キマイラ・バレンタインデー
初恋の相手の命日が二月十四日、つまりバレンタインデーだという男は俺の他にどのくらいいるのだろうか。今年であれから三度目のバレンタインデーになるが、脳裏にちらつくのは誰かへ送るチョコレートを胸に抱いて交通事故に遭った、あの幼馴染みの顔だ。幼稚園の頃から一緒にいた女の子に恋をし始めた中学三年の冬、唐突に彼女がいなくなってしまった。
持っていたハート形のチョコレートは誰へ送るものだったのか、今となっては分からない。もしあいつも俺と同じ気持ちだったなら、と考えては途中で止める。無意味だからだ。高校へ進学し、あいつのいない生活を送って三年。もうすぐ卒業だというのに、まだこの日が来ると空しくなってしまう。
いつもなら部活で発散させているが、今年の二月十四日は土曜日、休みだ。まあチョコレートのやり取りをしている女子共を見ないで済む分いいかもしれない。最近魔物の生徒たちは媚薬入りだということを隠しもせず送るようになったため、今日が平日だったら学校はえらいことになっていただろう。
進学先からは内定をもらっているから、受験勉強もすでに終わっている。今日は何もやる気がしないし、一日中ベッドの上で時間が過ぎて行くことになるだろう。今日は親も出かけており、飯はカップ麺でも適当に食べればいい。
そう思っていると、ふと枕元で携帯が鳴った。メールだ。表示されている名前は淀岸千代子……同じ演劇部の友達だ。いつも休日になるとメールが来て、内容は常に同じ。
『遊びに行ってもいい?』
少し考えた末、『いいよ』と返信する。ゲームとお茶菓子を目当てにやってくる女友達だが、いれば気が紛れるかもしれない。あいつは空を飛べる魔物だからすぐに来るだろうし、ストーブを点けておこうとベッドから体を起こす。
その直後。窓ガラスを叩く音がした。ここは二階、その窓を叩くなんていうのは人間にできることじゃない。振り向くと翼を羽ばたかせてホバリングするキマイラが、俺を見てにんまりと笑っていた。
「もう来やがったのかよ……」
たまに彼女はこういうことをする。家の前まで来てから行っていいかとメールしたり、連絡も無しに来たり。そうかと思えば手土産持参で、玄関で行儀良くお辞儀をして入ってくることもある。
窓を開けてやると、外の冷たい空気が羽ばたきに煽られて部屋に吹き込んできた。たまったもんじゃないが、千代子は構うことなくホバリングしたまま部屋へ入ってくる。机の上のプリントがバサバサと宙を舞った。
「ちゃんと玄関から入れって言っただろ!」
「寒いなー、お前の部屋。暖房くらい点けとけよ」
俺の抗議なんて構いやしない。着地して勝手にストーブのスイッチを入れ、俺のベッドにどかっと腰掛ける。寒いと言っているがこいつの服装の方がずっと寒そうだ。ノースリーブのタートルネック、しかも一時期話題になった、胸の谷間が出る奴。両腕はそれぞれ山羊の体毛と竜の鱗に覆われ、ついでにその頭までついているため、意外に寒くないのかもしれない。下半身はミニスカ―トに黒のストッキング。お尻から生えている尻尾は蛇の頭だ。最初に会ったときはかなりのインパクトを受けたが、このキマイラという種族、本当に凄いのは体ではなく中身の方だ。
「どうせ暇してるだろうと思って来てやったんだぜ、演劇部の大スターのオレ様が。有り難く思えっての」
彼女は黄色と緑のオッドアイでじっと俺を見る。ライオンの耳がぴくぴくと動いていた。
「この寒いのに窓から入ってくるなってんだよ。お前の翼結構風起きるんだから」
そう言うと、目つきの悪い顔が急にきりっとした美人の表情になった。そしてぺこりと頭を下げる。
「すまないね、修一。ボクは脳内会議で、玄関から入るよう主張したのだけど」
「いきなり竜チョコになるなよ……」
キマイラの演劇部員、淀岸千代子。通称チョコ。
一つの体に複数の人格が宿っているキマイラの特性を活かし、演劇部員として活躍している俺の女友達だ。あるときはしとやかなお姫様、またあるときは暴虐の限りと尽くす犯罪者と、どんな役でもこなしてしまう。騎士に扮した時は学校中の女子からファンレターが届くしまつだった。加えて舞台裏の作業にも明るく、大道具担当の俺とはよく話す機会があり、休日に一緒に遊ぶようにもなったのだ。
「まったく、獅子チョコはガサツで困るよ。そもそもこの翼はボクの物だから、飛ぶのはボクに任せろと言っているのに」
背に生えた竜の翼を撫で、チョコはぼやく。内部に住んでいる四つの人格は、それぞれ体の対応する部位から、獅子チョコ、竜チョコなどと呼称する。
「まあいいか。じゃ、FPSやるか?」
得意なゲームもまた人格によって異なるのだ。竜チョコはシューティングゲームが大得意で、獅子チョコは格ゲー専門、山羊チョコがパズルゲー、蛇チョコが戦略ゲーというバランスの取れた得意分野を持っている。
だが、俺の勧めにチョコは首を横に振った。そして、にこーっと頬を緩める。獅子チョコの不良面や竜チョコの麗人の顔とも違う、優しい微笑みだ。
「その前にね〜。今日は別の用があるの〜」
声は同じでも、口調がまったりすると途端に柔らかな声になる。山羊チョコが出てきた。お姫様役が得意な優しい女の子である。一番良心的な人格だ。
だが腰に提げたポーチから取り出した物は、俺が一番見たくないものだった。ハート形の、ピンク色の箱だ。二月十四日にそんなものを出されれば何が入っているのか嫌でも分かる。
「はいっ。わたしたちから修一くんに、バレンタインデーのチョコレートで〜す」
もふもふの右手と鉤爪の左手で差し出された、可愛らしい箱。リボンもついている。三年前に幼馴染みが遺したものとよく似ていた。一緒にゲームして気晴らしするはずが、こいつからこんな物を渡されることになるとは。チョコからチョコをもらうなんていう洒落で笑える気分ではない。
「……チョコ、悪いけど、俺……」
「ふうん? 受け取とってもらえやへんどすか?」
