お祭りの前に体を洗っておこう、ということで、サヨさんが駅員用のお風呂に入れてくれた。古い木製の、けれど綺麗に掃除された、レトロな浴場だ。
　体を洗いながら考えたのは、サヨさんのことばかりだ。今後どうするべきかとか、いろいろ考えなきゃならないことはあるのに、自然とサヨさんの青い瞳が、赤い靴が、白磁のような肌と笑顔が頭に浮かんでくる。
　もし彼女に出会わなければ、線路の真ん中で途方に暮れていただろう。下手すれば事故に遭うか、霧で周りが見えないまま海へ転落していたかもしれない。そればかりかこうして面倒を見てくれて、いくら感謝しても足りないだろう。

　ちょうど良い加減の湯船に、ゆっくりと浸かる。いい気持ちだ。母の金切り声が聞こえてくる心配もない。
　あの烏天狗の女の子が言ったように、この世界に永住できれば。向こうでのうんざりする生活とはオサラバできる。母さんが周りに迷惑をかけないかが心配だけど、よくよく考えたら僕が責任を持つことじゃない。

　でも、こっちに残りたい理由は、それ以上に……。

「……サヨさん」

　自然と名前が声に出てしまい、自分で驚いた。浴場には僕1人だが、無性に恥ずかしくなる。

　現世の辛さから逃れるためではなく、あの子と一緒にいるためにここへ残りたい。赤い靴を履いた、綺麗な瞳の生きた人形。僕の母みたいな人間に踏み躙られて、それでも笑顔で楽しそうに暮らしている女の子。
　僕に親切にしてくれるのは、珍しさからかもしれない。それでも僕はサヨさんのことをもっと知りたいし、もっと見ていたい。

　さっきの彼女の瞳、あの妖しい輝きを見てから、その気持ちがどんどん強くなっている。今日出会ったばかりなのにここまで心惹かれるのは、どうしてだろう。僕は人ならざる力に魅了されているのだろうか。

「シューさん、お湯加減はどう？」

　風呂場の戸の向こうから、サヨさんの声が聞こえた。わざわざ様子を見に来てくれたんだ。

「ちょうど良いよ。ありがとう」
「そっかー」

　その直後、ガラリと戸の開く音。心臓が止まった気がした。けれどその直後、血管が破裂するんじゃないかという勢いで脈拍が高まった。
　サヨさんが浴場に入ってきたのだ。一糸纏わぬ姿で、手拭いだけ持って。

「ど、どうしたの⁉」

　慌てて目を背ける。自分の心臓の音に混じって、「くすっ」という笑い声が聞こえた。

「私も汚れてるから、お風呂入らなきゃ」
「こ、ここは男用なんじゃ……？」
「混浴だよ？」

　さらっと言いながら、サヨさんは洗い場の椅子に座り、体を洗い始めた。水の音が聞こえる。
　落ち着け、と自分に言い聞かせた。こっちじゃ普通のことなのかもしれない。サヨさんが気にしていないなら、僕がいやらしい考え方をしなければいいんだ。

　そう思って、しばらく湯船の中でじっとしていた。巨大な仏像の並んだ外の景観を思い出して心を鎮めながら。サヨさんが体を洗いながらお祭りの話をしてきて、僕はあやふやな受け答えをする。

　けれど。一瞬見たサヨさんの裸が、頭の中にちらつく。おさげを解いた黒髪も、手足や肩の球体関節も、滑らかな白い肌も、継ぎ目のあるお腹と小さなおへそも。
　思っていたより、大きな胸も。

　それに、脚の間に見えたアレは……


　ちらりと、彼女の方を見てしまう。
　白磁のような肌は石鹸の泡にまみれて、本当に人形なのかと思うほど柔らかそうな質感だ。けれど球体関節の隙間を念入りに洗っているのを見て、人形には違いないんだと実感する。
　かゆかったのか、胸の膨らみを指先で掻いていた。ちゃんとピンクの乳首があるおっぱいは小さく揺れる。何でできているのだろう。

