読切小説
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甘さと貴方とオレと苦味
「………ぅわっ」

それは学校帰りの通学路の途中の事だった。若干冷たい風を切りながら紫色へと変わる空の下を自転車で駆けていた、ある時の事だった。
ぞくりと、首筋に冷たい何かが伝っていく。水が滴ったわけでも雨が降ったわけでもない。
ただ、そう感じただけだ。
まるで後ろから手を伸ばして濡れた指先で突かれるような不快な感覚。実際には起きていないのに背筋が嫌に震えあがる。
ふと後ろを振り返る。しかし、広がっているのはいつも通りの帰り道。既に日の暮れた暗い夜道には誰もいない。
だが、感じる。
見られている、というよりももっと悪質な気配を。
追われている、というよりもずっと陰湿な感情を。



それを意識し始めたのは数か月ほど前の事だった。



いつものように自転車での帰り道、一人でただぶらつくように通学路を走ってるとどこからともなく纏わりつく気配を感じた。
気のせいにするにはあまりにも執念深く追ってくる。このまま帰ってもいいだろう。だが、追われ続けて家まで来られては厄介だ。
だから今日もまた逃げるようにトンネルへと逃げ込んだ。

「っ…!」

そこまで長くない、路線下のトンネル内の真ん中あたり。車輪の音とは明らかに違う音に思わず止まってしまう。
まるで何かを擦りつけるような音。いや、引きずっているのかもしれない。トンネル内で反響し耳に届く嫌な音。道路と擦れる耳障りなそれは確実に距離を詰めて近づいている。

「ぁあ、もう…」

オレンジ色のナトリウムランプが照らすトンネル内を突っ切れば先にあるのは夜の闇。照らしてくれるのは自転車の小さな明かりのみだがここよりもずっとましだろう。
そしていつものように本気で自転車を漕ぎ始める。ここから一気に距離をあけてまかればどこまでもついてくるのだから。
トンネルを抜け右へ曲がる。さらに右へ、今度は左へまた右へ。ついて来てるか確認する暇もなく住宅街へ突っ込んで細かな角ばかり回って―止まった。

「っ」

目の前にあるのはとある家。周りとは違う独特な煉瓦壁と赤い屋根。御洒落を通り越して異質さすら漂う、入りがたさすら感じてしまう建物。ぶら下がった看板は細いロープを手繰ったようなデザインで揺れる文字は異国の言葉か読めそうにない。
自転車を店の死角へ置き籠からバッグを取るとすぐさまドアをあげて体を滑り込ませる。ガラス戸から見えないようにと物陰に隠れ息を殺した。

「……」

ドアをわずかに開き外の音を聞く。あの気配は、あの引きずる様な音はまだ追ってくるのか。

「…っ」

物音建てずに気配を探る。車のエンジン音も人の気配も感じない夜の田舎道だ。住宅街とはいえ外で遊ぶ子供も、帰路につく大人もいない。誰かが追いかけてこようものなら嫌でも気づく。
さぁ、どうだ―

「いらっしゃいませ」
「―わっ!」

突然かけられた鈴を鳴らすような声にみっともなく跳ねた。慌ててそちらを振り向くと先ほどはいなかった女性がこちらに視線を向けている。

「ヴェペラさん…」

見知った姿にオレは安堵しため息をついた。
部屋の明かりの下へ出てきたのは金色の長髪をした女性だった。鼻が高く、大きく開いた目はただオレを捕らえ、優しそうに薄紅色の唇が笑っている。染みも傷もない真っ白な頬は眩しく、また艶やかで美しい。日本人ではない顔立ちでも十分美人だとわかる程彼女の容姿は整っていた。
カウンター越しに見えるその体もまた同じ。オレンジ色のセーターに身を包んでいるがざっくり開いた胸元からは魅惑的な渓谷が覗いている。二つの膨らみは小ぶりな西瓜と言える大きさだが太っているわけではなく腹部は括れている。全貌を見たことはないがカウンターに隠れた体もさぞ整っていることだろう。
どこか妖しくミステリアスな雰囲気の外国人。それがこの店を経営するヴェペラさんだった。

「また、かしら?」
「ええ、まぁ…」

ヴェペラさんの心配にオレは困ったように肩をすくめた。
これでもう何度目だろうか。
こんなことが始まってすぐにオレはこの店に逃げ込み続けていた。ヴェペラさん曰く、店の外装のせいか訪れる人がいないから来てくれるだけありがたいとのことらしい。そんな彼女の厚意に甘え、気づけばもうかなり通っていた。

「そんなところに突っ立ってちゃ気づかれちゃうわよ?こっちにいらっしゃいな」
「…ですね」

そう何度も世話になっているのに何も飲んでいかないというのは失礼だろう。高校男児には手痛い出費だが彼女の淹れてくれるコーヒーにはお金を払うだけの価値はある。
故に今日もオレはカウンター席に座りお礼を兼ねて注文する。

