連載小説
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前編
ここは…いったいどこなのでしょうか…?
私の住居である洞窟から魔法でここまで来ましたが…こんなところに出るとは思ってもいませんでした。
地面が硬い…。
石畳にしては継ぎ目がありませんね…だからといって地面にしては硬すぎる。
色も土色ではなくて灰色?でしょうか?
それにこの地面が続く道の先。
なにか柱のようなものがいくつも等感覚で並んでいます。
上には黒い綱のようなものがあって…何なんでしょうか?
不思議なところですね。
ここは親魔物国でしょうか…それとも半魔物国でしょうか。
道行く人に尋ねるのもいいでしょうけど…さっきっからなんで歩いていく人たちは不思議なものを見るように私を見ていくのですかね…。
私の変身がばれました?
人間になっていることがばれたのでしょうか。
いや、それはありません。
反魔物国にさえ気づかれることなく入り込めた私の変身がばれるなどあるはずがありません。
ならなんで…。
歩き出しながら周りを観察します。
ふむ…奇妙な服装をしていますね。
剣を持つ人がいない…戦士はいない国なのでしょうか…。
それに皆が皆黒髪黒目…ここはジパングなのでしょうか?
ジパング人。
私の知る限りでは皆礼儀正しく誠実だといいますが本当なのですかね?
奇妙な服を着て、奇妙な道を歩き、奇妙な目で私を見て。
…失礼ですね。
人をそんなに変な目で見て。
そんなことを考えながら歩いていると急に目の前を立ちふさがれました。
立ち塞いだのは4人の男性。
金髪、赤茶色の髪、小柄、長身。
この人たちはジパング人ではない…いや、髪の毛の色が不自然ですね。
痛んだ色をしているところから染めているのでしょうか。
その中の金髪男性が私に声をかけてきました。
「お姉さん、変わった格好してるじゃんよ。それなんのコスプレ?」
「コスプレ?」
聞きなれない言葉に私は首を傾げます。
コスプレって…何ですか?
「まるでゲームにでも出てきそうな街娘の格好じゃんよ。髪も緑だし。まるで外人みてー。そんなモンよりかもっと似合うもん買ってやるからさ俺達と一緒に来ない?」
金髪男性は下品な笑いを浮かべました。
他の三人も同じような笑みです。
…嫌な笑みですね。
以前もこのような笑みを浮かべてきた輩がいました。
下品な目的のために私を誘おうとする男性。
暗がりに連れ込んでは力任せに襲ってくる者。
イヤですね。
心底汚らわしい。
「そうですね…それじゃあ。」
私は手を男性の頬に添えました。

まったく、弱い人たちです。
あのまま軽めのビンタをお見舞いしてあげたらそれだけで気を失うなんて…。
軽くやっただけなのですが…かなり遠くまで転がるなんて思ってもいませんでした。
意外と軽い人ですね。
その様子を見ていた他の三人は血相変えて逃げ出してしまいましたし。
まったく、弱い。
あんな男性とは子を成したくはありません。
こんなところで愛しの旦那様を見つけられるか…不安になってきましたよ。
しばらく歩き続けて私は足を止めました。
何でしょうか…これは。
音です。なにやらうるさい音が響きます。
そして目の前に何か黄色と黒色の線が入った棒が降りてきました。
まるで私の行く道を遮るかのように。
邪魔ですね。
下を潜ろうとも思わずに振り返り、来た道を戻ろうとしたら向こう側も同じように棒が降りていました。
何なのでしょうか…。
新手の魔法アイテムとでも言うものでしょうか。
そんなことを考えていると棒の向こう側で叫んでいる人たちが目に入ります。
何を必死そうに叫んでいるのかわかりません。
皆して慌てて、口々に「何しているんだ!」とか「すぐにそこから出て!」など。
いったい何なのでしょう?
そう思ったそのとき。

パァァァァァァァ!!