　サヨさんは洗面器のお湯を頭から浴びて、泡をすっかり洗い流してしまう。その肌は輝かんばかりだ。
　そのままサヨさんは立ち上がり……僕と目が合って、ニコリと微笑む。

「ご、ごめん！」

　反射的に謝って目を背ける。またクスッと笑い声が聞こえた。

「見ていいんだよ？　私は人形だもん」
「で、でも、ただの人形じゃないし……その……」

　上手く言えないでいると、彼女の綺麗な足が湯船へ入ってきた。僕のすぐ隣に。

「うん。でもね、やっぱり顔や体を見て『可愛いな』『綺麗だな』って思ってもらえると……人形はとても幸せなの」

　肩の下までお湯に浸かり、身を寄せてくるサヨさん。肌が触れ合った。

「それともシューさんは、勝手に動いて喋る人形なんて嫌い？」
「そんなこと……！」

　否定しようとした途端、自然と目が合った。青い瞳、あの妖しい輝き。
　そのまま、目が離せなくなった。

「シューさんの顔、真っ赤になってる。のぼせちゃったわけじゃ……なさそう」

　彼女の視線が下へ、手で隠している股間へと落ちる。恥ずかしくて死にそうなのに、何故か逃げ出すことができない。まるでサヨさんの視線に縛り付けられたかのうように、体が動かなかった。
　髪を後ろでまとめたサヨさんは、また違った可愛さがあった。そのまま僕をじっと見つめ、人形の女の子はとても楽しそうだ。

「……かわいいっ」

　ふいに、真っ白くて柔らかいものに視界を奪われた。むにゅっとした膨らみが顔に触れる。

　サヨさんの胸だった。僕の頭を胸に抱きしめて、愛おしそうに頭を撫でてくれている。顔を谷間に挟まれて、人形とは思えない柔らかさと温かみを刻み込まれる。

「シューさん、心臓のドクドク、すごいね……私にはない、素敵な音」

　僕を抱きしめ、片手で頭を撫でて、もう片方の手で首筋をさする。脈を感じているんだと分かった。

「ね。私のおっぱい、やっぱり人間の女の子とは違うかな？」
「そ、それは……人間の、触ったこと、ないし……」

　谷間で辛うじて返事をする。「おっぱい」という単語が彼女の口から出たことに尚更興奮してしまう。「そっかー」と笑いながら一層強く抱きしめてくる。
　本当のところ、人間のに触ったことがなくても、サヨさんのおっぱいの感触はどう考えても本物と違っていた。ツルツルした感触は明らかに人間の肌ではないし、心臓の音も聞こえない。けれど僕の顔を優しく挟み込んで、すごくモチモチしていて、最高に幸せな柔らかさだった。このまま抱かれていたら、本当に虜になってしまいそうな。

　ふいに谷間が離れて、ツンと尖った乳首を口元に押し付けられた。ちゃんとピンクに色づいた乳首……僕は心が赤ん坊になってしまったかのように、自然にそれを口に含んでしまった。

「ふふっ、変なの。私がシューさんを可愛がってる。これじゃシューさんの方がお人形さんだね」

　夢中で乳首を吸う僕の額に、胸とは違う柔らかいものが当たる。キスされたんだ、と分かった途端、反射的に彼女に抱きついていた。抱きしめたんじゃなくて、抱きついた。完全に僕が甘える側だった。
　彼女の体はどこもツルツルしていて、とても柔らかい。背中から肩、腕を撫でて感触を確かめる。球体関節のところは少し硬かった。

「……男の子の大事なところが、私のこと見上げてる……♥」

　その呟きの意味を理解するのに、1秒くらいかかった。僕が彼女に抱きついたから、股間を隠すものがなくなった。完全に勃起した肉棒が、湯船の中からサヨさんの方を向いている。
　恥ずかしい。でもサヨさんの体を離したくない。おっぱいを吸うのも止められない。

「……触っても、いいよね？」

　僕の返事を待たず、お湯の中で人形の手が股間を撫でてきた。甘い刺激にびくんと震える肉棒。思わず口を乳首から離すと、笑顔のサヨさんが僕を見下ろしていた。瞳の青に心が吸い込まれそうになるも、すぐにまたおっぱいで視界を奪われた。

