後編・下
「目を閉じて……深呼吸しましょう……」
ポリーヌに全身を抱かれ、耳元で囁かれる。その力を素直に受け入れ、彼女の呼吸に合わせて息を吸い、ゆっくりと吐く。女の子の温もりと魔性の声に浸り、どんどん幸せな気分になっていった。もうこの声無しではいられなくなってしまったのかもしれない。
「フィルマンさんは今……えっちな気分になっています……えっちで、気持ちよくなってきます」
優しく頭を撫でながら、柔らかな体を押し付けてくるポリーヌ。時々、唇が耳に触れた。
「もっと私と抱き合いたい……もっと私に触りたい……ニオイも嗅ぎたい……」
息を吸う。吐く。
彼女の甘い汗のニオイを感じた。不思議だ、このニオイも何か懐かしい感じがする。
「私も、フィルマンさんに触ってほしいです……」
息を吸う、吐く……
「私はシスターだけど、ラミアで、魔物だから……とてもえっちな女の子なんです……」
吸う……吐く……
「いっしょにいると、フィルマンさんもえっちになっちゃいます……私の声を聞いてるだけで……ほら」
彼女の手が、俺の股間を撫でた。すでに怒張したペニスの上を、ズボン越しに手が擦っていく。
「だからもっと……すっごく、えっちになりましょうね……頭の中を空っぽにして、中身をえっちで一杯にしましょうね……」
吸う……吐く……
もう何か考えるのも馬鹿馬鹿しい。彼女の言いなりになりたい。
ふいに、ポリーヌの上半身が離れた。目を閉ざしているためどうなっているか分からないが、少なくとも下半身はしなやかな蛇体で拘束され続けている。少し間をおいて、彼女は俺の手を握り……
何か柔らかい物に押し付けた。
「……ふふ……これは何でしょう?」
子供と遊ぶような声でポリーヌが囁く。掌に触れるそれを確かめるため、俺はその柔らかな物体を握ってみた。
「あっ……♥」
ポリーヌが可愛い声を出した。てのひらに収まる大きさの、ドーム状のそれは膨らんだパン生地のようで、むにゅっとした感触と弾力を併せ持っていた。すべすべとして、それでいて吸い付くようで、いつまでも撫でていたい手触りである。
盛り上がりの先端には、少し固い突起があった。固いといっても弾力が強いというくらいで、指先で押してみると柔らかな膨らみの中へ沈んでいく。そして手を離すと、またぴょこんと飛び出してくるのだ。それが楽しくて、何度も試してしまう。
「ん……あはっ……やぁん……♥」
ポリーヌが楽しそうに喘ぎ、その声がますます俺を興奮させた。俺がその盛り上がりを揉むたびに、擦るたびに、艶かしい声が耳を犯してくる。もうこの物体が何なのか、ぼんやりした頭でも理解できた。
蛇体が俺を拘束したまま、もぞもぞと動く。どこかいやらしく、気持ちよさそうに。
「ひゃぅ……私のおっぱい、あんまり大きくないですけど……やんっ♥」
ぷりっとした乳首をつまんでみると、ポリーヌは身をよじらせた。感じている。俺の手で、彼女が感じているのだ。
「フィルマンさんが、こねてくれたら……あんっ♥ パンみたいに、ふくらむ、かも……♥」
いつの間にか、無我夢中で彼女の胸を揉み続けていた。生地をこねるように押しつぶし、そっと握り、丹念に揉んでいく。ポリーヌの喘ぎ声をもっと聞きたい。もっと気持ちよくしてやりたい。
そうだ、俺はこうしてみたかったのだ。昨夜ポリーヌが礼拝堂で自慰にふけり、快感のあまりおしっこまで漏らして絶頂するのを見てから、自分の手でポリーヌを気持ちよくしてやりたいと願っていた。
「あっ……ふ……ッ、フィルマンさ、んんっ……おっぱいさわるの、上手……♥」
乳首を指先で撫でながら、感触を堪能する。揉んでいる俺の方まで気持ちよくなってしまいそうだ。
「もっともっと……もみもみしてぇ……あぁん♥」
ポリーヌが身をよじらせるので、俺の手の中で小ぶりなおっぱいが暴れている。そんな柔らかなパン生地をてのひらで軽く押し、優しく円を描くようにこねた。
「ふあああ……そ、それ、イイです……♥」
うっとりした声が脳までしみ込んでくる。すべすべのおっぱいは汗ばんで、手に吸い付いてくる感触が強まった。
「あんっ、あふぅぅ……♥」
優しく、ときに激しく揉み、こねくりまわし、同時に乳首をつつき回す。どこをどう揉めばポリーヌが感じるのか、次第に分かってきた。俺はポリーヌの声で操り人形になることに悦びを感じながら、彼女の胸を最高のおもちゃにしているのだ。
「あはぁ……いひィっ……ふあぁん……♥」
ポリーヌの蛇体に力がこもってきた。俺を縛りつけるというより、俺にしがみついてくるように。
「わ、私……おっぱいで、あんっ、イき、そう……ふぁぁ♥」
俺にも分かった。ポリーヌの体が絶頂に達そうとしている。俺に胸を揉まれているだけで、昨夜見たような光景を再現しようとしているのだ。
興奮が最高潮に達し、頭の中はポリーヌの痴態で埋め尽くされた。そして俺は彼女がそうしていたように、おっぱいを搾るような揉み方に変えた。
「――――ッ!」
声にならないような不思議な音を垂れ流し、ポリーヌはよがった。乳搾りの手つきで刺激しても母乳が出るわけではないが、快楽に悶えるポリーヌの動きがたまらなく可愛い。手の中で踊るおっぱいが可愛い。必死でしがみついてくる蛇体が可愛い。
このままイってほしい。もう少し激しくしてやればあっという間だと勘で分かる。
乳首を親指で刺激しながら、乳房全体を掴み……一気に、絞り出す。
「あ、あ、んんんっ……イクッ……♥ ぁ、ぁひぃッ、あああぁん♥」
ポリーヌが、その胸が、腕が、蛇体が、ブルッと痙攣した。俺の体が痛いほどに蛇体が締め付けてくる。快楽に耐えるかのように。
そのきつい拘束にこもった愛情を感じながら、ポリーヌの絶頂が終わるのを待った。やがて拘束が緩み、脱力したかのようにもたれかかってくる彼女の上半身を感じる。自分の手でポリーヌをここまで導いたと思うと、妙に充実した達成感さえ覚えた。
「はぁ……はぁ……」
彼女の荒い息が、顔にかかる。
「……目を、開けて……」
静かなささやきに命じられるがまま、俺は目を開ける。泣きぼくろの可愛い、とろけた笑顔のポリーヌがそこにいた。口の端から唾液まで垂らし、快楽の余韻に浸った表情だ。
汗でおっぱいに密着していた手を離すと、ぺりぺりという音がした。服を脱ぎ捨てて露出した彼女の胸はとても奇麗で、散々揉んだせいで赤みを帯びている。呼吸に合わせてゆっくりと動く胸が無性に愛おしかった。鎖骨やちらりと見える脇の下などにも惹かれてしまう。
「……初めてです。おっぱいだけで、イっちゃうなんて……」
