不思議のルルゼ村 わんこ編
文字通り、何もない土地だった。人間や建物が消えただけではない、土は異常なまでに平らになり、畑の痕跡すら見受けられなくなっている。
手に握るリードの先で、俺の愛犬・ヴァネッサは一生懸命に地面の臭いを嗅いでいた。臭跡だけでなく魔力を探知するよう訓練したヴァネッサは、俺と一緒に多くの手柄を立ててきた。茶色く尖った耳で周囲の様子を伺いながら捜査を続けるが、未だに何も探知できていない。
「ケルド、そっちはどうだ？」
一緒に調査をしていたコムランが尋ねてくる。奴は犬ではなく杖を使い、自分の感覚で魔力を探知することができるのだが、そちらも未だに収穫がないようだ。もっとも人間の探知能力が犬より優れているとは思えないが。
「何の反応もない。こんなことは初めてだ」
答えつつ、俺はヴァネッサに歩み寄った。さすがにこの状況は犬でも不安だろう。いや、不安にならないはずがない。こいつは人間よりもよほど純粋なのだ。先ほどから時々こちらを振り向き、不安げな視線を送ってくる。
相棒の頭に手をやり、柔らかな毛並みを撫でてやる。時折こうして勇気づけてやらねばならない。
「頑張れ、お前が頼りだ。安心しろ、俺がついてる」
ぴくぴくと動く耳に口を寄せ、囁く。言葉の意味が通じるかは分からない。だがこうすることで彼女は落ち着くのだ。
犬は人間の最良の友。犬の魔物であるコボルドさえその範疇に含める一派もいるほどだ。だが人間に奉仕させられた結果、神経を病んでいく犬たちを多く見てきた。例えば大災害の際、救助部隊の犬がそうなることもある。救助犬は厳しい訓練を積み、何事にも動じない精神力を身につけているが、それも『生存者を救助せよ』という命令を達成するためだ。しかし災害の規模が大きく屍体しか見つからなかった場合、その任務を達成できなかったことになる。もちろん犬の責任ではないが、犬にとって主人の期待に応えられないことは自尊心を大きく傷つけらるのだ。
俺は自分を含めて、人間が嫌いだ。犬は強いリーダーを求める本能があり、それを人間に利用されている。彼女たちに人間のエゴを押し付けてしまっている以上、立場を上に保ちつつも、誠意を持って接さねばならない。
もう一度、頼むぞと囁いて放す。ヴァネッサは落ち着きを取り戻し、地面を調べ続けた。
……我が愛犬の献身的な努力にも関わらず、その日は何の収穫もなかった。俺は調査前に近くへ建てたテントに戻り、睡眠を取ることにした。
一晩寝て目が覚めたとき、何か体に違和感を覚えた。気分は悪くない。爽やかな目覚めだ。だが何か、周囲のニオイがより強く感じる。テントの中で寝ているのだから土のニオイがするのは当然だが、その土に含まれている物質や、植物のニオイまで感じるようだ。
寝返りを打ってみる。どうもおかしい。尻の辺りに変な物があるように思える。
起き上がろうとしたとき、テントの入り口ががさりと開いた。差し込む陽光が眩しい。同僚か、と思ったが、光の中に立っているのは小さな影だった。
「あはっ。起きたんだね！」
にこやかな笑みを浮かべて入ってきた、金髪の女の子。赤いワンピースを着て、無邪気な笑みを浮かべた子供だ。頭に大きな髪飾りをつけている。
何故こんなところに？ 村人が残っていたのか？
体を起こそうとすると、入り口が閉まって光が遮られた。眩しさがなくなり、少女の顔がはっきりと分かった。色白で品の良い、だがどこかあかぬけない風貌の子だ。
しかしその無垢な笑顔とは裏腹に、その金色の巻き毛についているのが髪飾りではなく、角だということに気づく。山羊のような、小さく渦を巻いた角。腰の辺りには薄い桃色のリボンのような物が見えたが、それもよく見ると翼だった。コウモリのような皮膜の翼に、臀部には同じ色の尻尾が生えている。絵画に描かれる悪魔の物だった。
咄嗟に、魔物だ、と叫んだ。いや、叫んだつもりだった。その言葉は俺の口から出ることなく、代わりに出てきたのは「ワン」という鳴き声だったのだ。
「わんわん！」
魔物の少女が楽しそうに口ずさむ。その小さな手が俺へ伸びてくるのを見て、すぐさま立ち上がった。するとどうしたことか、その瞬間に足元がふらつく。体が自分の体ではないような感覚だった。
バランスを崩して地面に手をついたとき、我が目を疑った。それは確かに俺の手だ。俺の手なのに、何故毛皮で覆われているのか。この獣の爪は一体何だ。
小さな手が、目の前に円盤を差し出してきた。手鏡だ。映っているのは茶色い毛の、一頭の大型犬。俺の姿は見えない。
瞬きをしてみた。口を開け閉めしてみた。鏡の中の犬は全く同じ動作をする。
鏡を手で叩く。犬も鏡の中で手を出す。そしてそれはどう見ても……犬の手だ。
「よかったね、かっこいいわんちゃんになれて」
魔物は笑って、手鏡を引っ込めた。
こいつの仕業か。そう判断した瞬間、反射的に体は動いた。拳を作ることができず、爪のついた手をそのまま振り上げ……引っ掻くなり、飛びついて噛み付くなりしようとした。だがその手は何にも触れることなく地面に降り、俺は再び四つん這いに戻るしかなかった。
魔物が背を向けて、ワンピースの裾をまくったのである。
人間の子供と同じ柔らかな脚に、やはり人間が履くのと同じ下着を身につけ、尻をこちらへ見せている。だが俺から攻撃の意思を削いだのはその姿ではなく、匂いだった。花や果実の香りを官能的にしたような、甘い匂い。それがスカートの下に封じ込められていたかのように、テントの中に満ちた。
