おひさまはたかく
見慣れない天井の下で、爽やかな目覚めを迎えた。囲炉裏や畳を見渡して、この世界へ来たことが夢ではなかったことを自覚する……というのは、これで二回目だ。
外は明るく、もうお昼近いんじゃないかと感じた。蜘蛛のオバケたちと、奇妙なセックスで童貞を捨てた記憶を思い起こす。体を拘束していた蜘蛛の糸や、アカネちゃんに着けられた首輪はなくなっていたけど、自分の体から少しおしっこのニオイがした。やっぱり夢じゃない、と思うと、また股間が大きくなる。
「あっ……コウキくん」
襖が開いて、トモネちゃんとアカネちゃんが入って来た。もう隠す必要はなくなったからか、下半身は蜘蛛のまま。二人ともソワソワした様子で、八本の脚をせわしなく動かして駆け寄ってくる。
おはよう、と言おうとしたとき、二人は並んで頭を下げた。
「昨日はイジメてごめんね! トモネたち、夜になると……好きな子に、イジワルしたくなっちゃうの……」
「アカネたちのお母さまも、お祖母さまもそうなんです……本当にごめんなさいっ!」
「だ、大丈夫だよ! その、気持ちよかったし……」
姿は半人半蟲のままでも、双子達は昨日の昼間と同じ、優しい二人に戻っていた。確かに昨夜の二人は、いかにも僕に意地悪をして楽しんでいた。昼と夜で気性が変わってしまう、そういうオバケなんだと、子供なりに理解した。
僕が怒ってないと分かって、二人は安心したようだった。
「……あそこにせーえき飛ばしたごほうび、まだだったでしょ?」
トモネちゃんが、例の柱を指差す。『知音』『朱音』の名前と、身長が彫られた柱。二人の身長より高く飛ばしたらご褒美と、確かにそう言われていた。
「だからね、おふろ沸かしたの」
「ご飯の前に……おふろで、体洗ってあげるのがごほうび……で、いいですか……?」
「うん! それがいい!」
即答した。二人とお風呂に入れるなんて、きっと楽しいに決まってる。
お屋敷の風呂場は、子供三人でなら十分広々と使えた。二人はお尻から糸を出し、それを丸めてスポンジのような物を作って、体を洗ってくれた。アカネちゃんは僕におしっこをかけたことを気にしているのか、体のニオイを嗅ぎながら念入りに擦ってくれた。
僕の体は石鹸の泡まみれになったけど、トモネちゃんとアカネちゃんは僕の出した精液まみれになっていた。股間が大きくなるたび、小さくてぷにっとした胸をそこに擦り付けて洗ってくれたからだ。
体が綺麗になった後、三人でくっつきながら湯船へ入った。人の肌とも蜘蛛の外骨格とも体が触れ合う。
温かいお湯の中でくつろぎながら、二人は昔の話をしてくれた。
「トモネたちね……前にも、神隠しされた男の子に会ったの」
「たすけたかっただけなのに、その子……アカネたちのすがたを見て、泣き出しちゃって……」
その子はもっと人間に近い姿のオバケに連れて行かれ、無事に帰ったという。けれど二人は怖がられたことがショックだったようだ。優しい両親や他のオバケたちの中で、愛されて育ったから。
だから僕と会ったときも、怖がらせないよう人の姿に化けた。ただ、普段履いていない下着や靴まで再現するのは忘れていたようだ。
けれど夜になると秘めた気性が現れて、やっぱり怖い思いをさせてしまう。だから僕に一人で寝るように言ったけれど、本当は二人もムラムラして寝られなかった。
「……だからね、コウキくんとこうやって……本当のすがたで仲良くできるの、すっごくうれしい」
お湯の中で手を繋いで、二人も楽しそうだった。好きな女の子が喜んでくれるのって、こんなに幸せだったんだな、と思った。たまに蜘蛛の脚がこちらの脚に絡んできたり、頬にキスしてくれたりした。
「あの……もう二度とお家に帰れないっていうの、ウソなんです」
