一目ぼれ
青年は視界を塞ぐ木々をかき分け、獣道をたどりながら進む。丈夫なマントを羽織っているが、それでも枝に引っかけ衣服は大分傷んでいた。
「まったく遭難とは難儀ですね、しかも暗くなってきましたし……」
歩き続ける青年のリシュは袖で汗をぬぐい、大きく溜め息をつく。懐からだした地図をひろげ、糸のような細い瞳に近づけ覗きこんだ。
「この道であっている筈ですが……あの商人に適当なもの掴まされたのでしょうか？」
唸りながらも正しいであろう道を延々と進む。
周囲は真っ暗闇で唯一の灯りだけが、リシュの持っている物のみであった。
「なんというか、一人暗闇のなか歩くのは精神的に参ってきます……独り言も多いですし……いや、雰囲気に負けては吟遊詩人として名折れ、一曲奏でて明るくいきましょう！」
そう自分に言い聞かせると歌い出した。
現在周囲は草やら木々やらをかき分けるため、両手は使えない。背負っている楽器のリュートが使用不可である。
軽やかでひょうきんな歌を歌いながら進む。徐々に枝を払う手が拍子をとりはじめ、地面を踏みしめる足が軽快になっていく。
暫くたった頃には歌声も絶好調で、軽々と進んでいた。
ふとリシュの視界になにかが光る。火のような暖色ではなく、青白く明滅するそれは闇夜ではひときは目立つ。
いぶかしげに思い躊躇するが、その光は道の先にあるようであった。迂回する時間も惜しく、町につくのが先と獣道を歩く。道を辿るにつれ光へ近づいていき、なにかか判別出来るようになった。
まさかと思い地図を見直すと、道の途中には池が記されていた。
「よかった……この道は本当にあっていたんですね」
明確な目印を見つけ、地図が正しかった事にリシュは安堵の溜め息をつく。
ここで野宿でもするかと思案しながら池に出た瞬間、リシュは息を飲んだ。
満月に照らされた青白い世界に、月光が乱反射し煌めいていた。池のなかに静かにたたずむ少女が一人。ヘソあたりまで半身を沈め、手を覆う長い袖と胸元をわずかに隠す衣服を濡らしている。無表情に空を見上げるその姿は儚げで美しかった。
リシュの視線に気づいたのだろう、少女は目だけを動かし瞳を合わせてきた。
「お兄さん、だれ？」
「え？ あの、えっと……」
少女が口を開いた事に現実味がなく、リシュは言葉に詰まる。それほどまでに心が捕らわれていた。
「お兄さん？」
水面を揺らし少女はリシュと相対する。
「え！？ あ！ すみません！」
すぐさまリシュは体ごと後ろを向く。少女の張り付いた衣服、裸に近い姿に覗き見をしたようで、申し訳なく思ったためだ。
「お兄さん、名前は？」
「私はリシュです」
抑揚が少ないが可憐な声に、リシュは素直に答えた。
「ありがとう、ワタシはカシニ、よろしく」
後ろを向き続けるリシュには見えないが、カシニは頭を下げる。
「お兄さんは曲弾けるの？」
「ええ、吟遊詩人やってますので、歌も曲もどちらもいけますよ」
リシュは背負っている弦楽器のリュートを手に持ち、軽く鳴らす。
「良い音、一曲お願いしていい？」
「いいですけど……うーん……」
カシニがお願いしてきたが、リシュは迷う。
奏でるのはまったく問題は無い、だが後ろ向きで演奏したところで音が上手く伝わらないのだ。聴いてもらうなら最高を目指したい、よって向き合うことが良いのだがカシニを直視してしまう。そこが悩み所であった。
「えっとですね……あ！」
カシニの強い視線から期待が高まっているのをリシュは感じとる。どうしようか迷っていたが、一つ案が浮かんだ。
「これを羽織ってください」
着ていたマントを後ろ手に渡す。それなりに長いため、これならカシニの全身覆えると考えたのだ。
「わかった」
カシニの返事と共に水を歩く音がする。リシュの手から布の感触が無くなり、再び水の音が響く。
「着た」
カシニの返事を聞いてリシュはふりかえった。少女を視界に納めた瞬間に、リシュは思わず吹き出していた。
「何をしているのですか！？」
「匂い嗅いでる、お兄さんの匂いがする」
首元で止めてあるマントの少し持ち上げ、スンスンと音を立てているのだ。しかも真ん中は開いており、茶色いマントから覗く白い肌のおへそ回りが強調される。
