彼女が家に来たのは、僕らが十二歳のとき。我が家では当時から多くの使用人を雇っており、その日父に呼び出されたのも『新しい使用人が来た』という用件だった。自分と同い年くらいの子供と聞いて嬉しく思ったが、会ってみて驚いた。メイドの服を着たとても可愛い女の子だったが、人間ではなかったのだ。犬のようなふわふわとした耳、お尻からは羽毛の尻尾が生えている。生まれて初めて、近くで魔物を見たのだ。

　当時、僕らの町は教団の勢力圏内であり、勇者も何人か輩出していた。しかし町は所謂都市国家というやつで、他の国に属さず独立独歩の精神を持っており、教団と魔物との戦いに参加したければ個人の自己責任とされていた。町の司祭も『教団の本分は聖戦に非ず、博愛なり』という信念を持っており、身寄りのない魔物が町で仕事に就くことを黙認していたのだ。だから町に魔物は極少数いたが、当時の僕は恐怖心から近づこうとはしなかった。

　彼女は戸惑っている僕を見てニコリと微笑み、お辞儀をした。何かドキリとしたが、それが何なのかは分からなかった。

「イェンス、怖がることはない」

　そんな僕に、偉大な父は優しく語りかける。

「おばあさんの昔話を覚えているかい？　キキーモラの話だ」

　キキーモラは働き者を助ける魔物。祖母がよくしてくれた、我が家の先祖の話だと分かった。遠い昔、我が家に仕えていた雄のキキーモラが、家の娘と恋に落ちてしまったという。そのキキーモラは当主から信頼され、愛されていたが、いくらなんでも魔物が娘と結婚するのは許してもらえなかった。だが娘の方も決心は固く、結局キキーモラと駆け落ちしてしまった……そんな話だ。
　幼かった僕は、魔物と結婚するなんて変な話だと思ったものだが。

「この子はそのキキーモラの子孫、つまり我々の遠い親戚に当たるのだ」

　そう言われてもすぐには信じられなかった。祖母の話に出てきたキキーモラと、容姿があまりにもかけ離れていたのだ。着ているのは地味なメイド服だが、顔は人間の女の子と変わらず、それどころか優しい微笑みが非常に可愛らしい。ふわふわした耳がそれを引き立てていた。それまで会った仲で一番可愛い女の子だったと言ってもいい。微笑を浮かべる小さな口を見て、あの口でどうやって人を食べるのかと疑問に思った。もっとも、後に僕は実際に『食べられる』ことでそれを知ることになったが。

　父に促され、彼女は僕の前に歩み出て、再びお辞儀をした。

「キキーモラのコロナです。よろしくおねがいいたしします」

　声を聞くと、再び胸がドキリと高鳴る。あんなことは初めてだった。

　父はコロナに葡萄園を見せてやるようにと言った。僕はおずおずと、彼女をエスコートした。使用人であった彼女を『エスコート』というのもおかしな話だが、とりあえず手を握り、屋敷の外へ連れ出した。なんて小さくて、柔らかい手なんだろうと思った。手首についているふわふわの羽毛は飾りかと思ったが、よくみるとちゃんと体の一部だった。
　コロナの方も、僕の手を握り返して感想を述べた。

「イェンスさまは、はたらき者なんですね」

　手を見れば分かります、と彼女は言った。幼い頃から家の手伝いをしてきた結果、僕は金持ちの一人っ子にしてはかなり荒れた手をしていたのだ。

「……じゃあ、ぼくを食べたりしない？」

　キキーモラは怠け者を食い殺すという話を聞いていたので、恐る恐る尋ねてみた。するとコロナはクスクスと笑い、「そんなことしません」と屈託なく言った。少し安心した僕は、言われた通り彼女を葡萄園に案内した。紐やハサミなどの仕事道具を一式持って。

　ワインの醸造で財を成した我が家は葡萄園を保有しており、僕も使用人たちに教わりながら木の手入れの仕方を一通り覚えていた。実る前の葡萄の木を見せ、新梢の誘引作業を実際にやって見せた。つる性植物である葡萄は枝の向きを整えてやることが大切だ。そして肥料の無駄をなくすため、脇から生えている芽は切除する。それらの仕事を見せて、父や使用人たちの受け売りではあるが醸造家の精神なども語った。コロナは丸い目でじっと僕を見て、興味深げに聞いてくれていた。

