後編・上
焼き上がりを待つ時間。最も心躍ると同時に、もどかしい時間でもある。上手く焼けてくれるか気になっても、一度かまどに入れたパンはどうすることもできない。今まで磨いて自分の腕を信じ、じっと待つしかないのだ。
今頃戦局はどうなっているのだろうか。ヅギさんは昨日から咳をしていたが、大丈夫なのだろうか……そんなことを考えてしまう。そして今礼拝堂で産まれようとしている、新しい命のことも。それを助けるため頑張っているポリーヌのことも。
パン作りの行程を脳内でざっと繰り返し、失敗がなかったか考える。俺は当然自分の腕に自信を持っているが、今回は今までのパン作りと感覚が少し違った。作っている最中、やはりポリーヌを連想してばかりいたのだ。彼女の肌のように柔らかな白パンを、今朝のキスのように甘い蜂蜜パンを……そんなイメージでパンを作っていた。それが『インスピレーション』なのか『邪念』なのかが不安だが、それはパンの出来を見てから決めるしかない。
「……俺、私設軍に恋人がいるんです」
作業を手伝ってくれていたシャルル君が、ぽつりと呟いた。
「デュラハンっていう魔物で、魔王軍義勇兵の隊長で……多分今、戦っているでしょうね」
「それは心配だろうな」
彼は頷いた。心配するに決まっている。信じているから大丈夫だ、などという台詞はなかなか言えるものじゃない。戦場は人がホイホイ死ぬのだから。
「俺が故郷で食い詰めてここに流れてきてから、いろいろな人にお世話になってます。俺を拾ってくれた店長と奥さんにも、最初に友達になってくれた彼女にも」
次第にしっかりとした口調でシャルル君は言う。彼の言葉のアクセントには辺境の訛りが含まれており、本人が言うように食い詰めた田舎者のようだ。彼もまたある種のワケ有りということだが、この町で自分の未来を見つけられたのだろう。パン作りを手伝ってくれている際、立派に職人の目をしていた。
「みんな、かけがえの無い存在です」
「俺も旅してる中で、いろいろな人に世話になったよ。この町でも……もうかけがえの無い人と出会ってね」
昨夜、ポリーヌの優しい声に操られ。今朝、甘いキスで蹂躙され。
俺はあの悪戯好きのラミアに夢中になっている。彼女が俺にあんなことをするのは単なる悪戯心か、それとも別の何かか。まだ魔物のことをよく知らないため、彼女達の恋がどのようなものかピンとこない。ただ昨日ヅギさんから聞いた話だと、魔物の恋には二種類あるという。恋に落ちてセックスする魔物と、セックスを通じて恋に落ちる魔物だそうだが、もしポリーヌが後者ならば……
「見た目だけじゃなくて、いろいろな意味で不思議なもんだよな。魔物ってのは」
「付き合ってみると、それが面白いですよ」
「確かに」
……そんな会話をしているとき。
あの鐘の音が響いた。領主邸からの緊急連絡だ。厳かな音色に自然と体が引き締まり、耳を傾ける。内容は想像できるが、それが良い知らせか悪い知らせかは分からない。ただ一つ確かなのは、どうなろうとこの町から逃げる気はないということだ。
やがて、音の中に声が生じた。
《領主邸より連絡。我が私設軍は教団の軍勢に甚大な損害を与え、撃退しました。これより戒厳令を解除します――》
「勝ったのか……!」
「勝ったんですよ……!」
俺は一瞬安堵したが、ヅギさんが無事に帰ってくるかはまだ分からない。シャルル君もまた、どこかそわそわした様子だった。
そしてかまどから漂ってくる芳ばしい香り。懐中時計を見て、パンが焼ける時間だと確認した。
「カノジョの様子を見てきなよ。パンを持って行きな」
「あ、いや、でも……」
「コルバさんには俺から言っておくよ」
言いながら、かまどからパンを取り出した。焼きたての香りを惜しげも無く放つ純白のパン。そして甘い香りをはらみ、こんがりと焼けた蜂蜜パン。どちらも神々しいまでの美しさを放っており、俺は成功を確信する。シャルル君も隣で感嘆の声を上げていた。俺は熱々のパンを数個籠へ盛って、彼に渡してやる。
「カノジョさんによろしくな」
「……はい! ありがとうございます!」
