宵の顔と晒した本性
このジパングにおいてオレが住まう場所は結構変わったところだ。というのも夜だろうが昼だろうが遠く、また山道は危ないからという理由で人間はまず近寄らない。昔ならば崇められていた神様の為に参拝する人が絶えなかったそうだが居なくなってしまっては危険を冒してまで来る意味はない。
オレは神社に住んでいた。
以前は龍神という神様が住んでいたらしいがその神様は旦那と共に別の国へと旅だったらしい。まぁ、これだけ栄えた町なのだから神様の必要なんてあまりないのだろう。それに旦那も彼女もアクティブな性格だったらしく世界をこの目で見たいとのことでこの神社から旅立ったとカラス天狗の先輩から聞いた。今では管理するのは龍神に仕えていた巫女さん一人だけというので住み込みでオレがその手伝いをするということになり、現在の自宅としてオレはここで寝泊まりしていた。
故にここにはまず人はこない。今もオレときなささん以外誰もいない。
「…龍の神社に住んでたんだな」
「ええ、同心の先輩から紹介されまして」
オレときなささんは二人で神社の縁側に座っていた。耳を澄ませれば虫の声が響き時折冷たい夜風が頬をなでていく。見上げれば淡く光る月があり、葉をつけた木々がざわめいた。
「お酒飲みます?アカオニ特製のとびきり強力な奴ですが」
「へぇ、いいもんもってんじゃねぇか」
先輩の知り合いであり、時折酒の為に水を持って行かされるからか礼として貰ったこのお酒。飲めない身としては対処に困り、だからといって貰い物を売りに出すわけにもいかずこうして台所の奥底に眠っていた。
お猪口と酒を抱えて戻りきなささんの隣へと腰を下ろす。封を開けて中身を注いで彼女へと差し出した。
「どうぞ」
「ん」
差し出すが彼女は受け取らず何かを示すように顎を遣う。その行為に首を傾げていると突然方を抱かれた。
「わっ」
「あのときみたいに飲ませてくれよ」
「あれは仕事だからやってたんですよ」
「仕事外でもやってくれたっていいだろうが」
「んな…ああ、もう仕方ありませんね」
ウシオニの力で抱かれては逃げられるはずもない。オレは小さくため息をついてお猪口に酒を注ぐと彼女の口へと差し出した。
「ん」
瞼を閉じてされるがままなきなささんの顔はまるで口づけを心待ちにするような乙女にも見える。普段の獰猛な性格を押さえれば十分美人だというのにもったいない。いや、ウシオニなのだから無茶なのかもしれないが。
「どうぞ」
柔らかな唇へ酒の入ったお猪口を差し出す。堅い陶器越しでも唇の感触が伝わり少しだけ胸が高鳴る。喉が小さく動きほぅっとため息が漏れた。
「…やっぱりいいな」
「やっぱり?オニの酒は初めてじゃないんですか?」
「違ぇよ。こうして注いでくれる相手がいるってことだ」
きなささんの腕がさらに強くオレの体を抱き寄せる。いきなりのことだったのでオレは力の働くまま引っ張られた。大きな胸が学ラン越しに押しつけられきなささんの顔がすぐ側まで近づく。
「っ」
「…やっぱり、いいもんだな」
だがオレの顔をのぞき込んでくるきなささんの顔はどことなく儚げだった。あの夜に見せた獰猛で獣のような目は寂しげな光を讃えている。
そのまま見つめられ続けるとさすがに恥ずかしいものがある。相手がウシオニだとして美女であることに変わりない。多少気の荒いところもあるが真っ直ぐ見つめられては照れてしまう。
逃げることはできないので身を捩って座り直す。きなささんと肩を並べる形で縁側に足を投げ出した。彼女は特に何も言わずオレと同じように庭先へと視線を向けた。
どちらとも無言。響く虫の声に耳を傾け、きなささんは時折注ぐ酒の味を楽しむだけだ。
だが無言の空間にしびれを切らしたのかきなささんは口火を切った。
「…なぁ」
「はい」
声に応じて視線を向ける。だがきなささんは真っ直ぐ庭先をむいたまま。それでも目はどこか憂いを讃えるように細められていた。
「少し、聞いてくれないか…?」
「…いいですよ。どうぞ、何でも話してください」
酒を注ぎきなささんの唇へと注ぐ。喉が動き飲み下したことを確認するとオレはお猪口を縁側においた。
「あたしさ、あの町の出身なんだよ」
「っ…」
やはり、と思った。
あの家を見つめる視線、浮かべていた表情、儚げな雰囲気は何を憂いていたのか。過去にあの家になにかあったのかとは思っていたがオレの憶測は間違っては居なかったらしい。
「結構有名な武家の出でよ、幼少の頃から刀を握らされたんだよ。女だって言うのに親父は無理にでも武士にしたかったらしくて泣きついたら殴られたのをよく覚えてる」
オレはきなささんの語るまま何も言わずにその言葉を聞く。酒の注いだお猪口をそのままにして。
「大人になったあたしは当時町を騒がせてた化け物退治に叩き出されたよ。その化け物の首を取ってくれば一人前だと認めてやるって親父の言葉にもう躍起になったな」
その様子がおかしかったのか彼女は小さく笑った。
「だけど、そこにいたのはあたしらの中にいた大男よりもずっと大きなウシオニさ。片腕でたやすく木々をなぎ倒すわ、吐き出す蜘蛛の糸は頑丈だわ、ようやく刀で斬っても傷はふさがってすぐに治るわ。それで気づけば……あたしは血塗れになってたんだ。がむしゃらにきっと切りつけたウシオニの血でな。もう…ずっと昔。あたしがウシオニになってからもう百年以上も前のことさ」
「百年も…ですか」
そりゃ妖怪というのは人間以上に体の器官が丈夫だったり鋭敏だったりするんだ、寿命も人間の数倍あってもおかしくはな―
「―…ん?ウシオニになってから?」
「ああ、そうさ。」
「…え?」
ちょっと待った。ウシオニって…生まれたときからそうじゃないのか?血を浴びてもウシオニになるのか?精々肉体の再生能力が半端なく性格が獰猛なだけじゃないのか?先輩はそんなことを一言も言っていなかった。いや、今聞けばどうせ「聞かれなかったからな」で終わらすだろうが。
「今は昔と違ってこの町にも妖怪がたくさんいるから対応は変わったけどさ、当時のやつらは本気であたしを殺しにかかってきたよ」
それでも彼女はオレの反応に構うことなく話を続ける。相変わらず視線は庭先に向けたままだが。
