後編
「小鳥遊さん。どっか行きたいところとかある？」
「特にない」
「なら逆に行きたくない所とかは？」
「特にない」
それは去年のことだった。
高校最後の修学旅行。クラスメイトをグループに分ける際に人数が足りずオレは彼女を誘ったことがあった。
計画を立てていても盛り上がる会話はなし。普通の会話すら成り立つのは難しくそもそも彼女自身話す素振りさえない。ブックカバーに包まれた本へ視線を落とし広げられた地図には一切目もくれない。
結局旅行中、グループになった他の友人たちはさっさと離れていき残されたのはオレと彼女の二人だけ。厄介者を押し付けてさっさと行ってしまったというわけだ。
まぁ、元々人数足りずに寄せ集めただけのグループだから仲の良し悪しなんてあってないようなものだったし。こうなるのは時間の問題だっただろう。
「小鳥遊さんはどこか行きたいところある？」
「特に」
旅行中オレの後ろを三歩程下がってついてくる小鳥遊さん。相変わらずマイペースに本から目を離さずに足を動かす姿は危なっかしい。ただでさえ分厚い眼鏡をしているのだから転べば大怪我だ。
そんな普段通りの姿に苦笑しつつゆっくりと足を進めていると声を掛けられた。
「黒崎君は皆と行かなくてよかったの？」
「別に。小鳥遊さん一人残していくほど薄情じゃないよ」
と言い張りたいところだが親友と呼べる京極も小鳥遊さんが苦手なのか皆に紛れて行ってしまった。
「あっちの方が楽しいと思うけど」
「楽しい楽しくないじゃないでしょ、観光って」
集団と違って自由に動ける分気楽ではあるし、なんだかんだで彼女とのやり取りは気を張る必要がない。向こうでワイワイやるよりか静かにじっくりまわれるのならそれもまた有りだろう。
だが、それは個人的なことでしかない。
「もしかして嫌だったり？なら一人でまわるけど」
「ん…」
するとその言葉にようやく小鳥遊さんは本から顔を上げた。開いていたページに栞も挟まずポケットへと仕舞い込む。
そして、その長い足でオレの隣へと並ぶと真っ直ぐ見つめたまま言った。
「別に嫌じゃない」
「そっか」
クラスの女子の鼻にかかった声とは全く違う冷淡な口調と抑揚のない声だ。感情なんてわかりやしない。だからこそ、小鳥遊さんの隣は悪いものではない。
あの時はそれだけしか思っていなかった。
ふと思い出した、過去の事。
小鳥遊小鞠。文武共にトップクラスの成績を修める優等生だということは知っていたがまともに話したのはあれが最初だったはずだ。今までずっと同じクラスではあったというのに。
今思えばオレと小鳥遊さんの付き合いなんてそんなもの。他人以上であっても同級生ぐらいの関係で間違っても恋人なんてものではない。頼ることはあったとしても肉体関係へ発展するほどではなかったはずだ。
「どうかした？」
「いや、なんでもないよ」
食事を終え食器の片づけを手伝いながらその横顔を見てふとそんなことを考えてしまった。
頼られることは嬉しいし、頼ってくれるのならこちらも全力で応じたい。同級生であっても知らぬ仲ではないのだし。
だが、なんでオレを頼ったのだろうか。
納得できる答えが自分の中では出せそうにない。聞いて確かめるのが一番だが尋ねるにしても答えてくれるだろうか。
結局答えの出ない考えを捨て本棚へ目を向ける。そこで、傍にかけられていた時計を見て気づいた。
「っと。そろそろ時間だから帰るね」
時間は既に午後の七時。帰ってこれから夕食の準備や勉強やる時間帯だ。
ほぼ手ぶらで来たオレはそのままさっさと玄関へ行こうと立ち上がって―手を掴まれた。
「待って。お礼がまだ」
「え？さっきのご飯がお礼じゃなかったの？」
「違う。だから、まだ待って」
伊達眼鏡越しに向けられた瞳に足が止まる。それをいいことに腕が引かれリビングへと戻された。思った以上に強い力と短い言葉に込められた意志に流石に進めなくなってしまう。
あの小鳥遊さんがこれほどまでしているのだからそれを聞かないのは心苦しい。折角呼んでもらったのだしむざむざ帰るのも失礼か。
ポケットから取り出した携帯で自宅に連絡を入れると彼女は満足そうに頷いた。
「…じゃ、待とうかな」
オレの言葉に満足げに頷いた小鳥遊さんは廊下の方、途中に会ったドアの方を一瞥して一言。
「―先にシャワー、浴びてきて」
普段無表情な小鳥遊さんらしくないしたり顔でそんなことを言ってきた。
ベッドに並んで座り込む。ここまで来れば流石のオレも察せない程鈍くはない。むしろ、今まであれだけやっていたのに今更というところか。
だが変に律儀な自分がまだ残っていた。ここで一線踏み越えることを期待しているのにまだ踏み止まる自分がいた。
「お待たせ」
うじうじと悩んでいるとシャワーを浴び終わり寝間着姿の小鳥遊さんが立っていた。湿り気を帯びた黒髪や上気した肌が色っぽい。さらには湯上りで熱いのかボタンを二、三外している。おかげで魅力的な谷間が覗いていた。
既に目にしたとはいえいちいち情欲を煽ってくる恰好だ。それをわかってやっているのだから堪ったもんじゃない。
彼女は躊躇うことなくオレの隣へ座る。それも僅かな隙間もない密着する形で。
「ち、近くない？」
「そう？」
あまりの近さに視線が定まらない。それどころか胸元へと吸い寄せられてしまう。悲しき男の性かな、既に知っていようとその欲求はまだ尽きぬようだ。
そこで突然小鳥遊さんがオレの太腿へ手をのせて顔をさらに寄せてきた。桜色の唇が耳元へと近づき熱いため息と共に声を零す。
「これからもっと近くなるのに？」
そっと囁かれた一言はまるで官能小説の一句のように心に期待を募らせる。熱など感じぬ淡々とした声色だが切れ長の瞳が確かに何かを訴えていた。
小鳥遊さんが迫ってくる。すぐ隣にいる状態から覆いかぶさるように身を乗り出して。
翼が広がり部屋の明かりが遮られた。影になった顔だが二つの瞳がぎらついている。
