連載小説
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後編

「クルト、おはよ」

 朝、目が覚めるとエナの笑顔が目の前にある。これにはなかなか、慣れそうにない。

「おはよう、エナ」

 眼を擦って意識をはっきりさせながら、寝巻姿のエナを抱きしめる。柔らかい寝巻の生地を通して、エナの暖かみと息遣いが伝わってきた。これが現実であると確認するため、強く抱きしめて感触を味わう。エナがそれを受け入れ、頬を寄せてくると、僕は彼女の髪をそっと撫でた。
 甘いニオイに、股間がぴくりと反応し、彼女の柔らかな太腿に先端が触れる。昨夜、交わるだけ交わってそのまま寝たため、タオルケットに覆われている僕らの下半身は共に裸だ。シックスナインで一回、胸で一回、そして膣で数回。シーツからは彼女の漏らした尿のニオイが漂っている。しかしそれだけヤったにも関わらず、僕は彼女と抱き合っているだけで疼いてきてしまう。

「まだ早いし……ちょっとくらい、いいわよね?」

 僕の心を読んだかのように、エナは悪戯っぽい笑みを浮かべ、タオルケットの下に潜った。もぞもぞと、僕の股間に顔を持って行ったようだ。

「ちゅ♪」
「うっ」

 亀頭にぷるぷるした唇が触れた。続いてぬめりのある舌がペニスを舐め上げ、亀頭が口に含まれてしまう。
 エナがペニスをしゃぶっている姿を見たくて、タオルケットを払いのける。彼女は上目づかいで僕を見つめながら、楽しそうに口での奉仕を続けた。ときどき舌先で尿道口をつついたり、玉袋をくすぐってきたりするのがたまらなく気持ちいい。

「ふるほぉ、ひもひいい?」
「ちょっ、喋ったら……!」

 舌の動きが逐次、ペニスに快感をもたらす。
 そしてエナはトドメとばかりに、舌先を尿道に押し込んできた。

「ううっ、で、出るっ!」

 エナの舌を押し出そうとするかのように、尿道を精液が迸る。一気に快楽が突き抜け、彼女の口内に全てをぶちまけた。

「んんっ♪」

 エナは喉を鳴らして、僕の欲望を飲み下していく。それでも口から少し溢れて、口周りを白く染めた。
 ちゅぽん、と音を立て、エナはペニスから口を放した。精液のついた顔でニコリと笑うと、仰向けになって大きく股を開き、蜜の滴る花園を曝け出した。そして期待に満ちた目で、僕を見つめている。

 かつて一緒に遊び、いつしか高嶺の花となり、憎悪の対象でさえあった彼女が、こんなにも淫乱な姿をしているのだ。
 我慢できるわけが、なかった。






「……で、結局朝からズッコンバッコンやってたわけか」
「ごめん、兄さん」
「ごめんなさーい」

 先に朝食を済ませていた兄は、頭を下げる僕らにため息を吐く。
 あの後、誘惑に勝てず何度か交わり、気がついた時には10時頃になっていた。幸い今日は仕事が少なかったが、かなり朝寝坊した形になってしまったのだ。

「エナ、一緒に住むのは許可したが、ナニは仕事に支障の無い範囲で頼む」
「うん。ごめんね、ライジェ」

 そう、露地裏での出会いと交わりの後、行く宛がないというエナを僕らの家に連れてきたのだ。兄は僕同様彼女を憎んでいたため、最初は同居に反対したが、エナの真摯な思いが通じて許してくれた。しかし空いている部屋は無かったため、僕と同じ部屋・同じベッドで寝ることになり……その結果がこれ、というわけである。
 本当にエナの体は癖になり、依存してしまったかのように交わってしまう。そしてエナも僕を求めてくるのだから、この誘惑に抗えるはずがない。だからと言って、仕事を気にせず寝坊していい訳ではないが。

「さっさと飯食え。今日はコルバさんの開店パーティだろ」
「あ、そうだったね」

 コルバさんから、開店記念パーティの招待状が届いていた。町の人気者であるギター弾きとセイレーンのコンビも来ることだし、何としても行ってみたい。それまでに仕事を終わらせておかなくては。

