イノセント・エッグ
イレギュラーな事態というのは往々にして発生するものだ。魔物が人間の根幹である『男女』のシステムを利用したことも、神々にとっては予想外の事態だった。同じように、魔物でさえ予想外の事態は起こりうる。人間がそうであるように、彼女たちもまた不完全な存在なのだ。
それ故に、魔物が作った世界も不完全であり、想定外の事態は起こる。
例えば、不思議の国。あるリリムが作った魔界の一種で、異なる時空に存在するため『異界』に分類される。
来る日も来る日も、狂ったように人と魔物が交わり、笑みを浮かべる。そして王女の気まぐれによって招待された客人も、狂った常識の快感に目覚め、新たな住人となる。
このような世界では何もかもが想定外に思えるが、この世界に招かれる男性にはある程度共通しているところがある。精通を迎えているか、そうでなくとも性的なことに興味を持てる歳であることだ。それは魔物たちが男との交わりを何よりの楽しみとするからだ。
しかしある日、想定外のことが起きた。国のある大樹の下に、赤ん坊がいたのだ。魔物ではない、人間の男の子だ。
まだ立つこともできない乳飲み子が、ボロ布にくるまれて座っている。酷く痩せた頬が、生活苦からの捨て子であることを物語っていた。当然、この国に子供を捨てる親などおらず、現世から何らかの理由で迷い込んだことは明らかだった。
他にも三人の赤ん坊がいたが、彼らは立って、或いは這って歩ける程度には成長していた。そして何かに誘われるかのように、バラバラの方向を目指して行った。
一人は独身のマーチヘアに拾われ、彼女たちの集落で育てられた。淫らなウサギから言葉を教わった彼は、彼女たちと同じ思考を持つように成長し、群れの中でセックスに満ちた幸せな人生を送った。
一人はマッドハッターの夫妻に拾われ、養子となった。里親の教育の甲斐あって、村の特産品である茶葉を育てる農学者として成長。やがて血の繋がらない妹と結婚し、常に交わったまま仕事に励んだ。
最後の一人は(性的な)強者を求める孤独なジャバウォックに拾われた。ジャバウォックはその赤子に、自分を超える(ほど淫乱な)猛者になるよう英才教育を施した。立派に成長した彼は、鍛え上げられた男根で里親の恩に報いた。
結局、歩くこともできない赤子が一人だけ取り残された。頭上に七色の葉を茂らせる大樹はジャブジャブたちの巣だった。男の気配に敏感なことで知られる彼女たちだが、さすがに赤ん坊に対しては男センサーも反応しないようだ。
それでも巣の近くに赤ん坊がいることに気づけば、すぐさま急降下して保護しただろう。しかし時刻は早朝。夫のいる個体は昨夜から、または数ヶ月前から通しで交尾に励んでおり、独身の個体は巣の中で淫夢を楽しんでいる頃だった。
赤ん坊が全く泣かないのも、ジャブジャブたちが気づかなかった理由の一つだ。無垢な丸い目で木を見上げたまま、ぼんやりと座っている。不思議の国を包む温かな空気と優しい香りが、不安を消し去っていたのだろう。
だが彼が空腹を覚えた頃、ようやく変化が起きた。
太い木の枝に据え付けられたジャブジャブの巣から、白い球体が転がり出た。それは重力に従って地面に落下し、赤ん坊の目の前で割れた。
白い殻が飛び散り、中の透明な粘液、そして濃い黄色い何かが散乱する。淫な鳥人たちの卵だ。
目を見開いて驚く赤子の前で、卵の残骸は一箇所に集まり始めた。卵白がプールを作り、その中で卵黄が起き上がっていく。黄色のスライム体が短い髪を、くりくりとした目を、つんと尖った小さな胸、おへそ、折りたたまれた脚、そして『割れ目』を形成する。魔物に詳しい者なら、ジャブジャブという種族が生まれる前から淫乱なことを知っているだろう。
ハンプティ・エッグ。幼い少女の姿を取った黄身は、赤ん坊に向けてにっこりと笑った。
「だぁ……」
彼女の姿は乳児と呼ぶには大きすぎた。胸も成長を始める数歩手前といった段階で、臀部もふっくらとしている。バフォメットを崇め奉るサバト信者ならば、十分に性愛の対象になる『幼女』だった。
