読切小説
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きょうふ
 「うわー!」
 銀山の坑道内に男性の叫び声が響き渡った。
 転がる石を蹴飛ばし、青年は一目散に出口へと駆けていく。
 青年の後方に広がる暗闇に、赤と黄色の宝石が浮かんでいた。
 目を凝らせばそれは瞳であるのが分かるだろう。
 大きく一つの赤い瞳は楽しげに、されど奥底には小さな寂しさを写していた。
 瞳から逃げた青年は全速力で駆ける。
 全体的に細い体だが坑夫(こうふ)らしく筋肉質であった。
 赤茶けた髪に褐色の肌は南方生まれのためだ。
 途中多くの坑夫と、その妻の魔物がいたが気にも止めず走っていく。
「ダエ! まだ仕事は終わってねえぞ!」
 唐突に腕を捕まれ、ダエの逃走はそこまでだった。
「また出たんだ! リグ、頼むから見逃してくれ!」
 腕を掴む青年にダエは体を震わせながら懇願した。
 だがリグと呼ばれた青年は金髪を揺らし首を降る。
「残念ね、もう帰っちゃうの?」
 愛らしい声が真後ろから上がり、それと共にダエの心拍数もいっきに跳ね上がる。
 錆び付いたよう振り返えると、そこには少女がいた。
 黒髪に紛れるような多数の触手、その先端にある黄色い瞳とゲイザー特有の真っ赤な一つ目がダエを捉えていた。
「ユ……ユメリアル……」
 予期せぬ接近にダエの思考が出鱈目に回る。
 真紅の一つ目に手足が震え。
 八重歯のような歯から発する吐息に汗が吹き出る。
 冷たく思わせる白い肌の匂いに、呼吸が荒くなっていく。
 限界に達する前に体を動かした。
 捕まれた腕を力任せに振りほどき、今度こそ炭坑から出ていくのであった。

 ゲイザーの彼女、ユメリアルとダエの出逢いは抗内であった。
 その日は早く目が覚め、やることがなかったダエは準備をしに採掘現場まで歩いていた。
 シンと静まり返った坑道の空気を新鮮に感じながら最奥にたどり着くと、見慣れないものがあった。
 最初は動物の死骸かと思ったが、近づいていくと違うと分かる。
 黒い固まりで何か分からず、放置しようかとおもったが仕事場にあるため出来ない。
 仕方なく警戒しながら様子をうかがっていた。
 得たいの知れない黒くうごめくモノに心音が大きくなる。
「う……」
 黒い固まりがうめき声をあげ転がる。
 真っ白な肌をさらし、強く閉じる一つ目が露になった。
 視界が震えるほどに、大きく心臓が羽上がる。
 彼女は書物で見た姿に酷似しているため、何とかしようと深呼吸を繰り返し落ち着く。
「お、おい、大丈夫か?」
 倒れて苦しむ姿に大丈夫かと訪ねるのもおかしかったが、聞かずにはいられなかった。
「……」
 うっすらと力無く瞼をあけ、弱々しく体を動かそうとするがうまくいかないようだった。
 そのときどこからか、子犬の鳴き声らしき音が響く。
 ダエは周囲を見回すが抗道に子犬がいるはずもなく、発生源らしき方向には彼女がいるだけである。
「く……」
 体を震わしながら丸くなる彼女であった。
「腹……減ってるのか?」
 ダエの予測はあっていたのだろう、ビクリと彼女は体を揺する。
「ちょっと失礼」
 ダエは一言謝罪いれたあと、背中と膝裏に腕を通し強引に彼女を抱き上げる。
 彼女の空腹が激しいのか、音を聞かれ気力もが萎えたのか、全身の力が抜けていた。
 ずっしりとダエの腕に重くのし掛かるが、抗夫で鍛えた体で支え、振動少なく足早に目的地へと向かう。
 坑道には休憩所があった。
 ただし休憩所といってもかなり立派である。
 ただ単に休むだけでなく、魔物の嫁さんから強引に、時には襲われるように仕向けられ、体力を余計に使うこともあるのだ。
