連載小説
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求める者達




今回は(特に)生々しい表現が入りますので、苦手なお客様はご注意ください

いや、別にバトルを繰り広げて欲しいわけじゃないんですけどね・・・・



                         by. Cap meshi han-ninmae














クラウディオ・バンデラスと別れたデイヴ・マートンは、無事山脈を越え森を抜け街に到達した
その後、町で備品を調達したあと再び旅路につく

ここから西に行くには森を迂回して検問所を通るか、それともそのうっそうとした森を抜けるか

しかし道はそれだけではない、北か南から迂回していけば検問にも引っかからず西に行ける


「俺寒いの苦手」


そういうわけで南へ向かう事にした・・・・















「えらい目にあった・・・・」


途中、アマゾネスが道中の村で「男狩り」をしている処に巻き込まれかけたり
寝ている所にあと1mの処におおなめくじが近寄ってきていたり
無邪気そうなフェアリーが目の前でスカートたくし上げられたときは理性のシーソーが揺れた

頭を抱えながら、目の前に見える村を目指している・・・・


「とはいえ・・・・後ちょっとでふかふかのベッドへ辿り着ける・・・・・」


しかし、ここでそうは問屋が卸さないのが彼の人生である。


「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」


何時の間に現れたのか・・・・いや、朦朧としてきた意識の中気づかなかったのか・・・・
道の横に4,5歳の一人の幼女が体育座りで座っていた


「・・・・・・・・・・」


じっとこちらを見ている・・・・

髪はワインレッドでショートカット、金色の美しい髪飾りをしているが紙はボサボサだ
服も、服とは言えずローブを纏っているような感じで、したには彼女の白い肌が見える・・・・

まあ・・・そこまでいけば彼女が路頭に迷った孤児だと言う事くらいは想像がつくが
問題であるのは彼女の体の特徴だ・・・

抱える膝から下は例えるならば鳥の足、そしてその膝を抱える手は鳥の翼だ・・・・


 〜セイレーン〜

主に海岸部に生息するハーピー種の魔物で、歌声で男性を惹きつけるといわれる魔物である


確かに南にはリアス式海岸が広がっていて海が近い・・・・彼女が居ても別段不思議な事ではない
だが魔物の孤児など居るのか?

知識には無い存在との遭遇にデイヴ・マートンの小さい肝は立ち上がってフラメンコを踊る

据わっていない


「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・食べ物、見つけた」










三 へo>         三 へo>
三 /> マテー     三 /> 









「まてまてまてまてまて!!!」


幼女がデイヴを組み伏せて目の前で大きく口を開けている、魔物は人間を喰らうというのは
眉唾物だという事は一応知っていたつもりだが
魔物でも空腹が過ぎればカニバリズムを思い出してしまうのかもしれない

大口を空けて喉に喰らいつこうとする彼女の顔面を押さえつけてストップをかける


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」

「ぐぉおおおおおおおおおお!!」


幼女、デイヴ・マートンの腹部へ向けてラッシュ、翼なのにかなり痛い


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」                    

「くがあうぇええええええええええ!!」


幼女、デイヴ・マートンの腹部へ向けてひたすらラッシュ、翼なのにかなり痛い


「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!」

「ぐぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ!!」


「アリーヴェデルチ(さよならだ)!!」


ゴスゥ!!


「おま!トドメを股間を・・・・」

「おとなしく喰われろぉおおおおお・・・・・」

「め、飯ならやるから!!とりあえず喰わないでくれ!!」

「!!」




幼女は正座待機  ワクワク(´゜ω゜)テカテカ


デイヴは自分のバッグの中から干し肉をいくつかと、水筒・・・・カチカチになったパンを取り出し
チーズを添えて布の上に広げてみせる


「ほれ・・・・どうせ次の村はすぐそこなんだ、全部食っちまえ」


幼女はまるで見たことも無い宮廷料理を目の前にしたかのような目の輝きを放ちながら
涎をダラダラとこぼしながらそのご馳走へと喰らいついた


「はぁ・・・・・」

んぐんぐ( ゜ω゜)んぐんぐ

「・・・・・」

ペカ――( ゜∀゜)――――

「・・・・・美味いか?」


幼女・・・・・もとい、セイレーンの少女は何度も頷く・・・・
こうしてみると人間の少女となんら変わらない・・・・


「・・・・・お前、親は如何した?」

「・・・・・知らない・・・・一人」

「そか・・・・一人か・・・・」


セイレーンはひとしきり食べ終わると、けぷりとげっぷを吐き出す


「・・・・・お世話になりました」

「あ、ああ・・・」

「おにーさん、名前は?」

「デイヴ、デイヴ・マートン」

「・・・・・デブ」

「おい、こら」

「ぱーてぃーじょーく」

「あらゆる面で違う!」


セイレーンは立ち上がると律儀に一礼してテコテコと歩き始めた・・・・
これが魔物ではなく人間ならば動く情と言う物があるんだが


「・・・・・・じゃ、ありがとう」


喉まででかかった言葉が「種族」という突起に引っかかる・・・・

結局デイヴは彼女の後姿から目を背けて村の方へと歩き出した














 〜海辺にある小さな村〜

世の中には悪意の無い村と言える場所がある。村の規模が小さすぎるか、それとも主産業が乏しい場合は貿易はあまり発展はしない。故にブラックマーケットが存在しない。

この村は恐らく漁業くらいしか主産業が無いのだろう、隣の村までの距離もかなりある・・・
つまり自給自足の生活を送っている連中が殆どだ。

そういう連中にとって行商人とは重宝されるのである。
都市部で一般的に流通している物でも、こちらではかなりのレートで取引されたりはしている

幸い、行商人は久方ぶりらしい・・・・一夜宿屋でぐっすりと英気を養ったデイヴ・マートンは
翌日から行商人として村人たちと商品を交換した。
表の行商人の顔でかなり儲ける事が出来た


「〜〜♪」


そんなわけで、その日の夜になると、彼は酒場がないため村の大衆食堂へ繰り出した。


「やあ、行商人さん。景気がよさそうだね」

「ああ・・・・お互い様」

「ここでばら撒いてってくれよな」

「やだよ・・・・と言いたいが、今日は羽振り良く行こうか」

「よしきた」


店員も気前良く高価そうな酒を出すと並々とカップに注いでいき、後ろで料理を作っていた
娘が出来かけの料理を手際よく完成し・・・・・店主はデイヴの前へ料理を出してくる

デイヴは出された料理にフォークを突き刺し口に運ぶ


「美味い・・・・・」

「へへ・・・そりゃあうちの娘が丹精籠めて・・・・」

「美味い・・・」 (´;ω・)ホロリ

「お、おい・・・・泣いているのか」

「こんな美味い料理食べるの・・・久しぶりだ・・・・」


ちなみにこの言葉、先日の宿に止まったときにも言ったのだが・・・
こういうと大体気前のいい奴はまけてくれる


「へ、へへへ・・・・そうかい、それじゃあその皿二つはただでいいよ、どんどん食ってくれ!」


こうなるわけである、人情とは世の中を渡るに当って必要な物でった
デイヴは心の中で「しめしめ」と典型的にほくそ笑んで魚料理を口へと運んだ


「あ――・・・・・





<てめえ客に向ってなんだその態度はぁああ!!





別に、大衆食堂ではよくあることだ・・・こうやって難癖をつけて飯代を巻き上げようとする奴は
どこにいってもいるものである

怒鳴り声からして「何時もの事だ」となれた感じでスルーしたデイヴ


<だから!!代金さえ払ってくれりゃあ飯でも何でも食わせてやるっつってんだろ!

<だからって何で俺は先払いなんだよ!他の客は皆後払いだろうが!

<あんたはいつもツケツケっていって金を払わないんじゃないか!飯が喰いたけりゃ金出しな!

<んだとクソババア!!


静かに食事を取る事もできない・・・・デイヴは横目でその現場を見ると、初老の男と女将のような
女性が言い争っている


「またあのクソ野郎か」

「誰だ?」

「クソッタレだよ、喰いたいだけ喰ってあとはツケにしろだなんていうクソッタレさ」

<聞えてんぞクソ坊主!!


男はちかくの客のスープを手に取ると思い切りこちらに目掛けて投げつけてきた!!


「! ぶねえ!!」


デイヴは席を立ってスープをかわすと、座っていた場所にスープがぶちまけられる
あやうく大火傷を追うところであった


「のやろ・・・・!!」


店主も流石にその暴行には怒りを覚えたのか男の方へと腕まくりをしながら歩いてくる


「ぉ、なんだ洟垂れ坊主がやる気かよ?ええ?」


男の挑発など意味が無い、沸点が低い店主はすでに沸騰しているのだから・・・
店主は一直線に男に向って早歩きで歩いていき思い切り右腕を振り上げた


「ゥウウアアア!!」


暴力的な本能をむき出しにして硬く握った右手の拳が顔の横まで持ち上げられると
そのまま捻りを加えながら男の顔面へと叩き込む!!


「ブゴ・・・・」


強烈な一撃は男の左頬を的確に捉えると、そのまま折り畳んだ肘に遠心力を乗せて伸ばす

拳につれられるがままふわりと男の体が浮いた








「ううううううううううううらああああああああああああああああああああああああああああ」








ボン!!と、空気がはじける音がして空間に波紋が走る
その音と共に男の身体は錐揉みの回転をしながら

凄まじいパンチ

そのパンチ一発で男の身体は錐揉みをしながら店の開いたドアの入り口の方へと吹き飛ばした


「ちょ、ちょっとお父さん!!」

「(空間揺れてたぞあのパンチ、あの男生きてるのか!?)」


良く見てみると、入り口の向こう側で男が立ち上がっているのが見えた


「(生きてる〜・・・)」

「二度とくんなボケェ!!」


テーブルの上にあるフォークを店主が投げつける
その投擲もハンパなく、フォークを投げた衝撃で空気が爆発して大気の波が周囲を駆け抜ける

チュゥウン!

まるで弾丸が硬物質に当った時のような音が聞えてきた、あくまでフォークである


<ち・・・・


外に居る男の安否を心配していたが、男は思い切り元気に立ち上がって


<明日またくるからなああああ!!料理作って待っときやがれ!!

「くんのかよ!!」Σ( ゜Д゜)


男は去っていった・・・・

不機嫌そうな店主が鼻息荒くして元居た場所(デイヴ・マートン氏の目の前)に帰ってくる


「驚かせちまったな」


本当に


「すぐに新しいの作らせるよ」

「い、いや・・・食べ物は粗末にしちゃいかないから・・・このままでいいよ」

「そうかい、それじゃあこの料理は全部ただにしてやるよ
おいチャル・・・スープだけ拭いといてくれ」

「はいはい・・・全く、ノエルさんが来るといつもこうなんだから・・・ごめんなさいね」

「いや・・・」


デイヴはスープの掛かっていない右隣の椅子に座りなおし、料理をずずっと自分の目の前に
持ってくる


「あの男、この村の男か?」

「・・・・ああ、あいつはノエル・ベイルって奴だよ。ここから少し離れた小屋の中に住んでる」

「昔はあんな人じゃなかったのにねぇ・・・」


女将がぼやく


「昔は昔だ、今はクソ野郎だろうが」


どうやら昔からの顔なじみらしい・・・・


「まあ、何処にでも居るよ。昔はいい奴だった奴なんて・・・・」


あの二人もそうだった・・・・オリヴィエとセヴリール・・・・彼等は元気に・・・シているんだろうな

別にデイヴはゲイと言うわけではなく、ちゃんと女性に興味のある健全な男子だ
ただ、まだ魔物に性欲の方向を向けるには抵抗がある、なにより彼女達につかまれば
自由を愛するデイヴ・マートンは自由を捨てて魔物を愛してしまうだろう

彼はそれが嫌だった、拘束を嫌うタイプである


「(あ、でも旅についてきてくれるんなら・・・・いやいや・・・・)」

「ま・・・・あいつの場合、ちょっと特殊なタイプだけどな」

「ん?」


先程の男の事だろう


「特殊って言うと・・・・変な薬でもやったのか?」

「まさか、ここは見ての通り小さい漁村だ、薬なんてまわりゃあしねえよ」

「だろうな・・・・すると何か別の原因があるのか」

「あんまり面白い話じゃない」

「そういわずに、そういう話し・・・興味あるからさ」

「・・・・」


店主はやれやれといった具合に溜息を吐くと、話を始めた


「今からもう30年は前の話でな・・・ノエル・ベイルは、この村で漁師をしていた男だ。
当時の俺がこんくらいのガキだったからまあ間違いない・・・・当時は村一番の若手漁師で
ベテランの連中からは期待されていたお株だったわけだ」

