お手玉と貴方とオレとお遊び
「ちゃんと上手になってるからまた来てねぇ?お姉さんとのお約束ぅ」
「うん、約束するよ!」
「それじゃあ、指切りしましょ」
「うん!」
痛い痛いと泣き喚いていた気がした。
頭がとても痛くて目の前が真っ赤に染まっていた。
それはきっと血であって、とても痛かった記憶が薄らと残っている。つまるところ思い出すのも難しいほど昔の事だったんだろう。
だが、その跡は今でも頭に残っている。どこでも打ち付け傷だらけでどこの跡だか覚えてないけど。
―でもそれはとても楽しい出来事で―だけど色褪せて思い出せない程に昔の事だった。
しゃんと、音がした。
「んあ?」
起き上がっていく意識にどうやら自分が寝ていたことを知る。時計を探すがここらにはない。仕方なく上で輝く太陽の位置と寝ころんでいた縁側の影を見比べるとどうやらそれほど時間は経ってないらしかった。
「くぁ」
欠伸をしながら縁側で体を伸ばす。まるで猫のような姿勢をとると骨が乾いた音をたてた。
ここは父親の実家の山奥の家だった。周りを山に囲まれて都会の喧騒も人々の騒がしさも全くない、どがつくほどの田舎の一軒家だ。
オレこと黒崎ゆうたは久しぶりの実家訪問にとくにすることもなくだらけていた。たまには勉強も忘れてだらりとするのも悪くない。そう思ってまた大きく欠伸をした、その時だった。
しゃんっと、音がした。
「……あん?」
流石に二度も聞こえれば嫌でも耳につく。
どこかで聞いたことのある様な、懐かしい音。それと同時に思い出すのは楽しかったことだった。
「…何だっけ?」
突然響く音もそうだが突然思い出した感情に首をかしげる。
もしかしたら先ほど眠っていた時に見た夢に関係するのだろうか。あの音のせいで何かを思い出しかけているのだろうか。
「…あー………」
だがやはり何の音かは思い出せない。
まぁ、どうせすぐに気にならなくなる。そう考えてオレは縁側を去ろうとしたその時。
また、音がした。
今度ははっきりとオレの耳に届くように。
鈴のような金属的な音ではない。まるで粒のプラスチックを擦り合わせるような音だ。楽器か、おもちゃがたてる音に近かった。
なんだと思って振り返るが広がっているのは幼いころから眺めていた庭先だ。ただっぴろく開けた土地と目前に広がる山々だけ。
どこから音がしたかわからない。これじゃあ探すこともできないし仕方ないな。そう思うと。
また、した。
まるでオレを誘うように音は響く。感覚は短くなるが姿も形も目に見えない。
「……んーっ」
再び体を伸ばしたオレは下に置かれたサンダルに足をつっこんだ。
たまには家事も勉強も忘れて歩き回るのもいいだろう。子供みたく駆けずり回りたいときもある。何気ない公園や廃屋探検だってしたいお年頃。湧き出す好奇心はまだまだ押さえ込めそうにない。
「ちょっと出かけてくるねー」
「はーい」と返事が聞こえたのを確認するとオレは駆けだした。音は変わらず響きわたっていた。
子供の頃の記憶とは当てにならないものだ。
あのころは並ぶ木々が高すぎて、ざわめく葉が恐ろしかった。日陰が怖く、闇が嫌いだった。
それでも好奇心は抑えきれないのが子供と言うもの。
何度親に怒られても、何度おばあちゃんに教えられても、それでも尽きぬ好奇心のまま動いてしまうのが子供というものである。
世話をしてくれる龍姫姉、呑兵衛だけどしっかり躾けてくれた玉藻姐、それから怒ると一番怖いおじいちゃん。皆に心配されて怒られて、泣き喚いたことも沢山あった。かけた苦労を思い返すと今では申し訳なく思う。だが、その分沢山の発見もあった―はずだった。
「…なんだったっけ」
音に誘われるまま山に入りある程度登って足を止める。
元々ここらは庭のようなもの。幼いころから駆けずり回って木々の枝をアスレチック代わりに遊んでいた。おかげで方向感覚もばっちりで迷うことなどまったくない。
だが、何があったのか思い出せない。
方向にして実家から北西。大木と言えるほど太い幹が立ち並ぶ森の中でオレは頭を掻いていた。
音のする方へと来てみたが肝心の音がもう聞こえない。あたりを見渡すがそもそも見えていないのだからわからない。
「……仕方ないか」
当てもないのだから当然だ。いつものように口癖を呟きながらオレは自ら来た道を振り返る。さっさと帰って家事の手伝いでもしようかと帰り道を見た。
布に包まれた何かが落ちていた。
「………んん?」
来るときにはなかった場所に落ちている。動物が通った気配も音もないというのにだ。
訝しげに思いながら近づきそれを眺めると群青色の布に包まれた手のひら大の塊だった。
それは―見覚えがある。
「お手玉…?」
昔のことだ。
おばあちゃんに作って貰って教えて貰ったことがある。
玉藻姐も龍姫姉も得意だったがおばあちゃんには敵わなく、彼女は一度に十個程回していたのを覚えている。オレも頑張って四個回せるようにはなったものだ。
―だが、どうして。
こんな山奥にお手玉をするような人はいない。捨てられたにしてもそれは新品同様だ。さらには布の模様も見たことのない。おばあちゃんが作ってくれたのはいつも余った布地だからもっとぼろぼろのものだった。
指先で恐る恐る摘まんでみる。中の粒の形からしてこれは……。
「小豆……じゃないな。向日葵の種かな?」
指先から伝わる感触で確信したがこれはおばあちゃんが作ったものでも玉藻姐達が持っていたものでもない。当然オレも違う。
なら誰が、顔をあげると今度は来た道とは違う方にお手玉が転がっていた。
それも一つではなく、三つ。等間隔に落ちている。まるでヘンゼルとグレーテルが目印を落としたかの如く。
「…」
当然ながら誰も、何もここには来ていない。そして何より最初からここらには何もなかった。
―誘われている。
得体のしれない何かがオレを誘おうとしている。
視線で追っていくとその先にあるのはここらで一番大きな木の幹―の虚だった。子供一人なら容易く通れるほどの大きさの虚の前に最後のお手玉が転がっている。
「へぇ…」
正体不明のお手玉に湧き出す好奇心と身の危険を訴える理性。どちらを優先すべきかと天秤に掛けるが、天秤はもう傾いていた。
「行きますか」
決断するとすぐに行動へ移った。虚へと体を滑り込ませて地面へゆっくり降りていく。
どうやらただの虚かと思ったが中が広く下がまだまだある。着地した先には洞窟のように道が続いているらしい。
流石に危険かと思い始めると甘い香りを伴って風が吹き抜けていく。砂糖や蜂蜜といったものではない、もっと自然なその香りは…花、だろうか。
―何かが、ある。
それは予感ではなく確信だった。根拠はない。だが、オレはこの先を知っている、気がした。
「…」
ポケットから取り出した携帯電話で地面を照らす。心許ないが凸凹も少なく躓くことはなさそうだ。
一歩一歩をゆっくりと。前に何があるかわからないがその足取りに恐怖はない。オレはただ闇の先に向かって真っ直ぐに進んでいた。
「…あ」
歩いて数十分たった頃だろうか。ようやくわずかな光が見えてきた。それと同時に甘い香りを確かに感じる。やはりこれは花の香りで間違いないと断言できる。なぜならこの花はオレもよく知っている、実家周りで咲く花だからだ。
「っ!」
もう地面を照らすことはやめ足早に進んでいた。走っていたかもしれない。得体のしれない恐怖よりもなぜだが湧きだす懐かしさに突き動かされていた。
呼吸を乱さぬ程度に、頭をぶつけぬように。だけどもできる限り全力でオレは走っていく。
走って、走って、走って光の中へ飛び出して―落ちた。
「がっ!?」
足の裏から地面の感触が消え失せる。いや、突然斜面に変わっていた。がくんと、体勢を崩したオレは斜面を転がってしまった。
回る回る。世界が回る。赤や青や黄色が巡り気づけばオレは両手足を投げ出して倒れ込んでいた。
「痛って…」
頭に走る鈍痛に顔をしかめる。転がった際にどこかぶつけてしまっただろう。コブはないがジンジンする。
痛みを抑えるように頭を摩って立ち上がる。地面に手を付き、そして気づいた。
赤青黄色、様々な色の花々が咲き誇る花畑と差し込む日差し。辺りは木々が立ち並び花畑の中央部に聳え立つのはオレが今出てきたらしい大木の虚。真っ直ぐ走っていたはずだけど大木の幅は数人が収まる程度の大きさしかない。後ろに回るも繋がっていない。花畑の中央で真っ直ぐ聳え立つだけだ。
「…不思議の国にでも来ちゃったーなんて……」
自分で言ってて馬鹿らしいと吐き捨てる。
だが、この聳え立つ大木の中を通ってきたとしか思えない。出口はこの虚だったが通り道となった空間は見当たらない。
「帰れる……よね?」
若干後悔してきた。
戻るときはどうすればいいのだろう。この木の虚へ突っ走ればいいのだろうか。不安の色を隠しきれずに困り果てていると突然後ろから声を掛けられた。
「大丈夫ぅ?」
それは妙に甘ったるい、それでいてどこかで聞いた声がした。
「え?」
振り返った先にいたのは一人の女性だった。
薄い金髪を真っ直ぐ伸ばし頭の側面に薄桃色の花を挿している。耳は長く尖っておりまるでエルフや妖精を思わせた。
だがそれ以上に目に留まるのはその美貌だろう。
透き通った白い肌に垂れ目な瞳。通った鼻筋に柔らかく曲がった桜色の唇。まるで誰かが美しいという言葉を彫刻にしたような、息をするのも忘れるほどの美貌だった。
薄い布地を纏った体は女性として完璧な形をしている。腹部の括れに丸い臀部、ほっそりとした足はバランスよく魅力的。何よりも目立つのはその大きな胸だ。
かなり大きい。玉藻姐や龍姫姉、それから師匠と胸の大きな女性は知っているがさらに一回り大きい。露出が多い服のせいでさらに際立っていた。
そして、背中から生えているのは蝶々の翅みたいだ。アゲハのように模様が細かくだけど部分的に七色に輝いて見える。
一目見ただけでわかる。彼女は普通じゃない。少なくとも人間よりも格下の存在ではなかった。
「怪我しちゃったかなぁ?」
「ちょ、ちょっと?」
その女性は突然近づいてくると躊躇うこともなくオレの頭に手を置いた。
背丈はオレよりも少し高い。年も上だろうがその雰囲気は他人のそれではない。向けてくる瞳も慈愛と親しみに溢れていた。
「っぁ!」
その瞳の色ではっとする。
薄い紫色のそれは花畑の端で沢山咲き乱れた花と同じもの。
先ほどから香っていたものと同じもの。
うちの実家の周りに咲く梅雨時の花と同じ―
―紫陽花色の瞳だった。
