雨と貴方とオレと雷
「おかしなもんじゃないかぃ」
静かに雨粒が降り注ぐ、とある日のことだった。
人気のない山の上、元々龍神が暮らしていた神社で休日を満喫していたオレこと黒崎ゆうたは隣で呟いた女性へと視線を移す。
彼女は縁側に我が物顔で寝転がる。当然ながらこの神社の住人ではない。だがそんなことお構いなしに彼女は堂々としていた。
「恵みの雨なんて言われてるのにこっちは感謝されやしない」
和服、に見えなくもない藍色の衣服。所々青白く光り輝き時折肌に閃光が走る。首筋には動物の様な毛が生え、さらに頭の上には獣の様な耳があった。
どこをどう見ても人ではない。ジパングと言われるこの国では珍しくない妖怪の一人だ。
「雷なんて、どこがいいんだろうねぇ」
着物から肌蹴た大きな胸に、見せつけるように伸ばされた眩しい太腿。だが女郎の如く色っぽい雰囲気ではない。
大っぴらで凶暴で、強気だけどちょっとどこか儚げで。
時折空を打ち鳴らし、時には弱弱しくも閃光を迸らせる雷の如く、そんな雰囲気を纏った女性だった。
「あんたは…怖くないんかぃ?」
刀の様な切れ長の釣り目、黄緑色の瞳がこちらへ向けられる。
まるで心の底まで貫かれるような鋭い視線。声こそ静かなものだったが奥に潜めた感情は穏やかなものではない。
だからと言って恐れる物でもないのだけど。
「いや、別に」
特に気にする事でもない。そっけない言葉と共に御茶請け用として出したトウモロコシへと手を伸ばす。だが既に食べられてしまったらしく空を何度も掴んだ。
隣を見れば寝転ぶ彼女がトウモロコシに噛みついていた。
「ん?なんだい、そんなに食べたかったのかぃ?」
ふと気づいたように齧りかけを口から離して左右に揺らす。先端から音を立てて稲妻が弾け飛んだ。
柔らかそうな桜色の唇が弧を描く。あまりいいことを考えてるとは思えない表情だった。
「あっはぁ♪せっかくだからこのまま食べるかぃ?」
「いいよ。流石に人様が食べてるものを欲しがるほど卑しくないし」
「……そーかぃ」
なぜだか残念そうに呟くと思い切り噛みついた。トウモロコシを回し、三週もするころには全て剥がされ食べかすが器に落とされた。
「あんたも雷が怖いんかぃ?」
ぱちり、と指先から稲妻がほとばしる。先ほどからずっと、初めて会った時からずっと帯電している雷だ。
彼女もまたこのジパングにおける一人の妖怪であり人間ではない存在だ。人に害を成すと言われていた雷の獣。
『雷獣』の、らいなさん。
雨が降った日にはふらりと山を出歩いて気づけば自宅として住んでいるこの龍神神社へと訪れる。
かつてここに住んでいた龍神と知り合いだったのか、はたまた街よりも近いここを気に入っているのかはわからない。
だが、誰も会えない雨の日にこうして隣で話せるのは結構嬉しかった。
「いや、別にって言ったじゃん。雷が鳴る日って逆に楽しくなるけどね。普段にはない日だからこそ興奮するっていうかさ」
「あっはぁ!だったら今ここで一発打ち鳴らしてやろうかい?」
「それは勘弁かな」
けたけた笑う雷獣の隣でからから笑う。そのまま背後へと体重をかけて寝ころぼうかとしたその時、らいなさんと指先が触れ合った。
「あっ…」
「んっ!」
一瞬触れた指と指。
途端に走るわずかな電流。ドアノブを握った際に走る静電気ほどの強さだがすぐさま痺れは抜けていく。
「痛かったかい?」
「いや、びっくりはしたけど」
けど―伝わってきたのは痛みではなかった。
それはむず痒いような、形容しがたい感覚だった。
覚えはあるがあまりにも些細な物。決して不快な感覚ではないが断定できるものでもない。
もう強烈な一撃を食らえばわかるのかもしれないが。
「…あっはぁ」
オレの一言が可笑しかったのからいなさんは小さく笑った。
「あたしの隣にいる時点で結構度胸があるって思ってたけど……ただ単に気が抜けてるだけなのかもねぇ」
「何それ褒めてんの?」
「褒めてるよ、とびきりねぇ」
獣の様な獰猛さ。
雷のような荒々しさ。
おおよそこの国の女性とは思えないほど大っぴらで、だけどもだからこそ付き合いやすい砕けた雰囲気。
ただどこか獲物を狙う視線はぞくりとするが、それを除いても彼女は十分魅力的な女性だった。
「……っと。それじゃあ、あたしはそろそろお暇するよ」
既に外は雨が上がりかけ、雲の間から日が差し込んでいる。あと数十分もしたら雨脚も遠のくことだろう。
もう少しこの空気を楽しみたかったが仕方ない。天気なんて気ままなもの。オレ一人の我儘なんて聞いちゃくれない。らいなさんにとってもまた同じこと。
「もう少し降ってくれててもいいんだけどねぇ。昔みたいに龍神がいた頃にゃ沢山ふってたんだけどねぇ」
「まぁ、こればかりは仕方ないでしょ」
「仕方ない、かぃ。ま、それじゃあまた今度雨の降る日にでも」
そう言い残して姿が消える。後に残ったのは小さく弾ける火花のみだった。
オレこと黒崎ゆうたが住まうジパング。そのとあるこの国では妖怪と共に暮らしている。
商売上手の刑部狸、簪屋を営む毛女郎、呉服屋である女郎蜘蛛、同心であるカラス天狗。中では恐れられる鬼やあまりの神々しさから敬遠される稲荷もいるが皆決して悪い妖怪ではない。
それでも人間とは未知なるものに恐れを抱くもの。
『地震雷火事おやじ』
昔の人が恐ろしいものを順に並べた言葉だが中でも雷は二番目。
そして、らいなさんは雷を司る『雷獣』ときた。例え実害がなかろうがやはり皆怖いものは怖いらしい。
だが、向こうからしたら堪ったものではないだろう。
「あたしも一人の女ってわけさ。街の妖怪みたいに時には話したいと思うこともあるし、それなりに関わりを持ちたいって思うこともある。ただ、そうはいっても皆怖がって話になりゃしないんだけどね」
また、とある雨の日のことだった。どこからかふらりと現れたらいなさんはいつものように縁側に寝ころんでそう言った。
相変わらずの露出の多い着崩した着物姿。御茶請けとして出したもらい物のトウモロコシは既に食べ終えていた。
「だから、初めてゆうたに会った時は嬉しかったんだからねぇ」
「…そうなの?」
初めて出会った時もオレがいようと構うことな寛ぐ姿にはビビった。泥棒かと思ってもただのんびりしてるし、その割には大っぴらでさっぱりとした性格だし。
悪い女性じゃない。それがわかれば気にすることなど特にない。田舎なんて鍵すらかけない程の不用心が通る程平和なんだ。街から離れたこの山なんて警戒するものはほとんどいない。
時折迸る雷には驚くが、だからと言って実害なんてないのだし。
「嬉しかったって言うならいちいち山奥に戻るのも面倒じゃないの?」
「そりゃ面倒さね。でも日の下を歩くのは性に合わないんだよ」
「何で?」
「あたしは雷獣だよ?んなら雨の日にやってくるのがお約束ってもんじゃないかぃ」
