連載小説
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裏を歩く者達




いつものことですが・・・・

                         by. Cap meshi han-ninmae











「テオフィル」

「?」


レティシアが慌てた様子で、しかし何か恐ろしい物を見たかのような表情でテオフィルと
ヴァネッサが野宿をしている場所へと帰ってきた


「どうした?そんな顔をして・・・・・・」

「・・・・・いえ、あの・・・私疲れているのかもしれません」

「? どうしたのだいきなり」


レティシアは頭を抱えながら溜息をつくとテオフィルの隣に腰を下ろす
先ほどレティシアは顔を洗うと言って近くの川へと向ったのだが・・・何やら顔を洗った
様子でもなく・・・・そのままとんぼ返りしてきたようだ


「・・・・変な物を見てしまいました」

「変な物?」

「・・・・なんといいますか・・・・妖精といいますか・・・精霊といいますか・・・でも、あんな妖精が
いるわけもありませんし・・・・いえ、いてたまるものですか・・・・あんな・・・・妖精・・・」


本当に青い顔をしたままレティシアは俯いて何もいわなくなってしまった
テオフィルとヴァネッサは顔を見合わせて首を捻った・・・・


「・・・・・少し見てくるぞ」


ヴァネッサは立ち上がったのだがレティシアは首を横に振る


「いや、やめてくださいまし!そんな事をされてはあれが幻かどうか確認されてしまうでは
ありませんか!」

「いや、そのために行くんだが・・・危険性があるのならば放ってはおけん。見てくる」

「ヴァネッサ!」

「ヴァネッサほどの腕前ならば、危険な相手でも逃げてくる事ができる・・・・頼む」

「ああ、まかされよ」

「・・・・・・・・」


ヴァネッサは気を引き締めて息を吐き出し、剣の柄に手を添えながら森の奥へと入っていった


「・・・・・・・」


テオフィルは隣にいるレティシアの肩を叩いてやる・・・・レティシアはやや目を伏せていた

テオフィル等は中央の森を抜けたあと草原を抜け、次の町へ立ち寄り補給を行った後
例によって関所をかいくぐる為に林を抜ける事になった

林とは人の手が入った樹が生い茂る場所の事を指しているのだ。一見森と言っても
差し支えない場所に見えるが、ここはケンタウロス族が生活圏としているため。
彼らが手を加えている場所である、つまり彼女等の縄張りであるのだ

ケンタウロス属は獣人型の中でも総じて理知的であるという事で、進んで男性を襲うことは
少ない、危険性の高い魔物とは言わない

そういうことで三人は危険性が少ないその林を抜ける事にしたのだ。


「(しかし・・・・もし危険な者がいるならば・・・・)」


何も危険な連中が魔物だけとは限らない、盗賊や、モンスターハンター・・・あるいは
こうした魔物のテリトリーだという噂を流して潜伏する「裏社会」の連中達も少なくない

テオフィル自身、この森は以前にも通過した事があり。その時は森の奥でケンタウロスと
接触する事も出来たので、彼女たちがいるということは間違いない。
だからこそこの森を通過しようとしたのだ


「・・・・・・」


と、そうこう思考している間にヴァネッサが帰ってきた・・・・


「どうだ?ヴァネッ・・・・・」


ヴァネッサはレティシアと同じような表情で帰ってきた


「・・・・何かいたのか?」

「まあ・・・なんだ・・・・あれは・・・そう、例えるならば妖精だ・・・・確かに妖精だったよ」

「妖精族がいたのか」

「妖精と言うよりは・・・・妖精と言うよりは・・・・羽もなかったし・・・・小柄でもなかった
だがまあ・・・その・・・・妖精なんだよ、よ?」


挙動不審、情緒不安定・・・・レティシアは僅かに震える唇でそう呟いていた
テオフィルは何を見たのかは知らないが、ヴァネッサ程の者がこうまで脅える何かが
確かにあの先には存在していたらしい・・・・


「・・・・・・一体何がいた?危険な物なのか?」

「・・・・ぐ、具体的には表現できん・・・・危険かと言われれば危険かもしれん・・・
しかし、この・・・・なんていうか・・・・・形容しがたい神秘的なものもあるんだ!」

「・・・・意味が解らん、俺が見てくる」

「や、やめろ!あれは見ないほうがいい!!」


ヴァネッサは慌ててテオフィルを止めるが、その力は脅えていて微弱であった


「いや・・・・やはりこういうのは自分の眼で見てくるに越した事はない・・・・
ヴァネッサはレティシアと共に此処にいろ」


テオフィルはそう言い残して、二人が向った小川が流れる場所へと向っていった


「・・・・・・・」


テオフィル自身、長らく一人で裏社会で生きていた身であり
道中盗賊に襲われるだの魔物に襲われるだのは慣れている、もちろん自分が敵わない
相手なら即座に逃げ出すと言う事も考えている・・・・

兎にも角にも彼女等が見たものが「危険」かどうかを判断できればいい・・・
それが妖精であるならば比較的危険度も少ないはずだ(魔物に慣れているテオフィル基準で)

「確かこの辺のはずだが・・・・」


確かにキラキラと輝く水面の反射光が見えた、川原は近い・・・・
そして、茂みを抜けるとそこには穏やかな小川が流れていた。
水深は膝の処まであり流れは非常に穏やかである。恐らくはケンタウロスが整備したのだろう


「?」


なにやらこちらから見て川上の方向に水がはねる音が聞えた・・・・テオフィルはその方向を見る


「・・・・・・・・・・・・」




煌く水面をその手ですくいあげ自身の身体にふりかける・・・・

宙を舞う水滴が日光を反射してブリリアントカットを施されたダイヤモンドのように輝く

風・・・水・・・・自然の流れを一身に受け、大地と風の祝福を余すことなく受けている

水を振り掛けるたび、僅かに開かれた唇から心地よさから来る感嘆の声が漏れる

薄く開かれた瞼、その視線は定まらずに自然から享受する感覚に酔っている様である

まさに妖精・・・あるいは精霊と言う言葉がしっくり来るのかもしれない


パシャリと水がはじけとび、大胸筋にぶつかり弾けた水がオーラの様に美しく弾けた

厚い胸板を滑り落ちる水滴は凹凸のある腹直筋を滑り落ちていき再び川に戻る


「ぁぉぅ・・・・・ぉ・・・・・ふ・・・・ぅん」


思わず漏れた声・・・・まるで甘美な快感を感じるように・・・・・マッスルポーズ




「・・・・・・・・・・・・」



マッチョのナイスガイが一人で川の中で水浴びをしていた・・・・
















「ぉおテオフィル殿!ご無事であったか・・・・」

「・・・・・・・・・ぁあ」


テオフィルは視線を左に逸らしながら足早に茂みを掻き分けてきた


「・・・・・出発しよう・・・どうやらここは陸のクリオネのテリトリーだったらしい」

「陸のクリオネ?!!?」

「あれは違う世界の妖精だ、魔物や教団がどうこう出来るものでもない・・・・
そして関れば間違いなく・・・・ろくでもない事になる」

「そ、そんなに恐ろしい妖精なのですね・・・・人間の男性にも見えましたが・・・」

「元はそうだったのかもしれないが精霊化したようだ、グレートスピリッツの意思だ
あるいはエボンの賜物」

「絵本?」

「兎に角此処を離れよう・・・・奴等のテリトリーから抜け出さねば・・・・」

「うむ・・・・しかしなテオフィル殿」

「どうした?」


ヴァネッサが後ろを指差すと、そこにはハニースマイルを浮かべながらビルドアップしている
・・・・先ほどまで川原で自然エネルギーを取り込んでいたはずの陸のクリオネが立っていた

肌色のブリーフ一丁で















「すみません、驚かせて締まったようですねぇ〜」

「ああ、色んな意味で・・・・」


そう言いながら水谷 ●のような喋り方で正座しながらテオフィルたちの前に座るマッチョマン
葉と葉の間から光が差し込み、その筋肉に反射して輝いている・・・ギラギラと

テオフィル等は俯き加減で目を逸らしていた


「お前は・・・どうしてこんな所で水浴びを?」

「ええぇ〜私の名前はペクティ・ゴンザレスと申します。私はこの森の中で生活をしていると言う
ケンタウロスに逢いに来たんです。彼らは綺麗好きであるといわれていたので、身を清めて
いたのですよ」

「そうだったんですか・・・・そうだったんですね」


三人ともタイミングの悪さを呪った


「(だから街でもう一日出発を遅らせたほうが良いと言ったのです!)」

「(あれ以上あの街に滞在していたら教団に目をつけられる・・・・ここは耐えろ、あらゆる
モラルから眼をそらせ)」

「失礼だがペクティ殿、何故に肌色のパンツを穿いておられるので?」


触れた

絶対触れちゃいけないと思われる共通見解な上に、かなりどうでも良い処に触れたヴァネッサ
そのやたらとモコーリとした部分がなんともはや


「恐縮なお話です、私こう見えて染物屋をやっているものですからねえ、風に吹かれて
下地の染色剤に洗濯物のパンツが落ちてしまったんですよ。慌てて拾い上げて色落しをしたら
偶然このような色になってしまったのですよ。お恥ずかしいお話です」

「「(深ぃいい〜・・・・)」」

「そうでありましたか、いや、すみません。お恥ずかしいお話を聞いてしまいまして」

「いえいえ、こう見えて結構気に入っているんですよ」

「(だろうな)・・・・・しかし、何故ケンタウロスに?」

「・・・・・・お話しするわけにはいけません、今の世の中何かと狭いですから」

「・・・・何か彼女等に危害を加える・・・つもりではないだろうな?」


テオフィルの眼を見たペクティは静かに、しかしゆっくりと頷いた


「ありません・・・・彼女達に・・・少し話を伺いたいだけなんです」

「・・・・・・・・・・そうか・・・・わかった。すまないな疑ってしまった」

「いいえ、とんでもない」


ペクティは謙って一礼した・・・・どうやら彼は本当にケンタウロスに危害を加えに来たよう
ではないと解った

「・・・・貴方は・・・」


ペクティはレティシアとヴァネッサを見比べる


「・・・・・魔物とご一緒されておられるのですね?」

「あぁ・・・・」

「そうですか・・・・どんな気分なんです?」

「どんな気分とは?」

「ああぁ。すみません・・・・こちらの方こそ、不躾な質問をしてしまいました・・・・それでは
自分はこれで失礼致します。見たところ貴方方も旅のお方・・・・道中の安全を祈っております」


そういって彼は立ち上がり一礼すると・・・・やはり神秘のベールを身体に纏わせて一礼すると
やはりハニースマイルを浮かべながら歩いて行ってしまった

彼の後姿が茂みに隠れて見えなくなるまで三人は正座しながら見送った・・・


「・・・・見た目よりもずっと紳士的でしたわね」

「ああ、最初は警戒こそしたものの・・・良い方であったな」


テオフィルは足を崩すと・・・・目を鋭くさせて彼が歩いていった方向を見据えていた


「どうかされたかテオフィル殿」

「・・・・・あいつはどうしてヴァネッサやレティシアに驚かなかった?」

「え?それは・・・・ケンタウロスに会いにこられたんでしょう?ならば魔物になれた人間
なのではないのですか?」

「なら何故あんな事を聞いた・・・・どんな気分なんです?と」

「それは・・・・しかし、そんな事はどうでもいいではありませんか?」

「・・・・・・」


テオフィルは訝しげな表情で彼が消えた茂みをじっと見据え続ける・・・いや
消えていったペクティの背中を見据えているのではないのだろうか?


「納得できないか?テオフィル殿は」

「・・・・・納得と言うよりは・・・・この違和感を放置できないものだと思ってな」

「追うのか?」

「・・・・ああ・・・・生憎、嫌な予感は外れた事がない」

「ほ、本当に追うんですの?」

「まあ、寄り道もいいものだレティシア殿・・・・何かしら拾える物があるかもしれんぞ」

「・・・・・はぁ・・・・」


三人は立ち上がってペクティを追って行く・・・・テオフィルは嫌な予感とは言っていたが
彼が今感じているのは強烈な胸騒ぎであった












「居りませんね?」


テオフィル等がペクティの後を追ったが・・・・彼の姿は何処にも見受けられなかった
追った茂みにも、先ほどの小川にも・・・・彼の姿はなく霧の様に姿を消していた


「ぅうーむ・・・・本当に妖精だったのでは?だとすれば妖精の国に帰ったのでは」

「あんなのが沢山いる妖精の国などあってたまるか・・・・」

「あったとしたら?」


神秘的なオーラを纏っていたマッチョが幸せに包まれながら戯れる本格的♂妖精の国


「魔王様の魔力も届かない場所であろうな、きっと」

「想像に容易いけれど想像したくありませんわね・・・・」

「それよりもどうするのだテオフィル殿?」

「諦めてはどうです?確かに気になる方ではありますが・・・・」

「・・・・ケンタウロスだ」

「「え?」」

「あいつはケンタウロスに会いに来たと言っていた・・・・・ならケンタウロスに会いに行けば
あいつに辿り着くはずだ」

「場所はわかっているんです?」


テオフィルは左手に流れる小川を見据え、その上流を視線で辿る


「ああ・・・・川の上流に彼女等の里がある・・・行くぞ?」














「どういうことだ?来てないとは」


ヴァネッサが顎に手を当てて考えている・・・・他の二人も仕草は様々だが思案している。
ケンタウロスの里の前の番人、武装した二人のケンタウロスが鋭い目線で三人を見送っていた

三人がケンタウロスの里に辿り着き、ケンタウロスの里の番人に訪ねたところ
番人のケンタウロスはそんなフェアリーは来ていないと言う


『いや、フェアリーと言うかマッチョの男だ』


やはりそんな男は来ていないという・・・・嘘をついているという様子は無かった


「嘘をついていたのか?あのペクティと言う男が」

「では、あの人は一体何の為に?確かにケンタウロスに会いに来たと言っておりましたが
その用件はぼかされておられましたし・・・・やはり、彼女等に会いに来たと言うのは建前で
別の何かをしにきたのでは」

「別の何か・・・か?」


あの男がしにきた別の何か・・・・三人は深く思案するが


「あの男は染物屋だ・・・・」

「つまり、染色剤に用いる貴重な鉱物か木の実か何かを取りに来たのでは?ケンタウロス
が手を加えた森ならばもしかしたらそういうのがあるのかもしれませんし」

「それならば態々隠す必要はないのではないか?もしかすればテオフィル殿が黒の行商人
と感づいて、貴重な物を横取りされるのではないかと考えたのならば別だが・・・」

「他の事で考えれば・・・あの男はマッチョだ」

「つまり、筋トレに用いる大木か大岩か何かを取りに着たのでは?ケンタウロスが
手を加えた森ならばもしかしたらそういうのがあるかもしれませんし」

「・・・・・・・いや別にケンタウロスの森でなくてもあるんじゃないか?」

「ですよね」


三人は結局あの男の事は気になりながらも、再び上流から先ほどの場所を目指して歩く
と、その時だった・・・・テオフィル達の歩く川沿いの道の向こう側から一人のケンタウロスが
歩いてきた。

