ルージュ街の、唄えない鳥
……ルージュシティ 商店街
「ふう、こんなところか」
帽子の中に投げ込まれた小銭を見て、俺はギターをケースにしまった。今日の食事代には足りる額だ。
やっぱりこの街に来て良かったと思う。元々いた所では、路頭でギター弾いても稼げはしなかった。否、ある日を境にして稼げなくなったのだ。
「ん……？」
近くで俺をじっと見ている、小柄な少女がいた。
人間ではない。両腕は青い色をした翼で、脚も羽毛に覆われている。髪も瞳も鮮やかな青で、端正な顔立ちをしていた。
目をやると、彼女はぴくりと体を震わせた。
「ハーピーか？」
そう尋ねると、彼女は首を横に振った。そういえば翼に爪が無い。
「なら、セイレーン？」
今度は頷いた。セイレーンはハーピーの近縁種で、魔力の籠った美声で男を虜にする。多くが陽気で積極的に人と関わろうとするのだが、彼女は内気らしい。
「名前は？」
「ぃ……あ……」
彼女の口から出たのは、今まで聞いたセイレーンの美声とはかけ離れた、聞き苦しい声だった。しかし唇の動きで、何と言ったのかは分かる。
「リウレナ、か。いい名前だな」
僕がそういうと、彼女は驚いたような顔をした。一回で聞き取れるとは思わなかったのだろう。
「俺は唇の動きで、人の話していることが分かるのさ」
すると彼女の表情が明るくなる。会話できることが嬉しいのだろう。
俺も笑って見せようとしたが、上手くいかない。俺の顔は半分以上が包帯で覆われ、その下は焼けて崩れかけており、上手く表情を作れないのだ。
そう、顔に火傷を負ったせいで、故郷では誰も俺の曲を聞いてくれなくなった。それまで親しくしていた奴らでさえも、俺を気味悪がった。
「上手く喋れないのか？」
俺の問いに、リウレナは自分の喉を見せることで答えた。色白の肌に、何かで切られた傷跡が一文字に走っている。
教団にやられたのだろう。連中は魔物相手になると本当に惨いことをする。
「この街にはいつ来た？」
‐‐二日前。救済院で保護を受けてる。
リウレナは口の動きでそう答えた。救済院とは何らかの障害を持った者が暮らす福祉施設であり、この街では人も魔物も隔てなく入院できる。何しろこの街はヴァンパイアの領主によって立ちあげられ、人と魔物の完全な共存を目標としているのだから。
「苦労したんだな」
俺がそう言うと、リウレナは苦笑した。
‐‐あなたも、そうでしょ？
声なき口がそう言うと、俺もつられて苦笑してしまう。
「まあ、そうだな。こんな顔になっちまって、結構苦労したよ。生きてりゃ大なり小なり、辛い目には遭うもんさ」
‐‐だよね。
そう言って頷くリウレナを見て、大した奴だと思った。セイレーンにとって、歌えないことほど辛いことはないだろうに。
人と魔物が入り乱れるこの街では、俺の風貌もあまり不気味に思われない。まあ初対面だと、コカトリスみたいな気弱な魔物には恐がられたり、マミーに仲間と間違われたりするが。だからきっと、彼女もこの街で居場所を見つけられるだろう。
そのとき、俺は彼女に名前を尋ねておいて、自分は名乗っていないことに気付いた。
「申し遅れたが、俺はエーリッヒ＝クラウ。ケチなギター弾きだ」
‐‐エーリッヒ。
彼女の唇が、俺の名を象った。
‐‐話しやすい人で、よかった。
「ははっ、まあ見た目よりはな。ところで今更だが、俺に何か用かい？」
そう尋ねると、リウレナは青い翼を擦り合わせながら答えた。
‐‐もっと演奏してくれない？
深い、それでいて澄んだブルーの瞳が、俺をじっと見つめている。
歌声を失ったとはいえ、彼女はセイレーンだ。それが俺のギターを聞きたいというのだから、光栄に思うべきだろう。
「構わないけど、救済院に戻らなくていいのか？」
‐‐どうしても、聞きたいの。
はっきりとした唇の動きで、リウレナは言った。
‐‐あたし、まだ音楽を諦めきれない。セイレーンには、歌が全てだから。
「……楽器を習いたい、と？」
‐‐分からない。でも、エーリッヒのギターを聴いてると、何か体がムズムズしてくるの。
