4 進路コートアルフ
シーシャンティ
船の乗組員が歌う労働歌のこと。舟歌。
多種多様な民族の乗組員を団結させ、また作業の息を合わせるために歌われる。
一昼夜、十三人の天使たちとひたすら愛し合った。全員に射精させられた後、甲板が暑くなってきたので船内へ入り、続きを行なった。フーリーたちの女体は飽きることの無い魅力を持っており、いつまでも男根を預けていたいくらいだった。
「んんぅ、あっ……♥ 入っちゃったねぇ♥」
大きな乳房を揺らしながら、アイリが俺を見下ろす。俺の腰を跨いで、肉棒を根元まで銜え込み、膣をゆっくりと蠢かせる。
「アイリさんのナカはどうですか? メリーカのおまんことは違った感じします?」
膝枕をしてくれているメリーカが興味深げに尋ねてくる。アイリの膣はとても柔らかく、締め付けも緩やかだった。しかしふんわりと包み込んでくるような感触で、メリーカとはまた違った気持ち良さだった。
手を伸ばしてたわわに実った乳房を揉むと、彼女も気持ち良さそうに声を上げながら腰を揺り動かしてくれた。ゆっくりとした動きだが、肉棒はぬめりを帯びた膣で優しく愛撫される。俺が高まるにつれ、彼女も次第にうっとりとした表情で嬌声を上げる。淫らな行為なのに詩的な美しさを感じた。
「んっ、船長、ひゃっ♥ ……んんんぅぅ♥」
アイリはほどなく絶頂へ達してしまった。膣内がきゅっと締まるのはメリーカと同じだった。口から漏れる艶やかな声と、手からこぼれ落ちそうになる胸の感触。夢心地のまま射精すると、彼女は俺の上にしなだれかかってきた。俺の胸板で乳房が潰れ、母乳が漏れ出す。柔らかな体を抱きしめて脱力する俺を、メリーカが微笑みながら見下ろしていた。
膣から引き抜かれた男根を、イルザンナが口で清めてくれた。しかしそのまま射精してしまい、また汚れた肉棒を今度はメリーカが胸で拭いてくれた。彼女の乳房はアイリの蕩けるような感触とはまた違い、弾むような感触で精液を搾り取ってくれる。
夜になればまた甲板に出て、愛の天使たちが身体中に群がった。フーリーたちが俺の全身を舐め、胸や尻を擦り付け、股間に男根を咥え込む。それも優しく美しい笑顔で、愛を込めて。俺は女体の海を泳ぐ快感に身を任せ、のめり込んでいった。
結局、男根はフーリーたちの愛液や唾液、時には母乳で濡れ、一日中乾くことは無かった。それでも翌朝になってから、俺たちは錨を上げた。
ーーライム搾って 船を出せ
ーー目指すはコートアルフ
ーー七つの島に 七千の人魚
ーー七つの楽園へ
ーー目指すはコートアルフ
ーー七つの楽園へ
ーー海の向こうで 待っているぞ
ーー目指すはコートアルフ
ーー七千の人魚と 七万の歌
ーー七つの楽園へ
ーー目指すはコートアルフ
ーー七つの楽園へ
海原を行くエル・ヴァリエンテ号の船上に歌声が響く。新たな船員たちは声を揃え、息を合わせて帆を操っていた。女声だけのシーシャンティというのはなかなか新鮮で、情緒的だ。またフーリーたちはとても声が綺麗で、心洗われる。
ーー大砲の弾も 積み込んで
ーー目指すはコートアルフ
ーー砲一門につき タマ二つ♥
ーー七つの楽園へ
ーー目指すはコートアルフ
ーー七つの楽園へ
……まあ、この手の労働歌に下ネタはつきものなのだが、美女・美少女たちがその下ネタ部分を楽しそうに歌っているのは何とも妙なものだ。
「正直、この状況が未だに信じられない」
後甲板から船上の光景を眺め、ぽつりと呟く。俺の右側ではメリーカが舵輪を握っていた。まだ拙い舵捌きだが、波が静かなので問題はない。
「でもメリーカたちは現にここにいますし、アマロ船長と愛し合っていますよ」
「それはそうだ」
メリーカの言う通り、これは現実なのだ。
フーリーは愛の女神エロスの生み出した天使で、善行を積んだ男の元へ派遣される。だが彼女らの話によると、フーリーは人間たちの行動を天界から見て、夫となる男を自分で決められるという。その上でエロス神から人界へ降りるよう命令されれば、妻となって夫の善行に報いる。エロス信徒の聖人には七十二人ものフーリーを娶った者もいるそうだ。
「船長は今まで、理不尽に愛を奪われた人々を大勢助けてきました。我々がそんな船長と共に生きたいと願ったのも、エロス様が加護をお授けになったのも、当然のことです!」