思わずリシュは唾を飲み込む。カシニにも聞こえたのだろう、マントからリシュへと視線が移り、匂いを嗅ぎながらもじっと見つめていた。
見とれていたリシュだったが、咳払いをして気を持ち直す。
「取り敢えず何を弾きましょう？」
「どんなのが有るかわからないから……良いのある？」
「そうですね……ではこんなのはどうでしょう？」
リシュはゆっくりとリュートを鳴らす。
満月に照らされた清んだ蒼い世界、池には波もなく月を浮かび上がらせる。静止した絵画のような空間に、一際映える麗しき少女。瞳も心も全てが捕らわれたこの一時を、リシュは自身の持つあらゆる技術を持って奏でていく。
カシニも聞き入っているのだろう、瞳を閉じて曲に身を委ねるかのように、ゆったりと体を揺らす。見た目が発育途中の少女だが、何処か艶かしく淫靡であった。
その姿にリシュは心引かれる。曲を奏でながらもじっとカシニを見つめ続けた。
水が跳ねる音がする同時にリシュの曲が止まる。そして自身の足元を見下ろしていた。いつのまにか足首まで池のなかに入っており、音と冷たさに驚いていたのだ。
「どうしたの？」
カシニも突然止まった事に首をかしげていた。
「少々驚いただけです、気にしないでください」
「そう、残念」
カシニの声色から気落ちした気配を感じ、一瞬自身が立ち止まった事を残念がったのかと勘違いしそうになった。だが曲のことだろうと思い直し、陸へ下がり再びリュートを構える。
「音楽止めてしまい、申し訳ないです。お詫びに今夜は満足していただけるまで、弾きましょう」
理由がどうあれ、心地よく聴いていたのに中断してしまったことを素直に謝る。まだまだ未熟者だと自身を叱咤し、再び止めないよう気を引き締めた。
「まだ奏でてくれるの？ 嬉しい」
カシニの口角がわずかに上がる。感情が顔に出ない彼女に表れた表情、それを見たリシュは感動に胸を詰まらせた。
「落ち着いた曲でしたので、次は明るい軽快なやつで行きましょう」
先程の曲に合わせるように体を動かしていたカシニの様子に、踊れるようなものが良いとリシュは判断した。
ゆっくりと曲に入った。溜め込むように、期待を持たせるように奏でる。そして一拍おいて解放するかのごとく一気に加速した。
月夜の池に真っ直ぐ通る歌声が響渡った。結構な声音だが濁る事もなく、低く重厚なときもあれば高く清んだ声色と高度な技能で歌われる。
カシニも始めは拍子に体を小さく跳ねさせ、徐々に激しく大きくなっていく。水面が激しく波打ち、周囲に泡が立つほどであった。
泡が漂いリシュまで届く。水泡にしては丈夫すぎるがまったく気にはならず、近くで弾けるたび不思議な感覚が覆っていく。
とても小さな微笑を浮かべ、熱い眼差しを向けながらカシニは激しく体を揺らす。情熱的な動きに誘われリシュは近づいていく、腰まで水に浸るが気にも止めず、リュートを弾き鳴らしカニシの目の前にまで辿り着いた。
「捕まえた」
カシニがポツリと呟くと同時に、水中から巨大な甲殻類の鋏みが飛び出す。リシュが認識するよりも速く鋏みは彼の胴体を左右から挟み込んだ。
「え？ はぁ！？ 」
突然の出来事に混乱し、リシュは抜けどそうと暴れる。だがまったく弛むことはなかった。
「落ち着いて」
「ですけど！ く！ この！」
カシニに言われるが落ち着けるはずもなく、鋏みを開こうと全力で力む。
「ワタシの鋏みだから大丈夫」
ピタリと暴れるのを止め、どういうことかとリシュは見つめる。理解したのだろう、カシニは頷くとそのまま陸地へと進みだす。
水面にを掻き分け、徐々に出てきたのは刺々しく頑丈な表面をもつ、巨大な蟹であった。
「これがワタシ」
「人間ではない……のですね」
「そう、魔物」
リシュは目を見開く、魔物の姿が変わったという噂はそこかしこで聞いたことはあった。だが麗しい女性の姿とは思いもしなかったのだ。
今まで歌のために教会の騎士や守衛の兵士等から英雄譚は聴いてきた、そこには狂暴で人を拐う魔物がいくつも出てきていた。
リシュは唾を飲み込む。カシニの異形に恐怖心が沸き立つが、その姿に魅了され目が離せなかった。