「ふふっ。何そのこだわり」
隣に座りオレは小さく笑って傍に置いたトウモロコシに手を付けた。器の中には既に食べられたものが二本入っている。
雷獣、というのだから正体はハクビシンと言われているがそんなことはない。だが好物がトウモロコシというのはあながち間違っていないのかもしれない。
「…ねぇ、ゆうた」
体勢を変えて下からオレを見上げてくる。
晒された大きな胸が形を変えわずかに動いただけでも揺れる。見てはいけないと思いつつも視線が移るのはオレが男だから仕方ない。
しかし、オレの視線に構うことなくらいなさんは黄緑色の瞳でオレを見つめ続けた。
「本当に、変わった男だよ、あんたは」
ふと呟かれた言葉に齧ろうとした手を止めた。
「そう?」
「雷の隣に好き好んで座ってられる奴なんていやしないさ」
「いや、好き好んでっていうより勝手にらいなさんが寝転がりに来るだけじゃん」
「それでも普通こんな距離にはいられるもんじゃないのかぃ?」
ぱちり、とまた迸る雷。本物の雷と同じとは思えないが全く違うとも思えない。
この距離で、この位置で、座ってのほほんとしていればいつか感電することもありうるだろう。あまりのショックに心臓が止まることもあるかもしれない。
そう考えると確かに危険ではある。
危険ではある、が。
「先輩に落とされる雷の方が怖いし」
「あっはっは!言うねぇ!」
同心の先輩であるカラス天狗に説教されるのと隣でびりびりしているのとでは前者が怖い。一介の高校生には雷よりも説教の方が堪えるものだ。
オレの言葉にらいなさんは実に楽しげに大きな声で笑った。
「なら、またあたしに触れられるかい?」
楽しげに笑って―突然そんなことを言われる。
ばしりと走る青い閃光。
浮かべた表情はいやらしく、だけど挑発的なもの。
向けられた瞳は楽しそうに細められているが、切なげに潤んでもいる。
―恐れずに触れるか試しているだけではないだろう。
彼女が知りたいのはもっと簡単で単純なこと。
言葉にするには複雑だがそれでも彼女は求めている。
体中に稲妻を迸らせながらも切なく期待しているのだろう。
「…ほら」
そんな相手に何を躊躇することがあろうか。
オレは遠慮などせずにその頬に手を添えた。ばちり、と電光が弾けるが関係ない。
「あっはぁ♪」
途端に先ほどの表情が蕩けて笑みへと変わる。
頬を掌に押し付けるようにらいなさんは身を摺り寄せてきた。
「本当に触ってくるなんて酔狂な男だねぇ」
擦れる度に走る刺激が甘い痺れへと変わり指先を震わせた。
らいなさんは擽ったそうに眉を顰めながらも決して離れようとはしない。むしろさらに距離を詰めてくる。まるで甘えたがりな猫みたいに。
ばちり、とまた稲妻が走った。
「っ」
「痛いかい?」
「いや、変な感じ」
「そうだろうねぇ…」
意味深な言葉と共にらいなさんはいきなり顔を寄せてきた。
視界いっぱいに広がる意味深な笑み。切れ長な瞳の中には隠しきれない嬉しさと何かを求める熱が宿っていた。
あまりにも突然なことに思わず体を引いてしまう。それでも手は離さない。
「ねぇ、ゆうた。もっと触っとくれないかぃ?」
さらに距離が詰められる。鼻先が触れ合い額が重なりようやく止まる。吐息が頬を擽っていく、そんな位置で。
「なぁ、触っとくれよ…あたしを、感じとくれよっ♪」
それは彼女が雷獣だからだろうか。
他者と交わりを避けた山奥に住んでいたからだろうか。
オレの肌を、体温を、鼓動を感じたいと体を寄せて手を伸ばす。
触れた指先がばちりと弾け、途端に伝わる小さな刺激。以前はなんだかわからなかったが今ならわかる。
これは―快感だ。
比較のしようも例えも浮かばないが、これは確かに快楽だった。体の奥底に突き刺さり欲望を刺激する。何かを満たす一方でもっと欲しいと思わせる甘美な痺れだった。
オレは促されるままにらいなさんの手を握る。すると、またばちりと雷が迸った。
「あっ♪」
「ほら、触ってるよ。親指、人差し指、中指…」
言葉に出しながら互いの指を重ね合わせる。
雷獣と言っても女性の姿。指先は細く長くて白魚みたい。無骨な指と重なるとまたばちりと閃光が走った。
「薬指、小指…」
五本の指を重ね合わせて握りこむ。まるで恋人のように。
「…あっはぁ♪」
「…何か、恥ずかしい」
自分からやっておいたのに気恥ずかしくて堪らなくなってきた。顔は熱を帯び始めきっと赤くなっていることだろう。
だが離そうにも絡まった指は解けない。ふと視線をあげれば白い肌を朱に染めたらいなさんがこちらを真っ直ぐ見つめている。
「ね……もっと、触って♪」
「え、あっ」
握りこんだ手が離れたかと思えば掴まれ、突然大きな胸へと押し付けられた。あまりにもいきなりの事で驚き固まってしまう。
ただ触れただけ、それでもらいなさんの唇からは細い吐息が零れ、形のいい眉が跳ねた。
「んっ♪」
たわわに実った膨らみは力を込められた分だけ指を沈ませ形を変える。掌に吸い付くような肉の手触りはあまりにも滑らかで柔らかい。自分の望むままに形を変える姿から目が離せなかった。
徐々に硬さをもちはじめた頂点に指先で触れるとさらに大きな稲妻が走った。
「っ」
「あんっ♪」
快楽の大きさと連動しているらしく掌にも伝わってくる。
弾ける衝撃と伝わる快楽。先ほどよりも強烈に体を突き刺し甘い痺れを残していった。
「あ、はぁ…♪」
「あ、えっと……痛かったりしない?」
「痛くったってかまわないから。だから、ね……もっと触っておくれよ……♪」
熱い吐息を吹きかけて顔が近づいてきた。
あっと思った頃にはもう遅い。鼻先が再び重なりあと僅かで唇が触れ合う位置だ。
互いに顔を赤くして気恥ずかしく目を伏せる。だが離れるつもりは欠片もなくオレは瞼を下げて唇を前に出した。
「んっ…♪」
お互いに唇を寄せ重ねあう。
だがらいなさんはもっと触れたいと言わんばかりに体を寄せて晒された肌が押し付けられた。
男にはない女体の柔らかさ。雷が迸ろうとも一人の女性であることには変わりない。
触れた肌から伝わる鼓動。高い体温に時折弾ける雷。体が痺れてしまうが、それでも離れたいとは思わない。
「あっはぁ♪堪んないねぇ…んむっ♪」
一端離れ、再び押し付けられる唇。舌先が間から差し込まれ触れ合うと口内でばちりと音がした。
「んぐっ!?」
一瞬瞼の裏で火花が散る。本来ありえない衝撃と共に伝わってきた快楽に大きく体が跳ねた。
「はむっ♪ん、ふ♪んんんっ♪」
噛みつくように唇を押し付けてくる。もっと深くへ差し込むように舌を突出し、食い尽くすように啜りあげる。
唾液が流れ、雷が弾け、吐息を漏らして体を寄せて。触れた肌に、服に、髪の毛に、次々と稲妻が迸り光を閃かせた。
「んんんっ?!」
「ん、ちゅ♪ぷぁ…ん♪」