目を細め、急に声が低くなった。ベッドの上で姿勢を低くし、上目遣いに俺を見上げてくる。尻尾の蛇もこちらを向いていた。蛇チョコが出た。厄介なのが。
「気持ちはありがたいんだけどさ。ちょっと事情があって……」
「美紀ちゃんのこと?」
ドキリと心臓が跳ねた。椎名美紀。三年前に死んだ初恋の相手の名。高校に入ってから誰にも打ち明けたことのない名前と思い出だ。当然、チョコにも。
「ど……どうして……」
「ああ、やっぱり。ふふ、一途なええ子やねぇ、修一くんは」
狼狽する俺に向けて、尾の蛇が牙を剥いた。反射的に逃げようとするが、肩をがっしりと掴まれてしまう。俺の顔を覗き込み、チョコはにたりと笑った。色白の頬が紅潮している。
次の瞬間、蛇が俺の手に食らいついた。痛みはない。だが確かに牙が肉に食い込んだ。じわり、じわりと何かが流れ込んでくる。逃げようと藻掻いても、次第に体が重くなり、痺れてきた。
右手で俺の頭を撫で、蛇チョコは楽しそうに笑う。捕食者の目つき、蛇に睨まれたカエルの気分だ。
「よー効くやろ、ウチの毒は」
「何を……す……!?」
「決まっとりまっしゃろ。魔物と男の子がベッドの上で……なんて」
竜の左手が、俺のズボンを脱がしにかかっていた。身動きできないままパンツまで脱がされ、ようやく温まってきた部屋の空気に股間がさらされた。ああ、やはり捕食者の目だ。俺を食う気なのだ。性的な意味で。
チョコレートの受け取りを拒否したら美紀の名を出され、いきなり毒牙に噛まれ、服を剥かれ……何が何だか分からない。それなのに何故か、股間のものは真上を向いていた。極限まで勃起したそれをチョコはじっと見つめてくる。
恥ずかしい。そう思うと股間がぞわぞわしてきた。チョコは舌をチロチロと出したり引っ込めたりしながら、ペニスに顔を近づける。息が亀頭にかかった。鼻をひくつかせて臭いを嗅いでいる。
「はぁ、ほんにええ匂いやわぁ♥ ほな、甘ーい気分になっとくれやす♥」
「う……!」
ぱっくりと、ペニスが口の中に飲み込まれてしまった。口腔の温かさに、麻痺した体がぴくりと震える。麻痺していても反射神経が働くことはあるようだ。しかし脱出などできないまま、じゅるじゅると卑猥な音が立つのを聞くことになった。
「ちゅるっ……じゅっ♥ ん、ふ……んぅ、ちゅぅぅ……♥」
くぐもった声を漏らしながら、貪るようにペニスをしゃぶる蛇チョコ。唾液をねっとり絡ませて、亀頭を、くびれの部分を、竿の方を、縦横無尽に舌が這い回る。からかうように亀頭をつつかれ、吸引され、先走りの汁を飲まれる。チョコは俺の下半身を抱きしめ、大きな胸の膨らみも押し付けてきていた。太ももの辺りでその膨らみが押しつぶされ、柔らかく圧迫してくる。
その豊かな体つきを右に、左に、蛇がにじりよるかのようにくねらせ、彼女はフェラを続ける。その腰の卑猥な動きを見てますます高ぶってしまった。麻痺した体を異様な興奮が駆け巡っている。物理的な刺激だけではない。前髪をかき上げつつ愛おしそうにペニスを味わうチョコの顔を見ているだけでも、達しそうなほどに気持ちいいのだ。
それに加えて絶品の舌技に悶える俺を、チョコは上目遣いで見つめ、一度口を離した。
「ぷはっ……ほな、仕上げをしましょ♥」
よだれと汁の混ざった液を口から垂らし、淫らな笑みを浮かべる。そして再びペニスに口をつけ、舌の暴虐が再開された。
今度は頭を前後に動かし、口の中でペニスを出し入れしてきた。喉まで飲み込まれたかと思うと、舌でしごかれながら抜かれ、また奥へ。舌で舐め回され吸引され、柔らかな唇で竿をしごかれる。その激しい動きがたまらない快感となり、俺にトドメを刺した。
「で、出るっ!」
そう叫んだ直後、チョコはペニスを喉奥まで飲んだ。脈打ちが始まり、音を立てながら精液が迸る。チョコの口へ、喉へ注ぎ込んでいく。
「んんっ♥」
ぎゅっと目をつむり、蛇チョコはごくごくと喉を鳴らしてそれを飲み下していった。蛇のようにねちっこく、舌を竿に絡み付かせながら。
ちゅーっと音を立て、最後の一滴まで飲み干すと、彼女はペニスを解放した。口元から足れる液を拭い、満足げな笑みを浮かべる。
「いーっぱい出しなはったなぁ♥ ほな……」
チョコレートの箱を開け、五つ入っていたチョコを一粒つまみ上げる。ピンク色のイチゴ味だ。
「これも食べなはれ」
鉤爪で口をこじ開けられ、そこへすぽんとチョコを放り込まれる。イチゴ味が口の中で溶けていった。甘酸っぱい。
射精の余韻に浸りながらぼんやりと味わっていると、不意にチョコの顔が引き締まった。きりっとした顔立ちで、ベッドから降りて直立する。
「次はボクの番だよ、修一。麻痺毒に強壮効果もあるからできるだろう?」
竜チョコの言う通り、俺の股間はまだガチガチに勃起していた。体がもっと快感をと疼いている。
そんな俺を眺めながら、竜チョコはさっとミニスカートをまくり上げた。
「ボクたちは交代で自分の好きな下着をつけるんだ。獅子チョコはノーパン、山羊チョコはフリル付き、蛇チョコはハイレグ。ボクのお気に入りはこれさ」
彼女が見せつけている物。女の股間を守っているそれは、いわゆる紐パンというやつだった。黒いそれは腰の両サイドで紐で結ばれ、蝶結びの紐がプレゼントの包装のような可愛らしさを演出していた。
チョコはその紐を解いて下着を脱いだかと思うと、それを僕に見せつけてくる。よくみると股間に当たっていた部分がじっとりと濡れていた。スカートの裾の下、彼女の脚までその発情の証は滴っていた。
染み部分に目線が釘付けになるのを見て、竜チョコは不敵な笑みを浮かべる。そして次の瞬間、自分の下着を俺の股間に被せてきたのだ。
「こういう変態的なのも嫌いじゃない」
ペニスを下着で包み込み、両手でしごき立ててくる。さらさらした布が彼女の愛液でぬめり、独特の感触を生み出していた。脱ぎ立ての下着はチョコの温もりが残っており、温かくペニスを包んでくれる。
