中編
「……領主、が、来るよ」
鴨をさばきながら、ペトナが舌足らずな口調で言った。
「領主が?」
「ライジェ、と、話をす、る……」
感情の無い鳶色の瞳で鴨を見つめながら、ペトナは手だけは動かし続けている。俺が彼女を家に入れ、屠場の仕事を教えてからまだ数日。それにも関わらず、屠殺といい解体といい、彼女の手際は見事だった。今も普通なら長すぎる両手の鎌を器用に使い、的確に肉を切り分けている。ササミ、胸肉、もも肉……いずれも余さず正確に切り取られ、綺麗な形でまな板に並んでいく。心臓や砂肝なども、鎌の先端を上手く使って抉り出してしまう。さすが自分の体の一部だけあって、自由自在に扱えるようだ。
俺も自分の解体していた鴨の砂肝を、包丁で縦に裂いた。水桶を使い、中の砂を洗い出す。慣れた悪臭が鼻を突く。時々聞こえるペトナの鈴が、耳に心地よい。
「お前、なんで先のことが分かるんだ?」
「……分か、るから……分かる、だけ」
答えになっていない返答が返ってきた。
前述の通り、彼女を家に連れ込んでからまだ数日しか経っていない。とりあえず出会った次の日に、彼女に屠場を見せ、屠殺と解体をやらせた。狩猟生活を営んでいた彼女なら、家事より屠場の方が向いていると思ったのだ。実際、彼女は一瞬で家畜を楽にしてやるし、教えた通り正確に作業を進める。俺が褒めてやると頬を赤らめて微笑み、ますます励もうとする。
そんな可愛くて無口なペトナだが、時々ふっと妙なことを口走る。今日はいきなり雨が降る、誰かがやってくるなど、少し先のことをぽつりと呟くのだ。そして今のところ、彼女の予言が外れたことはない。
「明日の天気は?」
「………ずっと、晴れ」
「明日、人は沢山来るか?」
「来、る」
「ペトナの脚はすべすべで綺麗だな」
「……ん」
照れくさそうに微笑みながら、脚をもじもじと摺り合わせるペトナ。牧場祭りの準備に追われながらも、時々こうやって惚気ている。これが楽しいもので、やってみると弟の気持ちがよく分かった。
とはいえ、牧場祭りが明日に迫っている以上、あまり遊んではいられない。俺達の勤めるルージュ・シティ市営牧場では、年に一度この牧場祭りが開かれるのだ。肉料理や乳製品などを売る模擬店が出るし、馬術大会なども開かれる。今日領主が来るというのも、恐らくその視察ということだろう。茶菓子の準備をしておかなくては。
「ペトナ、休憩だ」
「ん」
ペトナがこくりと頷き、水桶で手と鎌を洗い始める。下着や髪飾りを身に着けている他に、このような衛生面の感覚も人間に近い。他にも町暮らしにおける常識をある程度知っている節もある。もしかしたらマンティスでありながらも、産まれたときから森で暮らしていたわけではないのかもしれない。
俺も同様に手を洗い終えると、ペトナは『メイトガード』を始めた。後ろから俺に抱きつき、巨乳を押しつけてくる。数日間このように寄り添われて、常にべったりしているクルトとウルリケの気持ちが、少しだけ分かった気がする。彼女の俺に対する独占欲と、甘え癖……この二つが、何とも愛おしく思えるのだ。
彼女の髪を後ろ手で撫でながら、二人で休憩小屋へ入った。今いるのは俺達だけで、木造の小屋は慎ましやかな雰囲気に包まれている。備え付けの茶菓子を卓上に出そうとしたとき、不意にペトナが俺から離れた。背中の柔らかな感触が消え、振り向いてみるとペトナは脚を擦り合わせ、俺を見つめている。
「ライジェ、は、私の脚が好、き?」
「……ああ、好きだ」
そう答えた瞬間。
ペトナの両手が迫ってきたかと思うと、いきなり顔面を掴まれた。
「お、おい!」
制止の声も虚しく、首を後ろへと捻られる。
それに釣られて体が後ろへ向いた瞬間、腰に軽い膝蹴りを受けた。仰け反った瞬間、右足の膝裏を踏むようにして蹴られる。あっけなくバランスを崩した俺は、後頭部から床に倒された。
人体構造の欠陥を突いた見事な投げ技。当然ながら手加減してくれたようで、怪我は無かった。しかし、毎日のようにこれをやられては堪らない。そして押し倒された後どうなるかは……決まっている。ペトナはしなやかな体で俺を組み敷いて、顔を覗き込んできた。無表情だが瞳には熱っぽい輝きが宿り、発情しているのだと分かる。
「あの、ね。ウルリケが、ふともも、で、おちんぽ擦、るといいよ、って」
「……仲良いな、お前ら」
