読切小説
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あまずっぱいデーモン
 人魔共学で生徒数も多いこの高校では、部活動も様々だ。剣道部だけでなく剣術部があったり、銃剣道や薙刀、魔法部、占術部なんていうのもある。サバト部というのも存在するが、どこで活動しているかは誰も知らないという。恐ろしい話だ。手芸部のような一見まともそうな部も、マッドハッターが部長だったりするので油断ならない。

 そんな中で俺が入っているのは映画研究会という、それなりに文化的でそこそこ常識的な部だ。この学校の中では。人魔混在だからいろいろカオスなこともあるが、俺としてはこの部活を気に入っている。少なくとも休んだことはないし、二年に進級した今年は後輩もできてより楽しくなってきた。
 今日もまた授業が全て終わった後、部へと向かった。


「合言葉をどうぞ!」

 鍵のかかった部室のドアをノックすると、中から女子の元気な声が聞こえてくる。一回咳払いをして喉の調子を整え、大声で答えた。

「S-foils in attack position!」

 ネイティブの発音にできるだけ近くしたつもりだ。あまり意味はないが。
 カチャリと音がして、内側からドアを開けてくれた。白い髪をした一年生の女の子、つまり後輩。目元に刺青の彫られた顔に快活な笑顔を浮かべて出迎えてくれる。

「木戸先輩、お疲れ様でーす!」
「お疲れ様、多野さん」

 元気な挨拶に、こちらも愛想よく答えた。だが彼女の下半身、ブルマ姿が目に毒だった。ブルマというのはいろいろな問題から大昔に廃止された服装のはずだが、魔物のいる学校では彼女たちの嗜好で復権してきている(短パンかブルマの好きな方を選べる場合が多い)。アマゾネスである多野明日香さんは、丸出しのふとももに幾何学的な刺青が彫られ、お尻からは蛇腹状で紫色の尻尾が伸びていた。現代っ子とはいえ元々ハンターであるアマゾネスは動きやすい格好がいいだろうし、活発な彼女によく似合ってはいる。だが、健康な男子には目に毒だ。

「部活くらい制服着てきなよ」

 苦笑いしつつ言うと、彼女は悪戯っぽく笑い、すでに部室内にいた学友に駆け寄った。

「空歩先輩が、刺青がカッコイイって言ってくれたから!」
「言ったけど、常時丸出しにしておけとは言ってないぞ」

 擦り寄る多野さんに呆れながら、部員の米田空歩は彼女の頭を撫でてやる。この二人は先輩後輩というより兄妹のような仲だ。米田は体育関係が学年トップクラスにも関わらず、運動部ではなく映研に入っている映画好きだ。机に光線剣のレプリカ二本が置かれているところを見ると、二人で殺陣の再現でもしていたのだろう。
 机の上には他に、DVDだの資料本だのが散乱している。棚にはキャラのフィギュアやプラモデルも飾ってあった。俺はいつも通り、部屋の隅に置かれたパイプ椅子を引っ張り出して着席する。

「他の連中はまだ?」
「半田と中井は絵里奈先輩に金を返しに行ってる。あの人と関わるなって言ったのに……」
「帯一と海岸寺先輩は?」
「演劇部に頼まれて殺陣のアドバイスに行った。依田先生はサバト部の方だろう。海路廉と稀玉カレンは分からないけど、瀬吉良はそのうち来るだろうさ」

 そう言って米田も席に着いた。忙しない多野さんも彼の隣に座る。

「そうだ、注文してた『プラン69・フロム・インナースペース』のDVDが届いたんだけどさ」

 いつも通り映画の話題を繰り出すと、途端に二人は吹き出した。

「本当に買ったんですか、あの伝説のクソ映画を !? 」
「パッケージに堂々と『映画史上に残る最悪の出来』って書かれてた。一人じゃ怖いから一緒に見てくんない?」
「勘弁しろよ、友達の家で一回見たけどもう沢山だ! まあ監督の映画への熱意と愛情は尊敬できるとして……」

