後の巻
「吐けってんだオラァァァァ!」
「俺らのシマで阿片なんぞ売って無事で済むと思ってんのかァァァ!? アァ!?」
「糸引いてんの誰だコラァァァァ!」
今日も俺たちは真面目に働いている。平和で長閑な日がすばらく続くと、たまに馬鹿が何かやらかすもんだ。
それはそれとして、もう戌の刻を知らせる鐘が鳴る。果たしてセンは無事にやって来れるだろうか。
そう思った瞬間、戸が荒々しく開かれた。
「雨撒きの旦那!」
肩で息をしながら、センは目を血走らせて俺を睨む。川にでも落ちたのか全身ずぶ濡れで、相当疲れているようだ。ついでに相当怒っているようだ。
「おう、おセン。遅かったな」
「あんた、よくもあたしを……へっくしん!」
ずぶ濡れになれば妖怪でも寒い物は寒いだろう。気の効く子分共が捕まえてきた馬鹿を奥の部屋へ引っ張っていったので、俺はセンを囲炉裏の側へ手招きした。だがセンは仁王立ちしたまま近寄ろうとしない。
「何を怒ってるんでぇ?」
「しらばっくれるんじゃないよ! ここに来る途中、往来で酔っ払った鬼共と町火消しが喧嘩してて巻き込まれそうになるわ、別の道に行ったら何処かの馬鹿が肥やしぶちまけて通れなくするわ、引き返そうとしたら稲荷のガキにマタタビ粉投げつけられてネコマタに群がられるわ、何とか振りほどいて川沿いに歩いていこうとしたら白蛇に巻き付かれて長々と人生相談されるわ! 挙げ句カラスの糞が頭について、変な趣味の河童に川に引きずりこまれて三回も果てちゃったじゃないか!」
「厄日だな。まあそういう日もあるだろうよ」
「絶対あんたが仕組んだんだろ!」
涙目になりながら怒鳴るセン。めんこい。
いくら人間を舐めきっているとはいえ、ここまでされればさすがに俺の企みだと気づいたか。精々俺が戌の刻まで逃げ回るくらいだと思っていたんだろうが、甘い。
俺が雨撒きの鎌次郎と呼ばれる理由は、単に弱い奴を助けるからってだけじゃない。町中に雨を降らせるかの如く、企みを張り巡らせて相手の逃げ場を無くすからだ。ミツはこの藩出身のクノイチで、カフェーを仲間との連絡や異国との接触にも使えるよう、あいつに女給の仕事を頼んだわけだ。今回もちょいと奴に協力してもらい、町中にセンを足止めする罠を張り巡らせた。センに「あひぃ」と言わせるためということで、堅気の衆も大喜びで手伝ってくれたが……少しやり過ぎちまった感はある。ちなみにカラスの糞だけは偶然だ。
「言いがかりは止しな。ほれ、もうすぐ戌の刻の鐘がなるぞ」
「ちぃっ……まあいいさ、あんたがどれだけ邪魔をしようと金ならここに……」
懐に手を入れ、まさぐり……センは固まった。どうやら今日も財布が無いと見える。実を言うとミツはクノイチでも指折りのスリ師だったりするが、まあこいつには言わないでおく。
「おやおや、金が無いってか?」
「くっ……この外道め」
「戌の刻までに返せねぇ場合は……覚えてるよな?」
俺の言葉に、センは歯ぎしりしつつも素直に変化を解いた。ふわふわの耳と尻尾が飛び出し、刑部狸の姿が露になる。
「ほう、覚悟はできてるってことか」
「ああ。だけどね旦那、借用書には耳としか書いてなかったはずだよ」
強気な態度でセンは言い放った。
「血まで渡す筋合いは無いからね。耳が欲しければ、血を一滴も流さずに取ってもらおうじゃないかい!」
「……ほぉ」
どうやら俺にはめられたと気づいたときから、丸め込むとんちを考えていたようだ。確かにそれは道理だ。俺が本気で耳を切り取ろうとしても、その理屈を持ち出せばどうすることもできない。
だがこいつは一つ根本的に勘違いをしている。耳をいただくとは言ったが、切り取るなどとは言っていない。
「なるほど、お前の言う通りだ。じゃあ血を流さないでいただくとしようじゃねぇか」
「え……!?」
センがうろたえた隙に、俺は素早く立ち上がった。咄嗟に袖に手を入れるセンだが、こちとら修羅場を潜ってきた侠客だ。正面から行くと見せかけ、ささっと背後に回り込む。