まるで獲物を前にした獣の如く。
だけど、どこか熱っぽい。まるで恋する乙女のように。
「黒崎くん」
やはり単調。だがどことなく切なげに呼ばれたことで体が固まる。それをいいことに小鳥遊さんはさらに身を、顔を寄せてきた―その時だった。
「ね、これっ！」
慌てながらオレが財布の中から取り出したのは薄くて銀の包装紙に包まれたもの。中学の保健体育からずっと話題に上がる、性行為のマナーの避妊具である。
相手がサキュバスだろうが高校生であることに変わりない。妊娠の可能性はわからないが人間の常識を軽々しく捨てるには二人とも若すぎる。
だが小鳥遊さんはそれをとてもつまらなそうに見つめて手に取った。
手に取って、窓から捨てた。
「ええっ！？ちょっと小鳥遊さん」
「いらない」
「いらないってそんな！いくらなんでも」
「私は」
オレの声を遮って紡がれた言葉に口を噤んだ。
やはりというか、平坦な声色。だが強い意志の込められた一言に次の言葉を静かに待つ。すると小鳥遊さんは予想外な一言を放った。
「黒崎くんの子供を孕んでもいいと思ってる」
「高校生でそれって行き過ぎじゃないの！？」
突然の告白を飛び越してもはやプロポーズにも近いものだった。
当然ながら高校生の発言としては不適切極まりない。自身を養うことすらできないのにあまりにも過ぎた言葉だ。
だが小鳥遊さんは平然と口にする。
「もう人間には戻る気もないから」
その言葉にハッとした。
サキュバスとなった小鳥遊さんだが人間に戻れるとは思えない。さらには自ら望んで人を捨てた彼女だ、未練も何もないのだろう。
「な、なんでそこまで…」
「私は黒崎君が、ううん」
首を振って言葉を止める。するとずいっと体を寄せてくる。オレの瞳を真っ直ぐに見つめ続けながら小鳥遊さんは言った。
「ゆうた君が、好きだから」
「っ」
顔が赤くなり熱くなっていくのがわかる。今までもっと恥ずかしいことをしてきたのにたったの一言だけで何も言えなくなった。
あまりにも嬉しくて、だけど気恥ずかしくて。
喜びたいのだけど言葉にもできなくて。
しどろもどろになっていると突然小鳥遊さんが顔を寄せてきた。近くで見るとよくわかる、同級生とは思えない綺麗な顔。切れ長の瞳は熱を孕んだ視線を送り、形の良い唇が小さく呼吸を繰り返す。滑らかで傷のない頬は朱に染まり尖った耳がぴくりと動いた。
そんな顔がさらに近づいてくる。鼻先を触れ合わせてもまだ進む。
「嫌なら、退いて。嫌じゃないなら―」
何かを言おうしても唇が動かない。しかし小鳥遊さんはお構いなし。徐々に瞼を下ろして近づいてくる。
拒むことはできなくはない。突き飛ばすことは容易いだろう。今彼女はオレを拘束していないのだから。
だが、男一人がここまでされて。
女一人にここまでしておいて。
何もせず逃げ去る程にへたれではない。
「小鳥遊、さん」
「ん…っ」
こちらから手を伸ばし頬へと添える。そして、一呼吸置くと応じるように瞼を閉じて唇を重ね合わせた。
重ねるだけの拙いキス。
今までの行為と比べれば何とも幼稚なものだっただろう。だが、それは確かに一線を踏み越える意志と快楽とはまた違った悦びを感じていた。
「んっ…」
胸とは違う柔らかさを持ちながらほのかに甘みを感じさせる小鳥遊さんの唇。感触を確かめるように押し付けてきては撫でるように擦りあげ、かと思えばしゃぶりつくように押し付けてすぐさま舌を突き刺してきた。
「ん、ふ、むぅ…♪」
技術よりも感情が先だってどこかぎこちない。求めるがまま舌を伸ばして唇を舐め上げて、上手く噛みあわずに少し引けば追いかけるようにくっついてくる。
何とも貪欲で積極的で、熱烈な口づけだった。どれくらい続いたのかはわからないが夢中になっていたのは確かだ。その証拠に気づけば二人して顎から首まで唾液が垂れていた。
「脱いで」
いつも通り短い言葉。だが、昂ぶりを抑えきれないのか伸ばされた手が急かすようにオレの服を脱がしにかかる。
流石に女性にやってもらうのはみっともないから自分から脱ぎベッドの下へと落とす。するといつの間に脱いだのか小鳥遊さんの服が傍に落とされ視線を戻せば既に下着姿になっていた。
「裸に、なって」
そして、改めて一糸纏わぬ姿で向かい合う。
大きくも垂れることなく形を保った魅惑的な膨らみ。薄桃色の小さな先端が鎮座している。すらりとしたくびれに無駄な肉はなく、その下には蠱惑的な臀部へと続いてく。陸上で鍛えた足は細く、だからと言って筋肉質ではない綺麗なもの。腕も細くて華奢で儚げな雰囲気を漂わせていた。
そして、髪の間から生えた角。背中から広がった翼。臀部から伸びた尻尾。人にはない器官だというのにその異質さが彼女の美貌をさらに引き立てている。
これなら同級生もガリ勉優等生だと思いはしない。同い年と思えない女の色気と美しさは誰もが見惚れ、嫉妬し、興奮を抑えきれないことだろう。
美しい、けどそれとは違う。
いやらしい、に近いが異なる。
女性の美しさと淫魔の色香。混ざり合ったそれは言葉で表せないものだった。
「…」
伊達眼鏡を外した小鳥遊さんはただじっとオレの方を見つめている。足先から頭までそれこそ嘗め回すようにじっくりと。
男の体など見て楽しいものではないだろうに。だが性的興味が尽きない彼女にとっては別なのかもしれない。
「あ、はは…なんだか恥ずかしいね」
告白して、裸になって、だというのに今更である。
小鳥遊さんがサキュバスになろうともオレがへたれであることに変わりなかった。
「大丈夫。私も同じ」
「え？」
「感じて」
突然手を掴まれ押し付けられた胸の奥。柔らかな感触を越えた先に感じたのは早鐘の様に打つ鼓動だった。
平然とした表情だが確かな昂ぶりと興奮を抱いてる。オレだけが焦ったり緊張しているわけではなかったということだ。
