意味と貴方とオレと努力
「すぅ……はぁ………」
オアシス内にただ一人、オレこと黒崎ユウタは今晩も鍛錬に励んでいた。
静かな呼吸とゆったりとした動き。些細な動作であっても使う体力はかなりのもの。息が上がらぬように、それでも決して気を抜かぬように。頭から、体から、腕へ、肘へ、指先へ。足へ、膝へ、つま先へと意識を行き渡らせていく。
もう何度も繰り返した動き。それを何度も何度も繰り返し、何度も何度も注ぎ済ませていく。地道で面白みに欠ける単純な行為であってもだ。
「………………はぁ〜」
最後に大きく息を吐き出し、今日の分を終える。額に浮かんだ汗を拭って上着を畳んだ場所にあるタオルを掴んだ。
「…うぉ」
だが気づけばかなりの量の汗をかいている。これなら一度水浴びでもした方がいいだろう。そう思ってオアシス内の湖へと足を進めた。
誰もいない静かな夜は草を踏む音だけが響き渡る。静かな湖面に波はなく、夜空を鏡のように映しだしていた。
そこへ屈みこみ、両手で水を掬い上げる。そのまま顔に打ち付けて、それを何度も繰り返す。髪の毛から滴り落ちた水を拭おうとしたその時。
「ばぁ」
「わちゃああああっ!?」
突然顔を寄せていた水面から飛び出てきた顔に思い切り驚いて後方へと飛んだ。二度三度草の上に体を打ち付けながら体勢を立て直し、すぐさま迎え撃とうと拳を握る。そして改めて見やると視線の際にいたのはくすくすと笑う一人の女性だった。
「うふふ♪ごめんなさい。そんなに驚くとは思わなくて」
「クヴェレ……ああ、もう。突然出てくるのやめてくれない!?」
笑っていたのは冷える砂漠の夜には相応しくないほど肌の露出の多い一人の女性。アヌビスである先輩たちと同じ褐色肌。たわわに実った二つの膨らみや腰の括れ、長く伸びた足や太腿が眩しく、それを包むのは黄金の装飾、ハートの鎖に水着ともいえないあまりにも布面積の少なすぎる服。湖面の如く揺蕩う水色の長髪に、青い瞳。そして、薄く透けた白色の液体を纏う腕に、人間とはことなる耳の形。
彼女はアプサラス。性愛を担う踊り子で、水の精霊だ。
「いったい何?シャントゥールは今日はいないけど?」
「別にいつも彼女が目当てというわけではありませんよ」
ガンダルヴァのシャントゥール。それは音楽をこよなく愛し、楽器片手に空を飛びまわる魔物の一人。踊り子であるクヴェレとは仲が良く、時折二人して楽しそうに踊っているという。
だがそうではないらしい。クヴェレはオレの方へと歩いてくると青色の瞳で顔を覗き込んできた。
「気持ちよさそうに舞っていたから私も共に踊ろうかと思いまして」
「…武術ね、武術。舞じゃないからね」
「あれだけ優雅に舞っていれば誰も武術とは思いませんよ」
「シャントゥールも先輩にもよく言われるよ」
「それだけ素敵だということです。素直に褒め言葉として受け取らないのですか?」
「複雑なんだよ。元々は人を殴り倒すための技術だし」
置いてあったタオルを手にし、濡れた顔を拭いながら言う。
「クヴェレがやってるのとは全く違うんだよ。クヴェレは人に魅せるために踊ってる。でもオレのやってることはあくまで武術。戦うためにやってるんだから」
いくら美しかろうが褒められようが、結局のところ相手を殴りつけるための力であることに変わりない。人を傷付けるための技術と人に魅せる技術とでは全く違う。確かにオレも師匠が手本を見せた時は同じことを思ったがそれでも突き詰めればただの暴力である。
「そうなんですか?」
「そうなの」
先ほどの鍛錬で多少疲れが足に来ている。休もうと近場の岩に座り込むとまるで当然とでも言わんばかりにクヴェレが隣に来て座った。
「…」
「ユウタ?どうかしましたか?」
「いや…」
正直隣はやばい。
布地の少ない服を着て、女性としてこれ以上ないほどの魅力を振り撒いて、そんな恰好で傍に寄られてはたまったもんじゃない。何度も移りそうになる視線を制し、タオルで目を覆い隠す。これでようやく落ち着けることだろう。
冷たい夜風がオアシスを吹き抜け、草を揺らす音を響かせる。とても静かな月の下でクヴェレはそっとオレの名を呼んだ。
「ユウタ、もう少しこっちを見てもいいのではありませんか?」
「いや…その」
「ユウタの舞う姿。とても素敵でした。だから、今度は私の踊る姿をぜひとも見てもらいたいのですが…♪」
「…遠慮しときます」
オレの言葉にくすくすと笑うクヴェレ。その恰好で踊るなんて刺激が強すぎて堪ったもんじゃない。彼女もきっとわかってやっているのだからたちが悪い。
そのまま笑っていたクヴェレだが徐々に声は小さくなり、溜息を吐いた。いつも明るく、穏やかな性格のクヴェレには珍しい少し疲れたような様子だ。
「…クヴェレ?どうかした?」
「いえ、ユウタは……あれだけ綺麗に舞えるのに人前では舞わないんですね」
「そりゃ鍛錬って人に見てもらうためのもんじゃないしね」
「それでも毎晩同じことをしてて飽きないんですか?」
「いや、別に。武術ってそう言うもんだしさ」
元々鍛錬というのはそう言うものだ。地道に、愚直に、ただひたすらに。そう言う行為を何度も重ねてようやく成り立つものである。才能ある者ならば練習など必要もないだろうがあいにくオレはやらなければできないタイプ。努力をしなければ何もできない不器用者だ。
「自分の癖や無駄な動き、力の伝達を改めるために何度も地味な作業を繰り返す。そうして積み重ねた末に身についた結果が実力になる。それが武術だからねぇ」
気絶した回数は十を超え、膝をついた数は百を超え、振り抜いた蹴りの数は千を超え、拳を振るった数は万を超え、そうして成し得たものが今の実力だ。
「よく、頑張れますね」
元気のない声色にタオルをとって顔を見た。あまり優れた顔色ではないクヴェレを見てああ、と思う。
―――クヴェレはオレと同じことを思っている。