 賑やかになり始めたとき、ふいに誰かが戸を叩いた。多野さんが立ち上がり、ドアへ駆け寄る。合言葉制の導入は遊びではない。この学校の名物である、ガスマスクを装備したマンティスが部室に入り込んで念力を使ったり、手芸部長のマッドハッターがやってきて意味もなく胞子を撒き散らすのを防ぐためだ。

「えすふぉいるず・いん・あたっく・ぽじしょん!」

 多野さんが鍵を開け、部員の一人が顔を見せた。ふんわりした黒髪に、くりくりとした目の女の子。彼女も後輩だが、多野さんと違い制服姿で、尻尾も刺青もない。

「いらっしゃい、藍ちゃんっ」
「明日香ちゃん、いつも早いね」

 軽く言葉を交わし、彼女……瀬吉良藍は足早に部室へ入ってくる。この学校で数少ない、人間の女の子だ。本人に確認したわけではないが、多くの魔物と違い耳が尖っていないし、天使やアンデッドにも見えないので人間なのだろう。
 瀬吉良さんはいつも俺を見てはにかんだ笑みを浮かべ、隣に座る。

「ども、先輩」
「やあ」

 魔物だらけの学校では人間の女子は必然的に地味に見えるが、彼女はむしろ何となく気分が和むようなオーラを出していた。いつも通り挨拶したとき、鍵を閉めて戻ってきた多野さんが口を開いた。

「そうだ! 木戸先輩、藍ちゃんの家で一緒に見たらどうです?」
「えっ?」
「俺もそれがいいと思う」

 米田も妹分に同調した。いきなりの提案に戸惑う俺だが、瀬吉良さんもまた頭上に疑問符を浮かべていた。

「何の話ですか?」
「あのね、木戸先輩ってばとうとうプラン69のDVD、買っちゃったんだって!」
「ええっ! 本当に買ったんですか!?」

 彼女もまた笑いつつ驚愕した。先ほど多野さんが言ったように伝説級の駄作映画と云われているが、怖いもの見たさで欲しがる映画ファンがいるので、未だにDVDが売られている。動画サイトなどで断片的には観たことあるが、映画マニアとしては一度通しで鑑賞するべきだと思い、購入したのだ。ただ話に聞く限り極度に冗長で話に起伏がなく、役者のやる気もなく、演出も退屈なので、一人で見ては絶対に寝てしまう自身があった。だから仲間たちを道連れにしようとしたのだが。

「俺と明日香は御免こうむるから、瀬吉良が一緒に見てやれ」
「ち、ちょっと待てって。瀬吉良さんの都合が……」

 勝手に話を進めようとする米田を慌てて止めた。瀬吉良さんは仲の良い後輩で、彼女と映画についてあれこれ話すのも好きだ。俺は寮生活だから親を心配する必要はないし、寮の門限もゆるいので行く分には問題ない。だが女子の家に行って二人で映画を見るというのはいろいろとマズイのではなかろうか。
 彼女も俺を慕ってくれているようではある。いつも隣に座るし、話しかけてくることも多い。とはいえ、さすがに家に呼ぶほどでは……

「それなら、是非来てください」

 ……ないと思ったのだけど。にっこり笑ってOKが出た。

「い、いいの?」
「はい。一緒に見ましょう」
「ほらほら。藍ちゃんもこう言ってるんだから、いいじゃないですかー」
「そういうことだ、諦め……いや、せっかくだから行って墓場に入……親睦を深めてこい」

 多野さんはともかく、米田の言葉が妙に不安を煽る。何が言いたいんだろうか。この師弟は俺をどうしようとしているのだろうか。示し合わせて何か企んでいるようにしか思えない。
 混乱しつつ、瀬吉良さんの方を顧みる。しかし相変わらずにこやかな笑顔を浮かべる彼女の一言で、俺はこの提案を受け入れる流れになってしまった。