なによりも、小鳥遊さんがオレを一人の男として意識してくれることが素直に嬉しい。
「私もドキドキしてる」
「う、うん…」
「一緒、だから」
無茶苦茶恥ずかしくて視線を合わせられない。それどころか美しい裸体から視線を外せない。
額を重ねて、呼吸を合わせて、熱を溶かして、ただ互いを感じ合う。
皮膚から伝わる熱い体温。
目を奪われる綺麗な素肌。
耳に届く激しい鼓動。
香る女の甘い匂い。
それから、情熱的な口づけ。
「んむっ」
「っ！」
再び向こうからの口づけ。それは先ほど以上に積極的で噛みつくように押し付けてくる。さらには後頭部へと腕を回し熱烈な抱擁も加えてより激しさを増していった。
「んっ、ふ…♪」
唇を割り開くと躊躇うことなく口内へと突っ込まれた。普段下腹部で感じていた湿り気帯びた柔らかさがオレの舌に擦れていく。
絡みつく粘着質な音が頭の奥まで響いてきた。肌が粟たち体が震える。突然のことに困惑するが応じるように手を伸ばす。
体へ回し、身を寄せる。すると小鳥遊さんの翼が背へと回され尻尾が腰に巻きついた。
「…もっと抱きしめて」
一瞬離れた唇から紡がれた熱い言葉に腕に力を込めた。すると目の前の瞳が嬉しそうに細まり一層強く抱き返される。
唾液を啜って舌を絡めて、口内を嘗め回されて舌を吸われて。時折唇を離してくれるが僅かな間だけ。すぐさま再び重なっては蹂躙される。
応じるように唇を開けばさらに奥まで貪られる。啄むようにくっついて唾液が流され成すがまま飲み込んでいく。その様子を小鳥遊さんはうっとりとした表情で眺めていた。
先ほどよりもずっと慣れた口づけだった。サキュバスなのだから本能に刷り込まれているのかもしれない。
「触って」
「わっ」
唇を離すと次に手を取られた。導かれた先は小鳥遊さんの下腹部。うっすらと生えた陰毛の先に触れたそこはとても熱く、そして何より濡れていた。よほど興奮していたのか指を離せば糸を引くほどに。
僅かに動かしただけでも刺激を生み小鳥遊さんは眉をひそめて小さく声を漏らした。
「んっ…興奮してる」
「う、ん」
「ゆうた君と同じ」
伸ばされた手は躊躇いなくオレのものを握りしめた。いつもやっているからか手慣れたもので上へ下へと愛撫する。射精には結びつかなくも興奮を煽る刺激に思わず押し倒したくなってくる。
だが、小鳥遊さんはそれを許さない。これはお礼でもあるのだから。
「見て」
手を離して見せつけるように足を広げ、両手を使って割り開く。まるでAVでやる下品でいやらしい格好を躊躇いなくとる小鳥遊さん。
綺麗な肉の色と滴り落ちていく粘液がオレの上で溜まっていく。鼻孔をくすぐる雌の香りに背筋を悪寒の様な震えがのぼってきた。
雄を刺激する雌の姿。今すぐにでもぶち込みたいと下腹部では熱が集まり痛いほどに張りつめていた。
「今入れるから…」
本来ならオレがリードすべきなのだがあくまで主導権は向こうにある。ならばせめてと応じるように体を寄せ、来たるべき瞬間を今か今かと待つだけだ。
「…ん♪」
先端が触れ合い粘液が伝い落ちた。温かくも湿った粘膜の感触は口内とまた違った快楽を生む。だが、触れているのはまだ先端だけ。
そこからゆっくりと体重をかけて馴染ませながら入れていく―と思ったらいきなり腰を落としてきた。
「んんっ♪」
「ぅあっ！！」
突然叩き込まれたのは痛いほどに窮屈なのに柔らかく、蕩けそうなほど熱くて気持ちよさ。頭の中にあるのはただ快楽一色のみだった。
男性か精液を貰う生物というだけあってその器官は男を悦ばせることに特化していた。溶かされるような高い熱に絡みついては離れない柔らかな肉壁。粘つきながら塗れていく愛液に快感を弾きだす肉ひだ。極めつけは貪欲に搾り取ろうと先端に吸い付いてくる最奥の感触。
「は、っぁ…ぁっ♪」
「っ！……っ…っ」
互いの感覚に二人して体を震わせた。突然の快感に呼吸を乱しながらも必死に耐え抜く。
今までの行為など全て遊びだったかのような壮絶な快感を叩き込んでくる。既に今日は十分吐き出した後だというのに下腹部に熱を滾らせる膣内は我慢できるほど生易しくはなかった。
「私の中、気持ちいい…？」
「っ」
シーツを握りしめながら必死に堪えていると耳元で囁かれた。
ぞくぞくする。今更聞かずともわかることだが今までのと違う熱を孕んだ声色に。顔をあげてみれば快楽に蕩け熱に浮かされた表情は普段の小鳥遊さんとは思えないほど色っぽい。普段を知っているからこそのギャップに鮮明に映ってしまう。
さらにはオレとのセックスで乱れているという事実が何よりも高ぶらせてくる。
「…っん」
「そ、っか」
頷くことすら満足にできない。余裕がないのは明白だ。だが、それは小鳥遊さんも同じことらしく荒い呼吸で肩を震わせていた。
「は、ぁ……ぁ？」
快楽から意識を逸らそうとシーツを掴み、体を強張らせ視線を泳がせているとあるものが目にとまる。部屋の明かりに鮮やかで痛々しく輝く雫。それはシーツに染み込み赤い花を落とした。
「たか、なしさんっそれ」
「ん、ぅ？」
紛れもない純潔の跡。
サキュバスということで抜け落ちていたが彼女は一人の女性であって、生娘だった。
「痛くないの？」
「うん。入れてるだけで、いっちゃいそう…」
熱い吐息混じりに呟かれたた言葉にぞくりと背筋を震わされた。肩を掴んだ手から力が抜け腕が伸ばされ背中へと回される。くすぐる様な艶めかしい刺激に小さく声が漏れた。
「すごいね」
「えっ？」
額を重ね確かめ合うように見つめながら小鳥遊さんは言った。
「こんなに熱い。今まで色々してきたのにびっくり」
落とした視線は下腹部へと向けられる。愛液を滲ませて根元まで飲み込んだその中を見つめていた。
今まで口や手や胸を使って致した行為。どれも比べられないほどに気持ちよかったがこれは一線画すだけのことはあった。気を抜けば容易く溺れて抜け出せない、それ程までに凄まじく、そして心地よい。
