キャラック
遠洋航海用の大型帆船。
三本か四本のマストを有し、多層式の船首楼・船尾楼を持っており、横幅の広いずんぐりとした形状をしている。
安定性が高いため射撃プラットフォームとしても優秀で、軍艦としても使われた。

ガレオン
キャラックから発展した大型帆船の形態。
キャラックより船首楼を低く、船尾楼を高くし、スマートな形状にすることで安定性と引き換えに速力を上げた。
マストは三本から五本。
大量の貨物を運べるため、輸送のみならず多数の砲列甲板を備えた戦列艦へと発展した。










　接舷したガレオン船……アルエット号に移乗した俺を迎えたのは、船大工風の筋骨隆々とした男だった。優雅な船名に似つかぬ髭面だったが、隣に例のガンダルヴァが舞い降りるとその肩を抱き寄せた。ガンダルヴァの方も嬉しそうに身をすり寄せる。
　髭面の船大工に豊満な体つきの美女。ともすれば不自然な取り合わせだが、不思議なことに『お似合いの夫婦』であるように見えた。

　男は俺の顔を見るなり、ポケットから字の書かれた紙切れを取り出し、読み上げた。

「えーと……アマロ・アドルフォ・クラウディオ・レオン・サン・ウィルギルス・デ・カーナンドル・イ・パスキード船長ってのは、あんたか？」
「その通りだ。あとアマロ船長でいい」
「それを聞いて安心した」

　笑って紙切れをしまうと、男は手を差し出して来た。

「俺はギュスター。このアルエット号の船長で、エロス信徒だ。こいつは妻のミランダ」
「よろしく〜」

　ガンダルヴァも陽気に挨拶をする。アルエット号には人間の他に様々な種族が乗っていた。タコの下半身を持つスキュラに、ゴブリンやドワーフと思われる小さな魔物たち。人間は概ね男ばかりのようだ。
　ギュスターと握手を交わしつつ話を聞く。

「アル・マール島のエロス神殿にお告げがあってな。愛の女神様の命令だ、ここであんたの船を改造する」
「ここで？」

　覆わず訊き返した。ここは沖の真ん中だ。しかしギュスターは得意げに笑う。

「このアルエット号はクイン・ディアナ島とマトリ島が共同開発した工作船……動く修理工房だ！」






　その後俺が見たのは未知の技術だった。砲窓かと思っていた舷側の窓が開いたかと思うと、そこから木でできた『腕』のようなものが伸び、エル・ヴァリエンテ号をしっかり取り押さえたのだ。さらにその先に付いたハサミ状の器具が器用に動き、傷んだ外板を取り外し、交換していく。
　マストの根元でも多数の歯車が動き、謎の構造物がより大きな木製の腕へと変形した。アルエット号の乗員たちがそれらに新しい素材を取り付け、俺の船へ移送する。

　他にも座礁した船の救助、沈没船の引き上げといった作業をこなせるとのことで、まさにギュスターの言葉通り動く工房だ。乗員の多くは腕の良い船大工で、特にスキュラはその足で舷側やマストに張り付き、時にはその沢山の足で複数の工具を操って作業に励んでいる。

「あんたの船は良いハーフロマダイトブリッグだ。だがコートアルフの技術を使えばもっと良くなる」

　木の腕が動き、エル・ヴァリエンテ号のマストから帆が外されていく。少し破れた程度でまだ仕えるが、ギュスターは新たな帆を着けると言った。

「船首に衝角をつけよう。マトリ製の衝角はぶちかましに使うだけじゃなくて、水の抵抗を減らして速力が上がる。船底のフジツボを落としてコーティングすればさらに抵抗が減る。それにコートアルフ製の帆布はシルフの力が宿っていてな、風に恵まれやすくなる。類稀なる高速船が出来上がるぞ」
「速度が上がれば操舵は難しくなるな。うちの操舵士はまだ経験不足だ」
「ああ。舵を大型化して、舵輪を魔法のかかったやつに交換しよう」

