読切小説
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一人と貴方とオレと四人
雲の漂う外を見つめふぅっと小さくため息をつく。洗濯物を終わらせて薪を割り終わって掃除も終えてさらには風呂の用意も終えてしまった。料理をするための道具を台所に並べたのだが肝心の食材がないのでそちらも進まない。つまるところオレこと黒崎ゆうたは既に今やるべきことを終えてしまったということだ。

「…ん?」

窓ガラスの向こう側、雲の漂う標高の高いこの場所に訪れる者はまずいない。だがオレの目に映った影は徐々に大きくなってくる。
雲を抜けて飛んできたのは人間に近い形をしている。遠目でもわかる程特徴的な姿をしたその人間は大きな膨らみが胸にある、つまるところ女性だった。
背中に大きく黒い翼を生やし、両肩にはそれぞれ『山羊』の頭と『竜』の頭を付けている。そこから伸びる手は片方は白い毛に覆われ、もう片方は鱗に包まれていると奇妙な物。さらには臀部からは見たことのない『蛇』が伸びていた。頭からは角を生やし、さらには『獅子』の耳もある。まるでさまざまな伝説の魔獣を組み合わせたような姿だった。

『キマイラ』

伝承にある『獅子』、『竜』、『山羊』、『蛇』の四体の魔獣を組み合わせて生まれた合成獣に似た姿。
だが、その姿は全体的に露出が多く、豊かな二つの膨らみを惜しげもなく晒しながら蠱惑的なくびれや眩しい太腿まで見せつけている。切れ長で色の異なる瞳に、すっと通った鼻筋や艶やかな唇。整った顔立ちは誰もが美女ということだろう。外見が異形であろうが彼女は間違いなく美しかった。
そんな女性がこの家の主であり、こんなところに来たオレを攫って行った人物だった。

「お帰り、エルマーナ」
「ああ、ただいま、ユウタ」

ドアを開けて彼女を迎える。返ってきた言葉は凛々しくも鈴を転がしたかのような透き通った声だった。体についた埃を払うと右手に持っていた大きな肉の塊を持ち上げる。

「熊肉だ」
「おぉ」

オレが両手を使ってでも持ち上げられないだろう大きな熊肉をエルマーナは軽々と持ち運ぶ。『竜』が混じっているのだからその力は人間には計り知れない。
左手には剥いだものらしき熊の毛皮があり、両腕とも血抜きを済ませ捌いてくれたからか血まみれだった。

「んじゃ、今日は熊汁かな」

熊と言えば滅多に食べられない食材。確か少量でも旨みがかなりあったはず。スープに旨みを溶かせば野菜にも染み込み極上なことだろう。だが、たった一品でエルマーナが満足するはずもない。他に作るとしたらどうするか。この肉の量は食べきるにはかなりの時間が必要だろうしその間に痛みかねない。故に量のあるものがいいだろうか。

「おい、ユウタ」

献立を考えていたところにエルマーナに声を掛けられた。何かと思ってそちらを向くと切れ長の瞳が細められ剣呑な雰囲気が肌を刺激する。

「…え。何?」
「私よりも先に料理とはいい度胸だ。まずはその肉を取ってきた私に労わるべきだろうが」

やや高圧的な態度。自分の事を中心に考え、どことなくオレを見下した応対。普段からこうなので別段気にも留めないが、だが目の前にあるのは生肉だ。放っておいたら後々やばくなってくる。

「さっさとしないと肉傷むよ」
「『山羊』が既に魔術を施した。放っておいたところで傷みもしない。それよりも私は血抜きをしたせいで汚れて不快だ。なら、すべきことはわかるだろう?」

そう言いながら一回りも大きな手がオレの腕をつかみ風呂場へと引っ張っていく。力は強く抵抗なんてできそうにもない。
ああ、全く仕方ないな。いつものように心の中で呟くのだった。





「痛くない?」
「痛いわけがないだろうが。私は『竜』だぞ」

風呂場で椅子に座るエルマーナはオレの言葉にふんと鼻を鳴らした。手を洗うだけだというのに裸をタオルで包んだ姿で。
言葉通り彼女は今『竜』である。竜の体の部位というわけではなく、『竜』の人格だ。
元々キマイラというのは四種の生物を組み合わせた混合獣。故にそれらの生物の特徴を持ち合わせているがそれと同時に四種類の人格も備わっていた。

気高く、高圧的で冷静沈着な『竜』

雄々しく、直情的で豪快な『獅子』

計算高く、平和的で優しい『山羊』

嫉妬深く、官能的で狡猾な『蛇』

四つの人格を持ち、人外の姿をした彼女。だがタオル一枚に包んだ体は男には堪らないほど魅力的。こうしてただ手を洗っているだけでも先ほどから視線が移ってしまいそうなほどだ。
『竜』のエルマーナの手を傷つけぬように手で洗っていく。こびりついた血を流し、爪の間まで入念に。そうして綺麗な鱗が見えてきた。これならもう十分だろう。

「はい、終わり。それじゃあさっさと料理作るから」
「ん」

全ての血を洗い流しバスタオルで拭っていく。そうしてようやく洗い終えるとオレは風呂場から出て行こうとドアに手を掛けたその時。

「でもせっかく洗ってくれたのだし、お礼が必要かしら?」
「わっ!?」

突然背中を抱きしめられた。二つの柔らかな膨らみが押し付けられ大きな二つの手が体に食い込む。肩越しに見えるエルマーナは先ほどとは打って変わって妖艶に笑い、見せつけるように唇を舐めた。
いやらしく、淫靡な雰囲気を漂わせ始めた彼女はエルマーナの中の『蛇』だろう。自己主張するかのように尻尾の蛇がオレの腹部に絡みつく。

「『竜』ったら失礼よね。洗ってもらってお礼の一言もないんだもの」
「…ちょっと、これから料理作らないといけないんだけど」
「あら、料理だったらいつでもできるでしょ?魔法だってかけてあるのだからそこまで急ぐ必要はないわ。それよりも私が代わりにお礼を…ね♪」
「ちょっと、やめ…ぁっ!」