「一緒に退治に行った仲間もいつの間にか敵さ。痛くはあっても死ぬことはない体ってのは案外便利なもんだけど…元々人間の身には……さすがに辛いな」
「…」
必死にがんばってきたというのにウシオニになってしまい、挙げ句の果て人から嫌われてしまう。それがもう百年近くも前だという。今は先輩のような妖怪が町にたくさんいるからか町中を歩いても陰口を言われる程度で済むが昔はもっとひどいものだったのかもしれない。
そして今では帰る場所はなくなり、頼れる人も消え失せ、自分の手の中には何も残っていない。それが、きなささんなんだろう。
初めて出会ったときに自分をウシオニと言って嘲笑っていたあの表情。
再び出会って哀愁漂う雰囲気であの家を見つめていたあの瞳。
そして今、酒を飲みつつも過去を語るその姿。
―それはウシオニであっても―紛れもない人の顔。
寂しくて泣き出したくて、それでも泣くための涙はとうに枯れてしまっている。
頼りたい存在すら既に消え、寄り添う相手などいるはずもない。
不老不死に近いウシオニの体質のせいで時代に一人取り残されしまった。
―きなささんは…何を思っているのだろうか。
「おかげであたしは嫌われ者。かつて住んでた場所も追い出されて今や立派なウシオニさ」
それが彼女が自嘲気味に笑っていた理由だろう。
元人間故の、今の自分の姿を嘆いた結果だろう。
必ずしも変化が幸せとは限らない。
不慮の事故で人間でなくなったきなささんのように。
理由もわからずこんな時代錯誤な世界にきてしまったオレのように。
そう考えるとオレもこの女性も似ている部分があるのかもしれない。
「―なぁ」
庭先に向けられていたきなささんの視線がこちらに向いた。それだけではなく顔が近づき両腕が手首を握り、体を倒してきた。
「わっ」
気づけばオレは縁側に押し倒されていた。すぐ鼻先にあるのはきなささんの顔。浮かべている表情は切なげで、儚いもの。あの夜に見せた表情だ。
「なんでゆうたはこんなあたしにここまでするんだよ。ゆうたはこうまでされても怖くないのか?」
「え…いえ、別に」
「このまま…食い殺すことだってできるんだぞ」
見せつけるように開いた口から覗く鋭い八重歯。噛みつかれれば人間の首など容易く食いちぎれることだろう。それでも彼女はそんなことをするはずはない。付き合いは短いものでもそれぐらい雰囲気でわかる。
「そんなことしないって知ってますから」
「知ってるから、理由になるのかよ」
「それだけじゃありませんけど」
そんなことは怖がらない理由としてはほんの一欠片でしかない。本当に大切なのはもっと別なこと。オレは微笑みを浮かべ、彼女の頬に手を添えた。
「だってきなささん、女性じゃないですか」
紛れもない事実であって、覆せない真実だ。人間でなくなろうとウシオニになろうと彼女は一人の女である。
「男だったら女性を守るのが当然で、傷つけることは論外です」
昼間のチンピラのように、女性相手に刀を持ってまで傷つけるようなことをするのは男のすることじゃない。
男が女を守ることは常識。それは男が女よりも強いから。妖怪はそんなことなく男以上に強いだろうが、それでも女性であることに変わりない。
なら、守るべき相手であることに変わりない。
「そんな相手を恐れるなんて失礼極まりませんよ。それにきなささん美人ですからね。男だったら少しばかりいいかっこしたくなるんですよ」
男だからこそ見栄を張りたいし、いいところを見せたい。美人相手ならそう思うことが普通だ。オレも男であって、きなささんは美女なのだから。
からから笑って誤魔化すように様に言ったがこれが結構恥ずかしい。まともに顔を見られないなと思ってきなささんの下から抜け出すために身を捩った。すると容易く抜け出せオレは彼女の隣に座り直す。
「ほら、どうぞ」
「…は?」
「だから、どうぞ」
ぽんぽんと膝を叩くと彼女は一瞬呆けた顔を見せたが意図を察したのか上体を倒し、オレの膝の上に横たわった。生えそろった体毛が猫のように見え思わず笑みを浮かべつつその頭を撫でる。
「…何がしたいんだかわからねぇ奴だな」
「よく言われますよ」
「でも…」
顔だけこちらへ向けてきなささんはにぃっと笑った。
「悪いもんじゃないな」
「そりゃよかったですよ」
子供の頃にやって貰っていたことであり、泣きついた時にはこうして慰めてもらったものだ。泣いた時以外にもただこうしていたいだけの時もあったっけか。それが今ではオレがやる側と来た。それも相手は子供ではなく、また人でもないウシオニのきなささん。何とも奇妙な巡り合わせだ。
「…本当に変わってるよ、ゆうたは」
「嫌でしょうか?」
顔を覗き込むように体を倒す。すると心地よさそうに目を細めたきなささんの顔が映った。わずかに開いた唇の隙間から覗く八重歯は鋭く―
「嫌じゃねぇよ、むしろいい。あまりにも良すぎて―」
「―襲いたくなる」
―向けられた瞳が獰猛な光を宿した。
突然彼女の両手が伸び、オレの体を後ろへと倒してきた。先ほどと同じく鼻先まで近づいた距離。きなささんの吐息を吸い、オレの吐き出す息を吸う、それほど近い位置で彼女はまっすぐオレを見つめてくる。
「え?え…?…あの、えっと…きなささん?」
「もう三度目だ、あたしだって我慢はできねぇよ。それに、ウシオニを自宅に招くなんざ自分から襲ってくださいって言ってるもんだろ」
「え!?い、いや、そんなつもりは毛頭もなくて…」
「ゆうたになくともあたしにはあるんだ」
獰猛で凶暴で攻撃的で…非常に好色。
寂しさで押し込めた本性がむき出しになれば真っ先に浮き上がってくるのはその性質。埋まっていたはずのそれを掘り起こしてしまったのは紛れもなくオレのせいだろう。
どうやらよかれと思ってやったことが思った以上に踏み込みすぎていたらしい。今更気づいてももう遅いが。
「誘うんだったら相手を選ぶんだったな」
甘く囁くような声ではなくて、低く脅しをかけるような、それでも喜びを隠せない声色に背筋が震える。細い指先がボタンを外し、無理やり学ランを脱がされた。抵抗しようにもウシオニの力に敵うわけもなくワイシャツすら奪われる。
「へへっ♪いい体してるじゃねぇか…♪」
脱がされ夜の風の冷たさを感じる。だがそれ以上にオレよりも熱いきなささんの肌を感じた。人肌となんら変わらなく滑らかなそれはオレ以上に熱く感じられる。呼吸も荒くなっているのは酒のせいだけではないのだろう。