清楚で可憐な少女と、凶悪で無骨な魔物の相反する様相が互いに際立たせていた。人だけなら綺麗な少女と見ていただろう、蟹だけなら恐れる魔物と逃げていたのは間違いなかった。二つあるからこそ、リシュは心の底からカシニの虜になっていた。
「怖い、けど、美しいです」
リシュは簡潔に、されど万感の思いをもって告げ、そのまま片手を伸ばしカシニの頬へと触れる。
されるがままに触れさせるカシニは、顔を赤く上気させていた。
見つめ合い、リシュが寄せるように手に力を込める。その動きを手助けするかのようにカシニも鋏みを動かし、両手を伸ばした。
唇が触れると離さないとばかりに抱き合い、舌を激しく絡ませる。
「ふあ……これが……」
恍惚とした顔でカシニは自身の唇に触れる。
「カシニさん、あなたが……好きです。情熱的な踊りも、魔物と少女の姿も、その素直な性格も、全て」
「ワタシもリシュが好き、引き込まれる歌も、優しい顔つきも、礼儀正しい様子も、全部」
再び二人は舌を絡ませた。今度長く、苦しくなるまで続け、体も隙間なく合わせる。
「あ」
同時に発すると、二人は下を見た。正確にはリシュの衣類を押し上げている部分である。
「これはあのですね」
「欲しい」
リシュの言い訳を遮り、カシニが端的に言う。なにがとリシュが思う間もなく鋏みを振り、あっという間に衣服が切り裂かれた。
カシニも服を脱ぎ捨て全裸になるが、下にある大事な場所は発生する泡に包まれよく見えない。
借りていたマントを地面に敷き、そこへリシュを寝かせる。
「匂い、大好きなリシュだけの匂い」
裸を凝視ししているリシュを尻目に、カシニは泡を掬い塗りつけた。
「く、はぁ……」
カシニに胸元を撫でられた感触に一瞬力が入るが、心地よさに脱力する。
「気持ちいい？」
えっちらおっちらと一生懸命撫で付け、カシニはリシュを泡だらけにしていく。
「凄く気持ちいいです」
「そう」
リシュの反応を嬉しく思ったのだろう。よりしっかりと、そして絡み付くように手を這わせる。
「次は背中、上だけ起こして」
手と鋏みを使い優しく導かれ、リシュはされるがままに上体を起こした。するとカシニは抱きつくように背中へ手を伸ばし、洗い始める。
足を伸ばして座るリシュに、蟹の部分が被さる。それは丁度少女の下腹部が合わさるような位置であった。
背中を両手で擦りながら、体を上下に動かし前も洗う。
小さくも柔らかな胸を押しつけ、温かく滑らかなお腹を擦り当てる。顔が近づくたびに口づけを交わし、大きく屹立したモノと熱く潤んだ大事な所が掠めていく。
動きを止めて長く唇を合わせたあと、カシニは体を離した。
「ふう、はあ、カシニ？」
呼吸を荒くしながらリシュは疑問を口にする。だがカシニは黙ったままで、息を吹き掛けた。
覆っていた泡が全部拡散し、はじけて消える。そのままリシュの胸元に顔を埋めた。
「はぁ……いい匂い、たまらない」
静かに熱のこもった声をカシニは漏らす。そのまま深呼吸しながら下がっていく。熱心な様子にリシュは愛しさと興奮を感じていた。
「ここ、凄い」
カシニの目の前には、固く膨らんだリシュの象徴があった。両手で泡を掬い、ゆっくりと纏わせていく。
下から掬うように、筒を磨くように、じっくりと隅々まで形を確かめかるごとく揉みこんでいく。
「くぁ！」
先端を擦られ、強い快感にリシュは思わず声を上げた。
「もっとしっかりと」
「だ！ ぐぅ！」
その手は執拗に動かしていく。リシュは答えることも出来ず体を跳ねさせ、それを見たカシニは刺激を強くした。
「もっと、もっと」
リシュはされるがままだが、一向に吐き出すことは無い、刺激が強すぎて痛いような気持ちいいような感覚のため逆に出ないのだ。それでもカシニは強くなる匂いと反応に、体を赤く染めながら擦っていく。
「はぁ……我慢できない」
大きく深呼吸して肺に満たし、カシニは手を離した。
「ぐはぁ、はあ、はあ」
快感が終わり、リシュも力を抜くが呼吸が荒くなっている。二人は息を忙しくしながら見つめ抱き合い、局部を合わせた。
「ん！」
「く！」
先端が花弁を形にそって割り、じわりと確かめるように埋め込んでいく。
「リ、シュ、んあああああ」
「カシニの中、熱い」
リシュの一際大きな部分にたどり着き、カシニは熱気の籠ったあえぎ声をあげながらも易々と受け入れていった。
「んあ！」
