連載小説
[TOP][目次]
オレと二人と重ねたキモチ
それからフィオナに、あやかに口付けを交わす。
交互に、優しく、ときに激しく。
舌で深く求めれば浅くも優しいキスをする。
だがそれだけで満足するわけもない。
淫魔でサキュバスの最高位であるリリムと性欲お盛んな高校生。
そんな組み合わせでこの程度では満ち足りない。
まだまだ欲しいと求めてしまう。
だからだろう。
オレの手が二人の肌に触れるのは。
だからだろう。
フィオナとあやかがオレの浴衣の下に手を滑り込ませてきたのは。
既に自分達の浴衣の帯を緩め、ベッドの端に放っている。
なので二人の浴衣を縛るものは何もない。
それでもあえて脱がずに浴衣を羽織っている。
着崩した浴衣姿。
肌蹴ているのに見えそうで見えないという姿。
乱れていても前面を隠し、肩を見せて誘うような格好。
なんとも…こう、色っぽい。
どうせこれもあやかの考えだろう。
オレのことを何でも理解してる分、好みも把握してるんだろう。
あえて脱がないことでオレの本能をさらに刺激する。
こっちは自分を抑えようと必死なのに。
がっつかないように気をつけてるっていうのに。
嬉しいやらつらいやら…。
まったくと苦笑してしまう。
「ユウタの体、とっても逞しい…♪」
そう言ってそっとオレの胸板を撫でるフィオナの手。
優しく、柔らかな手がくすぐったい。
そのまま手は浴衣の襟を広げていく。
その分オレに見える光景はあまりにも官能的。
撫でる手に合わせてフィオナの着ている白い浴衣が揺れる。
誘うように、惑わすように。
白い肌が、豊かな二つの膨らみが見え隠れする。
…色っぽいなぁ。
思わず手を出してしまいたいと思うのはオレだけじゃないだろう。
思うが侭に手にとって、力を込めて揉みしだきたい。
そんな風に思ったオレの視線に気づいたのかフィオナは胸板から手を離し、オレの手を取り、自分の胸に押し付けた。
「っ!」
「ふぅっぁ♪どう、かしら…私の胸…♪」
フィオナの手と胸に挟まれたオレの手。
そこから感じるのは力を込めた分だけ沈む柔らかさがあり、弾くような張りを持っているもの。
今までにこんな感触は…あ、師匠がよく背中に押し付けてきたっけ。
それと比べるのはいささか失礼なんだけど…。
それでも十分に大きく、吸い付くようにオレの手から離れない。
というか、離ししたいとは思えない。
そのまま力を込めてそっと撫でる。
「ぁあっ♪」
オレの動きに合わせて上がる甘い声。
その声に、この柔らかさに、さらに手が動いてしまう。
撫でるような手つきはいつの間にか揉むようになっていて。
時折フィオナの敏感な部分を手のひらで擦れるように動き出す。
「ひゅぁっ♪んん…ぁ♪ふぅ、やぁ♪」
背中では経験しても手ではなかったもの。
それを感じるたびにオレの頭の中に官能の靄がかかり、理性が沈んでいく。
まともな思考ができそうになくなる。
さらに欲しい。
もっと求めたい。
そう思ってしまう。
だけどそれ以上に思うのは―

―フィオナに良くなってもらいたい。

いくら理性が失せようと、いくら本能が支配しようと。
喜んでもらいたいと思ってしまう。
やっぱりオレは尽くされるよりも尽くすタイプなのかもしれない。
「フィオナ…っ!」
「ユウタ、ぁ♪ああ、はぁっ♪」
思わず顔が近づき、再び唇を重ね合わせる。
「んんっ♪ちゅ…んん、むっ♪」
それがさらに行為を加速させる。
唇を重ねるだけじゃ終わらない。
胸を揉むだけじゃ止まらない。
撫でられるだけじゃ物足りない。

―もっと、欲しい…!

思わず手がフィオナの体の下へと伸びていきそうに―
「―ていっ!」
「おわっ!?」
手が止まった。
というか体の動きも止まった。
さらに言うと心臓まで止まったんじゃないかと思った。
あまりにも急な刺激に驚いてしまった。
今まで感じたことのない刺激。
あまりにも強く、地味に痛い。
別に痛いのは慣れているからいい。
でもそんな感じじゃない。
刺激が伝わったのは腕ではなく、足でもなく、顔でも体でもない。
…男の大切な部分から。
「ちょ、ちょっと!?」
見てみると。
あやかがオレのものを握っていた。
浴衣越しで下着越しに、かなりの力で。
「あたしもいること忘れないで欲しいんだけど?え?」
「…。」
きりきりと万力のように込められていく力。
怒ってる…地味に怒ってる。
構わなかったから怒ってる…。
「まったくさ、ここ硬くなってるし…。」
「おい待てって…っ!」
オレの声が聞こえていても聞こえないふりをしてあやかは手を動かし続ける。
女の子なんだから普通男のものを触るのには抵抗ぐらいあるものだと思ってたのだがあやかは平然としてオレのものを弄り続ける。
ぎこちなくも悠然と。
鈍い動きでも平然と。
撫でては擦り、摩ってはまた撫でる。
それも的確に刺激を強く感じるところばかりを。
あやかの奴、わかってやってるな…!
オレの弱点をここぞとばかりに的確に攻めてくる。
それに抗おうとするも片手はフィオナの胸にありもう片手は体の後ろであやかの手に押さえつけられてる。
さらに言えば感じたことのない刺激に体が動かない。
拒否することを拒絶している。
「ん〜?ここかな〜♪」
「おいっ!あや、か…っ!」
かろうじて動くのは口ぐらい。
体は震え、与えられる感覚が背筋を上る。
「…っぁ…く、ふっ…っ!」
かろうじて声を抑えるもそう耐え切れるものじゃない。
時折動きや力を適度に変えていくあたりまるで経験を積んだ娼婦のようだ。
しかしこれはあやかがオレに対してだからできてること。
オレを知っているからこそ、十分に理解してるからこそできている。
厄介なことこの上ないな…!
そんなことを考えていると刺激がさらに変化した。
「う、ぁっ!?」
さらにもう一つ手が加わる。
白く綺麗で細い指が撫で上げる。
それはフィオナの手。
「フィオナ…っ!?」
「ユウタ…すごいえっちな顔してる…♪」
そう言いながらも手を動かし続ける。
どことなくぎこちないのが気にかかるがこんなのを経験したことのないオレにとってそれはあまりにも甘美な感覚。
それを感じながらも瞳に映るフィオナの顔。
頬を赤く染め、潤んだ瞳を向けられて。
情欲に染まった表情に思わずぞくりと背筋に悪寒に似たものが走る。
「すごく硬くて…ユカタ越しでも熱いのね♪」
「小さい頃はこんなんじゃなかったっていうのにさ♪」
「こうすると…いいのかしら…♪」
「そうじゃなくて、こっち♪」
あやかの手の動きに合わせてフィオナの手がオレのものを摩りだす。
あやかの奴っ!
何人の弱点を教えてるんだよ!
もどかしく感じる感覚に下腹部に熱いものが溜まっていくのを感じるがまだ達するには及ばない。
浴衣と下着という二枚の布を隔てているからだろう。
直接だったら達していてもおかしくはない。
しかしその一方で溜まるのは情欲。
理性なんて投げ出したい。本能をむき出しにしたい。
意のままに、求めるままに、貪りたい。
目の前でオレのものを摩る二人の女性を襲いたいと、思わせる。
「それじゃあ、そろそろ…。」
あやかがふと口にしたその一言。
それがどういう意味を伴っているのかはすぐにわかった。
「待ったっ!」
「ほら♪」
止めようとするも手が動かない。
あやかの楽しげな言葉と共に浴衣を一気に剥がされた。
浴衣だけではなく、下着まで。
「っ!」
「…へぇ♪」
「これが…ユウタの、なのね…♪」
二人の視線に晒されたオレの男の証。
二人に触られてわかるように既に十分に硬くなっているもの。
夜風に晒され、二人の手に触れられ、びくびくと震える。
「もう準備万端じゃん♪すっごい硬いし♪」
「あれだけ弄っておいて何言うんだよ…!」
「うん?フィオナの胸を弄りだしてから硬くなってたのに?」
「っ!」
ニヤニヤした笑みは小悪魔に見えた。
可愛らしくも意地悪で。
可憐だろうと性悪に。
悪戯っ子のような笑みだ。
まったくコイツは…!
どんな隠し事もできないからこそ性質が悪い。
いちいち余計なことを言わなくていいのに!
「じゃあ、ゆうた…♪」
あやかがオレのものから手を離し、身を退いた。
隣のフィオナも同じようにすっと身を退く。
退いたところで距離はない。
手を伸ばせば届く、そんな近くだ。
そんなところで二人は微笑む。
片方は淫靡で蕩けた笑みを。
もう片方は妖艶でいやらしい笑みを。
そんな笑みを浮かべて二人は着ていた浴衣を脱いだ。
先ほどからちらちらと隠しては肌を見せ、オレの視覚からその存在を隠していた布が取り払われた。
白い浴衣を脱ぎ、一糸纏わぬ姿となったフィオナ。
月明かりに照らされる白い肌にはじんわりと汗が浮かんでいる。
だからだろう、外というのにここまで香りが漂うのは。
先ほどキスしていたときよりもずっと強く、そして甘い。
まるで脳まで浸透して蕩けさせるかのように。
そしてオレの瞳に映りこんだその肌。
傷一つない綺麗な肌。
出るところは出ていて、引っ込むところは出ている女性らしい体のライン。
月明かりでわずかに影を作る形のいい二つの膨らみは先ほどまでオレが撫でていたものとは思えない。
そこにある小さくも自己主張する桜色の突起が二つ。
下に視線を移すと丸みある柔らかそうなお尻が見え、臀部から伸びた尻尾がゆらゆらと揺れているのがわかる。
期待しているかのように、待ち焦がれてるかのように揺れる。
股間の部分は生えていなく、手で隠そうともせずにオレの視線に晒している。
―綺麗だな…。
純粋にそう思った。
男としての本能を抑えて、欲望よりも先にそう感じた。
完全なプロポーション。
男として魅力的な肢体。
リリムという存在に相応しい姿。
それに対してこっち。
黒い浴衣を脱いで肌を惜しげもなく見せ付けるあやか。
フィオナ同様傷一つもなく、触れれば吸い付いてきそうな柔肌。
女性らしい括れがあり月明かりで艶かしく映る。
実の双子の姉をこんなふうに見るとは思わなかった。
歳が同じである分そういった感情を抱かないように意識していたときもあったけど。
こうして改めてみると…綺麗なんだよなぁ。
フィオナに負けず劣らず。
ただある一箇所については…その、残念な―
「―ふんっ!!」
こめかみに四本の指が突き刺さった。
外から狩るように円を描いた手は容赦なくオレの側頭部で激痛を生んでくれた。
ピンポイント。
的確に正確にあやかの指がオレを狩ってきた。
ご丁寧に爪が刺さるように。
「痛っ!?何するんだよ!?」
「うるさい!失礼なこと考えるからだよ!!」
よくわかったな、何て思わない。
何を思ったかくらいわかって当然か。
…ってことはこれからは気をつけたほうが身のためだな。
下手な感想を抱いけばしてる最中といえどまた食らうかもしれないし…。
「さて、ゆうた♪」
「それじゃあ、ユウタ♪」
二人は手を取り合い、オレを迎えるように腕を広げた。
誘うように。
求めるように。
導くように。
オレに言った。

