7 私掠船アントルチャ号
ガレー
手漕ぎのオールを主な動力とする船で、帆を備えた物も多い。
人力のため航続距離に限界があり、多数の乗員が必要になるため、遠洋航海の時代になると帆船に取って代わられた。
軍艦としては側面にオールが多数突き出ているため大砲の搭載数が少なく、また乾舷が低いため帆船相手だと移乗攻撃を仕掛けにくいという欠点もあった。
しかし風の少ない海域では帆船より有利だったため、使われ続けている。
漕ぎ手の身分は国と時代によって異なり、自由民の場合、奴隷・囚人の場合があった。
早いもので、あの嵐の逃走劇から一年経った。今やすっかりマトリの海賊であり、エロス信徒からは英雄扱いされる身分になった。
今日も俺はアントルチャ号で海に出る。そして航海中も時折、船長室のベッドで情事を楽しむ。
「ここでお前に起こされてから、もう一年か」
「はい。ずっと忘れない朝です♥」
怒張した男根をふとももに挟み込み、メリーカはキスを繰り返す。フーリーたちはキスが好きだが、特にメリーカは何度もキスをしたがる。こちらもそれに答え、柔らかな唇を味わう。
柔らかなふとももが男根を擦り、優しく圧迫してくる。褐色の脚は最初すべすべとした感触だったが、今では大切な所から滴った汁によってぬめりを帯びた。彼女の体重を感じながら、その背中へ手を回してふわふわとした羽衣や、弾力のあるお尻を愛撫した。
「んふぅぅ♥ んんーっ♥」
重なった唇から気持ち良さそうな声が漏れる。ふとももでゆっくりと愛撫された男根がぴくんと震え、俺の方もこみ上げて来る。メリーカにもそれが分かったのが、ふとももをきつく閉じた。
途端に快感が突き抜け、男根がどくどくと脈打つ。メリーカの温かみを感じながら、女体の柔らかさと快楽、キスの甘さに身を委ねる。魔物たちにとって寝室は重要なものであるため、エロス神殿からは寝心地の良いベッドが提供されていた。女体とベッド、二つの柔らかさに挟まれ、夢心地の中で精を出し尽くす。
「……ぷはっ♥」
唇を離して呼吸を整えながら、メリーカは花のような笑顔を見せる。
「船長の愛は今日も熱々です♥」
そう言って起き上がり、脚を広げる。褐色のふとももに白い液体がべっとりと付着し、よく映えていた。何とも淫らな光景だが、それ以上に淫らなのは物欲しそうに愛液を垂れ流す女性器だった。天使と魔物は局部に毛が生えないらしく、メリーカは豊かな体つきに反し子供のような無毛の恥丘をしている。彼女以上に豊満なアイリもそうだ。その割れ目が中のピンク色を少し見せながら、とろとろと果汁を滴らせているのである。
エロス神の恩恵により、俺の体は一度に多量の精液を出せる上、精力も枯れ果てない。即座に起き上がって彼女を抱きしめ、ベッドに組み伏せる。
「次は中に出そう」
「やったぁ♥」
嬉しそうに、白濁で彩られた脚を広げるメリーカ。常に明るい彼女は見ていて飽きない。
手を繋いで蜜壺へぐっと突き入れ、同時にキスをする。彼女の嬌声は俺の口の中に響いた。初めて会い、交わったときと変わらぬ快感を味わいながら一心不乱に腰を振る。
揺れ動く船の中で、俺たちは互いの体と愛を貪った。
……情事を済ませて甲板に戻ると、他の妻たちはしっかりと仕事をこなしていた。メリーカは操舵を代わってもらっていたイルザンナにお礼を言って、舵輪を握る。スカートの裾から見えるふとももに白濁が一滴伝うのが見えた。
「次はボクだからね?」
イルザンナが俺の耳元でそっと囁き、頬にキスをくれた。今すぐ彼女に身を委ねてしまってもいいが、そろそろ仕事にかかるときだ。すでに教団の軍艦が出没する海域なのである。
「二時方向に船!」
案の定、マストの上に立つフーリーが報告してきた。会計担当のクラリア。あの夜やってきたフーリーの一人で、アクセサリーとして眼鏡をかけているが視力は非常に良い。
「船種は!?」
「大型のガレー! 一隻だけのようです!」
「……ターゲットだね」
イルザンナが望遠鏡を覗いて言った。魔法の技術が進んだ魔物側ではシルフの加護を受けた帆や、魔力で動く水車などの装備を使い、凪の海域でも航行できる船が多い。漕ぎ手に苦役を強いるガレー船を使うのは反魔物領と相場は決まっているのだ。
彼女から望遠鏡を受け取って確認する。これも魔法のレンズを使っており、倍率を上げれば遠くまで見渡せる。教団でも使われているが、親魔物領では遥かに安価だ。
ムカデの足のように多数のオールを漕いで進むガレー船。二本のマストに大きな縦帆が張られ、各所に装飾が施されている。輸送船エメロード号……今回の獲物だ。