 木材で壁を作り、小部屋が多く配置されていた。
 全ての部屋にベッドが設置され、柔らかく彼女の体を優しく受け止めてくれる、高品質なものである。
「さて、空腹なのはわかったが、何を食べるんだ?」
 ダエはベッドの隣に椅子を置いて座る。
 銀山があるのは親魔物領内にあり、魔物娘は良く見かける。
 だが彼女は初めて見た。
 ゲイザーというのは村にある図鑑で分かっていたが、チラ見した程度でダエは詳細を覚えていない。
「精よ」
 うっすら瞳を開けてか細く答えるのは、体力が落ちているためであろう。
「そう、か……どうしよう……ヤルしかなのか?」
 ダエは思わず頭を抱えた。
 この男、実は童貞である、未経験である。
 そのうえ周囲の夫婦が愛を囁きあっているのだ、やるときは相思相愛が良いなどというという考えを持っていた。
 助けるためとはいえ愛していない者を抱く事に、ものすごく躊躇しているのだ。
「嫌」
 彼女の返答にダエは困惑する。
「嫌って、このままだと正直危険だぞ」
「好きでもない人に抱かれたくないなわ」
 彼女が宣言すると顔を横に背け、瞳を閉じる。
 困り果てたダエはウンウン唸りながら考えこんでしまう。
「く……」
 突如彼女が悔しげな声をあげた。
 目を強く瞑り、何かを耐えるようであった。
「どうした? 何かあったのか?」
 ダエは優しく声をかけ近づく。
 すると少し前に耳にした子犬が聞こえた。
 今度は倍近く長く、確りと聞き取れる音量ある。
「うーん……」
 これは大変だと頭を回し、ついに一つの案が浮かぶ。
「他に思い浮かばないけど……ちょっとまってろ」
 言い残してダエは部屋を出ていき、暫くすると小さめのコップを片手に戻ってきた。
「体を起こせるか?」
「なによ……」
 億劫だと言わんばかりに、ノソリと彼女は体を起こしうっすらと瞼を開ける。
「これ…」
 言いながらダエはコップを彼女へ渡す。
「なに? 毒でも入っているの?」
 彼女が訝しげになるのも無理はなかった。
「それはないが……」
 ダエは顔を背け、言いずらそうにしているのだ、怪しまれるのも無理はない。
「まったく、なんなのよ」
 睨みながらも彼女は受け取り、探るように匂いをかぐ。
 するといままで用心していたのが嘘のように、一気に飲み干した。
 少しは腹の足しになったのだろう、瞳が大きく開き幾分活気が戻ったようであった。
「あなた……抜いてきたの?」
 彼女の問いにダエは顔を背けたまま無言になる。
「へーそうなの、どう? わざわざ容器に移して自身のをのまれる気分は?」
 口の端についた白い液体を舌で掬い、細くなった一つ目は楽しげであった。
「別に! 気にしてないさ!」
 ふんぞり返って宣言するが、いまだ背けた顔が赤い。
「フフフ、そうなの」
 楽しげに笑う彼女には、見透かされているようだった。 
「く! ええい! その方法以外どうやるんだ! そもそもなんでそんな状態だったんだ!?」 
 顔を真っ赤にしながらも話を反らすため、疑問を口にする。
 一通り笑った彼女は、溜め息ひとつして首をかしげた。
「うーん、そうね……色々不幸が重なったってのもあるわ、でも一番の原因は教団に追われたことかしら」
「なにかあったのか?」
 あっけらかんと言い放つ彼女に対し、ダエは思わず深刻な顔をする。
 教団が理不尽に、魔物娘を害することを知っているためだ。
「そうね、追われた切っ掛けは精を得るところを見られたからかしら」
「……それだけか?」
「それだけよ、でも私を良く見なさい、こんな姿で襲っているのよ、知らない人が見たら人肉を食べているようでしょうね」
 触手をあげ、一つ一つ見せるように黄色い目を開けていく、襲いかかるように歯をむき出しにし、害する事を楽しみそうに一つ目を歪ませる。
