後編
「んっ。」
「ちゅっ。」
触れるだけのキス。
さきほどした私からの一方的なものではなく、二人でともに重ねる唇。
お互いの気持ちが重なっているからでしょうか。
それはさっきよりも甘く。
さっきよりも心地よく。
まるで蕩けるような感覚でした。
「んん…なんだか…少し恥ずかしいですね…。」
「あはは、そうだね。」
私達はともに小さく笑いあいました。
さっきしたのとは違うキス。
とても良くて、とても甘くて、そして少しばかりの気恥ずかしさを感じます。
それでも…。
「嫌ではありません…。」
「そうだね…。」
体の内側から炎で焼かれるかのような熱さ。
でも、それが嫌ではありません。
とても、心地いい。
そっと手を伸ばしユウタ君の手をとれば、彼は私の手を握ってくれました。
優しく包むように。
指を絡めて存在を確かめるように。
互いに伝わりあう温もり。
絡めあった指から流れる心地よさ。
とても安らぎます。
もっと触れ合うようにユウタ君の体に私の体を巻きつければ、彼は笑って受け入れてくれました。
「いいよ。」
その一言さえとても嬉しくなってしまいそうです。
ユウタ君の行為のひとつひとつが。
彼の言葉の一言一言が。
私の気持ちを昂ぶらせ、私の感情を高揚させます。
全てが優しく。全てが心地よい。
一人だった私には絶対に感じることはできなかった感覚。
あの私には抱けなかった気持ち。
これが、幸せというものなのでしょうね。
彼の頬を、首を、肩を、脇を、撫でながら手を下へと移動させていきました。
そのまま背へ手を回して、ユウタ君の頬にそっと唇をおとします。
「んっ。」
くすぐったそうに身をよじるユウタ君。
嫌ではないと意思表示するかのように私の背に腕を回して抱きしめてくれました。
今度は鼻先にキスを。
瞼に、額に口付けを。
愛おしい存在であるユウタ君に私の証を残したい。
私のものであってほしい。
同時に、ユウタ君のものでありたい。
そんな想いとともに唇を付けて―止まりました。
ユウタ君の額。
痛々しいガーゼが付けられています。
昼間、私を助けようとその身を挺して救ってくれたときにできた傷。
私はそのガーゼの上から魔力を込めてキスをします。
一瞬、傷が光りました。
光が収まるころにはもう―
「…ん?痛くない…?」
ユウタ君はガーゼの上から傷に触れました。
「?傷が…ない?」
「はい。あまりにも痛々しくて…治してしまいました。」
「…すご。」
ユウタ君は私の顔を見て驚き、そして微笑みます。
「魔法って奴かな?」
「はい。治癒魔法です。」
「本当にすごい。オレのなんかただのキスにしかならないのに…。」
そう言って私の唇に重ねてきました。
甘い感触。
優しい快感。
ユウタ君はただのキスにしかならないといいましたが…これは。
「ユウタ君のキスは…魔法以上です…。」
「え?何で?」
「だって…その…。」
されただけでとても気持ちが良くなってしまうのですから…。
そう言うとユウタ君は照れたように頬を掻きました。
「そう言われると…照れる…。」
「本当のことなのですからね。」
「えーっと…うん。」
そうして笑い合って、またキスをします。
甘い感覚は私の意識を蕩けさせ。
甘美な感触は私の想いをより強くさせます。
そしてその想いは体のほうにも現れ始めました。
私の、女性として最も敏感な部分。
そこがユウタ君の男の部分と触れ合うように体が自然に動きます。
「んんっ♪」
「んわっ…!」
互いに漏れ出す甘い声。
一瞬触れただけですぐに離れましたがそれでも残る熱いユウタ君の体温。
彼の体から視線を下げていけばそれはありました。
さっき脱がせたときに少しだけ見た彼の男の部分とは似ても似つかないもの。
大きく反れてグロテスクなそれ。
先端は先ほど私のものと触れ合ったときに付いた粘液が月明かりに光っていました。
妖艶に光るそれ。
これが…ユウタ君のもの…っ!
始めて見ましたが…グロテスクで…いやらしくて…とても―
愛おしい…っ!!
ユウタ君のものを見ただけで私の体の奥が疼きます。
魔物としての本能が私を支配しようとします。
彼が欲しいと。
ユウタ君の全てが欲しいと…!
今更ここまで来て抗えるわけもなく。
私は彼の体を押し倒しました。
「おわっ!?」
ベッドに倒れこんだユウタ君。
驚いた顔で私を見ています。
今の私はいったいどんな表情をしているのでしょうか…。
おそらく私自身が見たことのないような表情をしているのでしょう。
ユウタ君が欲しいという欲望に塗れたいやらしい顔を…。
「ユウタ君…もう、止まりません…。その…いいですか…?」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」
ユウタ君は慌てたように手を振り私の行動を止めました。
何でしょうか…やはり私とするのは…嫌なのでしょうか…?
やはり人外の存在とは…相容れないのでしょうか…?
ユウタ君は不安がる私に微笑みかけ、そして言いました。
「そんな泣きそうな顔しないで。ちょっと必要なものがあるだけだから。」
「必要な…もの?」
「そう。」
ユウタ君はベッドについていた小さな引き出しの中から何かを取り出しました。
銀色の紙で包まれているような薄いそれ。
魔法アイテム…でしょうか…?
「ユウタ君…それは?」
「これ?これはコンドーム。」
ユウタ君はそれをぴらぴら揺らしながら言いました。
コンドーム…?
何でしょうか?なにかとても面妖な響きですが…。
「早い話が避妊道具ってやつだよ。」
「避妊…?」
「そう。薄い膜でオレのものを包んで間接的にするっていう避妊道具。まさか友人にもらったのが役に立つ日が来るなんて…。」
…なんで避妊なんてするのでしょうか?
体を重ねる行為はもともの子を成すためのものでしょう?
「さすがにいきなりできちゃったらまずいでしょ?」
「いや、むしろできてくれたほうが嬉しいのですが…。」
「オレもそっちのほうが嬉しいけど…でもオレはまだ学生だし。責任、取りきれないからさ。」
責任ですか…?
それは…私を…。
「ユウタ君は私を捨てるつもりなんですか…っ!?」
「しないよ!!そんなこと!」
まっすぐ私を見て言い切ってくれました。
嘘ではない本当の言葉。
ユウタ君は私を見つめて真面目な顔で言います。
「オレはまだ十分に働けない学生。だから…子供ができてもエリヴィラさんと子供を十分に養えないかもしれない…。」
「ユウタ君…。」
「だから…ね。オレは嫌な思いをさせたくはないんだよ。…その、好きな人には特に…。」
とても嬉しい言葉。
私を…好きだって言ってくれて…。
「エリヴィラさん…好きだよ…。」
私はその言葉にまた涙しました。
高鳴る胸の鼓動を感じて。湧き上がる充足感に包まれて。
流れゆく雫はまたユウタ君が優しく拭ってくれました。
「ユウタ、君…。」
「エリヴィラさん…。」
何度目かわからないキスをして、ユウタ君は微笑んでくれました。
本当に…いい人です…。
私はそのユウタ君の全てを受け止めたい。
だから私はユウタ君の手を両手で握りました。
ユウタ君がそのコンドームというものを持っている手を。
そっと握ってそして、魔力を込めて―
燃やしました。
一瞬のうちに灰になる銀の紙。
中に何が包まれていたのかは分かりませんが塵も残さずに全てが消え失せました。
「えええええええぇぇ!?!?あ、ちょ!?燃えてんじゃん!?これひとつしかもらってないのに!!」
そんなもの、知りません。
そんな邪道なものはあっていいわけないのです。
愛の営みなのですよ?
互いに肌を合わせ、自身を重ねる行為なのですよ?