息を整えながら、ポリーヌは少し恥ずかしそうに呟いた。そんな声にも魔力はこもっており、俺の恍惚状態を引き延ばす。
「きっと……揉んでくれたのがフィルマンさんだから……大好きな人だから、こんなに気持ちよかったんですよ……」
頬を真っ赤に染めながらも、ポリーヌは顔をほころばせた。そして、目線を下に向ける。
「でも今度はフィルマンさんも……一緒に気持ちよくなりましょう……」
ポリーヌが見ているのは、ズボンを押し上げて勃起した俺の股間。そして彼女の上半身と蛇体の境にある、僅かなふくらみと……その真ん中に走る割れ目。透明な汁を垂らし、物欲しそうにしているそれを見るだけで情欲が最高潮に達する。
彼女の手が俺のベルトを外し、ズボンからペニスを解放した。白い手で優しく撫でられ体中がゾクゾクする。
「フィルマンさんのおちんちんと、私のアソコ……対面しましたね」
見つめ合いながらささやかれ、心拍数が上がる。
「少し腰を動かせば、私たちは繋がっちゃいます……私とフィルマンさん、一つになっちゃうんですよ……」
ポリーヌもまた、その瞬間を待ち望んでいるのが分かった。顔にかかる彼女の吐息は熱がこもっており、かまどからパンを取り出すときのような熱気を感じる。そしてその目は慈愛と愛欲に満ちた温かなものであると同時に、美味しそうなネズミを見つけて歓喜する、蛇の目のようにも思えた。
「一つになりたいですか……?」
「なりたい……」
「一緒に気持ちよく、なりたいですか……?」
「なりたい……」
魔声に誘導され、俺は問いかけに答えていく。しっかりと巻き付いてくる蛇体に不思議な安心感を感じはじめた。
「私は半分が蛇だから、赤ちゃんは卵で生まれます……卵が生まれたら、孵るまで一緒に抱きしめてくれますか……?」
「ああ……」
「魔物が妊娠する確率って、とても低いんです……だからできるまで、何回でもシてくれますか……?」
「する……」
「浮気だけはダメですよ? もししたら、すごくキツいお仕置きをしちゃいますからね……?」
「しないよ……」
「フィルマンさんのパンはみんなの物だけど……フィルマンさんは私のものですよ……?」
「ポリーヌの……もの……」
ふと疑問が浮かび上がり、それはするりと口から出ていった。
「ポリーヌは……俺のものだよな……?」
すると彼女はくすりと笑い……しっかりと頷いた。
「……当たり前じゃないですか……私の体も心も、フィルマンさん専用です……♥」
ポリーヌの手が、そっと俺のペニスを握る。そしてその先端が、彼女の女性器にあてがわれた。ぬめりを帯びた柔らかい肉が触れ、その奥にある快楽を期待させる。
「さあ……挿れてください……フィルマンさんの精子が、私のお腹で卵になりますように……」
胸の前で手を組み、ポリーヌは祈った。どこかの神が聞き届けてくれることを一緒に願いながら、俺はゆっくりと腰を進める。
「あ……♥」
「うっ……!」
割れ目に少し入れた瞬間、亀頭が艶かしい刺激に晒された。内部で肉の壁が蠢き、ゆっくり脈動しているのだ。
もっと奥へおいで……そう誘惑するかのような、いやらしい動き。引き込まれるように俺のペニスは進んでいく。
「あぁ……き、きてる……入ってきてるぅ……♥」
うっとりした声に、俺は思わすポリーヌの上半身を抱きしめた。彼女も俺の背中に手を回し、強く抱きついてくる。自然と触れ合う唇。絡み合う舌。糸を引く唾液。
そして下半身では俺のペニスが根元までずっぽりと埋没していた。
「はうぅぅぅっ♥」
「うあっ、ぽ、ポリーヌ……!」
奥まで挿れた瞬間、彼女の膣内はぎゅっと強く締め付けてきた。とても温かく、愛液でぬめっており、ペニスをしっかりと抱きしめてくる。
それだけではない。俺たちは二人とも全く腰を動かしていないのに……というよりは蛇体で縛られて動けないのに、彼女の蜜壷内でヒダがうねるように蠢いている。愛液でちゅぱちゅぱと音が鳴るくらい、ペニスを締め付けながらも激しくくすぐっていた。更に奥の方へ吸い付けるようにして、貪欲に精を搾り取ろうとしている。これが魔物の女性器なのか。玉袋の中身を全てぶちまけてしまいそうな快楽だ。
「フィルマン、さぁん……♥」
頬を染めて涙まで浮かべながらポリーヌは喘ぐ。痛かったのかと思ったが、その艶かしい声は明らかに気持ち良さそうだった。
「あひゃん……これ、しゅごいです……♥ フィルマンさんと私、ひとちゅに……ふあぁぁ♥」
蛇体をキツく巻き付けられ、俺は更に興奮してきた。ペニスに吸い付いてくる下の口に合わせ、上の口でももう一度キスをする。
舌が絡み合うたびに、膣のヒダもよりいっそう艶かしく絡み付いてきた。射精したいという欲望がどんどんこみ上げてくる。だがもっと……もう少し楽しみたい。
「ポリーヌ……」
俺は彼女の後頭部に手を回して濃紺の髪を撫でながら、そのとろけた顔を鑑賞した。口元から垂れた唾液、熱い息がいやらしい。
「挿れられてる顔……可愛い……!」
「やぁ……は、恥ずかしいです……♥ そんなに、見ないで……んぁぁぁ♥」
彼女の尖った耳にむしゃぶりつく。プニプニしていて弾力のある耳の先端を舐め、歯でそっと刺激する。
「ふぁっ、あぃっ……耳らめっ……♥」
よがるポリーヌの耳を追いかけ、さらに甘噛みする。抱き合ったまま、俺たちはベッドにごろんと倒れた。
再び胸を揉んでやると、膣の締め付けがグッと強くなった。こみ上げてきた物をうっかり漏らしてしまいそうになるが、それを抑えて彼女の腋へ手を伸ばす。
「ひゃあ!? く、くしゅぐらないでぇ……♥」
むず痒そうに言う声がなおさら悪戯心をかき立てた。じっとり汗ばんだ彼女の腋がきつく閉じられ、俺の指が挟み込まれる。それでも指先でぐりぐりと刺激を続けてやると、ポリーヌは俺に巻き付いたまま全身をくねらせた。
「うおおっ……すげ……!」
「はふぅぅぅ、あんっ……やぁぁんっ♥」
ポリーヌの動きで膣のヒダがペニスにこすれる。膣の脈動だけでなく体の動きが加わったことでペニスがもみくちゃにされ、溶けてしまいそうな快楽が生まれていく。今まで散々高められてきたものが、限界に達しそうになってきた。何よりも興奮を誘うのはポリーヌの喘ぎ声と、その媚態……彼女もまた、限界にきているのだ。
「あ、ううっ……で、出る、ポリーヌ、もう出る!」
俺は必死で訴えた。
「ひゃう、あぅぅん……♥ き、きちゃうんですねっ……ナカに、出ちゃうんですねっ………あ、ああぁぁ♥」
強く抱き合い、肌の感触を感じながら……俺たちはそのときを迎えた。
精液が尿道を迸っていく。そして強烈な快感とともに、それはポリーヌの中へ……!