「もっと早くしとくべきだった」
淡々とした後悔の言葉だが普段と違う熱っぽい声。僅かに口角をあげて見せた表情はまさに女の顔だった。滅多に見せぬその顔がこれ以上上がることないと思った興奮をさらに高ぶらせた。
だが、まだまだ行為は始まったばかり。このまま互いの感触に浸りっきりもいいがそこはお互い健全な高校生。もっと先をと求めてしまう。
「それじゃあ、動くから」
だが健全な高校男児以上に貪欲になっているのが目の前にいるサキュバスだ。今までのを越えた搾精行為。口とは違う体内へ迎え入れるそれは普段以上に彼女を昂ぶらせていた。
「ちゃんと、中に出して…♪」
ゆっくりと、慎重に。自分自身が流されまいと動き出した魅惑的な臀部。小鳥遊さんはオレに体重を預けながら飲み込んだものを引き抜いていく。
ゆっくりと、オレ自身も応じるように、だけど流されないように。なんて気を付けたところでサキュバスを上回ることなどできるはずもない。
だが膣内を擦りあげ突き刺す度に小鳥遊さんは甘ったるい声を上げる。同級生の誰もがこんな声を聞いたどころか考えたことすらなかっただろう。優等生とは思えないほどに淫らな女の声だった。
「んっ…ぁっ♪もっと、もっと…♪」
腕を首へまわされ体を寄せる。足を腰へと絡めて体を預けてくる。オレの足の上に座り抱きしめてくる姿はまんま恋人のようだった。
その姿に下腹部がますます熱を滾らせる。
それは小鳥遊さんもまた同じらしく膣全体が圧迫する様に律動する。思わず腰を止めて快感の波をやり過ごそうと堪えると耳を舐めるように囁かれた。
「わたしが、する…から……っ♪」
オレの体を抑え込むように体重をかけて上下に腰を叩きつけ始めた。肉と肉のぶつかり合い肌に汗を滲ませていく。
「っ…ぁっ、激しいって」
上に、下に。それだけでは留まらない。
右へ、左へ。徐々に激しさを増していく。
前へ、後ろへ。淫らでとてもいやらしく。
同級生とは思えない動きで初めてとは考えられない程貪欲に求めてくる。それがサキュバスだからと一言で説明できる程単純ではない。
自身が悦びながらもオレを悦ばせようとしているのがわかる。腰の動きも手の位置も、こちらの様子を伺っては新しい快感と粟立たせる感触を弾き出しながら探っている。どこが一番いいのかと、どうすれば悦んでくれるのかと。小鳥遊さん自身も快感に流されまいと必死に耐えながら。
二人きりの部屋ということで彼女は存分に喘いでいた。聞かれることを恥ずることもなく、むしろ悦んでいる様を見せつけてくる。
「ぃ♪…好きっ♪ゆう、たくんっすき、ぃっ♪」
叩きつけられる快感以上に吐露される想いの言葉が精神をも揺さぶらせていく。
淫魔の膣内と処女の窮屈さ、未曽有の快感。二度と戻ってこれない深みへ沈んでいくのがわかる程に壮絶なものだった。
「あふっ♪あっ♪…もう、いっちゃいそう…っ♪」
腰を弾ませベッドを軋ませ激しい快感を生みだしていく。下腹部に叩きつけられた尻が震え滲んだ汗が散って匂いを漂わせる。
くらりとする熱気と湿った雌のいやらしい匂い。石鹸の匂いを塗り替えて性の香りが部屋いっぱいに広がっていく。
「もう、ぁっ♪も、う、いく―」
絶頂の予感に小鳥遊さんはさらにきつく抱きしめてきた。腕も足も、尻尾も翼も全身を使って重ね合わせもうすぐ来る快楽の波を待っている。
それはオレもまた同じこと。正直よくここまで持ったと思う。常日頃彼女に散々絞られていたおかげだろう。だが、もう限界だった。
「んんんんんっ♪」
先に達したのは小鳥遊さんの方だった。絶頂の声を唇を固く結んで堪える。しかし体は大きく震えそれに伴い膣内もまた収縮した。
神経を直接刺激されるような、何度目だったかわからない強烈な快感に脳が焼き切れそうだった。吸い出されるように子宮口に纏わり付かれ、搾り取るように膣壁が波打ちながら締め上げる。溶け合いそうな熱が染み込み粘りつく愛液の感触。全てが全てオレの意識を真っ白へ塗り替えられ成すがまま精液を吐き出した。
「ぁあああああああああああっ♪」
「んんっ…！！」
魂ごと吸いとられるような凄まじい締め付けだった。一滴すら残すまいと貪欲な律動だった。
両手を回して抱きしめて、絶頂の波に互いに体を震わせながら荒い呼吸を繰り返す。互いに体力があることは知っているがやはりセックスは今までとあまりにも違いすぎる。
みっともなく体を震わせだらしのない声を上げそうになる。逃げ出すことはできず、抜け出すことも出来そうにない。ただ快楽に揉まれ収まりを見せるまで翻弄されるしかなかった。
「ぁはっ……ぁっ………はぁ………すご、い…♪」
どれほどの時間互いに震えていたのだろうか。真っ白になっていた意識がようやくはっきりしてくると囁かれた小鳥遊さんの声が届いた。
「こんなに熱くて、気持ちよくて……いっぱい、満たしてる」
絶頂後で気怠げに、だけど愛おしそうに下腹部を撫でる。その表情は蕩けてはいるが普段口や手でした時とは異なり満ち足りているように見えた。
ゆっくりと顔をあげると切れ長の瞳から送られる視線が重なる。
熱を孕んで涙を零した二つの瞳。荒い呼吸を繰り返す桜色の唇が声を出さずに言葉を紡いだ。
もっと、欲しい。
拒む理由などありはしない。それどころか淫魔の快感に堕ちつつあることを自覚している。
抱きしめることで応えると体重を掛けられ押し倒された。こちらからもと手を胸へと伸ばせば顔を掴まれ口づけで返される。
耳だけに届く言葉よりも。
目だけで見る光景よりも。
ただひたすらに五感全てで感じ取りたく、感じ合いたい。
そんな気持ちの表れなのか、部屋に木霊するのはくぐもった嬌声と肉のぶつかり合う情事の響きだけ。ただ本能の赴くままに二度目の行為へと溺れていくのだった。
「特にない」
「なら逆に行きたくない所とかは？」
「特にない」