俺の言葉に、ペトナはこくりと頷いた。彼女の無表情はどこか威圧的だし、ウルリケは人見知りが激しいから上手くやれるか不安だったが、以外にも一緒に風呂に入るほど仲良くなっている。やはりペトナは母性が強いらしく、本当の妹のように面倒を見ているのだ。しかし性的なことに関しては、数日前に男の味を覚えたペトナより、すでにクルトと多くの情事を経験しているウルリケの方が先輩だ。だからこのように、男の悦ばせ方を教わることもあるようで……。
昨日もフェラチオを教わり、実践してきた。彼女にとってセックスは「赤ちゃん作り」が第一目的らしいが、そだけでなく様々な方法で俺を気持ちよくしたくなったとのことだ。意外にも好奇心旺盛らしい。
「他にも、ね、お尻の、穴とか、ぱんつとか、腋とかで……おちんぽ、気持ち、よくできる、って」
「……ウルリケはクルトにそうやっているのか?」
再び、こくりと頷くペトナ。我が弟は大人しく優しい奴だが、意外と妙な性癖を隠し持っている。薄々感づいてはいたが、幼女と言っていい姿のウルリケ相手にそこまでやるとは。いや、もしかしたらウルリケが自分から奉仕しているのかもしれない。
「ライジェ、私、の脚で、おちんぽ、挟ませ、て。……だめ?」
投げ技で強引に押し倒しておいて、この媚びるようなおねだり。ペトナはあくまでも俺の言うことを聞いてくれるから、嫌だと言えば止めるだろう。だが舌足らずな口調で、目を潤ませて訊いてくる彼女の姿はあまりにも愛らしい。サキュバス以上に誘惑が得意なのではないかと思えるほどだ。
‐‐反則だろ、これ。
クルトも俺も、誘惑に弱いらしい。そもそも俺が彼女の美脚を褒めたのが引き金だろう。答える代わりに、俺はズボンの止め具を外し、パンツを降ろした。
ペトナは白い歯を見せて微笑むと、自分の体の中央……胸の谷間からへその辺りまでを、指ですっとなぞった。その線を中心として、彼女が身に纏う被膜がじわじわと溶けていく。人間と同じ素肌が露出し、美乳が揺れた。被膜が無理矢理引き裂いたかのように乱れた形状になっており、ますます情欲をそそる。
彼女の生の美乳が胸板に押し付けられ、顔が急接近する。互いの吐く息が届く距離。そして突然、ペニスがむにっとした感触に挟まれた。
「お……これは……むッ」
口を塞がれた。勿論、ペトナの唇でだ。俺の頬を優しく撫でながら、口の中をしゃぶりつくしてくる。同時にペニスを挟み込んだふとももが、すりすりと擦りあわされる。張りのあるすべすべの肌と、肉のもちもちとした感触がペニスを刺激した。俺が勃起したのを確認すると、ペトナはしつこくキスを続けながら、さらにきつくペニスを圧迫する。
俺がお返しにと乳首をつまんでやると、ペトナの体が一瞬震えた。音を立てて唇が離れると、唾液がねっとりと糸を引く。
「んぁ……ふ、ぁ、ライ、ジェ……」
口から熱い吐息と涎を垂れ流し、ペトナはとろんとした表情を浮かべる。ペニスが下着越しに当たって気持ちいいようで、彼女も感じているらしい。
「ペトナ、気持ちいいぞ……」
頭を撫でてやると、ペトナは髪の鈴を鳴らして笑った。いい音がする。
「ペトナ……その鈴、誰かからもらったのか?」
こんなときだが、何気なく尋ねてみた。いつも大事そうに身につけ、風呂に入るとき以外は外さない。森で狩りをしていたときも、獲物に見つかりやすくなるにも関わらず身につけていたのだし、よほど大事なものなのだろう。
「教会の……シスター」
「教会? それっていつの話だ?」
「……人間だった、とき……」
「な……!?」
思いもかけぬ答えの直後、再び熱いキスで口を塞がれた。今の間は単なる息継ぎだったらしい。
そしてペニスを挟むふとももの感触が、次第に変わってきていた。ほどよい摩擦を与えてくるすべすべの柔肌が、ねっとりと絡みつくような感触に変質しているのだ。原因は俺の先走りの液と、彼女の股間から染み出す愛液や汗だろう。その天然ローションが立てるいやらしい水音と、互いの唾液を啜る音、そしてペトナの鈴音が耳を刺激する。
森の中で鍛えられた彼女の脚は、艶やかな外観の内側にしなやかな大腿筋を持っている。それが狩りの際には俊敏さを生み出し、今の俺に対しては射精を促す武器となるのだ。もちもちとした感触がぬめりを帯び、疑似膣とでも言うべき感触を生み出している。
‐‐これは……凄い。
口を塞がれている俺は、彼女の行為に応えるべく再び乳首をつまんだ。
「ンンーーっ♪」
封じ込められた嬌声と共に、ふとももがきゅっと締め付けられる。むちっとした感触が、偶然か意図的にか亀頭のみを集中して包み込んだ。