「く！」
さらに奥へ進み、壁が激しく蠢き隙間なく締め上げる。ぬかるむ細い穴を掻き分け、擦りながら奥へ奥へと突き進む。
「ぜ、全部、入った」
「入り、ましたね」
潤んだ瞳で見下げるカシニは少し体を離し、結合する付け根に感嘆の声をだす。リシュも同じ場所へを見て、嬉しさと気持ちよさで頭が茹で上がる。
確認するようにそっと下腹部に手をあて、カシニは目を閉じながら撫でる。そのしぐさに刺さっているのだと実感させられ、リシュは中で跳ねさせてしまう。
「ん、動いてる」
「えと、すみません」
僅かに微笑みながら、ピクリと体を震わせるカシニ。勝手に反応してしまうためなんとなくリシュは意味がない謝罪をしていた。
「もっと……感じて」
カシニはそう言うとリシュの首へ手を回してすがり付き、器用に脚を動かし出し入れし始めた。最初はゆっくりと惜しむように締め付けながら引き、抜けきる前に擦りつけながら刺し込んでいく。
「ん……ん……うん、うん、んあ！」
「く……はあ……す、すご、いです」
カシニは少しづつ腰の動きが速く、勢いをつけて動かしていく。リシュも自然と背中へ手を回し、手助けしながら腰を突き上げる。
「あ！ あ！ あん！ んあ！ はう！」
「は！ は！ はあ！ くぅ！ くは！」
子宮の入り口激しく突き、一番熱い内部を何度も往復する。互いに息も荒く、快感を求め与え合い、心も体も全て擦り合わせていった。
「カシニ！ で、出そうです！」
「うん！ うん！ 中！ 中に！ いっぱい！」
我慢できない感覚に陥り、リシュが告げるとカシニは顔を上げた。表情の変化乏しかった顔が、いまではとろけそうになって懇願する。
「カシニ！ カシニ！ 愛しています！」
「リシュ！ 好き！ 大好き！」
吸い込まれるように強く締め上げられ、リシュ限界に達した。何度も撃ちだし満たしていく。カシニも体を震わせ、きつく締め上げながら離さないと言いたげに強く抱き締めた。
「ふぅ、ふぅ、凄かった」
「はぁー……凄かったですね」
波が収まり、心地よい脱力感に二人は身を委ねる。お互いの手を握りしめ、たまにキスを交わして愛を囁きあった。
風が吹き寒さを感じたリシュは服を着ようと周囲を見回す。そして綺麗に切り裂かれた衣服を目にして、唖然とした。
「どうしたの？」
寄り添いながらカシニが首をかしげる。
「ど、どうしましょう……服が……」
布切れをつまみながら、リシュは頭を抱える。なにせ服が無いのだ。
「服が欲しいの？」
「ええ、そうですけど、裸では行けませんし……」
マントがあるがそれだけ羽織るなど、変態そのものである。
しかも服を買いにいこうにも結局服を来ていなければならない、鍵のかかった箱の中に鍵があるのと同じ状況で手も足もでなかった。
「大丈夫」
カシニがそう言うと鋏みでリシュを抱き抱えたまま、脚を動かし荷物へ移動する。片時も離れたくないのだろう。両手で荷物を漁り、取り出したのは一枚の紙切れであった。
「地図ですか？」
「うん、ね、火を起こせる？」
ここにたどり着いた地図を見せられ、リシュは疑問に思う。そして一端離してもらい、適当に枯れ枝を集めて道具を使い火をつける。
「この印」
「丸が４つのあの店特有の印ですね」
カシニが指し示すのは地図の端に書かれた判子である。これはリシュが買ったものであった。
「これ肉球」
「は？」
「あそこの店主は魔物」
焚き火の中から火がついた枝をカシニは取り出し、地図をあぶり出した。
「な！」
浮き出てきたのは空白部分にかかれた文字である。まったく気づいてなかったリシュ驚くのみであった。
「読んで」
「わかりました、えーと……はあ！？」
そこにかかれていたのは、店主からカシニへの手紙である。しかも内容はこの男性を気に入ったとか、近々たずねるといったことであった。
「この店主は友人、人がこない場所に住むワタシを心配してれて、色々としてくれてる」
「私は嵌められたのですか？」
「結果はそうなる、嫌だった？」
眉毛が小さくさげながら聞かれたが、すでにリシュには答えが出ていた。可憐で愛しいカシニに出会えたのだ。
「カシニという好きな娘が出来ましたからね、嫌では無いですよ」