それは去年のことだった。
高校最後の修学旅行。クラスメイトをグループに分ける際に人数が足りずオレは彼女を誘ったことがあった。
計画を立てていても盛り上がる会話はなし。普通の会話すら成り立つのは難しくそもそも彼女自身話す素振りさえない。ブックカバーに包まれた本へ視線を落とし広げられた地図には一切目もくれない。
結局旅行中、グループになった他の友人たちはさっさと離れていき残されたのはオレと彼女の二人だけ。厄介者を押し付けてさっさと行ってしまったというわけだ。
まぁ、元々人数足りずに寄せ集めただけのグループだから仲の良し悪しなんてあってないようなものだったし。こうなるのは時間の問題だっただろう。
「小鳥遊さんはどこか行きたいところある？」
「特に」
旅行中オレの後ろを三歩程下がってついてくる小鳥遊さん。相変わらずマイペースに本から目を離さずに足を動かす姿は危なっかしい。ただでさえ分厚い眼鏡をしているのだから転べば大怪我だ。
そんな普段通りの姿に苦笑しつつゆっくりと足を進めていると声を掛けられた。
「黒崎君は皆と行かなくてよかったの？」
「別に。小鳥遊さん一人残していくほど薄情じゃないよ」
と言い張りたいところだが親友と呼べる京極も小鳥遊さんが苦手なのか皆に紛れて行ってしまった。
「あっちの方が楽しいと思うけど」
「楽しい楽しくないじゃないでしょ、観光って」
集団と違って自由に動ける分気楽ではあるし、なんだかんだで彼女とのやり取りは気を張る必要がない。向こうでワイワイやるよりか静かにじっくりまわれるのならそれもまた有りだろう。
だが、それは個人的なことでしかない。
「もしかして嫌だったり？なら一人でまわるけど」
「ん…」
するとその言葉にようやく小鳥遊さんは本から顔を上げた。開いていたページに栞も挟まずポケットへと仕舞い込む。
そして、その長い足でオレの隣へと並ぶと真っ直ぐ見つめたまま言った。
「別に嫌じゃない」
「そっか」
クラスの女子の鼻にかかった声とは全く違う冷淡な口調と抑揚のない声だ。感情なんてわかりやしない。だからこそ、小鳥遊さんの隣は悪いものではない。
あの時はそれだけしか思っていなかった。
ふと思い出した、過去の事。
小鳥遊小鞠。文武共にトップクラスの成績を修める優等生だということは知っていたがまともに話したのはあれが最初だったはずだ。今までずっと同じクラスではあったというのに。
今思えばオレと小鳥遊さんの付き合いなんてそんなもの。他人以上であっても同級生ぐらいの関係で間違っても恋人なんてものではない。頼ることはあったとしても肉体関係へ発展するほどではなかったはずだ。
「どうかした？」
「いや、なんでもないよ」
食事を終え食器の片づけを手伝いながらその横顔を見てふとそんなことを考えてしまった。
頼られることは嬉しいし、頼ってくれるのならこちらも全力で応じたい。同級生であっても知らぬ仲ではないのだし。
だが、なんでオレを頼ったのだろうか。
納得できる答えが自分の中では出せそうにない。聞いて確かめるのが一番だが尋ねるにしても答えてくれるだろうか。
結局答えの出ない考えを捨て本棚へ目を向ける。そこで、傍にかけられていた時計を見て気づいた。
「っと。そろそろ時間だから帰るね」
時間は既に午後の七時。帰ってこれから夕食の準備や勉強やる時間帯だ。
ほぼ手ぶらで来たオレはそのままさっさと玄関へ行こうと立ち上がって―手を掴まれた。
「待って。お礼がまだ」
「え？さっきのご飯がお礼じゃなかったの？」
「違う。だから、まだ待って」
伊達眼鏡越しに向けられた瞳に足が止まる。それをいいことに腕が引かれリビングへと戻された。思った以上に強い力と短い言葉に込められた意志に流石に進めなくなってしまう。
あの小鳥遊さんがこれほどまでしているのだからそれを聞かないのは心苦しい。折角呼んでもらったのだしむざむざ帰るのも失礼か。
ポケットから取り出した携帯で自宅に連絡を入れると彼女は満足そうに頷いた。
「…じゃ、待とうかな」
オレの言葉に満足げに頷いた小鳥遊さんは廊下の方、途中に会ったドアの方を一瞥して一言。
「―先にシャワー、浴びてきて」
普段無表情な小鳥遊さんらしくないしたり顔でそんなことを言ってきた。
ベッドに並んで座り込む。ここまで来れば流石のオレも察せない程鈍くはない。むしろ、今まであれだけやっていたのに今更というところか。
だが変に律儀な自分がまだ残っていた。ここで一線踏み越えることを期待しているのにまだ踏み止まる自分がいた。
「お待たせ」
うじうじと悩んでいるとシャワーを浴び終わり寝間着姿の小鳥遊さんが立っていた。湿り気を帯びた黒髪や上気した肌が色っぽい。さらには湯上りで熱いのかボタンを二、三外している。おかげで魅力的な谷間が覗いていた。
既に目にしたとはいえいちいち情欲を煽ってくる恰好だ。それをわかってやっているのだから堪ったもんじゃない。
彼女は躊躇うことなくオレの隣へ座る。それも僅かな隙間もない密着する形で。
「ち、近くない？」
「そう？」
あまりの近さに視線が定まらない。それどころか胸元へと吸い寄せられてしまう。悲しき男の性かな、既に知っていようとその欲求はまだ尽きぬようだ。
そこで突然小鳥遊さんがオレの太腿へ手をのせて顔をさらに寄せてきた。桜色の唇が耳元へと近づき熱いため息と共に声を零す。
「これからもっと近くなるのに？」
そっと囁かれた一言はまるで官能小説の一句のように心に期待を募らせる。熱など感じぬ淡々とした声色だが切れ長の瞳が確かに何かを訴えていた。
小鳥遊さんが迫ってくる。すぐ隣にいる状態から覆いかぶさるように身を乗り出して。
翼が広がり部屋の明かりが遮られた。影になった顔だが二つの瞳がぎらついている。
まるで獲物を前にした獣の如く。
だけど、どこか熱っぽい。まるで恋する乙女のように。