「わっ!?」
慌てふためく狸の腕を押さえると、袖からこぼれた棒手裏剣が床に刺さった。もがくセンを羽交い締めにしてやると、狸の耳が丁度俺の顎の下に来てやがる。尻尾までばたばたと暴れてくすぐったい。
「な、何するんだい!?」
「こうするんでぇ!」
俺はセンの左耳に噛りついた。
「んひゃぁ!?」
いきなり可愛い声を出し、センはびくっと震える。柔らかい毛で覆われた耳も歯から逃げようとピクピク動くが、そこへすかさずもう一噛み。さらに歯ぎしりするようにクニクニとやると、細身の、しかし出るところは出た体が反り返った。
「ゃ、やめ……ひゃうぅ……♥」
「珍味だなぁ、狸の耳は」
今度は右の耳を噛んでやる。根元の辺りを前歯で刺激し、淵の辺りを舌でなぞる。
「ひぃん! や、やめて……堪忍しておくれよぅ……ぃぃぃん♥」
前から妖狐だのネコマタだのを見るたび、こういうことをやってやりたいと思っていたわけだが、ようやくやる口実ができた。まあ侠客を甘く見た罰だ、妖怪様に人間様の恐ろしさを味わってもらうとしよう。
センの耳が白魚のように、口の中でぴくぴくと暴れる。手足からも少しずつ力が抜けてきたので、体の方を抱きしめて耳を味わい続ける。
「あ……」
色っぽく頬を染めながら、センは俺の腕に手を添えた。引きはがそうとするではなく、ただ触れているだけだ。体を震わせ、膝も笑い始めているこいつにはもう力なんて残ってないのかもしれない。
とはいえ狸相手に油断するようじゃ侠客は務まらない。俺は更に責めることにした。
「あひぃ!? ら、らめっ、耳の穴、くすぐるなぁっ」
左耳の中に指を突っ込んでみると、中もまた柔らかい毛で覆われている。表面の毛を撫でるようにほじくってやると、センは踊るように身をよじらせた。だがそれも俺の腕から逃れるためではなく、単に刺激に反応しているだけだ。そしてついに「あひぃ」と言わせてやった。これを聞きたかった奴がこの藩にどれだけいるだろうか。
「ほ、ほんとにやめ、やめとくれよぅ……♥ お、おかしくなっ、あ、ひゃ……♥」
「おかしくなるって? なっちめぇよ」
舌を耳の穴に突っ込みつつ、さらに一噛み。掃除するように舐め回してやる。その瞬間、センの体が今までとは違う、小刻みな痙攣を起こしやがった。声にならない悲鳴が聞こえたような気がする。
次の瞬間、センの脚から完全に力が抜けた。俺が胸の下辺りを抱いていたせいで、腕の中で体がずり落ちた拍子に膨らみが腕に当たっちまう。
「あ……も……もれ、るぅ……♥」
力の無い声の後、じょろじょろと水音が聞こえてきた。全身ずぶ濡れのセンの足下には水たまりができていたが、川の水ではない。それは股から溢れ出す、黄色い水だ。俺の腕の中でぐったりしながら、センは虚ろな瞳に涙を浮かべている。
「あはぁ……もれ、ひゃった……」
そういやこいつ、俺の罠のせいで三回果てたとか言っていた。性欲の権化とも言われる刑部狸なら、女同士でそんなことをされてもかえって盛りがつくかもしれない。それなら耳を噛んだだけで小便まで漏らすのも無理はないか。
ようやく小便が終わり、むわっと臭いが立ちこめてきた。企みは見事成功したと言っていいだろう。
「おセンよ、人間だって馬鹿にすると怖ぇだろ?」
放心している狸を囲炉裏の側に引きずり、俺は言い聞かせた。
「今のままじゃおめぇ、恨み買いまくってもっと酷ぇ目に遭わされるぜ? 本当は人間に約束守って欲しいだけなんだろ? だったら貧乏人相手の金貸しなんざ止めて、もっと別の商売をやろうや」
「……分かったよ」
ぽつりと、センは呟いた。さっきまでと違い、妙に落ち着いた声だ。
「これからは旦那たちと一緒に仕事するよ。だけどね、旦那……」
ぎろり、と光の宿った眼で睨まれた。さっきまで喘いで放心していたセンとは違う、いわばケダモノの眼をしてやがる。
これは……不味いか?