鼻が空気を吸い込む度、脳が蕩けそうになる。自分でも気づかないうちに、体が勝手に動いた。鼻先が彼女の臀部へ、ぷにっとしたお尻に触れる。何をやっているのだ、俺は。いつの間に堕ちたのだ。理性で行動を抑えようとしても、体は言うことを聞かない。ただ夢中で呼吸を繰り返し、魔物の柔らかな尻を鼻先で押すばかりだ。
「わんちゃんのお鼻、すごいでしょ？ ニオイだけでキモチイイよね？」
股間の辺りが切なく疼いた。いつしか必死になって少女の匂いを嗅ぎ、その背徳感を自覚する。だが、止めることができない。魔物の少女に「わんちゃん」と呼ばれたとき、人間の尊厳がどうでも良いことのように思えた。自分は別に幼女趣味があったわけではない。だが犬の嗅覚でこの匂いを嗅げば、こうなって当然だ。犬なのだから本能に従えばいい……そんな考えが次々と浮かべ、これを現実として受け入れそうになる。
鼻先を押し付けるたび、縞模様の下着の下で小さなお尻に鼻が埋まる。そしてぷりぷりと弾力を以って押し返してくる。気が付いたとき、俺はそのパンツに噛み付いてずり降ろそうと試みていた。すると少女の方から進んで下着を降ろし、白いお尻を見せてくれた。無我夢中で匂いを嗅ぎ、鼻先で感触を味わう。自分の中で何かが壊れていく。
いつの間にか、尻尾を左右に振っていることに気づく。犬の体が馴染んできてしまっているのだ。だが、それに抵抗できない。
ふいに、お尻が鼻から離れた。慌てて追いかけようとすると、少女は悪戯っぽい笑みを浮かべて振り向いた。
「おすわり！」
ぴしゃりと叫んだ瞬間、俺の体は何かに弾かれたかのように姿勢を変えた。尻をぺたりとつき、少女の前で不動の姿勢を取る。反射的に動いてしまった。
俺が従順なのを見て、愛らしい魔物は小さな手で頭を撫でてくれた。何故か、この手がとても尊いような気がする。続いて、その指先で鼻を撫でてきた。スカートの中ほどではないが、とても良い匂いがする指だ。
「お鼻がかわいてるよ。わんこなんだから、ちゃんとぬらしておかないと」
丸い目でこちらを見ながら、少女は顔を近づけてくる。次の瞬間、そのピンク色の唇が鼻先に触れた。お尻に負けず劣らずのぷるぷるとした触感に、思わず体が震えてしまう。
それで終わりではなかった。彼女は俺の鼻をぱくっと口に入れ、その中で優しく舌を這わせてきたのだ。唾液が鼻を潤し、口の中の匂いを強制的に味わわされる。甘い、ジャムや蜂蜜たっぷり入った紅茶のような、頭がぼーっとする匂いだった。
「んっ……ちゅ……んろっ……」
魅力的な少女に、鼻を丹念に舐めしゃぶられる。舌が鼻をくすぐって濡らし、魔法の吐息を肺へ吹き込んでくる。耳の辺りを撫でてくれる手がまた気持ちいい。
それらの快感がやがて、股間に集まり始めた。むず痒い感覚がペニスを襲うが、犬となった手では人間だった頃のように、自らを慰めることができない。だが悪魔の少女はどこまでも優しかった。鼻から口を離してにっこり微笑むと、俺の後ろ足の間へ手を差し入れてきた。
小さくてすべすべとした、可愛らしい手が、俺の、犬のペニスに触れる。そっと撫で上げられた瞬間、体がぶるっと震えて毛が逆立った。パンパンに快感を溜め込まれた袋を、ふいに破られたような感覚。そして次の瞬間には、おすわりの姿勢のままそれを律動させていた。
少女の柔らかな手で搾り出されたそれはどくどくと音を立てて迸る。彼女の服にも少しかかったが、嫌な顔一つせずに股間を撫で続けてくれた。その動きがますます快感を高め、人間だった頃には考えられなかったほど気持ちよい射精を体験することになった。感極まって思わず、少女の胸に顔を埋める。小さな胸はとても温かい。もはや俺は犬そのものだ。
迸りが徐々に緩やかになり、虚脱感と快楽の余韻に浸る。そのとき、首に何かが巻き付いた。
「わたしはアルナーカ。今日からあなたのごしゅじんさまだからね？」
耳元で甘く囁きながら、俺に首輪を装着する悪魔。そこから伸びた細い鎖が軽く鳴り、端を彼女が握っている。
嫌悪感はない。精神まで犬になってしまったのだろうか。だが抗ったところでどうせ人間に戻れる保証もないし、元々人間に心を許せないタチだったじゃないか。むしろ、本当の自分になれたような気さえする。
「それじゃ、行こっか。およめさんに会わせてあげる！」
およめさん……そんな物がいただろうか。だが誰か、大切な女がいたような記憶がある。とうとう人間時代の記憶さえ曖昧になってきたようだ。
アルナーカ様が鎖を引く。彼女の匂いを追うようにして、後をついていった。尻尾を振りながら。
外へ出た瞬間、頭にぽたりと雫が落ちた。雨かと思ったが、それにしては甘い匂いがする。見上げると、大きな木の枝に鳥が留まっていた。いや、鳥のようなものが。頬を紅潮させ、ピンク色の羽で股間を擦り、愛液を滴らせている。それも一羽や二羽という数ではない。大樹の枝に桃色の鳥人が群居し、ひたすら自分を慰めているのだ。
中には男を太い枝に座らせ、抱き合って腰を動かす者も見受けられる。その匂いが淫らな雫とともに降り注ぎ、鼻をくすぐった。
前に目を向けると、木製の立て札が見えた。『ようこそルルゼ・ヴィレッジへ』……キノコが生えた看板の向こうに、広大な畑が広がっている。風が吹いて作物がざわざわと鳴り、それに混じって艶かしい矯正も聞こえてきた。
「この村の村長はね、わたしのおじいちゃんなんだよ」
アルナーカ様が言った。
畑の側に置かれたテーブルでは、帽子を被った麗人が若い男の股間を撫でている。あの男はどこかで見たような気がするな、と思っていると、それがどうやらコムランらしいと気づいた。そういえばあいつは調査中にいきなり行方不明になったのだ。いや、確か調査隊の全員が姿を消した。