新緑の美しいショートカットの髪を揺らし馬の独特な足音を立てながら、俯いた表情で
こちらに向って歩いて来ていたのだ。


「・・・・・? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


彼女はテオフィル等の姿を見て暫く硬直した後、何かを悟ったように頭を下げた


「・・・・驚かないんだな、人間を見ても」


テオフィルはそのケンタウロスに問うと、彼女は少々目を伏せた


「貴方方は?」

「申し遅れた・・・・テオフィル・カントルーヴと言うものだ」

「レティシア・ケ・デルヴロワです」

「ヴァネッサ・カバネルと申す者だ」


ケンタウロスはゆっくりと頭を下げた・・・・


「バーバラ・ベントソンだ、貴方達は一体・・・何故私達の里の方から・・・・」


テオフィル達はそのペクティと言う男の事を話した、するとペクティと言う男の名には反応を
示さなかったが、男の体の特徴を言うと心当たりがあったのか反応を示した


「その男ならば・・・先ほど私は会ったよ・・・・私に話を聞きに来たんだそうだ」

「話し?」

「・・・・・」

「いやいい、それよりもその男はどこに?」

「コヴァンツァ・・・・ここから東南東にある街に行くと言っていた」

「コヴァンツァって・・・私達が立ち寄った街だなテオフィル殿」

「ぁあ・・・・」

「あの男・・・何かしたのか?」

「いや、少々気になっただけだ、ケンタウロスに会いに行くと言っていたので
何かよからぬ事がなければと・・・・何もなければ結構だ」

「そうか・・・・なら良いんだ・・・・・・・お前は・・・・」

「?」


バーバラは静かにテオフィルを見据えていた・・・・その眼はなにか、ペクティがテオフィルを
見ていた眼に似ていた


「お前は・・・魔物と一緒に居るんだな」

「・・・・そうだ、ヴァネッサとレティシアだ・・・」

「お前は何故魔物と一緒に居るんだ?下手をしたら殺されるぞ?」

「確かに、魔物と友好的にしている者は教団に見つかれば悪魔に魂を売ったものとして
殺されてしまうだろう・・・・」

「それでもいいのか?お前は・・・・自分の命が危険になると解っていても・・・お前は魔物と
共に居るのか?」

「・・・・・さあな、命が危険にさらされる事に慣れてしまっているかもしれん・・・・だが」

「だが?」

「誰かと共に居る事を罰するなど・・・・おこがましい事だ。それが例え神の意思であっても」


それはテオフィルが過去に失った友の事を言ったのか・・・・テオフィルの言い放った
言葉には強い意志が潜められていた


「・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・そうか・・・・そうか・・・・」


バーバラは少し笑って口元を押さえた


「ありがとう・・・・それでは私はこれで、貴方方も道中お気をつけて」


そう言いながらバーバラは頭を下げてテオフィル等の横を通り過ぎて行った
テオフィルは彼女の背中を追わずにゆっくりと歩き出した


「行くぞ」

「コヴァンツァへか?」


テオフィルが少し驚いた表情で振り返ると、ヴァネッサは腕を組んで微笑んでいた


「なら行こう、気になっている物を放っておくのは・・・・中々歯がゆいものだからな」

「・・・・ああ」


二人が歩いていく、レティシアは不思議そうな顔をして二人の背中を見る


「(やはり人間も魔物もわかりませんわね・・・・・と言う事は、まだまだ私はエルフだと
言うことですか・・・・・)」


レティシアは二人の背中に向って走っていった・・・・
















コヴァンツァへ戻って来たときには、既に太陽が天高く昇っていた。

コヴァンツァ、数年前までは田舎と呼ばれるレベルの街であったが、
近年は隣国との貿易などで飛躍的な発展を遂げている街である。

昼と言う事で街は活気づいて人通りが活発になっている中をテオフィル等が歩いていく


「しかし、こう人通りが多くてはペクティ殿は見つけられんな」


ヴァネッサとレティシアはその人混みに呆れながらテオフィルの後をついていく

もちろん、今の彼女等は魔物の姿をしていない。ちゃんと都合の良い魔法で人間の姿に成って
おりますとも。


「それにしても何処へ向かっているんですの?」

「宿だ」

「宿?ああ・・・今からとらないと埋ってしまうからな、ここは貿易によって発展しているから
他の地方からの人の流動も激しいだろうし」

「昨日までの宿は使えない、とんぼ返りしたとなると怪しまれるからな・・・・・
財布は傷むが少し上等な宿に泊まるしかあるまい」

「なるほど、しかし人間の宿と言うものは受付に人が居たりと丁寧だな・・・・
私達の方にあるのは、まず入ったら部屋を模写した絵が乗ってるパネルがあってだな
そのパネルを押すと受付の者が鍵を渡してくるんだ」

「健全な宿じゃないよなそこは、看板がピンク色に発光している宿のはずだな?
明らかに18歳未満立ち入り禁止の宿のはずだな?」

「こちらにはそのような宿しかないんだが・・・・まあ何かと家庭に事情を抱えた者が行ったり
初々しいあの時の恥じらいを取り戻したい倦怠期寸前の夫婦が行く場所だと母上が言って
おりましたな」

「生々しいわ・・・・・というよりそれモロにお前のお母さんの主観で言ってるだろ。
ご利用可能だからな?普通の恋人達もご利用できているからな」

「(テオフィルは突っ込みに回ると自分のキャラのアイデンティティ捨てますわよね)」


などと考えていると、レティシアとヴァネッサはテオフィルの背中にぶつかった


「きゅ、急に止まらないでくださいまし!!」

「・・・・・・・・」

「テオフィル?」


テオフィルは立ち止まって眼を鋭くして前を向いていた・・・・レティシアとヴァネッサが彼の
横からその視線の先を追ってみると・・・・そこにはバーコード頭が特徴的な中年男性と
眼鏡をかけた美人の女性が立っていた、どちらも品がよさそうな紳士と淑女だ


「やぁ、奇遇だね」


中年の男性が気さくそうにテオフィルに手を挙げて笑いかけてきた
しかし、テオフィルはまるで敵を目の前にしたかのような眼でその男を見て・・・・いや
睨みつけていた


「そんな睨まないでよ。お前もこの街に来ていたんだね?」

「・・・・・・白々しいな・・・何人か諜報部の連中を前の町でみかけた。お前の差し金だろう」

「まあ、君が本命じゃあなかったんだけどね?どうせこの街に行くみたいだったから。
つれのお嬢さん達を見るに、相変わらずのようだね?お前は」

「あんたもだ・・・・」

「そんなに構えないでよ、君には以前の「かり」があるからね?あれ?あれってもう
返した「かり」だったかな?」

「ええ、テオフィル・カントルーヴには「かり」はないはずです」


眼鏡をかけた女性が、右手で清楚に眼鏡のズレを直しながら言うと、中年の男性は
頭のバーコードを指先でなぞりながら静かに微笑んだ


「・・・・・・」

「うん、それじゃあ丁度良かったかな?ちょっと場所を移そうか?」

「・・・・・わかった」

「テオフィル殿?この方は一体・・・・・」

「もちろん、そっちのお嬢さん達もね?変なこと考えないほうがいいよ?」


ニッタリと笑うその中年男性の笑顔に、レティシアとヴァネッサは得体の知れない
恐怖が内在している事に気がついた・・・・



三人はその二人に連れられて喫茶店のような場所へと入った・・・・
そして、メニューを注文して冷や水が皆の前に送られてくる、そこまでの動作に
テオフィルは一切の隙を見せずに警戒をしていた


「そう、警戒しなくてもいいじゃない。周りの人が何事かって思っちゃうでしょ?」


殺気にも近いテオフィルの視線を飄々と受け流す中年の男性・・・・
確かに、その異質な空気はあまりに目立ちすぎるのか。テオフィルもその殺気を
気づかれない程度に萎縮させた


「テオフィル・・・・この人は一体・・・」

「ああ、自己紹介がまだだったね?うん、それじゃあ自己紹介をしようか?
僕はこの国の教会騎士団の元老院の総院長をしているアンドレ・ヘレニウスっていう
者なんだ。覚えなくていいよ」


ガタっとヴァネッサが身構えた

驚愕に表情を歪ませて、先ほどのテオフィル以上の警戒と殺気をその男へと叩きつけた
しかし、その男はまるでそよ風を受け流すかのようにその殺気を受けても暢気に水を
飲んでいる


「ヴァネッサ」

「・・・・・・・・・・・」


テオフィルの声に我に返ったヴァネッサは殺気を抑えて再び席に腰を下ろす・・・・


「知っている方ですの?ヴァネッサ」

「・・・・我等が魔界に数度攻め込んできた教団、その中でも我等が魔界に点在する城や街に
痛恨の大打撃を与えた軍隊がいた。その軍隊を率いていたのがアンドレ・ヘレニウス
という男。当時魔王軍で将軍をしていた母上の軍にも手痛い打撃を受けたと聞く・・・・」

「まあ、昔はそういう事もあったよね。うん、懐かしいね?君のお母さんの名前は?」

「・・・・マノン・カバネル」

「ああ、あのデュラハンか。彼女強かったよね?懐かしいなあ」

「(テオフィル・・・魔界に侵攻した教団が無事に帰ってくることなんて・・・)」

「(コイツはそれをやってのけた指揮官だ・・・その鬼謀と指揮能力で、圧倒的能力差がある
勇者が居ないただの軍隊で魔王軍に打撃を与えたと言われている。その話しはヴァネッサ
の話を聞くまでは半信半疑だったがな)」

「僕は自分の武勇伝に嘘はつかないよ」


聞えてた


「それももう30年前の話かな?大丈夫だよ、今じゃこの子にチェスも負けるし、何年も
剣じゃなく筆を握ってきたからさ、だよね?イェータ」

「239勝8敗です」

「僕、そんなに勝ってたっけ?」

「私の戦績です」

「あ、そう」

「申し送れました、私はアンドレの秘書をやっている イェータ・エリクソンです
以後お見知りおきを」

「・・・・・ヴァネッサ・カバネル」

「レティシア・ケ・デルヴロワ・・・・・」

「うん、短い間だけどよろしく」


アンドレは三人の顔を見比べて微笑を浮かべる・・・と、注文したサンドイッチとジュース
が運ばれてきた。五人の目の前には色とりどりのジュースが並ぶ


「僕、朝はすごいご馳走だったんだ、バイキングっていうんだっけ?ご馳走の山がこう
机の上に並べられた料理を自分で好きなものをとっていくんだ。ステーキやら、
トリュフやらキャビアやら、ムシェール海老とかもあったかな?」

「嫌味か」

「あれ?嫌味のつもりじゃなかったんだけどね?でも僕朝弱いからさ、あんまり食べられ
なかったんだけれどね?」

「嫌味にしか聞こえん・・・・・?」


テオフィルは一度逸らした目をアンドレに移した・・・・アンドレはにったりと笑う


「君は今さ、この街がどういう状況か、知ってる?」

「それなりには・・・・」


テオフィルは活気立つ町並みを見渡す、笑い声と威勢の良い商売の声が絶えず聞える
その場所は正しく貿易と興商の町といったところか


「4年前に行われた教団の軍の構造改革によって、軍が各地方で行っていた地方行政への
介入を禁止し、地方に勤めていた軍の役員の大規模な総入れ替えが行われた。
構造改革の一環で、軍が民衆から直接税収をあげる事が出来なくなった・・・・それにより
軍隊と行政の分立が行われ、町長や市長の方針そのものが街の発展の行方を決める
状態になったといわれている」

「そう、ようやく軍による支配ってものがなくなったって事かな?」

「お前にとっては嬉しくない話しだが」

「天辺に立ってるとね、そういう街の方針とかも決めなきゃいけないってのは面倒くさい
事なんだよ。僕個人としては仕事が減ってくれて嬉しいの。
何はともあれ、軍は資金を自由に調達できなくなり、地方行政の予算の枠組みしか資金の
調達が不可能になったんだけど、そうなるとやっぱり不満がもれるわけだよ」

「だろうな」

「うん、それでね?この街では近々市長さんが満期を迎えて次の代表を決めるために
中央議会が都で開催されるわけなんだ、言ってる意味解るよね」

「・・・・・・裏金が動く・・・・次の市長になりたいと考えている貴族や有力者や豪商が有権者に
大量の金を動かす時期だと言う事か、それがどうした?毎度の事だろう」

「でも、おかしな事に内々に調査を入れたんだけれど、この街ではそのような事が行われて
いないんだよ。」

「何?」


つまり、裏金が動いていない。と言う事になるのか


「あっちこっちの街で例外なく小火が起きているってのに、この街だけ煙が上がらないって
いうのも変な話でしょ?」

「前の町で諜報部の連中が調べていたのはそれか・・・なら、今回の裏金は
・・・・・・・ブラックマーケットを経由している?」

「そ、そっちの世界を経由して流れたら僕らもどうにもならないしさ・・・・
向こうさん、僕らの臭いは解るみたいだから」

「・・・・俺にその金の流れをつかめと言う事か?」

「そう、トカゲの世界に僕らは入り込めないからさ、トカゲの世界はトカゲに調べて
貰うのが一番だと思ってね?引き受けてくれる?」

「・・・・・・・・・」


テオフィルは眼だけを動かして周囲を確認する・・・・・そして何人かの男が眼に入った
囲まれているようだ。


「・・・・・・・・・・・わかった・・・その代わり、裏切ればお前の首が飛ぶぞ」

「わかってるよ、お前、怖いから」


アンドレがアイコンタクトをすると、その男達がなりを潜めた


「・・・・何かわかれば連絡する・・・・俺はこれで失礼する」

「ご飯食べていかないの?」

「以前もこうやってお前にカフェに連れてこられたが・・・・お前が先に席を立って、結局
俺が払う事になった、今回は俺が先に立たせてもらう。行くぞレティシア、ヴァネッサ」

「ああ」

「・・・・・」


三人は立ち上がると、テオフィルを先頭にカフェを出て行ってしまった・・・・
そんな彼らの背中を見送るわけでもなく、アンドレはサンドイッチを頬張る


「良かったのですか?あのような約束をされて」

「悪党を全部しらみつぶしにするのって疲れるでしょ?小さな悪党を使って大きな悪党を潰す
事が出来れば十分じゃないかな?」

「・・・・そうですか?」

「何?」

「存外気に入ってるのでは?あの男の事」

「やめてよ、僕のお気に入りは君だけだよイェータ」

「恐縮です」

「相変わらず素っ気無いね、君は」


アンドレはサンドイッチを豪快に一口で食べてしまった


「私の分!?」

「たーべちゃった〜」















「あんな安請け合いをしてよろしいのですか?」


宿に着いたレティシアはふかふかのベッドに腰を下ろして、腕と足を組んで窓の外を見てる
テオフィルに問いかける。ヴァネッサは難しい顔をしながら窓の外を注意深く見る


「監視の者は居ないようだな」

「・・・ああ、アンドレの「眼」だけはずば抜けている・・・・状況や人相、心を見る「眼」・・・
監視など意味がない相手に監視をつけるほどの余裕もないのだろうがな・・・・」

「囲まれてたからな、仕方ないといえば仕方なかったのかも知れんが・・・・
人間とはかくも汚いやり方をしてくる。頼み事の一つすら後ろ盾なくして行えんとは」

「それが人間だ」

「悲しい話しだ」

「それで・・・・テオフィル、これからの事なんですがどうするんです?私は人間の社会
と言うものは良く存じませんけど・・・・「金の流れ」なんていうものは簡単に掴める物
なんでしょうか?」