「それじゃあ今日は甘いものがいいかな。ウインナーコーヒーで」
「かしこまりました」




「はい、どうぞ」

渡されたのはハートの形をしたカップだった。生クリームの上に散らされたシナモンとチョコシロップが何とも洒落ている。

「どうも」

一言お礼を言ってからカップに口をつけ流し込む。口の中に広がる生クリームの甘味。その下から染みだしてくるコーヒー独特の風味と黒い苦味。口内で程よく混ざり合い喉の奥へと流れていく。

「…ん、美味しいです」
「そう、よかったわ」

自分で淹れるのとは違う味わいにため息をつく。やはり人が作ってくれる方がずっと美味しい。ヴェペラさんがプロだからというのもあるだろうが。
三分の一ほど飲んでスプーンで生クリームを溶かす。今はただひたすらに甘いものが欲しかった。手を伸ばしてガムシロップに触れるがこれ以上甘くするのは流石にやりすぎと思い留まる。

「随分と疲れてるわね」
「ええ、まぁ…」
「今日は体育があったから…だけじゃないみたいね」
「…え?よくわかりましたね」
「それくらいもうわかるわよ。赤の他人じゃないんだから。何か恨みでも買っちゃったのかしら?今までに追われた経験はあるの?」
「真っ最中ですが」
「今じゃなくて、よ。ユウタ君って結構無茶しそうな性格だからお姉さん心配なの」
「そんな無茶しませんよ。せいぜい……」
「せいぜい?」
「…」

師匠に追われたことはあったがあれはノーカウントだ。内容が若干セクハラじみていたが日常的なものだし、悪ふざけの範疇だし。
だが。
あれほど粘つく気配から逃げたのはこれが初めての事だった。
あんなに執着する感情を受けるのもこれが初めての事だった。
身の毛のよだつ得体のしれない感覚は未だに慣れることはない。相手がどんな姿なのかもわからないのだ。
相手が人なら最悪殴り倒すことはできる。だがわからないからこそのこの不安だ。
何かを引きずるあの音が、トンネル内の反響が今も耳を離れない。

「…………………でもなんでこんなことされてるんだか…」
「もしかしてユウタ君ってもててる?」
「…はぃ?」

突然のヴェペラさんの言葉にオレは顔を上げた。

「もしかしたら…ただ純粋に貴方のことが好きなのかもしれないしね」
「……そう、ですか?」
「そうじゃないと普通追いかけてこないわよ」
「だったらもっと正面から来て欲しいですけどね」

やはりオレも一人の人間だ。嫌われるよりも好かれる方がいい。
好意を持ってくれるというのなら悪質なストーカー行為よりも正面から来てほしい。応えられるかは別としてだが。
もう一口飲んでため息をつく。甘ったるいコーヒーは疲れた体に程よく染み渡っていった。

「あら、ここついてるわよ」
「え?」

何が、と言いかけた唇を細い指先がなぞる。離れた指先には溶け残した生クリームの欠片がついていた。
それをどうするのかと思いきやヴェペラさんは何のためらいもなく自分の唇へと運び、見せつけるように舐めとった。

「うふふ♪本当に疲れてるのね」
「……」
「あら?固まっちゃってどうかした?もしかして嫌だったかしら?」
「い、いえっ…ありがとうございます」

美女相手にされればどんなことでも嬉しいもの。それだけ男が単純な頭をしているということなんだけど。
でも、やっぱりこういう世話焼きなお姉さんが好みなオレとしては堪ったもんじゃない。ドギマギして顔も赤くなっていることだろう。誤魔化そうと足元に置いたバッグを手に取った。

「そ、そろそろ帰りますね。御馳走様でした」
「あら、もう行っちゃうの?まだ危ないんじゃないかしら?」
「流石に時間的なものもありますし、これから適当な道を通るつもりですからそろそろお暇しないと」
「そう言わずに…ね?」
「っ…」

ぞくりとさせられる流し目だった。金色の瞳がオレの気を引くように向けられている。大の男ならば誰もが思い上がってしまうほど色気を帯びた視線だった。

「いえ、流石にもう財布のほうが…」
「あら、それならサービスしちゃおうかしら。いつも来てくれるお礼に二杯目タダにしてあ・げ・る」
「…え、じゃあ頂きます」

貧乏性な自分が嫌になるが仕方ない。正直お盛んではあるものの色気より食い気な年頃でもあるのだから。

「うふふ。それじゃあどうぞ」

普段見るようなものとは違う小さいカップでコーヒーが来る。底にねばりつく黒いそれは濃厚な香りを放っていた。
見て、香ってくるそれはコーヒーのものではない。もっと強く、もっと濃いそれは…おそらく。

「エスプレッソですか?」
「ええ、さっきは甘いものだったから今度はこっちにしてあげる」
「ありがとうございます。それじゃあ頂きま」

カップに唇が触れる寸前伸びてきた手がオレの手に重なった。何かと思って顔をあげるとすぐ目の前に迫るヴェペラさんの顔に呼吸が止まる。

「一気に飲んじゃダメよ」

薄紅色の唇が優しく諭すように言葉を紡いだ。

「ちゃ〜んと…味わってね?」

手の甲を撫でる指先の温かさにぞくりとする。触れているのは指先なのに背筋をなぞられているように感じられた。

「あ、はい…っ」

どぎまぎするのを誤魔化しながらカップを傾けた。
口内に広がる濃厚な苦味が先ほどの甘さを完全に塗り替えていく。鼻に突きぬける奥行ある風味にほぅっと息が漏れた。
ひたすらに苦い。あまりにも苦い。あまりの苦さにぴりりとする。辛いのではなく痺れるような苦味だ。だがそれがいい。おかげで疲れを癒した体も目が覚めることだろう。
一口飲んで手元にあった砂糖を手に取る。苦いのもいいがやはり甘い方が好きだ。二、三杯入れようかと思い匙を取った――――次の瞬間。



