ギルドに入る=仕事をする
「…ふぅ…満足…」
「ホント…もうだめ」
「うぅ…」
朝日が顔を見せた頃、サイカ、スラ子、レッドスライムはベッドの上でグッタリとしていた。
三人はそれぞれの身体を絡ませ合い、時折愛おしそうにキスをする。
「ねぇ……今日はどうするの?」
レッドスライムは、サイカの足に自身の足を絡ませながら質問した。
「とりあえず……ギルドに行こうかな……
仕事してお金を稼がないと……」
「うん……それじゃ…お休み」
そう言い残し、スラ子は先にリュックの中に入ってしまった。
「……ねぇ」
スラ子の自分勝手な振る舞いに一通り呆れると、サイカはレッドスライムに話しかけた。
「ん?」
レッドスライムは笑みを浮かべたままサイカを見つめる。
初めて会った時とはかなり印象が違う。
「どうして君は…その…体が赤いの?」
「あぁ―」
レッドスライムは、そんなことかというような表情をして、口を開いた。
「ここ、温泉が出てくるでしょ?
アタシ、近くの水源で暮らしてたんだけど、ある日配管を伝ってここの宿の温泉に来ちゃったの。
人が少ない時間帯を見計らって温泉に入ってたんだけど、その内身体が赤くなってきて……頭も良くなっていく感じがしてきたわ。
そうしたら、ご飯にする人間にも好き嫌いが出来てきて……今日、たまたま部屋の方を見に行こうとしたら、アンタがいたってワケ」
「そうなんだ……でも、どうして僕なの?」
「そ、それは……」
レッドスライムはサイカの質問に言いよどむ。
「っ! はい! この話はお終い!
さっさとギルドに行くわよ!」
「あ、ちょっと!」
レッドスライムはそう言って、スラ子の入っているリュックの中に入ってしまった。
サイカがしばらく呆然としていると、中から話し声が聞こえてきた。
「ちょっと! もう少し詰めなさいよ!」
「…あなたが詰めて…」
サイカは溜息をつきながらベッドから起き上がり、リュックの中身を見た。
「……何してるの?」
リュックの中は青と赤の液体に満たされ、四つの目がサイカを見つめていた。
「コイツが、全然場所を譲ってくれないのよ!」
「…これ以上は無理…」
二匹のスライムはそれぞれ口を形成して、思い思いの言葉を喋った。
「…その…それ以上は小さくなれないの?」
サイカの言葉に、二匹は黙り込んだ。
しばらくして、スラ子が口を開いた。
「……出来る……」
その後、レッドスライムが口を開く。
「……アタシも……」
二人共、どこか自信なさげに目を泳がせている。
「もぅ…それなら、小さくなればいいじゃない?
ほら、二人共同時にさ」
「…うん…」
「…わかった」
二人は了承すると、サイカの合図で一気に体積を小さくする。
二つの液体は見る見るうちに小さくなっていき、リュックの奥の方に隠れていった。
やがて小さくなり切ると、サイカは両手をリュックの中に入れて、スライム達を探した。
「あ……」
やがて二つの柔らかいボールのようなものを掴むと、両手で引っ張り出した。
そのボールはそれぞれ青色と赤色をしており、それぞれ二つの目と口が付いている。
「……どう?」
青色の、無表情な目をしたスライムが口を開いた。
「えっと……スラ子?」
「…うん」
青色のスライムはちょっぴり微笑んで、嬉しそうにサイカの手の中でジャンプした。
すると赤色のスライムから触手が生え、サイカの頬をペチンと叩く。
「あぅ!?」
「フン! アタシの事無視するだなんて、いい度胸ね!」
赤色のスライムは強気な目をしている。
「ご、ごめん……
それで、君の名前はなんていうの?」
「あ、そうだったわ。
アタシの名前はアカ子よ」
「はいっ!?」
「それじゃ、よろしくね〜!」
「…頑張って…」
そう言い残し、二つのソフトボール程の大きさをしたスライム達は、リュックの中に入っていった。
「あっ!?