「ワインはどんな味がするのですか？」

　そう聞かれたときは少し困ったが、正直に知らないと答えた。まだ子供だったから。

「でもいろいろな人が、ここのワインはおいしいって言ってくれるんだ。ぼくも父さんみたいに、いいワインを作れるようになるんだ」

　そう言うと、彼女は嬉しそうに笑った。

「ではわたしは、それまでずっとイェンスさまにお仕えしますね！」



　……それが、僕たちの主従関係の始まり。
　コロナは彼女の母親から家事全般を叩き込まれたらしく、子供ながらも掃除洗濯などの仕事はそつなくこなした。加えて人当たりも良いので、人と魔物の垣根も超えて他の使用人たちから可愛がられた。
　そんな彼女に尊敬される主人でいたくて、僕は背伸びしようとした。彼女の前で難しい仕事をやろうとしては失敗し、使用人たちに嗜められた。

「女の子の前ではね、カッコ付けないのがコツなんですよ。坊ちゃん」

　僕が五歳の頃から我が家で働いている下男・ハンスは笑ってそう言った。彼のような筋骨隆々の巨漢から、女の子の付き合い方について教えを受けるとは思わなかった。

「見栄張ってもすぐにバレちゃうんですから。特にあの子は賢い。坊ちゃんは自然な坊ちゃんでいればいいんです」

　彼の言う通りだった。
　コロナは僕のやろうとしていること、食べたいものなどを察して、すぐにそれを準備してくれる。悲しみや怒りなども察して、慰めてくれた。彼女は僕をよく見てくれているし、嘘も分かる。だから彼女の前ではハンスの言う通り、自然体でいることを心がけた。

　そんな賢いコロナにも一つだけ欠点があった。とてもしっかり者なのに、平らな所でよく転ぶのだ。とはいえ何かを運んでいるときに転んだことはないし、むしろ愛嬌として受け入れられていた。使用人にも魔物を警戒する者はいたが、そんな彼女を見ていればとても人を喰らえるようには思えないし、親しみやすくなるきっかけにもなっていた。
　だがある日、その欠点のせいで事件が起きた。炎天下で作業をしていた僕の元にコロナがやってきて、昼食の時間だと告げた。分かったと応えて道具を整理し、食事へ向かおうとしたとき。

　前を歩いていたコロナが何もない所で転んで、メイド服のスカートがふわっとまくれたのだ。僕の目にはその中身が……純白の下着と、色白の柔らかそうなふとももが見えてしまったのだ。

　それは一瞬のことで、彼女はすぐに起き上がって歩き去った。だが僕の目にはその一瞬の光景が強く焼き付いてしまったのだ。あの丸いお尻に、それを包むショーツ……性的な物に初めて興味を抱いたときだった。体がむらむらとしてきたが、当時の僕はそれを自分で処理する方法を知らない。様子がおかしいと思った使用人たちに、体の具合が悪いのかと心配されたが、僕はただひたすらコロナの後をつけ始めた。またあの光景を見たくて。
　しかしそんな僕の感情を他所に、転んで欲しいときに限ってコロナはなかなか転んでくれなかった。転んだとしてもスカートがまくれ上がることなく、その下の花園を見ることは叶わなかった。

　結局その日の夜は床についても、悶々としてなかなか眠れないまま朝を迎えた。目を閉じれば瞼の裏にコロナのお尻が、下着が蘇ってくるのだ。次の日は疲れが取れておらず、体がだるかった。使用人たちから僕の体調が悪いと聞いた父は、今日は一日ゆっくり休むようにと言った。こんなことで仕事ができないのは恥ずかしくて、情けなかった。
　もっと悪いことに、コロナが僕に付き添うことになってしまった。僕の寝不足の原因が自分だと知る由もない彼女は親身になって接してくれる。僕の方は彼女を見るのも辛かった。

　だが。そのとき僕に思いもかけない好機が訪れた。椅子に座って僕を見守っていたコロナが、そのままうたた寝を初めてしまったのだ。僕が彼女と目を合わせず、話もしないせいで、真面目な彼女も次第に退屈になってしまったのだろう。そのことに気づいてから、眠っている彼女のスカートをめくる決心をするまで、ほとんど時間はかからなかった。

　スカートの裾を摘んで持ち上げたとき、ふわっと不思議な匂いがしたのを覚えている。それから何度も嗅ぐことになったが、そのときが初めてだった。コロナが椅子に座っているためお尻は見えないが、純白のショーツの前面を見ることができた。そして滑らかで華奢なふとももを。
　今度は偶発的に見えた一瞬の光景ではない。じっくりと眺めることができた。いくら見ていても飽きないどころが、胸のむらむらがどんどん大きくなる。ついに僕はその神聖な三角形の部分に、そっと手を触れた。

　さらさらした布のショーツは柔らかくて、彼女の体温で温かい。ふともももすべすべで柔らかく、夢中で撫でてしまうほどの感触だった。だがいくらそこに触れても、自分の得体の知れない高ぶりを発散させることはできない。結局僕は苦しんでいた。