「んぐっ!」
俺の声も彼女の唇に封じ込まれる。代わりにペニスが盛大に悲鳴を上げた。きつく閉じられた内ももに、ドクドクと精液が漏れ出していく。彼女の華奢な腰を抱きしめ、絶頂の快楽に溺れる。同時に互いの口腔を舐めまわす舌の動きも、次第に大人しくなっていった。
「ぷはっ……」
ペトナが唇を離した。蕩け切った鳶色の瞳が、俺を見下ろしている。思わずまた抱きしめたくなる可愛らしさだったが、その前に彼女は身を起こし、俺の隣に腰かけた。
彼女のふとももには予想より遙かに多い白濁が、べっとりと付着していた。濃度も高く、垂れる様子もない。俺は出し尽くした満足感と、この可愛いマンティスの美脚を汚し尽くした快感に浸っていた。ペトナはふとももを見つめると、それを掌で綺麗に集め、すくい取る。両手の平に溜まった精液を大事そうに口に運び、ずずっと音を立てて飲んだ。
「……美味し、い……ライジェ、の子種……」
うっとりした微笑みを浮かべるペトナが、途方もなく愛おしかった。俺も体を起こすと、彼女の肩を抱き寄せ、触覚周りの髪を撫でてやる。さらさらした、柔らかい髪だ。
「俺も気持ちよかった。ありがとうな」
奉仕に対する、率直な感謝の言葉だ。しかしペトナは少し腰を浮かすと、破いた皮膜の裾をまくり上げた。
彼女はマンティスには珍しく、下着を身につける。今穿いているのは森にいたときの純白ではなく、ピンクと白の縞模様パンツだった。町に出たとき、何か欲しい物はあるかと聞いたら、「可愛いぱんつ」という答えが返ってきたので買い与えた物だ。しかしさきほどの素股の刺激により、溢れた愛液でじっとりと濡れている。
穿いていて不快になったのだろうか。ペトナは鈴音を響かせながら、それをおもむろに脱ぎ始めた。そしてその、一部の人間にはたまらなく貴重な三角形の布を、俺に見せつけてくる。
「次、は……ぱんつ搾り、させ、て?」
「お、おいおい、今か?」
「……だめ?」
‐‐だから、反則だろ。
再び目を潤ませ、不安げに顔を覗き込んでくるペトナ。これでは断る物も断れない。俺の言うことを何でも聞いてくれるとはいえ、やはりセックス関係においては、魔物が人間より上の立場であると思い知らされる。
「分かったよ、やってくれ」
「うん!」
ペトナは嬉々として、俺の隣に座ったままパンツを広げ、股に近づけてくる。愛液でぐちゃぐちゃになったパンツが、半勃ち状態のペニスにすっぽりと被さった。ペトナの手が布越しにペニスを握ると、きめ細かな布が竿を優しく刺激してくる。そのままぐりぐりと擦りつけられると、あっという間にペニスに硬さが戻った。
染み込んだ愛液が搾り出され、ペニスに絡みついてくる。それを彼女の体温が残る布が、ねちょねちょと音を立ててしごいてくるのだ。倒錯した、変態行為。しかもそれを、ペトナが自ら望んで行っているというのが俺の情欲を掻き立てる。ペニスと俺の顔を交互に見て反応を伺うペトナが、これまた可愛い。予想を遙かに上回る快感だった。
「うおっ、凄い……上手だな、ペトナ」
「……じゃあ、これ、は?」
俺に褒められて嬉しくなったのか、ペトナは更に攻勢に出てきた。
「うああっ……!」
思わず情けない声を出してしまう。彼女はパンツの一部分を摘み、そこだけを亀頭にぐりぐりと擦りつけてきたのだ。突然の強い刺激に、急激に精液が玉袋から送り出される。
「で、出る!」
「え……?」
次の瞬間、俺はあっけなく射精してしまった。ペニスを包み込む可愛い縞パンツに、先ほどと同様に濃い精液を漏らしてしまう。驚きながらもペトナは指の動きを止めず、精液を搾り出し、塗り広げていった。
突然の暴発に、ペトナは呆然とパンツを眺めていた。やがてそれをゆっくりとペニスから外し、白濁まみれの内側を見つめ、感嘆の声を漏らした。
「わぁ……ぱんつ、搾りって、凄いん、だ……」
鼻を近づけ、うっとりした表情で精のニオイを嗅ぐ。そしてそれを舐め……るかと思いきや、再びそのパンツを穿き始めた。精液でべとべとのままで。
白濁の滴る下着が、ペトナの恥丘をぴったりと覆った。普通なら不快に感じるであろうその感触に、彼女は気持ちよさそうに目を細める。こんなにも俺を、そして俺の精液を愛しているとは。ある意味ここまでされると、男冥利に尽きると考えるべきなのだろうか。
「これ、で、赤ちゃん、できない、かな?」
突然、たどたどしい口調でんなことを訊かれた。