ムズムズ、という言葉から性的なものを連想してしまうのは俺の心が汚いからだけじゃない。彼女が魔物だからでもある。偏見も混じっているかもしれないが、魔物は子孫を残すため、そして本能を満たすためセックスを積極的に求めるのだ。そのことから教会からは汚れとして見られるが、彼女たちにすれば自然なことだ。
「なら、俺が救済院へ行ってギター弾くか」
そう答えると、リウレナの表情がぱっと笑顔になった。かなり可愛い。
俺としても、この健気なセイレーンの力になりたい。俺も顔に火傷を負っても、ギターを諦めきれなかったのだし、音楽への思いは同じだろう。
しかしこの出来事は、お互いに予想外の転機を与えることになった。
……三日後。
俺はリウレナと共に、公園でライブをすることにした。
リウレナが着ているのは露出度の高い白い衣装で、集まった観客から注目を集めている。ハーピーの仲間は飛びやすいように、総じてラフな格好を好むものだ。
救済院を通じて街に通知してもらったので、観客は結構多い。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」
時間が来たので、俺は呼びかけた。
「このケチなギター弾き、エーリッヒ＝クラウに相棒ができました。セイレーンのリウレナです」
リウレナは笑顔で、観客に手（いや、翼か）を振る。拍手が挙がる中、ホルスタウロスを連れた男が叫んだ。
「エーリッヒ、セイレーンの歌声じゃ、お前のギターが霞んじまわないか！？」
観客たちがどっと笑った。近所に住んでる腕利きの料理人で、俺の悪友だ。
「よし、聴いてもらった方が早いようだ。では一曲目、アルフェン島民謡《波風まつり》」
弾きなれたメロディを、指先から紡ぎだす。
海の波を象ったような、複雑なリズムがこの曲の特徴だ。
演奏が始まると、リウレナは翼を大きく開き……
舞った。
誰もが度肝を抜かれていた。リウレナが声を失くしたセイレーンだと知らなければ、『セイレーンと言えば歌』と考えるに違いない。
しかしリウレナは、俺の曲に合わせて踊っている。
青い風切り羽を優雅に、そして激しくはためかせ、ステップを踏み、時に宙を舞う。
凛としていて、優美で、そして艶やかな舞い。おそらくリウレナにしかできない、即興ダンス。
まるで曲のリズムという風に煽られているかのように、リウレナは踊り続ける。
救済院へ出向いてギターを弾いているうちに、彼女は突然このダンスに目覚めた。俺のギターを聴くと勝手に体が動き出すと、彼女は声なき声で言った。
歌声を奪われ、セイレーンの持つ『歌いたい』という欲求が別のはけ口を見つけたのだろうと、救済院の心理学者は言っていた。
だが俺にとって、理屈はあまり関係ない。俺はリウレナにパートナーになってくれと持ちかけ、いくらか練習をした後、今日こうしてお披露目を行ったのだ。
曲が終わりに近づくと、リウレナの動きも緩やかになっていき、演奏の終わりと同時にその場に座り込むような姿勢で締めくくられた。
「彼女は喉に傷を負い、声を出すことができません」
茫然としている観客たちに、俺は言った。
「しかしそれでも音楽に対する情熱を失わず、新たな運命を切り開きました。我が最高の相棒たる舞姫リウレナに、盛大な拍手を！」
言い終わる前から、拍手の嵐が巻き起こる。
リウレナは照れくさそうにしつつも、最高の笑顔でそれに応えていた。
「それでは次の曲。ケンタウロスの天才作曲家アンジュの、『月下の弦音』！」
……全曲終わった後は大変な騒ぎだった。
宴会の余興に来てくれという依頼、病床の家族のために演奏してほしいという願いなどが、俺の元に殺到した。帽子の中は小銭と札でいっぱいだ。
リウレナの方も、感動した同種のセイレーンたちに泣きながらキスされたり、子供からサインをせがまれたりしていた。
こうしてリウレナは正式に俺のパートナーとなり、救済院を出て俺の家に住むことになった。二人で住むにはやや手狭な家だが、リウレナは嬉しそうだった。
「何も気兼ねするなよ。俺たちはパートナーだ」
帰った後もウキウキとした表情のリウレナに、俺は言った。
すると彼女は、真剣な顔をして俺を見る。
