連載小説
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かくらん

 ああ、畜生め。
 頭が痛い。顔が熱い、苦しい。

 なんかガタゴト音がしやがる。電車みたいな……幻聴が聞こえてきやがったか?
 いや、幻聴だけじゃない。ケツに振動まで伝わってくる。



「……ねえ……おーい、アンタ。大丈夫?」

 女の声まで聞こえてきやがった。何が起きてるんだか……ああ、夢か。
 かと思えば、額に冷たい物が触った。気持ちいい。誰かが氷でも持ってきてくれたのか。あのクソ顧問はそんなことしないだろうけど、他の誰かが。

「こりゃ……風邪じゃない、霍乱だね」

 女の声と、なんかひんやりした息を感じる。うっすら目を開けると、声の主が俺の額に冷たい手を当ててくれていた。

 学校の女子じゃねーな。つーか、現実でもねーわ。夢だ、これ。
 ゾクッとするくらいの美人だけど、それだけじゃない。肌は色白を通り越して青みがかってるし、何より顔だの襟元だのから氷柱がニョキニョキ生えてやがる。ついでに着てる服は着物……胸元の肌けた、妙にエロい和服姿ときた。

 うん、夢だ。夢に決定。
 となれば、好きなようにしていいよな。この美人、肌けた胸元からかなりボリュームのある谷間が見えてやがる。手足は重いが、ここに指を突っ込むくらいはできる。

「……おやおや」

 柔らかい谷間に触っても、女はクスッと笑うだけで嫌がらない。さすが夢、ご都合主義ってやつだ。くそ、だったら体も元気になってくれりゃ、もっと色々なことできるのに。
 しかしこの胸、体温なんてまるでなくて、氷みたいに冷たい。そのくせ、マシュマロみたいに柔らけー。ああ、気持ちいい。

「助平心を起こせるなら、そこまで深刻じゃなさそうだけど……このままじゃいけない」

 美人は背負っていたリュックみたいなのを下ろして、俺の隣に置いた。胸もさることながら、ふとももまで綺麗だ。青白いのにムチッとしてて健康的に見えるとか反則だろ。
 ってか着物の裾短すぎ。何このエロ和装。女神だこの人。

「安心しなよ。医者じゃないけど、霍乱ならあたしの得意分野さね」

 ごそごそと荷物を弄り、中から何か丸いものを取り出した。赤や紫の混じった、ビー玉みたいなのを三つ掌に乗せて、俺に差し出してくる。

「口を開けて」

 冷たい指先が唇を撫でてきて、俺は言われるままに口を開いた。そこへ一個ずつその玉を入れられると、途端に口の中が冷えてきた。氷……いや、凍った果物か?
 じわっと溶けた、濃くて甘酸っぱいジュースが口いっぱいに広がった。ちょっと梅みたいな味もする。飲み込むと、冷たいのがスーッと胃に降りていく。あ、なんか吐き気とかが無くなって、楽になってきたような。
 女神様は俺の顔を覗き込んで、にこって笑ってた。なんか俺も頰が緩んじまう。

「これで良くなってくるだろ。けど、駄目押ししとこうか」

 そう言うなり、女神様の胸が俺に近づいて……谷間に顔面を挟み込まれた。

「ほぉら、冷やしおっぱい」

 うお……すげえ。霜が付いてるくらい冷たいおっぱいだってのに、むにゅむにゅ柔らけー。しかもほんのり、いい匂いがしやがる。どんどん気分が良くなってくるわ。
 間違いねーわ、例え夢でもこの人は……

「め……」
「ん?」
「めがみ……さま……」
「……こらこら。やめてよ、畏れ多い」

 苦笑しながら、俺の頭を撫でてくれる女神様。いい気分すぎて眠くなってくる。あー、このまま死んでもいいか。少なくとも最悪の死に方じゃないだろ……。

「あたしはただの……おせっかいな妖怪さ」
23/10/22 23:44更新 / 空き缶号
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