自信満々にそう言われると少々くすぐったい。確かにそうなのだろう。元々は父への反抗心というか、当て付けに始めたことだが、大勢の人から感謝された。エロス信徒ではないとはいえ、それが愛の女神の目に留まったことは光栄に思う。
だが俺が驚いていることはもう一つあった。舵輪を回すメリーカの尻を手で撫でる。ぽよんと弾む感触がした。
「やんっ♥」
「こうして女たちに囲まれて、体を重ねて……幸せを感じる」
無邪気に微笑む天使の肩に手を置き、温かみを感じる。
「そんな感情が俺に残っていたのが、自分でも意外なんだ。自分の幸せを求める感情がな」
「他人の幸せのために頑張れる人なら、自分の幸せも望むのは自然だと思いますよ!」
「……そうかもな」
メリーカの笑顔を見ていると、『欲して良いのだ』という気になってくる。事実そうなのだろう。俺は己の人生が呪われたものだと思っていたが、少なくともこれからは違うのだ。
甲板のフーリーたちはロープを引いて帆の角度を変えたり、またマストに登って見張りをしている。舵を取るメリーカを含め、付け焼刃ではあるがなんとかブリガンティンを動かせるだけの技術を習得していた。また天使は空を飛べるためマストの上へ上がるのも速いし、細い腕に似合わず力もあるから、経験を積めば良い船乗りになろうだろう。
しかしそんな彼女たちの中で、イルザンナは玄人じみた働きを見せていた。甲板を歩き回り、作業に当たる仲間たちに指示を出し、ときには自分が手本を見せる。その知識と技術、判断の的確さは熟練の船乗りそのものだ。またヘレとミアは左右の船べりに立って見張りに付いているが、この幼い二人もどことなく船に慣れているように見えた。
「天界にも操船を習う場所があるのか? あの三人は経験が多そうだ」
「ああ、フーリーには二種類いるんです」
メリーカは俺の質問に快活に答える。曰く彼女はエロス神が作ったフーリーで、生まれながらにして天使。しかしイルザンナ、ヘレ、ミアはなんと人間の女性だったという。『愛』に未練を残して死んだ女性の魂が、天界でエロス神によって救済され、フーリーとして生まれ変わることがあるそうだ。そうしたフーリーは大抵、生前に思いを遂げられなかった男の元へ帰るというが、俺は以前あの三人に会った記憶がない。
ただ昨日絡み合ったとき、イルザンナという名に何か覚えがあるような気がした。
「ご存知でしょうか? 人間だった頃のイルザンナさんは、女海賊として名高かったそうですよ」
「……イルザンナ・ルイス・マルティネス!?」
思い出した。父から伝え聞いた、祖父の武勇伝に出てきた女の名だ。かつて悪名を馳せ、俺の祖父に捕らえられ、処刑された女海賊。
「そうだよ、船長」
いつの間にか、イルザンナが後ろにいた。相変わらず微笑みをたたえて。
「ボクが人間だったのは五十年以上前だから、君からすればお婆ちゃんだね」
「……知った上で来たのか? 俺がお前を殺した男の孫だということを」
メリーカが「えっ!?」と声を上げたのに対し、イルザンナはくすっと笑うのみ。全く落ち着いてた。
「ヘレとミアはボクの船で面倒を見てた孤児でね。捕まった後は三人同じ牢屋に入れられた。後は慰み者として国王へ送られることになっていたんだよ」
「な……!?」
「ボクたちはそんな末路より、君のお祖父さんがせめてもの情けで差し入れてくれた……毒を飲むことを選んだ。表向きは処刑されたことになったけどね」
淡々と語る彼女の言葉に、ただ愕然とするしかなかった。祖父が女海賊イルザンナを捕らえて処刑した、という話を子供の頃に父から聞いた。だが祖父から詳しい話を聞こうとすると、祖父は険しい顔で「その話は二度としないでくれ」と言って口をつぐんだ。
イルザンナの名を思い出せなかったのはそのせいだろう。先王の好色ぶりは聞き及んでいたが、そこまでだったとは。祖父が話したがらなかったのも無理はない。同時に祖父が先王に逆らえなかったものの、加担しなかったことは誇りに思えた。
「でも、死ぬ間際に思ったんだ。一度本気で男を愛してみたかったって。だからエロス様がチャンスをくれた……」
刹那、頬に柔らかな唇が触れた。イルザンナは再び飛び立ち、マストの上にいる仲間にあれこれ指示をする。ヘレとミアも両舷のロープに掴まって真面目に見張りをしていた。彼女たちが送った壮絶な人生を思うと胸が痛むが、今はフーリーとして楽しそうに航海をしている。