しかしその心と知能は目の前の赤子とほぼ変わらぬ、無垢だった。小さな指をしゃぶりながら、きょとんとしている赤子と見つめ合う。相手が何者で、何故そこにいるのか、見に纏っているボロ布が何なのかさえ分からない。しかし卵黄スライムで形成された瞳に、『オス』の赤子がどう映ったか……それは言うまでもないことだ。
魔物の中でも一際淫らで、交わりのことしか考えないジャブジャブ。その卵が突然変異を起こしたのがハンプティ・エッグである。旺盛な愛欲は彼女たちの遺伝子に深く刻まれていた。加えて精神が赤子と変わらないため、その子を自分のつがいとして認識したのである。
「……んっ、ぱぁ!」
無邪気に元気良く叫び、赤子に向けて透明な卵白を飛ばした。これもまたハンプティエッグの体の一部であり、自在に動かせる。柔らかな流体が赤ん坊を抱きしめ、流れるように本体の近くへ運搬した。
魔物の幼女は汚れたボロ布を不快に感じたようだ。小さな手を使い、それを一生懸命に剥ぎ取ろうとする。
そのとき、赤子はとうとう泣き出した。僅かに感じた恐怖感と空腹が合わさったのだろう。その声にジャブジャブたちも何人か目を覚まし、木の上から心配そうに見下ろしていた。
母鳥の愛液が樹上から垂れてくる中、卵黄幼女は指を咥え、泣きじゃくる『夫』を見つめた。そして何を思ったか、その指を彼の口へ押し込んだのである。
とろり。
液状化させたスライムゼリーが、赤子の口へ流し込まれる。その途端、鳴き声がピタリと止んだ。
ハンプティ・エッグのスライムゼリーは濃厚な味わいで、極めて高いエネルギーを持っている。赤ん坊の空腹など一口で癒せるほどに。だがその栄養素の真価は、男の器官への作用だった。
「んきゃっ♥」
無垢な幼女は喜びの声を上げた。『夫』の股間部に膨らみができたからだ。
赤子が腹を満たして眠くなってきた隙に、頑張ってボロ布を取り去っていく。風邪をひかないようにという親の最後の愛情か、不潔な布は厚く厳重に巻かれていた。しばらくすると努力の甲斐あって、彼女は赤子の肌を見ることができた。皮膚の色は健康的とは言いがたく、肋骨が浮き出ている。しかし愛する夫を裸にしていく喜びに、ハンプティエッグは無邪気に頬を緩ませる。
やがて全ての布を取り去ると、小さなペニスが露わになった。否、小さくはない。赤ん坊の体と比較すれば不自然に大きかった。成人男性には及ばないが、性に目覚めた少年程度……つまりは性交可能なサイズにまで成長していた。その上、皮を被っているとはいえ上を向き、勃起していた。
不思議の国は強い魔力に満ちており、客人を甘い狂気へと誘う。そしてハンプティ・エッグのスライムゼリーを摂取したことにより、赤子は小さな体に多量の魔力を吸収してしまった。魔物の魔力は男性機能の成長を促す。彼は赤ん坊のまま、インキュバスとなっていたのである。
経験したことのない股間部の甘い疼き。安眠を妨害された赤子はどうすればいいか分からず、むずがる。頼るべき母親はもういない。彼は本能的に、自分を捕まえた女の子へと縋るような視線を向けた。
それに応えない魔物はいない。ハンプティ・エッグは愛しいペニスを見つめたまま、自分の指を口に入れ、少しの間舐めしゃぶった。練習のつもりだったのかもしれない。それを終えると、小さな口をできるだけ大きく開け、肥大したペニスを咥え込んだ。
「ちゅぅぅ……♥ ん♥」
スライムの舌が包皮の中へ侵入し、触れられたことのない亀頭を優しく舐める。赤子の口から、泣き声とも笑い声とも似つかぬ声が漏れた。インキュバス化した彼のペニスはすでに、魔物から与えられる性的快楽を受け入れられるよう進化していたのだ。スライムに包皮を剥かれても痛みを感じず、亀頭が露出する。
ハンプティ・エッグの心は赤ん坊でも、極めて淫らな魔物。敏感な部分を舐めしゃぶり、本能に導かれるまま『夫』に快楽を与える。真っ白の無垢な心を、桃色の快感が染め上げていく。