「この街に住んでいる者で、ブラックマーケットに顔の効く人間ならば知っているだろう
まずはそいつを探し出す事になる・・・・もちろん、ただでは教えてもらえないだろう」

「ただでは・・・・と言う事は取引する事になるのか?」

「生憎、そういう奴の取引は十分信頼した奴としか行わん、座っているだけで金を啜れる
ような連中だからな・・・・・・だから、そいつを割り出して・・・・そいつの家なり仕事場なり
から、資料を盗み出す必要がある」


ヴァネッサはあからさまに嫌な顔をする


「盗むとは・・・・騎士道に反するな」

「・・・・・お前は俺を勘違いしているんではないか?一応、俺はその汚い社会で生きている
人間だ・・・・婿にするのも、他の人間に当ったほうがいい・・・・」

「まあ、貴公は騎士ではないからな。そこまでは求めんよ・・・・私が騎士らしく
しておけばいいだけの話しだ」

「そういうものなんですの・・・?」

「あれはあれ、これはこれ・・・・それに、盗むと言っても善良な市民から盗むわけではない
人の苦労を踏み台にしてのうのうと生きている恥知らずの畜生共だ」

「魔界の騎士道は自由な考え方ですのね・・・都合の良いともいいますが」

「とはいえ、騎士道は騎士道だ、私はそれを重んじる・・・・裏社会の事は私もどうにも
ならんだろうからな?今回の一件はテオフィル殿に任せよう」

「そうしてくれ」

「まさか一人で行く気ですの?!」

「そのつもりだが?」


何を今更といった表情で水を飲むテオフィルは随分と素っ気無い
レティシアの顔には不安いっぱいというところだ


「レティシア殿・・・・・今までテオフィル殿はお一人で旅をして、裏社会を渡ってきたんだ
それこそプロフェッショナルと言って良い。そんな彼に素人である私達が二人
くっついていったところで、彼の足手まといになるのがオチだ」

「し、しかし・・・・」

「それに、良い妻は夫を信じて待つのも努めの一つと母上が仰っていた・・・・
私は盟友でもあり、夫でもあり、旅の仲間でもあるテオフィル殿を信頼しているよ」


にっこりと笑ってたしなめるヴァネッサに、レティシアも納得した・・・・


「(俺の時もそうだが・・・随分と人を窘めるのになれているものだ・・・・)」

「ん?何か私の顔についているか?テオフィル殿」

「・・・・いや、大した物だと思ってな・・・・」

「なんの、まだまだだ」

「・・・・・俺はこれからマーケットに向う、お前達はここで静かにしておいてくれ」

「ええ・・・・気をつけて」

「ヴァネッサ、レティシアを頼む」

「ああ、任されよ」


テオフィルは立ち上がり荷物を背負うと、さっさと部屋から出て行った
その背中を見送ったレティシアは静かに窓から外の景色を眺めた


「・・・・・」

「心配か?」

「・・・・・どうでしょう、今は良くわかりません。エルフですから」

「?」


ヴァネッサはわからないといった顔をすると、レティシアは疲れたような顔と目をして
窓から見える世界の眺めを見据えた


「つい最近まで・・・・人間も魔物も汚らわしい物だと考えていたものですから・・・・
私が貴方達にどういう感情を持っているのか、自分自身計りかねていますわ」

「今は?」

「よく分からない・・・・今でもどこか貴方達を忌避する感情が何処かにあるというのは
間違いないのですけれど。・・・・それでも貴方達の事をどこか考えて心配する自分もいる
相反する二つの私が一つの心で背中を合わせて座っている・・・・」

「まるでカリカチュアを描いているような表現だな、流石は画家といったところか」


クククと笑うヴァネッサをレティシアは恨ましく睨んだ


「何も、急に変わることなんて誰も出来やしないよレティシア殿。それこそ
小説などではあるまいし」

「・・・・・・・・・」

「貴公のそのもどかしさも・・・・貴公のその心苦しさも・・・・自分を取り巻く「今」という
環境に慣れていくための痛みのようなものだ。ゆっくりゆっくり変化をして
最善の答えと結果を手に入れればいいではないか」

「変化と言うものは・・・・不安を抱くものよ」

「怖いか?」

「・・・・・・・ええ・・・・怖いですわ・・・・とても・・・・」

「・・・・・種を超えて理解しあう・・・・これほど難しい問題はきっとないだろうな・・・・」

「・・・・・・・少し寝ます・・・・色々と・・・・・疲れましたから」


そう言ってヴァネッサに背を向けて横になるレティシア・・・・
確かに、ここ数日での彼女を取り巻く環境の変化は劇的と言って他ならない。
それが彼女にとってどれだけの負担になったのか・・・・計り知れないだろう
だから、ヴァネッサが彼女に送ってやる言葉は・・・・


「安心して眠るといい・・・・私が・・・・盟友がついている」

「・・・・・・・・・・・」


レティシアは・・・静かに眼を閉じ・・・・唇を動かした。











ありがとう・・・・と















ブラックマーケット

その形式は普通の街にある市場とは様相を異なる。巨大な面積を誇る敷地に店を構えるという
普通の市場とは違い、多くは下級層といわれる社会的弱者が住む地区にひっそりと開かれる

小さな酒場の内部であったり、日が当らない路地裏、あるいは町から少し離れた洞窟など

人目につかず、法が意味を成さず、力が尊ばれる場所。そんな場所に黒い市場は点在する


「・・・・・・・・」


テオフィルはそんな場所をなれた様子で歩いていく・・・・・
しかしながら彼らはそんなテオフィルを見ても別段騒ぎ立てる様子でもなく


「兄ちゃん、場所さがしてんのかい?」

「酒が飲める所だ」

「なら、向こうの突き当りを右に行ったところにあるよ」

「ありがとう」


友好的に接してくれる・・・・まるで気の良い隣人のように

一匹狼のような悪人が凌ぎを削ってひしめき合うという構想は既に古い物とされ排他された
教団や騎士団が力を持って台等してきた近年、そんな一匹狼に甘んじている者など
一瞬にして駆逐され刑場の露と消えるのがオチだ。

それ故に裏社会の物たちは「団結」の力を持ってそれに抗った。

お互いの商売に関する情報は制限や規制を設け、機密性を保つことで価値を生み
しかし互いに得をする情報は積極的に共有し「融和」を推し進めていく・・・

マーケットを運営する者は規制や制限をコントロールしてその価値にて甘い蜜をすすり
そのマーケットの中で保護された裏社会の物たちは互いに利益を生む

ある意味では柔軟に、そして完成された市場形態なのかもしれない

もちろん、その中で抜け目のない奴も居るが・・・・そういう者もリスクを覚悟しているだろう
ばれた時、周囲が全て「敵」になるリスクを・・・



テオフィルは先ほどの浮浪者に言われた酒場のドアを開けると、中では色々な「裏」の人間
が静かに酒を飲み交わしていた。

入ってきたテオフィルに視線を飛ばし、興味を示す者であったり・・・・示さない者であったり

テオフィルはカウンターの椅子に腰かけると、バーテンダーに視線を合わせる


「何にします?」

「安い酒で頼む・・・・そんなに持ってない」

「はい・・・」

「・・・・・・・」


テオフィルは「蝿」を探していた


「・・・・・・・・・」

「どうぞ」

「・・・・ああ・・・・一つ訪ねる」

「はい?」

「・・・・・蝿はいるか?」

「? そちらの蝿はお連れさんではないのですか?」

「?」


視線をふっと横に逸らしてみると・・・・確かにそこには探していた蝿がいた・・・


「お兄さん、私にも」

「子供はミルクです」

「ぶ〜」


帽子を被り、つなぎを着ている子供・・・・年齢は8つか9つの子供だ。
テオフィルに視線を合わせるとニッコリと笑う


「僕を探してる?テオフィル兄さん」

「・・・・・・・ああ、探していた」


テオフィルは渋い顔をしながら、出された酒を一気に飲み干した
彼が探していた「蝿」という物はどうやらその子供らしい・・・・子供は目の前に出された
牛乳を喉を鳴らして飲み干した


「ぷはぁ!」

「・・・・・シェリルは居るか?」

「居るよ?お嬢も・・・・デラッチも」

「シェリルに会いたい」


テオフィルはそういいながら胸の内ポケットから銀貨2枚をその子供に渡した
子供は微笑を浮かべて銀貨をポケットに入れると立ち上がる


「ついてきなよ」

「・・・・・・・・・馳走になった」


バーテンダーにお代となる紙幣を渡すと、二人は酒場を後にする・・・・















「失礼する」

「・・・・・・これは珍客ね」


テオフィルを出迎えたのは、ゴシックロリータドレスに身を包んだ12,3の少女
そしてその少女に使えるようにして佇む執事のような男が一人


「ボロの宿には似つかわしくない組み合わせだな・・・・女王バエ」

「蝿は蝿らしく・・・・女王は女王らしく、よ」


少女は立ち上がると、テオフィルを此処まで連れて来た少女に視線を飛ばす


「ご苦労様、リア・・・・席を外して頂戴」

「はぁい」

「あと女の子なら身嗜みにもうちょっと気をつけなさいな・・・・牛乳ヒゲ、まだついてるわよ」

「ぁ・・・・」


リアと呼ばれた少女は上唇の上についた牛乳を親指の腹で拭うとにっこりと笑った


「えへへ、それじゃあ失礼します」


彼女は少女の笑顔を浮かべながら部屋を後にする、テオフィルは彼女を見送り
溜息を一つ・・・


「・・・・随分上手く育てたな・・・・気配の消し方はもうお前以上だろう」

「私はもう現役を引退したわ・・・・師匠の役目は、師匠より有能な人材を作り上げる事・・・
あの子が次代の女王バエになってくれるのなら。それは願ったりかなったり・・・・」


「蝿」とは・・・

ブラックマーケット内では取引の情報や、顧客の情報など・・・・有益な情報が矢の様に飛び交う
その情報を集め、情報を商品にしている「情報屋」である。

蝿とよばれる子飼いの者達をブラックマーケットに放ち、女王バエとよばれる管理者がその
大容量の情報を管理している・・・・

彼らを利用する事で、より大きな利益を出すことができるが、同時に彼らを利用する事で
自分の持っているデータを取られ、取引の内容も知られる事になる。

ブラックマーケットを利用するものにとって、彼らは益虫でもあり害虫にもなる
まさしく「蝿」なのだ


「でも、まあまだまだといった所かしら・・・・それで、何か用かしら「ルスター」」

「今は「ロドン」だ「シェリル」」

「そう・・・・それをいうなら私も「シェリル」ではなくて「チェリィ」よ。こっちは「ベン」」


ベンと呼ばれた男は頭を下げる・・・・

裏社会に生きている者は偽名を使う、このゴスロリの少女は現在の偽名を「チェリィ」と
呼び、テオフィルは「ロドン」という偽名らしい


「煩わしいわロドン・・・貴方は会うたびに名前を変える。本名の方で呼んでいいかしら」

「・・・・・」

「冗談よ、他の組の蝿が居るとも限らないしね・・・・それで?私に会いに来たのは何かしら?
なにか良い品でも手に入った?」

「そうだ・・・・変わりにお前等の持つ情報が欲しい」

「まずは貴方の誠意を見せてちょうだいな?私をその気にさせて?」


チェリィは椅子に座りなおして挑発的な笑みを浮かべる・・・・ベンと呼ばれた男は
チェリィが座っている椅子とはテーブルを挟んで反対側の椅子を引きテオフィルを座らせた

テオフィルは背負っていた荷物を下ろして、中の荷物を漁る


「相変わらず・・・・不思議なバッグね?いろんな物が入ってるわ」

「サイクロプスの職人と魔女の魔法のコラボ作品だ・・・・家一件分の大容量を誇る」

「へえ・・・・相変わらず魔物と交流しているの?」

「ああ・・・・」

「物好きな人ね」


テオフィルはバッグの中からこぶし大の六角柱のガラスのようなものを取り出した。
中には青い青い宝石が入っている・・・・その宝石の中心には赤い輪郭の光が浮かんでいる


「・・・・・・・」


チェリィの表情が強張る・・・・


「・・・・一応聞いて見るけれど、これ、なあに?」

「生憎、お前が考えている「レルディオの瞳」ではないが・・・・それに匹敵する物だ」

「ベン・・・調べて頂戴」

「は・・・・失礼します」


ベンは宝石を持って別の机に腰をかけるとなにやら準備を始める
その様子をテオフィルは見つめていたが、チェリィが話を再開させる


「貴方の事だから・・・・きっとあれは本物でしょう。それで・・・・あんな大層な物を持ち出して
一体どんな情報が知りたいの?」

「・・・・・・この街が次の町長に変わる時期が近づいているのは知っているな」

「もちろん・・・・」

「中央・・・・特にそれよりの議員に流れている金のルートが知りたい」

「・・・・・難しい事を言ってくれるわね」


チェリィが表情を曇らせた


「この広大なブラックマーケットに居る者達の全員の素性を洗うようなものよ、それが如何に
困難で・・・・ルールに反しているか、貴方が身に染みてわかっているのではなくて?」

「だから、あれを出した」

「・・・・・・・・」


チェリィは暫く目を瞑る・・・・1分ほどの静寂の後、目をうっすら開くと溜息を一つ


「ベン」

「は・・・」

「それを返しなさい」

「・・・・は」


ベンは作業の途中でその手を止めて、宝石をテオフィルの前に戻した


「残念だけど交渉決裂、それは出来ない取引だわ・・・・」

「・・・・・・そうか」

「・・・・・あなたってたまにそうやって無理難題を注文してくるから好きだけど。
今回ばかりはね・・・・」


テオフィルは石をバッグの中に戻し、代わりに別の物をチェリィの前に出した
何か木の実のようなものが瓶の中、液体に浸されながらぷかぷかと浮かんでいる


「あら、これも中々・・・・ノームの木の実じゃない、それも随分純度が高い・・・
それで?ご注文は?」

「・・・・オーダーは二つ・・・・この四年の内に生まれた組織で特に金を集めている連中を教えろ
もう一つは・・・・ペクティという男を捜して欲しい」

「それ位なら、お釣りを返したっていいくらいね・・・・ベン、資料を持ってきて」


ベンは資料を取り出してくる・・・・


「でも、そんな事を知ってもお金の流れがつかめるとは思えないけれど・・・・」

「そうだな・・・・」

「・・・・・別に、貴方が何をしようとしているのかは知らないけれど・・・・結構大きなヤマに
首を突っ込もうとしているのね、アンドレに何か頼まれたかしら」


どうやら彼女はアンドレがこの町に居る事は知っているらしい


「そんな所だ」

「・・・・・まあ、何でもいいけれどね」


ベンはテオフィルの前に資料を出した・・・・テオフィルはその資料の書類を手に持つと
ペラペラとめくりっていく


「四年でこれだけ組織が増えたのか・・・・」

「構造改革で軍が萎縮したでしょ?その影響よ」

「・・・・・」


テオフィルはその膨大ともいえる情報を高速に、正確に検証していく・・・・・


「・・・・・・・・これでは特定できんな」


ばさりと資料を机の上に投げる・・・・チェリィは眉をハの字にして困った表情をする


「あなたが調べようとしている事は大体わかるわ・・・・この街で中央に金を流している
貴族や有力者を探し出そうとしているのでしょうけれど・・・・それは難しい事よ
ブラックマーケットの中にはマネーロンダリングをしてる連中だって大勢居る