アプサラスであり、踊り子であるクヴェレ。
人間であって、空手の鍛錬を積むオレ。
種族、性別、技術、何もかもが正反対ではあるもののその胸の中に抱いた感情はきっと同じもの。
―――自分のしていることの意味が分からなくなっている。
というのも砂漠のど真ん中の遺跡に来る人なんていない。ひと月に一人居ればいい方だ。さらに遺跡内には多くの迎撃トラップが仕掛けられている。どれも初見殺しな上に、砂漠を越えて疲労した人間の集中力ではまず気づけない。オレのやることと言えばトラップが正常に稼働することを確認し、相手を煽って嵌めさせる程度。肉弾戦に持ち込んだところで疲労困憊な相手に後れを取ることもないし、最悪の場合でも先輩たちだけでも何とかできてしまう。
つまるところ、ここではオレの鍛錬もあまり意味をなしていないのだ。
そして、こんな砂漠のど真ん中で、遺跡に訪れる人がいないのならばオアシスに来る人もまたいない。ならば、当然クヴェレの踊りを見てくれる人もいない。
ついでに言えば、オレもクヴェレの踊る姿は見たことはなかった。
意味のない努力。
結果の見えない頑張り。
そんなものを繰り返せば誰だって挫折するし、心が折れるのも仕方ない。いくら技術を磨こうと、いくら努力を重ねようと成果が出なければ何の価値も見いだせないのだから。
「疲れちゃった?」
「…ええ、正直のところ練習しても見てくれる人がいませんからね。ユウタが見てくれればいいんですが」
「か、考えさせて…」
意味深な目でこちらを見つめるクヴェレから逃げるように視線を逸らすと今度は呆れたようにため息をついた。すごく申し訳ない。
「でもクヴェレってそこまで練習しなくても十分なんじゃないの?綺麗だし、アプサラスなんだし」
「だからと言って私も練習をやめることなどできないんですけどね」
クヴェレがふと上を見上げた。真上には月が昇っているが彼女が見ているのは違うだろう。
「魔物だから、アプサラスだから…そんな理由だけで怠けることなんてできませんよ」
それはとても真っ直ぐで、努力を知っている言葉だった。迷ってはいるが驕りのない、必死に頑張るアプサラスの言葉だった。
「…そっか」
魔物というのはどんな魔物であっても人以上に優れた存在だ。
例えば、アヌビスである先輩。頭の回転は速く、マミー達を統率する能力や遺跡の管理能力は他の追随を許さない。
例えば、ガンダルヴァであるシャントゥール。楽器を使って奏でられる音楽は素晴らしく、聞くもの皆の心を虜にする旋律は戦争すら止めるという。
例えば、サンドウォームのヴェルメ。既に人間とは比べ物にならない体をしているがその体力は無尽蔵、単純思考でなければ逃げ切ることなど絶対に不可能だろう。
皆が皆、人間よりもずっと優れた技術を持ち、人間には敵わない体を持っている。
だからと言ってそれで驕ればそこまでの事。
先輩が毎日頭を悩ませながらも必死に頑張っていることを知っている。
シャントゥールが毎日楽器を弾き、細かな音まで耳を傾け音楽を奏でているのを知っている。
ヴェルメがオレを見つけた時、止まることなく必死に追いかけてくることを知っている。
皆が皆事を成す為に努力している。それはクヴェレも同じこと。
「でもさ、努力して、踊りが上達しても見てくれる人がいないなんて悲観するもんじゃないよ。結果が出なくてもそれは確かな経験なんだし、何よりもどれだけ頑張ってるかを見てくれる人はきっといるよ」
「そう、でしょうか?」
「そうだよ。オレも実を言うと見てたし」
「……え?」
「見えるんだよ、窓辺からね」
遺跡の窓辺から遠目で見ていたクヴェレの姿。あまりにも遠くてわかりにくかったがそれでも灼熱の太陽の下で踊る練習をしていることはわかっていた。炎天下の太陽の下、きっと汗を滲ませながら努力していたことだろう。その頑張りをオレは知っていた。
「意味ないなんて言わせない。クヴェレの努力はオレがよく知ってる。だから胸を張りなよ。その頑張りはきっと身を結ぶだろうからさ」
にっこり微笑み言ってやる。心の底から思った言葉を。
するとクヴェレは疲れたような表情から笑みを浮かべて言った。
「…ありがとう、ユウタ」
「どういたしまして」
美女に感謝されるというのは何ともむず痒い。誤魔化すように頬を掻いていると突然その手がクヴェレに握られた。
「なら、私が頑張ってきた努力の結果を見てくれませんか」
「…オレでいいの?」
「ユウタにだけ、見て欲しいんです」
真っ直ぐ見つめてくる薄青色の目。まるで水面の如く透き通った瞳には確かな想いが宿っていた。こんな目で見つめられて拒否することなどできるはずもない。それに、何よりもクヴェレの努力の結晶だ、ここまでされてみないというのは失礼だろう。
「それじゃあ…見せて」
「はい♪」
オレの言葉に頷くとクヴェレは岩から立ち上がって離れていく。月明かりの下、湖の傍、とても静かで幻想的な舞台の上で彼女は舞い始めた。
「…」
実を言うと今までクヴェレの踊りを見たことはない。というのもあの露出の多い恰好で右に左に揺れ動く姿はあまりにも刺激が強すぎるからだ。普段からも直視できない姿だというのに動きまで加わっては堪ったものではない。
だが、そんな邪な感情とは別にただ純粋に感動を抱いている。
滑らかに動く腕、ゆらゆらと揺れる腰。ゆったりと移っていく足。振り乱れる水色の髪の毛にハートの装飾。月下のオアシスでただ一人踊る姿はとても美しく、切り取ればきっと芸術的な絵となったことだろう。踊りの事など素人なオレからしても見惚れてしまうほどにクヴェレの姿は輝いていた。
だが、あれほどの魅力的な体で舞われてはやはり男として視線がいってしまう。
体が動くたびに揺れる胸。くるりと回るたびに見せつけられる形のいい臀部。すらりと伸びた太腿が眩しく、汗をかいたからか徐々に布が透けてきている。乳白色を通して見える桜色の突起や食い込んだ股間に視線が移ってしまう。いくら美しかろうが、いや、美しいからこそ際立つ女体の美しさに囚われてしまいそうだ。
