……まあ、炎天下での部活中に倒れたわけだから、汗臭ぇのは当たり前だとして、ヒヨミさんみたいな美女にそれを言われるのはかなり恥ずかしかった。相手が母ちゃんくらいの歳なら何とも思わねーけど、俺と二歳しか違わない人に言われたもんだから顔から火が出そうだ。

　何にせよ元気になったわけだし、確かに風呂には入りたい。つーわけで俺は早速手拭いをもらって温泉へ行って、とっととジャージを脱いだ。
　風呂場へ行ってみると、海が間近に広がっている露天風呂だった。浴槽は檜で良い匂いがしている。夕焼けで海が赤くなって、ずっと遠くには島らしい影も見えて、そこへ鉄道の長い橋が伸びて……すげぇ景色だ。

　洗い場にシャワーだの蛇口だのは無い……が、ちょうど良く檜の風呂桶に湯が入っていた。ひとまずそれを頭から浴びて、ベタつく汗を流す。

「ハァーッ、生き返る」

　思わずオヤジ臭いことを言っちまったが、檜の匂いがたまらねぇ。しかも椅子に座って桶を置くと、空の桶がまた湯で一杯になっていた。どんな仕組みか魔法か知らねーけど、こりゃ便利だ。
　なんかメチャクチャ現実離れしたことが起きてるのに、こうして風呂場にいると落ち着くもんだな。ホラー映画だとこういう時にいきなり化け物が出てくるもんだけど、俺の場合遭遇した化け物は味方だ。ってか女神だ。

　ふいにガラッと戸の開く音がした。他の客かな、と振り向いて……

　俺は固まった。

「背中、流してあげる」

　ヒヨミさんは全裸で微笑んでいた。そう、全裸。一糸纏わぬ姿。手に持ってる手拭い以外、布と言えるものを一切身につけてない。
　しかも、隠す気もない。その素晴らしすぎる青白い胸とか、女の子の大事なところとかを手で覆うこともしない。その芸術品みたいな体を見せつけながら、ゆっくりとこっちへ歩いてくる。髪や肘から氷柱が落ちて、床で砕け散った。

「いや、いやいやいやいや、そこまでしてもらわなくても！」

　慌てて目を逸らすと、俺のパニクりぶりが面白かったのか、ヒヨミさんの笑い声が聞こえた。

「なーに慌ててんの。会うなりいきなり胸触ってきたくせに」
「う、す、すみません。あれは、その、夢だと思ってて……」

　あのひんやりした手が両方の肩に触れて、俺の言葉が止まった。肩だけじゃない。背中には冷たくて柔らかい物が当たって、ぐにゃっと押しつぶされて。耳元に、綺麗なほっぺが。

「だったら、何も遠慮はいらないよ」

　そよ風みたいな涼しい息と一緒に、囁かれた。背中に密着され、心臓が爆発しそうで、けど離れたくない。

「どうせ、現世へ帰る汽車は明日まで出ない……これも、夢の続きだと思えばいいさ」


　……ヒヨミさんはゆっくりと、俺の頭から洗ってくれた。指先が髪をかき分けて、頭皮にも冷たさを感じる。その間もずっと、冷やしおっぱいが背中にくっついてて気持ちいい。
　そうか、現世へ帰る汽車なんてあるのか。ならヒヨミさんの言う通り、夢の続きだと思ってもいいのかも……なんでここまでしてくれるのかは、分からねーけど。

「……あの」
「ん？」
「氷柱女って、風呂入ったら死んじゃうって聞いたような……」

　ヒヨミさんは笑って「平気だよ」と答えた。まあ、夏場に商売できるくらいだから大丈夫なんだろうとは思っていたけどな。ただ黙りこんで体洗ってもらうのも、なんか悪い気がしたから。

「妖怪も時代によっていろいろ変わるからね。今の氷柱女も雪女も多分、あんたの知ってる言い伝えより、ずっと強い妖怪になってるんだよ」
「そうッスか……よかった、ヒヨミさんが溶けたら嫌だから」
「ふふっ。よしよし、大丈夫だよ」