させるか!」
咄嗟にサイカに嫌な記憶が蘇り、リュックの蓋が締まり切らないように両手を突っ込む。
「あぅ!?」
しかし、二つのスライムから伸びた触手がサイカの両手に触れると、サイカの両手に痛みが走った。
スラ子とアカ子が、食物を消化するための酸を出したのだ。
もっとも、人体には影響はないため、少し痛む程度である。
サイカが両手を離した隙に、二つの触手はタイミング良くリュックの蓋を閉めた。
「……むぅ!」
スライム達のわがままに、多少怒りを覚えたサイカだったが、仕方なく服を着て、装備を身に付けてから部屋を後にした。
※
受付に行くと、老婆が座っていた。
「おはようございます、お婆さん!」
「おぉ〜、アンタでしたか!
今日はどちらに?」
「昨日言われた通り、冒険者のギルドに行こうと思ってます」
「ほぉ〜、そうですか。
それでしたら―」
そう言って、老婆は棚の中から一枚の羊皮紙を取り出した。
「これは町の地図じゃて。
文字は読めますかの?」
「はい、大丈夫です」
「それでしたら、これを持っていくとええ。
ここが冒険者ギルドじゃ」
そう言って、老婆は羊皮紙を指さした。
「分かりました、行ってみます!」
「気を付けてのぉ!」
サイカは老婆にお礼を言って羊皮紙をもらい、宿を出た。
町に出て左にある広場へと向かい、近くの石段に腰かけた。
(さてと……)
サイカは羊皮紙を取り出し、ジックリと眺めた。
(広場はここだから……ギルドは…)
彼は羊皮紙に書かれた町内図と周りの景色を交互に見て、自分が行くべき方向を見定める。
(ここか…よし!)
ギルドの所在地が把握できると、サイカは羊皮紙をしまって立ち上がり、歩を進めた。
町の中心となる広場を北側に進み、しばらく進むと下へ降りる階段を下り、目の前にある建物を見た。
(ここだな!)
建物に掲げられた『冒険者ギルド』の表記を見ると、サイカは歩みを早め、様々な人種で構成された冒険者達の間をかいくぐり、ギルドの建物に入った。
建物の中は喧騒に包まれており、外で談笑していた冒険者達と同じような状態だった。
サイカは入り口から少し退いて、受付を探した。
すると、長机を挟んだ向こうに、数人の女性達が冒険者の格好をした男性達と話している。
あそこが受付だ、とサイカは思い、その場へ向かった。
嗅ぎ慣れない酒と葉巻の臭いが充満する空間を進み、なんとか受付の前まで来た。
サイカが受付の前に立つと、受付の女性は少し驚いたような表情をして口を開いた。
「いらっしゃいませ!……本日はどのようなご用件でしょうか?」
「あの……冒険者登録…を、したいんですけど……」
「はぁ……? かしこまりました」
女性は訝しむようにサイカを見ると、棚から冒険者登録の用紙を持ってサイカの前に置いた。
「それでは、こちらの書類に記入をお願いします」
「はい」
そう言って、サイカは書類に必要事項を記入し、女性に手渡した。
女性は書類を見ていくうちに、その表情はどんどん険しくなっていく。
「……残念ながら、冒険者登録は出来ませんね」
「えっ!? どうしてですか?」
「まず、あなたの年齢の欄には十二歳と書かれています。
ギルドの取り決めでは、親の同意があったとしても、冒険者登録を行えるのは十八歳からとなります。
ですので……残念ですが、冒険者登録は出来ません」
「そんな……」
そうはいっても、サイカにも何となくそんな予感はしていた。
だが、他に日銭を稼げるような仕事をサイカは知らない。
彼が受付で途方に暮れていると、後ろから女性の声が聞こえた。
「彼を登録しなさい」
「あっ! ギルド長!」
受付の女性の声に、その場にいるほぼすべての人間が、女性の方を向いた。
だが、相手が誰かがわかると、また元の喧騒に戻っていった。
だが、サイカは違った。
「あっ! 昨日はどうもありがとうございました!」
「ふふ、どういたしまして」
サイカが話しかけると、女性はニッコリと笑った。
その女性は、昨日ユーリンが出会い、浴場と宿の場所を教えてくれた女性だった。
「それで……どう?