ぬめった舌が絡みつけばまたばちりと弾ける。口内を縦横無尽に蠢いてはまたばちり。離れることも出来ずに流れ込む唾液を飲み込めばさらに喉の奥でもばちりと来た。
小さな爆発だがどれも快楽の伴う衝撃だ。頭が痺れ舌が震え呼吸が止まりかけるほどに強烈だった。
唇を離すが頭の中がぼやけている。もう少ししたら意識も飛んでいたかもしれない。それほど密着状態で叩き込まれる電撃は壮絶だった。
「あっはぁ♪蕩けた顔しちゃって…気持ちよかったかぃ?」
「ぇ、ぁ…」
思考が上手く回らない。それどころか呂律もだ。体中痺れたように鈍くなってしまったがそれでも感覚だけははっきりとしている。重なる体温やふわりと香る女性の匂い、それどころか弾ける電撃すら薄れることなく感じてしまう。
「なら、もっと気持ちよくしてあげるからねぇ♪」
纏っていた着物を鬱陶しそうに脱ぎ捨てる。
しなやかな四肢に大きな胸。色っぽい括れや悩ましい曲線の臀部。傷も染みも一つもない滑らかで白い肌には汗と雷が浮かんでいた。
「ほら、ゆうたも脱いどくれよ」
「ぁ、ちょ、と…っ」
「あぁ、痺れて脱げないんだねぇ。それじゃああたしが脱がしたげるよ」
納得したように頷くと躊躇いなくオレの服を脱がしにかかる。
今日は休日だったため部屋着用の浴衣姿。帯を容易く引っぺがすとすぐに下着の身にされ床へと転がされた。
彼女の笑みがより深くなっていく。
まるで獲物を前にした獣の如く。ぎらつく牙を見せ今にも飛び掛からんと瞳を爛々と光らせていた。
「あっはぁ♪いい体してるじゃないかぃ…それに、ここも♪」
「んっ!」
伸ばされた手が下腹部へと置かれる。興奮と雷撃で既に大きくなったそこは触れたことでびくりと震えた。
「触っただけで震えて……なら、こうするとどうだぃ?」
「あぁあっ!」
悲鳴にも似た声が出た。
らいなさんがオレのものへと触れたらしい。いや、触れて雷が迸ったようだ。
擦っても濡らしてもいないのにとんでもない刺激が突き刺さってくる。ばちりばちりと何度も閃光を迸らせて。
今まで感じたどの刺激とも似つかないのにそれは確かな快楽だった。下腹部に溜まった欲望を刺激し、絶頂へと押し上げる壮絶な快感だった。
「びくびく震えちゃってまるで丘に上がった魚みたいだねぇ」
触れた指先からまた閃光が走り体をのけぞらせる。だが、痛めつけるようなものではなくゆっくり撫でる手の平は慈愛に満ち溢れていた。獲物を弄ぶように見えるが決して傷つけるつもりはないらしい。
「それじゃあちゃんと裸にして…」
下着を脱がされ外気に肌を晒される。露わになった男の証をらいなさんは恍惚とした表情で見つめていた
「こんなに大きくして…いやらしい匂いまでさせて堪らないねぇ♪」
浮き出た血管一つ一つを観察する様に顔を寄せるらいなさん。熱い吐息がくすぐったく伸ばした指先がわずかに触れる。先端から滲みだした液体を掬い取るとべろりと見せつけるように指先を舐め上げた。
「あ、はぁ♪もう我慢できないよ♪」
息も絶え絶えなオレの上に跨ると見せつけるように下腹部に指を添え、広げた。
僅かに生えた茂みと綺麗な肌の色。そこからはとめどなく粘液が滴りオレの上へと落ちていく。
「ねぇ、ゆうた……こっちでももっと触れてくれないかぃ?」
「……ぁ」
欲望と期待と、僅かな恐怖。
求めるように向けられた濡れた瞳。興奮を隠しきれない甘い吐息。
きっと交れば狂ってしまう。あの雷に貫かれて壊れてしまう。そうわかっていてもらいなさんを拒む気にもなれなかった。
「いい、よ…」
「あっはぁ♪それじゃあ…いれるからね♪」
ゆっくりと腰を下ろしてオレのものへ押し付けてくる。先端にはぬめりを感じ、他人の感触が伝わってきたと思ったらいきなりきつく狭い入口に突き刺さった。四方から柔肉が押し包まれねっとり絡みつく粘液に滑り奥まで一気に飲み込まれた。
それと同時に今までで一番大きな雷撃が迸る。触れた肌から、重なった部分から、そして全身へと走り弾けた。
「くぅ、ぅああ♪」
初めて感じる女性の感触と上乗せされた雷撃の感覚。堪え切れるはずもなくオレはらいなさんの中へと精液を吐き出してしまった。
「あっ♪はぁああああああっ♪」
「っ!…っ!!」
さらに上乗せされる絶頂の快感。許容量などとっくに超えた快楽の波に意識が弾けてしまいそうだった。
流されまいと目の前のらいなさんを抱きしめるが逆効果。さらに電撃が体に伝わり体の隅から隅までを駆け巡っていく。
びくんびくんと震える体。それと同じく脈動するオレのもの。
遮るものなどあるはずもなくらいなさんの膣内へと精液を注ぎ込む。対面座位の体勢で離れることもできないままに。
膣内が応じて律動する。吐き出された精液を飲み込むように、いや、さらに刺激し求めるように。
絶頂中も流れる雷。絞られるように抱きしめる膣内。尿道を迸る精液の感触に声にならない悲鳴を上げた。
「ん、ぁ♪あたしの中ぁ、そんなによかったんかぃ♪」
「あ、は…はっ…ぁ……」
ようやく落ち着くころには指先が震え声がまともに出せなくなっていた。かすれた呼吸音しか響かず、だけどもらいなさんは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「あっ♪はぁ♪堪んないねぇ♪でも、もっと堪らなくしてあげるよ♪」
らいなさんはゆっくりと腰を上げてオレを見つめながら動き始めた。上に、下に、前に、後ろに、円を描くように動いては膣壁で敏感な部分を擦られる。
動くたびに揺れる膨らみが目を奪う。先ほど触れた柔肉は動きに合わせて上下して滲んだ汗が飛び散った。
「あ、ん♪あっ♪あっ♪あぁああもっとぞ♪もっとしてあげるからねぇ♪」
「あっ、がっ!」
ばちりと弾けた閃光に体をのけぞらせ床に頭をぶつける。そんな痛みすらかき消すほどの雷撃が体を貫き甘美な痺れを残していく。
長い髪の毛を振り乱し妖艶に唇を歪める。見せつけるように口を開くと伸ばした舌でオレの頬を舐め上げた。
「っ!!」
再びばちりと走る快楽の刺激。勝手に跳ねる体を抑え込まれ今度は腰が打ち付けられた。肉と肉のぶつかり合う音と雷の弾ける音が響き渡る。体全体を貫く激しい快感。目の前では文字通り火花が散り何度も頭の中が真っ白に染まる。
「あ、いいっ♪いいよぉ♪あたしの中で暴れてるっ♪」
行為が激しさを増していく。淫らに揺れる腰がさらに深くまで熱烈な交わりを求めてくる。
震える膣内が渦を描き単純だった動きが新たな快感を叩きだす。僅かな動きですら迸る雷撃と柔肉に抱きしめられる感触といやらしく乱れたらいさなんの姿にすぐさま二度目の射精も近づいていた。
「らいな、さんっ!ま、た…」
「あは♪また出しちゃうのかぃ?いいよ…一番、おくにぃぃいっ♪」
応じるように腰を落とされ抱きしめられる。
全身を震わせてらいなさんの最奥に二度目の精液を吐き出した。熱く柔らかな肉壁に締め上げられ戦慄くたびに注ぎ込まれ染めていく。
