連載小説
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後日談
初めて小鳥遊さんと繋がったあの日から、彼女の求めはより過激な物へと変わっていった。
交わることを知ったお互いはその快感を忘れられずにいる。むしろ、もっと欲しがる始末だ。
出来ることならずっと肌を重ねていたいと思うがそうはいかないのが高校生。だが、小鳥遊さんはそうもいかないサキュバスだ。
だからこそある程度の事は仕方ない。仕方がないのだが―










「小鳥遊さんっ!ここは…」
「んっぁ♪」

オレと小鳥遊さんは学校のとある一室で昼だというのに体を交えていた。座ったオレの上に座り込み互いに抱きしめあう対面座位で。
あれから毎日口や胸でもするが必ず膣内に一度は精を出している。そちらの方が満足するし何よりお互いに気持ちが良い。
それ以上に小鳥遊さんは密着するのを好んでいる。より全身が触れ合う体位も好きだった。普段学校生活でつんとしている反動からだろうか。



だが、サキュバスである分積極的というかちょっと行き過ぎなところもあった。



「何で、わざわざ男子トイレで…っ!」
「いい場所、ないから」

アンモニア臭の漂う男のみの空間でオレと小鳥遊さんは個室に入って行為をしていた。
まるでAVやエロ小説の出来事を実際にやるとは思わなかった。小鳥遊さん、自分で言うだけあって本当にむっつりだ。
だが異常な状況だというのに普段以上の高ぶりを感じていることもまた事実。誰かが来てしまう、そんな恐怖と淫魔の快感の板挟み。モラルを通すか欲望に沈むかなんて戸惑ったところで既に体は溺れていた。
肌と肌のぶつかる音を響かせて淫らな声を惜しげもなく零していく。柔らかな乳房に手を伸ばし朱に染まった肌を撫でると広げた翼が壁にぶつかった。
だけど構わない。それ以上に小鳥遊さんは自身の愛欲を満たそうと積極的に貪ってくる。

「あ、ふぁっ♪ん…もっと♪」
「―っ!」

そんな中で耳に届く扉の開く音。もしかしなくても誰かが入ってきた音だ。しかもそれに続く話し声。少なくとも二人、いや三人はいる。
腰の動きを止めて呼吸をも止める。彼らが出ていくまで物音一つ立てないようにと。

だが、小鳥遊さんはそうはしなかった。

「ふ、んっ♪」
「は…っぁ!」

小さな声と共に持ち上げられた腰が落とされた。音を立てぬように静かだったが直接神経を擦られるような快感に呼吸が止まる。
何を、そう言いたげに顔を見れば小鳥遊さんは口元に普段見せない笑みを浮かべていた。

「もうっ少しで、いっちゃうから♪」
「それもっと危ないんじゃないの!?」
「我慢、できない…っ♪」
「っ」

もっと、と声にならない言葉を紡ぐ。こちらの興奮を掻き立ててくる酷く淫らな表情で。
いつも見ている同級生としての顔ではない、オレにしか見せないいやらしい表情だった。
両腕だけではなく翼も尻尾も体へ絡め、極力音を立てまいと腰を揺する。ドアの向こうから聞こえる物音が遮られ背中に冷汗が垂れた。
だからと言って彼女の両腕は緩まない。むしろもっとくっついて耳元で囁かれる。

「あふ、声、出ちゃいそう」

見えない瞳はきっと笑っていたことだろう。頬擦りして、ねだるように唇を突出して、艶やかな舌がなぞっていく。これでは脅しなのかおねだりなのかわからない。
僅かに開いた唇から甘い吐息が零れていく。そこへ嬌声が混じるのも時間の問題だった。

「あぁ、もうっ」

後頭部へと腕を回しその唇を自分の唇で塞ぐ。離れぬように力を込めて、声を漏らさぬように密着させて。
開いた唇の間から当然のように小鳥遊さんは舌を差し込んだ。唾液を啜り舌を絡ませ歯をぶつけるほどに深くまで繋がり合う。
もはや耳に届くのは押し殺した交わりの音のみ。次第に近づく絶頂を感じながらばれないようにと願いつつ腰を揺すって―

「っ♪」
「!っ」

絶頂の震えを押し留めようと抱きしめあった。いつものように膣内へと精液を注ぎ込めば応じるように締め上げられる。媚熱に溶けた膣内は口の如く蠢き啜り一番奥へと絞りとってくる。
それに伴う快感を押し殺そうと回した両腕に力を込める。呼吸すら止まる程の快感とばれてはいけない事情が頭の中を白く焼いた。
ドアの向こう側に誰かにばれてしまうかもしれない。学年一の才女と淫らなことをしているという事実が言いふらされるかもしれない。薄い壁一枚隔てた個室での行為は嫌な緊張感を覚えさせながらも筆舌しがたい興奮を湧き上がらせた。