「痛いの痛いのとんでけぇ〜」
ぽわぽわするような軽い声と口調。それから雰囲気に戸惑ってしまうが彼女は慣れた手付きで頭を摩った。
温かい。掌が優しく撫でて痛みが散っていく気がする。しばらくすれば痛みなど気にするほどでもなくなっていた。ただ単に目の前の女性に見惚れていたわけでもあるが。
「えへぇ♪やっと会いに来てくれたねぇ、ユウタ」
「え…っと?」
オレの名前を知っている。
ならオレの知り合いに違いない。だというのに思い出せない。
懐かしいと感じている。何かがあるとわかっている。だが喉でつかえているのか吐き出せない。
悩んでいると突然目の前に小さく光る玉が飛んできた。
「クロヌ様、連れてきました!」
「ありがとぉ♪」
光の中にいる小さな…妖精?は敬礼するとそのままどこかへ飛び去ってしまう。彼女はその妖精に大きく手を振っていた。何かを渡したのか手の中には塊が―お手玉があった。
「―あ」
掴んだお手玉の一つを見て気づく。
彼女の瞳と同じ紫陽花色の布と汚くマジックで書かれた名前。それは拙いが確かに『ゆうた』と記されていた。
昔おばあちゃんに貰った大切なお手玉の一つ。沢山あったから双子の姉であるあやかの物と混ざらないように名前を全部に書いた覚えがある。だが、それをあげたのは一人しかいない。
「クロヌ、姉……っ?」
「えへぇ、そうだよぉ♪」
目の前の妖精は―妖精の王ティターニアのクロヌ姉は嬉しそうに微笑んだ。
かつて子供の好奇心のままに動き回って、あの木の虚に落ちたんだっけか。泣きわめいて進んでいき辿り着いたこの花畑の中で出会った彼女に―クロヌ姉に頭を撫でられ慰められていた。
遊びたいと言った彼女にお手玉を教えたこともあった。持っていたお手玉を渡したが全然できずに笑ったこともあった。あまりにも下手だから大切だったお手玉をあげたこともあった。
―今度来るときにちゃんと返してもらうため。
―また来るからと指切りをして。
―絶対に会いに来るからと、約束して。
「ずっと、ずっと待ってたんだよぉ…?」
その蕩けた笑顔が久しくて、甘い声が懐かしい。だけど切なく哀しげに、どこか泣き出しそうな表情を見て申し訳なく思う。
何でここに来るのを忘れていたのだろう。かつてはあんなに遊んでくれた相手だというのに。
「…ごめんね」
何か言葉を探すが見つからず素直に一言しか言えなかった。
我ながら情けないし申し訳ない。子供だったからなんて言い訳通るはずもない。
思わず目頭が熱くなり、鼻の奥がつんとする。こらえるように頭を振るが目の前がゆがんでいく。隠すようにうつむくとぽんと柔らかな感触が頭にのっかった。
「許してあげるぅ」
「えっ」
「良い子良い子♪」
甘ったるい声と暖かな感触。どこまでも甘やかしてくれそうな優しさと安堵する温もりにオレは小さく息を吐いた。
零れそうな雫を拭い顔をあげて笑みを浮かべる。するとクロヌ姉もまた微笑んだ。
「せっかく来てくれたんだから久しぶりに沢山遊びましょぉ?」
「うん。いっぱい、遊ぼっか!」
間延びした口調におっとりとした雰囲気。容姿も何もかも変わらずあの頃のままの姿だ。そんな妖精のお姉さんを前に子供に戻ったようにオレは素直に頷くのだった。
花畑の真ん中の、大木のすぐ傍に座り込みオレとクロヌ姉は遊び始めた。
「ほらほら、ユウタ見て。お姉さんこんなに上手になったんだから」
そう言って慣れた手つきでお手玉を投げる。その数実に九個。昔のようなたどたどしさ微塵もなく、おっとりとした風貌からは想像もできない機敏な動きだった。まるでサーカスのジャグリングを彷彿とさせる。
ぽんぽんぽんと、両手に全て受け止めたクロヌ姉はオレの掌にお手玉を乗せてきた。
「それじゃあ今度はユウタの番だよぉ」
「え?…できるかな」
お手玉をするのは久しぶりだし限界なんて六個ほどだった。出来る方だがクロヌ姉がやって見せたほど出来たことはない。
それでも彼女の期待に応えるために次々とお手玉を放り投げた。
「よっと!」
「わぁ…♪」
三つから四つ。五つに六つ、そして七つへと次々に増やしていく。
昔に比べ動体視力や反射神経を鍛えたおかげでまだまだ増やせそうだ。
もう一つ、手に持っていたお手玉を放ろうとしたその時だった。
「えいっ」
「おわっ!」
突然投げ込まれたお手玉にリズムを崩されお手玉が飛び散った。そのうち一個が頭に乗っかる。
唖然とするオレと頭の上に乗っかった一つのお手玉。それがおかしかったのかクロヌ姉は吹き出し笑い出した。
「あははは♪」
「…やったなっ!」
「きゃっあ!」
そんな彼女に向かって飛びかかると細い体を抱きしめてごろごろと花畑を転がった。花びらが飛び散り甘い香りが弾ける中体全身に彼女の柔らかさを感じながら転がり、そして倒れ込んだ。
花びらだらけになったクロヌ姉の顔がある。
クロヌ姉は花びらまみれのオレを見ている。
その様子がまたおかしくて二人して笑い合った。
「えへぇ♪」
「あははっ」
まるで子供に戻ったかのような無邪気さだった。
おかしいから笑って、楽しいから笑って、自分に嘘を着かないで感情を偽らないで。
そんなことをしたのはいつ以来だったか。日々勉強やら家事やらやりつつ上っ面を飾って波風立てないように気を遣う。面倒で厄介で吐き出せる場所もない日常に嫌気がさしていたのかもしれない。
「あ、そうだぁ」
花畑から起き上がり蝶の翅から花びらを落としながらクロヌ姉がぽつりと零した。
「ユウタが来るのを待ってる間に妖精さん達にいろんな遊びを教えてもらったんだよぉ」
「うん?いろんな遊び?」
「そう、ピクシーちゃんとかフェアリーちゃん達にいろんな遊びをいーっぱい、ユウタのために沢山教わってきたんだからぁ」
「そっか、嬉しいな。それじゃあ沢山教えてよ」
両手を広げて沢山と表現するクロヌ姉に思わず笑みが零れた。その言葉に期待も生まれオレはわくわくと好奇心を隠さず体を揺らす。
はてさて、クロヌ姉はどんなことを教えてくれるのだろうか。
「えへぇ♪いっぱい、おしえげあげるぅ♪」
蕩けた笑い声と共に何をするのかと期待する。すると突然視界に広がるのはクロヌ姉の顔だった。
「んちゅ〜♪」
「……ん?」
続いて感じたのは呼吸が止まっていることと唇を塞ぐ柔らかな感触。何かと思った次の瞬間には彼女は離れていた。
何をされたのかわからない。だが、多分、いや、絶対に今のは。
オレはクロヌ姉にキスされていた。
「え?え?……え?」
あまりにも突然の事で目を白黒させてしまう。
だって……誰だってそうだろう。かつて甘えていた女性に突然遊びと言われてキスされている。混乱しないはずがない。
悪ふざけでやっているのか、それともまさかそういうことをするつもりか。疑問が浮かぶがそれより先にクロヌ姉がオレの足の上に跨った。
「もっとちゅーするのぉ♪」
「え……あっんむっ!?」
混乱する頭のままで二度目のキス。
今度は唇に吸い付き擦るように口づけられると間から舌が突き出された。こちらの唇をノックしずるりと入り込んでくる。
「んむっ!」
「んふっ…む♪」
拒むつもりはなかったが突然の事に驚き固まった。それをいいことにクロヌ姉は舌を突き口内を巡る。歯茎を撫でて歯をなぞり、舌を絡めては唾液を啜った。
もう純情だとか無垢だとか、そんなもの欠片もない行為だった。子供がするような拙いものではない、明らかに大人の行為だった。
「んっんぅ♪…はぁぁ♪ちゅーしちゃったぁ♪」
「しちゃったって…」
やり遂げたと言わんばかりの発言と笑みにこちらは反応しきれない。
明らかにこれは遊びの範疇を越えている。キス自体どういった意味を持つか知らないほど幼くはないだろう、この女性は。
というかクロヌ姉にそんな遊びを教えた馬鹿は誰だ!
「えへぇ♪もっともっとぉ」
「あ、ちょっと―んっ」
三度目はさらに深くまで。
今度は誘われるように舌を啜られクロヌ姉の口内へ導かれた。そこは湿っていながら温かくそして何よりも甘い。幼少の頃啜った花の蜜だとか、蜂蜜だとかそんなのに近かいだろう。
歓迎する様に唇に挟まれ舌が絡みついてくる。違った二つの柔らかなものが擦れ、にちゃにちゃといやらしい音を頭の奥まで響かせた。
くらくらする。
美女とキスをしているというのもあるが、それ以上にかつての優しいお姉さんとそういうことをしている事実に。
「はむ♪んむ、ちゅー♪」
されるがままに吸われて絡まり、啜られ飲み込む。
そうして気づけば意識が混濁して頭の中には靄がかかったように朦朧としていた。それをいいことにクロヌ姉の手が服へと伸ばされた。
「えへぇ♪脱ぎ脱ぎぃ♪」
「…はぇ?………え?ちょ、ちょっと!?」
気付くがそれより早く上着を、下着を容易く脱がすと花畑の方へ落とされた。上半身だけ裸にされるが彼女は嬉々として次に自分の服へと手を掛けた。
「お姉さんも脱ぎ脱ぎぃ♪」
「わ、わー!わー!何やってんのクロヌ姉!!」
服、と言えるのかわからない布地を取り去り翅を動かし脱いでいく。一枚二枚脱ぐとすぐにクロヌ姉は裸になっていた。
露わになる滑らかで白い肌。そして大きな膨らみは誰もが見惚れてしまうことだろう。大きく、だけど形を保ったままの柔らかな曲線に先端には桃色の突起が鎮座している。僅かに動いただけで揺れる膨らみはどんなに柔らかいことだろうか。
ごくりと思わず唾を飲み込んだ。
「ぎゅ〜っ♪」
「はっ!!!」
肌と肌が重なり合う。一糸まとわぬとはいかずとも遮るもののない姿でクロヌ姉の体が押し付けられた。
大きな胸がオレの胸板で潰れた。尖った先端が擦れて思わず上ずった声が漏れそうになる。伝わってきた感触は筆舌しがたいほどに柔らかかった。
それでいて温かい。
先ほども感じていたことだが感触と体温がオレの心を落ち着ける。最も、裸になられれば女性として意識してしまうのだけど。
「えへぇ♪ユウタの体温かいよぉ♪」
「く、クロヌ姉っ!?」
右に、左に体を揺らす。まるで子供が駄々をこねるかのように。
だが揺れているのは大人の体だ。右に傾けば胸が潰れて形を変えて、左に傾けば胸板を擦っていく。淫靡な光景とその感触が脳髄に突き刺さり下腹部に熱を灯していく。
「…あ♪」
何かに気付いたように体を離すと視線が下がる。釣られてそちらを見るとズボンを押し上げるオレのものが目に付いた。
一気に顔が赤くなる。顔から火が出そうなほど恥ずかしい。
「っ!」
「こんなに大きくなるんだねぇ♪それじゃあお姉さんがいっぱいなでなでしてあげるからねぇ♪」