丁寧にお辞儀をすると、シャルル君はパン籠を抱えて工房から飛び出して行った。俺も少年時代に恋をしていたら、あんな風になっていたのだろうか。今のやりとりがフラグになっていないことを祈りつつ、パンに意識を戻した。
白パンを一口分千切り、中のキメの細かさを確認する。口に含んでみると芳ばしさが広がり、舌触りも完璧だ。この分なら冷めても美味いだろうし、最高の出来といっていいだろう。
これなら自信を持って店に並べられる。後はパンの作り方を子供達にも教えてやらなくてはならないが、まあ大丈夫だ。子供の方が飲み込みが早いこともあるし、みんなパン作りに興味津々だった。あの子達が一生懸命にパンを作ればきっと評判になるだろう。高度な技術を必要とせず、なおかつ印象のあるパンを考えてみよう。
と、再び工房のドアが開く。今度は外側から。
一瞬姿が見えなかったが、入ってきたのが子供だったからだ。あのアナグマ……もとい、刑部狸とかいう魔物の少女である。太めの尻尾を盛んに振って、小さな頬を真っ赤に染めており、相当急いで走ってきたようだ。そんな彼女だが、パンの香りに当てられてかうっとりとした表情になる。
「どうしたんだい?」
そう尋ねると、少女はハッとした様子で叫んだ。
「あ、あかちゃんが、うまれました!」
……パン籠を手に礼拝堂へ駆け込んだとき、中はお祭り騒ぎだった。床に敷いた毛布に寝かされたミンスさん、その周りを取り囲む修道女や来客者たち。その中に立つポリーヌが、新しい命を抱きかかえていた。観衆は誰もが笑顔を浮かべるか、感動してむせび泣いている。
そんなみんなの声をかき消すかのように、赤ん坊の産声が高らかに響く。ミンスさんと同じ、牛の角の生えた赤ん坊だ。小さな体のどこからその声が出てくるのか不思議なほどに泣き声をあげていた。自分が産まれたことを世界に訴えるかのように。
「ミンスさん、よく頑張った!」
「ほら、こんなに元気な赤ちゃんよ!」
「えへへ……みなさん、ありがとうございます……」
産まれたばかりの娘をポリーヌから受け取り、ミンスさんはしっかりと抱きしめた。自分の大きな胸に子を乗せ、優しくあやす。彼女はもう立派な母親なのだ。慈悲深さと強さを持ち合わせた、立派な女性なのである。
そして……
「うあっ、うおおおおおああうおうううううううああああぁぁ!!」
ミンスさんの傍らで、立派な父親になったはずのコルバさんが大泣きしていた。ミンスさんの頭を撫で、声にならぬ声で妻を賞賛している。ミンスさんには彼の言っていることが分かるようで、目に涙を浮かべてしきりに頷いている。
ポリーヌやシュリーさんもまた、笑顔のまま涙を流していた。ヘタな人間よりもよほど美しく、慈愛に満ちた表情。魔物であるはずなのに、その姿は天使より神々しかった。もちろん、新たな命を産んだミンスさんも。
俺の方を見て、ポリーヌがにこりと微笑む。俺はずいっと前に進み出て、みんなにパン籠を差し出した。
「みなさんお疲れさまです! 丁度焼けたので、どうぞ食べてください!」
次の瞬間、誰もがパンの香りに感嘆の声をあげた。コルバさんがむせび泣きながら一つ手に取り、みんな次から次へとパン籠に手を伸ばしてきた。
「……美味い! こんなにふっくらしたパンは初めて食ったぜ!」
「本当! 噂通りの腕前ね!」
「おほおぉうううっううおお、おうおっうっおっおっぁああっぁぁ!!」
「……コルバ、食べるか泣くかどっちかにしろよ」
「んぐっ、おいひいれす〜」
「奥さん、無理しちゃ駄目ですよ」
礼拝堂の中に笑顔が満ちた。子を産んだ直後のミンスさんまでもが俺のパンを頬張り、幸せそうに微笑んでいる。彼女に抱かれた娘がパンを食べるようになるのはもう少し先だ。そのときにいいパンを出せるようにしておかなくては。
ポリーヌも蜂蜜パンを一つ手に取り、口へ運び……一瞬、目を見開いた。
「ぽ、ポリーヌ……?」
味が変だったのではないか……そう思ったが、杞憂だった。彼女は俺を見て、限りなく幸せそうな笑みを浮かべてくれたのである。だがその笑顔の理由は、美味しさによるものだけではないように思えた。
