連載小説
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さまよう者達



  

・・・・・・・・・・・・・・・・・・ええ、そうなんです

今回も(結構)生々しい表現が入りますので、苦手なお客様はご注意ください


                         by. Cap meshi han-ninmae













 〜12年前〜



町の入り口に大勢の人だかりが出来ていた・・・・

白を基調とする金色の装飾をした鎧と甲冑を纏った、教会の代行者たちが厳かな
雰囲気で着々と仕事をこなしている

その代行者たちの後ろで事の成り行きを見る民衆


「そいつはまだ人間だ!!おい聞いてるのか!!」


少年はそう叫ぶ

だが、周囲の大人たちの怒号や罵声、悲観から出る心無き声に打ち消されて。
その声は誰も、何も止める事は出来ない。


教会の代行者は執行を開始した、全ては神の教えに反する者を「消滅」させるために
目の前のそれが如何なる存在であっても、彼等は教義には逆らわない。
そう、決して神には逆らわない


純白の英雄が、憧れの英雄が剣を大きく振り上げる・・・・


「止めろぉ・・・・・・・止めてくれええええええええええええええええええええええええ」


ようやくその声に周囲の大人が少年の叫びに気づいたが、英雄の耳には聞えなかった
                                          


振り下ろされる剣



血飛沫を上げて倒れる肉の噴水が一つ



また一つ



また一つ



今度は二つ



それは彼の眼には教会の教義を逸脱した「蛮行」にしか見えなかったのだろう



純白と金の騎士は、恐ろしい死神達が薄皮一枚被って笑っているようにも見えた



全ての「  」が鮮血を飛び散らしながら倒れたとき、少年の気持とは裏腹に




「歓声」があがったのだった








その日少年は大切な友と、母と呼べる人を二人失った。












月日が流れ・・・・悪夢は再び少年を襲う


















焔を囲む白と金の死神たちは再び彼の友に牙を向く、人間と言う種族の絶対正義を携えて

人治国家であれ法治国家であれ、ルールに反する者は処罰される
それが「人間」の正義でありルールであり、狂気でもある。

人は狂気をルールと化して自らを正当化する。全ては我等人の為と、甘い言葉で飾りながら

だからこそ、目の前で行われているのは「正しい」行動なのだ。

そこに誰の、どんな想いがあろうとも・・・・人がルールに従う限り正しき行動であり続ける。



「やめろ!!やめないか!!」

「どけえ!!」

「やめろ!!中に居るのは邪教徒だぞ!!」

「そうですよ・・・・それに、あなたが言ったんじゃないですか、彼等を救ってくれと」



「っ!!!貴様等ああああああああああああああああああ!!」



燃え上がる炎へ向って少年は走り出そうとするが、幾つもの男の腕が伸びて彼の体を止めた
少年はもがくが・・・・少年の意図を知らぬ者は彼の思いも行動も全てを止める


「誰か!!こいつを抑えるのを手伝ってくれぇ!!」

「おら!!大人しくしやがれ!!」


身体を地面に叩きつけられて、少年は土を身体に浴びながらもがく・・・・


「放せ・・・はぁなせ!!まだ中に「人間」が居るんだぞ!!・・・・・・・!!?」


少年は見た・・・・燃え盛る炎を纏ったその家の窓の向こうで唇を重ねあう二人を

二人はこちらの叫びなどまるで聞えていない・・・・二人は、二人だけの世界の中で崩れ行く
その刹那の瞬間までをお互いを愛する時間にあてた・・・・

自らを焦がす炎の中で、お互いを愛し合いながら身体を撃ちつけ会う二人の姿は・・・


人間ではない、そう思ってしまうほど        神秘的だったから・・・


少年は、その二人の幸せそうな瞬間を見て・・・・・全てを止めた


「・・・・リゼ・・・・エルガー」


闇をも焦がす炎のダンスは、形ある物を灰へと変える・・・・

二人の人型も炎に包まれて、彼には二人がどんな遺言を残して消えていくのかも知らずに。
彼は、二人の命の灯火が・・・・更に大きな炎に包まれていくのを見ているしかなかった




その日少年は大切な友を二人失った。









月日が流れ・・・・少年は青年になった。

















 〜森〜


「・・・・・・・・くそ!!」


一人の女性が行き場の無い苛立ちでつい悪態をつく・・・・
                                          

長く美しいオレンジ色のストレートヘアーが、中天の銀月に照らし出されさらりと光が波打つ
よく言えば「凛々しく」悪く言えば「生真面目」そうな凛とした顔立ちは、今明らかに不機嫌
魅惑的な大きな胸と大きなお尻は、女性のやわらかさを残した筋肉に引き締まり、メラエロい

否、テラエロい 

そんなテラエロい身体には、周囲をしきりに見渡す無数の眼がついた鎧を着込んでいる。
黒い漆黒のマントを靡かせ、腰には立派な剣を携えている


彼女は魔物である・・・・


「・・・・何処に居る・・・」


彼女が不機嫌な理由は二つ。

一つは、尋ね人が見つからない事


「我侭は何時もの事だがな・・・今回ばかりは貴様を恨むぞ・・・・」


魔界を出るとき盟友が別れ際に


『あやつの我侭は何時もの事じゃて、どうせ腹が減ったら帰ってくるわい』


能天気な盟友の顔をその時は叱りもしたが、今では彼女の言葉に同意してさっさと帰りたい。
しかし、誓いを立てた手前もある手ぶらでは帰れまい


「見つけたら思いっきり鞘でケツをたたいてやる・・・・叩いてやる!!」


彼女は誓いを立てるときはこうして二回叫ぶ、重要な事だから


「叩いてやる!!!」


三回言った、彼女はマジだ。


「目一杯力を籠めて・・・・こうフルスイングで「「いっぱぁ〜つ」」  ・・・・・!?」


今、盟友とそのメイドの声が聞えたような・・・・


「・・・・・大方、また術式を失敗したのだろう・・・・はぁ、さっさと見つけて帰ろう・・・」


溜息を吐いて彼女は森の中を進む・・・・


「(・・・・それにしても、そろそろ身体に蓄えた魔力が尽きてきた・・・・ストックの補給剤もない
一度魔界に帰還して装備を整えてから、捜索を再開したほうが良いか・・・・?)」


魔界に住む者が外の世界に出たとき・・・魔界へと転移する特別な転移札を用意している物である
彼女も例外ではなく、その札を持っているのだ。

もちろん人間のようにバッグの中に入れるなどと言う非効率な事はしない、
自らの意思でいつでも取り出せるよう自分たちが固有に持つ亜空間に入れておくのが主流

彼女は一旦魔界へ帰る事を決めて、フィンガースナップをしてその札を呼び出した


「・・・・・・・・・・・?」


パチンと、彼女がフィンガースナップをもう一度


「・・・・・・・・・・・おや?」


札が出てこない


「・・・・・・・・・・・おや?」


そもそも亜空間に呼び出す物が存在してない場合・・・・呼び出すことが出来ないわけで


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


彼女は両手を広げた・・・・中天の銀月を仰ぐように・・・・・・







          ○←中天の銀月




       \(^o^)/  





その日、彼女は初めて迷子になった。
























 〜同じ森のどこか〜


「・・・・・・」


もう何日も森を伝って歩いてきた・・・・服もボロボロに成り、体中から泥の臭いがする


「・・・・・」


風の声も、森の囁きも・・・・前までは普通に聞えた自然の声が・・・・今はもう聞えない

忌々しいのは彼女の体の奥底より沸き出でる、不純で穢れた欲望の湧き水がとりとめも無く
溢れ出ている事か。彼女は忌々しくもギリリと歯を食いしばる

以前、道中で作った焼き肉もすっかり腐っていたのでついさっき捨てたばかりだ
また、泥臭い木の根を齧るしかないのかと頭が痛くなってくる。


「・・・・・・死にたい」


ぼそりと呟いた

死を受け容れる事が出来たならば、あるいは新たな転生を受ける事が出来たなら
私は再び風の声を、森の囁きに耳を傾ける事が出来るのだろうか?

しかし

それでは自分と言う存在は果して自分なのか?

生まれ変わって、再び筆を握ったとしても・・・・果たしてそこには自分が望む景色が
広がっているのか?

恐らく違うだろう・・・・

彼女は歩を進める・・・・

この身の穢れを流すために・・・・この溢れ出る欲望の渦に飲まれぬように


「・・・・・・・」


しかし、ずっと動かし続けた身体は悲鳴を上げ続けている・・・・
四肢を動かせば痛みが全身を駆け巡って心を挫いてくる


「ッ――――――!」


まだ頑張れる・・・・そう思った瞬間、身体の糸が切れた

全身に響く衝撃が身体に更にダメージを与える。


「・・・あれ?」


身体に力を入れても立ち上がれない・・・・まるで自分の身体が他人の物のようだ。

精神が肉体を越えた結果だ、彼女はまだ強い意思を秘めて立ち上がろうとしているのに
身体はそれを許さなかった


「(・・・・・・・・)」


彼女の口がパクパクと動き・・・・・その眼から光が消えていく
絶望と倦怠が心を支配して、精神さえまともに動かなくなってしまった






その日、彼女は初めて諦めを知った

















「・・・・・・・・」


男は黙々とホットドックを食べる・・・男は大層無口だった。


「なあ頼むよ・・・・俺今回全然なんだって・・・・」

「・・・・・(ゴク)・・・・・そうか、それは大変だな」


男はそういうと、立ち上がってホットドック代には十分なコインをジャケットの内ポケットから
とりだして働く少女に渡すと、店を出ようと歩き始める


<ありがとうございましたー!


少女の声と同じくして、もう一人の男が彼を追いかけてきた
追いかけてくる普通の青年のようだが・・・随分身なりがいい。どこかの有力者の子息だろうか?


「おい頼むって!!俺達親友じゃないか!」

「・・・・・」


無口な男は立ち止まって溜息を吐く・・・・追いかけてきた青年はニヤリと笑って彼の後ろで止まる




肉がぶつかった音が響く




彼の右足が大きくしなって背面の男の顔面を捉える

身体の遠心力をそのままに右足を振りぬけば、背面に居た男は綺麗な放物線を描いて飛んでいく

見事な「回し蹴り」で背面の男を吹き飛ばした




「な・・・・んで・・・・・」

「・・・・・・・・」


それはすぐに周囲に喧騒を呼んだが、無口な男はそれを気にする事なく吹き飛ばした男を見下す
回し蹴りがあまりに綺麗に入ったのか、男は意識を落としてしまった・・・


「・・・・・・家に帰れ、金なら腐るほどあるだろう」


そもそも、この男とは昔からちょくちょく顔を合わせるだけの仲である
久方ぶりに自分が育った町に帰ってきてみればこの男がこちらに声をかけてきたわけだ

金持ちの家柄か・・・あいかわらず調子の良い事ばかり言って、人の神経を逆なでしてくる
こいつが昔から人の行為を食い物にしている奴だというのは知っていた、まるで成長していない


<コラー!!そこの暴漢!!大人しくしなさい!!


やれ、面倒な連中が来た・・・・

無口な男は転移札を使ってその場から消えうせてしまった













転移した先は街の外である、町を挟んだ向こう側に森があり、その向こう側には山脈がある
先ほどまで自分がいた町は、山脈の向こう側にある町に貿易を通じて発展している


「・・・・・・」


故郷だが、自分はこの町は好きにはなれなかった・・・・この町では大切な人を失った
自分には居場所は要らないとすら思う

その町の向こう側に見える森から視線を外して、視線を目の前に移すともう一つの森がある

荷物を背負いなおして足を進める・・・この森を抜けるか迂回をして次の町まで行くのだ


「・・・・・・行くか」


歩を進める

しかし、森を迂回していく場所には検問所がある・・・・自分はそこを通れない
自分はブラック・コロブチカ(黒の行商人)であるのだから

2年前までは無かった検問所が忌まわしい、森の近くは多くの魔物が居るためできれば入りたく無い
それにどうもあの森では方向感覚が狂ってしまう、あの森はエルフ達が住んでおり結界を
張っているからである。それに捉まればあの広大な森をぐるぐると迷う事になるだろう

だから、森を越えるには十二分の・・・1ヵ月分の準備をしてきた、それでも不安極まりないが・・・・

彼は森へ向って歩みを進めていった






















周辺で魔物に出会うことなく森にはいることはできたが

森の中にはいって1時間程歩いてエルフの結界の効果に引っかかった、以前よりも効果の範囲が
拡大している、幸い完全に引っかかってはいないようだが・・・たよりのコンパスは


(((◎)))キュィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!