「耳だけって約束だったろ? 小便は何と引き換えるんだい?」
「おいおいおいおい、誰がおめぇの小便欲しいって言ったよ? おめぇが勝手に漏らしたんだろうが」
「漏れたのは旦那のせいだよ。このあたしに小便まで漏れさせたんだ、タダで済ますもんか……!」
「タダで済まさねぇ、ってことは……おーい! この狸、自分の小便を売ろうとしてるぞー!」
「こ、こら! でかい声で言わないでおくれよ!」
そんなやり取りをしている中で、センは腰帯を解き、ずぶ濡れの服を脱ぎ始めた。たちまち露になる乳房に柔肌、小さなへそ。そして、つるりとしたあそこ。
こいつは妖怪だ、ここまで来れば何をする気なのか馬鹿でも分かる。
「ははあ、要は俺の白い小便が欲しいってか?」
「そ、そうさ! 分かってるなら覚悟しな!」
センの股は小便とは違う物でも濡れているようだ。どうやら俺は性欲の権化を叩き起こしちまったらしい。だがケダモノの眼で俺を睨みながらも、若干恥ずかしそうに頬を赤らめ、ふかふかの尻尾を何かを待ち望むかのように振っている全裸の刑部狸……こりゃ、食っていい据え膳と見た。
俺も同じように帯を解き、服を脱ぎ捨てた。ふんどしも取り去り、ムスコをさらけ出してみせる。
「うわ……」
「なんでぇ、見たこと無かったのか?」
「う、うるさいよ! 思ってたよりちょっとでかくて、その、驚いただけさ!」
センはがばっと俺に覆い被さってくるが、その後の動作はぎこちなかった。すべすべした手でムスコを握ったかと思うと、それにおっかなびっくり自分の股に近づけていく。
そしてゆっくり、腰を沈めた。
「んっ……あうぅ……♥」
「うおっ、何だこりゃ……!?」
センの中はとてつもなく熱かった。おまけにうねうねと蠢き、男根をもっと奥へと吸い込むような動きをしている。滴る蜜が、すでに俺の股まで伝ってきていた。
我慢できず、俺はセンの体を抱き寄せ、腰を目一杯突き上げた。
「あはあああぁッ♥」
センが嬌声を上げたかと思うと、激しく身をくねらせた。体が密着しているため、乳房が俺の胸板にこすれて柔らかく変形する。顔にもセンの吐息がかかるが、下半身はそれどころじゃない。
熱い穴の一番奥まで、男根を突入れちまった。ひだが絡み付き、奥の方で亀頭がぎゅっと締め付けられる。
しかもセンは突然、激しく腰を降り始めた。
「あああんっ♥ 気持ちいいっ、これ、すごいよぉっ♥」
「お、おい、セン……ううっ!」
刑部狸の、妖怪としての本能が目覚めたのか、一心不乱に腰を動かしている。その度に蜜壷の中で、男根がひだに絡み付かれ、くすぐられ、締め付けられる。こいつの中で溶け出しそうなほど、気が狂いそうな気持ちよさが伝わってきやがった。こいつは不味い、長くは保ちそうにない。
こうなりゃ自棄だ。俺はセンの頭を抱き寄せ、また耳を噛んでやった。
「ーーーぃッ!」
またも、声にならない悲鳴を上げてセンの体が震える。それと同時に、蜜壷の方もきつく締め付けてきやがった。
「ぉぉぉぉ……!」
耳を口に入れたまま、俺は果てた。熱い物が、狂いそうな快感と一緒に男根を通り抜けていく。玉の中身を全部吐き出すかのように、センの体の中にぶちまけていった。
「あ、あ、ああ、き、来てる……あつ、熱いよっ……♥ 鎌次郎の、熱々の子種が来たぁー♥」
嬉しそうな顔をして、センは目から大粒の涙を流し始めた。俺の顔に少し滴り、口に入ってしょっぱい味を感じさせる。女ってのはこんなとき、感極まって泣いちまうものなのか。