彼女の手が、そっと俺の手を握る。もの言わぬ彼女の笑顔が、仕草が、妙に意味ありげに見えた。
そのとき、シュリーさんがはっと後ろを振り向いた。礼拝堂の入り口が開かれ、そこに修道士姿の男が立っている。彼が帰ってきたのだ。
「ヅギ!」
「ヅギさん!」
ずるずるとした歩き方で駆け寄るシュリーさんに、ヅギさんは目を細めて微笑を浮かべ、軽く咳き込んだ。シュリーさんが彼に抱きつき、その胸に顔を埋める。もしかしたら泣いているのかもしれない。本当は誰よりもヅギさんが心配でたまらなかっただろうに、教会を取り仕切る立場として冷静さを保っていたのだ。戒厳令が解かれたとき真っ先に飛び出していきたかったのをこらえ、新しい命のために奮闘していたのだ。
咳をしながらも彼女の頭を撫でるヅギさん。奇麗な顔には疲労が浮かんでいたが、見る限り怪我は無さそうである。
「待たせたな、シュリー。もう大丈夫さ」
「ヅギさん、ご無事で何よりです」
俺がパン籠を手に声をかけると、ヅギさんは顔をほころばせた。
「うおっ、いい匂いじゃん。丁度焼きたて? いやー、いいタイミングで帰ってこれたな……」
「ああああうおっっほうううあああああ、うえぇっうおおぉぉ!!」
「うっせーよコルバ! 何の騒ぎだてめぇ!?」
教会には早くも陽気なムードが戻ってきた。ポリーヌが俺の腕に尻尾を巻き付け、涙ぐみながら俺のパンを食べている。
――『おいしいです』
手帳に書かれたシンプルな一言が、俺には何よりも嬉しかった。可愛らしく幸せそうな笑顔にはやはり既視感がある。昔どこかで見た、とても温かく、俺さえも幸せな気分にしてくれるような笑顔だ。
確かにポリーヌの何かが、俺の中の何かと繋がっている。それが何なのか確かめるためにも、俺は彼女に告げた。
「ポリーヌ……話したいことがあるんだ。今夜、部屋に行っていい?」
すると彼女は何か意味深げな笑みを浮かべ、頷いた。続いて手帳に羽ペンを走らせる。
――『私からも、お話ししたいことがあるんです』
…………
……
…
……お祭り騒ぎが終わり、夕食も済ませた後。俺はヅギさんと一緒に教会内の戸締まりを行っていた。同時に彼から、戦いの様子も聞くことができた。
曰く、教団は負けるために攻め込んできたようなものだった、とのこと。この町の斥候や間諜は敵の動きを完璧に暴き、攻めてきたときにはすっかり迎撃態勢が整っていたという。攻めこんだはずが逆に側面から奇襲され、教団の軍勢は潰走に追い込まれたのだ。
負傷者は出ても戦死者は無し。シャルル君の恋人も軽傷を負ったが命に別状はなく、今頃病院でイチャついているだろうとのことだった。
「ほとんど完全勝利じゃないですか……」
「諜報とかゲリラとか、今までいろいろ準備してたからな。人魔一体の軍だからできる戦術もあるし」
話をしているうちに、この人は本当に百戦錬磨の傭兵なのだと感じた。戦で起きたことを語るのに、口調があまりにも淡々としていたのである。それは戦いが彼の日常であるという証なのだろう。
礼拝堂を施錠し、俺たちは宿舎へと向かった。
「それにしもお前のパン、今まで食ってきた中でも五本の指に入るな」
俺の前を歩くヅギさんが、背を向けたまま言う。
「ありがとうございます」
「今度、米粉パンってのを作ってみてくれよ。なんかこの前、ジパング産の米が……」
ヅギさんが苦しそうに言葉を切った。次の瞬間口に手を当てて咳き込み、低い声で唸る。どうにも嫌な音の咳だ。
声をかけようとして、俺は息を飲んだ。咳が収まったとき、口から離れたヅギさんの手に何かが付着していたのだ。唾ではない。薄暗い廊下でも、その液体の色は分かる。
「ハハッ……!」
ぞっとするような笑い声を出し、彼はその血をハンカチで拭う。そして口周りも。
「ヅギさん、あんた……」
「オレはもうインキュバスだから、普通の病気にはかからない……」
そう語るヅギさんの声は少しかすれている。やはり彼は何らかの病を抱えたまま戦っていたのだ。正規の軍人ではないだろうに、何故そこまでして……?