「………んっ…興奮しちゃった」

長く続いた絶頂の後。気怠い体で物音がしないことを確かめると小鳥遊さんは熱っぽくつぶやいた。

「ばれてたらどうするつもりだったのさ…」
「すごかった」
「ああ、もう。エロ小説の読みすぎ」
「でも、ゆうた君も興奮してた」
「それは…そうだけど」

下腹部を濡らす混ざり合った体液が床に大きく広がっていく。それは紛れもない高ぶりの跡だった。
だが高ぶりは未だ止まないのかオレのものは硬さを保ったまま。そして小鳥遊さんもまた同じようにオレの背へと回した腕を解こうとはしない。腕時計を見れば次の授業まであと十分も残っていないのにだ。

「それじゃあ、おかわりも…」
「あの、時間は?」
「こっちの方がずっといい」
「それでいいのか優等生…」
「んっ…」

オレの言葉など気にすることなく唇を重ねてくる小鳥遊さん。そんな彼女にやはり翻弄されて、結局物音を立てぬように再び行為に溺れていくのだった。










授業開始の三分前。同級生の誰もが教室に戻っている時間帯にオレは小鳥遊さんの後ろをついて歩いていた。
分厚い眼鏡に整った黒髪。片手に持った小説とマイペースな足運び。翼も角も、尻尾も白い一房の髪の毛も上手く隠れている。誰がどう見て普通の、いつもの小鳥遊さんの姿だ。
だがその眼鏡に隠れた瞳を知るのはきっとオレぐらい。乱れる姿も、人ではない姿もまた同じ。ちょっとした優越感を抱くのだがやはり疑問が残ってしまう。

「小鳥遊さん」
「ん?」

進めていた足を止めた彼女は分厚い眼鏡越しにオレを見据える。そんな彼女へオレは疑問となっていたものを尋ねた。



「どうしてオレを好きになったのか聞いていい?」



今更何を聞いているんだ、と思われるかもしれない。だが疑問を抱いたままでは納得できない。やはり知りたいと思ってしまう。
それだけオレの中で印象が薄いというか、これといった出来事が浮かばない。だからこそ何をきっかけにしたのかぐらい知っておきたい。

「…」

伊達眼鏡を額へ上げて切れ長の瞳を近づけてくる。
その中に映されたオレの顔。困惑に眉をひそめているが小鳥遊さんはしばし見つめ続けてくる。
どういう意味なのか。察せる程鋭くないオレは尋ねようと唇を開いて―キスされた。



「―内緒」



いつもよりずっとソフトな、まるで初めてキスした時のように短いもの。触れるだけのキスを終え離れ際に小鳥遊さんはそう囁くだけだった。
伊達眼鏡をもとに戻してオレの背中を隣で押す。次の授業へ向かおうと催促する様に。

「…あの、学校じゃそういうことやめて欲しいんだけど」
「顔真っ赤」
「誰かに見られるからっ」
「ゆうた君が見てくれるならいい」
「他の人に見られるの嫌なんだって。いろいろと噂になったら面倒でしょ?」
「なら、見せつける」

そう言って小鳥遊さんは躊躇いなくオレの手を握りしめた。ただ掴むだけではない、指先まで絡めた恋人繋ぎで。
あまりにも突然で話すことも出来ずに口をパクパクしていると手を引かれて歩き出した。
ああ言ってもこう返される。女性は口喧嘩が強いというが小鳥遊さんもまた例にもれずそうらしい。口で押されて手を握られて、どうしようもないオレにできることは結局のところ。

「ああ、もうまったく。仕方ないな…」

口で言うのをあきらめて静かに握り返すのみ。それを感じた小鳥遊さんだがやはりこれと言って表情は変わらなかった。

ただ一つ、分厚い眼鏡の奥に隠れた瞳を除いて。

クラスメイトに見られたら厄介なことになるんだろうなと小さくため息をつきながらも決して嫌なものではない。そんな風に思いながら小鳥遊さんの歩幅に合わせて歩いていくのだった。

―HAPPY END―











「…この女誰?」
「く、クラスメイト」
「彼女」
「は?」
「ちょ、小鳥遊さんっ!!」
「恋人」
「…」
「新妻」
「まだ結婚すらしてないのに!」
「…なに、その女。どこぞの変態みたい」
「どこぞのって……師匠のことそういうのやめろよ」
「師匠って?」
「オレの空手の師匠だよ」
「いっつもゆうたの下着に頭突っ込んではぁはぁしてる変態女」
「おい、師匠を悪く言うのやめろよ」
「事実でしょうが」
「何それずるい」
「「……え」」

15/12/23 02:02更新 / ノワール・B・シュヴァルツ
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■作者メッセージ

ということでこれにて現代サキュバス編完結です
この後も二人はいたるところでいちゃいちゃし続けていきます
そして、やはり最後の最後でお姉さんですね
現代編ではちびちび登場しますが彼女が主役のお話も考え中です

ここまで読んでくださってありがとうございます!!
それでは次回もよろしくお願いします!!

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