その後俺はどうしていたのか。その非常事態を全く気にせず、一人でテントへ戻り、一人で寝て、起きたら犬にされていた。
どうやら俺は自分が気づくよりも前から、ずっと狂っていたらしい。そしてこの先、この不思議な世界でますます狂っていくことも察しがついた。
俺の鎖を引きながら、アルナーカ様は軽い足取りで歩いていく。ワンピースの裾がひらひらと揺れ、黒く細長い尾がくねっている。それを見ていると、あの魅惑的なお尻とその匂いを思い出してしまった。もうこの際何がどう狂おうと構いはしない。これからずっとこの方と一緒にいて、あれだけ甘美な匂いを感じられるのなら、この運命を憎んだりはしないだろう。
しばらく歩くと、少し大きな家が目に止まった。田舎のことなのでそれほど立派というわけではない、木造の家屋である。ここが村長宅なのだろうと何となく分かった。門の前ではメイドが道を掃いている。
ふと、向かい風が吹いた。その瞬間、体がピクリと震えたたまらなく甘美な匂いが漂ってきたのだ。先ほどアルナーカ様に鼻を舐めていただいたときのような快感が、じんわりと股間を刺激する。夢中で鼻に意識を集中させ、その匂いの源を突き止めた。
あのメイドだ。あいつがこの匂いを纏っている。
「……ケルド、様？」
彼女はきょとんとした目で俺を見た。俺を知っているのか？ 犬になった俺が分かるのか？
いや、俺もこいつを知っている。エプロンドレスの下には豊満な胸があるようだが、顔も手足も黒々とした毛で覆われ、頭の上ではふわふわとした耳が動いている。臀部には同じ色の尻尾が生えていた。こんなに美しく艶やかな黒毛を持ち、良い香りを放つ女は一匹しかいない。
こいつはヴァネッサだ。俺の愛犬だ。俺の相棒だ。俺の女だ。俺の……雌だ！
四本足に力を込めて飛び出した。アルナーカ様はパッと鎖を放し、俺を自由にしてくれた。体当たりするような勢いで、ヴァネッサの胸へ飛び込む。
「きゃあっ！」
悲鳴をあげてよろめきながらも、ヴァネッサはしっかり俺を抱き締めてくれた。ふかふかの胸に顔を埋め、胸いっぱいに匂いを嗅ぐ。多幸感が満ちた。
「ああ……ケルド様。犬になっても、素敵なお方……」
うっとりとした目で見つめながら、ヴァネッサは俺の耳元と首筋を撫でてくる。快楽に敏感な場所だった。口から「きゅぅ〜ん」と情けない声が漏れてしまう。以前彼女に同じことをしたとき、やはりこういう風に鳴いていたのを思い出す。
「ふふ。今までこうやって、可愛がってくださいましたよね。同じようにすれば、ケルド様も気持ち良いのですね……」
恩を返すように、マッサージの奉仕を続けるヴァネッサ。その手つきとふさふさの黒毛、それに包まれた柔らかな胸。人間のメンタルをまだ残している俺は、雌の魅力と女の魅力の両方に欲情できた。先ほどアルナーカ様に抜かれたのに、再び滾ってくる。情欲は文字通り獣になったようだ。
俺はどうにかして、ヴァネッサのそこにペニスを挿入しようとする。だが犬の骨格では人間と同じようにはいかない。
「ヴァネッサちゃん。ケルドくんは赤ちゃんを作りたいみたいだよ？」
「えっ……？」
アルナーカ様の言葉に、ヴァネッサは目を丸くして、俺の股間へ目をやった。かつての愛犬は、怒張したそれをまじまじと見つめる。
「ほらほら、早くシてあげなよ」
「……交尾……私が、ケルド様と……」
夢見るような目をしながら、ヴァネッサはゆっくりと俺を離した。くるりと後ろを向いて地面に手を着き、四つん這いになる。尻尾を振りながら臀部を突き出すと、黒い毛並みの間に桃色の『穴』が見えた。周囲の体毛がじっとり濡れている。その穴の中は彼女の呼吸に合わせ、ゆっくりと蠢いていた。入ってこい、と言うかのように。
俺の心と体を支配したのは、文字通りの獣欲だった。雄のシンボルをいきり立たせ、何も考えずに雌に覆いかぶさる。黒い毛の温もりがさらに性欲を増す。疼いて悲鳴を上げるペニスを突き立てた。
「きゃうぅぅぅん♥」
雌の嬌声が耳に響いた。俺の腰はヴァネッサの膣の、一番奥まで肉棒を送り込んで止まっている。
口の端から涎が垂れた。
気持ちいい。
気持ちいい。
雌の中はとても温かい。むしろ、熱い。優しく肉棒を包み込み、ゆっくりと締め付けてくる。柔らかくてぬるぬるして、体が融け出しそうだ。
「は、入ってるぅ……私、ケルド様と交尾してるっ……♥」
ヴァネッサ。俺の相棒。いつも俺の側にいた、唯一心を許せる友。
今はそれだけではなくなった。俺はこいつと同じ目線で生きられるようになった。心のみならず、体さえも許せるようになったのだ。
夢中で腰を動かすが、ペニスは少しずつしか抜き差しできない。犬のペニスは人間のそれと比べて、亀頭の占める割合がかなり大きいことを思い出す。勃起するとその根本に亀頭球という瘤が現れ、雌の性器にフィットするようになっているのだ。射精するまで抜けないように。
膣の入り口付近が、その亀頭球を圧迫してくる感触がたまらなく気持ちいい。敏感な箇所が大きくなっているため、膣内の襞の蠢きがより一層甘美に感じられる。
そしてヴァネッサの濃厚な雌の匂いと、色っぽい息遣い。彼女もまた、感じてくれていた。腰をゆっくりと揺らし、ペニスの感触を楽しむようにしながら、上半身を完全に地面に着けている。大きな胸がひしゃげているのが見えた。ああ、俺以外にもこの胸目当てに寄ってくる雄がいたら、片っ端から噛み付いて追い払わねば。