「楽しみですね、先輩!」













………










……




















 何だかんだと丸め込まれ、俺は瀬吉良さんの家へ行くことになった。女子の家に遊びに行くなんて初めてのことだ。だからこそ遠慮していたのだが、瀬吉良さんは嬉しそうだった。今年の期待できそうな新作映画についてあれこれ語り合いながら、いつの間にか彼女の家に着いてしまう。この子にとって俺を家に呼ぶというのはどの程度の意味があるのだろうか。魔物の場合出会ったその日に付き合い始めることもあるらしいが、彼女は人間だ。出会ってから大して月日も経っていないのに家に上げるほど、オープンな人には見えない。
 だが実際に瀬吉良さんは俺を信頼して、家へ呼んでくれた。これを断るのは冷たすぎるだろう。

「どうぞ、先輩」

 ドアを開けて微笑む彼女の後から、俺も家に上がった。玄関には彼女の他に二足の靴が置かれており、辺りから何か良い香りがする。フローリングの床は新しげで綺麗だった。
 瀬吉良さんが「ただいま」と言うと、奥から「おかえりー」という返事が聞こえてきた。女の人の声だ。ぱたぱたと足音が聞こえ、声の主が姿を見せる。反射的に姿勢を正すが、その姿を見て思わず目を見開いた。

「いらっしゃい。藍の母です」

 妖艶な笑みを浮かべて挨拶するその女性は、人間ではなかったのだ。頭に湾曲した角が存在し、背には皮膜の張った黒い翼。同じ色の尻尾がしなやかにくねっている。そして何よりも肌が青い。ところどころに血の気を感じさせる濃淡のあることが、色を塗ったのではなく地肌の色であることを示している。俺を見つめる瞳は、陳腐な表現だが血のような赤。そして眼球の白いはずの部分が、深い黒で塗りつぶされていた。

 デーモン。魔物学の教科書に載っていたのと、ほぼ同じ姿だった。
 俺の驚く様を見てクスリと笑い、彼女は娘に目を向ける。

「しっかりやるのよ」
「うん」

 頷いて、瀬吉良さんは俺の手を握った。というより、掴んできた。細い指が手首に食い込んでくるような力で、ぐいっと引っ張ってくる。笑みの消えた彼女の顔を見て、背筋がぞくりとした。

 引きずられるようにして連れ込まれた先は寝室だった。薄暗い部屋がベッドや机の上にはぬいぐるみ類が置かれている。電気を点けもせず、瀬吉良さんはドアを閉めてしまった。
 振り向いた彼女の目は赤い光を帯びていた。母親と同じように。

「……ごめんなさい、先輩」

 肌の色が徐々に薄くなり、青みがかっていく。同時に翼がゆっくりと開き、後頭部から背中へ向けて角が伸びた。俺の手を掴む指は爪が長く、尖っていく。

「せ、瀬吉良さん……?」
「私、一緒に映画を観たくて連れてきたんじゃないんです」

 表情に笑みが戻ったが、それは先ほどまでの無邪気な笑顔ではなかった。ぞわぞわした感触を与えてくる、如何にも『魔物』という笑み。
 両手を掴まれた。金縛りにあったかのように体が動かなくなる。両手がぐっと引っ張られ、彼女の方へ。胸元へと導かれた。体がびくりと震える。女の子の体というのは気安く触っていいものではないのに、その中でも大事な箇所を、胸の膨らみに手が触れてしまったのだ。それも瀬吉良さんの、よく知った女の子の胸に。

 いや。俺は彼女のことを何も知らなかったと、今証明されている。姿形だけではない。制服の厚手の布の上からでも分かる、とろけるような柔らかさ。全くの未知の感触だった。
 指が勝手に開閉し、柔らかな盛り上がりを味わってしまう。瀬吉良さんの赤い瞳が、ぼーっと光った。

「本当の私を、観てください」













 ……こうして、俺は魔物に囚われた。彼女たちの故郷では昔から、大勢の人々が同じ目に遭ってきたのだろう。普通の、人間の女の子だと思って信頼していた後輩が、本性を表し襲ってきた。それに抗おうとして結局幸せになった先人たちの、無駄な抵抗に想いを馳せる。
 そして、彼女の柔らかな体を受け止める。