「エナも、パーティ行くだろ?」

 当然行くだろうと思っていたが、念のために聞いてみる。すると、彼女は微かに俯き、苦笑を浮かべた。

「人ごみ、苦手だから……お留守番してるわ」
「え、そうなの?」
「うん、折角だけど……」

 申し訳なさそうに言いながら、エナはエプロンを着けて朝食の用意を始めた。兄はその姿を少し眺めていたが、「仕事の用意をしておく」と屠場へ向かった。
 エナが来てから、兄は何か考え込むことが多い。何か迷っているような、僕の知らない何かを知っているような、そんな様子だ。元々寡黙で、必要以上のことは喋らない人だが、あの様子は何か気になる。

「クルト、ちょっと手伝って」
「あ、はいよ」

 だが、今はこのままでいい。兄はきっと、まだエナを許していないのだろう。それでもいつか、分かりあえるはず……僕はそう信じている。













 ……仕事を済ませ、日が暮れた頃に僕らは出かけた。新月の夜空は星がよく見え、通りには涼しい風が吹いている。繁華街の中に建てられた小さな料理屋が、コルバさんの店だ。故郷のベルアン町にあった店と同じ作りにしたと言い、質素な佇まいだ。すでにドアからはいい匂いが漂い、ギターの音が聞こえてくる。
 兄がドアを開けると、ドアに取り付けられた鈴が軽快に鳴った。小さな店の中にはすでに多くの人が訪れており、賑やかに食事を楽しんでいる。シチューの匂いが、暖かな灯の光と相まって食欲をそそった。
 店の中央では顔に包帯を巻いた男の人がギターを弾き、青い翼を持った女性が曲に合わせて踊っている。自称「ケチなギター弾き」のエーリッヒさんと、セイレーンのリウレナさんだ。

「おう、リートゥス兄弟! よく来たな」
「い、いらっしゃいませ」

 コルバさんが厨房の窓から顔を出し、カウンターに立つ奥さんが舌足らずな口調でお辞儀をする。ホルスタウロスである彼女はミンスという名前で、コルバさんとはこの町でも仲のいい夫婦として有名だ。

「いい店じゃないか、コルバ」
「だろ? さて、早速お前らがさばいた鴨肉のシチューを味わってもらうか!」
「大盛りで頼む」

 兄は落ち着いた口調で注文すると、カウンターの空いている席に座り、リウレナさんの踊りを眺める。僕も着席すると、ミンスさんが水を出してくれた。
 リウレナさんはギターのリズムに合わせ、まるでリズムに操られているかのように華麗に踊る。時々喉にある傷跡がちらりと見えるが、それは以前教団に捕らえられたときのものらしい。歌で男を虜にする魔物・セイレーンでありながら、唄うことができない辛さは想像するに余りある。そんな彼女がエーリッヒさんと出会って見つけたのが、ダンサーの道だったのだ。今やこの町で、彼女たちは誰もが知っているアーティストで、兄と僕もそのファンの一人だ。

 ふと、この町の住民は人魔問わず、辛い出来事を乗り越えてきているのだと思い出す。ミンスさんもコルバさんに出会うまで、ミルクが出なくて悩んでいたらしい。エーリッヒさんは顔の火傷を、コルバさんは料理人としての苦悩を乗り越え、或いは乗り越えるためにこの町にやってた。
 だからこの町の住民は皆、強い。私設軍の人たちも、自分たちの安住の地を守りたいという思いで戦っているし、僕ら一般市民でさえ暇を見て集まり、槍や弓の訓練をしている。すでに教団との間に小競り合いも起きているが、きっとこの町はどんな災厄も乗り越えていくだろうと、僕は信じている。
 そして、僕とエナも……

「ほい、お待ち!」

 物思いにふけっていたとき、目の前に熱々のシチューとパンが差しだされた。濃厚なミルクの香りに多数のハーブの香り、そして肉の香りが忽然と鼻をくすぐる。

「それじゃ、いただきます」

 スプーンですくって一口食べると、まろやかな味が口いっぱいに広がった。鴨肉は癖が無いように、しかし鴨独特の風味を微かに保ったまま調理されている。それに多数の薬草と、ホルスタウロス乳の風味が合わさり、えもいわれぬ味を作り出していた。食べれば食べるほど、食欲が湧いてくる。

「美味しい! 凄いですよ、これ!」
「コルバ、腕を上げたか?」
「はっはっは、ミンスとの愛の力さ」

 コルバさんがミンスさんを抱き寄せると、ミンスさんは頬を赤らめながらもうっとりとした表情を浮かべる。周りのテーブルから「シチューが甘ったるくなったぞ!」「ごちそうさまー!」「もげろー!」などのヤジが飛ぶのもお構いなしに、自分たちの世界へと入ってしまっている。