針が天に召されるのではないのかと思う程の超高速回転をしている、頼りになるはずが無い
今は太陽の位置によって方角が解るが、森の奥へ行けばそうもいかない

強力な磁場によって方向感覚が狂い、同じ場所をぐるぐる回るリング・ワンダ・リング・・・
つまり同じ場所を無意識の内にぐるぐると回る現象に陥ってしまう

まあ、ある程度森の浅い場所を太陽の位置が確認できる時間に進めば、2日もあれば踏破
出来るだろう







森に入って1日が過ぎた
                                          
エルフの結界のお陰でこの辺に魔物は生息していない・・・・そう考えるとここは比較的安全な
旅路なのかもしれない


「・・・・・・・・」


ただ、注意しなければいけないのはエルフの居るところ、大体ダークエルフも居るからだ
彼女等は非常に好色で奔放な性格をしており、男性を虐げる趣向を好む。注意しなければ


「!!」


がさりと草むらが動いてたいそう慌てて兎がこちらに向って走ってきた・・・・彼は木に身を隠す
ただ走ってきただけならばいいが、それが何かに追われて出て来たというなら話しは別だ

この森にいるのは恐らく、エルフかダークエルフ・・・・または野獣の類だ

後者ならば幾らでも手立てがあるが、もし狩をしているエルフや力のあるダークエルフならば
逃げ出すのには少々骨が折れる。

男は静かに森の気配を窺うが・・・・四方30mからは生き物の気配は感じられない


「・・・・・・」


身長に木から出て兎が逃げてきた方向に意識を集中させる・・・・だが、やはり何も感じない

不思議に思ってその茂みの向こうを確認すると


「・・・・・あれは・・・」


そこには、泥に塗れた一人の女性が横たわっていた、周囲には彼女の荷物らしい物が散乱
していた


「!、・・・・」


彼は彼女の元へ駆け寄った


「おい・・・・おい、大丈夫か?」

「・・・・・・・・ん」

「・・・・(意識は残っているか)」


うつ伏せで倒れている女性を仰向けに寝かせると、首の喉の横の筋肉
に手を当てて脈を計る・・・・


「・・・・まずい」


脈が小さい、血色も悪い・・・・身体を動かした際にも見受けられる、彼女の手や足・・・
関節のいたる所に見れる腫れ・・・随分長い間歩き続けていたのだろう

こんな身体では体力の回復は見込めない、普通の治療や治癒術では到底回復は間に合わない。

彼は急ぎ自分の荷物の中からハチミツを基軸として調合した栄養剤を、僅かに呼吸をする
口から少しずつ流し込んでいく


「ん・・・・んぐ・・・」

「吐くな・・・・のめ」


声に答えたのか、彼女はゆっくりとその栄養剤を飲んでいく


「・・・・・ぐ・・・んん」

「・・・・・・」


次の町で売ろうと考えていた・・・・ユニコーンの角

一年ほど前だったか、モンスターハンターからユニコーンを助けた事がある。
彼女は元々旦那から引き離されて連れて来られたらしく、元の旦那の処まで送ってやったら

なんと彼女は自分の角を折って自分にくれた

すでに旦那と交わってしまったが故、その魔力は小さなものになったが
まだまだ使える代物だという、流石にあれには慌てたが・・・ユニコーン曰く


『何れ飾りとなる角です、それに・・・私下向きに生えているんでキスのとき邪魔なんです』


ご馳走様である。ありがたく受け取った・・・

どこぞの誰かに売られて転売されるよりも、最後に人助けをして消えていくほうがこの角も
本望であろう。

男は治癒魔術を使う事は出来ないが、治癒魔術を使用できる札を取り出す

札は少量の魔力を注入する事で使用が可能になる
魔力のコントロールに心得があれば誰にでも使えるのだ。

幸い彼は治癒魔術を使う事は出来ないが、魔力のコントロールには中々に自信がある
ユニコーンの角にある魔力を札へと誘導してやる・・・・その誘導は慎重に行った
ユニコーンの魔力は非常に他の魔力と混じりやすい・・・・そうなればユニコーンの魔力は消える


「・・・・・・・・」


札がミルク色の輝きを放ち始めた、どうやら魔力の誘導は出来たようだ
その札を彼女の腹部において、術式の起動部分の術式を任意起動から即時起動へ書き換える

札は発動して彼女の体を光に包み始めた・・・・















「テオ」


彼女は一匹の子犬を両手に抱いて走ってきた、茂みを通ったのか無造作なロングヘアーが
更にボサボサになっている、彼女はいつも自分の事に対しては無頓着である


「・・・・・なんだ、それは。犬とかいう平凡な答えを返すなよ」


眼鏡を上げて彼女を見据えると、図星をつかれたようで目を泳がしていた


「・・・・何処で拾ってきた」

「森」

「どうする気だ?」

「飼うんだよ」


ぶっきらぼうにそう言うと彼女は子犬を手放した・・・子犬は彼女の周囲を駆け回りじゃれつく


「名前はジェモスタ」

「聞いとらん、シスターを困らせるな」


シスターは優しい方だ、孤児院の資金事情をそれなりに知っている自分としては彼女の行動が
予測できた、神に従順なシスターだ・・・・人や犬、はばかりなく手を差し伸べるだろう
それはどうやら彼女もわかっているらしい・・・・良心と現実の狭間でどうにも揺れているようだ


「どうすればいい?」

「知らん」

「ジェモスタ、あいつは冷たい奴だ」


子犬は首をかしげて彼女を見ている、犬は能天気である・・・特に生まれたては


<テオフィル!!ジネット!!
 

シスターの声が聞えた、孤児院の入り口より10m程離れた場所の道の上にシスターの姿を
見つけた、どうやら街にパンを買いに行っていたらしい・・・パンが入ったバスケットを片手に
微笑んでこちらをみていた


「ジェモスタ、あの人は優しい人だ」


ジネットはジェモスタに教育をしている・・・・二人と一匹は走ってシスターに近づいた


「あら?・・・・」

「シスター、ジェモスタだ」


どやっ!

と言いたげな顔でジェモスタをシスターに向ってみせるジネット、シスターは予想通り
子犬を見て困った顔のままで微笑んだ


「飼って良い?」

「そ、そうですねえ・・・・」

「魚とか釣ってくる、猟もする、食べるものは私が何とかする」


土台無理な話しだ、魚釣りに行っては竿を投げ、猟に行っては兎一匹可哀想だと取れない奴が
そんな見栄を張ったところで


「・・・・いいですよ、でもきっちり躾や面倒は見てくださいね?」


シスターは許してしまった・・・・ジネットはいつもムスっとした顔をちょっとだけ笑わせて頷く


「テオフィルも」

「俺もですか」

「いい、ジェモスタは私が面倒を見る」


彼女はジェモスタを高く上げて笑顔を浮かべた・・・数年共に住んでいるがこんなに晴れた笑顔は
今まで見た事がない、すこしだけ妬いてしまった







孤児院にはシスターとテオフィル、ジネット、エルガー、リゼという孤児と共に住んでいた
教会からのわずかばかりの誠意と、町の人達のわずかばかりの行為でその孤児院は成り立った


「ジェモスタ〜」


リゼがジェモスタを呼べば、ジェモスタはリゼの方へと走った


「ジェモスター」


エルガーがジェモスタを呼べばジェモスタはエルガーの方へと走った


「ジェモスタ」


ジネットがジェモスタを呼べばジェモスタはジネットの方へと走った


「・・・・・・」


自分は、一度も犬の名を呼ばなかった、当たり前だがジェモスタは彼の方へと走らない

子供と言うのは悪知恵がよく働くものだ・・・・
ある日エルガーは鬼ごっこをしようといった、鬼はいつも最初はテオフィルだった

もちろん逃げる役はリゼ・エルガー・ジネット・・・・そしてジェモスタだ


「・・・・・・・」


テオフィルは足が早く今まで一度も負けた事は無かった、逃げる側でも、追う側でも
しかし、今回ばかりは強敵が居た


<わん!


子犬と言っても犬だ、人間の足の速さでは追いつけない・・・・

作戦を立てて追い詰めようとしても


「ジェモスター」


一声かければリゼ達がジェモスタを誘導して台無しにされた
ジェモスタと呼んでやれば来るのかもしれないが・・・・テオフィルは意地になっていた、子供だから



「・・・・・」



その日初めて鬼ごっこで負けた





                                       









―――――――パチッ


木が弾けた音で目を覚ました、うとうとと眠ってしまったらしい。昔の夢を見ていた


「・・・・・・ん・・・・くぁ・・・・フゥ」


大きな欠伸をした後、焚き火の向こう側で寝ている女性を見据えた
この女性を看病して3日が過ぎている、近くに川があったのが幸いした・・・野宿は不自由ではない


「・・・・・スゥ・・・・・・スゥ」


静かに寝息を立てている彼女・・・・血色も大分良くなり健康状態の回復はまずまずといったところ
あとは起きるのを待つだけだ


「・・・・・・・・・・」


萌黄色の長く美しい髪、女性らしい大きな胸が呼吸によって上下する
泥に塗れた顔や手足を拭いてやれば彼女の美しさが出て来た。

なにより気を引いたのは彼女の手だ・・・長年筆を持ち続けたのか、筆だこや、指の微妙な変形が
見られた、彼女はどうやら画家か執筆家らしい


―――――――パチッ


ビュゥっと吹き込む風が焚き火を撫でて火を弾く


「・・・・・・・・・」


ゆっくりと腰に携えた護身用のナイフを引き抜いた、刃渡り24cmの大型ナイフが
鞘である皮の鞘から出てくるとギラリと火の光に反射して輝いた


「(ここに居れば思うようには動けんか)」


彼女の服の上に魔法障壁の札で、障壁を発生させた・・・・

男は立ち上がってナイフを逆手に持ってその場を離れたのだった









                                          





森の中、木や草の陰から刺すような殺気が四方から感じられる


「っ・・・・・」


足元がおぼつかない、ぐらりと倒れそうになる体をこらえて剣を構えなおすのだが
その一瞬の隙を奴等は見逃さない・・・・獰猛性をむき出しにした無数の牙の葬列でこちらの喉笛を
噛み切ろうと襲い掛かってくる


「フ!!」


背面、首筋を狙って牙を立てようとした殺気の塊、それに対して右に身体を逸らして牙と爪を避け
振り返るように身体を動かして寝かせた刃をその殺気の塊に沿わせると


――――――――ブパァ


前足の肩から入った刃がスラリと肉に滑り込んで、骨と腸を拓いて行く・・・・剣に力を籠めて
振り抜くと、殺気の塊は大量の血を背後に撒き散らしながら転がっていき、肉塊へと変わった


「ッハ!!・・・・」


無酸素運動を一旦停止、大きく息を吸い込んで再び意識を集中させる

今、自分を取り囲んでいるのは狼の群れだ・・・・茂みや木の影からこちらを虎視眈々と狙っている
矢よりも遅いが、矢よりも変則的に駆けて、矢よりも鋭い牙を持つ。
その数は凡そ10、今斬って9になるか・・・・

いつもならばこの程度の狼に引けなど取らないのだが、いかんせん


「(腹がすいてなければ・・・・)」


空腹なのである・・・


「(否!断じて否!!空腹如きで格下の相手に後れを取るなど武人にあってはならんこと!
それこそ父母より教わりし騎士の矜持に関る!何より私の沽券に関る!!)」


お腹が減って力が出ないよー → あ! 野生の 狼が 現れた → \くま――/


「(洒落にならん!!)」


そんなことになってはご近所に噂される!!


『ちょっと奥さん聞いて、向こうの娘さん、狼にレイプされるのが趣味らしいわよ』

『やあねえ・・・男が釣れないからって獣相手にねえ・・・』

『なんでも群れの狼に輪姦されるのが趣味らしいわよ』

『欲求不満なら触手の森に行けばよろしいのに・・・』

『やあねえ』

『やあねえ』





「嫌だああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」




狼達がビクつく


「(そんな根も葉もない噂が立っては父母上様に顔向けが出来ん!!ご先祖様にも!!
なんとかこの危機を脱してご近所の噂が立たんようにせねば!!)」


勝手な一人妄想に必死である、彼女のボロボロの体に再び闘気が宿る
そして、手を一瞬はなすとフィンガースナップをして、その手に小さな石ころを出現させた
なんと彼女はその石ころを口に含んで飲み込んだ


「ふぅ・・・・」


剣を握る力が強く蘇る




「かかって来い!!獣如きに輪姦されるほど安くはないぞ!!その一物ごと叩ききってやる!!」




勇ましい言葉と共に剣を握った









 〜そこからすこ〜し、離れた場所〜


「・・・・・」



『かかって来い!!獣如きに輪姦されるほど安くはないぞ!!その一物ごと叩ききってやる!!』



ぶっちゃけ近寄りづらい、近寄ったら叩ききられる


ナニを


きゅ・・・・


股間が縮小するのを感じながら目の前の状況を確認すると、狼達が一人の女騎士を囲んでいる
最初はその影を遠くから見ていれば、教団の女騎士かと思ったが・・・・月明かりに出てみれば
その女性は教団の騎士とはまるで対極の位置に居る存在であることがわかった


「(魔界でもない・・・しかもエルフの森に何故デュラハンがいる?)」


デュラハン

「首なし騎士」の異名をとる彼女たち、卓越した剣の腕、知識は深く魔術にも秀出て、
非常に理知的な態度を持つ、騎士の名がピタリと当てはまる魔物である


本来ならば狼如き相手に後れを取るような魔物ではないのだが・・・・あのデュラハンはどうも変だ
先ほどから息が上がっているようだし、なにより剣がぶれている
負傷しているのか・・・・足元もややおぼつかない、先ほどから何度も隙を見せてはギリギリで迎撃
しているのを繰り返す、あれでは何時か狼の牙が彼女を捕らえるだろう


「・・・・・(さてどうしたものか?デュラハン等初めて出会う種族だ・・・・)」


彼は迷っていた・・・・さて・・・・どうし

















グシュリと音を立てて鮮血が吹き出した

















首に深くつきたてられ頚動脈が傷ついたのだろう・・・大量の血をばら撒きながら肢体が地面に
倒れ伏せてピクリとも動かなくなった

意識が遠のき・・・・その一つの命の灯火が消える




「なんだ!?」


異変に気づいたのか、デュラハンが東の方向を見てみると


ブシ!!


再び肉を裂く音が聞えて、死体となった狼が木の影から転がり出て来た・・・・
みれば、一本の木の両サイドに犬の死体が二つ転がっていた、いずれも首が無い


「・・・・・・すまない、驚かすつもりはなかった」


そういいながら男はこちらに向って腰にある投擲用のナイフをこちらに向って投げつけてきた
ナイフはデュラハンの頭上を通って、背後から襲い掛かってきた狼の眉間に突き刺さる


「!!」


デュラハンは自分の身体に激突しそうになる狼を左腕の手甲で振り払った


「加勢する」

「あ・・・ああ!!助かる!!」


こうして二人の共闘が始まった・・・・









「ッ――!! ッハァ!!」


デュラハンは男が現れた事で気が引き締まったのか、剣の太刀筋は先程よりも上がっている

右斜め前方から右足を狙って。1テンポ遅れて左からこちらの首を狙って狼が襲い掛かるが
デュラハンは冷静に背後へ1m程一足で飛ぶと、左から襲ってくる狼をかわし
右斜め前方から襲ってくる狼を正面に捉えて


「ォオ!!」


勇ましい掛け声と共に剣を下から円を描くように切上げた、刃は狼の下から襲い掛かり
肩から腹までに渡って沈んでいき、そのまま硬い骨を切裂きながら狼を死に至らしめる

剣の衝撃で吹き飛ばされ、血を描きながら見事な放物線を描き・・・・木に当って血をぶちまけた
落ちた狼の顎がガパリと一度開く・・・脊髄反射による物だ。


「ッ!!  は・・・」


刹那、左から襲って来た狼が身を反転して再び跳躍、空中からデュラハンに向って襲い掛かる

デュラハンは息を吐き出さずにその狼の攻撃を察知すると身を屈めて狼の牙の攻撃線上から
身を外す


「ふん!!」


屈んだ状態で剣の刃を頭上を通る狼の鼻先にぶつける
バズンと音を立てて剣が狼の身体に縦一文字に切り捨てた。

ドチャっと肉がはじける音がして、狼が真っ二つになった物が二つ地面に落ち
再び大量の血が地面にぶちまけられ、ツンと鼻腔を衝く死臭があたりに広まる


「(あの男は・・・)」


加勢に来てくれた男は・・・・・狼二匹に挟み込まれていた







男は右手でナイフを逆手から普通に持ち直して自分の顔の前に手でハの字を描いた構えを取る
そして両側から挟みこむように此方を狙う狼に意識を集中する

と、音を小さく左方に居た狼が動いた

左方の狼は突如男の前方の方へ走ったかと思うとUターン、こちらに突貫を仕掛けてくる、

と同時に右方にいた狼もそのUターンより1テンポ遅くに走ってきた!!
男はジャケットの中へと左手を入れる


「ッ!」


しかし男は臆することなく前から迫り来る狼に向って身に力を籠める
全身のバネを爆発させて、今出せる最高の瞬発力で狼へ向って飛び込んだ。


「フ!!」


その距離凡そ2mの跳躍、前方との狼の距離も凡そ2m・・・
次に1秒を数え終わる間に奴は此方に喰らいついて来るだろう。

男は着地と同時に思い切り右足を蹴り上げる

バキィと骨が砕ける音がして、無数の牙が折れ、塞いだ口から血が漏れる。
狼の下顎から蹴り上げると前方の狼は真上へと蹴り上げられた!