 ダエは無意識に椅子から立ち上がる、彼女の姿に動かされそうになったからだ。
「逃げなくていいでしょう、そうね、どういう状況だったか再現してあげるわ」
 彼女が黄玉の瞳達が怪しく輝く。
「な!? 動けん! お前何をした!」
 ダエは逃げようとしたが動けなかった、痺れたわけでもなく感覚はしっかりとある。
 だが意思から隔離されたかのように、口以外ピクリともしない。
「安心しなさい、暗示をかけただけよ。そして私はお前じゃないユメリアルよ、フフフ、それでは……いただくわ」

 しばらくのあと、ベッドの横で両手両膝を床に付けてボソボソと呟くダエの姿があった。
「無効だアレは本番じゃない、そう、口だけなんだ」
「やっぱり直が美味しいわ」
 ベッドで優雅に腰かけるユメリアルは、妖艶に笑う。
「くそ、腹もふくれたからもういいだろ、さっさとどっか行けよ」
 いいように弄ばれたダエは、不貞腐れながら手で追い払った。
「うーんそうね」
 顎に指を当てながら首を傾けるユメリアルは、しばらくの思考のあと口角あげた。
「どうしようかしら、教団が危ないし、このあたりだと男が誰かに捕られているわね」
 言いながら流し目でダエを捉える。
 背筋を震わせたダエに予感が走り顔をあげた。
「まさか……」
「このままだといく当てもなく、また倒れてしまうかも?」
「まてまて! このまま居座るつもりか!?」
 ダエの予測当たったのだろう、ユメリアルは喉をならして笑う。
「誰かさんから貰うのが、一番安定しているわね」
「俺から絞ろうってのか!」
「あぁ……どこかで倒れて、誰かさんを物凄く恨みながら餓死するんだわ。孤独に涙を溢しながら無様に消えるのよ」
 涙声のユメリアルは瞼を閉じて指で拭う。
「その大きな目だと嘘泣きが出来ないな」
「あら残念」
 パッと開いた目は濡れていない、だがダエには奥底に不安があるのがなんとなく分かった。
 赤い髪を片手で乱暴にかき、大きく息を吐く。
「分かった、責任者のリグに頼んでみる」
「本当!?」
 やはり不安だったのだろう、ユメリアルは身をのりだして見開く。
 ダエはうなずきで答えると、ユメリアルは笑顔になった。
 イタズラっぽさが欠片も見えない、嬉しさを表した満面の笑みであった。
 ダエはユメリアルを連れてリグの元へ行き、説明をする。
 リグは魔物を嫁さんにしているため、あっさり了承され、とりあえずの住みかとして坑道の休憩所にある一室を宛がわれることになった。
 ダエもユメリアルのことを気にかけ、足蹴に通っている。
 いくつかの時が経過したが、ダエは不思議に思っていた。
 ユメリアルに対し緊張感が日に日に増してきているのだ。
 それだけではなく、動悸息切れが会うたびに発生し、あの瞳を直視出来なくなっていく。
 ダエはある時気づいたのだ、この感情はまさしく

恐怖

「なんだよその目は?」
 ダエは相対して椅子に座るリグに不満をぶつける。
 ユメリアルに対する恐怖感をなんとかしたいと、リグへ相談に来たのである
 リグは半目のままであった。
「なんだよじゃねえよ、お前本気で言っているのか?」
「もちろん本気だ」
 あきれ気味口調のリグの問い対し、真剣にうなずくダエである。
「ダエさんは恋人がいたことないの?」
 食後の酒を運んできたのは、リグの嫁さんであるアリシアだ。
 下半身が蟻になっている魔物で、ジャイアントアントの穴堀の上手さからリグと一緒に坑道に来ることもある。
「悲しいことに一度も居ないよ、というか人に対して好きとか愛するとかどんなのかよく分からない、が正直な気持ちだな」
 肩を上げながらダエは気にする様子もなく言い放つ。