大きな手が体を這いまわる。獣の毛の生えたふわふわな右手と鱗に覆われた艶やかな手。二つの手は異なる感触を生み、甘い息が首筋に吹きかけられた。

「口で言っても体は我慢できるかしら?」

抵抗しようにもキマイラと人間とでは力の差がありすぎる。何とか抜け出そうにも尻尾の蛇までがオレを捕らえて離さない。
徐々にエルマーナの手が下腹部へと降りて言ったその時、ぐぅっと大きな音が触れた背中に伝わってきた。

「…」
「…」
「…」
「…我慢できない体はどっちかな」

オレの言葉に『蛇』のエルマーナは真っ赤になるのだった。





「ん、うめぇ!」

手を洗い終わった後、がつがつと料理を食べるエルマーナ。そこには先ほどの高圧的な凛々しさも絡みつくような妖艶さも全くない。言葉づかいすら全く違う。
それもそのはず。目の前で料理を頬張る彼女はエルマーナの中の『獅子』の人格だった。

「やっぱユウタの作る料理はうめぇよな!アタシじゃ狩って捌くとこまでできてもこんなにうめぇ料理はできねぇよ」
「ありがと。でも別人格なら料理上手なのいるんじゃないの?」
「まさか。あいつら食事も狩りも今までアタシに任せきりだったから料理なんてしねぇよ。せいぜいできても『山羊』くらいだろうけど」

四人の人格と一人の体でエルマーナ。そこでうまくやりくりしながら彼女たちは今まで生きてきた。故に役割分担とかもあるのだろう。そのおかげで先ほどは助かったのだから何とも面白いものだと思う。

「ほら、ここついてる」

エルマーナの口の周りを拭ってやる。『竜』や『蛇』ならもっと丁寧な食べ方をするのだがここまで必死に食べてもらえるとこちらも嬉しいものだ。思わず笑みが零れてしまう。

「なんだ?何かおかしかったか?」
「いんや。本当においしそうに食べてくれて嬉しいなって思ってさ」

テーブルに肘をついて彼女を眺めているとその言葉に反応してか食事の手が止まった。向けられた色の違う瞳が細められゆっくりと唇を舌がなぞっていく。はぁっと、熱い息が吐き出された。

「へぇ、美味しく食べてくれりゃ嬉しいの」
「食事中に席立つな」

席を立ったのでぺしりと手を叩いて座り直させる。すると渋々ながらも残った料理を口再びに運び出した。

「よしっと!」

すぐに食事を終えると席を立つ。まるで女豹のように鋭い目つきで舌なめずりをする。先ほどの『蛇』とはまた違う、獣のような雰囲気を纏ったエルマーナはオレを見てにたりと笑った。

「何さ」
「さっきの続きだ。美味しく食べてくれりゃ嬉しいんだろ?」

左右の手をわきわきと動かして向かい側からこちらへと近づいてくる。尻尾の蛇も揺らめき、鋭い眼光を向けてくる。
それはまさしく獲物を前にした獣だ。その爪先で体を押さえつけ、牙で喉笛を噛み千切り、狩りとろうとする『獅子』だった。

「…食べたらまずはごちそう様でしょ」
「しらけるようなこと言うんじゃねぇよ。襲ってほしいんだろ?」
「変なこというんじゃないよ。明日は狩ってきた熊の毛皮売りに行くんだから変なことしないでよ」

そう言ったオレの手元にはエルマーナが持ってきた熊の毛皮があった。高価格で売れるようにと手入れの真っ最中である。以前は毛皮すら見たことなかったというのにここ最近になって随分と手慣れたものだ。

「そんなこと後にすればいいだろ?『蛇』なんかよりもずっとイイコトしてやるぜ?」
「見てたの?」
「アタシらは四人で一人だぜ?見えないわけねぇだろ」

今にも飛び掛からんとするエルマーナを見て大きくため息をつく。汚れを取っていた毛皮をテーブルに置いて椅子から立ち上がり、少しだけ離れた場所に立つ。
次の瞬間、目にもとまらぬ速さでエルマーナが飛び掛かってきた。

「おらっ!」
「っ」

あまりに早く―だが直線的。
意外なほど俊敏に―だが予想通り。
真っ直ぐ飛び掛かってきたエルマーナを半身反らして避けるとその顎に向かって掌を打ち出した。

「お座りっ」
「ぎゃんっ!」

直情的ならお手の物。以前は手を焼くほどの親戚の子供たちの世話を何人もしてきているんだ。問題児ならばこっちにだってそれなりの対処法がある。
顎から突き抜けた衝撃は脳を揺らし、彼女はばたりと倒れてしまった。人格が四つあろうとキマイラだろうと頭があればこちらにもの。軽い脳震盪でも起こしたのか、これならしばらく起きられまい。
『獅子』だからよかったもののこれが『蛇』やだったら無理だった。厄介なのは彼女の狡猾さで、すぐに抑え込まれて抵抗できなくなってしまうのだから。
まぁ、厄介というのならもう一人の『山羊』もそうなのだけど
とりあえず。

「ごちそう様忘れてるんだよ、エルマーナ」

気絶したエルマーナの体を抱き上げてベッドに寝かしつけに行くのだった。





「ユウタ…」

熊の毛皮の手入れをしているとどこからか気の抜けたエルマーナの声がする。そちらを向くと先ほど気絶させたはずの彼女が寝ぼけ眼で立っていた。いつの間に着替えたのか寝間着姿で。