小刻みに腰を動かす。絡みつく膣内でペニスが摩擦されていく。その度にヴァネッサは歓喜の声を上げた。襞が亀頭球に引っかかり、ヴァネッサもその刺激が気持ちいいようだ。彼女の顔は普通の犬だったころの面影を留めているが、より豊かな、そして女らしい表情ができるようになっていた。とろけきった顔には可愛らしさと艶やかさが同居して、こちらを振り向いてくる眼差しは潤んでいる。
「ひゃぅ!?」
ヴァネッサが声を上げた。股間にくすぐったい刺激が走り、俺たちの体はぴくんと震えた。今まで無我夢中で気付かなかったが、アルナーカ様がいつの間にか俺たちの下に潜り込み、結合部に舌を這わせていたのだ。ヴァネッサの柔らかな女性器と、そこへ突き刺さった俺のペニスを同時にくすぐってくる。猫がミルクを舐めるように細かく舌を動かし、ムズムズした快感をもたらす。
さらに小さな手が睾丸に触れた。悪戯っぽい指先の動きで玉をくすぐられ、射精を促してくる。
「わふぅ……っ♥ 気持ちイイ……交尾、キモチイイ♥」
「ん、ちゅ……おいしいっ……♥」
俺の雌とご主人様、二人の声が耳を蕩けさせる。気持ちの良い感触が睾丸から湧き上がってきた。
夢中で吠えると、ヴァネッサは顔を綻ばせた。
「はいっ！ 出してくださいっ♥ 私に、ケルド様の、赤ちゃん犬……孕ませてくださいぃ♥」
次の瞬間、柔らかな肉壁によってペニスが強く締め付けられた。それに絞り出されるかのように、溜まりに溜まったそれが迸る。
「き、きたぁ♥ わううぅぅん♥」
体をビクビク震わせ、甘ったるい声で吠えるヴァネッサ。それに応えて大きく吠えながら、ひたすら注ぎ込んだ。
長い射精だった。ペニスがどく、どく、どくと脈打つ度、快感の渦が俺を飲み込む。
気持ちいい。雌犬のマンコが気持ちいい。犬になったチンコが気持ちいい。ご主人様が気持ちいい。
頭の中が射精の快感と同時に、充足感で満たされていった。子孫を残すという生物本能を満たす、その快感。人間のセックスではここまで純粋に、それを味わうことはないだろう。俺は犬だ。獣だ。それが幸せだ。
ぴちゃぴちゃと音が聞こえる。子宮に入りきらず溢れた子種を、アルナーカ様が舐めとっているのだ。俺のような犬の精を舐めてくれるなんて、なんという優しいご主人様なのだろう。
そしてヴァネッサ。俺がどんな生き物であろうと、最良の伴侶でいてくれる雌犬。こうして子種を受け止め、一緒に気持ち良くなってくれる。これから彼女と二人で、アルナーカ様にお仕えするのだろうか。そうだとしたら、どれだけ幸せな結末だろう。
「きゃうぅん……まだ、まだ出てる……♥」
「じゅるっ……あははっ♥ わんちゃんたちのミルクとお汁、おいしいね♥」
脈打ちは緩やかになりながらも、まだゆっくりと射精は続いていた。そしてパンパンに張り詰めた亀頭球は、依然としてヴァネッサの女の穴に栓をしていた。
むせ返りそうな雌の匂いが鼻腔をくすぐる。多幸感に涎を垂らし、ヴァネッサの毛並みを汚しながら、俺は再び腰を動かした。
……運命のあの日から、一月経った。
俺とヴァネッサはアルナーカ様の家、つまり村長宅で飼われている。毎朝早くに起き、まずはアルナーカ様の処女を奪うのが仕事だ。昨日も今日も明日も、いつまでも処女なのだ。俺が彼女の小さなお尻を抑えて挿入すると、向こうも幼い顔にこの上なく淫らな表情を浮かべてよがる。中に出す頃にはヴァネッサが朝のお茶を準備してくれて、タライに入れたそれを舌で舐める。人間を犬に変える魔法の紅茶……これを毎朝飲む。
その後は妻であるヴァネッサに獣欲をぶつける。彼女の膣は俺の犬ペニスにフィットするようになっており、たまらない一体感があった。結局一日中ペニスが抜けず、繋がったままで過ごすこともあった。
村長の仕事はアルナーカ様が行っているようだ。彼女の父や祖父は俺と同じく犬になって、部屋に閉じこもっている。母と祖母はアルナーカ様と同じアリスになり、幼い姿で愛犬と交尾を続けているらしい。
仕事があって外出するとき、俺とヴァネッサは必ず付き従う。路上でもお茶会の席でも、アルナーカ様が気持ち良くなりたいと言ったら、俺は速やかに彼女の股に頭を突っ込み、甘い香りのする性器を舐める。ヴァネッサはお尻の穴担当だ。犬の舌に前後から責められたご主人様は、幼い性器から芳しい愛液を垂れ流し、ときにはおしっこを漏らしながら激しく絶頂する。村の住人たちはそれを見て、良い犬だ、忠犬だと俺たちを褒め称えるのだ。
ご主人様が忙しいとき、ヴァネッサが俺を散歩に連れて行ってくれる。二本足で歩けるクー・シーは普通の犬より遥かに多くの仕事ができ、犬の散歩も朝飯前だ。俺の首に首輪をつけ、優しく頭を撫でて、「昔の恩返しです」と言って散歩へ連れ出してくれるのだ。彼女と共に歩く不思議の国はますます卑猥な匂いと音に満ち、獣欲が掻き立てられる。不思議の国の犬はそこに住む魔物と同様、常に発情期だ。
ヴァネッサは犬時代にはなかった大きな乳房で抜いてくれることもあるが、やはり膣で直接ペニスを受け止め、中に出されるのが一番好きなようだ。俺も愛する妻の膣に射精すると、この上ない喜びを感じる。それに比肩し得るものはアルナーカ様の膣だけだと思う。
魔物が人間を殺すというのは嘘であり、本当である。人間としての俺は死んだ。
だが種族の誇りなど、どうでも良いことではないだろうか。この世界に漂う甘美な匂いの前には、人魔獣いずれのプライドも無意味だ。どんな姿形であろうと、愛する人と好きなだけ一緒にいられるのだから。
それを非難する者を、俺は特に否定しない。だが俺は今、幸せだ。それは真実だ。
「わぅ……♥ 不思議の国って、キモチイイですよね？ ケルド様♥」