膣内へと流れ込む熱い体液にらいなさんの体が反応する。体から力が抜けこちらへ倒れ込んでくるも震えは止まらない。オレの絶頂の感覚に応じるように彼女もまた上り詰めていたらしい。
「あっ♪いく、いくっ……ぁあ♪ああああああああっ♪」
一際大きな嬌声と共にらいなさんは体を震わせ、次の瞬間凄まじい電撃が迸る。
絶頂後の心地よい気怠さを感じる暇なんて与えてもらえない。むしろ、さらに上へと押し上げるように稲妻が体を貫いた。
「ぁあっ!?」
瞼の裏で飛び切り大きな火花が散った。体中を駆け巡る快楽の雷に神経が焼き切れそうだ。
狂ってしまう、壊れてしまう。
恐怖すら感じるのだがそれすらも快楽が打ち砕いていく。許容量以上の快感にとうとう意識が弾け飛ぶのだった。
―だが、意識が飛ぶのはほんの一瞬のみ。
快楽にたたき起こされ快感が意識を飛ばす。
何度も絶頂へと押し上げられているが決して下ろされることはない。らいなさんが絶頂にあり続ける限りオレもまた絶頂から降りられない
―意識が弾ける。
―雷撃が迸る。
―快感で覚醒する。
―精液を注ぎ込む。
その繰り返しだった。
終わらぬ快楽に意識を焼かれ、休まぬ絶頂に頭を犯され、拒めぬ雷撃に体を震わせ続けるだけ。
「あぁああああっ♪いいよぉ♪もっと、もっと出してっ♪」
「っ…!っ!!」
らいなさんはその感覚を味わうように腰を押し付けもっとと言わんばかりに締め上げる。体中に走る電撃と熱烈な締め上げに何度目か頭の中が真っ白になった。
時間にしてどれくらい続いたのかわからない。数秒程度か数分程度か、ただひたすらに長い時間だと感じられた。
弾ける音が小さくなり迸る雷も止み始めた頃にようやく快楽の波が引く。体はだるく指は重い。絶頂後の気怠さというよりも鉛になったかのようだ。
「んはぁ♪あたしのお腹の中ゆうたで一杯だよ……でも、もっとできるかぃ?」
「……ぇ?」
しかしらいなさんの獣欲はまだまだ尽きていない。迸る快楽もまだ止みそうにもない。
ばちばちと先ほど以上の閃光を生み出しながらいやらしく笑って顔を寄せてくる。
「あはぁ♪今以上に気持ちよくしてあげるからねぇ♪」
外の雨はもう止みかけている。だというのにオレの傍では雷はまだまだ止む気配を見せないのだった。
「ごめんね、大丈夫だったかぃ?」
「…いや、全然」
縁側に寝転がった体は動かせず指先が震えるのみ。あまりにも激しい行為と強烈な電撃に体がついていけなかったらしい。もう何度絶頂したかすら覚えてないし、いつから意識が落ちていたのかすらわからない。
当然だ。普通に生きてあんな体験できるものではない。甘美ではあったがあまりにも激しすぎる。人間の体ではついていけるはずがなかった。
「流石に死ぬかと思った」
「あはは……すまないねぇ。あまりにも気持ちよくってさ」
彼女も反省しているのか先ほどよりもずっと弱い雷撃が体から迸っている。比べるまでもない微弱な快楽電撃だがそれすら伝わらないようにと一定の距離を置いて寝転がっていた。
鉛のように重い体を動かしてらいなさんを見やる。その顔は申し訳なさで一杯だ。
「やっぱあたしが触っていいもんじゃないねぇ」
自重している、というよりも後悔する様な口調。先ほどとは打って変わって寂しげな笑みと微弱な雷電。反省したというよりもしたこと自体を悔いているような雰囲気だ。
「…」
雷獣、なんてあの街ではまず見かけない。
らいなさんが接触を避けているのか、逆なのかは知らないがこういった関わりが多いとは思えない。それなら加減の一つ知らずとも無理はないだろう。
やりすぎたのは否めない。だからと言って怒る気にもなれなかった。
「できればもう少し優しくしてほしいかな。情けない話だけどさ」
「……あっはぁ♪」
体を起こしたらいなさんはゆっくり体を寄せオレの顔を覗き込む。
先ほどとは違う嬉しそうな笑みを浮かべ見せつけるように舌で唇を舐めとった。ぱちり、と舌先から稲妻を迸らせて。
「本当に酔狂な男だねぇ」
「あ、今すぐに続きっていうのは勘弁してね」
「流石のあたしも続けざまに無理させないよ」
そうはいっても先ほどから下腹部でばちりばちりと音が響いてくる。情事で生まれた雷だろうか、反芻する様に何度も弾けている。
「…でも触っていいかぃ?」
「それくらいなら」
おずおずと伸ばされた手が頬に触れる。温かくて柔らかい掌は首へと流れ胸へと添えられた。
それだけでは終わらない。らいなさんはさらに距離を詰めると頬を擦り付け体を押し付けてきた。
「あっはぁ…温かいねぇ」
首回りに生えた毛がくすぐったい。甘えるように抱きしめられるが痺れた手では抱き返すことはできそうになかった。
仕方なく身を捩ってこちらからも体を寄せる。それだけでもらいなさんは喜んでまたばちりと稲妻が迸った。
「っ」
「あ、ごめんよ。どうも嬉しくてねぇ」
触れた肌からぴりりと弾ける小さな稲妻。行為の最中迸った雷と比べるとあまりにも小さく静電気ほどのものだ。
だが今は疲れた体に心地よい痺れをもたらしていく。固まった筋肉を解していくように。電気マッサージってこういう感じなんだろうか。
なんて考えているとらいなさんが耳元へ顔を寄せてきた。
「ねぇ、ゆうた。少ししたら……また、しとくれないかぃ?」
「えっ」
突然の発言に思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
いくら華の十代とはいえあれほど壮絶な情事を繰り返せるほどお盛んではない。今もまだ体に自由は戻っていない。
だというのに下腹部は期待しているのか熱を帯び徐々に硬さを増していく。浅ましいというか、なんというか……。
らいなさんを見れば普段の勝気な表情とは一変して甘えるような表情でオレを見つめていた。
「あ、明日じゃ……ダメ?」
「あっはぁ♪あんなに気持ちがいいのを明日まで待ってられると思ったのかぃ?大丈夫、今度はちゃんと優しくしてあげるから、さ」
体を起こしたらいなさんは未だに痺れたオレへ覆いかぶさってくる。
のしかかってくる女性の柔らかさ。心地よい重さとびりびり伝わってくる微弱な雷。だが、未だにらいなさんの下腹部の方では眩しいほどに迸っている。
確実に優しいじゃ済まないと予想できる。予想できるのに、拒める手段がない。
「…あぁ、もう。まったく仕方ないね」
「あっはぁ♪それじゃあいっぱい気持ちよくしてあげるからねぇ…期待しとくれよ、ゆうた♪」
明日は同心の仕事があるのにこれではきっと立つことすらままならない。
そんなことを考えながら重い手を伸ばしらいなさんへの背へと回す。応じるように彼女もまたオレの体を抱きしめた。
外は既に雨が止み雲の間から日差しが差し込むがこちらの雷はまだまだ止みそうになかった。
―HAPPY END―