ぞりっと、何かを引きずるあの音がした。



「っ!」

すぐさま飛び退き拳を構える。座っていた椅子が鈍い音を二人だけの店内に響かせた。

「あら、どうかしたユウタ君」

どこだと思って見渡すが仄暗い店内の中では聞こえるはずのない音だ。どこを見ればいいのかわからない。それに、本来ならば聞こえるはずだったドアの開閉音すらなかった。
なら窓かと思ってそちらを向くが閉じている。

「…?」

誰も入ってきていない。
なら、誰が音を立てた?
ここにいるのはオレとヴェペラさんの二人だけ。
なら、何を引きずった?
ヴェペラさんはずっと目の前のカウンターにいた。
なら……。

「どうかしたかしら?」
「あ、いえ。今変な音がしたと思ったんですけど…わっ!」

気のせいでした、そう言いかけて椅子を戻しながら振り返るとカウンターから上体を突き出すようにしてヴェペラさんが目の前にいた。
いきなり近づいた美人の顔にドギマギする。微笑みまで浮かべられては男として反応しないわけがない。照れ隠しを誤魔化そうと視線を逸らした――その時。

「……ぁ?」





床一面を人間の胴周りほどの太さのある何かが覆い尽くしていることに気付いた。





「っ!」

飛び退こうとして気づく。自分の立っている部分以外ほとんどが埋め尽くされていることに。下手に動けば踏みかねず、踏んだら何が起きるかわからない。
仄暗い店の雰囲気に上手く溶け込んだ何か。僅かな明かりを艶やかに反射するそれは…鱗だろうか。無限に伸びたそれはまるで蛇の体にも見える。
そう言えば映画にあったものとよく似ている。森の奥地で巨大に成長した蛇に次々と人が食われていく話。画面越しであったことが今現実として足元を埋め尽くしている。


そして何よりもおかしいのは―


「そんなにびっくりしなくてもいいじゃない、ユウタ君」


―この状況に一切驚かずにいるヴェペラさん。



ずりっ、と聞き慣れてしまった音に飛び退こうとした次の瞬間。オレの足は何かに絡みつかれた。
見ずともわかる。あの、蛇の体だ。

「っ」

もうこれが何だか関係ない。今は早急にこの場から離れるべきだ。警鐘を鳴らす本能に従い踏みつけてでも脱出しなければ。床すら踏み抜くつもりで足に力を込め飛び出した、次の瞬間。

「―――あ…っ?」

世界がぐらりと回転した。
上が下に、下が上に、床が上になり天井が下になり、頬に人肌よりも冷たいものが触れていた。水を弾ける滑らかさと若干の硬さをもつそれはなにか、瞳に映っていたもので近いものは―鱗だ。

「っ!」

ぞわりとした。
得体が知れない、それ以上に今この場で最も離れなければいけないものだからだ。
床に手をついて…。

「…ぁ」

再び蛇の体に倒れ込む。
床に手をつけない。いや、力が入らない。
なら、足を…。

「ぐっ…」

踏ん張ることも出来ずにその場で転んだだけだった。再び蛇の体に倒れ込んでしまう。
明らかに体がおかしくなっている。何とかあげた指先は痺れるように震え、足に力が入らない。身を捩る程度しかできそうなことはなかった。
原因は考えずともわかってしまう。
さっきのコーヒー…いや、エスプレッソ。濃厚な苦味に何か混じっていたのだろう。



そうでなければ―ヴェペラさんが妖艶に笑っている意味が分からない。



「いきなり転んで大丈夫?体怪我してないかしら?」

ゆっくりとバーカウンターから体を出すヴェペラさん。慌てた様子は一切なく、むしろこうなることをはじめから知っていたというような態度でこちらへと進んでくる。

そうして、露わになった姿は人間のものではなかった。

いつもカウンター越しに見ていた上半身。大きな胸に反して腹部は見事にくびれ、臀部は魅惑的な曲線を描いていた。隠しきれないしっとりとした大人の色気を醸し出すプロポーション。だが、その下にあるべき二本の脚はない。
あるのは長く伸びた蛇の体。動くたびに何度も聞いたあの引きずる音が聞こえてくる。あれは、ものを引きずるのではなく体が擦れる音だったのか。

「っ…!」

思わず後ずさりをする。体に力は入らないのに今はなんとしても距離を置きたかった。

「逃げないで」

だが、それよりもずっと早くヴェペラさんは体を寄せて覆いかぶさってくる。
いつも見ていた綺麗な顔。それが間近に迫るが恐ろしく感じてしまう。
時折香った香水とは違う甘い香り。それが濃くなりぞくりとする。
細い指先が顎を捕らえ、薄紅色の唇が吐息を漏らし、開かれた瞳が真っ直ぐに見つめている。