「これはきっと、報いなんだろう……いろいろやったから」
「そんな体で戦っていたんですか?」
「んー、医者からは……傭兵としてやっていけるのは、多く見積もっても後二年って言われたな」
頭をぼりぼりと掻き、彼はため息を吐いた。
「まあそのくらいあれば、この町の周りから教団を追い払うことはできるだろ」
「そこまでして……この町を守るために……?」
「俺は『守る』って言葉が嫌いでね。少なくとも、俺にその言葉を使う資格はない」
ヅギさんの赤い目が、俺を見た。彼はこの目で、今までどれだけ多くの人の死を見つめてきたのだろうか。その手でどれだけの命を奪って来たのだろうか。確かにそれは罪だ。
しかし大威張りで戦争をする輩が数多く存在するこの世界で、彼のみが受けなければならない報いとは何なのか。
「オレはこれでも望んで傭兵になった身だから、奇麗に幕を引きたいだけさ。お前は気にしないでパン作りのことを考えていればいい。この町で誰も飢えないように……オレみたいな化け物が、もう生まれないようにな……」
それだけ言って、ヅギさんは再び廊下を歩きだした。しっかりとした足取りで。
彼の過去に何があったのかは知らないし、ここで尋ねるほど俺も空気の読めない男ではない。だが彼の言葉から分かることがあった。ヅギさんは未来のために戦おうとしているのだ。自分を受け入れてくれたこの町の人間が、平和に暮らしていけるように。
「じゃ、寝るわ。今のこと、シュリー以外には言わないでおいてくれ」
「ヅギさん!」
寝室のドアに手をかける彼に、俺は咄嗟に叫んだ。
「ヅギさん……誰が何と言おうと、あんたがどれだけ自分を蔑もうと……あんたは立派な人だ」
彼は何も言わなかった。ただ軽く笑い、静かに寝室へ入って行く。
ドアが静かに閉まるのを聞くと、俺はその足でポリーヌの部屋へ向かった。
この町の人たちはみんな強い。自分のやるべきことを理解し、自分の意志で前に進んでいる。俺もこの町の一員となったからには強くなりたい。この居場所をもう失わないように。
そして、そのためにも……
「ポリーヌ。フィルマンだ」
ドアをノックして数秒後。ドアがゆっくりと開き、泣きぼくろのラミアが顔を出した。彼女は俺を見て微笑むと、袖を引っ張って中へと誘う。『おしゃべり』を期待しているのかもしれないが、その前に俺の気持ちを伝えておかなくては。彼女の魔声を聞くと、ただひたすら快楽にとろけていたくなるから。
ポリーヌの部屋は奇麗に整頓されており、机の本棚には小説の類が何冊か並んでいた。タイトルからして恋愛物、それも人間と魔物の恋をテーマにしたものが多いようである。やっぱり魔物も『女の子』なのだと改めて思った。
彼女は奇麗なベッドの上に蛇体を乗せ、自分のすぐ隣をポンポンと叩いた。お言葉(言葉ではないが)に甘えて腰を降ろすと、ポリーヌの尻尾が肩に巻き付いてくる。揺れる尻尾の先端がどこか可愛らしい。
「ポリーヌ、俺さ……ちょっと前まで、人間と魔物は仲良くなれても、結局は違う生き物だって思ってたんだ」
少しずつ、心の内を吐き出していく。単なる前置きではあるが、聞いて欲しいことだ。彼女は青い瞳で俺を見つめ、じっと話を聞いてくれている。
「女の子の姿をしていても、魔物は魔物なんだって。でもポリーヌと会って……それに今日、ミンスさんの赤ちゃんが生まれるのを見て、本当はみんな同じ、命だって気づいたんだ」
ポリーヌはこくりと頷いた。浮かべている微笑に、嬉しさと力がこもっているように思える。
「みんな生きている。人間も魔物も、みんな一つの命なんだ。泣いたり笑ったり、子供が生まれたり。一生懸命に生きているんだよな」
嬉しそうに何度も頷くポリーヌ。俺はゆっくりと息を吸い、一番大事なことを口にした。
「でさ……ここからは俺たちのことなんだけど。俺、昨日ポリーヌと会ったばかりなのに、何か……気がつけばポリーヌのことを考えるようになっちゃってさ。昼間のパンも実は、その……ポリーヌの肌とか唇とかイメージして……」
思い切って告げた瞬間、彼女の目がまん丸に見開かれ、頬が真っ赤に染まった。肩に巻き付く尻尾さえも小刻みに震えている。魔物でもさすがにこれは恥ずかしかったようだ、悪いことをしたかもしれない。
「そういうわけで、ポリーヌとは単にエロいことをするだけじゃなくて……ミンスさんがコルバさんの子供を産んだみたいに……」
落ち着け、俺……そう言い聞かせ、もう一度息を吸う。
そして、一気に吐き出した。
「ポリーヌの子供は俺の子供、っていう関係を目指したいんだ!」
言った。言ってやった。
力の限り吐き出した俺の思い。だがポリーヌは、すぐにはそれに答えなかった。頬を赤らめたままぎゅっと目を閉じ……瞼の隙間から奇麗な雫が足れる。そしてその瞼が開かれると、彼女は潤んだ瞳でとびきりの笑顔を浮かべてくれていた。