普段一番冷静で常識を弁えた竜チョコ。それが自分の下着を俺の股間に被せてしごくという行為を平然とやってのけている。あくまでも真面目な目線で、俺を見下ろしながら。その見つめてくる視線が、気持ちいい。
「う……ち、チョコ……」
「何だい?」
「も、もう出そうだ……」
我ながら情けない。先ほどあれだけ出したにも関わらず、下着でしごかれただけでもう漏れそうになっている。そんな俺を竜チョコは笑わなかった。
「いいよ。見せてくれ。修一の白いのが、ボクのお気に入りを汚す所を」
じっと目を合わせてそう言われたとき、限界に達した。二回目とは思えない勢いで、ペニスから白濁が噴出した。異様に濃い、ゼリーのような物が黒い下着を汚していく。その様子を観察しながら、竜チョコは手の動きを止めず、パンツで精液搾りを続けた。その結果白濁は黒い生地全体にべっとりと絡み、大人らしさと可愛らしさを併せ持った下着はたちまち卑猥な汚物と化した。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「……ふむ。これは洗濯するのがもったいないな」
荒く息を吐く俺の横で、竜チョコは下着を見つめて呟いた。変態、という単語が脳裏に浮かぶ。彼女は精液でぐちゃぐちゃになった紐パンを広げ、こともあろうに再び履いた。全く不快な素振りも見せずに。
竜の左手の、精液で汚れていない爪でチョコレートをつまみ、再び口に入れてくる。呼吸を整えていた口が勝手にそれを食べてしまった。
「美味しいかな? ちょっと苦めなんだ」
ビターチョコレートを味わう俺を見て、竜チョコは微かに微笑んだ。
休む暇はなかった。チョコは再びベッドに乗ってくる。穏やかな、満面の笑みを浮かべて。
「うふふ〜。今度は〜、わたしが優しくイかせてあげるね〜」
山羊チョコは蛇チョコと同じく、俺の下半身に抱きついてきた。だが口で咥えようとはしない。豊満な胸の出たタートルネックの、開いた所にペニスをあてがってきたのだ。
乳の柔肌の感触にペニスが震えた。それを見て山羊チョコは笑い声を上げる。
「あははっ。敏感なおちんちんさんだね〜。えいっ♥」
怒張したペニスがすっぽりと、服の穴から谷間に収められてしまう。
「あああっ」
俺は悶えてしまった。柔らかな圧迫感がペニスを労るように、左右から挟み込んでくる。股間が天国へ行ってしまったような心持ちだ。チョコのオッドアイが慈愛に満ちた眼差しで、俺の目をじっと見つめてくる。服の上から両手で乳に圧力をかけながら、いつ出してもいいよと目で告げてくれていた。
ソフトな快感を与えられる。むにゅっと胸が寄せられては緩められ、汗ばんだ谷間の肌で摩擦される。チョコの体も火照り、頬は赤く染まって、胸は温かい。肉棒がびくびくと震えて谷間から飛び出してしまっても、優しく天国へ戻してもらえる。
もう戸惑いや躊躇いは完全に打ち消されてしまった。もうどうなってもいいと考えるようになる。このまま柔らかな胸に身を任せていよう。
「ふふ〜♥ おっぱい、好き?」
「……うん」
「そう。良い子ね〜♥」
山羊チョコは抱きしめるように自分の胸を抱え込み、中のペニスを圧迫してきた。たまらない多幸感に、ペニスは谷間でとうとう果てた。脈打ちは激しくない。だが出て来る精液の量はさきほどと大佐なかった。濃い精液が緩やかな勢いで、谷間の中に放出されていく。
「ほーら、しーしー♥」
あやすように言う山羊チョコ。本当に子供がおしっこをするかのように、ちょろちょろと精液をもらしていた。柔らかな胸の谷間は白いおしっこを受け止めるのに最適なおむつだった。谷間から白濁が少しはみ出したところで、やっと射精が止まる。
チョコは谷間からぬるりとペニスを引き抜いた。タートルネックの布にも白濁が染み出している。その胸を嬉しそうに揺らしながら、彼女はホワイトチョコレートをつまみ、俺の口へ持ってくる。
「はい、あーんして」
言われるままに口を開け、食べる。優しい甘味が口の中で蕩けていった。
ふと、箱の中にあと二つのチョコレートが残っていることに気づく。最初に五つ入っていた。蛇チョコがイチゴ味、竜チョコがビター、山羊チョコがホワイト。残りは獅子チョコと……誰の分だろう?
疑問に思ったのも束の間、俺の思考は中断された。チョコが突然、ガバッとのしかかってきたのだ。よだれを垂らし、目を爛々と光らせた肉食獣の表情で。
「へっへっへ……一番短気なオレ様が後回しにされちまったぜ」
ちゅっ、と頬にキスをされる。彼女の髪の匂いがふわりと鼻をくすぐった。獅子チョコは状態を起こすと、俺の腰に跨がってくる。タートルネックとブラを脱ぎ捨てて、ぷるんと乳房を曝け出した。柔らかな盛り上がりに先ほどの白濁がまぶされ、谷間で糸を引いている。
獅子チョコは先ほどべたべたにした、俺の精液まみれの紐パンを鉤爪でくいっとずらす。とろとろと愛液が滴る割れ目が姿を見せた。ぱっくりと開き、中身の卑猥なピンク色が見える。豆のような突起も、うねる膣内部も、よく見えた。今から俺を補食する、魔性の性器だ。
「チョコ、俺……」
「えーい! 四の五の言わず、エッチさせろぉぉぉ♥」
凄まじい勢いで、ペニスが根元まで咥え込まれた。じゅぼっと大きな音を立てて、愛液が飛沫となって飛び散る。
熱い。まるで溶鉱炉のように、その中は熱い。挿入した瞬間、ペニスが蕩けるかと思うくらいに。
チョコの上体が仰け反り、胸が大きく揺れた。
「んんんっがぁぁぁぁっ♥ 気持ちイイーッ♥」
雄叫びを上げ、獅子チョコは一心不乱に腰を振る。膣壁が獰猛にペニスに絡み付き、締め上げてくる。食い千切られそうなくらいに。それが激しい腰振りによって、強烈な刺激をペニスに与えてきたのだ。
「あ、うぁぁぅ……!」
「がぁっ、んんんぁぁぁぁっ♥ イイっ! しゅーいちのチンコ最高ーッ♥」
両手で俺の肩をしっかり掴み、激しく体を上下に動かす獅子チョコ。もし麻痺毒が無ければ、俺も獣のように彼女を求め、下から突き上げていただろう。それほどまでに夢中になる快感だった。