‐‐それは、何のパートナーなの？
「ああ……お前さえよければ、そうだな……」
同じ家に住むことにまでなったのだ。こちらも気兼ねする必要はない。
素直な気持ちを、言おう。
「生涯のパートナーになりたい。どうだ？」
彼女は返事の代わりに、俺の頬の、素肌が露出している部分に口づけをした。柔らかい唇の感触が、皮膚に残る。
そしてそのまま、俺の口元に顔が移動し……
「んっ……」
「ふ……ぅ……」
重なり合った唇から舌が侵入し、絡み合う。
唾液を交換するかのように、濃厚なキスを交わす。
しばらくした後、息継ぎを思い出したかのようにリウレナが口を離した。
「俺の顔、不気味じゃないか？」
‐‐不気味だけど、好き。
彼女は再び唇を重ねてくる。正直な奴だ。
俺はリウレナの体を抱きしめ、そのまま持ち上げる。空を飛ぶハーピー種は非常に体重が軽い。胸
の小さい者が多いのも、空気抵抗を減らすための進化かもしれない。
俺はそのまま寝室へ向かい、口づけしたままベッドに横になる。唇が離れると、リウレナは火照った顔で俺を見つめた。
‐‐えっち、したい。
唇が確かに、そう動いた。
「俺もだ」
俺はスカートの中に手を入れ、ショーツを脱がせる。
‐‐あたし、はじめて。
「そうか。なら、少しずつ慣らそう」
彼女の秘部を確認すると、俺はその割れ目を指でなぞった。
「ぁ……♪」
かすれた声で、彼女が啼く。そして空いた手は、ブラを外して小ぶりな乳房を刺激し、そのプニッとした柔らかさを味わった。
火傷を負う前に経験したことがあるので、こういうやり方は分かる。何回か繰り返すと、たちまちリウレナの割れ目から愛液が溢れてきた。雌の匂いが寝室に漂う。
指を内部に押し込むと、温かい肉壁がキュッと締め付けられる。リウレナが身を捩らせて喘いだ。
「気持ちいいか？」
リウレナは頷く。
そろそろ頃合いだと思った俺は、彼女を抱きしめてベッドの上で転がり、上下を入れ替える。そして、ズボンのチャックを外し、パンツの中からアレを取り出した。
‐‐大きい。
怒張したそれを見下ろし、リウレナは微笑んだ。
「リウレナから挿れてみろよ。痛くなったら止めていい」
彼女は頷くと、俺の腰にまたがり、膣にペニスをゆっくりと呑み込んでいく。
まずカリの部分までが埋まる。そして徐々に、根元を目指して腰が降ろされる。
「……！」
リウレナの顔が苦痛に歪む。ペニスの先端に、薄い膜を突き破る感触。
それでもリウレナは、懸命に俺を受け入れようとする。
「……入ったな」
ペニスが根元まで膣に埋まると、心地よい締め付けが俺を高めた。彼女の愛液は止めどなくあふれ出し、リウレナは痛みをこらえながら笑う。
そして、ゆっくりと腰を上下させはじめた。
「おい、無理するな……くぅっ！」
締め付けが強くなり、愛液の絡んだ膣壁がペニスを優しく擦る。
痛みが和らいできたのか、リウレナは本格的なピストン運動を開始し、俺も下から突き上げる。
「う……リウレナ、凄い……！」
「ぇ……ぃ……ぁぅぅ……！」
リウレナも激しくよがり、ダンスのように青い翼をはためかせる。その扇情的な美しさが、俺をさらに興奮させた。
慣れてきて魔物としての本能が発揮されたのか、上下のみならず左右への回天運動まで加えてくる！
「リウレナ、出るぞ……ッ！」
「ぇぃ……ぁぅ……ん！」
ついに限界に達し、俺はリウレナの中に精を放った。
同時に彼女も全身を震わせて絶頂する。
今まで味わったことのないような快感……相手がリウレナだからこそ得られる快感だろう。
「……よく頑張ったな、リウレナ」
俺の上に覆い被さって脱力し、余韻を楽しむ彼女の頭を、そっと撫でてやる。
‐‐エーリッヒ。
リウレナは俺をじっと見て、分かりやすいようにゆっくりと口を動かした。
‐‐だ・い・す・き
「……ああ、俺もだよ」
もし、俺の顔が焼けなかったら。
もし、彼女が歌声を奪われなかったら。
この出会いは無かったかも知れない。
運命というやつか、単なる偶然かは分からないが、
………おそらく、俺は運がいい人間なのだろう。
‐‐もう一回、シよう。
「……しょうがないな、まったく」