間接的にしたくはありません。
もっとしっかりとユウタ君を受け止めたいのです。
「やっぱり私は…その、ユウタ君と直接したいのです…!」
「え、いや、だからって…。」
「ダメ…ですか…?」
固まるユウタ君。
少し唸り、悩んで私を見て言いました。
「仕方ないな…。まぁ…いざとなったらギリギリで抜けばいいか…。」
何かを小さな声で言ったユウタ君。
しかしその言葉はしっかりと私の耳に届いていました。
「それでは…その、してくれますか…?」
「えっと…よろしくお願いします。」
互いに赤くなった顔で唇を重ね、そしてその先の行為へと進む。
私の女の部分と、ユウタ君の男の部分を触れ合わせる。
「んっ♪」
「っぁ…。」
私のそこは既に濡れていました。
自分で一人淋しく弄っていたころよりもずっと多い粘液が滴りシーツへ滴ります。
見ていて恥ずかしくなりそうでした。
ですが、ユウタ君にはもっと見てもらいたいと思えました。
擦り合わされるユウタ君のものと私のそこ。
先ほど触れ合わせたときよりも強く甘い感覚が私達を包みます。
ユウタ君は私の腰を抱き寄せ、私はユウタ君の背へ腕を回しました。
そこで止まるユウタ君の体。
困ったように私を見ます。
「?どうしたのですか?」
「えっと…その、初めてだからさ、上手くできなかったら…ごめん。」
「そんなこと関係ありませんよ。私も初めてですから。」
「そっか。」
互いに初めて。
その事実がこそばゆくて、とても嬉しくて。
私はユウタ君と額を合わせました。
「二人で…一緒に上手くなっていきましょう…。」
「だね…。」
軽く唇を重ね、ユウタ君は腰に力を入れてきました。
ゆっくりと私の中へと進んでくるユウタ君のもの。
掻き分けて進入してくる熱くて硬いそれ。
私の中で何かが破れた感覚と、中をごりごりと擦る感覚が体中を伝わってきます。
痛みを感じる暇なく、びりびりとした強い快楽が私の体を支配しました。
「あ、あぁぁ、あん♪」
思わず出てしまった声。
感じたことのない甘い快楽に私は抗う術を知りません。
ユウタ君の背に回された腕に力が入り、私の体がユウタ君の体を強く巻き、より強く繋がろうと力をこめます。
ユウタ君を見れば、震える体で耐えるように眉をひそめていました。
「ユウ、タ君…♪」
「エリヴィラさんっ…!」
快楽に耐える表情。
私との体を重ね、私の体で気持ちよくなってくれているということが女の本能を満たしてくれます。
私の体の中に…ユウタ君がいる…。
とても熱くて、とても硬くて、とても逞しくて…。
力強く脈打つ彼が私の中で感じられて…。
その事実がさらに私を昂ぶらせます。
ゆっくりと進んでくる彼のもの。
それはやがて私の奥へたどり着きました。
こつんという軽い衝撃。
「―ぁっ!!」
ユウタ君の先端は私の奥の壁を―子を成す部屋の入り口を叩きます。
それは私の中でとてつもない快楽へと変換されました。
感じたことのないほど膨大な量の快感。
私の体を駆け巡るその感覚に私は耐え切れませんでした。
「あああああぁぁあぁあああっ♪」
目の前が白くなります。
火花でも散るかのように意識がはじけ、体が震えました。
ユウタ君の背に回された私の腕はより強く彼を抱きしめます。
もっとこの快楽を味わいたいという本能とともに。
もっと彼を抱きしめ、一緒にいたいという想いとともに。
「ふぅあ、あぁ…あん♪」
「い、痛く…ないの…っ?」
快楽に耐えながらもユウタ君は私を心配して声をかけてくれました。
こんなときでも優しいですね。
本当にいい人です。
貴方と繋がれて…とてもよかったです。
「はいっ♪とても…気持ち良い、ですよ♪」
痛みよりも強い快感に支配されて普通にしゃべることができません。
甘い快楽によって声が震えます。
私の中にいるユウタ君。
見なくてもどんな形なのかはっきりと分かるほど絡みつく私の中。
どろどろな粘液を塗りたくりながら強く抱きしめます。
伝わるのは焼けているのかと思うほどの熱と鋼鉄のような硬さと力強く打たれる脈。
その全てが私に快楽を運んできました。
とても…良い…♪
力を込めれば込めるだけ強い快感が押し寄せて。
求めれば求めただけ甘い感情を抱かせて。
ひとつになって、溶け合いそうで…♪
「ユウタ君、は…どうですか…?」
「すごく…良い…っ!」
快楽に耐える顔でそう言いました。
初めてあったときに見せてくれてたあの心配した表情もよかったのですが…今の表情もとても好きです。
見ているだけで…体が熱くなってきます…!
「動くよ…。」
小さく呟いたユウタ君はゆっくりと腰を動かしました。
優しく、私に痛みを与えないように腰を引き。
「んっ…。」
私の負担にならないように、ゆっくりと差し込みます。
「ふぅっあ♪ああんっ♪」
互いに漏れる甘い声。
自然と繋がれる手。
絡めた指先からも甘い痺れが伝わります。
擦れる、私とユウタ君。
自身を突き入れるたびに私は優しく受け止め。
腰を引くたびに私の中は自然に締まり、彼を離さないように抱きしめます。
それによって生じる快楽は私には耐えられそうにもないほど大きなもの。
ただ抜いて、挿してを繰り返す単調な作業なのにとても気持ちが良い。
声を抑えようとしても快楽に蕩けた声が漏れてしまうほど。
自分から腰を動かしてユウタ君をさらに求めてしまうほど。
「あぁっ♪ユウタ君…とても、いい、あ、ああぁ♪」
「ふっぁ!」
どろどろの私の中はいやらしくもユウタ君のものに吸い付き、強く抱きしめます。
擦れるたびに生じる快楽。
絞めるたびに感じる彼のもの。
吸い付くたびに体を駆け巡る快感。
ユウタ君は下唇を噛んで必死に耐えていました。
その様子がとても可愛らしくて、とても愛おしい…!
私はそんなユウタ君の唇に吸い付きます。
「んんっ♪」
「ふむっ!?」
ユウタ君の口内へと舌を侵入させ、彼の舌に巻きつき、撫で上げ、嘗め回す。
とてもいやらしく。とてもねちっこく。
こんなの…私らしくない…。
…でも。
もっとしたい…もっとしてあげたい…!
口内を撫で上げるたびに私の中にいるユウタ君はびくびく震えます。
硬く逞しかったものがより大きくなってより強く震えて…。
それがいったい何なのか本能が理解します。
それは私の望んでいたことの予兆。
私の本能が求めるもの。
女が求める愛ある証。
ユウタ君は大慌てで口を離しました。
「ちょ、エリヴィラさんっ!もう、ダメだから!ダメだから…体を…!!」
必死に腰を引こうとするユウタ君。
ですが私も必死で彼の体を抱きしめます。
蛇の部分を使い、ユウタ君をより深くより強く抱きしめました。
隙間がないように。
肌と肌が密着して離れないように。
「エリ、ヴィラァ…っ!!」
「出そうなのですね、ユウタ君♪」
「そう、だからっ…体を…うぁっ!」
「いいの、ですよ♪全部受け止めてっ♪あげますからぁ♪」
もっと強く、私の一番奥にユウタ君のものが当たりました。
先端を私の中の子を成す部屋の入り口がユウタ君を離さないように吸い付きます。
彼をさらに奥へと誘うように律動させて。
もっと深く導くようにうごめいて。
もっと彼を感じたくて。
もっと彼が欲しくて。
もっと、ユウタ君と繋がりたくて。
私の体はユウタ君を強く抱きしめました。
「ひぁっ…うぐっ…!!」
「全部、下さい…♪」
びくびくと震えるユウタ君。
その震えが一際強くなったとき。
私の待ち望んでいたものがきた瞬間でした。
「っ!!うぁっ!!!」
「あ、ああぁああぁあああああぁ♪」
今までに出したことのない快楽に染まった声が部屋に響きます。
体内を焼くようなとても熱いマグマのようなものが私の中に流れ込んできました。
とても熱い…火傷しそうに感じるほど。
ですがそれがとても気持ち良い…!
目の前が真っ白になるような感覚で、私の体は快楽に震えました。
脈打ちながら流し込まれるユウタ君の生命の証。
それが私の中を染め上げていく…!