「その漁師さんがなんでまた」

「・・・・ある日忽然と姿を消したんだよ」

「はい?」

「で、一年位前に戻ってきたんだ、あの通りクソ野郎になってな」

「はい?」

「帰ってきたと思ったら今度は小屋の中に引きこもって親父の真似事なんてしている」


どうにも話が見えない・・・と、こちらの疑問を感じたのか店主も罰が悪そうに頭を下げる


「すまんな、アガーダ・ベイルって知ってるか?」

「ああ・・・あの「瞬きの聖女テモ」の彫像を彫った天才彫刻家・・・・・ってまさか・・・
あのアガーダの息子なのか!?」

「そうさ、あの息子だ・・・・・あいつは帰ってくるなり石を掘り出したんだよ。録に技術も
ねえくせに一人前の職人気取りだ」

「・・・・その30年の間なにがあったんだ?」

「シラネエ」


30年も行方不明になっていた男がある日突然帰ってきたか・・・


「ただ、今でも言われてるのが。魔物に連れ攫われていたんじゃねえかって話しだ」

「魔物に?」

「ああ、何を間違えたのか魔物に食われずに、魔物と一緒になっていて・・・・その魔物が
死んだから帰ってきたって、皆そう思ってる」


そう、まだこの辺の所には魔物は人を「性的」に襲うのではなく、人間を食べるために襲う
と信じられている。

いや世界の大体の常識はそうだが。その実体は教会の教えによって湾曲されているのが事実だ
魔物は人間を食べたりはしない、まあ・・・・

先日喰われかけたが

大体は喰ったりなんかしない、大体の魔物は有害ではあるが人間には友好的である
その事を知っているのは、彼の様に「教会の道義」から外れて、真実を目にした者だけである


「ふぅん・・・・喰われずに帰ってくる・・・ねえ」


フォークをカシカシと噛みながら考える・・・

魔物と一緒になった人間が解放されることは稀だ・・・・それこそ喰われたりはしないが一生性奴
として搾り取られる運命にある。(まあそこに愛があるからこそ悲観的でもないが)
そこから帰ってくるとなると・・・やはり彼等の言うとおり、その魔物が死んでしまったのか

今まで愛していた人物を失って変わる・・・それは相手が魔物であれ人間であれ同じなのだろう


「(人間って怖いねえ・・・・)なんだか信じられない話しだな、魔物に連れ攫われて帰ってくる
なんて・・・・それだと本当に魔物に連れ攫われた怪しくなるな」

「まあ推測なんだけどよ、あいつが帰ってきてからあるモノが出るようになったんだ」

「あるモノ?」

「魔物のガキさ」

「・・・・・・・・・!」










 〜宿〜

宿屋の自分の部屋に戻ったデイヴは荷物の中から一つのアイテムを取り出した・・・・それは、
髑髏がついた羽ペンである。一枚のメモにペンでスラスラとある人物の書いていく

 Velverett

紙は白い光ではなく、真っ黒なエネルギー体を発生させはじめる。デイヴはそれを床に落す

エネルギー体は徐々に形となっていき、二つの影が出来上がった
小さな影と大きな影・・・・・それらが一気にはじけ飛んで、ベルベレットが現れた!!










「変・・・・・・・・身!! ・・・・・・・・・・・いや、もう少し手が上だったか・・・・!?」









ベルベレット・アナスタシア 21:39 変身ごっこを目撃される

















「で、何の用じゃ」


むっすぅううううう!!っと不機嫌な顔をしているベルベレット氏


「いや、まあ・・・・安心しろ、夢見る奴だったら誰もが一度はやってるから。かめ○め波とか」

「は?テクマクマヤコンテクマクマヤコンじゃろ」

「は?」

「は?」


何の呪文だろうか・・・・


「まあよい、それで何の用じゃ?儂は今色々と忙しいのじゃ」


変身に夢中になっていたんですね、わかります


「いや、面白い人間をな」

「見つけたのかえ?」

「ああ・・・・ノエル・ベイルって男だ」

「ゆっくりと話を聞こうではないか」


デイヴがベッドに座ると、ベルベレットも同じように座る・・・・デイヴの膝の上に


「おい」

「なんじゃ?」

「普通に横に座れ」

「なんじゃと?お主こんなピチピチの女子が膝の上に座って嬉しゅうないのかえ?」


マジ信じらんねえ・・・・みたいな顔でこっちを見上げている・・・
少女らしい女のこの匂いがどうにも鼻先をくすぶる


「やれやれ、仕方ないのお童貞は」


もそもそと膝の上で動く


「しばくぞ」

「ケツをか?」

「カメリアさんを!カメリアさんを呼んでくれ!!こいつ一方的な会話のドッヂボール
してきやがる!!」

「カメリアは今尋ね人を探して別行動しておる、明日の朝までは戻ってこん」

「・・・・・はぁ・・・とりあえず、話をしていいか?」

「〜♪」


結局膝の上からは降りなかったベルベレットは、上機嫌に頷いた


「苦しゅうない、申してみろ。そのノエルという男はどう面白そうなのか」


デイヴはベルベレットに食堂で聞いたノエルの話を彼女に伝えた

30年間行方不明になっていた男が帰ってくるなり彫刻家になって石を彫り始めた
そしてその男が帰ってくるのと同時に、村の周辺には一匹の子供の魔物が出現したこと


「ふぅむ・・・・基本的に魔物は人間よりも寿命は長い・・・・人間より先に死ぬ事などまず無いはず
なのじゃがなあ・・・・なんらかの原因でその魔物が死んでしまった・・・・非常に稀なケースじゃ。
なるほどそのような人間がなぜか彫刻を・・・確かに興味深い」

「それで、俺はこの街に来る前にその魔物にあったんだよ」

「子供の魔物にか?」

「ああ、ありゃセイレーンだ」

「セイレーンか・・・・歌で人を魅了するハーピィーの仲間じゃな」

「あの子は親は知らない、一人って言ってた・・・・」

「むぅ・・・・・」

「面白いかどうかは置いておくとして・・・・興味深い人間だと思うぜ」

「そうじゃな・・・・・うむ、一度話をしてみようかのぉ・・・・」

「それで・・・・・」


先程から話をしている時から、ベルベレットはぐりぐりとお尻をこちらの股間に押し付けて
心なしかそのもふもふの手袋でこちらの股間を時折さすってくる


「人が真面目な話をしてるのに何をしとるんだお前は」

「ん〜♪は〜てなんじゃーろなー」


魔物とは恐ろしい物だと再確認する

こんな小さい身体でも、女としての色香・・・・オーラがまるで人間とは違う
柔らかい体つきに、一挙一動にしながあり、その表情は何処か艶がある・・・・

不覚にも情欲に駆られてしまっている自分が居る事にデイヴは心底自分と言う存在が嫌になる


「お前、他の奴等にもこんなことしてんのか?」

「ぬ?」

「人間様の価値観で言わせて貰って無礼かも知れねえが、体の安売りなんざするなよ
もうちょっと自分を大切にしろ」


そういってベルベレットの脇から下に手を入れて抱えると、そのままベッドの横に置く
だが、ベルベレットはきょとんとした顔でこちらを見てきている


「なんだよ」

「・・・・・・プ!」( ゜3゜)<・*:.

「何吹いてるんだ!」


唾が顔面にかかった


「プハハハハハハハハハハハハハハ!!デーイヴよ、お主もしや妬いておるのか?」

「しばくぞ」

「ケツをか?」

「・・・・・・」

「・・・・・・ははは、そう拗ねるな」


ベルベレットはぼふんと背後に倒れるとグ――――っと身体を伸ばす


「・・・・・クゥ・・・・ふ・・・・・以前、儂は半人前じゃといったじゃろう?」

「言ってたな・・・・一人前のバフォメットになるために色んな人間を見て見解を深めていると」


ベルベレットは起き上がって、目を瞑って頷いた


「本来、バフォメットと言う種族はこんな事はせん。もっと自らの欲望に忠実であるし・・・・
幼子の背徳道義こそが絶対だと信じておる」

「はぁ・・・」

「儂の様に、成熟した女の身体を見事と褒める事もなければ。ましてや見解を広げる事も必要と
せんのじゃ、全ては書や親、先達が教えてくれる・・・・・・じゃが儂はそうはしなかった」

「・・・・・・・」

「儂はもっと、世界と言うものを知りたいのじゃ・・・・この目で・・・・この耳で、そしてこの手で
感じた物こそが真実であろ。それを貪欲に求めてゆきたい」

「・・・・あんたはどこか人間臭いよ」

「母君や、姉君にもそう言われたわ・・・・心底呆れられておられた」


家族からは応援されては居ない様だ・・・・人間で言えば、熱心な信者の家に生まれた子供が
世捨て人になるようなものかと、自分の事を棚に上げて理解していた


「わしは生まれて50年あまり・・・何かを見る事を優先してきたが故、人とはあまり関らん」

「・・・・・どういうことだよ、色んな人間を見てきたんだろ?」

「見てきたとも、じゃが・・・・殆どは「見てきた」だけじゃ。お主のように言葉を交わすこと等
殆どない・・・・・いや」


ベルベレットは真っ直ぐ、凛とした顔でこちらを見てきた




「こうしてゆるりと人と話をするのは、お主が初めてじゃよ。デイヴ」




そういうと、彼女はどこか安らいだような表情をしていた・・・・


「・・・・寂しくは無いのか?」

「一人ではないからの・・・・それに、空回りをするよりはいい」

「?」

「それが故、儂は未だに処女じゃ」

「・・・・・・・・・・・・は?」


なにやら今信じられない言葉を聴いた気がする・・・・・


「人を見ている間に、不可思議にもバフォメットであるわしの中に「貞操概念」という物が
生まれてしまっての・・・・中々処女を散す覚悟がつかんのじゃよ。それが故、
男を誘った事も無ければ交わった事もない。」