しかし右方からすぐに別の牙が

本当に目の前、距離にして30cmの位置で口を大きく開けていた


「―――発」


男の呟きと共に、すぐそばにまで迫った狼がまるで壁に当ったように弾かれる・・・・
それに別段驚きを見せずに、目の前で蹴り上げた狼に集中する。・・・右足が地面についた瞬間


「!!」


男は右手のナイフを目の前の狼の白い毛並みが並んだ腹部へと叩き込む!
一瞬狼はくの字に身体が折れ曲がると、刺された衝撃で背面へと飛ばされる・・・その時にズルリと
ナイフの刃が狼の腹から出て来た。

すぐさま左手をジャケットの中から引き抜く

左手には札があった・・・魔法障壁の札らしい、なるほどこれで右方の狼の攻撃を凌いだようだ。

その札を捨てて、左手は腰にある投擲用のナイフへと伸びた。右足で今度は地面を蹴る


「ッ」


左足を軸としてくるりと身体を反時計回りに回転させ、遠心力を乗せた左手のナイフを
弾き飛ばした右方の狼へと投げつけた。


<キャグゥウ!!


苦悶の一吠え

狼の喉元へとナイフは吸い込まれるように突き刺さり、致命傷を与えた・・・・

回転の勢いを右足で地面につけて殺し・・・




もう一度右足で地面を蹴って、もう一回転




骨が砕ける音が響く




彼の右足が大きくしなって背面の狼の顔面を捉える

身体の遠心力をそのままに右足を振りぬけば、背面に居た狼は綺麗な放物線を描いて飛んでいく

見事な「回し蹴り」で背面から飛びかかってきた狼を吹き飛ばした




最初に男が前へと飛び出してわずか4秒の出来事だった




「・・・・・ぉお・・・」


デュラハンはその男の動きを見て感嘆の息を漏らす・・・・ほんの数秒の動きだったがまるで輪舞曲
を踊っているかのように見事なものであったからだ。
そしてなにより、その攻撃はどれも見事である・・・一瞬にして三体の狼をカウンターで倒したのだ


「見事なものだ・・・これは私の剣も披露せねば」


デュラハンが最後の一匹に向けて剣を構えた、その距離・・・凡そ5m

デュラハンは一度剣を右後ろへ引いて切っ先を背面へと向けると、左足を前に出して身を屈めた
そして、まるで地面を切るかのように、見事な半円を描いて狼へ向けて剣を振りぬく

もちろんその距離は5mも離れているのだ、剣が届くリーチではないが・・・・



狼へ向って紫の剣閃が一直線に地面を駆けていく。



矢よりも速い紫の脅威は、狼には交わす事は出来なかった。
光は狼の身体をすり抜けて奥にある木に当ってようやく弾けた

バズン!!と音を立てて背後の木が立ったまま真っ二つになり、狼の身体も同じように
血飛沫を上げて真っ二つになってしまった


これがデュラハンの剣術の真骨頂である。

魔力を剣に乗せた剣技は、今の様に離れた相手を斬ったり、燃やしたり、あるいは破壊力を上る
魔物としての力と剣技に秀でるデュラハンならでわの技であろう


デュラハンは剣についていた血を振り払い、収めて、血臭漂う修羅場の中で男に微笑んだ


「いや危ないところを助かったぞ人間」

「・・・・・」


男もナイフを腰に納めて無言で頷く


「・・・・・本当に加勢が必要だったかわからない位に見事な剣技だったな、流石はデュラハンと
言った所か・・・・」

「ほぉ、私がわかるのか、見解の広い人間だな・・・もしや勇者か?」

「・・・・違う、ただの行商人だ・・・・」

「行商人にしては素晴らしい動きだった、随分戦いなれした行商人も居た物だ」

「・・・・雑談はこれくらいにして、後処理をする」

「む、そうであった」


それから二人はウルフ達を集めて燃やした後、血に砂をかけて臭いを誤魔化した
こうでもしないと血の臭いにつられて他の獣たちがやってくるからだ。

その後、川へ向って体中についた血を洗い流して、二人は男のキャンプの場所へと向った















「変わった御仁だ」


自分が人間の中では違法性を帯びた人間である事、森に入って女性を助けたと言う事、
ここで野宿をしている事を彼なりにデュラハンに伝えると、彼女は微笑みながらそう言った


「・・・・そうだろうな」

「自覚があるか、魔物に好意的な人間はよほどの好色か・・・あるいは金儲けの為かとばかり思って
いたが、此度の事で貴公のような変り種が居る事も学べた」


―――パチッ


火がはじける・・・やや消えかかっていた炎が再び息を吹き返したように燃え始める


「名を聞かせてはくれまいか?」

「・・・・ テオフィル・カントルーヴ 」


テオフィルと名乗った男は、焚き火に薪をくべながら静かに目を伏せる・・・・


「あんたは?」

「うむ、私は ヴァネッサ・カバネル という。貴公の考える通りデュラハンと呼ばれる魔物だ
首も外していないのに良く気づいた物だ・・・」

「あの人間離れした技と・・・・その鎧を見れば見当はつくものだがな」


鎧についた幾つもの眼がギョロギョロ周囲を窺っている・・・・
ヴァネッサはクスリと上品に笑うと、腰に差している剣を横に置いた


「つくづく不思議な御仁だ、人と話をしている気がしないな・・・・」

「・・・・・・」

「気を悪くするな」

「こういう顔だ」


再びクスリと笑う・・・・


「人にしては魔物を畏れない、嫌煙するわけでもなく・・・・まるで同じ種族を相手にしてるかの
ように会話している。私もまるで同位の魔物相手に話をしているようだぞ」

「・・・・・そうか・・・・それで、あんたはどうして森に居るんだ?デュラハンは魔界にいる
物だと聞いたのだが」

「うむ、迷った」


どこまでも、果てしなく、しかし省みることなく彼女は堂々と打ち明けた


「盟友が魔界を出てこちらに出ていって行方知らずなのだ・・・私は彼女を探しに来たのだが
うっかり帰還用の転移札を忘れてな・・・・人里に向えば転移の術に必要な道具を手に入れられる
と踏んでいたのだが、どういうわけかこの森を抜ける事が出来んのだ」

「・・・・この森にはエルフがいて、彼女等のはった結界で方向感覚が狂う・・・あんたはそれに
引っかかっているんだ・・・抜けようと思って抜けられるものではない」

「なんと・・・・ならばどうすれば良い?」

「あんたはもう結界から抜けている、ここは結界から外れている場所だ。東を目指して真っ直ぐ
行けば町がある」

「そうか・・・いや、助けてもらったうえ道を教えてもらえるとは・・・・感謝する」

「・・・・・気にするな」


テオフィルはからん、と木の枝をくべて火力を上げる・・・・


「それにしても・・・・これから如何するのだ?この娘・・・・」


ヴァネッサは自分の右手に寝ている女性をみる



「・・・・エルフだろう?」


「・・・・・」



そう・・・・テオフィルが助けた女性、それは恐らく・・・この森に住まうはずのエルフである
静かに寝息を立てるエルフは順調に回復しているようである


「・・・エルフは人を嫌う・・・・貴公が彼女を助けても、彼女は貴公に感謝などしまい」

「・・・・そうだろう、な・・・・」


枯れ枝を火の中へほうりこむ



「それがどうした?」



彼は強い意思を秘めながら彼女に聞き返した


「見返りなど必要ない、か?」

「・・・・エルフが一人、こんなにボロボロになるまで歩く理由くらい思いつく、恐らく彼女は里を
追われたんだろう・・・・」

「ぅうむ・・・・」




エルフが里を終われる理由・・・・
至極簡単だ、魔王の魔力を受けてしまい、サキュバスへと変貌を始めてしまったのだろう

エルフの掟は彼女たちがエルフであるという自覚を持つならば絶対であり、背く事などできない
そこに個人の感情の介入などできず、絶対性のルールが全てを裁く
それは社会的地位が低い者でも、高い者でも、頂点に立つものですら例外ではない

多くの人間が国王を頂点に取る「人治国家」を形成する中、エルフと言う種族は人類より先に
「法治国家」と言う物を形成した種族であろう。


彼女等の法による拘束力は「感情論理」を無視する

法と言うルールが無くても、最低限機能するはずの絶対律・・・この場合生物が持っている感情的な
絶対律だ、つまり、生物として「これは駄目」「それはやってはいけない」というルールである


例を上げてみよう

「親が子を育てるのが普通」これは多くの生物が本能的にもつ感情があるが、ある事が原因
この場合「子がサキュバスになる」として、彼女等はサキュバスとなった子を許さず、
また育てる事も否定する、そこに個人の感情移入が働く事はないのだ

たとえ子であっても、法から外れた物は既に彼女等にとって「異物」なのだ。だから排他する

彼女等は法に反する物を悉く排泄する・・・・そうして彼女等はエルフと言う存在を変質させず
存続させ続けてきた・・・


「法」に限らず絶対的なものを遵守する者は、大概・・・その遵守より外れている者を見下す
なぜならその遵守の高さとプライドの高さは表裏一体であるからだ


エルフの場合、自らは法を遵守しており、強大な魔力を秘めた存在として自らは高位の存在と
考えている。

別にそれはエルフに限った事ではない、人間でいえば教会の一部の信者達にもみえる

他者を下位の存在と認識する事でそういった者達は自分たちのプライドを守るのだ

そんな彼女等が事の次第を知ったとき、どんな顔をするのやら・・・・








「・・・・余計な世話だと、怒るのだろうな」

「想像に難しくない」

「だが死ぬつもりならば・・・・舌でも何でも噛み切っていただろう、だが彼女はそれをせずに
さまよい、歩き続けた・・・・」

「つまり、彼女には生きる目的と意思があると言う事か」

「・・・・極限状態だからこそ・・・・人は諦め、諦めが人を殺す・・・・どんな種族でも一緒だろう
彼女は諦めていない・・・・生きる事を」

「なるほど・・・・だからこそ助けた・・・か、達観した物だ」


ヴァネッサは笑いながらフィンガースナップをすると、何処からとも無く彼女の手の上に
ころんと小さな石が落ちてきた、魔力が凝固した「魔石」と呼ばれる物だ

彼女はそれをおもむろに口に含むとこくりと飲み込んだ


「・・・・・・・・・」

「そう・・・物珍しい顔で見てくれるな、食事している者をじっと見ているのはマナー違反だぞ」

「・・・・・」


罰が悪そうにテオフィルは再び目の前の炎へと視線を落す


「フフ・・・・補給剤さ、私の糧となるのは「精」だけだからな。しかしこれも尽きる前に貴公に
出逢えた事をめぐり合わせに感謝をせねばな」

「どういう意味だ」

「これが尽きて、空腹時に私にめぐり合わなくてよかったな・・・・と言う意味だ」

「・・・・・それは確かに幸運だ」

「あと2日分しかなくてな・・・困っていたところだったんだ」

「先の戦闘で一つ飲んでしまったようだが」

「緊急事態だったんだ、ご近所の噂が立ってしまうところであった」

「?」

「いや、こちらの話しだ」


と、その時だ















「ん・・・・・ぅう?」


「む」


見れば、横にいたエルフの女性が意識を取り戻したようだ・・・・低い声をあげながら瞼をしばしば
開け閉めして周囲の様子を窺っている


「ここは・・・・どこですの・・・」


瞼を擦りながら周囲を窺う・・・・

おかしい、どうも自分は森の中で力尽きたはずなのに、目の前には見知らぬ男と女が一組
あれだけ激しい痛みを訴えていた身体が嘘の様に軽く、体中のキズが癒えている、すこぶる快調だ


