連載小説
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手紙と貴女とオレと剣 中編
「あんた、馬鹿でしょ」
そこにいたのはオレの、黒崎ゆうたにとっての片割れともいえる存在。
双子の姉だ
「ったた…。仕方ねーだろ。そーゆーモンなんだからって。」
「だからって毎度のこと怪我して帰ってくる馬鹿がいるの?」
オレは彼女に包帯を巻いてもらっていた。
よく見ればオレの体には青あざやたんこぶ、ところどころ内出血を起こし、ぼろぼろだった。
「何で今回はボコボコなの?」
「先生からとんでもない必殺技きめられた…。」
「この前は何だったっけ?」
「背骨の位置がずれたぐらいだったかな…。」
「…そもそもなんでそんなものはじめる気になったわけ?」
「うるせい。」
なんだったか…。
オレがどうして、ここまで体を張っていたか…。
もう遠くの昔のことのようであり、伝えられなかったことのような気がした…。
「はい、終わり。」
「ん、毎度ありがとよ。」
「感謝は態度で示す。ほら。」
「?」
「宿題、手伝って。」
「おま、これポスターじゃねーか!今週これで5枚目だぞ!!」
「いいじゃん。参加賞いいんだから」
「お前なぁ…。」

遠い遠い、もう届かないであろうその思い出は、まるで雪のように溶けて、そして消えていった…。

「…ん」
「!気がついたか。」
「…あ、そっか」
気絶していたのかオレは…。
だから今、夜空を見て寝転んでいるのか…。
もう夜かよ…。まぁ、稽古始めたのが夕方だったしな…。
「…大丈夫か?」
心配そうにオレの顔を見下ろす、というか覗き込んでくるセスタ。
銀色の長髪がかかり、少々くすぐったくて身をよじった。
「おっと、すまん…。」
「へーき。」
彼女は上を見上げてしまった。心なしか、顔に赤みがかかっているようにも見えたが気のせいだろうな…。
って、さっきっからオレはどこからセスタを見ているんだ?
もしかして、後頭部に感じるこの柔らかくて温かいものって…もしかして、セスタの膝?
えっ?オレ今膝枕されてたりするのか?
…なんかこう、
「安心するわ…。」
「ん?どうした?」
「あ、いやなんでもない。」
そっと身を起こす。いつまでも彼女の膝の感覚を楽しんでいたかったりもするが長くしていれば彼女も疲れてしまうだろう。
そのとき小さく「あっ…」と残念そうに漏れた彼女の声は聞こえなかった。
「うぅ、顎が痛い…。」
「すまんな…。私としたことが力加減を誤っていたようだ。」
「だな、普段なら腹を狙ってくれてたのに…。」
「それはっ!その…、お前のせいだ…。」
「…オレか?」
なんか悪いことでもしただろうか?いやしていない。
二人並んで街のあるほうを見た。
夜の闇の中、隣で彼女の銀の髪が月明かりできらきら輝くのも見ていたかったがしない。
あまり女性の顔をじろじろ見るのは失礼だろう。
そこへ、夜風が二人の間をすり抜けていった。
彼女の髪がなびく…。
「…そろそろ帰るとしよう。」
「…だな。早く帰んねーとレグルさんたちに迷惑かかっちまう。」
立ち上がり、膝枕をしていてくれたままの姿勢の彼女に手を差し伸べた。
「うん?」
「ほら、手貸すぜ。」
「あ、うん////」
おずおずとその手を握り、そのまま街へ向かうことにした。

「なぁ、ユウタよ。」
「うん?」
「お前は何か剣術でも習っていたのか?」
「うん?何で?」
「お前の動きにはブレがなさ過ぎる…。それなりの経験をつまなければ姿勢なぞすぐに崩れるというのにお前のは崩れもない。それどころか頭から鉄柱でも突き刺したかのように真っ直ぐだぞ。」
「あー、まぁね。」
「なにか、やっていたのか?」
「どーだかねぇ…。」
「はぐらかすな。」
「はぐらかすって言葉はもともと歯がぐらぐらして、抜けそうで抜けないという気分が元になってきた言葉なんだぜ。」
「嘘をつくな。」
「なぜばれた…?」