気だるさを感じる俺だが、ついうっかりセンの耳をまた噛んじまった。すると緩んでいた蜜壷が、男根を食い千切りそうなくらい締め付けてくる。なす術も無く……また勃っちまった。
「ひゃう……ふふっ……ふふふふふふ……♥」
センが俺を見つめ、にんまりと笑う。涙を溜めているくせに、眼はケダモノのそれのままときた。まだまだ、小便の代償を払わなきゃならないようだ。
「なんか……ずっと昔、誰かにギュッて抱っこされたことを思い出したよ……」
言いながら、センはゆっくりと腰を揺り動かす。俺にもあった。捨てられる前、母親に強く抱きしめられた記憶だ。それだけ俺を愛してくれていたのに、何で捨てたんだ……そんな思いが心の底にあった気がする。だから俺は、自分を拾ってくれた組と、侠客として戦わせてくれる藩のために尽くしてきた。義理人情ってのが、俺の心の隙間を埋めてくれたんだ。
もしかしたら、センも温もりを求めていたのかもしれない。人間を見下しているくせに、人間に約束を守ってほしかった。そんな思いを抱え、駄々をこねるように金貸しと取り立てをやってきたんだろう。
なら……
「これからはいつでも抱いてやるよ、セン」
「んっ……約束、だよ? 守っておくれよ?」
腰を進めながら、目を潤ませて問いかけてくるセン。俺は答える抱き寄せ……唇を奪った。
俺がこいつの隙間を埋める。そうすりゃ丁度いいだろう。
そう考えているうちにも、俺たちは再び快感に高められていった。
〜幕〜
「俺らのシマで阿片なんぞ売って無事で済むと思ってんのかァァァ!? アァ!?」
「糸引いてんの誰だコラァァァァ!」
今日も俺たちは真面目に働いている。平和で長閑な日がすばらく続くと、たまに馬鹿が何かやらかすもんだ。
それはそれとして、もう戌の刻を知らせる鐘が鳴る。果たしてセンは無事にやって来れるだろうか。
そう思った瞬間、戸が荒々しく開かれた。
「雨撒きの旦那!」
肩で息をしながら、センは目を血走らせて俺を睨む。川にでも落ちたのか全身ずぶ濡れで、相当疲れているようだ。ついでに相当怒っているようだ。
「おう、おセン。遅かったな」
「あんた、よくもあたしを……へっくしん!」
ずぶ濡れになれば妖怪でも寒い物は寒いだろう。気の効く子分共が捕まえてきた馬鹿を奥の部屋へ引っ張っていったので、俺はセンを囲炉裏の側へ手招きした。だがセンは仁王立ちしたまま近寄ろうとしない。
「何を怒ってるんでぇ?」
「しらばっくれるんじゃないよ! ここに来る途中、往来で酔っ払った鬼共と町火消しが喧嘩してて巻き込まれそうになるわ、別の道に行ったら何処かの馬鹿が肥やしぶちまけて通れなくするわ、引き返そうとしたら稲荷のガキにマタタビ粉投げつけられてネコマタに群がられるわ、何とか振りほどいて川沿いに歩いていこうとしたら白蛇に巻き付かれて長々と人生相談されるわ! 挙げ句カラスの糞が頭について、変な趣味の河童に川に引きずりこまれて三回も果てちゃったじゃないか!」
「厄日だな。まあそういう日もあるだろうよ」
「絶対あんたが仕組んだんだろ!」
涙目になりながら怒鳴るセン。めんこい。
いくら人間を舐めきっているとはいえ、ここまでされればさすがに俺の企みだと気づいたか。精々俺が戌の刻まで逃げ回るくらいだと思っていたんだろうが、甘い。
俺が雨撒きの鎌次郎と呼ばれる理由は、単に弱い奴を助けるからってだけじゃない。町中に雨を降らせるかの如く、企みを張り巡らせて相手の逃げ場を無くすからだ。ミツはこの藩出身のクノイチで、カフェーを仲間との連絡や異国との接触にも使えるよう、あいつに女給の仕事を頼んだわけだ。今回もちょいと奴に協力してもらい、町中にセンを足止めする罠を張り巡らせた。センに「あひぃ」と言わせるためということで、堅気の衆も大喜びで手伝ってくれたが……少しやり過ぎちまった感はある。ちなみにカラスの糞だけは偶然だ。