ふいに、双子達は目配せすると、アカネちゃんがそんなことを言い出した。二人と結婚する、なんて話のときに言われたことを思い出す。
「今日は、汽車の時間に間にあわないかもですけど……コウキくんが帰りたければ、帰らせてあげます。でも……!」
「トモネたち、夜になったらまた悪い子になって、イジワルしちゃうと思う……でも、コウキくんのこと大好きだから、だから……!」
双子たちの言いたいことが、何となく分かった。僕も同じ気持ちだったから。もっと楽しく生きていいんだ、自由でいいんだと、二人が教えてくれた。両親のために僕が女の子を嫌いになる必要も、いつまでも悶々として生きる必要もないんだ。
その時の僕の答えが、僕らの今と、そして未来に繋がっている。
「僕、帰りたくない。二人とずっと、一緒にいたい」
そのときの二人の喜びようはずっと忘れないだろう。湯船の中でぎゅうぎゅうと抱きつかれ、どれが誰の脚か分からないくらいだった。
大人のキスというのも、そのとき初めて経験した。トモネちゃんにいきなり唇を奪われ、舌を入れられたときはびっくりしたけど、甘い吐息が口の中に広がって……とても気持ちよかった。待ちきれなくなったアカネちゃんが無理矢理割り込んできたから、三人で唇を合わせてぺろぺろ舐め合う形になった。今でもよくそうなる。
「……夜にまたイジワルしちゃうから、お日さまがしずむまでは……いっぱい、やさしくしちゃうね」
「よろしくお願いしますね、旦那さま……いつまでも、どこまでも……」
……あれから随分経ったけど、今でも鮮明に覚えている。僕にとっても、トモネちゃんにとっても、アカネちゃんにとっても、あの出会いが大きな転換点だった。最近は特によく思い出し、そして願うのだ。
二人のお腹に宿った娘たちにも、そんな素敵な出会いが待っていることを。
ーーおわり
外は明るく、もうお昼近いんじゃないかと感じた。蜘蛛のオバケたちと、奇妙なセックスで童貞を捨てた記憶を思い起こす。体を拘束していた蜘蛛の糸や、アカネちゃんに着けられた首輪はなくなっていたけど、自分の体から少しおしっこのニオイがした。やっぱり夢じゃない、と思うと、また股間が大きくなる。
「あっ……コウキくん」
襖が開いて、トモネちゃんとアカネちゃんが入って来た。もう隠す必要はなくなったからか、下半身は蜘蛛のまま。二人ともソワソワした様子で、八本の脚をせわしなく動かして駆け寄ってくる。
おはよう、と言おうとしたとき、二人は並んで頭を下げた。
「昨日はイジメてごめんね! トモネたち、夜になると……好きな子に、イジワルしたくなっちゃうの……」
「アカネたちのお母さまも、お祖母さまもそうなんです……本当にごめんなさいっ!」
「だ、大丈夫だよ! その、気持ちよかったし……」
姿は半人半蟲のままでも、双子達は昨日の昼間と同じ、優しい二人に戻っていた。確かに昨夜の二人は、いかにも僕に意地悪をして楽しんでいた。昼と夜で気性が変わってしまう、そういうオバケなんだと、子供なりに理解した。
僕が怒ってないと分かって、二人は安心したようだった。
「……あそこにせーえき飛ばしたごほうび、まだだったでしょ?」
トモネちゃんが、例の柱を指差す。『知音』『朱音』の名前と、身長が彫られた柱。二人の身長より高く飛ばしたらご褒美と、確かにそう言われていた。
「だからね、おふろ沸かしたの」
「ご飯の前に……おふろで、体洗ってあげるのがごほうび……で、いいですか……?」
「うん! それがいい!」
即答した。二人とお風呂に入れるなんて、きっと楽しいに決まってる。