金の流れを追って、誰と誰が繋がっているかを調べるなんて、一世代前なら可能
でしょうけれど。今となっては不可能に近いわ・・・・

そんな事をするよりも、もっと単純に考えればいいのではなくて?」


チェリィは立ち上がってティーセットに手を伸ばし始める・・・すでに煎れていたのか
蒸されたティーポットを持ち、事前に暖めてあったカップに注いでいく


「貴族や有力者が金を動かしているのだとすれば、直接それを調べればいい」

「そんな事ができるのか?」

「現金出納帳を手に入れる事が出来れば可能でしょう」

「・・・・マメにそんな物をつけている貴族達が居るのか?」

「四年前の構造改革で事情が変わったの・・・・貴族たちの力を正確に把握するために市が義務
付けたのよ。ただ、それを閲覧するためには随分手順が必要になるから・・・・今の所、
完成された制度とは言いがたいもので、持て余しているような状態ね」

「盗み出せるか?」

「蝿ですもの・・・・でも、それなりのリスクをこちらも負う事になるわ・・・
命がけの仕事になるし、手に入ったとしてもその出納張が全てを物語っているとは限らない
もしかしたらそういった裏取引は別の出納帳が用意されているのかもしれない」

「・・・・・やってくれるか?」

「貴方は問うだけかしら?・・・・これ一つでは足りないわね・・・・」


煎れた紅茶をテオフィルの前に差し出す・・・・これ、とはノームの果実の事だろう


「・・・・・・・」


テオフィルはバッグの中から様々なアイテムを並べ立てる・・・・どれも市場では稀にしか
見る事が出来ない物ばかりである


「これでいいか」

「OK・・・・交渉成立ね・・・・それと、ペクティって男だっけ?探すだけならお安い御用よ。
特徴は?」

「マッチョだ」



(´゚ω゚)・*;'.、ブッ





チェリィが飲みかけたお茶を口と鼻から吹き出した


「ゲホゲホ!ゲホ!ゲホ!ゲッホゲホゲホ・・・・・」

「・・・・むせるな」

「い、いきなりマッチョなんていうから・・・・マ、マッチョの男で・・・ペクティね?」

「ああ、神秘的なオーラを漂わせているからすぐにわかると思う」

「・・・・・・どんなマッチョなのかしら・・・ゲホ・・・ケホ・・・」















「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・」


レティシアは絵を描く

たっぷりと絵の具を筆につけ、それを叩きつけるように絵画に塗りつけていく
ゴッホもびっくりな筆触で長〜〜〜〜〜く伸び、うねり、何かを主張している


「起きてすぐに絵を描きだして・・・・今度は溜息ばかり」

「スランプですわ・・・・」

「そうなのか?」

「リンゴをかいていると思ったらいつの間にか無花果を描いていますもの・・・・」

「まあ、見事な無花果浣腸だな・・・・・便秘気味なのか」


レティシアは思い切り紙を破って丸めてボールをつくると、大きくふりかぶってヴァネッサに
投げつけた


「むぅん!!」


紙は鞘を被ったままの剣に打ち返され、窓から外へと飛んでいった。


「ほんっとうに良く回る口ですわね!!最初会ったときはもっと真面目で誠実な騎士
だと思いましたのにね!?」

「まあ、私は快弁だからな」

「だれが上手い事言えといいましたよ!!」

「まあ、そう自分がスランプだとしても他人に当ってくれるな。イライラした時こそ
気晴らしに別の事をすればいいのだよ」


レティシアは再び溜息を一つ、椅子に座りなおしてイーゼルに向き直った


「・・・・何もする事がないのですから、絵を描いているのですわ」

「ならば、散歩でもするか?」

「人間の町は好きません・・・・ゴタゴタして・・・空気がよどんでいます」

「活気とはそういうものだ」

「なら、私達は活気を嫌います」

「ふむ・・・エルフはひきこもり・・・・・で、あるか」

「誤解を招く言い方はしないでくださるかしら?自然を愛し、自然と共に生きてきた者
にとっては当然のセンスなのです」

「なれば、街の外に出ようではないか?丁度私も体が鈍って仕方ないのだよ」

「・・・・・・・」


三度目の溜息を吐き、レティシアは立ち上がる


「テオフィルには置手紙を残さないといけませんわ」


レティシアは絵の具をつかって、先ほどセットした真新しい白紙に筆を贅沢に滑らせる


「・・・・・行きますわよ」

「はいはい・・・・」












そうやって街の外に出たのが四半刻ほど前、二人は黄金の海原のただなかにいた。

もちろん、黄金の水が広がる海原などなく、それは比喩である。

収穫の時期も近くなった小麦の色は深みが増し、しっかりと実った種子達は重みを増して
ゆらゆらと揺らめき、畑に漣を起こす。

それらがまるで光の波にみえるのは、彼方より照らしてくれる夕日のお陰

地平線に沈んでいく大きな夕日が小麦畑を黄金色に照らし出すのだ
あるいは・・・・まるで炎が揺れ動く、灼熱の海原のようにも見えるかもしれない


「・・・・・」


レティシアはその場所で風を感じ・・・・自然の声を聞き、胎動に触れていた


「ここは良いですわね・・・・自然が息吹を上げている」

「・・・・ああ・・・・美しい場所だ」


それはヴァネッサも感じているのだろう、ヴァネッサは長い髪をすくと
夕日がその靡きを照らして、彼女の髪を光らせる

さながら女神が二人、佇んでいるようだ


「しかし、しかしな・・・・・」

「?」

「・・・・・この場所は、人間が手を加えて作り上げた場所だ。自らの生活を営むため
自然と言う場所に手を加え、土を耕し、種をまき、この黄金の海原を作り上げたのだ」

「・・・・・そうね、そう考えれば・・・・不思議な場所ですわ」


レティシア自身、この場所に懐かしさすら感じる自然の息吹を感じている
だが、事実としてこの場所は「人間」によって手が加えられた場所なのだ


「私は思う・・・・きっと自然は命を「営む」事を許しているのではないかと・・・・」

「許す?」

「全ての生き物は自然を壊す・・・・虫は木に穴を開けるし、鳥は身を啄むだろう?
エルフは森に生きているとは言え、自然の恵みを享受して生きている・・・・その中にだって
「破壊」はあるはずだ」

「それは森に許された事、破壊ではありません。そして私達は森に常に感謝を捧げる」

「そう、それがエルフの「営み」だ」


レティシアは目前の黄金に眼を馳せた


「全ての生き物は、何かを淘汰して生きている・・・・その中で破壊せねばならん部分もある
そのいたしかたない部分は必要なのだよ・・・・生きるとはそういうことだ」

「それくらいは・・・・私達にだって解ります」

「生きるために必要な事を破壊を「営み」と捉え・・・・それを自然が許したとならば。
この光景もまた天然自然の物・・・・「摂理」と説くのかも知れん・・・・」


ヴァネッサはレティシアの横顔を見て微笑んで見せた


「レティシア殿が、この光景に自然の息吹を感じておられる理由・・・・私なりに立ててみた」

「・・・・・悪くない・・・・・答えですわ。そう・・・・これも自然の一部・・・・人間も・・・エルフも・・・」


レティシアは合点がいったといわんばかりに、満足げな笑みを浮かべた
そして、その黄金の息吹を体全体で感じ取りながら、その心地よさに身をゆだねた


「人間にも・・・・この小麦畑を作り出す美しい一面があるのですわね」

「・・・・・・それを感じてもらえれば、私は嬉しく思うよ」

「まるで自分が人間のような言い方ですわね」


ヴァネッサは剣を引き抜いて、夕日にむかって突き出した


「心には・・・・この小麦畑の様に美しい一面と、汚い一面がある」

「・・・・・」

「それは、人間だけではなく、心を持つ者達・・・・つまり、エルフ、ドワーフ、魔物
・・・全てにおいて例外なく在る・・・・それ故に、良い者と悪い者が生まれるのだ」


夕日の光はキラキラとヴァネッサの剣の刃を滑りながら輝く


「しかし、事実ですわ」

「・・・・・レティシア殿・・・・私の剣はつまるところ「そこ」を目指すのだよ」

「?」


「私は・・・・」


レティシアの姿が人間から魔物に変わり、彼女は本当の姿で誓うように言い放つ





「少ない悪人の為に、沢山の良い人が泣いている・・・・
私は弱い者の為に剣を振るうのではなく、良い者達の為に・・・・・・剣を振りたい・・・・・

それが、私の騎士道だと信じている」





その立ち姿は勇ましく。強く、強く、強く立つ彼女に心が熱くなるのを感じた


「・・・・・哲学者なのですわね、貴方」

「感化されたのだよ・・・盟友の内の一人に、そういう奴が一人・・・居るのでな」


剣を収めると同時に、彼女の姿が人間に戻った。


「まあ、酌量の余地がある者は良いが、どうしようもない奴と言うのは世の中にいるのだよ
私の剣はそれを斬るために在る」

「大層ご立派ね・・・・でも・・・・・そうね、私も人間とかエルフとか・・・種族に関係なく
一度そういった物の見方をしてみようかしら」

「試しにやってみるといい、色々と気づかされるものがあるぞ」


二人はフフフと微笑み・・・・最後に景色をじっ・・・・・くりと見渡す


「さあ、それじゃあそろそろ帰りましょう・・・・夕日が沈みすぎてはこの場所も
閑散としてしまうでしょう。良い景色は良い景色のままに見納めておくべきです」

「芸術家が言うのであれば間違いないか・・・・それでは帰ろう」


二人は振り返って小麦畑から抜けようとした時だった・・・・


「む?」


ヴァネッサが何かを見つけた・・・・小麦畑の彼方の木々に隠れるようにして歩く女性の影


「どうかしました?」

「あそこに女性が居られる」


レティシアがぐっと目を凝らしてみるが・・・・・彼女にはそれらしき影は見受けられない
それもそのはず・・・・ヴァネッサの視力は10.0と、常人の一桁多い
マサ●族並であった


「それがどうかしましたか?」

「・・・・あれはもしや・・・・バーバラ殿では?」

「バーバラ・・・・って、あのケンタウロスの?」

「ぅむ・・・行ってみよう」


二人は小麦畑を掻き分けてその女性の元へと歩いていく・・・・

黄金の海原を掻き分けて、進んでいるうちにレティシアにもその人影が視認できた
二人はこそ〜〜り彼女に気づかれないように身を隠しながら近づいていく


『何で隠れなければいけませんの?』ヒソヒソ

『こういう場合は隠れて近づいていくべきなのだ』ヒソヒソ

『そういうものなのですか?』ヒソヒソ

『黄昏た女性にひっそりと近づきその様相を木の影から覗く・・・・基本的なシュチエーション
ではないか?』ヒソヒソ

『知りませんわよ・・・・』ヒソヒソ

『そして見計らったように出て行くのだ』ヒ素ヒ素



「・・・・・そこで何をしているんだ?」




( ・_・)        !   !
            (゚ω゚ )(゚ω゚ )












「別に隠れているつもりはなかったのですけれど・・・・ヴァネッサがちょっとね、発作なの」

「それは大変だな」


         _____
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     _|  ̄ ̄ ̄ ̄.|  |___     
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バーバラとレティシアは不自然に転がって、時折動くダンボール箱を見据えながら言う


「それで・・・どうしたんですの?こんなに人里近くに下りてきて・・・・」

「・・・・・あの男と・・・貴方達が気になってな」


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「あの男と言うと・・・・ペクティのかしら?」

「ああ・・・見つかったか?」

「いいえ・・・・今テオフィルが探していますけれど・・・・」

「そう・・・・か」
 
「でも・・・・あのペクティという男は一体何なのですの?貴方に何の用であそこに・・・
あの男は一体何をしようとしていますの?」

「・・・・・」

「あの時はテオフィルが遠慮して何も聞きませんでしたけれど・・・・
よくない事が起きようとしているのではなくて?」


バーバラもそれを感じているのか表情を曇らせながら頷いた


「それは・・・恐らく・・・だが、私もあの男が何をしようとしているのかは知らないんだ」


              ガタッ!
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バーバラはまるで懐かしく何かを思い出すかのように。ケンタウロスの里の方角を
見据えながら話す


「・・・・・あの男は、かつて私が愛した人間の事を訊ねに来たんだ」

「貴方が愛した男?」

「・・・・そう・・・・名をアトロ・ゴンザレス・・・・私を愛して・・・死んでいった男だ」


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「死んだ?」

「・・・・正確には殺された・・・この街の人間、アトロは奴等の事を「キョウカイキシダン」
と呼んでいた」

「「キョウカイキシダン」・・・」

「奴等は、魔物に類する私達と友好的にする者を「悪魔に心を売った者」として断罪すると
言う・・・・人間が魔物と友好的でないのは知っていたのだ、だから私達は人目を避けて
会っていた・・・・しかし」


思い出せば辛いのか、彼女は震える声で続ける


「しかし・・・・ある日、私達の事をかぎつけた奴等が・・・・」


         _____
       /  ./   /|       
     _|  ̄ ̄ ̄ ̄.|  |___     
   /  |_____|/   /  スッ・・・・
   ̄ ̄ ̄  |し  |   ̄ ̄
         し ⌒ J



「この場所で、アトロと私が会っている所を襲ってきた」

「・・・・・この小麦畑で・・・」

「私達はもちろん逃げた・・・・アトロを乗せ、私は里へ逃げるように走ったんだ・・・だが
奴等も馬を駆り追いかけてくる・・・・・人を乗せる事になれない私は林に入った所で
奴等に追いつかれそうになったんだ」


ギリっと歯を食いしばる・・・悔しさと憎悪に満ちた眼が夕日に霞む


「追いつかれることを覚悟したのだが・・・・アトロが二手に分かれる事を考案したんだ。
林の中はアトロも良く知っているし・・・・私も彼が降りれば人間たちを振り切れる・・・
私達は互いの無事を祈り、再開を誓って分かれた・・・・」

「・・・・・・」


一筋の涙がこぼれる


「だが・・・・翌日・・・・小川の近くで、首のない彼の死体が見つかった・・・・」

「・・・・・・・・・」

         _____
       /  ./   /|       
     _|  ̄ ̄ ̄ ̄.|  |___     
   /  |_____|/   / 
   ̄ ̄ ̄          ̄ ̄


「・・・・・・昨日私がお前たちと出逢ったのは、彼の墓参りの帰りだった・・・・
奴、ペクティとは墓参りをしている最中に出会った」

「彼はどういった事を貴方に聞いたんですの?」

「・・・・アトロを殺したのは誰なのか・・・どの街に居たのかを聞いてきた・・・
キョウカイキシダンに殺され、コヴァンツァの街に住んでいた事を伝えると
そこへ向っていったんだ」

「・・・・・そうなんですの・・・・」


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   /  |_____|/   /  スッ!
   ̄ ̄ ̄  |し  |   ̄ ̄
         し ⌒ J