這うように体を擦りつけ、大きな膨らみが胸板で潰れ形を変える。熱い吐息が吹きかけられ獰猛な瞳が顔を覗き込んできた。逃げるように視線を逸らすと―
「んっ?!」
突然ぞわりと背筋に悪寒のようなものが走った。ぞろりと、首筋を生暖かいものが撫でていく。柔らかく湿り気を帯びたそれは執拗に蠢き肌を擦りあげてくる。その度背筋は震え、筆舌しがたい感覚が体中に駆け巡る。どうやらきなささんが舐めているらしい。
身を捩っても彼女の腕から逃げられるはずもない。結局オレは一方的に彼女に肌を弄ばれていた。
「ん…れろ、ちゅっ♪」
体を這いまわる指先に押し付けられる唇の感触。感じる度にきなささんは荒い息を漏らして獣の如く貪り求める。いや、正真正銘の獣だった。頭にあるのは欲を満たすことしかない、本能に従順で理性なんて欠片もない獣だった。
「なぁ…」
「え?…え?」
欲情に塗れた笑みを浮かべきなささん。人間ではなくとも美女のいやらしい笑みは見ているだけでも昂ぶってくる。だが彼女はオレ以上に昂ぶり興奮していることだろう。
「ほら、こっち向け」
「え、ぁ、んむっ!?」
顎に手を添えられて上を向かされたと思えば突然柔らかなものが押し付けられた。どことなく甘く感じられるそれは感触を確かめるように何度も押し付けられ、隙間からぬるりとした液体が滴り落ちる。それは染み込むように口内に流れ、あとは頬を伝って落ちていく。
甘く感じる粘液を飲み込みながら呼吸をしようと顔を背ける。だがウシオニに掴まれた顔を動かすことなどできやせず今度は唇を割り開いて違う柔らかさのあるものが差し込まれた。
「んむ…っ!」
「ん、んんっ♪」
先ほど感じたものよりもずっと甘いそれはオレの口内を好き勝手に暴れまわる。歯の表面をなぞるように擦りあげては舌を見つけて絡みつく。かと思えば突然啜り上げられ、唾液が口内へと流し込まれる。表面をにちゃにちゃと擦りながらも注がれる甘い唾液に頭がしびれ、激しさにより力は入らずオレはただ一方的に蹂躙されるだけだった。
解放されたのはどれくらいたってからだろう。もしかしたら数十分は重なり合っていたかもしれない。
「ぷはぁ♪」
「ふ、ぁっ…」
すると突然唇が離された。それでも長い間唇を塞がれていたことでうまく呼吸ができない。酸欠で目の前がぼやけているのだがきなささんの姿だけはハッキリと映る。
「へへ…っ」
オレを見下ろしてきなささんは小さく笑う。解放してくれたのは気遣ったものではなく次の段階へと進むためのように思えた。
「随分と余裕がねぇな。口づけも初めてだったか?」
「…っ………」
「女の匂いも染み込んでねぇんじゃそうなんだろうなぁ♪」
応えようにも声がでない。体が昂ぶってしまったせいか心臓が早鐘のように脈打ち普段の呼吸のリズムにすら落ち着かない。くらくらする。それは酸素が足りてないからか、はたまた一方的に蹂躙する口づけをされたからか。口内に残るやたらと甘い唾液を飲み下すときなささんの手が下腹部へと添えられた。
「こんなに固くしやがって…♪」
「っ!」
魅力的な美女にキスされて興奮しない男はいないだろう。それが一方的なものであってもだ。大きな手がゆっくりと撫でまわす。ただそれだけでも頭の中に突き刺さる様な快感が生まれた。
「まるで刀だな、おい♪」
細い指先がズボン越しに形をなぞり唇をいやらしく舐めた。オレの顔を一瞥すると下着ごとズボンに手をかける。力ずくでは学生服のズボンすら敵うはずもなく容易く脱がされた。
「あぁ♪いやらしい匂いだな、おい♪それに、こんなに熱く固くしてくれて…♪」
熱く怒張したオレのものを見てより一層笑みを深めたきなささんはオレの上に跨った。蜘蛛の足を広げ両手を下腹部へと伸ばしていく。指先が触れたのは彼女の女体と蜘蛛の境界部分だ。
「ほら…」
見せつけられたのは彼女の女の部分。そこにはまるで刀でなぞった様な切れ目があった。見て分かる程濡れそぼったそこから滴り落ちる粘液は物欲しげに垂らす涎のようにオレの体に落ちてくる。
「よ〜く見ておけよ…これからお前を食らう口だぞ♪」
見せつけるように指先で割り開くとくちゅりといやらしい音がした。成熟した雌の匂いが漂いオレの男を昂ぶらせ、雄を求めて引くつく様子に思わず唾を飲み込む。
「なんだ、ゆうたも我慢できねぇのか?あたしもだ♪」
指先が添えられきなささんの女が重なった。先端に押し付けられた湿った柔肉と溢れだした粘液が伝う感触。それだけでも果ててしまいそうだがこれはまだ本番ではない。
ここまで一方的に襲ってウシオニが今更躊躇うはずもなく滴る粘液を絡めながら無理やり自分の中へと押し入れた。柔らかな肉の抵抗を感じ、途中何かを突き破ったような感触があった。
「っ!!」
「あっ♪」
初めて体験する女性の味。燃え上る様な熱を持ちながらも握りしめるかのようにきつく締め上げてくるそれはきっと人間の女性相手では到底味わえぬ魔性のもの。痛みすら感じてしまいそうな窮屈な彼女の膣内で叩き込まれたのは強烈な快感だった。
「んんぁあああ…っ♪はぁっ…♪」
「…っ!」
あまりにもきつい締め付けに腰が震え下腹部で欲望が滾ってくる。今にも彼女の中へと流し込みたいという本能を刺激する強烈な刺激だ。彼女は一気に腰を落として全てを飲み込もうとしてくる。先端には肉壁とは異なる柔らかさを持ったものが押し付けられた。きなささんの一番奥、ならばこれは彼女の子宮口だろう。
「入れただけで堪らねぇか?蕩けた顔しやがって♪」
「ぁ……んむっ!」
いやらしい笑みを浮かべたきなささんは顔を覗き込んでくると再び唇を貪った。柔らかな唇で覆っては音を立てて吸い付いてくる。口づけで自分も感じているのか膣内が震え締め上げてくる。きつく、それでも痛みを与えない強さは筆舌しがたい感覚だ。それに異常なほど熱い膣内は動かずとも相当の快楽を生む。正直今は堪えるだけで精一杯なほどに。
もしもこれで動かれたらどうなるか。この獰猛な獣に貪られたらどうなるか。
それは壊されてしまうかもしれないという恐怖心だったのか、さらなる快感が欲しいという貪欲な本能だったのかはわからない。なぜなら理解するよりも先にきなささんが腰を動かしてきたからだ。