お屋敷の風呂場は、子供三人でなら十分広々と使えた。二人はお尻から糸を出し、それを丸めてスポンジのような物を作って、体を洗ってくれた。アカネちゃんは僕におしっこをかけたことを気にしているのか、体のニオイを嗅ぎながら念入りに擦ってくれた。
僕の体は石鹸の泡まみれになったけど、トモネちゃんとアカネちゃんは僕の出した精液まみれになっていた。股間が大きくなるたび、小さくてぷにっとした胸をそこに擦り付けて洗ってくれたからだ。
体が綺麗になった後、三人でくっつきながら湯船へ入った。人の肌とも蜘蛛の外骨格とも体が触れ合う。
温かいお湯の中でくつろぎながら、二人は昔の話をしてくれた。
「トモネたちね……前にも、神隠しされた男の子に会ったの」
「たすけたかっただけなのに、その子……アカネたちのすがたを見て、泣き出しちゃって……」
その子はもっと人間に近い姿のオバケに連れて行かれ、無事に帰ったという。けれど二人は怖がられたことがショックだったようだ。優しい両親や他のオバケたちの中で、愛されて育ったから。
だから僕と会ったときも、怖がらせないよう人の姿に化けた。ただ、普段履いていない下着や靴まで再現するのは忘れていたようだ。
けれど夜になると秘めた気性が現れて、やっぱり怖い思いをさせてしまう。だから僕に一人で寝るように言ったけれど、本当は二人もムラムラして寝られなかった。
「……だからね、コウキくんとこうやって……本当のすがたで仲良くできるの、すっごくうれしい」
お湯の中で手を繋いで、二人も楽しそうだった。好きな女の子が喜んでくれるのって、こんなに幸せだったんだな、と思った。たまに蜘蛛の脚がこちらの脚に絡んできたり、頬にキスしてくれたりした。
「あの……もう二度とお家に帰れないっていうの、ウソなんです」
ふいに、双子達は目配せすると、アカネちゃんがそんなことを言い出した。二人と結婚する、なんて話のときに言われたことを思い出す。
「今日は、汽車の時間に間にあわないかもですけど……コウキくんが帰りたければ、帰らせてあげます。でも……!」
「トモネたち、夜になったらまた悪い子になって、イジワルしちゃうと思う……でも、コウキくんのこと大好きだから、だから……!」
双子たちの言いたいことが、何となく分かった。僕も同じ気持ちだったから。もっと楽しく生きていいんだ、自由でいいんだと、二人が教えてくれた。両親のために僕が女の子を嫌いになる必要も、いつまでも悶々として生きる必要もないんだ。
その時の僕の答えが、僕らの今と、そして未来に繋がっている。
「僕、帰りたくない。二人とずっと、一緒にいたい」
そのときの二人の喜びようはずっと忘れないだろう。湯船の中でぎゅうぎゅうと抱きつかれ、どれが誰の脚か分からないくらいだった。
大人のキスというのも、そのとき初めて経験した。トモネちゃんにいきなり唇を奪われ、舌を入れられたときはびっくりしたけど、甘い吐息が口の中に広がって……とても気持ちよかった。待ちきれなくなったアカネちゃんが無理矢理割り込んできたから、三人で唇を合わせてぺろぺろ舐め合う形になった。今でもよくそうなる。
「……夜にまたイジワルしちゃうから、お日さまがしずむまでは……いっぱい、やさしくしちゃうね」
「よろしくお願いしますね、旦那さま……いつまでも、どこまでも……」
……あれから随分経ったけど、今でも鮮明に覚えている。僕にとっても、トモネちゃんにとっても、アカネちゃんにとっても、あの出会いが大きな転換点だった。最近は特によく思い出し、そして願うのだ。
二人のお腹に宿った娘たちにも、そんな素敵な出会いが待っていることを。
ーーおわり
23/02/22 21:49更新 / 空き缶号
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