――まるで捕食者のように。

「怖がらないで」

それは優しい声だった。

「怖いことは何もしないから」

普段から聞いていた優しく語りかけてくる声。耳を傾けるだけで気持ちが安らぐ聞き慣れた声色だというのに今は恐怖心しか抱けない。

「驚かせちゃったかしら」

驚いたなんてものではない。
今までずっと美人のお姉さんだと思っていた女性が人外だった、なんて思わない。師匠のような人なら逆に納得してしまうがヴェペラさんなんて普通の人だとずっと思っていた。
いつも優しく笑いかけ。
いつも温かく話しかけて。
いつも魅力的な女性であって。
だからこそ、その驚きは半端ではなく。



―――だからこそ、その裏切りは甚だしい。



「それともちょっとお薬が効きすぎたのかしら」

悪戯が失敗した子供のような無邪気な笑みだった。見目麗しき彼女ならどんな表情を浮かべても美しいが今だけはそう思えない。
薬、とやらの効果を確かめるように顔を覗き込んでくると何を思ったのか突然唇を押し付けられた。

「んむっ!」
「ん〜♪」

一瞬柔らかく若干熱い感触を唇に残し、離される。激しさこそない、触れるだけの口づけだったがその驚きは人外だった事実に勝るとも劣らない。

「なんで、こんな……」

疑問を抱いたのはキスしたことではない。
人外であったことを隠し続けていたことでもない。
この体を痺れさせた薬のことでもない。
一番知りたいのは引きずる様な音を立て追い掛け回していたことだ。

「なら、何でだと思う?」

ヴェペラさんは答えない。ただにこやかな笑みを向けて唇を指先でなぞってくる。
蠱惑的な仕草に思わず思考が落ちかけた。だが唇間から見える歯が不気味にぎらついている。
床一面に広がっている胴ほどの太さのある蛇の体が揺れ動き、徐々にオレを締め上げんと纏わりついてきた。

「本当はね、もっと近づきたいってずっと思ってたの。ううん、それだけじゃない」

嫌というほど聞き慣れた擦りつける音を立てながら。

「もっと傍に居て欲しいって思ってた。でもユウタ君にとって私はカフェのお姉さん。ただそれだけ。時間と勉強に追われる君を独占することはできなかった。なら、代わりにコーヒーにしてもらうしかないじゃない」

伸びてきた指先が唇をなぞった。先ほどまで飲んでいたコーヒーを確かめるように。

「でもね、足りないの」

ぎらつく瞳に背筋が震えた。生物の本能を刺激する、食われるという恐怖に。

「たった一杯のコーヒーだけじゃ全然足りないの。私といてくれる時間はその一杯だけだもの。その間にユウタ君は別の人といられるでしょう?」

カップ一杯の僅かな逢瀬。
ロマンチックな短い時間。
それは純粋な好意であって。

「だから、独占したいの」

歪んだ愛情でもあった。

「好きよ、ユウタ君♪」

今度は鼻先に唇が触れ、彼女は体を離していく。その代わり触れていた手の平は学ランを剥ぎ取り体を這いまわった。
ワイシャツのボタンまるで焦らすように外していく。
指先が肌と擦れるようにボタンに触れながら。
息が吹きかかるように顔を寄せながら。
胸の感触がわかるように体を重ねながら。
一つ一つ丁寧にゆっくりと、それでいて情欲を刺激する甘い仕草を伴いながら。

「あっ。すごい体してるのね…素敵♪」

剥き出しになった胸板を指が撫でていく。骨の浮いた脇腹をなぞり首へと伸びれば渦を描く。感触を存分に味わうように掌が押し付けられ、息を吹きかけられた。
与えられる感覚に身を震わす。だが、それで終わらずヴェペラさんは胸に思い切り吸い付いた。

「ちゅっ♪」

あまりにも強い吸引に赤い跡が残った。それも一つだけではなく、二、三と吸い付き…たちまちそれで埋め尽くされる。吸い付いた唇の跡は痛みにも近い熱を帯びていた。

「ん、ちゅ…ちゅ♪」

胸から脇へ、腹部へ、そうしてヴェペラさんはキスする位置を徐々に下げていく。当然、その印をオレの肌に残しながら。

「ん、脱がしちゃうわね」

ベルトをとられ、下着ごと一気に引きずりおろされる。解放された下半身から勢いよく飛び出したそれは今までの口づけのせいですっかり大きく張りつめていた。

「あぁ、すごい…♪こぉんなにやらしい匂いまでさせて…ふふ♪」

晒されたそれを彼女はまじまじと見つめている。昂ぶる興奮を隠すまでもなくその瞳は潤んでいた。まるで舐めるかのようにねっとりとした視線を向け続けたヴェペラさんはおずおずと顔を寄せるとそのまま口づけを落としてきた。
柔らかな唇が吸い付き、音を立てて離れる。舌を突き出しては見せつけるように舐め上げてねっとりした唾液が伝い落ちた。