「森の眠り姫は起きられたようだぞ?」

「茶化すな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」


エルフは慌てて起き上がって数歩後ずさる


「に、人間・・・・それに・・・魔物?」


大凡予想通りの表情だった、こちらを既に嫌悪すべき存在として認識して、彼女は状況が解ったのか
顔を真赤にさせながら怒りを顕にし始めた


「大凡予想通りか、この反応は」

「・・・・・・・だろうな」

「いいのか?誤解されているぞ」

「誤解も何も無い・・・・」

「貴様等・・・・私(わたくし)にやましい事はしてないでしょうね!!」

「・・・・」


テオフィルは枯れ木を一本焚き火の中へとくべて、視線は炎から外さずに彼女に語りかける


「エルフ殿」

「な、何よ」

「私はテオフィル・カントルーヴという人間です・・・不要の事とは存知ながら、行き倒れている
貴方様を介抱させていただきました・・・・」


突如テオフィルはへりくだった言葉で彼女に語りかける


「お体の調子良くば、どうぞお発ちください・・・・わずかばかりですが旅路の仕立ても用意させて
いただきました」


そういうと、彼女が今まで寝ていた場所の枕元に置いてある小さな包みを指差した


「・・・・・・」


エルフはそう告げてからこちらを向こうともしないテオフィルを訝しげな表情で見ている


「・・・・・・」


しばらく続いた沈黙の後、エルフはゆっくりと身構えを解いた、しかし警戒は解かずに


「恩を受けたのに、それに対して礼一つせず去る程の恥知らずではありません・・・・
ひとまず、介抱してくれた事には礼を言いましょう。・・・・・・ありがとう」

「・・・・・どうも」

「そして、その言葉はおやめなさい・・・・慣れない敬語で話されても不愉快です」

「・・・・・」


テオフィルはゆっくりとエルフに顔を向けた・・・・


「・・・・私をどうする気です?」

「どうも・・・・さっきも行ったとおり、荷物はそこに纏めてある・・・・」

「・・・・・・・」


エルフは警戒しながらもゆっくりと二人に近づいていく・・・・


「・・・・・色々聞きたいのです、よろしい?」

「・・・・ああ」

「まず座れ。とって喰ったりはせん」


エルフはおずおずと二人が囲む焚き火に参加した・・・・














「それじゃあ・・・本当に何もしてないのですわね?」


テオフィルとヴァネッサは事の経緯を事細やかに彼女に伝えると、彼女は少しばかり
警戒を解いて事情を理解してくれた

エルフの問いに二人は無言の頷き


「・・・・デュラハンともなる上位の魔物の言葉もついているなら信憑性も高いですわね」

「テオフィル殿の言葉は信ずるに値せんか?」

「・・・・所詮は人間ですもの」


そう・・・彼女等に限らず魔物達は「種族」という定規を持って相手を計る
とるにたらないと判断された人間である「テオフィル」は相手を計る以前の話しだ

当のテオフィルはというと・・・・特に気にかけた様子も無く静かに目を瞑っている


「・・・・それで、貴公はこのまま名も名乗らずじまいにする気か?」

「・・・・・・私は レティシア・ケ・デルヴロワ この森と共に生きるエルフの者ですわ」


レティシアはそう告げてテオフィルの表情を窺うが、相変わらず彼の表情の仏頂面は動かない


「それで、どうして貴方は私を助けたのかしら?」


レティシアの問いにテオフィルは


「そこにお前が倒れていたからだ」


と素っ気無い・・・レティシアもそうだがヴァネッサも彼の行動には理解できないところがある様だ
二人は訝しげな表情でテオフィルを眺めていた

ここまで意図を読めない人間も珍しい

ただ何も語らず、何も求めず・・・・本当の善行だけを貫き通す人間が珍しかった。
今の世の中、人は何かしら飢えている・・・・単純に食、金、愛、快楽・・・利用できる物は何でも売る
金になるなら娘でも売れ・・・・全ては自らの飢えを満たすためならば利用できる物はなんでも使え


「・・・・・・・」


この男にはそれが感じられない

彼が黒い行商人だというのは彼の口から聞かされていたので、彼はどうにも悪い人間だと思った
のだが・・・・


「テオフィル殿よ」

「・・・・・なんだ?」

「貴公は人間のはずだな、何故そうまで魔物を恐れない?何故なにも語ろうとしないのだ」


ヴァネッサの問いにテオフィルは暫く沈黙していたが、やがて口を開いた



「・・・・あんた達が「種族」という物差しで物を計るなら「人間」の言葉にどれ程の意味がある?」



――――――ーパチ  パチィ



「信頼しない種族が発する言葉は信頼できない言葉だけだ・・・」


「それは!」


「なら俺は・・・・言葉を発するよりも、行動を示す・・・・行動は言葉よりも真実に誠実だ」



――――――パチ




「それさえも、嘘にできるのが「人間」だがな・・・」




テオフィルの眼差しは鋭いナイフの様に彼女等に突き刺さる、
そう、自分たちは心の中で「所詮人間」と種族の差を鼻にかけている節はあるのだ

テオフィルはゆっくりと寝転ぶと、彼女たちに背を向けて眠り始めた


「・・・・・・・明日には消えるさ」






硬く口を閉ざし何も語らないのは、言葉からでる「嘘」を生まないため

その「善行」は一貫して全てを貫き通したときにのみ、結果として彼女たちは疑えず理解する

人間の信頼は「結果」でしか彼女たちには届かないと・・・・テオフィルは思っていた



















「外出禁止?」


シスターが息を切らして帰ってきた、あまり良い話しは聞けなさそうだ・・・・
エルガーはリンゴを頬張りながら何事かと頭に?をうかべている、リゼも同様だ


「ええ・・・近くに触手の森が発生したそうです」

「触手の森!?」


興味しんしんにエルガーが反応するが、シスターが怒る予兆、眉毛がピクリと動いたのを見て
言葉を詰らせながら乗り出した席にゆっくりともどっていく


「でも、何故触手の森が?魔界にしか存在しないって本に書いてあったんですけど」

「わかりません・・・町を歩いていると役人様が親切に教えてくれたのです」

「ふーん・・・・」


テオフィルは静かにジネットの姿を探した、先ほどからどうにも姿が見えない


「・・・・・ジネットは?」

「さっきまで外でジェモスタと遊んでたけど・・・・」

「なんですって・・・・」


シスターは血相を変えて家から飛び出した、テオフィルもその後に続く


「ジネット!?」

「何?シスター」




ズサ――――




シスターとテオフィルが同時に顔面から地面に突っ込んだ


「ど、何処に行っていたのですか」

「外で遊んでいたけど・・・・」


杞憂だったらしい・・・・二人は土ぼこりを払って立ち上がる


「外出禁止令が出たのです、さあ家の中に入りましょう」

「外出禁止令?・・・・・あ、ジェモスタ?」


ジェモスタは無邪気に走り回っている・・・・

と、その時だ・・・リゼとエルガーが家の中から出て来た


「あ!」


ジェモスタはいつもの遊び・・・鬼ごっこが始まると思ったのか?

一目散に駆け出してしまったのだ


「ジネット!」

「!」













「!!」


咄嗟に起き上がる


「・・・・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・・」


荒い呼吸、体中から吹き出る汗と荒い呼吸・・・・・自分の顔を触って理解する

酷い顔をしている


「・・・・・・・・・」


僅かに燃える炎・・・・焚き火の向こうではヴァネッサが木に寄りかかって寝ている


「・・・・どうしたのです?」

「・・・・」


レティシアが驚いた様子でこちらに声をかけてきた・・・・テオフィルは荒い息を治めた


「・・・・・昔の夢を見ていた・・・・」

「あまり良い夢ではないのでしょうね・・・・」

「・・・・・・ああ」

「・・・・・フフ」

「?」

「・・・・・石の様に表情を変えないような人間かと思いましたが・・・そのように酷い顔も
できるようですわね、少し良い気分ですわ」

「・・・・良い趣味じゃない」


すっかり乾いた喉が痛い、煮沸消毒した水が入った水筒から水を飲み潤すと
冷たい水が身体の嫌な感覚を洗い流してくれるようであった

レティシアはと言うとこちらをうすら笑ってすっかり良い気分になっているようだ、嫌な奴だ


「・・・・・・お前は」

「人間相手にお前呼ばわりされたくないですわね」

「・・・・・あなたはこれから如何するつもりだ?」

「どうって・・・・」


上機嫌だったレティシアの表情が曇った・・・・彼女は自分の荷物にそっと手を載せる


「・・・・・絵を描くのです」


テオフィルの予想通り、彼女は画家か執筆家という予想は当っていたようだ
テオフィルは続ける


「何の絵だ?」


テオフィルの言葉は、あれだけ嫌味を言ったというのにとても穏やかな声だった


「・・・・自然の・・・・できればこの森の絵・・・・それが描けたら・・・私はまた村に戻れるんですの」

「・・・・・そんな事で村に帰れるのか?」

「貴方には分からないでしょうね・・・・今の私が筆を握ってどれだけ苦しいのか・・・」


レティシアは自分の荷物の中から一枚の紙を取り出した・・・・その紙に描かれた絵を
テオフィルに見せる


「・・・・・これは・・・・」

「私が、村を出る理由を作った絵・・・・ですわ」




そこには、激しく交わりあう男女が一組描かれている・・・・

恐ろしく美しく、恐ろしく脈動的に、恐ろしくも・・・・情熱的な男女の営みが美しく描かれる

絵画だというのに、その絵はまるで目の前でその常時を目撃しているような感覚がする




「・・・・・どうして、その絵を描いたんだ?」

「・・・・・意図して描いた訳じゃないですわ・・・・」

「?」

「・・・・勝手に、描いてしまうのですわ・・・・そう、どんなに意識を凝らしても・・・・
絵に筆を走らせ集中すればするほど・・・私の意識を無視して官能的な絵を描いてしまう」

「・・・・それは、お前がサキュバスに変貌しようとしている事と関係があるのか?」

「!!!」


レティシアは血相を変えた、彼の言葉を魂を持って否定する





「違う!!私はエルフ!!誇り高きエルフよ!!汚らわしいサキュバスなどではない!!!」




怒りを顕に吼える・・・


「・・・・・・そうか、すまない」

「え・・・」


あっけなく謝ったテオフィルにレティシアは怒りの勢いを殺されて勢いを消沈させられた
相変わらず掴み処が無いようでレティシアはもんもんとした気分を味わっていた


「兎に角・・・以前、自分が描いていた絵を描けたなら、あなたは元の村へ戻れるのだな」

「え、ええ・・・・」

「なら・・・・ここで一枚描いたらどうだ?」

「・・・・無駄よ、何度も描いたもの・・・・気がついたら、また・・・」

「なら、何時描くつもりだ?」

「え・・・」

「お前自身気づいているはずだ・・・・その絵は、お前自らの心を写したものなんじゃないのか」

「!」


レティシアはぎゅっと手を握る・・・


「何時だったか、絵とはその描く者の心を表したものだと聞いた事がある・・・・お前のあの絵は
お前が心の奥底で否定するサキュバスの感情が溢れ出た物じゃないのか?」

「っ!!  知ったような口をきかないで!!」


再び彼女は立ち上がり、怒りを顕にテオフィルに怒鳴りつけるが、テオフィルは構わず続ける


「お前は美しい物ばかりを見て、自分の汚い部分から目を背けているだけだろう・・・・
しっかりと受け止めろ、おまえ自身の感情だろう」

「喋らない石みたいな男から!人を嬲る言葉は良く出たものね!!さすが人間!そういう時だけ
はよく口が回るというのは本当らしいですわね!!」

「人間だから言っている・・・お前の言うとおり人間は汚い、やることは偽りにまみれている」

「は!それみたことですか!!」



「だから・・・・人間と同じにはなるな」



彼の言葉は重かった・・・・まるで願いを伝えるかのように発した言葉は確かにレティシアに届く



「あんたはエルフだろう・・・・薄汚い自分の本性から目を背けるような事はするな」

「・・・・・・・・」

「己をエルフだと信じる限り、お前はエルフであり続けるはずだ。例え体が変わっても」


レティシアはふぅっと溜息をついて自分が座っていた場所に再び座りなおす


「・・・・無口な男かと思えば・・・・裏を返せば鬱陶しい男とは・・・・これだから人間は」

「・・・・・どうせ、すぐに顔も合わさなくなる・・・・言いたい事は言っておきたかっただけだ」
                                          
「・・・・・・」


レティシアは再び溜息を吐いて自分の荷物の中から木の板と紙・・・・それに絵を描く為の
セットを取り出して、小さな桶を彼に差し出してきた


「?」

「水を汲んできて頂戴・・・描けと言うならそれくらい協力なさいな、貴方の言葉が「嘘」で
ないという証明くらい・・・・してみせなさい」

「・・・・・」


テオフィルは桶を受け取って川へ向って歩き出していった・・・・・
レティシアは一人、彼が去って言った後ぽつりと漏らす


「人間に説教を受けるとは・・・・・いけませんわね・・・・」













いつもは、黙々と描いて行くのだけれど・・・・今は違う、常に描く紙面の上には別の視線がある


「・・・・何を描いているんだ」

「ここから見える景色・・・・」


暗い闇の中、中心より下の方で燃え盛る炎を描く・・・その左側には木にもたれかかるヴァネッサ
右側には俯きながら炎を見つめる青年、テオフィルだろう

ただ、そのテオフィル自身彼女の絵に気になるところを見つけた


「・・・・・何故俺は裸なんだ?ヴァネッサも」

「!」


これが無意識の内の描写だろうか・・・・レティシアは落ち着くように深呼吸を一つ


「・・・・礼を言いますわ」

「?」

「この内でならば、まだ修正が効きますの」

「そうか・・・」

「また、おかしな所を見つけたら言ってくださいな」

「・・・・ああ」







それからは二人で描いた絵画はゆっくりと、しかし確実に完成へと近づいていく

レティシアは絵を描く事に集中する
それは彼女がサキュバス化していく前の自分の筆の走り方だと彼女自身が確信していた

それでもその中で生まれるサキュバスの衝動により筆があらぬ方向に行こうとした時は


「大丈夫か?」


彼が止めてくれた・・・・その度に深呼吸を一つ


「・・・・・ええ」

「・・・・・」


二人は時間と言う概念を忘れて、絵を描く事を続けた・・・
















淡い朝の陽射が森の葉と葉がゆれて出来た隙間から、ヴァネッサの眼を掠めた


「・・・・・ん・・・・」


ヴァネッサはすっかり眠りこけていたようだ、こんなにも熟睡したのは久方ぶりだ
やはり、信頼に値する人物が近くにいると言うのはこんなにも安心できる物なのか・・・


「(いやいや・・・・本来は私が起きて寝ずの番をするべきだったものを・・・・テオフィル殿はもう
立たれたのか?)」




「完成よ!!」




「!?」


ヴァネッサが何事かとレティシアの方を向いたら、レティシアは今まで自分が持っていたであろう
筆を投げ出してテオフィルの首に腕を回して抱きつき喜んでいる


「やった!やったわ!!これで村に帰れる!!帰れるのよ!!」

「そ、そうか・・・・」


ぐわんぐわんとテオフィルが揺さぶられている・・・・ヴァネッサは


「(・・・・・まだ私は夢の中にいるのだろうか・・・・)」

「・・・・・」

「ほら!貴方ももっと喜びなさい!!って・・・・どうしたんですの?」


テオフィルは右手でヴァネッサの方向を指差す


「ぁ・・・・」


<◎>  <◎>


「・・・・一晩で随分仲睦まじくなった物だな・・・・は!私の隣でまさかそんな熱く滾る夜を?!」







\パチ―――――――――――――――――――――――ン/






大きな平手打ちの音が響いた



















「・・・・・何故俺が殴られなければいかんのだ?」

「私に触った罰よ」


酷い言われ様だ、抱きついてきたのはそちらではないかと反論したくなるが、
相手はとことんエルフ信条貫いているので無駄である

レティシアの描いた絵は、まさしく彼女が目の前にした光景である

左手にヴァネッサ、右手に俯きながら薪を持つテオフィル・・・・薄暗い闇の中で二人が野宿をする
何の変哲も無い絵だが。その圧倒的な臨場感は一夜漬けで描いたものとは思えない程の
クオリティであった。


