雪の降る中を、あてもなく無我夢中で歩き続けた。

　いつしか辿り着いたのは大きな森だった。針葉樹には雪が降り積もり、全てを白で覆い隠そうとしている。住んでいるのは野生動物が、でなければ魔物くらいだろう。大木に寄りかかると、僕の肩にも雪が積もり始めた。
　悪くない場所だ。僕みたいなのが野垂れ死ぬにはちょうど良い。

　楽器のケースを開け、愛用のバイオリンを取り出す。70年前にレスカティエで作られた品だ。錬金術師が開発したというニスでコーティングされ、琥珀色に光り輝いている。その音の力強さに惚れ込み、生涯使い続けるつもりでいた。そして自分が年老いて死ぬときには次の世代に託そうとも思っていた。僕が死んだからといって、この素晴らしい楽器を道連れにしてはならないと。
　だが、駄目だ。このバイオリンをこれ以上汚させはしない。

　これが最後の演奏だ。楽器を胸に当て、弓を当て合う。腕は自然に動き、民謡を奏で始めた。楽器は僕の魂の一部だ。弾こうと思って弾くのではなく、自然に手が動く。少し前までは勇壮なメロディーが出てきたのに、今は素朴な曲が出てくる。本来こんな名器で演奏するようなものではない、子供の歌だ。

　少年時代を思い出さずにはいられない。親に強制され、嫌々ながら音楽の道を歩んでいた時期もあった。本気で腕を磨き始めたのは、失恋の辛さを紛らわせるためだった。そして大人になった僕は、人々の自由のために演奏した。
　そのはずだったのに。

　ただただバイオリンを弾く僕の上に、雪が舞い落ち、体の熱ですぐに溶けていった。
　もうすぐ、この熱も失われる。

　一曲弾き切ると同時に、辺りは再び静寂に包まれるはずだった。それなのに木々の合間に響いたのは、聞こえるはずのない……拍手の音だ。

「兄ちゃん、楽器うめぇだな」

　可愛らしい女声が、耳に優しく届いた。

「んだども、どしてこっただ所さいるだ？」

　ザクザクと雪を掻き分ける足音が、複数近づく。

　だが振り向いてみると、そこにいたのは冬外套に身を包んだ女性一人だけだった。18歳くらいだろうか、どこか垢抜けない、可愛らしい田舎娘といった顔立ちだ。くりくりとした目は興味深げに僕を見つめ、頬には笑窪が浮かんでいる。背中には弓と矢筒があった。
　死ぬ時が来たようだ。彼女の腰から下にあるのは2本の脚ではなく、節のついた昆虫の半身だったのだ。短めの黒髪の合間から立った触覚も、動きからしてどうやら本物らしい。

　魔物だ。本物を見るのは今日が初めてで、おそらく最後だろう。

「ん？　どーしただ？」

　上半身を少し屈め、上目遣いに顔を覗き込んでくる蟻の娘。言葉を発する唇は薄いピンク色で、若干のあどけなさが残っている。どの道死ぬつもりでいたのだ。この口に食べられるなら、そう悪くもない。

　だが彼女が口を開いて食らいついてくることはなかった。くるりと背を向けて、こちらを振り向き……ニコリと笑う。

「もう暗くなっちまうだよ。うちでご飯さ食べてけし」

　そう言うと、蟻の娘は六本の足で雪道を歩き出す。だがどういうわけか、僕と彼女の距離が開くことはなかった。

　僕が無意識の内に彼女を追っていたのだ。足が勝手に動くような、そんな感覚で。
　雪を踏み分け、木々の合間を抜け……彼女は時折、こちらを振り返って微笑む。ああ、どうやら僕は正気を失ったようだ。魔物の力に当てられるとそうなるという話を聞いたことがある。

　だが腕だけは正気なようだ。抱きかかえたバイオリンだけはずっと、手放さずにいるのだから。









　……どれくらい歩いただろうか。雪化粧の施された山の斜面に、ぽっかりと洞穴が空いていた。入り口にいるのは2人の少女……同じ蟻の魔物だ。槍と丸盾を携えて守りに着いている。ここが住処のようだ。