「彼がそのアトロという男とどういう関係かとかは言いませんでした?」

「聞いた・・・・兄弟だと言っていた」

「兄弟・・・・」

「・・・・・最初は魔物である私をうらんでいるのかと思ったが、そうでもなかったみたいで
つとめて紳士的に話をしていた・・・・だが、奴の眼は・・・・何か、強い憎しみを孕んでいる
みたいに・・・・淀んでいたのを覚えている」

「もしや、キョウカイキシダンという者達に復讐をするつもりなのでは・・・・!!」

「そうも思って、私はいてもたってもいられずにこうして里から降りてきたのだ・・・・」




「いや、教会騎士団に復讐をしに来た・・・・と言うわけではないんじゃないか?」




そう言いながら、ヴァネッサはダンボールを外した


「何故ですの?」

「貴公等は教会騎士団と言うものをあまり知らないようだな・・・・その組織は数人という
少数の物ではない、何万、何十万という数からなる教会とよばれる宗教組織の中の
武力行使を目的とした「軍隊」だ」

「軍隊・・・・戦闘部隊か」

「もちろんこの街にもいる、略称として「軍」と呼ばれる連中がそれだ。この街だけでも、
恐らく2000から3000の兵が居るだろう。そんな強大な相手に一人の復讐者が
太刀打ちできるわけもないだろう」

「・・・・・では、ペクティはこの街に何をしに・・・」

「さて・・・・それはペクティ本人に聞いて見ないことにはどうにも分からないが」

「それでは結局謎のままではありませんか」

「推測で全てを考えるのは愚考と言うもの。推測で全てを決めて動くのは愚行と言うもの
全てはペクティを見つけてからだ・・・・」


先ほどまでダンボールを被っていた者とは思えない真っ当な意見に二人は口を閉ざしてしまう


「とりあえず、ペクティの件は我々に任せてくれないか?貴公も心残りだと思うが・・・
ここにいては貴公にも危害が及ぶやもしれん」

「・・・・・・分かっている・・・・私に何も出来ないと言う事は」


落ち込みを見せる彼女にヴァネッサはふふっと笑って微笑んだ


「いいや?話が聞けた・・・・これは新たな展開を開く鍵となるだろう」

「そうだといいのだが」

「事件が解決したら、里に寄らせてもらうよ・・・・それまでは大人しくしていてくれ」


バーバラは暫く黙っていたが、二人を見ると、ゆっくりと頭を下げる


「すまない・・・なんだか巻き込んでしまったようで・・・迷惑をかける」


レティシアとヴァネッサは顔を見合わせる


「いや、巻き込んだのは貴公ではないぞ?」

「ええ・・・巻き込んだのは、テオフィル・カントルーヴというお人よしですわ」


















二人は宿に帰り、先に宿に帰っていたテオフィルに事のしだいを話した。


「・・・・・そうか、そんな事がな」

「テオフィル・・・・もし、私達がエルフで・・・・ヴァネッサがデュラハンだとばれたら
私達も・・・・その、教会騎士団とやらに追われてしまいますの?」

「追われるだろうが俺が守る、心配するな」


こういうことをサラリと問題なさそうにいえる男の人って素敵。おじさんなら尚素敵
byカップ飯半人前

レティシアは急いで絵を描く準備をすると、赤い絵の具で「の」の字を書き始めた


「それで、テオフィル殿の方は何か進展があったか?」

「情報屋を使って調べている・・・・ペクティと言う男も。腕のいい連中だ・・・・ペクティが
この街に居るのならば直ぐに分かるだろう」

「そうか・・・・」

「・・・・・何か憂う事があるのか?」

「いや・・・ペクティという男が一体何をしようとしているのか、それがとても気になって
仕方がないのだ・・・・」


ヴァネッサは立ち上がり、腕を組んで部屋の中をゆったりと歩き出す


「バーバラ殿は、ペクティの眼が憎悪の感情に淀んでいたといった・・・・私には
彼が復讐をしにこの街を訪れたような気がしてならない」

「ですが、貴方が言ったではありませんか。騎士団に復讐をするなど無謀な話しだと」

「もし・・・・騎士団以外の何かに復讐の対象がいるならば・・・・どうだろう」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・もし、復讐の対象が他に居るのならば・・・・どう考える?テオフィル」

「推測の域を出ない話しだが・・・・・もし、アトロが殺された原因・・・・つまり
アトロとバーバラの交際がばれるきっかけとなった者がいた・・・と考えるのが妥当か?
あるいは・・・・アトロとバーバラが交際を始めるきっかけを意図的に作った者いた・・・等な」

「で、あろう・・・・まあ、推測の域を出ないといわれればそこまでだが
十分に調査の視野に入れる事ができるのではないか?」

「ああ、明日からはその範囲もいれて調査をしていこう・・・・」


ヴァネッサはぐっと背伸びをすると、どさりと真ん中のベッドに寝転がった


「さて・・・・そろそろ私は寝させてもらうぞ・・・・久々に風呂やまともな夕飯にありつけたので
眠くてかなわんのだ」

「私も・・・色々あって疲れました」

「そうか・・・・・・もう寝ようとしよう・・・・」


テオフィルは右端のベッドに寝転ぶと、静かに両目を閉じる


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・何をしてる」


何故か目の前にはヴァネッサの顔・・・・


「妻は夫に添い寝をして寝るものだと、母上が仰られていたのを今思い出した」

「結婚していないでしょう!!ヴァネッサのお母さん!!変な知識だけをヴァネッサに
与えないでくださる!?出てきなさい!!」

「レティシア殿もどうだ?」


レティシアはもぞもぞとテオフィルのベッドに入り込む


「おい・・・」(怒)

「そーれ、ランプを消すぞ〜」


ランプを消され・・・・・暗闇の中で人口密度の高いベッドが一つ











〜2時間後〜









\あっはぁ♪ テオフィル!! 激しすぎますわぁ〜〜〜〜〜!!/(寝言)








<おい・・・こいつこんなに寝相が悪かったか?

<寝床が変わると寝相が悪くなる者がいると聞くが・・・・これは想像いじょ グベ!!

<・・・・・・・・提案する、皆それぞれのベッドに行くべきではないのか?

<・・・・ぅむ、我等が安眠の為に

<・・・・・・・

<・・・・・?どうした、テオフィル殿

<・・・・・・服を掴まれて動けん

<・・・・・

<おい!助け グホ・・ゥグ!?

<夫が苦難に耐える時・・・・妻はただ見守るだけなのだ・・・・それでは、健闘を祈る






\いけません!いけませんわテオフィル!括約筋でなんてだめええええ!!/(寝言)






※このホテルは夜中、男女が励んでもいいように完璧な防音システムを完備しています。


















〜翌日〜


チェリィは包帯をしているテオフィルを見て唖然としていた


「・・・・・何か、ありましたの?貴方ほどの男がそこまで重傷を負うなんて」

「・・・・・かつてない括約筋の大活躍があってな・・・・」

「は?」

「いや・・・いい、それで・・・・呼び出したからには進展があったのか?」


チェリィは複雑な表情をしながらも、その手に持つ書類をテオフィルに差し出した。
分厚い書類には膨大なデータが書き込まれていた


「仕事は完了したのだけど、進展があったのかどうかと問われれば・・・・微妙なところね」

「どういう意味だ」

「一番上に見やすくまとめたデータを用意しておいたわ・・・・」


テオフィルがその資料を手に取り、紙面に視線を走らせる・・・・・
資料をめくるたびに、テオフィルの眉間に皺がよっていった


「・・・・・皆、凄く真面目でしょう?」

「・・・・収入と支出に不自然な点が一つもない・・・・どこも金を流していない、ということか?」

「信じられないけれど、そういうことよ・・・・」

「馬鹿な・・・・」

「・・・・その原因なんだけどね?・・・・一つ心当たりがあるわ」


チェリィは窓から彼方に見える、教会が持つ議事堂を見据えた


「この街の市長さん、はっきり言って無能なのよ」

「無能?この街は市長が変わって賑わいを見せてきたのではないのか?」

「一日中お酒を飲み、女を囲み、遊び呆けている親のコネで市長になったお坊ちゃんが
この街を良くできるわけないでしょう?」

「・・・・・・では、どうやった」


チェリィは袖から何かを取り出すと、ぶら下げてテオフィルに見せた
それは四肢を糸で結ばれた飾り気のない木の人形・・・・


「マリオネット・・・・」

「仕事に怠惰を感じている人間は操りやすいからね?特に何も考える事をしないバカは」

「では、裏で操っているのは誰なんだ?」


チェリィは巧みにマリオネットを操り、その場で木の人形はロンドを踊り始める


「教会騎士団コヴァンツァ支部所属 第9師団長 ミハエル・キャローナ」

「・・・・・ミハエル・・・・「燻りのミハエル」」

「騎士としての実力はまあまあ。しかしながら平凡すぎる能力ゆえに日の目を見る事が出来ず
長年部隊長以上の地位を授けられなかった事からついた不名誉なあだ名「燻りのミハエル」

でもそれは昔の話し・・・・

2年ほど前から、急に性格が変わったように功績を挙げて。今ではあっという間に師団長に
までのし上がった男・・・・燻りの煙は上がらないけれど、代わりに良くない噂が彼を纏って
いることから、今では「梟雄ミハエル」と呼ばれているわ

彼のお陰で随分このブラックマーケットも狭まった・・・・」

「・・・・・そんな奴が裏で操りながら善政を敷くものなのか・・・・」

「出世の仕方によからぬ噂が立っていても、彼の手腕は本物よ?街では次々と悪党を挙げて
いるし・・・騎士としても厳格な雰囲気を持ちながらも優しい一面をもちあわせているってね」

「・・・・それが、この資料と何の関係がある?まさかミハエルが貴族や豪族を押さえつけて
いるわけでもあるまい」

「押さえつけている・・・・と、言うよりも。飼いならされている・・・・といった方が正しい
かしらね?」

「・・・・・・飼いならす・・・だと?それじゃあ・・・資金が流れていないのは、ミハエルが
流させないよう仕向けたのか?」

「そんな露骨な事はしない・・・・・」


マリオネットが突如バラバラになると、体を作り上げていたパーツがメチャクチャに
組み合わされて歪な人形に姿を変えた


「今のこの街の政策は市民にとっても、貴族にとっても、有力者にとっても・・・
皆が皆笑顔になる政策が採られている」

「そんな政策が採れるものか・・・・どこかで角が立つ」

「それはまあいいとして・・・・都合がいいのよ、今の状況がね」

「・・・・・・つまり、現体制の維持こそが最も有益である・・・と?」

「ええ・・・・そして、ミハエルは次の市長選に立候補している。筋書きはこう・・・」


再びマリオネットを躍らせて遊び始める・・・・


「貴族たちを黙らせるには、まず自分がこの街を裏で動かしている事を明かし
現体制を作り上げたのは自分だとアピールする・・・・そして、貴族たちを掌握したあと。
人気を博した自分は市長選で無能な市長を突き落とし。自分は市長に成りあげる。

軍の後継問題は、師団長である彼が一任する事になるから・・・・この街の軍も実質彼が
掌握したままっていうことになる・・・・・見事に、構造改革前の体制に戻す事ができるのよ」

「市長は中央議会が決める、軍人である奴が市長に選ばれるには難しいんじゃないか?」

「中央にお金を流しているのが彼だとしたらなら?」

「・・・・・・・しかし、そんな金がどこにあるというのだ?軍の金は地方によって調整され
現に奴が裏で操っていたとしても善政を敷いている限りそんな余裕はないはずだ」

「彼は「梟雄ミハエル」よ・・・・金を調達している方法があるんじゃない?こっそりとね」

「・・・・・・・・・・・」


チェリィは操り人形を机の上において、再び椅子に座りなおす・・・・・


「何故それを早く言わなかった」

「勘違いしないで、私は不確定情報を顧客に提供するわけにはいかないから・・・・
この調査結果を見た上での・・・・全部私の推測よ」

「・・・・・・推測か・・・お前らしくもない」

「貴方にしかこんな事は言わないわ・・・・それで、どうするつもり?アンドレの用件は
恐らく、金の流れを掴んで来いって事なんでしょう?この資料を渡せば
そんな物がないって証明にもなるんじゃないの?」

「・・・・・」

「此処から先はアンドレの仕事よ」


テオフィルはやや納得が行かないという表情をしていたが、溜息を一つ吐いた


「・・・・・わかった、これで手を打つとしよう・・・・・」

「お役に立てたのなら光栄ね」

「それで、ペクティという男の所在は分かったか?」


チェリィは心底微妙な顔でフっと鼻で笑いながら遠い眼をした


「・・・・確かに神秘的なオーラを纏ったマッチョは居たわね」

「何処に居た?」

「公衆浴場・・・・・・なんていうのかしら・・・・本格的♂風呂上りだったわ」

( ・ω・)どういうことなの・・・・

「ただね・・・・」

「?」


チェリィは訝しげな表情をした


「ペクティという男・・・・このブラックマーケットで組織を捜しているのよ」

「・・・・・組織?」

「ブラックマッチメーカーよ」


ブラックマッチメーカー、通称「黒の仲人」

人間と魔物との接触が避けられている現在だが、
魔物の魔力にあてられたりして魔物を忘れられずに懸想をしてしまった相手を顧客に取り。
魔物達と接触させたり、魔物に気に入られるよう手引きをする組織である。

しかしながら、その仲介料として莫大な金を要求し荒稼ぎをしすぎたため
一時期に教会騎士団の一斉摘発を受けたのである。現在では騎士団もその存在を警戒し
成りを潜めている組織であった

流行った理由としては、どうせ魔物と共になるならば人間の資産など意味がないと
文字通り全てをなげうつ者達が溢れ出たのだ


「・・・・・ブラックマッチメーカー・・・・か、この街にはいるのか?」

「居るわね・・・・組織としては大きくないけれど。結構稼いでいるみたいよ」

「・・・・・・・ペクティはどこにいる?」

「10分程待って?会わせてあげ





「お嬢様!!」




バンっと部屋の扉を開けて、ベンが血相を変えて入って来た


「・・・・お客の相手をしているのが見えないのかしら?騒がしいわ」

「も、申し訳ありません・・・・しかし・・・」


ベンはチェリィの耳元で何かをささやくと、チェリィの表情も一変・・・
強張った表情に変わると立ち上がる


「何があった?」

「一匹やられた・・・・・」

「!」













チェリィとベン、テオフィルは薄暗い路地裏で・・・・・打ち落とされた蝿を見下ろしていた
肩に刺し傷があり、そこから大量の血が流れている・・・・恐らく、出血死が原因だろう
生気を宿していない眼がうっすらと開かれていた


「・・・・・・」

「・・・・・ベン、暫く皆には行動停止命令を出して・・・・宿も変えて頂戴」

「は・・・・」


ベンは頭を下げて路地裏から姿を消す・・・・チェリィはゆっくりとその蝿の頬に触ると
柔らかな頬を撫であげる


「・・・・・安らかに、ね」

「・・・・・・」


チェリィは、僅かばかり開いた眼を掌で下ろし。しばしの黙祷を捧げた後立ち上がる


「急ぎましょう」

「ああ・・・・」


テオフィルとチェリィは死体をそのままにその場を離れた・・・・・
ブラックマーケットでも誰も通らない薄暗い場所に座りながら、その死体はゆっくりと倒れた

テオフィルをチェリィの元へと案内した、あの牛乳ヒゲをつけ、あどけない笑顔で笑った少女

しかし、蝿の末路としては誇り高き場所で リア という少女は死んでいた・・・・













「・・・・・・・・」


チェリィは新しく取った宿の一室で、静かに椅子に座りながら自分の親指の爪を噛んでいた


「・・・・・・リアは何を調べていた?」


チェリィは自分の爪をパキリと噛み砕き、そして・・・・ゆっくりとテオフィルに向き直る


「ペクティをつけさせていた・・・・追跡がバレて処理されたといった所ね」

「・・・・・・・立派な最後だったな」

「ええ・・・・刺されても相手をまいて・・・人目につかない場所を死に場所に選び・・・やられた事を
私達にサインを飛ばし伝えてから息を引き取った。蝿として最上の・・・・立派な死に方」