「ふう、こんなところか」
帽子の中に投げ込まれた小銭を見て、俺はギターをケースにしまった。今日の食事代には足りる額だ。
やっぱりこの街に来て良かったと思う。元々いた所では、路頭でギター弾いても稼げはしなかった。否、ある日を境にして稼げなくなったのだ。
「ん……？」
近くで俺をじっと見ている、小柄な少女がいた。
人間ではない。両腕は青い色をした翼で、脚も羽毛に覆われている。髪も瞳も鮮やかな青で、端正な顔立ちをしていた。
目をやると、彼女はぴくりと体を震わせた。
「ハーピーか？」
そう尋ねると、彼女は首を横に振った。そういえば翼に爪が無い。
「なら、セイレーン？」
今度は頷いた。セイレーンはハーピーの近縁種で、魔力の籠った美声で男を虜にする。多くが陽気で積極的に人と関わろうとするのだが、彼女は内気らしい。
「名前は？」
「ぃ……あ……」
彼女の口から出たのは、今まで聞いたセイレーンの美声とはかけ離れた、聞き苦しい声だった。しかし唇の動きで、何と言ったのかは分かる。
「リウレナ、か。いい名前だな」
僕がそういうと、彼女は驚いたような顔をした。一回で聞き取れるとは思わなかったのだろう。
「俺は唇の動きで、人の話していることが分かるのさ」
すると彼女の表情が明るくなる。会話できることが嬉しいのだろう。
俺も笑って見せようとしたが、上手くいかない。俺の顔は半分以上が包帯で覆われ、その下は焼けて崩れかけており、上手く表情を作れないのだ。
そう、顔に火傷を負ったせいで、故郷では誰も俺の曲を聞いてくれなくなった。それまで親しくしていた奴らでさえも、俺を気味悪がった。
「上手く喋れないのか？」
俺の問いに、リウレナは自分の喉を見せることで答えた。色白の肌に、何かで切られた傷跡が一文字に走っている。
教団にやられたのだろう。連中は魔物相手になると本当に惨いことをする。
「この街にはいつ来た？」
‐‐二日前。救済院で保護を受けてる。
リウレナは口の動きでそう答えた。救済院とは何らかの障害を持った者が暮らす福祉施設であり、この街では人も魔物も隔てなく入院できる。何しろこの街はヴァンパイアの領主によって立ちあげられ、人と魔物の完全な共存を目標としているのだから。
「苦労したんだな」
俺がそう言うと、リウレナは苦笑した。
‐‐あなたも、そうでしょ？
声なき口がそう言うと、俺もつられて苦笑してしまう。
「まあ、そうだな。こんな顔になっちまって、結構苦労したよ。生きてりゃ大なり小なり、辛い目には遭うもんさ」
‐‐だよね。
そう言って頷くリウレナを見て、大した奴だと思った。セイレーンにとって、歌えないことほど辛いことはないだろうに。
人と魔物が入り乱れるこの街では、俺の風貌もあまり不気味に思われない。まあ初対面だと、コカトリスみたいな気弱な魔物には恐がられたり、マミーに仲間と間違われたりするが。だからきっと、彼女もこの街で居場所を見つけられるだろう。
そのとき、俺は彼女に名前を尋ねておいて、自分は名乗っていないことに気付いた。
「申し遅れたが、俺はエーリッヒ＝クラウ。ケチなギター弾きだ」
‐‐エーリッヒ。
彼女の唇が、俺の名を象った。
‐‐話しやすい人で、よかった。
「ははっ、まあ見た目よりはな。ところで今更だが、俺に何か用かい？」
そう尋ねると、リウレナは青い翼を擦り合わせながら答えた。
‐‐もっと演奏してくれない？
深い、それでいて澄んだブルーの瞳が、俺をじっと見つめている。
歌声を失ったとはいえ、彼女はセイレーンだ。それが俺のギターを聞きたいというのだから、光栄に思うべきだろう。
「構わないけど、救済院に戻らなくていいのか？」
‐‐どうしても、聞きたいの。
はっきりとした唇の動きで、リウレナは言った。
‐‐あたし、まだ音楽を諦めきれない。セイレーンには、歌が全てだから。
「……楽器を習いたい、と？」
‐‐分からない。でも、エーリッヒのギターを聴いてると、何か体がムズムズしてくるの。