静かに雨粒が降り注ぐ、とある日のことだった。
人気のない山の上、元々龍神が暮らしていた神社で休日を満喫していたオレこと黒崎ゆうたは隣で呟いた女性へと視線を移す。
彼女は縁側に我が物顔で寝転がる。当然ながらこの神社の住人ではない。だがそんなことお構いなしに彼女は堂々としていた。
「恵みの雨なんて言われてるのにこっちは感謝されやしない」
和服、に見えなくもない藍色の衣服。所々青白く光り輝き時折肌に閃光が走る。首筋には動物の様な毛が生え、さらに頭の上には獣の様な耳があった。
どこをどう見ても人ではない。ジパングと言われるこの国では珍しくない妖怪の一人だ。
「雷なんて、どこがいいんだろうねぇ」
着物から肌蹴た大きな胸に、見せつけるように伸ばされた眩しい太腿。だが女郎の如く色っぽい雰囲気ではない。
大っぴらで凶暴で、強気だけどちょっとどこか儚げで。
時折空を打ち鳴らし、時には弱弱しくも閃光を迸らせる雷の如く、そんな雰囲気を纏った女性だった。
「あんたは…怖くないんかぃ?」
刀の様な切れ長の釣り目、黄緑色の瞳がこちらへ向けられる。
まるで心の底まで貫かれるような鋭い視線。声こそ静かなものだったが奥に潜めた感情は穏やかなものではない。
だからと言って恐れる物でもないのだけど。
「いや、別に」
特に気にする事でもない。そっけない言葉と共に御茶請け用として出したトウモロコシへと手を伸ばす。だが既に食べられてしまったらしく空を何度も掴んだ。
隣を見れば寝転ぶ彼女がトウモロコシに噛みついていた。
「ん?なんだい、そんなに食べたかったのかぃ?」
ふと気づいたように齧りかけを口から離して左右に揺らす。先端から音を立てて稲妻が弾け飛んだ。
柔らかそうな桜色の唇が弧を描く。あまりいいことを考えてるとは思えない表情だった。
「あっはぁ♪せっかくだからこのまま食べるかぃ?」
「いいよ。流石に人様が食べてるものを欲しがるほど卑しくないし」
「……そーかぃ」
なぜだか残念そうに呟くと思い切り噛みついた。トウモロコシを回し、三週もするころには全て剥がされ食べかすが器に落とされた。
「あんたも雷が怖いんかぃ?」
ぱちり、と指先から稲妻がほとばしる。先ほどからずっと、初めて会った時からずっと帯電している雷だ。
彼女もまたこのジパングにおける一人の妖怪であり人間ではない存在だ。人に害を成すと言われていた雷の獣。
『雷獣』の、らいなさん。
雨が降った日にはふらりと山を出歩いて気づけば自宅として住んでいるこの龍神神社へと訪れる。
かつてここに住んでいた龍神と知り合いだったのか、はたまた街よりも近いここを気に入っているのかはわからない。
だが、誰も会えない雨の日にこうして隣で話せるのは結構嬉しかった。
「いや、別にって言ったじゃん。雷が鳴る日って逆に楽しくなるけどね。普段にはない日だからこそ興奮するっていうかさ」
「あっはぁ!だったら今ここで一発打ち鳴らしてやろうかい?」
「それは勘弁かな」
けたけた笑う雷獣の隣でからから笑う。そのまま背後へと体重をかけて寝ころぼうかとしたその時、らいなさんと指先が触れ合った。
「あっ…」
「んっ!」
一瞬触れた指と指。
途端に走るわずかな電流。ドアノブを握った際に走る静電気ほどの強さだがすぐさま痺れは抜けていく。
「痛かったかい?」
「いや、びっくりはしたけど」
けど―伝わってきたのは痛みではなかった。
それはむず痒いような、形容しがたい感覚だった。
覚えはあるがあまりにも些細な物。決して不快な感覚ではないが断定できるものでもない。
もう強烈な一撃を食らえばわかるのかもしれないが。
「…あっはぁ」
オレの一言が可笑しかったのからいなさんは小さく笑った。
「あたしの隣にいる時点で結構度胸があるって思ってたけど……ただ単に気が抜けてるだけなのかもねぇ」
「何それ褒めてんの?」
「褒めてるよ、とびきりねぇ」
獣の様な獰猛さ。
雷のような荒々しさ。
おおよそこの国の女性とは思えないほど大っぴらで、だけどもだからこそ付き合いやすい砕けた雰囲気。
ただどこか獲物を狙う視線はぞくりとするが、それを除いても彼女は十分魅力的な女性だった。
「……っと。それじゃあ、あたしはそろそろお暇するよ」
既に外は雨が上がりかけ、雲の間から日が差し込んでいる。あと数十分もしたら雨脚も遠のくことだろう。
もう少しこの空気を楽しみたかったが仕方ない。天気なんて気ままなもの。オレ一人の我儘なんて聞いちゃくれない。らいなさんにとってもまた同じこと。
「もう少し降ってくれててもいいんだけどねぇ。昔みたいに龍神がいた頃にゃ沢山ふってたんだけどねぇ」
「まぁ、こればかりは仕方ないでしょ」
「仕方ない、かぃ。ま、それじゃあまた今度雨の降る日にでも」
そう言い残して姿が消える。後に残ったのは小さく弾ける火花のみだった。
オレこと黒崎ゆうたが住まうジパング。そのとあるこの国では妖怪と共に暮らしている。
商売上手の刑部狸、簪屋を営む毛女郎、呉服屋である女郎蜘蛛、同心であるカラス天狗。中では恐れられる鬼やあまりの神々しさから敬遠される稲荷もいるが皆決して悪い妖怪ではない。
それでも人間とは未知なるものに恐れを抱くもの。
『地震雷火事おやじ』
昔の人が恐ろしいものを順に並べた言葉だが中でも雷は二番目。
そして、らいなさんは雷を司る『雷獣』ときた。例え実害がなかろうがやはり皆怖いものは怖いらしい。
だが、向こうからしたら堪ったものではないだろう。
「あたしも一人の女ってわけさ。街の妖怪みたいに時には話したいと思うこともあるし、それなりに関わりを持ちたいって思うこともある。ただ、そうはいっても皆怖がって話になりゃしないんだけどね」
また、とある雨の日のことだった。どこからかふらりと現れたらいなさんはいつものように縁側に寝ころんでそう言った。
相変わらずの露出の多い着崩した着物姿。御茶請けとして出したもらい物のトウモロコシは既に食べ終えていた。
「だから、初めてゆうたに会った時は嬉しかったんだからねぇ」
「…そうなの?」
初めて出会った時もオレがいようと構うことな寛ぐ姿にはビビった。泥棒かと思ってもただのんびりしてるし、その割には大っぴらでさっぱりとした性格だし。
悪い女性じゃない。それがわかれば気にすることなど特にない。田舎なんて鍵すらかけない程の不用心が通る程平和なんだ。街から離れたこの山なんて警戒するものはほとんどいない。
時折迸る雷には驚くが、だからと言って実害なんてないのだし。
「嬉しかったって言うならいちいち山奥に戻るのも面倒じゃないの?」
「そりゃ面倒さね。でも日の下を歩くのは性に合わないんだよ」
「何で?」
「あたしは雷獣だよ?んなら雨の日にやってくるのがお約束ってもんじゃないかぃ」
「ふふっ。何そのこだわり」