「ただいま〜」
「おっ、ネリーおかえり〜」
「男さ見つけただか？」

　見張り番らしき2人は興味深げに僕を見つめる。ネリーというのが今しがたであった彼女の名らしい。名前は人間とさほど変わらないのか。

「バイオリンうめぇだよ、この兄ちゃん。疲れてるみてぇだから、ご飯さ食べさせてやるだよ」
「ああ、それがええだよ」
「今日はキッシュかポトフだべ。あったまるだよ」

　見張り番たちはネリーに笑いかけ、道を空けた。彼女に導かれるまま、洞穴に足を踏み入れる。ただただぼんやりと、死に場所を求めて。

　だが中にあったいくつかの門を抜けると、思わず息を飲んだ。そこに地底の『街』があったのだ。僕らの来た道の先は切り立った崖になっており、木製の手すりで囲われていた。その眼下には巨大な空洞と、立ち並ぶ露天らしきテント、そして岩壁をくり抜いて作った住居。その中に聞こえる明るい声。
　往来しているのは大半が蟻の魔物たちで、地下にも関わらずよく見える。篝火が焚かれているためでもあるが、それより大きな照明が頭上にあった。天井……と言っていいのかは分からないが、巨大な結晶の塊が上から吊り下げられており、それが柔らかな光を煌々と放っているのだ。

「あっ、兄ちゃん！　こっち来ぉーし！」

　不意に手を引かれた。ネリーは6本の脚を慌ただしく動かし、大勢の仲間が集まっている場所へ向かう。大きな籠が柱と滑車を介して吊り下げられており、そこへ蟻の魔物たちが続々と乗り込んでいた。

「乗せて！　乗せて！」

　ネリーが元気良く籠へ飛び乗り、僕も引っ張り込まれる。中は満員だったので、反射的にバイオリンを守った。蟻たちの汗の匂いが鼻につく。だが全員が女性であるためか、悪臭という気はしなかった。それどころか、ほんのりと甘い匂いさえした。

「降ろすぞー！　落ちちょし！」

　崖の上にいる個体が石臼のようなハンドルを回すと、リフトがゆっくりと降り始めた。談笑する魔物たちは皆何らかの作業をした帰りらしく、汗ばんだ顔に笑顔を浮かべて談笑している。甘い香りに頭がクラクラしそうになりながらも、バイオリンだけはしっかりと保持した。

　僅かな衝撃と共に地上に着いたとき、ネリーが僕の前に立って、バイオリンが押しつぶされないよう庇ってくれていたことに気づいた。
　空洞の底は大いに賑わっている。ネリーの仲間たち……やはり全て女性だ。蟻の下半身を持つ女たちが往来し、食料や石材などを運んでいる。クレーンを使って資材を持ち上げ、岩壁にある施設を改修してもいた。
　さらに空中には多数のロープが張られており、小柄な蟻女が6本の脚で器用にそこを渡って洗濯物を干していく。生活感溢れる光景だった。

　男が全くいないわけではない。だがそれらは皆人間のようだった。少なくとも外見は。鎖で繋がれるでも、手足を捥がれるでもなく、魔物たちと談笑し、共に働いている。

「はぐれちょし、兄ちゃん」

　笑顔で僕を先導するネリーは、いつの間にか冬外套を脱いでいた。地底の街は暖かく、彼女は袖のないシャツ一枚というあられもない格好になっていた。汗ばんだ二の腕、豊かな胸のラインが晒され、思わず目を奪われてしまう。
　それと同時に、雑踏の中で思考力がほんの少し戻ってきた。蟻たちの中に混じっている人間たち……どうやら彼女たちは人間を食料としては見ていないのだと察し、安堵する。