そう言って微笑むヴァネッサの中に、俺は今日も種付けを行った。
ーーfin
手に握るリードの先で、俺の愛犬・ヴァネッサは一生懸命に地面の臭いを嗅いでいた。臭跡だけでなく魔力を探知するよう訓練したヴァネッサは、俺と一緒に多くの手柄を立ててきた。茶色く尖った耳で周囲の様子を伺いながら捜査を続けるが、未だに何も探知できていない。
「ケルド、そっちはどうだ？」
一緒に調査をしていたコムランが尋ねてくる。奴は犬ではなく杖を使い、自分の感覚で魔力を探知することができるのだが、そちらも未だに収穫がないようだ。もっとも人間の探知能力が犬より優れているとは思えないが。
「何の反応もない。こんなことは初めてだ」
答えつつ、俺はヴァネッサに歩み寄った。さすがにこの状況は犬でも不安だろう。いや、不安にならないはずがない。こいつは人間よりもよほど純粋なのだ。先ほどから時々こちらを振り向き、不安げな視線を送ってくる。
相棒の頭に手をやり、柔らかな毛並みを撫でてやる。時折こうして勇気づけてやらねばならない。
「頑張れ、お前が頼りだ。安心しろ、俺がついてる」
ぴくぴくと動く耳に口を寄せ、囁く。言葉の意味が通じるかは分からない。だがこうすることで彼女は落ち着くのだ。
犬は人間の最良の友。犬の魔物であるコボルドさえその範疇に含める一派もいるほどだ。だが人間に奉仕させられた結果、神経を病んでいく犬たちを多く見てきた。例えば大災害の際、救助部隊の犬がそうなることもある。救助犬は厳しい訓練を積み、何事にも動じない精神力を身につけているが、それも『生存者を救助せよ』という命令を達成するためだ。しかし災害の規模が大きく屍体しか見つからなかった場合、その任務を達成できなかったことになる。もちろん犬の責任ではないが、犬にとって主人の期待に応えられないことは自尊心を大きく傷つけらるのだ。
俺は自分を含めて、人間が嫌いだ。犬は強いリーダーを求める本能があり、それを人間に利用されている。彼女たちに人間のエゴを押し付けてしまっている以上、立場を上に保ちつつも、誠意を持って接さねばならない。
もう一度、頼むぞと囁いて放す。ヴァネッサは落ち着きを取り戻し、地面を調べ続けた。
……我が愛犬の献身的な努力にも関わらず、その日は何の収穫もなかった。俺は調査前に近くへ建てたテントに戻り、睡眠を取ることにした。
一晩寝て目が覚めたとき、何か体に違和感を覚えた。気分は悪くない。爽やかな目覚めだ。だが何か、周囲のニオイがより強く感じる。テントの中で寝ているのだから土のニオイがするのは当然だが、その土に含まれている物質や、植物のニオイまで感じるようだ。
寝返りを打ってみる。どうもおかしい。尻の辺りに変な物があるように思える。
起き上がろうとしたとき、テントの入り口ががさりと開いた。差し込む陽光が眩しい。同僚か、と思ったが、光の中に立っているのは小さな影だった。
「あはっ。起きたんだね！」
にこやかな笑みを浮かべて入ってきた、金髪の女の子。赤いワンピースを着て、無邪気な笑みを浮かべた子供だ。頭に大きな髪飾りをつけている。
何故こんなところに？ 村人が残っていたのか？
体を起こそうとすると、入り口が閉まって光が遮られた。眩しさがなくなり、少女の顔がはっきりと分かった。色白で品の良い、だがどこかあかぬけない風貌の子だ。
しかしその無垢な笑顔とは裏腹に、その金色の巻き毛についているのが髪飾りではなく、角だということに気づく。山羊のような、小さく渦を巻いた角。腰の辺りには薄い桃色のリボンのような物が見えたが、それもよく見ると翼だった。コウモリのような皮膜の翼に、臀部には同じ色の尻尾が生えている。絵画に描かれる悪魔の物だった。
咄嗟に、魔物だ、と叫んだ。いや、叫んだつもりだった。その言葉は俺の口から出ることなく、代わりに出てきたのは「ワン」という鳴き声だったのだ。
「わんわん！」
魔物の少女が楽しそうに口ずさむ。その小さな手が俺へ伸びてくるのを見て、すぐさま立ち上がった。するとどうしたことか、その瞬間に足元がふらつく。体が自分の体ではないような感覚だった。
バランスを崩して地面に手をついたとき、我が目を疑った。それは確かに俺の手だ。俺の手なのに、何故毛皮で覆われているのか。この獣の爪は一体何だ。
小さな手が、目の前に円盤を差し出してきた。手鏡だ。映っているのは茶色い毛の、一頭の大型犬。俺の姿は見えない。
瞬きをしてみた。口を開け閉めしてみた。鏡の中の犬は全く同じ動作をする。
鏡を手で叩く。犬も鏡の中で手を出す。そしてそれはどう見ても……犬の手だ。
「よかったね、かっこいいわんちゃんになれて」
魔物は笑って、手鏡を引っ込めた。
こいつの仕業か。そう判断した瞬間、反射的に体は動いた。拳を作ることができず、爪のついた手をそのまま振り上げ……引っ掻くなり、飛びついて噛み付くなりしようとした。だがその手は何にも触れることなく地面に降り、俺は再び四つん這いに戻るしかなかった。
魔物が背を向けて、ワンピースの裾をまくったのである。
人間の子供と同じ柔らかな脚に、やはり人間が履くのと同じ下着を身につけ、尻をこちらへ見せている。だが俺から攻撃の意思を削いだのはその姿ではなく、匂いだった。花や果実の香りを官能的にしたような、甘い匂い。それがスカートの下に封じ込められていたかのように、テントの中に満ちた。
鼻が空気を吸い込む度、脳が蕩けそうになる。自分でも気づかないうちに、体が勝手に動いた。鼻先が彼女の臀部へ、ぷにっとしたお尻に触れる。何をやっているのだ、俺は。いつの間に堕ちたのだ。理性で行動を抑えようとしても、体は言うことを聞かない。ただ夢中で呼吸を繰り返し、魔物の柔らかな尻を鼻先で押すばかりだ。