髪を振り乱し、翼をバサバサとはためかせ、胸を上下に大きく揺らす。メスライオンの痴態を見上げながら、俺は堪え性もなく高まってしまう。限界に達するのがあまりに早かった。
「えっ、がうぅぅ♥ で、出てるーッ! 中に出てる! がぁぁぁうぅぅぅ♥」
嬉しそうに俺を見下ろしながら、チョコはさらに激しく腰を振った。射精している最中だというのに、さらなる暴力的な快感が襲ってくる。
「あ、チョコ、待っ……!」
俺の声は激しい腰振りに翻弄され、言葉にならなかった。今まで味わったことのない感覚がわき起こったかと思うと、急激に射精の勢いが増した。イっている最中にもう一度絶頂したのだ。大量の精液が狭い膣内にドクドクと迸り、逆流して結合部を濡らす。
「んっはあああああああ♥」
体を仰け反らせ、ガクガクと痙攣するチョコ。それと同時にきゅーっと膣が締まり、精液が中から漏れなくなった。彼女も絶頂したのだ。精液を注がれる快楽で。
しばらく俺たちは石の像のように動かず、快感に浸っていた。ガーゴイルにでもなったかのように。
絶頂が終わり、余韻も徐々に冷めてきたころ、チョコは横にころんと倒れた。真っ赤になった顔に蕩けた笑みを浮かべ、箱からチョコレートを一つつまむ。
「大好きだぜ、修一♥」
その言葉と共に食べさせられたのはナッツクランチ入りのチョコレートだった。サクサクした食感を楽しみ、飲み込んで、脱力する。日頃舞台の上で、騎士だったり、お姫様だったり、魔女だったり、盗賊の親玉だったり、様々な顔を使い分ける淀岸千代子。それらが全て俺に愛欲を剥き出しにして襲いかかってきた。絡みつく舌、温もりのある下着、豊かな胸、肉食獣の膣。どれも絶品だった。
だが、何かが足りない。
箱の中に一つだけ残ったチョコレートを見ながら、俺はそう思った。するとチョコはむっくりと起き上がり、笑みを向けてきた。
「最後はあたしよ、修一」
俺は思わず目を見開いた。目の前にいるのは淀岸千代子に違いない。だがその表情と言葉から滲み出るものは、俺が三年間忘れられないでいる彼女のものだった。他の人間には分からないだろうが、俺には分かる。淀岸千代子の顔だが、そこに彼女がいた。
すっと手を差し出される。チョコの両手は獣のそれではなくなっていた。白くて華奢な人間の手だ。それも見覚えのある。左手の三つ並んだほくろを、俺は今でも覚えていた。
「美紀……なのか……!?」
彼女はこくりと頷いた。
「あたしは貴方の幼馴染みの、椎名美紀だった。今では淀岸千代子の一人。千代子が私を、自分の一人として受け入れてくれたから」
照れくさそうに微笑み、手をペニスに這わせる。
「この手と……修一への思いと一緒に、ね」
ぎこちない手つきで、ペニスを撫で擦る。そこにいるのはチョコであり、美紀でもあった。どちらでもあるとしか言えない存在が、はにかみながら俺に奉仕している。
「修一にチョコレートを渡すはずだったこの手で……イかせてあげる♥」
すべすべと、柔らかな手が竿を擦っていく。先ほどまでと比べ、たどたどしい動き。だがそれは小さい頃に繋いだ手だった。それがこんなに気持ちいいものだったなんて。
少し恥ずかしがっていた彼女は、徐々に楽しそうに、リズミカルにペニスをしごいていく。俺の顔を覗き込み、ペニスをじっと観察し、好奇心に満ちた表情で奉仕を続ける。
この横顔だ。一人の人間としての美紀だったときと同じ、生前と同じ表情だ。そう思った途端に溢れてくる涙を止めることができなかった。
「……泣いてる、の?」
「……嬉しいんだ。また会えたのが」
不思議そうに見ていた彼女は、俺の答えにニコリと笑った。
「じゃあ、あたしも泣くね!」
笑った目の端から、奇麗な雫が落ちる。俺たちは一緒に泣いた。昔のように
「美紀……チョコ……」
『彼女』の名を呼びながら頭を撫で、股間を撫でられる。手は人間のものでも心は魔物の一部として取り込まれていた。次第に上気した表情になってきて、熱い吐息をペニスにかけながら一心不乱にしごきたてる。
我慢などという言葉はとうに捨てた。懐かしさが入り交じる快感が、びゅくびゅくと脈打つペニスから迸る。鈴口から吹き出す白濁を、美紀チョコは目をまん丸に見開いて見つめていた。次の瞬間には大量に吹き出した精液が、顔面に……美紀の表情をしたチョコの顔に降り掛かる。
「きゃあっ♥ あはははっ♥」
無邪気に笑い、美紀チョコはべっとり付着した精液を手で救い、口に運ぶ。はにかみながらも、とても美味しそうに。
「んっ……修一の、精液……ふふっ、嬉しいなぁ……」
少しもじもじしながら、美紀チョコは最後に残ったチョコレートを取った。精液のついていない薬指と小指で挟んで、俺の口へ。
「修一。愛してる」
「俺もだよ」
答えてミルクチョコレートを食べると、まろやかな甘さが口一杯に広がる。味わっている俺を見つめていた美紀チョコだったが、やがて体を起こした。伏し目がちになり、恥ずかしげにこちらを見ながら。
「修一、あたし……ホワイトデーまで待てない」
そう言って腰に跨がってきたとき、彼女が何を望んでいるのか分かった。そして蛇チョコの毒にやられたペニスは、それを行うのに十分な力を保っていた。俺が頷くと、美紀チョコは恥ずかしがりながらも嬉しそうに、ぐちょぐちょの下着をずらす。先ほど出した精液が、割れ目からたらりと流れた。
「今すぐ、お返しして。あたしとオレとボクとわたしとウチ……全部の千代子に!」
一気に腰を降ろし、ペニスを咥え込む。
美紀チョコは激しく喘ぎながら、一生懸命に腰を使った。人格によって体も多少変わるのか、肉食獣の膣は生娘のものに変化していた。
初恋の相手の、初々しい感触の膣で射精すると、今度は蛇チョコがくねくねとした艶かしい腰使いでイかせてくれた。
竜チョコは挿入後あまり動かず、締め付けと温かさで感じさせてきた。
山羊チョコの番が来る頃には麻痺が解けてきていたので、正上位で俺の方が腰を振らせてもらった。