「ふふん。せーんぱいっ」

 素っ裸の彼女は楽しそうに、俺に身を寄せてくる。赤い瞳の光に意識が虚ろになり、気が付いたときには二人とも裸になっていた。背中を壁に押し付けられ、身動きを取ることができない。瀬吉良さんはすべすべの青い背中をこちらへ向け、振り返って微笑んでいた。
 顔貌は人間の姿をしていたときと変わらないのに、赤く染まった瞳と、後頭部から背中へかけて伸びる黒い角が、無垢な童顔をこの上なく妖艶に仕立てていた。ふんわりとした髪型も揺らめく炎のような、妖しい雰囲気を醸し出す。

 だがたまらないのは、俺の股間に押し付けられているそれだった。

「せ、瀬吉良さん、やめ……!」
「い・や・で・す♥」

 彼女は懇願をねじ伏せ、面白がりながらそれを、青色の桃を股間に擦り付けてくる。綺麗で可愛らしい曲線を描いたその箇所は、いきり立ったペニスを優しく刺激してくる。ときにすべすべした肌に摩擦され、時に先端が柔らかな肉にめり込み、プニッと押し返された。そしてその割れ目に挟み込まれ、尻肉の味を教えられる。
 円を描くように、ぐっと押し付けるように、後輩のお尻はいやらしいダンスを続けた。その相手をさせられるペニスは柔らかさと温かさで、今にも溶け出しそうだった。

 それを我慢しているのは、訳のわからないままこれでイかされるのが嫌だったからだ。例えデーモンであってなお、彼女への好意は消えていない。それでも、こういうことは互いに好き合ってやるから良いのだと考えていた。

「私がデーモンだってことも、こんなにエッチなんだってことも知らなかったでしょう?」

 白い歯を見せ、瀬吉良さんは悪戯っぽく笑う。この表情も初めて見るが、一目で心を奪われてしまいそうだった。

「先輩が悪いんですよ」
「そ、それはどういう……?」
「前、私に『バカ』って言いましたよね」

 その言葉と共に、ぎゅーっとお尻を押し付けられた。青い桃がその弾力をもって、怒張したペニスを包み込み、圧迫する。限界近くなってこみ上げたものを何とか堪えた。

 快楽に染まっていく意識で、何とか記憶の糸を辿る。瀬吉良さんが入部したばかりの頃、話題に上った映画について、彼女が勘違いから間抜けなことを言ったのだ。そのときは米田や多野さん、他の部員全員も爆笑し、俺も笑いながらつい瀬吉良さんに「バカだなぁ」と言ってしまった。だが部員同士の日常会話で、些細なことだと思っていた。実際彼女は気にした風でもなく、それどころかその日を境に慕ってくれているような態度を見せ、よく俺の隣へ座るようになったのだ。
 ……今思えば、そのときすでに狙われていたということか。

「先輩の『バカ』って、何だか優しくて、温かくて……」

 話しながら、彼女はお尻の暴虐を止めてくれた。だがすぐに、別の刺激が襲ってきた。少し脚を開いたかと思うと、追い詰められたペニスがその間に挟み込まれてしまった。お尻に劣らない柔らかな感触と、すべすべの肌に包まれる。

「ちょっと、感じちゃったんです」

 気恥ずかしそうに言いながら、瀬吉良さんは俺に寄りかかってきた。丸いお尻と滑らかな背中が密着してくる。反射的に……何の反射神経が作用したのか分からないが、彼女を抱きしめてまた胸に触ってしまった。その二つの乳房は一年生なのにふっくらとしており、生で触る感触は格別だった。青白い肌と温もりのギャップがまた気持ちいい。
 後頭部の角も体に当たったが、それも肌のような不思議な感触で、刺さるようなことはない。保護の魔力というやつだろう。そして髪から漂う甘い香りが、情欲を盛んにかき立てた。