「「―どっちとしたい?」」

…それは。
それは、あまりにも残酷な質問だろう。
確かに二人いる以上選ばないといけないのだけれども。
これほどまで魅力的な女性を選べというのは酷じゃないか?
フィオナとあやか。
互いが互いに違った魅力でオレへと迫る。
ずるいだろうが、それは。
選べるわけないだろうが。
「…なんてね。」
そう言ったのはあやか。
ちょっとだけ舌を出して笑った。
「わかってるよ、ゆうたが選べないの。ゆうたってどこまでも優しいもんね。」
「…わかってるならやめてくれよ、あやか。」
「それでも聞きたくなっちゃうのよ♪」
「勘弁してくれ、フィオナ。」
まったくこの二人は…。
「それじゃあ先はフィオナに譲るわ。」
「あん?いいのかよ?」
「良いも悪いもそれが約束だし。」
…約束って言ったな。
やっぱり何か裏でしてたんだな。
今更それがわかったところで既に後の祭りなんだけど。
あやかはくすりと笑ってもう一歩身を退いた。
邪魔にならないようにということだろう。
まったく…気が利きすぎなんだよ。
いつもは暴君な態度なのになるときには優しくなる。
普段からもう少し優しくしてもらいたいもんだけど、それもまたあやかのいいところなんだよな。
「それじゃあ、ユウタ…♪」
そっとフィオナの手が伸びてオレの体に触れた。
互いに一糸も纏わぬ姿。
月明かりに照らされたベッドの上で。
オレはその手に自分の手を重ねた。
経験はないから何をすればいいのかはわからない。
どうすれば喜んでくれるのかわからない。
それでも。
オレを求めてくれるんだから。
どうやってでも応えるべきだろう。
どんなことになっても応えきるべきだろう。
…いや、違う。
どうしてでも、応えたくなるんだ。
こんなオレを想ってくれたからこそ。
こんなオレを好きになってくれたからこそ。
だからこそ。
「フィオナ…。」
その名を呼んで、体を進めて。
一つになろうとして―気づいた。
「あっ…と。」
いけない。
何直にしようとしてるんだオレは。
中学生からずっと教え込まれてきたこと、忘れてた。
男の嗜みのあれ。
いくら初めてだろうが忘れちゃいけないもの。
避妊具。
コンドームだ。
実は財布の中に一つだけ友人にもらったものがある。
一つ。
いくら体を重ねると決めたがそれでも譲れないものがある。
一つしかない。
それは残酷にも一度しかできないということである。
これほど魅力的な美女二人を前にしてあまりにも酷なことだ。
それでも。
本能よりも優先させなければいけない。
自分自身のためよりも彼女達のために。
それが男の嗜みでマナーで、最低限のエチケット。
いくら相手がリリムといえど孕まないという可能性は否定できない。
「…ユウタ?」
「悪い、少し待ってくれ。」
フィオナの額にそっと口付けをし、先ほど脱がされた浴衣を手に取った。
財布は…あれ?
…ないぞ?
浴衣の懐にしまっておいた財布が…ないぞ?
さっきまでは確かにあったはず。
フィオナにプレゼントを買ったときにはあったし、渡したときにもあった。
…あれ?
それじゃあベッドにでも落ちたか?
そう思ってあたりを見ると…あった。
少しはなれたところにある安っぽい黒色の財布。
間違いなくオレのもの。
ただおかしいのはそれが開かれていた。
まるで中身を取り出したように。
中にあったものを盗み出したように。
そしてオレの探していたものは。
財布の中にあったものは。
「…ん?」
あやかの手の中にあった。
おそらく…というか絶対にあやかがオレの財布からとったのだろう。
しかし、何で?
オレの財布からそれを取った理由は何だ?
オレの視線に気づいたあやかは笑みを浮かべてコンドームの包みにそれを突き立てた。
それ。
あやかの髪の毛を止めていた髪留め。
硬くて細くて、薄いものに突き立てれば間違いなく穴を開けることができるようなもの。
それを突き立てて―
「えいっ♪」
穴を開けた。
たった一つしかないコンドームに包みごと穴を開けやがった。
「あああああああっ!!何してるんだよ!!」
あやかの手により穴が追加されたコンドーム。
既に避妊具の役割を果たしてくれそうにもない薄いゴム膜。
それを突き刺したままあやかは放り投げた。
無残にも非情に。
特に気にするわけもなく、この屋上から消えうせるように遠くへ。
案の定、それは屋上という空間から地上へと消え失せることになった。
「おいぃぃいいい!?何してるんだよマジで!何で一つしかないものを捨てるんだよ!」
「別にいいでしょうが。」
そういったあやかの顔にはどことなく清清しさを感じる。
やり遂げた、みたいにすっきりとした表情だ。
なんか腹立つ。
「あのね、そんなもの何で使わなきゃいけないの?」
「何でって今まで色々習っただろうが!」
「そんなゴムしながらするの?」
「そうしなきゃいけないだろ!?」
「初めてなのに?」
その言葉に言葉を詰まらせる。
初めて。
それがただ単に未経験ということを指しているわけじゃないのはよくわかる。
初めてだからこそ、そういうものをしないんじゃないのか?
初めてだから、そんなものに邪魔されなくはないんじゃないのか?
あやかが言いたいのはそういうことだろう。
でもいくら初めてでも守らなきゃいけないことが―
「初めて相手に無粋じゃないの?」
「…。」
「初めてなのに失礼じゃないの?」
「…。」
―…そう言われると困る。
だってそれは、オレ自身もそう思っているから。
オレだって初めてするのだからそういった無粋なものはしたくない。
そう思っているところがあるからだ。
「それにね。」
あやかはそっとオレの頬を両手で包んで小さく言った。
しっかりオレの耳に届かせるように。
想いを乗せた言葉を。

