僕はノートを閉じ、ペンを置いた。まだ回顧録を書くような歳ではないが、町の歴史の転換点に立ち会った者として、それを記録しておくのは価値のあることだと思った。娘やその先の世代の人たちにとって。
　インキュバス化の影響で、僕やクラウゼはあの頃からほとんど変わっていない。当然、コロナやカトレも。だが町は緩やかに変わっているし、僕らも外見以外はいろいろ変化している。

　あのとき命がけで収穫した葡萄……それから作ったワインも、今はほとんど残っていない。だが出来上がったときに飲んだ悦びは今でもはっきりと覚えている。長年この稼業に携わってきた父でさえ「百年に一度の傑作」と評したし、バッカス神殿のサテュロスからも「バッカス神の涙だ」と絶賛された。やはり最良のタイミングだったのだ。

　その『バッカス神の涙』だが、まだ開けていないボトルで所在が分かっているのは五本。
　一本は出来上がる前にヘンシェル老が予約していた。自分の死後に工房を継ぐ者へ渡してくれと言われたので、今はクラウゼの元にある。酒を好まないヘンシェル老にとっては味よりも、間近で戦が行われている中で収穫した僕らの愚直さにこそ価値を見出したようで、それを弟子に伝えたかったのだろう。クラウゼは時計職人として行き詰まった時に飲むつもりでいるようだ。
　二本はルージュ・シティにある。このトーラガルドに影響を受けて作られた、人と魔物が共存する都市だ。領主は幼い頃、この町で過ごしたことのあるヴァンパイア。彼女の元へ一本送った。そしてベッカー家の子息がそのルージュ・シティでBARを始めたので、お祝いに一本送った。
　バッカス信徒の聖地……僕の時計に使われているアメシストの採れた、聖なる鉱山の神殿にも一本奉納した。残る一本は我が家にある。

　少し前まで我が家には二本残っていたが、レミィナ姫の結婚祝いに一本送り、姫様はそれを新郎と二人で飲んだ。作った僕が言うのも何だが、貴重な名酒をいつ飲むか、自分で考えて決断できる人はそれほど多くない。
かくいう僕も、家に残った最後の一本をどうするべきか考えている。魔力を帯びたボトルに入っているので、味が劣化することはないのだが。


　ふいに、ドアをノックする音。「どうぞ」と告げると、コロナが静かに入ってきた。
　彼女は相変わらず可愛らしくて、美しい。二十歳のときと同じだ。そう、純白のウェディングドレスさえも、同じだ。

「イェンス様。今夜もこれが宜しいかと思いまして……」

　赤らんだ顔で悪戯っぽく笑うコロナ。ケープの刺繍がその笑顔によく似合っている。ドレスは清楚な印象ながらも、胸の谷間が少し見え、下品にならない程度に色気のある代物だ。
　本来であれば、一生に一度着る花嫁衣装。だが夜の営みの中で一番幸せなときを思い出すのは、魔物との夫婦ではよくあることだ。

「うん。今日も綺麗だよ、コロナ」
「ふふっ。ありがとうございます」

　彼女は嬉しそうに僕へ歩み寄り……何も無いところで転んだ。子供のときと同じように。
　さっと抱きとめる。細身で柔らかな、けれど働き者らしいしっかりとした体の抱き心地。僕の大好きな感触だ。

「すみません」

　気恥ずかしそうなコロナを抱き寄せ、キスをする。唇も柔らかい。彼女はすぐに応えて、舌を絡ませてくれた。
　先ほど一緒に飲んだワインの味がした。濃厚なキスを交わしながら、一緒にベッドへ座る。ケープの下に手を入れ、ふわふわとした耳を撫でた。彼女も僕の後頭部へ手を回し、手首の羽毛がうなじをくすぐってきた。とても良い匂いがする。

　コロナの胸に手をやり、谷間へ指を潜り込ませる。大きすぎない胸は弾力があって、谷間は少し汗ばんでいた。形を確かめるようにゆっくりと揉んで、柔らかさを楽しむ。

「んむ……んぅぅ……」

　毎晩揉んでいるせいか、コロナの胸は敏感だ。また酒が入っているせいで温かい。
　唇が離れ、唾液が名残惜しそうに糸を引く。とろんとした目で僕を見つめ、再び顔を近づけてくるコロナ。今度は耳へ、ふーっと息を吹きかけてくる。