「無理だろう。ちゃんと奥に出さないと……」
「じゃあ、中に、も、頂戴?」
‐‐そう来るか……。
不味い。この辺で切り上げておかなければ、牧場祭りの準備が進まない。そこまで時間が押しているわけではないが、牧場の職員たちは早めに終わらせて前夜祭をやりたがるだろう。みんなドンチャン騒ぎが好きなのだ。俺だけがここでペトナといちゃついているわけにはいかない。例え彼女が潤んだ目で見つめてきても、指で股の花園を「くぱぁ」と開いてきても、心を鬼にして断らなければならないのだ。
と、その時。
最悪のタイミングで、休憩後屋のドアが開かれた。ペトナが慌てて胸を隠し、俺も股間をカバーする。開かれたドアから黒髪の小柄な少女がひょこっと顔を出し……小さく悲鳴を上げて引っ込んだ。ウルリケだ。
俺は近くにあった布でペニスをざっと拭き、ズボンを上げる。ペトナも胸の皮膜を元に戻した。ウルリケは恐る恐るといった様子で、小屋の中に入ってきて、真っ赤になった顔で俺を見つめる。毎日クルトと交わっているとはいえ、やはりクルト以外の男の情事を見るのは恥ずかしかったらしい。軽い罪悪感に襲われながら、俺は苦笑した。
「すまん、ウルリケ」
「え、と……」
もじもじしながら、ウルリケは言葉を紡ぐ。
「領主さま、きました。にいさまと、おはなししたい、って言ってます」
「……分かった、今行く」
ペトナの予言が今回も当たったようだ。しかしこのタイミングで来るとは幸か不幸か。ペトナは口を尖らせ、拗ねたような、残念そうな表情をしている。可哀想だが、今回はお預けだ。頭を撫でてやると、諦めたように目を閉ざす。また後で遊んでやるから、と耳元で囁くと、こくりと頷いた。
そんなペトナに、ウルリケがとてとてという足音を立てて近づく。
「ねえさま、ぱんつ搾り、できた?」
「……ん。いっぱい搾れ、た」
「ふとももは?」
「べとべと」
立ち上がった俺を余所に、二人の魔物は卑猥な会話で盛り上がり始める。自分が関わっているだけに聞いていて恥ずかしいが、ここはウルリケに任せるとしよう。彼女と会話していれば、ペトナも少しは気が楽になるだろう。
後ろ髪を引かれつつ、俺は休憩後屋を後にした。
… … …
「ライジェ・リートゥス。顔を合わせたことはあるが、話をするのは初めてだな」
血生臭い屠場で、我らが領主……リライア・クロン・ルージュは微笑を浮かべた。優美な肢体に毒々しい色柄のドレスを身に纏い、翼を変化させた漆黒のマントを羽織っている。その気品と美しさ、そしておぞましさを兼ね備えた姿は、まさしく魔界貴族たるヴァンパイアだ。だがその柔らかな笑みが、近寄りがたい雰囲気を緩和している。背後には日傘を携えた執事が控えているが、その男がどことなく庶民的な風貌なので、ますます親しみやすいオーラを造り出していた。
「俺のような屠殺人は普通、領主様と関わる機会などありません」
「確かに会うことは少ない。だがそなたも、私の愛する領民の一人だ」
力強く、そして優しい言葉だった。俺達の作る肉を食べながら、俺達を蔑んでいた故郷の貴族とはまるで違う。「領主は町の住民の名前を全て記憶している」という噂を聞いたことがあるが、もしかしたら本当かも知れないと思った。それほどまでに、彼女の笑顔からは領民への愛情が滲み出ていたのだ。
まるで太陽……ヴァンパイアだというのに、そんな風に考えてしまうような温かさだった。
「……感謝します」
「ふふ。牧場祭りの準備は順調か?」
「今鴨を解体しております。熟成具合も丁度いい」
「ほう、それは明日が楽しみだ」
領主は目を輝かせた。彼女は鴨肉が好物だという話は聞いている。噂では人血で作ったソースをかけて食すのが何よりも好きという話で、教団の連中が聞けばむしろ大喜びするだろう。魔物が邪悪であると民衆に喧伝する、絶好の材料になるのだから。しかし俺もこの町に住んでからは、それも自然なことだと受け入れられるようになった。ヴァンパイアはそのように進化してきた『生物』なのだから。
更に彼女は何か言いかけ……不意に、視線を俺から外した。遠くに見える何かに気づいたらしい。その視線の行方を追ってみると、牧場の入り口の方へ駆けていくペトナの姿があった。
どうしたのだろうか。いつも一人で家に帰ることは無いのだが……
そう思ったとき、俺は牧場の入り口に白い髪の魔物が立っていることに気づいた。
鴨をさばきながら、ペトナが舌足らずな口調で言った。
「領主が?」