「人間にバカって言われて、嬉しいなんて。私、デーモンなのに……人間なんて、私達に可愛がられるために存在しているのにっ」

 瀬吉良さんの息も徐々に荒くなっていく。ふとももが擦り合わされ、すべすべした中にぬるついた感触がひろがった。それが何なのか察しがつき、余計に興奮を煽られる。
 こちらを振り向き、熱い息を漏らして微笑んだ。我慢ももう限界だった。柔らかな体を強く抱きしめ、胸の膨らみを掌に味わいながら、彼女の脚に屈しようとする。

「出しちゃダメ!」

 突然の叫び。その瞬間、ペニスの中が勝手にぎゅっと締まった。

「うぐっ……!?」

 こみ上げていた精液がせき止められ、強制的に我慢させられる。射精直前の感覚が維持されたまま、それを吐き出すことを許されない。張り詰めたペニスを相変わらず、ふとももが摩擦してくる。

「ふふ。イキたくてしょうがないでしょう?」

 意地悪く笑いながら、瀬吉良さんはペニスへの刺激を続ける。それはほとんど拷問だった。射精したくてもできないまま、快感だけが上乗せされているのである。
 俺が無我夢中で頷いたので、彼女は少し満足げだった。ふとももによる締め付け具合を少し緩め、刺激を和らげてくれる。だがせき止められた射精感はそのままだ。

「木戸先輩。責任取って、私と契約してください!」
「契約……」

 デーモンとの契約。自分がデーモンに従属することを認め、対価として快楽を得られる。それは永遠に続き、生涯をデーモンと共に快楽に溺れながら生きて行くことになるのだ。
 その実態は大して恐ろしいものではないと、俺は知っている。他の魔物も同じように、人間の男と番うことに変わりはない。

「私を常に満たすと約束してくれたら、私も先輩を好きなだけ気持ち良くしてあげると約束します。ね、先輩……?」

 甘い声で囁かれる。身近な存在だった後輩と、男女の関係になる……魅力的な提案だった。快楽拷問で追い詰められた俺に、それを拒否する意思力は残っていない。いや、もし先にこの提案をされたとしても、拒絶したかどうかは疑わしい。正体が何であろうと、瀬吉良藍という後輩に好かれているのが嬉しかった。

「契約、する」
「先輩……ありがとうございます!」

 花のような笑みを浮かべる瀬吉良さん。いつも見ている無邪気な笑顔に近かった。魔物の本性を現した顔にも、それは意外なほどよく似合っていた。俺はようやく気付いた。魔物の瀬吉良さんも、今まで知っていた瀬吉良さんも、両方本物なのだと。
 次の瞬間、強引に射精を止めていたものがフッと消えた。我慢させられていたものが一気にこみ上げてくる。

「瀬吉良さん、出るよ……!」
「はい! 契約の証に、いっぱい出してくださいね♥」

 柔らかな女体を強く抱きしめ、俺はとうとう絶頂を迎えた。滑らかでエロティックなふとももの間でペニスが脈打ち、溜まっていた精液が迸り、青い肌を汚す。それどころか、きゅっと閉じられた瀬吉良さんの脚の隙間から勢いよく噴き出した。

「わぁ♥ 出てる出てる♥」

 無邪気な歓声が聞こえた。白濁液が彼女の股から飛び出し、放物線を描いて飛散していく。まるで瀬吉良さんが射精しているかのような、不思議な光景だった。ふとももに優しく包まれたペニスはたまらない気持ち良さに激しく震え、体から力が抜けていく。まるで全身の力が精に変換され、抜き取られているかのようだ。

 同時に不思議な現象が起きていた。出した精白濁は空中で赤い光に包まれ、瀬吉良さんの体に吸い込まれていったのだ。まるで蛍のように発光しては消えていくそれを見ながら、長い射精に酔いしれる。

 やがてそれが収まったとき、俺の掌は自然と乳房から離れた。脱力して膝が折れ、その場にへたり込んでしまう。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 呼吸を整えながら快感の余韻に浸る。瀬吉良さんはこちらを振り向いて見下ろし、次いで目の前に屈んだ。にこやかな笑みを浮かべて。
 ふっくらとした青い乳房が揺れていた。揉んだためかほんのりと赤くなっている。