「んむっ!!」
「んん♪は、あっ♪どうだよっ、なぁっ♪」
突然唇を離すときなささんが腰を激しく打ちつけてくる。引き抜こうとする動きに抵抗して吸い付いては飲み込んでく度に熱く抱きしめてくる。歓迎するなんて生易しいものではない。啜り上げて二度と手放すまいというような反応だ。
「〜っ!!っ!っ……」
「あ、はぁあ♪どうだよっ♪気持ちよすぎて声もでねぇか♪んんっ♪」
あまりにも強烈な快感はオレの体から力を奪い、駆け巡っていく。脊髄を上っては頭の中を真っ白に染め、指先にすら震えを伝えた。
声が出ない。
力が入らない。
抵抗なんてできやしない。
止めることなどなおできない。
必死に抵抗する理性と燻り滾る本能。そのどちらとも抑え付けてがむしゃらに貪るウシオニの欲望。代わりに弾きだすのは耐えがたい人外の快感。我慢などできるはずがなかった。
「ぅ、ぁっ!!」
「あぁああっ♪」
滾っていた精液が遮られることなくきなささんの子宮へと流れ込む。だが貪欲な膣内はそれだけでは満足できずさらによこせと強く締め付けてきた。射精しているにも関わらずさらに高みへと押し上げて一滴残らず搾り取ってくる。
「ふぅ、ぁあぁぁ…♪ん、あぁ…まだ出しやがってぇ♪」
射精中腰を動かさず流れ込んでくる精液の感触に体を震わせていたきなささんは今もなお甘い声を上げていた。びくびくと体を震わせたまらぬ表情を浮かべているがもしかしたら彼女も果ててしまったのだろうか。
絶頂も収まってくると心地よい脱力感が体を支配する。だがよくよく考えてみると一方的とはいえ女性の中で射精してしまった。人間とウシオニという存在こそ違うが男と女である以上気にすべきだろう。
顔をきなささんへと向ける。彼女は荒い呼吸をしながらこちらを真っ直ぐ見下ろしていた。
「きなさ、さん…」
「いっぱい出しやがって…そんなに気持ちよかったのかよ♪」
いやらしく笑いながら彼女は床に手をついた。そのままゆっくりと腰を引き抜くのかと思ったら途中で一気に体重をかけて腰を押し付けてきた。
「う、ぁっ!?」
「んんっぁあ♪」
絶頂後の敏感になった体に再び強烈な快感が流れ込んでくる。何かと思ってみればきなささんはゆっくりと自分の唇を舐め上げた。
言葉はなくとも理解する。今のはまだ準備運動であって彼女はまだまだ続けるつもりということを。そのままの姿勢で再び淫らに腰を振るうと柔らかな膣内に擦りあげられ目の前が真っ白になる。
「一回くらいでへばんなよ♪もっともっと…沢山してやっから」
「や、め…っ」
「やめねぇよっ♪」
肉と肉のぶつかり合う音が境内に響き渡る。人気のない神聖な空間に淫らな音が響くというのは何とも背徳的だがそんなことを感じてられるほど余裕はなかった。
床に体を押し付けられて腰を引くことも叶わない。オレの上にいるきなささんはそれをいいことに何度も何度も腰を打ち付けてくる。愛液を滴らせいやらしい音を響かせて、淫らに顔を歪めては一方的に欲望を叩き込んでくる。
あまりの気持ちよさに頭の中が焼き切れそうだった。真っ白に染まっても気絶することなどできず強烈な快感に身悶えする。歯を食いしばっても力すら入らず空いた隙間からは情けない声が漏れる。
そんな声を聞くときなささんはさらに嬉しそうに笑い腰をより強く打ちつけてきた。
悶える姿を見て嗜虐心を刺激されているのか、相手を喜ばすことに快楽を得ているのか、どちらともつかない表情では何を思っているのかわからない。何かを理解するより先に快楽が頭の中を埋め尽くす。
「きな、さぁ、さん…っ!!」
「はっ♪はっ♪いいぞぉその顔♪堪らないっ♪」
強烈な快感から逃げ出そうと足をばたつかせ身を捩る。だがきなささんの蜘蛛の足がそれを阻んだ。腰を抱き、足に絡みつくと暴れることすらできなくなる。
彼女の獣欲のまま求められ、強烈な快感を叩き込まれ、一方的に犯される。蹂躙するように、凌辱するかのように。
「きなささんっま、た…っ!」
「出せよっ!あたしん中に出せっ!」
容赦なくオレを追い詰め二度目の絶頂へと押し上げてくる。何とかこらえようとしてもきなささんの膣内は我慢をあざ笑うかのように快感を叩き込んでくる。二度目で余裕ができるかと思っていたがそんな考えは甘いもので彼女は容易くオレを二度目の絶頂へと押し上げた。
「あぁあああああああああっ♪」
びくびくと盛大に体を震わせながら今まで以上のきつさで肉壁が締め上げてきた。それだけでは留まらず子宮口が精液を啜りあげるように吸い付いてくる。頭の中が焼き切れそうな熱がオレのものから何度も脈打ち吐き出された。
一度目で沢山出したとおもったが二度目も変わらぬ量を彼女の子宮へと注ぎ込んでいく。いや、注ぐというよりもそれは一方的に吸われているというべきか。絶頂へと至った甘い満足感など微塵も感じさせずたたひたすら快楽を叩き込み、その見返りとして精液を啜り上げていく。肉壁で強く擦り合わせてはもっと出せと言わんばかりに子宮口に吸い付かれた。
「あぁあ、熱いぃぃ…♪」
「はぁっ……ぁっ……は、ぁ……」
やがて快楽も徐々に引いていくと二度目の射精で完全に体は動かなくなった。数分すれば回復するだろうが今は指先すら動かすのは億劫だ。そんな状態のところにきなささんはゆっくりと体を倒してくる。
「あ、はぁ♪ん…ふぁ……はぁ♪」
満足げに呼吸をしながらきなささんはオレの体を抱きしめた。大きく実った二つの膨らみが胸板でいやらしく形を変える。少しばかり固さのある部分が擦れるのはたまらなく気持ちがいい。重なった肌の隙間には汗が滲んで不快なはずなのに体を離したいとは思えなかった。
幾分か呼吸を整えたきなささんは体を押し付けたままオレの顔を覗き込んできた。
「どうだよ、ゆうた…気持ちよかったか?」
「は、ぃ…」
その言葉にオレは素直に頷いた。正直言えば気持ちいいどころではなかったが。
「そうか♪」
オレの言葉に嬉しそうに笑うきなささん。その瞳に映るオレの顔はだらしないものになっているんだろう。だが気にかけられないほどに体は脱力感が支配し、絶頂の余韻で力が入らなくなっていた。
それはオレの上に倒れこんできたきなささんも同じだろう。いかに人外とはいえ感じるものは感じていたのだから。