「ライジェ、と、話をす、る……」
感情の無い鳶色の瞳で鴨を見つめながら、ペトナは手だけは動かし続けている。俺が彼女を家に入れ、屠場の仕事を教えてからまだ数日。それにも関わらず、屠殺といい解体といい、彼女の手際は見事だった。今も普通なら長すぎる両手の鎌を器用に使い、的確に肉を切り分けている。ササミ、胸肉、もも肉……いずれも余さず正確に切り取られ、綺麗な形でまな板に並んでいく。心臓や砂肝なども、鎌の先端を上手く使って抉り出してしまう。さすが自分の体の一部だけあって、自由自在に扱えるようだ。
俺も自分の解体していた鴨の砂肝を、包丁で縦に裂いた。水桶を使い、中の砂を洗い出す。慣れた悪臭が鼻を突く。時々聞こえるペトナの鈴が、耳に心地よい。
「お前、なんで先のことが分かるんだ?」
「……分か、るから……分かる、だけ」
答えになっていない返答が返ってきた。
前述の通り、彼女を家に連れ込んでからまだ数日しか経っていない。とりあえず出会った次の日に、彼女に屠場を見せ、屠殺と解体をやらせた。狩猟生活を営んでいた彼女なら、家事より屠場の方が向いていると思ったのだ。実際、彼女は一瞬で家畜を楽にしてやるし、教えた通り正確に作業を進める。俺が褒めてやると頬を赤らめて微笑み、ますます励もうとする。
そんな可愛くて無口なペトナだが、時々ふっと妙なことを口走る。今日はいきなり雨が降る、誰かがやってくるなど、少し先のことをぽつりと呟くのだ。そして今のところ、彼女の予言が外れたことはない。
「明日の天気は?」
「………ずっと、晴れ」
「明日、人は沢山来るか?」
「来、る」
「ペトナの脚はすべすべで綺麗だな」
「……ん」
照れくさそうに微笑みながら、脚をもじもじと摺り合わせるペトナ。牧場祭りの準備に追われながらも、時々こうやって惚気ている。これが楽しいもので、やってみると弟の気持ちがよく分かった。
とはいえ、牧場祭りが明日に迫っている以上、あまり遊んではいられない。俺達の勤めるルージュ・シティ市営牧場では、年に一度この牧場祭りが開かれるのだ。肉料理や乳製品などを売る模擬店が出るし、馬術大会なども開かれる。今日領主が来るというのも、恐らくその視察ということだろう。茶菓子の準備をしておかなくては。
「ペトナ、休憩だ」
「ん」
ペトナがこくりと頷き、水桶で手と鎌を洗い始める。下着や髪飾りを身に着けている他に、このような衛生面の感覚も人間に近い。他にも町暮らしにおける常識をある程度知っている節もある。もしかしたらマンティスでありながらも、産まれたときから森で暮らしていたわけではないのかもしれない。
俺も同様に手を洗い終えると、ペトナは『メイトガード』を始めた。後ろから俺に抱きつき、巨乳を押しつけてくる。数日間このように寄り添われて、常にべったりしているクルトとウルリケの気持ちが、少しだけ分かった気がする。彼女の俺に対する独占欲と、甘え癖……この二つが、何とも愛おしく思えるのだ。
彼女の髪を後ろ手で撫でながら、二人で休憩小屋へ入った。今いるのは俺達だけで、木造の小屋は慎ましやかな雰囲気に包まれている。備え付けの茶菓子を卓上に出そうとしたとき、不意にペトナが俺から離れた。背中の柔らかな感触が消え、振り向いてみるとペトナは脚を擦り合わせ、俺を見つめている。
「ライジェ、は、私の脚が好、き?」
「……ああ、好きだ」
そう答えた瞬間。
ペトナの両手が迫ってきたかと思うと、いきなり顔面を掴まれた。
「お、おい!」
制止の声も虚しく、首を後ろへと捻られる。
それに釣られて体が後ろへ向いた瞬間、腰に軽い膝蹴りを受けた。仰け反った瞬間、右足の膝裏を踏むようにして蹴られる。あっけなくバランスを崩した俺は、後頭部から床に倒された。
人体構造の欠陥を突いた見事な投げ技。当然ながら手加減してくれたようで、怪我は無かった。しかし、毎日のようにこれをやられては堪らない。そして押し倒された後どうなるかは……決まっている。ペトナはしなやかな体で俺を組み敷いて、顔を覗き込んできた。無表情だが瞳には熱っぽい輝きが宿り、発情しているのだと分かる。
「あの、ね。ウルリケが、ふともも、で、おちんぽ擦、るといいよ、って」
「……仲良いな、お前ら」