冒険者になる気持ちは変わらない?」
「あ、はい!」
サイカが返事をすると、女性は改めて受付の女性に、サイカの冒険者登録を行うように言った。
その後、女性は近くのテーブルにサイカを招くと、木のジョッキに入ったハチミツ酒が来たのを合図に、口を開いた。
「さて……私の名前はカナリアと言うの。
よろしくね」
「あ……僕は―」
「知ってるわ。
サイカ・ミツルギ。
そうでしょ?」
「そう、です…」
カナリアはジョッキをグイッと傾けてハチミツ酒を飲み込んだ。
「あの……本当にいいんですか?」
「ん? 何が?」
「冒険者登録ですよ。
僕、十二歳なのに……」
サイカが表情を曇らせて話すと、カナリアはハチミツ酒をもう一杯飲んでからジョッキを置き、テーブルに肘をついて前のめりに話した。
「……確かに、問題はあるかもしれないけど……一応は黙認されているわ。
最近、割のいい仕事が増えてきたから、危険で、汚い冒険者業に就職する人が減ってきてるのよ。
ここのギルドも、昔は多くの冒険者がいたんだけど……今はあんなのばっかり…」
そう言って、カナリアは親指で自身の後ろを示した。
サイカがその先を見ると、酒に酔ったためか、大勢の男達が殴り合いの喧嘩をしている。
「は、はぁ……すごいですね」
「でしょ?
だから、あなたみたいに真面目そうな人が冒険者になってくれると、コッチとしてもありがたいのよ」
そう言って、カナリアは再びハチミツ酒を飲んだ。
「ま、とにかく」
彼女は席を立ち、サイカを見下ろす。
「焦らずに、ジックリと依頼に取り組むこと。
それが、冒険者としての鉄則よ。
詳しいことは、そこにいるミリーが教えてくれるから」
そう言って、カナリアは受付にいる女性を指さした。
「分かりました……僕、頑張ります!」
「えぇ、期待してるわよ!」
カナリアは笑顔を浮かべて、その場を後にした。
その後、サイカは受付にいるミリーから、冒険者業に関する注意事項や報酬に関する事項などを説明された。
「ま、とにかく」
ミリーはそう言って、棚から一冊の冊子をサイカに手渡した。
「今申し上げたことやそれ以外の事項に関しては、こちらの冊子に書いてありますので、ご確認ください」
「はい! ありがとうございます!」
その場では似つかわしくない、丁寧で元気な返事をして、サイカは冒険者ギルドを後にした。
※
宿に戻って自分の部屋に帰ると、サイカは一度荷物の整理をすることにした。
テーブルにリュックを置き、イスに座って中身を取り出していく。
今のサイカの持ち物は、以下の通りだった。
麻の服
革のコート
革のマント
革のリュックサック
革の硬貨袋
麻のズボン
革のブーツ
普通の両刃の剣
革の手袋
テント
キャップセット
身分証明書
テルシオの町内図
見た所、必要最小限の荷物といったところだ。
このリュックサックの中には、外を出歩く際にはスラ子とアカ子が小さくなって入ることになっている。
「ねぇ、サイカ。
これなに?」
サイカが自分の所持品を眺めていると、人間の形に戻ったアカ子が何かを手渡してきた。
それは、一輪のピンク色の花だった。
「リュックの中に……入っていた…」
スラ子が補足する。
「う〜ん、なんだろう?」
サイカには見覚えが無い。
だが、リュックの中に入っていたという事は、これもサイカをこの世界に召喚した女性が用意した物の可能性もある。
だとしたら、無闇に捨てるわけにはいかない。
「よくわからないけど……これも一応持っておくよ」
「ふ〜ん…ま、別にいいけど」
「…アタシも…」
その後、一人と二匹は明日からの冒険者としての仕事に備え、早めに就寝することになった。
「ホント…もうだめ」
「うぅ…」
朝日が顔を見せた頃、サイカ、スラ子、レッドスライムはベッドの上でグッタリとしていた。
三人はそれぞれの身体を絡ませ合い、時折愛おしそうにキスをする。
「ねぇ……今日はどうするの?」
レッドスライムは、サイカの足に自身の足を絡ませながら質問した。
「とりあえず……ギルドに行こうかな……
仕事してお金を稼がないと……」
「うん……それじゃ…お休み」
そう言い残し、スラ子は先にリュックの中に入ってしまった。
「……ねぇ」
スラ子の自分勝手な振る舞いに一通り呆れると、サイカはレッドスライムに話しかけた。
「ん?」
レッドスライムは笑みを浮かべたままサイカを見つめる。
初めて会った時とはかなり印象が違う。
「どうして君は…その…体が赤いの?」
「あぁ―」
レッドスライムは、そんなことかというような表情をして、口を開いた。
「ここ、温泉が出てくるでしょ?