「わんちゃんのお鼻、すごいでしょ？ ニオイだけでキモチイイよね？」
股間の辺りが切なく疼いた。いつしか必死になって少女の匂いを嗅ぎ、その背徳感を自覚する。だが、止めることができない。魔物の少女に「わんちゃん」と呼ばれたとき、人間の尊厳がどうでも良いことのように思えた。自分は別に幼女趣味があったわけではない。だが犬の嗅覚でこの匂いを嗅げば、こうなって当然だ。犬なのだから本能に従えばいい……そんな考えが次々と浮かべ、これを現実として受け入れそうになる。
鼻先を押し付けるたび、縞模様の下着の下で小さなお尻に鼻が埋まる。そしてぷりぷりと弾力を以って押し返してくる。気が付いたとき、俺はそのパンツに噛み付いてずり降ろそうと試みていた。すると少女の方から進んで下着を降ろし、白いお尻を見せてくれた。無我夢中で匂いを嗅ぎ、鼻先で感触を味わう。自分の中で何かが壊れていく。
いつの間にか、尻尾を左右に振っていることに気づく。犬の体が馴染んできてしまっているのだ。だが、それに抵抗できない。
ふいに、お尻が鼻から離れた。慌てて追いかけようとすると、少女は悪戯っぽい笑みを浮かべて振り向いた。
「おすわり！」
ぴしゃりと叫んだ瞬間、俺の体は何かに弾かれたかのように姿勢を変えた。尻をぺたりとつき、少女の前で不動の姿勢を取る。反射的に動いてしまった。
俺が従順なのを見て、愛らしい魔物は小さな手で頭を撫でてくれた。何故か、この手がとても尊いような気がする。続いて、その指先で鼻を撫でてきた。スカートの中ほどではないが、とても良い匂いがする指だ。
「お鼻がかわいてるよ。わんこなんだから、ちゃんとぬらしておかないと」
丸い目でこちらを見ながら、少女は顔を近づけてくる。次の瞬間、そのピンク色の唇が鼻先に触れた。お尻に負けず劣らずのぷるぷるとした触感に、思わず体が震えてしまう。
それで終わりではなかった。彼女は俺の鼻をぱくっと口に入れ、その中で優しく舌を這わせてきたのだ。唾液が鼻を潤し、口の中の匂いを強制的に味わわされる。甘い、ジャムや蜂蜜たっぷり入った紅茶のような、頭がぼーっとする匂いだった。
「んっ……ちゅ……んろっ……」
魅力的な少女に、鼻を丹念に舐めしゃぶられる。舌が鼻をくすぐって濡らし、魔法の吐息を肺へ吹き込んでくる。耳の辺りを撫でてくれる手がまた気持ちいい。
それらの快感がやがて、股間に集まり始めた。むず痒い感覚がペニスを襲うが、犬となった手では人間だった頃のように、自らを慰めることができない。だが悪魔の少女はどこまでも優しかった。鼻から口を離してにっこり微笑むと、俺の後ろ足の間へ手を差し入れてきた。
小さくてすべすべとした、可愛らしい手が、俺の、犬のペニスに触れる。そっと撫で上げられた瞬間、体がぶるっと震えて毛が逆立った。パンパンに快感を溜め込まれた袋を、ふいに破られたような感覚。そして次の瞬間には、おすわりの姿勢のままそれを律動させていた。
少女の柔らかな手で搾り出されたそれはどくどくと音を立てて迸る。彼女の服にも少しかかったが、嫌な顔一つせずに股間を撫で続けてくれた。その動きがますます快感を高め、人間だった頃には考えられなかったほど気持ちよい射精を体験することになった。感極まって思わず、少女の胸に顔を埋める。小さな胸はとても温かい。もはや俺は犬そのものだ。
迸りが徐々に緩やかになり、虚脱感と快楽の余韻に浸る。そのとき、首に何かが巻き付いた。
「わたしはアルナーカ。今日からあなたのごしゅじんさまだからね？」
耳元で甘く囁きながら、俺に首輪を装着する悪魔。そこから伸びた細い鎖が軽く鳴り、端を彼女が握っている。
嫌悪感はない。精神まで犬になってしまったのだろうか。だが抗ったところでどうせ人間に戻れる保証もないし、元々人間に心を許せないタチだったじゃないか。むしろ、本当の自分になれたような気さえする。
「それじゃ、行こっか。およめさんに会わせてあげる！」
およめさん……そんな物がいただろうか。だが誰か、大切な女がいたような記憶がある。とうとう人間時代の記憶さえ曖昧になってきたようだ。
アルナーカ様が鎖を引く。彼女の匂いを追うようにして、後をついていった。尻尾を振りながら。
外へ出た瞬間、頭にぽたりと雫が落ちた。雨かと思ったが、それにしては甘い匂いがする。見上げると、大きな木の枝に鳥が留まっていた。いや、鳥のようなものが。頬を紅潮させ、ピンク色の羽で股間を擦り、愛液を滴らせている。それも一羽や二羽という数ではない。大樹の枝に桃色の鳥人が群居し、ひたすら自分を慰めているのだ。
中には男を太い枝に座らせ、抱き合って腰を動かす者も見受けられる。その匂いが淫らな雫とともに降り注ぎ、鼻をくすぐった。
前に目を向けると、木製の立て札が見えた。『ようこそルルゼ・ヴィレッジへ』……キノコが生えた看板の向こうに、広大な畑が広がっている。風が吹いて作物がざわざわと鳴り、それに混じって艶かしい矯正も聞こえてきた。
「この村の村長はね、わたしのおじいちゃんなんだよ」
アルナーカ様が言った。
畑の側に置かれたテーブルでは、帽子を被った麗人が若い男の股間を撫でている。あの男はどこかで見たような気がするな、と思っていると、それがどうやらコムランらしいと気づいた。そういえばあいつは調査中にいきなり行方不明になったのだ。いや、確か調査隊の全員が姿を消した。
その後俺はどうしていたのか。その非常事態を全く気にせず、一人でテントへ戻り、一人で寝て、起きたら犬にされていた。