俺の言葉に、ペトナはこくりと頷いた。彼女の無表情はどこか威圧的だし、ウルリケは人見知りが激しいから上手くやれるか不安だったが、以外にも一緒に風呂に入るほど仲良くなっている。やはりペトナは母性が強いらしく、本当の妹のように面倒を見ているのだ。しかし性的なことに関しては、数日前に男の味を覚えたペトナより、すでにクルトと多くの情事を経験しているウルリケの方が先輩だ。だからこのように、男の悦ばせ方を教わることもあるようで……。
昨日もフェラチオを教わり、実践してきた。彼女にとってセックスは「赤ちゃん作り」が第一目的らしいが、そだけでなく様々な方法で俺を気持ちよくしたくなったとのことだ。意外にも好奇心旺盛らしい。
「他にも、ね、お尻の、穴とか、ぱんつとか、腋とかで……おちんぽ、気持ち、よくできる、って」
「……ウルリケはクルトにそうやっているのか?」
再び、こくりと頷くペトナ。我が弟は大人しく優しい奴だが、意外と妙な性癖を隠し持っている。薄々感づいてはいたが、幼女と言っていい姿のウルリケ相手にそこまでやるとは。いや、もしかしたらウルリケが自分から奉仕しているのかもしれない。
「ライジェ、私、の脚で、おちんぽ、挟ませ、て。……だめ?」
投げ技で強引に押し倒しておいて、この媚びるようなおねだり。ペトナはあくまでも俺の言うことを聞いてくれるから、嫌だと言えば止めるだろう。だが舌足らずな口調で、目を潤ませて訊いてくる彼女の姿はあまりにも愛らしい。サキュバス以上に誘惑が得意なのではないかと思えるほどだ。
‐‐反則だろ、これ。
クルトも俺も、誘惑に弱いらしい。そもそも俺が彼女の美脚を褒めたのが引き金だろう。答える代わりに、俺はズボンの止め具を外し、パンツを降ろした。
ペトナは白い歯を見せて微笑むと、自分の体の中央……胸の谷間からへその辺りまでを、指ですっとなぞった。その線を中心として、彼女が身に纏う被膜がじわじわと溶けていく。人間と同じ素肌が露出し、美乳が揺れた。被膜が無理矢理引き裂いたかのように乱れた形状になっており、ますます情欲をそそる。
彼女の生の美乳が胸板に押し付けられ、顔が急接近する。互いの吐く息が届く距離。そして突然、ペニスがむにっとした感触に挟まれた。
「お……これは……むッ」
口を塞がれた。勿論、ペトナの唇でだ。俺の頬を優しく撫でながら、口の中をしゃぶりつくしてくる。同時にペニスを挟み込んだふとももが、すりすりと擦りあわされる。張りのあるすべすべの肌と、肉のもちもちとした感触がペニスを刺激した。俺が勃起したのを確認すると、ペトナはしつこくキスを続けながら、さらにきつくペニスを圧迫する。
俺がお返しにと乳首をつまんでやると、ペトナの体が一瞬震えた。音を立てて唇が離れると、唾液がねっとりと糸を引く。
「んぁ……ふ、ぁ、ライ、ジェ……」
口から熱い吐息と涎を垂れ流し、ペトナはとろんとした表情を浮かべる。ペニスが下着越しに当たって気持ちいいようで、彼女も感じているらしい。
「ペトナ、気持ちいいぞ……」
頭を撫でてやると、ペトナは髪の鈴を鳴らして笑った。いい音がする。
「ペトナ……その鈴、誰かからもらったのか?」
こんなときだが、何気なく尋ねてみた。いつも大事そうに身につけ、風呂に入るとき以外は外さない。森で狩りをしていたときも、獲物に見つかりやすくなるにも関わらず身につけていたのだし、よほど大事なものなのだろう。
「教会の……シスター」
「教会? それっていつの話だ?」
「……人間だった、とき……」
「な……!?」
思いもかけぬ答えの直後、再び熱いキスで口を塞がれた。今の間は単なる息継ぎだったらしい。
そしてペニスを挟むふとももの感触が、次第に変わってきていた。ほどよい摩擦を与えてくるすべすべの柔肌が、ねっとりと絡みつくような感触に変質しているのだ。原因は俺の先走りの液と、彼女の股間から染み出す愛液や汗だろう。その天然ローションが立てるいやらしい水音と、互いの唾液を啜る音、そしてペトナの鈴音が耳を刺激する。
森の中で鍛えられた彼女の脚は、艶やかな外観の内側にしなやかな大腿筋を持っている。それが狩りの際には俊敏さを生み出し、今の俺に対しては射精を促す武器となるのだ。もちもちとした感触がぬめりを帯び、疑似膣とでも言うべき感触を生み出している。
‐‐これは……凄い。
口を塞がれている俺は、彼女の行為に応えるべく再び乳首をつまんだ。
「ンンーーっ♪」
封じ込められた嬌声と共に、ふとももがきゅっと締め付けられる。むちっとした感触が、偶然か意図的にか亀頭のみを集中して包み込んだ。
「んぐっ!」