 俺の方に手が伸びてくる。彼女の尖った爪が俺の左胸、心臓の位置に触れ、そこを引っ掻かれた。痛みはないが、赤い線が跡となって生じる。俺の肌に爪で文字を彫り込み、瀬吉良さんは楽しげな笑い声を漏らした。
 刻まれたのは『A.S』の二文字、彼女のイニシャルだ。やがてその跡も肌に吸い込まれるかのように消えてしまった。俺は完全に、瀬吉良藍の所有物となったのだ。

「私たちは今日からパートナーです。よろしくお願いしますね♥」

 翼をバサバサとはためかせ、ぴったりと身を寄せてくる、デーモンの後輩。胸の感触も、吐く吐息も、髪の香りも、全て官能的だった。

 俺は青く艶かしい肌を抱きしめ、「こちらこそ」と答えるしかなかった。













………










……




















 それから、俺の高校生活は少し変わった。人魔共学の我が校では、『物陰があったらそこで誰かがヤっていると思え』という法則がある。隠れてセックスしている人間と魔物のカップルを見てしまっても、知らないふりをして立ち去るのが暗黙のエチケットだ。しかし俺とて健康な男子、そういう光景を見てしまえばしばらくの間脳内でフラッシュバックし、性欲が沸いてしまう。今までそうなっても成すすべはなかったが、あの日以来それに悩むことはなくなった。

 今日の昼休みも、保健室のベッドで米田と多野さんが騎乗位で交わっているのを見てしまった。そして掻き立てられた情欲を処理したいと願うと、後ろから声をかけられる。

「木戸先輩」

 振り向くと、人間姿の藍ちゃんが微笑んでいた。その仮初めの白い手を握り、俺は無言で歩き出す。
 彼女は常に契約を違えない。俺から好きなときに精を抜き取る一方、こちらが望めばいつでも現れ、何処へでもついてきてくれる。そして、たまらない快楽を恵んでくれるのだ。


「あんっ……先輩っ、はぁっ……♥」

 トイレの個室。便器に腰掛けた俺と向き合い、藍ちゃんは腰を上下に揺さぶっている。彼女の大事なところは俺のペニスをしっかり咥え込んでいた。ヌルヌルした感触の襞が蠢き、くちゃくちゃと音を立てながら肉棒を咀嚼する。この膣の感触は何度味わっても慣れそうにない。
 本来の姿を露わにした彼女は赤い瞳を煌々と光らせ、抱き合いながら情熱的なキスをしてくる。舌同士が絡み合い、唾液が糸を引く濃厚なキス。口の中を藍ちゃんの舌に舐めまわされ、瞼を開けば赤い瞳と目が合う。

 その間も腰だけを小刻みに動かし、ペニスをいじめ続ける。ファーストキスをしたときに彼女は「私のキス、しつこいですよ」と言っていたのだが、始めると本当に長い。遊びで多野さんや女の子同士でやっていたらしいが、いつまでも唇の感触を味わせ、舌を絡めてくる。息苦しくなって、顎に唾液が伝ってきても止めようとしないのだ。

「んん、んぐっ……!」

 口を塞がれ、くぐもった声しかでない。だが彼女は俺の様子から察してくれたようで、ペニスを根元まで膣に収めて腰の動きを止めた。そして中を強く締め付けてくる。ただ無闇矢鱈に締まるのではなく、吸い出すような刺激。セックスに長けた魔物の膣は、男殺しとも言える兵器だった。
 唇を重ねたまま、俺は膣内へ射精してしまった。どくどくと脈打つ肉棒を、柔らかな蜜壺が可愛がり続ける。華奢な肩を目一杯抱きしめ、胸に当たってひしゃげる乳房の感触も味わいながら、赤ちゃんのできる部屋へと注ぎ込んでいく。