そしてその次は獅子チョコとの獰猛な交尾を楽しまされ、再び美紀チョコに。
二月十四日、今日はこれが一日中続くのだろう。
俺は今、幸せだ。
――fin
持っていたハート形のチョコレートは誰へ送るものだったのか、今となっては分からない。もしあいつも俺と同じ気持ちだったなら、と考えては途中で止める。無意味だからだ。高校へ進学し、あいつのいない生活を送って三年。もうすぐ卒業だというのに、まだこの日が来ると空しくなってしまう。
いつもなら部活で発散させているが、今年の二月十四日は土曜日、休みだ。まあチョコレートのやり取りをしている女子共を見ないで済む分いいかもしれない。最近魔物の生徒たちは媚薬入りだということを隠しもせず送るようになったため、今日が平日だったら学校はえらいことになっていただろう。
進学先からは内定をもらっているから、受験勉強もすでに終わっている。今日は何もやる気がしないし、一日中ベッドの上で時間が過ぎて行くことになるだろう。今日は親も出かけており、飯はカップ麺でも適当に食べればいい。
そう思っていると、ふと枕元で携帯が鳴った。メールだ。表示されている名前は淀岸千代子……同じ演劇部の友達だ。いつも休日になるとメールが来て、内容は常に同じ。
『遊びに行ってもいい?』
少し考えた末、『いいよ』と返信する。ゲームとお茶菓子を目当てにやってくる女友達だが、いれば気が紛れるかもしれない。あいつは空を飛べる魔物だからすぐに来るだろうし、ストーブを点けておこうとベッドから体を起こす。
その直後。窓ガラスを叩く音がした。ここは二階、その窓を叩くなんていうのは人間にできることじゃない。振り向くと翼を羽ばたかせてホバリングするキマイラが、俺を見てにんまりと笑っていた。
「もう来やがったのかよ……」
たまに彼女はこういうことをする。家の前まで来てから行っていいかとメールしたり、連絡も無しに来たり。そうかと思えば手土産持参で、玄関で行儀良くお辞儀をして入ってくることもある。
窓を開けてやると、外の冷たい空気が羽ばたきに煽られて部屋に吹き込んできた。たまったもんじゃないが、千代子は構うことなくホバリングしたまま部屋へ入ってくる。机の上のプリントがバサバサと宙を舞った。
「ちゃんと玄関から入れって言っただろ!」
「寒いなー、お前の部屋。暖房くらい点けとけよ」
俺の抗議なんて構いやしない。着地して勝手にストーブのスイッチを入れ、俺のベッドにどかっと腰掛ける。寒いと言っているがこいつの服装の方がずっと寒そうだ。ノースリーブのタートルネック、しかも一時期話題になった、胸の谷間が出る奴。両腕はそれぞれ山羊の体毛と竜の鱗に覆われ、ついでにその頭までついているため、意外に寒くないのかもしれない。下半身はミニスカ―トに黒のストッキング。お尻から生えている尻尾は蛇の頭だ。最初に会ったときはかなりのインパクトを受けたが、このキマイラという種族、本当に凄いのは体ではなく中身の方だ。
「どうせ暇してるだろうと思って来てやったんだぜ、演劇部の大スターのオレ様が。有り難く思えっての」
彼女は黄色と緑のオッドアイでじっと俺を見る。ライオンの耳がぴくぴくと動いていた。
「この寒いのに窓から入ってくるなってんだよ。お前の翼結構風起きるんだから」
そう言うと、目つきの悪い顔が急にきりっとした美人の表情になった。そしてぺこりと頭を下げる。
「すまないね、修一。ボクは脳内会議で、玄関から入るよう主張したのだけど」
「いきなり竜チョコになるなよ……」
キマイラの演劇部員、淀岸千代子。通称チョコ。
一つの体に複数の人格が宿っているキマイラの特性を活かし、演劇部員として活躍している俺の女友達だ。あるときはしとやかなお姫様、またあるときは暴虐の限りと尽くす犯罪者と、どんな役でもこなしてしまう。騎士に扮した時は学校中の女子からファンレターが届くしまつだった。加えて舞台裏の作業にも明るく、大道具担当の俺とはよく話す機会があり、休日に一緒に遊ぶようにもなったのだ。
「まったく、獅子チョコはガサツで困るよ。そもそもこの翼はボクの物だから、飛ぶのはボクに任せろと言っているのに」
背に生えた竜の翼を撫で、チョコはぼやく。内部に住んでいる四つの人格は、それぞれ体の対応する部位から、獅子チョコ、竜チョコなどと呼称する。
「まあいいか。じゃ、FPSやるか?」
得意なゲームもまた人格によって異なるのだ。竜チョコはシューティングゲームが大得意で、獅子チョコは格ゲー専門、山羊チョコがパズルゲー、蛇チョコが戦略ゲーというバランスの取れた得意分野を持っている。
だが、俺の勧めにチョコは首を横に振った。そして、にこーっと頬を緩める。獅子チョコの不良面や竜チョコの麗人の顔とも違う、優しい微笑みだ。
「その前にね〜。今日は別の用があるの〜」
声は同じでも、口調がまったりすると途端に柔らかな声になる。山羊チョコが出てきた。お姫様役が得意な優しい女の子である。一番良心的な人格だ。
だが腰に提げたポーチから取り出した物は、俺が一番見たくないものだった。ハート形の、ピンク色の箱だ。二月十四日にそんなものを出されれば何が入っているのか嫌でも分かる。
「はいっ。わたしたちから修一くんに、バレンタインデーのチョコレートで〜す」
もふもふの右手と鉤爪の左手で差し出された、可愛らしい箱。リボンもついている。三年前に幼馴染みが遺したものとよく似ていた。一緒にゲームして気晴らしするはずが、こいつからこんな物を渡されることになるとは。チョコからチョコをもらうなんていう洒落で笑える気分ではない。
「……チョコ、悪いけど、俺……」
「ふうん? 受け取とってもらえやへんどすか?」
目を細め、急に声が低くなった。ベッドの上で姿勢を低くし、上目遣いに俺を見上げてくる。尻尾の蛇もこちらを向いていた。蛇チョコが出た。厄介なのが。
「気持ちはありがたいんだけどさ。ちょっと事情があって……」
「美紀ちゃんのこと?」