「黒崎くん」
やはり単調。だがどことなく切なげに呼ばれたことで体が固まる。それをいいことに小鳥遊さんはさらに身を、顔を寄せてきた―その時だった。
「ね、これっ！」
慌てながらオレが財布の中から取り出したのは薄くて銀の包装紙に包まれたもの。中学の保健体育からずっと話題に上がる、性行為のマナーの避妊具である。
相手がサキュバスだろうが高校生であることに変わりない。妊娠の可能性はわからないが人間の常識を軽々しく捨てるには二人とも若すぎる。
だが小鳥遊さんはそれをとてもつまらなそうに見つめて手に取った。
手に取って、窓から捨てた。
「ええっ！？ちょっと小鳥遊さん」
「いらない」
「いらないってそんな！いくらなんでも」
「私は」
オレの声を遮って紡がれた言葉に口を噤んだ。
やはりというか、平坦な声色。だが強い意志の込められた一言に次の言葉を静かに待つ。すると小鳥遊さんは予想外な一言を放った。
「黒崎くんの子供を孕んでもいいと思ってる」
「高校生でそれって行き過ぎじゃないの！？」
突然の告白を飛び越してもはやプロポーズにも近いものだった。
当然ながら高校生の発言としては不適切極まりない。自身を養うことすらできないのにあまりにも過ぎた言葉だ。
だが小鳥遊さんは平然と口にする。
「もう人間には戻る気もないから」
その言葉にハッとした。
サキュバスとなった小鳥遊さんだが人間に戻れるとは思えない。さらには自ら望んで人を捨てた彼女だ、未練も何もないのだろう。
「な、なんでそこまで…」
「私は黒崎君が、ううん」
首を振って言葉を止める。するとずいっと体を寄せてくる。オレの瞳を真っ直ぐに見つめ続けながら小鳥遊さんは言った。
「ゆうた君が、好きだから」
「っ」
顔が赤くなり熱くなっていくのがわかる。今までもっと恥ずかしいことをしてきたのにたったの一言だけで何も言えなくなった。
あまりにも嬉しくて、だけど気恥ずかしくて。
喜びたいのだけど言葉にもできなくて。
しどろもどろになっていると突然小鳥遊さんが顔を寄せてきた。近くで見るとよくわかる、同級生とは思えない綺麗な顔。切れ長の瞳は熱を孕んだ視線を送り、形の良い唇が小さく呼吸を繰り返す。滑らかで傷のない頬は朱に染まり尖った耳がぴくりと動いた。
そんな顔がさらに近づいてくる。鼻先を触れ合わせてもまだ進む。
「嫌なら、退いて。嫌じゃないなら―」
何かを言おうしても唇が動かない。しかし小鳥遊さんはお構いなし。徐々に瞼を下ろして近づいてくる。
拒むことはできなくはない。突き飛ばすことは容易いだろう。今彼女はオレを拘束していないのだから。
だが、男一人がここまでされて。
女一人にここまでしておいて。
何もせず逃げ去る程にへたれではない。
「小鳥遊、さん」
「ん…っ」
こちらから手を伸ばし頬へと添える。そして、一呼吸置くと応じるように瞼を閉じて唇を重ね合わせた。
重ねるだけの拙いキス。
今までの行為と比べれば何とも幼稚なものだっただろう。だが、それは確かに一線を踏み越える意志と快楽とはまた違った悦びを感じていた。
「んっ…」
胸とは違う柔らかさを持ちながらほのかに甘みを感じさせる小鳥遊さんの唇。感触を確かめるように押し付けてきては撫でるように擦りあげ、かと思えばしゃぶりつくように押し付けてすぐさま舌を突き刺してきた。
「ん、ふ、むぅ…♪」
技術よりも感情が先だってどこかぎこちない。求めるがまま舌を伸ばして唇を舐め上げて、上手く噛みあわずに少し引けば追いかけるようにくっついてくる。
何とも貪欲で積極的で、熱烈な口づけだった。どれくらい続いたのかはわからないが夢中になっていたのは確かだ。その証拠に気づけば二人して顎から首まで唾液が垂れていた。
「脱いで」
いつも通り短い言葉。だが、昂ぶりを抑えきれないのか伸ばされた手が急かすようにオレの服を脱がしにかかる。
流石に女性にやってもらうのはみっともないから自分から脱ぎベッドの下へと落とす。するといつの間に脱いだのか小鳥遊さんの服が傍に落とされ視線を戻せば既に下着姿になっていた。
「裸に、なって」
そして、改めて一糸纏わぬ姿で向かい合う。
大きくも垂れることなく形を保った魅惑的な膨らみ。薄桃色の小さな先端が鎮座している。すらりとしたくびれに無駄な肉はなく、その下には蠱惑的な臀部へと続いてく。陸上で鍛えた足は細く、だからと言って筋肉質ではない綺麗なもの。腕も細くて華奢で儚げな雰囲気を漂わせていた。
そして、髪の間から生えた角。背中から広がった翼。臀部から伸びた尻尾。人にはない器官だというのにその異質さが彼女の美貌をさらに引き立てている。
これなら同級生もガリ勉優等生だと思いはしない。同い年と思えない女の色気と美しさは誰もが見惚れ、嫉妬し、興奮を抑えきれないことだろう。
美しい、けどそれとは違う。
いやらしい、に近いが異なる。
女性の美しさと淫魔の色香。混ざり合ったそれは言葉で表せないものだった。
「…」
伊達眼鏡を外した小鳥遊さんはただじっとオレの方を見つめている。足先から頭までそれこそ嘗め回すようにじっくりと。
男の体など見て楽しいものではないだろうに。だが性的興味が尽きない彼女にとっては別なのかもしれない。
「あ、はは…なんだか恥ずかしいね」
告白して、裸になって、だというのに今更である。
小鳥遊さんがサキュバスになろうともオレがへたれであることに変わりなかった。
「大丈夫。私も同じ」
「え？」
「感じて」
突然手を掴まれ押し付けられた胸の奥。柔らかな感触を越えた先に感じたのは早鐘の様に打つ鼓動だった。
平然とした表情だが確かな昂ぶりと興奮を抱いてる。オレだけが焦ったり緊張しているわけではなかったということだ。
なによりも、小鳥遊さんがオレを一人の男として意識してくれることが素直に嬉しい。
「私もドキドキしてる」
「う、うん…」