「総員戦闘配置につけ! 鎖弾用意!」
「総員、戦闘配置!」
妻たちは一斉に鬨の声を上げた。マストに帆が次々と張られ、アントルチャ号はどんどん速度を上げる。雷臼は使わない。あれは一日に五回ほどしか撃てないので、強敵が現れたときのために温存する。また今回の目的はあれに乗っている人物を確保することであり、船ごと沈めてしまうわけにはいかないのだ。
相手もこちらに気づいたようで、オールの動きが急激に速くなった。微風にも関わらず高速で接近してくる帆船を見て度肝を抜かれたかもしれない。この海域まで出張ってくる海賊船は早々いないのだ。
しかしアントルチャ号はコートアルフでも屈指の高速船。距離は次第に詰まり、もう望遠鏡を使わなくてもオールの本数を数えられるまでに接近した。
すると相手は左へ舵を切り、側面……つまり舷側砲をこちらへ向けてきた。戦う気になったか。船の大きさなら向こうの方が上、しかし相手はガレー船でこちらが重武装のため、砲の数は互角。だが雷臼を使うまでもなく、舷側砲の射程もこちらの方が上だ。
「左舷を敵に向けろ。片舷斉射用意!」
メリーカが舵を切った。敵の射程に入る寸前でアントルチャ号は急回頭、砲列を敵船へ向けた。左舷砲手のミアがちらりと視線を送ってくる。
「撃て!」
ミアの小さな指先から桃色の火花が弾ける。次の瞬間、並んだ十門の砲が高らかに吠えた。轟音と共に紫の閃光が走り、砲架が後退する。鎖弾はその名の通り二つの砲弾を鎖で繋いだもので、敵船の帆やそのロープを切ったり、あわよくばマストごと折ってしまうための砲弾だ。アントルチャ号の大砲から放たれるのは魔力でできた砲弾だが、効果は同じだ。
放たれた魔力弾がエメロード号へ吸い込まれるように着弾。甲板上の乗員も鎖で薙ぎ払われる。切断されたロープから帆が垂れ下がり、フォアマストがゆっくりと傾き始めた。
「当たったー!」
「喜ぶのは早い。葡萄弾用意!」
歓声を上げる皆を戒め、船を接近させるようメリーカに指示する。同時に敵の発砲タイミングを見定めた。大砲も少し破壊できたようだが、またいくつかこちらを狙っている。望遠鏡で砲手達の動きを見れば回避できる。
「取舵一杯!」
号令に従い、メリーカが勢い良く舵輪を回した。敵船から砲火が光ったものの、砲弾は急回頭したアントルチャ号の後ろを掠めるのみだ。
恐怖心は無い。俺なら、俺たちなら必ず勝てると信じている。あのガレー船には漕ぎ手として多くの奴隷や囚人が乗せられているが、彼らとて本来は特別な人間なのだ。身分関係なく、皆誰かにとって特別な人間になりうる……それがエロス神の教えだ。
だから俺は助けに行く。
さらに接近したので、帆を一部畳ませて速度を落とした。このまま無力化し、乗り込む。
「右舷、撃て!!」
ヘレが右舷側砲へ点火。散弾状の魔力が放たれ、さらに敵船の帆を引き裂き、甲板上の砲手たちを蹴散らす。
「行っきますよぉぉぉ!」
メリーカが気合を入れつつ、そのままエメロード号と反航する形に舵を切った。舷側が擦れるギリギリで船がすれ違い、衝角がガレー船のオールを圧し折って行く。
敵船の乗組員でまだ動ける者たちが砲を撃とうとしていた。だがその前に、俺が旋回砲による射撃を命じていた。
再び散弾が敵の甲板を蹂躙、乗組員たちが次々と倒れた。魔力の弾なので非致死性だが、戦いの間に起き上がることはないだろう。衝角で破壊したオールは波に揺られ、海面へ四散して行く。
「これで奴は動けない。乗り込もう」
イルザンナが言った。マストと片舷のオールを破壊した以上、船としての機能は奪ったも同然だ。ならばやることは一つ、副船長が言うように乗り込んで制圧することだけだ。
「メリーカ、敵船に横付けしろ。総員、斬り込みの準備を」
「総員白兵戦用意!」
妻たちは一斉に鬨の声を上げた。メリーカは船を旋回させ、先ほどオールを折った側へ再び付ける。再び旋回砲で相手の砲を破壊し、鉤縄を放って船を固定。エメロード号は大きいが、ガレー船のため乾舷は低くめで、移乗攻撃はそれほど難しくない。ましてやフーリーたちは飛べるのだ。
「イルザ、頼む」
「任せて」
サーベルを抜いたイルザンナが、空いた手を俺の腰へ回す。そしてそのまま空中へ飛び上がった。俺の体は彼女に支えられているというよりも、フーリーの羽衣が発する『力場』によって浮いている形だ。
「突撃!」