「・・・・・・・・・」


デイヴの神妙な顔を見てベルベレットはごろりとデイブの膝の上に寝転ぶ


「ん?ぉお〜〜?なんじゃ、儂が誘う男は自分が初めてとわかって興奮したかの?」

「だったら・・・」

「ん?」

「だったら、尚の事こんな事するな」


驚いた・・・


「・・・・・・」

「興味本位かどうかは知らないが、気分で相手を挑発なんてすんな。おれがその気だったら
どうするんだ」

「・・・・・・・・そうじゃな、儂も浅慮であったわ。すまぬ」


謝ったは良いが、ベルベレットはフフフと笑って静かに目を閉じる


「明日一番にその男の所へ向かおうか・・・・暫く眠らせてくれ」

「ならベッドで・・・」

「主の膝枕が良い・・・・・」

「・・・・・・・・・」


そう告げるとベルベレットはころりと静かに眠ってしまった・・・・


「・・・・・・・」


よくよく見れば彼女の眼の下にはクマが出来かけている・・・・何日か寝ていないのだろうか
すやすやと寝息を立てる彼女の顔は見た目どおりの少女の寝顔だ。


「(けど、中身は50いくつのババアなんだろうな)」

「くぴー・・・・・・」

「(・・・・・半人前・・・・か)」


まるで妹が出来たようにも思えるほど、デイヴも安らぎを感じざるを得なかった
そっと彼女の絹のような心地よい肌触りの髪を撫でてやると、彼女は幸せそうに身じろぐ


枕に腕を伸ばしてひっぱり、自分の頭の所において・・・・・・ランプの火を消した


「おやすみだ、ベルベレット」

「・・・・くぴー・・・・」




















「お部屋に居られず、もしやとは思いましたが・・・・・」


・・・・朝の木漏れ日が差し込む部屋の中、カメリアが一人ベッドの上を見下ろす


「・・・・・御快眠されたようでしたら、なによりです・・・これからは私が申し付けるより
デイヴさんに添い寝をしてもらう事にしましょう」


カメリアはくすりと笑ってベッドの上で眠る二人を見る






「本当に・・・・仲のよろしい兄妹のようですね・・・・」





デイヴの広げた二の腕を枕に眠るベルベレット  とても幸せそうな寝息をたてていた














 〜村〜


晴れた朝、海の陽射は冬でも眩しく。そして寒い
そして宿屋から出てくる三人の影・・・


「さてと、それでは参ろうかのぉ」


人間に化けたベルベレットとカメリアは意気揚々と歩いていく、後ろにデイヴ


「お前元気だな」

「まだまだ若いからのぉ」

「・・・・・・そういえば、なんで宿屋から出て来たのにお前等の事を皆はスルーしていたんだ?」

「ご説明いたしましょう」


カメリアは真面目な顔をしてこちらを向く、その表情はいつになく真剣でただならぬ雰囲気
を醸しだしている・・・・よっぽどの事情をつくりあげたのか・・・・


















「洗脳しました」










「たまにあんたって凄まじい直球みたいな魔球投げてくるよな!!」

「会話ドッジの炎の闘球児とお見知りおきを」

「炎のショットかよ、誰もついてこれねえよ」

「(こいつらは一体何の話をしておるんじゃ?おいてけぼりじゃ)」


ファントム大魔球とか?知る人ぞ知る、知らない人は知らない
まあそんな殺伐とした話しは置いておいて by. Cap meshi han-ninmae


「その男は村から少し外れた所にある小屋にいるらしい」

「そこで一人でシコシコと彫刻を掘っているわけじゃな、寂しい男じゃ」

「そうだな、その擬音が無かったらその通りの意味だったのにな」

「ふむ・・・魔物を失った人間の末路か・・・・さてはてどうなっている事やら」


フフフと笑ってその人間と出会うことがとても楽しみのようなベルベレット・・・・

デイヴはその笑顔をみて少々不安になる

紹介をした手前、こうして相手の内情に触れさせるわけだが・・・・はたしてそれは他人が勝手に
入っていいものかどうか。これは道義に反していないのか・・・・


「なあ、ベルベレット」

「なんじゃい」

「そうやって多くの人間の生き様を見てきたんだろうけど、それを見て罪悪感をもったりは
しないのか?」

「ふむ・・・・それは、相手の内情に直接触れる事に躊躇いはないのか?という意図の質問かの?」

「まあ・・・・」

「そうよな・・・・」


ベルベレットは腕を組んでムフゥー・・・と息を吐いて考える


「私はあくまで観測者じゃ、相手の内情に深く踏み入る事は今までそうは無かった・・・・」

「?」

「つまり、マスターは観測されている対象からは見えない所から、その流れを見ておられるの
ですよ・・・完全な観測者に徹するわけです」

「・・・・・・そこに救える者があったとしてもか?」

「・・・・・・・・」


カメリアは静かに目を伏せる・・・・その手に、かつて触れる事ができた愛しき骨の感触が蘇る


「そうよな・・・・しかしなデイヴ・・・・お主の言うとおり、儂が手を加えて救える者もあるだろう
だが、同時に手を加えて潰れる物もある」

「・・・・・・」

「お主も分かるじゃろう、自分のした事で相手の人生を大きく変えてしまうことの意味を」

「・・・・・・ああ」


それは、かつて自分がサキュバスの血を売ってしまったセヴリールの事か・・・・
その前の・・・・クラウディオと言う男の事も、そこには自分が関って彼等の人生を大きく変えた

それが如何に大きな事か・・・・気づくにしてはあまりにも小さく、しかし尊い意味を持っている


「それにな、価値観の違う者が介入したとて・・・・そこに生まれる者は、美しくても歪な物じゃ」

「(・・・・・・お前は、人間の事を知りたいといった・・・・いや、相手の事を知りたいといったが
それを知るのは・・・・何のためなんだ?ベルベレット)」

「・・・・・何ぞ考えたかの?今のお主の心はよう読めん」


すっかり村から出てしまった・・・

バチィとカメリアとベルベレットの身体に電激が迸り・・・・人ならざる者へと姿を戻した


「参ろうぞ・・・・・・須く知りに」



















  〜小屋〜


「ココガ アノオトコノ ハウスネ!!」


「あんたの主人また頭のネジいかれたぞ」

「いつぞやデイヴさんの頭のネジも飛んでいきましたね、寒さで」※2話参照

「まあ、いつか言ってみたかったんじゃよ」


ベルベレットは何処からともなく、身の丈よりも大きな鎌を取り出すと


コンコンコンコン


「それでノックすんのかい!!」

「わしの手はこの通りじゃからの」( =ω=)つプニプニ


カメリアが首を捻りカメラに目線を向ける 


(・_・)b

「2回ノックはトイレノック、トイレの時に相手が入ってないかを確かめるためのノックで
3回ノックはプライベートノック、恋人や親類の部屋に入るときはこちら
4回ノック・・・こちらが正式なノックで、仕事や人様の家を訪ねたときに使用します。
マスターはきちんと4回ノックをしておられますが、昨今では3回が通例となっています。
ちなみにこれはジパングの仕様で、国によっては意味が変わるそうです・・・・お気をつけて」






「・・・・・反応がないようじゃの」


ドアの前でこれだけショート漫才を繰り広げても出てこないとは


「やはり彫刻相手に一人でシコシコするのが忙しゅうて・・・・今頃テクノブレイクを」

「テクノブレイクってなんだ?」

「俗語です、自慰行為の果てに本当に逝ってしまう事です」

「んなわけあるか!!大方まだ寝てるかなんかだろ!」


デイヴは再びノックをする、ベルベレットに比べれば激しく


「ノエル・ベイルさん、いらっしゃいますか?・・・・・・」


やはり返事は無い


「何処かへ出かけてるんだろ、出直そう」

「ふむ・・・・」


ベルベレットも肩をすくめる。
デイヴはドアから手を離そうとした時、不意に取ってのかどに上着の袖が引っかかり
ドアが開いてしまった。どうやら内側から施錠されていなかったらしい


「っと・・・・・鍵も閉めてないのかよ・・・・・・・・!!」


デイヴがドアを閉めようと後ろを向いたとき、一瞬その光景に身体を硬直させた


なんとそこには例のノエル・ベイルが横たわって倒れているのが見えたのだ!




「テクノブレイクじゃ!!」




違う


「てめえ不謹慎も大概にしろ!!おいおっさん!!大丈夫か!!」

「初対面の人間におっさんというのも不謹慎じゃがのぉ」

「のんびりしてねえでお前等も手伝え!!」


デイヴの怒りの突っ込みが響く小屋の中が一時騒然となった

























「・・・・・・・・・っ・・・・・ぅ・・・・」


覚醒する意識、僅かにぼやけた視界が見慣れた天井を映し出す、はて何時の間に眠たのか
昨日はあの洟垂れ坊主の食堂から帰ってきて・・・・彫刻を・・・・


「!!」


布団を振り払って当たりを確認する

ぼやけていた意識が一気に覚醒して、未知の恐怖と不安、凍える焦りが一瞬ノエルを襲った。
そして目が目の前に居る男と女、そして少女を捉えると、そのマイナスの感情によって
サっと血の気が引いたのが分かった


「ぉお、眼が覚めたのか」

「な、なんだあんた等・・・・」

「あ〜・・・俺はデイヴ・マートンっていう行商人だ。こっちはベルベレットとカメリア」

「うむ」

「どうも」

「・・・・・・・」


敵意は無いらしい・・・・それもそうか、もし盗賊か何かの類であればとっとと盗む物盗んで
おさらばしているだろう、もっとも・・・盗まれるようなものは無いが。

緊張が一気にほぐれて体中の力が抜けていく、男・・・ノエルは静かに目を伏せて頭を掻いた


「・・・・・俺はどうなっていた?」

「そこで倒れていた・・・・」


簡潔だ、思わず笑いが噴出す・・・・


「朝一に俺等が来て今頃だから・・・・大体・・・」

「8時間と23分です」

「らしい」


ようやく記憶が戻ってきた、水を汲もうと外に出ようとした時、持病の発作が発生して倒れた
そこをどうやら彼等の世話になったらしい


「行商人ってことは・・・・ああ、村の連中が言っていた奴か」

「昨日、食堂でスープを投げつけられたけどな、あんたに」

「へ・・・・酔っ払ってんのに人の面なんざ一々覚えてられるかよ・・・・それで、俺に何のようだ?
俺は今忙しいんだ・・・・・話なら手短にしてくれ」

「なら、手短に聞こうかの?」


口を開いたのは、栗毛の少女であった・・・・彼女はふふんと不敵に笑ってノエルを見てくる
へっ!と小さく笑うと訝しげな表情のままノエルをは口を開く


「・・・・・おめえさん、人間じゃねえな・・・そっちのあんたも」

「うむ、見ての通り・・・・バフォメットとスケルトンよ、こやつは人間じゃがの・・・・
魔物を見ても物怖じせんとは、そこそこに肝の据わった人間よ」

「・・・・高位の魔物様が一体俺に何のようだ?」

「そう急くな」


ベルベレットは椅子から立ち上がって腕組みをする


「お主・・・・確か30年前行方不明だったようじゃのぉ・・・・何処へ行っとったのじゃ?」

「なんで初対面の奴がそんな事知ってるのかは知らねえが、それを説明してやる義理が在る
のかよ?」

「主を看病してやったのは儂等じゃ」

「・・・・・・・恩着せがましい」

「対価じゃよ、金品要求されるよりはマシじゃろう」


行商人に冷ややかな目線を送るが、彼はとぼけたように肩をすくめて見せた


「・・・・・家内と一緒に生活していた」

「その家内と言うのは?」

「・・・・魔物だよ、セイレーンさ・・・・村人が噂している通り、俺はセイレーンの歌につられて
魔物といっしょになったんだ、んで・・・・家内が死んだからこうしてノコノコ戻ってきた」


自嘲気味にそう呟くと、溜息を一つ


「・・・・俺は昔から魔物は恐ろしいもんだって聞かされて育ってきた・・・・奴等は人間を誘い
その爪で肉を裂き、牙で腸を食いちぎり、その後は骨ものこらねえもんだってな」

「・・・・・・・・」

「だが現実は違った、デボラ・・・・セイレーンは、人間より遥かに淑やかで理知的だ。
彼女は俺の為に尽くしてくれたし、何より深く優しい愛情で俺を包み込んでくれた・・・・」


ノエルは中空に浮かぶイメージを抱くように腕を伸ばす





「天使だった・・・・」





彼女に心酔しきっている。それがデイヴが感じた結論であった

セイレーンは人に歌を聞かせる事で自らの魅力を伝えるという。恐らく長年そのデボラと
言うセイレーンの歌を聴き続けていたのだろう・・・・

しかしその歌が全てではないだろう、彼の言っている事も本物だ

デボラと言うセイレーンはノエルと言う男を愛し、そして彼も彼女を愛したのだろう


「それで・・・そんな幸せが30年ほど経った後、彼女が死んで俺は帰ってきた、んなところだ
もうジジイとなった俺は感も失って漁にもでれねえし、毎日くすぶってるって訳だ」


ベルベレットはふぅむと雰囲気に一区切りを置いた・・・・そして


「それで、娘は放ったらかしかの?」

「・・・・・何の事だよ」

「惚けんなって、この村に来る前に孤児みたいなセイレーンと出逢った・・・・あの子、お前さん
の娘だろう?そのデボラってセイレーンとあんたの間に生まれた・・・」








「あんなモン知るかぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!」








突如、声を荒立てて大きく怒鳴った・・・・彼はその事を強く否定したのである
はっとしたのか急にバツが悪そうに言葉を詰らせて俯き始める


「・・・・・セイレーンなんざこの世にはたくさん居るんだ、特に海辺にはな・・・・」

「・・・・そうじゃの、想像で物をたずねてしまったな。すまんの」

「あ・・・ああ」


ノエルは戸惑いながら立ち上がると三人を見渡す、例えようのない焦燥感が彼を急かした
彼等とはもう話す事は何も無いのだと・・・・


「世話になった事には礼を言う、これで話しは終わりだ・・・さ。出てってくれ」


ノエルは立ち上がると、ヨロヨロとした足取りで部屋を出て行こうとする


「ゲホ・・・・ゲホッゲホッゲホ!!ゴホ!!」


叫んだ事が響いたのか・・・彼は大きく咳き込むと、苦しそうに胸を掴む


「大丈夫か?」

「構うな!」

「・・・・あんたは彫刻を掘ってるんだってな、なんでだ?なんでそんな身体で・・・」

「青二才、てめえには関係ねえ」


ノエルは静かに小屋の奥へと身を消した・・・・・暫くすると、石を掘る音が聞えてくる
意外にもベルベレットは食い下がらず、腕を組んで俯いたままであった


「・・・・・・行くぞ」

「良いのか?」

「あやつにはあやつのやる事があるのじゃろうて・・・・己の命を賭してでもな」

「どういうことだ?」


ベルベレットは静かに彼が消えていった小屋の奥を見据えた


「・・・・・・あやつはもう持たん、次に心臓発作を起こせば・・・・もう後は無いかものぉ」


「「!!」」














 〜荒れた街道〜


ノエルの小屋を後にした三人は村はずれの道にいた。ノエルの小屋が小さく彼方に見える

ベルベレットは大きな岩の上に腰を下ろして静かに小屋を見つめ、カメリアも同じ方向をみる
デイヴはというと、腕組みをしながら空を見上げている


「医療の心得があるんだな」

「ないわい」


ベルベレットはつまらなそうに否定する、視線を合わせようともせずに・・・・本当に話を聞いて
いるのかすらも疑うほどボーーーッと彼方の小屋を見ているのだ。


「なまじ力を持っておるとな、人の死期という物をある程度感じる事が出来るのじゃよ」

「・・・・・」


それが不機嫌な原因だろう、もやもやとした気分を残したのはデイヴもベルベレットも同じ
のようだった。その男が何も語らず命を燃やし続けて何かをしている・・・・
こうなれば口は挟めまい、ベルベレットが食いつかなかったのは・・・少しでも彼に時間を
残したかったからだろう