「―好きな相手とするんだから、あんなものに邪魔されたくないんだよ…♪」

「…ったく。」
その言葉を聞いて思わず苦笑してしまう。
とんでもないことを言ってくれる。
オレが抵抗できないように。逃げられないように。
そして、オレが後ろめたくならないように。
そんな言葉ばかりを伝えてくる。
反則過ぎるっていうんだよ、まったく。
「あたしだって待ってるんだから早くフィオナと済ませてよね?」
そう言ってオレの背中から体に腕をまわす。
絡めて。
捕らえて。
逃がさないように。
「ほら、フィオナ…。」
そして、誘う。
オレじゃなくてフィオナを。
逃げられないようにオレを拘束して―いや体だけじゃない。
オレの気持ちが。
オレの心が。
落ち着くように、安らぐように抱きしめながら。
まったく、あやかは…。
心の中でとりあえず礼を言っておく。
この程度のことなら言わずとも伝わるだろうし。
「ユウタ…♪」
甘い声でオレの名を呼び、フィオナは体を寄せてくる。
寄せて、十分近くでオレに女の部分を見せ付ける。
今か今かと待ち焦がれているように。
「…っ!」
生まれて初めてみたそれ。
パソコンの画面越しやモザイク、そういった本の中でも見る機会は多々あった。
あってもここまでのものは見たことない。
傷なんてない、月明かりに輝く白い肌にある一筋のそれ。
唇の色とはまた違うがそれでも綺麗な桜色をしている。
そこから滴る粘性のある液体はまるで好物を目の前に置かれた獣のようにも思わせる。
それでも品がないなんて絶対に思わせない。
そこにフィオナは指を沿え、そっと開いた。
「っ!」
見ているだけで気が狂いそうになるその裸体。
淫魔でサキュバスの最高位という存在に恥じない姿。
そんな彼女が今オレを迎えようとしている。
その事実がとても嬉しい。
オレからも体を進ませ、ようやく先ほどと同じ距離に来た。
あと一歩で触れ合う位置。
腰をわずかに進めればそれだけでフィオナの中に埋まるぐらい近くに。
そのくらいに来てオレは気まずそうに言う。
今更な気もするが…その、している最中にがっかりされたくもないし。
「あ…えっと、フィオナ?」
「うん?どうしたの?」
「その……初めてだから…上手くできなかったら…ごめん…。」
…自分で言ってて恥ずかしくなってきた。
さっき告白したときよりも、裸を見られたときよりもずっと。
なんだか言って後悔したかも。
これだったら言わずにしてたほうがよかったかも。
そんなことを考えてると手がオレの頬を包んだ。
優しく、温かく。
「…フィオナ?」
「初めてなのは…私もだから…―

―だから…ね♪」

恥ずかしげにフィオナは微笑んだ。
それを見てオレは小さく頷く。
これから先は余計な言葉は不要。
無粋な言葉も控えるべきだ。
必要なのは無理をさせないようにすること。
難しいだろうけど、貪るように乱暴しないこと。
それから、フィオナを想って…する。
腰に力を込めて、先っぽをフィオナのそこにあてがう。
「んっ♪」
「っ。」
伝わってくる温かな体温。
それから柔らかな感触。
さらに粘性のある蜜がわずかながらも絡みつく。
絡みつき、疼く。
まだ先、先端しか触れていないというのにじんじんする。
触れた部分が敏感になっていくみたいで。
触れた分だけ勢いを増していくようで。
まるで媚薬みたいに。
「それじゃあ、いくぞ?」
「ええ、来て…♪」
フィオナの手に手を重ねて、オレは腰を進めた。

―それ以降は初めて感じるものばかり。

感じたことのない熱。
記憶にない感触。
今までにない感覚。
あまりにも熱い。
あまりにもきつい。
そして、あまりにも気持ちがいい。
まるでオレのものを溶かそうとするような熱を持ちながら蜜がどんどん絡み付いてくる。
それ以上にフィオナの中が、まわりが吸い付いてくる。
わずかな隙間もないくらいに。
ぴったりと吸い付き、絡みつき、抱きしめてくる。
「っ…っぁ!」
気持ちがいいなんてもんじゃない。
あまりにも良すぎる。
こんなの一人じゃ絶対に感じることができないだろう。
そこらの女性でも感じることはできないだろう。
それは初めてであるオレには耐え難い快感。
だから入れてすぐに果てなかったことは奇跡だといえる。
…いや、正しくは果てまいと必死だった。
互いに初めてで、相手が…その、好いた女性である。
だからせめて、一番奥まで進みたい。
そう思うのは雄として雌に種付けする本能か。
それとも好きだという気持ちからか。
体中を駆け巡る快楽に対して歯を食いしばり、体中を強張らせながら震える腰を進める。

―そして、フィオナの純潔の証に達した。

「んんっ!!」
薄い膜を突き破るような感覚。
それが彼女の言っていた通り、初めてという証拠。
突き破ったことによりあげた苦痛の声を聞いてオレは腰を止めた。
「大丈夫?」
「少し、ジンジンする…っ。」
「痛みが退くまで止まってようか?」
「いい…平気、だから…だから、一番奥まで来て…。」
痛みに堪え、目の端に雫を溜めて。
つらそうな声を出しながらもフィオナは言ってくれる。