テオフィルは組んでいた両腕をほどき、荷物を背負いなおす


「お前達はこの場所からもう手を引け・・・・」


テオフィルの警告に近い提案の意味をチェリィは理解していた


「・・・・・・・・・・・・ベン、蝿達を逃がしてきて頂戴」

「既に街の外へ避難をさせておきました・・・・」

「そう、それじゃあ貴方もすぐに街から出なさい・・・・」

「・・・・・御意、ご武運を」


ベンは荷物を纏め上げると。チェリィに一礼して部屋を出て行った・・・・・
テオフィルは訝しげな表情でチェリィを見た、彼女は椅子から立ち上がると

突如服を脱ぎ始めた


「私は・・・・ケジメをつけてからよ」

「・・・・・」


服を全て脱ぎ捨てて下着だけの姿になると、バッグの中から別の服を取り出して着始める


「帰りなさい・・・・ここからは私個人の仕事よ・・・・」

「・・・・・一人でやるのか?」

「・・・・」

「仕事をもちかけたのは俺の方だ・・・・」

「・・・・心配?昔の女が無茶をするのは」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・ふふ、冗談よ」


ぶかぶかのシスターの服をチェリィが纏うと。チェリィがゆっくりとテオフィルを見る


「心配しなくとも・・・・貴方にもちゃんと働いてもらうわ・・・・でも、情報収集は私の役目よ」

「・・・・・やるのか?」

「ペクティという男の事情なんて、もうこのさいどうでもいいわ・・・・私にとってはね」


彼女の体が徐々に大きくなる・・・・まるで急速に年を取り始め、数秒後には20代前半の
絶世の美女に姿を変えた

美女へと姿を変えたチェリィはゆっくりとテオフィルに近づき、隣に立った


「一日で割り出す・・・・月が一番高く昇ったら貴方の部屋に行くわ」

「・・・・・」

「協力してくれる?」

「・・・・・・わかった」


あどけない少女の面影はなく、艶のある声と、女の色香を醸しだす身体と仕草
すでに別人といえるチェリィは、静かにテオフィルの横を通って部屋から出て行った・・・・


「・・・・・・・・・・・」


テオフィルはズリズリともたれかかった壁をずり落ちる


「・・・・・結局どの姿が本当の姿なのか・・・・まだ分からん・・・・」


テオフィルの中でトラウマが蘇る
あれは裏世界に出て間もない頃・・・・酒場で知り合った美女と一夜を過ごした翌日・・・・



ベッドの横で幼女が寝ていた・・・・そんなトラウマ


















レティシアとヴァネッサは散歩にでていた・・・・そして、アイスクリームをその手に持ち
ベンチに腰掛けて市街を眺めていた


「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」


二人が見上げているのは一回目にこの街を訪れていた時に宿泊をした
ややボロい感じでながら、おちついた雰囲気の宿・・・・外装の古ぼけた感じもまた
ノスタルジックな空気を醸しだしているのが良い。


「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」


二人が見上げているのは部屋の3階・・・・アイスが溶け出して二人の手を汚し始めている
二人の視線はその宿の最上階にある一室に釘付けであった


「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」




その窓に映るのは、優雅でありながら艶(つや)のあるボディライン・・・・
大きく張りのある胸は、その大きさがありながら決して垂れてはいない、美乳である。


「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」


キュっとしまった腰がなんとも魅惑的であり・・・・胸から腰にかけての締まり具合は
理想形と言うべき形である


「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」


真昼間でありながら、あるいは・・・・ホテルの中だからと油断しているのだろうか?
上半身に服も下着も纏わぬ扇情的な姿を窓辺に晒している


「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」


背を向けると・・・・これまた美しい背中が見えた。そして、あろうことか下も脱ごうと
尻を窓に突き出しゆっくりと上半身を倒し・・・・「下」を下げ始めた


「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」


引き締まったヒップラインに太陽の光がうつり・・・・まるで後光が背後に見て取れるようだ
あられもない姿を窓に移してるとは露も知らないのだろうか






  [窓]<はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・・



       


秘部が大公開


「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」


二人は眼をそむけた











ペクティだった










「何故殿方のサービスシーンが大公開されているんですの!?!」


レティシアはもっていたバニラアイスを地面に叩きつけて怒鳴り散らす


「色んな意味で大後悔だな・・・」


( ・ω・)!!


「ぉ、窓が開いている事に気づいたな」


( ・ω・)・・・・・


「こっちにも気づいた」


(〃ノ∀ノ)。  ポ・・・


「ヴァネッサ、剣を貸してくださいまし・・・・・」

「バニラアイスまみれの手で触れたくないな、できない相談だ。盟友が殺人犯にならん
ためにも」
 
「あれを斬っても合法だと思いますの」          

「いやぁ、どうもすみませぇん」( ・∀(  Д )!!!?!?


いつの間にかペクティがレティシアの背後にマッスルポーズで立っていた。(服を着て)


本格的♂瞬間移動


「ひ、人の後ろに立たないでくださいまし!!」

「人生にゆとりを持つことは良い事ですよ?」

「(イラっときますわ・・・・)」


ヴァネッサはストロベリーアイスを一口で食べてしまい、手についたストロベリーアイス
をハンカチで拭う・・・・レティシアは近くにある井戸から水を汲んできて手を洗っている


「いや、やっと出会えたなペクティ殿」

「私を・・・探しておられたのですか?」

「ぅむ・・・・・テオフィルには出会ったか?」

「テオフィルさんに?いいえ・・・・出会っていませんが」

「なるほど、どうやら私達の方が先にめぐり合えたらしい・・・・・貴方を探していたのだ」

「・・・・・」

「部屋にお邪魔してもよろしいかな?色々話が聞きたいのだ」

「え、ええ・・・・」

「(・・・・大丈夫なんですの?色んな意味で・・・・)」


三人は宿に入り。ペクティが宿泊している三階の部屋に案内された
部屋には彼以外は誰も宿泊していないようだ、荷物も一人分である


「どうぞ」


二人をテーブルに備え付けられた椅子をすすめ、二人は椅子に座り。ペクティはベッドに
腰掛けた


「私を探していた・・・・という事らしいですが・・・・何かありましたか?」

「貴公の事が気になってな、貴公を追ってこの街に引き返してきたのだ」

「言いだしっぺはテオフィルです、テオフィルがなにやら随分貴方に拘っていたので」

「・・・・・そう、だったんですか?いえ、私はただ単にこの町に来ただけなのですが」

「・・・・・・」


ヴァネッサの眼が鋭くペクティの両目をとらえると、ペクティはその両目に責められる
ようで、視線を外して泳がせた


「バーバラ殿に話を聞いた・・・・」

「!!」

「貴公・・・・この街の教会騎士団に弟を殺されたそうだな」

「・・・・・ええ」

「教会騎士団に復讐でもするのか?とでも思ったが・・・そこまで貴公はバカではないだろう?
一体何をしにこの街に訪れたのだ?」

「・・・・・・・」


ペクティは・・・・すっと両手で顔を塞ぎ、一擦り。そして両手で口を塞いだまま息を吐き出した


「・・・・・貴方方に、こんな事を話していいものかどうかは分かりませんが・・・・」

「・・・・聞きたいのだ」

「・・・・・復讐です、私はこの街に復讐をしに来ました」

「やはり、相手は?」

「ブラックマッチメーカーと呼ばれる、魔物と人間を引き合わせている裏組織です」

「ブラックマッチメーカー・・・・聞いた事がある。魔物と人間を引き合わせ手引きする、
しかし、仲介料は莫大な金額であると。アトロ殿はそれに手を染めてしまわれた?」

「・・・・ええ、事の発端から話せば・・・・」





3ヶ月程前です、私が仕上げた染物を。弟は林を越えてこの町に売りに来たのですよ
しかし・・・通常は往復二週間の旅が、一ヶ月待っても帰ってこなかった

私は不審に思いコヴァンツァへ経とうとしたのですが、旅立つ直前の朝にアトロが私に
手紙を寄越したのです・・・・手紙には、コヴァンツァで愛しい人とめぐり合った。
と書かれていました

男と女の事情ならば私もそれなりに心得ています、それで、弟がコヴァンツァに滞在する
ことを承知して。私も老婆心から幾らかの資金を包み。弟へ送ったのです

しかし・・・

弟は週に一回のペースで、金を送ってくるように催促する手紙を出すようになったのです。

もしや悪い女に捕まっているのではないかと心配しましたが、弟の手紙にはそんな事はない。
ただ、彼女に会うためにはお金が必要なのだと書かれて、その筆跡にも必死さが滲み出ていた

恋愛に疎い弟がここまで必死になるのが自分の中でも嬉しく思っていたんでしょうね
私はお金を送り続けました。


それが一ヶ月と2週間程続いた頃です・・・・弟が出て2ヶ月と2週間ですね


弟から手紙が来て・・・もう金を送る必要はない。彼女と上手く付き合う事が出来たという手紙
がきたのです

私はほっとして手紙を返しました・・・・一度帰ってきてくれと、そしてその女性を家族である
私に紹介してくれという内容を沿えて


・・・・いつもよりも少しばかり遅れて返ってきた返事に、私は言葉を失いました


付き合っている女性はケンタウロス。魔物であるというのです・・・・


普通では考えられない背徳的な交際をしているとのだと知った私は、弟に別れるように
勧める手紙を書こうとも思ったのですが・・・・

かけませんでした・・・・

私も教会の教えを受けて育った身ですが、魔物が人間に友好的な存在であることを知って
いました。実際に、何人かそういった魔物と幸せになった友人も見てきました

戸惑いもしましたが、弟の事は静かに見守る事にしたのです





しかし・・・・次に私の元に届いたのは・・・いつも手紙を配達してくれる方から聞いた
弟の死の知らせでした





教会騎士団に事の次第がばれて殺された・・・・





最初は後悔もしました・・・・もし、別れるように勧める手紙を出しておけば
あるいはこんな事にもならなかったと・・・・私は後悔しました


凶報があってから三日ほど経った日、弟が死んだ事を知った私の・・・・騎士団に所属する友人が
私の元を訪ねてきたんです。

彼は落ち込む私を励ましてくれたんですが・・・・その中で、ある話をしてくれたんです

その話と言うのは、彼が住む町で起こった事なんですが・・・ブラックマッチメーカーと
呼ばれる連中が人間と魔物達を引き合わせて報酬を受け取った後。連中は自身等を探偵と偽り
そのカップルが居る場所を騎士団に密告する・・・・そして騎士団から告発の報酬として
金を受け取るという手口で犯行を行っていた連中が居た・・・

その話を聞いて、私はピンと来ました・・・・

もしや弟はその手口にやられたのではないのか・・・・

魔物と出会うだけならば金がかかる事もないはずだから、それならば弟が金を要求していた
事に説明がつく・・・・

そして、私は事の真相を確かめるために旅立ったのです








「・・・・そして、あの林で我等に出会った・・・・ということか」

「ええ・・・・」


神妙な面持ちで頷いた・・・・


「(だからテオフィルにあんな質問をしたのか・・・・)」

「それで、何か収穫はありましたの?」

「ええ、私の推測は正しかった・・・この街のブラックマッチメーカーに接触した所、アトロを
バーバラさんに引き合わせていたのは自分達だと聞きだす事が出来ました。
教会騎士団に告発をした探偵と言うのも、その組織の一員であることも確認できた・・・・」

「と言う事は・・・・犯人を突き止めたんですわね」


ペクティは重い表情で頷く・・・・・


「しかし、証拠はない・・・・そこで私はこれから教会騎士団に事の次第を話し調査を依頼する
つもりです・・・・囮捜査を提案するんです」

「つまり・・・・連中が引き合わせようとしている犯行の瞬間を捕まえてもらおう・・・
と言うことか」

「・・・・・力ない私には、その方法しか思い浮かばない」

「・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・」


ムキムキの体を見直して・・・・二人はペクティの言葉に強い違和感を覚えた


「・・・・・なるほど、それが事の真相であったか・・・・人の恋慕の心を弄ぶとは・・・・許せん・・・」


ペクティは立ち上がり二人を見下ろす


「・・・・こうして弟の事を追っている内に、色々考えることがありました・・・・そして
バーバラさんにお会いしたり、貴方方を見ていると・・・・思うのです。

人間も魔物も・・・・「心」をもった生き物なのだな・・・・と」


彼は爽やかな笑顔でそう言った


「もしかすれば魔物と人間は・・・・共存していけるのではないのか?と、思えるんですよ」

「・・・・・難しいだろうが、可能であると私は思う」

「・・・・・・・・貴方方と話が出来てよかった・・・・私も覚悟が出来ました」

「行くのか?教会に」


力強い頷き・・・・


「ええ・・・・弟の仇を取ります・・・・・そして、これ以上奴等に「心」を踏みにじらせない為
にも、私は教会騎士団に向います」

「そうか・・・・・気をつけてな」

「ご武運を祈っていますわ・・・・お気をつけて」


ペクティという男は力強く頷く・・・・二人にはその彼の表情が、とても勇敢な戦士のように
見えた















日が沈み始めた頃・・・・テオフィルは宿に帰ってきた。
先に帰っていたレティシアとヴァネッサは、昼間ペクティと話した事をテオフィルに話した


「・・・・・・なるほど、そういうことだったか」

「ええ・・・・ペクティさん、上手くいくといいのですけれど」


考える・・・・

テオフィルの頭の中で、何かが引っかかっていた。
その引っかかりは胸の中で胸騒ぎをつくり、どうにも落ち着かない・・・・


「・・・・それで、アンドレ殿が言っていた金の流れの件についてはどうなったのだ?」

「・・・・一応資料と答えは用意した、これでアンドレの件はかたがつく」

「そう・・・・もうあの人と関るのはごめんですわ、気味が悪い」

「確かに、好んで会う人物でもなさそうだな」


二人は笑いあうが・・・・テオフィルは腑に落ちない自分の胸騒ぎの答えを探していた


「(・・・・・何だ?何かが引っかかる・・・・・)」

「どうかしましたの?テオフィル」


気づけば、レティシアが自分の顔を覗き込んでいた


「・・・・・いや・・・・考えすぎ・・・・で、あるならばいいが・・・チェリィには暫く様子見を
しろと伝えておくか・・・・」

「・・・・・?」


トントントン・・・・ドアがノックされる


「?・・・・・・・誰だ?」

『・・・・ベンでございます』


テオフィルは立ち上がってドアを開けると・・・・・そこには確かに、街から出ろとチェリィに
言われて部屋を出て行ったベンが立っていた


「どうした?街から出たんじゃなかったのか?」

「・・・・私も少々気になり、調べておりました・・・・それで、お耳に入れたい事が」

「?」

「例のペクティという男ですが・・・・教会騎士団に赴きました」

「知っている、そのことでチェリィに伝えたい事もある・・・・」

「それで・・・・その男、どうやら教会騎士団に拘束されたようです」

「何!?」


ベンの言葉に三人は驚愕した・・・・教会騎士団に告発に行ったはずのペクティが拘束された
とは一体どういうことなのか


「何故!?ペクティが拘束されるのだ!?」

「詳しい情報はなんとも・・・・現在は牢に入れられているようです」

「・・・・・・一体・・・どういうことだ?」

「私はこれから詳しい情報を集めてまいります・・・・それでは」

「あ・・・ああ・・・気をつけてな」


ベンは一礼するとドアを閉めて去っていった・・・・・部屋の中で三人は呆然と佇む


「・・・・・どういうことなのです?テオフィル・・・・」

「ペクティが何故拘束される・・・・何故?」







――――――――告発されてはいけなかった?