　何故安堵する？
　僕は死ぬつもりで、森へ足を踏み入れたのに。

「兄ちゃん。ポトフとキッシュと、どっちにするだ？」

　そう尋ねられ、漂ってくる料理の香りに気づいた。テントの下に多数の大鍋や石窯が並び、よく煮込まれたポトフと焼きあがったパイが湯気を立てていた。蟻と人間たちがそれらをかき混ぜては器に盛り、集まった仲間に配っている。
　途端に空腹感と食欲が湧き上がってくる。同時にそれは生きることへの渇望だった。

「……ポトフ」
「ポトフ2つー！」

　ネリーが元気良く叫ぶと、配膳をしていた女の子が笑顔で器を渡してくれた。パンもセットだ。

　冬外套を小脇に抱え込んだまま盆を持ち、彼女は近くの岩壁に設けられた住居へ入った。中は小さな個室で、ベッド、浴槽、机、本棚……そこで暮らすのに必要な家具は揃っていた。

「ここがおらの家！　楽器さ置いて、こっち座れし」

　誘われるがまま、卓上にバイオリンを置いてベッドの上に座る。ネリーもベッドに乗って脚を折り畳んだが、これが座っている姿勢なのだろうか。

　ポトフの器を手渡されると、こみ上げた食欲を我慢できなくなり、フォークを手にして肉に食らいついた。どっしりとした歯ごたえと共に、香辛料の風味が染みた肉汁が口いっぱいに広がる。ゴロゴロと大きめに切られたカブや玉ねぎも、適度な歯ごたえを保ちつつ柔らかく仕上がっていた。何より冷えて凍えた胃に、温かさが染み渡る。

「うちのご飯は美味いべ？」

　彼女は得意げに、形の良い胸を張る。

「あ、おらはネリー。兄ちゃんの名前は？」
「……僕はニコル」

　素直に名乗った。何故だろう、先ほどまで身を包んでいた絶望が薄まっていた。
　あっという間に器は空になり、満足感で腹が満ちる。ポトフの匂いに代わって、再び彼女の汗の匂いが感じられた。

「ニコルはなんで、あっただ所さ居ただ？」
「死ぬつもりだったんだ」

　彼女はどう思うだろう、と考えながら本心を打ち明けた。魔物でも死にたくなることはあるのだろうか。いや、少なくとも彼女にはそうならないで欲しい……そんな図々しい思いも頭を過ぎる。

　ネリーは不思議そうな顔をして、次いで少し考え込んだ。触覚が僅かに上下した後、彼女は再び口を開いた。

「……んだ、今日おらと会えたっつこんは、まだ死ぬ時じゃねぇっつこんだべ」

　微笑みと共に告げられたその言葉は、胸にストンと落ちた。多分その通りなのだろう。野垂れ死にするために森へ入り、そこで偶然ネリーに出くわした。食われて死ぬかと思ったが、そうはならなかった。今はこの運命を受け入れるべきなのかもしれない。
　ふと、ベッドの上に置かれた本を見つけた。大分読み返したようで、装丁が所々擦り切れている。『建築技術面で考証する古代レスカティエの神殿と聖地』……ネリーの雰囲気に似合わない難解な書物だし、そもそも魔物が聖地に関する本を読んでいるという時点で意外だ。

「ニコル」

　ふいに柔らかいものが肩に当たった。ネリーが僕に身を寄せたせいで、彼女の胸……薄いシャツ一枚で覆われただけの膨らみが、僕に押し当てられたのだ。思わず食器を落としてしまった僕を見て、彼女はくすっと笑った。

「おらの部屋で暮らさねか？　またバイオリン聞かせて欲しいし、あと……」

　彼女の声はどこか、熱を帯びていた。肩に当てられる膨らみへ次第に体重がかけられ、やがてベッドに上に押し倒されてしまう。

「な、何を……!?」

　開かけた口に、顔に、胸がのしかかる。弾力のある膨らみがひしゃげ、シャツの布地に染み込んだ甘い汗の匂いが顔を包み込む。先ほどリフトの中で感じた以上の、濃い芳香が。

「汚ったねおっぱいでごめんな？　おら汗っかきだから、臭ぇと思うけど……けど、元気出べぇ？」

　少し恥ずかしそうに、照れくさそうに、僕の顔を抱きしめる。その言葉通り、僕の体には元気というか、活力が湧き上がっていた。匂いとは違う、ネリーの何かが僕を刺激している。多分彼女も分かっているのだろう。
　10秒ほどして解放されたとき、僕の体は今までにないくらい熱くなっていた。目の前で微笑むネリーのくりくりとした目、頬に浮かぶ笑窪と、かすかに見えるそばかす。野暮ったさの中の可愛らしさが無性に愛おしい。