そのまま二人で雑談でも挟みながら街を歩いていく。
そして食事処ハンカチーフの前で別れた。

「ただいま帰りましたー。」
「あら、おかえりなさい。」
物腰の柔らかそうな、上品な女性が出迎えてくれる。
レグルさんの妻であり、この食事処を切り盛りするキャンディさんだ。
「ずいぶん遅かったわね。また稽古かしら?」
「ええ、ちょっとセスタと二人で遅くまで稽古していて…。」
「あら。」
キャンディさんがにんまり笑う。なんか、嬉しそうに…。
「二人だけの稽古ね…。なんかとってもロマンチックじゃない?」
「実際はただ痛いだけですけどね。」
「ふふふ、それじゃあ、手を洗ってらっしゃい。食事にしましょう。」
「はい。」
そこで、いつもは隣にいるはずのレグルさんがいないことに気がついた。
「…キャンディさん?レグルさんは?」
「外に縛って放って置いたわ。」
え!?何で急に!?なにがあった!?
「あの人も許せないわ。私というものがありながらも妻の前でラティさんの話ばかりするんだもの。」
困ったものね、と彼女はため息をついた。
どうせレグルさん、また胸の話をしていたのだろう。
男らしい人だな…。
「そういえば、ねぇユウタ。」
「はい?」
「今朝にこんな手紙が届いていたのだけれど…」
そういってキャンディさんは後ろから手紙を出した。
「…手紙?」
「そう、手紙。」
手紙を受け取り、封を開けた。
中から取り出した紙にはここに来てからよく目にするようになった言葉が書かれていた。
書かれて…。
「…すいませんキャディさん。読んでもらえませんかね?」
「あ、そうだったわね。あなたまだ字が読めないんだったわね。」
「すいません。」
努力はしている。でも読めないのだ。独学で学んでいくには少々難しい。
どこかで見たような文字の書き方だったが…どこで見ただろう…?
キャンディさんは手紙に目を落とした。
「えっと、何々…。『満月が真上に昇るころ。街の外の空き地にこい。貴様の全てをもらいに参上しよう。来ない場合は貴様の意見は尊重しない。貴様が思っていたとおりの男だと思わせろ。』…だって。」
「???なんだそりゃ?」
わけがわからん。満月は…確か明日だから明日の夜か。
街の外の空き地は、オレ達がいつも稽古で使っているところだろうが…
オレの全てをもらいに、だと?
いったい誰だよそんな手紙送りつけてくるのは…?
キャンディさんはいまだに手紙に目を落としている。
何度も、何度も手紙の字を読み、そして笑った。
「ふふふふ。あの子も随分と大胆なことするようになったわね。」
…あの子?知り合いか?
「えっと、キャンディさん?知り合いなの?その手紙の送り主と。」
「知り合いも何も…あ、いいえ、なんでもないわ。」
手紙を抱きしめ微笑を向ける彼女。
「えっと…なんの手紙なんですかねぇ?」
「うふふ、そうねぇ…いうなれば決闘の申し込みとでも言うところかしらね?」
「決闘って…。」
いきなり血なまぐさいような話になってきたぞ…。
決闘って言った割にはキャンディさん、なぜそんなに嬉しそうなんですかね…?
明日はちょうど稽古の休みの日だ。
だったらちょうどいいじゃないか。
その手紙の送り主のご希望に添えるとして、明日の夜行ってやるか…。

次の日の夕方 

決闘なんて急に言われたところでどうすればいいのかわからない…。
だってそうだろ!?約4ヶ月前まで普通の高校生やっていた18歳男児がこんなところで決闘の申し出を受けるなんて誰が予想すんだよ!
18年間の知識をフル活用して考える。
とりあえずは武器でも手に入れたほうがいいだろうか?
持っている稽古用の剣は刃が潰れているものだし…。
かといって刃の潰れていない剣といえば持っているのはセスタしか知らない。
そのセスタに借りに行こうと思ったが彼女の家の前でかすかに何かを削る音がした。
…たぶんあれは剣を磨いでいるのだろう。
騎士にとっても剣士にとっても武器とは誇りそのもの。
それの手入れを欠かすわけがない。
結局のところ彼女に剣を借りるという考えはすぐに放棄した。
磨いだ剣を誰かに使われたらたまったもんじゃないだろうし…。
というわけでただいまオレは街の中にある武器屋に向かっていた。