　うちのみたいにな、と後甲板を指差すギュスター。なるほど、さきほど航行しているとき、アルエット号は一人で舵をとっていたのが見えた。このサイズの巨船となると数人がかりで舵輪を回すことも珍しくないが、一人で動かせるくらい舵が軽くなるということか。

「大砲も魔法弾を使うのに変える。魔力の高い砲手なら一人か二人で全門操作できるはずだ。乗組員が愛天使様なら大丈夫。雷臼も一門乗せよう」
「雷臼？」
「雷を落とす臼砲さ。昔の大海戦でサイーダ島の連中が使った兵器を小型化した代物でな、ブリガンティンにも一門だけなら積めるサイズだ。魔界の雷だから死人は出ないが、船には大損害で乗組員も……まあ、戦いどころじゃなくなるだろうよ」

　話している間に、木の腕から吊り下げられた金色の臼砲がエル・ヴァリエンテ号へと降ろされていく。そしてマストには真新しい緑色の帆布が。

「重武装になるが、それでも今までより大分速くなるはずだ。何回お姫様の駆け落ちを手伝っても、絶対に捕まることはないって保証してやるよ」
「まさしくエロス神の私掠船になるな」

　俺は生まれ変わっていく船を眺めた。エロス神が俺に期待しているのは、これからも愛を奪われた者たちを助けること。エロス神の力の源たる『愛』を奪い返すプライベーティアだ。これから新しい人生と航海が始まる。それも、妻たちと一緒に。

「船の名前を変えようかと思う」

　ふと考えた。エル・ヴァリエンテという名は愛着もあるし、いずれ父と対決しなくてはならない。だがしばらくは俺が生きていることを祖国に知られない方が良いと思ったのだ。俺自身の改名も考えるべきかもしれない。

「ふむ。新しい名前は何にする？」

　ギュスターに訊かれて脳裏を過ぎったのは、あの夜の体験だった。船を焼くべく灯した松明の火が桃色に変わり、俺を包んだ。


　そして目が覚めると、愛の天使が船長室にいた……


「……アントルチャ号」








　……その日は船をアルエット号に預けることとなり、俺たちはマトリのホテル船にて宿泊することになった。大型のキャラックを改造した宿で、船室の大半は上等な寝室に改装されているのだ。マトリにはこうした船が数多くあり、それらを桟橋で繋いで「船の街」が出来上がっている。心踊る光景だ。
　海賊旗を掲げる船も多数あるが、普段は船上酒場をや料理屋、または宝探しの情報屋などを営んでいるらしい。どうもこの島における『海賊』のイメージは反魔物領と大きく違うようだ。

　俺の噂はすでに広まっていたようで、ホテル船の乗組員たちからは大変に歓迎された。夕食は巨大な魚の腹に野菜と香辛料を詰め、豪快に焼き上げた料理だった。魚肉の汁が芋やカリフラワーに染み込み、スパイスの風味がアクセントとなる絶品だ。
　食後はサテュロスのバーテンダーからワインやラム酒を振舞われたが、これも素晴らしかった。

「アントルチャって、松明のことですよね〜」

　ほろ酔いのメリーカが俺にしなだれかかり、蕩けた声を出す。

「きっと、みんなの未来を照らす素敵な船になりますねっ」
「そうとも」

　彼女の頭を撫でながら、ホワイトラムをぐっと飲み干した。燃えるような感触が喉を下っていく。魔界のサトウキビで作られたというラムは口当たりが良い。サトウキビから砂糖を精製する際に生じる副産物から作られる酒だが、魔物たちの世界ではラム酒作りに特化したサトウキビが栽培されているらしい。

「次、ラムフリップにしてくれ」

　空のグラスをカウンターに差し出すと、サテュロスは妖艶な笑みを浮かべた。

「ではマトリ鳥の卵は如何でしょう。丁度新鮮なものが手に入ったので、一度ご賞味ください」
「それで頼む」

　そのとき、服の裾を引っ張ってくる者があった。ヘレとミアだ。二人が指差したのは俺の真後ろのテーブル……いや、そこに突っ伏して寝息を立てるイルザンナだった。元より女海賊だった彼女だが、酒は弱い方らしい。他にはアイリを始めとし、何人かがすでに酔い潰れている。
　俺はまだまだ飲めるが、今サテュロスが作っている一杯で最後にしておこう。