「儂は暫くあの男を見ておる・・・・・デイヴよ、お主はどうする?」

「・・・・・・」

「デイヴ?」

「・・・・・なあ、お前等の手で例のセイレーンの子。なんとか出来ないか?」

「む?」


デイヴはノエルの事ではなく、孤児になったセイレーンの事をずっと考えていたらしい


「それはあれか?儂等の手で将来有望な一人前のエロリストとして調教してくれと」

「未経験のちんちくりんが何を言ってやがる、茶化すな・・・・で?どうなんだ?」


ベルベレットはやれやれとぼやき、再び視線を小屋へと戻す


「逆に問おうか、儂等が孤児を拾ったところで・・・・おぬしはその子を引き受けるか?」

「それは・・・・」

「儂等は保育所ではないのじゃ、無理を言うな・・・・それより今回の紹介料じゃ・・・・
今度は何が良いかの」


紹介料、その言葉にデイヴは反応した


「それだ」

「どれじゃ」

「あれでしょう」

「うむ!」


いそいそとパンツのような装飾具を脱ぎ始めるベルベレット氏、何やってるのこの子


「ほれ、存分にクンカクンカせよ」

「俺はそういうの取り扱ってねえって言ったよな?」

「私の・・・・ですか?////」

「脱ぐんじゃありません!!全くこの子達はどういう教育受けたのかしら!!」

「おねえ言葉いわれたらどっとキモイの、お主」

「いいから穿け!」


いそいそとパンツのような装飾具を穿き始めるベルベレット氏


「それで・・・・今回の紹介料はそのセイレーンを引き取ってくれるって事でどうだよ?」

「お主に得が無い、得が無い物が礼として成り立つわけ無いじゃろう?」

「俺の小さい小さい良心が満足できる・・・どうだ?」


ベルベレットは心底呆れたような顔でこちらを見てくる、デイヴはというと満面の笑み


「・・・・儂等に感化されて、お主も人間と魔物の境界の区別が曖昧になってきておる。良いか?
魔物は魔物、人間は人間・・・人間の価値観だけで魔物に触れるな」

「・・・・確かに違うかも知れないけど、あんただって同じだろう。自分だけの価値観で種族の
問題や感傷、内情に触れている・・・・・」

「・・・・・・」

「それに、何だかんだって言って、人間と魔物の根本にある価値観ってのはそう変わらない
気がする・・・・多分、根本にある絶対律ってのは同じなんだって感じる」

「だから、困窮に喘ぐ者に手を差し伸べんと?」

「違うか?」

「・・・・・・・・」


溜息を一つ


「・・・・お主はすごいのぉ・・・・儂が50年近く多くの物を見てきておるのに、お主は数度何かを
見ただけで一つの答えを出しおった」

「俺の頭が単純なんだろ、だけど自信はある・・・・未だに人間と魔物の違いっていう問いには
答えは見つかってないがな」

「それで良い・・・お主の意見も一つの真理なのじゃろう・・・・学ばせてもろうたぞ」




例えそれがちっぽけな良心から出た気紛れのような善意だったのかもしれなくても。
孤児を見れば、不憫だ、救ってやりたいと思う気持に偽りはないし。同情だって出来る・・・・

そこで自身が行動できるかどうか、それは自分がおかれている状況によって左右されるだろう

なら、行動できるのであれば出来る限りの事はしよう・・・・例え全てが救えなくても

行動こそが真実なのだから、それがデイヴ・マートンという男の本性であり勇気である。


心に決めた事に行動を起こす


臆病で、ヘタレで、小さな肝しか持っていないデイヴ・マートンという小さな男の最大の勇気だ




ベルベレットは立ち上がってデイヴを見下ろしてくる




「ならばそのセイレーンを儂の元へ連れて来るがいい!そのセイレーンが救われる事を望んだ
ならば、儂は全力を持ってその娘を救ってやろう!」




デイヴはその言葉を聞くと、頷き、村の方角へと走り出した。
その小さく頼りない背中をカメリアとベルベレットは見つめている


「・・・・・随分お気に召されているのですね?」

「あのような男は初めてじゃよ・・・・自分がちっぽけな人間だと言うのに、ああして心に抱いた
理想にまけぬようにもがく・・・・それは誰でもやる事じゃが・・・・あの男は」


小さくなった彼の背中をみて微笑む


「その為に本気で走れる男じゃ」




















 〜村〜



「・・・・・よし、こんなもんかな?」


村へ帰ってきて宿屋に荷物を取り、村で旅に必要な道具と多めの食料を調達していた。
セイレーンの少女はきっと碌な物を食べていないだろう、腹が減っているはずだと考えながら
彼女に食べさせる分の食糧は多めに買い足したのだ

そして、荷物を背負いなおしながらベルベレットたちが居る先程の場所へとんぼ返りだ


「・・・・・ん?ぉお!行商人さん、もう出るのかい?」


と、村の中央・・・・昨日の食堂の前の当りで数人の大人たちが集まっているではないか


「ああ」

「そうかい、もっとゆっくりしていけばいいのに・・・」

「こんな所じゃゆっくりしても退屈なだけさ、また近くによったら来ておくれ」

「ありがとう・・・・しかし、大人が集まって如何したんだ?漁にでも行くのか?」

「ん?ああ、行商人さんは知らなかったのか。さっきまでこの村に勇者様が来ていたんだよ」

「勇者・・・」


 勇者

それは教団によって任命された魔王を討つ事を使命として受けた人間の戦士である。
教団が崇める「主神」によって人間離れした力を与えられて、凄まじい戦闘力を持っている

もちろん、彼等が倒すべきは魔王軍に属している者だけではない。
人間に危害を加える魔物や、堕落した人間等も倒すべき対象になっている

各地を巡行し様々な人々の幸せの為に働くものも居るらしい。恐らくこの村に来た勇者は
このタイプの勇者であろう


「それで、その勇者様は?」

「ああ、北に見える森があるだろ?あそこに魔物退治に行かれたよ」


ざわりと胸に悪寒が走った

ベルベレットとカメリア・・・・そしてセイレーンの少女の事を思い出す。
一瞬の事なのに酷く胸騒ぎがして、血が引くと共にぶわっと汗が噴出してくるのがわかった


「ま、魔物退治って・・・・」

「ほら、昨日も話しただろう?この辺に居る魔物の子供がうろついているって・・・魚を盗んだり
物を取ったりして被害にはあってるが、何せあの外見だ・・・・俺等も躊躇しちまう」

「でも、そのうち血の味を覚えて人間を襲いだしたりされちゃあたまんないからね」

「ノエルには気の毒じゃが、退治せにゃならんかったんじゃ・・・・そこに勇者様一行が現れての。
事情を知った勇者様が退治を引き受けてくれたのじゃよ」

「・・・・・・・そう、か・・・・」

「西へ向うんだってな?2,3日歩けばここより大きな漁港がある街がある。向うに連れて街道
も整備されてるから、今から出たら安全に街までいけるはずだぜ。気をつけてな」

「ありがとう・・・・それじゃあお達者で」

「ああ!道中気ぃつけな!」


暖かく送り出してくれる村人たちであったが・・・・


「(あの人達にはあの人達の生活があるし、理解している魔物への解釈も違う・・・あの人達は
間違ってはいない・・・・・だけど・・・急ごう)」


デイヴの足は、徐々に早まり・・・・何時しか走っていた
















 〜荒れた街道〜


「おや・・・・・帰って来ましたね」


ベルベレットとカメリアは彼方から走ってくるデイヴを見つけた。
ベルベレットは大きな欠伸をして瞼をこする


「あふぅ・・・・・儂の温もりが恋しゅうてああも走っておるのか、いやはや・・・儂すげえ」

「(その思考が出来る事がある意味すごいです)」


大きな荷物を持っているというのにその足取りはかなり速い、
あっという間に近くまで走って来る


「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・無事だったようだな、ってことはこっちには来てないのか」

「何のこっちゃ?」

「実は・・・


デイヴは町で聞いた事を彼女たちに伝えた、すると二人の顔色が急に引き締まる。


「なるほど、事の次第は理解した・・・・ならば行くぞ」

「ああ!北の森に向ったって言っていた!」


三人は同時に走り始める・・・・ベルベレットは途中でとんっと地面を蹴るとフワリと空中に浮き
空中を飛び始め、右手を前に翳すと・・・前方に裂け目が生じて中からあの鎌が飛び出てきた

その鎌の柄を持つと行きおい良く引き抜いた。


「・・・・・それにしても・・・・良くぞ儂等の処まで走ってきたな」

「俺一人が勇者相手にどうこうできるわけじゃないからな」

「ふむ・・・・・」


ベルベレットは走るデイヴの横顔を見て目を細めた、そしてデイヴと言う人間の内面を探る


「(こ奴・・・・肝も小さく臆病ではあるが、実に冷静な判断をくだしおる・・・・)」

「なんだ?今回は案内する必要はないから俺に構わず先に行けよ!」

「・・・・・わかったわい、カメリア」

「はい」


二人は人間にはない、魔物としての力を最大限に使いながらその全力の疾走を開始した
あまりの速度で風が壁となるが、ベルベレットは自らの魔力で前方にブレード状の魔法障壁を
展開して、文字通り風を切りながら走り出した


今度はデイヴが二人の背中が小さくなるのを見つめつつ思いを馳せる


「(間に合ってくれ・・・・)」



















森に到達したベルベレットは速度を落すことなく木々を飛びぬけていく。同じくカメリアも
華麗なステップでベルベレットへついていった


「捉えましたか?」

「いやまだじゃ・・・・それらしい「臭い」はまだ捉えていない・・・・・・・・・!!」


ベルベレットは何かに気づいたように飛翔を中断した、主の突然の急ブレーキに対応しきれず
カメリアは少しばかり先に言ってから止まる・・・・振り返るとベルベレットは地面に目を向けていた


「どうされましたか?」

「・・・・・これは・・・・」


ベルベレットは数歩戻り地面に片膝をつくと何かを見始めた・・・・
カメリアも元に戻ってその何かを見てみる


「・・・・・轍(わだち)」


馬車などが通った跡にできる車輪の跡の事だ、それが丁度ベルベレットたちが進む進行方向
を横切るように走っている。草が青々としている所から見るとつい最近この森を通ったのだろう