「ぁっ…!」
「んっ…これがいいのかしら?」

僅かな反応でも彼女は見逃さない。優しく笑みを浮かべると再び舐め上げ、今度は先端に口づけを落とした。

「っ…!」
「ん♪もっと、私の事を好きにさせてあげるからね」

何度も何度も執拗にリップ音を響かせて吸い付いてくる。その度その度下腹部へと甘い痺れが広がって体が否応なく震えあがった。

「うふっ赤くなっちゃって可愛いんだから」
「…っ」

動かない腕ではまともな抵抗なんてできやしない。
できることと言えば精々顔を背けることだけ。最も、したところで何を拒めるわけでもない。

「ほら、ちゃんとこっちを見て」

伸びてきた手が両頬に添えられ背けた顔を無理やり戻す。視界に映るヴェペラさんの顔は優しそうでいて、どこか捕食者のような危ない雰囲気を漂わせていた。

「恥ずかしがらないで」
「…」
「んもう。それじゃあこうしてあげるわ…んんっ♪」
「それ、ぁっ…!」

獲物に絡みつく蛇のように、今オレに巻きつく体のように、ヴェペラさんの舌が纏わりついてくる。
ねっとりとした唾液を刷り込むように蠢いて絞める。いやらしい音を立てて吸いたてる刺激に体が震え悶えるほどの快感が伴った。腰から体に広がる快感にただ背中を反らして荒い呼吸を繰り返した。
その様子を見たヴェペラさんは実に嬉しそうに微笑むと両腕を腰に回し、先ほど以上に強く吸い付いてきた。

「んじゅる……んむぅっ♪ちゅ、んんんっ♪」
「っ!!…ぁあっ……くっぁ…っ!!」

薄紅色の艶やかな唇がなぞりあげ、頬の裏側が擦りあげた。舌は先端を執拗にせめ、顔を前後させては飲み込み吐き出しを繰り返す。唇の間から漏れるいやらしい音が快楽で押し上げられた意識をさらに昂ぶらせていく。

「んぷ、出そう?いいわよ、私の口に出しちゃいなさい♪」

押し退けようと突き出した手はヴェペラさんの頭を掴んでいたが力なんて一切込められていなかった。薬のせいか、快楽のためか、それを理解するよりも下腹部で滾る快楽が頭の中を塗り替え、絶頂へと押し上げた。

「っ…!」
「んぶっ♪」

ヴェペラさんの口内へ向けて流れ込む。脈打ち、吐き出し、喉の奥へと注いでいく。それを待っていたと言わんばかりに彼女は吸いつき、脈動するオレのものに舌を巻きつけていた。
体を離そうにも腰にまわされた腕が邪魔で離れられない。

「もっろぉ…♪」
「くぁ…っ!」

頭を前後させ唇が窄められる。柔らかくもきつく、そしてざらついた舌が裏筋を執拗なまでに舐めてくる。それは射精中の敏感な体に刃物の如く突き刺さってきた。

「ん…ん……」

一滴残らず絞りとるとヴェペラさんはようやく唇を離す。たっぷりと塗りつけられた唾液が糸を引き、ぷつりと切れた。
にこりと笑うヴェペラさんの白い喉が上下する。薄紅色の唇が開き、見せつけるように出された舌には何も残っていなかった。

「んふ…♪ごちそうさま。沢山出しちゃって気持ちよかったのね、ユウタ君」
「…」

絶頂直後で荒い呼吸をするオレは何も変えずことができなかった。それでもいいのかヴェペラさん嬉しそうに笑みを見せてオレの下腹部を撫でている。そこにあるのは未だに硬さを保つオレのもの。
たった一度で収まる程高校男児の性欲は甘くない。相手が美女ならなおのことだ。
それが例え人外であったとしても。

「うふふ♪まだこんなに固いなんて…そんなに私ともっとしたいのね♪」
「ち、が……っ」
「う・そ・つ・き」

その言葉に合わせて四回、唇に指を押し付けられる。まるで恋人のじゃれ合いのような、甘酸っぱい仕草だがその行為は一方的。男ならば嬉しくはあっても、決して今は喜べる状況ではない。

「ね、見て……」

足ではなく蛇の体が伸びるスカートをたくし上げるとそこにあるのは人の肌と蛇の体の境の部分が目に入る。何よりも目を引いたのはその接合部のとある場所。
薄暗い明かりでいやらしく照り返す濡れそぼったそれは男にはない女だけの部分。

「ユウタ君のを舐めてるだけでこんなに濡れてきちゃったの」

人外ゆえに若干異なるがふっくらとしたその割れ目はまるで人間のそれと同じ。涎を足らずかのように粘液を漏らし鱗に滴り、筆舌しがたい匂いを発する。
雄を求める雌の匂い。ただ嗅いでいるだけでも頭がくらくらし、下腹部の欲望に火をつけた。

「入れていいわよね?こんなに固くなってるんだもの。ユウタ君も私の中に入りたいんでしょ?」

逃げ出すことはできない。視線を背けることもできない。
心のどこかで期待しているからだろうか。人外であっても美女だからだろうか。
それとも、雄の本能が雌を求めてやまないからだろうか。