「エロス神とイルザンナたちの期待には応えないとな」
「はい!」
メリーカが快活に返事をし、舵輪を回した。
フーリーたちの手配により、エロス信徒だというセイレーンたちが食料と水を持ってきてくれたので、エル・ヴァリエンテ号は飢餓に苦しむことなく航海できた。船乗りである以上人魚と出くわしたことはあるし、魔物は教団が喧伝しているほど凶悪な存在ではないと知ってはいたが、実際に出会ったセイレーンは驚くほど親切で友好的だった。
曰く、「人間を食べるなんて今時流行らないよ」「今のトレンドは人間のお嫁さんになること。この先もずっとそう」だとか。
他にも二度ほど親魔物領に寄港して補給したが、エロス神は魔物の間でも広く信仰されているため、フーリーを引き連れた俺はかなり優遇された。陸に上がって宿泊したときも、乗組員たちと『親睦を深める』ことになったのは言うまでもない。
船上でも彼女たちに誘われたり、俺の方が我慢できなくなって行為に及ぶことが昼夜問わずあった。このままではコートアルフへ着く前に、船上で妊娠者が現れるのではと心配になるほどだった。しかし天使である彼女たちは……魔物の場合もそうらしいが、人間と比べて出生率がかなり低いらしい。一先ずは安心だ、俺はまだ立派な父親になるという自信が無い。少なくとも我が父ほど性根は腐っていないつもりだが。
やがてコートアルフ近海に近づくと、多数の船と出会った。捕鯨船が船に巨大な鯨をくくりつけ、海上で解体を行なっていたりもした。ブリガンティン、ブリッグ、さらには何層もの砲列甲板を持った戦列艦も見受けられる。
髑髏の旗を掲げた船もいたが、こちらを見ても友好的に手を振ってきたり、ときにはボートを出して魚だの肉だのをくれる海賊までいた。どの船にも見た目麗しき魔物が乗っており、人間と手を取り合って航海していた。
竜骨がなく平たい形をした、奇妙な船ともすれ違った。ジャンク船だ。実物を見るのは初めてだが、書物で読んだ通り細いマストから一枚ずつ帆が垂れて、その帆に多数の骨組みが入っていた。霧の大陸からやってきたのだろうか。
「前方に島!」
マスト上の見張り員が叫んだ。望遠鏡を覗くと確かに島が見えた。しかし近づくにつれ、その異様さが分かった。
確かに陸地はある。だがそれ以上に目につくのは、その周囲に連なる大量の船だ。まるで屋敷のような船楼を持つ巨大な船や、テントを張った市場のような船もある。まるで船の都市だ。
「あれが、マトリ……」
魔境コートアルフには七つの島があり、マトリはそのうちの一つ。略奪と流血を好むあまり悪魔に魂を売った海賊たちが集う場所、と聞いていたが、実態は大きく違うようだ。
「船長、手旗信号!」
船べりに立つヘレが叫んだ。左舷を航行するガレオン船の船員……恐らく人間ではない女が両手で旗を振っていた。ヘレが読み上げる。
「ワレ コウサクセン『アルエット』。ナンジノ センメイヲ トウ」
「返信。我、エル・ヴァリエンテ」
ヘレが小さな体で大きく旗を振り、返事を伝える。相手は即座に答えを寄越してきた。
「ワレ エロスキョウカイヨリ キセン シュウゼンノ イライアリ。ワレニツヅケ」
「着いていこう、船長」
イルザンナが言った。
「コートアルフのエロス信徒にボクたちが来るって神託が下ったはずだから、迎えにきたんだよ。ほら、マストの上にガンダルヴァがいる」
「よし。俺が舵を取る」
メリーカに替わって舵輪を握り、追従する。ガレオンに比べればエル・ヴァリエンテ号は子供のようなものだ。しかしこのガレオン船も奇妙で、閉ざされてはいるものの砲列甲板のような窓があり、さらにマストの根元には歯車が組み合わさった奇妙な構造物がある。イルザンナが言った通り、ガンダルヴァという鳥の魔物がメインマストの檣楼で踊っていた。首から提げた弦楽器を翼で器用にかき鳴らし、エキゾチックな音色がここまで届いてくる。
やがてガレオンは他の船舶がいない沖で帆をたたみ、錨を降ろして「接舷せよ」の信号を送ってきた。俺は舵輪を操りながら、新しい人生が始まることを改めて自覚した。
20/02/29 21:32更新 / 空き缶号
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