止めて、なんて言えなかった。
無茶苦茶だけどこの行為の先を期待している自分がいた。それ以上に優しく接してくるクロヌ姉の態度に抵抗が削がれていく。
それをわかってる…わけもないだろうクロヌ姉は盛り上がったズボンを躊躇うことなく触れてきた。
「良い子良い子ぉ♪」
「く、ふっ…ぁっ」
ズボン越しに撫でられている。だが他人の手であり、何よりそれがクロヌ姉のものだという事実が興奮をさらに煽ってくる。
細い指先が線をなぞっていく。掌も使い子供の頭を撫でるように擦られる。布地越しだというのにその感触は脳髄に突き刺さる程鋭く、そして何より甘美なものだった。
「クロヌ姉、それ、だめ…っ!」
「うん♪それじゃあ、もっといっぱいしてあげるからねぇ♪」
「……えっ?」
満足げに頷いたクロヌ姉はとうとう最後の衣服に手を掛けた。
まずオレの方へ。ズボンを手早く脱がし下着もさっさと取り払われる。露わにされた男の証を見ると紫陽花色の瞳が嬉しそうに細められる。
続いて自分の方へ。薄い布地を取り払うとどうでもよさげに放られる。まるで欲しいものを前にした子供の如く他の事には目もくれない。
―そして互いに裸になった。
一糸まとわぬ姿で晒されるクロヌ姉の裸体は美しかった。大きな胸もさることながらしっかりとした括れに悩ましい臀部の曲線。傷も染みもない滑らかな肌に背中から生える大きな翅。人にはない神々しさすら感じるほど彼女の姿は完璧だった。
「わ…っ」
何よりも目に留まったのは下腹部だった。茂みなんてものはなく幼さが垣間見える女性の証。そこはいつの間になったのかしとどに濡れそぼっていた。
興奮しているのだろうか。疑問に思い顔をあげるとにっこり微笑むクロヌ姉の顔。ただその頬は朱に染まり唇の間からは熱い吐息が漏れていた。
「えへぇ♪こっちでもっと良い子良い子してあげるからねぇ♪」
淫靡さも色っぽさもない無邪気な姿。でも行おうとしていることは紛れもなく大人な行為。そのギャップが堪らない。
見惚れているオレを下にクロヌ姉は両手で自分のそこを広げていく。穢れのない色と共にねっとりした粘液が零れ落ちた。
「よいしょぉ♪」
「あっ!?」
力任せ、というか子供っぽく我武者羅というか。クロヌ姉は腰を無理やり押し付け沈めていく。
それと同時に弾きだされるのは肉に締め付けられる感触とぬめり絡みつく粘液と、何よりも高い熱。感じる物すべては快楽へとなり脳髄へと突き刺さった。
「っ!!」
「あ、うぁああ♪」
温かい。まるで日差しの下で寝転ぶような、そんな安心感がある。とても窮屈だが決して痛みはない。それ以上の温もりが包み込みずっと入っていたいと思えるほどの抱擁感だった。
「あ、はぁ……♪」
甘く蕩けた声が桜色の唇から零れ落ちる。顔を見れば目に涙をため、頬を赤く染めていた。どこか嬉しそうに微笑みを浮かべる。だが伝わる感覚のせいで上手くいかず蕩けた表情となっていた。
―いやらしい、そんな風に思った。
純粋無垢なクロヌ姉が浮かべた女の顔は何よりも美しく、だからこそ蠱惑的なものと感じられる。子供な感情と大人の色香。それが何よりもオレの意識を揺らしていた。
「あ、はぁ…ぁ♪ユウタの熱くってお腹いっぱいだよぉ♪」
満足そうにクロヌ姉は下腹部を撫でる。オレと繋がったことが心底嬉しいと言わんばかりに回された両足に力が込められた。
「お姉さんの中は気持ちいぃ?」
「んっい、いよ…」
「えへぇ、よかったぁ♪」
正直応える余裕すらない。
初めて感じる男女の交わり。弾きだされた快感は耐えがたく今にも爆発してしまいそうだ。
現実離れした状況と甘やかすような快感と、捨てきれない常識が頭の中でぐるぐる回る。最低限、避妊ぐらいはしないと、なんて頭の隅で常識がぽっと浮かぶが今にも流されそうだった。
「それじゃあ、いっぱい動くからねぇ?」
「んっ!」
ゆっくり上下と、だがその動きはぎこちない。緩慢なのは行為が初めて及ぶものだからだろう。その証拠が太腿に一筋、鮮やかな赤い色を落としていた。
だがクロヌ姉は構うことなく腰を動かす。途端に触れ合う部分から卑猥な音が響いてきた。膣内を擦りあげる。愛液によってすっかり濡れた肉壁は痛みのない刺激を生み、高くも優しい熱と弾きだされた快感に溶けそうだと錯覚してしまった。
「クロヌ姉ぇっ」
「んふぁっ♪あぁ♪…ぁあっ♪」
甘い声と蕩けた表情。気づけば両手がオレの手を握りこみ指先まで絡まっている。掌に伝わる体温と下腹部から湧きあがる快感が意識を高みへと押し上げていった。
僅かに動いただけで結合部から音が響く。野外と言っても差し付けない空間の中、それも花畑のど真ん中で行為にふけるというのは奇妙な背徳感があった。
見られる心配があるからではなく、物語みたいな幻想的な空間で情事に耽っている。純粋な感情が欲望に浸かっていく、そんないけない感覚にぞくぞくする。
「ユウタぁ♪ん、ふぁあっ♪ユウタぁぁあ♪」
クロヌ姉は眉を顰め桜色の唇を歪めている。間からは熱い吐息が漏れ甘く艶やかな声が零れていた。
年上でおっとりとした雰囲気からは想像もできない女の艶姿。そのギャップが余計興奮を掻き立てる。
「もっと、もっとぉ…奥までぇ♪」
「え、あっ…クロヌ姉!」
「…えいっ♪」
思い切り腰を押し付けて全てを飲み込んでいるが重いとは感じない。女体の柔らかさや人の体温故か心の奥から温かくなっていく。
布団の中で微睡んでいる時や、縁側で寝転がっているときの何も警戒していない状況と同じだ。それだけクロヌ姉との交わりは気分を落ち着けてくれるものだった。
「んふぁ…♪全部入ってるぅ♪」
全て飲み込んだことにより先端に吸い付いてくる何か。唇のようで周りの膣壁とは違う感触のそれは………子宮口だろうか。
愛する我が子にするようにキスを繰り返し、搾り取るように啜ってくる。それは腰が砕けてしまいそうな甘い快感だった。
「んふぁっ♪あ、ぁあ♪ゆう、らぁああっ♪」
驚きを隠せない甘い声。どうやらここを突かれることがクロヌ姉にとって気持ちいいらしい。もはや言葉とならない声を上げ応じるように子宮にあたるようにと腰を動かす。
もはや子供のような純情な気持ちはない。
あるのは欲に塗れた男と女の交わりだった。
「んひぃっ♪や、やぁあっ♪そこ、ばっか、やらぁ♪」
オレからもまた、腰が動いてそこへ向かって叩きつける。何も考えない本能的な動きだったがクロヌ姉は確かに感じていた。
へこへこと腰が動くたびに粘液が飛び散って女の匂いが漂った。互いの肌には汗が浮かび重なった肌の間で交わり合っていく。べたつき不快なはずなのにそれがまた興奮を誘った。
「ひゃぁ♪やぁっ♪ゆうらぁ、ぁあ♪」
徐々に行為が加速する。腰の動きは乱雑になり弾きだされた快感が一層強まっていく。
粘質な音は肉同士のぶつかる音と変わり花畑に響く。誰が聞こうと誤魔化せない情事の音にお互い高ぶりを感じていた。
母性の溢れる膨らみが目の前で上下する。汗が飛び散り桃色の先端が揺れ動く。淫靡な光景に下腹部がさらに熱を上げた。
「あ、や…っ♪にゃんか、くるっ♪くりゅぅっ♪」
「わっ!」
突然回された足に力が込められた。痛くはないがあまりにも強くて抜け出せない。
いきなりこんなことをしてしまったが流石に中はまずいだろう。だというのに腰が引けないのではどうしようもない。
「待っ、て…っ!」
「だぁめぇ♪」
回された腕は離してくれず、絡んだ足は解いてくれず。体は密着したままで膣内は絡みついたままだ。
このままでは中に出してしまう。だというのにクロヌ姉は嬉しそうに腰を揺らして射精の瞬間を今か今かと待ち構えていた。
そしてとうとう上り詰める。何物も遮ることなくオレは彼女の一番奥へと精液を吐き出していた。
「くふぁああああああああっ♪」
「〜っぁ、ぁ……」
搾り取られるような激しさはない。それは漏らしてしまったような緩い絶頂だった。
ぬるま湯につかる様な安心感が与えられ我慢することを忘れてしまう。瞼を閉じればそのまま意識が沈んでしまうほどの安心感があった。
だがオレと違ってクロヌ姉の方はそうではない。吐き出された精液の感触に体を震わせ今までで一番甲高い声を上げる。絡んだ四肢や抱き返した体は逸らされていた。彼女もまた絶頂したのか膣内がきつく締め上げられ呼吸が止まる。
快楽で緩んだクロヌ姉の口から唾液が零れた。力が抜けたのか舌がだらりと垂れオレの肌を濡らしていく。紫陽花色の瞳は霞みながらもオレに向けられていた。
「ん、ぁぁ……は、はぁ…♪はぁぁ……♪」
快楽の波が引く。だが絶頂の余韻は体に残り、気怠い感覚が支配していた。倒れ込みそうなのを堪え花畑に手をつくと突然頭を撫でられる。
「んん…っ♪お腹の中にいっぱい出したんだねぇ♪沢山感じちゃったよぉ♪えらいえらい♪」
「〜っ」
膣内に射精したことを褒められる。
男として女性に認められ、それを称えられるというのは何とも誇らしいことだろう。そのまま存分に甘えて褒めてもらいたいが正直めちゃくちゃ恥ずかしい。というか照れる。
まるで自分の子供の頑張りを眺める親のような慈愛に満ちた視線を向けてクロヌ姉は微笑んでオレの頭を撫でていく。
「んっ…」
その感触にオレは目を細めて体から力を抜く。
懐かしい。
どれほど荒れた時でも泣き出しそうな時でもこの感触が心を落ち着けてくれていた。頭を切ってしまった時のおまじないも本当に魔法みたいに痛みが消えていた気がする。
だから頭を撫でられることが好きだったんだっけか。この歳で誰かに撫でられることはなくなってしまったが改めてされるとやはり好きだったんだなと自覚した。
「……は、ぁ」
満足げにため息を吐き出す。快楽の波も引き意識も落ち着いてきた。しかし依然としてオレのものはクロヌ姉の膣内で硬いままだ。
結合部からは二人の体液が溢れだし流れている。紛れもなく交わり合った証だ。
年上なのに幼気で純情なティターニアとの情事。
無知な子供を汚すような目を背けたくなる背徳感と、それでも湧きだす興奮は否定しきれない。まるで真っ白なキャンパスを自分の色で描くような感覚と一筋流れた赤い滴が罪悪感を抱かせた。
「クロヌ姉、辛くなかった?」
「うん、全然痛くないよぉ?いっぱい気持ちよかったぁ♪ユウタも気持ちよかったぁ?」
「…うんっ」
悦んでくれた。その事実が堪らなく嬉しくて、何もできなかった自分がちょっと情けない。そんな感情を誤魔化すようにクロヌ姉の体に顔を押し付けた。