「言いがかりは止しな。ほれ、もうすぐ戌の刻の鐘がなるぞ」
「ちぃっ……まあいいさ、あんたがどれだけ邪魔をしようと金ならここに……」
懐に手を入れ、まさぐり……センは固まった。どうやら今日も財布が無いと見える。実を言うとミツはクノイチでも指折りのスリ師だったりするが、まあこいつには言わないでおく。
「おやおや、金が無いってか?」
「くっ……この外道め」
「戌の刻までに返せねぇ場合は……覚えてるよな?」
俺の言葉に、センは歯ぎしりしつつも素直に変化を解いた。ふわふわの耳と尻尾が飛び出し、刑部狸の姿が露になる。
「ほう、覚悟はできてるってことか」
「ああ。だけどね旦那、借用書には耳としか書いてなかったはずだよ」
強気な態度でセンは言い放った。
「血まで渡す筋合いは無いからね。耳が欲しければ、血を一滴も流さずに取ってもらおうじゃないかい!」
「……ほぉ」
どうやら俺にはめられたと気づいたときから、丸め込むとんちを考えていたようだ。確かにそれは道理だ。俺が本気で耳を切り取ろうとしても、その理屈を持ち出せばどうすることもできない。
だがこいつは一つ根本的に勘違いをしている。耳をいただくとは言ったが、切り取るなどとは言っていない。
「なるほど、お前の言う通りだ。じゃあ血を流さないでいただくとしようじゃねぇか」
「え……!?」
センがうろたえた隙に、俺は素早く立ち上がった。咄嗟に袖に手を入れるセンだが、こちとら修羅場を潜ってきた侠客だ。正面から行くと見せかけ、ささっと背後に回り込む。
「わっ!?」
慌てふためく狸の腕を押さえると、袖からこぼれた棒手裏剣が床に刺さった。もがくセンを羽交い締めにしてやると、狸の耳が丁度俺の顎の下に来てやがる。尻尾までばたばたと暴れてくすぐったい。
「な、何するんだい!?」
「こうするんでぇ!」
俺はセンの左耳に噛りついた。
「んひゃぁ!?」
いきなり可愛い声を出し、センはびくっと震える。柔らかい毛で覆われた耳も歯から逃げようとピクピク動くが、そこへすかさずもう一噛み。さらに歯ぎしりするようにクニクニとやると、細身の、しかし出るところは出た体が反り返った。
「ゃ、やめ……ひゃうぅ……♥」
「珍味だなぁ、狸の耳は」
今度は右の耳を噛んでやる。根元の辺りを前歯で刺激し、淵の辺りを舌でなぞる。
「ひぃん! や、やめて……堪忍しておくれよぅ……ぃぃぃん♥」
前から妖狐だのネコマタだのを見るたび、こういうことをやってやりたいと思っていたわけだが、ようやくやる口実ができた。まあ侠客を甘く見た罰だ、妖怪様に人間様の恐ろしさを味わってもらうとしよう。
センの耳が白魚のように、口の中でぴくぴくと暴れる。手足からも少しずつ力が抜けてきたので、体の方を抱きしめて耳を味わい続ける。
「あ……」
色っぽく頬を染めながら、センは俺の腕に手を添えた。引きはがそうとするではなく、ただ触れているだけだ。体を震わせ、膝も笑い始めているこいつにはもう力なんて残ってないのかもしれない。
とはいえ狸相手に油断するようじゃ侠客は務まらない。俺は更に責めることにした。
「あひぃ!? ら、らめっ、耳の穴、くすぐるなぁっ」
左耳の中に指を突っ込んでみると、中もまた柔らかい毛で覆われている。表面の毛を撫でるようにほじくってやると、センは踊るように身をよじらせた。だがそれも俺の腕から逃れるためではなく、単に刺激に反応しているだけだ。そしてついに「あひぃ」と言わせてやった。これを聞きたかった奴がこの藩にどれだけいるだろうか。