染め上げ、染み込み、私の欲望を満たし、私の本能を刺激する。
まるで私とユウタ君が溶け合い、ひとつになるような感覚。
その感覚はとても気持ちが良くて、とても幸せでした。
「は、はぁ♪あぁ♪ユウ、タ…君♪」
「エリヴィラさん…っ!なんつーことを…っ!」
「とても…良かったですよ…♪」
「それはオレもそうだけど…。」
真っ赤にした顔で睨み付けてくるユウタ君。
さっきは怖く感じれたその顔は半分快楽に溶けた表情。
私の中の欲望を掻き立てるような表情。
私の女の本能を刺激する顔。
私は堪らず腰を動かして、ユウタ君を刺激し、更なる快楽を貪り始めました。
「ぁっ!?ちょ、エリヴィラ、さんっ…んぁ!」
「もっと♪もっとユウタ君が、あっ♪欲しいのです♪」
「だからって…んむ!?」
私はユウタ君の唇に吸い付き、また舌を絡めに彼の口内に侵入します。
甘い快楽。蕩ける快感。
私達を照らしてくれる月に見せ付けるように私はユウタ君と交わり続けました。
時に人のように優しく。
時に獣のように激しく。
時に魔物のように力強く。
更なる快楽を貪り、更なるユウタ君の証を求めました。
夜は…まだまだ長いですから…存分に…ですよ♪
「…んん。」
甘いまどろみの中で私は目を覚ましました。
温かな太陽の光が私と隣で寝ていたユウタ君を照らします。
ユウタ君…。
昨日私と体を重ねた男の人。
私が好きになった人。
安らかな寝顔で静かに息を立てて眠っていました。
「ユウタ君…♪」
太陽に照らされた彼の体。
服を着込んでるはずもなく私と同じ裸の姿。
昨日はこのユウタ君と…。
私はお腹の中に温かさ感じながらそっと撫でます。
昨夜、彼にたくさん出してもらった生命の種。
ここに…ユウタ君の証が…。
その事実がとても嬉しい。
「ユウタ君…♪」
もう一度彼の名を呼び、そっと顔を近づけます。
やはり朝はおはようのキスを…。
甘くて蕩けるような起こし方で…♪
静かに音を立てないようにユウタ君の唇に私の唇を重ね―
「何してんだよ…。」
呼吸が止まりました。
私の体も止まりました。
寝ていると思っていた彼が、今までずっと深い眠りの中にいたはずの彼が!
片目だけ開けて私を見ていました!
眉間に皺を寄せて…。
何かに耐えるように…何かに対して怒るように…!
昨夜ユウタ君の元にやってきた私に見せたような表情で。
とても低い、怒りを隠そうともしない声で。
「ユ、ユウタ君っ!?」
「エリヴィラさん、さぁ…。人の言うこと聞いてくれないで何してくれてんの…。昨日は何回だっけ?何回無理やりしてきたんだっけか…?あれだけ必死に頑張ったのに無理やり体を巻きつけて…。」
ユウタ君は半目でじっと私を睨んできました。
とても恐ろしい形相。
ドラゴンだろうとヴァンパイアだろうと退きそうな恐ろしい顔で。
さらには無言で。
「い、いや、その…。」
「…。」
「ユ、ユウタ君が悪いのですよ!ユウタ君が…あ、愛の営みに…あんな邪道なものを使おうとしたり、ユウタ君が中に出そうとしてくれないから…。」
「…。」
「その…営みは子供を作ることが前提であって…ちゃんと中に出してくれないと…。」
「…。」
「…う…あ…。」
「…。」
こんなとても恐ろしい表情で睨まれて。
無言でとんでもない威圧を感じて。
ユウタ君の無言の怒りは終わりません。
「…う……。」
何も言えませんでした。
悪いのは…私なのですから…。
昨夜、ユウタ君が必死に何度も腰を引いて私の中から抜こうとしていたのは分かります。
その理由がユウタ君がまだ学生というものだからというのも。
私のためを思ってくれていたということも。
それなのに…私は…一人勝手に突っ走って…。
彼の意思を見て見ぬフリをしてしまって。
ユウタ君の顔を見れなくなりました。
私は…最悪ですね。
甘い快楽を、感じたことのない温かさを求めて、ユウタ君の優しさを踏みにじって…。
いけないことだというのに、私はユウタ君の証を欲しがって。
魔物らしく、貪欲に彼を求めて…。
鼻の奥がつんとしました。
目の前がぼやけます。
私は…本当に、最悪ですね…。
ユウタ君の優しさを…感じていて、知っていたのに…それを無下にして…。
ユウタ君に見られないように下を向きました。
しかしベッドに横たわっていて、こんなに近くにユウタ君がいる。
見られたくない泣き顔を…見られる。
私の自己嫌悪による涙を見れば…ユウタ君は困ってしまう。
それなのに…私の目から雫が流れました。
泣きたくないのに、彼を困らせたくないのに。
それなのに涙を止められませんでした。
いつの間にか嗚咽も漏れ、肩を震わせて泣いている私。
こんな…ユウタ君に怒られたから泣いているみたいで。
彼は何も悪くないのに。悪いのは全部私なのに。
本当に私は…最悪です。
そう思っていても涙を止めることはできませんでした。
「…ふぅ。」
ユウタ君が小さく息を吐きました。
その様子が分かったと思ったら―
―私の体は抱き寄せられていました。
「…え?」
「まったくさ…エリヴィラさんは…。」
ユウタ君は困ったように言います。
私の体を強く抱きしめて。
「一人で勝手に突っ走りすぎなんだよ…。」
「…はい、すいません…。」
やはり怒って―
「でもさ…。それ相応の責任は、ちゃんと取らせてもらうよ…。」
「はい………え?」
…え?ちょっと待ってください。
今…ユウタ君はなんとおっしゃいましたか?
「こんな初めては…その、驚きだったけど…。それでもオレは男だしさ。そこらはちゃんとしてるんだから。」
「え、ユウタ君!?でも、私は一人勝手に―」
「それでも。」
ユウタ君は私を抱きしめて、言いました。
優しく、照れるように。
そっと言いました。
「その…エリヴィラさんと一緒にいたいし…さ。」
ユウタ君の顔を見てみれば少し赤くした顔でそっぽを向いていました。
「女性の過失に責任持つのが男なんだよ。」
「ユウタ…君…。」
「それが美人ならなおさらね…だから―
―ちゃんと、責任は取らせてもらうよ。」
そう言いました。
一人突っ走ってしまった私に向かって。
向けるべきではない優しい表情を向けて。
微笑んで言いました。
「ユウタ君…っ!」
自然と涙が溢れてきました。
さっきまで流していたものとは違う、とても温かなもの。
悲しいのではなくて、とても嬉しい。
あぁ、私はなんという良い人に巡り合えたのでしょうか。
今まで洞窟に一人淋しく住んでいた私がこんな良い人に出会えるなんて…。
私はこの出会いに感謝します。
ユウタ君と出会えた幸運に感謝です。
「そんなわけで…これからよろしく、エリヴィラさん。」
「はいっ!ユウタ君…!」
そう言って温かな朝日の下。
私とユウタ君はそっと。
甘く優しく温かな口付けを交わしました。
「朝ごはん、作らないと…。」
ユウタ君は階段を私と共に下りながらそう言いました。
「それなら私も手伝いますよ!私も料理は得意なんですから!」
「そっか、それじゃ頼むわ。」
「はいっ!」
こんなふうに私を頼ってくれるととても嬉しいですね。
今まで旦那様のために磨いてきた料理の腕が役に立ちます。
「早く作らないと…あいつが起きるしね…。」
「あいつ…?お姉さんですか?」
「そ。あれは朝ごはん作ってやらないと食べないからね。親が留守の日はオレか姉ちゃんが作らないと一日中食べずに過ごすから。」
…なんというお方なのでしょうか。
誰かに作ってもらわないと食べないのですか。
そんなに自分で料理をするのが嫌なのでしょうか?