「勇者の物でしょうか?」

「だとしたら何故こんな物が必要になる?勇者が馬車を連れて森の中に入る物か?」

「・・・・・それも、そうですね」

「森の中にこんな者を持ち込む輩は・・・・・・そう多くは居まい」


ベルベレットは憎しみに満ちた表情でその轍を見る・・・・「怒り」をあらわにしたその目に
カメリアは久方ぶりに「恐怖」を感じた


「・・・・この轍の後を辿れば、行き着くじゃろ」

「はい・・・・」

「かすかに「臭う」・・・・行くぞ」

「は」


二人はその轍の跡を追って再び疾走を始めた


















「!!あれじゃ!」


轍の跡を追って半刻もした頃か、森の中へオレンジ色の夕日の光が辺りに差し込み始めた時
ようやくその轍をつけた正体に追いつく事が出来た


「・・・・・」


それは、魔物狩りを行う者達が狩りに用いる「檻」を搭載した馬車であった・・・・
中にはマンドラゴラ、ラージマウス、リザードマンが見える


「主等、大丈夫か?」

「・・・・・!! お前は・・・・」

「見ての通り、おぬし等と同じ魔物よ・・・・すぐに出してやろう」


ベルベレットが檻に静かに手を触れようとした瞬間、リザードマンが叫んだ


「待て!!」

「?」

「この檻には強力な結界が張られている・・・力が吸い取られるぞ!」


その説明を受けてベルベレットは手を引っ込める・・・・

改めて見るが、探しているセイレーンは何処にも見当たらない。どうやらまだ無事なようだ


「魔物狩りの者達じゃな?勇者と聞いていたが・・・・」

「勇者・・・・・確かに、あいつ等の力は尋常ではなかった・・・・私の剣が全く効かなかったのだ」

「ほぅ、リザードマン程の剣達をいとも簡単にか?」

「いや、剣はやつを捉えていた・・・・・だが、いつも奴の体に当る瞬間に弾かれるのだ」


ほぅ・・・っとベルベレットは目を細める・・・・


「奴等の数は何人居る?」

「私が見たのは一人だけだ・・・・昏倒させられてこの場所に連れてこられた。金髪の男だ」

「あっしが見たのは茶髪のロン毛の女です!」

「私が見たのもそうだった・・・・女の方は槍を使います・・・・恐らくその二人組みかと・・・」

「ふむ・・・」


ベルベレットは鎌を担ぐと周囲を見渡す・・・・恐らく例のセイレーンを探しに出かけている
のだろう・・・・そして、それをしているというならばこの檻には絶対の自信があるのだろう


「ならば、今の内に檻を開けてしまうかの」

「出来るのか?」

「時間は掛かりそうじゃがの・・・・二人がいないというならば可能じゃろう」


ベルベレットがふわりと浮いて檻を俯瞰すると檻にかけられた術式を見通す


「・・・・・(かなり強力な結界じゃなあ・・・・姉上なら指先一つで弾くかも知れぬが
今の儂にはそんな力は無いからのお・・・)」




「!!   マスター!!!」






カメリアが叫んだ瞬間、激しい金属音が響く。

ベルベレットの鎌が何か金属物を弾いて飛ばしたのだ・・・空中に回転しているそれが地面に
落ちてチリンチリンと音を立てる。

それは・・・・あのテオフィルが使っていた投擲用のナイフと同じ物であった


「・・・・・勇者の仲間らしくないのぉ・・・・後ろから攻撃してくるとは」


カメリアとベルベレットが背後を振り向いてみれば、そこには年齢17.8の少女が立っていた

茶髪のロングヘアーが冬の冷たい風に靡き、夕焼けの光を受けて優雅な光の波を立てる
そして、その身体を包む美しい装飾がされた軽装の防具を身に纏い、右手には槍を持って
佇んでいた、凛とした表情をした美少女の眼はカメリアとベルベレットを見据えていた・・・・


「・・・・そう・・・・ね、私もそう思うわ」


凛とした力強さをもっており、それなのに鈴の音のような良い声が聞えてくる・・・
敵意が乗った声は二人にチリチリと戦いの気配を意識させた


「ふむ・・・・結界をとくのは後じゃ、まずはこ奴を無力化せねば」

「・・・・・・・」

「カメリア?」

「・・・・マスター、もう一人の位置は分かりますか?」


その少女からは目線を外さずにカメリアが問いかけてくる


「うむ・・・微かにじゃが臭いがする」

「ならば、ここは私が食い止めましょう・・・・マスターはそちらへ」

「何を言っておる・・・・ここは二人で」

「いえ、今は例のセイレーンを保護する事を最優先に考えてください。それにもし戦闘が
長引けば合流され不利になるかもしれません」

「・・・・・・・」

「我々が行うべき最善の行動をなさってください」


ベルベレットは納得したのか、そのまま森の東の方角へと飛んでいった
それを見送ったカメリアは静かにその少女と対峙する・・・・少女はゆっくりとカメリアに
近づいてくる。


「まさか、スケルトン一匹が私を足止めできるとでも?」

「・・・・恐縮ですが、そのつもりです」

「舐められた物ね」

















音が弾けた

空気が炸裂して突風が周囲に吹き荒れる。葉や木、魔物達が入いった檻がその突風によって
大きく軋みという無機質な悲鳴を上げた


「・・・・・・・!!?」


顔面に押さえつけられるような鈍痛が鋭い痛みに変わり。眉間から後頭部に激痛が走り抜ける
自分の体が空中に浮いているのが分かる・・・・

ゴリゴリと骨が直接押さえつけられるような痛みを感じながら、その力に押し込まれる


「!!」


ボンっと空気が二度目の炸裂を起こす

空気の塊に吹き飛ばされるような感覚を体中に受けたとおもったら、その空気の塊は
身体を巻き込むような渦に変わって突き抜けていく・・・・

渦に巻き込まれる形で体が錐揉み状に飛び、そのまま地面に叩きつけられた


「―――――――」


声を上げる事もできないほどの衝撃を受ける、防具をした肩から落下したのが幸いし
落下のダメージはさほど大きくも無いが、勢いを殺せず成すがまま転がってしまい
木にぶち当たってようやくその回転が止まった


「っ・・・・く・・・ぁ」


頭がぐわんぐわんと揺さぶられる、たった一撃貰っただけであるのに意識が朦朧とした

鼻血が吹き出るのも構わず、自分を吹き飛ばした相手を見る・・・・
相手は拳を突き出した状態でこちらをその生気に溢れた両目で見据えていた


「・・・・・・・・、は・・・・・・・」


揺れる意識に一喝を入れて引き締めると、すぐさま起き上がって身構える。
口の中に血の味が広まっている・・・恐らくは横転した時に切ったのだろう・・・・

血の味が鼓動を高めて、痛みが体中を熱くした



「・・・・・強いのね、貴方のような相手は初めてよ」



ゆっくりと殴った拳を開いて立てる・・・・

カメリアの足元の地面にはヒビが入り、焼け焦げた臭いと共に靴底から煙が上がっていた・・・・


    




「・・・・「骨」のある女ですから」







二度と大切な者を失わないために、彼女が身につけたのは「力」であった。

暁 黄昏の時 夕日に照らされた骨身の女が、力強く拳を握る!

























石が削れる音・・・

男が力を籠めて石を砥石で磨く・・・・


「・・・・・・ぐ・・・・くふ・・・・ゴホ!! ゲホ!!ゲホ・・・・ゴホッ・・・・」


砥石を落とし、口から漏れた咳を手で押さえるが、その手にはジワリと粘着性のある水が
広がる感覚がした・・・・


「ぐふ・・・・げほ・・・・」


息が苦しい、胸がまるで獣の爪に裂かれたように痛み、両手両足の指先は冷たく凍えている


「・・・・・・・・・」


目が霞み始める・・・・口の中に広がった血の味は、彼にとってはもはや慣れ親しんだ酒のような
味にも思えた・・・・

男は地面に落ちて二つに砕けた砥石を手に取る。真赤に染まり、肉刺だらけのその手で


「・・・・・もう少し・・・もう少しだけ・・・・俺をこっちに・・・・居させてくれ・・・・デボラ」


愛しき君のあの姿はそこに見える

愛しき君のあの笑顔はそこに見える

愛しき君のあの願いは・・・・どこにも見えない


男は思いを形にした。それが価値ある物かどうかなど関係ない。

否、その行動に論議や価値など意味が無いのだ、すでにそのような低俗な次元ではない。


「・・・・・ぐふ・・・」


痛みが彼の命の灯火を揺らす

口元から漏れた赤黒い一筋の吐血が石の足元へと散らばった


「・・・・・デボラ・・・・」


愛する者の名前を呼びながら、彼女が口ずさむ歌・・・・自分と彼女を結んだあの歌を思い出す


「・・・・・〜♪・・・・〜〜〜♪」


息も絶え絶えにその歌が小屋の中に静かに響いた・・・・




『・・・・・違いますよ、そんな音程じゃありません』

『と、いうより、男の俺がそんな歌えるはずないだろ?気持悪いだけだって』

『もう・・・・そんな事ではこの子に歌の一つも教えられませんよ』


デボラは自らのお腹に宿る小さな命をさすった


『いいんだよ、歌はお前が教えてやれば・・・・こんな親父が歌う歌なんて、聞き苦しいったら
ありゃしねえさ』

『・・・・・それを言うなら私もすっかり年老いてしまいましたけど』

『馬鹿、お前は出会った頃から綺麗なまんまじゃねえか・・・・いや、今こそ確実に美しいね』

『////・・・・・時々詩人めいた事を仰いますね』

『親父の血だろ』

『フフ・・・・』


再び彼女は愛しくお腹をさする・・・・優しい羽毛の翼は温かい


『・・・・・やっと出来た子供・・・・』

『ああ・・・・やっとだ』

『・・・・・生きて欲しい・・・・愛しい歌と、愛しい人と巡りあって欲しい・・・・』

『・・・・・・・』

『・・・・あなた・・・・』




よりそった彼女の体は暖かかった・・・・何時だってこの暖かさが愛しかった・・・・



「ゲホ・・・・ゴホ!!ッッ!!ゴホゴホッ!!ゲホォ・・・」



今でも、あの暖かさがあれば・・・・あるいは違ったのかもしれない








『あなた・・・・この子の事・・・・・』







彼は憎んだ




「げほ・・・・ゴホ・・・・―――――ガハ!!」




母親の命の灯火を奪って、生まれてきた小さな命の花を。




「・・・・・・・・・―――――――♪」




それでも、彼はその子の親だった・・・・




「っ・・・・ぐふ・・・・ゲホっ!」




その子の命は、間違いなく愛しいものだったから・・・・奪う事なんてできなかった




「デボラ・・・・・・デボラ・・・・・・・」




生きて、生きて、生きて、生きて・・・・愚かな男は生きて尚ももがき続ける




「・・・・・っ・・・・・・デボラぁ・・・・・」




「愛する者が生きた」という痕跡を残したいがために。

歌の一つも娘に送る事が出来ない己が愚かさを呪うために。





男は一人で、自己満足と懺悔が入り混じり超越した感情を形へと変えていた・・・・





石と共に、己の命を削りながら。




「・・・・・・・許してくれ」




青い目が、彼女の微笑を見た

























その青い目が捉えたのは・・・

夕焼けの橙色の輝きと夜の瑠璃色の闇が入り混じる中に映えた純白の刃に乗せた狂気だった


薄暗い森の中で彼女は力なく倒れながら、徐々に迫り来る死の臭いを放つ男を見上げている
切れた息によって体中が呼吸によって上下している・・・・迫り来る恐怖は呼吸を早めた


「っ!!」

「っと・・・・」


立ち上がろうとした時、男がこちらに向けて何か紙の様な物を投げつけてくる
紙が身体に張り付くと一瞬にして体が拘束されてしまった。

どうやら拘束札のようだ・・・体中を淡いグリーンの光が輪となって締め付けてくる


「これで任務完了っと・・・さてと、コレットの処に戻ろうかな」

「!! 来るな!!」

「はいはい」


男はゆっくりと近づいてくる・・・・

ハリネズミの様に髪を立てた金髪の男は、年齢で言えば20前後くらいの若者だ、
白い鎧に金の装飾がされた、教団の騎士と同じ鎧を身に纏い、1m程のショートソードを
持っている・・・・雰囲気的には快活で陽気な青年の様に感じるが・・・・

少年は目の前の少女、件のセイレーンの少女の襟を掴むと。片手でひょいと持ち上げる


「うわ軽!・・・・・こんなのでも売れるのかなぁ・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・そう睨まないでよ・・・短い間だけど仲良くしようよ」