「〜♪」
独特のリズムを口ずさみながらクヴェレは徐々にこちらへ近づいてくる。自分の踊る姿をもっと見せつけたいのかゆっくりと確実に。時折焦らすように足を止めてはその場でオレへと視線を向ける。
ぞっとするほど妖艶な視線を。
「…っ」
見るべきじゃなかったかな。なんて後悔しながらも真っ直ぐ見つめる。言われた以上目を逸らすことはできない。だが、逸らさなければどうにかなってしまいそうだった。
気付けばクヴェレとの距離は大分詰められ、すぐ目の前で踊っていた。揺れる胸を見せつけて、腰の括れを強調し、露出の多い肌を晒して自分の体をこれでもかというほどアピールする。
極めつけはその表情。興奮か、恥によるものか真っ赤に染まった頬に真剣に見つめてくる眼差し。瞳は潤み、向けられた視線にはただの知り合いに向けるにはあまりにも熱が込められすぎていた。
これ以上ないほど近づいたというのにさらに体を寄せてくる。もう触れ合ってもおかしくない位置でクヴェレはオレを見下ろした。
「…っ」
まるで誘うように、それでいて懇願するように。だけどもどこか獰猛で、そして何より情熱的に。
クヴェレの両腕がオレの首へと回された。そのままゆっくりと顔が近づいてくる。このまま行けば唇が重なってしまうことだろう。
オレはただクヴェレの踊りを見ていただけ。だからこういうのはまた違う。流石にそこまでは進みすぎだからだめだと言おうにも口は動かなかった。
「クヴェレ」
「ん…♪」
ようやく紡げたのは彼女の名前。とても切なく、熱く呼ぶ声だった。それを聞いたクヴェレは応じるように笑みを浮かべるとどちらともなく顔を寄せ、その唇を重ねあった。
押し付けられる感触はとても柔らかで思わず瞼が閉じていく。隙間から感じたのはミルクのような甘い味。もっと欲しくなってさらに深く口づけた。
「ん…ちゅ♪んむぅ♪」
ねっとりと絡みつく舌と舌。互いの事を確認する様に擦れあい、互いの唾液で塗れていく。まるでミルクのように濃密で甘い味を感じながら伝ってきた唾液を飲み込んだ。
もっと欲しい。ただ純粋な欲望のままに舌を動かし啜り上げる。すると気持ちいいのかくぐもった嬌声が漏れ、クヴェレの体が震えた。
いつの間にかまわしていた両腕でクヴェレの体を抱きしめる。柔らかな胸が胸板で形を変え、口づけが激しさを増していく。呼吸なんて忘れるほど行為に没頭し、ただひたすらに互いの口を貪りあった。
「んは…ユウタ…♪」
唇を離すとクヴェレは布地の少ない服を脱ぎ捨てオレの上に跨った。全てを曝け出し、見せつけられる褐色の体。月明かりで照らされ、陰影を灯した肌はとても魅力的に映った。
先ほどまで舞っていたからかむせ返るような汗の匂いが鼻孔をくすぐる。だが決して嫌ではない。どこか甘く、ミルクのような濃厚さのある香りに頭の奥が蕩けていく。
「もうユウタも我慢できないんですよね?」
視線の先には既に怒張しきったオレの物。気づく暇もなくズボンを押し上げていたそれを愛おしそうに見つめたクヴェレはそっと脱がせにかかった。されるがままにはぎ取られ、露わになると彼女の笑みはより一層深くなる。
「うふ♪私を見てこんなにしてくれるなんて嬉しいです♪ですが、もっと私の事を見てください…♪」
一糸まとわぬ姿のクヴェレは触らずともわかる程湿り気を帯びたそこに手を這わすと見せつけるように指で開く。穢れのない綺麗な色をした肉の色。奥からは絶え間なく愛液が漏れだし、オレの肌へと滴り落ちていく。
「…っ」
クヴェレもまた興奮している。その事実にぞくりとする。涎のように滴る愛液に今か今かと待ち望んではひくついている肉の壁。見るだけではない、重ねて伝わる感覚は一体どんなものなのか。
「今、入れてあげますから…ね♪」
一呼吸置くとクヴェレは割り開いた穴へ誘うように腰を下ろしてきた。
「あぅああ♪」
「んんっ」
初めて突き抜ける女性の膣内。僅かな抵抗と何かを突き破った感触と、続いてきたのはこれ以上ないほど高まった熱、それから隙間なく密着してくる膣肉の柔らかさだった。
「ん…きつ」
「あ、ん♪はぁ…ユウタのが中に入っちゃいましたね♪」
嬉しそうに微笑むと両手を頬へと添えてくる。そのまま額を重ね、鼻先が触れ合う位置で互いの感触を味わった。
呼吸に合わせてわずかに離れるのだがそれでもすぐに絡みついてくる。動かずとも感じてしまう柔肉の快感は蕩けてしまいそうなほど気持ちがいい。
「クヴェレは辛くない?」
「はい、少しジンジンしますが…」
ちらりと視線を移せば重なり合った部分から一筋の滴が落ちていった。乳白色の衣服を赤く染めていく。その光景に言葉にできない嬉しさとどこか後ろめたい感情が湧き上がってきた。
「でも…とても気持ちいいですよ♪」
だがクヴェレの言葉に嘘はなく、蕩けた笑みを向けてくれる。先ほど見せた魅惑的な表情とは異なる快感を得て蕩けたいやらしい表情だ。そんなのを向けられてはもっと見たくなってしまう。
「んん♪」
だから、今度はオレから唇を重ねにいく。いきなりの事で驚いたクヴェレだがすぐさま応じるように唇を開き、ねっとりと舌を絡ませた。濃厚なミルクのように甘い唾液を混ぜ合わせるように舌を動かし、互いの口内を行き来する。唇の隙間からは溢れだした唾液が滴り落ちて肌を濡らしていった。
「んちゅ♪ねぇ、ユウタ…♪もっと私の姿を見てくれませんか?」
「ん…もっと見せて」
両手を頭の後ろへやり、自分の全てを見せつけるようにクヴェレは動き出した。体を揺らし、胸を弾ませ、腰を左右に動かして。先ほどよりもずっと淫らで色っぽく、そして情熱的に。