「そんじゃ、朝は軽めな食事として卵を使って―」
ユウタ君がそう言ってリビングへ繋がるドアを開けました。
言葉が止まります。
というか、体が固まりました。
私も、ユウタ君も。
リビングの大きなソファー。
二人座っても十分に広いソファーの真ん中で胡坐をかいて、クッションを抱きしめて。
半目で私達を睨むお姉さんの姿がありました。
ユウタ君が睨んできたときよりも迫力がある睨みで。
私とユウタ君を射殺さんというほどの眼力で。
静かに声を出さずに私達を見ていました。
怖いです。
はっきり言って、怖すぎます。
ドラゴンだろうとヴァンパイアだろうとバフォメットだろうと…おそらく名のある勇者でも足がすくんでしまうに違いないほどの恐ろしさです。
そんな恐ろしさをかもし出すお姉さんがゆっくりと口を動かしました。
「…飯。」
「…は?」
「さっさと飯作れ!!」
地の底から響いてくるような声で怒鳴ります。
とてつもなく恐ろしい!
女性が出せる怖さじゃない!
何なのですか?人なのですか!?
お姉さんは睨んだまま口だけを動かして何かを呟きます。
「飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯。」
不気味に何を呟いているのですか!?
この人呪詛呟いてませんか!?
一国を崩壊させるような呪いでも発動させるかのような恐ろしさです…!
「まったくさ…昨晩は本当に頑張ったね?とんでもなく張り切ったね?あんな大声まで出してさ!!」
…大声?
え、それってもしかして…。
「エリヴィラさんはさぁ!『あ♪いいですぅ♪ユウタ君のっ♪もっと、もっと下さいぃ♪』とか大きな声で言っちゃってるしさぁ!」
「っ!?!!??」
ちょ、この人!?何を言ってるのですか!?
確かに昨夜言いましたけど、それでも、それを今言いますか!?
意外と声真似が上手ですし!
「アンタもだよ!ゆうた!『ちょ、エリヴィラさんっ!もう、ダメだから!ダメだから…体を…!!』とか大声で言うなよ!こっちはうるさくて恥ずかしくて寝られないよ!!」
「ぶっ!?お前何を!?」
堪らずに吹き出すユウタ君。
結構最初のほうで言ったことですよね?
…ってことは!?
「二人ともさ!声が大きすぎんの!別にやっちゃ悪いなんて言わないよ!言わないけどね!もっと声小さくしてやれっていうの!!」
全部…聞かれて…!?
そう分かった瞬間私の顔がとても熱くなりました。
ユウタ君を見れば顔を茹でられたかのように真っ赤にしています。
「生々しいこと朝っぱらから言うなよ…。」
「生々しいこと一晩中やってたあんたが言うな。」
「それはそうだけど…。」
ユウタ君が太刀打ちできていません。
それどころか一方的に押されています。
明確な上下関係。
…ユウタ君、苦労してますね。
「と・に・か・く!!」
お姉さんの睨みが一段ときつくなります。
「さっさと朝飯作れ!!!」
「「は、はいっ!!」」
揃った返事とともにキッチンへ向かう私とユウタ君。
その揃い具合といい、私達の息の合い様といい。
思わず二人で顔を見合わせて笑ってしまいました。
「笑ってないでさっさと作れ!!」
一軒家に響く大きな怒鳴り声。
そんな声も幸福に感じてしまうほど私は今とても幸せでした。
理想の男性と出会えて。
彼に好きだと言われて。
この人に一緒にいたいと告白されて。
エリヴィラ・アデレイト
私は今、とても幸せです!
「ふぅ…。」
私は目の前に置いてある写真を見て一息つきました。
この世界に来てからいろんなことがありました。
見たことのない道具。
触れたことのない物。
記憶にない文字。
様々なものを見て、聞いて、感じました。
そして、私の想い人と出会って。
感じたことのなかった幸せを感じて。
この幸せがずっと続いていて欲しいとよく願います。
永遠にこうやっていたいと思います。
写真には私と彼と私。
二人でにこやかに笑っています。
この頃は幸せでしたね。
別世界から来た私を、一人突っ走ってしまった私を受け止めてくれた彼と出会って。
本当に幸せでした。
でも今は…。
「んっ。」
開けた窓から温かな春の風が入ってきました。
わたしの頬を撫で、甘い花の香りを運んできます。
こうやってもう何度春を迎えたのでしょうか。
あの頃の幸せはもう過去のこと。
いずれ過ぎてしまうもの。
それがどんな幸せでも。
どんな幸運でも。
彼を好きだという気持ちは終わりを向かえそして―
「ん…。エリヴィラ…?」
―愛しい想いへと変わる。
私の膝の上で眠っていた愛しの旦那様が目を覚まし、私を見つめます。
とても優しげな表情で。
私を受け止めてくれたときに見せた、あの顔で。
「ユウタ君。」
私は旦那様の名前を呼びました。
ユウタ君はそれに微笑み、私のお腹を撫でます。
膨らんだお腹。
私とユウタ君の愛の結晶。
「どんな子が生まれるのでしょうかね?」
「さてね。でもエリヴィラに似て美人だろうよ。」
「私はユウタ君に似て優しい子に育ってくれればいいです。」
二人で好きだと言ったあの夜よりもずっと強く感じる充足感。
昔よりも、私達が出会ったときよりももっと、ずっと感じられる幸せ。
私はユウタ君の頭を撫で。
ユウタ君は私の頬に手を添えました。
「なぁ、エリヴィラ。」
「はい?」
「愛してるよ。」
そう聞くだけでとても嬉しくなって。
そう言われるだけで心が躍って。
私は頬を赤らめて、ユウタ君に同じ言葉を囁きます。
「私も、愛していますよ。ユウタ君♪」
温かな風の吹く小春日和。
ユウタ君の手に私の手を重ね、互いに顔を近づけて。
そして甘く幸せなキスをしました。
―これは私とユウタ君が出会ったもうひとつの物語―
HAPPY END
「お熱いね〜お二人さん。」
「…何でいるのですか?お姉さん」
「何でって今更聞く?」
「帰れよ。ここはオレとエリヴィラの家だぞ。」
「まぁいいじゃん。実家に帰ったらお母さんが口うるさく言ってくるし。この家広いからわたし一人がいても余裕でしょ?私は全然いいからさ。」
「私達が良くないのですか…。」
「でも、この家の収入の三分の一は私でしょ?」
「その三分の二はオレだ。」
「でもその姿で外を十分に歩けないでしょ?その分私が買い物とか行ってあげてるじゃん。」
「…。」
「ゆうた、成長止まったもんね〜。未だに18歳の学生姿。そんなんじゃ近所から気味悪がられるし、ろくに仕事もできないっていうんでこんな片田舎に引っ越してきたんでしょ?」
「それは…そうだけど。」
「誰のせいでこんなんになんちゃったんかな〜?」
「…それは…私ですよ。もっと…ユウタ君とずっと居たくて…。」
「エリヴィラ…!」
「ユウタ君…!」
「お熱いね〜本当に…。」
「そういうわけだから帰れ。今から愛の営みをするんだから。」
「そういうわけですから帰ってください。」
「はいはい、それなら私は向こうの部屋で子供達と戯れますよ〜。それにしてもさ、何なのあの子達は?」
「私達の子供ですが?」
「いや、一番初めの子供はエリヴィラさんに似て下半身蛇だけどさ、二番目の子供。あれの胸の大きさ異常じゃない?角生えてて。それで、なんであんな幼いのに胸大きいの?」
「…羨ましいのか。お前いまだにぺったんこまな板だか―へぶっ!!?」
「ユウタ君っ!?」
「まったく…それじゃ、子供達のところいってくるからご自由に〜。」
「…行った?」
「ええ、行きましたよ。」
「それじゃ、エリヴィラ。」
「はい、ユウタ君♪」
「あー、だからそんなもので遊んじゃいけないって言ってるでしょ!」
「…ん?」
「何…でしょう?」
「確かにそれからはお父さんとお母さんの臭いがするけどね、その枕使って毎晩生々しいことしてるんだよ。」
「…え?生々しい?」
「枕って…!?」
「わかったよ。それじゃあその『YES−YES枕』を持ってる子が勝ちね。よーいスタート!!」
「「!!?!」」
こんな日常でも幸せです!
