……領主には軽く挨拶し、私とフランチェスカはすぐさま出立した。闘技会はフランチェスカの不戦敗ということになったが、彼女は特に気にしていない様だ。ある程度名前を売れればいい、という程度の仕事だったのだろう。
　我々が港に着くと、案の定フィベリオが待っていた。ファミリーの保有する偽装商船で迎えに来たところを見ると、やはりこのまま戦へ向かうことになるらしい。

「よう、悪いな。予定が変わっちまってさ」

　こんな時でも、フィベリオはいつも通りの陽気さで我々を出迎えた。殺し合いに赴く前だというのに、女でも誘って酒場へ繰り出すような雰囲気である。彼は私以上にこの仕事を日常として割り切っているのだろう。
　詳しくは中で話すと言って、我々は船に乗せられた。外見は大型の商船だが、甲板で作業している面子は如何にも荒事に慣れていそうな男達で、刀傷を持つ者も多い。

「このまま仕事に向かうわけ？」

　船長に出港を命じるフィベリオに対し、フランチェスカは真剣な面持ちで尋ねた。彼女も今回の相手がどれだけ手強いか分かっている。私も一度戦った身として、知る限りの暁の情報を彼らに伝えているのだ。

「かなり厄介なことになってな。連中は同じ教団の、別派閥を攻撃するつもりだ」

　船内への戸をくぐりながら、フィベリオは告げた。

　エスクーレを襲ったのは教団のラングヴェスター派という過激派。しかし教団の中には多大な兵力を保有しながらも、自衛以外の戦いに消極的な穏健派も存在する。フィベリオの話によると、ラングヴェスター派はそのような派閥に圧力を掛け、場合によっては人質を取るなどして派兵を強要するつもりらしい。奴らはそこまでするほどに、エスクーレを欲しているのである。圧倒的な数を揃え、力づくでエスクーレを、そして行く行くはルージュ・シティをも蹂躙しようということだ。
　そしてその実行を務めるのが、天ノ宮暁。私の……仇敵。

　だが教団には正義感に燃える若者も多い。そのようなやり方を快く思わない者が、ファミリーの情報係に計画を漏らしたそうだ。

「なるほど。短期的に見れば悪くない策だね。僕らよりマフィア的だ」

　フランチェスカがニヤリと笑い、フィベリオも笑みを浮かべる。

「俺らの情報網を見くびってること以外はな。だがまあ、厄介なことってのはまた別だ」

　薄暗い船内で、フィベリオは声を低くした。

「レスカティエ教国がアカツキを探しているらしい」
「何だって!?」

　フランチェスカが驚愕の声を挙げた。
　驚いたのは私も同じである。主神教団の重要拠点であり、魔王に対抗できる唯一の国家と云われておきながら、たった一人のリリムによって陥落した聖地。フランチェスカもその奪還を巡る戦いの中で魔物となったのだ。今や魔界国家の代名詞とまで云われるその国が、この戦いに干渉してくると言う。
　フィベリオ曰く、反魔物領から魔界へ亡命者を運ぶ『逃がし屋』から得た情報とのことだ。

「一体何の因果があって？」
「それは俺が知りてぇよ。とにかく、魔界に連れ去られちゃ手出しできねぇ」

　フィベリオの言う通りだった。レスカティエの魔物達が暁を捕らえれば、我々は報復の機会を永遠に失うことになる。「殺すから引き渡せ」などと言っても魔物が応じるわけがないし、無理に追おうとすれば教団とレスカティエの両方を敵に回してしまう。私一人ならそれでも良いが、今となってはどうやってもファミリーを……少なくともフランチェスカを巻き込むことになるだろう。

「アカツキがいなくなりゃ、教団自体への報復はやりやすくなる。だが奴は俺たちの町に放火したんだ。イバだけじゃねぇ、エスクーレ・シティの仇なんだよ」
「……そうだね」

　フランチェスカが頷き、私の肩に手を回してきた。力強く、しっかりと。

「みんなで、落とし前つけよう」
「……御意」












　……その後、フィベリオの連れてきた構成員たちも交えてうち合わせを行った。作戦は明朝、夜明け前に開始する。丁度その時間に、暁らの乗った船が目的地に着くそうだ。その時を狙って襲撃、敵船に乗り込んで暁を仕留めるのである。船ごと沈めてしまってはお節介な人魚たちが助けるかもしれない。確実に殺す必要がある。
　私から家族を、片腕を、誇りを奪い去ったあの男。奴と再び相まみえることへの恐怖か、それとも喜びか。私の体は小刻みに震えていた。