隣に座りオレは小さく笑って傍に置いたトウモロコシに手を付けた。器の中には既に食べられたものが二本入っている。
雷獣、というのだから正体はハクビシンと言われているがそんなことはない。だが好物がトウモロコシというのはあながち間違っていないのかもしれない。
「…ねぇ、ゆうた」
体勢を変えて下からオレを見上げてくる。
晒された大きな胸が形を変えわずかに動いただけでも揺れる。見てはいけないと思いつつも視線が移るのはオレが男だから仕方ない。
しかし、オレの視線に構うことなくらいなさんは黄緑色の瞳でオレを見つめ続けた。
「本当に、変わった男だよ、あんたは」
ふと呟かれた言葉に齧ろうとした手を止めた。
「そう?」
「雷の隣に好き好んで座ってられる奴なんていやしないさ」
「いや、好き好んでっていうより勝手にらいなさんが寝転がりに来るだけじゃん」
「それでも普通こんな距離にはいられるもんじゃないのかぃ?」
ぱちり、とまた迸る雷。本物の雷と同じとは思えないが全く違うとも思えない。
この距離で、この位置で、座ってのほほんとしていればいつか感電することもありうるだろう。あまりのショックに心臓が止まることもあるかもしれない。
そう考えると確かに危険ではある。
危険ではある、が。
「先輩に落とされる雷の方が怖いし」
「あっはっは!言うねぇ!」
同心の先輩であるカラス天狗に説教されるのと隣でびりびりしているのとでは前者が怖い。一介の高校生には雷よりも説教の方が堪えるものだ。
オレの言葉にらいなさんは実に楽しげに大きな声で笑った。
「なら、またあたしに触れられるかい?」
楽しげに笑って―突然そんなことを言われる。
ばしりと走る青い閃光。
浮かべた表情はいやらしく、だけど挑発的なもの。
向けられた瞳は楽しそうに細められているが、切なげに潤んでもいる。
―恐れずに触れるか試しているだけではないだろう。
彼女が知りたいのはもっと簡単で単純なこと。
言葉にするには複雑だがそれでも彼女は求めている。
体中に稲妻を迸らせながらも切なく期待しているのだろう。
「…ほら」
そんな相手に何を躊躇することがあろうか。
オレは遠慮などせずにその頬に手を添えた。ばちり、と電光が弾けるが関係ない。
「あっはぁ♪」
途端に先ほどの表情が蕩けて笑みへと変わる。
頬を掌に押し付けるようにらいなさんは身を摺り寄せてきた。
「本当に触ってくるなんて酔狂な男だねぇ」
擦れる度に走る刺激が甘い痺れへと変わり指先を震わせた。
らいなさんは擽ったそうに眉を顰めながらも決して離れようとはしない。むしろさらに距離を詰めてくる。まるで甘えたがりな猫みたいに。
ばちり、とまた稲妻が走った。
「っ」
「痛いかい?」
「いや、変な感じ」
「そうだろうねぇ…」
意味深な言葉と共にらいなさんはいきなり顔を寄せてきた。
視界いっぱいに広がる意味深な笑み。切れ長な瞳の中には隠しきれない嬉しさと何かを求める熱が宿っていた。
あまりにも突然なことに思わず体を引いてしまう。それでも手は離さない。
「ねぇ、ゆうた。もっと触っとくれないかぃ?」
さらに距離が詰められる。鼻先が触れ合い額が重なりようやく止まる。吐息が頬を擽っていく、そんな位置で。
「なぁ、触っとくれよ…あたしを、感じとくれよっ♪」
それは彼女が雷獣だからだろうか。
他者と交わりを避けた山奥に住んでいたからだろうか。
オレの肌を、体温を、鼓動を感じたいと体を寄せて手を伸ばす。
触れた指先がばちりと弾け、途端に伝わる小さな刺激。以前はなんだかわからなかったが今ならわかる。
これは―快感だ。
比較のしようも例えも浮かばないが、これは確かに快楽だった。体の奥底に突き刺さり欲望を刺激する。何かを満たす一方でもっと欲しいと思わせる甘美な痺れだった。
オレは促されるままにらいなさんの手を握る。すると、またばちりと雷が迸った。
「あっ♪」
「ほら、触ってるよ。親指、人差し指、中指…」
言葉に出しながら互いの指を重ね合わせる。
雷獣と言っても女性の姿。指先は細く長くて白魚みたい。無骨な指と重なるとまたばちりと閃光が走った。
「薬指、小指…」
五本の指を重ね合わせて握りこむ。まるで恋人のように。
「…あっはぁ♪」
「…何か、恥ずかしい」
自分からやっておいたのに気恥ずかしくて堪らなくなってきた。顔は熱を帯び始めきっと赤くなっていることだろう。
だが離そうにも絡まった指は解けない。ふと視線をあげれば白い肌を朱に染めたらいなさんがこちらを真っ直ぐ見つめている。
「ね……もっと、触って♪」
「え、あっ」
握りこんだ手が離れたかと思えば掴まれ、突然大きな胸へと押し付けられた。あまりにもいきなりの事で驚き固まってしまう。
ただ触れただけ、それでもらいなさんの唇からは細い吐息が零れ、形のいい眉が跳ねた。
「んっ♪」
たわわに実った膨らみは力を込められた分だけ指を沈ませ形を変える。掌に吸い付くような肉の手触りはあまりにも滑らかで柔らかい。自分の望むままに形を変える姿から目が離せなかった。
徐々に硬さをもちはじめた頂点に指先で触れるとさらに大きな稲妻が走った。
「っ」
「あんっ♪」
快楽の大きさと連動しているらしく掌にも伝わってくる。
弾ける衝撃と伝わる快楽。先ほどよりも強烈に体を突き刺し甘い痺れを残していった。
「あ、はぁ…♪」
「あ、えっと……痛かったりしない?」
「痛くったってかまわないから。だから、ね……もっと触っておくれよ……♪」
熱い吐息を吹きかけて顔が近づいてきた。
あっと思った頃にはもう遅い。鼻先が再び重なりあと僅かで唇が触れ合う位置だ。
互いに顔を赤くして気恥ずかしく目を伏せる。だが離れるつもりは欠片もなくオレは瞼を下げて唇を前に出した。
「んっ…♪」
お互いに唇を寄せ重ねあう。
だがらいなさんはもっと触れたいと言わんばかりに体を寄せて晒された肌が押し付けられた。
男にはない女体の柔らかさ。雷が迸ろうとも一人の女性であることには変わりない。
触れた肌から伝わる鼓動。高い体温に時折弾ける雷。体が痺れてしまうが、それでも離れたいとは思わない。
「あっはぁ♪堪んないねぇ…んむっ♪」
一端離れ、再び押し付けられる唇。舌先が間から差し込まれ触れ合うと口内でばちりと音がした。
「んぐっ!?」
一瞬瞼の裏で火花が散る。本来ありえない衝撃と共に伝わってきた快楽に大きく体が跳ねた。
「はむっ♪ん、ふ♪んんんっ♪」
噛みつくように唇を押し付けてくる。もっと深くへ差し込むように舌を突出し、食い尽くすように啜りあげる。
唾液が流れ、雷が弾け、吐息を漏らして体を寄せて。触れた肌に、服に、髪の毛に、次々と稲妻が迸り光を閃かせた。
「んんんっ?!」
「ん、ちゅ♪ぷぁ…ん♪」
ぬめった舌が絡みつけばまたばちりと弾ける。口内を縦横無尽に蠢いてはまたばちり。離れることも出来ずに流れ込む唾液を飲み込めばさらに喉の奥でもばちりと来た。