「ちゅっ。」
触れるだけのキス。
さきほどした私からの一方的なものではなく、二人でともに重ねる唇。
お互いの気持ちが重なっているからでしょうか。
それはさっきよりも甘く。
さっきよりも心地よく。
まるで蕩けるような感覚でした。
「んん…なんだか…少し恥ずかしいですね…。」
「あはは、そうだね。」
私達はともに小さく笑いあいました。
さっきしたのとは違うキス。
とても良くて、とても甘くて、そして少しばかりの気恥ずかしさを感じます。
それでも…。
「嫌ではありません…。」
「そうだね…。」
体の内側から炎で焼かれるかのような熱さ。
でも、それが嫌ではありません。
とても、心地いい。
そっと手を伸ばしユウタ君の手をとれば、彼は私の手を握ってくれました。
優しく包むように。
指を絡めて存在を確かめるように。
互いに伝わりあう温もり。
絡めあった指から流れる心地よさ。
とても安らぎます。
もっと触れ合うようにユウタ君の体に私の体を巻きつければ、彼は笑って受け入れてくれました。
「いいよ。」
その一言さえとても嬉しくなってしまいそうです。
ユウタ君の行為のひとつひとつが。
彼の言葉の一言一言が。
私の気持ちを昂ぶらせ、私の感情を高揚させます。
全てが優しく。全てが心地よい。
一人だった私には絶対に感じることはできなかった感覚。
あの私には抱けなかった気持ち。
これが、幸せというものなのでしょうね。
彼の頬を、首を、肩を、脇を、撫でながら手を下へと移動させていきました。
そのまま背へ手を回して、ユウタ君の頬にそっと唇をおとします。
「んっ。」
くすぐったそうに身をよじるユウタ君。
嫌ではないと意思表示するかのように私の背に腕を回して抱きしめてくれました。
今度は鼻先にキスを。
瞼に、額に口付けを。
愛おしい存在であるユウタ君に私の証を残したい。
私のものであってほしい。
同時に、ユウタ君のものでありたい。
そんな想いとともに唇を付けて―止まりました。
ユウタ君の額。
痛々しいガーゼが付けられています。
昼間、私を助けようとその身を挺して救ってくれたときにできた傷。
私はそのガーゼの上から魔力を込めてキスをします。
一瞬、傷が光りました。
光が収まるころにはもう―
「…ん?痛くない…?」
ユウタ君はガーゼの上から傷に触れました。
「?傷が…ない?」
「はい。あまりにも痛々しくて…治してしまいました。」
「…すご。」
ユウタ君は私の顔を見て驚き、そして微笑みます。
「魔法って奴かな?」
「はい。治癒魔法です。」
「本当にすごい。オレのなんかただのキスにしかならないのに…。」
そう言って私の唇に重ねてきました。
甘い感触。
優しい快感。
ユウタ君はただのキスにしかならないといいましたが…これは。
「ユウタ君のキスは…魔法以上です…。」
「え?何で?」
「だって…その…。」
されただけでとても気持ちが良くなってしまうのですから…。
そう言うとユウタ君は照れたように頬を掻きました。
「そう言われると…照れる…。」
「本当のことなのですからね。」
「えーっと…うん。」
そうして笑い合って、またキスをします。
甘い感覚は私の意識を蕩けさせ。
甘美な感触は私の想いをより強くさせます。
そしてその想いは体のほうにも現れ始めました。
私の、女性として最も敏感な部分。
そこがユウタ君の男の部分と触れ合うように体が自然に動きます。
「んんっ♪」
「んわっ…!」
互いに漏れ出す甘い声。
一瞬触れただけですぐに離れましたがそれでも残る熱いユウタ君の体温。
彼の体から視線を下げていけばそれはありました。
さっき脱がせたときに少しだけ見た彼の男の部分とは似ても似つかないもの。
大きく反れてグロテスクなそれ。
先端は先ほど私のものと触れ合ったときに付いた粘液が月明かりに光っていました。
妖艶に光るそれ。
これが…ユウタ君のもの…っ!
始めて見ましたが…グロテスクで…いやらしくて…とても―
愛おしい…っ!!
ユウタ君のものを見ただけで私の体の奥が疼きます。
魔物としての本能が私を支配しようとします。
彼が欲しいと。
ユウタ君の全てが欲しいと…!
今更ここまで来て抗えるわけもなく。
私は彼の体を押し倒しました。
「おわっ!?」
ベッドに倒れこんだユウタ君。
驚いた顔で私を見ています。
今の私はいったいどんな表情をしているのでしょうか…。
おそらく私自身が見たことのないような表情をしているのでしょう。
ユウタ君が欲しいという欲望に塗れたいやらしい顔を…。
「ユウタ君…もう、止まりません…。その…いいですか…?」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」
ユウタ君は慌てたように手を振り私の行動を止めました。
何でしょうか…やはり私とするのは…嫌なのでしょうか…?
やはり人外の存在とは…相容れないのでしょうか…?
ユウタ君は不安がる私に微笑みかけ、そして言いました。
「そんな泣きそうな顔しないで。ちょっと必要なものがあるだけだから。」
「必要な…もの?」
「そう。」
ユウタ君はベッドについていた小さな引き出しの中から何かを取り出しました。
銀色の紙で包まれているような薄いそれ。
魔法アイテム…でしょうか…?
「ユウタ君…それは?」
「これ?これはコンドーム。」
ユウタ君はそれをぴらぴら揺らしながら言いました。
コンドーム…?
何でしょうか?なにかとても面妖な響きですが…。
「早い話が避妊道具ってやつだよ。」
「避妊…?」
「そう。薄い膜でオレのものを包んで間接的にするっていう避妊道具。まさか友人にもらったのが役に立つ日が来るなんて…。」
…なんで避妊なんてするのでしょうか?
体を重ねる行為はもともの子を成すためのものでしょう?
「さすがにいきなりできちゃったらまずいでしょ?」
「いや、むしろできてくれたほうが嬉しいのですが…。」
「オレもそっちのほうが嬉しいけど…でもオレはまだ学生だし。責任、取りきれないからさ。」
責任ですか…?
それは…私を…。
「ユウタ君は私を捨てるつもりなんですか…っ!?」
「しないよ!!そんなこと!」
まっすぐ私を見て言い切ってくれました。
嘘ではない本当の言葉。
ユウタ君は私を見つめて真面目な顔で言います。
「オレはまだ十分に働けない学生。だから…子供ができてもエリヴィラさんと子供を十分に養えないかもしれない…。」
「ユウタ君…。」
「だから…ね。オレは嫌な思いをさせたくはないんだよ。…その、好きな人には特に…。」
とても嬉しい言葉。
私を…好きだって言ってくれて…。
「エリヴィラさん…好きだよ…。」
私はその言葉にまた涙しました。
高鳴る胸の鼓動を感じて。湧き上がる充足感に包まれて。
流れゆく雫はまたユウタ君が優しく拭ってくれました。
「ユウタ、君…。」
「エリヴィラさん…。」
何度目かわからないキスをして、ユウタ君は微笑んでくれました。
本当に…いい人です…。
私はそのユウタ君の全てを受け止めたい。
だから私はユウタ君の手を両手で握りました。
ユウタ君がそのコンドームというものを持っている手を。
そっと握ってそして、魔力を込めて―
燃やしました。
一瞬のうちに灰になる銀の紙。
中に何が包まれていたのかは分かりませんが塵も残さずに全てが消え失せました。
「えええええええぇぇ!?!?あ、ちょ!?燃えてんじゃん!?これひとつしかもらってないのに!!」
そんなもの、知りません。
そんな邪道なものはあっていいわけないのです。
愛の営みなのですよ?
互いに肌を合わせ、自身を重ねる行為なのですよ?