二つの大きな膨らみが筆舌しがたい柔らかさを返してくる。興奮と安心の間の感情を抱きながら猫のように顔を擦りつけた。
するとふと、何かを思い出したかのようにクロヌ姉が耳元へ唇を寄せてくる。
「他の妖精さんたちから教わった遊びがまだまだ沢山あるんだよぉ」
「………え?」
誰にも聞かせないようにとても小さい声だった。耳にかかる吐息がくすぐったいが『遊び』という言葉にどきりとする。
今のもまた一つの『遊び』だった。だったら他の『遊び』がどんなものか、大体想像がついてしまう。
「ナメクジごっこって言うんだけどね、ナメクジさんみたいにべったりくっついていちゃいちゃするんだって」
「く、クロヌ姉?それって絶対遊びじゃないよね?」
「…えへぇ♪」
「ぁっ」
花畑のベットに体が倒され、上からクロヌ姉が覆いかぶさってくる。腕を、体を、足を押し付けると彼女は悪戯っぽく舌を出して笑う。
「こうやって……えいっ♪」
「っぁ!」
先ほどは緩やかで単調な動きだった。徐々に加速していったが上下に動くだけの拙い交わりだった。
だが、これは違う。
腰が離れぬように密着して最奥ばかり押し付けてくる。左右に揺らし、前後に動き、時には円を描きながら胸を押し付け肌を重ねる。互いの間に隙間はなく、それこそナメクジみたいに絡み合っていた。
「うぁ、これ…すごいっ」
「んぁあ♪はぁ、あぁぁ♪」
膣内がいくつもの舌で撫でられるように舐め上げていく。肉ひだの一つ一つすらわかる程の執拗な動きは先ほどとまた違う快楽を生んだ。
裏筋を舐められ、カリを擦られ締め上げて。決して離してくれない情熱的な抱擁に思わず身悶えするしかなかった。
「…ぁっ」
目と鼻の先にはクロヌ姉の顔がある。潤んだ紫陽花色の瞳や桜色の唇に朱に染まった頬。どれも見惚れるほど美しい顔がオレとの行為で歪んでいた。そんな距離で見つめあっているとどちらともなく唇が開く。間からは舌を突出し絡み合った。隙間はなくなり唇が重なり合う。
「んひゅ♪ふ、みゅんっ♪んむ、ふっ♪んむぅ♪」
くぐもった嬌声をあげながらも行為は止まらない。
舌を絡ませ唾液を啜る。唇と違う柔らかさを堪能しつつ蜜のように甘い唾液を飲み込んだ。すると嬉しそうに唇をさらに押し付けられ歯がぶつかる。ちょっと痛いが今は痛みすら心地よい。
腰の動きも止まらない。
ぐりぐりと子宮口を押し付けるように動くと視界の端で花々が揺れた。膝が当たったのかいくつも揺れ花の香りが混じりあう。
ロマンチック、なんて思ったがすぐに快楽が塗りつぶしていく。もう頭の中にあるのはクロヌ姉だけだった。
「あっ♪あっ♪ふ、ぁああっ♪」
唇を離し、肌を密着させたままお互いが腰を動かしていく。二つの熱は溶け合って、汗が浮かんでは弾けて落ちた。
花びらに沈みながらさらに足が、腕が絡んでいく。抱きしめあって動きあうと大きな胸が胸板に擦れ甘い痺れを生んだ。硬さを持った先端と吸い付くような柔らかさ、その二つがまた堪らない。
「ナメクジさんって、んん♪こうやって遊ぶのかなぁ?」
「知らないっ!」
「んぁ…♪で、も、気持ちいいねぇ♪」
おっとりとした口調なのに腰の動きは止まらない。ゆっくりだが前後に揺れ、その度に膣内を柔らかな肉壁が擦りあげていく。結合部からは互いに混じりあった体液が漏れだし花畑へと滴り落ちた。
「あ、ふぁっ♪」
あまりにもねちっこく動くせいで子宮口が先端に何度も吸い付き、吸い上げていく。子供のキスのように何度も浅く、それでいて沢山吸い付くたびに頭の奥から弾けそうだった。
気付けばいつの間にか意識は高みへ押し上げられている。先端が痺れ下腹部から熱が滾ってきていた。歯を食いしばることも忘れるほど緩やかな快楽にだんだん意識が蕩けていく。
「クロヌ姉ぇ、また……出すよ…?」
「うんっ♪うんっ…いっぱい、出していいから…ね♪」
流石に二度目は我慢しない。クロヌ姉は最奥へ誘導するように腰を動かし、こちらからも体を抱き寄せ腰を押し付けた。子宮口に食い込ませると逃がさないと言わんばかりに締め付けられる。
だが、もっと奥に注ぎたい。もっと中で吐き出したい。そんな男の本能に押され回した腕にも力を込めた。
ただでさえ密着している互いの体がさらにくっつき、隙間なんてものはなくなる。柔らかく潰れた胸は汗ばみぬるりと横へ滑り出た。擦れた感触がまた堪らなく、意識がさらに押し上げられ、最奥を突き刺す先端から精液を吐き出し再び子宮へと注ぎ込んでいった。
「あ、ふぁっぁあああああああ♪でてるっ♪でてるよぉおっ♪」
感極まった声を上げてクロヌ姉は体を震わせた。彼女もまた絶頂したのか膣内も痙攣している。ただでさえきつい膣内がさらに締まり肉壁が押し潰してくる。やわやわと蠢いては射精を促すように律動するその感覚が堪らない。尿道を擦る精液を一滴残らず搾り取ろうとしているようだ。
「んあぁっ♪はぁ…♪ぁ、んふぁ…♪はぁ、ぁぁ………♪」
「んん………っ」
骨身に染み込む快楽の波が引く。気怠い体と混濁した意識の中で重なり合った相手の感触が心地よかった。
ぴくぴくとお互いに体を震わせる。絶頂から降りてきたのにその余韻が残っている。微睡むような安心感と全てを許してくれそうな甘い感触。クロヌ姉という甘えられる存在の中で感じる幸福感は中毒になってしまいそうだ。
「ん、ひゅ…♪ユウタぁ♪」
耳に残る蕩けた声に顔をあげるとクロヌ姉が頬を擦り合わせてきた。それだけでは止まらず顎を舐めて舌先が擽ってくる。まるで猫を撫でるみたいな舌の動きと行動がくすぐったくて身を捩った。
「んん〜♪ユウタぁ〜♪」
「んっぁ、くすぐったいよクロヌ姉」
そう言っても嫌なわけもない。子供のような仕草と声にオレはクロヌ姉の頭を撫でた。
撫でて、あっと気づく。だが時すでに遅く彼女は嬉しそうな表情とは一変してふくれっ面を浮かべている。ただ、行為の余韻で顔は赤く、潤んだ瞳と幼げな表情にちょっと興奮した。
「お姉さんは私の方ですぅ」
「わかってるよ。ちゃんとわかってるから」
「ぶぅ〜」
それでも膨れたクロヌ姉を見てくつくつ笑ってしまう。
その表情もその仕草もやっぱりあの頃のままだ。
「…………変わらないね、クロヌ姉は」
ピロートークとしてどうなのかと思うが、素直に昔を思い出して言った。
あれから十数年。それでも彼女の容姿も性格も一切変わっていない。変わってしまったのはオレの方だけだ。
「でも私がお姉さんなのは変わらないですよぅ」
「ふふっ。そうだね」
だからといってクロヌ姉は気にする様子はない。
容姿が変わらない。仕草が変わらない。彼女は色褪せた記憶の中のままでいる。
だが、それ以上にクロヌ姉がオレにとって一人のお姉さんであることはいつまでも変わらずにいてくれる。
それが堪らなく嬉しかった。
「にゃあ」
目頭が熱を持とうとしたその時、突然クロヌ姉がぽつりと呟いた。あまりにもいきなりで何の脈絡もない発言にオレは目を白黒させる。
「いきなり猫の鳴き真似なんてどうしたのさ?」
「えへぇ、ユウタの真似だよぉ」
「え?そんなことしてたっけ?」
「にゃあにゃあ言ってすり寄って来たんだよぉ」
「……………えーっと………それ三歳ぐらいの頃じゃなかった?」
もう大人な、それも男がにゃあにゃあいうはずもないだろう。流石のオレもそこまで子供には戻れない。
「でも、ユウタもユウタだよぉ。優しくて、泣き虫で甘えん坊でちょっとおっちょこちょいで」
「…っ」
「それで、私の大好きなユウタだよぉ」
にっこり微笑むクロヌ姉。伸ばされた手がまた昔のように頭を撫でた。
彼女にとってのオレはあの頃で止まっているのだろう。オレの記憶の中でずっと優しいお姉さんで居続けるのと同じように。
そして十数年と長い時間が経ってしまった今でもオレはオレだ。クロヌ姉がクロヌ姉であるように時間が経とうとそれは変わらない。
「だからぁ」
クロヌ姉は両手を拳に変えにっこり笑うと一言。
「にゃあ」
「…ふふっ」
ゆうたは全く変わらない、そう言わんとして猫の鳴き真似をする姿がとても愛おしい。
それでいて堪らなく可愛らしい。
年上だけどその仕草は子供っぽい。だけど、クロヌ姉だからこそそんな仕草がよく似合う。変に飾らず無邪気な姿に愛おしさと欲望を混ぜた感情を抱いた。
まるで猫のように体を摺り寄せてくるとふりふりと腰を振る。繋がっているままではその動きですら刺激に変わる。萎えることは許されない、というよりもまだできると応援されるかのようだった。
「くふっ」
「んん♪にゃはぁ…♪」
ご丁寧に猫みたいな喘ぎ声ときた。いや、実際猫はもっとすごい声出すけど。
頭を撫でるとかつては怒ったのだが気持ちよさそうに目を細める。顎を撫で返すと器用にごろごろと鳴き出した。
「結構真似するの上手いね」
「えへへぇ、ユウタの方がずっと上手だったけどねぇ」
「…そうだったっけ」
「でも、もっともっとできるんだからぁ」
「わっ」
飛び掛かるように腕を回して抱きしめられる。頬を擦り合わされてくすぐったい。じゃれ合うような行為を続けているとクロヌ姉が突然額を合わせてきた。
鼻先が触れ合い吐息が唇にあたる。甘く香るそれはまるで花のようだった。
「あ、そうだ。今度は…猫さんごっこ、する?」
「……ん…する」
子供がやるような真似事ではないのは最早わかりきったことだった。
啄むように唇を寄せるとすぐに舌が絡み合う。欲と愛に塗れたキスが途切れたのはたまらなくなったクロヌ姉がオレを再び花の中へと押し倒した時だった。
―HAPPY END―
「そろそろ帰らないといけないんだけど…」
「やだぁ。ユウタはずっと妖精の国にいるのぉ」
「いや、でもオレも帰らないといけない場所あるし、何よりあやかが黙ってないし…」
「ならお姉さんも一緒に行くからぁ」
「……ティターニアって妖精の国の女王だって言ってたの誰だっけ?女王が国を放り出すなんて感心できないよ」
「じゃぁ女王命令だから帰っちゃダぁメぇ」
「えぇ、それはいくらなんでも無茶苦茶すぎ…………あ、虚から誰か来た」
「ふぇ」
「うわ、懐かし。こんな花畑だったっけ」
「あやか!?」
「あ、いた。お手玉落としてたから追ってきたけどなんでまたこんな懐かしいところ来てるの。ご飯できたからさっさと帰―出た、妖怪乳お化け!」
「えへぇ、アヤカも久しぶりぃ♪」
「うるさい来んな!こっち来んな!近づいてくるのやめて!」
「アヤカもぎゅ〜っ♪」
「むぐぅ〜!!ふぐぅ〜っ♪んんんんんんん!!!」
「えへぇ、ぎゅ〜っ♪」s
「…………あ、すんごい懐かしい光景」