ドキリと心臓が跳ねた。椎名美紀。三年前に死んだ初恋の相手の名。高校に入ってから誰にも打ち明けたことのない名前と思い出だ。当然、チョコにも。
「ど……どうして……」
「ああ、やっぱり。ふふ、一途なええ子やねぇ、修一くんは」
狼狽する俺に向けて、尾の蛇が牙を剥いた。反射的に逃げようとするが、肩をがっしりと掴まれてしまう。俺の顔を覗き込み、チョコはにたりと笑った。色白の頬が紅潮している。
次の瞬間、蛇が俺の手に食らいついた。痛みはない。だが確かに牙が肉に食い込んだ。じわり、じわりと何かが流れ込んでくる。逃げようと藻掻いても、次第に体が重くなり、痺れてきた。
右手で俺の頭を撫で、蛇チョコは楽しそうに笑う。捕食者の目つき、蛇に睨まれたカエルの気分だ。
「よー効くやろ、ウチの毒は」
「何を……す……!?」
「決まっとりまっしゃろ。魔物と男の子がベッドの上で……なんて」
竜の左手が、俺のズボンを脱がしにかかっていた。身動きできないままパンツまで脱がされ、ようやく温まってきた部屋の空気に股間がさらされた。ああ、やはり捕食者の目だ。俺を食う気なのだ。性的な意味で。
チョコレートの受け取りを拒否したら美紀の名を出され、いきなり毒牙に噛まれ、服を剥かれ……何が何だか分からない。それなのに何故か、股間のものは真上を向いていた。極限まで勃起したそれをチョコはじっと見つめてくる。
恥ずかしい。そう思うと股間がぞわぞわしてきた。チョコは舌をチロチロと出したり引っ込めたりしながら、ペニスに顔を近づける。息が亀頭にかかった。鼻をひくつかせて臭いを嗅いでいる。
「はぁ、ほんにええ匂いやわぁ♥ ほな、甘ーい気分になっとくれやす♥」
「う……!」
ぱっくりと、ペニスが口の中に飲み込まれてしまった。口腔の温かさに、麻痺した体がぴくりと震える。麻痺していても反射神経が働くことはあるようだ。しかし脱出などできないまま、じゅるじゅると卑猥な音が立つのを聞くことになった。
「ちゅるっ……じゅっ♥ ん、ふ……んぅ、ちゅぅぅ……♥」
くぐもった声を漏らしながら、貪るようにペニスをしゃぶる蛇チョコ。唾液をねっとり絡ませて、亀頭を、くびれの部分を、竿の方を、縦横無尽に舌が這い回る。からかうように亀頭をつつかれ、吸引され、先走りの汁を飲まれる。チョコは俺の下半身を抱きしめ、大きな胸の膨らみも押し付けてきていた。太ももの辺りでその膨らみが押しつぶされ、柔らかく圧迫してくる。
その豊かな体つきを右に、左に、蛇がにじりよるかのようにくねらせ、彼女はフェラを続ける。その腰の卑猥な動きを見てますます高ぶってしまった。麻痺した体を異様な興奮が駆け巡っている。物理的な刺激だけではない。前髪をかき上げつつ愛おしそうにペニスを味わうチョコの顔を見ているだけでも、達しそうなほどに気持ちいいのだ。
それに加えて絶品の舌技に悶える俺を、チョコは上目遣いで見つめ、一度口を離した。
「ぷはっ……ほな、仕上げをしましょ♥」
よだれと汁の混ざった液を口から垂らし、淫らな笑みを浮かべる。そして再びペニスに口をつけ、舌の暴虐が再開された。
今度は頭を前後に動かし、口の中でペニスを出し入れしてきた。喉まで飲み込まれたかと思うと、舌でしごかれながら抜かれ、また奥へ。舌で舐め回され吸引され、柔らかな唇で竿をしごかれる。その激しい動きがたまらない快感となり、俺にトドメを刺した。
「で、出るっ!」
そう叫んだ直後、チョコはペニスを喉奥まで飲んだ。脈打ちが始まり、音を立てながら精液が迸る。チョコの口へ、喉へ注ぎ込んでいく。
「んんっ♥」
ぎゅっと目をつむり、蛇チョコはごくごくと喉を鳴らしてそれを飲み下していった。蛇のようにねちっこく、舌を竿に絡み付かせながら。
ちゅーっと音を立て、最後の一滴まで飲み干すと、彼女はペニスを解放した。口元から足れる液を拭い、満足げな笑みを浮かべる。
「いーっぱい出しなはったなぁ♥ ほな……」
チョコレートの箱を開け、五つ入っていたチョコを一粒つまみ上げる。ピンク色のイチゴ味だ。
「これも食べなはれ」
鉤爪で口をこじ開けられ、そこへすぽんとチョコを放り込まれる。イチゴ味が口の中で溶けていった。甘酸っぱい。
射精の余韻に浸りながらぼんやりと味わっていると、不意にチョコの顔が引き締まった。きりっとした顔立ちで、ベッドから降りて直立する。
「次はボクの番だよ、修一。麻痺毒に強壮効果もあるからできるだろう?」
竜チョコの言う通り、俺の股間はまだガチガチに勃起していた。体がもっと快感をと疼いている。
そんな俺を眺めながら、竜チョコはさっとミニスカートをまくり上げた。
「ボクたちは交代で自分の好きな下着をつけるんだ。獅子チョコはノーパン、山羊チョコはフリル付き、蛇チョコはハイレグ。ボクのお気に入りはこれさ」
彼女が見せつけている物。女の股間を守っているそれは、いわゆる紐パンというやつだった。黒いそれは腰の両サイドで紐で結ばれ、蝶結びの紐がプレゼントの包装のような可愛らしさを演出していた。
チョコはその紐を解いて下着を脱いだかと思うと、それを僕に見せつけてくる。よくみると股間に当たっていた部分がじっとりと濡れていた。スカートの裾の下、彼女の脚までその発情の証は滴っていた。
染み部分に目線が釘付けになるのを見て、竜チョコは不敵な笑みを浮かべる。そして次の瞬間、自分の下着を俺の股間に被せてきたのだ。
「こういう変態的なのも嫌いじゃない」
ペニスを下着で包み込み、両手でしごき立ててくる。さらさらした布が彼女の愛液でぬめり、独特の感触を生み出していた。脱ぎ立ての下着はチョコの温もりが残っており、温かくペニスを包んでくれる。
普段一番冷静で常識を弁えた竜チョコ。それが自分の下着を俺の股間に被せてしごくという行為を平然とやってのけている。あくまでも真面目な目線で、俺を見下ろしながら。その見つめてくる視線が、気持ちいい。
「う……ち、チョコ……」
「何だい?」