「う、お、おおぉぉ!」
「ひぎっ、ふあああぁぁん♥」
一番奥のところで、俺は吐き出した。ポリーヌが快感に震え、それが膣に伝わってさらにペニスを刺激する。温かい女性器の蠢きにくすぐられながら、彼女にしがみつくようにして全てを吐き出していく。ポリーヌも感極まって大粒の涙を流しながら、とろけきった表情で俺の迸りを受け止めてくれていた。
「あひっ、あんっ、ひゃぁぁぁ♥」
喘ぐポリーヌの下半身が、ぎりぎりと俺を締め付けてくる。だが今ならそれさえ気持ちよく思えた。これも彼女の愛の証なのだから。
しかしそんなことを考えている余裕もほとんどなかった。一瞬のことであるはずの射精が妙に長く感じられる。ポリーヌの魔声のせいだろうか。先ほど浮気はしないと誓ったが、あの約束は無意味なものだろう。もう俺はポリーヌでなくては満足できなくなっているに違いない。
そんな狂おしい快楽に浸りながら、
俺の頭の中は真っ白になっていった。
「貴方は今、昔に戻っています……ずっと昔の、子供だったころに……」
……子供……
「昔の貴方……小さな貴方……子供のころの貴方は、どんな子でしたか……?」
……子供の俺。
一流のパン屋になるのが夢だった俺。親父の火傷した手がかっこいいと思っていた俺。いつか村を出て、広い世界へ出てみたいと願っていた俺。
「貴方は村の外れの、大きな木の近くにいます……手に焦げたパンを持って、寂しそうに……」
村の外れ……大きなクルミの木があった。パンに入れるクルミをよく拾いに行ったり、友達と一緒に登ったり、何かと思い入れがあるところだった。
だから初めてパンを焼いて、見事に焦がしたときも、俺はあそこへ行ったんだ。気分が楽になるような気がして。
「すると……木の陰から、女の子が顔を出しました」
女の……子……。
寂しそうな顔をした、可愛い女の子。村では見た事のない女の子。木の後ろから、顔だけを出した女の子。
「その子は貴方をじっと見て……貴方はその子に、パンをあげました……」
……そうだ。お腹が空いているのかと思って、俺は持っていたパンを差し出したんだ。焦げたやつでごめん、と言って。
そうしたらその女の子は木の裏に隠れたまま、手を伸ばしてパンを受け取り……じーっと見た後、食べてくれた。
「パンは焦げて、少し苦かったけど……女の子はそれがとても、優しい味に思えました……」
瞼の裏に、あの子の顔が浮かび上がってくる。焼くときに失敗して焦げたパンなのに、美味しそうに食べて、笑ってくれた。俺はそれが嬉しくて嬉しくて、いつか絶対に上手く焼けるようになるからと、あの子に約束したんだ。女の子は微笑んで頷いて、体を隠したまま再び手を伸ばして……。
そう、指切りしたんだ。あの子のような、幸せな笑顔がもっと見たかったから約束した。あの濃紺の髪の女の子と。泣きぼくろの可愛い、一言も喋らなかった女の子と――!