「(・・・・・この絵は高く売れるんじゃないのか?)」


ブラック・コロブチカ、内心で空気を読まず


「それで、その絵を持っていけばレティシア殿は村へ帰還できるのだな?」

「ええ・・・・長は私が元の私に戻った事を証明するため、まともな絵を描いて持ってくる
事を条件にして、村への帰還を許してくださるわ」

「・・・・・・」


レティシアは一刻も早く村に帰りたいのか、荷物を背負いなおしてそわそわとしている
                                          

「ここから村へ帰れるのか?」

「え・・・・」

「随分長い間森をさまよっていたようだが・・・・・随分離れているのではないのか?」

「・・・・・・・・・」

「確かに、ここはもう結界の外だ・・・・かなり距離は離れているはずだ・・・・」


レティシアはキョロキョロと周囲を見渡している・・・・

彼女にはすでに森の囁きも風の声も聞こえない、エルフの村へと帰るにはそれらの声を頼りに
帰らなければいけないのだが・・・・


「・・・・・」


パタンとその場に座り込んでしまった・・・・帰れないようだ


「そ、その内歩いていれば辿り着くんじゃ・・・・」

「無駄ですわ・・・エルフの結界はそんなに生っちょろい物ではありませんの・・・
例え1ヶ月歩いたとて、外に出る事は出来てもエルフの里に戻る事は出来ませんわ・・・・」

「・・・・・・・そうか」


テオフィルはおもむろに自分のバッグの中から何かを取り出す・・・


「・・・この森にはエルフ以外の種族は集落を作っている事はないな?」

「え、ええ・・・」

「森の中心は?」


レティシアが太陽の位置を確認すると迷わず北の方角をさした


「・・・・・」


テオフィルは取り出したもののうち一つを地面に落とし、もう一つ取り出した物をレティシア
が指差した北側へと向けた


「発」


突如、三人の足元に光が溢れたかと思うと、その場所から三人は音も無く消え去ってしまった













「!」


周囲を窺う・・・・レティシアには見慣れた景色がそこには広がっていた・・・・

先程よりも美しく清らかな太陽の陽射がさんさんと降り注ぎ・・・木々の葉は青々と色づいている
自然の香りがここまで心地よいものだとは思わなかった・・・・

全てが清らかに流動し息づく森は確かにそこを「聖域」にたらしめている


「ここって・・・村の近くの・・・・」


うっそうと茂る森の中、テオフィルやヴァネッサには先程とはあまり変わらないように見える
だがレティシアはまるで故郷に帰ってきたかのような表情で周囲を窺っている


「でも・・・どうして?」


テオフィルは自らが持っている札を二人に見せる、札は徐々に下から黒ずんでいく
まるで役目を終えたかのように黒くなって行っているのだ


「これは向けた方向の、生命体がある程度集合している場所へ飛ばす札だ、
方向さえあっていればエルフの結界を飛び越えて村に着ける」

「そんな術を人間は完成させているのか・・・・しかし、相当高価なものではないのか?」

「・・・・・道具は使われてこそ意味がある、そして使われ方で価値は決まる・・・・」


黒くなった札を手放すと、札は発火して一瞬にして焼失してしまった

テオフィルは静かに気配のする方向へと視線を向ける・・・
向こうもどうやらこちらの存在に気がついたらしい


「あなたたちは下がっていていなさい・・・・下手に刺激を与えないでくださいな」

「わかった」

「ぅむ」


二人はレティシアの後ろの方へと少しはなれる・・・・




すぐさま、茂みを掻き分け数人のエルフ達が物々しい雰囲気で武器を携えながら集まってきた。
剣や槍、弓をもったエルフ達がレティシアを見つけると・・・・険しい顔をする


「レティシア・ケ・デルヴロワ、ただいま帰還いたしましたわ」

「お前はこの村を追われたエルフ・・・いや、サキュバスだ。ここはお前の帰る場所ではない」

「約定の通り私は絵を描いてきました!!長へお伝えください!レティシアは帰ってきたと!」


レティシアはさっそく描きあげた絵をエルフたちに見せる、と、それを見たエルフ達は
強く動揺をしたようだ。


「暫く待て」


エルフのうち一人が茂みの中へと帰っていく・・・・

テオフィルとヴァネッサは木の後ろから様子を窺っている、向こうもこちらに気づいている
随分警戒されている様だ


「大丈夫だろうかな・・・・」

「・・・・・そう・・・俺は信じている」

「・・・・・」










暫くすると、貫禄ある年老いた一人の女エルフが数人の武装したエルフと共にレティシアの前へ
姿を現した・・・・彼女がこのエルフの村の長なのだろう、


「長・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・!」


レティシアは昨日描いた絵を広げて長へと見せる・・・・確固たる自信を持って彼女は証明をする
自分はこの素晴らしい絵を描く誇り高きエルフなのだと。

異様な緊迫感にレティシア、ヴァネッサ、テオフィルの鼓動はどんどんと太鼓を打つように強く
激しいものになっていく・・・・緊迫により汗が頬を伝い落ちていく・・・

長は隣にいたエルフに目配せをしてその絵を回収させる


「・・・・ふぅむ・・・・」


長はその絵を見て感嘆の息を漏らした・・・・・緊迫した空気が一瞬だけ綻ぶ


「見事な物だ」


長の一言にレティシアの表情に歓喜が浮かんだ、ぉお・・・っと周囲のエルフ達も湧き立つ
皆、その絵に秘められた確かな感動を感じ取っているのだ

そして・・・長の口から出て来た言葉は・・・・




「絵の才能は認めよう」




「ど、どういうことですか?」


動揺するレティシアを尻目に、長はゆっくりとその絵をレティシアに見せなおした
そして憤怒をあらわにしてきつい口調のまま言い放つ


「・・・・この絵はなんだ?・・・・そこにいる、うじ虫等の絵ではないのか?」

「!!」

「・・・・・出てこい!」


エルフの長の一喝・・・・二人は頷いてゆっくりと木の影の後ろから姿を現した。


キリリリリリリ―――――――


弓の弦が引き絞られる音が周囲に走った、殺気のこもる眼差しが二人に向けられた
その射抜くような幾つ物目は明らかに外敵に向けられる「憎悪」の眼である。そしてそれは・・・

レティシアにも向けられていた


「お主には話してもらうぞ・・・・どうやって生き永らえ、どうやってこの絵を描いたのかを」

「・・・・・・」


レティシアはごくりと生唾を飲み込んだ

そして・・・後ろにいる二人との出会い、その絵を描くためにテオフィルに窘められ協力して
もらった事を事細やかに長へと語った




しかし・・・・




「この・・・・たわけぇ!!!!!!」




長の一喝でレティシアは思わず後ずさる

怒髪天を衝くとはこの事か、顔を真っ赤にして髪の毛を逆立てて鬼の形相で怒る長は恐ろしく
周囲にいる武装したエルフ達もその怒気に圧されてビクついている

エルフの長の一喝が響いた後・・・・森が嫌にざわついている。森さえも脅えているのだ


「人間と魔物に行き倒れていたところを助けられ!!挙句人間に諭されて絵を描いただと!」

「っ・・・・」

「お前はどこまでエルフの誇りを穢せば気が済むのだ!!それでよく「絵を描いてきました」
等とほざいた物だなあ!!  えええ!!!」


長の怒りは留まる所を知らない・・・・その手に持った絵を破り捨て、炎を指先から発射すると
一瞬の内に絵を焼いてしまった


「な、何をするのですか!!」

「価値のないもの、ゴミを焼き捨てて何が悪い・・・・申してみろ!!」

「そ、それはテオフィルが寝ずに私を正しながら・・・・一晩かけて描いた絵です!!
ゴミ等ではありません!!」

「ふん!一晩だけの努力なら誰にでもできるわ!!少しでもエルフの誇りが残っているなら!
人間の力など借りずに描きあげるのが本道であろうが!!」




「人の手を借りるのがそんなにいけない事ですか!?長は私達に幼少の頃より私達に言って
来ましたよね!?弱き者も強き者も手を繋ぎあって生きていると!!

確かに人間は取るに足らない生き物かもしれませんが彼のような人間だって居るんです!!

貶されることを分かってても!何の見返りも求めず!ただ目の前に倒れた物を助ける!

そんな・・・気高い人間だっているのですよ!!」




レティシアは悲痛に満ちた声と表情で長達に向けて叫ぶ

それは、絵を破り捨てられた事よりも・・・・テオフィルを否定された事に憤っている様である
テオフィルはそんな彼女の後姿をじっと見つめていた


「人間がどほど穢いかをも幼子の頃より教えたはずじゃ!!人間は人間同士で憎みあい!
奪い合い!そして殺しあう!!心を持たぬ生き物じゃとな!!」

「違いますわ!!少なくてもこのテオフィル・カントルーヴという男は違います!!」

「・・・毒されおってからに・・・・もうよい!!!矢を放て!!」


まさかレティシアが長に反論するとは思わなかったのだろう・・・周囲のエルフ達は呆然とした


「何をしておる!!矢で射抜けぃ!!!!」


長の怒号に反応して皆が一斉に矢を番えなおし・・・・躊躇無くその矢をレティシアへ放った

しかし、その一瞬の隙はテオフィルとヴァネッサを走らせるには十分だった






「発!!」





ジャケットの裏に仕込んだ魔法障壁の札を取り出してレティシアの前へと展開する・・・
瞬間、空気を裂きながら飛んできた細い木の先を尖らせた矢が次々と魔法障壁の壁に炸裂した

矢が障壁に撃ち当たるたびに障壁に波紋が走る

木が弾けて砕ける音が静寂を守っていた森に響き渡った・・・・


「あなた・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・何の真似じゃ、人間・・・・それにデュラハンよ」


長は低い声と共に鋭い視線をテオフィルに送る・・・・だが、テオフィルは一呼吸を置くと目を据えた
ヴァネッサは敵を前にしたかのように剣を抜こうとしたが、テオフィルが彼女を制止した


「・・・・・・」


ヴァネッサに無言で首を振る・・・・ヴァネッサも剣を収めた。

テオフィルは前を向く


「・・・・誇り高きエルフ族の長よ、今しばらく私に時間をお許しください」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・よかろう」


テオフィルは長へと一礼をして、その強い意思が宿った目で長を見る・・・・


「(こやつ・・・・人間でありながらなんと強い瞳をしておるのか・・・・)」

「私はテオフィル・カントルーヴと申します・・・・失礼を承知で窺いますが、族長殿のお名前を
拝聴させてもらってもよろしいでしょうか?」

「・・・・クロード・アポリネールだ」


名を聞くと再び一礼・・・・そして真っ直ぐに姿勢をなおす


「僭越ながらレティシア様より事情は窺っております、クロード様はレティシア様がまともな
絵が描ければ村へと戻る事をお許しになられたのではないのですか?」

「確かに、しかしこれは真っ当な絵ではない・・・・少なくとも真っ当な絵にはうじ虫は写らん」

「・・・・・確かにその絵にはワタクシめ等が恐れ多くも描かれております、ですが・・・・それは
クロード様がお決めになった約定とは事の筋がずれましょう」

「・・・・・・・」

「無礼ながら、貴方様が彼女を村へ入れないのは彼女が絵の問題ではなく、彼女がサキュバス
に成りつつあるのが問題ではありませんか?」

「! わ、私は・・・・」


長は一度息を吐いて怒気を押さえる・・・・


「・・・・・その通りだ、人間よ・・・・しかし筋は違えておらぬぞ?こやつが絵をかけなくなったのは
サキュバス化が原因であろう?サキュバス化が収まった証として真っ当な絵を描いてもってこい
そういう約定じゃ」


テオフィル自身、この問いは弱い事はわかっていた・・・・


「そ奴一人がサキュバスとなるのならばそれもよかろう、しかしサキュバスとなった者が一人
居れば、周囲にいる者は次々とサキュバスへと変わる・・・・」

「存じております・・・・エルフが繊細で他への変質を許さない物だと・・・・貴方様はコミュニティ
全ての存続の為にかつて同胞だった者を切り捨てなければいけない決断をしたと」

「人間が分かったような口を利くな」

「・・・・・失礼しました・・・・しかし、それならば何故貴方様はレティシア様に希望を与えに
なられたのですか?サキュバス化からの回帰は決して敵わぬ事だと知っておられたのでしょう」


そう・・・・一度サキュバスとなった者がもう一度元の種族に戻る事は無い
それは誰しもが知っているコモン=センスである


「・・・・・・・・・」


族長は口を紡いだ・・・・恐らくは決してその答えを言う事はないだろう


「・・・・・・もう、二度と彼女を村へ入れないつもりですね」

「・・・・・うむ」


絶望だ・・・・レティシアは薄々気づいていた、しかし否定して欲しいその一言を突きつけられ
言葉を失った・・・・


「・・・・ならば・・・叶わない希望を与えるよりも・・・・もっとかける言葉があったでしょうに」

「・・・・」

「せめて、命を絶つことはお許しいただきたい・・・・すぐに失せます」

「・・・・よかろう、その態度に免じて見逃そう・・・早々に去ね」


最後に一度・・・・テオフィルは族長に深く頭を下げてから、ポケットの中から一枚の札を取り出し
その場所からヴァネッサとレティシアと共に転移してしまった


「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・お、長・・・・よろしかったので?」

「・・・・・帰るぞ・・・」

「は、はい!!」


エルフたちは・・・・ゆっくりと引き上げていく、限りなく無機質な音を立てながら

















「・・・・・ここは・・・・」


ヴァネッサが周囲を窺う・・・と、そこはなにやら見覚えのある場所である
それもそのはずだ、そこはつい先程まで自分たちが野宿をしていた場所だからだ

テオフィルは地面に転がる一つの煌きを放つ石を拾い上げる


「それは・・・・チェックストーン」


このチェックストーンと言うアイテムは、札に魔力を籠める際に同時に魔力を籠めてやると
その札の転移先をチェックストーンのある場所へと転移させる事のできる代物である
扱いが難しく、今では殆ど製造されていないし希少価値も無いアイテムである