「んっ、ちゅ……」

　耳たぶを口に含んで、優しく甘噛みしてくれる。これがたまらなく気持ち良いのだ。熱い吐息を吹きかけられながら、唇と歯、耳の穴をくすぐってくる舌の感触にゾクゾクする。

　僕の方もドレスのスカートをめくり、彼女の股間に触れた。レース付きのショーツ越しに大事なところをなぞると、彼女もぴくんと震える。

「コロナは下着の上から触られるの、好きなんだよね？」
「はぃ……♥」

　律儀に返事をしながらも、ずっと耳への甘噛みを続けてくれるコロナ。薄い布の上から割れ目を優しくなぞると、ショーツにどんどん染みが広がり、びしょびしょになってしまった。女性器の線が透けて見える。温かい愛液がふとももまで滴って、白い肌をぬらぬらとてからせる。
　コロナは息を荒げ、股間に快楽を感じながらも耳への刺激を止めない。そのまま僕のズボンのベルトを外して、手際よくペニスを露出させた。そして自分のふとももに垂れた愛液を掌にたっぷりとつけて、肉棒を握り……上下に撫で摩る。

「うっ……」

　声を漏らしてしまった。耳元でコロナがくすっと笑う。

「イェンス様は私のお股の汁が、お好きなんですよね？」
「……うん」

　悪戯っぽく囁かれ、ペニスがぴくんと反応する。夫婦揃って敏感だ。
　コロナは亀頭を指先でくすぐり、僕もショーツの中に手を入れて敏感な粒をさぐり当てる。いつも触っているから見なくても場所は分かる。

「ひゃうっ♥」

　コロナが一際大きく震える。甲高い声が可愛い。互いの股間を愛撫し、くちゅくちゅと卑猥な水音が部屋の中に響く。白い指先にペニスを撫で回され、唇で耳を刺激され、僕はもう達しそうだ。そしてコロナも。

　そこで僕たちは二人とも、愛撫を止めた。肉棒が切なく疼く。コロナのそこも同じだろう。

　彼女はぐちゃぐちゃになったショーツを下ろし、左足を抜く。そのままベッドの上でうつ伏せになり、膝を立ててお尻を持ち上げた。ドレスのスカートを捲って、白いお尻を僕へ向ける。

「イェンス様、どうぞ……♥」

　頰を真っ赤にしながらも、コロナは期待に満ちた眼差しで僕を見ていた。つるりとしたお尻に、割れ目からとめどなく溢れる愛液。まるで桃から果汁が滴っているかのようだ。ふんわりとしたしっぽが左右にゆっくりと揺れている。

　手を触れ、お尻の曲面を撫でて揉む。柔らかくすべすべとした手触りで、とても可愛らしい。谷間に見える肛門まで淫らに見えてしまう。
だがペニスが切なく疼いて、彼女との子作りを望んでいる。一度身を結んで娘を産んだそこへ、今夜も種付けをしたいと。

　彼女の後ろで膝立ちになり、ペニスの先端を入り口に当てがう。その割れ目はゆっくりと蠢き、亀頭を奥へ引き込もうとする。清楚なキキーモラでも、やはり膣には魔性を秘めている。

「……このままでも、出そう……」
「んぅ……ちゃんと中に来てください……♥」

　切なげにおねだりしながら、コロナは僕の腰へ尻尾を巻きつけてくる。快楽を待ち望む顔が可愛い。
　期待に応えるべく、彼女のお尻に手を添えて、腰を進める。

「あっ……はっ……♥」

　うっとりとした嬌声を上げるコロナに、僕はますます欲情が深まる。彼女の膣は何回味わっても飽きない快楽を与えてくれる。ペニスがきゅうきゅうと締め付けられ、蠢く膣の襞にくすぐられ、卑猥な水音を立てた。
　僕の清楚な花嫁の、一番奥を汚すべく、ペニスを奥深くまで突き入れる。コロナが小さく痙攣した。