「所で、最近お前らも女の子と同居してるって話じゃないか。魔物か?」
「ああ、エナのことですか。彼女は人間で、僕らの幼馴染なんです」

「……人間?」

 ふいに、僕の隣からソプラノの声が聞こえた。
 振り向いて僕は目を見開いた。声の主は白い長髪を背中で束ねた、とても綺麗な女の人だった。背には蝙蝠のような白い翼、頭には節のある湾曲した角が生えており、魔物だと一目で分かる。黒い服も胸元が大きく開いており、男を魅了する佇まいだ。エナに出会っていなければ、一目惚れしていたかもしれない。

「あの、何か……?」
「ああ、ごめんなさい。貴方から、魔物のニオイがしたから……そう、魔物と交わったニオイがね」

 魔物のニオイ……?

「僕は、その、エナとしか……」
「うーん、なるほど、そういうことね……」

 彼女は微かに笑うと、自分のシチューを飲みほした。ピンク色の唇からふっと息を吐き、再び口を開く。

「覚えておいて。今日家に帰って、大事な人がいなくなっていたら、身近な所を探してみなさい」

 そう言うなり、彼女は懐から黒い懐中時計を取り出してちらりと眺め、立ち上がった。優雅な手つきで小銭を取り出し、ミンスさんに手渡すと、ご馳走様と言って店から出ていく。
 止める間もなく、ドアの鈴が音を立てた。一体何だったのか。

「……クルト、言おうかどうか迷っていたんだが……」

 唖然としていると、黙って聞いていた兄が口を開いた。

「エナと結婚した男は、二年前に死んでいる」
「えっ……!?」

 死んでいる……? そんな……
 確かに軍人なのだから、いつ死んでもおかしくはない。しかしエナは確かに、夫から逃げてきたと言っていたし、二年前と言ったら丁度、結婚式のすぐ後に死んだことになる。エナが隠しているだけか、とも思ったが、それにしてはエナの態度は夫に先立たれた女性のものではなかった。

「前、故郷がどうなっているか少し調べてな。エナたちの住んでいた辺りは魔王軍に占領され、あの男は部下の裏切りで死んだ。エナの行方までは分からないが……」

 そんな馬鹿な。なら、あのエナは一体……?


――貴方から、魔物のニオイがしたから……そう、魔物と交わったニオイがね――


 まさか。




 そうだ。
 彼女はしおらしい態度で、僕に謝ってくれた。
 淫らな姿で、僕を誘った。
 そして交わりが始まれば、僕らの体は元々一つだったかのように馴染んでいった。

 そうか、それは全て……


「すみません、帰ります!」
「お、おい、クルト!?」

 コルバさんの驚きの声、ミンスさんの困惑の声を受けながら、僕は店を飛び出した。
 ドアの外にいたカップルをうっかり突き飛ばし、振りかえって謝りながら夜道を必死で走る。新月の夜空は一面に広がり、夜明けまではまだ間があった。今夜の内に、会って確かめなければならない……そんな気がしたのだ。
 エナと名乗っていた彼女が、何者なのかを。









…………

 家のドアは夜風に煽られ、勢いよく開いた。
 息を整えながら暗い家の中に入り、ドアだけ閉めてゆっくりと呼吸を落ち着かせる。最近買った魔法の火打石を打ち合わせ、安物のランプに点火した。室内が一気に明るくなるが、そこには誰もいない。ただランプに灯った白い火だけが、ゆらゆらと揺れているだけだ。

「身近な所を、か」

 僕は自室へ歩み寄った。そしてドアノブに手をかけた瞬間、部屋から小さな悲鳴が聞こえた。ここにいる……そう思った瞬間、ガチャリという金属音。内側から鍵をかけられたらしい。

「見ないで……」

 ドアの向こうにいる彼女に、恐らくエナではない『彼女』は、べそをかいたような声を出しながら言葉を紡いだ。僕が今まで聞いたあらゆる声の中で、最も儚くか細い音色だった。きっとこのドアの向こうで震えているであろう彼女は、僕が恐いのではない。会うのが恐いのだ。
 女性経験のほとんど無い僕には、気の利いた台詞なんて言えない。小説のヒーローのように、震える少女を安心させるような言葉なんて思いつかない。だから、率直に言うしかない。