「仲良く・・・・という言葉はお主が使って良い言葉ではないじゃろう?え?」




「・・・・・・・・・?」


男が顔を上げて前を見ると・・・・すでに薄暗くなりかけている森の木の影から。
大きな鎌を携えたベルベレットが歩いてきた・・・・

その表情は怒気に満ち満ちている・・・・体中からじわりじわりと紫色のオーラのような物が揺れ
その目はギラリと猛禽類を思わせるような鋭く危険な光を孕んでいた


「・・・・・バフォメット?」


正体に気がついたのか、男もセイレーンの少女をその手から離して身構える
地面に落ちたセイレーンは痛みを堪えながらもバフォメットを見上げる


「なんで・・・・こんな所に貴方ほどの魔物が?」


ベルベレットは目を細めながら左右を一回ずつ見渡すと、鼻をふんと鳴らし右手に持つその
大きな鎌の先を男に向ける


「下衆よ、消えうせるが良い・・・・今なら見逃してやろう」

「・・・・・」

「怪我をしたくも・・・・無いじゃろう?」


明らかにこちらへの「敵意」を秘めた彼女の言葉は、魔物が人間を殺意を持って襲わないと
タカをくくっていた彼にとっては異質であり恐怖であった


「どうして・・・そんなに憤ってるんです?僕があなたに何かしましたか?」

「何も?」

「・・・・それとも、このセイレーン・・・・貴方の大切な者なんですか?」

「いいや?初対面じゃよ・・・・初対面だとも、お主にこの鎌を向けるは別の理由じゃよ」


ベルベレットのこめかみに青筋が浮かび上がる・・・・


「儂が憤っておるのは・・・・お主が「魔物狩り」をしているからよ」

「・・・・・・・」

「理由が聞ければ十分かのぉ?それではあらためて問おう、鍵を置いてこの場を去るか・・・
それとも命を捨ててこの世を去るか。二つ、好きな方を選ぶといい」


明らかなる殺気を向けられているのにも関らず、男はベルベレットを冷静に分析した。


「(このバフォメット・・・・噂に聞いていたほど魔力は無い・・・これなら、僕にだって
倒せるんじゃないか?バフォメット程の魔物なんて・・・・市場で出回った事がない・・・・
高く売れるぞ!!これは!!!)」


冷や汗をかきながらも剣を構えてバフォメットを見据える男はじりじりとすり足で距離を計る


「(バフォメットは魔法を使う・・・・この距離なら魔法を使うよりも僕の方が攻撃して鎌を弾き
拘束札を叩きつけるほうが早い!!)」


青年がぐっと右足に力を籠めた、そして右脚で思い切り地面を蹴って身体を前へと飛ばす


「!」

「フゥア!!」


体の側面に寝かせるように持っていた剣が唸りを上げてベルベレットの身体に向けて迫る
風を切裂きながら、力を載せた切っ先が狂気を纏いながら暗闇に剣閃を走らせた


「!?」


ベルベレットの右手に持つ鎌を弾き飛ばすために振った剣が空を切った、
見れば、彼女の右手に握られた鎌の柄はいつの間にか左手の中に納まっている


「(こ奴は儂を無力化するため、まず脅威である魔法を使わせないため近距離戦を挑む
そして、こちらはリーチの長い武器・・・懐に入った方が有利になるだろう・・・・
考える事は人間もデュラハンも変わらんのぉ」


ベルベレットは背面へ浮遊しながら僅かばかり距離を開けると、左手に持つ鎌を振ると
男の首目掛け、鎌の切っ先がまるで猛獣の牙の様に襲い掛かってくる・・・・


「!!」

「・・・・・・ふ・・・・」


唇がわずかにつり上がった、完全に捉えたと思った鎌の切っ先はまるで硬い物に叩きつけた
ように弾かれたのだ。


『いや、剣はやつを捉えていた・・・・・だが、いつも奴の体に当る瞬間に弾かれるのだ』


「(これか・・・・リザードマンが言っていたのは・・・・魔法障壁の類ではないな?何じゃ?)」


ベルベレットの姿が一瞬消え、瞬きの後には更に10m程背後に姿を現している


「(空間転移・・・・短距離だが陣も詠唱も無しに発動するとは流石はバフォメットか・・・
さっきの鎌も、多分鎌をジャンプさせて持ち替えたんだな。バフォメットはインドア派
だって聞いたけれど・・・・随分戦いなれたバフォメットだ)」

「・・・・・腐っても勇者か、その防壁は神の加護とやらか」

「ご名答、物理的にも、魔法の攻撃からも僕を守ってくれるんだ。神様は・・・・・
この防壁が僕に纏わりついている限り・・・君に勝ち目は無いよ」


ベルベレットはギリっと歯を食いしばり、冷静な頭に熱い滾りを再び覚えた




「(貴様は・・・・このような外道すらにも力を与えた、そして、この外道が行う蛮行すらも
お主はただある物と放置し続けるのか・・・・・ ええ?カミサマよ)」




ベルベレットが強く、男を睨んだ


「さあ・・・今度は僕が問おう、無駄な抵抗を止めて大人しく捕まるか、それとも
抵抗して痛い目を見て捕まるか・・・・二つに一つだ・・・・」


ギラギラと、夕焼けオレンジの残滓が残る暗闇に紫色の光を放っているその目は、正しく
魔性の物だ・・・・


「・・・・・ふぅ・・・」

「答えを聞かせてもらえるかい?」

「そうだのぉ・・・・」


ベルベレットの両目が一層強く光った













「このボケぇ」












肉がぶちきれる音、右足の膝の膝蓋大腿関節が真横から綺麗に切断された
痛みは数秒遅れ、神経を蛇の様に、しかし凄まじい速度で這い上がりながら這い上がった


「ぐ・・・・・・・ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


右足のバランスを失って地面に倒れる・・・・痛みを少しでも抑えようと膝の切断面から
少し上の太ももを押さえるが、とめどなく溢れる血と痛みは止められない


「左腕」


ベルベレットの眼が輝くと膝を押さえていた左腕が独りでに動き出してぐるりと捩れる


「ぎ・・・・あが」


メキメキと骨が限界以上に捩れる・・・・







―――――――――――ブチ


腕の関節の部分が捩れ切れた、今まで体感した事の無い痛みが・・・・・突き抜ける


















「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

























木が大きく揺れて幾つもの葉が飛び散った・・・・


「・・・・・・・・」


リザードマンが目を丸くしながらその光景を眺めている・・・・他の魔物も同様だ・・・


「(何なのだ・・・・あのスケルトンは・・・)」


傷一つ無く清楚に両手を重ねて気をつけで佇むカメリアは、その長く美しい白銀の髪を靡かせ
宵闇の月の光の一欠けらを浴びて、麗しい呼吸を一つ


「(スケルトンと言えば、人間の骨に魔王の魔力が宿って動き出したものだ・・・
思考能力は薄く、自我が弱い・・・・力はあまり無く衝撃にも弱いはず・・・・なのに・・・・)」


周囲にはいくつの物クレーターや、何十年もかけて成長した屈強な大木が枯れ枝の様に折れ
そのあまりの戦いぶりに、女が身につけていた防具や槍が木っ端微塵に砕けている


「(この有様は何だ?あの華奢で今にも折れやすそうな体が、まるで一流の戦士の如く脈動して
あの女に一切の反撃を許さずに打ち倒してしまった・・・・)」


カメリアはぐったりと木に持たれかかり項垂れる少女に近づく


「・・・・・やりなさいよ・・・・」

「私の役目はあなたを無力化することです、命を奪う事ではありません・・・・・」

「・・・・何よ・・・・」

「貴方は勇者ではありませんね・・・・と言う事は、もう一人の方ですか・・・・」

「そう・・・・貴方のマスター、今頃彼に拘束されてるかもね」

「ご心配なく・・・・・貴方がその方を信頼しているように、私もマスターを信じています」

「・・・・・・そう」


全身が痛みが体の自由を奪っている、立ち上がる力も残っていないとはこのことか
どうやら向こうは止めを刺すつもりはないらしい、体中の力を抜いて一息はく


「強いのね・・・・貴方は」

「・・・・・・」


カメリアはハンカチを取り出して、自分の骨の手を吹き始める。その表情は落ち着きながらも
どこか氷のような冷たさを帯びている


「・・・・二度と大切な物を失わないため・・・・身につけた力です。女の旅は何かと危険ですから」

「・・・・・」

「・・・・・・マスターではありませんが、どうして貴方は魔物狩りなどを?勇者と共になら
こんな阿漕な事をされておられるので?」


少女は身じろぎをしながら、天に向って登ろうとしている月を見上げた


「・・・・・勇者って言うのはね、教会から任命されて神の啓示を受け・・・魔物を倒す使命を帯びた
聖騎士の戦士よ・・・・」

「・・・・・」

「でもね、その活動は教団からの支援なくしては成り立たない、もちろん本国のね・・・・
でも、同盟を組んでいるなら他国を跨いで巡行することができるのよ」

「存じております」

「・・・・・もし、同盟国へ巡行している途中、同盟が解除されたどうなると思う?」

「・・・・・・・・孤立無援ですか?」

「そうよ、幾ら勇者と言っても祖国に帰属しての活動が前提・・・支援は打ち切られるわ
国境は閉ざされて、帰国する事は出来なくなる・・・・・私達孤立したまま敵国に取り残されたわ」


自分の胸を締め付けるように、服を強く握った・・・・ギリっと歯を食いしばりながら
憤りを表情に浮かべる


「それでも、彼は祖国の為ではなく国境の括りではなく、人を助けるため・・・・・「勇者」として
の使命をまっとうするために剣を握り続けたわ。もちろん、彼の仲間・・・・彼の伴侶である私は、
その彼の使命を全力で支えた・・・・」

「それでよかったのですか?」

「良いか悪いかじゃないわ・・・国が裏切ろうがあのは人を救うことに誇りを持っていた・・・
誇りがある限り・・・あの人は勇者であり続けた。神も力を与え続けてくれたわ」

「・・・・・・・・」

「だけど、志だけじゃ生きていけない・・・志じゃランチもディナーも食べる事はできないのよ。
勇者といえど敵国の人間に教団は支援はしない・・・たとえ同じ神を等しく崇めていても・・・・」

「だから・・・地下(裏社会)に潜って、モンスターハンティングを」

「本質は同じよ、勇者だろうがモンスターハンターだろうが・・・・魔物を処理・除去する事を生業
としている・・・そこに掲げる理念と人間に都合の良い正義があるか、どうか・・・・」


彼女たちは、勇者としての力を証として、生きていくためにモンスターハンティングをしていた
各地を巡回しながら、教団の息が滅多に及ばない田舎へ赴き・・・その土地で不安を起こしている
魔物を捕らえ、地域からは勇者としての感謝され、彼等の勇者としての誇りを満たし
裏社会では捕らえた魔物を売り払い、自らの人間的な欲求を満たしていたのだろう


「・・・・・私は別にそれが間違っているとは思っていないわ・・・・人間からすれば魔物は敵。
重要なのは魔物を退けたと言う事、魔物が最後に如何扱われようが知ったことじゃないわよ・・・
あんた達のお陰でお金も出来たし、それなりに快適な生活も送る事は出来た・・・・
前の町じゃスィートルームにも泊まれたしね・・・・」

「・・・・・・・・・それでもまだ、魔物を狩り続けられるのですね」

「当たり前よ・・・・お金はあって困るものじゃないもの・・・・もっともっと貴方たちを売って・・・
そうね、貴族並の生活が送れるくらいの資金が出来たら、足を洗ってもいいかもね」

「・・・・・・それは困りましたね」

「?」

「私は魔物側の立場に立っています・・・・貴方方がこれからも魔物狩りを続けていくと言うならば
それは見過ごす事はできません」


カメリアは首を軽くふると、動き回って乱れた髪がさらりと音を立てて元の乱れ一つ無い
美しい髪へ戻った・・・・そして、静かにポケットへと手を忍ばせた




「なら、貴方をここで止めねば・・・・貴方方に売られて不幸になる魔物は減ると言う事ですね」




取り出したるは紅き魔性の血、「何か」の血が入った小さな瓶



「な、にする気?  !!  やめてよ!!こないでよ!!」



カメリアは、ゆっくりと瓶の封を破り・・・・その赤い液体を口に一含み・・・
彼女の目の前まで歩いてくると、右手で少女の胸ぐらを掴み上げると軽々とひっぱりあげ
吊るした



「ぅう!!」



木に押し当てられた少女は、なんとか足を振って抵抗しようとするが動かない
両手で胸倉をつかむカメリアの腕を振り払おうとするが、筋肉がないはずの骨は全く動かない



「いや・・・・・イヤァアア!!」



女の笑みが目の前まで迫り・・・・薄く笑った口元の端に隙間が出来て、一筋の血がこぼれた




「ふ! んんぶぐぅ・・・・・んんんん!!」



恐ろしい力で組み伏せられた少女は、首を動かす事もできず・・・口づけを交わした
カメリアの唾液と、何かの血は混ざり合いながら彼女の口の中へ漏れずに送られていく

飲み込む事を躊躇ったが・・・・血の味を覚えた瞬間、力が抜けて・・・・それは喉を滑るかのように
彼女の体の中を一瞬にして、しかし犯すかのように駆け巡った



「く・・・・ふ・・・ん、んんん」


「・・・・・」



唇を放し、その右手を離すと・・・・少女はまるで人形の様に木をずり落ちる・・・・






「・・・・・魔物の痛みを知るには・・・・魔物になるのが一番でしょう?」





骨身の女はルージュの笑みを浮かべ、月明かりに照らされた妖艶な舌で・・・血を舐めた





「ようこそ、魔物の世界へ・・・・」































少女は目の前で泡を吹きながら白目を剥いた男を恐々と見ている・・・・・・・
突如苦しみだした男は、悲鳴を上げて倒れもがき出し・・・・最後は断末魔のような声を上げながら
気絶してしまったのだ・・・・・股間がぬれて暖かい煙が上がっている、現在進行形で