「入れるわね……♪」

オレの返答を聞くことなくヴェペラさんは体を寄せ、両手の指で割り開いたそこを押し付けてきた。先端部に感じる熱と柔らかさ。それから愛液が伝い落ちる感覚だけでも背筋が震える。
そして、一気に力を込めて腰を押し付けてきた。

「あ、っん…っ♪」
「っ!…」

柔らかな肉を分け入ってしとどに濡れた穴へと飲み込まれていく。ぴっちり閉じた熱い肉を割り開く感覚は快楽となって流れ込んできた。

「あぁあああ…♪」

奥へ進むにつれて周りは蛇の如く絡みつき、締め上げてくる。一切の隙間なく柔肉と擦れる感触が甘い痺れとなって広がった。初めて感じる女の体。人外であっても交わりであることに変わりなく、肉欲を確かに満たしていた。

「あ…ぁ♪ふふ、はいっちゃったわよ?」

腰と腰がぶつかり全てが飲み込まれるとヴェペラさんは口角を吊り上げた。熱に蕩けた瞳で見下ろしその頬は朱に染まっている。それは普段見せてくれた優しげなものではない、快楽に浸った女の顔だった。

「ねぇ…ユウタ君はどうかしら?」
「っぁ……っ」
「ふふ、蕩けた顔しちゃって…気持ちいいのね?」

添えられた指が唇を撫でた、と思えば唇を重ねていた。割り開き唾液を絡ませた舌が差し込まれる。おずおずと遠慮するような素振りは一切ない、むしろがっつくように舌は口内を暴れ回った。頬を、歯の表面を、舌を、自身の唾液を塗り付けてはオレの唾液を啜り上げるように動く。
それは初めのよりもずっと強く積極的な口づけだった。

「ん、ふ…ちゅ♪じゅるっんん…む、んっ♪」

体を交えたことで興奮が増したのか激しい口づけが続けられる。
頭の中まで蕩けるような熱烈な吸い上げに染み込んでくる甘い唾液。遠慮を知らずに絡みつく舌が舌と擦れる度に淫靡な音が口内に響く。ようやく離れた唇との間には唾液の橋がかかっていた。

「ぷぁ…♪ユウタ君、好きよ♪」

とどめ言わんばかりに囁かれた言葉が抵抗をそぎ落とす。体のではなく、心の抵抗を。

「だから、もっと気持ちよくしてあげるわ♪」

ぞっとするほど妖艶にヴェペラさんは笑うとオレの胸に手を置き、腰を引いた。
きつく絡みついていた肉壁が、ひだが表面を擦りあげていく。結合部から愛液を漏らしてゆっくりと吐き出されていく。

「あっ、ぅあん♪」

食らった獲物を逃がさんと言わんばかりに締め上げてくる柔肉の感触に呼吸が止まる。壮絶とはいいがたい快楽だが女の味を知らないオレにとっては強烈な快感だった。結合部からいやらしい音が響き、時折きつく締め上げる。それは先ほど舌と口での行為よりもずっと気持ちがいい。

「は、ぁ♪ぁっ♪あ…あぁっ♪ん、ふぁあ♪」

徐々に体の距離が狭まっていく。視線を逸らして見れば下にあるヴェペラさんの体が徐々に締まってきていた。獲物を締め上げ飲み込む蛇のように。

「ん、ふふ♪」

感極まった声を上げてよがり狂うヴェペラさん。貪るように腰を振り立てる姿は人外なんて関係ない一人の女の姿だった。
ひねり、回し、上下に揺らす複雑な動きが叩き込む快楽は生半可なものではない。一度精を吐き出してできた余裕すら容易く押し潰すほど強烈なものだった。

「……っ!ぁ、ぅあっ!」

逃げるように体を捩るが薬のせいで力がまともに入らない。その上拘束しているのは胴回りほど太い体だ。隙間を埋め絡みつく蛇の動きは容易く抑え込んでくる。体の線に合わせて締め上げる肉の縄から抜け出すことは不可能だ。

「気持ち、いい?いいんでしょっ♪私の中で、跳ねてるん…だものっぉお♪あ、ぁあっ♪もっと!もっと、私をぉ…感じてっ♪」

交わり合った部分から愛液が滴り淫靡な音を響かせている。快楽に蕩けだらしなく開いた口から唾液が一筋流れ落ちた。
普段相談に乗ってくれる優しいお姉さんの姿はそこにはない。今のヴェペラさんは本能のまま雄を求める雌の姿だった。

「好きっ♪好きよぉ♪ユウタ君が、大好きっ♪」

絡みついていた蛇の体がさらにきつく締め上げてくる。ヴェペラさん自身も巻き込んでいるせいで徐々に腰を引くための空間が消えていく。
だからと言って刺激が収まるわけではない。腰をいくら引いても半分ほどしか離せず引き抜くことはできそうにない。

「ぁっ!?抜けない…っ!」
「抜いてあげないん、だからっ♪」

密着していく腰と腰。ひやりとした体温が腕に、背に、足に伝わりぞくりとする。異形な部分ですら柔らかく気持ちよさを与えてくる。そして、わずかな逃げ場すらも潰されてただ彼女の動きに翻弄される。何度も腰を打ち付けて、敏感である先端に何かが吸い付いた。