　昼食を終え、我々は船内で休息を取ることになった。年季の入った船だがファミリー幹部が利用するだけあって、船室などは清潔に保たれている。部屋でフランチェスカと二人きりになると、彼女はいきなり服を脱ぎ始めた。

「……するのでござるか？」
「するさ」

　笑みを浮かべ、フランチェスカは即答した。私も彼女が欲しいのは確かだが、それにしてもいきなりである。とりあえず私も脱衣にかかったが、フランチェスカは不意に酒瓶を突きだしてきた。

「飲んで」

　屈託のない笑みだった。瓶には黒い液体で一杯に満たされている。彼女がいつも懐に持っている葡萄酒で、すでに開封した跡があった。それにも関わらず、量は一口分も減っていないようだ。
　……何かあると私は察知した。一度開封した葡萄酒を放置しておくと、味が落ちてしまうことくらいは私でも知っている。それなのに少しも飲んでいないとなると、考えられることは一つ。何か混ぜたのだ。
　私が警戒しているのを見て取ったのか、フランチェスカは自分でねじ蓋を開けて口をつけた。小さな瓶の中身が三分の一ほど、彼女の口腔へと吸い込まれていく。毒味かと思ったが、彼女は酒を口に含んだまま飲み込まなかった。瓶を卓上に置いたかと思うと、私の肩を掴んで顔を近づけてくる。

「んっ……」

　だがようやく意図を察したとき、すでに彼女に唇を奪われていた。舌が口内ねじ込まれ、葡萄酒が唾液と共に流し込まれてくる。

「ぐっ……ぬぐっ……」

　こうなってしまっては拒否できない。口移しで与えられる葡萄酒の風味を楽しみながら、飲み下すしかなかった。渋みでざらついた舌を絡ませ合い、私も無意識のうちにフランチェスカを抱き締めている。どんな得体の知れない代物が混ぜられていようと、彼女と一つになれるのなら文句は言わない。
　掌を胸に這わせてみると、最初に寝たときより少し膨らんでいるような気がした。軽く掴んでみると、小さいくせに柔らかい感触がしっかり返ってくる。

「ふむっ……んーっ……♥」

　濃厚な口づけを交わしながら、フランチェスカはくぐもった声を挙げた。同時に舌の動きがより活発になる。
　私はより力を込めて乳房を掴もうとした……が、その時。

　どくんと心臓が脈打ち、視界が歪み始めた。じんわりと脳が麻痺するような感覚に襲われる。何を飲まされたのか分からないが、もう効き始めたのか。
　以外にもそのような感覚はすぐになくなったが、違和感に気づくのも早かった。

　唇が離れ、フランチェスカが笑っているのが見える。
　正面から。
　それだけではない。横顔も。左右両方から。
　抱き合っている私の顔さえ見える。
　あらゆる角度から彼女の姿が見えるし、あらゆる角度から見ている私がいる。
　何が起きているのか？
　今こうして考えている私は、“どれ”だ？

「あははっ、凄っ。シローが本当に三人になっちゃった」

　フランチェスカが楽しそうに笑う。
　その声を聞いているのはどの私だろうか。完全に私が三つに分裂し、一つの意志を共有している。三つの体を同時に動かす感覚。気が狂いそうだ。

「ルージュ・シティのサバト局で買った分身薬。たまにはこういうのも面白いだろ？」

　その甘い声を六つの耳で聞く。下着をゆっくりと脱ぐ動きを六つの目で見る。つるりとした秘所と尻の割れ目が同時に見える。三つの心臓が脈打ち、三人分の情欲が一つの意識を溶かしていく。
　狂う。狂う。理性が消える。

　次の瞬間、私は怒張した男根を正面から、後ろからフランチェスカの秘所に押しつけた。二つの亀頭に感じる、女性器のぬめりと柔らかさ。二つ分の快感を一つの意識で感じさせられ、男根が震える。
　そしてそのまま、強引に挿入を試みた。

「ちょっ、二本同時とか……無理ッ！」

　前後から同時に女性器を貫かれる。さすがにフランチェスカも慌てたようだ。
　しかし普段妖艶で、何処か人を小馬鹿にしたような彼女が慌てふためく姿は、理性を失った私を更にかき立てるだけだった。