その口から出る言葉を待つ俺に手帳を差し出し、目の前で字を書き綴る。
――『お答えする前に、私のお話、いいですか?』
興奮しているのか、いつもは奇麗な字が少し歪んでいた。俺が頷くと、ポリーヌは続きを書き込んでいく。
――『私、本当はずっと前からフィルマンさんが好きでした。』
下線を引いて強調している部分に、俺は目を見張った。彼女と会ったのは昨日が最初のはず。だが俺にも確かに、彼女の笑顔に対して既視感があったのだ。以前どこかで出会っていたとしたら……。
記憶の糸をたぐろうとする俺に、ポリーヌの下半身がしゅるしゅると巻き付きはじめた。弾力のある蛇体が俺を拘束していき、上半身同士も密着する。互いの息がかかり、僅かな汗のニオイすら感じてしまう距離。俺をしっかり抱きしめ、彼女は頬を寄せてくる。
「……今から、思い出させてあげます……」
ポリーヌの魔声が、耳に注がれた。
今頃戦局はどうなっているのだろうか。ヅギさんは昨日から咳をしていたが、大丈夫なのだろうか……そんなことを考えてしまう。そして今礼拝堂で産まれようとしている、新しい命のことも。それを助けるため頑張っているポリーヌのことも。
パン作りの行程を脳内でざっと繰り返し、失敗がなかったか考える。俺は当然自分の腕に自信を持っているが、今回は今までのパン作りと感覚が少し違った。作っている最中、やはりポリーヌを連想してばかりいたのだ。彼女の肌のように柔らかな白パンを、今朝のキスのように甘い蜂蜜パンを……そんなイメージでパンを作っていた。それが『インスピレーション』なのか『邪念』なのかが不安だが、それはパンの出来を見てから決めるしかない。
「……俺、私設軍に恋人がいるんです」
作業を手伝ってくれていたシャルル君が、ぽつりと呟いた。
「デュラハンっていう魔物で、魔王軍義勇兵の隊長で……多分今、戦っているでしょうね」
「それは心配だろうな」
彼は頷いた。心配するに決まっている。信じているから大丈夫だ、などという台詞はなかなか言えるものじゃない。戦場は人がホイホイ死ぬのだから。
「俺が故郷で食い詰めてここに流れてきてから、いろいろな人にお世話になってます。俺を拾ってくれた店長と奥さんにも、最初に友達になってくれた彼女にも」
次第にしっかりとした口調でシャルル君は言う。彼の言葉のアクセントには辺境の訛りが含まれており、本人が言うように食い詰めた田舎者のようだ。彼もまたある種のワケ有りということだが、この町で自分の未来を見つけられたのだろう。パン作りを手伝ってくれている際、立派に職人の目をしていた。
「みんな、かけがえの無い存在です」
「俺も旅してる中で、いろいろな人に世話になったよ。この町でも……もうかけがえの無い人と出会ってね」
昨夜、ポリーヌの優しい声に操られ。今朝、甘いキスで蹂躙され。
俺はあの悪戯好きのラミアに夢中になっている。彼女が俺にあんなことをするのは単なる悪戯心か、それとも別の何かか。まだ魔物のことをよく知らないため、彼女達の恋がどのようなものかピンとこない。ただ昨日ヅギさんから聞いた話だと、魔物の恋には二種類あるという。恋に落ちてセックスする魔物と、セックスを通じて恋に落ちる魔物だそうだが、もしポリーヌが後者ならば……
「見た目だけじゃなくて、いろいろな意味で不思議なもんだよな。魔物ってのは」
「付き合ってみると、それが面白いですよ」
「確かに」
……そんな会話をしているとき。
あの鐘の音が響いた。領主邸からの緊急連絡だ。厳かな音色に自然と体が引き締まり、耳を傾ける。内容は想像できるが、それが良い知らせか悪い知らせかは分からない。ただ一つ確かなのは、どうなろうとこの町から逃げる気はないということだ。
やがて、音の中に声が生じた。
《領主邸より連絡。我が私設軍は教団の軍勢に甚大な損害を与え、撃退しました。これより戒厳令を解除します――》
「勝ったのか……!」
「勝ったんですよ……!」
俺は一瞬安堵したが、ヅギさんが無事に帰ってくるかはまだ分からない。シャルル君もまた、どこかそわそわした様子だった。
そしてかまどから漂ってくる芳ばしい香り。懐中時計を見て、パンが焼ける時間だと確認した。
「カノジョの様子を見てきなよ。パンを持って行きな」
「あ、いや、でも……」
「コルバさんには俺から言っておくよ」
言いながら、かまどからパンを取り出した。焼きたての香りを惜しげも無く放つ純白のパン。そして甘い香りをはらみ、こんがりと焼けた蜂蜜パン。どちらも神々しいまでの美しさを放っており、俺は成功を確信する。シャルル君も隣で感嘆の声を上げていた。俺は熱々のパンを数個籠へ盛って、彼に渡してやる。