ガランガラン

「おう、いらっしゃい。」
ドアに取り付けられた鈴が荒々しい音をたて、店の奥から店主らしき男が姿を現した。
茶色い髪をした小柄な中年男性だった。
「すいませーん、武器捜しているんですけどー。」
「おっと、冒険者さんか?それならちょうどいいものがあ―」
店主はオレの姿を見て固まる。
主に、オレの顔を見て…。
「…こいつは驚いた…。」
「…はい?」
「黒髪黒目の青年……。あんたがレグルの旦那のところに住んでるジパングの奴か…」
「うん?」
ジパング?
確かそれって昔の日本の別称じゃなかったか?
…え?こっちに日本があるのか?
「まさかお目にかかれるとは思ってなかったぜ…。」
店主はうんうんと、一人うなずく。
そして右手を、切り傷の痕が多く刻まれている手を差し出した。
「俺はナタンっていうんだ。この店の店主だ。よろしくなジパング青年。」
「はぁどうも、黒崎ゆうたです。」
オレはその手を握り返しす。
「あの、それで…武器を探しているんですが…。」
「おっとそうだったな。」
ナタンさんはオレに店内を見せるかのように小柄な体を横へ移動させた。
「ようこそ、俺の武器屋へ。ここには何でもそろっているぞ。」
ナタンさんが右手を壁に向けた。そこには剣が。
「名のある鍛冶屋が作り上げた名剣。」
左手を、反対方向へ向ける。
そこには盾が。
「名高い勇者が使用した頑丈な盾」
そして、両手を広げた。
「鉄をも切り裂くナイフや、岩をも貫く大槍、エルフの里で作られたという聖なる弓まで何でもあるぜ」
ナタンさんはオレを見て、言った。
「そして一番の目玉商品がサイクロプスの作り上げた武器だ!頑丈さも威力も申し分ないものさ!」
「へぇ、サイクロプスが…。」
…すいません、サイクロプスって何ですか?
あの一つ目の怪物だったりするんですか?
もしかして、他の魔物同然に女の子だったりするんですか?
「とにかくここには何でもそろってるぜ。お気に召したのがあったなら俺を呼んでくれ。」
「あ、はい。」
とりあえず、壁にかけてある武器を眺めることにしよう。
壁には数多くの剣や盾、武器が飾られている…。
黄金色に輝く刀剣、円状の盾、細工の細かいナイフなど…。
その中でひときわ目に付いたのは…この数多くの武器の中で異色を放つものだった。
「あの、これは?」
オレはそれをもってナタンさんに見せる。
おっと、軽いと思っていたが案外ずっしりくるな…。
「おっと……そいつに目を付けるとはな…。」
ナタンさんはオレを見てにやりと笑う。
「そいつはサイクロプスが作ったもんだ。」
「へぇ…これが…。」
素人の目からしてもわかる。
それは武器と呼ぶにはあまりにも、きれい過ぎるものだった…。
見事なフォルム。絶妙なバランス。そして、目を引くのはその色。
漆のようなもので塗られた色は黒。
闇のように深い漆黒色だ。
「黒色一色で染められた…お前さんにはぴったりだろうな。だがな、それは、そんな形をしているが武器らしいぞ。」
知ってますよ。だからこれもってきたんですよ。
「あのサイクロプスも考えることがよくわからん。これがどう武器になるものかね?今まで来た冒険者どもはみんなサイクロプス製だといっても見向きもしなかったからな。」
「…。」
まぁ一見したらアクセサリーとかにも見えなくはないな…。
「だから同じサイクロプス製の武器でも売れ残っちまうんだ…。」
「…ナタンさん、これもらえますか?」
「あ…?」
ナタンさんは目を丸くした。
「お前さんさっきの話聞いたのか?」
「ええ、聞いた上で、これをもらいたいんです…。」
「こいつはたまげた…。」
そうは言っているが実際のところたまげているのはオレのほうだ。
まさか コレ がこの世界で見つかるなんて…。
「…うんうん、よし、いいだろう。そいつはただでもらっていってくれ。」
「!いいんですか!?」
「ああ、そいつはサイクロプス製とはいえ売れ残りに変わりはねぇ…。はっきり言って処分に困っていたとこだ。むしろ、もらってくれたほうが助かるな。」
「ありがとございますっ!!」
今まで貯めた小遣いを全部はたいて買うつもりだったが…これは大きな収入だ。
オレ自身剣よりもこっちの武器のほうが身に合ってると実感できる。
これで、後は夜を待つだけだろう…。
誰だかわからない、あの手紙の送り主を待つだけだ…。

夜 
親魔物国 マルクト 郊外の空き地

何度もここに来ては稽古をしているが、やはりここはいい。
夜風が涼しいし、何より向こうの世界よりも空がきれいだ。
夜空を見上げたオレはため息をつく…。
向こうでみんな、元気にやっているだろうか…?
そう思ったそのとき