「―ユウタともっと深くまで繋がりたいの…♪」

そこまで言われたら、止まれない。
それがフィオナの決心だから。
それを無碍にすることがどれほど失礼かわかっているから。
だから。
「…つらかったら言ってくれよ。」
そう言ってオレは再び同じペースで腰を進めた。
進めたが、やばい。
先ほど感じた快楽がさらにオレを呑み込んでくる。
燃えるような熱がオレ自身を包み、蜜が絡みついていくほどに敏感にフィオナのそれを感じる。
頭の中で理性が弾けてしまいそうな、今すぐにも欲望を吐き出しそうな。
奥まで進めれば確実に果てる。
そもそも淫魔の蜜壺。
サキュバスの最高位であるリリムのそれに未経験者のオレがこれ以上耐えられるわけがない。
どうしたところでこの快楽が遠のくはずがない。
だからこそすべきことは果てる前にフィオナの中へオレのものをおさめることぐらい。
耐え切れない快感に襲われながらも何とかゆっくりと腰を進めるととんと何かに触れた。
おそらく一番奥のところだろう。
それが、きっと子宮の入り口。
それに触れた、途端に。
「ひゃんっ♪」
「うあっ!?」
フィオナの声が苦痛のものからわずかに艶が掛かる。
それと同時にオレが感じていた快楽もまた一段と激しくなった。
触れたと同時に吸い付いてきたそれ。
こりこりとしていながらもキスしてきた唇のように離さない。
それはまわりも同じこと。
それに触れたと同時に全体が強く締まった。
締まって、蠢く。
奥へ奥へと誘うように。
なで上げ、舐め上げ、啜るように。
そんな動きをされてはたまったもんじゃない。
予想通りオレはフィオナの一番奥で弾けた。
「はっぁああああああああああっ♪」
「あ、くぁっ!!!」
流れ出す精は何にも遮られることなくフィオナの中へと流れ込んでいく。
それを受け取るように。
むしろさらに求めるように。
促し、ねだり、搾り取るように。
子宮口が吸い付いたまま周りが律動し、更なる精を求めた。
止まらない。
既に十秒、二十秒も出しているというのに止まる気配を見せない。
まるでフィオナの中を全て満たすかのように注ぎ込まれる。
「ふぁ、ああっ♪ユウタの精液が…いっぱい、出て、るぅ…っ♪」
「う、ぁ…っ!」
先ほどまで手で弄られていたからだろうか、下腹部に溜まっていた欲望はたっぷりとフィオナの中へと流れ込んだ。
その分返ってくる膨大な快楽に頭の中が真っ白に塗りつぶされる。
感じたことない未知なる感覚に体が逃げ出しそうになるが、逃げられない。
いつの間にか腰に絡められていたフィオナの足。
それからオレの足に巻きついているのは昨夜と同じ尻尾。
どちらもオレきつく、それでも優しく拘束している。
離すまいと言うように、もっと近づきたいといわんばかりに。
そんなフィオナに応えるようにオレもまた彼女を抱きしめるという形で応えた。
「は、あ………ぁ、ふう…。」
「んん、ふあ…♪お腹の中…あったかい♪」
もしかしたら一分までいってたかもしれない長い射精を終えて乱れた呼吸を整える。
とんでもないな。
たった一度達したくらいで体力をほとんど持っていかれたように感じた。
むしろ魂まで吐き出したんじゃないのか、そうにも思えた。
オレ自身の全てを注ぎ込んだ、とでもいうように。
それでも。
恐ろしいとは思わないんだよなぁ。
感じたことのない快楽に恐怖にも似たものを抱くかと思いきや心にあるのは温かさ。
フィオナの優しさからか、愛しさからか。
とても満たされているという気持ち。
不思議な感情だ。
だが、心でそう感じたところで体は満足してくれないらしい。
その証拠にオレのものはいまだに硬さを保ったままフィオナの中で反り返っている。
いや、むしろ先ほどよりもずっと硬くなっているかも。
フィオナの中で媚薬のような蜜に浸ったことからだろうか。
いまだに欲望は尽きずに果てずにフィオナとの行為を求めている。
…性欲盛んなお年頃だしな。
それにこれほどまでの美女と体を重ねているんだ。
たった一度出したくらいで満足するほうがおかしい。
いまだに快楽の余韻で震える体をフィオナから離そうとした…のだが、離れない。
どうやらフィオナもまた腕をまわしていたようだ。
尻尾に足だけじゃ不安なのだろうか。
微笑ましくなりフィオナの体を抱きしめながら身を起こした。
「んぁ…ユウタ、ぁ♪」
恍惚とした表情。
顔は赤く染まり、目の端からは雫を流す乱れた顔。
血のように赤い瞳は快楽に染まりながらもオレを映し出す。
やっぱ綺麗だよな、こんなに乱れた顔してても。
フィオナの頬に伝った涙を指で拭いながらもそう思った。
「フィオナ…。」
そう呼んで、自然と顔が近づく。
先ほどまでのぎこちなさなんてもうない。
自然に、流れるように。
まるで恋人同士のように互いの唇を重ねあう。
「ちゅ♪ねぇ、ユウタぁ♪もっといっぱい…しよ♪いっぱいエッチ、しよ♪」
そのまま体重をかけられる。
抗うつもりもなくそのままされるがまま従った。
従って、ベッドに体を沈ませる。
今度はオレが下でフィオナが上。
騎乗位でするのかと思いきやフィオナはそのまま体を倒してきた。
埋まる隙間。
触れあう肌と肌。
繋がれる手と手。
どうやらフィオナはこうやって触れ合っていたほうが好きなのかもしれない。
文字通り肌を重ねているほうが好みなのかもしれない。
「今度は、私が動いてあげるわね♪」
快感に蕩けた表情、喜悦に染まった瞳。
そうして向けた笑みには淫魔という言葉が相応しい妖艶でいやらしい笑み。
艶のある、女の顔。
その笑みに一瞬どきりとさせられて。
そして、フィオナはゆっくりと動き出した。
腰を上げ、下ろす。
ただ単純で単調な動作。
それでも肌を重ねている今の状態それだけでもとんでもない快楽が体中を駆け巡る。
頭の中を真っ白に塗りつぶす、先ほどまで感じていた快楽が走り回る。
しかしそこには、予想外なものがあった。
先ほどは自分で動いていたからどうにかなったが今はフィオナに身を委ねている姿。
彼女の動きなんて予想できない、不規則な快感が伝わってくる。
「ふぁああっ♪はぁ♪あ、んん♪すごい、気持ちいいっ♪」
淫らな声と共に揺れるフィオナの体。
その動きで彼女の中はさらにきつく柔らかく吸い付き抱きしめて。
オレのものを繰り返して吐き出し、さらに深くへと呑み込んでいく。
繰り返し、繰り返し。
それはだんだん速度を上げていき、淫靡な水音はやがて肉と肉がぶつかり合う音へと変わった。
速く、深く。
そして恐ろしいほどに気持ちいい。
全部入れただけで達してしまったオレにとってそれはあまりにも激しすぎる。
「ちょ、ちょっと、待った!フィオナ、ぁあっ!!」
流石にこれはきついものがある。
リリムの蜜壺によって与えられる快感はあまりにも膨大。
フィオナとの行為で受け取る快楽はあまりにも絶大。
たった一度果てただけで慣れるわけもなく暴力にも似た感覚に翻弄される。
しかしフィオナは腰の動きを止めない。
「あっあは、あぁっ♪ユウタ、ユウタぁ♪」
「待った!本当にちょっと、ぁあっ!く、ふ…ぅあっ!!」
「んんっ♪好きぃ♪好きな、の♪」
うわごとのように繰り返されるオレへの好意の言葉。
それと共に夜空に響く男と女の交わる淫靡な音。
あまりの気持ちよさに悲鳴を上げそうになるのを我慢するが我慢している分その声が、その音がより大きく耳に届く。
押し付けられた胸の柔らかさが。
繋ぎあった手から温かさが。
瞳に映る快楽に蕩けたフィオナの顔が。
呼吸をするだけで香る甘い香りが。
打ち付けられた腰から伝わるとんでもない快楽が。
その全てがオレを狂わせる。
狂い果てて、野獣になる暇さえも与えないくらいに。
せめて腰を引こうと思っても下にあるのはベッド。
限界はあるもののいくらか下がれなくもない。
だからオレは腰に力を入れてベッドにより沈み込むようにする。
しかし、オレの動きに反応してか、激しく動いていたフィオナの腰が降りてきた。
それもいきなり。
急に、一気に。
まるで誰かに押し込まれるように。
「ぁあっ!!」
「んああああああああああああああああ♪」
それによりフィオナの体は大きく痙攣した。
それと共に彼女の中が痛いくらいに締め付ける。
びくびくと律動し、オレのものからまた精を搾り取ろうとしているのだろうか。
その動きに応えるようにオレもまた弾け、そして注いだ。
先ほどもとんでもない量を流し込んだというのに減った様子を見せないくらいに。
フィオナの下から注いで満たしていく。
いくら性欲盛んな学生といえこの量は異常だな。
やっぱり淫魔が相手だからか、気づかないうちにどうにかなっているのだろうか。
やがてフィオナは力なくオレに体を預けてきた。
少しばかり高いその身長、ちょうどいいくらいにオレの顔の隣にフィオナの顔が来る。
「あ、はぁ…はぁ…フィ、フィオナ…激し、すぎるだろ……。」
「…。」
「…フィオナ?」
どうしたのだろうか。
呼んでも応えない。
これほど近くで声が聞こえていないというのはないだろうけど…もしかしたら余韻がまだ続いているとかだろうか?
そんな風に思いながらもフィオナの顔を見ると瞼が閉じていた。
とても満たされている表情で安らかに眠る寝顔のようにも見える。
気絶した…いや、寝ちゃったのか?
あまりにも激しくしたからか、それとも単に疲れが溜まっていたからか。
…これじゃあ…仕方ないか。
これ以上求めるわけにもいかないし。
そう思って体を起こそうとしたところに影が落ちた。
「どう?寝た?」
それはオレの双子の姉のあやか。
上から覗き込むようにオレを見ている。
先ほどまでオレとフィオナが肌を重ねていたのを見ていたというのにそんな様子を微塵も感じさせない。
いたって普通。
何時も通りで平常な状態だ。
我が姉ながら感心してしまう。
ただ、フィオナの腰に手を当てているのが気にかかるけど…。
…先ほどのはまさか無理やりあやかが押し込んだり…したのだろうか?
「寝たって…フィオナが?」
「そ。」
「…寝てるっちゃ寝てるけど。」
「そう。良かった。」
そう言うなりあやかはオレの上で眠っているフィオナの体をどけた。
女性一人の体を苦労する様子もなく。
ぬるりと抜けるオレのもの。
いまだに硬さを保ちつつ、月明かりに照るそれ。
わずかに赤色も混じったフィオナの蜜にまみれたそれはあまりにも卑猥なものに見え、オレのものだと思えなかった。
あやかはフィオナをオレの体の隣に転がし、代わりにオレの上に跨る。
あまりのも手際がいいけど…。
…もしかして。
先ほどフィオナの腰に手を置いて強引に押し付けたりしたのだろうか。
狙ってやりやがったのか、こいつは。
気絶、というか無理やり寝かせたのかもしれない。
「よっと。」
オレの上に跨るその姿はフィオナ同様に何も纏っていない。
それなのにあやかは恥らう様子も見せない。
ただ少しばかり、照れているようだけど。
「まぁどうせフィオナのことなんだし、少ししたら起きちゃうのかな?」
「たぶんな。」
「それじゃあ今の内に―

―しよっか♪」

そう言ったあやかの顔。
普段には絶対に見せない表情。
頬を朱に染め、それでも笑みを浮かべたその顔。
十中八九男なら容易に転びそうな視線までつけて。
今まで共に生きてきた中でも見たことのない表情。
フィオナのような妖艶な美貌ではない。
可愛らしい小悪魔のような、そんな笑みを浮かべている。
双子だからといってもこれにはどきりとさせられる。
「フィオナの次はあたしの番だしさ。」
「…マジでするのか。」
「当たり前でしょ。」
「でもオレとあやかは姉弟―んっ!」
「んむっ♪」
唇を唇で塞がれた。
自然言葉も止まり、何もしゃべることができなくなる。
抵抗さえも、できない。
体が言うことをきかないんだ。
長くもない時間を経てようやくあやかは唇を離した。
離して、オレの瞳を覗き込みながら口を動かす。
「んちゅ♪…あたしはゆうたが好きだよ。」
頬に手を添えて。
「あたしとゆうたがいくら姉弟だろうと関係ない。」
こつん、と額を合わせて。
「それでも、好き。」
「…。」
そう言われて嬉しくないわけがない。
でも素直に喜べないオレがいる。
喜んじゃいけないと思ってるオレがいる。
だってオレとあやかは双子、姉弟。
血の繋がった家族。
いくら可愛かろうが一線を越えちゃいけない理由がある。
家族だからこそ、ダメなことがある。
インセスト・タブー。
踏み込んではいけない禁忌。
「別にわかってるよ。ゆうたが何を気にしてるのかはさ。」
「…だったら―。」
「―だから。」
あやかは続ける。
オレの言葉を遮って。
オレの手を取り、自分の胸の中心に当てて。