何かとても大きな音とともに、見たこともないものがこちらへ突っ込んできました。
四角く長く、横から見れば長方形で銀色に輝くそれ。
先端が光っています。光魔法でも使っているのかとんでもない明るさです。
そのままとんでもないスピードで進むそれ。
どうやらあの長方形のものは私にぶつかろうとしているみたいです。
邪魔ですね。魔法で消しとばしましょうか。
棒の向こう側で騒ぐ人たちを見ず、目の前へ迫る長方形へ向けて私は魔法を使おうと手を出そうとしたそのときです。

「何やってんだっ!!?」

一人の男性の声。
それとともに抱きかかえられ地面を転がる私の体。
土より硬い地面で何度も回転し、その隣をとんでもないスピードであの長方形が走り抜けていきます。
「っつ…。」
やはり硬いですね、この地面は…。
地面に転がったことで衝撃が私の体を突き抜けました。
それなのに外傷らしいものは何一つない。
気づけば。
私は一人の男性に抱きしめられていました。
どうやらこの男性が私に傷が付かないように抱きしめたのですね。
「ったた…。ったく、何してんだよ。」
男性は固く締めた腕を解き、私の顔を見ました。
黒髪黒目。
少し幼さが残るような…でも十分に青年の領域まで達している顔がそこにはありました。
よく見れば服も上下ともに黒。
全身を黒一色でまとめた青年です。
「何で自殺なんかしようとしてんだよ…。」
自殺…ですか。
そんなつもりはなかったのですけど…なるほど、やはりあの長方形はそれほど危険なものなのですか。
ということは…この青年は私を助けてくれたということですね。
青年は立ち上がり、私に手を差し伸べます。
さっきの男性達とは違う心配そうな表情で。
私を…心配してくれているのでしょうか?
私はその手を握り、立ち上がります。
「どこも打ってない?」
青年は心配そうに私の体を見ました。
…ちょっと照れますね。
今まで私の体をいやらしい目で見てくる男は何人もいましたけど、ここまで純粋に心配してくれるのは嬉しいですね。
今まで一人で生きてきましたから…こうやって心配されたのも初めてです。
「痛いところは?」
「あ、ありません…。」
「そっか、よかった。」
青年は微笑みました。
額から赤い液体を一筋垂らして。
「あ、血出てますよ!」
「ん?あ。」
さっき私をかばって地面を転がったときに傷でもできたのでしょうその傷からは赤い血が滴ります。
しかし青年は別に気にしたようもなく笑います。
「このぐらい死にはしないって。」
…気にしないのですか。
少し呆れてしまいました。
もう少し体を大切にしましょうよ。
「それよかこれからいったいどうするんだよ?」
「はい?」
「まさか…また自殺するつもりじゃないだろーな?」
まさか。
そんなことあるわけありません。
私はここまで愛しの旦那様を見つけにやってきたのですよ?
旦那様といちゃいちゃラブラブしっぽりと…を夢見ているんですよ?
その夢を実現しないまま死ねません。
「せめて…家まで送るけど?」
「あ、いえ…あの…。」
家まで送るって…とても遠いですよ?
それに今日はこの国で宿でもとっていこうかと思っていましたし。
とりあえず。
「どうしたん?」
「その…家…遠いですよ?」
「遠くても送るよ。また自殺されちゃたまらないし…。」
「国外ですよ?」
青年の顔が固まりました。
さすがに国外の洞窟は遠すぎますよね。
「それじゃ、ホテルとかとってないの?」
「ホテル…ですか?」
「そ。泊まるとことか。」
何でしょうか。ホテルって?
口ぶりからするに…宿屋のようなものでしょうか?
「とってはいません。」
「……死のうとした人間がとるわけないよな。なら行く宛ては?」
「特にないです。」
「…。」
青年の顔が険しくなりました。
ころころ表情が変わって見ていて飽きませんね。
「えー…あー…うー…。」
唸りだしました。
面白いですね。
青年はそのまま悩み続けます。
「…よし。」
青年は何かを決心したように顔を上げ、私を見ました。
黒い瞳に私の顔が映し出されます。
混じりけのない黒色。
綺麗ですね。
「うちの家にでも来る?」
「え?」
これは勧誘ですか?
誘われているのですか?
「勘違いしないでくれよ。あなたがまた自殺しないための監視も兼ねたもんだから。それに今家じゃ親は旅行。姉ちゃんは大学。家にいるのはオレともう一人。せめて泊まる部屋くらいなら貸せるよ?」
この青年の家に…ですか。
行く宛てもない私にとってその提案は願ってもないものですね。
宿屋をとらずにすみましたし。
それに―
「ん?嫌だった?」
私は青年を見つめました。
黒髪黒目で、服まで黒一色の青年を。
血の滴った顔。
それでもそこからは優しさを感じさせていて。