ムズムズ、という言葉から性的なものを連想してしまうのは俺の心が汚いからだけじゃない。彼女が魔物だからでもある。偏見も混じっているかもしれないが、魔物は子孫を残すため、そして本能を満たすためセックスを積極的に求めるのだ。そのことから教会からは汚れとして見られるが、彼女たちにすれば自然なことだ。
「なら、俺が救済院へ行ってギター弾くか」
そう答えると、リウレナの表情がぱっと笑顔になった。かなり可愛い。
俺としても、この健気なセイレーンの力になりたい。俺も顔に火傷を負っても、ギターを諦めきれなかったのだし、音楽への思いは同じだろう。
しかしこの出来事は、お互いに予想外の転機を与えることになった。
……三日後。
俺はリウレナと共に、公園でライブをすることにした。
リウレナが着ているのは露出度の高い白い衣装で、集まった観客から注目を集めている。ハーピーの仲間は飛びやすいように、総じてラフな格好を好むものだ。
救済院を通じて街に通知してもらったので、観客は結構多い。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」
時間が来たので、俺は呼びかけた。
「このケチなギター弾き、エーリッヒ＝クラウに相棒ができました。セイレーンのリウレナです」
リウレナは笑顔で、観客に手（いや、翼か）を振る。拍手が挙がる中、ホルスタウロスを連れた男が叫んだ。
「エーリッヒ、セイレーンの歌声じゃ、お前のギターが霞んじまわないか！？」
観客たちがどっと笑った。近所に住んでる腕利きの料理人で、俺の悪友だ。
「よし、聴いてもらった方が早いようだ。では一曲目、アルフェン島民謡《波風まつり》」
弾きなれたメロディを、指先から紡ぎだす。
海の波を象ったような、複雑なリズムがこの曲の特徴だ。
演奏が始まると、リウレナは翼を大きく開き……
舞った。
誰もが度肝を抜かれていた。リウレナが声を失くしたセイレーンだと知らなければ、『セイレーンと言えば歌』と考えるに違いない。
しかしリウレナは、俺の曲に合わせて踊っている。
青い風切り羽を優雅に、そして激しくはためかせ、ステップを踏み、時に宙を舞う。
凛としていて、優美で、そして艶やかな舞い。おそらくリウレナにしかできない、即興ダンス。
まるで曲のリズムという風に煽られているかのように、リウレナは踊り続ける。
救済院へ出向いてギターを弾いているうちに、彼女は突然このダンスに目覚めた。俺のギターを聴くと勝手に体が動き出すと、彼女は声なき声で言った。
歌声を奪われ、セイレーンの持つ『歌いたい』という欲求が別のはけ口を見つけたのだろうと、救済院の心理学者は言っていた。
だが俺にとって、理屈はあまり関係ない。俺はリウレナにパートナーになってくれと持ちかけ、いくらか練習をした後、今日こうしてお披露目を行ったのだ。
曲が終わりに近づくと、リウレナの動きも緩やかになっていき、演奏の終わりと同時にその場に座り込むような姿勢で締めくくられた。
「彼女は喉に傷を負い、声を出すことができません」
茫然としている観客たちに、俺は言った。
「しかしそれでも音楽に対する情熱を失わず、新たな運命を切り開きました。我が最高の相棒たる舞姫リウレナに、盛大な拍手を！」
言い終わる前から、拍手の嵐が巻き起こる。
リウレナは照れくさそうにしつつも、最高の笑顔でそれに応えていた。
「それでは次の曲。ケンタウロスの天才作曲家アンジュの、『月下の弦音』！」
……全曲終わった後は大変な騒ぎだった。
宴会の余興に来てくれという依頼、病床の家族のために演奏してほしいという願いなどが、俺の元に殺到した。帽子の中は小銭と札でいっぱいだ。
リウレナの方も、感動した同種のセイレーンたちに泣きながらキスされたり、子供からサインをせがまれたりしていた。
こうしてリウレナは正式に俺のパートナーとなり、救済院を出て俺の家に住むことになった。二人で住むにはやや手狭な家だが、リウレナは嬉しそうだった。
「何も気兼ねするなよ。俺たちはパートナーだ」
帰った後もウキウキとした表情のリウレナに、俺は言った。
すると彼女は、真剣な顔をして俺を見る。
‐‐それは、何のパートナーなの？
「ああ……お前さえよければ、そうだな……」