「ん。どうかした?」

一先ず手元の作業を止める。これならばあと数十分で終えられるだろう。毛並みを揃えた毛皮を椅子にかけて立ちあがった。

「…その、今日もいいですか?」
「…」

最初の頃はこれに何度驚かされたことか。同じエルマーナであっても全く違う、四人目の『山羊』のエルマーナだ。
凛々しく高圧的な『竜』ではなく、雄々しく猛々しい『獅子』でもなく、妖艶で狡猾な『蛇』でもない、ちょっと臆病で夜中一人でトイレにいけない困った女性。
まぁ、それでも四人の中で一番頭がいいし、何より計算高い。オレには全くわからない魔法とやらも彼女は容易く扱っている。ちょっと手のかかるけど頼れるところは頼れるお姉さん的な人格だ。

「まったく、仕方ないな」

伸ばされた手を握り、共にトイレまで歩いていく。ちゃっちゃと用を済ませて戻ろうかとして再び手を握られた。寝室まで送っていけとのことらしい。仕方ないのでそのまま進み、ベッドへ戻そうとしたその時。

「えいっ」
「おわ!」

強引に手を引かれベッドへと引きずり込まれた。逃げ出さないようにか足が絡みつき、尻尾が腰に巻きつく。

「ふふっ♪」
「な、何すんのさ」
「一緒に寝ませんか?あんまり根を詰めると体壊しますよ?」
「…毎度のことこうやってベッドに引きずり込むのやめてよ」
「なら嫌だと言ったらどうですか?」
「…」

人の性格わかってるくせにこの態度。一見軽そうな雰囲気だが一番思慮深く策謀的。なんとも厄介なことこの上ない。
年上のお姉さんらしく優しい言葉づかいで大きな右手の平が頬に添えられる。そのまま撫でていくのだがこれが結構心地いい。もこもことした感触に思わず顔を埋めたくなる。
だがオレにはやるべきこともある。

「今日中に毛皮の手入れ終わらしときたいんだけど」
「あら、言ってくれれば私も手伝いましたのに。私がいればすぐに終わってたはずですよ?」
「眠ってたんだから仕方ないよ」
「誰かさんが無理やり寝かしつけるんですものね」
「…面目ない」
「そう思ってるならなら、私を無理やり寝かしつけた罰として共に寝てくださいね」

とはいってもベッドに寝転んでいるのは男と女。人間とキマイラと種族は違うが性別もまた違う。それに目も覚めるような美女と共に寝るというのだから男だったら平静でいられるはずもない。
そんなところへエルマーナは追い打ちをかけてきた。

「…眠ってる間は何をされてもかまいませんよ?」
「っ!」

甘く言葉を囁いて悪戯っぽく微笑む彼女。寝巻から覗く胸の谷間や意味深に擦れる足に鼓動が早まった。意味深に微笑みを浮かべ、柔らかそうな唇が言葉を紡ぐ。

「おやすみなさい、ユウタ」
「おやすみ、エルマーナ」

そう言って彼女は静かに寝てしまう。いや、これで実は寝たふりなのかもしれない。
『蛇』に劣らず好色な『山羊』。露骨さはないが、その分結構響いてくる。ただでさえ魅力的な美女だというのにピンポイントに男の本能を刺激してくる。
計算高い『山羊』故のもの。たぶん『蛇』や『獅子』よりもタチが悪いんじゃないだろうか。

「…んー」

だからと言って襲えるほどオレの度胸があるはずもなく。何をしてもいいと言われたのでエルマーナの右手を取った。『山羊』の姿を表す体毛に包まれたふわふわの右手だ。

「ん…」

そこへ自分の頭を預ける。これが結構癖になり、枕よりもずっとふわふわで温かい掌の感触に自然と瞼が落ちていく。枕にするのは失礼かもしれないが、何をされてもいいと言われてるんだしそうさせてもらおう。
さて、明日は山の麓の街へと毛皮を売りに行って、ついでに調味料もいくらか買い込もう。山頂付近のこの家で切れようものなら大問題だ。あとは石鹸やバスタオルも多少は必要だろう。そんな風に明日の事を考えながら意識は闇へと沈んでいった。









オレとエルマーナが住んでいるのは山の山頂付近であり、その麓には大きな街ある。そこでエルマーナ狩ってきた獣の毛皮や爪をオレが手入れし、売りながら生計を立てていた。
そして今日も普段から世話になってる店に向かう。街を行きかう人を眺めればキマイラとまではいかないが人ではない姿をした女性が多々見受けられた。
そんな中を二人並んで歩いていくとふと何かを見つけたのかエルマーナが足を止めた。

「ん?どうしたの?」
「いや」

視線を追っていくと大きな酒樽を模した看板を見つける。字は読めないがあの店にあるのは確か…

「ワイン?」
「ああ、熊肉に合うものがあるかと思ってな」
「でもいつも食事のときは引っ込むじゃん」
「たまには私も食することもある。最近は美味く料理をする者がいるからな」

とんっと肩を叩かれた。『竜』の彼女が言うのだから相当なものだろう。高圧的でもこうやって言われるとやはり嬉しい。

「だから先に行ってくれ」
「わかったよ。毛皮売っちゃってもいいんだね」
「ああ。だが商人相手だ、へまするなよ」
「善処するよ」

いったん別れてエルマーナはワインを、オレは毛皮を売るために行き慣れた店に向かう。大通りを通ってある小道へ進み、ちょっと廃れたドアを開けるとそこが目的の店だ。
ぎぃっと低い音を響かせながら開くと店の中いたるところに山住になった木箱や水晶、見たこともない商品が置かれていた。

「おーい、コルノ」
「はいはーい」

店の奥から顔を出したのは一人の女の子だった。だがこの子も人間ではなく、頭の横には角を生やしている。妙に露出の多い服を着て、耳は妖精のようにとがっている。
彼女はコルノ。この店の、ゴブリンの店主だ。