だが、彼女はすぐさま体を起こしオレの顔を覗き込んできた。
「なら、もう一回」
「…え?」
「なんだよ。まだまだこれからだろ?」
ぎらつく八重歯が鋭く輝く。そこから滴る唾液が頬を濡らし近づいてきた舌で拭っていく。
いくら性欲お盛んな男子高校生とはいえ立て続けにされては辛いものがある。それ以前にこれだけ強烈な快感を連続して叩き込まれては本当に壊れてしまう。
「たった一回二回じゃたらねぇよ」
「待って、ください…ね…?」
いやらしく笑うきなささん。対してオレは自分の顔が引きつるのがわかった。
獣の本調子。これぞウシオニの本性であって、止められない本能というやつなんだろう。お年頃な高校男児の性欲すら軽く上回る獣欲というものだ。お盛んであろうが人間では太刀打ちできるはずがない。
「化け物を誘ったんだ、その責任ぐらいとれよな…♪」
気持ちいいのが嫌いではない。初めての行為に心躍らぬわけがない。だとしてもこの強烈な快感の渦へ叩き込まれるのは恐怖に似たものを感じてしまう。それに二度で既に体に力が入らないのでは気を失うのも時間の問題だろう。
「あ、あんまり激しくしないでくださいね…?」
「そりゃ無理な相談だ♪」
まるで女性みたいな一言にウシオニはいやらしく笑うと何度目かの口づけを交わす。そうして再び境内に淫らな音が響き渡っていくのだった。
―HAPPY END―
オレは神社に住んでいた。
以前は龍神という神様が住んでいたらしいがその神様は旦那と共に別の国へと旅だったらしい。まぁ、これだけ栄えた町なのだから神様の必要なんてあまりないのだろう。それに旦那も彼女もアクティブな性格だったらしく世界をこの目で見たいとのことでこの神社から旅立ったとカラス天狗の先輩から聞いた。今では管理するのは龍神に仕えていた巫女さん一人だけというので住み込みでオレがその手伝いをするということになり、現在の自宅としてオレはここで寝泊まりしていた。
故にここにはまず人はこない。今もオレときなささん以外誰もいない。
「…龍の神社に住んでたんだな」
「ええ、同心の先輩から紹介されまして」
オレときなささんは二人で神社の縁側に座っていた。耳を澄ませれば虫の声が響き時折冷たい夜風が頬をなでていく。見上げれば淡く光る月があり、葉をつけた木々がざわめいた。
「お酒飲みます?アカオニ特製のとびきり強力な奴ですが」
「へぇ、いいもんもってんじゃねぇか」
先輩の知り合いであり、時折酒の為に水を持って行かされるからか礼として貰ったこのお酒。飲めない身としては対処に困り、だからといって貰い物を売りに出すわけにもいかずこうして台所の奥底に眠っていた。
お猪口と酒を抱えて戻りきなささんの隣へと腰を下ろす。封を開けて中身を注いで彼女へと差し出した。
「どうぞ」
「ん」
差し出すが彼女は受け取らず何かを示すように顎を遣う。その行為に首を傾げていると突然方を抱かれた。
「わっ」
「あのときみたいに飲ませてくれよ」
「あれは仕事だからやってたんですよ」
「仕事外でもやってくれたっていいだろうが」
「んな…ああ、もう仕方ありませんね」
ウシオニの力で抱かれては逃げられるはずもない。オレは小さくため息をついてお猪口に酒を注ぐと彼女の口へと差し出した。
「ん」
瞼を閉じてされるがままなきなささんの顔はまるで口づけを心待ちにするような乙女にも見える。普段の獰猛な性格を押さえれば十分美人だというのにもったいない。いや、ウシオニなのだから無茶なのかもしれないが。
「どうぞ」
柔らかな唇へ酒の入ったお猪口を差し出す。堅い陶器越しでも唇の感触が伝わり少しだけ胸が高鳴る。喉が小さく動きほぅっとため息が漏れた。
「…やっぱりいいな」
「やっぱり?オニの酒は初めてじゃないんですか?」
「違ぇよ。こうして注いでくれる相手がいるってことだ」
きなささんの腕がさらに強くオレの体を抱き寄せる。いきなりのことだったのでオレは力の働くまま引っ張られた。大きな胸が学ラン越しに押しつけられきなささんの顔がすぐ側まで近づく。
「っ」
「…やっぱり、いいもんだな」
だがオレの顔をのぞき込んでくるきなささんの顔はどことなく儚げだった。あの夜に見せた獰猛で獣のような目は寂しげな光を讃えている。
そのまま見つめられ続けるとさすがに恥ずかしいものがある。相手がウシオニだとして美女であることに変わりない。多少気の荒いところもあるが真っ直ぐ見つめられては照れてしまう。
逃げることはできないので身を捩って座り直す。きなささんと肩を並べる形で縁側に足を投げ出した。彼女は特に何も言わずオレと同じように庭先へと視線を向けた。
どちらとも無言。響く虫の声に耳を傾け、きなささんは時折注ぐ酒の味を楽しむだけだ。
だが無言の空間にしびれを切らしたのかきなささんは口火を切った。
「…なぁ」
「はい」
声に応じて視線を向ける。だがきなささんは真っ直ぐ庭先をむいたまま。それでも目はどこか憂いを讃えるように細められていた。
「少し、聞いてくれないか…?」
「…いいですよ。どうぞ、何でも話してください」
酒を注ぎきなささんの唇へと注ぐ。喉が動き飲み下したことを確認するとオレはお猪口を縁側においた。
「あたしさ、あの町の出身なんだよ」
「っ…」
やはり、と思った。
あの家を見つめる視線、浮かべていた表情、儚げな雰囲気は何を憂いていたのか。過去にあの家になにかあったのかとは思っていたがオレの憶測は間違っては居なかったらしい。
「結構有名な武家の出でよ、幼少の頃から刀を握らされたんだよ。女だって言うのに親父は無理にでも武士にしたかったらしくて泣きついたら殴られたのをよく覚えてる」
オレはきなささんの語るまま何も言わずにその言葉を聞く。酒の注いだお猪口をそのままにして。
「大人になったあたしは当時町を騒がせてた化け物退治に叩き出されたよ。その化け物の首を取ってくれば一人前だと認めてやるって親父の言葉にもう躍起になったな」
その様子がおかしかったのか彼女は小さく笑った。
「だけど、そこにいたのはあたしらの中にいた大男よりもずっと大きなウシオニさ。片腕でたやすく木々をなぎ倒すわ、吐き出す蜘蛛の糸は頑丈だわ、ようやく刀で斬っても傷はふさがってすぐに治るわ。それで気づけば……あたしは血塗れになってたんだ。がむしゃらにきっと切りつけたウシオニの血でな。もう…ずっと昔。あたしがウシオニになってからもう百年以上も前のことさ」