クヴェレが動くたびに凹凸のついた肉ひだが表面をなぞっていく。僅かな動きでも叩き込まれる快感は壮絶な物。きつさと相まって瞼の裏で火花が散りそうだった。小刻みに動いていた腰が徐々に大きく激しく上下する。交わり合った部分からは愛液が溢れだし、淫猥な水音をオアシス内に響かせた。
「ユウタ♪ユウタぁあ♪」
甘い声でオレを呼び、行為は徐々に加速していく。下腹部から熱く込み上げてくる絶頂の予感をなんとか抑え込もうにも目の前で踊るクヴェレの姿と弾きだされる快感が妨げとなる。
クヴェレはぐいぐいと容赦なく腰を押し付けてくる。それは先ほどの踊りのように、左右に振っては見せつけるように揺れ動く。その度突き刺す角度が、擦りつけられる膣壁が変わって違う快感が駆け巡る。
「激し、すぎ…っ!」
そう言っても聞く耳持たず、腰の上でさらに情熱的に踊り狂うアプサラス。その動きを何とか止めようと手を伸ばす。が、届く寸前で掴み取られてしまった。
「クヴェレ!?」
踊りの邪魔をされたくないからか片手で抑え込まれそのままいやらしく舞い続ける。上下左右、滑らかでいて情熱的に揺れ動く腰。それはとても淫らで見ているだけでも興奮が昂ぶってくる。だが、それ以上に叩き込まれる快感が意識を蕩けさせていく。
動くたびに揺れる膨らみ。重くも柔らかそうに、肌に浮かんだ汗が弾けて月明かりで淡く照り浮かぶ。クヴェレは胸へと空いている手を這わし、見せつけるようになぞっていく。
熱く吐き出される甘い息。交わり合ったその部分。いやらしく歪んだ笑み。
「見て♪もっと、私の、ぁ♪感じてるとこ、見てくださいぃ♪」
オレの腕を掴んだまま自分の痴態を見せつけてくる。これだけの美女の淫らな姿、それもオレの体で感じているという事実。それを目にして昂ぶらない男はいない。
そして、その昂ぶりはオレの意識を絶頂へと押し上げていく。
「イクっ♪イクから、ぁあ♪もっと見てくださいっ♪」
「クヴェレ…オレも…っ!」
クヴェレは思い切り腰を打ち付けた。回された足に力が籠り、オレのものが全て飲み込まれる。先端に押し付けられる子宮口の熱が、きつく抱きしめてくる膣内の感触が、重なり合う肌の柔らかさが、淫らに揺れるクヴェレの姿がオレを絶頂へと押し上げた。
「あぁあああああああああっ♪」
遮られるものもなく吐き出された精液はクヴェレの子宮へと流れ込んでいく。何度も脈打ち、子宮を叩く精液の感覚にクヴェレの体がこれ以上ないほど逸らされる。彼女のも絶頂を迎えているのか派手に震え、だらしなく開いた口から甘ったるい声が漏れていた。
ただただ抱きしめる。この絶頂の波が引くまでクヴェレの体を抱き寄せる。魅力的な美女へ種付けする快感。男の本能を満たす快楽に身を委ねながら長く続く射精の感覚に震えていると突然クヴェレの腰が揺れ動いた。
「あ、うぁ!?」
「もっとぉ♪もっとだしてくださいっ♪私の中に、ぃいっぱいぃ♪」
貪欲に、強引に、艶やかな仕草や魅惑的な舞とは違うもっと本能的な動きで腰が揺さぶられた。射精をさらに促す快感へと繋がり、絶頂中でも容赦なく高みへと押し上げられる。震える手で抑え込もうにも力が入らず、ただ叩き込まれる快感に震え精液を捧げることしかできなかった。
「んん…あぁはぁ……♪」
ようやく絶頂の波も引き体の震えも収まってくる。乱れた呼吸を整えようと肩を上下させながら汗を拭おうとして気づいた。オレの腕はまだクヴェレに掴まれたままだった。
ゆっくり引き抜こうと力を込めるが彼女の手は放してくれない。どうしたのかと思って声を掛けようとすると突然快感が弾きだされた。
「あ、ぅあっ!?クヴェレ…!?」
「ユウタぁ…もっとぉ、踊るから♪見て、もっと、見てぇ♪」
淫らに踊り舞うクヴェレ。再開されたいやらしい踊りを前に再び下腹部に熱が灯った。揺れる腰によって叩き込まれる快感は射精直後の敏感な体を駆け巡る。それは呼吸すら止まる程のものだというのにオレのは嬉しそうに震えあがるのだった。
「ふふ♪」
「…」
あの後何度クヴェレの中に出したのか覚えてない。とにかく数えきれないほどだったことしかわからない。
オレの上で魅惑的に舞っていたクヴェレ。その淫らな姿に興奮し、いきり立ち、射精する。その度クヴェレも感じて乱れればその姿にまた興奮して…の繰り返し。こちらも華の十代、止まれるわけもなく欲望のままに交わり合ってしまったわけだ。
おかげで腰が痛い。
クヴェレを見ると実に嬉しそうに笑みを浮かべオレの腕を抱き寄せながら肩に頭を預けている。可愛らしい。淫らで美しい体に目が行きがちだがやはり彼女は魅力的だ。
「ありがとうございます、ユウタ」
「え?何が?」
「こんな私を元気づけてくれて、ですよ」
それはきっと先ほどの発言。クヴェレの頑張りについてのことだろう。
「別にオレは思ったことを言ったまでだよ」
「それでも、ですよ。ユウタのおかげでなんだか救われました。こんな場所で私のやってることでもちゃんと見てくれているのだと。でも…やはり自分一人で踊るのと見てもらうのでは全然違います」
そこで言葉を区切るとオレの顔を覗き込んでくる。腕も抱きしめたまま、真っ直ぐに。
「だから、もっと、ずっと私の踊りを見てくれませんか?」
「…っ」
揺れる腰を、潰れる胸を、柔らかい唇を見て先ほどの情事を思い出してしまう。真っ赤になって求めてきた姿。乱れに乱れ、いやらしく踊り舞う色っぽい体を。
「あ…♪」
何かに気付いたようにクヴェレは声を上げ、オレの体の一か所を凝視している。視線を追って目に映ったのは何度も出したというのに元気にいきり立つオレの分身。
「…ああ、もう」
「うふふ♪元気ですね、ユウタは」
オレが元気なのがいけないのか、クヴェレが魅力的なのがいけないのか。
どちらにしろ行為の終わりはまだまだ先らしい。
「………もう一踊り、見ていきませんか♪」
押し倒しながらのクヴェレの発言に抗えるはずもなくオレは真っ赤な顔で応えるのだった。
―HAPPY END―