「カノジョさんによろしくな」
「……はい! ありがとうございます!」
丁寧にお辞儀をすると、シャルル君はパン籠を抱えて工房から飛び出して行った。俺も少年時代に恋をしていたら、あんな風になっていたのだろうか。今のやりとりがフラグになっていないことを祈りつつ、パンに意識を戻した。
白パンを一口分千切り、中のキメの細かさを確認する。口に含んでみると芳ばしさが広がり、舌触りも完璧だ。この分なら冷めても美味いだろうし、最高の出来といっていいだろう。
これなら自信を持って店に並べられる。後はパンの作り方を子供達にも教えてやらなくてはならないが、まあ大丈夫だ。子供の方が飲み込みが早いこともあるし、みんなパン作りに興味津々だった。あの子達が一生懸命にパンを作ればきっと評判になるだろう。高度な技術を必要とせず、なおかつ印象のあるパンを考えてみよう。
と、再び工房のドアが開く。今度は外側から。
一瞬姿が見えなかったが、入ってきたのが子供だったからだ。あのアナグマ……もとい、刑部狸とかいう魔物の少女である。太めの尻尾を盛んに振って、小さな頬を真っ赤に染めており、相当急いで走ってきたようだ。そんな彼女だが、パンの香りに当てられてかうっとりとした表情になる。
「どうしたんだい?」
そう尋ねると、少女はハッとした様子で叫んだ。
「あ、あかちゃんが、うまれました!」
……パン籠を手に礼拝堂へ駆け込んだとき、中はお祭り騒ぎだった。床に敷いた毛布に寝かされたミンスさん、その周りを取り囲む修道女や来客者たち。その中に立つポリーヌが、新しい命を抱きかかえていた。観衆は誰もが笑顔を浮かべるか、感動してむせび泣いている。
そんなみんなの声をかき消すかのように、赤ん坊の産声が高らかに響く。ミンスさんと同じ、牛の角の生えた赤ん坊だ。小さな体のどこからその声が出てくるのか不思議なほどに泣き声をあげていた。自分が産まれたことを世界に訴えるかのように。
「ミンスさん、よく頑張った!」
「ほら、こんなに元気な赤ちゃんよ!」
「えへへ……みなさん、ありがとうございます……」
産まれたばかりの娘をポリーヌから受け取り、ミンスさんはしっかりと抱きしめた。自分の大きな胸に子を乗せ、優しくあやす。彼女はもう立派な母親なのだ。慈悲深さと強さを持ち合わせた、立派な女性なのである。
そして……
「うあっ、うおおおおおああうおうううううううああああぁぁ!!」
ミンスさんの傍らで、立派な父親になったはずのコルバさんが大泣きしていた。ミンスさんの頭を撫で、声にならぬ声で妻を賞賛している。ミンスさんには彼の言っていることが分かるようで、目に涙を浮かべてしきりに頷いている。
ポリーヌやシュリーさんもまた、笑顔のまま涙を流していた。ヘタな人間よりもよほど美しく、慈愛に満ちた表情。魔物であるはずなのに、その姿は天使より神々しかった。もちろん、新たな命を産んだミンスさんも。
俺の方を見て、ポリーヌがにこりと微笑む。俺はずいっと前に進み出て、みんなにパン籠を差し出した。
「みなさんお疲れさまです! 丁度焼けたので、どうぞ食べてください!」
次の瞬間、誰もがパンの香りに感嘆の声をあげた。コルバさんがむせび泣きながら一つ手に取り、みんな次から次へとパン籠に手を伸ばしてきた。
「……美味い! こんなにふっくらしたパンは初めて食ったぜ!」
「本当! 噂通りの腕前ね!」
「おほおぉうううっううおお、おうおっうっおっおっぁああっぁぁ!!」
「……コルバ、食べるか泣くかどっちかにしろよ」
「んぐっ、おいひいれす〜」
「奥さん、無理しちゃ駄目ですよ」
礼拝堂の中に笑顔が満ちた。子を産んだ直後のミンスさんまでもが俺のパンを頬張り、幸せそうに微笑んでいる。彼女に抱かれた娘がパンを食べるようになるのはもう少し先だ。そのときにいいパンを出せるようにしておかなくては。
ポリーヌも蜂蜜パンを一つ手に取り、口へ運び……一瞬、目を見開いた。
「ぽ、ポリーヌ……?」
味が変だったのではないか……そう思ったが、杞憂だった。彼女は俺を見て、限りなく幸せそうな笑みを浮かべてくれたのである。だがその笑顔の理由は、美味しさによるものだけではないように思えた。
彼女の手が、そっと俺の手を握る。もの言わぬ彼女の笑顔が、仕草が、妙に意味ありげに見えた。
そのとき、シュリーさんがはっと後ろを振り向いた。礼拝堂の入り口が開かれ、そこに修道士姿の男が立っている。彼が帰ってきたのだ。
「ヅギ!」
「ヅギさん!」