「ああ……ああ……!」
「……その女の子は貴方のことが好きになりました……でも本当は魔物だったから、一緒にいられませんでした……」
瞼の裏で、思い出の少女が嬉しそうに微笑んでいる。体は木に隠れていたのに、今は彼女の全身が……小さな蛇体が想像できた。
「大人になるにつれ、もう会えないと思うようになって……口がきけないから、ここへ来るまで自分の暮らしも必死で……だから貴方と会ったとき、もしかしたらとは思ったけど……そんなわけないって考えていました」
そっと、頭を撫でられた。撫でているのは声の主か、瞼の裏の少女か……
「でもね……貴方のパンを食べたとき……同じ、優しさの味がしたんです」
ぎゅっと抱きしめられた。俺も抱きしめる。瞼の裏の……目の前の彼女を。
「さあ、目を開けて……そして呼んでください。その子の名前を」
声に命じられるがまま。
俺はゆっくりと、目を開いた。
「……ポリーヌ」
泣きぼくろのラミアが、俺を抱きしめてくれていた。子供のときと同じ、幸せそうな笑みを浮かべて。
「ポリーヌ、ごめん!」
俺は思わず叫んでいた。嬉しくて嬉しくて、涙があふれてくる。
「本当は俺が先に、気づかなきゃいけなかったんだ……!」
全て思い出した。焦げたパンを友達にからかわれ、一人でクルミの木へ行ったことを。そこで出会った彼女にパンをあげたことを。そのとき彼女が見せたとびっきりの笑顔も、全て。
「あのときポリーヌと会って……パンを食べた人が笑顔になるのが、どれだけ楽しいから知ったから頑張れたんだ。それなのに……」
「ううん……いいんです」
俺を全身で抱きしめ、優しく頬を寄せてくるポリーヌ。すべすべとした頬は温かく、とても優しい。
彼女は俺の目の前に手を出し、小指をピンと立てた。
「フィルマンさんはちゃんと、約束を守ってくれたでしょ……?」
…………
………
……
「そう、上手いぞ。発酵ガスが抜けないよう、隙間無く丸めるんだ」
教会に来ている子供達にパン作りを教え、その出来を確認する。まるで粘土で遊ぶかのように、楽しみながら覚えられるのが子供の強みだ。女の子でも魔物ならこねる力は十分だ。刑部狸の女の子は材料費がいくらで、どのくらいの値段で売れるかをいろいろ考えている。
全員が生地を丸め終わったのを確認して、俺も自分の生地を並べた。
「さて、これから一次発酵だ。しばらくしたら呼ぶから、それまで休憩」
「お外行ってもいいー?」
「いいけど、始めるときにはちゃんと手を洗うんだぞ」
「はーい!」
子供達は早足で工房から出て行く。みんな素直で元気一杯の、いたずらもする可愛い奴らだ。
俺も工房から出ると、そこに丁度ヅギさんがいた。
「結構懐かれてるみたいだな」
「みんないい子だから……体、大丈夫ですか?」
そう尋ねると、彼は軽く笑った。
「どうってことない、今日は調子がいいし……。お前、子供の頃にポリーヌと会ったことがあるんだって?」
「ええ。昨日やっと思い出しまして」
「ハハッ、オレとシュリーも幼馴染みでさ。ガキの頃に行方知れずになって、この町で偶然再会したんだ」
「へぇ!」
ヅギさんも俺と似たような経緯を辿っていたのか。この教会には幸運の女神様でもいるのかもしれない。
「あいつ、昔からオレに構ってさ……放っといてくれればいいのにって、いつも思った。でも一緒に暮らすようになって……この病も患って……」
息が苦しそうになり、ヅギさんは咳き込んだ。だが顔を歪めながらも彼は笑みを浮かべている。こんなことは何でもない……そう言いたげな、凄みのある笑みだ。百戦錬磨の傭兵だからこそできることかもしれない。
「……笑っちまうぜ。生きるために人間の肉まで食って、金次第で人も魔物も大勢殺して、やっぱり肉まで食って。……それなのに今、戦えるうちに教団を追い払って、シュリーやお前らみんなと一緒に暮らすのが楽しみで仕方ねぇ……!」
彼の声は自嘲的にも、泣いているようにも見えた。俺より遥かに悲惨な生き方をしてきて、それが自分の人生だと腹をくくっていたのだろう。だからこそ、彼は未来に見える幸せが怖いのかもしれない。多くの命を奪ったことへの罪悪感と共に。
「……ヅギさん。貴方よりはずっとマシなんでしょうけど、俺の人生はあっちへ行ったりこっちへ行ったり……パンを作りたいってこと以外は、いつもブレまくりでした」
「……そうなんだろうな」
「教団を怒らせて故郷に逃げ帰って、そこでもハブられて、ぶらぶら放浪して。でもここへ来て、思ったんです」
少し息を整え、俺は一番言いたいことを告げた。
「パンが焼き上がったとき、そこに小麦の面影はない。数多くの手順を経て、何度も形を変えて小麦がパンになるんです」
「人生も同じ、ってか?」
「はい。小麦を粉に挽くのも、生地を発酵させるのも、どの過程もパン作りには欠かせません。何度も失敗を繰り返します。でも全ては奇麗に焼き上げるためのことです。……だからヅギさんも、自信を持って自分の未来を焼き上げてください!」
最後まで言い切り、俺は息を吐いた。ヅギさんはしばらく黙っていたが、やがてニヤリと笑う。
「……クソッタレな説教だな。だがお陰で覚悟ができたよ」
「覚悟?」
ヅギさんは俺に背を向け、庭で遊ぶ子供達を眺めた。赤い瞳を、どこか懐かしそうな眼差しに変えて。
「戦いを終わらせて……平和に生きる覚悟さ」
彼はそのまま外へ向かった。ボールを投げ合う子供達の輪に入り、みんなの相手を始める。ヅギさんはきっと大丈夫だ。想像もつかないくらい悲惨な過去を背負っていても、ここで大事な物を見つけられたのだ。きっと前に進んでいける。
そして俺も……
ふいに肩を叩かれ振り向いてみると、ポリーヌがいつの間にか近くまで這い寄っていた。優しい笑みを浮かべながら手帳を見せてくる。
――『フィルマンさんにお客様です。礼拝堂にいます』
お客様……パンが欲しい人だろうか。とりあえず会ってみるとしよう。
「分かった、行くよ」
するとポリーヌは俺の手を取り、しっかりと握った。その温もりを感じながら、俺は彼女と一緒に礼拝堂へ向かう。
俺は故郷でも修業先でも居場所を失い、ここへ流れ着いた。だが全てが今の俺に繋がっているのだ。司祭の馬鹿息子を殴ったことも、故郷で弟に永の別れを告げたことも、世話になった店のオーナーと分かれてここへ来たことも。それに何より……。
「……?」
ポリーヌの顔をじっと見ていると、彼女はこちらを向いて微笑んだ。子供のときと同じ、可愛い笑顔。忘れていても心のどこかで、この笑顔が俺を応援していてくれたのだ。だから彼女と再会した今、この居場所だけは守ってみせる。今の俺にはその自信がある。
そんな俺の心の内を知ってか知らずか、ポリーヌは俺の手をぎゅっと強く握った。そして礼拝堂の扉を開け……
そこにいた人物に、俺は驚愕した。
髭だらけの顔で堂々たる体格の男と、太った中年女性。以前いたパン屋の、オーナーと奥さんだった。
「親父さん……奥さん……!」
驚きに固まる俺に向かって、親父さんは豪快に笑った。
「はっはっは! おうフィルマン、儂らパルチザンは勝利したぞ!」
「魔物ってのは初めて見たけど、案外いい子達だね。うちに来て欲しいくらいだよ」
力こぶを見せる親父さんに、マイペースに茶菓子をつまむ奥さん。二人とも無事だったのだ。教団との戦いに勝利し、俺に会うためこの町へ来てくれたのだ……!