オアシス内にただ一人、オレこと黒崎ユウタは今晩も鍛錬に励んでいた。
静かな呼吸とゆったりとした動き。些細な動作であっても使う体力はかなりのもの。息が上がらぬように、それでも決して気を抜かぬように。頭から、体から、腕へ、肘へ、指先へ。足へ、膝へ、つま先へと意識を行き渡らせていく。
もう何度も繰り返した動き。それを何度も何度も繰り返し、何度も何度も注ぎ済ませていく。地道で面白みに欠ける単純な行為であってもだ。
「………………はぁ〜」
最後に大きく息を吐き出し、今日の分を終える。額に浮かんだ汗を拭って上着を畳んだ場所にあるタオルを掴んだ。
「…うぉ」
だが気づけばかなりの量の汗をかいている。これなら一度水浴びでもした方がいいだろう。そう思ってオアシス内の湖へと足を進めた。
誰もいない静かな夜は草を踏む音だけが響き渡る。静かな湖面に波はなく、夜空を鏡のように映しだしていた。
そこへ屈みこみ、両手で水を掬い上げる。そのまま顔に打ち付けて、それを何度も繰り返す。髪の毛から滴り落ちた水を拭おうとしたその時。
「ばぁ」
「わちゃああああっ!?」
突然顔を寄せていた水面から飛び出てきた顔に思い切り驚いて後方へと飛んだ。二度三度草の上に体を打ち付けながら体勢を立て直し、すぐさま迎え撃とうと拳を握る。そして改めて見やると視線の際にいたのはくすくすと笑う一人の女性だった。
「うふふ♪ごめんなさい。そんなに驚くとは思わなくて」
「クヴェレ……ああ、もう。突然出てくるのやめてくれない!?」
笑っていたのは冷える砂漠の夜には相応しくないほど肌の露出の多い一人の女性。アヌビスである先輩たちと同じ褐色肌。たわわに実った二つの膨らみや腰の括れ、長く伸びた足や太腿が眩しく、それを包むのは黄金の装飾、ハートの鎖に水着ともいえないあまりにも布面積の少なすぎる服。湖面の如く揺蕩う水色の長髪に、青い瞳。そして、薄く透けた白色の液体を纏う腕に、人間とはことなる耳の形。
彼女はアプサラス。性愛を担う踊り子で、水の精霊だ。
「いったい何?シャントゥールは今日はいないけど?」
「別にいつも彼女が目当てというわけではありませんよ」
ガンダルヴァのシャントゥール。それは音楽をこよなく愛し、楽器片手に空を飛びまわる魔物の一人。踊り子であるクヴェレとは仲が良く、時折二人して楽しそうに踊っているという。
だがそうではないらしい。クヴェレはオレの方へと歩いてくると青色の瞳で顔を覗き込んできた。
「気持ちよさそうに舞っていたから私も共に踊ろうかと思いまして」
「…武術ね、武術。舞じゃないからね」
「あれだけ優雅に舞っていれば誰も武術とは思いませんよ」
「シャントゥールも先輩にもよく言われるよ」
「それだけ素敵だということです。素直に褒め言葉として受け取らないのですか?」
「複雑なんだよ。元々は人を殴り倒すための技術だし」
置いてあったタオルを手にし、濡れた顔を拭いながら言う。
「クヴェレがやってるのとは全く違うんだよ。クヴェレは人に魅せるために踊ってる。でもオレのやってることはあくまで武術。戦うためにやってるんだから」
いくら美しかろうが褒められようが、結局のところ相手を殴りつけるための力であることに変わりない。人を傷付けるための技術と人に魅せる技術とでは全く違う。確かにオレも師匠が手本を見せた時は同じことを思ったがそれでも突き詰めればただの暴力である。
「そうなんですか?」
「そうなの」
先ほどの鍛錬で多少疲れが足に来ている。休もうと近場の岩に座り込むとまるで当然とでも言わんばかりにクヴェレが隣に来て座った。
「…」
「ユウタ?どうかしましたか?」
「いや…」
正直隣はやばい。
布地の少ない服を着て、女性としてこれ以上ないほどの魅力を振り撒いて、そんな恰好で傍に寄られてはたまったもんじゃない。何度も移りそうになる視線を制し、タオルで目を覆い隠す。これでようやく落ち着けることだろう。
冷たい夜風がオアシスを吹き抜け、草を揺らす音を響かせる。とても静かな月の下でクヴェレはそっとオレの名を呼んだ。
「ユウタ、もう少しこっちを見てもいいのではありませんか?」
「いや…その」
「ユウタの舞う姿。とても素敵でした。だから、今度は私の踊る姿をぜひとも見てもらいたいのですが…♪」
「…遠慮しときます」
オレの言葉にくすくすと笑うクヴェレ。その恰好で踊るなんて刺激が強すぎて堪ったもんじゃない。彼女もきっとわかってやっているのだからたちが悪い。
そのまま笑っていたクヴェレだが徐々に声は小さくなり、溜息を吐いた。いつも明るく、穏やかな性格のクヴェレには珍しい少し疲れたような様子だ。
「…クヴェレ?どうかした?」
「いえ、ユウタは……あれだけ綺麗に舞えるのに人前では舞わないんですね」
「そりゃ鍛錬って人に見てもらうためのもんじゃないしね」
「それでも毎晩同じことをしてて飽きないんですか?」
「いや、別に。武術ってそう言うもんだしさ」
元々鍛錬というのはそう言うものだ。地道に、愚直に、ただひたすらに。そう言う行為を何度も重ねてようやく成り立つものである。才能ある者ならば練習など必要もないだろうがあいにくオレはやらなければできないタイプ。努力をしなければ何もできない不器用者だ。
「自分の癖や無駄な動き、力の伝達を改めるために何度も地味な作業を繰り返す。そうして積み重ねた末に身についた結果が実力になる。それが武術だからねぇ」
気絶した回数は十を超え、膝をついた数は百を超え、振り抜いた蹴りの数は千を超え、拳を振るった数は万を超え、そうして成し得たものが今の実力だ。
「よく、頑張れますね」
元気のない声色にタオルをとって顔を見た。あまり優れた顔色ではないクヴェレを見てああ、と思う。
―――クヴェレはオレと同じことを思っている。
アプサラスであり、踊り子であるクヴェレ。
人間であって、空手の鍛錬を積むオレ。