「私ね、人形だけど、女の子の大事なところもちゃんとあるんだよ」

　不思議な人形の手は、優しくさするように肉棒を刺激してくる。湯船の中で汁が漏れ出すのを感じながらも、体は多幸感から逃げられない。

「妖怪になってからできたの。……シューさん、興味あるかな……？」

　耳元で囁かれた。やっぱり、さっき見えたのは女の子特有の『割れ目』だったのか。ぴったりと閉じたそれが脳裏によぎる。
　肉棒が勝手に、ぴくんと動いた。

「わっ。おちんちんさんが『興味ある』って」

　恥ずかしさのあまり、より強く乳首に吸い付いてしまう。サヨさんが「んっ」と声を出した。

「おっぱい吸ってもらうのって、気持ちいいんだね……大事なところ同士を繋げるのって、もっと気持ちいいんだろうな……」

　ぼんやりした頭でも、彼女の表現をなんとか理解できた。今撫で摩られている僕の性器を、サヨさんの性器へ入れる。本番、セックス、交尾。
　興奮が高まっていく。同時に、彼女が汽車の中で話してくれたことを、一つ思い出した。


　ーー妖怪の女の子はみんな優しいけど、気をつけてねーー

　ーー男の子と会うと、気性がちょっと淫らになるのーー


　さらっと他人事のように言っていたけど、サヨさんとて妖怪なのだ。

「でも、それはもうちょっと後にしよっか」

　肉棒を撫でる手の動きが止まった。乳首が口から離れ、風呂場の湿った空気が口に入ってくる。

　サヨさんが浴槽の縁を叩いて、「ここに座って」と促してくる。それはつまり、お湯の中で怒張した股間が丸見えになってしまうということ。

「ほら、早く」

　肉棒を軽く引っ張って急かされると、羞恥心が彼女への愛おしさに負けた。ゆっくりと立ち上がり、自然とサヨさんに肉棒を見せつける形になりながら、腰を下ろす。
　勃起したそれは今まで経験したことがないほど、硬くなってそそり立っていた。これまでの人生で経験した勃起が、全て紛い物だったんじゃないかとさえ思った。

「わぁ……」

　無邪気さと色気の混ざった眼差しでそれを見つめ、サヨさんが感嘆の声を上げる。ふいに羞恥心が込み上げ、また股間を手で隠してしまう。
　けど。

「めっ！」

　ぺちん、と叩かれた手を反射的に引っ込めた。

「隠すなんてダメだよ？」
「ごめんな、さい……」

　自然と謝ってしまった瞬間、僕は自分が彼女の人形になったような気がした。サヨさん自身がそう言ったように。

　そしてサヨさんは湯船に浸かりながら、僕の股間に顔を近づける。

「こんにちは、おちんちんさん」

　ぬいぐるみに話しかける女の子のように、怒張した男性器に話しかけてくる。青い目を輝かせながら。

「あなたはとっても美味しそう。舐めてみてもいいかしら？」
「ちょっ、サヨさん、それは……！」

　今そんなことをされたら、もうサヨさん無しじゃいられなくなる。けれど淫らな人形は悪戯っぽく笑い、再び股間に触れてきた。肉棒ではなく、玉の方へ。
　指先がこちょこちょと敏感なところをくすぐってきた。ぴくん、ぴくんと肉棒が反応する。

「おちんちんさんは頷いてくれたから、舐めちゃうね♥」

　許可は僕に求めたわけではなかった。止める間もなく、舌先で亀頭をペロッと舐められる。
　それだけで痺れるような快感を覚えた。暖かくて柔らかい舌の感触。竿に添えられた指の優しさ。

「ん、おいし♥」

　本当に美味しかったのか、僕の反応に気をよくしたのか、鈴口を舌先でチロチロとくすぐってきた。思わず声が出てしまう、たまらない気持ち良さだ。
　今度はちゅっ、ちゅっと音を立てながら、肉棒にキスを繰り返される。ぷるぷるした唇の感触が吸い付いてきた。自分の手で肉棒をしごくのとは比べ物にならない。青い瞳が上を向き、僕の顔を見て満足げに笑みを漏らす。

「……どうしよっか？」

　ふいに口を離し、僕を見上げるサヨさん。

「シューさんが嫌だったら、もう止めるよ？」
「……意地悪だよ、それ」

　嫌だなんて言えないのを、分かってて言っている。そんな悪戯っぽい笑顔だった。無邪気だけど妖艶な青い瞳は、相変わらず楽しそうに僕を見ている。

「ごめんね。でも、シューさんから言って欲しいの」

　そう言って、今度は亀頭に頬ずりしてきた。まるでぬいぐるみにするように。
　ほっぺもまたツルツルした感触で、柔らかくて。焦らすような気持ちよさだった。何よりこんなに可愛い女の子が、僕の男性器に頬擦りしているなんて……そんな非現実的な倒錯感が、理性なんて吹き飛ばしてしまった。