「……君は、僕が望むことをしてくれた」

 ゆっくりと、できるだけ優しい声で、語りかける。返事は無い。

「僕はエナに、一言謝ってほしかった。僕を好きになってほしかった。彼女の体を味わってみたかった」

 そう、全部僕が、心の底で渇望していたこと。心の交わりも、体の交わりも、自分でも気付かないうちに願っていたことだった。エナのふりをした彼女はそれを知って、叶えてくれていたのだ。
 ドアの向こうからの返答は無いが、確かにそこに気配を感じる。

「君はどうして、僕なんかにそこまでしてくれたの? ただの、屠殺人の僕に……」

 しばらくの間、静寂が辺りを包んだ。僕は待った。彼女が答えてくれるのを、じっと待ち続ける。
 不思議と、心地よい静けさだった。

「……好き、だから……」

 ぽつりと、儚げな声が聞こえた。どきっとしてしまうような、不思議な温かさを持って。

「あなたは、がんばってる人……それに、とても、やさしい人。かっこいい、って思った。いっしょにいたい、って思った」
「僕と……?」

 胸が高鳴っていく。僕が優しいだなんて、かっこいいだなんて、一生言われることがないと思っていた言葉だった。エナになりすました者の言葉ではなく、扉の向こうにいる少女がそう言っているのだ。その事実が、心臓の鼓動を速めていく。

「あなた、心に穴が空いてた。わたし、その穴を埋めたいって思った。そうすれば、あなたもわたしを、好きになってくれる、って……そう、思ったの」
「心の穴を、埋める……?」
「わたしは、そのために生まれる、まものだから……」

 鼻をすする音が、声に混じる。まだべそをかいている彼女は、どんな女の子なのだろう。僕みたいなやつを好きだと言ってくれる彼女は、どんな姿をしているのだろう。

「……君に、お願いがある」
「おね、がい?」
「君のことを、好きになってもいいかな? エナじゃない、君のことを」

 そう言った瞬間、「ふえっ!?」という可愛らしい声が聞こえた。そして何か慌てたかのように、しどろもどろになっていく。それがとても可愛くて、僕は自然と笑みがこぼれた。

「え、えと、わ、わたし、えっと、地味だよ? ちんちくりんだし、むね、ぺったんこだよ?」
「僕なんて背が低くて脚も短いし、お風呂に入っても血の臭いが取れないよ?」
「そ、そんなこと……っ」

 彼女の声が高ぶった。そしてまた少し、あの心地よい静寂が流れた。焦らされるのも、僕は嫌いじゃない。その後に、彼女の可愛い声が聞こえてくるんだから。

「……わたしと、えっち、したいって、思う?」

 ほら来た、とびっきり甘い言葉が。不安と期待が入り混じった声が、僕の心を掻き立てていく。答えなんて、一つしかない。

「したい。君と、一つになりたい」

 ゆっくり、はっきりと、僕は言う。
 すると数秒の間が空いて、鍵の開く音がした。
 僕が待ち切れずにドアを開けると、暗い部屋の中に食卓から魔法火の光が差し込んでいった。

 その中に……彼女の姿が照らし出されていた。
 黒曜石のような艶のある髪と、白くて柔らかそうな肌。それに黒いワンピースが映えているが、背は低く胸にも厚みが無い。確かにその印象は甚だ地味だ。
 しかし、長い前髪の隙間から覗く赤い瞳は、思わずどきりとしてしまうような、魔性の光を確かに宿していた。そして不安げに潤んだその目と、開きかけた小さな口は、全てを犠牲にしても手に入れたくなるような、例えようもなく価値のあるものだった。この世に彼女が存在しているかどうか怪しいような、触れると壊れてしまいそうな、儚げな美しさがそこにあったのだ。

「……可愛い」
 
 僕が呟くと、彼女はぴくりと体を震わせ、少し驚いたような顔をした。頬がだんだん紅潮していくと、照れくさそうな笑みを浮かべる。上目づかいで僕を見てくる、その姿は本当に可愛い過ぎた。

 焦らされるのが嫌いじゃないと言っても、これ以上お預けはごめんだ。

「あふっ!?」

 僕が抱きしめてやると、彼女は驚きの声を上げた。しかし逆に、僕にしがみつくように腕をからませてくる。さらさらした髪を撫でてみると、彼女は僕の顔を見上げて、にこりと笑った。本当に可愛い。