夢中でペニスにしゃぶりつくハンプティ・エッグもまた、無垢であった。無事に生まれていれば、母鳥の乳房を同じように吸っていただろう。だがいずれは男のペニスを吸うことになったはずで、段階が一つ減っただけだ。
とろり。
あっという間に、精液が迸った。口腔に吐き出された白濁を、ミルクのように飲みほして行く人外の幼女。目をとろんと半眼に開き、オスの顔を見つめながら、卑猥な音を立てて吸引する。
尿道に残った精液まで吸い出す。透き通った黄金色のスライム体の中で、白濁がゆっくりと喉を下っていくのが見えた。おへその上辺りに集められた精液が、ふよふよと漂っている。
彼は世界一早く精通を迎えた男となった。それにどういう意味があるのか、赤子が知っているわけなどないし、今後知ることもないかもしれない。ただ無邪気によだれを垂らし、気持ちよさに浸っていた。インキュバス化によって、性的快楽の甘美さを植え付けられたのだ。
「……あー♥」
ペニスから口を離し、幼女は花のような笑みを浮かべる。次いで、ばんざいするかのように両手を上げた。
途端に卵白が動き出した。器上に広がったかと思うと、重力に逆らって上へ伸びていく。二人を包むように透明な膜を張り、球体を形作る。陽の光で虹色に輝く卵白の膜は幻想的だった。
だがやがて膜は透明度を失い、真っ白な『殻』となった。幼女は卵の中に戻ったのだ。もう一人の赤子と共に。
出来上がった揺りかごの中で、彼女はパートナーを抱き寄せた。小さな胸を彼の口元へ運ぶと、赤子もまた本能に従った。スライムで再現された未発達な乳房に吸い付き、つんと勃った乳首を吸う。
高品質のカスタードプディングのような、濃厚なミルクが口腔を潤わせる。ハンプティ・エッグはスライムゼリーを液状化させて分泌していた。自分も赤ん坊のメンタルを持っているせいか、乳児が食べやすいようにという気遣いができていた。魔物娘の不思議だ。
「きゃっ♥ おー♥」
スライムでも人間の形を取っているため、性感帯はある。小さな乳首を吸われて気持ちいいのか、蕩けた笑みを浮かべて悦ぶ。
赤子が満足して口を離したとき、彼のペニスは再び膨らんでいた。幼女は愛おしそうにそれを見つめ、赤子もまた彼女へねだるような視線を送る。
それに答え、彼女はゆっくりとそのペニスを跨いだ。粘体でできた体は精巧な彫刻のようなもので、女性器の割れ目も再現されていた。スライム種は身体中どこでも男性器を受け入れ、交尾を楽しむことができる。しかしハンプティ・エッグは本来ハーピー種として生まれるはずだったため、本能的に親鳥と同じ部位で交わろうとするようだ。いずれ自分の体の特性知ってから、より様々な体位を楽しむことになるだろう。
赤子にとっても、この魔物の幼女はすでに愛おしい存在になっていた。母親か、或いはそれ以上のものに相当する存在に。
彼女が腰を沈め、スライムの股間でペニスを飲み込んでいくと、彼は長くか細い声を上げた。歓喜の声だった。幼女の方もまた、体内をかき分けていく男性器の感触に身をよじらせる。
「んぅ、あー♥ あぁーっ♥」
目からポロリと、涙のようなスライムゼリーが零れ落ちる。愛しい人に処女を捧げる……その概念を分かっているか定かでないが、ハンプティ・エッグは初めての繋がりに嬌声を上げた。
無垢な快楽の賛歌。生まれてきたことへの喜びの声だ。
流体の膣が敏感なペニスをソフトに抱きしめ、絡みついてくすぐる。先走りの液が体内に溶け出し、それを感じた彼女はパートナーをぎゅっと抱き締める。彼は安心感と幸せに包まれたまま、高まる快楽に身を任せた。
どくん。
ゆっくりとペニスが脈打ち、射精が始まった。勢いは緩やかだが、量は多かった。小さなペニスから溢れ出た白濁が、黄金色のスライム体の中へ放出される。腹部だけでなく、手足、顔の方まで到達し、ハンプティ・エッグの全身に精液が漂う。
「はぁぁんっ♥ きゃ♥ だぁぁ♥」