どうやら俺は自分が気づくよりも前から、ずっと狂っていたらしい。そしてこの先、この不思議な世界でますます狂っていくことも察しがついた。
俺の鎖を引きながら、アルナーカ様は軽い足取りで歩いていく。ワンピースの裾がひらひらと揺れ、黒く細長い尾がくねっている。それを見ていると、あの魅惑的なお尻とその匂いを思い出してしまった。もうこの際何がどう狂おうと構いはしない。これからずっとこの方と一緒にいて、あれだけ甘美な匂いを感じられるのなら、この運命を憎んだりはしないだろう。
しばらく歩くと、少し大きな家が目に止まった。田舎のことなのでそれほど立派というわけではない、木造の家屋である。ここが村長宅なのだろうと何となく分かった。門の前ではメイドが道を掃いている。
ふと、向かい風が吹いた。その瞬間、体がピクリと震えたたまらなく甘美な匂いが漂ってきたのだ。先ほどアルナーカ様に鼻を舐めていただいたときのような快感が、じんわりと股間を刺激する。夢中で鼻に意識を集中させ、その匂いの源を突き止めた。
あのメイドだ。あいつがこの匂いを纏っている。
「……ケルド、様？」
彼女はきょとんとした目で俺を見た。俺を知っているのか？ 犬になった俺が分かるのか？
いや、俺もこいつを知っている。エプロンドレスの下には豊満な胸があるようだが、顔も手足も黒々とした毛で覆われ、頭の上ではふわふわとした耳が動いている。臀部には同じ色の尻尾が生えていた。こんなに美しく艶やかな黒毛を持ち、良い香りを放つ女は一匹しかいない。
こいつはヴァネッサだ。俺の愛犬だ。俺の相棒だ。俺の女だ。俺の……雌だ！
四本足に力を込めて飛び出した。アルナーカ様はパッと鎖を放し、俺を自由にしてくれた。体当たりするような勢いで、ヴァネッサの胸へ飛び込む。
「きゃあっ！」
悲鳴をあげてよろめきながらも、ヴァネッサはしっかり俺を抱き締めてくれた。ふかふかの胸に顔を埋め、胸いっぱいに匂いを嗅ぐ。多幸感が満ちた。
「ああ……ケルド様。犬になっても、素敵なお方……」
うっとりとした目で見つめながら、ヴァネッサは俺の耳元と首筋を撫でてくる。快楽に敏感な場所だった。口から「きゅぅ〜ん」と情けない声が漏れてしまう。以前彼女に同じことをしたとき、やはりこういう風に鳴いていたのを思い出す。
「ふふ。今までこうやって、可愛がってくださいましたよね。同じようにすれば、ケルド様も気持ち良いのですね……」
恩を返すように、マッサージの奉仕を続けるヴァネッサ。その手つきとふさふさの黒毛、それに包まれた柔らかな胸。人間のメンタルをまだ残している俺は、雌の魅力と女の魅力の両方に欲情できた。先ほどアルナーカ様に抜かれたのに、再び滾ってくる。情欲は文字通り獣になったようだ。
俺はどうにかして、ヴァネッサのそこにペニスを挿入しようとする。だが犬の骨格では人間と同じようにはいかない。
「ヴァネッサちゃん。ケルドくんは赤ちゃんを作りたいみたいだよ？」
「えっ……？」
アルナーカ様の言葉に、ヴァネッサは目を丸くして、俺の股間へ目をやった。かつての愛犬は、怒張したそれをまじまじと見つめる。
「ほらほら、早くシてあげなよ」
「……交尾……私が、ケルド様と……」
夢見るような目をしながら、ヴァネッサはゆっくりと俺を離した。くるりと後ろを向いて地面に手を着き、四つん這いになる。尻尾を振りながら臀部を突き出すと、黒い毛並みの間に桃色の『穴』が見えた。周囲の体毛がじっとり濡れている。その穴の中は彼女の呼吸に合わせ、ゆっくりと蠢いていた。入ってこい、と言うかのように。
俺の心と体を支配したのは、文字通りの獣欲だった。雄のシンボルをいきり立たせ、何も考えずに雌に覆いかぶさる。黒い毛の温もりがさらに性欲を増す。疼いて悲鳴を上げるペニスを突き立てた。
「きゃうぅぅぅん♥」
雌の嬌声が耳に響いた。俺の腰はヴァネッサの膣の、一番奥まで肉棒を送り込んで止まっている。
口の端から涎が垂れた。
気持ちいい。
気持ちいい。
雌の中はとても温かい。むしろ、熱い。優しく肉棒を包み込み、ゆっくりと締め付けてくる。柔らかくてぬるぬるして、体が融け出しそうだ。
「は、入ってるぅ……私、ケルド様と交尾してるっ……♥」
ヴァネッサ。俺の相棒。いつも俺の側にいた、唯一心を許せる友。
今はそれだけではなくなった。俺はこいつと同じ目線で生きられるようになった。心のみならず、体さえも許せるようになったのだ。
夢中で腰を動かすが、ペニスは少しずつしか抜き差しできない。犬のペニスは人間のそれと比べて、亀頭の占める割合がかなり大きいことを思い出す。勃起するとその根本に亀頭球という瘤が現れ、雌の性器にフィットするようになっているのだ。射精するまで抜けないように。
膣の入り口付近が、その亀頭球を圧迫してくる感触がたまらなく気持ちいい。敏感な箇所が大きくなっているため、膣内の襞の蠢きがより一層甘美に感じられる。
そしてヴァネッサの濃厚な雌の匂いと、色っぽい息遣い。彼女もまた、感じてくれていた。腰をゆっくりと揺らし、ペニスの感触を楽しむようにしながら、上半身を完全に地面に着けている。大きな胸がひしゃげているのが見えた。ああ、俺以外にもこの胸目当てに寄ってくる雄がいたら、片っ端から噛み付いて追い払わねば。
小刻みに腰を動かす。絡みつく膣内でペニスが摩擦されていく。その度にヴァネッサは歓喜の声を上げた。襞が亀頭球に引っかかり、ヴァネッサもその刺激が気持ちいいようだ。彼女の顔は普通の犬だったころの面影を留めているが、より豊かな、そして女らしい表情ができるようになっていた。とろけきった顔には可愛らしさと艶やかさが同居して、こちらを振り向いてくる眼差しは潤んでいる。