「うん、約束するよ!」
「それじゃあ、指切りしましょ」
「うん!」
痛い痛いと泣き喚いていた気がした。
頭がとても痛くて目の前が真っ赤に染まっていた。
それはきっと血であって、とても痛かった記憶が薄らと残っている。つまるところ思い出すのも難しいほど昔の事だったんだろう。
だが、その跡は今でも頭に残っている。どこでも打ち付け傷だらけでどこの跡だか覚えてないけど。
―でもそれはとても楽しい出来事で―だけど色褪せて思い出せない程に昔の事だった。
しゃんと、音がした。
「んあ?」
起き上がっていく意識にどうやら自分が寝ていたことを知る。時計を探すがここらにはない。仕方なく上で輝く太陽の位置と寝ころんでいた縁側の影を見比べるとどうやらそれほど時間は経ってないらしかった。
「くぁ」
欠伸をしながら縁側で体を伸ばす。まるで猫のような姿勢をとると骨が乾いた音をたてた。
ここは父親の実家の山奥の家だった。周りを山に囲まれて都会の喧騒も人々の騒がしさも全くない、どがつくほどの田舎の一軒家だ。
オレこと黒崎ゆうたは久しぶりの実家訪問にとくにすることもなくだらけていた。たまには勉強も忘れてだらりとするのも悪くない。そう思ってまた大きく欠伸をした、その時だった。
しゃんっと、音がした。
「……あん?」
流石に二度も聞こえれば嫌でも耳につく。
どこかで聞いたことのある様な、懐かしい音。それと同時に思い出すのは楽しかったことだった。
「…何だっけ?」
突然響く音もそうだが突然思い出した感情に首をかしげる。
もしかしたら先ほど眠っていた時に見た夢に関係するのだろうか。あの音のせいで何かを思い出しかけているのだろうか。
「…あー………」
だがやはり何の音かは思い出せない。
まぁ、どうせすぐに気にならなくなる。そう考えてオレは縁側を去ろうとしたその時。
また、音がした。
今度ははっきりとオレの耳に届くように。
鈴のような金属的な音ではない。まるで粒のプラスチックを擦り合わせるような音だ。楽器か、おもちゃがたてる音に近かった。
なんだと思って振り返るが広がっているのは幼いころから眺めていた庭先だ。ただっぴろく開けた土地と目前に広がる山々だけ。
どこから音がしたかわからない。これじゃあ探すこともできないし仕方ないな。そう思うと。
また、した。
まるでオレを誘うように音は響く。感覚は短くなるが姿も形も目に見えない。
「……んーっ」
再び体を伸ばしたオレは下に置かれたサンダルに足をつっこんだ。
たまには家事も勉強も忘れて歩き回るのもいいだろう。子供みたく駆けずり回りたいときもある。何気ない公園や廃屋探検だってしたいお年頃。湧き出す好奇心はまだまだ押さえ込めそうにない。
「ちょっと出かけてくるねー」
「はーい」と返事が聞こえたのを確認するとオレは駆けだした。音は変わらず響きわたっていた。
子供の頃の記憶とは当てにならないものだ。
あのころは並ぶ木々が高すぎて、ざわめく葉が恐ろしかった。日陰が怖く、闇が嫌いだった。
それでも好奇心は抑えきれないのが子供と言うもの。
何度親に怒られても、何度おばあちゃんに教えられても、それでも尽きぬ好奇心のまま動いてしまうのが子供というものである。
世話をしてくれる龍姫姉、呑兵衛だけどしっかり躾けてくれた玉藻姐、それから怒ると一番怖いおじいちゃん。皆に心配されて怒られて、泣き喚いたことも沢山あった。かけた苦労を思い返すと今では申し訳なく思う。だが、その分沢山の発見もあった―はずだった。
「…なんだったっけ」
音に誘われるまま山に入りある程度登って足を止める。
元々ここらは庭のようなもの。幼いころから駆けずり回って木々の枝をアスレチック代わりに遊んでいた。おかげで方向感覚もばっちりで迷うことなどまったくない。
だが、何があったのか思い出せない。
方向にして実家から北西。大木と言えるほど太い幹が立ち並ぶ森の中でオレは頭を掻いていた。
音のする方へと来てみたが肝心の音がもう聞こえない。あたりを見渡すがそもそも見えていないのだからわからない。
「……仕方ないか」
当てもないのだから当然だ。いつものように口癖を呟きながらオレは自ら来た道を振り返る。さっさと帰って家事の手伝いでもしようかと帰り道を見た。
布に包まれた何かが落ちていた。
「………んん?」
来るときにはなかった場所に落ちている。動物が通った気配も音もないというのにだ。
訝しげに思いながら近づきそれを眺めると群青色の布に包まれた手のひら大の塊だった。
それは―見覚えがある。
「お手玉…?」
昔のことだ。
おばあちゃんに作って貰って教えて貰ったことがある。
玉藻姐も龍姫姉も得意だったがおばあちゃんには敵わなく、彼女は一度に十個程回していたのを覚えている。オレも頑張って四個回せるようにはなったものだ。
―だが、どうして。
こんな山奥にお手玉をするような人はいない。捨てられたにしてもそれは新品同様だ。さらには布の模様も見たことのない。おばあちゃんが作ってくれたのはいつも余った布地だからもっとぼろぼろのものだった。
指先で恐る恐る摘まんでみる。中の粒の形からしてこれは……。
「小豆……じゃないな。向日葵の種かな?」
指先から伝わる感触で確信したがこれはおばあちゃんが作ったものでも玉藻姐達が持っていたものでもない。当然オレも違う。
なら誰が、顔をあげると今度は来た道とは違う方にお手玉が転がっていた。
それも一つではなく、三つ。等間隔に落ちている。まるでヘンゼルとグレーテルが目印を落としたかの如く。
「…」
当然ながら誰も、何もここには来ていない。そして何より最初からここらには何もなかった。
―誘われている。
得体のしれない何かがオレを誘おうとしている。
視線で追っていくとその先にあるのはここらで一番大きな木の幹―の虚だった。子供一人なら容易く通れるほどの大きさの虚の前に最後のお手玉が転がっている。
「へぇ…」
正体不明のお手玉に湧き出す好奇心と身の危険を訴える理性。どちらを優先すべきかと天秤に掛けるが、天秤はもう傾いていた。
「行きますか」
決断するとすぐに行動へ移った。虚へと体を滑り込ませて地面へゆっくり降りていく。
どうやらただの虚かと思ったが中が広く下がまだまだある。着地した先には洞窟のように道が続いているらしい。
流石に危険かと思い始めると甘い香りを伴って風が吹き抜けていく。砂糖や蜂蜜といったものではない、もっと自然なその香りは…花、だろうか。
―何かが、ある。
それは予感ではなく確信だった。根拠はない。だが、オレはこの先を知っている、気がした。
「…」
ポケットから取り出した携帯電話で地面を照らす。心許ないが凸凹も少なく躓くことはなさそうだ。
一歩一歩をゆっくりと。前に何があるかわからないがその足取りに恐怖はない。オレはただ闇の先に向かって真っ直ぐに進んでいた。
「…あ」
歩いて数十分たった頃だろうか。ようやくわずかな光が見えてきた。それと同時に甘い香りを確かに感じる。やはりこれは花の香りで間違いないと断言できる。なぜならこの花はオレもよく知っている、実家周りで咲く花だからだ。
「っ!」
もう地面を照らすことはやめ足早に進んでいた。走っていたかもしれない。得体のしれない恐怖よりもなぜだが湧きだす懐かしさに突き動かされていた。
呼吸を乱さぬ程度に、頭をぶつけぬように。だけどもできる限り全力でオレは走っていく。
走って、走って、走って光の中へ飛び出して―落ちた。
「がっ!?」
足の裏から地面の感触が消え失せる。いや、突然斜面に変わっていた。がくんと、体勢を崩したオレは斜面を転がってしまった。
回る回る。世界が回る。赤や青や黄色が巡り気づけばオレは両手足を投げ出して倒れ込んでいた。
「痛って…」
頭に走る鈍痛に顔をしかめる。転がった際にどこかぶつけてしまっただろう。コブはないがジンジンする。
痛みを抑えるように頭を摩って立ち上がる。地面に手を付き、そして気づいた。
赤青黄色、様々な色の花々が咲き誇る花畑と差し込む日差し。辺りは木々が立ち並び花畑の中央部に聳え立つのはオレが今出てきたらしい大木の虚。真っ直ぐ走っていたはずだけど大木の幅は数人が収まる程度の大きさしかない。後ろに回るも繋がっていない。花畑の中央で真っ直ぐ聳え立つだけだ。
「…不思議の国にでも来ちゃったーなんて……」
自分で言ってて馬鹿らしいと吐き捨てる。
だが、この聳え立つ大木の中を通ってきたとしか思えない。出口はこの虚だったが通り道となった空間は見当たらない。
「帰れる……よね?」
若干後悔してきた。
戻るときはどうすればいいのだろう。この木の虚へ突っ走ればいいのだろうか。不安の色を隠しきれずに困り果てていると突然後ろから声を掛けられた。
「大丈夫ぅ?」
それは妙に甘ったるい、それでいてどこかで聞いた声がした。
「え?」
振り返った先にいたのは一人の女性だった。
薄い金髪を真っ直ぐ伸ばし頭の側面に薄桃色の花を挿している。耳は長く尖っておりまるでエルフや妖精を思わせた。
だがそれ以上に目に留まるのはその美貌だろう。
透き通った白い肌に垂れ目な瞳。通った鼻筋に柔らかく曲がった桜色の唇。まるで誰かが美しいという言葉を彫刻にしたような、息をするのも忘れるほどの美貌だった。
薄い布地を纏った体は女性として完璧な形をしている。腹部の括れに丸い臀部、ほっそりとした足はバランスよく魅力的。何よりも目立つのはその大きな胸だ。
かなり大きい。玉藻姐や龍姫姉、それから師匠と胸の大きな女性は知っているがさらに一回り大きい。露出が多い服のせいでさらに際立っていた。
そして、背中から生えているのは蝶々の翅みたいだ。アゲハのように模様が細かくだけど部分的に七色に輝いて見える。
一目見ただけでわかる。彼女は普通じゃない。少なくとも人間よりも格下の存在ではなかった。
「怪我しちゃったかなぁ?」
「ちょ、ちょっと?」
その女性は突然近づいてくると躊躇うこともなくオレの頭に手を置いた。
背丈はオレよりも少し高い。年も上だろうがその雰囲気は他人のそれではない。向けてくる瞳も慈愛と親しみに溢れていた。
「っぁ!」
その瞳の色ではっとする。
薄い紫色のそれは花畑の端で沢山咲き乱れた花と同じもの。
先ほどから香っていたものと同じもの。
うちの実家の周りに咲く梅雨時の花と同じ―
―紫陽花色の瞳だった。
「痛いの痛いのとんでけぇ〜」