小さな爆発だがどれも快楽の伴う衝撃だ。頭が痺れ舌が震え呼吸が止まりかけるほどに強烈だった。
唇を離すが頭の中がぼやけている。もう少ししたら意識も飛んでいたかもしれない。それほど密着状態で叩き込まれる電撃は壮絶だった。
「あっはぁ♪蕩けた顔しちゃって…気持ちよかったかぃ?」
「ぇ、ぁ…」
思考が上手く回らない。それどころか呂律もだ。体中痺れたように鈍くなってしまったがそれでも感覚だけははっきりとしている。重なる体温やふわりと香る女性の匂い、それどころか弾ける電撃すら薄れることなく感じてしまう。
「なら、もっと気持ちよくしてあげるからねぇ♪」
纏っていた着物を鬱陶しそうに脱ぎ捨てる。
しなやかな四肢に大きな胸。色っぽい括れや悩ましい曲線の臀部。傷も染みも一つもない滑らかで白い肌には汗と雷が浮かんでいた。
「ほら、ゆうたも脱いどくれよ」
「ぁ、ちょ、と…っ」
「あぁ、痺れて脱げないんだねぇ。それじゃああたしが脱がしたげるよ」
納得したように頷くと躊躇いなくオレの服を脱がしにかかる。
今日は休日だったため部屋着用の浴衣姿。帯を容易く引っぺがすとすぐに下着の身にされ床へと転がされた。
彼女の笑みがより深くなっていく。
まるで獲物を前にした獣の如く。ぎらつく牙を見せ今にも飛び掛からんと瞳を爛々と光らせていた。
「あっはぁ♪いい体してるじゃないかぃ…それに、ここも♪」
「んっ!」
伸ばされた手が下腹部へと置かれる。興奮と雷撃で既に大きくなったそこは触れたことでびくりと震えた。
「触っただけで震えて……なら、こうするとどうだぃ?」
「あぁあっ!」
悲鳴にも似た声が出た。
らいなさんがオレのものへと触れたらしい。いや、触れて雷が迸ったようだ。
擦っても濡らしてもいないのにとんでもない刺激が突き刺さってくる。ばちりばちりと何度も閃光を迸らせて。
今まで感じたどの刺激とも似つかないのにそれは確かな快楽だった。下腹部に溜まった欲望を刺激し、絶頂へと押し上げる壮絶な快感だった。
「びくびく震えちゃってまるで丘に上がった魚みたいだねぇ」
触れた指先からまた閃光が走り体をのけぞらせる。だが、痛めつけるようなものではなくゆっくり撫でる手の平は慈愛に満ち溢れていた。獲物を弄ぶように見えるが決して傷つけるつもりはないらしい。
「それじゃあちゃんと裸にして…」
下着を脱がされ外気に肌を晒される。露わになった男の証をらいなさんは恍惚とした表情で見つめていた
「こんなに大きくして…いやらしい匂いまでさせて堪らないねぇ♪」
浮き出た血管一つ一つを観察する様に顔を寄せるらいなさん。熱い吐息がくすぐったく伸ばした指先がわずかに触れる。先端から滲みだした液体を掬い取るとべろりと見せつけるように指先を舐め上げた。
「あ、はぁ♪もう我慢できないよ♪」
息も絶え絶えなオレの上に跨ると見せつけるように下腹部に指を添え、広げた。
僅かに生えた茂みと綺麗な肌の色。そこからはとめどなく粘液が滴りオレの上へと落ちていく。
「ねぇ、ゆうた……こっちでももっと触れてくれないかぃ?」
「……ぁ」
欲望と期待と、僅かな恐怖。
求めるように向けられた濡れた瞳。興奮を隠しきれない甘い吐息。
きっと交れば狂ってしまう。あの雷に貫かれて壊れてしまう。そうわかっていてもらいなさんを拒む気にもなれなかった。
「いい、よ…」
「あっはぁ♪それじゃあ…いれるからね♪」
ゆっくりと腰を下ろしてオレのものへ押し付けてくる。先端にはぬめりを感じ、他人の感触が伝わってきたと思ったらいきなりきつく狭い入口に突き刺さった。四方から柔肉が押し包まれねっとり絡みつく粘液に滑り奥まで一気に飲み込まれた。
それと同時に今までで一番大きな雷撃が迸る。触れた肌から、重なった部分から、そして全身へと走り弾けた。
「くぅ、ぅああ♪」
初めて感じる女性の感触と上乗せされた雷撃の感覚。堪え切れるはずもなくオレはらいなさんの中へと精液を吐き出してしまった。
「あっ♪はぁああああああっ♪」
「っ!…っ!!」
さらに上乗せされる絶頂の快感。許容量などとっくに超えた快楽の波に意識が弾けてしまいそうだった。
流されまいと目の前のらいなさんを抱きしめるが逆効果。さらに電撃が体に伝わり体の隅から隅までを駆け巡っていく。
びくんびくんと震える体。それと同じく脈動するオレのもの。
遮るものなどあるはずもなくらいなさんの膣内へと精液を注ぎ込む。対面座位の体勢で離れることもできないままに。
膣内が応じて律動する。吐き出された精液を飲み込むように、いや、さらに刺激し求めるように。
絶頂中も流れる雷。絞られるように抱きしめる膣内。尿道を迸る精液の感触に声にならない悲鳴を上げた。
「ん、ぁ♪あたしの中ぁ、そんなによかったんかぃ♪」
「あ、は…はっ…ぁ……」
ようやく落ち着くころには指先が震え声がまともに出せなくなっていた。かすれた呼吸音しか響かず、だけどもらいなさんは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「あっ♪はぁ♪堪んないねぇ♪でも、もっと堪らなくしてあげるよ♪」
らいなさんはゆっくりと腰を上げてオレを見つめながら動き始めた。上に、下に、前に、後ろに、円を描くように動いては膣壁で敏感な部分を擦られる。
動くたびに揺れる膨らみが目を奪う。先ほど触れた柔肉は動きに合わせて上下して滲んだ汗が飛び散った。
「あ、ん♪あっ♪あっ♪あぁああもっとぞ♪もっとしてあげるからねぇ♪」
「あっ、がっ!」
ばちりと弾けた閃光に体をのけぞらせ床に頭をぶつける。そんな痛みすらかき消すほどの雷撃が体を貫き甘美な痺れを残していく。
長い髪の毛を振り乱し妖艶に唇を歪める。見せつけるように口を開くと伸ばした舌でオレの頬を舐め上げた。
「っ!!」
再びばちりと走る快楽の刺激。勝手に跳ねる体を抑え込まれ今度は腰が打ち付けられた。肉と肉のぶつかり合う音と雷の弾ける音が響き渡る。体全体を貫く激しい快感。目の前では文字通り火花が散り何度も頭の中が真っ白に染まる。
「あ、いいっ♪いいよぉ♪あたしの中で暴れてるっ♪」
行為が激しさを増していく。淫らに揺れる腰がさらに深くまで熱烈な交わりを求めてくる。
震える膣内が渦を描き単純だった動きが新たな快感を叩きだす。僅かな動きですら迸る雷撃と柔肉に抱きしめられる感触といやらしく乱れたらいさなんの姿にすぐさま二度目の射精も近づいていた。
「らいな、さんっ!ま、た…」
「あは♪また出しちゃうのかぃ?いいよ…一番、おくにぃぃいっ♪」
応じるように腰を落とされ抱きしめられる。
全身を震わせてらいなさんの最奥に二度目の精液を吐き出した。熱く柔らかな肉壁に締め上げられ戦慄くたびに注ぎ込まれ染めていく。