頭を撫でるとカシニはいつもの無表情へ戻るが、嬉しそうに体は揺れるのだった。
「まったく遭難とは難儀ですね、しかも暗くなってきましたし……」
歩き続ける青年のリシュは袖で汗をぬぐい、大きく溜め息をつく。懐からだした地図をひろげ、糸のような細い瞳に近づけ覗きこんだ。
「この道であっている筈ですが……あの商人に適当なもの掴まされたのでしょうか？」
唸りながらも正しいであろう道を延々と進む。
周囲は真っ暗闇で唯一の灯りだけが、リシュの持っている物のみであった。
「なんというか、一人暗闇のなか歩くのは精神的に参ってきます……独り言も多いですし……いや、雰囲気に負けては吟遊詩人として名折れ、一曲奏でて明るくいきましょう！」
そう自分に言い聞かせると歌い出した。
現在周囲は草やら木々やらをかき分けるため、両手は使えない。背負っている楽器のリュートが使用不可である。
軽やかでひょうきんな歌を歌いながら進む。徐々に枝を払う手が拍子をとりはじめ、地面を踏みしめる足が軽快になっていく。
暫くたった頃には歌声も絶好調で、軽々と進んでいた。
ふとリシュの視界になにかが光る。火のような暖色ではなく、青白く明滅するそれは闇夜ではひときは目立つ。
いぶかしげに思い躊躇するが、その光は道の先にあるようであった。迂回する時間も惜しく、町につくのが先と獣道を歩く。道を辿るにつれ光へ近づいていき、なにかか判別出来るようになった。
まさかと思い地図を見直すと、道の途中には池が記されていた。
「よかった……この道は本当にあっていたんですね」
明確な目印を見つけ、地図が正しかった事にリシュは安堵の溜め息をつく。
ここで野宿でもするかと思案しながら池に出た瞬間、リシュは息を飲んだ。
満月に照らされた青白い世界に、月光が乱反射し煌めいていた。池のなかに静かにたたずむ少女が一人。ヘソあたりまで半身を沈め、手を覆う長い袖と胸元をわずかに隠す衣服を濡らしている。無表情に空を見上げるその姿は儚げで美しかった。
リシュの視線に気づいたのだろう、少女は目だけを動かし瞳を合わせてきた。
「お兄さん、だれ？」
「え？ あの、えっと……」
少女が口を開いた事に現実味がなく、リシュは言葉に詰まる。それほどまでに心が捕らわれていた。
「お兄さん？」
水面を揺らし少女はリシュと相対する。
「え！？ あ！ すみません！」
すぐさまリシュは体ごと後ろを向く。少女の張り付いた衣服、裸に近い姿に覗き見をしたようで、申し訳なく思ったためだ。
「お兄さん、名前は？」
「私はリシュです」
抑揚が少ないが可憐な声に、リシュは素直に答えた。
「ありがとう、ワタシはカシニ、よろしく」
後ろを向き続けるリシュには見えないが、カシニは頭を下げる。
「お兄さんは曲弾けるの？」
「ええ、吟遊詩人やってますので、歌も曲もどちらもいけますよ」
リシュは背負っている弦楽器のリュートを手に持ち、軽く鳴らす。
「良い音、一曲お願いしていい？」
「いいですけど……うーん……」
カシニがお願いしてきたが、リシュは迷う。
奏でるのはまったく問題は無い、だが後ろ向きで演奏したところで音が上手く伝わらないのだ。聴いてもらうなら最高を目指したい、よって向き合うことが良いのだがカシニを直視してしまう。そこが悩み所であった。
「えっとですね……あ！」
カシニの強い視線から期待が高まっているのをリシュは感じとる。どうしようか迷っていたが、一つ案が浮かんだ。
「これを羽織ってください」
着ていたマントを後ろ手に渡す。それなりに長いため、これならカシニの全身覆えると考えたのだ。
「わかった」
カシニの返事と共に水を歩く音がする。リシュの手から布の感触が無くなり、再び水の音が響く。
「着た」
カシニの返事を聞いてリシュはふりかえった。少女を視界に納めた瞬間に、リシュは思わず吹き出していた。
「何をしているのですか！？」
「匂い嗅いでる、お兄さんの匂いがする」
首元で止めてあるマントの少し持ち上げ、スンスンと音を立てているのだ。しかも真ん中は開いており、茶色いマントから覗く白い肌のおへそ回りが強調される。
思わずリシュは唾を飲み込む。カシニにも聞こえたのだろう、マントからリシュへと視線が移り、匂いを嗅ぎながらもじっと見つめていた。