テオフィルはエルフの村に行く前に地面に転がしておいた物はこれだった


「・・・・・・レティシア」

「・・・・・・」


レティシアは暫く呆然として呼びかけにこたえなかったが・・・・
俯むいて声を震わせながら静かに呟いた


「・・・・・一人にして」


二人には・・・・彼女にかける言葉が見つからなかった・・・・


















「随分・・・・あそこまで自制できた物だ」


レティシアから少し離れた川の方へと移動した、それまで口を閉ざしていたヴァネッサが
口を開けた、それはエルフの族長と対話した時の事を言っているらしい

テオフィルは川のすぐ近くにある岩に持たれかかり、ヴァネッサは草の上に腰を下ろした。


「・・・・・冷静だったわけではない」

「それは知っている、お前が剣を抜こうとした私を制止刺せた時、柄に触れた貴公の手は
震えていたではないか・・・・そう、義憤に震えていた」

「・・・・・」

「そろそろ教えてくれないか?何故テオフィル殿はあそこまでレティシア殿へ手を
差し伸べられるのだ?並々ならぬことだぞ?」

「・・・・・」

「惚れられたか?」

「違う、恐らくは・・・・自己満足だ」

「そんなに安い言葉で片付けられる物ではないだろう?よければ話してくれ・・・・
結局私は加勢してもらった礼すらしていないのだから、何か力になれるやもしれん」

「・・・・・・・昔の事を・・・ずるずると女々しく引きずっているんだろうな・・・・」


テオフィルは川原の流れへと思いを馳せた








「孤児(みなしご)だったところを孤児院を経営していたシスターが拾ってくれた・・・・
シスターの名はアデリナ・セリノ・・・なんでも昔息子がある国で行政総官に早出世して裕福な
家庭にいたらしいが。何を思ったのだろうな?亡命してシスターとして活動し・・・
いつしか孤児院を任せられるようになったらしい」

「・・・・優しいシスターだったのだな・・・親はどうした?」

「知らん・・・・拾われるまでは一人で盗みなどをして命を繋いでいた、親と呼べるのは
シスターだけだ」

「・・・・そうか」


人間には実の親に育てられない子が多いと聞くが、本当の事なんだなとヴァネッサは聞いた
事実を再確認させられた


「・・・・同じ孤児にエルガー・アルベール、リゼ・オジェ、ジネット・ブノワ・・・同じ家族として
兄弟として過ごした仲間が居た・・・・あと、ジネットが拾ったジェモスタと言う犬・・・
5人と1匹でなんとか日々を過ごしていた」

「・・・・・・」


一旦話を区切り、一呼吸置いて再び話し始める


「・・・・俺が9つだったから、もう12年も前か・・・・ある日、町に外出禁止令が出た」

「何があった」

「近くに触手の森が出現したんだ・・・・」

「・・・・・・この辺りから魔界の気は感じられんが」

「わからん・・・兎に角、突如出現したんだ・・・・あれは・・・・」


普通、魔界が無ければ触手の森は発生しないのだが・・・・それでもそれはあったのだ
何が原因なのかは今となっては知るよしもない


「・・・・ジネットが外で遊んでいてな・・・俺達が探しに行こうとしたんだ」

「どこに・・・居たんだ?」

「家のすぐ外に居た」


ヴァネッサはガクリと頬杖から顔をこぼす


「なんだそれは」

「・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・ジネットはジェモスタと共に遊んでいた・・・・そして、あの犬は慌てて出て来た俺達を見て
遊びが始まるものだと思ったんだろう・・・・いつも通りの「鬼ごっこ」が」

「・・・・すまん、鬼ごっことは何だ?」


今度はテオフィルがズルッとすべりかける


「・・・・ふ、そうか・・・魔物には無いか・・・・ジパングから伝わった遊びだが人間界には広く
伝わっている子供の遊びだ・・・鬼役が人間役の者を追いかけ捕まえていく遊びだ」

「・・・・随分殺伐とした遊びをするのだな、人間の子は・・・すまん、話を戻してくれ」


滑りかけた体勢を元に戻してテオフィルは話を続けた


「ああ・・・・ジェモスタは鬼ごっこが始まったと思って一目散に駆けていったんだ
触手の森がある森の方へな」

「・・・・・追ったのか?」

「追いかけようとした俺達はシスターに止められた・・・・先に追いかけたジネットを除いてな」

「・・・・・」

「シスターは、ジネットを追いかけて走ったんだがな・・・・・
俺達はシスターの言いつけどおり家で待つ事にした・・・・行儀よくもな」

「・・・・・それで二人は帰ってきたのか?」









「・・・・ああ、五日後にローパーに寄生されて帰ってきた」









今でも覚えている・・・・一種の軟体動物となった二人の姿を


「シスターとジネットは行方知らずとなった四日目の夜、町の外で野宿してた音楽団を襲った
二人によって男は精魂尽き果てるまで搾り取られ、女は同じように犯された」

「・・・・・」

「そして・・・・五日目の朝・・・町の外で触手同士を絡めて性交を行う6人の女性と変わり果てた
ジネットとシスターを見たんだ」









町の入り口に大勢の人だかりが出来ていた・・・・

白を基調とする金色の装飾をした鎧と甲冑を纏った、教会の代行者たちが厳かな
雰囲気で着々と仕事をこなしている

その代行者たちの後ろで事の成り行きを見る民衆


「そいつはまだ人間だ!!おい聞いてるのか!!」


少年はそう叫ぶ

だが、周囲の大人たちの怒号や罵声、悲観から出る心無き声に打ち消されて。
その声は誰も、何も止める事は出来ない。


教会の代行者は執行を開始した、全ては神の教えに反する者を「消滅」させるために
目の前のそれが如何なる存在であっても、彼等は教義には逆らわない。
そう、決して神には逆らわない


純白の英雄が、憧れの英雄が剣を大きく振り上げる・・・・


「止めろぉ・・・・・・・止めてくれええええええええええええええええええええええええ」


ようやくその声に周囲の大人が少年の叫びに気づいたが、英雄の耳には聞えなかった
                                          


振り下ろされる剣



血飛沫を上げて倒れる肉の噴水が一つ



また一つ



また一つ



今度は二つ



それは彼の眼には教会の教義を逸脱した「蛮行」にしか見えなかったのだろう



純白と金の騎士は、恐ろしい死神達が薄皮一枚被って笑っているようにも見えた



全ての「化物」が鮮血を飛び散らしながら倒れたとき、少年の気持とは裏腹に




「歓声」があがったのだった













「・・・・・俺はただ声を上げるだけで・・・何も出来なかった・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・ジェモスタも帰ってくる事は無かったな・・・・」

「そうか・・・・」

「・・・・・その後、俺とエルガー、リゼは三人で孤児院で過ごした・・・・町の人の善意もあって
俺達は生活には困らなかった・・・・」

「身内を殺し、歓声を上げた者の施しを受けて・・・・平気なわけないな」


テオフィルは頷く、その表情は少し「憎悪」の色を帯びていた、憎悪の色を浮かべたまま
テオフィルは更に続ける・・・・


「・・・・・二人が死んでから7年目だ・・・リゼの様子が少しおかしくなった」

「おかしい?」

「・・・・当時エルガーとリゼは付き合っていたんだが・・・・あいつはいきなり俺と性交をしないか
と言ってきた・・・・」

「・・・・・つ、付き合ってる男が居るのにか・・・・」

「もちろん断ったが・・・・その日からリゼは積極的に俺に色目を使うようになり、街に行ったら
まるで遊女のように男を誘惑し始めた・・・・」


純粋で、元気な子であったが恋の事にはかなりのおくてだった少女・・・・それが豹変したかの
ように女としての色香をばら撒き始めたという


「エルガーはその度に怒ったな・・・・そして、お前は俺のものだといわんばかりに隣の部屋で
彼女を抱いていた」

「・・・・・」

「・・・・・・・エルガーはリゼを放そうとはしなかったし、リゼもエルガーから離れなかった・・・
二人の食事も、俺が働いて世話をしているのが・・・何ヶ月か続いた」

「・・・・そのリゼという女はもしや・・・・」

「・・・・そうだ、とっくにダークプリーストに変貌していた・・・そして、リゼと交わり続けた
エルガーはインキュバスへと変わった・・・・・気づいたのは、食事をドアの間から送り込んだ
ときに見えた、二人の身体には人間ではありえない物がついていたのを見たときだ」


今でも覚えている・・・・・
男と女が交わり続けた臭い、排泄物や腐った食べ物の臭い・・・何もかもが
入り混じった異常な空間で交わる二人の姿・・・

騎乗位で喘ぐリゼの耳は魔力が強くなった者の特徴としてすらりと伸び
その尾からは黒く太い尻尾が伸び・・・頭には角が生えている・・・・

そのリゼの下で交わるインキュバスとなったエルガーは、その屈強な身体で腰を振り、リゼの
子宮を何度も獣じみた動きで突き上げていた・・・


「・・・・・・どうしようかと考えていたときだ・・・丁度町の教会に「エンジェル」が光臨していた
のを聞いた俺は、教会に行きエンジェルに事の次第を話した」

「エンジェルはなんと言った?」

「・・・・・「二人は必ず救います」と、あの無邪気な顔で言っていた。今でも忘れない・・・・
あのエンジェルにそういわれた時・・・・俺は確かに救われた」

「それで、神の御使い様は二人を救ってくれたのか?」

「・・・・・・俺が帰ってきたときには、孤児院は焼かれていたよ」

「な・・・・に?」

「・・・・エンジェルは、あの二人を殺す事で「救った」らしい」










焔を囲む白と金の死神たちは再び彼の友に牙を向く、人間と言う種族の絶対正義を携えて

人治国家であれ法治国家であれ、ルールに反する者は処罰される
それが「人間」の正義でありルールであり、狂気でもある。

人は狂気をルールと化して自らを正当化する。全ては我等人の為と、甘い言葉で飾りながら

だからこそ、目の前で行われているのは「正しい」行動なのだ。

そこに誰の、どんな想いがあろうとも・・・・人がルールに従う限り正しき行動であり続ける。



「やめろ!!やめないか!!」

「どけえ!!」

「やめろ!!中に居るのは邪教徒だぞ!!」

「そうですよ・・・・それに、あなたが言ったんじゃないですか、彼等を救ってくれと」



「っ!!!貴様等ああああああああああああああああああ!!」



燃え上がる炎へ向って少年は走り出そうとするが、幾つもの男の腕が伸びて彼の体を止めた
少年はもがくが・・・・少年の意図を知らぬ者は彼の思いも行動も全てを止める


「誰か!!こいつを抑えるのを手伝ってくれぇ!!」

「おら!!大人しくしやがれ!!」


身体を地面に叩きつけられて、少年は土を身体に浴びながらもがく・・・・


「放せ・・・はぁなせ!!まだ中に「人間」が居るんだぞ!!・・・・・・・!!?」


少年は見た・・・・燃え盛る炎を纏ったその家の窓の向こうで唇を重ねあう二人を

二人はこちらの叫びなどまるで聞えていない・・・・二人は、二人だけの世界の中で崩れ行く
その刹那の瞬間までをお互いを愛する時間にあてた・・・・

自らを焦がす炎の中で、お互いを愛し合いながら身体を撃ちつけ会う二人の姿は・・・


人間ではない、そう思ってしまうほど        神秘的だったから・・・


少年は、その二人の幸せそうな瞬間を見て・・・・・全てを止めた


「・・・・リゼ・・・・エルガー」


闇をも焦がす炎のダンスは、形ある物を灰へと変える・・・・

二人の人型も炎に包まれて、彼には二人がどんな遺言を残して消えていくのかも知らずに。
彼は、二人の命の灯火が・・・・更に大きな炎に包まれていくのを見ているしかなかった










「・・・・・あの日から俺は何を信じて良いのか分からなくなった・・・・・」

「・・・・・・・・」


ヴァネッサは口元を押さえて、青い顔をしている


「・・・・ジネット達を魔物へ変えた魔物達を恨めばいいのか・・・・正しくも大切な友を奪い、
俺の本意を知りながら裏切った教団(ルール)を恨めばいいのか・・・・それとも、
人間と言う種の脆弱性を恨めばいいのか・・・・無力だった自分を恨めばいいのか・・・

誰も彼もが信じられなくなったんだ・・・・だから俺は信じられる答えを探した・・・
5年前からずっとな」

「・・・・・答えは、出たのか」


テオフィルは目を細めた・・・・


「・・・・出ていない・・・・ずっとな・・・・ただ、俺はあいつ等とは違う人間になろうとした・・・
自分の手で何かが出来るのなら・・・誰かを救える事が出来るならそうしようと誓った・・・」


ギチ・・・・

服を強く握って、声を搾り出す


「だが、結局俺はレティシアをどうにかしてやる事はできなかった・・・・・」

「・・・・・・しかし、彼女は間違いなく貴公に救われたと思うぞ」

「・・・救われたものか、本当に彼女の事を思ったなら・・・絵なんて描かさずに現実を突きつけ
諦めさせるべきだった・・・・」

「では何故貴公はエルフの村へと彼女を向わせた・・・・ああなる事は分かっていたのだろう
そうだ、貴公は最初から全て知って、全てを予想できたはずだ・・・・なのに何故
貴公は彼女の希望を繋げたんだ?」

「・・・・・・」


テオフィルはずるずると岩から腰をずり落とし、その場に腰を下ろして岩を背に座った


「・・・・エルフ達に、人間と同じようにはなってほしくなかった」

「・・・・・・」

「・・・・絶対に叶わない小さな希望を抱かせて・・・・レティシアを騙すような事をエルフ達に
して欲しくなかった」


それは、族長と最後に話した言葉・・・・


『二人は必ず救います』

『・・・・ならば・・・叶わない希望を与えるよりも・・・・もっとかける言葉があったでしょうに』


それは・・・エンジェルが自分に言った言葉を重ねたのか・・・テオフィルは組み合わせた両手を
額に当ててうつむいた


「・・・・それでも、エルフの族長クロード殿は意味無く希望を与えたのではないと思うぞ」

「分かっている・・・・恐らくクロードはレティシアに「エルフとして生きる誇り」を持って
欲しかったのだろうな・・・・いつかエルフの里に帰れると信じたからこそ、彼女はエルフの
種族としての誇りを捨てずに振舞ってきたし、決して絵を描く事も諦めなかった」

「何より、彼女はひとつのコミュニティの頂点に居る存在だ・・・そのコミュニティを守る義務
がある・・・その所は人間の教団と同じだろうがな」


大をとるか小をとるか・・・・少ない人数を捨て多くの人数を救うのか・・・
それは常に指導者と言う立場の人間が求められてきた選択である


「・・・・・・これは俺の我侭だがな」

「・・・・・・・・」



「レティシアの望む形で救ってやれないなら・・・・エルフとしての尊厳を守りたかった。
俺を裏切った教団のように、エルフ達にレティシアを裏切って欲しくなかった・・・・・