一際大きく声を上げ、彼女はとん、とんとリズミカルに腰を揺する。すると脈打ちの勢いは増した。彼女の体に精液がどんどん混ざっていき、元の色が変わってしまいそうなほど白濁に染まる。それらは少しずつ吸収され、魔物たちの魔力へと変わり、また生殖に使われる。
小さな体にスライムゼリーを受け入れたため、射精が終わることはなかった。痺れるような快楽に溺れ、赤子のまぶたが段々と重くなっていく。
彼の伴侶はそんな夫の姿を見つめ、にっこりと慈愛に満ちた笑みを浮かべた。小さな手で優しく撫でてもらい、赤子は安心して眠りについた。射精し続けたまま、彼女にしがみついて……
それから。
卵の揺りかごを発見したハートの女王は、中で交わる二人の赤子を透視魔法で見ることができた。無垢なまま乱れる二人を気に入ったハートの女王は、彼らを卵ごと持ち帰り、自分のコレクションに加えた。
わがままな女王は卵の殻を魔法で透過させ、美しい水晶玉のような外見に作り変えて、客人たちに披露した。もし女王の城を訪れたら、今後の目標として見ておくのも一興だろう。魔物と交わっている間は、大人でもこの赤子のように無垢になれるのだから。もし運が良ければ、二人が生んだ新たな卵に愛されるかもしれない。
大勢の人目に晒されても、二人は無垢に交わり続けていた。赤子の体は少しだけ成長し、肌の色もよくなり、体つきも丸みを帯びた。彼はスライムゼリーをハンプティ・エッグから与えられ、彼女は精液を彼からもらう。ただそれだけを繰り返し、快楽を楽しむ永久機関。時折幼い腹に卵が形成され、それは下界へ産み落とされて伴侶を探す。
人間としての人生を魔物に奪われた、という見方もあるだろう。しかし彼女と出会わなかった場合、彼に未来が無かった可能性も、考慮せねばならない。どちらにせよ当人たちにとって、そんな議論は無意味だ。
愛欲に溺れながらも、何処までもイノセントな赤子たち。だが見物人の会話を聞いたのか、お互いに一つだけ言葉を覚えた。
それは二人にとって唯一必要な、とても大事な言葉だった。
「……しゅき」
「ん、しゅき♥」
ーーfin
それ故に、魔物が作った世界も不完全であり、想定外の事態は起こる。
例えば、不思議の国。あるリリムが作った魔界の一種で、異なる時空に存在するため『異界』に分類される。
来る日も来る日も、狂ったように人と魔物が交わり、笑みを浮かべる。そして王女の気まぐれによって招待された客人も、狂った常識の快感に目覚め、新たな住人となる。
このような世界では何もかもが想定外に思えるが、この世界に招かれる男性にはある程度共通しているところがある。精通を迎えているか、そうでなくとも性的なことに興味を持てる歳であることだ。それは魔物たちが男との交わりを何よりの楽しみとするからだ。
しかしある日、想定外のことが起きた。国のある大樹の下に、赤ん坊がいたのだ。魔物ではない、人間の男の子だ。
まだ立つこともできない乳飲み子が、ボロ布にくるまれて座っている。酷く痩せた頬が、生活苦からの捨て子であることを物語っていた。当然、この国に子供を捨てる親などおらず、現世から何らかの理由で迷い込んだことは明らかだった。
他にも三人の赤ん坊がいたが、彼らは立って、或いは這って歩ける程度には成長していた。そして何かに誘われるかのように、バラバラの方向を目指して行った。
一人は独身のマーチヘアに拾われ、彼女たちの集落で育てられた。淫らなウサギから言葉を教わった彼は、彼女たちと同じ思考を持つように成長し、群れの中でセックスに満ちた幸せな人生を送った。
一人はマッドハッターの夫妻に拾われ、養子となった。里親の教育の甲斐あって、村の特産品である茶葉を育てる農学者として成長。やがて血の繋がらない妹と結婚し、常に交わったまま仕事に励んだ。
最後の一人は(性的な)強者を求める孤独なジャバウォックに拾われた。ジャバウォックはその赤子に、自分を超える(ほど淫乱な)猛者になるよう英才教育を施した。立派に成長した彼は、鍛え上げられた男根で里親の恩に報いた。