同じ家に住むことにまでなったのだ。こちらも気兼ねする必要はない。
素直な気持ちを、言おう。
「生涯のパートナーになりたい。どうだ？」
彼女は返事の代わりに、俺の頬の、素肌が露出している部分に口づけをした。柔らかい唇の感触が、皮膚に残る。
そしてそのまま、俺の口元に顔が移動し……
「んっ……」
「ふ……ぅ……」
重なり合った唇から舌が侵入し、絡み合う。
唾液を交換するかのように、濃厚なキスを交わす。
しばらくした後、息継ぎを思い出したかのようにリウレナが口を離した。
「俺の顔、不気味じゃないか？」
‐‐不気味だけど、好き。
彼女は再び唇を重ねてくる。正直な奴だ。
俺はリウレナの体を抱きしめ、そのまま持ち上げる。空を飛ぶハーピー種は非常に体重が軽い。胸
の小さい者が多いのも、空気抵抗を減らすための進化かもしれない。
俺はそのまま寝室へ向かい、口づけしたままベッドに横になる。唇が離れると、リウレナは火照った顔で俺を見つめた。
‐‐えっち、したい。
唇が確かに、そう動いた。
「俺もだ」
俺はスカートの中に手を入れ、ショーツを脱がせる。
‐‐あたし、はじめて。
「そうか。なら、少しずつ慣らそう」
彼女の秘部を確認すると、俺はその割れ目を指でなぞった。
「ぁ……♪」
かすれた声で、彼女が啼く。そして空いた手は、ブラを外して小ぶりな乳房を刺激し、そのプニッとした柔らかさを味わった。
火傷を負う前に経験したことがあるので、こういうやり方は分かる。何回か繰り返すと、たちまちリウレナの割れ目から愛液が溢れてきた。雌の匂いが寝室に漂う。
指を内部に押し込むと、温かい肉壁がキュッと締め付けられる。リウレナが身を捩らせて喘いだ。
「気持ちいいか？」
リウレナは頷く。
そろそろ頃合いだと思った俺は、彼女を抱きしめてベッドの上で転がり、上下を入れ替える。そして、ズボンのチャックを外し、パンツの中からアレを取り出した。
‐‐大きい。
怒張したそれを見下ろし、リウレナは微笑んだ。
「リウレナから挿れてみろよ。痛くなったら止めていい」
彼女は頷くと、俺の腰にまたがり、膣にペニスをゆっくりと呑み込んでいく。
まずカリの部分までが埋まる。そして徐々に、根元を目指して腰が降ろされる。
「……！」
リウレナの顔が苦痛に歪む。ペニスの先端に、薄い膜を突き破る感触。
それでもリウレナは、懸命に俺を受け入れようとする。
「……入ったな」
ペニスが根元まで膣に埋まると、心地よい締め付けが俺を高めた。彼女の愛液は止めどなくあふれ出し、リウレナは痛みをこらえながら笑う。
そして、ゆっくりと腰を上下させはじめた。
「おい、無理するな……くぅっ！」
締め付けが強くなり、愛液の絡んだ膣壁がペニスを優しく擦る。
痛みが和らいできたのか、リウレナは本格的なピストン運動を開始し、俺も下から突き上げる。
「う……リウレナ、凄い……！」
「ぇ……ぃ……ぁぅぅ……！」
リウレナも激しくよがり、ダンスのように青い翼をはためかせる。その扇情的な美しさが、俺をさらに興奮させた。
慣れてきて魔物としての本能が発揮されたのか、上下のみならず左右への回天運動まで加えてくる！
「リウレナ、出るぞ……ッ！」
「ぇぃ……ぁぅ……ん！」
ついに限界に達し、俺はリウレナの中に精を放った。
同時に彼女も全身を震わせて絶頂する。
今まで味わったことのないような快感……相手がリウレナだからこそ得られる快感だろう。
「……よく頑張ったな、リウレナ」
俺の上に覆い被さって脱力し、余韻を楽しむ彼女の頭を、そっと撫でてやる。
‐‐エーリッヒ。
リウレナは俺をじっと見て、分かりやすいようにゆっくりと口を動かした。
‐‐だ・い・す・き
「……ああ、俺もだよ」
もし、俺の顔が焼けなかったら。
もし、彼女が歌声を奪われなかったら。
この出会いは無かったかも知れない。
運命というやつか、単なる偶然かは分からないが、
………おそらく、俺は運がいい人間なのだろう。
‐‐もう一回、シよう。
「……しょうがないな、まったく」
12/02/25 11:11更新 / 空き缶号