感動が体を震わせ、それが次第に目元へ集まってくる。やがて涙となって流れ出すそれを袖で拭うと、ポリーヌが再び手帳を差し出してきた。
――『よかったですね』
シンプルな文字に込められた、優しい気持ち。何度も頷きながら、むせび泣く俺の手を、ポリーヌはずっと握ってくれていた。
もはや俺の心に憂いは一切なく……
ポリーヌと共に、未来を焼き上げることを考えるのみだった。
……fin……
ポリーヌに全身を抱かれ、耳元で囁かれる。その力を素直に受け入れ、彼女の呼吸に合わせて息を吸い、ゆっくりと吐く。女の子の温もりと魔性の声に浸り、どんどん幸せな気分になっていった。もうこの声無しではいられなくなってしまったのかもしれない。
「フィルマンさんは今……えっちな気分になっています……えっちで、気持ちよくなってきます」
優しく頭を撫でながら、柔らかな体を押し付けてくるポリーヌ。時々、唇が耳に触れた。
「もっと私と抱き合いたい……もっと私に触りたい……ニオイも嗅ぎたい……」
息を吸う。吐く。
彼女の甘い汗のニオイを感じた。不思議だ、このニオイも何か懐かしい感じがする。
「私も、フィルマンさんに触ってほしいです……」
息を吸う、吐く……
「私はシスターだけど、ラミアで、魔物だから……とてもえっちな女の子なんです……」
吸う……吐く……
「いっしょにいると、フィルマンさんもえっちになっちゃいます……私の声を聞いてるだけで……ほら」
彼女の手が、俺の股間を撫でた。すでに怒張したペニスの上を、ズボン越しに手が擦っていく。
「だからもっと……すっごく、えっちになりましょうね……頭の中を空っぽにして、中身をえっちで一杯にしましょうね……」
吸う……吐く……
もう何か考えるのも馬鹿馬鹿しい。彼女の言いなりになりたい。
ふいに、ポリーヌの上半身が離れた。目を閉ざしているためどうなっているか分からないが、少なくとも下半身はしなやかな蛇体で拘束され続けている。少し間をおいて、彼女は俺の手を握り……
何か柔らかい物に押し付けた。
「……ふふ……これは何でしょう?」
子供と遊ぶような声でポリーヌが囁く。掌に触れるそれを確かめるため、俺はその柔らかな物体を握ってみた。
「あっ……♥」
ポリーヌが可愛い声を出した。てのひらに収まる大きさの、ドーム状のそれは膨らんだパン生地のようで、むにゅっとした感触と弾力を併せ持っていた。すべすべとして、それでいて吸い付くようで、いつまでも撫でていたい手触りである。
盛り上がりの先端には、少し固い突起があった。固いといっても弾力が強いというくらいで、指先で押してみると柔らかな膨らみの中へ沈んでいく。そして手を離すと、またぴょこんと飛び出してくるのだ。それが楽しくて、何度も試してしまう。
「ん……あはっ……やぁん……♥」
ポリーヌが楽しそうに喘ぎ、その声がますます俺を興奮させた。俺がその盛り上がりを揉むたびに、擦るたびに、艶かしい声が耳を犯してくる。もうこの物体が何なのか、ぼんやりした頭でも理解できた。
蛇体が俺を拘束したまま、もぞもぞと動く。どこかいやらしく、気持ちよさそうに。
「ひゃぅ……私のおっぱい、あんまり大きくないですけど……やんっ♥」
ぷりっとした乳首をつまんでみると、ポリーヌは身をよじらせた。感じている。俺の手で、彼女が感じているのだ。
「フィルマンさんが、こねてくれたら……あんっ♥ パンみたいに、ふくらむ、かも……♥」
いつの間にか、無我夢中で彼女の胸を揉み続けていた。生地をこねるように押しつぶし、そっと握り、丹念に揉んでいく。ポリーヌの喘ぎ声をもっと聞きたい。もっと気持ちよくしてやりたい。
そうだ、俺はこうしてみたかったのだ。昨夜ポリーヌが礼拝堂で自慰にふけり、快感のあまりおしっこまで漏らして絶頂するのを見てから、自分の手でポリーヌを気持ちよくしてやりたいと願っていた。
「あっ……ふ……ッ、フィルマンさ、んんっ……おっぱいさわるの、上手……♥」
乳首を指先で撫でながら、感触を堪能する。揉んでいる俺の方まで気持ちよくなってしまいそうだ。
「もっともっと……もみもみしてぇ……あぁん♥」
ポリーヌが身をよじらせるので、俺の手の中で小ぶりなおっぱいが暴れている。そんな柔らかなパン生地をてのひらで軽く押し、優しく円を描くようにこねた。
「ふあああ……そ、それ、イイです……♥」
うっとりした声が脳までしみ込んでくる。すべすべのおっぱいは汗ばんで、手に吸い付いてくる感触が強まった。
「あんっ、あふぅぅ……♥」
優しく、ときに激しく揉み、こねくりまわし、同時に乳首をつつき回す。どこをどう揉めばポリーヌが感じるのか、次第に分かってきた。俺はポリーヌの声で操り人形になることに悦びを感じながら、彼女の胸を最高のおもちゃにしているのだ。
「あはぁ……いひィっ……ふあぁん……♥」
ポリーヌの蛇体に力がこもってきた。俺を縛りつけるというより、俺にしがみついてくるように。
「わ、私……おっぱいで、あんっ、イき、そう……ふぁぁ♥」
俺にも分かった。ポリーヌの体が絶頂に達そうとしている。俺に胸を揉まれているだけで、昨夜見たような光景を再現しようとしているのだ。
興奮が最高潮に達し、頭の中はポリーヌの痴態で埋め尽くされた。そして俺は彼女がそうしていたように、おっぱいを搾るような揉み方に変えた。
「――――ッ!」
声にならないような不思議な音を垂れ流し、ポリーヌはよがった。乳搾りの手つきで刺激しても母乳が出るわけではないが、快楽に悶えるポリーヌの動きがたまらなく可愛い。手の中で踊るおっぱいが可愛い。必死でしがみついてくる蛇体が可愛い。
このままイってほしい。もう少し激しくしてやればあっという間だと勘で分かる。
乳首を親指で刺激しながら、乳房全体を掴み……一気に、絞り出す。
「あ、あ、んんんっ……イクッ……♥ ぁ、ぁひぃッ、あああぁん♥」
ポリーヌが、その胸が、腕が、蛇体が、ブルッと痙攣した。俺の体が痛いほどに蛇体が締め付けてくる。快楽に耐えるかのように。
そのきつい拘束にこもった愛情を感じながら、ポリーヌの絶頂が終わるのを待った。やがて拘束が緩み、脱力したかのようにもたれかかってくる彼女の上半身を感じる。自分の手でポリーヌをここまで導いたと思うと、妙に充実した達成感さえ覚えた。
「はぁ……はぁ……」
彼女の荒い息が、顔にかかる。
「……目を、開けて……」
静かなささやきに命じられるがまま、俺は目を開ける。泣きぼくろの可愛い、とろけた笑顔のポリーヌがそこにいた。口の端から唾液まで垂らし、快楽の余韻に浸った表情だ。
汗でおっぱいに密着していた手を離すと、ぺりぺりという音がした。服を脱ぎ捨てて露出した彼女の胸はとても奇麗で、散々揉んだせいで赤みを帯びている。呼吸に合わせてゆっくりと動く胸が無性に愛おしかった。鎖骨やちらりと見える脇の下などにも惹かれてしまう。