ぽわぽわするような軽い声と口調。それから雰囲気に戸惑ってしまうが彼女は慣れた手付きで頭を摩った。
温かい。掌が優しく撫でて痛みが散っていく気がする。しばらくすれば痛みなど気にするほどでもなくなっていた。ただ単に目の前の女性に見惚れていたわけでもあるが。
「えへぇ♪やっと会いに来てくれたねぇ、ユウタ」
「え…っと?」
オレの名前を知っている。
ならオレの知り合いに違いない。だというのに思い出せない。
懐かしいと感じている。何かがあるとわかっている。だが喉でつかえているのか吐き出せない。
悩んでいると突然目の前に小さく光る玉が飛んできた。
「クロヌ様、連れてきました!」
「ありがとぉ♪」
光の中にいる小さな…妖精?は敬礼するとそのままどこかへ飛び去ってしまう。彼女はその妖精に大きく手を振っていた。何かを渡したのか手の中には塊が―お手玉があった。
「―あ」
掴んだお手玉の一つを見て気づく。
彼女の瞳と同じ紫陽花色の布と汚くマジックで書かれた名前。それは拙いが確かに『ゆうた』と記されていた。
昔おばあちゃんに貰った大切なお手玉の一つ。沢山あったから双子の姉であるあやかの物と混ざらないように名前を全部に書いた覚えがある。だが、それをあげたのは一人しかいない。
「クロヌ、姉……っ?」
「えへぇ、そうだよぉ♪」
目の前の妖精は―妖精の王ティターニアのクロヌ姉は嬉しそうに微笑んだ。
かつて子供の好奇心のままに動き回って、あの木の虚に落ちたんだっけか。泣きわめいて進んでいき辿り着いたこの花畑の中で出会った彼女に―クロヌ姉に頭を撫でられ慰められていた。
遊びたいと言った彼女にお手玉を教えたこともあった。持っていたお手玉を渡したが全然できずに笑ったこともあった。あまりにも下手だから大切だったお手玉をあげたこともあった。
―今度来るときにちゃんと返してもらうため。
―また来るからと指切りをして。
―絶対に会いに来るからと、約束して。
「ずっと、ずっと待ってたんだよぉ…?」
その蕩けた笑顔が久しくて、甘い声が懐かしい。だけど切なく哀しげに、どこか泣き出しそうな表情を見て申し訳なく思う。
何でここに来るのを忘れていたのだろう。かつてはあんなに遊んでくれた相手だというのに。
「…ごめんね」
何か言葉を探すが見つからず素直に一言しか言えなかった。
我ながら情けないし申し訳ない。子供だったからなんて言い訳通るはずもない。
思わず目頭が熱くなり、鼻の奥がつんとする。こらえるように頭を振るが目の前がゆがんでいく。隠すようにうつむくとぽんと柔らかな感触が頭にのっかった。
「許してあげるぅ」
「えっ」
「良い子良い子♪」
甘ったるい声と暖かな感触。どこまでも甘やかしてくれそうな優しさと安堵する温もりにオレは小さく息を吐いた。
零れそうな雫を拭い顔をあげて笑みを浮かべる。するとクロヌ姉もまた微笑んだ。
「せっかく来てくれたんだから久しぶりに沢山遊びましょぉ?」
「うん。いっぱい、遊ぼっか!」
間延びした口調におっとりとした雰囲気。容姿も何もかも変わらずあの頃のままの姿だ。そんな妖精のお姉さんを前に子供に戻ったようにオレは素直に頷くのだった。
花畑の真ん中の、大木のすぐ傍に座り込みオレとクロヌ姉は遊び始めた。
「ほらほら、ユウタ見て。お姉さんこんなに上手になったんだから」
そう言って慣れた手つきでお手玉を投げる。その数実に九個。昔のようなたどたどしさ微塵もなく、おっとりとした風貌からは想像もできない機敏な動きだった。まるでサーカスのジャグリングを彷彿とさせる。
ぽんぽんぽんと、両手に全て受け止めたクロヌ姉はオレの掌にお手玉を乗せてきた。
「それじゃあ今度はユウタの番だよぉ」
「え?…できるかな」
お手玉をするのは久しぶりだし限界なんて六個ほどだった。出来る方だがクロヌ姉がやって見せたほど出来たことはない。
それでも彼女の期待に応えるために次々とお手玉を放り投げた。
「よっと!」
「わぁ…♪」
三つから四つ。五つに六つ、そして七つへと次々に増やしていく。
昔に比べ動体視力や反射神経を鍛えたおかげでまだまだ増やせそうだ。
もう一つ、手に持っていたお手玉を放ろうとしたその時だった。
「えいっ」
「おわっ!」
突然投げ込まれたお手玉にリズムを崩されお手玉が飛び散った。そのうち一個が頭に乗っかる。
唖然とするオレと頭の上に乗っかった一つのお手玉。それがおかしかったのかクロヌ姉は吹き出し笑い出した。
「あははは♪」
「…やったなっ!」
「きゃっあ!」
そんな彼女に向かって飛びかかると細い体を抱きしめてごろごろと花畑を転がった。花びらが飛び散り甘い香りが弾ける中体全身に彼女の柔らかさを感じながら転がり、そして倒れ込んだ。
花びらだらけになったクロヌ姉の顔がある。
クロヌ姉は花びらまみれのオレを見ている。
その様子がまたおかしくて二人して笑い合った。
「えへぇ♪」
「あははっ」
まるで子供に戻ったかのような無邪気さだった。
おかしいから笑って、楽しいから笑って、自分に嘘を着かないで感情を偽らないで。
そんなことをしたのはいつ以来だったか。日々勉強やら家事やらやりつつ上っ面を飾って波風立てないように気を遣う。面倒で厄介で吐き出せる場所もない日常に嫌気がさしていたのかもしれない。
「あ、そうだぁ」
花畑から起き上がり蝶の翅から花びらを落としながらクロヌ姉がぽつりと零した。
「ユウタが来るのを待ってる間に妖精さん達にいろんな遊びを教えてもらったんだよぉ」
「うん?いろんな遊び?」
「そう、ピクシーちゃんとかフェアリーちゃん達にいろんな遊びをいーっぱい、ユウタのために沢山教わってきたんだからぁ」
「そっか、嬉しいな。それじゃあ沢山教えてよ」
両手を広げて沢山と表現するクロヌ姉に思わず笑みが零れた。その言葉に期待も生まれオレはわくわくと好奇心を隠さず体を揺らす。
はてさて、クロヌ姉はどんなことを教えてくれるのだろうか。
「えへぇ♪いっぱい、おしえげあげるぅ♪」
蕩けた笑い声と共に何をするのかと期待する。すると突然視界に広がるのはクロヌ姉の顔だった。
「んちゅ〜♪」
「……ん?」
続いて感じたのは呼吸が止まっていることと唇を塞ぐ柔らかな感触。何かと思った次の瞬間には彼女は離れていた。
何をされたのかわからない。だが、多分、いや、絶対に今のは。
オレはクロヌ姉にキスされていた。
「え?え?……え?」
あまりにも突然の事で目を白黒させてしまう。
だって……誰だってそうだろう。かつて甘えていた女性に突然遊びと言われてキスされている。混乱しないはずがない。
悪ふざけでやっているのか、それともまさかそういうことをするつもりか。疑問が浮かぶがそれより先にクロヌ姉がオレの足の上に跨った。
「もっとちゅーするのぉ♪」
「え……あっんむっ!?」
混乱する頭のままで二度目のキス。
今度は唇に吸い付き擦るように口づけられると間から舌が突き出された。こちらの唇をノックしずるりと入り込んでくる。
「んむっ!」
「んふっ…む♪」
拒むつもりはなかったが突然の事に驚き固まった。それをいいことにクロヌ姉は舌を突き口内を巡る。歯茎を撫でて歯をなぞり、舌を絡めては唾液を啜った。
もう純情だとか無垢だとか、そんなもの欠片もない行為だった。子供がするような拙いものではない、明らかに大人の行為だった。
「んっんぅ♪…はぁぁ♪ちゅーしちゃったぁ♪」
「しちゃったって…」
やり遂げたと言わんばかりの発言と笑みにこちらは反応しきれない。
明らかにこれは遊びの範疇を越えている。キス自体どういった意味を持つか知らないほど幼くはないだろう、この女性は。
というかクロヌ姉にそんな遊びを教えた馬鹿は誰だ!
「えへぇ♪もっともっとぉ」
「あ、ちょっと―んっ」
三度目はさらに深くまで。
今度は誘われるように舌を啜られクロヌ姉の口内へ導かれた。そこは湿っていながら温かくそして何よりも甘い。幼少の頃啜った花の蜜だとか、蜂蜜だとかそんなのに近かいだろう。
歓迎する様に唇に挟まれ舌が絡みついてくる。違った二つの柔らかなものが擦れ、にちゃにちゃといやらしい音を頭の奥まで響かせた。
くらくらする。
美女とキスをしているというのもあるが、それ以上にかつての優しいお姉さんとそういうことをしている事実に。
「はむ♪んむ、ちゅー♪」
されるがままに吸われて絡まり、啜られ飲み込む。
そうして気づけば意識が混濁して頭の中には靄がかかったように朦朧としていた。それをいいことにクロヌ姉の手が服へと伸ばされた。
「えへぇ♪脱ぎ脱ぎぃ♪」
「…はぇ?………え?ちょ、ちょっと!?」
気付くがそれより早く上着を、下着を容易く脱がすと花畑の方へ落とされた。上半身だけ裸にされるが彼女は嬉々として次に自分の服へと手を掛けた。
「お姉さんも脱ぎ脱ぎぃ♪」
「わ、わー!わー!何やってんのクロヌ姉!!」
服、と言えるのかわからない布地を取り去り翅を動かし脱いでいく。一枚二枚脱ぐとすぐにクロヌ姉は裸になっていた。
露わになる滑らかで白い肌。そして大きな膨らみは誰もが見惚れてしまうことだろう。大きく、だけど形を保ったままの柔らかな曲線に先端には桃色の突起が鎮座している。僅かに動いただけで揺れる膨らみはどんなに柔らかいことだろうか。
ごくりと思わず唾を飲み込んだ。
「ぎゅ〜っ♪」
「はっ!!!」
肌と肌が重なり合う。一糸まとわぬとはいかずとも遮るもののない姿でクロヌ姉の体が押し付けられた。
大きな胸がオレの胸板で潰れた。尖った先端が擦れて思わず上ずった声が漏れそうになる。伝わってきた感触は筆舌しがたいほどに柔らかかった。
それでいて温かい。
先ほども感じていたことだが感触と体温がオレの心を落ち着ける。最も、裸になられれば女性として意識してしまうのだけど。
「えへぇ♪ユウタの体温かいよぉ♪」
「く、クロヌ姉っ!?」
右に、左に体を揺らす。まるで子供が駄々をこねるかのように。
だが揺れているのは大人の体だ。右に傾けば胸が潰れて形を変えて、左に傾けば胸板を擦っていく。淫靡な光景とその感触が脳髄に突き刺さり下腹部に熱を灯していく。
「…あ♪」
何かに気付いたように体を離すと視線が下がる。釣られてそちらを見るとズボンを押し上げるオレのものが目に付いた。
一気に顔が赤くなる。顔から火が出そうなほど恥ずかしい。
「っ!」
「こんなに大きくなるんだねぇ♪それじゃあお姉さんがいっぱいなでなでしてあげるからねぇ♪」
止めて、なんて言えなかった。