「君、名前は?」

 僕が尋ねると、彼女は困った顔をした。

「……ない。わたし、ただの、ドッペルゲンガー」

 ドッペルゲンガー。それが彼女の種族なのか。
 だが、それが分かったところで、彼女の名を呼べなければ意味が無い。そう思った僕は、咄嗟に思いついた言葉を口にした。

「ウルリケ」
「え……?」

 聞き慣れない単語に、彼女は困惑したようだった。

「ウルリケ、っていう名前。可愛いと思ったんだけど……駄目かな?」
「……うるりけ、ウルリケ……わたしは、ウルリケ……」

 小さな声で数回繰り返し、彼女は微笑んだ。この笑顔は見るたびに胸が高鳴ってしまいそうだ。可愛い、ただひたすら可愛いと言うしかない。
 そして彼女は僕の目を見て、ゆっくりと深呼吸。ほのかに甘い吐息が顔にかかり、くすぐったい。やがて、彼女ははっきりと言葉を紡いだ。

「ウルリケは、クルトと、えっち、したい!」

 しっかりと宣言して、彼女……ウルリケは僕のズボンを降ろそうとしてきた。僕はお返しに、彼女のスカートの中に手を入れる。そこには熱気がこもり、そっと触った彼女のふとももには、ぬめりのある液体が付着していた。

「ぁ……さびしくて……ひとりで……」
「してたんだ?」
「ぁぅ……」

 恥ずかしそうに目を伏せながらも、ウルリケは僕のズボンとパンツを降ろし、ペニスを露出させることに成功していた。彼女の赤い瞳に見つめられて、ゆっくりと勃起していく。ウルリケはそれをじーっと見つめ……あむっと、口に含んでしまった。

「んんぅ……んみゅ」
「ううっ、ウルリケ……ッ」

 ……口が小さくなった分、圧迫されてる……!

 エナの姿でいたころとは裏腹に、必死になって舌を絡ませてくる拙い奉仕だったが、その様子と漏れる声が異常な興奮を誘った。時折、亀頭にカリッと歯が当たる。舌だけではなく、内頬までが性感を刺激する武器になっていた。
 僕は指先で彼女の花園を探し当て、ショーツの中に手を入れた。毛が生えている様子の無い、つるつるの恥丘の割れ目を指でなぞる。

「んみゅぅ♪」

 ペニスを頬張ったままウルリケは喘ぐ。そのまま数回なぞっていると、ぷっくりとした突起と出会うことができた。

「これ、ウルリケのクリトリスだね?」

 そう言いながら、僕は容赦なくそれをつまんだ。

「んんんんんぅーッ!」
「うっ!? あ、ああああっ!」

 ……吸われてるッ!?

 声にならない嬌声を上げながら、ウルリケは僕のペニスを激しく吸引してきた。その刺激は全身に広がったかのように思え、ペニスの細胞全てが歓喜に内震える。我慢できるはずもなく、僕は一気に射精した。
 多量の精液は、彼女の口内に収まりきらず、溢れだす。ウルリケの唇、頬、黒い服の胸元まで、白濁液が散乱した。ペニスをゆっくりと口から引き抜き、ウルリケは蕩け切った笑みを浮かべる。
 その時、ふいに聞こえた水音と、指先に感じる水圧。じょろじょろと音を立て、彼女は幸せそうな顔で失禁し始めた。お漏らし癖は変わらないらしい。つんとしたニオイの立ち込める中、恍惚の表情を浮かべるウルリケは本当に淫らで可愛らしかった。

「ウルリケ」

 僕が名前を呼ぶと、彼女ははっと我に返る。僕のペニスについた精液が垂れ落ちそうになっているのを見て、大慌てでしゃぶりついてきた。魔物にとって、これは何よりの御馳走らしい。

「ウルリケのもの……クルトのしろいとろとろ、ぜんぶ、ウルリケのもの……」

 ……エロすぎる。

 ミルクを舐める犬や猫のように、必死で舐め取ろうとする姿で淫らな言葉を吐かれ、ペニスは再び大きくなっていく。

 僕は理性を捨てた。ウルリケの小さな体にしっかりと手をまわし、抱きあげる。驚きの声と、ほどよい重みを楽しんだのもつかの間、僕はウルリケをベッドの上に放りだした。
 即座に覆いかぶさって、彼女のスカートをまくりあげる。愛液と尿でぐちょぐちょになったショーツと、同じ液体でぬらぬらした輝きを放つふともも。淫猥にもほどがある。

「ウルリケ、凄くエロい」
「ゃぁっ♪」

 恥ずかしげな、少し嬉しそうな声でさえずり、ウルリケは自らショーツを脱いだ。そして、大きく股を開く。

「ウルリケの、ここ、クルト、ほしい、ほしいって……」

 言葉づかいがどんどんおぼつかなくなっていくウルリケ。その女性器は尿のニオイが霞むほどの雌のニオイを放ち、ぱっくりと割れて、止めどなく愛液が溢れている。これが、魔物の体に備わった器官。男を貪るための穴。
 早く来て……赤い瞳で必死に訴えるウルリケの期待に答えるべく、僕は一気に突きいれた。