膣内へと流れ込む熱い体液にらいなさんの体が反応する。体から力が抜けこちらへ倒れ込んでくるも震えは止まらない。オレの絶頂の感覚に応じるように彼女もまた上り詰めていたらしい。
「あっ♪いく、いくっ……ぁあ♪ああああああああっ♪」
一際大きな嬌声と共にらいなさんは体を震わせ、次の瞬間凄まじい電撃が迸る。
絶頂後の心地よい気怠さを感じる暇なんて与えてもらえない。むしろ、さらに上へと押し上げるように稲妻が体を貫いた。
「ぁあっ!?」
瞼の裏で飛び切り大きな火花が散った。体中を駆け巡る快楽の雷に神経が焼き切れそうだ。
狂ってしまう、壊れてしまう。
恐怖すら感じるのだがそれすらも快楽が打ち砕いていく。許容量以上の快感にとうとう意識が弾け飛ぶのだった。
―だが、意識が飛ぶのはほんの一瞬のみ。
快楽にたたき起こされ快感が意識を飛ばす。
何度も絶頂へと押し上げられているが決して下ろされることはない。らいなさんが絶頂にあり続ける限りオレもまた絶頂から降りられない
―意識が弾ける。
―雷撃が迸る。
―快感で覚醒する。
―精液を注ぎ込む。
その繰り返しだった。
終わらぬ快楽に意識を焼かれ、休まぬ絶頂に頭を犯され、拒めぬ雷撃に体を震わせ続けるだけ。
「あぁああああっ♪いいよぉ♪もっと、もっと出してっ♪」
「っ…!っ!!」
らいなさんはその感覚を味わうように腰を押し付けもっとと言わんばかりに締め上げる。体中に走る電撃と熱烈な締め上げに何度目か頭の中が真っ白になった。
時間にしてどれくらい続いたのかわからない。数秒程度か数分程度か、ただひたすらに長い時間だと感じられた。
弾ける音が小さくなり迸る雷も止み始めた頃にようやく快楽の波が引く。体はだるく指は重い。絶頂後の気怠さというよりも鉛になったかのようだ。
「んはぁ♪あたしのお腹の中ゆうたで一杯だよ……でも、もっとできるかぃ?」
「……ぇ?」
しかしらいなさんの獣欲はまだまだ尽きていない。迸る快楽もまだ止みそうにもない。
ばちばちと先ほど以上の閃光を生み出しながらいやらしく笑って顔を寄せてくる。
「あはぁ♪今以上に気持ちよくしてあげるからねぇ♪」
外の雨はもう止みかけている。だというのにオレの傍では雷はまだまだ止む気配を見せないのだった。
「ごめんね、大丈夫だったかぃ?」
「…いや、全然」
縁側に寝転がった体は動かせず指先が震えるのみ。あまりにも激しい行為と強烈な電撃に体がついていけなかったらしい。もう何度絶頂したかすら覚えてないし、いつから意識が落ちていたのかすらわからない。
当然だ。普通に生きてあんな体験できるものではない。甘美ではあったがあまりにも激しすぎる。人間の体ではついていけるはずがなかった。
「流石に死ぬかと思った」
「あはは……すまないねぇ。あまりにも気持ちよくってさ」
彼女も反省しているのか先ほどよりもずっと弱い雷撃が体から迸っている。比べるまでもない微弱な快楽電撃だがそれすら伝わらないようにと一定の距離を置いて寝転がっていた。
鉛のように重い体を動かしてらいなさんを見やる。その顔は申し訳なさで一杯だ。
「やっぱあたしが触っていいもんじゃないねぇ」
自重している、というよりも後悔する様な口調。先ほどとは打って変わって寂しげな笑みと微弱な雷電。反省したというよりもしたこと自体を悔いているような雰囲気だ。
「…」
雷獣、なんてあの街ではまず見かけない。
らいなさんが接触を避けているのか、逆なのかは知らないがこういった関わりが多いとは思えない。それなら加減の一つ知らずとも無理はないだろう。
やりすぎたのは否めない。だからと言って怒る気にもなれなかった。
「できればもう少し優しくしてほしいかな。情けない話だけどさ」
「……あっはぁ♪」
体を起こしたらいなさんはゆっくり体を寄せオレの顔を覗き込む。
先ほどとは違う嬉しそうな笑みを浮かべ見せつけるように舌で唇を舐めとった。ぱちり、と舌先から稲妻を迸らせて。
「本当に酔狂な男だねぇ」
「あ、今すぐに続きっていうのは勘弁してね」
「流石のあたしも続けざまに無理させないよ」
そうはいっても先ほどから下腹部でばちりばちりと音が響いてくる。情事で生まれた雷だろうか、反芻する様に何度も弾けている。
「…でも触っていいかぃ?」
「それくらいなら」
おずおずと伸ばされた手が頬に触れる。温かくて柔らかい掌は首へと流れ胸へと添えられた。
それだけでは終わらない。らいなさんはさらに距離を詰めると頬を擦り付け体を押し付けてきた。
「あっはぁ…温かいねぇ」
首回りに生えた毛がくすぐったい。甘えるように抱きしめられるが痺れた手では抱き返すことはできそうになかった。
仕方なく身を捩ってこちらからも体を寄せる。それだけでもらいなさんは喜んでまたばちりと稲妻が迸った。
「っ」
「あ、ごめんよ。どうも嬉しくてねぇ」
触れた肌からぴりりと弾ける小さな稲妻。行為の最中迸った雷と比べるとあまりにも小さく静電気ほどのものだ。
だが今は疲れた体に心地よい痺れをもたらしていく。固まった筋肉を解していくように。電気マッサージってこういう感じなんだろうか。
なんて考えているとらいなさんが耳元へ顔を寄せてきた。
「ねぇ、ゆうた。少ししたら……また、しとくれないかぃ?」
「えっ」
突然の発言に思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
いくら華の十代とはいえあれほど壮絶な情事を繰り返せるほどお盛んではない。今もまだ体に自由は戻っていない。
だというのに下腹部は期待しているのか熱を帯び徐々に硬さを増していく。浅ましいというか、なんというか……。
らいなさんを見れば普段の勝気な表情とは一変して甘えるような表情でオレを見つめていた。
「あ、明日じゃ……ダメ?」
「あっはぁ♪あんなに気持ちがいいのを明日まで待ってられると思ったのかぃ?大丈夫、今度はちゃんと優しくしてあげるから、さ」
体を起こしたらいなさんは未だに痺れたオレへ覆いかぶさってくる。
のしかかってくる女性の柔らかさ。心地よい重さとびりびり伝わってくる微弱な雷。だが、未だにらいなさんの下腹部の方では眩しいほどに迸っている。
確実に優しいじゃ済まないと予想できる。予想できるのに、拒める手段がない。
「…あぁ、もう。まったく仕方ないね」
「あっはぁ♪それじゃあいっぱい気持ちよくしてあげるからねぇ…期待しとくれよ、ゆうた♪」
明日は同心の仕事があるのにこれではきっと立つことすらままならない。
そんなことを考えながら重い手を伸ばしらいなさんへの背へと回す。応じるように彼女もまたオレの体を抱きしめた。
外は既に雨が止み雲の間から日差しが差し込むがこちらの雷はまだまだ止みそうになかった。
―HAPPY END―
15/10/05 23:25更新 / ノワール・B・シュヴァルツ