「イェンス様ぁ、コロナの中はっ、んぅ♥　如何ですか……？」

　純白のドレスと蕩けた顔のギャップが何ともいやらしい。

「ああ……今夜も……凄く、気持ちいいよ……」
「あは……嬉しいです」

　初めて交わったときと同じように、涙を流して笑うコロナ。あの頃から確かに成長していても、変わっていないことだ。

　ゆっくりと、腰を前後させる。温かく艶めかしい膣内の感触に、すでに愛撫で高められたペニスはほどなく射精してしまいそうだ。けれどそれはコロナも同じ。

「ああぁっ、ふあぁっ♥」

　快感に悦びながらも、小さなお尻を振って動きを合わせてくる。そんな健気な彼女が愛おしくてたまらず、動きが早まる。

「コロナ！　コロナっ！」
「イェンス様ぁ、はふっ、ひゃいっ、大好きですっ♥」

　腰を打ち付ける音が部屋に響く。愛液がとめどなく溢れて僕の腰を濡らす。
　やがて一番奥に亀頭がぶつかった瞬間、コロナの体が大きく震えた。

「ふぁっ、はぅぅぅぅ♥」

　一際淫らな嬌声。途端に強く締まる膣。彼女のくれる刺激と愛に、僕の方もまた達した。

「コロナっ、出るよ！」

　どくん、どくん。狭い膣内でペニスが激しく脈打ち、溜まりに溜まったものを吐き出していく。

「ふあぁんっ♥　あ、熱いの、ひゃう、きてる、きてますぅ……！」

　快楽に震えながら悦びを訴えるコロナ。迸ったそれは彼女の中をたちまち満たした。漏らすまいと膣に一生懸命力を入れているのに、逆流した精液が結合部から零れ始める。
　力が抜けてベッドへ突っ伏してしまうコロナに、僕は覆いかぶさって抱き着き、柔らかな乳房を揉みながら射精の快感に酔う。ワインの香りと汗の匂いが混じり、陶酔感がいつまでも続いた。

　やがてシーツに白濁と愛液で水たまりができた頃、ぼんやりとした頭が少しはっきりとしてくる。
　寝室のドアの向こうから、パタパタと足音が聞こえた。娘だ。

「……あの子、鍵穴から見ていたのかも」

　コロナがぽつりと呟く。

「えっちなこと、興味あるみたいでしたから」
「……それって、してあげたい相手がいるってことかな？」
「その気配は前からありました。庭師見習いのミゲルくんと」
「気づかなかったな」

　やはりこういうことは女の方が鋭い。特にコロナはよく気がづく。
　可愛い娘に好きな男ができたというのは複雑だが、コロナと自分のことを思えば祝福すべきことだ。それに今名前の挙がったミゲルは心優しく、仕事もしっかりする少年だし、彼なら良いかと思う。もっとも二人ともまだ子供。ちょうど、僕とコロナが出会ったのと同じ歳だ。これから同じように愛を深めていくのだろうか。
　そして娘もまた、ウェディングドレスを着ることだろう。

　その日のために取って置くのがいいかもしれない。あの最後のボトルを。

「ねぇコロナ。あの子、前に妹が欲しいって言ってたんだけど……頑張ってくれる？」
「ふふっ。喜んで」

　振り向いて微笑みながら、膣をきゅっと締めてくるコロナ。彼女のぬくもりに包まれたペニスが、再び怒張していく。


　こうして僕たちは今夜も酔いしれる。

　今まで積み重ねてきた愛と、未来へ向けた愛に。










--fin

■作者メッセージ

お読みいただきありがとうございました。
本当、前編の後ものすごくお待たせしてしまい申し訳ありません。
今後も夏場の更新は辛い状況になるかと思いますが、SSにいただくご感想も生きる力ですので、魔物娘愛がある限り続けていくつもりです。

ちなみに作品の時系列としては、

本作
↓
「ちびっこリリム　レミィナ」
↓
「ちびっこヴァンパイア　リライア」
↓
一連のルージュ・シティシリーズ
「風来リリムと異界の鳥人」

という具合になっているので、よろしければ他の作品もお読みいただければと！（宣伝）