見とれていたリシュだったが、咳払いをして気を持ち直す。
「取り敢えず何を弾きましょう？」
「どんなのが有るかわからないから……良いのある？」
「そうですね……ではこんなのはどうでしょう？」
リシュはゆっくりとリュートを鳴らす。
満月に照らされた清んだ蒼い世界、池には波もなく月を浮かび上がらせる。静止した絵画のような空間に、一際映える麗しき少女。瞳も心も全てが捕らわれたこの一時を、リシュは自身の持つあらゆる技術を持って奏でていく。
カシニも聞き入っているのだろう、瞳を閉じて曲に身を委ねるかのように、ゆったりと体を揺らす。見た目が発育途中の少女だが、何処か艶かしく淫靡であった。
その姿にリシュは心引かれる。曲を奏でながらもじっとカシニを見つめ続けた。
水が跳ねる音がする同時にリシュの曲が止まる。そして自身の足元を見下ろしていた。いつのまにか足首まで池のなかに入っており、音と冷たさに驚いていたのだ。
「どうしたの？」
カシニも突然止まった事に首をかしげていた。
「少々驚いただけです、気にしないでください」
「そう、残念」
カシニの声色から気落ちした気配を感じ、一瞬自身が立ち止まった事を残念がったのかと勘違いしそうになった。だが曲のことだろうと思い直し、陸へ下がり再びリュートを構える。
「音楽止めてしまい、申し訳ないです。お詫びに今夜は満足していただけるまで、弾きましょう」
理由がどうあれ、心地よく聴いていたのに中断してしまったことを素直に謝る。まだまだ未熟者だと自身を叱咤し、再び止めないよう気を引き締めた。
「まだ奏でてくれるの？ 嬉しい」
カシニの口角がわずかに上がる。感情が顔に出ない彼女に表れた表情、それを見たリシュは感動に胸を詰まらせた。
「落ち着いた曲でしたので、次は明るい軽快なやつで行きましょう」
先程の曲に合わせるように体を動かしていたカシニの様子に、踊れるようなものが良いとリシュは判断した。
ゆっくりと曲に入った。溜め込むように、期待を持たせるように奏でる。そして一拍おいて解放するかのごとく一気に加速した。
月夜の池に真っ直ぐ通る歌声が響渡った。結構な声音だが濁る事もなく、低く重厚なときもあれば高く清んだ声色と高度な技能で歌われる。
カシニも始めは拍子に体を小さく跳ねさせ、徐々に激しく大きくなっていく。水面が激しく波打ち、周囲に泡が立つほどであった。
泡が漂いリシュまで届く。水泡にしては丈夫すぎるがまったく気にはならず、近くで弾けるたび不思議な感覚が覆っていく。
とても小さな微笑を浮かべ、熱い眼差しを向けながらカシニは激しく体を揺らす。情熱的な動きに誘われリシュは近づいていく、腰まで水に浸るが気にも止めず、リュートを弾き鳴らしカニシの目の前にまで辿り着いた。
「捕まえた」
カシニがポツリと呟くと同時に、水中から巨大な甲殻類の鋏みが飛び出す。リシュが認識するよりも速く鋏みは彼の胴体を左右から挟み込んだ。
「え？ はぁ！？ 」
突然の出来事に混乱し、リシュは抜けどそうと暴れる。だがまったく弛むことはなかった。
「落ち着いて」
「ですけど！ く！ この！」
カシニに言われるが落ち着けるはずもなく、鋏みを開こうと全力で力む。
「ワタシの鋏みだから大丈夫」
ピタリと暴れるのを止め、どういうことかとリシュは見つめる。理解したのだろう、カシニは頷くとそのまま陸地へと進みだす。
水面にを掻き分け、徐々に出てきたのは刺々しく頑丈な表面をもつ、巨大な蟹であった。
「これがワタシ」
「人間ではない……のですね」
「そう、魔物」
リシュは目を見開く、魔物の姿が変わったという噂はそこかしこで聞いたことはあった。だが麗しい女性の姿とは思いもしなかったのだ。
今まで歌のために教会の騎士や守衛の兵士等から英雄譚は聴いてきた、そこには狂暴で人を拐う魔物がいくつも出てきていた。
リシュは唾を飲み込む。カシニの異形に恐怖心が沸き立つが、その姿に魅了され目が離せなかった。
清楚で可憐な少女と、凶悪で無骨な魔物の相反する様相が互いに際立たせていた。人だけなら綺麗な少女と見ていただろう、蟹だけなら恐れる魔物と逃げていたのは間違いなかった。二つあるからこそ、リシュは心の底からカシニの虜になっていた。