結局、歩くこともできない赤子が一人だけ取り残された。頭上に七色の葉を茂らせる大樹はジャブジャブたちの巣だった。男の気配に敏感なことで知られる彼女たちだが、さすがに赤ん坊に対しては男センサーも反応しないようだ。
それでも巣の近くに赤ん坊がいることに気づけば、すぐさま急降下して保護しただろう。しかし時刻は早朝。夫のいる個体は昨夜から、または数ヶ月前から通しで交尾に励んでおり、独身の個体は巣の中で淫夢を楽しんでいる頃だった。
赤ん坊が全く泣かないのも、ジャブジャブたちが気づかなかった理由の一つだ。無垢な丸い目で木を見上げたまま、ぼんやりと座っている。不思議の国を包む温かな空気と優しい香りが、不安を消し去っていたのだろう。
だが彼が空腹を覚えた頃、ようやく変化が起きた。
太い木の枝に据え付けられたジャブジャブの巣から、白い球体が転がり出た。それは重力に従って地面に落下し、赤ん坊の目の前で割れた。
白い殻が飛び散り、中の透明な粘液、そして濃い黄色い何かが散乱する。淫な鳥人たちの卵だ。
目を見開いて驚く赤子の前で、卵の残骸は一箇所に集まり始めた。卵白がプールを作り、その中で卵黄が起き上がっていく。黄色のスライム体が短い髪を、くりくりとした目を、つんと尖った小さな胸、おへそ、折りたたまれた脚、そして『割れ目』を形成する。魔物に詳しい者なら、ジャブジャブという種族が生まれる前から淫乱なことを知っているだろう。
ハンプティ・エッグ。幼い少女の姿を取った黄身は、赤ん坊に向けてにっこりと笑った。
「だぁ……」
彼女の姿は乳児と呼ぶには大きすぎた。胸も成長を始める数歩手前といった段階で、臀部もふっくらとしている。バフォメットを崇め奉るサバト信者ならば、十分に性愛の対象になる『幼女』だった。
しかしその心と知能は目の前の赤子とほぼ変わらぬ、無垢だった。小さな指をしゃぶりながら、きょとんとしている赤子と見つめ合う。相手が何者で、何故そこにいるのか、見に纏っているボロ布が何なのかさえ分からない。しかし卵黄スライムで形成された瞳に、『オス』の赤子がどう映ったか……それは言うまでもないことだ。
魔物の中でも一際淫らで、交わりのことしか考えないジャブジャブ。その卵が突然変異を起こしたのがハンプティ・エッグである。旺盛な愛欲は彼女たちの遺伝子に深く刻まれていた。加えて精神が赤子と変わらないため、その子を自分のつがいとして認識したのである。
「……んっ、ぱぁ!」
無邪気に元気良く叫び、赤子に向けて透明な卵白を飛ばした。これもまたハンプティエッグの体の一部であり、自在に動かせる。柔らかな流体が赤ん坊を抱きしめ、流れるように本体の近くへ運搬した。
魔物の幼女は汚れたボロ布を不快に感じたようだ。小さな手を使い、それを一生懸命に剥ぎ取ろうとする。
そのとき、赤子はとうとう泣き出した。僅かに感じた恐怖感と空腹が合わさったのだろう。その声にジャブジャブたちも何人か目を覚まし、木の上から心配そうに見下ろしていた。
母鳥の愛液が樹上から垂れてくる中、卵黄幼女は指を咥え、泣きじゃくる『夫』を見つめた。そして何を思ったか、その指を彼の口へ押し込んだのである。
とろり。
液状化させたスライムゼリーが、赤子の口へ流し込まれる。その途端、鳴き声がピタリと止んだ。
ハンプティ・エッグのスライムゼリーは濃厚な味わいで、極めて高いエネルギーを持っている。赤ん坊の空腹など一口で癒せるほどに。だがその栄養素の真価は、男の器官への作用だった。
「んきゃっ♥」
無垢な幼女は喜びの声を上げた。『夫』の股間部に膨らみができたからだ。
赤子が腹を満たして眠くなってきた隙に、頑張ってボロ布を取り去っていく。風邪をひかないようにという親の最後の愛情か、不潔な布は厚く厳重に巻かれていた。しばらくすると努力の甲斐あって、彼女は赤子の肌を見ることができた。皮膚の色は健康的とは言いがたく、肋骨が浮き出ている。しかし愛する夫を裸にしていく喜びに、ハンプティエッグは無邪気に頬を緩ませる。