「待ってましたよ旦那。それで今日は売る方ですか?それとも何か買っていきますか?」
「売る方で。熊の毛皮もってきたぞ」

見た目は完璧子供だというのにこれでも一流の商人というのだから驚かされる。年齢的にはオレよりも上だというし、人外の住まうこの世界じゃオレの常識なんて一切通じない。

「はい、受け取ります。ほぁー……毎度のことながら旦那の仕事は丁寧ですねぇ」
「んな一目見ただけでわかるんかよ」
「わかりますよ。これでも一流の商人ですからね」

受け取った毛皮をコルノは見つめる。どうやらできの方を確認しているらしい。数分と経たずに顔をあげるとにこりと笑みを浮かべ、代金を手渡された。

「やっぱり旦那の仕事は一味違いますね」
「オレのできることじゃたかが知れてるけどな。毛皮ならクリーニングとかに持ってきたいんだけど直接剥いだもんって扱ってくれたっけ」
「くりーにんぐ?なんですか?」
「お洗濯代行みたいなもんさ」
「ほぇ…ジパングにはそんなものもあるんですねぇ」

ジパングという国がどこだか知らないので適当に相槌を打ちながらあたりを見回す。
ハートの果実…あれ師匠の家で見たな。瓶に詰められた琥珀色の液体や食べたら絶対に死ぬだろう、人の顔に見える模様の茸まである。どれもこれも用途がわからないが、何とも興味深い。

「そう言えば、旦那ぁ〜」

いつの間にかオレの隣に移動してきていたコルノが肘でオレの腹を突いた。

「なんだよいきなり」
「いや、今日はエルマーナさんはご一緒じゃないんで?もしかして喧嘩でもしたんですか?」
「んなわけあるか。あっちはワイン買いに行ってんの」
「別々なんて珍しいですねぇ。いつもはべったりなのに」
「べったりって…引きずられてるだけだって」

買い物に来るときは大抵『竜』のエルマーナなのでただ引っ張られていくことが多い。時には別の性格のエルマーナのときもあるのだが彼女が一番商人の口車に乗せられにくいというのもある。

「なら旦那、何か進展あったんですか?」
「は?」
「人気のない山の山頂付近、一つ屋根の下で二人きり!片方は何とも珍しいジパング人でもう片方は四つの性格をもつキマイラさん!これで何もないなんて言わせませんよ!」
「ないけど」
「…は?」
「いや、特にないけど」

一緒のベッドで寝ることはあるもののその先には絶対に行ってない。『獅子』から襲われようが『蛇』に誘われようが『山羊』の隣で眠ろうが今のところ健全な関係を保ったままである。
するとコルノは見せつけるように大きくため息をついた。

「旦那へたれですねぇ。折角二人きりの山奥だっていうのに。あ、それともあれですか?旦那はいわゆる誘い受けっていうやつですか?」
「………あ?」
「ジパングの女性は皆清楚で男性をたてるって言いますが男性も逆に清楚にして女性を立てるんですかね。旦那もベッドの上ではしおらしくなっちゃったりするんじゃないですか?」
「…………今度余計なことを言うと口を縫い合わすぞ」
「怖っ!」

なんて冗談を言いながらコルノの体を抱き上げた。見た目相応に軽々と持ち上がるがこれでもオレ以上の力をもつゴブリンだというのだから本当にこの世界はわからない。
だが持ち上げられた程度できゃっきゃと嬉しそうにはしゃぐ姿を見るとやっぱり見た目相応の幼さもあるのだろう。

「でも、旦那。それならこれからは気を付けた方がいいですよ」
「何に?」
「エルマーナさんのお相手をするんですから人間の旦那にはさぞ大変なことでしょう。何せあっちは四人分ですからねぇ」
「…何が?」
「そりゃ勿論夜の方でしょう。旦那も男なら女の求めには頑張って応えるもんですよ。ただ人間のままの旦那じゃ苦労は必須ですけどね」
「だから子供がそういうこと言うなっての」

そうやっていると突然店のドアが開かれる。そちらを見ればエルマーナが立っていた。手に持っているのはお目当てだったワインだろう。

「あ、エルマーナ」
「いらっしゃいませエルマーナさん」

抱き上げていたコルノを下ろして手を挙げるとどこか不機嫌そうに息を吐く。心なしか浮かべている表情もあまりいいものではない。目当てのワインではなく代わりのワインを買ってきただろうか。

「…ユウタ。さっさと行くぞ」
「?ん、わかった」

人格は紛れもない『竜』のもの。だがどことなく感情の含んだ声色は珍しい。普段から凛と構えているからかその変化はわかりやすい。そこまでワインが気に入らなかっただろうか。
考えてもわからないのでコルノに手を振って店を出ていく。途中大通りを歩いていると雑貨品が目に留まり、エルマーナの肩を叩いた。

「エルマーナ。調味料とかブラシとかいろいろ買ってっていい?」
「ふん。勝手にしろ」
「……?」

僅かな一言に込められたのは棘のある感情。それが何かを悟れるほどオレは敏感ではないが、イラついているのだろうか。
だがやはり考えてもわからない。悩んでも仕方ないのでオレはさっさと目的の物を買いに行くのだった。










その日の夜。オレはベッドに座るエルマーナの隣に同じように座っていた。手にあるのは今日買ってきたブラシで彼女の右手の『山羊』の毛皮を手入れしている。
真っ白でふわふわなそれをブラシで何度も整える。その感触が心地いいのかエルマーナは何も言わずに目を細めていた。
喋らないと誰だかわかりにくい。だがオレに手入れをさせているということは間違いなく『竜』だろう。まるで召使の様な扱いをするのは彼女しかいない。
なので何も言わずにブラシで梳いていく。ついでに爪の方も手入れをしようと爪切りを出すと突然手を掴まれた。