「・・・・・・・!」

「ふ・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・」


彼女は張り詰めた糸を切ったかのように、途端に荒い呼吸をしはじめた・・・・
ふと、彼と対峙していたバフォメットがゆるりとこちらへ歩いてくる・・・・その眼は光っておらず
体から出ていた莫大な魔力はどこへやら、とても穏やかな雰囲気のバフォメットが男を
見下していた


「・・・・・ふん」

「何・・・・したの?」


ベルベレットは静かに男を見下ろしたまま、彼女の問いに答える


「・・・・幻覚じゃよ・・・・幻覚で、こやつは自分の身体を引きちぎられる幻を観ておった・・・・」

「・・・・・」

「ただの幻覚でも、それは「体験」としてこ奴に刻まれる・・・・体験はトラウマとなって
こ奴を未来永劫苦しめ続けるじゃろうよ」

「・・・・・」

「ふ・・・・まあお主には分かりづらいじゃろう・・・・わからなくとも良い・・・・こんなこと」


ベルベレットはばっと手をセイレーンの少女に向けると、彼女を拘束していた光がはじけ飛ぶ


「・・・・・ありがとう」

「うむうむ、ちゃんと礼が言えるのは、良い子の証じゃ」


なでなでとセイレーンの頭を撫でてやると、くすぐったそうに目を細める・・・・
だが、すぐに頭を離す


「私、あまり綺麗じゃない」

「ううむ・・・・まあ確かに」(;=Д=)つ〜゜

「なんで助けてくれたの・・・・」

「最初はお前に懸想をした男の我侭じゃったが・・・儂も魔物狩りの者達は好かんのでの」

「・・・・・そう・・・・・んん?」

「?・・・・ん?」


セイレーンとベルベレットは何かに気づいた・・・・こちらに向ってくる地鳴りのような音








三 へo>         三 へo>
三 /> マテー      三 /> 







「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」



デイヴだった


「なんじゃ、ただのデイヴか」

「特別なデイヴ何ざ居ねえよ!!デイヴは一人この俺だ!!」

「この状況でも突っ込みを入れられる当り・・・・やはり天才か」

「なんのだあああああああああああああああああ!!!助けろオオオオオオオオオオオ」


一体何に追われているのかと目を凝らしてみると、なんとそれは先程カメリアに任せた
女のモンスターハンターではないか・・・・

しかし、その身体は大きく変化していた。その姿は以前見たセヴリールのそれそのものだ
半透明の翼と尻尾が生えた彼女は凄まじい形相でデイヴを追い掛け回している


「何故奴がサキュバス化しておるのじゃ?・・・・まあ良い」


バフォメットが背後で気絶している勇者の男の襟を掴むと、そのまま大きく振りかぶる


「避けろよデイヴ・マートン!!」

「!!?」


ベルベレットは思い切り男を投げ飛ばした!!




三 へo>     男→ ⊂(゚Д゚⊂⌒つ三
三 />             三⊂⌒つ゚Д゚)つ ←デイヴ    




デイヴの頭の上を男が飛んでいき、背後から追いかけてきた女の前に転がった

女は鬼のような形相から、嬉々とした表情に変わり思い切り男をキャッチすると・・・・
男の服を思い切りひん剥き始めた


「おいいいいいいい!!子供の前じゃやっちゃいけない事やり始めてんぞ!!」

「兎に角ここを離れるぞ!!このままでは今流行りの児童ポルノなんちゃらに目を付けられ
かねん!!くそうロリコン信条を規制しおって!!コウノトリとかキャベツ畑で誤魔化せると
思うなよ!!これからは男と女がベッドの上でギシアンしながら・・・

「なんでもいいから早く飛べ!!」


ベルベレットは散々喚き散らして転移魔法を発動させた・・・・・

























「世話になり申したベルベレット殿・・・・このご恩、一生忘れません」


リザードマンは深々と頭を下げた・・・・

カメリアが居た場所に帰ってくると、ベルベレットは魔物達を閉じ込めていた魔法を消し去り
カメリアが信じられない腕力で牢を引きちぎり彼等を開放した

リザードマン以外の魔物達は解放されると、皆思い思いの所へと散って行った
彼女だけが唯一残り、こうして頭を下げているのだった


「よきにはからえー」

「らえー」


エッヘンプイしているベルベレットの横でセイレーンもエッヘンプイしている、
まるで姉妹のようである・・・・


「まあ、こういっては何じゃが・・・・運が良かったの、めぐり合わせに感謝しろい」

「はは・・・・何かお礼がしたいのですが・・・・」

「おぬしが村に帰った後に受け取ろう、場所を教えてもらえれば向おうぞ」

「お手数かけます・・・・場所は―――――


デイヴははぁっと溜息を一つついてその場に腰を下ろしてしまった


「お疲れですか?」

「あ、ああ・・・まあ・・・・それにしても、まさかレッサーサキュバスに襲われるとは思わなかった
ありゃあ一体なんだったんだ?」

「・・・・・・」

「結局・・・・ずぅっと走ったままだったな、何にも出来なかったか」

「そうでも・・・ありませんよ」

「?」

「貴方が行動を起こしたお陰で、このセイレーンやリザードマン達は救われたのですよ」

「・・・・・・」


デイヴは照れくささを隠すようにそっぽを向いて頬をポリポリと掻く
カメリアはクスリと笑った


「それでは、お世話になりました!!これにて失礼します!!」


元気の良いリザードマンはようやく手を振りながらその場を去っていった
ベルベレットとセイレーンは手を振りながら動きをシンクロさせている


「さて・・・・と、セイレーンの少女よ」

「?」

「この者がお主に話があるそうじゃ」

「・・・・・・」


セイレーンはデイヴをみると、テコテコと歩いてきた・・・・


「二日ぶり?」

「・・・・・・・・・かな?元気にしてたか?」

「(コクリ)」

「腹減ってるよな?」

「(コクリ)」

「よしよし」


デイヴは荷物の中から村で買った食料を取り出すとセイレーンに差し出した・・・・
セイレーンは不思議そうな顔をしてデイヴを見る


「・・・・・・なんで?」

「何がだ」

「・・・・村の人は私の事見ると怒るのに・・・・お兄さんは食べ物くれる、なんで?」

「・・・・腹減ってるんだろ?」

「(コクリ)」

「子供が腹空かしてるとな、可哀想だから飯の一つでもくれてやるってのが人情だ」

「???」

「いいんだよ、喰え」

「・・・・なんだか分からないけど・・・・食べていいなら食べる」


セイレーンはパンを一つ手に取ると口に運ぶ




「・・・・・」



「・・・・・美味いか?」


少女は・・・・じんわりと笑みを為ながら、一滴の涙を流しながらパンを噛み締めていた・・・


「・・・・・うまい・・・・よ」












それは、人と言う種族から受けた・・・・ほんの小さな二度目の優しさ。



優しさと言う感情すら知らない彼女は、その「優しさ」に触れた事で泣いたのだ



この世に、ここまで暖かい物があるのだと



本来、この世に生れ落ちた時、母親から貰うはずだった「優しさ」の暖かさを



彼女はようやく、デイヴ・マートンという男から貰った


















全てを平らげた後・・・・デイヴはセイレーンの少女に向かい直した


「お前、名前は?」

「・・・・フラヴィ、一度だけそう誰かに呼ばれた。だから・・・・フラヴィ」

「フラヴィか・・・・・・・なあ、お前・・・・ノエル・ベイルって奴知ってるか?」


フラヴィは目線を逸らして肯定も否定もしなかった・・・・


「お前の親父さんだろ」

「・・・・・・知らない、あの人は私を見るといつも怒ってた」

「・・・・・そっか・・・・・・」


一呼吸置いて


「なあ、こっちの姉ちゃんと一緒に、お前を育ててくれる人の処にいかねえか?」

「?」


こういう時、一体どういった物か・・・・勢いで言ってみた言葉はイマイチ彼女には届いてない
彼女の頭に?を浮かべていた

カメリアが代わりに説明しようかと歩を進めようとしたが、ベルベレットは彼女を制止させ
首を振っていた。これはデイヴの仕事だと・・・・


「えーっと、だから・・・・ここから出て、もっとすみやすい所・・・あったかいもんが一杯ある所
に行かないかって事なんだけど・・・・」

「・・・・・・・・」


一瞬ボーっとしていたが、大体伝えたい事がわかったのかフラヴィはうーんと考えはじめる


「こんな所にいても危ないだけだろ?・・・・今日お前を襲った怖い兄ちゃんだって来るかも
しれないから」

「・・・・・・なら、お兄さんと一緒に行く」

「俺も連れて歩いていけるわけじゃないんだな・・・・そっちのお姉さんが、フラヴィに優しく
してくれる人達を探してくれるから」


フラヴィはベルベレットをみると、ベルベレットもウムっと頷いた


「・・・・・私もここは離れたい、暖かいのがあるならそこにいきたい・・・・」

「なら、行こうぜ?こんな所で一人で生きていくには限界がある」

「・・・・・うん」


なんとか説得に成功したようだ、ニカっとデイヴが笑って彼女の頭をクシャクシャと撫でる
しかし、彼女は嬉しそうにしているのにその手をどけようとした



「・・・・私、あんまり綺麗じゃない」


「良いんだよ、汚れなんて洗えば取れる」


「・・・・・・・・」


「ん?」


「・・・・・・ん」



彼女はデイヴの大きく暖かい掌を、拒むことなく受け容れていた・・・・











「(のうカメリアよ)」

「(なんでしょうか)」

「(儂、ロリなんじゃが・・・・)」

「(そうですね、合法ロリです)」

「(儂、ロリキャラなんじゃがなあ・・・ああも扱いが違うのは何故じゃろう)」

「(純粋さです、貴方には純粋さが足りないんです)」

「(ピュア・・・・・綺麗さか・・・)」 ペカァ――( ゜∀゜)――――

「(今更求めても遅いですよ、払拭しきれないほどのイメージが定着していますから)」

「(お主、時折儂に対してめちゃ冷たいわな、さすが元雪女)」

「(恐縮です)」


















 〜森付近〜


「ノエルに会っておきたい?」


フラヴィは森から出ると唐突にもそう三人に告げた


「・・・・拒絶されても・・・・あの人は親だから」

「ケジメはつけておきたいということかのぉ」

「良く分からないけど、会ってちゃんとバイバイ言わなきゃいけない、と思った・・・・
2年くらい・・・・短い間だったけど、ちゃんと私にも構ってくれたから・・・・」

「・・・・・良い子じゃのぉ・・・・(これがピュア・・・!!)」

「・・・・・・・」


デイヴは静かに前を歩く三人の背中を見る・・・・・いや、正確にはフラヴィの背中だ


「(もし、ノエルがフラヴィを拒絶したとして・・・・それはあの男の本心か?)」


結局、会ったは良いがあの男の意は何一つ汲み取る事はできなかった
何がしたいのか・・・何を持って生きているのか・・・・デイヴは何一つ知る事は出来なかったのだ

迷う・・・・

あの男が本当の意を語らずに、フラヴィが去ってしまったらどんな反応をするのだろう
拒絶して、育児放棄をしているとはいえフラヴィは間違いなくあの男の娘なのだ

実の子供が自らの元を去って行く心情は如何なものか

子を持った事のないデイヴにとっては想像出来ない物だった・・・・・


「(もし、あの男がこの子を愛していたら?)」


自業自得といえばそこまでだが、それは当事者からすれば残酷な事だ。間違いなく・・・

人が生きる目的は「幸せになる事」だと誰かが言っていた。

ならば、あの男は伴侶を無くし・・・・娘を拒絶した先にどんな幸せを求めたのだろうか?
あるいは、それはこれからフラヴィが別れを告げたときに彼の口から聞けるのかもしれない