副船長の号令一下、操舵手のメリーカなどを残して敵船へ飛び移る。俺はイルザンナの力場から離れ、甲板上へ降下。カトラスで鉤縄を切ろうとしていた乗員を頭上から蹴りつけて倒す。
即座に抜刀。右手にはサーベル、左手には護拳付きのダガー。昔から得意としている二刀流だ。
向かってくる乗員の攻撃をダガーでいなし、反撃で斬り捨てる。一人、二人。イルザンナも宙を舞いながら、華麗な剣さばきで敵を斬り払う。他のフーリーたちもカトラスを振るい、魔法を放ち、順調に甲板を制圧していった。
「海賊がぁぁ!」
巨漢の乗組員……おそらく用心棒が、手斧を振りかざして斬りかかってくる。まともに受けては防ぎきれない一撃。
しかし振り下ろされる斧に勢いが乗り切る前に、ダガーの護拳を相手の手首へぶつける。攻撃の勢いを殺し、即座に右手のサーベルで反撃。切っ先で巨漢の胸を深々と突き刺した。
取り落とされた斧が甲板に突き刺さる。即座に相手の体を蹴り、反動でサーベルを引き抜いた。赤い粒子が飛び散ったが、それは魔界銀によって体から抜き取られた魔力であり、血は出ていない。魔物たちが使う、相手を殺さずに昏倒させる武器だ。
先ほど大砲で撃った魔力の砲弾も同じように非殺傷性。魔物は殺人を嫌悪し、愛の天使たちもそれは同様だ。相手が自由と愛を奪い続ける連中であっても。
敵の船長は移乗前に撃った葡萄弾ですでに倒れていた。しかし残った乗組員たちは戦い続けた。教団やその教育を受けた者たちは大抵、魔物相手に降伏すれば死より悲惨な未来が待っていると信じ、最後まで戦おうとする。だがエロス神の使いであるフーリー相手ならさほど恐怖心はないようで、降伏してきた船も多くあった。
このエメロード号はそうではない。文字通り最後の一兵まで立ち向かってきて、その首を俺の剣が薙ぎ払ったとき、戦いは終わった。
「皆、怪我はないか?」
「大丈夫!」
「平気でーす!」
若干の違和感を覚えながら、皆の安否を確かめる。甲板に倒れてるのは敵だけ。
今日も勝てたのだ。
……その後、俺たちはエメロード号の漕ぎ手を解放した。船内に残った乗員は船医くらいで、漕ぎ手の監督までもが甲板へ打って出ていたようだ。やはり何か違和感があるので、気絶した船長と船医を尋問すべくアントルチャ号に拘束し、残りは海へ叩き込む。後は人魚たちが上手くやってくれるだろう。
漕ぎ手が自由民の場合は白兵戦に参加することもあるが、エメロード号は囚人と奴隷に漕がせていたため、彼らは鎖で繋がれたままだった。半分くらいは借金のために労働を強いられた債務奴隷で、他は元海賊や蛇神教徒など。鎖を切って櫂から解放すると、彼らは皆感謝してくれた。中にはアントルチャ号と俺たちのことを知りながら、架空の存在だと思っていた者もいて、大層驚かれた。
救出を依頼されていた囚人と、特に疲労困憊し危険そうな奴隷をアントルチャ号へ移して治療し、残りはエメロード号に乗せたまま連れて行く。重労働から解放された喜びで、彼らはすぐさま甲板に仮のマストを立てて帆を張った。
後はアントルチャ号とロープを繋ぎ、曳航する。自分より一回り以上大きな船を牽引することになったが、シルフの加護により前へ進むことができた。しかしそれでも動きの鈍い状態で敵に狙われては危険なため、協力を要請しておいた親魔物領の船団に引き渡した。乗員だけでなく積荷も乗せたまま渡したので、相手の船長は大喜び。解放された漕ぎ手たちの今後はしっかり面倒を見ると約束してくれた。
「舵取りが上手くなったな、メリーカ」
「ありがとうございます! 船長のご指導の賜物です!」
夜の海で船を走らせ、メリーカは嬉しそうに笑う。すでに陽は落ち、アイリが夕食を作っている船首部分を除いて明かりを落としている。星を見て天測航法を行うためだ。だが不思議なことに、暗い中でもフーリーたちの姿ははっきりと見える。これも彼女たちが天界の住人であり、現世の法則に縛られないからだろうか。
「船長がいればアントルチャ号は無敵ですね!」
「そうとばかりも言っていられない」
これから俺たちの戦いは激しくなる。捕虜にしたエメロード号の船長を尋問した結果、今日彼らが降伏せず戦い続けた理由が分かったのだ。
我が祖国が、エロス信仰を邪教と認定するよう各国の教会へ働きかけている。それはつまり、俺と祖国との戦争……そして、父との対決が近いということに他ならなかった。
20/04/05 17:44更新 / 空き缶号
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