「ひゃぅ!?」
ヴァネッサが声を上げた。股間にくすぐったい刺激が走り、俺たちの体はぴくんと震えた。今まで無我夢中で気付かなかったが、アルナーカ様がいつの間にか俺たちの下に潜り込み、結合部に舌を這わせていたのだ。ヴァネッサの柔らかな女性器と、そこへ突き刺さった俺のペニスを同時にくすぐってくる。猫がミルクを舐めるように細かく舌を動かし、ムズムズした快感をもたらす。
さらに小さな手が睾丸に触れた。悪戯っぽい指先の動きで玉をくすぐられ、射精を促してくる。
「わふぅ……っ♥ 気持ちイイ……交尾、キモチイイ♥」
「ん、ちゅ……おいしいっ……♥」
俺の雌とご主人様、二人の声が耳を蕩けさせる。気持ちの良い感触が睾丸から湧き上がってきた。
夢中で吠えると、ヴァネッサは顔を綻ばせた。
「はいっ！ 出してくださいっ♥ 私に、ケルド様の、赤ちゃん犬……孕ませてくださいぃ♥」
次の瞬間、柔らかな肉壁によってペニスが強く締め付けられた。それに絞り出されるかのように、溜まりに溜まったそれが迸る。
「き、きたぁ♥ わううぅぅん♥」
体をビクビク震わせ、甘ったるい声で吠えるヴァネッサ。それに応えて大きく吠えながら、ひたすら注ぎ込んだ。
長い射精だった。ペニスがどく、どく、どくと脈打つ度、快感の渦が俺を飲み込む。
気持ちいい。雌犬のマンコが気持ちいい。犬になったチンコが気持ちいい。ご主人様が気持ちいい。
頭の中が射精の快感と同時に、充足感で満たされていった。子孫を残すという生物本能を満たす、その快感。人間のセックスではここまで純粋に、それを味わうことはないだろう。俺は犬だ。獣だ。それが幸せだ。
ぴちゃぴちゃと音が聞こえる。子宮に入りきらず溢れた子種を、アルナーカ様が舐めとっているのだ。俺のような犬の精を舐めてくれるなんて、なんという優しいご主人様なのだろう。
そしてヴァネッサ。俺がどんな生き物であろうと、最良の伴侶でいてくれる雌犬。こうして子種を受け止め、一緒に気持ち良くなってくれる。これから彼女と二人で、アルナーカ様にお仕えするのだろうか。そうだとしたら、どれだけ幸せな結末だろう。
「きゃうぅん……まだ、まだ出てる……♥」
「じゅるっ……あははっ♥ わんちゃんたちのミルクとお汁、おいしいね♥」
脈打ちは緩やかになりながらも、まだゆっくりと射精は続いていた。そしてパンパンに張り詰めた亀頭球は、依然としてヴァネッサの女の穴に栓をしていた。
むせ返りそうな雌の匂いが鼻腔をくすぐる。多幸感に涎を垂らし、ヴァネッサの毛並みを汚しながら、俺は再び腰を動かした。
……運命のあの日から、一月経った。
俺とヴァネッサはアルナーカ様の家、つまり村長宅で飼われている。毎朝早くに起き、まずはアルナーカ様の処女を奪うのが仕事だ。昨日も今日も明日も、いつまでも処女なのだ。俺が彼女の小さなお尻を抑えて挿入すると、向こうも幼い顔にこの上なく淫らな表情を浮かべてよがる。中に出す頃にはヴァネッサが朝のお茶を準備してくれて、タライに入れたそれを舌で舐める。人間を犬に変える魔法の紅茶……これを毎朝飲む。
その後は妻であるヴァネッサに獣欲をぶつける。彼女の膣は俺の犬ペニスにフィットするようになっており、たまらない一体感があった。結局一日中ペニスが抜けず、繋がったままで過ごすこともあった。
村長の仕事はアルナーカ様が行っているようだ。彼女の父や祖父は俺と同じく犬になって、部屋に閉じこもっている。母と祖母はアルナーカ様と同じアリスになり、幼い姿で愛犬と交尾を続けているらしい。
仕事があって外出するとき、俺とヴァネッサは必ず付き従う。路上でもお茶会の席でも、アルナーカ様が気持ち良くなりたいと言ったら、俺は速やかに彼女の股に頭を突っ込み、甘い香りのする性器を舐める。ヴァネッサはお尻の穴担当だ。犬の舌に前後から責められたご主人様は、幼い性器から芳しい愛液を垂れ流し、ときにはおしっこを漏らしながら激しく絶頂する。村の住人たちはそれを見て、良い犬だ、忠犬だと俺たちを褒め称えるのだ。
ご主人様が忙しいとき、ヴァネッサが俺を散歩に連れて行ってくれる。二本足で歩けるクー・シーは普通の犬より遥かに多くの仕事ができ、犬の散歩も朝飯前だ。俺の首に首輪をつけ、優しく頭を撫でて、「昔の恩返しです」と言って散歩へ連れ出してくれるのだ。彼女と共に歩く不思議の国はますます卑猥な匂いと音に満ち、獣欲が掻き立てられる。不思議の国の犬はそこに住む魔物と同様、常に発情期だ。
ヴァネッサは犬時代にはなかった大きな乳房で抜いてくれることもあるが、やはり膣で直接ペニスを受け止め、中に出されるのが一番好きなようだ。俺も愛する妻の膣に射精すると、この上ない喜びを感じる。それに比肩し得るものはアルナーカ様の膣だけだと思う。
魔物が人間を殺すというのは嘘であり、本当である。人間としての俺は死んだ。
だが種族の誇りなど、どうでも良いことではないだろうか。この世界に漂う甘美な匂いの前には、人魔獣いずれのプライドも無意味だ。どんな姿形であろうと、愛する人と好きなだけ一緒にいられるのだから。
それを非難する者を、俺は特に否定しない。だが俺は今、幸せだ。それは真実だ。
「わぅ……♥ 不思議の国って、キモチイイですよね？ ケルド様♥」
そう言って微笑むヴァネッサの中に、俺は今日も種付けを行った。
ーーfin
16/04/08 22:03更新 / 空き缶号