「怖い、けど、美しいです」
リシュは簡潔に、されど万感の思いをもって告げ、そのまま片手を伸ばしカシニの頬へと触れる。
されるがままに触れさせるカシニは、顔を赤く上気させていた。
見つめ合い、リシュが寄せるように手に力を込める。その動きを手助けするかのようにカシニも鋏みを動かし、両手を伸ばした。
唇が触れると離さないとばかりに抱き合い、舌を激しく絡ませる。
「ふあ……これが……」
恍惚とした顔でカシニは自身の唇に触れる。
「カシニさん、あなたが……好きです。情熱的な踊りも、魔物と少女の姿も、その素直な性格も、全て」
「ワタシもリシュが好き、引き込まれる歌も、優しい顔つきも、礼儀正しい様子も、全部」
再び二人は舌を絡ませた。今度長く、苦しくなるまで続け、体も隙間なく合わせる。
「あ」
同時に発すると、二人は下を見た。正確にはリシュの衣類を押し上げている部分である。
「これはあのですね」
「欲しい」
リシュの言い訳を遮り、カシニが端的に言う。なにがとリシュが思う間もなく鋏みを振り、あっという間に衣服が切り裂かれた。
カシニも服を脱ぎ捨て全裸になるが、下にある大事な場所は発生する泡に包まれよく見えない。
借りていたマントを地面に敷き、そこへリシュを寝かせる。
「匂い、大好きなリシュだけの匂い」
裸を凝視ししているリシュを尻目に、カシニは泡を掬い塗りつけた。
「く、はぁ……」
カシニに胸元を撫でられた感触に一瞬力が入るが、心地よさに脱力する。
「気持ちいい？」
えっちらおっちらと一生懸命撫で付け、カシニはリシュを泡だらけにしていく。
「凄く気持ちいいです」
「そう」
リシュの反応を嬉しく思ったのだろう。よりしっかりと、そして絡み付くように手を這わせる。
「次は背中、上だけ起こして」
手と鋏みを使い優しく導かれ、リシュはされるがままに上体を起こした。するとカシニは抱きつくように背中へ手を伸ばし、洗い始める。
足を伸ばして座るリシュに、蟹の部分が被さる。それは丁度少女の下腹部が合わさるような位置であった。
背中を両手で擦りながら、体を上下に動かし前も洗う。
小さくも柔らかな胸を押しつけ、温かく滑らかなお腹を擦り当てる。顔が近づくたびに口づけを交わし、大きく屹立したモノと熱く潤んだ大事な所が掠めていく。
動きを止めて長く唇を合わせたあと、カシニは体を離した。
「ふう、はあ、カシニ？」
呼吸を荒くしながらリシュは疑問を口にする。だがカシニは黙ったままで、息を吹き掛けた。
覆っていた泡が全部拡散し、はじけて消える。そのままリシュの胸元に顔を埋めた。
「はぁ……いい匂い、たまらない」
静かに熱のこもった声をカシニは漏らす。そのまま深呼吸しながら下がっていく。熱心な様子にリシュは愛しさと興奮を感じていた。
「ここ、凄い」
カシニの目の前には、固く膨らんだリシュの象徴があった。両手で泡を掬い、ゆっくりと纏わせていく。
下から掬うように、筒を磨くように、じっくりと隅々まで形を確かめかるごとく揉みこんでいく。
「くぁ！」
先端を擦られ、強い快感にリシュは思わず声を上げた。
「もっとしっかりと」
「だ！ ぐぅ！」
その手は執拗に動かしていく。リシュは答えることも出来ず体を跳ねさせ、それを見たカシニは刺激を強くした。
「もっと、もっと」
リシュはされるがままだが、一向に吐き出すことは無い、刺激が強すぎて痛いような気持ちいいような感覚のため逆に出ないのだ。それでもカシニは強くなる匂いと反応に、体を赤く染めながら擦っていく。
「はぁ……我慢できない」
大きく深呼吸して肺に満たし、カシニは手を離した。
「ぐはぁ、はあ、はあ」
快感が終わり、リシュも力を抜くが呼吸が荒くなっている。二人は息を忙しくしながら見つめ抱き合い、局部を合わせた。
「ん！」
「く！」
先端が花弁を形にそって割り、じわりと確かめるように埋め込んでいく。
「リ、シュ、んあああああ」
「カシニの中、熱い」
リシュの一際大きな部分にたどり着き、カシニは熱気の籠ったあえぎ声をあげながらも易々と受け入れていった。
「んあ！」
「く！」
さらに奥へ進み、壁が激しく蠢き隙間なく締め上げる。ぬかるむ細い穴を掻き分け、擦りながら奥へ奥へと突き進む。