間接的にしたくはありません。
もっとしっかりとユウタ君を受け止めたいのです。
「やっぱり私は…その、ユウタ君と直接したいのです…!」
「え、いや、だからって…。」
「ダメ…ですか…?」
固まるユウタ君。
少し唸り、悩んで私を見て言いました。
「仕方ないな…。まぁ…いざとなったらギリギリで抜けばいいか…。」
何かを小さな声で言ったユウタ君。
しかしその言葉はしっかりと私の耳に届いていました。
「それでは…その、してくれますか…?」
「えっと…よろしくお願いします。」
互いに赤くなった顔で唇を重ね、そしてその先の行為へと進む。
私の女の部分と、ユウタ君の男の部分を触れ合わせる。
「んっ♪」
「っぁ…。」
私のそこは既に濡れていました。
自分で一人淋しく弄っていたころよりもずっと多い粘液が滴りシーツへ滴ります。
見ていて恥ずかしくなりそうでした。
ですが、ユウタ君にはもっと見てもらいたいと思えました。
擦り合わされるユウタ君のものと私のそこ。
先ほど触れ合わせたときよりも強く甘い感覚が私達を包みます。
ユウタ君は私の腰を抱き寄せ、私はユウタ君の背へ腕を回しました。
そこで止まるユウタ君の体。
困ったように私を見ます。
「?どうしたのですか?」
「えっと…その、初めてだからさ、上手くできなかったら…ごめん。」
「そんなこと関係ありませんよ。私も初めてですから。」
「そっか。」
互いに初めて。
その事実がこそばゆくて、とても嬉しくて。
私はユウタ君と額を合わせました。
「二人で…一緒に上手くなっていきましょう…。」
「だね…。」
軽く唇を重ね、ユウタ君は腰に力を入れてきました。
ゆっくりと私の中へと進んでくるユウタ君のもの。
掻き分けて進入してくる熱くて硬いそれ。
私の中で何かが破れた感覚と、中をごりごりと擦る感覚が体中を伝わってきます。
痛みを感じる暇なく、びりびりとした強い快楽が私の体を支配しました。
「あ、あぁぁ、あん♪」
思わず出てしまった声。
感じたことのない甘い快楽に私は抗う術を知りません。
ユウタ君の背に回された腕に力が入り、私の体がユウタ君の体を強く巻き、より強く繋がろうと力をこめます。
ユウタ君を見れば、震える体で耐えるように眉をひそめていました。
「ユウ、タ君…♪」
「エリヴィラさんっ…!」
快楽に耐える表情。
私との体を重ね、私の体で気持ちよくなってくれているということが女の本能を満たしてくれます。
私の体の中に…ユウタ君がいる…。
とても熱くて、とても硬くて、とても逞しくて…。
力強く脈打つ彼が私の中で感じられて…。
その事実がさらに私を昂ぶらせます。
ゆっくりと進んでくる彼のもの。
それはやがて私の奥へたどり着きました。
こつんという軽い衝撃。
「―ぁっ!!」
ユウタ君の先端は私の奥の壁を―子を成す部屋の入り口を叩きます。
それは私の中でとてつもない快楽へと変換されました。
感じたことのないほど膨大な量の快感。
私の体を駆け巡るその感覚に私は耐え切れませんでした。
「あああああぁぁあぁあああっ♪」
目の前が白くなります。
火花でも散るかのように意識がはじけ、体が震えました。
ユウタ君の背に回された私の腕はより強く彼を抱きしめます。
もっとこの快楽を味わいたいという本能とともに。
もっと彼を抱きしめ、一緒にいたいという想いとともに。
「ふぅあ、あぁ…あん♪」
「い、痛く…ないの…っ?」
快楽に耐えながらもユウタ君は私を心配して声をかけてくれました。
こんなときでも優しいですね。
本当にいい人です。
貴方と繋がれて…とてもよかったです。
「はいっ♪とても…気持ち良い、ですよ♪」
痛みよりも強い快感に支配されて普通にしゃべることができません。
甘い快楽によって声が震えます。
私の中にいるユウタ君。
見なくてもどんな形なのかはっきりと分かるほど絡みつく私の中。
どろどろな粘液を塗りたくりながら強く抱きしめます。
伝わるのは焼けているのかと思うほどの熱と鋼鉄のような硬さと力強く打たれる脈。
その全てが私に快楽を運んできました。
とても…良い…♪
力を込めれば込めるだけ強い快感が押し寄せて。
求めれば求めただけ甘い感情を抱かせて。
ひとつになって、溶け合いそうで…♪
「ユウタ君、は…どうですか…?」
「すごく…良い…っ!」
快楽に耐える顔でそう言いました。
初めてあったときに見せてくれてたあの心配した表情もよかったのですが…今の表情もとても好きです。
見ているだけで…体が熱くなってきます…!
「動くよ…。」
小さく呟いたユウタ君はゆっくりと腰を動かしました。
優しく、私に痛みを与えないように腰を引き。
「んっ…。」
私の負担にならないように、ゆっくりと差し込みます。
「ふぅっあ♪ああんっ♪」
互いに漏れる甘い声。
自然と繋がれる手。
絡めた指先からも甘い痺れが伝わります。
擦れる、私とユウタ君。
自身を突き入れるたびに私は優しく受け止め。
腰を引くたびに私の中は自然に締まり、彼を離さないように抱きしめます。
それによって生じる快楽は私には耐えられそうにもないほど大きなもの。
ただ抜いて、挿してを繰り返す単調な作業なのにとても気持ちが良い。
声を抑えようとしても快楽に蕩けた声が漏れてしまうほど。
自分から腰を動かしてユウタ君をさらに求めてしまうほど。
「あぁっ♪ユウタ君…とても、いい、あ、ああぁ♪」
「ふっぁ!」
どろどろの私の中はいやらしくもユウタ君のものに吸い付き、強く抱きしめます。
擦れるたびに生じる快楽。
絞めるたびに感じる彼のもの。
吸い付くたびに体を駆け巡る快感。
ユウタ君は下唇を噛んで必死に耐えていました。
その様子がとても可愛らしくて、とても愛おしい…!
私はそんなユウタ君の唇に吸い付きます。
「んんっ♪」
「ふむっ!?」
ユウタ君の口内へと舌を侵入させ、彼の舌に巻きつき、撫で上げ、嘗め回す。
とてもいやらしく。とてもねちっこく。
こんなの…私らしくない…。
…でも。
もっとしたい…もっとしてあげたい…!
口内を撫で上げるたびに私の中にいるユウタ君はびくびく震えます。
硬く逞しかったものがより大きくなってより強く震えて…。
それがいったい何なのか本能が理解します。
それは私の望んでいたことの予兆。
私の本能が求めるもの。
女が求める愛ある証。
ユウタ君は大慌てで口を離しました。
「ちょ、エリヴィラさんっ!もう、ダメだから!ダメだから…体を…!!」
必死に腰を引こうとするユウタ君。
ですが私も必死で彼の体を抱きしめます。
蛇の部分を使い、ユウタ君をより深くより強く抱きしめました。
隙間がないように。
肌と肌が密着して離れないように。
「エリ、ヴィラァ…っ!!」
「出そうなのですね、ユウタ君♪」
「そう、だからっ…体を…うぁっ!」
「いいの、ですよ♪全部受け止めてっ♪あげますからぁ♪」
もっと強く、私の一番奥にユウタ君のものが当たりました。
先端を私の中の子を成す部屋の入り口がユウタ君を離さないように吸い付きます。
彼をさらに奥へと誘うように律動させて。
もっと深く導くようにうごめいて。
もっと彼を感じたくて。
もっと彼が欲しくて。
もっと、ユウタ君と繋がりたくて。
私の体はユウタ君を強く抱きしめました。
「ひぁっ…うぐっ…!!」
「全部、下さい…♪」
びくびくと震えるユウタ君。
その震えが一際強くなったとき。
私の待ち望んでいたものがきた瞬間でした。
「っ!!うぁっ!!!」
「あ、ああぁああぁあああああぁ♪」
今までに出したことのない快楽に染まった声が部屋に響きます。
体内を焼くようなとても熱いマグマのようなものが私の中に流れ込んできました。
とても熱い…火傷しそうに感じるほど。
ですがそれがとても気持ち良い…!
目の前が真っ白になるような感覚で、私の体は快楽に震えました。
脈打ちながら流し込まれるユウタ君の生命の証。
それが私の中を染め上げていく…!