「一緒、だから」
無茶苦茶恥ずかしくて視線を合わせられない。それどころか美しい裸体から視線を外せない。
額を重ねて、呼吸を合わせて、熱を溶かして、ただ互いを感じ合う。
皮膚から伝わる熱い体温。
目を奪われる綺麗な素肌。
耳に届く激しい鼓動。
香る女の甘い匂い。
それから、情熱的な口づけ。
「んむっ」
「っ！」
再び向こうからの口づけ。それは先ほど以上に積極的で噛みつくように押し付けてくる。さらには後頭部へと腕を回し熱烈な抱擁も加えてより激しさを増していった。
「んっ、ふ…♪」
唇を割り開くと躊躇うことなく口内へと突っ込まれた。普段下腹部で感じていた湿り気帯びた柔らかさがオレの舌に擦れていく。
絡みつく粘着質な音が頭の奥まで響いてきた。肌が粟たち体が震える。突然のことに困惑するが応じるように手を伸ばす。
体へ回し、身を寄せる。すると小鳥遊さんの翼が背へと回され尻尾が腰に巻きついた。
「…もっと抱きしめて」
一瞬離れた唇から紡がれた熱い言葉に腕に力を込めた。すると目の前の瞳が嬉しそうに細まり一層強く抱き返される。
唾液を啜って舌を絡めて、口内を嘗め回されて舌を吸われて。時折唇を離してくれるが僅かな間だけ。すぐさま再び重なっては蹂躙される。
応じるように唇を開けばさらに奥まで貪られる。啄むようにくっついて唾液が流され成すがまま飲み込んでいく。その様子を小鳥遊さんはうっとりとした表情で眺めていた。
先ほどよりもずっと慣れた口づけだった。サキュバスなのだから本能に刷り込まれているのかもしれない。
「触って」
「わっ」
唇を離すと次に手を取られた。導かれた先は小鳥遊さんの下腹部。うっすらと生えた陰毛の先に触れたそこはとても熱く、そして何より濡れていた。よほど興奮していたのか指を離せば糸を引くほどに。
僅かに動かしただけでも刺激を生み小鳥遊さんは眉をひそめて小さく声を漏らした。
「んっ…興奮してる」
「う、ん」
「ゆうた君と同じ」
伸ばされた手は躊躇いなくオレのものを握りしめた。いつもやっているからか手慣れたもので上へ下へと愛撫する。射精には結びつかなくも興奮を煽る刺激に思わず押し倒したくなってくる。
だが、小鳥遊さんはそれを許さない。これはお礼でもあるのだから。
「見て」
手を離して見せつけるように足を広げ、両手を使って割り開く。まるでAVでやる下品でいやらしい格好を躊躇いなくとる小鳥遊さん。
綺麗な肉の色と滴り落ちていく粘液がオレの上で溜まっていく。鼻孔をくすぐる雌の香りに背筋を悪寒の様な震えがのぼってきた。
雄を刺激する雌の姿。今すぐにでもぶち込みたいと下腹部では熱が集まり痛いほどに張りつめていた。
「今入れるから…」
本来ならオレがリードすべきなのだがあくまで主導権は向こうにある。ならばせめてと応じるように体を寄せ、来たるべき瞬間を今か今かと待つだけだ。
「…ん♪」
先端が触れ合い粘液が伝い落ちた。温かくも湿った粘膜の感触は口内とまた違った快楽を生む。だが、触れているのはまだ先端だけ。
そこからゆっくりと体重をかけて馴染ませながら入れていく―と思ったらいきなり腰を落としてきた。
「んんっ♪」
「ぅあっ！！」
突然叩き込まれたのは痛いほどに窮屈なのに柔らかく、蕩けそうなほど熱くて気持ちよさ。頭の中にあるのはただ快楽一色のみだった。
男性か精液を貰う生物というだけあってその器官は男を悦ばせることに特化していた。溶かされるような高い熱に絡みついては離れない柔らかな肉壁。粘つきながら塗れていく愛液に快感を弾きだす肉ひだ。極めつけは貪欲に搾り取ろうと先端に吸い付いてくる最奥の感触。
「は、っぁ…ぁっ♪」
「っ！……っ…っ」
互いの感覚に二人して体を震わせた。突然の快感に呼吸を乱しながらも必死に耐え抜く。
今までの行為など全て遊びだったかのような壮絶な快感を叩き込んでくる。既に今日は十分吐き出した後だというのに下腹部に熱を滾らせる膣内は我慢できるほど生易しくはなかった。
「私の中、気持ちいい…？」
「っ」
シーツを握りしめながら必死に堪えていると耳元で囁かれた。
ぞくぞくする。今更聞かずともわかることだが今までのと違う熱を孕んだ声色に。顔をあげてみれば快楽に蕩け熱に浮かされた表情は普段の小鳥遊さんとは思えないほど色っぽい。普段を知っているからこそのギャップに鮮明に映ってしまう。
さらにはオレとのセックスで乱れているという事実が何よりも高ぶらせてくる。
「…っん」
「そ、っか」
頷くことすら満足にできない。余裕がないのは明白だ。だが、それは小鳥遊さんも同じことらしく荒い呼吸で肩を震わせていた。
「は、ぁ……ぁ？」
快楽から意識を逸らそうとシーツを掴み、体を強張らせ視線を泳がせているとあるものが目にとまる。部屋の明かりに鮮やかで痛々しく輝く雫。それはシーツに染み込み赤い花を落とした。
「たか、なしさんっそれ」
「ん、ぅ？」
紛れもない純潔の跡。
サキュバスということで抜け落ちていたが彼女は一人の女性であって、生娘だった。
「痛くないの？」
「うん。入れてるだけで、いっちゃいそう…」
熱い吐息混じりに呟かれたた言葉にぞくりと背筋を震わされた。肩を掴んだ手から力が抜け腕が伸ばされ背中へと回される。くすぐる様な艶めかしい刺激に小さく声が漏れた。
「すごいね」
「えっ？」
額を重ね確かめ合うように見つめながら小鳥遊さんは言った。
「こんなに熱い。今まで色々してきたのにびっくり」
落とした視線は下腹部へと向けられる。愛液を滲ませて根元まで飲み込んだその中を見つめていた。
今まで口や手や胸を使って致した行為。どれも比べられないほどに気持ちよかったがこれは一線画すだけのことはあった。気を抜けば容易く溺れて抜け出せない、それ程までに凄まじく、そして心地よい。
「もっと早くしとくべきだった」