「ぜ、全部、入った」
「入り、ましたね」
潤んだ瞳で見下げるカシニは少し体を離し、結合する付け根に感嘆の声をだす。リシュも同じ場所へを見て、嬉しさと気持ちよさで頭が茹で上がる。
確認するようにそっと下腹部に手をあて、カシニは目を閉じながら撫でる。そのしぐさに刺さっているのだと実感させられ、リシュは中で跳ねさせてしまう。
「ん、動いてる」
「えと、すみません」
僅かに微笑みながら、ピクリと体を震わせるカシニ。勝手に反応してしまうためなんとなくリシュは意味がない謝罪をしていた。
「もっと……感じて」
カシニはそう言うとリシュの首へ手を回してすがり付き、器用に脚を動かし出し入れし始めた。最初はゆっくりと惜しむように締め付けながら引き、抜けきる前に擦りつけながら刺し込んでいく。
「ん……ん……うん、うん、んあ！」
「く……はあ……す、すご、いです」
カシニは少しづつ腰の動きが速く、勢いをつけて動かしていく。リシュも自然と背中へ手を回し、手助けしながら腰を突き上げる。
「あ！ あ！ あん！ んあ！ はう！」
「は！ は！ はあ！ くぅ！ くは！」
子宮の入り口激しく突き、一番熱い内部を何度も往復する。互いに息も荒く、快感を求め与え合い、心も体も全て擦り合わせていった。
「カシニ！ で、出そうです！」
「うん！ うん！ 中！ 中に！ いっぱい！」
我慢できない感覚に陥り、リシュが告げるとカシニは顔を上げた。表情の変化乏しかった顔が、いまではとろけそうになって懇願する。
「カシニ！ カシニ！ 愛しています！」
「リシュ！ 好き！ 大好き！」
吸い込まれるように強く締め上げられ、リシュ限界に達した。何度も撃ちだし満たしていく。カシニも体を震わせ、きつく締め上げながら離さないと言いたげに強く抱き締めた。
「ふぅ、ふぅ、凄かった」
「はぁー……凄かったですね」
波が収まり、心地よい脱力感に二人は身を委ねる。お互いの手を握りしめ、たまにキスを交わして愛を囁きあった。
風が吹き寒さを感じたリシュは服を着ようと周囲を見回す。そして綺麗に切り裂かれた衣服を目にして、唖然とした。
「どうしたの？」
寄り添いながらカシニが首をかしげる。
「ど、どうしましょう……服が……」
布切れをつまみながら、リシュは頭を抱える。なにせ服が無いのだ。
「服が欲しいの？」
「ええ、そうですけど、裸では行けませんし……」
マントがあるがそれだけ羽織るなど、変態そのものである。
しかも服を買いにいこうにも結局服を来ていなければならない、鍵のかかった箱の中に鍵があるのと同じ状況で手も足もでなかった。
「大丈夫」
カシニがそう言うと鋏みでリシュを抱き抱えたまま、脚を動かし荷物へ移動する。片時も離れたくないのだろう。両手で荷物を漁り、取り出したのは一枚の紙切れであった。
「地図ですか？」
「うん、ね、火を起こせる？」
ここにたどり着いた地図を見せられ、リシュは疑問に思う。そして一端離してもらい、適当に枯れ枝を集めて道具を使い火をつける。
「この印」
「丸が４つのあの店特有の印ですね」
カシニが指し示すのは地図の端に書かれた判子である。これはリシュが買ったものであった。
「これ肉球」
「は？」
「あそこの店主は魔物」
焚き火の中から火がついた枝をカシニは取り出し、地図をあぶり出した。
「な！」
浮き出てきたのは空白部分にかかれた文字である。まったく気づいてなかったリシュ驚くのみであった。
「読んで」
「わかりました、えーと……はあ！？」
そこにかかれていたのは、店主からカシニへの手紙である。しかも内容はこの男性を気に入ったとか、近々たずねるといったことであった。
「この店主は友人、人がこない場所に住むワタシを心配してれて、色々としてくれてる」
「私は嵌められたのですか？」
「結果はそうなる、嫌だった？」
眉毛が小さくさげながら聞かれたが、すでにリシュには答えが出ていた。可憐で愛しいカシニに出会えたのだ。
「カシニという好きな娘が出来ましたからね、嫌では無いですよ」
頭を撫でるとカシニはいつもの無表情へ戻るが、嬉しそうに体は揺れるのだった。
14/02/16 18:43更新 / 柑橘ルイ