「あっああ…♪わかる?今、一番ん、奥に…子宮にあたってる、ぅ♪」

食い込むたびに膣内が震えて締め上げてくる。それだけヴェペラさんにとっても気持ちいいことなんだろう。
腰の動きは徐々に収まってくるが子宮口は変わらず吸い付き締め上げてくる。動きのない分肉ひだの一つ一つが、子宮口の動きが、膣内の律動が細かに感じられる。その全ての感覚が快楽となり、オレの意識を高みへと押し上げていく。

「今度は、んっ♪もっと、ゆっくりしてあげる…♪」

甘い囁きと共にヴェペラさんはゆっくりと腰を離す。先ほどよりもずっと短いストローク。だが離れるのを厭う肉壁が絡みつく快楽は先ほどよりもずっと強い。歯を食いしばろうにも力は入らず耐えきれない快楽が頭の奥まで突き刺さった。

「んんっ♪」

ヴェペラさんにとってもかなりの快楽になるらしく艶やかな声と共に体を震わせていた。だが止まることはなく全てを飲み込めば先端が突き刺さる。周りとは違う柔らかさを持った子宮口は喜んで吸い付き、膣内全てが抱きしめてくる。背筋を悪寒のように駆け上がる感触にオレはただ体を震わせることしかできなかった。

しかし、これは一度の往復だ。

先ほどよりも動きは小さいがその分膣内が執拗に絡みついてくる。激しさを引き抜いた分ねちっこい膣内の感触に脳髄が焼き切れそうだ。
魂ごと引き抜かれそうな吸い付きを伴い腰を引くが、押し込めば熱烈な歓迎と言わんばかりに締め上げ絡みついてくる。

「あっあっ♪すごい、いぃっ♪ねっ?い、ぃい?ユウタ君も、ぉ♪気持ちいいっ?」

気持ちよくないわけがない。このまま快楽に流されて本能のままに腰を振り立てたい。痺れた体では叶わないが、せめて彼女の中に、求められるがままにヴェペラさんの中に吐き出したい。
だが抵抗があった。
人外であることよりも彼女のやり方自体に。無理やり迫り一方的に交わっているこの現状に。
真っ直ぐ求められることに悪い気はしない。だが、過程に納得することができないんだ。

「…嫌?」
「っ…」

オレの迷いを悟ったのかヴェペラさんが顔を覗きこませてきた。そのまま信じられないほど強い力で抑え付けられる。
目の前にくる金色の瞳はただまっすぐにオレの瞳を見つめていた。行為こそ歪んではいたがそこに宿した感情は―本物だった。

「好きだから、したいの…」
「っ…」

込められた力とは反対の優しく甘い囁きだった。
密着した互いの間で溶け合う熱は逃げ場をなくし、それが二人の興奮を高めていく。胸が擦れ、汗が交わり、熱を溶かして意識は高みへと押し上げられていた。
もう逃げるどころか止めることなどできそうになかった。
否定しきれない悦びと。
肯定できない感情と。
拒み切れない快楽と。
受け止められない好意にただ翻弄されていた。
下腹部で滾っていた欲望が出口を求めてせり上がってきた。理性で押し込めようともこればかりは抑え込めない。出来ることはせいぜい体を離すことだが力の入らぬ体ではできるはずがない。

「ヴェペ、ラさんっ…どいて、どいてっ!!」
「うん♪いいわよっ♪」

もがいても蛇の体は解けず腰を引くことも出来ない。むしろ確実に奥まで注がせるためにとさらにきつく締め上げられる。膨れ上がったものは狭い雌の穴を埋めつくし弾ける瞬間を今か今かと待ち望んでいる。

「ぜん、ぶ…全部っ中にぃいっ♪」

体だけではなく両腕も回され体が密着する。気づけばオレからも体を抱きしめ、どちらの体なのかわからないほどまでに絡み合っていた。

「待っ…ぁ…っ!」
「あぁああああああああっ♪」

次の瞬間頭の中が爆発したと思えるほどに真白く染まる。何も考えられないほどの絶頂だった。何度も脈打っては遮るもののない女体の中へと注ぎ込んでいく。その勢いは徐々に衰えやがて絶頂から引きずりおろされる、はずだった。
脈動するのに合わせて体を震わせ、膣内では射精を促すように蠕動していた。貪欲に搾り取らんとするように絡みついて精液を吐き出させ、嬉々として子宮に迎え入れていた。
押し上げられた意識は次から次へと叩き込まれる快楽により下りることを許されない。絶頂から逃げられない体はひたすらヴェペラさんへ精液を注ぎ込んだ。

「あ、はぁあ……いっぱい出てるぅ♪」

射精による感覚で彼女も絶頂したのかびくびくと体を痙攣させていた。いつも見ていた綺麗な顔はだらしなくもいやらしく蕩け、それでも二つの瞳はオレの顔を見つめている。
その顔を見てわかるのは彼女はとても喜んでいるということ。
だが、オレ自身はわからない。
悔いるべきなのか、悦ぶべきなのか。
嫌悪すべきことか、応じるべきことか。
一度したこととはいえ決意が固まるわけではない。ストーカーじみた行動と強姦まがいな性行為がどうしたところで受け止めきれない。
美人には何をされても嬉しいもの、だとしても常識を外した行為には流石に抵抗を覚えずにはいられなかった。