「・・・・・・・・・・!」


テオフィルの中で一つの答えが出た


「・・・・・・・そうか・・・・」

「何か分かったのか?」

「・・・・・・分かった・・・・ようやくな」


テオフィルは窓の外から議事堂を見据える・・・・まるで、敵を睨むかのように。
















テオフィル達が居る部屋では、レティシアとヴァネッサが二人寝息を立てていた
しかしそんな二人とは対照的に、テオフィルは椅子に座りながら両腕と足を組み
静かに時を待っていた


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


ゆっくりとテオフィルは音を立てずに立ち上がる・・・・そして、窓に近づいて
外を見てみると、下にはゴスロリの服を来たチェリィとベンが立っていた


「・・・・・・・・」

「・・・・・何処か行くのか?」


ヴァネッサは寝ながら、背後に居るテオフィルに問いかけた・・・・


「・・・・・全てを知りに、全てを繋ぎに行ってくる」

「・・・・・そうか・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・私は、貴公が何をしようとしているかは、なんとなく分かる」

「・・・・・・・・・・」

「貴公は私にとって盟友であり・・・・夫となる男だ」

「・・・・・後者については解答を控える」

「フフフ・・・・・まあ、なんだ?」


もぞりと寝返りを打って、テオフィルに振り向くと笑顔を浮かべた




「必ず帰って来い・・・・我等が旅はまだまだこれからなのだからな」


「・・・・・ああ」




テオフィルは音を立てずにゆっくりと部屋を出て行った・・・・


「・・・・妻は夫を信じて待つ・・・・か、中々辛いな・・・・・」















月明かりが降り注ぐ街の中・・・・・そんな明りを嫌うかのように、
三人は路地に身を隠して歩いていく


「リアを殺したのはブラックマッチメーカーの「クヴァンナ」・・・・構成員は五人・・・
四年前から活動を開始して、結構荒い稼ぎをしていたのにも関らず捕まらなかった」

「メンバーの顔はそれぞれグラフィックストーンに送っておきました。
ご確認くださいませ・・・・・」


テオフィルは手に持つ直径7cm程の水晶玉をみると。そこには五人の男と女が
順番に映し出されていた


「全く・・・・貴方も街から出なさいといったのに」

「蝿達にお嬢様を置いてきたと言ったら、玉無しだの臆病者だのと罵られてしまいまして
私にも立つ瀬がないのでございます」

「そう・・・・でもまあ・・・・久々に懐かしい顔で仕事ができるわ」

「あれからもう3年ですからな・・・・」

「・・・・懐かしがる事じゃない・・・・」

「「ええ、全く・・・・」」


三人は十字路に差し掛かったところで、別々の道へと別れていった・・・・

















一人の男が静かに寝息を立てている・・・・・暗い暗い部屋の中で明日に備えて眠っていた


「・・・・・・・?」


気配がする

裏の世界で鍛え上げられた感覚によって、男は静かに目を覚ました
ベッドから起き上がり、机の上に乱雑に置かれた道具の中から一本のナイフを取り出した


「・・・・・・・誰だ」


声を投げかけてみるが、返事は返ってこない
男は走り出す鼓動を深呼吸一つで落ち着かせて、静かに寝室から出ようとドアに手をかけた


「!?」


背後で窓が開いた

開閉式の窓が開き、夜風が吹きつけてきた


「・・・・・・・・」


振り返り、ゆっくりと窓に近づいていく・・・・・と、その時だった。
何かが窓から吹きつけてくる風に乗って部屋の中に紛れ込んだ


「・・・・・?」


意識は窓に集中しまま男は数歩下がって、入ってきた何かを確認するため身を屈めた


「魔法札か?」

「ただの紙でございます」

「!!?」


ぐるりと、男の首に何かが巻きついた!

右手に持つナイフで首に巻きついた何かを切ろうとしたのだが、右手も何かにつかまれて
ものすごい力で拘束された


「カッ・・・・・ガ!!」


首に巻きついて来た物が、目の前にその鎌首を持ち上げたおかげで正体が分かった



蛇だ


2mはある巨大な蛇の胴が首に巻きつき、右手にも絡まり男を拘束してしまっている
未体験の恐怖に背筋からドッと冷や汗が吹き出し、床に倒れ伏した。

転がりながら蛇を解こうと暴れるが、蛇は締め付けを強めてくる


「!!    !!!?!  !!!!!!!!!!       !」


男が転がりながらも、それを捉えた

窓辺に佇む一人の男・・・・執事服を身に着けた中年の男が立っていた


「―――――」


助けてくれ、と声を出そうにも蛇の締め付けによって声を出す事は出来ない
執事の男はゆっくりと近づいてきて、倒れこんだ男の顔を覗き込む

そして、緩やかに蛇の長い胴を撫でていく

男が蛇の身体を撫であげれば・・・・それに呼応するかのように蛇の締め付けが強烈になる。

まるで首が万力に挟まれたかのように、ロクに息もできず、男は酸欠状態に陥っていた
だが紳士の男、ベンは更に蛇の体を撫でる手をやめなかった


「ぎ・・・・・・・・・・・ぃ・・・・・・・・・・ぇが」


徐々に、メキメキメキと骨が軋む音が聞えてくる・・・・


「・・・・・・・・・」


眼球が大きく突き出て、口から赤い泡を吹き出し始め、身体中がビクビクと痙攣を始めた
骨が軋む音が更に大きく聞こえる・・・・

メキメキ・・・・・ メキメキ・・・・と・・・・


「・・・・・・・・・」


そして・・・・・・









――――――――――――――――バキッ








・・・・・へし折れた





蛇は自身が巻きついている獲物が動かなくなった所で・・・・・ゆっくりと締めを解き
まるで帰るかのようにベンの体に巻きつきながら登っていく

締め上げる事はなく、そう、飼い主の元に戻ってきたのだ


「・・・・・・・・・・」


ただ一礼をして・・・・・ベンは部屋を出て行った
















礼拝堂

月明かりがステンドグラスを通って降り注ぎ、十字架を鮮やかに・・・・しかし妖しく映やす
ステンドグラスに描かれているのは「主」であり、主は楽園に導く先導者として君臨している

そんな主に向って祈りを捧げているのはチェリィである。


「我は迎える、一つは諸々の所業を許され救いと許しを請う魂」


チェリィはゆっくりと目を開けて眼前を見据える
そこには・・・花束に抱かれ、眠るように死んでいるリアの遺体が棺桶の中に安置されていた


「我は迎える、二つは諸々の所業を許さず審判を受けるべき魂」


眠るリアの頬を、その指で触れて・・・・愛おしげにチェリィはリアの顔を覗き込む
彼女の顔はまるで天使そのものだ、息をしていない彼女だが・・・・今にも眼を覚まして
起き上がるのではないかとすら思う


「我、白銀の棘への道開かん、彼らにその標を建てん」


彼女の唇をなぞる・・・・・チェリィは物悲しげな表情で顔を上げた。
彼女の目の前には十字架、そして・・・

その十字架を挟み込むように、鉄の処女(アイアンメイデン)が二体・・・・並んでいた


「恐れを隠し主に捧げよ、憤怒をもて誘え」


チェリィは静かに立ち上がり、十字架の左に設置された鉄の処女に近づき。
懐から石を一つ・・・・取り出して置いた


「彼の裁き、落ちゆくべき汝ら諸々に等しく与えん」


今度は十字架の右に設置された鉄の処女に近づき。同じ石を一つ、取り出して置く


「主の下へ送られ、祝福され、召される事を祈られるものは幸い」


チェリィはゆっくりと振り返り、リアが眠る棺桶の元へと帰ってくると
棺桶を前にして再び祈りを捧げた


「哀れなる魂は御心と共に、愚かなる魂は御心の元、滅びを下したもう」


石が置かれたアイアンメイデンが独りでにその扉を閉じ、独りでに鍵が掛かる・・・・


「・・・・・・・・・・・」












女が二人・・・・泥酔しながらも、お互いの肩を支えあいながら酒場から出て来た


「んん〜〜〜〜〜ぃひ、あーれ帰るぞ〜」

「やぁあ・・・・かーえーらーなーいー・・・・・まだ飲むぅ」


酷く酔っているのか呂律が回っていない。フラフラと危ない足取りのまま
長く暗い路地を歩いていく


「あひたも仕事・・・だってぇえ、ボチュがいってたじゃあん」

「仕事・・・・なんてやってられるかぁああああ!!アハハハハハハハハハハ!!
今日私は頑張りました!!頑張っちゃった〜・・・・」


手に持つ酒瓶を思い切りカッくらい、女性とは思えないゲップを吐き出した


「こ〜んなちいちゃな〜・・・・女の子・・・・をさ〜殺してさ〜・・・・も〜、六年位
働かなくて、いいと思う程〜 おっきな仕事を〜・・・・やっちゃったあああ」

「アハハハハハハハハハハハハハハ!!キャハハハハハハハハハハハハハハハァ〜?」

「だいた〜い・・・・ガキがこ〜んな所をうろついてんじゃないって〜〜〜の!!
犯されてーのか?犯されてーんだろ〜・・・・捕まえて〜ゲロ共に犯させてから〜〜
殺してやったほうが〜〜〜〜んふふふふ♪幸せだったのかんぁ〜〜?

「幸せ〜〜・・・幸せよぉおおお・・・・わらしがいふんだから、間違いないのだ!!」


二人は大声で笑いながら歩いていく・・・・・フラフラ、ヨロヨロと・・・・


彼女等が歩く先に、一枚の「札」が落ちている事にも気づかずに










「・・・・・・・・」


チェリィは、静かに右手を大きく中天に翳す


『よぉ〜し!!もう一軒いくぞおおおおおお!!飲むぞオオオオオオ」

『キャハハハハハハハハハハハハハ!!アッハハハハハハハハハハハハハ!!」


・・・・裁きの時きたれり、札の真上に二人の体が差し掛かる











「ハレルヤ」










フィンガースナップが高らかに礼拝堂に鳴り響き・・・・

二つのアイアンメイデンの開閉部の隙間から、血飛沫が上がった。







「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


アイアンメイデンの中に入れた石は チェックストーン

転移札に魔力を籠める際に同時に魔力を籠めてやると
その札の転移先をチェックストーンのある場所へと転移させる事のできる代物である


「・・・・・・・・・」


チェリィは・・・・中天に翳した右手を下げ・・・・その右手で自分の両目を隠す


「・・・・・・ック!!」


まるで三日月のように・・・・少女は歓喜に歪ませた口元で、吐き捨てるように笑った



















男の顔には緊張の表情が浮かんでいた

目の前には・・・・20分前に抱いていた女が、喉にナイフを突き立てられて死んでいる
もちろん、その女は自分達の組織の一員であった女だ、その女が殺されている
と言う事は自分にも危害が及ぶ可能性がある・・・・


「・・・・・・・」


交わりをしていた中で・・・・女は一度湯を浴びると言って部屋を出た・・・・
しかし、何時まで経っても出てこない事から、風呂場へ様子を見に行ってみたら
女は湯船の中で喉笛にナイフをつきたてられて殺されていた

すぐ近くの部屋に居たのにも拘らず、何も気づかなかった

風呂場に入っているならば、自分を殺そうとした相手に気づき声をあげたり
抵抗して水音の一つも立てるのではないか・・・・

そのような事が一切なかった・・・・その尋常ならざる状況に、男はかつてない恐怖を
感じていたのだ


「・・・・・・!!」


慌てて背後を振り返るが、何もない・・・


「っ!!」


急いで部屋に戻った・・・・・机の上においてある剣を手に取って引き抜いた


「・・・・ふ・・・・ふぅー・・・・・」


息を吐き、呼吸を落ち着かせると・・・・・ゆっくりと剣を引き抜いて構える


「・・・・・・・・・」


パシャ


「!?」


水音・・・・水滴が落ちた音にしては大きすぎる。
男は息を殺し、剣を下段に構えながら。再び廊下に出ると風呂場へと進む


「・・・・・・・・・」


風呂場の入り口の壁に張り付いた・・・・中に敵がいるならば、出て来たところを
叩ききれば良い・・・・剣を握る手に力を入れた


ギ・・・・


「!?」


床が軋む音・・・・

廊下の先を見てみると、窓から差し込む月明かりに人の足が見えた


「(へ・・・・自分から出てくるとは・・・間抜けな)」


男は剣を構え、呼吸を止めて全身に力を籠める

そして、その人影を逃さないように全速力で走り出す。


「ああああああああああああああああああああああああああ!!!」


10歩、男は剣を水平に持ち。突きを放つ体勢で人影に突っ込む!!
ダン!!っと強い踏み込みと共に剣を突き出して、人影の頭にむかって剣を突き出した!!

しかし、ヒュっと人影はその突きをかわすと、男の左側、脇下をすり抜けて背後へ回る


「るぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


しかし、男は人影の動きに対応して・・・・左足で廊下を強く踏んで身体を右回りに反転
その遠心力を軸に背後に回った人影を追う様に凪ごうとした


ッド!!


剣が止まる・・・・

剣が止まった事に驚いて男の体が硬直。


「っ!?」


背後に回った人影の左手には銀色の刃が月光を受けて煌く・・・・
そして、剣閃が男の身体を左逆袈裟に切裂いた


「ッカ・・・・・・」


自分の体から鮮血が吹き出てきた・・・・・しかし、男は懐に忍ばせたナイフを引き抜き
その人影を刺さんと、ナイフを持つ右腕を突き出してくる

だが・・・・それすらも見切ったように、ナイフを持ち、突き出して来た右手首を右手で掴み
腕を掴んだまま背後に回る・・・・人影が背後から男を拘束するような体勢になり・・・・











ド!!