アタシ、近くの水源で暮らしてたんだけど、ある日配管を伝ってここの宿の温泉に来ちゃったの。
人が少ない時間帯を見計らって温泉に入ってたんだけど、その内身体が赤くなってきて……頭も良くなっていく感じがしてきたわ。
そうしたら、ご飯にする人間にも好き嫌いが出来てきて……今日、たまたま部屋の方を見に行こうとしたら、アンタがいたってワケ」
「そうなんだ……でも、どうして僕なの?」
「そ、それは……」
レッドスライムはサイカの質問に言いよどむ。
「っ! はい! この話はお終い!
さっさとギルドに行くわよ!」
「あ、ちょっと!」
レッドスライムはそう言って、スラ子の入っているリュックの中に入ってしまった。
サイカがしばらく呆然としていると、中から話し声が聞こえてきた。
「ちょっと! もう少し詰めなさいよ!」
「…あなたが詰めて…」
サイカは溜息をつきながらベッドから起き上がり、リュックの中身を見た。
「……何してるの?」
リュックの中は青と赤の液体に満たされ、四つの目がサイカを見つめていた。
「コイツが、全然場所を譲ってくれないのよ!」
「…これ以上は無理…」
二匹のスライムはそれぞれ口を形成して、思い思いの言葉を喋った。
「…その…それ以上は小さくなれないの?」
サイカの言葉に、二匹は黙り込んだ。
しばらくして、スラ子が口を開いた。
「……出来る……」
その後、レッドスライムが口を開く。
「……アタシも……」
二人共、どこか自信なさげに目を泳がせている。
「もぅ…それなら、小さくなればいいじゃない?
ほら、二人共同時にさ」
「…うん…」
「…わかった」
二人は了承すると、サイカの合図で一気に体積を小さくする。
二つの液体は見る見るうちに小さくなっていき、リュックの奥の方に隠れていった。
やがて小さくなり切ると、サイカは両手をリュックの中に入れて、スライム達を探した。
「あ……」
やがて二つの柔らかいボールのようなものを掴むと、両手で引っ張り出した。
そのボールはそれぞれ青色と赤色をしており、それぞれ二つの目と口が付いている。
「……どう?」
青色の、無表情な目をしたスライムが口を開いた。
「えっと……スラ子?」
「…うん」
青色のスライムはちょっぴり微笑んで、嬉しそうにサイカの手の中でジャンプした。
すると赤色のスライムから触手が生え、サイカの頬をペチンと叩く。
「あぅ!?」
「フン! アタシの事無視するだなんて、いい度胸ね!」
赤色のスライムは強気な目をしている。
「ご、ごめん……
それで、君の名前はなんていうの?」
「あ、そうだったわ。
アタシの名前はアカ子よ」
「はいっ!?」
「それじゃ、よろしくね〜!」
「…頑張って…」
そう言い残し、二つのソフトボール程の大きさをしたスライム達は、リュックの中に入っていった。
「あっ!?