「ん、何?爪はよかった」
「いや…」
「…ん?」
「…なぁ、ユウタ」

瞼を閉じたまま視線を合わせず、どこか重苦しく言葉を紡ぐ。

「私は……大変な女だろうか?」
「…はぁ?」

『竜』のエルマーナはそう言った。
対してオレは首をかしげる。何を突然、言っている言葉の意味が分からない。

「何言ってんの?」
「人格は四人もいるのよ?」
「いや、知ってるけど」

『蛇』のエルマーナは心配そうにオレの顔を覗き込んでくる。

「四人が四人とも別人だぜ?体は一人だけでもアタシたちは趣味も嗜好も全く違う」
「わかってるよ」

『獅子』のエルマーナの言葉に頷く。
今の彼女は荒々しく、好戦的で肉を好む。
『竜』の彼女は凛として、常に気高くあろうとする。
『蛇』の彼女は妖しく、嫉妬深い所がある。
『山羊』の彼女は優しく、触れ合うことが大好きだ。
そんな四人の性格を十分理解しているつもりだし、最大限応えられるように料理や家事をしているつもりだ。

「そんな私達に合わせてもらって大変感謝していますが……ユウタは大変じゃないでしょうか?」
「…あぁ」

『山羊』のエルマーナの言葉にふと思い出す。どうやら昼間コルノの店のことを聞いていたらしい。彼女が言った『大変』という言葉の意味を間違ってとらえたのかもしれない。
道理であの後機嫌が悪かったわけだと納得した。

「大変だなんて思ったところで何さ。趣味嗜好が違う人が一緒にいればそう思うことなんて普通だよ」
「四人もいるのにか?私はコルノや他の魔物と違って四人分あるんだぞ?嫌味も皮肉もそれぞれ言うだろうし、価値観だって皆違っている…」

自分が納得したところで彼女は思いつめた表情のままだ。もしかしたら以前から四つの人格を持つことにコンプレックスを抱いていたのかもしれない。
確かに四人それぞれの趣味嗜好に合わせることは大変だがそれでも違うからいいのに。そう言おうとして口を噤む。これだけ思いつめられては慰めるよりもぶちまけた方がいいかもしれない。
小さく息を吐き出すと胸に秘めた思いを口にした。

「そりゃ大変なことはいくつもあるよ。いつも狩りの後は血まみれで帰ってくるから手入れが大変だし」
「な!?」
「襲うんだったらもう少し雰囲気とか考えて欲しいし」
「えっ!」
「食べた後ごちそうさまは言わないし、食器の片付けしてほしいし」
「ぐっ!」
「いい年してんだからトイレくらいは一人で行ってほしいし」
「うっ!」

言いたいことをずばずば言うと四人それぞれの人格が呻くように声を上げた。自覚はあったのか相当ダメージになったらしい。
だが、項垂れるエルマーナの頬を両手でつかんで顔を寄せる。

「でも四人いるからエルマーナなんでしょ。四人がいるからエルマーナであって、誰か一人掛けたら別人だよ。そりゃ趣味嗜好が違うからって苦労することもあるけど、嫌なんて今まで一度も思ってないよ。大変だけど全然嫌じゃないんだからさ」
「…本当か?」
「嫌だったら嫌っていうよ」
「お前嫌でも嫌っていえないだろうが」
「うぐっ!」

図星だった。

「ま、まぁ、それでもだよ。嫌って言わないのはそう思ってるからっていうのは本当の事なんだよ。こういうの騒がしくて楽しいし、オレは好きだよ。エルマーナ」
「…ふん。馬鹿者が」

とんっと額を重ねて微笑むと『竜』のエルマーナは恥ずかしそうに視線を泳がすがやがてゆっくりと瞼を閉じた。オレも同じように閉じる。
ほんのりと感じるエルマーナの体温。優しく染み込み、重なり合った部分で溶け合っていく。女性特有の甘い香りが鼻孔をくすぐり、小さく息を吐き出すとオレは両手を離して―

「だったら…その言葉、証明して見せろ」
「…え?」

添えた両手が掴まれた。

「好きだと言ったのだから、自分の言葉には責任を持て」
「えぇ!?…そりゃ、言ったけどさ…でもその好きっていうのは…」
「好きならキスしてください」
「え!?」

突然顔を出した『山羊』のエルマーナの発言に目を丸くする。

「な、何いきなり言ってんの!?」
「好きだって言うならそれくらいのことしてくれませんか?」
「いや、でもさいきなりキスって…」
「ならアタシには抱かせろ」

再び突然変わった『獅子』のエルマーナがオレの腕を取って抱き寄せた。体に回された腕はしっかりと服を掴み抜け出そうにも抜けられない。それをいいことに彼女は顔を寄せてきた。

「好きっていうなら応えてくれるよな?」
「いきなりハードル上がったんだけど!」
「何言ってんだよ。好きな奴同士なら普通にやってることじゃねぇか。それとも何か?あれだけかっこいいこと言ったくせにウソでしたってか?」
「そんなことは言わないけどさ、そういうことは…」
「…なら」

抱き寄せていたエルマーナが今度は耳元へ顔を寄せた。

「ちゃんとユウタの証を私のここに欲しいわ♪」
「っ!!」

まるで耳を舐めるかのように紡がれた言葉に背筋が震える。いつの間にか取られた手はエルマーナの下腹部に添えられていた。

「男と女だもの。するのなら最後まで責任持ってね」

『蛇』のエルマーナが妖しく言葉を囁く。声が響くたびに背筋が震え、悪寒にも似た感覚が走った。

「それとも…嫌か?」

普段凛々しく言い放つ『竜』のエルマーナが寂しげに見つめてくる。よく見れば瞳は潤み、今にも泣き出しそうな顔だった。
…そんな顔を浮かべられて断るなんてできるはずがない。オレはそっと顔を寄せると鼻先が触れ合う位置で動きを止めた。

「…?」
「目、閉じて」

流石にじっと見られているのは気恥ずかしい。それ以前にこちとらキスすら未経験。正面で見つめられて平然としていられるわけもない。
ゆっくりと瞼が閉じるのを確認するとオレもまた瞼を閉じる。そしてこのまま顔を寄せエルマーナの唇に自分の唇を重ねた。