染め上げ、染み込み、私の欲望を満たし、私の本能を刺激する。
まるで私とユウタ君が溶け合い、ひとつになるような感覚。
その感覚はとても気持ちが良くて、とても幸せでした。
「は、はぁ♪あぁ♪ユウ、タ…君♪」
「エリヴィラさん…っ!なんつーことを…っ!」
「とても…良かったですよ…♪」
「それはオレもそうだけど…。」
真っ赤にした顔で睨み付けてくるユウタ君。
さっきは怖く感じれたその顔は半分快楽に溶けた表情。
私の中の欲望を掻き立てるような表情。
私の女の本能を刺激する顔。
私は堪らず腰を動かして、ユウタ君を刺激し、更なる快楽を貪り始めました。
「ぁっ!?ちょ、エリヴィラ、さんっ…んぁ!」
「もっと♪もっとユウタ君が、あっ♪欲しいのです♪」
「だからって…んむ!?」
私はユウタ君の唇に吸い付き、また舌を絡めに彼の口内に侵入します。
甘い快楽。蕩ける快感。
私達を照らしてくれる月に見せ付けるように私はユウタ君と交わり続けました。
時に人のように優しく。
時に獣のように激しく。
時に魔物のように力強く。
更なる快楽を貪り、更なるユウタ君の証を求めました。
夜は…まだまだ長いですから…存分に…ですよ♪
「…んん。」
甘いまどろみの中で私は目を覚ましました。
温かな太陽の光が私と隣で寝ていたユウタ君を照らします。
ユウタ君…。
昨日私と体を重ねた男の人。
私が好きになった人。
安らかな寝顔で静かに息を立てて眠っていました。
「ユウタ君…♪」
太陽に照らされた彼の体。
服を着込んでるはずもなく私と同じ裸の姿。
昨日はこのユウタ君と…。
私はお腹の中に温かさ感じながらそっと撫でます。
昨夜、彼にたくさん出してもらった生命の種。
ここに…ユウタ君の証が…。
その事実がとても嬉しい。
「ユウタ君…♪」
もう一度彼の名を呼び、そっと顔を近づけます。
やはり朝はおはようのキスを…。
甘くて蕩けるような起こし方で…♪
静かに音を立てないようにユウタ君の唇に私の唇を重ね―
「何してんだよ…。」
呼吸が止まりました。
私の体も止まりました。
寝ていると思っていた彼が、今までずっと深い眠りの中にいたはずの彼が!
片目だけ開けて私を見ていました!
眉間に皺を寄せて…。
何かに耐えるように…何かに対して怒るように…!
昨夜ユウタ君の元にやってきた私に見せたような表情で。
とても低い、怒りを隠そうともしない声で。
「ユ、ユウタ君っ!?」
「エリヴィラさん、さぁ…。人の言うこと聞いてくれないで何してくれてんの…。昨日は何回だっけ?何回無理やりしてきたんだっけか…?あれだけ必死に頑張ったのに無理やり体を巻きつけて…。」
ユウタ君は半目でじっと私を睨んできました。
とても恐ろしい形相。
ドラゴンだろうとヴァンパイアだろうと退きそうな恐ろしい顔で。
さらには無言で。
「い、いや、その…。」
「…。」
「ユ、ユウタ君が悪いのですよ!ユウタ君が…あ、愛の営みに…あんな邪道なものを使おうとしたり、ユウタ君が中に出そうとしてくれないから…。」
「…。」
「その…営みは子供を作ることが前提であって…ちゃんと中に出してくれないと…。」
「…。」
「…う…あ…。」
「…。」
こんなとても恐ろしい表情で睨まれて。
無言でとんでもない威圧を感じて。
ユウタ君の無言の怒りは終わりません。
「…う……。」
何も言えませんでした。
悪いのは…私なのですから…。
昨夜、ユウタ君が必死に何度も腰を引いて私の中から抜こうとしていたのは分かります。
その理由がユウタ君がまだ学生というものだからというのも。
私のためを思ってくれていたということも。
それなのに…私は…一人勝手に突っ走って…。
彼の意思を見て見ぬフリをしてしまって。
ユウタ君の顔を見れなくなりました。
私は…最悪ですね。
甘い快楽を、感じたことのない温かさを求めて、ユウタ君の優しさを踏みにじって…。
いけないことだというのに、私はユウタ君の証を欲しがって。
魔物らしく、貪欲に彼を求めて…。
鼻の奥がつんとしました。
目の前がぼやけます。
私は…本当に、最悪ですね…。
ユウタ君の優しさを…感じていて、知っていたのに…それを無下にして…。
ユウタ君に見られないように下を向きました。
しかしベッドに横たわっていて、こんなに近くにユウタ君がいる。
見られたくない泣き顔を…見られる。
私の自己嫌悪による涙を見れば…ユウタ君は困ってしまう。
それなのに…私の目から雫が流れました。
泣きたくないのに、彼を困らせたくないのに。
それなのに涙を止められませんでした。
いつの間にか嗚咽も漏れ、肩を震わせて泣いている私。
こんな…ユウタ君に怒られたから泣いているみたいで。
彼は何も悪くないのに。悪いのは全部私なのに。
本当に私は…最悪です。
そう思っていても涙を止めることはできませんでした。
「…ふぅ。」
ユウタ君が小さく息を吐きました。
その様子が分かったと思ったら―
―私の体は抱き寄せられていました。
「…え?」
「まったくさ…エリヴィラさんは…。」
ユウタ君は困ったように言います。
私の体を強く抱きしめて。
「一人で勝手に突っ走りすぎなんだよ…。」
「…はい、すいません…。」
やはり怒って―
「でもさ…。それ相応の責任は、ちゃんと取らせてもらうよ…。」
「はい………え?」
…え?ちょっと待ってください。
今…ユウタ君はなんとおっしゃいましたか?
「こんな初めては…その、驚きだったけど…。それでもオレは男だしさ。そこらはちゃんとしてるんだから。」
「え、ユウタ君!?でも、私は一人勝手に―」
「それでも。」
ユウタ君は私を抱きしめて、言いました。
優しく、照れるように。
そっと言いました。
「その…エリヴィラさんと一緒にいたいし…さ。」
ユウタ君の顔を見てみれば少し赤くした顔でそっぽを向いていました。
「女性の過失に責任持つのが男なんだよ。」
「ユウタ…君…。」
「それが美人ならなおさらね…だから―
―ちゃんと、責任は取らせてもらうよ。」
そう言いました。
一人突っ走ってしまった私に向かって。
向けるべきではない優しい表情を向けて。
微笑んで言いました。
「ユウタ君…っ!」
自然と涙が溢れてきました。
さっきまで流していたものとは違う、とても温かなもの。
悲しいのではなくて、とても嬉しい。
あぁ、私はなんという良い人に巡り合えたのでしょうか。
今まで洞窟に一人淋しく住んでいた私がこんな良い人に出会えるなんて…。
私はこの出会いに感謝します。
ユウタ君と出会えた幸運に感謝です。
「そんなわけで…これからよろしく、エリヴィラさん。」
「はいっ!ユウタ君…!」
そう言って温かな朝日の下。
私とユウタ君はそっと。
甘く優しく温かな口付けを交わしました。
「朝ごはん、作らないと…。」
ユウタ君は階段を私と共に下りながらそう言いました。
「それなら私も手伝いますよ!私も料理は得意なんですから!」
「そっか、それじゃ頼むわ。」
「はいっ!」
こんなふうに私を頼ってくれるととても嬉しいですね。
今まで旦那様のために磨いてきた料理の腕が役に立ちます。
「早く作らないと…あいつが起きるしね…。」
「あいつ…?お姉さんですか?」
「そ。あれは朝ごはん作ってやらないと食べないからね。親が留守の日はオレか姉ちゃんが作らないと一日中食べずに過ごすから。」
…なんというお方なのでしょうか。
誰かに作ってもらわないと食べないのですか。
そんなに自分で料理をするのが嫌なのでしょうか?