　　僕の反応を満足げに見て、ネリーは不意に服を脱ぎ始めた。シャツの布地がまくられると、綺麗なおへそが露わになった。彼女たちがどう生まれてくるのかは知らないが、おへそは人間同様の小さな窪みで、引き締まった健康的なお腹をしている。
　次いで露わになったその胸は、お腹に対してかなり膨らんでいた。シャツを脱ぎ去った瞬間、2つの塊がぷるんと大きく震えたくらいだ。乳首はツンと勃ち、谷間はじっとりと汗ばんでいる。日焼けした顔よりいくらか白い、少し赤みの差した乳房。

　このおっぱいを吸って育つ赤ん坊は、きっと幸せだろう……そんなことを考えたとき、彼女は僕の服を脱がせにかかった。

「へへ。ニコルもはぁく気持ちよくなりてぇだな」

　ズボンの下で怒張したそれを撫で、ネリーは悪戯っぽい笑みを浮かべる。手際良くその部分をずらされ、僕の男根が彼女の眼前に飛び出した。

「わっ、びよんって出た！」

　楽しそうに肉棒を見つめ、指先でつついてくる。くすぐったい……というより、快感の方が優った。温かい吐息がかかる距離でそこを見つめられ、心臓の鼓動がどんどん大きくなる。

「じゃ、これを……うりゃ！」

　掛け声と共に、彼女は僕が今まで経験したことのない、極めて淫らかつ美しい行為を始めた。その汗ばんだ胸の谷間で、男根をぬるりと挟み込んだのだ。

「うっ！」
「わ！」

　思わず声を出してしまう。先ほど顔で感じた柔らかさが、最も性的な部分を圧迫してくる。谷間でびくんと震えた男根に驚きながらも、ネリーはそれを決して離さない。ぐっと双峰を寄せられると、先端まで完全に柔らかさの中に埋まってしまう。
　そのままゆっくりと、柔らかな膨らみで男根を摩擦される。彼女の汗でぬめりを帯びた谷間は滑らかに肉棒の表面を滑っていき、その温かみと弾力がじわじわと刺激してくる。

「ぃしょっ……これで合ってるだか？」

　胸を動かしたまま、上目遣いにこちらの様子を伺うネリー。その視線にまで感じてしまう。自慢ではないが、女性から言い寄られた経験は何度かある。美しく着飾った貴族の令嬢、裕福な商人の娘、女騎士……しかしここまで心を惹きつけられたのは、この垢抜けない魔物の女の子が初めてだ。
　未だに顔を包み込む汗の香り……肉棒にじんじんと染み込んでくるようなこの汗に、何かそんな力があるのだろうか。または自覚していなかっただけで、女性の汗に魅力を感じる性癖を僕が元々持っていたのかもしれない。人の心なんて分からないものだから。

「あはは、気持ちーだな♥」

　ネリーは本当に楽しそうだった。今度は指を自分の乳房に食い込ませてしっかりと掴み、互い違いに激しく上下させてくる。

「ほーれ、むにむにむに〜！」

　明るい声と卑猥な摩擦音が部屋に響いた。サクランボのような乳首が上を向いたり下を向いたりを繰り返す。柔らかな塊が形を変えて、その間で男根がもみくちゃにされる。汗の香りは部屋中に充満し、むせ返りそうだ。

　もう何がどうなっても構わない。そう思ってしまうほどに気持ち良い。
　ネリーの胸が、笑顔が、声が愛おしい。頭に生えた触覚、下半身を形作る外骨格さえ愛おしい。魔物の誘惑に溺れた者たちは皆これを経験したのだろうか。今なら彼らを全力で擁護できる。