「分からないってお前……」
 リグとアリシアの二人は、信じられないような目で見ていた。
「えっと、ちょっと聞きたいけどいいかな?」
 戸惑いながらアリシアは首をかしげ、ダエは頷きで返した
「あのね、ユメリアルさんにドキドキする?」
「するね」
 アリシアの質問に、ダエは考える間もなく口にする
「それって」
 胸元で両手を握るのは、まるで期待するかのようである。
「怖くてな」
 ダエが答えの続きを言った途端に、アリシアは肩透かしをくらったように拳を下げる。
 見かねたのか、リグが咳払いして場の空気を戻す。
「俺から質問だ、お前っ結構ユメリアルのこと詳しいよな」
 質問と言いながらも、それは断言に近かった。
「ああ、食べ物は男性の精、瞳が大きいから暗闇でもよく見えるそうだ、だけど逆に見えすぎて日光は少し苦手だってさ、結構意地悪気質で俺が怯えてるのを楽しんでいる節があるな。他には」
「わかったわかった! なんでそんなに詳しいんだよ?」
 長々と話すダエに、呆れた様子で遮るリグである。
「とある国の言葉にな、敵を知り己を知れば百戦危うからず、っていうのがあってな、ユメリアルのことを知ろうとしたんだ」
「負けっぱなしじゃねえか」
 自慢気に話すダエにリグは突っ込む。
「いや、そうなんだけどな、自然と覚えていくんだよ」
 頭をかきながらダエは恥ずかしげに笑う。
「もしかして自然と目で追ったりする?」
「わかる? いやーどこにいるか把握しないと安心しなからな」
 恥ずかしがるダエだが、リグとアリシアは大きく溜め息をつくだけある。
「最後の質問だ、ユメリアルを抱きたいとおもったことは?」
「ある」
 馬鹿者を見る視線で質問するリグを気にしながら、ダエは真顔で即答しさらに続ける。
「死ぬ前に子を作ろうという本能だろう、ついでにかなりの確率で夢で見たりもする。そう、夢に見るほどに怖いんだな」
「お前ユメリアルと一回話してこい!」
 立ち上がったリグが怒鳴り付け、家から追いだそうした。
「ちょ、ちょっと待て! あいつと二人っきりか!? どうにかなりそうだぞ!」
「なっていいよ」
 アリシアの笑顔の即答に、ダエは目を見開く。
「そうだ、どうにかなってこい! 本能に従え!」
「でも優しくね」
 二人に背中を押され、強引に追い出されたダエは途方にくれる。
 再び扉が開き、リグが顔をだした。
「逃げ帰ったら今回の話をここの村人全員に言いふらす」
 叩きつけるように強く扉を閉められ、ダエは頭を抱えるのだった。

 真っ暗な坑道に火が揺れる。
 火は容器に入れられ、周囲を明るく照らしていた。
 灯りを持つのは極度に緊張しているダエである。
 口をきっちり結び、同じ側の手と足が同時にでていた。
 石が転がる音が響き、肩を跳ね上げ灯りを向ける。
 漆黒の闇が続き、変化はない。
「そっちじゃないわ、こっち」
 ダエの耳元で艶かしい声が入り込むと同時に、背中に柔らかく温かいモノが被さった。
「ぬへあ!」
 意味の無い変な声が、ダエの口から飛び出す。
 振りほどこうにも上手くいかず、首だけ回すとそこには嬉しそうな真っ赤な一つ目があった。
 予想外の至近距離にダエは口を開閉するのみである。
「ふふふ、いつみても面白いわ」
 ユメリアルは笑いながら顔を寄せた。
 頬に唇が触れるか触れないかといったところで、ダエは暴れまくり強引に引き離す。
「惜しかったわね、残念」
 悔しい様子も見せず、むしろユメリアルは予想していたのだろう、変わらずの笑みを浮かべていた。
「こんな夜更けに来るなんて珍しいわね、なにかあったのかしら?」
 頬に手を当て首をかしげるユメリアルに、目を奪われそうになりながらも、呼吸を整えようと深呼吸する。