「…ん」
「む♪」

ほんのわずかな瞬間の触れ合い。触れるだけの幼稚な口づけだが目を開けてみると顔を真っ赤にしたエルマーナが映った。オレも自覚できる程顔が熱く、きっと同じくらいに真っ赤になっている。
これで満足しただろうかと聞こうとしたらいきなり襟首を掴まれた。

「わ!」
「一度ではわからんだろうが。もう一度してみろ」
「えっ」
「もう一度だ」

真っ赤な顔をしながら掴んだ手が顎へと移る。指先で掴まれて固定されると今度はエルマーナから顔を寄せて二度目のキスを味わう。
先ほどと違ってもっと強く押し付けあう。こすれあうように動いては啄むように何度も何度も重ねあった。押し付けるたびに筆舌しがたい柔らかさが伝わり、果物でもお菓子でもない甘さを感じた。
胸の奥が熱い。言葉にできない感情が溢れだし、心臓の鼓動が早くなる。呼吸が荒くなり、徐々に自分の行動に歯止めが効かなくなっていく。
もっと欲しい、そう思った次の瞬間唇を割り開いて何かが伸びてきた。

「んむっ!?」
「んちゅ♪」

突然の事に驚いていると後頭部に手を回され、さらに深くまで差し込まれる。目を見開くと妖しい光を宿した瞳と視線がぶつかった。
『蛇』のエルマーナだ。

「んん、ちゅ、むんん♪」

唇とは違う柔らかさを持つ舌がオレの口内に入っては無遠慮に暴れまわる。歯を擦り、頬を撫で上げ、ねっとりと絡みつくように蠢いた。そして伸ばされた舌にオレの舌が触れるとここぞとばかりに絡めてくる。
にちゃにちゃとどちらのものかわからない唾液がいやらしい音を響かせる。頭の奥まで染み込んできては視界が歪み、蕩けていく。まるで『蛇』のように絡みついた舌はオレを離してくれず、感触を何度も味わうように擦りあげていく。

「ん♪はぁ…♪」

ようやく唇を離したエルマーナは満足げにため息をつき、小悪魔っぽく微笑んだ。

「ふふ♪キスしちゃった♪」
「…突然すぎるよ」
「あら、私だって我慢できないんだもの。独り占めなんてさせないわ」

そう言いながら大きな手で学ランのボタンを外され、ワイシャツも同じように外された。肌蹴た腹部を『竜』の手がゆっくりと撫でていく。その感触はしっとりとした女性の手。見た目からは想像できない優しい掌にぞくりと背筋が震える。身を捩ろうにも『山羊』の手が体を掴んで離さない。

「くすぐったいんだけどっ」
「ごめんなさい。でも、もっとユウタを感じさせて♪」

さらに肌を合わせようと着ていた衣服を脱ぎ捨てる。形のいい、大きな胸が露わになった。
重力に負けずつんと上を向き、先端には桜色の突起が鎮座している。わずかに動いただけでも揺れ、どれほど柔らかいのだろうと思わず生唾飲み込んだ。男だったら誰もが触れてみたい膨らみをみて下腹部がさらに熱くなる。

「そんなに見られると恥ずかしいわ♪」

なんて言いながらも彼女はオレを抱きしめた。柔らかな胸がオレの胸板に押し付けられ、形を変える。固くなった先端が擦れる感触がいやらしく、互いにため息が漏れた。
だがそれで止まるエルマーナではなかった。離れぬように抱きしめるとゆらりと動く『蛇』の尻尾がオレの体を這いまわり、いきなりズボンの中へと潜り込んだ。

「っ!?」

もぞもぞと蠢き纏わりついてくる。それは『山羊』のようにもこもこしているのではなく、『竜』のように冷たくしっとりしているのと違う、異質な柔らかさとしなやかさを備えた筆舌しがたい感触だった。

「何、これ…!?何してんの!?」
「うふふ♪『私』の尻尾、気持ちいいでしょう?『他』にはできないことも『私』だったらいくらでもしてあげるわよ♪」

耳元で囁きながらも尻尾が激しく蠢いた。異形のもので扱かれるという人間には絶対に真似できない感覚に恐怖にも似た感情が湧き上がってくる。だがそんなもの一瞬ですぐさま甘い痺れに変わった。

「こんなこともしてあ・げ・る♪」

そう言うと狭く湿った柔肉が、ざらついたものが纏わりついてくる。何度も抱きしめるように締め付けてはざらついたものが絡みつき、ちろちろと先端を擽った。何をされているのか見えないのに送り込まれてくる感覚に腰が震える。

「ぅあっ!?やば…っ」
「出ちゃいそう?いいわよ、我慢しないで全部出して♪」

惑わすような甘い声色に背中を押され、意識が高みへと押し上げられる。そしてなにかもわからぬ場所へと精液を吐き出した。

「んんん♪あぁ、すごい…♪ユウタのがいっぱい出てるわ♪」

何度も何度も脈打ってそこへと注ぎ込んでいく。その度柔らかな肉壁が窄まってさらに精液をねだる様に搾り取ってきた。
全て吐き出し終わると尻尾がずるずるとズボンを引張り下ろしていく。露わになった蛇の口からは白い粘液が溢れていた。

「…マジか」
「でも気持ちよかったでしょ?あんなに感じてくれたんだものね」

もしやとは思っていたけどやはり蛇だったのか。やることがオレ達には絶対にできないことだが、その快感は尋常じゃない。異形だろうがなんだろうがあんな快楽を叩き込まれてはいずれきっと抜け出せなくなる。
射精後の脱力した体で座り込んだオレの上にエルマーナが跨ると最後の衣服を脱ぎ捨てた。

「ほら、見て…」

両手で割り開かれたエルマーナの女の部分。だらしなく涎を垂らす様に愛液を滴らせるそこは今か今かと待ちわびてひくついていた。漂ってくるのは男の欲望を滾らせる女の匂い。嗅いでいるだけで頭がくらくらし、堪らなくなる。先ほど射精したというのに既にオレのものは固くそそり立っていた。