淡々とした後悔の言葉だが普段と違う熱っぽい声。僅かに口角をあげて見せた表情はまさに女の顔だった。滅多に見せぬその顔がこれ以上上がることないと思った興奮をさらに高ぶらせた。
だが、まだまだ行為は始まったばかり。このまま互いの感触に浸りっきりもいいがそこはお互い健全な高校生。もっと先をと求めてしまう。
「それじゃあ、動くから」
だが健全な高校男児以上に貪欲になっているのが目の前にいるサキュバスだ。今までのを越えた搾精行為。口とは違う体内へ迎え入れるそれは普段以上に彼女を昂ぶらせていた。
「ちゃんと、中に出して…♪」
ゆっくりと、慎重に。自分自身が流されまいと動き出した魅惑的な臀部。小鳥遊さんはオレに体重を預けながら飲み込んだものを引き抜いていく。
ゆっくりと、オレ自身も応じるように、だけど流されないように。なんて気を付けたところでサキュバスを上回ることなどできるはずもない。
だが膣内を擦りあげ突き刺す度に小鳥遊さんは甘ったるい声を上げる。同級生の誰もがこんな声を聞いたどころか考えたことすらなかっただろう。優等生とは思えないほどに淫らな女の声だった。
「んっ…ぁっ♪もっと、もっと…♪」
腕を首へまわされ体を寄せる。足を腰へと絡めて体を預けてくる。オレの足の上に座り抱きしめてくる姿はまんま恋人のようだった。
その姿に下腹部がますます熱を滾らせる。
それは小鳥遊さんもまた同じらしく膣全体が圧迫する様に律動する。思わず腰を止めて快感の波をやり過ごそうと堪えると耳を舐めるように囁かれた。
「わたしが、する…から……っ♪」
オレの体を抑え込むように体重をかけて上下に腰を叩きつけ始めた。肉と肉のぶつかり合い肌に汗を滲ませていく。
「っ…ぁっ、激しいって」
上に、下に。それだけでは留まらない。
右へ、左へ。徐々に激しさを増していく。
前へ、後ろへ。淫らでとてもいやらしく。
同級生とは思えない動きで初めてとは考えられない程貪欲に求めてくる。それがサキュバスだからと一言で説明できる程単純ではない。
自身が悦びながらもオレを悦ばせようとしているのがわかる。腰の動きも手の位置も、こちらの様子を伺っては新しい快感と粟立たせる感触を弾き出しながら探っている。どこが一番いいのかと、どうすれば悦んでくれるのかと。小鳥遊さん自身も快感に流されまいと必死に耐えながら。
二人きりの部屋ということで彼女は存分に喘いでいた。聞かれることを恥ずることもなく、むしろ悦んでいる様を見せつけてくる。
「ぃ♪…好きっ♪ゆう、たくんっすき、ぃっ♪」
叩きつけられる快感以上に吐露される想いの言葉が精神をも揺さぶらせていく。
淫魔の膣内と処女の窮屈さ、未曽有の快感。二度と戻ってこれない深みへ沈んでいくのがわかる程に壮絶なものだった。
「あふっ♪あっ♪…もう、いっちゃいそう…っ♪」
腰を弾ませベッドを軋ませ激しい快感を生みだしていく。下腹部に叩きつけられた尻が震え滲んだ汗が散って匂いを漂わせる。
くらりとする熱気と湿った雌のいやらしい匂い。石鹸の匂いを塗り替えて性の香りが部屋いっぱいに広がっていく。
「もう、ぁっ♪も、う、いく―」
絶頂の予感に小鳥遊さんはさらにきつく抱きしめてきた。腕も足も、尻尾も翼も全身を使って重ね合わせもうすぐ来る快楽の波を待っている。
それはオレもまた同じこと。正直よくここまで持ったと思う。常日頃彼女に散々絞られていたおかげだろう。だが、もう限界だった。
「んんんんんっ♪」
先に達したのは小鳥遊さんの方だった。絶頂の声を唇を固く結んで堪える。しかし体は大きく震えそれに伴い膣内もまた収縮した。
神経を直接刺激されるような、何度目だったかわからない強烈な快感に脳が焼き切れそうだった。吸い出されるように子宮口に纏わり付かれ、搾り取るように膣壁が波打ちながら締め上げる。溶け合いそうな熱が染み込み粘りつく愛液の感触。全てが全てオレの意識を真っ白へ塗り替えられ成すがまま精液を吐き出した。
「ぁあああああああああああっ♪」
「んんっ…！！」
魂ごと吸いとられるような凄まじい締め付けだった。一滴すら残すまいと貪欲な律動だった。
両手を回して抱きしめて、絶頂の波に互いに体を震わせながら荒い呼吸を繰り返す。互いに体力があることは知っているがやはりセックスは今までとあまりにも違いすぎる。
みっともなく体を震わせだらしのない声を上げそうになる。逃げ出すことはできず、抜け出すことも出来そうにない。ただ快楽に揉まれ収まりを見せるまで翻弄されるしかなかった。
「ぁはっ……ぁっ………はぁ………すご、い…♪」
どれほどの時間互いに震えていたのだろうか。真っ白になっていた意識がようやくはっきりしてくると囁かれた小鳥遊さんの声が届いた。
「こんなに熱くて、気持ちよくて……いっぱい、満たしてる」
絶頂後で気怠げに、だけど愛おしそうに下腹部を撫でる。その表情は蕩けてはいるが普段口や手でした時とは異なり満ち足りているように見えた。
ゆっくりと顔をあげると切れ長の瞳から送られる視線が重なる。
熱を孕んで涙を零した二つの瞳。荒い呼吸を繰り返す桜色の唇が声を出さずに言葉を紡いだ。
もっと、欲しい。
拒む理由などありはしない。それどころか淫魔の快感に堕ちつつあることを自覚している。
抱きしめることで応えると体重を掛けられ押し倒された。こちらからもと手を胸へと伸ばせば顔を掴まれ口づけで返される。
耳だけに届く言葉よりも。
目だけで見る光景よりも。
ただひたすらに五感全てで感じ取りたく、感じ合いたい。
そんな気持ちの表れなのか、部屋に木霊するのはくぐもった嬌声と肉のぶつかり合う情事の響きだけ。ただ本能の赴くままに二度目の行為へと溺れていくのだった。
15/12/07 00:02更新 / ノワール・Ｂ・シュヴァルツ
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