そして・・・・できれば最後に・・・レティシアに優しい言葉のひとつでもかけて欲しかった・・・・」



「・・・・そうか・・・・」


こつんと、頭を後ろの岩にぶつける・・・・



「当然の結果だ・・・・答えも何も見つけられない半端者が誰かを救うことなど出来はしない」



空は青い・・・そう、いつも空はテオフィルの言葉とは裏腹に晴れ渡る



「・・・・いや、救いたかったのは多分、自分のちっぽけな"良心"だったんだろう」



いつだって世界は彼を裏切り続けた・・・・裏切られるからこそもがき挑んだ、答えの出ぬ問題に



「・・・・・・所詮は偽善か・・・・」



















風を、空気を切る音をした

咄嗟に両手で顔面に迫ったものを挟みこんで止める・・・・


「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」


それは、ヴァネッサの剣・・・・鞘が被ったままの剣であった。それを真剣白刃取りで止めている


「ここは大人しく殴られろ」

「・・・・何を怒っているのかは知らんが、せめて平手打ちにしてくれ」




\パアァア―――――――――――――――――――――――――ン!!/



本日二度目のビンタである


「・・・・・・・・・」


テオフィルの左頬には紅い椛が落ちていた、ヴァネッサはふんっと鼻を鳴らしてテオフィルに
背を向けた


「・・・・・・貴公は偽善者ではない」

「?」

「貴公が戦って・・・・私はこうして無事でいる、貴公が彼女を諭したからこそ彼女は希望を繋いだ
貴公がその命題と戦ったからこそ、救われた命がある・・・・」

「・・・・・・」

「偽善者とは、善を装って他人を騙し・・・誰かを悲しませる者の事だ、貴公は偽善者ではない」

「・・・・・それでも俺は何かを救えたか?」











「救えなかったからなんだというのだ!!貴公は一体何様のつもりだ!!」
                                          
                                          








ヴァネッサは振り向き様にテオフィルに怒鳴りつけた、魂を籠めて




「では完全なる善とはなんだ!?皆が納得し全てを救える善があるというのか!?
そのような答えなど何処にもない!!全てを救う答えなんてどこにも存在しない!!」




森の中へ響き渡る声・・・・・ヴァネッサの魂が震えている








「自分が信じて目指した「善」を!!少し理想に届かなかったくらいで「偽善」と罵るな!!!」

                                          





「・・・・・ヴァネッサ・・・」


「全てを救う事が出来ない「善」を「偽善」というならそれは間違いだ・・・・」


「・・・・・・」


「・・・・我々は一つ一つ、小さな善を重ねる事しか出来ないのだ、テオフィル殿・・・・
私とレティシアは間違いなく貴公に救われたのだ・・・・間違いなくな」



ヴァネッサはテオフィルに微笑みかける



「自らの「善」・・・・それに誇りを持たれよ・・・・もしテオフィル殿の善を笑う者がいたなら・・・」



自らの剣を引き抜き、大きく天へと翳す





「・・・・"盟友"の「善」を偽善と笑う者が居たなら、私がこの剣で切り捨ててやる」





「・・・・・・・」


「貴公は己が信じる道を行かれよ・・・例え答えが定まっていなくても、迷う事があろうとも
我々は・・・・もがきながら生きていくしかないのだからな・・・・」



そう、無理やり答えを見つける必要などない・・・・生きていれば、出切る事はあるから

                                          

「・・・・・・・・そう・・・・か・・・・・・・・・・・ありがとう、ヴァネッサ」


「・・・・・なんだ、ちゃんと笑う事も出来るではないか・・・・」



ヴァネッサが見たテオフィルの小さな微笑は、とても救われた表情をしていた・・・・
それは、彼が大切な者を失ってから見せる・・・・・数年ぶりの笑顔だった・・・・・










「それより、盟友とは何だ盟友とは」

「うん?ああ、私は友を呼ぶときはそう呼んでいるのだ・・・・・・不満か?」

「・・・・・いや・・・・友が出来るというのは・・・・久方ぶりでな」

「フフフフフ・・・・・なら、盟友の証としてこれを渡そう」


ヴァネッサはフィンガースナップをすると・・・・彼女の掌の上に何かが落ちる


「ほら」


髑髏の細工がついた羽ペンを差し出してきた


「・・・・これは?」

「これで適当な物に私の名前を書けば、私はすぐさまお前の処に駆けつけれる・・・
何か力になれる事があればいつでも馳せ参じよう」

「・・・・・そうか・・・・・」


テオフィルは彼女の手から羽ペンを受け取る


「間違っても売ってくれるなよ、黒い行商人」

「・・・・・これは非売品だ」


二人は同時に微笑を浮かべて笑いあう・・・・ここに男女の、しかも魔物と人間と言う奇妙な
友情が生まれていた・・・・・・










「それで、レティシア殿はいつまでそこで立ち聞きしているのか?」

Σ(゜Д゜)<ギクッ

「・・・・今時その反応も古いな・・・・」


木の影からレティシアがこそこそと出てくる・・・・随分気まずそうである


「どこから・・・・気づいていたんですの?」

「お前が来ていたあたりからだ」

「ようは話を始めてすぐと言うことだな・・・」

「ぅ・・・・うう・・・・」


レティシアは顔を真赤にしながら出てくる、ヴァネッサは笑いながらレティシアを見る


「・・・・・・さて・・・・それで、レティシア殿はこれよりどうするつもりだ」

「・・・・・さあ?せめて安住できる地を探さなきゃね・・・・サキュバスに成ったら、そんな所
魔界にしかないのでしょうけれどね・・・・」


だろうな、とテオフィルも目を瞑る・・・だが、ヴァネッサは顎に手を当てて考える


「ふむ・・・・無い事は無いぞ?」

「え?」

「ここより西方に「アバル」と呼ばれる国がある、魔物と人間が共存する国だ」

「・・・・・聞いた事はあるが、本当にそんな国があるのか?」

「ああ、私も行った事は無いが・・・・魔界では名がしれた国だ。そこでは人間と魔物が互いに
共存しあって、人間がインキュバスやサキュバスにならずに過ごす国らしい」

「インキュバスや・・・・サキュバスに成らない?」

「なんでも神の力が強く働いているらしく、魔物と人間が交わっても神の力によって人は変化
する事は無いらしい。そしてサキュバスになっても必要以上には好色にはならないという・・・
何処まで本当かは知らないがな」

「ふむ・・・・・」

「そこなら、サキュバスとなっても・・・・私は快楽に堕落せずにすむ?」

「あるいは・・・・神の力が働いているから、魔界から直接飛ぶ事は出来ん、長い旅になると
思うがな?」

「・・・・・行ってみる価値はありそうだな」

「ええ・・・・・・え?」


テオフィルは立ち上がってレティシアの方まで歩いてくる・・・・


「え、っと・・・・一緒に来てくれるんですの?」

「そのアバルと言う国に興味があるだけだ・・・・お前はついでだ」

「つ、ついでとは何ですか!!」


テオフィルは横を通り過ぎて元のキャンピングポイントへ帰って行った


「何なのです!!あの男!!」

「・・・・・そうか」

「?」

「あれが俗に言うツンデレと言う奴か?」

「は?」


ヴァネッサ、ツンデレを知る
















「それでは道中気をつけてくれ、何か困った事があればすぐに駆けつけよう」

「ああ、東へ向えば1時間あまりで街につく・・・・・尋ね人が見つかるといいな」

「・・・・ありがとう、貴方にも世話になりましたわね」

「うむ、それではさらばだ!」


そう言ってヴァネッサとはキャンピングポイントで別れた・・・彼女には彼女の使命がある。
テオフィルとレティシアは二人で西へと歩みを進めた・・・・










そして日が傾き月が輝きを帯びた頃、その長い長い森からようやく二人は抜け出す事が出来た
目の前には広大な草原が広がり、遥か彼方に次の目指すべき町が見受けられた

兎に角二人は今日はここで野宿をする事にした


「・・・・・・っぷし!」


ちいさなクシャミがこぼれる

先程森の中へ戻り近くの清流で水浴びをしていたのだが、その水が予想以上に冷たいらしい


「・・・・・・」


テオフィルは無言で厚手の毛布を彼女の元へと持ってきた


「い、いいですわ、貴方の分が無いでしょう」

「・・・・・・風邪を引かれて運ぶ羽目になっても困るからな」

「それは貴方も同じですわ、あの冷たい川で身を晒したのでしょう」

「お前とは鍛え方が違う、いいから羽織っておけ」

「(ツンデレ・・・?)」


そういって彼女に毛布をかけて自分は再び焚き火を挟んだ向こう側へと戻る


「・・・・・・」

「(そういえば・・・・)ねえ、貴方は昨日から寝ていないのではなくて?」

「お互いな」

「なら眠りなさいな、火の番は私がしておきますわ」

「・・・・・・・2時間だけ眠る」

「はいはい、何時間でもどうぞどうぞ・・・・」


旅には慣れたものだったが、三日も身体を動かさずに看病を続けた身体は鈍っていた
森を歩き詰めた身体は疲労を訴えて・・・・睡魔も手伝ってすぐにテオフィルは意識を落とした





2時間後


「・・・・・・本当に2時間後に目を覚ませるんですね」


てっきりそのまま朝まで眠る物なのだと思ったら、律儀に起き上がって来た
腹に時計でも内蔵されているのかと思うくらいの正確さである


「・・・・・・交代だ・・・・眠れ」

「・・・・・眠れませんのよ、このままでいいですわ」


焚き火に当っているせいか、それともただ単に自分の眼が眠気眼なのか・・・・彼女の頬が
ほんのりと赤みを帯びているように見える、風邪でも引いたか?


「明日に響く、眠れ」

「・・・・・結構です」

「・・・・強情な奴だな」


テオフィルは静かに近くに生えた草をむしると、焚き火の中へと放り込む


「・・・・・・お前は」

「?」

「・・・・・恨んでいないのか?俺を・・・・・」

「何故ですの?」

「話を盗み聞きしていただろう・・・・・」


レティシアはフフンと笑って髪をすく、長く美しい萌黄の髪は美しく靡き、焚き火の光に光る


「ヴァネッサも言っていたでしょう・・・・私達は貴方に救われたんですわよ」

「・・・・・・・」

「・・・・確かに、希望が消えた事はショックは大きかったですわ・・・ですが、それ以上に
貴方の優しさは嬉しかった・・・・貴方の行動は確かに長に届いていたと思います」

「・・・・・・」

「それに、今だって私をアバルへと連れて行ってくれているではありませんか」

「・・・・それはついでだ、俺も行きたいから向っている」

「素直じゃありませんのね・・・・・感謝していますわ」


レティシアはふぅっと溜息をつくと毛布をぎゅっと握って身をすり、炎を見つめる





暫くの間・・・・二人の間に静かな沈黙が流れる





「・・・・・・・」

「・・・・・・な、何ですの?」

「寒いのか?」

「寒くないですわ」

「身体が震えている」


そう、先程から彼女の体がフルフルと震えて、時折身をよじっている
それにどうにも先程からテオフィルは悶々とした感じに男の高ぶりを感じ始めていた


「・・・・・・ねえ」

「なん、だ?」

「先程恨んでないかと言いましたわね・・・・」

「あ、ああ・・・・」

「恨んでいるというのなら、罪滅ぼしでもしてくれますの?」

「・・・・・・できる事なら」

「そう・・・・」


そういうとレティシアはおもむろに立ち上がり、ゆっくりとテオフィルの方へと回り込んで来た


「なら・・・・この疼き、止めてくださるかしら?」


顔が紅潮していたのは見間違いではないらしい・・・・

彼女はテオフィルの目の前に立って前を隠している新緑の服をたくし上げて、秘所を曝け出す・・・
すでにテラテラと濡れる彼女の女陰は強い女の香りで、男を待ちわびていた


「夜になると・・・疼いてたまりませんの・・・・昨日だって、ずっと我慢していたんですわ」

「まて・・・・そんな事をしたらサキュバス化が強まるぞ」

「エルフは・・・・耐えれば耐えるほど反動で好色なサキュバスになると言いますわ・・・・
アバルへ着くまでエルフとしての本能を保ち続ける事など土台無理な話し・・・・なら
いっそここでサキュバスへと変わり、「あまり好色でないサキュバス」に成るのが
建設的な提案ではなくて?」

「しかし・・・お前はエルフではなくなるぞ?」

「確かに・・・・ですが、貴方は言ったではありませんか・・・・
『己はエルフだと信じる限り、お前はエルフであり続けるはずだ。例え体が変わっても』
と・・・・私は私である限り誇り高きエルフであり・・・・レティシア・ケ・デルヴロワですから」

「・・・・・・・」

「それに・・・・人間にしては信頼出来る貴方だからこんな事をお願いしているのですわよ・・・・
レディに恥をかかせないで」

「・・・・・・・」













「・・・・貴方になら・・・抱かれてもいいですわ」

















「ふぅぅ・・・・ぅうん・・・・んふ・・・・ん・・・・」


毛布の上に彼女を寝かせて、口づけを交わす・・・・・ファーストキスらしいのにその求め方は
とても情熱的で、すぐにデュープキスへと変わる


「・・・・んんん・・・・や、り慣れているのですのね・・・・はむ」


当然年頃の青年が一人旅なのだ、溜まる物は溜まる・・・・それを女で発散させた事もある
キスのやり方はそれなりに心得ていたし・・・・・


「憎いわ・・・・」

「・・・・・・」

「こんな時くらい、饒舌になってくれてもよろしくなくて?」

「女を喜ばせる言葉は・・・・・あまり知らん」

「心に思った事を・・・・んん・・・・言ってくれれば結構です」

「そうか・・・・」


再び彼女が唇を重ねてくる・・・・


「んぐ・・・・んん!?」


唇に舌を当てると、彼女は驚いたように目を見開くが。こちらも話さず抱きしめ舌で
彼女の唇を舐め上げるように愛撫する


「ふふぅ・・・・ふぅ・・・・・ん・・・・・は・・・・んんぐ」


唇の間の隙間をゆっくりとこじ開けて、下を彼女の中へと入れると・・・
レティシアはえも言わぬ感覚に身をよじる

そして、ゆっくりと彼女の口の中を這いながら、レティシアの舌へと到達した


「んんんん!!」


彼女の舌に執拗に絡ませる、卑猥な水音が聞えて恥ずかしいのか彼女は彼の服を掴んでくる


「・・・・んん・・・・は・・・ぁ・・・・・あん・・・・あぅ・・・・はぁあ・・・」


ようやく、舌をお互いに絡ませる


「んふ・・・・ふぅう・・・・は・・・・」


彼女の吐息が漏れて甘い匂いが鼻腔を蹂躙する・・・・媚薬を霧吹きで吹きかけられている気分だ
お互いを求める舌の動きは加速して、激しく水音を立てながら二人の口内の接合部で踊る