―そうすることによって感じたのは…違和感。

「…っ!?」
何か、違う。
別にそこだけ膨らんでるわけじゃない。
そこだけ凹んでいたりするわけでもない。
何の変哲もない柔らかく白い肌があり、大して膨らみのな―
「んん?」
―…実に慎ましやかなで綺麗な胸があるくらいだ。
しかし。
それに気づけたのはオレだからだろう。
オレがあやかの双子の弟だからだろう。
共に通じあうような関係で、最も近い存在だからだろう。
胸の奥。
口では表しきれないものが存在してる。
撫でたところでわからない。
どんなものかも理解できない。
それでも、それがあることはわかる。
普通じゃないものがあるのはわかる。
「これは…?」
「卵、だってさ。」
卵?
卵って…あの鶏とかが出すあれか?
「卵って言うよりも、種って言うほうがあってるかも。」
「種?」
「そう。フィオナ曰く希望の種。」
「希望って…。」
「悪い言い方をすれば…フィオナと似たようなものになる種。」
「っ!」
「ゆうたの精に反応して開花するんだってさ。」
その言葉の意味。
淡々と語るように、ただ説明するように言われたそれがどういうことだか嫌でもわかる。
フィオナと似たようなもの。
そんな曖昧な表現を用いたところでオレにはわかってしまう。
あやかの言いたいこと。
その言葉の大切な意味を。
「それってあやか…まさか…。」
「そうだよ。」

―人間じゃなくなる。

その事実を前に何も言えなくなる。
今まで共に生きてきた片割れが急に人間ではなくなるのだから。
予想外もいいところだ。
こんなこと思いつくわけない。
でも。
「人間じゃなくなるなら、人間のルールなんて知ったこっちゃないよ。」
「…。」
言い分はめちゃくちゃだ。
それでも、理が通ってる。
人間に適応する法なのだから人間でなくなればいい。
人だから禁じられるのだから、人でなくなればいい。
確かにそれならいかに血の繋がりがあろうと関係ないかもしれない。
でも、あまりにも強引だ。
あまりにも無理やりすぎる。
「…それでいいのかよ。」
「別にゆうたのためって言いたいわけじゃないよ。あくまで自分のため。」
淡々と言ったその言葉。
自分のため。
その言葉がどれほど優しいことか、嫌でもわかる。
オレのためと言わないところがまた、優しすぎる。
思わず泣きたくなるくらいに。
「だからって、人間やめてまで…することかよ。」
「するよ。人間やめなきゃできないことなんだから…―

―あたしはゆうたが好きなんだから。

ただそれだけ。それ以上の理由はいらないでしょ?」
あくまで真っ直ぐ。
単純で飾り気のない。
まるで何にも染まらない黒のような。
鈍らず、曲がらず、真っ直ぐにオレを見据えて言った。
「…はっ。」
その言葉を聞いて、その気持ちを聞いて。
思わず苦笑してしまった。
その言葉は反則だ。
その想いは
その台詞にいたっては―

「最高の殺し文句だよ、まったく。」

そんなことを言われちゃ否が応でも、応えたくなるだろうが。
是が非でも受け止めたくなるだろうが。
まったく。
「それじゃあしてくれる?」
「喜んで。」
精一杯かっこつけてオレは答えた。
…でも。
恥ずかしいことに今はできそうにもない。
別に今更、ここまで言われて気が引けてるわけじゃない。
やる気がないわけじゃない。
それにオレのものもまだまだ肉欲に滾っている。
まだまだ足りないというくらいに。
しかし…。
「…?どうしたの?」
「いや、ちょっと…待った…。」
「?あ、ああ…そういうことね。」
できれば気づかれたくはなかったがやはりあやかにはばれてしまった。
「腰、動かないんだ。」
「…。」
そう、腰が動かなくなった。
固まったとかいうわけじゃなくて。
腰が抜けてしまった。
フィオナと肌を重ねていたときに、あまりにも激しい快楽を叩きつけられて。
腰が砕けたようだ。
…男として晒したくない姿だな。
いくら初めてだからといって、その相手がリリムだからだといってもそこまでなるとは思ってなかった。
それだからだろう、顔には出さないようにしているが惨めな気分になる。
男としての意地を見せられない、情けない姿を見せていることに心が痛い。
「別にいいよ。」
そんなオレを前にして特に気にした様子を見せないあやか。
興味ないとでも言いたげな口調ではっきりと言う。
「ゆうたは動かないで。そっちのほうがあたしもしやすいと思うし。」
「…したことのない奴がわかるのかよ。」
「わからないからするんだよ。変に動かれちゃ痛いかもしれないでしょうが。」
その言葉に。
その一言に。
また、泣きたくなる。
ただ冷たいだけじゃないからこそ。
オレの気持ちを自然に紛らわせるようにしてるからこそ、泣きたくなる。
その優しさに。
その心遣いに。
まったく、普段と大違いすぎるんだよ…。
乾いた声で小さく笑い、体から余計な力を抜いた。
「ん、それじゃあ…」
腰を浮かせて膝立ちになり、オレのものの先端へとあやかは自身をあてがった。
触れた途端に伝わる熱はフィオナ同様に異常なくらいに熱い。
ただ、フィオナのはまるで蕩けさせるような熱だったがあやかは違う。
まるで暖めるような、温もりを与えるような熱だ。
行為をするという前という非常に心臓が高鳴り体を強張らせるのだが…それをほぐされるように感じる。
そんな風に感じながらもオレのものに伝って滴る粘液。
既に体のほうも準備はできているようだ。
それならこの後することは一つ。

「―するよ♪」

その一言と共にあやかは腰を沈めた。
「う、あぁあっ!」
「んっ!」
わずかな抵抗。
それから、熱。
さらに、窮屈さ。
そしてまた、抵抗。
先ほどと同じように、オレのものはあやかの純潔を貫いた。
「う、くっ!」
声を出すまいとするその行為が逆にオレの心に突き刺さる。
わずかに開いた唇から漏れる声には苦痛の色が伺えるからだ。
やはり初めてなんだ、痛いのは当然だろう。
フィオナもまた痛がっていたし。
純潔を捧げられるというのはなんとも嬉しいシチュエーションではあるのだが相手に苦痛を感じさせなければいけないのはとても苦しい。
まるで自分がその苦痛を味わっているかのように。
その痛みを肩代わりできればどれほどいいだろうか。
「う、あ、はぁ、はぁ…はいっ、た…。」
その言葉にオレは我に返った。
見ればオレのものを全て呑み込んだあやかの女性器がそこにある。
ぎちぎちと追い出そうとするようにきつく締め付けてくるそこがオレのものを根元まで呑み込んでいる。
柔らかい壁の一つ一つが絡み付いてくる。
先端に感じる少しばかり硬いものは…きっと子宮口だろう。
二度目の女性の中。
それはフィオナの、リリムの蜜壺と比べると比べる以前に明らかに劣っている…はずだった。

―っぅあ!?これっ、は…!

暖めるような温かさがオレのものを四方八方隙間なく伝わってくる。
しかしそれだけじゃない。
ぎちぎちに締め付けてきた肉壁がオレのものをほぐすように締め出した。
どことなくぎこちない。
初めてだし人間なんだからそれは仕方ないだろう。
流石に娼婦や淫魔に勝るテクニックを元々備えているわけなんてない。
でもそうじゃない。
刺激するところがあまりにも良すぎる。
本人は動いていないのに、全体に隙間もなく密着しているというのにだ。
オレを最初から知っていたような、喜ばす方法を心得ていたような。
正しく、ぴったり。
まるで、オレのためにあったとでも言わんばかりに。
「んん…ぴったり…♪」
そう言ったあやかの言葉から苦痛の色が消えかかっている。
流石に艶のあるというところまではいかないが…それでも楽になってきているのだろう。
「だな。痛くないか?」
「全然平気。むしろ…心地いい…♪」
そういってもらえると助かるな。
それにしても…心地いいか。
何でだろうか。
不思議とオレもそう思える。
フィオナとしたときには膨大な快楽の中にいながらも愛おしさを感じた。
しかしあやかはそうじゃない。
愛おしさとはまた違う心地よさ。
安心感…というのもまた違う。
言葉にするには難しい感情だ。
「それじゃあ、そろそろ…動くよ♪」
その言葉にオレは頷く。
腰が抜けてしまった以上今はあやかに身を任せるしかないのだから。
せめてと思いあやかの手にオレの手を重ねる。
それを見たあやかは小さく笑い、腰を引き上げ始めた。
ゆっくりと、上下に、味わうように。
「んぅ、ふ…あ…あぁ…ん♪…はぁ♪」
徐々に声に艶が掛かり始めた。
どうやらあやかの体も快楽を味わい始めているらしい。
しかし…その反対にオレは。
オレの体は。

―ちょっと…これはっ!?