「あ、ユウタも我慢できないのね♪」

既に脱がされ露出した男の部分を見つめエルマーナは嬉しそうに笑う。そうして両手でオレの肩を掴む。

「それじゃあ…入れるわよ」

無言で頷くと彼女はゆっくり腰を下ろしていった。固くそそり立つオレのものをめがけて。先端部が触れ合うとにちゃりと水質的な音が響く。熱い粘液が伝い落ち、胸とは違う柔らかな場所へと食い込んだ。
後は力を込めるだけ。互いに見つめあうとエルマーナはオレを飲み込もうとさらに体重をかけてきた。

「ぁっあんっ♪」
「ふ、ぁ…!」

徐々に飲み込まれ、柔らかく湿った肉壁に包まれる感触に思わずうめき声が漏れた。
初めて感じる女の感触。きつくきつく締め上げて隙間なく肉壁が吸い付いてくる。さっきの『蛇』以上の快感に腰が震え、下腹部に滾る欲望がせりあがってくる。一度吐き出したからいいもののすぐに入れられては我慢できなかっただろう。
お互いが重なり合った部分を見つめていると粘液に混じって赤い滴が垂れ、二人の行為の証を残す様にシーツへと染み込んでいった。

「大丈夫?」

エルマーナの顔を覗き込むと彼女は何度も頷いた。

「大丈夫、です…から♪全然、平気ですからぁ♪」

甘い声でそう言ったのは『山羊』のエルマーナだった。だが痛いのか辛いのか、はたまた感じてくれているのかわからない。何をすべきかわからないのでそっと手を掴んで握りしめた。

「…あっ♪」

その行為に気付き、微笑むエルマーナ。そうしてどちらともなく身を寄せ合い、互いの感触を味わう。とくんとくんと激しく脈打つ鼓動が伝わり、重なり合った肌の間で体温が溶け混じった。

「ユウタ。私の中、気持ちいいですか?」
「ん。すごくいい…エルマーナは?」
「私もですよ♪ユウタがここにいるって思うと…それだけでたまりません♪」

額を重ね、肌を重ね、甘い言葉を紡がれては交わった部分から甘い痺れが広がってくる。ただ入れているだけでも気持ちよくこのままじっとしていても果ててしまうだろう。正直堪えられているのが不思議なほどだ。

「もっと気持ちよくしてあげますから…一番奥にお願いしますね♪」

そう言ってゆっくりと腰を前後に動かす。もどかしくもあるその動きだが初体験にはあまりにも強烈な快感だった。ただ入れているだけでも爆発しかねないというのにねっとりと絡みつく愛液に塗れ、燃え滾る様な熱い肉壁に擦りあげられ、隙間なく女体の味を叩き込まれては我慢なんてできやしない。
だがエルマーナはそれでいいと言わんばかりに腰を揺らす。

「エルマーナ…っ」
「あ…ぁあっ♪んっ♪ユウタが、一番気持ちいいときに…出していいですからっ♪」

快楽に蕩けた表情を浮かべながらも優しく、甘やかすような言葉にオレは彼女に頭を預ける。顔に感じる柔らかな胸の感触が心地よく、呼吸をするたびに肺を埋め尽くす甘い香りが堪らない。
徐々に湧きだす様に下腹部からせりあがってくる欲望。抑え込もうにも絡みついて離れない柔らかな肉壁や擦れゆく肉ひだが我慢するのを許さない。その感触に翻弄されていると何かが先端にくっついてきた。

「あっ♪」
「ぅあ…っ!」

周りの感触よりもやや硬めのそれが吸い付いてくるたびに腰から力が抜け、甘い快感に惑わされていく。このままではすぐに爆発してしまいそうで腰を引こうとするもオレの上に跨られてはできるはずもない。

「何、これ…?」
「わかりますか?今ユウタに当たっているのは私の子宮ですよ。ここに精液、いっぱい出してくださいね♪」
「ん…っ」

応じるように顔をあげるとすぐに唇が塞がれる。そのまま啄むようにキスを繰り返しては差し出された舌に自らを絡めにいった。
小刻みに腰が動かされ、何度も子宮口とキスをする。その度にエルマーナは艶やかな声を漏らし、甘い快楽で包んでくる。堪えようと握り合った手に力が籠るがにちゃにちゃと擦れる舌の感触に力が抜ける。
名残惜しそうに唇を離し、混ざり合った唾液が滴り落ちていく。今の感触ももう一度味わいたかったが既に限界が近づいていた。

「もう、出そう…」
「そうですか♪なら…」

突然ベッドに押し倒される。それだけではなく握り合った手が離され、手首が掴まれた。何事かと思ってエルマーナを見ればその瞳は鋭く細められ、鋭い眼光と変わっていた。

「一滴残らずアタシの中に出してもらおうか♪」
「っ!!」
「いつもいつも逃げやがって…もう逃がさなねぇぞ♪」

『獅子』のエルマーナはいやらしく笑うと力任せに腰を打ち付けてきた。

「ぁあっ♪」
「うぁっ!?」

肉と肉のぶつかり合う音が響き、子宮口に先端が食い込んだ。絞り出すように締め付けたと思ったら彼女は腰を離し、そして再び打ち付けてきた。
きつく締まる膣内に無理やり飲み込まれる。入ってくる異物を押し返さんばかりの抵抗は握りつぶされるかと思えるほどで先ほどとは全く違う。引き抜かれるときはすべて持っていかれそうになるほど吸い付いて、優しさなんて欠片もない力任せの快感だった。
先ほどの甘やかすような性行とは違う、獣の交尾の様な激しい行為。ゆっくりと高みに押し上げられていた意識が突然叩き込まれる快感に真っ白になる。