「百年も…ですか」
そりゃ妖怪というのは人間以上に体の器官が丈夫だったり鋭敏だったりするんだ、寿命も人間の数倍あってもおかしくはな―
「―…ん?ウシオニになってから?」
「ああ、そうさ。」
「…え?」
ちょっと待った。ウシオニって…生まれたときからそうじゃないのか?血を浴びてもウシオニになるのか?精々肉体の再生能力が半端なく性格が獰猛なだけじゃないのか?先輩はそんなことを一言も言っていなかった。いや、今聞けばどうせ「聞かれなかったからな」で終わらすだろうが。
「今は昔と違ってこの町にも妖怪がたくさんいるから対応は変わったけどさ、当時のやつらは本気であたしを殺しにかかってきたよ」
それでも彼女はオレの反応に構うことなく話を続ける。相変わらず視線は庭先に向けたままだが。
「一緒に退治に行った仲間もいつの間にか敵さ。痛くはあっても死ぬことはない体ってのは案外便利なもんだけど…元々人間の身には……さすがに辛いな」
「…」
必死にがんばってきたというのにウシオニになってしまい、挙げ句の果て人から嫌われてしまう。それがもう百年近くも前だという。今は先輩のような妖怪が町にたくさんいるからか町中を歩いても陰口を言われる程度で済むが昔はもっとひどいものだったのかもしれない。
そして今では帰る場所はなくなり、頼れる人も消え失せ、自分の手の中には何も残っていない。それが、きなささんなんだろう。
初めて出会ったときに自分をウシオニと言って嘲笑っていたあの表情。
再び出会って哀愁漂う雰囲気であの家を見つめていたあの瞳。
そして今、酒を飲みつつも過去を語るその姿。
―それはウシオニであっても―紛れもない人の顔。
寂しくて泣き出したくて、それでも泣くための涙はとうに枯れてしまっている。
頼りたい存在すら既に消え、寄り添う相手などいるはずもない。
不老不死に近いウシオニの体質のせいで時代に一人取り残されしまった。
―きなささんは…何を思っているのだろうか。
「おかげであたしは嫌われ者。かつて住んでた場所も追い出されて今や立派なウシオニさ」
それが彼女が自嘲気味に笑っていた理由だろう。
元人間故の、今の自分の姿を嘆いた結果だろう。
必ずしも変化が幸せとは限らない。
不慮の事故で人間でなくなったきなささんのように。
理由もわからずこんな時代錯誤な世界にきてしまったオレのように。
そう考えるとオレもこの女性も似ている部分があるのかもしれない。
「―なぁ」
庭先に向けられていたきなささんの視線がこちらに向いた。それだけではなく顔が近づき両腕が手首を握り、体を倒してきた。
「わっ」
気づけばオレは縁側に押し倒されていた。すぐ鼻先にあるのはきなささんの顔。浮かべている表情は切なげで、儚いもの。あの夜に見せた表情だ。
「なんでゆうたはこんなあたしにここまでするんだよ。ゆうたはこうまでされても怖くないのか?」
「え…いえ、別に」
「このまま…食い殺すことだってできるんだぞ」
見せつけるように開いた口から覗く鋭い八重歯。噛みつかれれば人間の首など容易く食いちぎれることだろう。それでも彼女はそんなことをするはずはない。付き合いは短いものでもそれぐらい雰囲気でわかる。
「そんなことしないって知ってますから」
「知ってるから、理由になるのかよ」
「それだけじゃありませんけど」
そんなことは怖がらない理由としてはほんの一欠片でしかない。本当に大切なのはもっと別なこと。オレは微笑みを浮かべ、彼女の頬に手を添えた。
「だってきなささん、女性じゃないですか」
紛れもない事実であって、覆せない真実だ。人間でなくなろうとウシオニになろうと彼女は一人の女である。
「男だったら女性を守るのが当然で、傷つけることは論外です」
昼間のチンピラのように、女性相手に刀を持ってまで傷つけるようなことをするのは男のすることじゃない。
男が女を守ることは常識。それは男が女よりも強いから。妖怪はそんなことなく男以上に強いだろうが、それでも女性であることに変わりない。
なら、守るべき相手であることに変わりない。
「そんな相手を恐れるなんて失礼極まりませんよ。それにきなささん美人ですからね。男だったら少しばかりいいかっこしたくなるんですよ」
男だからこそ見栄を張りたいし、いいところを見せたい。美人相手ならそう思うことが普通だ。オレも男であって、きなささんは美女なのだから。
からから笑って誤魔化すように様に言ったがこれが結構恥ずかしい。まともに顔を見られないなと思ってきなささんの下から抜け出すために身を捩った。すると容易く抜け出せオレは彼女の隣に座り直す。
「ほら、どうぞ」
「…は?」
「だから、どうぞ」
ぽんぽんと膝を叩くと彼女は一瞬呆けた顔を見せたが意図を察したのか上体を倒し、オレの膝の上に横たわった。生えそろった体毛が猫のように見え思わず笑みを浮かべつつその頭を撫でる。
「…何がしたいんだかわからねぇ奴だな」
「よく言われますよ」
「でも…」
顔だけこちらへ向けてきなささんはにぃっと笑った。
「悪いもんじゃないな」
「そりゃよかったですよ」
子供の頃にやって貰っていたことであり、泣きついた時にはこうして慰めてもらったものだ。泣いた時以外にもただこうしていたいだけの時もあったっけか。それが今ではオレがやる側と来た。それも相手は子供ではなく、また人でもないウシオニのきなささん。何とも奇妙な巡り合わせだ。
「…本当に変わってるよ、ゆうたは」
「嫌でしょうか?」
顔を覗き込むように体を倒す。すると心地よさそうに目を細めたきなささんの顔が映った。わずかに開いた唇の隙間から覗く八重歯は鋭く―
「嫌じゃねぇよ、むしろいい。あまりにも良すぎて―」
「―襲いたくなる」
―向けられた瞳が獰猛な光を宿した。
突然彼女の両手が伸び、オレの体を後ろへと倒してきた。先ほどと同じく鼻先まで近づいた距離。きなささんの吐息を吸い、オレの吐き出す息を吸う、それほど近い位置で彼女はまっすぐオレを見つめてくる。
「え?え…?…あの、えっと…きなささん?」