　優しく頭を撫でられた。冷たい体で優しくされて、冷めた体がまた熱くなりそうだ。お姉さんぶるのが好きなのか、もしくは弟が欲しかったのかもとか、そんな考えがあたまを過ぎる。

「けど雪女はともかく、氷柱女はちょっと強くなりすぎてね……流すよ」

　頭に湯を浴びせられ、髪を手拭いで軽く拭かれた。

「……あたしらの氷の妖力は、ある意味呪いでもあるというか……」
「の、呪い……？」
「自分の心に影響するんだよ。凍えそうなくらいの寂しさに、ずっと苛まれる」

　話しながら石鹸を泡立て、後ろから顔を洗ってくれるヒヨミさん。胸が背中に当たったり離れたり。堪えてきたが……さすがに、勃ってきた。

「だからあんたみたいな人を見ると、つい……こうやってベタベタくっつきたくなってさ。やらしい女だと思っただろうけど、助けてあげたお礼だと思って我慢してほしいな」
「我慢だなんて！　俺、むしろ……」

　出かかった本音を慌てて引っ込めた。ヒヨミさんは「そっか」なんて言いながら笑っている。
　多分、俺の股間がどういう状態なのか見えているはずだ。普段なら勃ったナニを鎮める方法はあるんだ、丸鋸でナニを細切れにされるシーンを想像するとか。けど今日に限っては全く効果が無え！

　とりあえず、他のことを話して誤魔化すか。

「よ、妖怪のこと、もっと色々知りたいッス！」
「ああ、妖怪好きって言ってたよね。なら現世じゃあんまり知られてないこと、教えてあげよっか」

　話しながら、俺の背中を洗い始めるヒヨミさん。勃ったナニを気にしてないみたいで、それはありがてぇ。

「妖怪も人間と同じで、素直なのもいれば、猫かぶるのもいるんだけど……体のある部分には、必ず本性が現れるんだって。どこだと思う？」
「ええと……目、とか？」

　多分違うだろうなと思ったが、目は口ほどに物を言うって言葉がある。まさか胸だとは言わないだろ。

「答えは、女陰」
「……じょいん？」
「お股についてるアソコのことだよ。お・ま・ん・こ」

　……心臓が爆発しそうってのは、こういうときのことか。おまんこ、ってハッキリ言った。ヒヨミさんみたいな、キレイな人が。

「男のソレをアソコに挿れると、中の具合で本性が分かるんだってさ。そうなるとどんな妖怪でも、全部曝け出すしかなくなるんだって……」

　エロい話を続けるヒヨミさんは、何処か楽しそうだ。話している間も、背中と腕を丁寧に洗ってくれている。

「ま、あたしはまだ処女でね」

　背中にお湯をかけて、石鹸を流された。またおっぱいが背中に押し付けられ、今度は体の前面を洗われる。そのまま耳元に口を寄せられて、冷たい息が耳にかかって。

「あたしの本性を知ることになるのは、どんな殿方なのやら……」

　青白い手のひらが、俺の左胸でピタッと止まった。

　指先で、鼓動を感じ取られる。

「あはっ。興奮してるね」
「そ、そんな話されたら、そりゃ……」

　本当に顔から火が出るなら、今頃風呂場を大火事にしてただろう。どう考えてもヒヨミさんは俺をからかって楽しんでる。いや、学校にも下ネタで男をからかう女子はいるが、この人の場合はふざけてる感じじゃない。なんかもっと、熱がこもっているというか。

　ヒヨミさんの冷たい指が、すーっと下に滑っていく。肌の上でスケートするみたいに。指も、背中に当てられる胸も冷たいのに、俺の方は熱くなる一方だ。
　しかも、石鹸の泡がたっぷりついたその手は、俺の股間へ向かっていった。