「……ねぇ、どうだった?気持ちよかった?」
「は、ぃ…」

それでも快楽は否定できない。初めて感じた女の味は経験したことのない快感だった。既に絶頂から降りてきたはずなのに意識にはまだはっきりしない。削がれた理性と満ちた本能が混ざり合っているように。

「それじゃあ…私の事、好きになってくれた?」
「っ…!」
「こんなにいっぱい出してくれたんだものね♪」
「……そんなこと」

いくら気持ちよくても、頷くことはできなかった。

「……いじわる。それとも嘘吐きなのかしら?この子は素直なのにね」
「っぁ…」

僅かに腰を動かされ絶頂後の敏感な体が震える。まるで神経が露出したように膣内の絡みつく感触が突き刺さった。

「それじゃあ………正直になるまで愛してあ・げ・る♪」
















辺り一面を埋め尽くす蛇の体の上にオレは倒れていた。
昨夜から続いた情交も窓から差し込む朝日に気付き中断する。日に照らされた胸にはいくつもの赤い跡が残っていた。所有者は自分だと知らしめるそれは一つ二つなんてものではない。見えない首や腕と体のいたるところにつけられている。

「…っ」
「ぁっ、また…♪」

昨夜から何度目かの射精。本当ならもう何も出ないはずなのにオレはまた彼女の中に精を放った。

「あぁあっ♪ん、もぅ……いっぱい出されちゃったわ♪」

彼女の子宮は既に満たされ溢れだした精液が結合部から零れだす。その一滴すら失うのが惜しいのかヴェペラさんはさらに腰を押し付けてきた。
互いに混ざり合った体液が摩擦を下げより鮮明に膣内の感触を伝えてくる。これだけ出したというのに彼女の膣内は決して満足することなく、まだまだ求めるように締め上げてきた。

「ぁ…っ……」

もはや悶えるだけの体力すらない。薬は切れただろうが疲れ切った体では何もする気が起きない。立ち上がることすら億劫だ。いくら性欲盛んな高校男児と言え一晩中絞られては堪ったもんじゃない。

「うふふ。ねぇ、ユウタ君……私のこと、好きになってくれたかしら?」
「…………ぁ」
「…どう?」

まるで誘導尋問のようにオレの口から肯定の言葉を引きずり出そうとヴェペラさんは体を揺らす。
望む答えを得るために魅惑的な体を使って筆舌しがたい快楽を操ってオレの理性を削り取っていく。昨夜からそうやってずっと、休む暇すら与えずに。
快楽に蕩けた脳髄に女体の味に沈められた精神。力のない四肢にただ悶えるしかない体。一晩という長くもわずかな時間は抵抗をそぎ落とすには十分すぎた。

「…は…い」

気付けば唇から肯定の言葉が零れた。とても小さく囁きですらなかったのにヴェペラさんには届いたらしくその顔に笑みを浮かべた。

「素直になってくれたのね…嬉しい♪」

支えがなくては立てないぐらいに憔悴した体がゆっくりと起き上がる。見れば背を預けていた蛇の体が抱き寄せていた。
お互いが向かい合う対面座位のような、昨日一番多く絞られた体勢だ。

「それじゃあもっと私の事を好きにさせてあげる」
「………ぇ?」

とても優しい笑みだった。しかし、それは同時に、とても残酷でもあった。

「安心して。元気になるようにいっぱい『あっち』から持ってきたから」

そう言って笑うヴェペラさんの手にあったのは瓶だった。ただし、中に入っているのは粘っこい琥珀色の液体だった。
香ってくるのは甘い匂い。まるで蜂蜜のようだがラベルが貼られていない。売り物、ではないのだろうか。

「もっともっと、好きって言わせてあげる。そうすればもっといっぱい気持ちよくなれるから…ね♪」

瓶を傾け、琥珀色の液体を自身の口へと注いでいく。かと思えば空になったそれを投げ捨て、オレの唇へと重ね合わせてきた。
僅かに開いた隙間からねっとりと唾液に塗れたそれが流れ込んでくる。粘りつくほど甘く、蕩けるような熱と柔らかさを伴って。口内を暴れ、塗りたくり喉の奥へと注がれていく。

「ん……♪好きよ、ユウタ君♪」
「ヴェペラ、さん……っ」

甘い言葉と感情は胸の内にある苦い常識を塗りつぶしていくのだった。



                       ―HAPPY END―
15/06/22 00:27更新 / ノワール・B・シュヴァルツ

■作者メッセージ
ということで現代編ラミアのお話でした
ふとした現代で、幼いころから彼に密な関わりのないちょっとした日常的な関わりをもったヴェペラさん
今回はアイスコーヒーを買いに行ってる際にふと思いついたネタでした
好きという気持ちは嬉しくともその表現方法によっては受け入れがたくもなってしまいますよね
それを力任せに押されたら折れてしまう彼でした
それと今回お姉さん現代編なのに出番が…

ここまで読んでくださってありがとうございます!!
それでは次回もよろしくお願いします!!

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