「……ぷはっ♥」

 脈打ちが終わったところで、ようやく唇が離れた。唾液だらけの口元を綻ばせ、藍ちゃんは淫らに笑う。

「今日も沢山出ちゃいましたね、先輩♥」
「ごめん……俺だけ先に……」
「いいんですよ、先輩は私に征服されたんですから。ね♥」

 優しく頭を撫でてくれる藍ちゃん。手の感触が心地よい。実際に彼女は俺を射精させただけで喜んでくれる。
 そのすべすべとした手で。
 唾液のねっとりと絡む口で。
 優しく包んでくれる胸で。
 弾力のあるお尻で。
 綺麗なふとももで。
 艶めかしく絞り出す膣で。

 俺との契約を履行するのが彼女の喜びのようだった。だが、この程度で魔物が満足するはずもなく。

「さあ先輩、もう一度勃起してください」

 そう言われた瞬間、出し尽くして萎えたペニスが彼女の中でむくむくと膨らんだ。デーモンのパートナーとなった俺の体は、その命令に従うように作り変えられてしまったらしい。どの道この学校に通う以上、いつかはインキュバスになるだろうと思っていたが。

「藍ちゃん、待って」

 再び腰を振ろうとする藍ちゃんを制止する。今度は俺が彼女を気持ち良くしてあげたかったからだ。

「次は後ろからしたいんだけど……」
「あ、はい。いいですよ……」

 頼みを快く聞いてくれて、立ち上がる。蜜壺からペニスがぬるりと引き抜かれた。割れ目から白濁がたらりと溢れる。
 くるりと後ろを向いて、個室の壁に手をついた。ケンタウロスなども使えるよう、この学校のトイレは個室が結構広い。何故か男子用でも、だ。

 最初のとき快楽拷問を加えてきた、形の良いお尻をぐっと突き出された。尻尾が誘うかのように揺れている。彼女が脚を開くと、お尻の谷間からすぼまった穴が見えた。こちらで犯してくれたこともあるが、女性器とはまた違った締め付けで気持ち良かった。その穴の下には、ねっとりと汁を垂れ流す割れ目が、来客を待っていた。
 すぐにでもそこへ挿入したい。だがその前にやりたいことがあった。綺麗な曲線を描くお尻に手を添え、挿れると見せかける。期待に満ちた笑顔の藍ちゃんも、俺の意図に気づいたようだ。

 痛くない程度にごく軽く、そのお尻を手で叩く。

「ひゃぁっ!?」

 お尻がぷるんと揺れ、彼女の体が少し痙攣した。尻尾がピンと真っ直ぐになって硬直する。立て続けに、優しくお尻を叩いていく。

「やっ、ちょっと、ダメっ……感じちゃ……ち、違うぅ……♥」

 漏れかかった本音を否定しながらも、藍ちゃんはしっかりと感じていた。その証拠には股間から垂れ流される雫の量がどんどん増している。俺に惚れた理由を聞いたときから分かっていた。彼女はいじめるのも好きだが、いじめられるのも好きなのだ。俺限定で。

「お尻を出したら叩くに決まってるじゃないか。藍ちゃんはバカだなぁ」
「や、やめてください……んっ、そんなに優しく叩かれたら……♥」

 青い肌が小刻みに震え、彼女は悶える。貧乏夫婦が正月に餅つきの音だけでもさせようと、おかみさんのお尻を叩く古典落語があったが、あれを再現できそうだ。
 呼吸が荒くなってきたところで、ペニスを割れ目へ挿入した。

「きゃぅぅ」

 この挿れたときの感触が何とも言えない。天然の潤滑油でぬめる肉を、亀頭で押し広げていく。擦れる柔らかい感触がたまらなく気持ちいい。
 しかし藍ちゃんとこのような関係になり、一つ分かったことがある。セックスの快感というのは物理的な刺激よりも、精神的な刺激の方が大事なのだ。特に女性の場合はそうらしい。人間を下に見ているデーモンが、人間の俺にこんなことをされている。藍ちゃんの気質からするとそれが非常に興奮するようだ。逆に魔物の本能に従い、俺を徹底的に蹂躙するのもやはり興奮するらしい。