背後からナイフを突き刺した・・・・・刃は肺に到達する・・・・・


「・・・・・・・・・」


すっと、ナイフをずらしてやると、肺に空気が入り込み。
男は断末魔をあげることなく死に絶えた


男の拘束を解き、ナイフを引き抜く。男の身体を押して廊下に倒すと・・・・
正面から切った傷から大量の血が流れ出し廊下を赤黒く染めていく。


窓から差し込む月明かりが人影を照らす




「・・・・・・こんな狭い廊下で剣が振り切れるか・・・・間抜け」




テオフィルは・・・・静かに血に塗れたナイフを振り、血を飛ばした。


「・・・・・・・・・・」


テオフィルは男の屍の脇を通り抜け、男が剣をとりに言った部屋へと入る
そして周囲を見渡して、本棚に目をつけると一つのファイルを手に取った。

ファイルを開き、資料に眼を通していく。


「・・・・・・・・・・・これが、この街の絡繰か・・・・お前の推測通りだな」












〜翌日〜


「随分お世話になったね、急におしかけてきたって言うのに色々もてなしてくれて」


アンドレはソファに座りながら自分のバーコード頭を左手で撫でる
目の前に居るのは件の師団長 ミハエル・キャローナである、
ここは教会騎士団コヴァンツァ支部の支部舎だ、二人が居るのは最上階の師団長室。


「いえいえ、元老院総院長である方にもてなしができなければ、私の首が飛びますよ」

「別に、現役は野宿とか当たり前だったから良いんだけどね?」

「ははは・・・・敵いませんな。しかし・・・・今日発たれるとは急なことですな」

「うん・・・・もうこの街の様子は見る事が出来たから・・・・次の市長選も、そろそろ中央で
決めなきゃいけないから」

「私としては、ちょっとばかりアンドレ様に期待をさせていただいています」

「やめてよ、公平に物事を考えなくちゃいけない相手に期待するのは」

「はは、申し訳ありません」


アンドレは立ち上がり、部屋に飾られた絵画を鑑賞しはじめた


「・・・・ラドル・ベンジュ作のラブンリゴテ攻城戦」


なるほど、絵は独特なタッチで大勢の兵士達が大きく煌びやかな城を攻める様が描かれている
指揮者は・・・・絵を見つめている本人だ。


「貴方の戦歴の中でも、伝説的と呼べる一戦でしょう?通常、篭城している敵城を落すのには
兵の三倍の差を持って行うものを、まさか三分の一の兵力で攻め落としたのですから」

「ぅん・・・・あの時は知恵が良く回ったからね?・・・・・でも、悔しいなあ」

「?」

「僕、自分の戦いが描かれている絵画は自分で集めてるんだけどね。この絵は機を逃して
買えなかったんだよ・・・・」


ミハエルが立ち上がってアンドレの隣に並ぶ


「お譲り・・・・致しましょうか?」

「見返りなんてないよ、さっきも言ったけど・・・・僕、公平な立場だから」

「この絵も・・・・正しい場所に飾られたほうが喜びましょう」


アンドレはふふんと笑って別の絵を、美術品を見ていく


「シャバンナ作<行軍>にエブナハトラ作<ミトルシューラ城>・・・・おやこれは・・・・
ミルツベントの壷だね、アシュナカハの傑作ロブ神像まであるとは・・・・
ちょっとした美術館だねここは」

「恐縮です」

「ああ、ここのシェフに言っておいて欲しいんだ。毎日トリュフとかキャビアとか
黄金桃とか高級な食材をご馳走してもらって、あのバイキングというのも中々気に入ったよ」

「シェフも喜びますよ」


ミハエルは満面の笑みで頷いた

・・・アンドレが見るのは、ヴァン・ナハッタ作エゴ神の黄金像だ





「・・・・・・軍が資金を持ってないのに、よくこれだけの物を集められたねえ・・・・
都でも中々食べられない高級食材も・・・よく用意できたね・・・・・感心するよ」





アンドレはミハエルに振り返り、にったりと笑う・・・・
そして、懐から一枚の紙を取り出してミハエルに見せた


「!!」


ミハエルの表情が青ざめる


「・・・・・もう良いんじゃない?十分贅沢できたんだから、これ以上の物は望まなくてさ」

「・・・・・・・・どこでそれを」

「・・・・・都に帰るけれど・・・・君も一緒に帰ってもらうよ、もちろん、その手には手錠が
掛かってると思うけれど」

「っ!!」


怒気に歪んだ表情のミハエルは、腰に差したレイピアを引き抜いた!!














カフェでテオフィル、チェリィとベンがテーブルを囲んでいる。ベンとテオフィルは
珈琲を飲み、チェリィはミルクティーを飲む


「ある意味・・・・私達も間が抜けていたと言う事ね、こんな事に気がつかないとは」


ソーサーの上に紅茶を置いてふぅっと溜息をつく


「ミハエルはブラックマーケットに自ら息の掛かった組織を作り。彼らの保護と擁護を
条件に資金調達をさせていた・・・・表では公金をつかって善政を敷く者として人気を集め、
裏ではブラックマーケットを使って大量のブラックマネーを集めていた・・・・」

「中央の議員を買収するための資金や私服を肥やす金はそこから得ていたのですな・・・
あのブラックマッチメーカーは奴の飼いならしている組織のひとつといった所でしょう」

「他にも・・・・自分の意にそぐわない一部の貴族や豪商を、彼らを使って黙らせていた
といことね・・・・」


テオフィルはミルクと砂糖がたっぷり入った珈琲を飲む


「マネーロンダリングの記録と、その取引を示した書類を見つけ出すとは・・・・
今回はお手柄ね?テオフィル」

「・・・・・・・・」

「・・・・今は「ロドン」だったわね、ごめんなさい」

「・・・・今頃はアンドレがミハエルを捕まえているだろう・・・・これでこの事件は終わりだ」

「ええ・・・・なんだか感慨深いわ」

「・・・・お前達はこれからどうするんだ?」


チェリィはミルクティーを見つめながら呟くように言う


「このミルクティーを飲み終えたら、この街を離れるわ・・・・行き先はリアの生まれ故郷よ
せめて、彼女が楽しく過ごしていた時間が流れている場所に彼女を埋めてあげようと思う」

「・・・・・リアは、どういう子だったんだ?」

「あの子は三流貴族の家に生まれた娘です・・・・家の為に幼くして身を売られたところを
私達が買い取ったのです」

「・・・・・あの子はよく自分の故郷の話をしていたわ、とても嬉しそうに・・・・」

「・・・・らしくもないな」


裏社会に生きている者、しかも彼女は蝿と呼ばれる組織の頂点に君臨する女王バエだ
そんな彼女が、部下の一人を殺されて・・・・ここまで感傷的になるのは・・・・


「そうね・・・・・久々に貴方の顔を見たら、貴方の甘さに感化されたのかもしれないわ」

「・・・・・・・」

「貴方、甘党だから」

「・・・・・・・フン」


彼女はミルクティーを飲み干して、椅子から降りる。
それを見計らったようにベンは荷物を持って立ち上がり、彼女の横に着いた


「また何処かで会いましょう?お互い、生きていたら」

「・・・・その台詞を聞くのは12回目だ」

「それだけ悪運が強いのでしょう?お互い」

「・・・・・・・そうだな」

「それじゃあ・・・・また会う日まで、ごきげんよう」

「失礼します・・・道中ご無事で」


二人はそのまま店を出て行った・・・・・

テオフィルは甘ったるい珈琲を置き、街の中心・・・・教会騎士団支部舎をぼんやりと眺めた














「・・・・・・・」

「ご苦労様です」


イェータが部屋に入ってきてアンドレの背中に言葉を投げた


「ぅん、守備はどうだい?」

「滞りなく・・・・今日中に部隊が集結し、資料にある組織は全て捕縛できるでしょう」

「ご機嫌だ、うん、ご機嫌だね」


アンドレはバーコード頭をそっと撫でる・・・・


「それにしても良かったのです?テオフィル・カントルーヴと女王バエを逃がしてしまって」

「良いんじゃない?あいつの事結構好きだから」

「・・・・キモいです」

「言葉を変えようか、気に入ってるから・・・・かりもあるからさ」

「今回の事ですか?それならばペクティ・ゴンザレスを牢から出してやった事で
貸し借りはないはずですが」

「ダメだよ、彼を牢から出してやるのは・・・・僕らの正義の味方の「義務」じゃない?
彼は勇気ある行動者なんだから」


イェータは深い溜息をつく・・・・・アンドレが見上げる絵画を並んで見上げた


「これは?」

「君、絵画には疎いよね」

「・・・・・」

「これはガッサルト・メルクリウスが描いた絵でね・・・・ほら、二人の夫婦が幸せそうに
しているでしょ?」

「ええ」

「そしてほら」


アンドレが木の影を指すと・・・・そこには角と羽が生えた女の子・・・恐らくは魔物。
サキュバスがひっそりと二人の夫婦を眺めていた


「・・・・・・なんなのでしょうね?サキュバスが男を横取りしようとしている所でしょうか」

「この絵のタイトル、なんていうか知ってる?」

「だから知りませんって」


アンドレはフフンと笑ってバーコード頭を撫でた


「<見守り祝福する者>っていうんだよ」

「・・・・・見守り、祝福・・・・ですか?サキュバスがですか?」

「・・・・・そういう可能性もあるって言う事、僕達の様にね?」

「・・・・・・」


イェータはゆっくりと息を吐くと、彼女の肌の色が青く染まっていき・・・・
足がずるりと音を立てて変化した。


エキドナ


極めて高い魔力を有するラミア類の中でも最上位に位置する魔物である


「・・・・・君も、可能性の一つだよ」

「・・・・・そう言うのであれば、早く私に子を作らせてください」

「ん〜・・・・もうちょっとだけね?この国の為に色々やらせてよ」

「そうやって貴方を待っている間に、貴方の頭は随分枯れてしまいました」


アンドレは笑いながら自分の頭を撫でる


「そうやってるから禿げるのです!」

「あははははは、それじゃあ僕は後片付けをしていくからさ・・・君は部隊の編成と出迎え
の準備をしていて頂戴」

「・・・・・かしこまりました」


イェータは人間の姿に戻り、一礼をして部屋を出て行った
アンドレが溜息を一つ吐いて、ちらりと横を眺める


「・・・・・さて・・・・本国に帰ってから法廷で裁きを受けて、色々書類書いて・・・・
て思ったんだけどね?面倒くさかったから」


胸には抉られたような十字傷。頭、喉、腕、手、腹、太ももに剣をつきたてられ・・・
恐らくは絵画を飾るためにあけた壁のスペースに、死体が張り付けにされていた


「ここで処刑させてもらったけど、まあ異論はないよね?」


死体は何も答えない・・・・だが、アンドレはニッタリと笑った


「そう、同意が得られて嬉しいよ」


アンドレは窓を開いて、血なまぐさい部屋の空気を外に出す・・・・・
小鳥が目の前を通って、街からは笑い声が聞えてくる、そんな景色にやはりアンドレは笑う





「またどっかで会おっか?テオフィル君」

















テオフィル達はアトロの墓の前に居た・・・・墓と言っても石を積み上げただけの簡素な物
ペクティとバーバラも共にいて静かに墓の前で祈りを捧げている。


「・・・・・・・・アトロ・・・・お前のお兄さんは勇敢だな・・・・お前の仇をとってくれたんだ」


バーバラは地酒をアトロの墓に降りかける・・・・その様子を四人は静かに見ていた


「・・・・・・・しかし、奴等を捕まえる事は出来なかった・・・・まさか、何者かに
殺されてしまっていたなんて・・・無念でなりません」

「・・・・・・・」

「・・・・・奴等には天罰が降りたんだ。私はそれで満足さ・・・・それに・・・
お前達は真実を解き明かしてくれた」


そう、ヴァネッサは約束どおりバーバラに事の真相を話したのだった
そして、その真実を先ほどアトロの墓の前に報告をしにきたのだった


「感謝する」

「当然の事をしたまでだ・・・・といっても、私達はたいして何もしていないがな」

「・・・・お前達は西を目指しているのだったな?何故だ?」

「・・・・・実は、私の身体はサキュバス化に苛まれているのですの・・・・そのサキュバス化を
沈静させるため、アバルと言う国を目指していますのよ」

「ほう・・・・噂に聞くアバルに・・・・そうか、道中気をつけてくれ・・・・」


テオフィルはペクティを見る・・・彼はじっと弟の墓を見据えていた


「・・・・・お前は、どうするつもりだ?ペクティ」

「・・・・・そうですね・・・・まず、ここにちゃんとしたお墓を立て直そうかと思います。
これでは嵐が来てはすぐに壊れてしまいましょう」

「・・・・ありがとう・・・・ペクティさん」

「弟の為にしてやれる事はこれが最後ですから・・・・その後は・・・・まあ、色々考えます」

「色々?」

「ええ・・・・今回の事でいろいろと考えたんです・・・・人間と魔物について・・・・色々・・・
答えはまだ出ていませんが、とりあえず、魔物を理解してみようと思います」


それは歩み寄ると言う事だろうか?ベルベレットが挑む命題に、彼もまた挑もうとしている


「具体的な事はまだ何も考えてはいないんですけれどね」

「なら・・・・ペクティさん、私達の里に来てみないか?歓迎しよう」

「良いのですか?」

「ああ、是非ともな。我等はきっといい隣人になれる」


ハハハと笑ってみせるペクティ・・・・彼はいい笑顔を浮かべながらテオフィル達に向き合い
すっと姿勢を正して一礼した


「お世話になりました・・・・貴方方の道中の無事を祈っています」

「私も世話になった・・・・また近くに着たら是非寄ってくれ」

「ええ、そのおりは是非に」


それぞれはお互いに堅く握手をしあった後、テオフィル、レティシア、ヴァネッサは
二人に見送られて再び林の中を歩いていく・・・・・


「理解しあう・・・ですか」

「ペクティ殿の事か?」

「ええ・・・・あの小麦畑であなたが言ったように、あのペクティさんがそう思ったように
私も理解しあう事にしてみます」

「なんだ、突然」

「お互いを理解しあう事で己が何者なのかを確立できる。エルフは今まで拒絶する道を
選んできました・・・・しかし、それはとても悲しい事なのではないのかと思います」


レティシアは晴れ渡った笑顔でテオフィルの顔を覗き込む


「まずは、貴方方の事について理解する事にしますわ♪」

「・・・・・勝手にしろ」

「夫を理解するのも妻の役割だというし・・・・うむ、私もテオフィル殿を理解してみるか
まさかこんな日の高いうちに求められているとは思わなかったな」

「鎧を脱ぐな、求めてもいない、しっかりしろ」

「テ、テオフィルが言うのならば・・・・私だって!!」

「対抗するな!!しっかりしろ!!」

「勝手にしろと言ったではないか!!?あの言葉は嘘だったとでも言うのか!?」

「どんどん面倒くさくなるなお前」


テオフィルは溜息を吐き出し頭を抱える


「(・・・・・頭が痛い・・・・)」



林の中、随分賑やかな声が響きつつも、三人は西を目指して再び歩みだす

ゆったりと・・・・ゆったりと、西へ・・・・・・






                                            To be continued_...
11/03/01 23:33更新 / カップ飯半人前
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■作者メッセージ
読んで頂きありがとうございます
お久しぶりです、カップ飯半人前です、久しぶりでない人は始めまして。

インフルエンザとノロウィルスのダブルパンチを喰らい2週間程ダウンしていました。

今回のお題と言うのは何にも決まってはいません、ていうか最初はギャグで書いていたつもりがいつの間にかこんな話しに・・・・。
あえていうならテオフィルの裏の人間と言うものを描きたかったのですが
なんか必殺仕事人みたいなことになってました。まあいいか

毎度の事ながらご意見・ご感想、様々な指摘もよろしくおねがいします。

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