「……初めてです。おっぱいだけで、イっちゃうなんて……」
息を整えながら、ポリーヌは少し恥ずかしそうに呟いた。そんな声にも魔力はこもっており、俺の恍惚状態を引き延ばす。
「きっと……揉んでくれたのがフィルマンさんだから……大好きな人だから、こんなに気持ちよかったんですよ……」
頬を真っ赤に染めながらも、ポリーヌは顔をほころばせた。そして、目線を下に向ける。
「でも今度はフィルマンさんも……一緒に気持ちよくなりましょう……」
ポリーヌが見ているのは、ズボンを押し上げて勃起した俺の股間。そして彼女の上半身と蛇体の境にある、僅かなふくらみと……その真ん中に走る割れ目。透明な汁を垂らし、物欲しそうにしているそれを見るだけで情欲が最高潮に達する。
彼女の手が俺のベルトを外し、ズボンからペニスを解放した。白い手で優しく撫でられ体中がゾクゾクする。
「フィルマンさんのおちんちんと、私のアソコ……対面しましたね」
見つめ合いながらささやかれ、心拍数が上がる。
「少し腰を動かせば、私たちは繋がっちゃいます……私とフィルマンさん、一つになっちゃうんですよ……」
ポリーヌもまた、その瞬間を待ち望んでいるのが分かった。顔にかかる彼女の吐息は熱がこもっており、かまどからパンを取り出すときのような熱気を感じる。そしてその目は慈愛と愛欲に満ちた温かなものであると同時に、美味しそうなネズミを見つけて歓喜する、蛇の目のようにも思えた。
「一つになりたいですか……?」
「なりたい……」
「一緒に気持ちよく、なりたいですか……?」
「なりたい……」
魔声に誘導され、俺は問いかけに答えていく。しっかりと巻き付いてくる蛇体に不思議な安心感を感じはじめた。
「私は半分が蛇だから、赤ちゃんは卵で生まれます……卵が生まれたら、孵るまで一緒に抱きしめてくれますか……?」
「ああ……」
「魔物が妊娠する確率って、とても低いんです……だからできるまで、何回でもシてくれますか……?」
「する……」
「浮気だけはダメですよ? もししたら、すごくキツいお仕置きをしちゃいますからね……?」
「しないよ……」
「フィルマンさんのパンはみんなの物だけど……フィルマンさんは私のものですよ……?」
「ポリーヌの……もの……」
ふと疑問が浮かび上がり、それはするりと口から出ていった。
「ポリーヌは……俺のものだよな……?」
すると彼女はくすりと笑い……しっかりと頷いた。
「……当たり前じゃないですか……私の体も心も、フィルマンさん専用です……♥」
ポリーヌの手が、そっと俺のペニスを握る。そしてその先端が、彼女の女性器にあてがわれた。ぬめりを帯びた柔らかい肉が触れ、その奥にある快楽を期待させる。
「さあ……挿れてください……フィルマンさんの精子が、私のお腹で卵になりますように……」
胸の前で手を組み、ポリーヌは祈った。どこかの神が聞き届けてくれることを一緒に願いながら、俺はゆっくりと腰を進める。
「あ……♥」
「うっ……!」
割れ目に少し入れた瞬間、亀頭が艶かしい刺激に晒された。内部で肉の壁が蠢き、ゆっくり脈動しているのだ。
もっと奥へおいで……そう誘惑するかのような、いやらしい動き。引き込まれるように俺のペニスは進んでいく。
「あぁ……き、きてる……入ってきてるぅ……♥」
うっとりした声に、俺は思わすポリーヌの上半身を抱きしめた。彼女も俺の背中に手を回し、強く抱きついてくる。自然と触れ合う唇。絡み合う舌。糸を引く唾液。
そして下半身では俺のペニスが根元までずっぽりと埋没していた。
「はうぅぅぅっ♥」
「うあっ、ぽ、ポリーヌ……!」
奥まで挿れた瞬間、彼女の膣内はぎゅっと強く締め付けてきた。とても温かく、愛液でぬめっており、ペニスをしっかりと抱きしめてくる。
それだけではない。俺たちは二人とも全く腰を動かしていないのに……というよりは蛇体で縛られて動けないのに、彼女の蜜壷内でヒダがうねるように蠢いている。愛液でちゅぱちゅぱと音が鳴るくらい、ペニスを締め付けながらも激しくくすぐっていた。更に奥の方へ吸い付けるようにして、貪欲に精を搾り取ろうとしている。これが魔物の女性器なのか。玉袋の中身を全てぶちまけてしまいそうな快楽だ。
「フィルマン、さぁん……♥」
頬を染めて涙まで浮かべながらポリーヌは喘ぐ。痛かったのかと思ったが、その艶かしい声は明らかに気持ち良さそうだった。
「あひゃん……これ、しゅごいです……♥ フィルマンさんと私、ひとちゅに……ふあぁぁ♥」
蛇体をキツく巻き付けられ、俺は更に興奮してきた。ペニスに吸い付いてくる下の口に合わせ、上の口でももう一度キスをする。
舌が絡み合うたびに、膣のヒダもよりいっそう艶かしく絡み付いてきた。射精したいという欲望がどんどんこみ上げてくる。だがもっと……もう少し楽しみたい。
「ポリーヌ……」
俺は彼女の後頭部に手を回して濃紺の髪を撫でながら、そのとろけた顔を鑑賞した。口元から垂れた唾液、熱い息がいやらしい。
「挿れられてる顔……可愛い……!」
「やぁ……は、恥ずかしいです……♥ そんなに、見ないで……んぁぁぁ♥」
彼女の尖った耳にむしゃぶりつく。プニプニしていて弾力のある耳の先端を舐め、歯でそっと刺激する。
「ふぁっ、あぃっ……耳らめっ……♥」
よがるポリーヌの耳を追いかけ、さらに甘噛みする。抱き合ったまま、俺たちはベッドにごろんと倒れた。
再び胸を揉んでやると、膣の締め付けがグッと強くなった。こみ上げてきた物をうっかり漏らしてしまいそうになるが、それを抑えて彼女の腋へ手を伸ばす。
「ひゃあ!? く、くしゅぐらないでぇ……♥」
むず痒そうに言う声がなおさら悪戯心をかき立てた。じっとり汗ばんだ彼女の腋がきつく閉じられ、俺の指が挟み込まれる。それでも指先でぐりぐりと刺激を続けてやると、ポリーヌは俺に巻き付いたまま全身をくねらせた。
「うおおっ……すげ……!」
「はふぅぅぅ、あんっ……やぁぁんっ♥」
ポリーヌの動きで膣のヒダがペニスにこすれる。膣の脈動だけでなく体の動きが加わったことでペニスがもみくちゃにされ、溶けてしまいそうな快楽が生まれていく。今まで散々高められてきたものが、限界に達しそうになってきた。何よりも興奮を誘うのはポリーヌの喘ぎ声と、その媚態……彼女もまた、限界にきているのだ。
「あ、ううっ……で、出る、ポリーヌ、もう出る!」
俺は必死で訴えた。
「ひゃう、あぅぅん……♥ き、きちゃうんですねっ……ナカに、出ちゃうんですねっ………あ、ああぁぁ♥」
強く抱き合い、肌の感触を感じながら……俺たちはそのときを迎えた。
精液が尿道を迸っていく。そして強烈な快感とともに、それはポリーヌの中へ……!