「ふう……な、何かあった、というわけじゃないが……」
 胸を押さえながらダエは何とか口を開く。
 ユメリアルは続きを促すように、ダエを見つめた。
「その、お、お前と、話を……な」
 激しい心音と緊張に目がまわりそうになりがらも、なんとか要件を伝える。
「あらあら、私と話? 嬉しいこと言うわね……そうね、ここではなんだから、私の部屋に行きましょう」
 逃がさないとユメリアルはダエの腕を抱え、強引に引っ張っていく。
 腕から伝わる小ぶりながらも主張するモノに思考を奪われ、ろくな抵抗もできずダエは連れ去られていった。
 木の扉を開き部屋に入ると、椅子へ促されて座る。
 部屋の中に充満するユメリアルの匂いに、ダエは何とも言えない気持ちになった。
「さて、私と話をするってことだけど、突然どうしたのかしら?」
 ユメリアルはベッドに腰掛け、足を目立つように艶やかに組む。
 薄暗い室内に浮かぶ、ユメリアルの白い太もも周辺にダエは引き寄せられていた。
 ユメリアルも視線に気づいている事は、不敵に笑う顔からみてとれる。
「フフ、気になる?」
 からかうユメリアルの言葉に、ダエは頭を振って意識を戻した。
 姿勢を正し、真面目な話だと態度で示す。
「それで話なんだが……」
 話始めたがダエはすぐに口を閉じる。
 目もまともに合わせられない相手に対し、怖いと告げて機嫌を損ねるかと心配したのだ。
 そもそもユメリアルを追い出そうとか、目の前から消えてほしいとかは考えていない。
 むしろ少しでも長く居てほしいと思っていた。
 その為リグに相談しに行ったのだ。
 ユメリアルを盗み見ると真剣な眼差しでダエを見ている。
 急かす様子もなく、からかう素振りも見せない。
 射ぬかれるような単眼にダエの背筋が震えた。
 色々考えていたものが全て吹っ飛び、もはや単刀直入に言うしかないと腹をくくる。
「お、俺は……お前が……怖い」
 目をつむって頭を下げ、耐えようとダエは手を握り混む。
「そう……私が怖いのね」
 突如頭を両側から手で挟まれ、ダエは強引に顔を上げさせられた。
 目の前にはユメリアルの顔が間近にある。
「どう怖いのかしら、詳しく教えてほしいわね」
 ユメリアルの吐息が口元にかかり、ダエは息を飲んだ。
「ゆっくり、じっくりと聞かせてほしいわ」
 ダエは顔が熱くなり、茹でそうな頭の片隅でユメリアルが楽しげな印象を受けていた。
「真っ白な肌に背筋が震える、尖る歯に噛みつかれるかと思うと汗が止まらない、触手の先端にある黄色い目を見ると操れそうで見ていられない、そして何より、心の奥底まで見透かされそうな、真っ赤な瞳に見つめられると心臓が破裂しそうだ」
 できるだけ視線を合わせないよう眼球を動かしながら、ダエは震える声を絞り出した。
「ふふふ、それは本当に恐怖感かしら?」
「なに!?」
 一つ目を歪ませ、ユメリアルは嬉しそうに話す。
 その内容に一段と強くダエの心音が高鳴った。
 まるで自身も知らなかった心の奥底を見透かされたかのようである。
「どういうことだ?」
「ダエ、仕事中でも私をずっと見ていたわよね?、怖いと言いながらも自分から言葉を交わしてくれたわ、なんで? 分かりにくいけど触れると嬉しそうね?」
 疑問のようで実質断定するユメリアルの言葉は的を射ていた、そのことにダエは目を見開く。
「その理由を知りたい?」
 ダエは素直に頷く。
「それを知るために今から暗示をかけるわ、この単眼で一番強い暗示よ」
 唾を飲み込むダエはユメリアルから目が離せなかった、内心それを望んでいるからと直感が働いた結果である。
「私を情婦のように抱くか獣のごとく犯すか、効果に差が出る理由はわかるかしら?」
「好意が有るか否か」