「も、もう出そうだ……」
我ながら情けない。先ほどあれだけ出したにも関わらず、下着でしごかれただけでもう漏れそうになっている。そんな俺を竜チョコは笑わなかった。
「いいよ。見せてくれ。修一の白いのが、ボクのお気に入りを汚す所を」
じっと目を合わせてそう言われたとき、限界に達した。二回目とは思えない勢いで、ペニスから白濁が噴出した。異様に濃い、ゼリーのような物が黒い下着を汚していく。その様子を観察しながら、竜チョコは手の動きを止めず、パンツで精液搾りを続けた。その結果白濁は黒い生地全体にべっとりと絡み、大人らしさと可愛らしさを併せ持った下着はたちまち卑猥な汚物と化した。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「……ふむ。これは洗濯するのがもったいないな」
荒く息を吐く俺の横で、竜チョコは下着を見つめて呟いた。変態、という単語が脳裏に浮かぶ。彼女は精液でぐちゃぐちゃになった紐パンを広げ、こともあろうに再び履いた。全く不快な素振りも見せずに。
竜の左手の、精液で汚れていない爪でチョコレートをつまみ、再び口に入れてくる。呼吸を整えていた口が勝手にそれを食べてしまった。
「美味しいかな? ちょっと苦めなんだ」
ビターチョコレートを味わう俺を見て、竜チョコは微かに微笑んだ。
休む暇はなかった。チョコは再びベッドに乗ってくる。穏やかな、満面の笑みを浮かべて。
「うふふ〜。今度は〜、わたしが優しくイかせてあげるね〜」
山羊チョコは蛇チョコと同じく、俺の下半身に抱きついてきた。だが口で咥えようとはしない。豊満な胸の出たタートルネックの、開いた所にペニスをあてがってきたのだ。
乳の柔肌の感触にペニスが震えた。それを見て山羊チョコは笑い声を上げる。
「あははっ。敏感なおちんちんさんだね〜。えいっ♥」
怒張したペニスがすっぽりと、服の穴から谷間に収められてしまう。
「あああっ」
俺は悶えてしまった。柔らかな圧迫感がペニスを労るように、左右から挟み込んでくる。股間が天国へ行ってしまったような心持ちだ。チョコのオッドアイが慈愛に満ちた眼差しで、俺の目をじっと見つめてくる。服の上から両手で乳に圧力をかけながら、いつ出してもいいよと目で告げてくれていた。
ソフトな快感を与えられる。むにゅっと胸が寄せられては緩められ、汗ばんだ谷間の肌で摩擦される。チョコの体も火照り、頬は赤く染まって、胸は温かい。肉棒がびくびくと震えて谷間から飛び出してしまっても、優しく天国へ戻してもらえる。
もう戸惑いや躊躇いは完全に打ち消されてしまった。もうどうなってもいいと考えるようになる。このまま柔らかな胸に身を任せていよう。
「ふふ〜♥ おっぱい、好き?」
「……うん」
「そう。良い子ね〜♥」
山羊チョコは抱きしめるように自分の胸を抱え込み、中のペニスを圧迫してきた。たまらない多幸感に、ペニスは谷間でとうとう果てた。脈打ちは激しくない。だが出て来る精液の量はさきほどと大佐なかった。濃い精液が緩やかな勢いで、谷間の中に放出されていく。
「ほーら、しーしー♥」
あやすように言う山羊チョコ。本当に子供がおしっこをするかのように、ちょろちょろと精液をもらしていた。柔らかな胸の谷間は白いおしっこを受け止めるのに最適なおむつだった。谷間から白濁が少しはみ出したところで、やっと射精が止まる。
チョコは谷間からぬるりとペニスを引き抜いた。タートルネックの布にも白濁が染み出している。その胸を嬉しそうに揺らしながら、彼女はホワイトチョコレートをつまみ、俺の口へ持ってくる。
「はい、あーんして」
言われるままに口を開け、食べる。優しい甘味が口の中で蕩けていった。
ふと、箱の中にあと二つのチョコレートが残っていることに気づく。最初に五つ入っていた。蛇チョコがイチゴ味、竜チョコがビター、山羊チョコがホワイト。残りは獅子チョコと……誰の分だろう?
疑問に思ったのも束の間、俺の思考は中断された。チョコが突然、ガバッとのしかかってきたのだ。よだれを垂らし、目を爛々と光らせた肉食獣の表情で。
「へっへっへ……一番短気なオレ様が後回しにされちまったぜ」
ちゅっ、と頬にキスをされる。彼女の髪の匂いがふわりと鼻をくすぐった。獅子チョコは状態を起こすと、俺の腰に跨がってくる。タートルネックとブラを脱ぎ捨てて、ぷるんと乳房を曝け出した。柔らかな盛り上がりに先ほどの白濁がまぶされ、谷間で糸を引いている。
獅子チョコは先ほどべたべたにした、俺の精液まみれの紐パンを鉤爪でくいっとずらす。とろとろと愛液が滴る割れ目が姿を見せた。ぱっくりと開き、中身の卑猥なピンク色が見える。豆のような突起も、うねる膣内部も、よく見えた。今から俺を補食する、魔性の性器だ。
「チョコ、俺……」
「えーい! 四の五の言わず、エッチさせろぉぉぉ♥」
凄まじい勢いで、ペニスが根元まで咥え込まれた。じゅぼっと大きな音を立てて、愛液が飛沫となって飛び散る。
熱い。まるで溶鉱炉のように、その中は熱い。挿入した瞬間、ペニスが蕩けるかと思うくらいに。
チョコの上体が仰け反り、胸が大きく揺れた。
「んんんっがぁぁぁぁっ♥ 気持ちイイーッ♥」
雄叫びを上げ、獅子チョコは一心不乱に腰を振る。膣壁が獰猛にペニスに絡み付き、締め上げてくる。食い千切られそうなくらいに。それが激しい腰振りによって、強烈な刺激をペニスに与えてきたのだ。
「あ、うぁぁぅ……!」
「がぁっ、んんんぁぁぁぁっ♥ イイっ! しゅーいちのチンコ最高ーッ♥」
両手で俺の肩をしっかり掴み、激しく体を上下に動かす獅子チョコ。もし麻痺毒が無ければ、俺も獣のように彼女を求め、下から突き上げていただろう。それほどまでに夢中になる快感だった。
髪を振り乱し、翼をバサバサとはためかせ、胸を上下に大きく揺らす。メスライオンの痴態を見上げながら、俺は堪え性もなく高まってしまう。限界に達するのがあまりに早かった。