「ほ、ほんとにやめ、やめとくれよぅ……♥ お、おかしくなっ、あ、ひゃ……♥」
「おかしくなるって? なっちめぇよ」
舌を耳の穴に突っ込みつつ、さらに一噛み。掃除するように舐め回してやる。その瞬間、センの体が今までとは違う、小刻みな痙攣を起こしやがった。声にならない悲鳴が聞こえたような気がする。
次の瞬間、センの脚から完全に力が抜けた。俺が胸の下辺りを抱いていたせいで、腕の中で体がずり落ちた拍子に膨らみが腕に当たっちまう。
「あ……も……もれ、るぅ……♥」
力の無い声の後、じょろじょろと水音が聞こえてきた。全身ずぶ濡れのセンの足下には水たまりができていたが、川の水ではない。それは股から溢れ出す、黄色い水だ。俺の腕の中でぐったりしながら、センは虚ろな瞳に涙を浮かべている。
「あはぁ……もれ、ひゃった……」
そういやこいつ、俺の罠のせいで三回果てたとか言っていた。性欲の権化とも言われる刑部狸なら、女同士でそんなことをされてもかえって盛りがつくかもしれない。それなら耳を噛んだだけで小便まで漏らすのも無理はないか。
ようやく小便が終わり、むわっと臭いが立ちこめてきた。企みは見事成功したと言っていいだろう。
「おセンよ、人間だって馬鹿にすると怖ぇだろ?」
放心している狸を囲炉裏の側に引きずり、俺は言い聞かせた。
「今のままじゃおめぇ、恨み買いまくってもっと酷ぇ目に遭わされるぜ? 本当は人間に約束守って欲しいだけなんだろ? だったら貧乏人相手の金貸しなんざ止めて、もっと別の商売をやろうや」
「……分かったよ」
ぽつりと、センは呟いた。さっきまでと違い、妙に落ち着いた声だ。
「これからは旦那たちと一緒に仕事するよ。だけどね、旦那……」
ぎろり、と光の宿った眼で睨まれた。さっきまで喘いで放心していたセンとは違う、いわばケダモノの眼をしてやがる。
これは……不味いか?
「耳だけって約束だったろ? 小便は何と引き換えるんだい?」
「おいおいおいおい、誰がおめぇの小便欲しいって言ったよ? おめぇが勝手に漏らしたんだろうが」
「漏れたのは旦那のせいだよ。このあたしに小便まで漏れさせたんだ、タダで済ますもんか……!」
「タダで済まさねぇ、ってことは……おーい! この狸、自分の小便を売ろうとしてるぞー!」
「こ、こら! でかい声で言わないでおくれよ!」
そんなやり取りをしている中で、センは腰帯を解き、ずぶ濡れの服を脱ぎ始めた。たちまち露になる乳房に柔肌、小さなへそ。そして、つるりとしたあそこ。
こいつは妖怪だ、ここまで来れば何をする気なのか馬鹿でも分かる。
「ははあ、要は俺の白い小便が欲しいってか?」
「そ、そうさ! 分かってるなら覚悟しな!」
センの股は小便とは違う物でも濡れているようだ。どうやら俺は性欲の権化を叩き起こしちまったらしい。だがケダモノの眼で俺を睨みながらも、若干恥ずかしそうに頬を赤らめ、ふかふかの尻尾を何かを待ち望むかのように振っている全裸の刑部狸……こりゃ、食っていい据え膳と見た。
俺も同じように帯を解き、服を脱ぎ捨てた。ふんどしも取り去り、ムスコをさらけ出してみせる。
「うわ……」
「なんでぇ、見たこと無かったのか?」
「う、うるさいよ! 思ってたよりちょっとでかくて、その、驚いただけさ!」
センはがばっと俺に覆い被さってくるが、その後の動作はぎこちなかった。すべすべした手でムスコを握ったかと思うと、それにおっかなびっくり自分の股に近づけていく。