種族、性別、技術、何もかもが正反対ではあるもののその胸の中に抱いた感情はきっと同じもの。
―――自分のしていることの意味が分からなくなっている。
というのも砂漠のど真ん中の遺跡に来る人なんていない。ひと月に一人居ればいい方だ。さらに遺跡内には多くの迎撃トラップが仕掛けられている。どれも初見殺しな上に、砂漠を越えて疲労した人間の集中力ではまず気づけない。オレのやることと言えばトラップが正常に稼働することを確認し、相手を煽って嵌めさせる程度。肉弾戦に持ち込んだところで疲労困憊な相手に後れを取ることもないし、最悪の場合でも先輩たちだけでも何とかできてしまう。
つまるところ、ここではオレの鍛錬もあまり意味をなしていないのだ。
そして、こんな砂漠のど真ん中で、遺跡に訪れる人がいないのならばオアシスに来る人もまたいない。ならば、当然クヴェレの踊りを見てくれる人もいない。
ついでに言えば、オレもクヴェレの踊る姿は見たことはなかった。
意味のない努力。
結果の見えない頑張り。
そんなものを繰り返せば誰だって挫折するし、心が折れるのも仕方ない。いくら技術を磨こうと、いくら努力を重ねようと成果が出なければ何の価値も見いだせないのだから。
「疲れちゃった?」
「…ええ、正直のところ練習しても見てくれる人がいませんからね。ユウタが見てくれればいいんですが」
「か、考えさせて…」
意味深な目でこちらを見つめるクヴェレから逃げるように視線を逸らすと今度は呆れたようにため息をついた。すごく申し訳ない。
「でもクヴェレってそこまで練習しなくても十分なんじゃないの?綺麗だし、アプサラスなんだし」
「だからと言って私も練習をやめることなどできないんですけどね」
クヴェレがふと上を見上げた。真上には月が昇っているが彼女が見ているのは違うだろう。
「魔物だから、アプサラスだから…そんな理由だけで怠けることなんてできませんよ」
それはとても真っ直ぐで、努力を知っている言葉だった。迷ってはいるが驕りのない、必死に頑張るアプサラスの言葉だった。
「…そっか」
魔物というのはどんな魔物であっても人以上に優れた存在だ。
例えば、アヌビスである先輩。頭の回転は速く、マミー達を統率する能力や遺跡の管理能力は他の追随を許さない。
例えば、ガンダルヴァであるシャントゥール。楽器を使って奏でられる音楽は素晴らしく、聞くもの皆の心を虜にする旋律は戦争すら止めるという。
例えば、サンドウォームのヴェルメ。既に人間とは比べ物にならない体をしているがその体力は無尽蔵、単純思考でなければ逃げ切ることなど絶対に不可能だろう。
皆が皆、人間よりもずっと優れた技術を持ち、人間には敵わない体を持っている。
だからと言ってそれで驕ればそこまでの事。
先輩が毎日頭を悩ませながらも必死に頑張っていることを知っている。
シャントゥールが毎日楽器を弾き、細かな音まで耳を傾け音楽を奏でているのを知っている。
ヴェルメがオレを見つけた時、止まることなく必死に追いかけてくることを知っている。
皆が皆事を成す為に努力している。それはクヴェレも同じこと。
「でもさ、努力して、踊りが上達しても見てくれる人がいないなんて悲観するもんじゃないよ。結果が出なくてもそれは確かな経験なんだし、何よりもどれだけ頑張ってるかを見てくれる人はきっといるよ」
「そう、でしょうか?」
「そうだよ。オレも実を言うと見てたし」
「……え?」
「見えるんだよ、窓辺からね」
遺跡の窓辺から遠目で見ていたクヴェレの姿。あまりにも遠くてわかりにくかったがそれでも灼熱の太陽の下で踊る練習をしていることはわかっていた。炎天下の太陽の下、きっと汗を滲ませながら努力していたことだろう。その頑張りをオレは知っていた。
「意味ないなんて言わせない。クヴェレの努力はオレがよく知ってる。だから胸を張りなよ。その頑張りはきっと身を結ぶだろうからさ」
にっこり微笑み言ってやる。心の底から思った言葉を。
するとクヴェレは疲れたような表情から笑みを浮かべて言った。
「…ありがとう、ユウタ」
「どういたしまして」
美女に感謝されるというのは何ともむず痒い。誤魔化すように頬を掻いていると突然その手がクヴェレに握られた。
「なら、私が頑張ってきた努力の結果を見てくれませんか」
「…オレでいいの?」
「ユウタにだけ、見て欲しいんです」
真っ直ぐ見つめてくる薄青色の目。まるで水面の如く透き通った瞳には確かな想いが宿っていた。こんな目で見つめられて拒否することなどできるはずもない。それに、何よりもクヴェレの努力の結晶だ、ここまでされてみないというのは失礼だろう。
「それじゃあ…見せて」
「はい♪」
オレの言葉に頷くとクヴェレは岩から立ち上がって離れていく。月明かりの下、湖の傍、とても静かで幻想的な舞台の上で彼女は舞い始めた。
「…」
実を言うと今までクヴェレの踊りを見たことはない。というのもあの露出の多い恰好で右に左に揺れ動く姿はあまりにも刺激が強すぎるからだ。普段からも直視できない姿だというのに動きまで加わっては堪ったものではない。
だが、そんな邪な感情とは別にただ純粋に感動を抱いている。
滑らかに動く腕、ゆらゆらと揺れる腰。ゆったりと移っていく足。振り乱れる水色の髪の毛にハートの装飾。月下のオアシスでただ一人踊る姿はとても美しく、切り取ればきっと芸術的な絵となったことだろう。踊りの事など素人なオレからしても見惚れてしまうほどにクヴェレの姿は輝いていた。
だが、あれほどの魅力的な体で舞われてはやはり男として視線がいってしまう。
体が動くたびに揺れる胸。くるりと回るたびに見せつけられる形のいい臀部。すらりと伸びた太腿が眩しく、汗をかいたからか徐々に布が透けてきている。乳白色を通して見える桜色の突起や食い込んだ股間に視線が移ってしまう。いくら美しかろうが、いや、美しいからこそ際立つ女体の美しさに囚われてしまいそうだ。