　ねちょっ、ねちょっと音を立てながら擦れ合う乳房。その音の根源は彼女の汗だけではない。僕の体はもう、射精の準備を始めていた。

「ニコル、出るだかっ？　おらのおっぱいにっ♥　セーエキ出してくれるだかっ？」

　期待に満ちたネリーの目。このままでは彼女の健康的な肌を汚してしまう。けれど彼女も、汚されるのを待ち望んでいる。

　我慢できるわけないし、するわけもない。

「で、出るっ！　ネリー！　ああぁっ！」

　愛してる。そう口走りそうになったが、言葉にならなかった。快感の波に流されるまま、男根が激しく脈打つ。
　刹那、音を立てて吹き出た白濁が胸の谷間に氾濫した。

「わあああぁっ♥」

　驚きと歓喜の入り混じったネリーの声さえ、今の僕には快感だった。人生でこれほど気持ちよくなったことはない。生きていて良かったという思いと、このまま死んでもいいという思いが心に同居する。

　だがどちらでもいい。今は射精の快楽を、ネリーの女体の快楽を味わうことだけが大事なんだ。

「うっわぁ♥　本当に白いだなぁ！　おらのおっぱいベトベトだぁー♪」

　ネリーは次々と溢れる精液を乳房で拭き取るようにして、全て受け止めてくれた。綺麗な声で、はしゃぎながら。

「なんか良い匂いだぁ♪　これーーー♪　♪ーーまだ出てーー♪」

　言葉が、ただの美しい音階にしか聞こえなくなっていく。眼に映るのはネリーの笑顔と、弾む乳房の谷間で淫らに糸を引く白濁。ミューズ神とエロス神が共に祝福をくれたような気分だった。

「ーー♪　♪」

　乳房が股間から離れた。快楽の余韻に浸る僕の顔を、ネリーがじっと覗き込んでくる。可愛らしい、大きな瞳で。

　僕は反射的に彼女の頭を抱きしめ、唇を奪った。彼女の声が僕の口に入ってくる。同時に舌が絡み合い、唾液が混ざり合う。
　先にやったのは僕の方なのに、ネリーの貪るような舌の動きに翻弄される。彼女は手を使うまでもなく、柔らかな唇と舌のみで僕をベッドに組み敷いて、じゅるじゅると音を立てて口腔を蹂躙した。それがとてもしつこく、いつまでも続くかのようだった。

「ぷはっ！　はぁぁ♥」

　やっと唇が離れたとき、ネリーの顔は真っ赤になって、お風呂から上がった後のように火照っていた。可愛らしさだけでなく、艶やかさも入り混じる蕩けた笑顔で僕を見下ろす。

「やっぱ、ニコルはおらの運命の人だな」
「え……？」

　唐突な言葉。僅かに残った理性が疑問符を浮かべる。

「僕たち、さっき会った、ばかりで……」
「んだ。さっき『会えた』。それで十分だべ？」

　呼吸を整えながら言葉を紡ぐ僕に、ネリーは屈託無く答えた。

「ほら、ただの虫とかだってほうだべ？　ちょうちょは最初から飛び方さ知ってるし、すぐ花の所さ飛んでくじゃんけ。同じようなもんだよぉ」
「そう……なの……？」
「んー、まぁニコルがそうじゃねぇって言うなら……」

　不意にいたずらっ子のような笑みを浮かべ、ぐっと上体を起こすネリー。
　白濁まみれの乳房、すらりとしたお腹、おへそ……その下の、先ほどまで外骨格で覆われていた部分。人間の体と蟻の下半身の境目に、縦一本の割れ目があった。