無茶苦茶だけどこの行為の先を期待している自分がいた。それ以上に優しく接してくるクロヌ姉の態度に抵抗が削がれていく。
それをわかってる…わけもないだろうクロヌ姉は盛り上がったズボンを躊躇うことなく触れてきた。
「良い子良い子ぉ♪」
「く、ふっ…ぁっ」
ズボン越しに撫でられている。だが他人の手であり、何よりそれがクロヌ姉のものだという事実が興奮をさらに煽ってくる。
細い指先が線をなぞっていく。掌も使い子供の頭を撫でるように擦られる。布地越しだというのにその感触は脳髄に突き刺さる程鋭く、そして何より甘美なものだった。
「クロヌ姉、それ、だめ…っ!」
「うん♪それじゃあ、もっといっぱいしてあげるからねぇ♪」
「……えっ?」
満足げに頷いたクロヌ姉はとうとう最後の衣服に手を掛けた。
まずオレの方へ。ズボンを手早く脱がし下着もさっさと取り払われる。露わにされた男の証を見ると紫陽花色の瞳が嬉しそうに細められる。
続いて自分の方へ。薄い布地を取り払うとどうでもよさげに放られる。まるで欲しいものを前にした子供の如く他の事には目もくれない。
―そして互いに裸になった。
一糸まとわぬ姿で晒されるクロヌ姉の裸体は美しかった。大きな胸もさることながらしっかりとした括れに悩ましい臀部の曲線。傷も染みもない滑らかな肌に背中から生える大きな翅。人にはない神々しさすら感じるほど彼女の姿は完璧だった。
「わ…っ」
何よりも目に留まったのは下腹部だった。茂みなんてものはなく幼さが垣間見える女性の証。そこはいつの間になったのかしとどに濡れそぼっていた。
興奮しているのだろうか。疑問に思い顔をあげるとにっこり微笑むクロヌ姉の顔。ただその頬は朱に染まり唇の間からは熱い吐息が漏れていた。
「えへぇ♪こっちでもっと良い子良い子してあげるからねぇ♪」
淫靡さも色っぽさもない無邪気な姿。でも行おうとしていることは紛れもなく大人な行為。そのギャップが堪らない。
見惚れているオレを下にクロヌ姉は両手で自分のそこを広げていく。穢れのない色と共にねっとりした粘液が零れ落ちた。
「よいしょぉ♪」
「あっ!?」
力任せ、というか子供っぽく我武者羅というか。クロヌ姉は腰を無理やり押し付け沈めていく。
それと同時に弾きだされるのは肉に締め付けられる感触とぬめり絡みつく粘液と、何よりも高い熱。感じる物すべては快楽へとなり脳髄へと突き刺さった。
「っ!!」
「あ、うぁああ♪」
温かい。まるで日差しの下で寝転ぶような、そんな安心感がある。とても窮屈だが決して痛みはない。それ以上の温もりが包み込みずっと入っていたいと思えるほどの抱擁感だった。
「あ、はぁ……♪」
甘く蕩けた声が桜色の唇から零れ落ちる。顔を見れば目に涙をため、頬を赤く染めていた。どこか嬉しそうに微笑みを浮かべる。だが伝わる感覚のせいで上手くいかず蕩けた表情となっていた。
―いやらしい、そんな風に思った。
純粋無垢なクロヌ姉が浮かべた女の顔は何よりも美しく、だからこそ蠱惑的なものと感じられる。子供な感情と大人の色香。それが何よりもオレの意識を揺らしていた。
「あ、はぁ…ぁ♪ユウタの熱くってお腹いっぱいだよぉ♪」
満足そうにクロヌ姉は下腹部を撫でる。オレと繋がったことが心底嬉しいと言わんばかりに回された両足に力が込められた。
「お姉さんの中は気持ちいぃ?」
「んっい、いよ…」
「えへぇ、よかったぁ♪」
正直応える余裕すらない。
初めて感じる男女の交わり。弾きだされた快感は耐えがたく今にも爆発してしまいそうだ。
現実離れした状況と甘やかすような快感と、捨てきれない常識が頭の中でぐるぐる回る。最低限、避妊ぐらいはしないと、なんて頭の隅で常識がぽっと浮かぶが今にも流されそうだった。
「それじゃあ、いっぱい動くからねぇ?」
「んっ!」
ゆっくり上下と、だがその動きはぎこちない。緩慢なのは行為が初めて及ぶものだからだろう。その証拠が太腿に一筋、鮮やかな赤い色を落としていた。
だがクロヌ姉は構うことなく腰を動かす。途端に触れ合う部分から卑猥な音が響いてきた。膣内を擦りあげる。愛液によってすっかり濡れた肉壁は痛みのない刺激を生み、高くも優しい熱と弾きだされた快感に溶けそうだと錯覚してしまった。
「クロヌ姉ぇっ」
「んふぁっ♪あぁ♪…ぁあっ♪」
甘い声と蕩けた表情。気づけば両手がオレの手を握りこみ指先まで絡まっている。掌に伝わる体温と下腹部から湧きあがる快感が意識を高みへと押し上げていった。
僅かに動いただけで結合部から音が響く。野外と言っても差し付けない空間の中、それも花畑のど真ん中で行為にふけるというのは奇妙な背徳感があった。
見られる心配があるからではなく、物語みたいな幻想的な空間で情事に耽っている。純粋な感情が欲望に浸かっていく、そんないけない感覚にぞくぞくする。
「ユウタぁ♪ん、ふぁあっ♪ユウタぁぁあ♪」
クロヌ姉は眉を顰め桜色の唇を歪めている。間からは熱い吐息が漏れ甘く艶やかな声が零れていた。
年上でおっとりとした雰囲気からは想像もできない女の艶姿。そのギャップが余計興奮を掻き立てる。
「もっと、もっとぉ…奥までぇ♪」
「え、あっ…クロヌ姉!」
「…えいっ♪」
思い切り腰を押し付けて全てを飲み込んでいるが重いとは感じない。女体の柔らかさや人の体温故か心の奥から温かくなっていく。
布団の中で微睡んでいる時や、縁側で寝転がっているときの何も警戒していない状況と同じだ。それだけクロヌ姉との交わりは気分を落ち着けてくれるものだった。
「んふぁ…♪全部入ってるぅ♪」
全て飲み込んだことにより先端に吸い付いてくる何か。唇のようで周りの膣壁とは違う感触のそれは………子宮口だろうか。
愛する我が子にするようにキスを繰り返し、搾り取るように啜ってくる。それは腰が砕けてしまいそうな甘い快感だった。
「んふぁっ♪あ、ぁあ♪ゆう、らぁああっ♪」
驚きを隠せない甘い声。どうやらここを突かれることがクロヌ姉にとって気持ちいいらしい。もはや言葉とならない声を上げ応じるように子宮にあたるようにと腰を動かす。
もはや子供のような純情な気持ちはない。
あるのは欲に塗れた男と女の交わりだった。
「んひぃっ♪や、やぁあっ♪そこ、ばっか、やらぁ♪」
オレからもまた、腰が動いてそこへ向かって叩きつける。何も考えない本能的な動きだったがクロヌ姉は確かに感じていた。
へこへこと腰が動くたびに粘液が飛び散って女の匂いが漂った。互いの肌には汗が浮かび重なった肌の間で交わり合っていく。べたつき不快なはずなのにそれがまた興奮を誘った。
「ひゃぁ♪やぁっ♪ゆうらぁ、ぁあ♪」
徐々に行為が加速する。腰の動きは乱雑になり弾きだされた快感が一層強まっていく。
粘質な音は肉同士のぶつかる音と変わり花畑に響く。誰が聞こうと誤魔化せない情事の音にお互い高ぶりを感じていた。
母性の溢れる膨らみが目の前で上下する。汗が飛び散り桃色の先端が揺れ動く。淫靡な光景に下腹部がさらに熱を上げた。
「あ、や…っ♪にゃんか、くるっ♪くりゅぅっ♪」
「わっ!」
突然回された足に力が込められた。痛くはないがあまりにも強くて抜け出せない。
いきなりこんなことをしてしまったが流石に中はまずいだろう。だというのに腰が引けないのではどうしようもない。
「待っ、て…っ!」
「だぁめぇ♪」
回された腕は離してくれず、絡んだ足は解いてくれず。体は密着したままで膣内は絡みついたままだ。
このままでは中に出してしまう。だというのにクロヌ姉は嬉しそうに腰を揺らして射精の瞬間を今か今かと待ち構えていた。
そしてとうとう上り詰める。何物も遮ることなくオレは彼女の一番奥へと精液を吐き出していた。
「くふぁああああああああっ♪」
「〜っぁ、ぁ……」
搾り取られるような激しさはない。それは漏らしてしまったような緩い絶頂だった。
ぬるま湯につかる様な安心感が与えられ我慢することを忘れてしまう。瞼を閉じればそのまま意識が沈んでしまうほどの安心感があった。
だがオレと違ってクロヌ姉の方はそうではない。吐き出された精液の感触に体を震わせ今までで一番甲高い声を上げる。絡んだ四肢や抱き返した体は逸らされていた。彼女もまた絶頂したのか膣内がきつく締め上げられ呼吸が止まる。
快楽で緩んだクロヌ姉の口から唾液が零れた。力が抜けたのか舌がだらりと垂れオレの肌を濡らしていく。紫陽花色の瞳は霞みながらもオレに向けられていた。
「ん、ぁぁ……は、はぁ…♪はぁぁ……♪」
快楽の波が引く。だが絶頂の余韻は体に残り、気怠い感覚が支配していた。倒れ込みそうなのを堪え花畑に手をつくと突然頭を撫でられる。
「んん…っ♪お腹の中にいっぱい出したんだねぇ♪沢山感じちゃったよぉ♪えらいえらい♪」
「〜っ」
膣内に射精したことを褒められる。
男として女性に認められ、それを称えられるというのは何とも誇らしいことだろう。そのまま存分に甘えて褒めてもらいたいが正直めちゃくちゃ恥ずかしい。というか照れる。
まるで自分の子供の頑張りを眺める親のような慈愛に満ちた視線を向けてクロヌ姉は微笑んでオレの頭を撫でていく。
「んっ…」
その感触にオレは目を細めて体から力を抜く。
懐かしい。
どれほど荒れた時でも泣き出しそうな時でもこの感触が心を落ち着けてくれていた。頭を切ってしまった時のおまじないも本当に魔法みたいに痛みが消えていた気がする。
だから頭を撫でられることが好きだったんだっけか。この歳で誰かに撫でられることはなくなってしまったが改めてされるとやはり好きだったんだなと自覚した。
「……は、ぁ」
満足げにため息を吐き出す。快楽の波も引き意識も落ち着いてきた。しかし依然としてオレのものはクロヌ姉の膣内で硬いままだ。
結合部からは二人の体液が溢れだし流れている。紛れもなく交わり合った証だ。
年上なのに幼気で純情なティターニアとの情事。
無知な子供を汚すような目を背けたくなる背徳感と、それでも湧きだす興奮は否定しきれない。まるで真っ白なキャンパスを自分の色で描くような感覚と一筋流れた赤い滴が罪悪感を抱かせた。
「クロヌ姉、辛くなかった?」
「うん、全然痛くないよぉ?いっぱい気持ちよかったぁ♪ユウタも気持ちよかったぁ?」
「…うんっ」
悦んでくれた。その事実が堪らなく嬉しくて、何もできなかった自分がちょっと情けない。そんな感情を誤魔化すようにクロヌ姉の体に顔を押し付けた。
二つの大きな膨らみが筆舌しがたい柔らかさを返してくる。興奮と安心の間の感情を抱きながら猫のように顔を擦りつけた。