「う、お、おおぉぉ!」
「ひぎっ、ふあああぁぁん♥」
一番奥のところで、俺は吐き出した。ポリーヌが快感に震え、それが膣に伝わってさらにペニスを刺激する。温かい女性器の蠢きにくすぐられながら、彼女にしがみつくようにして全てを吐き出していく。ポリーヌも感極まって大粒の涙を流しながら、とろけきった表情で俺の迸りを受け止めてくれていた。
「あひっ、あんっ、ひゃぁぁぁ♥」
喘ぐポリーヌの下半身が、ぎりぎりと俺を締め付けてくる。だが今ならそれさえ気持ちよく思えた。これも彼女の愛の証なのだから。
しかしそんなことを考えている余裕もほとんどなかった。一瞬のことであるはずの射精が妙に長く感じられる。ポリーヌの魔声のせいだろうか。先ほど浮気はしないと誓ったが、あの約束は無意味なものだろう。もう俺はポリーヌでなくては満足できなくなっているに違いない。
そんな狂おしい快楽に浸りながら、
俺の頭の中は真っ白になっていった。
「貴方は今、昔に戻っています……ずっと昔の、子供だったころに……」
……子供……
「昔の貴方……小さな貴方……子供のころの貴方は、どんな子でしたか……?」
……子供の俺。
一流のパン屋になるのが夢だった俺。親父の火傷した手がかっこいいと思っていた俺。いつか村を出て、広い世界へ出てみたいと願っていた俺。
「貴方は村の外れの、大きな木の近くにいます……手に焦げたパンを持って、寂しそうに……」
村の外れ……大きなクルミの木があった。パンに入れるクルミをよく拾いに行ったり、友達と一緒に登ったり、何かと思い入れがあるところだった。
だから初めてパンを焼いて、見事に焦がしたときも、俺はあそこへ行ったんだ。気分が楽になるような気がして。
「すると……木の陰から、女の子が顔を出しました」
女の……子……。
寂しそうな顔をした、可愛い女の子。村では見た事のない女の子。木の後ろから、顔だけを出した女の子。
「その子は貴方をじっと見て……貴方はその子に、パンをあげました……」
……そうだ。お腹が空いているのかと思って、俺は持っていたパンを差し出したんだ。焦げたやつでごめん、と言って。
そうしたらその女の子は木の裏に隠れたまま、手を伸ばしてパンを受け取り……じーっと見た後、食べてくれた。
「パンは焦げて、少し苦かったけど……女の子はそれがとても、優しい味に思えました……」
瞼の裏に、あの子の顔が浮かび上がってくる。焼くときに失敗して焦げたパンなのに、美味しそうに食べて、笑ってくれた。俺はそれが嬉しくて嬉しくて、いつか絶対に上手く焼けるようになるからと、あの子に約束したんだ。女の子は微笑んで頷いて、体を隠したまま再び手を伸ばして……。
そう、指切りしたんだ。あの子のような、幸せな笑顔がもっと見たかったから約束した。あの濃紺の髪の女の子と。泣きぼくろの可愛い、一言も喋らなかった女の子と――!
「ああ……ああ……!」
「……その女の子は貴方のことが好きになりました……でも本当は魔物だったから、一緒にいられませんでした……」
瞼の裏で、思い出の少女が嬉しそうに微笑んでいる。体は木に隠れていたのに、今は彼女の全身が……小さな蛇体が想像できた。
「大人になるにつれ、もう会えないと思うようになって……口がきけないから、ここへ来るまで自分の暮らしも必死で……だから貴方と会ったとき、もしかしたらとは思ったけど……そんなわけないって考えていました」
そっと、頭を撫でられた。撫でているのは声の主か、瞼の裏の少女か……
「でもね……貴方のパンを食べたとき……同じ、優しさの味がしたんです」
ぎゅっと抱きしめられた。俺も抱きしめる。瞼の裏の……目の前の彼女を。
「さあ、目を開けて……そして呼んでください。その子の名前を」
声に命じられるがまま。
俺はゆっくりと、目を開いた。
「……ポリーヌ」
泣きぼくろのラミアが、俺を抱きしめてくれていた。子供のときと同じ、幸せそうな笑みを浮かべて。
「ポリーヌ、ごめん!」
俺は思わず叫んでいた。嬉しくて嬉しくて、涙があふれてくる。
「本当は俺が先に、気づかなきゃいけなかったんだ……!」
全て思い出した。焦げたパンを友達にからかわれ、一人でクルミの木へ行ったことを。そこで出会った彼女にパンをあげたことを。そのとき彼女が見せたとびっきりの笑顔も、全て。
「あのときポリーヌと会って……パンを食べた人が笑顔になるのが、どれだけ楽しいから知ったから頑張れたんだ。それなのに……」
「ううん……いいんです」
俺を全身で抱きしめ、優しく頬を寄せてくるポリーヌ。すべすべとした頬は温かく、とても優しい。
彼女は俺の目の前に手を出し、小指をピンと立てた。
「フィルマンさんはちゃんと、約束を守ってくれたでしょ……?」
…………
………
……
「そう、上手いぞ。発酵ガスが抜けないよう、隙間無く丸めるんだ」
教会に来ている子供達にパン作りを教え、その出来を確認する。まるで粘土で遊ぶかのように、楽しみながら覚えられるのが子供の強みだ。女の子でも魔物ならこねる力は十分だ。刑部狸の女の子は材料費がいくらで、どのくらいの値段で売れるかをいろいろ考えている。
全員が生地を丸め終わったのを確認して、俺も自分の生地を並べた。
「さて、これから一次発酵だ。しばらくしたら呼ぶから、それまで休憩」
「お外行ってもいいー?」
「いいけど、始めるときにはちゃんと手を洗うんだぞ」
「はーい!」
