の服装を見る限り、カタギには見えない。
「ちょっとスラ子……まずいんじゃない、コレ…」
「……アカ子の言う通り……」
ゴーレムへの攻撃を止め、スラ子とアカ子は出入り口に群がる者達を見る。
「アンタら、ドコのモンだい?」
サイカの嬌声が響き渡るなか、男達のリーダーと思われる女性が声を上げた。
その質問に、スラ子とアカ子は答えない。
「しかたないねぇ……」
返事が返ってこないことを悟ると、女は大声を上げた。
「おい、ゴーレム!
そいつが干からびるまでセックスしな!」
その言葉を聞いて、ゴーレムは腰を高速で打ち付けながら、女性の方を見る。
「了解しました、マスター」
その時、スラ子とアカ子は悟った。
このゴーレムが女性の所有物であることを。
「ふふ、アタシ達は盗賊団さ。
たまたまこの洞窟を根城にしてたら、この場所にそいつが眠っててね。
ゴーレムの知識は多少はあったから、アタシ達の物にしたってわけさ。
そいつが言う事を聞いてからは、男共も満足してるみたいさね」
女の言葉に、男たちはゲスな笑い声をあげる。
女は表情を一変させ、スラ子とアカ子を睨んだ。
「誰だか知らないけど……死んでもらうよ!」
そう言って、女は手を挙げた。
次の瞬間、男達が一斉に襲い掛かってきた!
「くっ! スラ子、右をお願い!」
「…わかった!…」
そう言って、スラ子とアカ子は二人に別れ、触手で盗賊達を弾き飛ばしていった。
盗賊達の着ている鎧はひしゃげ、その体を岩壁に叩き付ける。
剣はスッとスラ子達の身体に入り、バキッと根元から折られる。
一方、石棺の方では、未だにサイカがゴーレムにレイプされていた。
「あぅ!…あひっ!…も、もう無理だよぅ!」
「問題ありません」
そう言いながら、ゴーレムは再び超高速ピストンを始めた。
「あひぃぃいいいっ!!」
サイカは洞窟中に響き渡るように嬌声をあげ、ゴーレムの子宮内に一回目と変わらない量の精液を放出した。
サイカが精液を放出し終えると、ゴーレムは再びピストンを開始すると思いきや、そのまま停止する。
「あ、あの……」
サイカが不安げにゴーレムを見ると、ゴーレムは恥ずかし気に目を逸らし、やがて何事も無かったかのように、サイカを恐る恐る見つめた。
「お名前は?」
「え?」
「あなたのお名前は?」
洞窟内でスラ子とアカ子、盗賊団の死闘が繰り広げられるなか、二人は静かにお互いを見つめ合っていた。
「ミツルギ……サイカです」
「ミツルギ……サイカ……」
ゴーレムはサイカの名前を復唱し、そのまま彼を見つめる。
一方、盗賊団はスラ子とアカ子により、すでに半数は倒されていた。
「クソッ! なにやってんだい!」
「お頭! あいつら、強すぎますぜ!」
盗賊団のリーダーは部下からの情けない報告を聞くと、舌打ちをしてゴーレムに向かって叫んだ。
「ゴーレム!
こっちにこい!」
その言葉を聞いて、ゴーレムは立ち上がった。
「搾精完了」
彼女はそう言って、リーダーの元へ歩いて行った。
「やめな! アンタ達!」
リーダーにそう言われ、盗賊達は戦いを止め、彼女の周りに集まった。
「な、なによ……」
「……分からない……」
スラ子とアカ子は、その隙にサイカの元へと駆け寄る。
「大丈夫、サイカ?」
「う、うん、大丈夫」
「…けがはないみたい…よかった…」
三人が話していると、
「アンタ達!」
と、リーダーの声が響き渡る。
「一つ忘れちゃいないかい!