―なぜだか興味を惹かれますね。

「よろしくお願いします。」
私は青年にお願いするのでした。
少しの間この青年の世話になりましょう。
この青年の内を見せてもらいましょう。
もしかしたら…この青年が私の旦那様に…。
それも…いいですね。
「名前、聞いてもいいですか?」
「おっと、そうだった。」
青年は顔に滴る血を拭って私を見据えて。
言いました。

「オレは黒崎ゆうた。よろしく。」

黒崎…ゆうた…?
何でしょうね…その名前。
なんだかどこかで聞いたことがあるような気がします。
それにその顔も…どこかで見たような気が…。
まるで…別の世界で出会っていたとでも言うような…。
…気のせいですよね。
私とこの青年とは初対面なのですから。
どこかで会っているはずがありません。
「エリヴィラ・アデレイトです。」
「…エリヴィラ?」
青年は―ユウタ君は不思議そうな顔をして私の名前を呟きました。
どうしたのでしょう?
「あ、いや、なんでもない。なんだかどっかで会った気がしただけで…。」
私と同じようですね。
ふふふ、なんだか運命的なものを感じます。
前世とかで会った…なんてものではないのでしょうか?
「そんじゃ、行こうか、エリヴィラさん。」
「はい。」
私は頷き、ユウタ君の隣を歩くのでした。

「ただいまー。」
「おじゃまします。」
灰色の壁。黒い屋根。石を積んで作ったには綺麗すぎる塀。
横には何かを入れるための広い空間。上には屋根らしきものまであります。
変わった家ですね。
私の知っているものはもっと茶色で煤けて、ここまで綺麗なものではありませんよ。
不思議なところですね。
家の中に入り、靴を脱いであがっていくユウタ君。
…靴を脱ぐのですか?
「何してるの?」
「あ、いえ。」
とりあえず靴を脱ぎ、ユウタ君が脱いだ黒い靴の隣に揃えて私もあがります。
家の中は意外と同じものなのですね。
目の前にある階段も、手すりも、床は木でできているのも同じです。
ただ…この扉は何でしょうか?
ドアノブが見当たりませんね。
扉に絵が描かれていますよ。なにか…木のようなものが。
「そこは和室ね。リビングはこっち。」
ユウタ君はひとつの扉を開けました。

「ん。お帰り。」

そこにいたのは一人の少女。
黒い服を纏って、黒いスカートをはいた女の子。
この子も黒髪黒目。
同じジパング人ですか。
どことなくユウタ君と似ている気がしますが…。
家族、ですかね?
「こいつはオレの双子の姉ね。今この家にはオレとコイツしかいない。」
「はぁ…。どうも。」
双子…でしたか。
道理で目元なんかがそっくりなわけです。
納得しました。
「…誰?外人?コスプレイヤー?」
ユウタ君のお姉さんが怪訝そうな顔で聞いてきます。
疑問は勿論私のことでしょう。
「色々あったんだよ。そんで成り行きで…うちに泊めることになった。」
「…誘拐?」
「しねーよ!!」
「…そ。それならいいや。早くご飯作ってよ。」
大して気にも留めませんか。
それにしても偉そうですね。
お姉さんだからでしょうか。
ユウタ君を顎で使っています。
「わかってるよ。少し待ってて。エリヴィラさんも。」
ユウタ君はエプロンらしき布を付け、台所へ向かいます。
家庭的な男性ですね。
それに引き換えこちらの女性。
…偉そうですね。
板のようなものを一心に見続けていますが…。
これは何なのでしょう?
あの板の中に人が映っています。
あんな中に人が入るなんて…魔法でしょうか?
っていうかユウタ君、頭の出血いい加減気にしてください。
まだ止まらずに出てるじゃないですか。
お姉さんも気にかけてくださいよ…。