やがて全ての布を取り去ると、小さなペニスが露わになった。否、小さくはない。赤ん坊の体と比較すれば不自然に大きかった。成人男性には及ばないが、性に目覚めた少年程度……つまりは性交可能なサイズにまで成長していた。その上、皮を被っているとはいえ上を向き、勃起していた。
不思議の国は強い魔力に満ちており、客人を甘い狂気へと誘う。そしてハンプティ・エッグのスライムゼリーを摂取したことにより、赤子は小さな体に多量の魔力を吸収してしまった。魔物の魔力は男性機能の成長を促す。彼は赤ん坊のまま、インキュバスとなっていたのである。
経験したことのない股間部の甘い疼き。安眠を妨害された赤子はどうすればいいか分からず、むずがる。頼るべき母親はもういない。彼は本能的に、自分を捕まえた女の子へと縋るような視線を向けた。
それに応えない魔物はいない。ハンプティ・エッグは愛しいペニスを見つめたまま、自分の指を口に入れ、少しの間舐めしゃぶった。練習のつもりだったのかもしれない。それを終えると、小さな口をできるだけ大きく開け、肥大したペニスを咥え込んだ。
「ちゅぅぅ……♥ ん♥」
スライムの舌が包皮の中へ侵入し、触れられたことのない亀頭を優しく舐める。赤子の口から、泣き声とも笑い声とも似つかぬ声が漏れた。インキュバス化した彼のペニスはすでに、魔物から与えられる性的快楽を受け入れられるよう進化していたのだ。スライムに包皮を剥かれても痛みを感じず、亀頭が露出する。
ハンプティ・エッグの心は赤ん坊でも、極めて淫らな魔物。敏感な部分を舐めしゃぶり、本能に導かれるまま『夫』に快楽を与える。真っ白の無垢な心を、桃色の快感が染め上げていく。
夢中でペニスにしゃぶりつくハンプティ・エッグもまた、無垢であった。無事に生まれていれば、母鳥の乳房を同じように吸っていただろう。だがいずれは男のペニスを吸うことになったはずで、段階が一つ減っただけだ。
とろり。
あっという間に、精液が迸った。口腔に吐き出された白濁を、ミルクのように飲みほして行く人外の幼女。目をとろんと半眼に開き、オスの顔を見つめながら、卑猥な音を立てて吸引する。
尿道に残った精液まで吸い出す。透き通った黄金色のスライム体の中で、白濁がゆっくりと喉を下っていくのが見えた。おへその上辺りに集められた精液が、ふよふよと漂っている。
彼は世界一早く精通を迎えた男となった。それにどういう意味があるのか、赤子が知っているわけなどないし、今後知ることもないかもしれない。ただ無邪気によだれを垂らし、気持ちよさに浸っていた。インキュバス化によって、性的快楽の甘美さを植え付けられたのだ。
「……あー♥」
ペニスから口を離し、幼女は花のような笑みを浮かべる。次いで、ばんざいするかのように両手を上げた。
途端に卵白が動き出した。器上に広がったかと思うと、重力に逆らって上へ伸びていく。二人を包むように透明な膜を張り、球体を形作る。陽の光で虹色に輝く卵白の膜は幻想的だった。
だがやがて膜は透明度を失い、真っ白な『殻』となった。幼女は卵の中に戻ったのだ。もう一人の赤子と共に。
出来上がった揺りかごの中で、彼女はパートナーを抱き寄せた。小さな胸を彼の口元へ運ぶと、赤子もまた本能に従った。スライムで再現された未発達な乳房に吸い付き、つんと勃った乳首を吸う。
高品質のカスタードプディングのような、濃厚なミルクが口腔を潤わせる。ハンプティ・エッグはスライムゼリーを液状化させて分泌していた。自分も赤ん坊のメンタルを持っているせいか、乳児が食べやすいようにという気遣いができていた。魔物娘の不思議だ。
「きゃっ♥ おー♥」
スライムでも人間の形を取っているため、性感帯はある。小さな乳首を吸われて気持ちいいのか、蕩けた笑みを浮かべて悦ぶ。