こいつの存在をさぁ!」
そう言って、リーダーはゴーレムを見た。
「ゴーレム、やっちまいな!」
「了解しました、マスター」
そう、盗賊団を壊滅させる実力を持つスラ子とアカ子が束になってもビクともしなかった相手、ゴーレムは未だに盗賊団の手中にある。
「クソッ!」
「……ピンチ!……」
「…やるしかないね」
スラ子とアカ子は触手を形成し直し、サイカは剣を抜く。
ゴーレムは三人に近づく……かと思われたが、彼女は自分の肩に書かれている何かの文字をガリガリと削り、そのまま動かなくなる。
しばらく沈黙が空洞を支配するが、やがてリーダーがハッとした表情になって、慌ててゴーレムに向かって手をかざした。
すると、再びゴーレムの肩に文字が浮かび上がった。
「ふぅ〜、危ないねぇ……
こいつ、そこの坊やにホレたみたいだね。
自分で魔法文字を消すなんざ、正気の沙汰じゃないよ」
「え?」
サイカが思わず声を漏らすが、リーダーは構わず高笑いをする。
「ア―ハッハッハッ!
でも残念!
またアタシの名前を刻んどいたよ!
ヒヒッ!
死ぬまでこき使ってやるっ!
アーハッハッギャッ!?」
耳障りな高笑いをするリーダーの顔面に、強固な岩で出来た裏拳が叩き込まれた。
一瞬、何が起きたのか、誰もがすでに床に倒れるリーダーを見る。
そして次には、
「そ、そんな……」
「ゴーレムが……動いてる」
その場にいる者達の視線は右の拳で裏拳を叩き込んだ姿勢で固まるゴーレムに集まる。
「て、てめぇ、どういうつもりだ!」
「そうだ! 奴らを殺せ!」
「黙れ、クズ共」
空洞に、この世の者とは思えないほどの冷徹な声が響き渡る。
その迫力に、サイカ達はおろか、盗賊団達も黙り込む。
「マスター、ご命令を」
そして、ゴーレムはサイカの方を見て、先程とは違って柔らかな声色で話しかけた。
サイカは咄嗟に答えた。
「こ、ここにいる盗賊団を倒して!」
「了解しました、マスター」
ゴーレムはそう言うと、コンマ数秒で隣の盗賊団の男を倒していた。
何が起こったのか、どうしてこんなことが起きているのか……自分達の勝利を確信していた盗賊団の男達には、様々な感情が溢れていた。
その感情は生まれたばかりの小鹿のようにか弱く、台風に晒される草花のように儚いものだった。
やがて、彼らの感情が疑問から恐怖に変わったとき、彼らは一斉に出入り口目がけて逃走した。
しかし、そこにはすでにゴーレムがいる。
彼女は降りかかる刃や矢じりなど気にせず、男達を薙ぎ払っていく。
やがて盗賊団の男達が全員地面に倒れたことを確認すると、ゴーレムはサイカを見てスタスタと近づき、
「敵を殲滅しました」
と、短く述べた。
「あ…うん…ありがとう」
「どういたしまして」
うろたえながら言葉を紡ぎ出すサイカに比べ、ゴーレムはあくまで淡々と述べる。
「マスター」
「ふぇ!?」
ゴーレムに突然話しかけられ、サイカは挙動不審になる。
だが、ゴーレムはあまり気にしていない様子だった。
「よろしければ、私に名前を付けて頂けないでしょうか?」
「あ…そうだね…それじゃあ……イワ子で」
「はぁ!? 何よ、その変な名前!?」
「き、君だってアカ子じゃないか!」
そう言ってサイカはアカ子を見るが、彼女はプイッとそっぽを向いてしまう。
「ふん! アタシは特別なの!」
「どう特別なの!?」
「アンタに言う必要ないでしょ!?」
二人の不毛な争いを前に、イワ子はデレデレと笑っていた。
「イワ子…私の名前はイワ子…フフ…フフフフ…ハハ…アハッハハハッ!」
「…大丈夫?…魔王様みたいな笑い方だった……」
「問題ない」
スッと表情を戻し、何事も無かったかのように答える。
「ま、とにかく」
アカ子との喧嘩を終え、サイカはイワ子を見る。
「これからもよろしくね! イワ子!」
サイカがそう言うと、イワ子は微笑んだ。
「はい、マスター」
その笑顔は、サイカが初めて見る、イワ子の笑顔だった……
17/03/05 20:28更新 / カーマ
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