送り込まれてくる快楽はフィオナとの行為で得た快楽に負けず劣らず。
全体的に快楽に包まれていた先ほどと違い的確な部分を刺激される。
どろどろの粘液が万遍なく絡みつき、すり込むように律動する。
じんわりと暖めるような熱は気づけば溶け合うような、そのまま一つになりそうなくらいになっていて。
腰が上下するたびにオレの敏感な部分を刺激する。
子宮口が先端に吸い付いては肉壁が舐めるようにうねり。
ぞりぞりと裏筋を撫でては全体を締め付け。
強引に呑み込み、吐き出すたびにカリ首が中の感触を強く伝えてくる。
上から下へ、下から上へ。
フィオナと同じように単純、それでいて我武者羅。
技術も何もない単調で力任せな動き。
それでも、やはり気持ちいい。
先にフィオナとしてしまい、あやかを相手にするには難しいと思っていた。
淫魔と体を重ねて人外の快楽を経験すれば人間相手に満足できないだろうと考えていた。
でも、これは。
これは、あまりにも良すぎる。
無論あやかは淫魔じゃないただの人間だ。
既に人間を捨てることにしていてもまだ人間であることぐらいわかる。
それでもこれは規格外。
予想外もいいところだ。
まるでオレのためにあったかのように的確に刺激してくるあやかのそこ。
もしこれで、フィオナの与えた『種』が開花したら…どうなるのだろう?
「あ、はぁ♪なに、これぇ♪」
どうやら快楽を感じているのはオレだけではないらしい。
先ほどと比べると随分と苦痛の声は消えている。
いや、むしろ染まっている。
官能に、淫らに。
肉と肉のぶつかる音を響かせて。
淫靡な水音を奏でて。
今まで共に生活してきた中で聞いたことのない声が降ってくる。
「いい、とこばっか、くるっ♪んぁぁ♪ふぅあ♪」
どうやらあやかにとっても同じらしい。
オレ同様に刺激されているところがいいらしい。
本当にぴったりだ。
体の相性というのがあるのならばそれがあまりにも良すぎる。
徐々に動きを早めていくあやかの腰。
それに伴い体中を駆け巡る快楽も大きくなっていく。
それでも激しくはない。
しかし、確実に高みへと押し上げられる。
「あやかっ!も、う…っ!」
「うんっ♪いい、から♪ちゃんと、中にぃ♪」
命一杯沈められる腰。
途端に吸い付く子宮口。
まるで唾液のように流れ、絡みつく蜜。
それに伴ってあやかの中がきつく締まってきた。
「っぁあ!!」
そして、弾けた。
あやかの中でオレの欲望が流れ出す。
既に二度、それもとんでもない量を出したというのに全然止まらない。
脈動を繰り返しどんどん流れ込んでいく。
血の繋がった相手に精を注ぎ込むというなんとも背徳的な感覚が背筋に走りながら。
オレを好きでいてくれる彼女の気持ちに満たされながら。
「あああっ♪は、あ…♪熱い…っ♪」
決して外れないように、そして一滴もこぼさないように腰を沈めたあやかは震えながらも何とか倒れないようにオレの胸板に手を突いた。
黒い艶のある髪の毛が顔にかかり、朱に染まった顔をさらに色っぽく見せる。
桜色の唇からは桃色の吐息が漏れ、快楽に蕩けた目からは一筋の涙が伝った。
綺麗。
素直にそう思ってしまう。
これで同じ家族の血が流れているのかと思ってしまう。
双子の姉ながらあまりにも違いすぎる。
見とれるのもしょうがない。
見惚れたところで仕方ない。
そう思ってしまうくらいに。
しかし、その姿。
月明かりに照らされたその四肢。
白い肌を惜しげもなく晒すその体を見て。
「んん…あっ♪」
胸、心臓部が異質な輝きを放ち始めて。
オレの胸の中にあった違和感が爆発した。
夜空に響く艶のかかったあやかの声に。
「はぁあああ♪」
「あやか!?」
思わず体を起こそうとしたそのとき、オレの体が押さえつけられた。
オレの上に跨ったあやかによってじゃない。
「ふふ♪始まったわね♪」
先ほどまで横で寝ていたフィオナだ。
「フィオナ!?」
「ふふふ、見ててよユウタ♪これがアヤカの、ユウタへの想いよ♪」
もともと動けない体にフィオナが身を寄せて。
オレの目にあやかの姿を見せつけるように。
「体が、熱い、あ、あああああああああああっ♪」
一際大きくなったあやかの嬌声と共にそれは始まった。
耳の上、頭の横が膨れ上がり、弾けた。
「っ!?」
それは真新しい雪のように白く、快晴の空に浮かぶ雲のように真っ白。
見ればそれが硬質なものだとわかる。
それは。
フィオナの頭に生えているものと同じ角だ。
ただフィオナと違うのは色と、形が羊もしくは山羊のように捩れている。
しかし変化はそれだけでは終わらない。
次に生えたのは―翼だった。
闇夜に溶け込みそうな、月明かりを吸い込みそうなほどの色。
正しく漆黒。
腰から生えたそれは蝙蝠のようでいて、やはりこれもフィオナに似ている。
そして最後に生えるのは―尻尾。
艶のかかった革のような、撓る様は鞭のような。
尾てい骨あたりから生えた尻尾。
先端がハートの形をしているところからして、全体的にフィオナに似ているところが多すぎる。
どう見てもフィオナと重なる部位が多すぎる。
尻尾、翼、角。
色形は違うがそれでもこれは。
これは、もしかして―
「―…サキュバス?」
「ピンポーン、正解♪」
オレの呟くような言葉にフィオナが楽しそうに答えた。
やっぱりか。
フィオナはリリム。そしてそれはサキュバスの最高位の存在。
その姿に酷似しているということはやはりそっちに似た存在になったらしい。
あやかの言っていたフィオナと似たようなものになる種。
それは―サキュバスになる種だったということか。
あやかは身を捩り、新たに生えた部分を興味深く見ている。
「んん?ふぅ…これが…サキュバスなんだ?」
「ふふ、綺麗な翼に角に、尻尾よ♪」
「へぇ、思ってたよりも清清しい気分。」
月明かりをも吸い込みそうな色をした人間にはない部位。
それはあまりにも異形の姿であり、それでいてあまりにも美しい。
しかし、その姿を見れたのは一瞬。
瞳に焼きついたその美しくも異形な姿が変化する。
変化、といっても角と尻尾は残ったまま。

―その代わり翼が弾けとんだ。

「ん?」
「え?」
「は?」
あまりにも予想外な出来事だ。
一度生えてきた部位が一瞬で闇の中へと弾けたのだから。
それが何なのかわからない。
フィオナを見ると目を見開いて急な出来事に驚いているようだ。
…どうやらフィオナにも予想外な事態らしい。
オレもあやかもフィオナも何が起きているのかわからず顔を見合わせるしかない。
しかし、どうやらそれは人間を捨てる過程。
そして人ならざるものへと変貌するための前準備だった。
それがわかったのは先ほど翼が生えた腰から同じようにそれが突き出したことから。
「え?あ、ああっ♪」
再び生える翼。
しかしそれは先ほどとまったく違う。
大きさも色も同じだが、形がまったく異なる。
フィオナの生やす蝙蝠のような翼ではないそれは。
月明かりの下に広げたその翼は。
まるで―

「―…天使…?」

漆黒の羽を降らし、月明かりに翼を広げる姿は正しく天使。
ただし艶のあるその羽は天使というよりも―堕天使のように思える。
あやかの様子を見ればどうやら変化は止まっているらしい。
肩をゆっくり上下して呼吸しながらも驚いた表情で自分の翼を見ている。
なんだこれ…?
これが…サキュバス?
フィオナの姿と似ているが…明らかに翼が違う。
それでいて…肌に感じるこの感覚。
変化が終わって惜しげもなく放たれたこの色香。
フィオナを初めて前にした時によく似た雰囲気。
よくわからないけど…あの時は周りに様々な人がいたからわかったが…これは。
確かなことは言えない。
オレ自身フィオナの魅了がどういったものなのかを見てもそれを上手く感じ取れなかったから。
魅了が効いてない分確かなことはわからないが…それでも。
それでも感じるこの感覚はまるで…―