　しかしその苦しみは不意に終わることになる。コロナの手が突然、僕の股間に触れたのだ。

「ああっ！」

　僕は思わず叫び、その瞬間体がビクビクと震えた。味わったのはとても気持ちよい、未知の感覚。ペニスから『何か』が迸るのも、そのとき初めて味わった。ズボンの中にぐっしょりと嫌な感触が広がっていっても、気持ちよくて仕方ない。
　そんな僕を、コロナはくりくりした目を開けて見つめていた。

「イェンス様……」

　いつの間にか彼女は目を覚ましていた。あれだけしつこく触れば起きるのは当然だろう。僕は体が固まってしまったかのように何も言えなかった。だがコロナは怒ることなく、いつものように笑顔を浮かべていた。
　ふいに踵を返すと、彼女はタンスの引き出しを開けた。中から取り出したのは僕の下着だ。

「お着替えしましょうね」

　屈託なくそう言ってコロナは僕のズボンとパンツを脱がせにかかった。キキーモラは非常に手際がいい。止めて、と言う間もなく、下半身を剥き出しにされてしまった。パンツの中には白い粘液がこびりついていたが、僕はそれが何だか分からなかった。白いおしっこが出たのかと思ったが、それよりも股間をコロナに見られていることの方が大変だった。こんな恥ずかしい所を見られるなんて。スカートの中をまさぐったお仕置きをされているような気分だった。
　コロナは僕の小さな男根をじーっと見つめ……そっと、手で握ってきた。

「あっ、だ、ダメっ！」

　触れられた瞬間に体が震え、思わず僕は腰を引いてしまう。得体の知れない気持ち良さが怖かった。しかし出した液体で汚れた男根は性の悦びを知り、再び固くなってしまう。コロナは翡翠のような緑の瞳で、それを観察していた。そして僕の腰に手を回して抱きしめ、股間部に顔を近づけてきた。息がかかり、くすぐったさにさらに鼓動が早くなる。

「きれいにしてあげます」

　そう言うと、コロナは小さな口を開けた。中から見えたピンク色の舌に、幼い男根をペロリと舐められる。手で皮を少しずつむきながら、彼女は小さな舌で小さな男根を掃除し始めた。当然それが何と言う行為なのか、少年時代の僕は知らなかった。

「ダメ、きたないよぉ……！」

　僕は必死に訴えた。しかしコロナはやめてくれない。敏感な亀頭を舌先でつついて、十二歳の少年にとっては未知の快感を教えてくれた。

「んっ、れろ……きひゃらくらいれふ……」

　ぱくりと先端を口に含み、コロナはもごもごと喋る。温かい口の感触、くすぐったい舌のぬめり、上目遣いに見つめてくる視線。どれもたまらない快感だった。
　だが魔物であるコロナに体の一部を口に含まれたことに、恐怖心も湧いていた。悪いことをした僕を食べようとしているのではないかと思った。だがどれだけ藻掻いても、彼女は僕の腰にしがみついて離れない。華奢な体からは想像できないほど、魔物の力は強かった。

「コロナぁ……許して……許してよぉ……」

　謝る僕を不思議そうに見上げながら、彼女はちゅーっと男根を吸い立ててくる。その瞬間、再び白い何かが迸った。今度はパンツの中でではない。コロナの、女の子の口の中に出してしまったのだ。

「んんっ！」

　少しくぐもった声を出しながらも、コロナは男根を加えて離さなかった。分けの分からない快感に頭がおかしくなりそうだった。どくどくと脈打つペニスは小さな口の中にそれを注ぎ込んでいく。
　収まったころになって、コロナはもう一度男根の汚れを舌で舐めとってから、やっと口を離した。目を閉ざし、僕から吸い出したものを喉を鳴らして飲み込む。

　脱力してベッドに座り込んだ僕に、彼女は再び笑顔を向けた。そしてその小さな手で頭を撫でてくれたとき、僕はすーっと安心感に包まれた。食べられるのではないかという恐怖もなくなった。その後コロナは僕に清潔なパンツを履かせ、何も言わず添い寝してくれた。毛布の下で彼女と体を温め合った。最初は手を繋いでいるだけで満足だったのに、いつの間にかコロナを抱きしめ、忠実な使用人の彼女を抱き枕として使っていた。
　彼女も笑顔でそれを受け入れ、いつしか二人で寝息を立て始めた。

　そのときから、僕たちは特別な絆で結ばれたのだ。永遠に続く、大切な絆で……

■作者メッセージ

お読み頂きありがとうございます。
書きたい物ばかりが増えていく今日このごろです。

今回はあらすじにあるように、主人公とキキーモラの成長を四年ごとに書いていく話になります。
もちろん、成長と同時に性徴も。
お付き合いいただければ幸いです。