俺の声も彼女の唇に封じ込まれる。代わりにペニスが盛大に悲鳴を上げた。きつく閉じられた内ももに、ドクドクと精液が漏れ出していく。彼女の華奢な腰を抱きしめ、絶頂の快楽に溺れる。同時に互いの口腔を舐めまわす舌の動きも、次第に大人しくなっていった。
「ぷはっ……」
ペトナが唇を離した。蕩け切った鳶色の瞳が、俺を見下ろしている。思わずまた抱きしめたくなる可愛らしさだったが、その前に彼女は身を起こし、俺の隣に腰かけた。
彼女のふとももには予想より遙かに多い白濁が、べっとりと付着していた。濃度も高く、垂れる様子もない。俺は出し尽くした満足感と、この可愛いマンティスの美脚を汚し尽くした快感に浸っていた。ペトナはふとももを見つめると、それを掌で綺麗に集め、すくい取る。両手の平に溜まった精液を大事そうに口に運び、ずずっと音を立てて飲んだ。
「……美味し、い……ライジェ、の子種……」
うっとりした微笑みを浮かべるペトナが、途方もなく愛おしかった。俺も体を起こすと、彼女の肩を抱き寄せ、触覚周りの髪を撫でてやる。さらさらした、柔らかい髪だ。
「俺も気持ちよかった。ありがとうな」
奉仕に対する、率直な感謝の言葉だ。しかしペトナは少し腰を浮かすと、破いた皮膜の裾をまくり上げた。
彼女はマンティスには珍しく、下着を身につける。今穿いているのは森にいたときの純白ではなく、ピンクと白の縞模様パンツだった。町に出たとき、何か欲しい物はあるかと聞いたら、「可愛いぱんつ」という答えが返ってきたので買い与えた物だ。しかしさきほどの素股の刺激により、溢れた愛液でじっとりと濡れている。
穿いていて不快になったのだろうか。ペトナは鈴音を響かせながら、それをおもむろに脱ぎ始めた。そしてその、一部の人間にはたまらなく貴重な三角形の布を、俺に見せつけてくる。
「次、は……ぱんつ搾り、させ、て?」
「お、おいおい、今か?」
「……だめ?」
‐‐だから、反則だろ。
再び目を潤ませ、不安げに顔を覗き込んでくるペトナ。これでは断る物も断れない。俺の言うことを何でも聞いてくれるとはいえ、やはりセックス関係においては、魔物が人間より上の立場であると思い知らされる。
「分かったよ、やってくれ」
「うん!」
ペトナは嬉々として、俺の隣に座ったままパンツを広げ、股に近づけてくる。愛液でぐちゃぐちゃになったパンツが、半勃ち状態のペニスにすっぽりと被さった。ペトナの手が布越しにペニスを握ると、きめ細かな布が竿を優しく刺激してくる。そのままぐりぐりと擦りつけられると、あっという間にペニスに硬さが戻った。
染み込んだ愛液が搾り出され、ペニスに絡みついてくる。それを彼女の体温が残る布が、ねちょねちょと音を立ててしごいてくるのだ。倒錯した、変態行為。しかもそれを、ペトナが自ら望んで行っているというのが俺の情欲を掻き立てる。ペニスと俺の顔を交互に見て反応を伺うペトナが、これまた可愛い。予想を遙かに上回る快感だった。
「うおっ、凄い……上手だな、ペトナ」
「……じゃあ、これ、は?」
俺に褒められて嬉しくなったのか、ペトナは更に攻勢に出てきた。
「うああっ……!」
思わず情けない声を出してしまう。彼女はパンツの一部分を摘み、そこだけを亀頭にぐりぐりと擦りつけてきたのだ。突然の強い刺激に、急激に精液が玉袋から送り出される。
「で、出る!」
「え……?」
次の瞬間、俺はあっけなく射精してしまった。ペニスを包み込む可愛い縞パンツに、先ほどと同様に濃い精液を漏らしてしまう。驚きながらもペトナは指の動きを止めず、精液を搾り出し、塗り広げていった。
突然の暴発に、ペトナは呆然とパンツを眺めていた。やがてそれをゆっくりとペニスから外し、白濁まみれの内側を見つめ、感嘆の声を漏らした。
「わぁ……ぱんつ、搾りって、凄いん、だ……」
鼻を近づけ、うっとりした表情で精のニオイを嗅ぐ。そしてそれを舐め……るかと思いきや、再びそのパンツを穿き始めた。精液でべとべとのままで。
白濁の滴る下着が、ペトナの恥丘をぴったりと覆った。普通なら不快に感じるであろうその感触に、彼女は気持ちよさそうに目を細める。こんなにも俺を、そして俺の精液を愛しているとは。ある意味ここまでされると、男冥利に尽きると考えるべきなのだろうか。
「これ、で、赤ちゃん、できない、かな?」
突然、たどたどしい口調でんなことを訊かれた。
「無理だろう。ちゃんと奥に出さないと……」
「じゃあ、中に、も、頂戴?」
‐‐そう来るか……。