ずるずるとした歩き方で駆け寄るシュリーさんに、ヅギさんは目を細めて微笑を浮かべ、軽く咳き込んだ。シュリーさんが彼に抱きつき、その胸に顔を埋める。もしかしたら泣いているのかもしれない。本当は誰よりもヅギさんが心配でたまらなかっただろうに、教会を取り仕切る立場として冷静さを保っていたのだ。戒厳令が解かれたとき真っ先に飛び出していきたかったのをこらえ、新しい命のために奮闘していたのだ。
咳をしながらも彼女の頭を撫でるヅギさん。奇麗な顔には疲労が浮かんでいたが、見る限り怪我は無さそうである。
「待たせたな、シュリー。もう大丈夫さ」
「ヅギさん、ご無事で何よりです」
俺がパン籠を手に声をかけると、ヅギさんは顔をほころばせた。
「うおっ、いい匂いじゃん。丁度焼きたて? いやー、いいタイミングで帰ってこれたな……」
「ああああうおっっほうううあああああ、うえぇっうおおぉぉ!!」
「うっせーよコルバ! 何の騒ぎだてめぇ!?」
教会には早くも陽気なムードが戻ってきた。ポリーヌが俺の腕に尻尾を巻き付け、涙ぐみながら俺のパンを食べている。
――『おいしいです』
手帳に書かれたシンプルな一言が、俺には何よりも嬉しかった。可愛らしく幸せそうな笑顔にはやはり既視感がある。昔どこかで見た、とても温かく、俺さえも幸せな気分にしてくれるような笑顔だ。
確かにポリーヌの何かが、俺の中の何かと繋がっている。それが何なのか確かめるためにも、俺は彼女に告げた。
「ポリーヌ……話したいことがあるんだ。今夜、部屋に行っていい?」
すると彼女は何か意味深げな笑みを浮かべ、頷いた。続いて手帳に羽ペンを走らせる。
――『私からも、お話ししたいことがあるんです』
…………
……
…
……お祭り騒ぎが終わり、夕食も済ませた後。俺はヅギさんと一緒に教会内の戸締まりを行っていた。同時に彼から、戦いの様子も聞くことができた。
曰く、教団は負けるために攻め込んできたようなものだった、とのこと。この町の斥候や間諜は敵の動きを完璧に暴き、攻めてきたときにはすっかり迎撃態勢が整っていたという。攻めこんだはずが逆に側面から奇襲され、教団の軍勢は潰走に追い込まれたのだ。
負傷者は出ても戦死者は無し。シャルル君の恋人も軽傷を負ったが命に別状はなく、今頃病院でイチャついているだろうとのことだった。
「ほとんど完全勝利じゃないですか……」
「諜報とかゲリラとか、今までいろいろ準備してたからな。人魔一体の軍だからできる戦術もあるし」
話をしているうちに、この人は本当に百戦錬磨の傭兵なのだと感じた。戦で起きたことを語るのに、口調があまりにも淡々としていたのである。それは戦いが彼の日常であるという証なのだろう。
礼拝堂を施錠し、俺たちは宿舎へと向かった。
「それにしもお前のパン、今まで食ってきた中でも五本の指に入るな」
俺の前を歩くヅギさんが、背を向けたまま言う。
「ありがとうございます」
「今度、米粉パンってのを作ってみてくれよ。なんかこの前、ジパング産の米が……」
ヅギさんが苦しそうに言葉を切った。次の瞬間口に手を当てて咳き込み、低い声で唸る。どうにも嫌な音の咳だ。
声をかけようとして、俺は息を飲んだ。咳が収まったとき、口から離れたヅギさんの手に何かが付着していたのだ。唾ではない。薄暗い廊下でも、その液体の色は分かる。
「ハハッ……!」
ぞっとするような笑い声を出し、彼はその血をハンカチで拭う。そして口周りも。
「ヅギさん、あんた……」
「オレはもうインキュバスだから、普通の病気にはかからない……」
そう語るヅギさんの声は少しかすれている。やはり彼は何らかの病を抱えたまま戦っていたのだ。正規の軍人ではないだろうに、何故そこまでして……?
「これはきっと、報いなんだろう……いろいろやったから」
「そんな体で戦っていたんですか?」
「んー、医者からは……傭兵としてやっていけるのは、多く見積もっても後二年って言われたな」
頭をぼりぼりと掻き、彼はため息を吐いた。
「まあそのくらいあれば、この町の周りから教団を追い払うことはできるだろ」
「そこまでして……この町を守るために……?」
「俺は『守る』って言葉が嫌いでね。少なくとも、俺にその言葉を使う資格はない」
ヅギさんの赤い目が、俺を見た。彼はこの目で、今までどれだけ多くの人の死を見つめてきたのだろうか。その手でどれだけの命を奪って来たのだろうか。確かにそれは罪だ。
しかし大威張りで戦争をする輩が数多く存在するこの世界で、彼のみが受けなければならない報いとは何なのか。
「オレはこれでも望んで傭兵になった身だから、奇麗に幕を引きたいだけさ。お前は気にしないでパン作りのことを考えていればいい。この町で誰も飢えないように……オレみたいな化け物が、もう生まれないようにな……」
それだけ言って、ヅギさんは再び廊下を歩きだした。しっかりとした足取りで。