そしてゆっくり、腰を沈めた。
「んっ……あうぅ……♥」
「うおっ、何だこりゃ……!?」
センの中はとてつもなく熱かった。おまけにうねうねと蠢き、男根をもっと奥へと吸い込むような動きをしている。滴る蜜が、すでに俺の股まで伝ってきていた。
我慢できず、俺はセンの体を抱き寄せ、腰を目一杯突き上げた。
「あはあああぁッ♥」
センが嬌声を上げたかと思うと、激しく身をくねらせた。体が密着しているため、乳房が俺の胸板にこすれて柔らかく変形する。顔にもセンの吐息がかかるが、下半身はそれどころじゃない。
熱い穴の一番奥まで、男根を突入れちまった。ひだが絡み付き、奥の方で亀頭がぎゅっと締め付けられる。
しかもセンは突然、激しく腰を降り始めた。
「あああんっ♥ 気持ちいいっ、これ、すごいよぉっ♥」
「お、おい、セン……ううっ!」
刑部狸の、妖怪としての本能が目覚めたのか、一心不乱に腰を動かしている。その度に蜜壷の中で、男根がひだに絡み付かれ、くすぐられ、締め付けられる。こいつの中で溶け出しそうなほど、気が狂いそうな気持ちよさが伝わってきやがった。こいつは不味い、長くは保ちそうにない。
こうなりゃ自棄だ。俺はセンの頭を抱き寄せ、また耳を噛んでやった。
「ーーーぃッ!」
またも、声にならない悲鳴を上げてセンの体が震える。それと同時に、蜜壷の方もきつく締め付けてきやがった。
「ぉぉぉぉ……!」
耳を口に入れたまま、俺は果てた。熱い物が、狂いそうな快感と一緒に男根を通り抜けていく。玉の中身を全部吐き出すかのように、センの体の中にぶちまけていった。
「あ、あ、ああ、き、来てる……あつ、熱いよっ……♥ 鎌次郎の、熱々の子種が来たぁー♥」
嬉しそうな顔をして、センは目から大粒の涙を流し始めた。俺の顔に少し滴り、口に入ってしょっぱい味を感じさせる。女ってのはこんなとき、感極まって泣いちまうものなのか。
気だるさを感じる俺だが、ついうっかりセンの耳をまた噛んじまった。すると緩んでいた蜜壷が、男根を食い千切りそうなくらい締め付けてくる。なす術も無く……また勃っちまった。
「ひゃう……ふふっ……ふふふふふふ……♥」
センが俺を見つめ、にんまりと笑う。涙を溜めているくせに、眼はケダモノのそれのままときた。まだまだ、小便の代償を払わなきゃならないようだ。
「なんか……ずっと昔、誰かにギュッて抱っこされたことを思い出したよ……」
言いながら、センはゆっくりと腰を揺り動かす。俺にもあった。捨てられる前、母親に強く抱きしめられた記憶だ。それだけ俺を愛してくれていたのに、何で捨てたんだ……そんな思いが心の底にあった気がする。だから俺は、自分を拾ってくれた組と、侠客として戦わせてくれる藩のために尽くしてきた。義理人情ってのが、俺の心の隙間を埋めてくれたんだ。
もしかしたら、センも温もりを求めていたのかもしれない。人間を見下しているくせに、人間に約束を守ってほしかった。そんな思いを抱え、駄々をこねるように金貸しと取り立てをやってきたんだろう。
なら……
「これからはいつでも抱いてやるよ、セン」
「んっ……約束、だよ? 守っておくれよ?」
腰を進めながら、目を潤ませて問いかけてくるセン。俺は答える抱き寄せ……唇を奪った。
俺がこいつの隙間を埋める。そうすりゃ丁度いいだろう。
そう考えているうちにも、俺たちは再び快感に高められていった。
〜幕〜
12/05/05 00:19更新 / 空き缶号
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