赤子が満足して口を離したとき、彼のペニスは再び膨らんでいた。幼女は愛おしそうにそれを見つめ、赤子もまた彼女へねだるような視線を送る。
それに答え、彼女はゆっくりとそのペニスを跨いだ。粘体でできた体は精巧な彫刻のようなもので、女性器の割れ目も再現されていた。スライム種は身体中どこでも男性器を受け入れ、交尾を楽しむことができる。しかしハンプティ・エッグは本来ハーピー種として生まれるはずだったため、本能的に親鳥と同じ部位で交わろうとするようだ。いずれ自分の体の特性知ってから、より様々な体位を楽しむことになるだろう。
赤子にとっても、この魔物の幼女はすでに愛おしい存在になっていた。母親か、或いはそれ以上のものに相当する存在に。
彼女が腰を沈め、スライムの股間でペニスを飲み込んでいくと、彼は長くか細い声を上げた。歓喜の声だった。幼女の方もまた、体内をかき分けていく男性器の感触に身をよじらせる。
「んぅ、あー♥ あぁーっ♥」
目からポロリと、涙のようなスライムゼリーが零れ落ちる。愛しい人に処女を捧げる……その概念を分かっているか定かでないが、ハンプティ・エッグは初めての繋がりに嬌声を上げた。
無垢な快楽の賛歌。生まれてきたことへの喜びの声だ。
流体の膣が敏感なペニスをソフトに抱きしめ、絡みついてくすぐる。先走りの液が体内に溶け出し、それを感じた彼女はパートナーをぎゅっと抱き締める。彼は安心感と幸せに包まれたまま、高まる快楽に身を任せた。
どくん。
ゆっくりとペニスが脈打ち、射精が始まった。勢いは緩やかだが、量は多かった。小さなペニスから溢れ出た白濁が、黄金色のスライム体の中へ放出される。腹部だけでなく、手足、顔の方まで到達し、ハンプティ・エッグの全身に精液が漂う。
「はぁぁんっ♥ きゃ♥ だぁぁ♥」
一際大きく声を上げ、彼女はとん、とんとリズミカルに腰を揺する。すると脈打ちの勢いは増した。彼女の体に精液がどんどん混ざっていき、元の色が変わってしまいそうなほど白濁に染まる。それらは少しずつ吸収され、魔物たちの魔力へと変わり、また生殖に使われる。
小さな体にスライムゼリーを受け入れたため、射精が終わることはなかった。痺れるような快楽に溺れ、赤子のまぶたが段々と重くなっていく。
彼の伴侶はそんな夫の姿を見つめ、にっこりと慈愛に満ちた笑みを浮かべた。小さな手で優しく撫でてもらい、赤子は安心して眠りについた。射精し続けたまま、彼女にしがみついて……
それから。
卵の揺りかごを発見したハートの女王は、中で交わる二人の赤子を透視魔法で見ることができた。無垢なまま乱れる二人を気に入ったハートの女王は、彼らを卵ごと持ち帰り、自分のコレクションに加えた。
わがままな女王は卵の殻を魔法で透過させ、美しい水晶玉のような外見に作り変えて、客人たちに披露した。もし女王の城を訪れたら、今後の目標として見ておくのも一興だろう。魔物と交わっている間は、大人でもこの赤子のように無垢になれるのだから。もし運が良ければ、二人が生んだ新たな卵に愛されるかもしれない。
大勢の人目に晒されても、二人は無垢に交わり続けていた。赤子の体は少しだけ成長し、肌の色もよくなり、体つきも丸みを帯びた。彼はスライムゼリーをハンプティ・エッグから与えられ、彼女は精液を彼からもらう。ただそれだけを繰り返し、快楽を楽しむ永久機関。時折幼い腹に卵が形成され、それは下界へ産み落とされて伴侶を探す。
人間としての人生を魔物に奪われた、という見方もあるだろう。しかし彼女と出会わなかった場合、彼に未来が無かった可能性も、考慮せねばならない。どちらにせよ当人たちにとって、そんな議論は無意味だ。
愛欲に溺れながらも、何処までもイノセントな赤子たち。だが見物人の会話を聞いたのか、お互いに一つだけ言葉を覚えた。
それは二人にとって唯一必要な、とても大事な言葉だった。
「……しゅき」
「ん、しゅき♥」
ーーfin
16/12/12 05:49更新 / 空き缶号