ガシャン

「!」
小さな、鉄と鉄がぶつかったような音…。あまりにも小さく、オレ自身その音が聞こえたのは偶然だった。
ざりっと地面を踏む音がする…。
来たか…。
オレは隣にさしてあった剣―稽古用の物―に手をかけた。
そして、ゆっくりと視線を夜空から地上へとおろす。

ガシャン

オレの数十メートル先にそいつはいた。
紫色の、禍禍しさを感じさせる鎧を着込んで。
月明かりに煌く剣をもって。
よく切れる刃のような銀色の髪をなびかせて。
そこに彼女は―

セスタ・カサンドラは、立っていた。

「…セスタ?」
彼女は月が上がる夜空に目を向ける。
「…ふむ、やはりお前は時間には正確な男のようだな。」
「え?ちょっと、何を言って…」
「手紙。」
彼女は剣に手をかける。
「手紙、読んだのだろう?」
「あ、あれね。読んだぜ。」
「あれは、私が書いて送ったものだ…。」
うすうすは感じていた…。心のどこかで引っかかってはいたんだ。
あの手紙の字は、お前がオレの広告に書いていた字とそっくりだったからな…。
…読めはしなかったが…。
キャンディさんがやたら嬉しそうだったのもうなずける。…いや、うなずけない。最初からセスタだとわかっていたのならなぜオレに隠していたのだろうか…?
「読んだのなら…言わなくてもわかっているだろう。」
「…。」
「『貴様の全てをもらいに参上しよう。』…今ここでな。」
つーっと冷汗が背筋を伝った。
その全ての中には、オレの命も入っていることだろう…。
感じる死の気配は、あまりにもオレを冷静にさせた。
「…今まで共に、稽古してきてのにか…?」
彼女は一歩踏み出し、剣を構えた。
「今まで共に稽古してきたからだ…。」
「コレは…決闘なのか?」
「決闘だ。勝者が敗者を自由にできる、決闘だ。」
やめてくれる気配はない。
やれやれ、恩を仇で返しにくるなよな…。
ひとつ大きなため息をついてオレは、剣を捨てた。

ガランっ

金属が地面に打ち付けられる音が、二人の間に響く。
「…抵抗しないのか?」
「精一杯するさ。」
「ならなぜ武器を捨てる?」
「おいおい、オレがお前に剣で勝てると思ってんのかよ?」
今の今まで稽古中に勝ったことはない。
人間と魔物だ。
あまりにも差がありすぎるんだ。それが、相手がセスタで武器が剣ならなおのこと…。
だからオレは、学生服のポケットから今日、仕入れてきた武器を取り出した。
それを、指にはめる。
「…何だそれは?そんなものが武器か?」
「こんなもんでも武器なんだよ。」
「ぷっ、くく、ははははは!!そんな指輪のようなものでか!?手甲などならまだそちら方がマシだろうに!」
確かにマシだろう。これは防御に使うことを前提に作られたものではないから。
オレは、それをはめた拳を、彼女に向ける。
「知らないんだろ?こいつは立派な武器で、相手を殴打するときに威力を引き上げてくれるんだ。」
「……。」
黒一色で染められたその武器を―
「この武器は―

メリケンサック

―っていうんだぜ。」
オレは、彼女に向けて、そう言った。
彼女が剣術の構えを取るように、オレも腰を落とし、足を引いた構えを取る。

「剛柔流空手道 二段 黒崎ゆうた いざ、参る!!」

大きな声で、相手に聞かせるというよりも自分自身に聞かせるかのように言った。
「ふふふ、ゴウジュウ?カラテ?わけのわからないことを…。」
彼女は身をかがめた。
そして口を開く。
「だが、その自己紹介らしいものは気に入ったぞ。私も名乗らせてもらおう―

 カサンドラ家が、次期当主 セスタ・カサンドラ 

 お前に決闘を申し込もう!!」

月明かりに照らされたのは一人の人間と一人の魔物。
一人は拳士。
一人は剣士。
互いが互いに全てをかけた決闘の火蓋が、切って落とされる…!

黒崎ゆうた 対 セスタ・カサンドラ
    試合 開始
11/01/21 22:00更新 / ノワール・B・シュヴァルツ
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■作者メッセージ
デュラハン編その二です!いやぁ、ノリで出したけどメリケンサックは世界観があまりにも違いすぎちゃいました…。主人公は空手の有段者。それに対するは魔物の中でも桁違いの実力を持つ剣士デュラハン。この戦いの勝者は…!?
次回、いよいよバトルに突入です!!

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