「駄目だって……あ、ああああっ、ひぎぃぃぃっ♥」

　フランチェスカは艶やかな悲鳴を上げた。二人の私は立ったまま同時に挿入し、熱い膣内でぎちぎちと擦れ合うこととなった。

「おほぉっ♥　駄目っ、マンコが、マンコ裂けるよぉ！　なのに、裂けそうなのにっ……♥」

　挿入し損ねた私はフランチェスカの手を掴み、無理矢理男根を握らせた。そして挿入している私たちが、腰を突き上げる。

「ひああああああぁっ♥　ぁ、あ、あっ、イイ、よぉ……♥　マンコに、シローが二人ぃ♥」

　唾液さえ垂らしながら、無様に喘ぐフランチェスカ。腰を突き上げる動きで、手が自然に男根を愛撫する。普段の巧みな手淫とは比べものにならない雑な動き。しかしそれだけで十分だった。何せ膣内への挿入と手の感触、それを同時に味わっているのだから。
　もはや輪姦。だが二人の私が腰を動かし、一人の私が手淫を受け、三人分の快楽を共有しているのだ。

「ひっ、ぃぃい♥　ぎっ、あ、ひぎっ♥」
「ふ、ら……」
「フランチ……」
「フランチー、殿……ッ」

　フランチェスカだけでなく、私もあっという間に高まってくる。正直、もう限界に近い。私が強引に彼女の唇を奪い、別の私が彼女の耳たぶに吸い付く。胸を揉む手は二人がかりでやってようやく人並みの二本になる。
　快楽の余り暴れるフランチェスカを三人で押さえつけながら、私は三人分の絶頂を迎えようとしていた。

「あ、あああああっ！」
「で、出る……！」
「出しますぞ……」
「きっ、きてぇ……♥　いっぱい、いっぱい……ひあああああああ♥」

　フランチェスカが絶叫しながら達する。
　その瞬間、肉壁がぎゅっと男根を締め付けた。まずは挿入している二人の私、一瞬遅れて手淫を受ける私が欲望を吐き出す。
　子宮に注ぎ込まれたインキュバス二人分の精液が逆流し、重力に従って床に滴る。手に握られた男根からも間歇泉のように白濁が噴出し、彼女の二の腕、果ては頬まで飛んだ。肌をべっとりと白で汚しながらも、まだまだ吐き出し続ける。

「あは……あはは……ザーメン、いっぱい……♪」

　とろんとした目で、フランチェスカは笑った。まるで猫のように、腕についた精を舐め取っていく。いかにも満足げだ。


　しかし。
　私はまだ全然出し足りなかった。

「……シロー？」

　フランチェスカが怪訝そうに私を見る。それも当然だ。
　私の一人は分身薬とやらが入った酒瓶を手に取り、一気に飲み干していたのだから

「あ、あ、あ……」

　効果はたちまち現れた。狭い船室を埋めるほどに増えた私を、フランチェスカは恐怖と期待の入り交じった表情で見つめている。これを無茶苦茶にしないで、どうしてやれと言うのか。

　私は彼女の膣内を擦りあげながら、口に男根を押し込んでしゃぶらせる。手にも握らせてしごかせる。小さな胸に左右から押しつけ、ぐりぐりと擦る。

「んんんんんーッ♥　んむゅ、んぐぅーっ♥」

　彼女の艶のある髪、なめらかな頬、肩、脇の下、尻、太もも、膝、足の裏、翼、尻尾……彼女の体の空いている箇所に、空いている男根を片端から擦りつける。それらの柔らかな感触が同時に男根に返ってくるのだ。彼女の目尻に涙が浮かび、それを舐め取って更に続ける。間違いなく彼女は悦んでいた。翻弄されながらも手淫はいつもの巧みさを取り戻しているし、口も懸命に男根に吸い付いてくるのだ。
　私もそれに答えるべく、腰の動きをどんどん激しくしていく。溜まっていく精液を彼女の全身にぶちまけるために。


「お、お、おおおおおおお……！」

　何人もの私が一斉に雄叫びを上げ、射精していく。強烈な快感と共に、彼女の胎内を、口腔を、手を、全身を怪我し尽くしていく。たまらない悦楽だった。

「ひ、あはっ、あはは……のみきれないよぉ……♥　しろぉ……あははっ……♥」

　白濁の沼に飛び込んだような姿で、フランチェスカは淫らに笑う。
　それさえも、私の情欲を再生させる悪循環に組み込まれていった……。

■作者メッセージ

「あいつらを迎えに行ったのは間違いだった。朝早いってのに、五月蠅くて眠れねぇ」
ｂｙフィベリオ