「…ふぅ。」
私は湯銭に浸かりながら気が抜けたような息を吐きました。
只今ユウタ君の家のお風呂をお借りしています。
私は湯から立ち上る湯気を見上げました。
今日は色々あって疲れましたね。
思い立ってかなりの魔力を使ってこんな国にきて、自殺者に間違われて。
不思議なところです。
スイッチひとつで明かりがついたり、板の中に人が映ったり。
私の暮らしていた日常と同じところもあればまったく違うようなところもある。
魔法かと思って言ってみれば科学だって言われて。
科学…なんなのでしょうか?
見たこともない長方形のものが走っていますし、車輪が四つ付いた馬車のようなものもあるし。
本当に不思議です。
私はいったいどこの国に来てしまったのでしょうか…。
これじゃあまるで―

―別世界です。

「お湯加減どう?」
「ひゃいっ!」
曇りガラスの向こうから声がします。
ユウタ君ですね。
びっくりしました…。
「と、とてもいいですよ。」
「そっか。そりゃよかった。着替えここに置くから。」
親切ですねユウタ君は。
わざわざ初対面の私にここまで優しくしてくれて。
さっきご馳走になった料理も美味しかったし。
男の人にしては出来すぎとでも言ったところでしょう。
…ただあのお姉さんはその逆でしたが。
「それにしても不思議ですよね。」
「んー?何が?」
「いえ、この国です。」
私は思っていたことを口にします。
「見たこともない板の中に人がいたり、長方形のものが向かってきたり、馬車かと思えばそれ以上に早く走るものがありましたし…。」
「ははは。そっか。」
曇りガラスの向こうでユウタ君が面白そうに笑いました。
どうしたのでしょうか?
私は何か変わったことでも言いましたか?
「なんかエリヴィラさん物語に出てくる人みたい。」
「物語…ですか。」
「そう。テレビも車知らないなんてさ…なんていうかまるで別せ―」
不意にユウタ君の言葉が止まりました。
沈黙が続きます。
どうしたのでしょうか?
「どうしたのですか?ユウタ君。」
私は湯銭から出て、曇りガラスのドアを開けました。
そこで私は気づくべきだったのでしょう。
今まで一人で生きてきた私にとってそれは気づかない方が当たり前というか。
お風呂に入っていたのだから服などは着ていません。
当然下着もです。
その状態で私は湯銭から上がり、ドアを開けたのです。
ドアの向こうにはユウタ君。
あの黒かった服を着替えてラフな格好をしている姿。
頭にはようやく治療をしたらしいガーゼらしきものが張り付いています。
その姿で私の服を畳んでくれていました。親切ですね。
ってそこではありません。
ユウタ君は目を点にして私を見ていました。
私はわけもわからないままユウタ君を見つめていました。
沈黙。
そして真っ赤に染まるユウタ君の顔。
それで気づきました。
いくら人間に変身しているからといって私は一糸纏わずにユウタ君の前にいて。
つまり、裸を見せていて。
そう気づいた瞬間体中が熱くなりました。
「ちょちょちょっ!ちょっとぉ!」
先に動いたのはユウタ君。
顔を真っ赤にしながらすばやくドアを閉めました。
私も遅れて体を腕で隠すように庇いましたが…遅いでしょう。
ドア越しにユウタ君の乱れた息が聞こえました。
さっきドアを閉めるためにとんでもない体力を使ったんでしょうか?
「い、いくらなんでも初対面の男に裸を見せるのはまずいでしょ!」
「す、すいませんっ!」
恥ずかしい。
初めて自分の肌を見られました。
…でもなぜでしょうか?
恥ずかしいとは思っても―

―嫌、ではありませんでした。
11/03/24 22:21更新 / ノワール・B・シュヴァルツ
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■作者メッセージ
ということで主人公がエリヴィラだったらというエキドナルート!
そしてまたお前が出るのか!青年はお前か!

クロクロ洞窟ルートの『孤独と貴方とオレと不安』で出てきたエリヴィラが自分から出会いに行ったら…!?
という物語です。
楽しんでいただければ幸いです。

港ルートを楽しみにしていた方々申し訳ありません!
ただいま執筆中なのでもう少しお待ちを…!

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