「おまんこに挿れんの、止めとく？」

　たらり、と透明な液がそこから漏れ出す。汗とは違う淫靡な匂いが漂った。
　男根はあれほど射精したにも関わらず、上を向き続けている。

「挿れ……たい……」
「へへ、やっぱ運命の人だべ」

　再び、ネリーが僕に覆いかぶさってきた。男根をむんずと掴まれ、その掌の感触だけでも感じてしまう。間近に迫った女性器が降りてきて、入り口が先端に触れ、温もりと弾力が伝わってくる。

「ん……♥」

　蟻の脚が僕の下半身にしがみついてくる。ひんやりとした外骨格の感触。虫はあまり好きではないが、ネリーの下半身に嫌悪感は全く湧かなくなっていた。節のある6本の脚も、紡錘形の黒い臀部も、今頬を赤らめながらじっと僕を見つめている可愛い女の子の一部なのだとすんなり受け入れられる。

　亀頭が熱い感触に包まれる。滑りを帯びた柔らかい器官が、ゆっくりと肉棒を飲み込んでいく。繋がっていく。

「あ……ふぁ♥」

　ネリーが蕩けた声を出した。熱い吐息が僕の顔にかかるが、彼女の中はそれ以上に、もう火傷しそうなほどに熱かった。ぬめりを帯びた肉が蠢き、絡みついてくる。

「あぁ……気持ちいい……」
「お、おらもだぁ……♥」

　口の端から涎を垂らし、うっとりと頬ずりしてくるネリー。汗の滲んだ頬は柔らかく、その感触にさえ感じてしまう。
　男根が根元までしっかりと女性器に飲み込まれ、熱い快楽に包まれた。一番奥に先端がこつんと触れ、ネリーの体が痙攣する。そのままお互いにしがみ付いて、腰を動かすこともしない。だが膣内は彼女の情熱の表れであるかのように、ねっとりと肉棒に絡みついては強く締め付けてくる。

　汗の匂いがより一層、強くなった。

「ん、ぁぅ……ニコルぅ……♥」

　鳶色の瞳を潤ませ、ネリーは再び唇を重ねてくる。舌を絡ませあった途端、膣内がぎゅっと強く締まった。まるで搾り出そうとするかのように。

「ーー！」

　一度出したばかり、しかも挿入したばかりだというのに、また快感の波が襲ってきた。男根は膣の締め付けに抗うかのように、どくん、と大きく脈打つ。

「んっひゃぁ!?」

　唇が離れ、ネリーが驚きの声を上げる。僕の意思とは関係なく、狭くて熱い膣内に精液が迸ってしまう。彼女の背中に手を回し、ひたすらその快楽に震えていた。

「ちょっ、熱っ♥　おまんこっ、セーエキさ入っでぐるぅぅ♥」

　顔を歪め、触覚を痙攣させ、男根をさらに強く締め付けるネリー。彼女の中で溶け出しそうだ。
　彼女が僕の運命の女性。今ならそう確信できる。僕に声をかけて、ここへ導いてくれた優しさ。一緒にポトフを食べたときの笑顔。それらが全て、この快楽と繋がっている。もう僕はネリーでなくては駄目なのだろう。

「……はぁ、ふぁ♥」

　脈打ちが止まり、快感の波がゆっくりと引いていく。だが完全になくなることはなかった。男根は小さくなったが、ネリーの甘美な女性器はまだそれをしっかりと締め付け、中に咥え込んだままなのだ。

「ニコルぅ、出すの早ぇじゃー」
「ご、ごめん」

　少し恥ずかしくなった僕を見下ろし、ネリーはにかっと笑みを浮かべる。性器同士は繋がったままだ。

「んだ、おら明日非番なんだっけぇ、もう朝までずっとすんべぇ♥」
「朝まで……？」
「んだんだ。朝まで抜いちょし♥」

　またキスが交わされ、膣がまたも蠢き始める。彼女と僕の体液が混ざり合って、なめらかに男根の表面を滑っていく。締め付けてくる蜜壷をおし拡げるかのように、またも勃起してしまう。これが朝まで続いて、そしてその後もネリーと共に過ごすことになる。

　彼女に身を委ねて舌を絡め合いながら、僕はふと思った。まだ生きていてもいいんだ、と。