させるか!」
咄嗟にサイカに嫌な記憶が蘇り、リュックの蓋が締まり切らないように両手を突っ込む。
「あぅ!?」
しかし、二つのスライムから伸びた触手がサイカの両手に触れると、サイカの両手に痛みが走った。
スラ子とアカ子が、食物を消化するための酸を出したのだ。
もっとも、人体には影響はないため、少し痛む程度である。
サイカが両手を離した隙に、二つの触手はタイミング良くリュックの蓋を閉めた。
「……むぅ!」
スライム達のわがままに、多少怒りを覚えたサイカだったが、仕方なく服を着て、装備を身に付けてから部屋を後にした。
※
受付に行くと、老婆が座っていた。
「おはようございます、お婆さん!」
「おぉ〜、アンタでしたか!
今日はどちらに?」
「昨日言われた通り、冒険者のギルドに行こうと思ってます」
「ほぉ〜、そうですか。
それでしたら―」
そう言って、老婆は棚の中から一枚の羊皮紙を取り出した。
「これは町の地図じゃて。
文字は読めますかの?」
「はい、大丈夫です」
「それでしたら、これを持っていくとええ。
ここが冒険者ギルドじゃ」
そう言って、老婆は羊皮紙を指さした。
「分かりました、行ってみます!」
「気を付けてのぉ!」
サイカは老婆にお礼を言って羊皮紙をもらい、宿を出た。
町に出て左にある広場へと向かい、近くの石段に腰かけた。
(さてと……)
サイカは羊皮紙を取り出し、ジックリと眺めた。
(広場はここだから……ギルドは…)
彼は羊皮紙に書かれた町内図と周りの景色を交互に見て、自分が行くべき方向を見定める。
(ここか…よし!)
ギルドの所在地が把握できると、サイカは羊皮紙をしまって立ち上がり、歩を進めた。
町の中心となる広場を北側に進み、しばらく進むと下へ降りる階段を下り、目の前にある建物を見た。
(ここだな!)
建物に掲げられた『冒険者ギルド』の表記を見ると、サイカは歩みを早め、様々な人種で構成された冒険者達の間をかいくぐり、ギルドの建物に入った。
建物の中は喧騒に包まれており、外で談笑していた冒険者達と同じような状態だった。
サイカは入り口から少し退いて、受付を探した。
すると、長机を挟んだ向こうに、数人の女性達が冒険者の格好をした男性達と話している。
あそこが受付だ、とサイカは思い、その場へ向かった。
嗅ぎ慣れない酒と葉巻の臭いが充満する空間を進み、なんとか受付の前まで来た。
サイカが受付の前に立つと、受付の女性は少し驚いたような表情をして口を開いた。
「いらっしゃいませ!……本日はどのようなご用件でしょうか?」
「あの……冒険者登録…を、したいんですけど……」
「はぁ……? かしこまりました」
女性は訝しむようにサイカを見ると、棚から冒険者登録の用紙を持ってサイカの前に置いた。
「それでは、こちらの書類に記入をお願いします」
「はい」
そう言って、サイカは書類に必要事項を記入し、女性に手渡した。
女性は書類を見ていくうちに、その表情はどんどん険しくなっていく。
「……残念ながら、冒険者登録は出来ませんね」
「えっ!? どうしてですか?」
「まず、あなたの年齢の欄には十二歳と書かれています。
ギルドの取り決めでは、親の同意があったとしても、冒険者登録を行えるのは十八歳からとなります。
ですので……残念ですが、冒険者登録は出来ません」
「そんな……」
そうはいっても、サイカにも何となくそんな予感はしていた。
だが、他に日銭を稼げるような仕事をサイカは知らない。
彼が受付で途方に暮れていると、後ろから女性の声が聞こえた。
「彼を登録しなさい」
「あっ! ギルド長!」
受付の女性の声に、その場にいるほぼすべての人間が、女性の方を向いた。
だが、相手が誰かがわかると、また元の喧騒に戻っていった。
だが、サイカは違った。
「あっ! 昨日はどうもありがとうございました!」
「ふふ、どういたしまして」
サイカが話しかけると、女性はニッコリと笑った。
その女性は、昨日ユーリンが出会い、浴場と宿の場所を教えてくれた女性だった。
「それで……どう?