―フィオナの魅了に似ている気がする…。

「あれ…?フィオナ、これって…?」
「…えっと…?」
そう聞いたところで返すのは疑問の声。
双方理解が追いついていないようだ。
かくいうオレもわからない。
何なんだこれは?
まるで、あやかの体が自ら変化したような…。
人間の殻を破ったところで…ずっと奥に隠れていた本質が姿を表したような…。
人間なんてちっぽけな器に収まりきらなかったものがようやく顔を出せたというような…。
サキュバスなんて存在で甘んじることなく、その先へと進んだかのような…。
それはまるで―

―あやか自身にその素質があったように感じさせる。

元から淫魔に似たものを持っていた?
初めからリリムに通じるものを持っていた?
前からフィオナに近いものを持っていた?
そんなこと…まさか、ありえるのか…?
あやかは人間だ。
それはよくわかってる。
オレの双子なのだからわからないわけがない。
でも、確かに思い当たる節は…ある。
あやふやだけど、もしかしたらと思うところがある。
昔からあやかは人気があった。
男女問わずに、大勢に。
オレとは違っていろんな人を惹きつけていた。
異様なほど多く。異質なほど大量に。
もしかしたら、それが…?
しかしそんな考えが一瞬で消え失せた。
消えうせたというよりも蒸発するように一気に消え去った。
それは新たな存在になった、サキュバスになったあやかの中に与えられる快楽よって。
「う、あぁっ!?」
「わ、ひゃあぁああっ♪」
急に絡み付いてくる肉壁。
先ほども十分に吸い付き、敏感な部分ばかりを刺激していた部分がさらに変化する。
律動し、刺激をすれば。
蠕動し、奥へと誘う。
先ほどまで的確に攻め立てていたあやかの中が、そこから与えられていた柔らかな快楽が。
一気に激しく凄まじいものへと変貌する。
いつの間にかできたひだが裏筋を舐めては全体が蠢き絡む。
根元から扱くように締まっては先端の子宮口から熱い蜜が垂らされる。
カリ首に絡みつく肉壁はぞりぞりとした感触を叩きつけ、既に達しているオレを追い詰める。

―こ、こんなのってありかよ…っ!?

フィオナの蜜壺だって恐ろしく気持ちが良かった。
しかし今のあやかの蜜壺もまた負けず劣らず心地よい。
互いに違う、それでも凄まじい快楽は既に三度も出しているというオレの体からさらなる精の放出を促してくる。
「や、はぁ♪こんな、こんなのっ♪良すぎるよぉ♪」
「ちょっと待った!あやか!」
「やぁだ♪待ちたくない♪もっと欲しいっ♪」
「お、いぃっ!?」
「ふ、あ、はぁあっ♪」
なんてこった。
これじゃあさっきのフィオナと同じじゃないか。
激しい快楽の中で強引にも、強欲にもオレを求めてくる。
そうして瞳に浮かべるものは快楽に染まったものであって、オレへと向けられた好意でもある。
抵抗するに抵抗できない。
嬉しいからこそ、手が出せずに止めることもできない。
「おい、あやかっ!待っ、ぁあ!?」
「んんっ、ふ♪はぁあ♪あぁあっ♪もっと、もっと出してぇ♪」
そんな蕩けた声と共に腰を動かす。
先ほどの行為で少しは学習したのか、それともサキュバスとしての本能的なものか。
ただ上下するだけではなくときに左右にときに渦巻くように。
肉と肉の音を奏でながらオレのものを呑み込むたびに蜜が溢れ出す。
肌に滲んだ雫が弾けて月明かりを反射視する様は芸術みたいだ。
しかし、そんな光景と共に送られてくる立て続けの膨大な快楽。
リリムときてサキュバスときたこんな快楽に耐え切れるわけがない。
わずかに残った最後の力を振り絞り、あやかを止めてもらおうとフィオナのほうを向いた。
―が。
「フィオナっ!たす―むぅっ!?」
「んむっ♪」
フィオナによって塞がれる唇。
助けを求めるどころか逆に求められた。
「んん、れろ♪んちゅぅ…ん、はむっ♪」
甘い、とても甘い蜜のような唾液と共に桃色の吐息が染み渡る。
それだけでは終わらずさらには柔らかく熱いフィオナの舌までが口内を蹂躙する。
蹂躙といっても荒いわけではない。
それでも激しく。
そして、愛おしそうに。
啄ばみ、啜り、ねぶって舐めあげられて。
ただでさえ快楽で真っ白に染まっている頭の中がさらに塗りつぶされる。
最後の力も抜けてしまった。
せめてもの抵抗ができなくなった。
そのまま体を寄せてはオレの胸板に豊満なふくらみを押し付けそのまま撫でるように体を動かす。
上ではフィオナの体が。
下ではあやかの体が。
二人してオレの体に別々の感触を叩き込んでくる。
「んぷはぁっ!ちょっと、二人とも…待っ…!」
「んん〜♪ユウタぁ、もっとしてよぉ♪」
「や、こっち♪ちゃんとゆうたも動いてって♪」
淫魔二人との肉欲の宴。
廃屋の屋上で月明かりに照らされたオレとフィオナとあやかは欲望の尽きることなく何度も体を重ね合わせていた。








雲ひとつない快晴の空の下。
春先のまだ寒さの残る風が頬を撫で、桃色の花びらを運んでいく。
木々が優しくざわめく音が響くここ。
人々の喧騒からかけ離れた田舎の土地。
そんなところでオレはいた。
「早いな。」
「そう?」
「ああ、気づいたらもう高校生も終わりだろう?」
「…まぁ、あっという間だったかな。」
二人で並んで。
あるものの前に立っていた。
あるもの。
黒く輝く長方形の石。
そこに白く刻まれたのは家の苗字。
これはオレの家の墓。
おじいちゃんとおばあちゃんが眠っている墓だ。
ここはとある田舎の山奥。
オレのお父さんの実家である。
「あれだけやんちゃだった子供がもう大人だ。十分早い。」
「確かにね。」
「後ろの桜の木に登って落ちて、頭を怪我してじーさんに怒られてたりもしてたか。」
「子供だったからね。」
「本当に、早いもんだ。」
そう言ってオレの隣に立つ男性―オレとあやかと姉ちゃんの父はそう言った。
口に火のついたタバコをくわえて。
感慨深く、しみじみと。
そんなお父さんを隣にオレは線香に火をつけ、そして墓の前にある線香皿に置く。
共にお団子も添えて。
花も持ってこようと思っていたのだが…持ってこなくて正解だった。
花だけはいつも添えてあるからだ。
枯れても誰も代える人がいないのに、誰かが花を添えていく。
それも店で売られてるような花じゃない、もっと綺麗な花をいくつもだ。
花だけではない。
この墓石もまたそう。
誰も管理していないのに綺麗。
普段オレが月一ぐらいで訪れるのだがいつもそうだ。
コケも汚れも何も付いていない。
誰かが…掃除してくれてるのだろうか?
「おじいちゃん、おばあちゃん。」
オレは墓石の前に黒く光る筒を掲げる。
「高校、卒業したよ。」
今日は高校の卒業式だった。
そして今はその報告というところ。
卒業式を終えた後クラスメイトで打ち上げをやるつもりだったのだがそれをせずそのままの姿でお父さんに連れられてここに来ている。
お母さんも姉ちゃんもいない。
あといるのはあやかとフィオナの二人。
ここへ来た理由は卒業報告…だけじゃない。
しばらくここを離れることになるからだ。
「本当に行くのか。」
「行ってくるよ。」
「そうか。」
短い言葉。
端的な口調。
それでも言いたいことは通じる。
だって、家族だから。
「あやかとフィオナが準備できたら…行くよ。」
「そうか。せめて盆と正月には帰って来い。それで、じーさんとばーさんに顔見せてやれ。」
「わかってるよ。ちゃんと帰ってくるさ。」
「にゃーん。」
「おっと。」
かりかりとオレの学生服のズボンを引っかく猫がいた。
全身艶のある黒一色の毛並みをした猫。
おじいちゃんだかおばあちゃんだかがどこからか拾ってきた猫だ。
「みぃい…。」
悲しそうな、寂しそうな声で鳴く。
その声がオレを引き止めるように聞こえるのは…気のせいじゃない…かも、しれない。
「そいつにもちゃんと会いに来いよ。」
「わかった。」
そっと抱き上げ、オレの腕の中へと収める。
特に抵抗しない。
いつものように身を捩っては、オレの頬を舐めだした。
それを感じてオレもまたいつものように頭を撫でる。
「みぃ…。」
「ちゃんと戻ってくるよ。」
「なーお…。」
「絶対だから、さ。」
無論言葉が通じるわけがない。
人間と猫、話す言葉が違うのだから。
それでもどうしてだろうか。
小さい頃から共にいたからかわかるんだよなぁ。
何が言いたいのか、どう伝えたいのか。
「ふにゃぁ…。」
「ああ。」
頷き、そしてお父さんに手渡した。
もうそろそろ時間だろう。
準備もきっと終わっている頃だろう。
「それじゃあ…そろそろ行ってくるわ。」
「ああ、行って来い。お母さんとお姉ちゃんのことは任せろ。」
「うん。」
「それから結婚式には呼べよ?」
「気が早いんじゃないの、それ。」
「そうか?二人も相手がいるんだ、急にもなるだろ。」
「…まぁね。」
その言葉に苦笑する。
相手が二人。
それは勿論フィオナとあやかのことだ。
それを知っているのはお父さんのみである。
姉ちゃんもお母さんもそれは知らない。
オレの愛する相手がリリムであることと、サキュバスになった双子の姉であること。
それからオレがこれから行く場はこの世界とはまた違うところだということも。
知っているのはオレ達を除けばお父さんだけだ。
「向こうで式挙げるのか?」
「たぶん。」
「まぁそりゃそうだな。こっちには重婚も近親婚も認められてないしな。」
「そりゃね…。」
フィオナを目の前にして、あやかを目の前にして動じなかった我が父親。
お母さんと姉ちゃんは二人を前にしてたじたじだったけど…違う。
フィオナの魅了が効いていなかった。
それどころかあやかの変化にすぐさま気が付いた。
自分の父親ながら…本当に不思議だ。
もしかしたらお父さんもまた…そういったものに関わりがあったのかもしれない。
「ねぇ、お父さん…。」
「ん?」
「お父さんはさ、もしかして―…いや、なんでもない。」
そう言いかけて、やめた。
この話はしないほうがいいだろう。
また今度。
また来たときにでも…聞けばいいか。
だから、そのときまで取っておこう。
お楽しみの箱はすぐに開けるものじゃないな。
「それじゃあ…お父さん。」
「ああ。」
視線を交え、オレはお父さんの隣から足を進めた。
ゆっくり。
しっかり。
離れていく。
そうして桜の木の前を過ぎる時に聞こえた。