「んむ!んんんん!んはぅ・・・・っふ・・・・はあ・・・・あん・・・くあ・・・」


レティシアの身体中が2,3度痙攣したのを感じた・・・・唇をゆっくりと離すと、唇と唇を
一筋の銀糸が伸びて繋いでいる・・・・舌でその銀糸を切った

彼女はとろんとした表情と潤んだ目でこちらを見てきている・・・・


「・・・・・イったな」

「え・・・・・ぁ・・・」


火がついたようにたちまち彼女の顔が赤く茹で上がる・・・・・どうやらキスだけで絶頂した事
に気づいていなかったらしい

彼女は紅く染まる顔を俯かせて、言い訳の言葉を捜しながら照れていた


「いい・・・・顔を見せろ」


顎をくいっと手で上げてやると、彼女の潤んだ瞳がテオフィルを見上げる


「・・・・・酷い顔ですわ」

「・・・・・可愛いから」

「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜///////」


恥ずかしさの悶えを誤魔化す様にテオフィルに口付けをした


「・・・・・ん・・・・・恥ずかしい事言うのですわね」

「心におもった事を言えと、言ったのはお前だ」

「・・・・・馬鹿者」








「・・・・・」


ズボンのベルトを外し、いきり立った魔羅が外気に晒される・・・・
レティシアは始めてみるその猛る男性器をみて生唾を飲む・・・


「・・・・」


おかしい

初めて見るのにも拘らず・・・・それがたまらなく愛おしく感じてしまう、早く欲しいと身体が
疼いて仕方ない・・・・


「っ・・・・・」

「見るな・・・・俺を見ればいい」


再び彼女に唇を合わせると、優しく彼女を抱きしめる
レティシアはその抱擁に答えるように抱きしめた


「(・・・・暖かい・・・・)」

「・・・・・・・触るぞ」

「ん・・・・・んんん! ふぅあ・・・・あぅ・・・んんんう」


すでにぬれきっている彼女の女陰の入り口にそっと指をやるのだが、それだけで随分感じる
らしく、入り口を少しばかり刺激するだけで彼女は嬌声を上げた


「くふぅ・・・・んぅううう!?や!あぁ・・・」


膣内へ中指を第一関節まで入れると、とろりとした愛液が濃密に溢れて絡みつき。
男を入れた事の無い未開の穴はきちきちとキツイが、サキュバスの変化だろうか?

中の膣の肉壁がうねうねとうねって進入して来た物を巧みに刺激している・・・

確かにこれは人間の膣にはみられないサキュバス独自の物だった


「うぁ・・・・・くぅふ」

「つらいか?」


ふるふると首を振って否定する


「・・・・・せ、つないの・・・・・早く・・・・お願い・・・・・」

「・・・・・良くほぐしておかないと傷むぞ」


そう言いながら指で内壁をぐにぐにと動かし始めると、彼女はその度に甘い声を漏らした


「あぅう! んは・・・あ! あん・・・んく・・・・あぐ・・・・んんんんんん!! んあああ!!
あ!!ああ!ぅああ・・・・あふ・・・・あぅうう!!  んああああああああ!!」


堪らない征服感、エルフの・・・こんなにも美しい女性を指先一つで鳴かせているという
男の醜い支配欲が沸く・・・・だが、テオフィルはその欲を抑えて内壁をいじる


「んんぁあ・・・くぅう!も、もおいい・・・もおいいからぁあああああ!!あああぁん・・・
せつなぁ・・・・あふうぅううう、んぐう! 切ないのぉ・・・・・」


あのレティシアが甘えた声で自分の一物を欲しがっている・・・・
愛しく思ってしまうのが人の性と言うものだ。例えそれがサキュバスの変化だったとしても

指を引き抜くと、テラテラと濡れた指先が出てくる・・・・


「・・・・・いくぞ」


テオフィルは彼女の足を広げて開脚させると、その怒張した魔羅を秘所にあてがいながら
彼女に覆いかぶさる


「ぅん・・・・来てくださいまし・・・・」

「つかまっておけ・・・・・傷むなら爪を立てていい」


テオフィルの言ったとおり、彼女はテオフィルにしがみつく・・・・
そして、ゆっくりと彼女の中へと魔羅を入れていく


「んんんんん・・・・・・んくぅ・・・ぅうううう・・・・っはぁああああああああ!!」


狭い膣内に進入して、すぐにあったのが彼女の処女膜だ
あまりジリジリとやっても傷むだろうとスピードは落さずそれを突き破ったのだが


「あぅうん!!」


彼女の声からは悲鳴ではなく、喘ぎ声が強く漏れた


「今のは・・・何んですの・・・・・弾けたようでし・・・たけど」

「・・・・破瓜だ・・・・血も流れてる」


結合部からは彼女の純潔を散らした証である破瓜の血が流れていた・・・・


「・・・・・痛いか?」

「・・・・・・・・・・」

「おい?」

「・・・・・・・痛みませんの・・・・」


彼女はきゅっとテオフィルを抱きしめる


「痛みませんのよ・・・・ちっとも・・・・それどころか、気持いいばかりで・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・私、本当に変わってしまったんですわね」


彼女はにっこり笑いながら、二つの眼から涙を流していた・・・・・


「角も・・・尻尾もないけれど、この身体は確かにサキュバスになっていましたのよ」

「・・・・・・・・」


もう、彼女には謝らない・・・・謝ったって彼女が元の森エルフに戻るわけではない、・・・決して


「大丈夫・・・・・」

「私が私である限り・・・・ですわね、わかっていますわ・・・・確かに今、凄くサキュバスとしての
喜びを理解していますけれど・・・・自分は自分であるという確信を確かにもてます」

「・・・・・そうか・・・・・絵はかけそうか?」

「・・・・・ええ・・・・サキュバスになっても、きっと綺麗な絵をかけると思います」


確信

彼女は強くテオフィルを抱いた・・・・





「・・・・私は確かに貴方に救われていますわ・・・・・・」





救いとは・・・必ずしも一定の形が決まっているわけではない、例え醜くなろうとも
その先に心安らぐものが在るというならば、恐らくそれが救いなのだろう


「・・・・ありがとう・・・・」

[・・・・・ああ」

「あら・・・・ようやく私にも笑顔を見せてくれましたわね」


テオフィルはかすかに笑っていたらしい・・・


「もったいない・・・・せめて抱いている女の前では笑顔で居てくださいな」

「笑顔で女を犯すのか、あまり人から見ていい物ではないな」

「フフ、そうね・・・・・動いてくださいまし」

「ああ・・・・」


途中で止まっていた腰を推し進め、彼女の中へと全てを押し込んでいく


「ん・・・・ぐぅうあ・・・ああああぅああ!!」


そして、魔羅の鈴口と子宮口がキスをして、そのまま魔羅が子宮を押し込んで持ち上げる


「っくふ・・・あ・・・・当ってますわ・・・・」

「ああ・・・・」

「気持いい・・・ですの?」

「・・・・ああ、こんなに良いのは・・・初めてだ・・・・動くぞ」

「は・・・んんん!!」


腰を動かしはじめる・・・・

すでに膣の中は入ってきた男性器をぎゅうぎゅうと少女特有の強い締め付けをしながら
名器と呼ばれる女性がテクニックを身につけたような刺激を魔羅に与えてくる

ピストン運動にあわせて膣内はつよく魔羅を刺激していく


「あっ!! あうん! んあは! ああ!! あぐぅ・・・・あああ!!やああ!!」


嬌声を上げる彼女は無意識に、しかし貪欲に腰を振る


「ひぅう!!あぅぐ・・・あひ、ぃ・・・・凄・・・中でぇえ!大きいの!!暴れてますわぁあん」

「っ・・・・感じてるか?」

「ぁあうんんん!!くぅ、見て・・・分かりませんのぉお・・・・おおお・・・んあああああ!
テオ・・・・フィル ぅうん・・・ はぁ? 気持、良いですのぉ?」

「ああ・・・こんなの・・・長くは持たん」

「んんんふ! ふぅう! 嬉し・・・ぃい・・・ あぐう! あぅ!! もっと・・・
もっと気持よく・・・・ぅああ! あん!! ああああああああああ!!」


それは自分が気持ちよくなりたいのか、それともテオフィルを感じさせたいのか
彼女は快楽に身を任せて絶頂へと登っていく


熱烈になる膣内の摩擦は激しくなり、血と白く泡立った愛液が混ざり合って
ほのかにピンク色の液体が卑猥な水音を奏でる

激しさを増せば増すほど、秘窟の収縮は感覚細かく、そして確実に魔羅を締め付ける
それに伴って摩擦感をまして、より強い快楽を二人に与えた


「あっ、ああう!! ああん!! あふ! ダメ!もうダメですの!!わた、・・・くしぃ」


絶頂が近いのか、それとも彼女が既に何度も絶頂を迎えているのか
射精感がみるみる高鳴っていく


「ああああああああ!!あくぅ!!おか、おかしく・・・なるぅう!!」

「ッ・・・」

「いってぇ・・・・中に・・・だしてくださいましぃ!!いああ!ああああああああああああ!」



限界だった・・・




「ぐぅ!!っ・・・」


「ふぁあ!」



二週間は溜め込んだ男の精液は、彼女の中へと爆発した










「あああはああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」



                                          




全身の筋肉を張り詰めながら、彼女の体が限界まで緊張する


「あ・・・・・あひ・・・・はひ・・・・あう・・・・はあああああああああああああ・・・・・」


強い絶頂を迎えた彼女は、目を見開きながら口をあけて、快楽を逃そうと漏らすように
声を上げた・・・・


「く・・・・・ふ・・・・・・・」


溜め込んだ精液はまるで本当に搾り取られるかのように彼女の子宮へと流れ込んでいく
すでに収まりきらない量が入っているのか、彼女の膣から溢れてきて、結合部から
流れ落ちている


「・・・・・・・・・・・」

「は・・・・は・・・・・・ぅ」


荒い呼吸のままの彼女と眼が合う・・・・・キスを求めているのは目を見て分かった


「んむ・・・・ん・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」


夜空の下・・・・・その暖かさに、レティシアは小さな幸せを感じていた・・・・・














「・・・・・長?まだお休みになられないのですか?」


エルフの村の中・・・・族長は静かに外の月を見上げていたところを、衛兵のエルフに見つかった


「・・・・うむ」

「夜風はお体に毒です、お早目のお休みを・・・・」

「うむ」


長は頷きつつも静かに月を見上げていた


「・・・・・・・」



『・・・・ならば・・・叶わない希望を与えるよりも・・・・もっとかける言葉があったでしょうに』



「(・・・・・そうよな・・・・あの子に優しい言葉を送れたら、どれ程よかった事か)」


村長は月から視線を落とし、静かに祈りを捧げる

長と言う立場であるかぎり、自分はずっとその言葉は送れない。

せめて


祈るくらいは




「・・・・・・」




あの子が、幸せでありますように・・・・と・・・・
























  〜翌日〜





「それで・・・・なんで昨日別れたあんたがここにいるのよ・・・・」


なぜか、レティシアとテオフィルの前にはヴァネッサが正座をしていた
気不味そうにあさっての方向を向いている


「う、うむ・・・・実はあれから魔界に帰って、母上と父上に貴公等の話しをしたのだが・・・・」

「したらどうした」

「母上が・・・・」








「何故お前はその男をさらって来ない!!!」

「え、あの・・・・今までの話の流れ聞いてましたよね?良い感じに友情芽生えた感じの・・・」

「だからお前はアホなのだ!!」

「アホ!?」

「いい年をして男ひとりさらってこれないような半端者に我が家のドアはくぐらせん!
その男を婿に貰ってくるまで帰ってくることまかりならん!!」



ズサーーーーーーーーーーーー      ポイっ

⊂(゚Д゚⊂⌒つ ≡≡≡≡(´⌒;;≡     ⊂(゜Д゜#)



「え、あの!は、母上!!?」

<耐えるのよ!これはあの子を成長させるための一つの試練!!立派に成長した姿を見せて
 母を安心させておくれ!

「・・・・・・・」

<オーイオイオイオイオイオイ・・・・・











「と、言う事なのだ・・・・すまんが婿にきてくれテオフィル殿」


二人は( ゜Д゜)としてその話を聞いていた、ヴァネッサも心底困り果てているようで


「テオフィル殿は中々に見所のある男、夫として迎えるのには十二分と考えていたが
二人の間柄を見てもしや恋情が生まれるのではないかと遠慮していた・・・・しかしこうなっては
私も遠慮はしまい」

「お、お待ちなさい!!テオフィルはこれから私とアバルへと向うのですよ!
それは貴方も知っておりましょう!!」

「うむ、そのことも私が言い出した手前よく知っているとも、だからレティシア殿を連れて
アバルへ向うまでは私も無理は言わぬとも、到着してある程度目処が立てば婚約してはどうか」

「・・・・他人事みたいにいうな」

「で、でも無しです!そんなの無しですわ!!テオフィルは・・・・その」

「ん?もう既にねんごろになられたか?」


大当たり


「魔物世界は一夫多妻制だ、大丈夫だ、問題ない」

「問題ないじゃないですわよ!どや顔でいうのもやめなさい!!それに貴方尋ね人は!?」

「彼女も人間界にきているという、何れめぐり合う事もあろう(あーもーどうでもいいか)」

「顔にどうでもいいって書いてありますわ!!・・・・テオフィル!貴方も何か言いなさい!!」

「・・・・・・・・はぁ・・・」


テオフィルは荷物を背負いなおすと溜息をついて西を目指した


「テオフィル!!」

「つまり今ので話しはまとまったと言う事で良いのですかなテオフィル殿」

「(・・・・・頭が痛い・・・・)」







                                          
かくして三人の西の国「アバル」を目指しての旅が始まった


一人はバフォメット、スケルトンと共に

一人はドラゴン、稲荷、ヴァンパイアと共に

一人はエルフ、デュラハンと共に


約一名不定期であるが、魔物と共に西を目指す物語がようやく歯車を回し始めます

奇妙で不思議なつながりを持って・・・・


                                            To be continued_...
10/11/11 10:55更新 / カップ飯半人前
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■作者メッセージ
ここまで読んでいただきありがとうございます、カップ飯半人前です
今回は約20%増量です(エロを突っ込んだ結果がこれだよ!ごらんの有様だよ!)
とりあえずこれで主要なキャラは出揃いましたね。これ以上は多分増えません

今回は「ルール」という物を意識して書いてみました、ルールの中で守られるモノと抹殺されるモノってありますよね。何時の時代も

そんなルールに挑んで見たときの葛藤って色々あると思います、大を取るか小を取るかとか・・・・まあそんな感じのお話でした

毎度の事ながらご意見ご感想どしどし待ってます♪

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