子供達は早足で工房から出て行く。みんな素直で元気一杯の、いたずらもする可愛い奴らだ。
俺も工房から出ると、そこに丁度ヅギさんがいた。
「結構懐かれてるみたいだな」
「みんないい子だから……体、大丈夫ですか?」
そう尋ねると、彼は軽く笑った。
「どうってことない、今日は調子がいいし……。お前、子供の頃にポリーヌと会ったことがあるんだって?」
「ええ。昨日やっと思い出しまして」
「ハハッ、オレとシュリーも幼馴染みでさ。ガキの頃に行方知れずになって、この町で偶然再会したんだ」
「へぇ!」
ヅギさんも俺と似たような経緯を辿っていたのか。この教会には幸運の女神様でもいるのかもしれない。
「あいつ、昔からオレに構ってさ……放っといてくれればいいのにって、いつも思った。でも一緒に暮らすようになって……この病も患って……」
息が苦しそうになり、ヅギさんは咳き込んだ。だが顔を歪めながらも彼は笑みを浮かべている。こんなことは何でもない……そう言いたげな、凄みのある笑みだ。百戦錬磨の傭兵だからこそできることかもしれない。
「……笑っちまうぜ。生きるために人間の肉まで食って、金次第で人も魔物も大勢殺して、やっぱり肉まで食って。……それなのに今、戦えるうちに教団を追い払って、シュリーやお前らみんなと一緒に暮らすのが楽しみで仕方ねぇ……!」
彼の声は自嘲的にも、泣いているようにも見えた。俺より遥かに悲惨な生き方をしてきて、それが自分の人生だと腹をくくっていたのだろう。だからこそ、彼は未来に見える幸せが怖いのかもしれない。多くの命を奪ったことへの罪悪感と共に。
「……ヅギさん。貴方よりはずっとマシなんでしょうけど、俺の人生はあっちへ行ったりこっちへ行ったり……パンを作りたいってこと以外は、いつもブレまくりでした」
「……そうなんだろうな」
「教団を怒らせて故郷に逃げ帰って、そこでもハブられて、ぶらぶら放浪して。でもここへ来て、思ったんです」
少し息を整え、俺は一番言いたいことを告げた。
「パンが焼き上がったとき、そこに小麦の面影はない。数多くの手順を経て、何度も形を変えて小麦がパンになるんです」
「人生も同じ、ってか?」
「はい。小麦を粉に挽くのも、生地を発酵させるのも、どの過程もパン作りには欠かせません。何度も失敗を繰り返します。でも全ては奇麗に焼き上げるためのことです。……だからヅギさんも、自信を持って自分の未来を焼き上げてください!」
最後まで言い切り、俺は息を吐いた。ヅギさんはしばらく黙っていたが、やがてニヤリと笑う。
「……クソッタレな説教だな。だがお陰で覚悟ができたよ」
「覚悟?」
ヅギさんは俺に背を向け、庭で遊ぶ子供達を眺めた。赤い瞳を、どこか懐かしそうな眼差しに変えて。
「戦いを終わらせて……平和に生きる覚悟さ」
彼はそのまま外へ向かった。ボールを投げ合う子供達の輪に入り、みんなの相手を始める。ヅギさんはきっと大丈夫だ。想像もつかないくらい悲惨な過去を背負っていても、ここで大事な物を見つけられたのだ。きっと前に進んでいける。
そして俺も……
ふいに肩を叩かれ振り向いてみると、ポリーヌがいつの間にか近くまで這い寄っていた。優しい笑みを浮かべながら手帳を見せてくる。
――『フィルマンさんにお客様です。礼拝堂にいます』
お客様……パンが欲しい人だろうか。とりあえず会ってみるとしよう。
「分かった、行くよ」
するとポリーヌは俺の手を取り、しっかりと握った。その温もりを感じながら、俺は彼女と一緒に礼拝堂へ向かう。
俺は故郷でも修業先でも居場所を失い、ここへ流れ着いた。だが全てが今の俺に繋がっているのだ。司祭の馬鹿息子を殴ったことも、故郷で弟に永の別れを告げたことも、世話になった店のオーナーと分かれてここへ来たことも。それに何より……。
「……?」
ポリーヌの顔をじっと見ていると、彼女はこちらを向いて微笑んだ。子供のときと同じ、可愛い笑顔。忘れていても心のどこかで、この笑顔が俺を応援していてくれたのだ。だから彼女と再会した今、この居場所だけは守ってみせる。今の俺にはその自信がある。
そんな俺の心の内を知ってか知らずか、ポリーヌは俺の手をぎゅっと強く握った。そして礼拝堂の扉を開け……
そこにいた人物に、俺は驚愕した。
髭だらけの顔で堂々たる体格の男と、太った中年女性。以前いたパン屋の、オーナーと奥さんだった。
「親父さん……奥さん……!」
驚きに固まる俺に向かって、親父さんは豪快に笑った。
「はっはっは! おうフィルマン、儂らパルチザンは勝利したぞ!」
「魔物ってのは初めて見たけど、案外いい子達だね。うちに来て欲しいくらいだよ」
力こぶを見せる親父さんに、マイペースに茶菓子をつまむ奥さん。二人とも無事だったのだ。教団との戦いに勝利し、俺に会うためこの町へ来てくれたのだ……!
感動が体を震わせ、それが次第に目元へ集まってくる。やがて涙となって流れ出すそれを袖で拭うと、ポリーヌが再び手帳を差し出してきた。
――『よかったですね』
シンプルな文字に込められた、優しい気持ち。何度も頷きながら、むせび泣く俺の手を、ポリーヌはずっと握ってくれていた。
もはや俺の心に憂いは一切なく……
ポリーヌと共に、未来を焼き上げることを考えるのみだった。
……fin……
13/04/06 22:32更新 / 空き缶号
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