「きゃうううううん♪」
「くっ、ううううっ!」

 ウルリケの中は、恐ろしく狭かった。処女膜を破り、最深部へ到達したペニスを凄い力で締め付けてくる。ウルリケは僕の背に爪が食い込むくらい、必死でしがみついて痛みに耐えていた。その食い込む爪の痛みで、ウルリケの痛みを分かち合っているような気分になった。

「ウルリケの中、すごく熱い……!」
「クルト、くると、くる、とぉ♪」

 僕の名を連呼しながら、ウルリケは泣きだしてしまった。痛かったか……やりすぎた気がして抜こうとするが、ウルリケは僕の腰に細い脚をからませてきた。

「ウルリケは、痛くても、いいからっ……さいごまで、さいごまで……♪」
「……分かった。全部、ウルリケにあげるから!」

 僕が一心不乱に腰を動かす。一突きする度に、ウルリケは可愛い声で喘ぐ。それが聞きたくて、さらに突く。
 そうしているうちに彼女の顔から痛みが消え、多幸感溢れるとろけた顔になっていく。最初は狭いだけだった膣も次第にほぐれていき、搾りとるように蠢き始めた。

 僕とウルリケは互いに溶け合い、甘く深い闇へと堕ちていくのだ。

「ウルリケ、出るよっ!」
「あ、ああっ、ぁっぁぁ、きたぁ♪ クルトの、ウルリケの中にきたぁぁ♪」
















………


「で、結局またズッコンバッコンやって寝坊したと?」
「本当にごめん、兄さん」
「あぅ……ごめん、なさい……」

 先に昼食を済ませた兄は、起きぬけの僕らに対してため息を吐いた。今日が休日だから良かったものの、仕事のある日だったらどんなに怒られただろうか。夜明け近くまで交わって、少し寝て起きたらまたセックスして……。

「ったく。……えーと、ウルリケだったか?」
「ひゃ、ひゃい!?」

 兄に話しかけられ、ウルリケはびくびくと震える。こういう姿も可愛いと思う僕は、サドだろうか?

「これから、クルトの支えになってやってくれ」
「ふぇ……? は、はい!」

 緊張しながら答えるウルリケに兄は微笑むと、似合わない帽子をかぶって玄関に向かった。

「森へ行ってくる。お前らも昼飯食って、デートでも何でもしてこい。明日からまた仕事だ」

 何か、いつもより優しい瞳で、兄は僕を見た。産まれてこの方、いつも一緒に仕事をしてきた兄の背中が、ドアをくぐって出ていく。
 バタンとドアが閉じられると、ウルリケはおずおずと僕を見上げた。

「えと、ウルリケが、ご飯、作る」
「ありがとう。僕も手伝うよ」

 ウルリケはにこりと笑って、エプロンをつけ始めた。やっぱり可愛い。僕が今までいろいろな苦労をしてきたのも、エナに裏切られた苦しみも、全部彼女を手に入れるための試練だったと思えるくらいだ。

 ウルリケはもう、誰にも変身できないそうだ。
 僕の心の中を覗き込んで、最愛の人になりすましたくても、そこに見えるのは自分の姿だけ。だから、僕の望み通りの「ウルリケ」として生きていく……たどたどしい口調で、彼女はそう言ってくれた。

 屠殺なんて、気分のいい仕事ではない。
 でも、それなりの誇りを持っているのも確かだし、いいことが無いわけではない。
 だから僕はずっと、この町でこの仕事をしていこう。

 楽しそうにキャベツをきざむウルリケの横顔を見ながら、僕はそんなことを考えていた。




 〜fin〜
11/08/17 00:22更新 / 空き缶号
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■作者メッセージ
お読みいただきありがとうございます。
今回は農大で合鴨の屠殺・解体を経験したときのことを思い出しながら書きました。
しっかし……前編と後編のこの文字数のアンバランス(汗)
こんな無計画な私ですが、感想をいただければ泣いて喜びます。
可愛いドッペルたんを書けたでしょうか?

次回は今回ちょっと影が薄かった兄の話か、料理人見習いとデュラハンの話か、どちらかを書くと思います。
よろしければ、今後もお付き合いください。

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