「じゃ、責任とって落ち着かせてあげる」

　にぎっ。
　細い、涼やかな指が、上を向いたナニに絡みついた。

「そ、そんなことまで、してもらう、なんて……！」
「そう？　ちょっとは期待してたんじゃない？」
「……まあ、ちょっとは」
「正直でよろしい。あたしに甘えてなよ」

　ニュルッと、指先が竿を撫でる。それだけでゾクゾクする。根本からカリの下まで、冷たいのに何処か温かみのある手で優しく洗われる。なんだこれ、自分でするより何倍も気持ちいい。

「ん……硬くて熱いね。立派だよ」

　耳元で囁かれるのも気持ちいい。ヒヨミさんは気持ちいいの塊か。
　今度は後ろから俺に抱きつくようにして、片手で先端を、もう片方の手で玉を洗い始めた。くすぐるみたいに、くびれに溜まったカスを掻き出すように。

「痛かったら言いなよ」
「い、痛くないッス！　す、すげぇ気持ちいい……！」

　なんつーか、感動のあまり正直に言っちまった。ヒヨミさんがクスッと笑う。このままイかされたら、射精するところを見られちまうのに、それも興奮する。
　心臓は相変わらずバクバク言ってるが、よく聞いてみれば俺の音だけじゃない。背中に押し付けられたふくらみ越しに、トクトクと小刻みに鼓動が伝わってくる。

　振り向いてみると、冷えた吐息が顔に当たった。ヒヨミさんの顔は相変わらず綺麗だけど、右目を覆っていた氷が溶けて、両方の目が見えていた。雰囲気が変わって、少し可愛く見える。息遣いも少し荒くて、心臓の鼓動も伝わってきて……ああ。この人も興奮してるんだ。

「……ねえ。もっと気持ちよくなりたい？」

　間近でそう言われて、もう夢中で頷くしかなかった。さっき出会ったばかりとか、そんなことはもう関係ねぇ。ヒヨミさんが好きだ、最初から一目惚れだったんだ。

「体、こっち向けて」

　そう言うヒヨミさんも、何だか嬉しそうだ。人とくっつきたくなる理由はさっき聞いたけど、妖怪ってのはこうもエロいことが好きなもんなのか。言い伝えの氷柱女は人間の男と結婚するため女の姿になったらしいし、それならエロくてもおかしくないかも……けどヒヨミさん、処女って言ったよな。

　とにかく、俺は身体の向きを変えた。さっきまで気持ちよくされていたナニを、ヒヨミさんに向き合わせる。
　改めてヒヨミさんの体を見たけど、やっぱりメチャクチャ綺麗で、メチャクチャエロい。胸の大きさは言うまでもねぇ、その下のおへそとか、くびれとか。ふとももは太すぎず、細すぎず、綺麗な脚だ。腕もだ、脇毛とか無いし。

　内股で椅子に座っていだけど、股の大事な所もちょっとだけ見えた。毛は生えてなくて、ツルッとした割れ目が一すじ。わざわざ剃ってるのか、妖怪は生えないのか……。

　見たって失礼ってことはないだろ。ヒヨミさんの方もなんか楽しそうに目を細めて、俺の勃起したモノをじっと見ているんだから。

「立ってよ」
「……ハイ」

　促されるまま立ち上がると、ナニがヒヨミさんの鼻先につんと当たった。股間にゆっくりとお湯をかけて石鹸を洗い流すと、ヒヨミさんの唇がナニを銜え込んできた。

「うお……!?」
「ん、あむっ……」

　これ、これって、フェラってヤツか。口の中で、舌がペロッと亀頭を舐めてくる。それだけで気持ち良すぎて、体が震えてきた。

「んんっ、はふっ……熱っ……」

　まるで焼き立てのソーセージでも食べてるみたいに、はふはふ言いながらナニを頬張るヒヨミさん。口の中は思ってたほど冷たくない。なんか優しい感触で、舌の感触がくすぐったくて……もう、出そうだ。
　透き通った瞳が、俺を見上げて来た。その視線にまで感じちまって、とうとう……