「(でもそれじゃあ・・・・全部失った後だろうが・・・・)」


「おい、デブ」

「誰がデブだ!」


ずずぃっとベルベレットがこちらの顔を覗き込んできている
驚きもしたがすぐに後ずさりして下がった。


「お主、今何を考えておった?」

「・・・・何も」

「バフォメットに隠し事などするなよ、特にお主は考えることがすべて筒抜けよ」

「・・・・・・あんまり人の頭の中覗くなよ、悪趣味だぞ」

「よう言われるわ、しかし・・・・お主の考えておる事は甘えじゃよ」

「甘え?」

「あれもこれも、なんでもかんでも救われる道を探しておると・・・・袋小路に陥るぞ?
全てを救う道などないのじゃ・・・・諦めい」

「・・・・・・・・・」

「お主は相手の立場に立って物を考えようとする、それは良い事じゃが、時にはそれはあらゆる
ものを苦しめる・・・・・お主であったり、相手であったりじゃ」

「だからお前は観測者に徹しているのか」

「うむ、今回はイレギュラーじゃがな」

「・・・・・・そうか・・・」

「・・・・・でもな」

「?」

「おぬしのそういう所、儂は好きじゃぞ?」


ニカっと笑った彼女の顔と言葉に嘘はなかった・・・・誤魔化されたようで歯がゆかったが
彼女の言葉も受け止めるに値するものだと感じている


「・・・・・へーへ、今回の事は何も口は挾まねえよ」

「うむ」


四人は再び、ノエルが居るであろう小屋を目指して歩き始めた。
















  〜小屋〜


小屋の前で四人は静かに佇んでいる・・・・・


「それじゃあ・・・入るか?」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・大丈夫か?」

「・・・・・・・うん・・・・」


ドアの前に来ると渋り始めたフラヴィ、やはり今まで拒絶されていた親に会いに来るというのは
子供であっても、それなりの覚悟が必要だ


「・・・・・いくか」

「うん」


デイヴがギィっとドアを開けて中へ入った・・・・・その背中をベルベレットは訝しげな表情で
みていた・・・・


「どうされましたか?」

「・・・・・・静か過ぎるの」

「?」

「・・・・・! もしや!!」


ベルベレットは短距離転移魔法で小屋の中へ入ろうとしたデイヴの前を抜けて
小屋の中へと入ると、小屋の奥へと走っていった


「お、おいベルベレット?」

「・・・・・」


小屋の奥へ入った彼女からは声がしなかった・・・・










入るな


そう叫ぶべきであった・・・・そう言うべきであった

だが、ベルベレットは目の前に居る女神の美しさに声を失っていた。


「おい、いきなりどうし・・・・ッァ・・・・・!! ・・・・ゥ」


奥へ入ってくれたデイヴは言葉を失った、口に手を当てて・・・硬直した思考を必死に
動かそうとした

まずやらなければいけないのは、フラヴィをこの部屋に入れてはいけない・・・・そう
考えたのにも関らず、止まってしまった身体を動かすには少々の時間が掛かった

その少々の時間は、フラヴィに目撃を許すには十分だった


「フラ・・・ヴィ・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」












少女が見たのは・・・・優しく微笑む、見た事のない美しい女性と・・・・




まるで・・・・・・眠るように息を引き取っていたノエル・ベイルの遺体・・・・










「・・・・・・・パパ?」

「っ!」


咄嗟に、彼女を抱きとめようと伸ばしたデイヴの腕をすり抜けて・・・・フラヴィは横たわるノエル
の元へと駆け寄った


「・・・・・・・」


その柔らかな羽毛が生え揃った翼で、彼の冷たくなった頬を触る・・・・


「・・・・・・」

「・・・・・・・フラヴィ・・・・」

「・・・・・・動かない・・・・・」


翼から伝わる冷たさ

急速に「死」という物が其処に在るのだと理解する・・・・その幼き翼が濃密な死の臭いに浸った


「!!!!」


生き物として、彼女はそれが何故動かないのか、何故冷たいのか、そして何故こんなにも
怖いのか・・・・理解してしまった

この男が死んでしまったのだと、理解した

フラヴィはゆっくりと冷たくなった男の背中へ頭を落とす



「・・・・・・ふ・・・・ゥウウウウウウウウウ・・・・・ゥウゥゥゥウウウウウウウウウウ!!」


言い表せない感情がこみ上げてくる


「・・・・・・・」「っ・・・・・・・・・」「・・・・・・・・」


誰も、彼女の悲しみの濁流を止める事は出来なかった。






「ウゥウウウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! アアッ!! アア゛――――――



ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!



ア゛ア゛ア゛ア゛!!! アグ!! ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!




ウウウゥア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!









ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛








!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



















慟哭





彼女は泣いた・・・・両目から止める事のない涙を流しながら。




例え、たった2年だけでも自分にご飯を与えてくれた父の死を。


愛情を感じられなかった冷たい眼差しを送る父の死を。


たった一人、愛した者が残した最愛の掛け替えの無い物をなかった事にした男の死を。




拒絶し、名しか与えなかった親の死を。




それでも「父」という唯一の肉親の死を、彼女は嘆いているのだ。






         ・ ・ ・ ・
「そうよな・・・・それこそよな・・・・フラヴィ」







ベルベレットは静かにフラヴィの背をさすってやる・・・・・





「解るか?・・・・・この子はお主の為に泣いておるのじゃぞ・・・・」





ベルベレット・アナスタシアの瞳に涙が滲む






「子が親を愛するのが道理じゃろう・・・・・」





ノエル・ベイルという男に訴える・・・魂を籠めて









「親が子を愛するのが・・・・ッ・・・・道理じゃろう!」


























男の前には天使が居た





まるで神秘のベールのように彼女の体を纏う布は、彼女が感じている風の流れを現していた


すらりと細く美しい足は、鳥の足とは思えぬほど美しい・・・・野生的な無骨さはナリを潜めている


布の隙間から垣間見える彼女の腰は綺麗なラインを描きながら「くびれ」て、ただ美しい限り


程よく発育した胸は女性的な色香と母性を象徴しているが、それはとても暖かい優しさを持つ


大きく、まるで風を感じるように広げた腕は美しい翼であり、それは美しいアーチを描いている


優しさと愛に満ち溢れた彼女の表情は正しく女神だ、優しく暖かい表情で微笑を浮かべている


ロングヘアーの髪は今にも靡きそうな程しなやかに、そして優雅に風に流れている


そして、その髪には・・・・フラヴィと同じ髪飾りが一つ・・・




男が2年の時を費やして完成させた「セイレーンの彫像」は、恐らく彼の伴侶 デボラ の彫像

彼がこの彫刻史に名を連ねるほどの傑作を作り上げた彫像に果してどんな意味をもっていたのか


何も与える事の出来ない子に、せめて母親の顔を見せてやりたかったのか?

それとも、愛する者が生きた証をこの世に残しておきたかったのか?

あるいは、彼が彼女の形をただ求め現実より逃避し続けたのか?


全ては悪あがきだったのか・・・・


その真意はもう彼の口から語られる事はない・・・・
















「・・・・・」


その小さな部屋からデイヴは出た

ノエルの遺体を運んでベッドに寝かせた後・・・・

フラヴィは彼の遺体から離れようとはせず。未だにすすり泣いている。
ベルベレットはそんな彼女のそばに居る事にしたようだ・・・・

デイヴは部屋から出て、先程の彫像がある部屋へと戻った。部屋の中ではただカメリアが
その彫像を静かに眺めていた


「お手を煩わせてしまいました」

「女に死体を運ばせるわけにもいかねえよ」


デイヴは近くにあった小さな木箱の上に腰を下ろして、その彫像を見上げた・・・・
しばらく二人は静寂を保っていたが・・・・・10分程たった後、デイヴがぼそりと呟いた。


「・・・・・・確かに綺麗だけどよ」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・子供が本当に欲しいのは、愛情だろうによ・・・」


やるせない・・・・

悔しいのか、悲しいのか、憤っているのか、情けないのか良くわからない感情が渦巻いている
結局、自分は一体何が出来たのか・・・・全てがわからなくなった

悲しくてやりきれない・・・・ただその一言に尽きた


「・・・・・・」


カメリアはデイヴの言葉を聞きながら目を伏せた


「・・・・・私は少しだけ、彼の事がわかるかもしれません」

「?」

「愛する人の為・・・・命をかけると言う事・・・・」

「・・・・・・わかるのか」


カメリアは再び目を開いてその彫像を見上げた



「・・・・・・・・・―――――さん」



「・・・・なんか言ったか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いえ・・・・・何も・・・・」


カメリアはそっと両手を合わせ・・・・・彼の冥福を祈るのであった。


























あれから、泣き疲れて眠ったフラヴィをデイヴに任せたベルベレットは忙しなく動いたのだった

ベルベレットは一旦魔界に帰り、最近魔王城の城下町に来たサキュバスとインキュバスの夫婦に
フラヴィを引き取ってくれないかと話しをしたところ、事情を知った二人は喜んで引き受けた

そう、セヴリールとオリヴィエだ。

二人は事の次第を号泣しながら理解し、彼女を立派なセイレーンに育てると約束してくれた。
時折ベルベレットも様子を見に来るにした

カメリアは同じく魔王城の城下町のはずれ・・・葬儀屋と墓を一つ手配した・・・ノエルの墓である。
インキュバスと化していない人間が魔王城の城下町の墓穴に入る事はこれが始めてであろう

セイレーンの彫像はフラヴィとベルベレットがこれからどうするか話し合うつもりらしい


世が明け、フラヴィは魔界へと行く事になった・・・・デイヴとの別れである



「もう・・・・会えないのかな」

「俺はそっちにはいけないからな・・・・でも、手紙くらいは出すさ。それ位引き受けてくれるな?
ベルベレット」

「無論じゃ、しかしもう会えんと言う事はないぞフラヴィよ、その気になれば儂が会わせてやる
転移魔法を覚えればいつでも会いに来る事も出来るぞ?」

「ん、覚える」

「そのためには勉強しないといけませんね」

「ん、勉強する」

「おおそうじゃ、お主がインキュバスになって魔界に来ればよいぞぉ」

「ふざけろ、俺は一生人間で結構だ・・・・」


デイヴは腰を落としてフラヴィと同じ目線になると、ニカっと笑う


「元気でな?お母さんみたいな綺麗なセイレーンになれ」

「・・・・・・・・」

「どうした?」

「・・・・・なでなでして」

「・・・・・・はは」


差し出してきたフラヴィの頭に、デイヴはその右手をポンっと置いて・・・優しく撫でる



「元気でやれよ、フラヴィ」


「うん・・・・・お兄さん・・・・・デイヴさんも、元気でね」



デイヴから離れてベルベレットの所まで走ると、一度だけ振り返る



「(ぉ・・・・・)」



フラヴィはくるりとベルベレットを見て頷く・・・・ベルベレットも頷き返した



「うむ、それではのデイヴ」


「ああ、フラヴィを頼むぞ」


「任せておけぃ!さらばじゃ、また会おう!!」


「それでは失礼致します」



三人の足元に巨大な魔法陣が発生し、その魔法陣が目映い光を放った後、
三人の姿は消えていた・・・・



「・・・・・・最後の最後でやっとこさ笑ったか」



別れ際、彼女が振り向いた時に見せた笑顔・・・・またいずれ、彼女の笑顔を見る日が来るだろう



「よ・・・・・さて・・・・行くか!!」







デイヴは荷物を背負いなおして、昇る太陽を背に西を目指して再び歩みを進め始めたのだった





                                         To be continued_...
11/03/01 10:37更新 / カップ飯半人前
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■作者メッセージ
読んで頂きありがとうございます。カップ飯半人前です。

別にバトらせる気全くありませんでしたがいつの間にかバトってました。
(どういうことなの・・・・)

後、作中わかりにくいですが、ノエルとフラヴィはデボラさんが死んで2年程は一緒に生活して、
その後戻ってきて別々に暮らすように成りました・・・・って感じです、解りにくくすみません。

さて、呼んでてピンと来た方もおらっしゃるでしょうが、今回はサンホラの天使の彫像という歌がモチーフになってます。

そこに昨今話題になっている育児放棄とかその辺の問題をいれてみました。
(まあ彼の場合、フラヴィちゃんを恨んでいる節が強いのですが)
子供は大切にされてほしいものですよね、もちろん過度な保護というのも問題ですが。

毎度の事ながらご意見、ご感想をお待ちしております。(誤字もチェックはしていますが、文法的に変、誤字がある等の指摘もあればヨロシクお願いします)

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