 ダエが興奮に言葉も体も震わせて答えると、ユメリアルの笑みがより深くなった。
 深紅の瞳の奥にうっすらと光が灯る。

 ダエは乱暴にユメリアルの頭を両手でつかみ、強引にキスをした。
 そのまま舌を差し込み、ユメリアルの口内を蹂躙する。
「ふぁ……ん……」
 苦しげであり、嬉しくもあるような吐息がユメリアルから漏た。
 お互いに手を回し、離れたくないと強く押し付け合う。
 それでも息が苦しくなり、嫌々ながらも口を離すが銀色の橋が互いに結ぶ。
 興奮からか二人の息は荒く、溶け合った。
「ずっと……あなたが欲しかった」
 ユメリアルの手首を掴み、力強く頭上へ押さえつけて首筋へ吸い付く。
「あん……あなたが、うん……勘違いして、はう……いるのは、わかってた、うぁん」
 艶やかなあえぎ声をあげ、ユメリアルの体が小さく跳ねた。
 ダエは舐め溶かさんと執拗に舌でなで回し、ゆっくりと下へ降りていく。
「それでも、ふぁ!」
 小さくも柔らかい胸にたどり着くと、ユメリアルが大きくあえぐ。
「怖い、と、思われ、るのは、辛かった」
 口付けるたび言葉を区切り、息をのむ。
 両手を背中に回し力一杯だきしめる。
 薄い胸ゆえにしっかりと心音が聞こえ、ユメリアルにより近づいたような気分でより興奮する。
「は……あ! ……いい、よ、もっと……刻み、こんで!」
 圧迫され息がしにくいだろう、それでも一つ目を濡らしほほえみを浮かべていた。
 ダエの張った局部がユメリアルの花弁に触れる。
 上体を起こし、ダエはユメリアルの腰に手をかけた。
「ダエ、あなたが、好き」
 先端を合わせ、我慢できなくなったダエは一気に突き刺す。
「ん! ああ!」
 敷いた布を掴み、腰を上げるユメリアル、蠢く感触と涙をこぼす姿にダエはたまらなかった。
「うあ! ユメ、リアル! ユメリアル!」
「あ! はあ! ダ、うぁん! ダエ! ふぁ!」 
 互いに呼びあい見つめ合う。
 打ち込むモノを隙間無く包み、的確に刺激した。
 濡れる肉壁をかき分け、強く引っ掻いていく。
 ユメリアルが手を伸ばし、求めるように腕を広げる。
 答えるためダエはユメリアルの上がる背中へ回し、全てを合わせる。
「く! う! くは!」
「ひう! ふぇあ! ひゃう!」
 抱き締め合い、最奥を突くたび同時に発露し高みへ昇っていく。
 茹で上がる思考の中で、ダエは浮かび上がる言葉をを告げる。
「好きだ!」
「あ、あああああああ!」
 一層強く埋め込んだ瞬間、ユメリアルが仰け反り震えだした。
 強く全面を締め付け、快感を植え付ける。
 初めての感触に耐えきれないダエは、全てを吐き出すように子種を中で撒き散らした。

 ふとダエは冷静になる。
 締め付ける快感に視線を下ろすと、ユメリアルが恍惚な顔をしながら力無く横たわっていた。
 突き刺さった部分から白い液体があふれ、全身汗やらなんやらでベタベタになっている。
「あー、大丈夫か?」
 自分がしでかした事に反省しつつ、ユメリアルの頬を撫でた。
「う……ん、大丈夫、よ」
 ユメリアルは瞳を細め、ほうっと溜め息を吐く。
「ふふふ、凄かったわ」
 ゆっくりと上半身を起こし、ダエが手で支える。
 その際モノが抉り、互いにビクつく。
「さすが遅漏ね、あれだけの時間でもまだまだ元気ね」
「ちろう?」
「他の人より出るまでが凄く遅いことよ」
 成る程とダエは思いつつも、他の人と比較出来ることに嫉妬していた。
 眉間にシワを寄せるダエの額に、ユメリアルは優しく唇を落とす。
「嫉妬してくれたの? 抱かれたのはダエだけよ」
 子供扱いされたダエだが、恥ずかしく感じたが嬉しくもあった。
「ユメリアルが好きだからな」
 反逆心から真正面に向かい合い告げる。