「もう三度目だ、あたしだって我慢はできねぇよ。それに、ウシオニを自宅に招くなんざ自分から襲ってくださいって言ってるもんだろ」
「え!?い、いや、そんなつもりは毛頭もなくて…」
「ゆうたになくともあたしにはあるんだ」
獰猛で凶暴で攻撃的で…非常に好色。
寂しさで押し込めた本性がむき出しになれば真っ先に浮き上がってくるのはその性質。埋まっていたはずのそれを掘り起こしてしまったのは紛れもなくオレのせいだろう。
どうやらよかれと思ってやったことが思った以上に踏み込みすぎていたらしい。今更気づいてももう遅いが。
「誘うんだったら相手を選ぶんだったな」
甘く囁くような声ではなくて、低く脅しをかけるような、それでも喜びを隠せない声色に背筋が震える。細い指先がボタンを外し、無理やり学ランを脱がされた。抵抗しようにもウシオニの力に敵うわけもなくワイシャツすら奪われる。
「へへっ♪いい体してるじゃねぇか…♪」
脱がされ夜の風の冷たさを感じる。だがそれ以上にオレよりも熱いきなささんの肌を感じた。人肌となんら変わらなく滑らかなそれはオレ以上に熱く感じられる。呼吸も荒くなっているのは酒のせいだけではないのだろう。
這うように体を擦りつけ、大きな膨らみが胸板で潰れ形を変える。熱い吐息が吹きかけられ獰猛な瞳が顔を覗き込んできた。逃げるように視線を逸らすと―
「んっ?!」
突然ぞわりと背筋に悪寒のようなものが走った。ぞろりと、首筋を生暖かいものが撫でていく。柔らかく湿り気を帯びたそれは執拗に蠢き肌を擦りあげてくる。その度背筋は震え、筆舌しがたい感覚が体中に駆け巡る。どうやらきなささんが舐めているらしい。
身を捩っても彼女の腕から逃げられるはずもない。結局オレは一方的に彼女に肌を弄ばれていた。
「ん…れろ、ちゅっ♪」
体を這いまわる指先に押し付けられる唇の感触。感じる度にきなささんは荒い息を漏らして獣の如く貪り求める。いや、正真正銘の獣だった。頭にあるのは欲を満たすことしかない、本能に従順で理性なんて欠片もない獣だった。
「なぁ…」
「え?…え?」
欲情に塗れた笑みを浮かべきなささん。人間ではなくとも美女のいやらしい笑みは見ているだけでも昂ぶってくる。だが彼女はオレ以上に昂ぶり興奮していることだろう。
「ほら、こっち向け」
「え、ぁ、んむっ!?」
顎に手を添えられて上を向かされたと思えば突然柔らかなものが押し付けられた。どことなく甘く感じられるそれは感触を確かめるように何度も押し付けられ、隙間からぬるりとした液体が滴り落ちる。それは染み込むように口内に流れ、あとは頬を伝って落ちていく。
甘く感じる粘液を飲み込みながら呼吸をしようと顔を背ける。だがウシオニに掴まれた顔を動かすことなどできやせず今度は唇を割り開いて違う柔らかさのあるものが差し込まれた。
「んむ…っ!」
「ん、んんっ♪」
先ほど感じたものよりもずっと甘いそれはオレの口内を好き勝手に暴れまわる。歯の表面をなぞるように擦りあげては舌を見つけて絡みつく。かと思えば突然啜り上げられ、唾液が口内へと流し込まれる。表面をにちゃにちゃと擦りながらも注がれる甘い唾液に頭がしびれ、激しさにより力は入らずオレはただ一方的に蹂躙されるだけだった。
解放されたのはどれくらいたってからだろう。もしかしたら数十分は重なり合っていたかもしれない。
「ぷはぁ♪」
「ふ、ぁっ…」
すると突然唇が離された。それでも長い間唇を塞がれていたことでうまく呼吸ができない。酸欠で目の前がぼやけているのだがきなささんの姿だけはハッキリと映る。
「へへ…っ」
オレを見下ろしてきなささんは小さく笑う。解放してくれたのは気遣ったものではなく次の段階へと進むためのように思えた。
「随分と余裕がねぇな。口づけも初めてだったか?」
「…っ………」
「女の匂いも染み込んでねぇんじゃそうなんだろうなぁ♪」
応えようにも声がでない。体が昂ぶってしまったせいか心臓が早鐘のように脈打ち普段の呼吸のリズムにすら落ち着かない。くらくらする。それは酸素が足りてないからか、はたまた一方的に蹂躙する口づけをされたからか。口内に残るやたらと甘い唾液を飲み下すときなささんの手が下腹部へと添えられた。
「こんなに固くしやがって…♪」
「っ!」
魅力的な美女にキスされて興奮しない男はいないだろう。それが一方的なものであってもだ。大きな手がゆっくりと撫でまわす。ただそれだけでも頭の中に突き刺さる様な快感が生まれた。
「まるで刀だな、おい♪」
細い指先がズボン越しに形をなぞり唇をいやらしく舐めた。オレの顔を一瞥すると下着ごとズボンに手をかける。力ずくでは学生服のズボンすら敵うはずもなく容易く脱がされた。
「あぁ♪いやらしい匂いだな、おい♪それに、こんなに熱く固くしてくれて…♪」
熱く怒張したオレのものを見てより一層笑みを深めたきなささんはオレの上に跨った。蜘蛛の足を広げ両手を下腹部へと伸ばしていく。指先が触れたのは彼女の女体と蜘蛛の境界部分だ。
「ほら…」
見せつけられたのは彼女の女の部分。そこにはまるで刀でなぞった様な切れ目があった。見て分かる程濡れそぼったそこから滴り落ちる粘液は物欲しげに垂らす涎のようにオレの体に落ちてくる。
「よ〜く見ておけよ…これからお前を食らう口だぞ♪」
見せつけるように指先で割り開くとくちゅりといやらしい音がした。成熟した雌の匂いが漂いオレの男を昂ぶらせ、雄を求めて引くつく様子に思わず唾を飲み込む。
「なんだ、ゆうたも我慢できねぇのか?あたしもだ♪」
指先が添えられきなささんの女が重なった。先端に押し付けられた湿った柔肉と溢れだした粘液が伝う感触。それだけでも果ててしまいそうだがこれはまだ本番ではない。
ここまで一方的に襲ってウシオニが今更躊躇うはずもなく滴る粘液を絡めながら無理やり自分の中へと押し入れた。柔らかな肉の抵抗を感じ、途中何かを突き破ったような感触があった。
「っ!!」
「あっ♪」
初めて体験する女性の味。燃え上る様な熱を持ちながらも握りしめるかのようにきつく締め上げてくるそれはきっと人間の女性相手では到底味わえぬ魔性のもの。痛みすら感じてしまいそうな窮屈な彼女の膣内で叩き込まれたのは強烈な快感だった。
「んんぁあああ…っ♪はぁっ…♪」
「…っ!」