「―頑張って幸せにしてやれよ。」

その一言が。
その短い言葉が。
何よりも胸に染み渡る。
思わず小さく笑いながらオレは歩き出す。
振り返りはしない。
それでも。
オレからも一言、残して。

「―行ってきます!」








「あ、ユウタ〜!」
「遅いんだよ。まったく。」
「呼びに来なかった奴が何言ってるんだよ。」
準備を終えた二人を前にオレはようやく到着した。
あの夏に出会ったリリム、フィオナ。
白い長髪をなびかせて一番最初に着ていた服を着てそこにいた。
いくら春とはいえまだ寒いんじゃないのだろうか、何て思ってしまう。
フィオナはそんなこと気にするわけもなく自然な動きでオレの腕に抱きついた。
当然指を絡めて手を握る。
それはまるで…いや、そのまま恋人のものだ。
なんというか、ようやくしっくりきた感じもする。
あの夏の夜にフィオナの想いを受け入れて、フィオナの気持ちを受け取って。
自然に手を繋げるようになった。
欠けていたピースがはまるかのように。
以前から恋人であったかのように繋いでいた手がここまできてようやくだ。
「あ、フィオナばっかりずるい!」
そう言ってもう片方の腕に身を寄せてくるサキュバスのあやか。
オレの肉親、大切な家族、唯一無二の双子の姉。
黒い髪を一つに縛り、フィオナの着ている服に良く似た服を着ていた。
ただし、白い色の服。
どうやらいつの間にか用意していたらしい。
手回しがいいな。
サキュバスになってから、オレと体を重ねてから徐々に成長をしている膨らみがなんとも魅力的に映る服装だ。
…といってもフィオナには全然届いてないけど。
「…ふんっ!!」
「あだっ!?」
いきなりこめかみにあやかの指が四本入った。
流石に血は出てないだろうが…刺さったかと思うほどに強い。
いけない、考えてたことがバレてる。
さすが双子だ。
いくらサキュバスになろうと双子としての繋がりは塗り替えられそうにないな。
まったく。
そう思って苦笑する。
そういえば、こうやって並ぶのはもう何度目だっただろうか。
もう何回こうしてきたのだろうか。
ふと、思った。
今まで随分と多くのことがあったと。
フィオナが来て、あやかがサキュバスになってからいろんなことがあった。
あやかがフィオナのような魅了を自然に振りまいてしまうというとても大変なこともあれば。
時期外れの教育実習生としてフィオナが学校に来たというのもあった。
二人してオレを本気で怒らせたこともあるし、暴走なんて何度させられたのかわからない。
それに…何だよ『暴君モード』って。
そりゃあの時はオレもやりすぎたとは思うけどさ…。
他にも体育祭や、ハロウィン。
それからクリスマスやお正月にバレンタインデー。
一言じゃ言い表せないことばかりがあった。
どれも騒がしく、それでとても楽しいものだった。
たった半年近くの出来事。
それが長く感じられるのに一瞬のようにも思える。
その間に何度愛し合ったことか。
「ふふ、それじゃあユウタ、行きましょう♪」
「いったいどんな世界なんだろうね。楽しみ♪」
「おっと、ちょっと待ってくれよ。オレまだ学生服姿なんだけど?」
「そのままでいいんじゃないの?」
「そうよ、ユウタに良く似合ってるわ♪」
「…喜んでいいのかそれ。」
フィオナの言葉に苦笑しつつもオレは二人の手を握り返す。
二人も同じように握り返してきた。
それを確認し、前を向く。

「それじゃあ…行こうか!」

行く先はフィオナの生まれた故郷。
魔界。
オレもあやかもこことは違う世界へ足を進めることになる。
それでもかまわない。
だってそれが望んだことだから。
フィオナを愛すると決めたことだから。
あやかも共に愛すると決めたから。
二人を幸せにすると、誓ったから。
だから。
「ええ♪」
「はいはい♪」

―オレ達は三人で歩きだした。





―これはオレとフィオナが出会ったもう一つの物語―

―それから

―フィオナとあやかを愛すると誓ったオレのストーリー―




HAPPYEND




「…でだ。」
「えっと、それで…なんだけれど。」
「…何であんたまでついて来るのさ。」
「んふふ〜♪何でってそりゃ自分もユウタが好きだからに決まってるよ♪ユウタが行くところなら例え火の中水の中、なんだから♪」
「いや、あの、師匠?別に後ろから抱き着いてくるのはいいんですが…さりげなく服の下に手を入れないでください。」
「冷たいこと言わないでよ、ユウタ。自分だってユウタの体を堪能したいんだよ♪」
「勘弁してくださいよ…。」
「ほら、ゆうたが勘弁って言ってるんだからどいたら?っていうか、どっか行ったら?」
「ふふ、自分よりも胸の小さいお姉さんに言われたくないよ。」
「っ!」
「っ!?師匠!?」
「それに隣のフィオナも自分と比べると下だしね〜♪一番ユウタの好みに合ってるのは自分なんだよ♪だからこそ自分はユウタの傍にいるべきじゃないかな?」
「…。」
「二人には真似できないこともできるんだからね♪フィオナは…もしかしたらできるかもしれないけどお姉さんにいたっては…論外だね♪」
「…。」
「ちょっと!師匠何を言い出すんですか!?」
「んふふ〜♪知ってるんだよユウタ♪ユウタの好みくらい自分にはお見通しなんだからね♪ほらほら、この感触隣の二人よりもずっといいよね〜♪」
「師匠っ!」
「私は大きさよりも形なのよ。ユウタだって好きって言ってくれたしね♪」
「フィオナっ!」
「…ふんっ!別に小さいから悪いってわけじゃないでしょうが!それに、これから…ゆうたに大きくしてもらえばいいだけだし…♪」
「あやかまでっ!?」
11/09/25 20:08更新 / ノワール・B・シュヴァルツ
戻る 次へ

■作者メッセージ
そうしてある黒髪の双子と魔王の娘(と師匠)は末永く幸せに暮らしましたとさ
めでたしめでたし…ということでこれにて現代編リリムルート完結でございます!
最後に出てきた主人公のお父さん
あの方もまた、別格なのですね
しかしそれはまた別の話に…

そしてお姉さん、サキュバスになりました!
本当にここで迷いました
実は他の案でワーラビットやドラゴンなども考えていたのですが…
リリムにするというのも考えていたのですが流石にそれは無理なのでサキュバスで止まりました
でも彼女だったらそのまま進化して…なんて事もあるかもしれませんw



これにて現代編は完結ですが、実はフィオナとの出会いはもう一つあったりもします
それも主人公が教団に召喚され、あの勇者と手を組むという話で!
敵として出会った二人、そしてあることで名を上げてしまった主人公が教団の思惑へと落とされて…
まだ考えている途中なのですが、きっと書きます!

それでは
ここまで読んでいただいて本当にありがとうございました!!

そして次回に考えているのはヴァンパイアです!
現代編ヴァンパイアルート!
先にこちらを進めていきたいと思います!

それでは次回もよろしくお願いします!!

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33