「で、出るっ！」

　そう叫んだ途端、ヒヨミさんは俺の尻に腕を回して抱きしめ、ナニを根元まで咥え込んだ。肌と違って冷たくない、むしろ温かい喉の奥へ亀頭が呑まれる。そこで思いっきり、今までの人生で一番気持ちいい射精を始めた。
　出している。ティッシュでも、オナホでも、便器でもなくて。ヒヨミさんの喉に。

「ん……ん……ん……ん……！」

　飲んでる。ヒヨミさんが俺の精液を飲んでくれてる。気持ち良すぎだ、やっぱり夢なんじゃないか？
　夢なら醒めないでくれってのは、こういう感情なんだな。そう思った後は、ただひたすら気持ちいいとしか考えられなかった。ヒヨミさんの頭を両手で押さえて、氷の糸みたいな髪の感触を受けながら、いつもの倍か、それ以上の精液を垂れ流していた。

　勢いが止んできて、ヒヨミさんの口の中がぎゅっとすぼまった。じゅーっと下品な音を立てて、残った精液を吸い出してくる。それがまた、たまらなく気持ちいい。

「……ぷはっ」

　ヒヨミさんが口を離して、柔らかくなったナニが解放される。俺の心の満足感を表してるみたいに、すっかり下を向いていた。
　脱力して、椅子に腰を下ろす。ケツに伝わる硬い木の感触が、これは現実だって自覚させる。そんな俺の前で、ヒヨミさんも呼吸を整えていた。なんか、「やってやった」って感じの、満足げな表情で。

「……全部飲んじゃった♥」

　今までの大人っぽい雰囲気とは違う、悪戯っ子みたいな笑顔。ギャップが可愛すぎる。
　脱力しきった俺の脚を、ヒヨミさんは再び洗ってくれた。俺も段々冷静になってきて、今の射精が何かおかしいと気づいた。

「あの、なんか……すごい量出した気がするんスけど……」

　そう。ヒヨミさんが全部飲んでくれたが、もし自分でするなら大量のティッシュが必要になるくらい、ヤバい量を出した気がする。しかも射精って普通一瞬なんだが、何分間か続いた気もする。

「ああ、この世界の水は人間に恩恵をもたらすらしいからね。それか……あたしが妖女だからかな」
「え？」

　ようじょ、と聞いて一瞬、幼い女と書く方を連想しちまった。いやいや、こんなおっぱいつけた幼女がいるかよ。

「男の精を吸う妖女って、聞いたことあるでしょ？」
「まあ……氷柱女ってそういうのでしたっけ？」
「昔は違ったけど、今じゃ大抵の妖怪はそうだよ。人間の体から、たっぷり精を吸う力があるってわけ」

　話しながら足の指まで丁寧に洗って、泡を流してくれる。狐とかは女に化けて、男の精を吸い取って殺すなんて聞いたが、少なくとも今の俺は……何ともない。

「ま、あたしはこういうの、初めてだったけど……ふぅ」

　小さく息を吐き、ヒヨミさんは自分の胸に手を当てた。うっとりとした、なんか色っぽい笑顔。
　出し尽くしたはずの股間が、少し反応しちまった。

「こんなに、心が温まるんだ……」

　青い瞳が、また俺を見た。なんか妖艶な、笑っているけど、何か考えているような……そんな表情だった。

　ふいに、冷たい空気を感じた。真冬の風みたいなのが一瞬、風呂場の中に流れる。クシャミが出そうになったが、ヒヨミさんの手に握られたものを見て引っ込んだ。

　氷柱だ。透明で、長くて、槍の穂先みたいに鋭い、武器なりそうな氷柱。それを逆手に持って、切っ先(と言っていいだろう)が俺に向けられた。

「ヒヨミさん……!?」
「ごめんね」



　止める間も、叫ぶ間も無ぇ。
　ヒヨミさんはその氷柱を、俺の胸に突き刺した。