「あっ!?や、激しっ…っ!!」
「人間の女みてぇに喘ぎやがって…誘ってんのか♪」
「んなわけ…むっ!」

抗議しようにも無理やり唇を奪われた。触れるだけの切ない口づけや甘やかすような者とは違う、食らいつくかのような獣の行為。自分の欲望を満たさんがために行われたキスはあまりにも暴力的。舌を絡め、唾液を啜られ、お返しとばかりに流し込まれる。抵抗できるはずもなく飲み下すと満足そうに唇が離された。

「んはぁっ♪ほらほらほらぁ♪出せ♪全部受け止めてやるからよ♪」

実に楽しげに、肉のぶつかり合う音を響かせて荒々しく腰をふりたてるエルマーナ。唯でさえ限界が近いというのに組み伏せられてそんなことをされてはたまったものではない。敏感な先端が肉壁に引っかかれ、裏筋を舐め上げられる。子宮口の感触を味あわされては搾り取る様に締め上げられる。弾きだされる快感は一気に高みへと押し上げた。

「も、出る…っ!」
「出せっ♪全部、出しちまえっ♪」

トドメと言わんばかりに腰を落とされ子宮口に食い込んだ。組み伏せられて腰も引けず、
逃げ場など存在せずオレはエルマーナの一番奥で爆発する。

「…っぁあ!!」
「んぁああああっ♪」

湧き上がっていた欲望が弾け、燃え滾る様な熱が快感と共に放出された。何にも遮られることなく子宮の中へと注ぎ込んでいく。
吐き出される精液の感触に快楽を得ているのかエルマーナは大きな嬌声をあげた。それだけでは飽き足らず子宮口が吸い付いて一滴残らず啜り上げていく。貪欲に、とても淫らに、雌の本能に従うように雄の精液を喜んで受け止めていた。
頭の芯が痺れ、目の前が真っ白になる。体中の力が抜けただ叩き込まれる快感に悶えることしかできない。

「ぉああああああっ♪」

だらしなく唾液を垂らしながら弓なりに体を逸らしたエルマーナ。射精の感覚に彼女も絶頂を迎えたのか体が大きく震えていた。それに応じて膣内も奥へ奥へと絞り出すように撫でてくる。貪欲に求めるような動きに耐えられずオレは何度も精液を吐き出した。

「あぁ…はぁあああ♪」

ようやく収まりを見せた絶頂にエルマーナは満足げにため息を漏らすとオレの顔を覗き込んでくる。してやったぞ、そう言いたげな笑みを浮かべて。

「ごちそう様、なんてな♪」
「…っ」

この女、オレが普段から言ってることをここでやってくるか。皮肉を込めたその行為が何とも腹立たしいが組み伏せられては抵抗なんてできやしない。できることなど視線を逸らすことぐらいだ。
だがそれすらもエルマーナを悦ばせる要因にしかならない。彼女は顔を近づけてぺろりと唇を舐めた。

「んむ…っ!」
「ん…それじゃあ次はおかわりといこうか」
「…は?」
「たった一回程度で満足すると思ったか?今までどんだけ焦らされたと思ってやがる」

『獅子』のエルマーナはいやらしく唇を舐めとると耳元で囁いた。

「アタシら全員が満足するまで付き合ってもらうぜ、ユウタ♪」

そう言った次の瞬間、冷たく細められた瞳がこちらを向く。そんな顔をするのは『竜』のエルマーナしかいない。

「私はキスしか済ませていないというのにどういうことだ?」
「それは途中で変わるから…」
「言い訳など聞かん。夜があけようが何日かかろうが満足するまで相手をしろ」
「んむっ!」

噛みつくようにキスされて、唇を離されると今度の彼女は妖艶な笑みを浮かべていた。

「私なんて入れた途端に変わっちゃうんだもの。ちゃんと満足するまでユウタを感じさせてね♪」
「ぁあっ!!」

『蛇』のエルマーナにゆっくりと腰を上下させられ射精後の敏感なところを刺激される。息も詰まる様な快感に身悶えすると今度は優しくキスされる。

「ちゃんと私の時にもイってくださいね♪私もユウタに射精される感覚、感じたいんですから…ね?」

離れた時に見えたのは優しく微笑む『山羊』のエルマーナ。だがどう見ても目が笑っていなかった。どうやら皆が皆先ほどの『獅子』との行為に嫉妬をしているらしい。
複数の女性から求められることは男冥利に尽きることだが相手は四人。しかも一人が満足しても他の三人は満足しないらしい。いや、『獅子』も満足してなかったけど。
ということはこれから入れ替わり立ち替わりで四人全員を満足させなければいけないということだ。

「わかっているな、ユウタ」
「アタシだってこれでも我慢してたんだぜ?最後まで付き合えよ、ユウタ」
「大丈夫。どうなっても一生愛してあげるわ、ユウタ」
「我慢なんてしなくていいですからね。したいことがあったらなんでもしてあげますよ、ユウタ」

四人それぞれの言葉に思わず顔が引きつった。人外の、それも四人分の求めに人間の体で応じきれるだろうか。
だがこれほどの美女四人に求められて応じないのは男じゃない。好いてくれると言うのならなおの事だ。

「…ああ、もう。まったく仕方ないな」

口ではそう言いながらも応えるようにエルマーナを抱きしめる。そうして再び情事へと溺れていくのだった。

                        ―HAPPY END―
14/10/21 21:50更新 / ノワール・B・シュヴァルツ

■作者メッセージ
ということで新しい魔物娘のキマイラ編でした
四人ともそれぞれ違って、だからこそ魅力的なんですよね
一緒に暮らしたら騒がしくも楽しいことでしょう

実は他にも主人公視点の、それも現代編の方のお話多々あります
まだまだ登場していない彼の先輩や後輩、はたまた刑部狸やらサキュバス、キキーモラとまだまだ沢山控えております
そちらのほうも完成次第投稿させていただきます

ここまで読んでくださってありがとうございます!!
それでは次回もよろしくお願いします!!

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