 お尻を叩かれて蕩けた彼女が、挿入の快感に身を震わせ喘ぐ。その姿が、結合する快感を何倍にも増幅された。

「ああ、気持ちいい……藍ちゃんの中……!」
「はぅっ、あっ♥ 先輩っ、私もっ……私も気持ちいいですっ」

 デーモンのプライドはあっても、そもそも彼女たちは『欲望に忠実になれ』と人間に囁く悪魔だ。自分が気持ち良くなれば素直にそれを楽しむ。歓喜の涙と唾液と愛液を垂れ流しにしながら、こちらの動きに合わせて藍ちゃんも腰を使ってくれた。
 腰を打ち付けるたび、お尻が青いお餅さながらに震える。掌で胸のお餅も愛撫しながら、一心不乱に突き入れる。

「ああ、あ、あんっ、あんっ、らめっ♥ せんぱ、い、イく、イっちゃ……♥」

 潤んだ赤い瞳に、深い喜びの色が垣間見えた。優しく肉棒を抱きしめていた膣が、一気にきつく締め付けてくる。イきそうになったときの直情的な締まりだった。彼女の命令で勃起したペニスは感度も上がり、精欲も漲っていた。その締め付けと彼女の痴態で、俺もまた追い詰められる。

「藍ちゃん、出すよ……!」
「はいっ、きて、くらひゃいっ♥ いっしょに、イって……ふあああ♥」

 一際大きな嬌声と共に、藍ちゃんは体を仰け反らせた。結合部からプシャッと潮吹きの音がする。それどころか、ちょろちょろと水音を立て、彼女は失禁してしまったのだ。
 同時に膣奥には、俺の精液が迸る。ペニスの中から吸い出されるように、藍ちゃんの胎内へと汲み上げられていった。

 彼女の乳房を揉み、射精の余韻と疲労感に浸りながら、幸せを噛み締める。後頭部の角をそっと撫でてやると、藍ちゃんは気持ちよさそうに声を漏らした。

 ペニスを引き抜き、結合が解かれる。だが実のところ、俺たち二人は常に繋がっていた。藍ちゃんは俺が求めれば、魔法の力で何処にでも現れるのだ。例え俺が卒業してしまっても、望みを叶え続けてくれるだろう。そして彼女も俺を征服し、時に屈服され、幸せそうな笑みを見せてくれるのだ。

 跪き、淫液でベトベトのペニスを口で清めてくれる藍ちゃん。上目遣いの視線に笑顔を向けると、赤い瞳が嬉しそうに光った。









ーーfin
15/10/18 19:13更新 / 空き缶号

■作者メッセージ
おまけ

「ううん、よくもまあここまで無駄に長くて退屈なシーンを入れられるなぁ」
「これ、飛行機の操縦席のつもりなんでしょうか? いくら予算がないからって……」
「監督は本当に映画を愛してたのに、なんでこんなのばっかり……」
「映画は最低でもあの監督は好きだっていう人、結構いますよね」
「うん。……ところで、瀬吉良さん」
「私のことは名前で呼ぶ契約ですよ」
「あ、そうか……藍ちゃん」
「はいっ! なんでしょうか?」
「何で学校じゃ人間のふりしてるの? 別にデーモンだからって何も言われないでしょ?」
「明日香ちゃんがからかうんですよ。『あー、おれ、デーモンになっちゃったよー』って」
「あはは、なるほど。あっ、そういえばその映画もDVDを注文してあるんだけど、一緒に……」
「見ません!」



お読みいただきありがとうございました。
私は映画はあまり見る方ではないですが、今年の夏は某SF映画のファンの集いへ行ってきました。
『光線剣』のレプリカ持参で。
いい歳こいてバカみたいだと思いながら行きましたが、着いたらそういうバカがいるわいるわ、嬉しくなりましたね。
新作の公開が楽しみです。

ご感想・ご批評などございましたら、今後の糧にしますので宜しく御願い致します。

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