するとふと、何かを思い出したかのようにクロヌ姉が耳元へ唇を寄せてくる。
「他の妖精さんたちから教わった遊びがまだまだ沢山あるんだよぉ」
「………え?」
誰にも聞かせないようにとても小さい声だった。耳にかかる吐息がくすぐったいが『遊び』という言葉にどきりとする。
今のもまた一つの『遊び』だった。だったら他の『遊び』がどんなものか、大体想像がついてしまう。
「ナメクジごっこって言うんだけどね、ナメクジさんみたいにべったりくっついていちゃいちゃするんだって」
「く、クロヌ姉?それって絶対遊びじゃないよね?」
「…えへぇ♪」
「ぁっ」
花畑のベットに体が倒され、上からクロヌ姉が覆いかぶさってくる。腕を、体を、足を押し付けると彼女は悪戯っぽく舌を出して笑う。
「こうやって……えいっ♪」
「っぁ!」
先ほどは緩やかで単調な動きだった。徐々に加速していったが上下に動くだけの拙い交わりだった。
だが、これは違う。
腰が離れぬように密着して最奥ばかり押し付けてくる。左右に揺らし、前後に動き、時には円を描きながら胸を押し付け肌を重ねる。互いの間に隙間はなく、それこそナメクジみたいに絡み合っていた。
「うぁ、これ…すごいっ」
「んぁあ♪はぁ、あぁぁ♪」
膣内がいくつもの舌で撫でられるように舐め上げていく。肉ひだの一つ一つすらわかる程の執拗な動きは先ほどとまた違う快楽を生んだ。
裏筋を舐められ、カリを擦られ締め上げて。決して離してくれない情熱的な抱擁に思わず身悶えするしかなかった。
「…ぁっ」
目と鼻の先にはクロヌ姉の顔がある。潤んだ紫陽花色の瞳や桜色の唇に朱に染まった頬。どれも見惚れるほど美しい顔がオレとの行為で歪んでいた。そんな距離で見つめあっているとどちらともなく唇が開く。間からは舌を突出し絡み合った。隙間はなくなり唇が重なり合う。
「んひゅ♪ふ、みゅんっ♪んむ、ふっ♪んむぅ♪」
くぐもった嬌声をあげながらも行為は止まらない。
舌を絡ませ唾液を啜る。唇と違う柔らかさを堪能しつつ蜜のように甘い唾液を飲み込んだ。すると嬉しそうに唇をさらに押し付けられ歯がぶつかる。ちょっと痛いが今は痛みすら心地よい。
腰の動きも止まらない。
ぐりぐりと子宮口を押し付けるように動くと視界の端で花々が揺れた。膝が当たったのかいくつも揺れ花の香りが混じりあう。
ロマンチック、なんて思ったがすぐに快楽が塗りつぶしていく。もう頭の中にあるのはクロヌ姉だけだった。
「あっ♪あっ♪ふ、ぁああっ♪」
唇を離し、肌を密着させたままお互いが腰を動かしていく。二つの熱は溶け合って、汗が浮かんでは弾けて落ちた。
花びらに沈みながらさらに足が、腕が絡んでいく。抱きしめあって動きあうと大きな胸が胸板に擦れ甘い痺れを生んだ。硬さを持った先端と吸い付くような柔らかさ、その二つがまた堪らない。
「ナメクジさんって、んん♪こうやって遊ぶのかなぁ?」
「知らないっ!」
「んぁ…♪で、も、気持ちいいねぇ♪」
おっとりとした口調なのに腰の動きは止まらない。ゆっくりだが前後に揺れ、その度に膣内を柔らかな肉壁が擦りあげていく。結合部からは互いに混じりあった体液が漏れだし花畑へと滴り落ちた。
「あ、ふぁっ♪」
あまりにもねちっこく動くせいで子宮口が先端に何度も吸い付き、吸い上げていく。子供のキスのように何度も浅く、それでいて沢山吸い付くたびに頭の奥から弾けそうだった。
気付けばいつの間にか意識は高みへ押し上げられている。先端が痺れ下腹部から熱が滾ってきていた。歯を食いしばることも忘れるほど緩やかな快楽にだんだん意識が蕩けていく。
「クロヌ姉ぇ、また……出すよ…?」
「うんっ♪うんっ…いっぱい、出していいから…ね♪」
流石に二度目は我慢しない。クロヌ姉は最奥へ誘導するように腰を動かし、こちらからも体を抱き寄せ腰を押し付けた。子宮口に食い込ませると逃がさないと言わんばかりに締め付けられる。
だが、もっと奥に注ぎたい。もっと中で吐き出したい。そんな男の本能に押され回した腕にも力を込めた。
ただでさえ密着している互いの体がさらにくっつき、隙間なんてものはなくなる。柔らかく潰れた胸は汗ばみぬるりと横へ滑り出た。擦れた感触がまた堪らなく、意識がさらに押し上げられ、最奥を突き刺す先端から精液を吐き出し再び子宮へと注ぎ込んでいった。
「あ、ふぁっぁあああああああ♪でてるっ♪でてるよぉおっ♪」
感極まった声を上げてクロヌ姉は体を震わせた。彼女もまた絶頂したのか膣内も痙攣している。ただでさえきつい膣内がさらに締まり肉壁が押し潰してくる。やわやわと蠢いては射精を促すように律動するその感覚が堪らない。尿道を擦る精液を一滴残らず搾り取ろうとしているようだ。
「んあぁっ♪はぁ…♪ぁ、んふぁ…♪はぁ、ぁぁ………♪」
「んん………っ」
骨身に染み込む快楽の波が引く。気怠い体と混濁した意識の中で重なり合った相手の感触が心地よかった。
ぴくぴくとお互いに体を震わせる。絶頂から降りてきたのにその余韻が残っている。微睡むような安心感と全てを許してくれそうな甘い感触。クロヌ姉という甘えられる存在の中で感じる幸福感は中毒になってしまいそうだ。
「ん、ひゅ…♪ユウタぁ♪」
耳に残る蕩けた声に顔をあげるとクロヌ姉が頬を擦り合わせてきた。それだけでは止まらず顎を舐めて舌先が擽ってくる。まるで猫を撫でるみたいな舌の動きと行動がくすぐったくて身を捩った。
「んん〜♪ユウタぁ〜♪」
「んっぁ、くすぐったいよクロヌ姉」
そう言っても嫌なわけもない。子供のような仕草と声にオレはクロヌ姉の頭を撫でた。
撫でて、あっと気づく。だが時すでに遅く彼女は嬉しそうな表情とは一変してふくれっ面を浮かべている。ただ、行為の余韻で顔は赤く、潤んだ瞳と幼げな表情にちょっと興奮した。
「お姉さんは私の方ですぅ」
「わかってるよ。ちゃんとわかってるから」
「ぶぅ〜」
それでも膨れたクロヌ姉を見てくつくつ笑ってしまう。
その表情もその仕草もやっぱりあの頃のままだ。
「…………変わらないね、クロヌ姉は」
ピロートークとしてどうなのかと思うが、素直に昔を思い出して言った。
あれから十数年。それでも彼女の容姿も性格も一切変わっていない。変わってしまったのはオレの方だけだ。
「でも私がお姉さんなのは変わらないですよぅ」
「ふふっ。そうだね」
だからといってクロヌ姉は気にする様子はない。
容姿が変わらない。仕草が変わらない。彼女は色褪せた記憶の中のままでいる。
だが、それ以上にクロヌ姉がオレにとって一人のお姉さんであることはいつまでも変わらずにいてくれる。
それが堪らなく嬉しかった。
「にゃあ」
目頭が熱を持とうとしたその時、突然クロヌ姉がぽつりと呟いた。あまりにもいきなりで何の脈絡もない発言にオレは目を白黒させる。
「いきなり猫の鳴き真似なんてどうしたのさ?」
「えへぇ、ユウタの真似だよぉ」
「え?そんなことしてたっけ?」
「にゃあにゃあ言ってすり寄って来たんだよぉ」
「……………えーっと………それ三歳ぐらいの頃じゃなかった?」
もう大人な、それも男がにゃあにゃあいうはずもないだろう。流石のオレもそこまで子供には戻れない。
「でも、ユウタもユウタだよぉ。優しくて、泣き虫で甘えん坊でちょっとおっちょこちょいで」
「…っ」
「それで、私の大好きなユウタだよぉ」
にっこり微笑むクロヌ姉。伸ばされた手がまた昔のように頭を撫でた。
彼女にとってのオレはあの頃で止まっているのだろう。オレの記憶の中でずっと優しいお姉さんで居続けるのと同じように。
そして十数年と長い時間が経ってしまった今でもオレはオレだ。クロヌ姉がクロヌ姉であるように時間が経とうとそれは変わらない。
「だからぁ」
クロヌ姉は両手を拳に変えにっこり笑うと一言。
「にゃあ」
「…ふふっ」
ゆうたは全く変わらない、そう言わんとして猫の鳴き真似をする姿がとても愛おしい。
それでいて堪らなく可愛らしい。
年上だけどその仕草は子供っぽい。だけど、クロヌ姉だからこそそんな仕草がよく似合う。変に飾らず無邪気な姿に愛おしさと欲望を混ぜた感情を抱いた。
まるで猫のように体を摺り寄せてくるとふりふりと腰を振る。繋がっているままではその動きですら刺激に変わる。萎えることは許されない、というよりもまだできると応援されるかのようだった。
「くふっ」
「んん♪にゃはぁ…♪」
ご丁寧に猫みたいな喘ぎ声ときた。いや、実際猫はもっとすごい声出すけど。
頭を撫でるとかつては怒ったのだが気持ちよさそうに目を細める。顎を撫で返すと器用にごろごろと鳴き出した。
「結構真似するの上手いね」
「えへへぇ、ユウタの方がずっと上手だったけどねぇ」
「…そうだったっけ」
「でも、もっともっとできるんだからぁ」
「わっ」
飛び掛かるように腕を回して抱きしめられる。頬を擦り合わされてくすぐったい。じゃれ合うような行為を続けているとクロヌ姉が突然額を合わせてきた。
鼻先が触れ合い吐息が唇にあたる。甘く香るそれはまるで花のようだった。
「あ、そうだ。今度は…猫さんごっこ、する?」
「……ん…する」
子供がやるような真似事ではないのは最早わかりきったことだった。
啄むように唇を寄せるとすぐに舌が絡み合う。欲と愛に塗れたキスが途切れたのはたまらなくなったクロヌ姉がオレを再び花の中へと押し倒した時だった。
―HAPPY END―
「そろそろ帰らないといけないんだけど…」
「やだぁ。ユウタはずっと妖精の国にいるのぉ」
「いや、でもオレも帰らないといけない場所あるし、何よりあやかが黙ってないし…」
「ならお姉さんも一緒に行くからぁ」
「……ティターニアって妖精の国の女王だって言ってたの誰だっけ?女王が国を放り出すなんて感心できないよ」
「じゃぁ女王命令だから帰っちゃダぁメぇ」
「えぇ、それはいくらなんでも無茶苦茶すぎ…………あ、虚から誰か来た」
「ふぇ」
「うわ、懐かし。こんな花畑だったっけ」
「あやか!?」
「あ、いた。お手玉落としてたから追ってきたけどなんでまたこんな懐かしいところ来てるの。ご飯できたからさっさと帰―出た、妖怪乳お化け!」
「えへぇ、アヤカも久しぶりぃ♪」
「うるさい来んな!こっち来んな!近づいてくるのやめて!」
「アヤカもぎゅ〜っ♪」
「むぐぅ〜!!ふぐぅ〜っ♪んんんんんんん!!!」
「えへぇ、ぎゅ〜っ♪」s
「…………あ、すんごい懐かしい光景」
15/09/06 00:00更新 / ノワール・B・シュヴァルツ