「船長、おねがい。イルザといっしょに寝て！」
「イルザと同じベッドで寝て」

　不意にそんなことを頼まれた。意図が読めない俺に対し、メリーカは「あー」と声を出した。

「イルザンナさんだけ、まだ船長とセックスしてないから……」
「そういえばそうだったな」

　ここへ来るまで毎日、13人のフーリーたちと交わってきた。蜜壺への挿入だけでなく、彼女たちの褐色の肌で数え切れないほど射精した。またフーリーたちも俺の体を味わって、何度も何度も絶頂した。
　しかしイルザンナは一度も俺の男根をそこへ迎え入れてはいなかった。彼女やアイリは自分からリードしてくるので、好きなようにされてしまうことが多いのだが、いつも口か尻で男根を刺激され満足させられたのだ。彼女が他のフーリーに負けず劣らず好色なのは伝わってくるし、俺のことを大事に思ってくれているのも分かる。だから無理にしようとは思わなかった。

「元人間の方は、色々背負っているものがありますから」
「イルザ、ほんとは船長とえっちしたいと思ってる」
「わたしたちといっしょ」

　幼い二人は前世からイルザンナと共に生きてきた。だから分かるのだろう、彼女が何故今までそれを避けてきたのかも。

「お待ちどうさま」

　サテュロスがグラスに並々と注がれたラムフリップを置いた。卵黄で黄金色に輝く酒をぐっと飲み干し、素晴らしく濃厚な味わいと、滑らかな喉越しを楽しむ。飲み下した瞬間、体に活力が漲ってくるのを感じた。
　グラスを置き、改めてイルザンナを見る。突っ伏している顔をそっと起こしてみると、とろんとした半眼でこちらを見てきた。口も半開きになり、いつもの凛々しさとは違う色気がある。男の本能が刺激された。周りの皆も、起きている者は興味深げに成り行きを見守っている。

「……ここでなさっても構いませんよ？」

　サテュロスが悪戯っぽく笑った。

「いいのか？」
「ええ、よくあることですし。その代わり私も彼と一緒に部屋へ籠らせていただきますが」

　彼女の視線を受け、食器を片付けていた若いウェイターが赤面しつつ顔を背ける。ここはその言葉に甘えよう。

　店員二人が退室すると、メリーカがイルザンナの体を椅子から下ろし、そのまま床に座った。メリーカの膝の上にイルザンナが座る格好になる。

「あ……」

　ヘレとミアがスカートの裾に手を入れ、黒い下着を脱がせたとき、イルザンナは惚けたような声を上げた。メリーカにスカートを捲られ、股間が丸見えになる。一瞬、そこに女性の割れ目が無いように見えた。しかし下着を脱がせ終えた幼女たちが左右の脚を抱え、ぐっと開脚させると、ちゃんと神聖な場所への入り口があった。メリーカやアイリのそれより大分下向きになっているようだ。単に胸や尻の大きさだけでなく、こうした部分にも違いはあるのかと、妙なことに感心してしまう。

　俺も服を脱ぎ、怒張した男根を突き出す。途端に何かを感知したのか、酔いつぶれていた者たちも顔を上げた。
　イルザンナは相変わらずぼんやりとしていたが、俺にははっきりと見えた。酔いとは違うものによって、彼女の顔が赤く染まっているのを。そして股間の割れ目から一雫の愛液が垂れるのを。

「イルザンナさん。船長のおちんちんが寒がっていますよ。イルザンナさんの温かいおまんこに入りたいって……♥」

　メリーカが甘く囁くと、イルザンナは笑顔を浮かべた。



「船長……シて……♥」

■作者メッセージ
そろそろ仕事の休みが少なくなってきた。