「もっと……もっとして欲しい……！　射精させて欲しい……！」

　恥も外聞もない声を風呂場に響かせてしまった。サヨさんは笑っていたが、馬鹿にした笑い方ではなく、嬉しそうな笑顔だった。
　先程まで僕の顔を抱きしめていた胸が、僕の股間に突きつけられる。彼女は球体関節の手でおっぱいを左右に開き、谷間を見せてきた。これは……

「よい、しょっ」

　むにゅっ、とおっぱいに挟み込まれる肉棒。裸を見たときに意外と大きいとは思っていたけれど、谷間に亀頭がすっぽり埋もれてしまった。僕が小さめだからでもあるだろうけれど。
　球体関節の指が左右から乳房を押し付け、上下に擦り付けてくる。ツルッとした人形の肌は、何も塗っていないのにとても滑らかで、大きな摩擦もなく肉棒を擦れていく。

「あぅぅ……」
「気持ちいいんだ？　嬉しいっ♥」

　情けない声を出す僕に、サヨさんは満足げだ。谷間に挟まれた肉棒が、何だかジンジンと疼き始める。
　変化に気づいたのは、きつく閉じられたおっぱいの間から、亀頭がちょこんと顔を出したときだった。僕のそれが、大きくなっている。勃起しているだけでなく、大きさ自体が変わったのだ。

「さ、サヨさん、何を……？」
「私は何もしてないよ。この世界の水は人間に恵みをもたらすから、それじゃないかな？」

　サヨさんの胸の動きに合わせて、お湯の水面がゆらゆらと波立つ。青い瞳が、谷間の亀頭を凝視していた。

「何だか可愛いね。おっぱいから先っぽだけ出てるのって」

　可愛いと褒められた肉棒は、谷間の快感でもう限界に達しそうだった。それを知ってか、綺麗な唇からまたピンク色の舌が伸びた。顔をグッと下へ向け、胸に抱いた亀頭を舐めてくる。
　その舌先のくすぐったさが、引き金となった。

「サヨさんっ、出ちゃう！」

　言葉が終わるか終わらないか、というタイミングでそれが迸った。
　今まで感じたことがないほどの快感と一緒に、白い液体が弾ける。谷間で肉棒がしっかり捕まえられているため、向きを変えることもできない。サヨさんの顔へ、白いのを思い切りひっかけてしまう。

「ひゃあっ♥」

　甘い悲鳴が風呂場に響いて、おっぱいが股間から離れた。謝らなきゃと思ったとき、また違和感に気づいた。
　射精がなかなか止まらないのだ。肉棒は快感が続いたまま激しく脈打ち、綺麗な人形の顔を、体を汚していく。

「あむっ」

　精液を噴き出し続ける性器を、彼女の口が咥え込む。口の中の温かさが気持ちよくて、脈打ちはさらに激しさを増した。

「んっ、んっ、んっ、んっ……♥」

　喉を鳴らして一生懸命に、僕の精液を飲んでくれるサヨさん。綺麗な顔を白い粘液で汚されたのに、夢中でペニスを吸ってくれる可愛らしい人形。その非現実的な光景に、余計脈打ちが強まった。
　それでもサヨさんは精液を飲み込もうとしたが、とうとう口を離してしまう。最後に少量噴き出した白濁を、また顔に浴びせてしまった。

「はぁ……はぁ……すっごい、べとべと」
「ご……ごめ、ん……」

　気持ち良すぎて頭がクラクラする中、なんとか謝る。顔は人形の命だと彼女自身も言っていたのに、よりによって精液なんかで汚してしまうなんて。
　けれど、サヨさんは満足げだった。顔中をべとべとにされたのに。

「へーきへーき。私こそ全部飲めなくて、ごめんね」

　顔に浴びた白い粘液を、指で拭うサヨさん。球体関節にも絡みついたそれをまじまじと見つめ、目を輝かせる。
　射精が止まっても、まだ気持ち良さが続いている。力が脱ける。

「コレが精液……赤ちゃんの素なのね。やっぱり人間さんって素敵……」

　指の間で白濁を捏ね、糸を引いたり、愛おしそうに胸に塗りつけたり。
　精液で遊ぶサヨさんを見ているうちに、僕の意識は遠のいていった……最高に幸せな気分で。