「〜♪」
独特のリズムを口ずさみながらクヴェレは徐々にこちらへ近づいてくる。自分の踊る姿をもっと見せつけたいのかゆっくりと確実に。時折焦らすように足を止めてはその場でオレへと視線を向ける。
ぞっとするほど妖艶な視線を。
「…っ」
見るべきじゃなかったかな。なんて後悔しながらも真っ直ぐ見つめる。言われた以上目を逸らすことはできない。だが、逸らさなければどうにかなってしまいそうだった。
気付けばクヴェレとの距離は大分詰められ、すぐ目の前で踊っていた。揺れる胸を見せつけて、腰の括れを強調し、露出の多い肌を晒して自分の体をこれでもかというほどアピールする。
極めつけはその表情。興奮か、恥によるものか真っ赤に染まった頬に真剣に見つめてくる眼差し。瞳は潤み、向けられた視線にはただの知り合いに向けるにはあまりにも熱が込められすぎていた。
これ以上ないほど近づいたというのにさらに体を寄せてくる。もう触れ合ってもおかしくない位置でクヴェレはオレを見下ろした。
「…っ」
まるで誘うように、それでいて懇願するように。だけどもどこか獰猛で、そして何より情熱的に。
クヴェレの両腕がオレの首へと回された。そのままゆっくりと顔が近づいてくる。このまま行けば唇が重なってしまうことだろう。
オレはただクヴェレの踊りを見ていただけ。だからこういうのはまた違う。流石にそこまでは進みすぎだからだめだと言おうにも口は動かなかった。
「クヴェレ」
「ん…♪」
ようやく紡げたのは彼女の名前。とても切なく、熱く呼ぶ声だった。それを聞いたクヴェレは応じるように笑みを浮かべるとどちらともなく顔を寄せ、その唇を重ねあった。
押し付けられる感触はとても柔らかで思わず瞼が閉じていく。隙間から感じたのはミルクのような甘い味。もっと欲しくなってさらに深く口づけた。
「ん…ちゅ♪んむぅ♪」
ねっとりと絡みつく舌と舌。互いの事を確認する様に擦れあい、互いの唾液で塗れていく。まるでミルクのように濃密で甘い味を感じながら伝ってきた唾液を飲み込んだ。
もっと欲しい。ただ純粋な欲望のままに舌を動かし啜り上げる。すると気持ちいいのかくぐもった嬌声が漏れ、クヴェレの体が震えた。
いつの間にかまわしていた両腕でクヴェレの体を抱きしめる。柔らかな胸が胸板で形を変え、口づけが激しさを増していく。呼吸なんて忘れるほど行為に没頭し、ただひたすらに互いの口を貪りあった。
「んは…ユウタ…♪」
唇を離すとクヴェレは布地の少ない服を脱ぎ捨てオレの上に跨った。全てを曝け出し、見せつけられる褐色の体。月明かりで照らされ、陰影を灯した肌はとても魅力的に映った。
先ほどまで舞っていたからかむせ返るような汗の匂いが鼻孔をくすぐる。だが決して嫌ではない。どこか甘く、ミルクのような濃厚さのある香りに頭の奥が蕩けていく。
「もうユウタも我慢できないんですよね?」
視線の先には既に怒張しきったオレの物。気づく暇もなくズボンを押し上げていたそれを愛おしそうに見つめたクヴェレはそっと脱がせにかかった。されるがままにはぎ取られ、露わになると彼女の笑みはより一層深くなる。
「うふ♪私を見てこんなにしてくれるなんて嬉しいです♪ですが、もっと私の事を見てください…♪」
一糸まとわぬ姿のクヴェレは触らずともわかる程湿り気を帯びたそこに手を這わすと見せつけるように指で開く。穢れのない綺麗な色をした肉の色。奥からは絶え間なく愛液が漏れだし、オレの肌へと滴り落ちていく。
「…っ」
クヴェレもまた興奮している。その事実にぞくりとする。涎のように滴る愛液に今か今かと待ち望んではひくついている肉の壁。見るだけではない、重ねて伝わる感覚は一体どんなものなのか。
「今、入れてあげますから…ね♪」
一呼吸置くとクヴェレは割り開いた穴へ誘うように腰を下ろしてきた。
「あぅああ♪」
「んんっ」
初めて突き抜ける女性の膣内。僅かな抵抗と何かを突き破った感触と、続いてきたのはこれ以上ないほど高まった熱、それから隙間なく密着してくる膣肉の柔らかさだった。
「ん…きつ」
「あ、ん♪はぁ…ユウタのが中に入っちゃいましたね♪」
嬉しそうに微笑むと両手を頬へと添えてくる。そのまま額を重ね、鼻先が触れ合う位置で互いの感触を味わった。
呼吸に合わせてわずかに離れるのだがそれでもすぐに絡みついてくる。動かずとも感じてしまう柔肉の快感は蕩けてしまいそうなほど気持ちがいい。
「クヴェレは辛くない?」
「はい、少しジンジンしますが…」
ちらりと視線を移せば重なり合った部分から一筋の滴が落ちていった。乳白色の衣服を赤く染めていく。その光景に言葉にできない嬉しさとどこか後ろめたい感情が湧き上がってきた。
「でも…とても気持ちいいですよ♪」
だがクヴェレの言葉に嘘はなく、蕩けた笑みを向けてくれる。先ほど見せた魅惑的な表情とは異なる快感を得て蕩けたいやらしい表情だ。そんなのを向けられてはもっと見たくなってしまう。
「んん♪」
だから、今度はオレから唇を重ねにいく。いきなりの事で驚いたクヴェレだがすぐさま応じるように唇を開き、ねっとりと舌を絡ませた。濃厚なミルクのように甘い唾液を混ぜ合わせるように舌を動かし、互いの口内を行き来する。唇の隙間からは溢れだした唾液が滴り落ちて肌を濡らしていった。
「んちゅ♪ねぇ、ユウタ…♪もっと私の姿を見てくれませんか?」
「ん…もっと見せて」
両手を頭の後ろへやり、自分の全てを見せつけるようにクヴェレは動き出した。体を揺らし、胸を弾ませ、腰を左右に動かして。先ほどよりもずっと淫らで色っぽく、そして情熱的に。
クヴェレが動くたびに凹凸のついた肉ひだが表面をなぞっていく。僅かな動きでも叩き込まれる快感は壮絶な物。きつさと相まって瞼の裏で火花が散りそうだった。小刻みに動いていた腰が徐々に大きく激しく上下する。交わり合った部分からは愛液が溢れだし、淫猥な水音をオアシス内に響かせた。