彼の過去に何があったのかは知らないし、ここで尋ねるほど俺も空気の読めない男ではない。だが彼の言葉から分かることがあった。ヅギさんは未来のために戦おうとしているのだ。自分を受け入れてくれたこの町の人間が、平和に暮らしていけるように。
「じゃ、寝るわ。今のこと、シュリー以外には言わないでおいてくれ」
「ヅギさん!」
寝室のドアに手をかける彼に、俺は咄嗟に叫んだ。
「ヅギさん……誰が何と言おうと、あんたがどれだけ自分を蔑もうと……あんたは立派な人だ」
彼は何も言わなかった。ただ軽く笑い、静かに寝室へ入って行く。
ドアが静かに閉まるのを聞くと、俺はその足でポリーヌの部屋へ向かった。
この町の人たちはみんな強い。自分のやるべきことを理解し、自分の意志で前に進んでいる。俺もこの町の一員となったからには強くなりたい。この居場所をもう失わないように。
そして、そのためにも……
「ポリーヌ。フィルマンだ」
ドアをノックして数秒後。ドアがゆっくりと開き、泣きぼくろのラミアが顔を出した。彼女は俺を見て微笑むと、袖を引っ張って中へと誘う。『おしゃべり』を期待しているのかもしれないが、その前に俺の気持ちを伝えておかなくては。彼女の魔声を聞くと、ただひたすら快楽にとろけていたくなるから。
ポリーヌの部屋は奇麗に整頓されており、机の本棚には小説の類が何冊か並んでいた。タイトルからして恋愛物、それも人間と魔物の恋をテーマにしたものが多いようである。やっぱり魔物も『女の子』なのだと改めて思った。
彼女は奇麗なベッドの上に蛇体を乗せ、自分のすぐ隣をポンポンと叩いた。お言葉(言葉ではないが)に甘えて腰を降ろすと、ポリーヌの尻尾が肩に巻き付いてくる。揺れる尻尾の先端がどこか可愛らしい。
「ポリーヌ、俺さ……ちょっと前まで、人間と魔物は仲良くなれても、結局は違う生き物だって思ってたんだ」
少しずつ、心の内を吐き出していく。単なる前置きではあるが、聞いて欲しいことだ。彼女は青い瞳で俺を見つめ、じっと話を聞いてくれている。
「女の子の姿をしていても、魔物は魔物なんだって。でもポリーヌと会って……それに今日、ミンスさんの赤ちゃんが生まれるのを見て、本当はみんな同じ、命だって気づいたんだ」
ポリーヌはこくりと頷いた。浮かべている微笑に、嬉しさと力がこもっているように思える。
「みんな生きている。人間も魔物も、みんな一つの命なんだ。泣いたり笑ったり、子供が生まれたり。一生懸命に生きているんだよな」
嬉しそうに何度も頷くポリーヌ。俺はゆっくりと息を吸い、一番大事なことを口にした。
「でさ……ここからは俺たちのことなんだけど。俺、昨日ポリーヌと会ったばかりなのに、何か……気がつけばポリーヌのことを考えるようになっちゃってさ。昼間のパンも実は、その……ポリーヌの肌とか唇とかイメージして……」
思い切って告げた瞬間、彼女の目がまん丸に見開かれ、頬が真っ赤に染まった。肩に巻き付く尻尾さえも小刻みに震えている。魔物でもさすがにこれは恥ずかしかったようだ、悪いことをしたかもしれない。
「そういうわけで、ポリーヌとは単にエロいことをするだけじゃなくて……ミンスさんがコルバさんの子供を産んだみたいに……」
落ち着け、俺……そう言い聞かせ、もう一度息を吸う。
そして、一気に吐き出した。
「ポリーヌの子供は俺の子供、っていう関係を目指したいんだ!」
言った。言ってやった。
力の限り吐き出した俺の思い。だがポリーヌは、すぐにはそれに答えなかった。頬を赤らめたままぎゅっと目を閉じ……瞼の隙間から奇麗な雫が足れる。そしてその瞼が開かれると、彼女は潤んだ瞳でとびきりの笑顔を浮かべてくれていた。
その口から出る言葉を待つ俺に手帳を差し出し、目の前で字を書き綴る。
――『お答えする前に、私のお話、いいですか?』
興奮しているのか、いつもは奇麗な字が少し歪んでいた。俺が頷くと、ポリーヌは続きを書き込んでいく。
――『私、本当はずっと前からフィルマンさんが好きでした。』
下線を引いて強調している部分に、俺は目を見張った。彼女と会ったのは昨日が最初のはず。だが俺にも確かに、彼女の笑顔に対して既視感があったのだ。以前どこかで出会っていたとしたら……。
記憶の糸をたぐろうとする俺に、ポリーヌの下半身がしゅるしゅると巻き付きはじめた。弾力のある蛇体が俺を拘束していき、上半身同士も密着する。互いの息がかかり、僅かな汗のニオイすら感じてしまう距離。俺をしっかり抱きしめ、彼女は頬を寄せてくる。
「……今から、思い出させてあげます……」
ポリーヌの魔声が、耳に注がれた。
12/10/07 23:26更新 / 空き缶号
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