「あ、ありがと」
 ユメリアルが真っ赤になって語尾が小さくなり、成功したがダエ自身も赤くなるのだった。
「それにしても……恐怖感じゃなくて、恋愛感情だったのか」
 感慨深げにダエは呟く、いまだ変わらない様々な症状は好きだから発するものだと、はじめて知る。
「私は気づいていたわ」
 ユメリアルは得意気に笑い、優しくダエを抱き締める。
 お腹の柔らかさや全身の温かさを感じながら、ダエはふと気づいたことを聞いてみた。
「やっている間もそれをいっていたが、知った上で俺を驚かしていたのか!?」
 顔を上げるとそこには、口角を上げて黒い笑いを見せるユメリアルがいた。
「結構楽しかったわ、怯えた顔しながらも顔赤らめるなんて複雑なことしてたし」
「くそう、惚れた弱味か」
 おちょくられ、悔しく思いつつもユメリアルの笑顔で嬉しくも思うダエである。
 遠慮するかにように、ドアを小さく叩く音がした。
「はぁい、どうぞー」
「え!? ちょっと!」
 言葉だけだが促すユメリアルに、ダエは度肝を抜かれた。
 現状繋がっており何も被さっていない、素っ裸で丸見えなのだ。
 扉を開けて顔だけ覗きこんだのは、アリシアである。
「あ、今度こそ終わったんだね、リグから連絡だよ」
 普通に見られた事や何度も来たようなアリシアの口振りから、ダエの頭が真っ白になる。
「今日は特別に休みにしてやる、明日から休んだぶん働いてもらうぞ、だって」
「わかったわ、ありがとう」
 口を開きっぱなしのダエに変わり、ユメリアルが手を振ふった。
 アリシアが祝うように、手を振り返しながら扉をしめる音に反応して、ダエが動き出す。
「何度も見られたのか!? 今度こそって一度来たのか!?」
「ハイハイ落ち着きなさい」
 ぎゅっと絞められ変な声をダエはあげてしまう。
 だがとりあえず冷静になった。
「私達が抱き合っている間に一度来たわ、ダエは盛って気づいて無いみたいだけど」
「全て見られたってことか……」
 クスクス笑うユメリアルに対し、恥ずかしさやらなんやらで顔が合わせづらいダエである。
「ねえ、それよりも……」
 話しかけるユメリアルの声が色っぽい。
 全身で抱き付き、下腹部を締め上げてダエの耳元で囁いた。
「もっと……しましょう……」
 ダエの背筋がゾクリと震える。
「いや、しかし、時間が……」
 坑道で日光がなく、時間がどれだけ経過したのかわからないが、それでも感覚的にかなり長い。
 ダエはさすがにやりすぎだろうと遠慮する。
「大丈夫、リグさんはわかってくれるわ、さあ、インキュバスになるまで……ね」
「ま、まて!」
 ダエが止めようとするが、ユメリアルがの瞳が光り始める。
「そこまでするのか……」
 達観したダエは抵抗を諦めた。
「ああああ!」
「きゃあ!」
 叫びながら押し倒し、ユメリアルは歓喜の悲鳴をあげる。
 その後三日三晩抱き合い、立派にインキュバス化したダエはしっかりと怒られ懸命に働く。
 家に帰れば意地悪だが優しいユメリアルに、会えることを楽しみにしながら。
13/12/16 07:45更新 / 柑橘ルイ

■作者メッセージ
 ゲイザーいいですね、単眼に悪戯っぽい表情、真っ白な肌に慎ましやかな胸部など、暗示をくらってみたいものですね。 

 初めまして柑橘ルイと申します。
 こちらで書くのは初めて、エロを書くのも初めてと初めてばかりです。
 でも他所では少量書いたことはあるので、書くことはそれなりです
 辛口の感想、指摘は向上のため嬉しく思います。
 当然甘口も大歓迎です。

 これからもよろしくお願いします。
 
 

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