「えっ、がうぅぅ♥ で、出てるーッ! 中に出てる! がぁぁぁうぅぅぅ♥」
嬉しそうに俺を見下ろしながら、チョコはさらに激しく腰を振った。射精している最中だというのに、さらなる暴力的な快感が襲ってくる。
「あ、チョコ、待っ……!」
俺の声は激しい腰振りに翻弄され、言葉にならなかった。今まで味わったことのない感覚がわき起こったかと思うと、急激に射精の勢いが増した。イっている最中にもう一度絶頂したのだ。大量の精液が狭い膣内にドクドクと迸り、逆流して結合部を濡らす。
「んっはあああああああ♥」
体を仰け反らせ、ガクガクと痙攣するチョコ。それと同時にきゅーっと膣が締まり、精液が中から漏れなくなった。彼女も絶頂したのだ。精液を注がれる快楽で。
しばらく俺たちは石の像のように動かず、快感に浸っていた。ガーゴイルにでもなったかのように。
絶頂が終わり、余韻も徐々に冷めてきたころ、チョコは横にころんと倒れた。真っ赤になった顔に蕩けた笑みを浮かべ、箱からチョコレートを一つつまむ。
「大好きだぜ、修一♥」
その言葉と共に食べさせられたのはナッツクランチ入りのチョコレートだった。サクサクした食感を楽しみ、飲み込んで、脱力する。日頃舞台の上で、騎士だったり、お姫様だったり、魔女だったり、盗賊の親玉だったり、様々な顔を使い分ける淀岸千代子。それらが全て俺に愛欲を剥き出しにして襲いかかってきた。絡みつく舌、温もりのある下着、豊かな胸、肉食獣の膣。どれも絶品だった。
だが、何かが足りない。
箱の中に一つだけ残ったチョコレートを見ながら、俺はそう思った。するとチョコはむっくりと起き上がり、笑みを向けてきた。
「最後はあたしよ、修一」
俺は思わず目を見開いた。目の前にいるのは淀岸千代子に違いない。だがその表情と言葉から滲み出るものは、俺が三年間忘れられないでいる彼女のものだった。他の人間には分からないだろうが、俺には分かる。淀岸千代子の顔だが、そこに彼女がいた。
すっと手を差し出される。チョコの両手は獣のそれではなくなっていた。白くて華奢な人間の手だ。それも見覚えのある。左手の三つ並んだほくろを、俺は今でも覚えていた。
「美紀……なのか……!?」
彼女はこくりと頷いた。
「あたしは貴方の幼馴染みの、椎名美紀だった。今では淀岸千代子の一人。千代子が私を、自分の一人として受け入れてくれたから」
照れくさそうに微笑み、手をペニスに這わせる。
「この手と……修一への思いと一緒に、ね」
ぎこちない手つきで、ペニスを撫で擦る。そこにいるのはチョコであり、美紀でもあった。どちらでもあるとしか言えない存在が、はにかみながら俺に奉仕している。
「修一にチョコレートを渡すはずだったこの手で……イかせてあげる♥」
すべすべと、柔らかな手が竿を擦っていく。先ほどまでと比べ、たどたどしい動き。だがそれは小さい頃に繋いだ手だった。それがこんなに気持ちいいものだったなんて。
少し恥ずかしがっていた彼女は、徐々に楽しそうに、リズミカルにペニスをしごいていく。俺の顔を覗き込み、ペニスをじっと観察し、好奇心に満ちた表情で奉仕を続ける。
この横顔だ。一人の人間としての美紀だったときと同じ、生前と同じ表情だ。そう思った途端に溢れてくる涙を止めることができなかった。
「……泣いてる、の?」
「……嬉しいんだ。また会えたのが」
不思議そうに見ていた彼女は、俺の答えにニコリと笑った。
「じゃあ、あたしも泣くね!」
笑った目の端から、奇麗な雫が落ちる。俺たちは一緒に泣いた。昔のように
「美紀……チョコ……」
『彼女』の名を呼びながら頭を撫で、股間を撫でられる。手は人間のものでも心は魔物の一部として取り込まれていた。次第に上気した表情になってきて、熱い吐息をペニスにかけながら一心不乱にしごきたてる。
我慢などという言葉はとうに捨てた。懐かしさが入り交じる快感が、びゅくびゅくと脈打つペニスから迸る。鈴口から吹き出す白濁を、美紀チョコは目をまん丸に見開いて見つめていた。次の瞬間には大量に吹き出した精液が、顔面に……美紀の表情をしたチョコの顔に降り掛かる。
「きゃあっ♥ あはははっ♥」
無邪気に笑い、美紀チョコはべっとり付着した精液を手で救い、口に運ぶ。はにかみながらも、とても美味しそうに。
「んっ……修一の、精液……ふふっ、嬉しいなぁ……」
少しもじもじしながら、美紀チョコは最後に残ったチョコレートを取った。精液のついていない薬指と小指で挟んで、俺の口へ。
「修一。愛してる」
「俺もだよ」
答えてミルクチョコレートを食べると、まろやかな甘さが口一杯に広がる。味わっている俺を見つめていた美紀チョコだったが、やがて体を起こした。伏し目がちになり、恥ずかしげにこちらを見ながら。
「修一、あたし……ホワイトデーまで待てない」
そう言って腰に跨がってきたとき、彼女が何を望んでいるのか分かった。そして蛇チョコの毒にやられたペニスは、それを行うのに十分な力を保っていた。俺が頷くと、美紀チョコは恥ずかしがりながらも嬉しそうに、ぐちょぐちょの下着をずらす。先ほど出した精液が、割れ目からたらりと流れた。
「今すぐ、お返しして。あたしとオレとボクとわたしとウチ……全部の千代子に!」
一気に腰を降ろし、ペニスを咥え込む。
美紀チョコは激しく喘ぎながら、一生懸命に腰を使った。人格によって体も多少変わるのか、肉食獣の膣は生娘のものに変化していた。
初恋の相手の、初々しい感触の膣で射精すると、今度は蛇チョコがくねくねとした艶かしい腰使いでイかせてくれた。
竜チョコは挿入後あまり動かず、締め付けと温かさで感じさせてきた。
山羊チョコの番が来る頃には麻痺が解けてきていたので、正上位で俺の方が腰を振らせてもらった。
そしてその次は獅子チョコとの獰猛な交尾を楽しまされ、再び美紀チョコに。
二月十四日、今日はこれが一日中続くのだろう。
俺は今、幸せだ。
――fin
15/02/15 19:35更新 / 空き缶号