「ユウタ♪ユウタぁあ♪」
甘い声でオレを呼び、行為は徐々に加速していく。下腹部から熱く込み上げてくる絶頂の予感をなんとか抑え込もうにも目の前で踊るクヴェレの姿と弾きだされる快感が妨げとなる。
クヴェレはぐいぐいと容赦なく腰を押し付けてくる。それは先ほどの踊りのように、左右に振っては見せつけるように揺れ動く。その度突き刺す角度が、擦りつけられる膣壁が変わって違う快感が駆け巡る。
「激し、すぎ…っ!」
そう言っても聞く耳持たず、腰の上でさらに情熱的に踊り狂うアプサラス。その動きを何とか止めようと手を伸ばす。が、届く寸前で掴み取られてしまった。
「クヴェレ!?」
踊りの邪魔をされたくないからか片手で抑え込まれそのままいやらしく舞い続ける。上下左右、滑らかでいて情熱的に揺れ動く腰。それはとても淫らで見ているだけでも興奮が昂ぶってくる。だが、それ以上に叩き込まれる快感が意識を蕩けさせていく。
動くたびに揺れる膨らみ。重くも柔らかそうに、肌に浮かんだ汗が弾けて月明かりで淡く照り浮かぶ。クヴェレは胸へと空いている手を這わし、見せつけるようになぞっていく。
熱く吐き出される甘い息。交わり合ったその部分。いやらしく歪んだ笑み。
「見て♪もっと、私の、ぁ♪感じてるとこ、見てくださいぃ♪」
オレの腕を掴んだまま自分の痴態を見せつけてくる。これだけの美女の淫らな姿、それもオレの体で感じているという事実。それを目にして昂ぶらない男はいない。
そして、その昂ぶりはオレの意識を絶頂へと押し上げていく。
「イクっ♪イクから、ぁあ♪もっと見てくださいっ♪」
「クヴェレ…オレも…っ!」
クヴェレは思い切り腰を打ち付けた。回された足に力が籠り、オレのものが全て飲み込まれる。先端に押し付けられる子宮口の熱が、きつく抱きしめてくる膣内の感触が、重なり合う肌の柔らかさが、淫らに揺れるクヴェレの姿がオレを絶頂へと押し上げた。
「あぁあああああああああっ♪」
遮られるものもなく吐き出された精液はクヴェレの子宮へと流れ込んでいく。何度も脈打ち、子宮を叩く精液の感覚にクヴェレの体がこれ以上ないほど逸らされる。彼女のも絶頂を迎えているのか派手に震え、だらしなく開いた口から甘ったるい声が漏れていた。
ただただ抱きしめる。この絶頂の波が引くまでクヴェレの体を抱き寄せる。魅力的な美女へ種付けする快感。男の本能を満たす快楽に身を委ねながら長く続く射精の感覚に震えていると突然クヴェレの腰が揺れ動いた。
「あ、うぁ!?」
「もっとぉ♪もっとだしてくださいっ♪私の中に、ぃいっぱいぃ♪」
貪欲に、強引に、艶やかな仕草や魅惑的な舞とは違うもっと本能的な動きで腰が揺さぶられた。射精をさらに促す快感へと繋がり、絶頂中でも容赦なく高みへと押し上げられる。震える手で抑え込もうにも力が入らず、ただ叩き込まれる快感に震え精液を捧げることしかできなかった。
「んん…あぁはぁ……♪」
ようやく絶頂の波も引き体の震えも収まってくる。乱れた呼吸を整えようと肩を上下させながら汗を拭おうとして気づいた。オレの腕はまだクヴェレに掴まれたままだった。
ゆっくり引き抜こうと力を込めるが彼女の手は放してくれない。どうしたのかと思って声を掛けようとすると突然快感が弾きだされた。
「あ、ぅあっ!?クヴェレ…!?」
「ユウタぁ…もっとぉ、踊るから♪見て、もっと、見てぇ♪」
淫らに踊り舞うクヴェレ。再開されたいやらしい踊りを前に再び下腹部に熱が灯った。揺れる腰によって叩き込まれる快感は射精直後の敏感な体を駆け巡る。それは呼吸すら止まる程のものだというのにオレのは嬉しそうに震えあがるのだった。
「ふふ♪」
「…」
あの後何度クヴェレの中に出したのか覚えてない。とにかく数えきれないほどだったことしかわからない。
オレの上で魅惑的に舞っていたクヴェレ。その淫らな姿に興奮し、いきり立ち、射精する。その度クヴェレも感じて乱れればその姿にまた興奮して…の繰り返し。こちらも華の十代、止まれるわけもなく欲望のままに交わり合ってしまったわけだ。
おかげで腰が痛い。
クヴェレを見ると実に嬉しそうに笑みを浮かべオレの腕を抱き寄せながら肩に頭を預けている。可愛らしい。淫らで美しい体に目が行きがちだがやはり彼女は魅力的だ。
「ありがとうございます、ユウタ」
「え?何が?」
「こんな私を元気づけてくれて、ですよ」
それはきっと先ほどの発言。クヴェレの頑張りについてのことだろう。
「別にオレは思ったことを言ったまでだよ」
「それでも、ですよ。ユウタのおかげでなんだか救われました。こんな場所で私のやってることでもちゃんと見てくれているのだと。でも…やはり自分一人で踊るのと見てもらうのでは全然違います」
そこで言葉を区切るとオレの顔を覗き込んでくる。腕も抱きしめたまま、真っ直ぐに。
「だから、もっと、ずっと私の踊りを見てくれませんか?」
「…っ」
揺れる腰を、潰れる胸を、柔らかい唇を見て先ほどの情事を思い出してしまう。真っ赤になって求めてきた姿。乱れに乱れ、いやらしく踊り舞う色っぽい体を。
「あ…♪」
何かに気付いたようにクヴェレは声を上げ、オレの体の一か所を凝視している。視線を追って目に映ったのは何度も出したというのに元気にいきり立つオレの分身。
「…ああ、もう」
「うふふ♪元気ですね、ユウタは」
オレが元気なのがいけないのか、クヴェレが魅力的なのがいけないのか。
どちらにしろ行為の終わりはまだまだ先らしい。
「………もう一踊り、見ていきませんか♪」
押し倒しながらのクヴェレの発言に抗えるはずもなくオレは真っ赤な顔で応えるのだった。
―HAPPY END―
15/02/22 19:21更新 / ノワール・B・シュヴァルツ