「そんじゃ、朝は軽めな食事として卵を使って―」
ユウタ君がそう言ってリビングへ繋がるドアを開けました。
言葉が止まります。
というか、体が固まりました。
私も、ユウタ君も。
リビングの大きなソファー。
二人座っても十分に広いソファーの真ん中で胡坐をかいて、クッションを抱きしめて。
半目で私達を睨むお姉さんの姿がありました。
ユウタ君が睨んできたときよりも迫力がある睨みで。
私とユウタ君を射殺さんというほどの眼力で。
静かに声を出さずに私達を見ていました。
怖いです。
はっきり言って、怖すぎます。
ドラゴンだろうとヴァンパイアだろうとバフォメットだろうと…おそらく名のある勇者でも足がすくんでしまうに違いないほどの恐ろしさです。
そんな恐ろしさをかもし出すお姉さんがゆっくりと口を動かしました。
「…飯。」
「…は?」
「さっさと飯作れ!!」
地の底から響いてくるような声で怒鳴ります。
とてつもなく恐ろしい!
女性が出せる怖さじゃない!
何なのですか?人なのですか!?
お姉さんは睨んだまま口だけを動かして何かを呟きます。
「飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯。」
不気味に何を呟いているのですか!?
この人呪詛呟いてませんか!?
一国を崩壊させるような呪いでも発動させるかのような恐ろしさです…!
「まったくさ…昨晩は本当に頑張ったね?とんでもなく張り切ったね?あんな大声まで出してさ!!」
…大声?
え、それってもしかして…。
「エリヴィラさんはさぁ!『あ♪いいですぅ♪ユウタ君のっ♪もっと、もっと下さいぃ♪』とか大きな声で言っちゃってるしさぁ!」
「っ!?!!??」
ちょ、この人!?何を言ってるのですか!?
確かに昨夜言いましたけど、それでも、それを今言いますか!?
意外と声真似が上手ですし!
「アンタもだよ!ゆうた!『ちょ、エリヴィラさんっ!もう、ダメだから!ダメだから…体を…!!』とか大声で言うなよ!こっちはうるさくて恥ずかしくて寝られないよ!!」
「ぶっ!?お前何を!?」
堪らずに吹き出すユウタ君。
結構最初のほうで言ったことですよね?
…ってことは!?
「二人ともさ!声が大きすぎんの!別にやっちゃ悪いなんて言わないよ!言わないけどね!もっと声小さくしてやれっていうの!!」
全部…聞かれて…!?
そう分かった瞬間私の顔がとても熱くなりました。
ユウタ君を見れば顔を茹でられたかのように真っ赤にしています。
「生々しいこと朝っぱらから言うなよ…。」
「生々しいこと一晩中やってたあんたが言うな。」
「それはそうだけど…。」
ユウタ君が太刀打ちできていません。
それどころか一方的に押されています。
明確な上下関係。
…ユウタ君、苦労してますね。
「と・に・か・く!!」
お姉さんの睨みが一段ときつくなります。
「さっさと朝飯作れ!!!」
「「は、はいっ!!」」
揃った返事とともにキッチンへ向かう私とユウタ君。
その揃い具合といい、私達の息の合い様といい。
思わず二人で顔を見合わせて笑ってしまいました。
「笑ってないでさっさと作れ!!」
一軒家に響く大きな怒鳴り声。
そんな声も幸福に感じてしまうほど私は今とても幸せでした。
理想の男性と出会えて。
彼に好きだと言われて。
この人に一緒にいたいと告白されて。
エリヴィラ・アデレイト
私は今、とても幸せです!
「ふぅ…。」
私は目の前に置いてある写真を見て一息つきました。
この世界に来てからいろんなことがありました。
見たことのない道具。
触れたことのない物。
記憶にない文字。
様々なものを見て、聞いて、感じました。
そして、私の想い人と出会って。
感じたことのなかった幸せを感じて。
この幸せがずっと続いていて欲しいとよく願います。
永遠にこうやっていたいと思います。
写真には私と彼と私。
二人でにこやかに笑っています。
この頃は幸せでしたね。
別世界から来た私を、一人突っ走ってしまった私を受け止めてくれた彼と出会って。
本当に幸せでした。
でも今は…。
「んっ。」
開けた窓から温かな春の風が入ってきました。
わたしの頬を撫で、甘い花の香りを運んできます。
こうやってもう何度春を迎えたのでしょうか。
あの頃の幸せはもう過去のこと。
いずれ過ぎてしまうもの。
それがどんな幸せでも。
どんな幸運でも。
彼を好きだという気持ちは終わりを向かえそして―
「ん…。エリヴィラ…?」
―愛しい想いへと変わる。
私の膝の上で眠っていた愛しの旦那様が目を覚まし、私を見つめます。
とても優しげな表情で。
私を受け止めてくれたときに見せた、あの顔で。
「ユウタ君。」
私は旦那様の名前を呼びました。
ユウタ君はそれに微笑み、私のお腹を撫でます。
膨らんだお腹。
私とユウタ君の愛の結晶。
「どんな子が生まれるのでしょうかね?」
「さてね。でもエリヴィラに似て美人だろうよ。」
「私はユウタ君に似て優しい子に育ってくれればいいです。」
二人で好きだと言ったあの夜よりもずっと強く感じる充足感。
昔よりも、私達が出会ったときよりももっと、ずっと感じられる幸せ。
私はユウタ君の頭を撫で。
ユウタ君は私の頬に手を添えました。
「なぁ、エリヴィラ。」
「はい?」
「愛してるよ。」
そう聞くだけでとても嬉しくなって。
そう言われるだけで心が躍って。
私は頬を赤らめて、ユウタ君に同じ言葉を囁きます。
「私も、愛していますよ。ユウタ君♪」
温かな風の吹く小春日和。
ユウタ君の手に私の手を重ね、互いに顔を近づけて。
そして甘く幸せなキスをしました。
―これは私とユウタ君が出会ったもうひとつの物語―
HAPPY END
「お熱いね〜お二人さん。」
「…何でいるのですか?お姉さん」
「何でって今更聞く?」
「帰れよ。ここはオレとエリヴィラの家だぞ。」
「まぁいいじゃん。実家に帰ったらお母さんが口うるさく言ってくるし。この家広いからわたし一人がいても余裕でしょ?私は全然いいからさ。」
「私達が良くないのですか…。」
「でも、この家の収入の三分の一は私でしょ?」
「その三分の二はオレだ。」
「でもその姿で外を十分に歩けないでしょ?その分私が買い物とか行ってあげてるじゃん。」
「…。」
「ゆうた、成長止まったもんね〜。未だに18歳の学生姿。そんなんじゃ近所から気味悪がられるし、ろくに仕事もできないっていうんでこんな片田舎に引っ越してきたんでしょ?」
「それは…そうだけど。」
「誰のせいでこんなんになんちゃったんかな〜?」
「…それは…私ですよ。もっと…ユウタ君とずっと居たくて…。」
「エリヴィラ…!」
「ユウタ君…!」
「お熱いね〜本当に…。」
「そういうわけだから帰れ。今から愛の営みをするんだから。」
「そういうわけですから帰ってください。」
「はいはい、それなら私は向こうの部屋で子供達と戯れますよ〜。それにしてもさ、何なのあの子達は?」
「私達の子供ですが?」
「いや、一番初めの子供はエリヴィラさんに似て下半身蛇だけどさ、二番目の子供。あれの胸の大きさ異常じゃない?角生えてて。それで、なんであんな幼いのに胸大きいの?」
「…羨ましいのか。お前いまだにぺったんこまな板だか―へぶっ!!?」
「ユウタ君っ!?」
「まったく…それじゃ、子供達のところいってくるからご自由に〜。」
「…行った?」
「ええ、行きましたよ。」
「それじゃ、エリヴィラ。」
「はい、ユウタ君♪」
「あー、だからそんなもので遊んじゃいけないって言ってるでしょ!」
「…ん?」
「何…でしょう?」
「確かにそれからはお父さんとお母さんの臭いがするけどね、その枕使って毎晩生々しいことしてるんだよ。」
「…え?生々しい?」
「枕って…!?」
「わかったよ。それじゃあその『YES−YES枕』を持ってる子が勝ちね。よーいスタート!!」
「「!!?!」」
こんな日常でも幸せです!
11/03/30 21:44更新 / ノワール・B・シュヴァルツ
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