冒険者になる気持ちは変わらない?」
「あ、はい!」
サイカが返事をすると、女性は改めて受付の女性に、サイカの冒険者登録を行うように言った。
その後、女性は近くのテーブルにサイカを招くと、木のジョッキに入ったハチミツ酒が来たのを合図に、口を開いた。
「さて……私の名前はカナリアと言うの。
よろしくね」
「あ……僕は―」
「知ってるわ。
サイカ・ミツルギ。
そうでしょ?」
「そう、です…」
カナリアはジョッキをグイッと傾けてハチミツ酒を飲み込んだ。
「あの……本当にいいんですか?」
「ん? 何が?」
「冒険者登録ですよ。
僕、十二歳なのに……」
サイカが表情を曇らせて話すと、カナリアはハチミツ酒をもう一杯飲んでからジョッキを置き、テーブルに肘をついて前のめりに話した。
「……確かに、問題はあるかもしれないけど……一応は黙認されているわ。
最近、割のいい仕事が増えてきたから、危険で、汚い冒険者業に就職する人が減ってきてるのよ。
ここのギルドも、昔は多くの冒険者がいたんだけど……今はあんなのばっかり…」
そう言って、カナリアは親指で自身の後ろを示した。
サイカがその先を見ると、酒に酔ったためか、大勢の男達が殴り合いの喧嘩をしている。
「は、はぁ……すごいですね」
「でしょ?
だから、あなたみたいに真面目そうな人が冒険者になってくれると、コッチとしてもありがたいのよ」
そう言って、カナリアは再びハチミツ酒を飲んだ。
「ま、とにかく」
彼女は席を立ち、サイカを見下ろす。
「焦らずに、ジックリと依頼に取り組むこと。
それが、冒険者としての鉄則よ。
詳しいことは、そこにいるミリーが教えてくれるから」
そう言って、カナリアは受付にいる女性を指さした。
「分かりました……僕、頑張ります!」
「えぇ、期待してるわよ!」
カナリアは笑顔を浮かべて、その場を後にした。
その後、サイカは受付にいるミリーから、冒険者業に関する注意事項や報酬に関する事項などを説明された。
「ま、とにかく」
ミリーはそう言って、棚から一冊の冊子をサイカに手渡した。
「今申し上げたことやそれ以外の事項に関しては、こちらの冊子に書いてありますので、ご確認ください」
「はい! ありがとうございます!」
その場では似つかわしくない、丁寧で元気な返事をして、サイカは冒険者ギルドを後にした。
※
宿に戻って自分の部屋に帰ると、サイカは一度荷物の整理をすることにした。
テーブルにリュックを置き、イスに座って中身を取り出していく。
今のサイカの持ち物は、以下の通りだった。
麻の服
革のコート
革のマント
革のリュックサック
革の硬貨袋
麻のズボン
革のブーツ
普通の両刃の剣
革の手袋
テント
キャップセット
身分証明書
テルシオの町内図
見た所、必要最小限の荷物といったところだ。
このリュックサックの中には、外を出歩く際にはスラ子とアカ子が小さくなって入ることになっている。
「ねぇ、サイカ。
これなに?」
サイカが自分の所持品を眺めていると、人間の形に戻ったアカ子が何かを手渡してきた。
それは、一輪のピンク色の花だった。
「リュックの中に……入っていた…」
スラ子が補足する。
「う〜ん、なんだろう?」
サイカには見覚えが無い。
だが、リュックの中に入っていたという事は、これもサイカをこの世界に召喚した女性が用意した物の可能性もある。
だとしたら、無闇に捨てるわけにはいかない。
「よくわからないけど……これも一応持っておくよ」
「ふ〜ん…ま、別にいいけど」
「…アタシも…」
その後、一人と二匹は明日からの冒険者としての仕事に備え、早めに就寝することになった。
17/03/04 11:54更新 / カーマ
戻る
次へ