不味い。この辺で切り上げておかなければ、牧場祭りの準備が進まない。そこまで時間が押しているわけではないが、牧場の職員たちは早めに終わらせて前夜祭をやりたがるだろう。みんなドンチャン騒ぎが好きなのだ。俺だけがここでペトナといちゃついているわけにはいかない。例え彼女が潤んだ目で見つめてきても、指で股の花園を「くぱぁ」と開いてきても、心を鬼にして断らなければならないのだ。
と、その時。
最悪のタイミングで、休憩後屋のドアが開かれた。ペトナが慌てて胸を隠し、俺も股間をカバーする。開かれたドアから黒髪の小柄な少女がひょこっと顔を出し……小さく悲鳴を上げて引っ込んだ。ウルリケだ。
俺は近くにあった布でペニスをざっと拭き、ズボンを上げる。ペトナも胸の皮膜を元に戻した。ウルリケは恐る恐るといった様子で、小屋の中に入ってきて、真っ赤になった顔で俺を見つめる。毎日クルトと交わっているとはいえ、やはりクルト以外の男の情事を見るのは恥ずかしかったらしい。軽い罪悪感に襲われながら、俺は苦笑した。
「すまん、ウルリケ」
「え、と……」
もじもじしながら、ウルリケは言葉を紡ぐ。
「領主さま、きました。にいさまと、おはなししたい、って言ってます」
「……分かった、今行く」
ペトナの予言が今回も当たったようだ。しかしこのタイミングで来るとは幸か不幸か。ペトナは口を尖らせ、拗ねたような、残念そうな表情をしている。可哀想だが、今回はお預けだ。頭を撫でてやると、諦めたように目を閉ざす。また後で遊んでやるから、と耳元で囁くと、こくりと頷いた。
そんなペトナに、ウルリケがとてとてという足音を立てて近づく。
「ねえさま、ぱんつ搾り、できた?」
「……ん。いっぱい搾れ、た」
「ふとももは?」
「べとべと」
立ち上がった俺を余所に、二人の魔物は卑猥な会話で盛り上がり始める。自分が関わっているだけに聞いていて恥ずかしいが、ここはウルリケに任せるとしよう。彼女と会話していれば、ペトナも少しは気が楽になるだろう。
後ろ髪を引かれつつ、俺は休憩後屋を後にした。
… … …
「ライジェ・リートゥス。顔を合わせたことはあるが、話をするのは初めてだな」
血生臭い屠場で、我らが領主……リライア・クロン・ルージュは微笑を浮かべた。優美な肢体に毒々しい色柄のドレスを身に纏い、翼を変化させた漆黒のマントを羽織っている。その気品と美しさ、そしておぞましさを兼ね備えた姿は、まさしく魔界貴族たるヴァンパイアだ。だがその柔らかな笑みが、近寄りがたい雰囲気を緩和している。背後には日傘を携えた執事が控えているが、その男がどことなく庶民的な風貌なので、ますます親しみやすいオーラを造り出していた。
「俺のような屠殺人は普通、領主様と関わる機会などありません」
「確かに会うことは少ない。だがそなたも、私の愛する領民の一人だ」
力強く、そして優しい言葉だった。俺達の作る肉を食べながら、俺達を蔑んでいた故郷の貴族とはまるで違う。「領主は町の住民の名前を全て記憶している」という噂を聞いたことがあるが、もしかしたら本当かも知れないと思った。それほどまでに、彼女の笑顔からは領民への愛情が滲み出ていたのだ。
まるで太陽……ヴァンパイアだというのに、そんな風に考えてしまうような温かさだった。
「……感謝します」
「ふふ。牧場祭りの準備は順調か?」
「今鴨を解体しております。熟成具合も丁度いい」
「ほう、それは明日が楽しみだ」
領主は目を輝かせた。彼女は鴨肉が好物だという話は聞いている。噂では人血で作ったソースをかけて食すのが何よりも好きという話で、教団の連中が聞けばむしろ大喜びするだろう。魔物が邪悪であると民衆に喧伝する、絶好の材料になるのだから。しかし俺もこの町に住んでからは、それも自然なことだと受け入れられるようになった。ヴァンパイアはそのように進化してきた『生物』なのだから。
更に彼女は何か言いかけ……不意に、視線を俺から外した。遠くに見える何かに気づいたらしい。その視線の行方を追ってみると、牧場の入り口の方へ駆けていくペトナの姿があった。
どうしたのだろうか。いつも一人で家に帰ることは無いのだが……
そう思ったとき、俺は牧場の入り口に白い髪の魔物が立っていることに気づいた。
11/10/18 21:39更新 / 空き缶号
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