あまりにもきつい締め付けに腰が震え下腹部で欲望が滾ってくる。今にも彼女の中へと流し込みたいという本能を刺激する強烈な刺激だ。彼女は一気に腰を落として全てを飲み込もうとしてくる。先端には肉壁とは異なる柔らかさを持ったものが押し付けられた。きなささんの一番奥、ならばこれは彼女の子宮口だろう。
「入れただけで堪らねぇか?蕩けた顔しやがって♪」
「ぁ……んむっ!」
いやらしい笑みを浮かべたきなささんは顔を覗き込んでくると再び唇を貪った。柔らかな唇で覆っては音を立てて吸い付いてくる。口づけで自分も感じているのか膣内が震え締め上げてくる。きつく、それでも痛みを与えない強さは筆舌しがたい感覚だ。それに異常なほど熱い膣内は動かずとも相当の快楽を生む。正直今は堪えるだけで精一杯なほどに。
もしもこれで動かれたらどうなるか。この獰猛な獣に貪られたらどうなるか。
それは壊されてしまうかもしれないという恐怖心だったのか、さらなる快感が欲しいという貪欲な本能だったのかはわからない。なぜなら理解するよりも先にきなささんが腰を動かしてきたからだ。
「んむっ!!」
「んん♪は、あっ♪どうだよっ、なぁっ♪」
突然唇を離すときなささんが腰を激しく打ちつけてくる。引き抜こうとする動きに抵抗して吸い付いては飲み込んでく度に熱く抱きしめてくる。歓迎するなんて生易しいものではない。啜り上げて二度と手放すまいというような反応だ。
「〜っ!!っ!っ……」
「あ、はぁあ♪どうだよっ♪気持ちよすぎて声もでねぇか♪んんっ♪」
あまりにも強烈な快感はオレの体から力を奪い、駆け巡っていく。脊髄を上っては頭の中を真っ白に染め、指先にすら震えを伝えた。
声が出ない。
力が入らない。
抵抗なんてできやしない。
止めることなどなおできない。
必死に抵抗する理性と燻り滾る本能。そのどちらとも抑え付けてがむしゃらに貪るウシオニの欲望。代わりに弾きだすのは耐えがたい人外の快感。我慢などできるはずがなかった。
「ぅ、ぁっ!!」
「あぁああっ♪」
滾っていた精液が遮られることなくきなささんの子宮へと流れ込む。だが貪欲な膣内はそれだけでは満足できずさらによこせと強く締め付けてきた。射精しているにも関わらずさらに高みへと押し上げて一滴残らず搾り取ってくる。
「ふぅ、ぁあぁぁ…♪ん、あぁ…まだ出しやがってぇ♪」
射精中腰を動かさず流れ込んでくる精液の感触に体を震わせていたきなささんは今もなお甘い声を上げていた。びくびくと体を震わせたまらぬ表情を浮かべているがもしかしたら彼女も果ててしまったのだろうか。
絶頂も収まってくると心地よい脱力感が体を支配する。だがよくよく考えてみると一方的とはいえ女性の中で射精してしまった。人間とウシオニという存在こそ違うが男と女である以上気にすべきだろう。
顔をきなささんへと向ける。彼女は荒い呼吸をしながらこちらを真っ直ぐ見下ろしていた。
「きなさ、さん…」
「いっぱい出しやがって…そんなに気持ちよかったのかよ♪」
いやらしく笑いながら彼女は床に手をついた。そのままゆっくりと腰を引き抜くのかと思ったら途中で一気に体重をかけて腰を押し付けてきた。
「う、ぁっ!?」
「んんっぁあ♪」
絶頂後の敏感になった体に再び強烈な快感が流れ込んでくる。何かと思ってみればきなささんはゆっくりと自分の唇を舐め上げた。
言葉はなくとも理解する。今のはまだ準備運動であって彼女はまだまだ続けるつもりということを。そのままの姿勢で再び淫らに腰を振るうと柔らかな膣内に擦りあげられ目の前が真っ白になる。
「一回くらいでへばんなよ♪もっともっと…沢山してやっから」
「や、め…っ」
「やめねぇよっ♪」
肉と肉のぶつかり合う音が境内に響き渡る。人気のない神聖な空間に淫らな音が響くというのは何とも背徳的だがそんなことを感じてられるほど余裕はなかった。
床に体を押し付けられて腰を引くことも叶わない。オレの上にいるきなささんはそれをいいことに何度も何度も腰を打ち付けてくる。愛液を滴らせいやらしい音を響かせて、淫らに顔を歪めては一方的に欲望を叩き込んでくる。
あまりの気持ちよさに頭の中が焼き切れそうだった。真っ白に染まっても気絶することなどできず強烈な快感に身悶えする。歯を食いしばっても力すら入らず空いた隙間からは情けない声が漏れる。
そんな声を聞くときなささんはさらに嬉しそうに笑い腰をより強く打ちつけてきた。
悶える姿を見て嗜虐心を刺激されているのか、相手を喜ばすことに快楽を得ているのか、どちらともつかない表情では何を思っているのかわからない。何かを理解するより先に快楽が頭の中を埋め尽くす。
「きな、さぁ、さん…っ!!」
「はっ♪はっ♪いいぞぉその顔♪堪らないっ♪」
強烈な快感から逃げ出そうと足をばたつかせ身を捩る。だがきなささんの蜘蛛の足がそれを阻んだ。腰を抱き、足に絡みつくと暴れることすらできなくなる。
彼女の獣欲のまま求められ、強烈な快感を叩き込まれ、一方的に犯される。蹂躙するように、凌辱するかのように。
「きなささんっま、た…っ!」
「出せよっ!あたしん中に出せっ!」
容赦なくオレを追い詰め二度目の絶頂へと押し上げてくる。何とかこらえようとしてもきなささんの膣内は我慢をあざ笑うかのように快感を叩き込んでくる。二度目で余裕ができるかと思っていたがそんな考えは甘いもので彼女は容易くオレを二度目の絶頂へと押し上げた。
「あぁあああああああああっ♪」
びくびくと盛大に体を震わせながら今まで以上のきつさで肉壁が締め上げてきた。それだけでは留まらず子宮口が精液を啜りあげるように吸い付いてくる。頭の中が焼き切れそうな熱がオレのものから何度も脈打ち吐き出された。
一度目で沢山出したとおもったが二度目も変わらぬ量を彼女の子宮へと注ぎ込んでいく。いや、注ぐというよりもそれは一方的に吸われているというべきか。絶頂へと至った甘い満足感など微塵も感じさせずたたひたすら快楽を叩き込み、その見返りとして精液を啜り上げていく。肉壁で強く擦り合わせてはもっと出せと言わんばかりに子宮口に吸い付かれた。
「あぁあ、熱いぃぃ…♪」
「はぁっ……ぁっ……は、ぁ……」
やがて快楽も徐々に引いていくと二度目の射精で完全に体は動かなくなった。数分すれば回復するだろうが今は指先すら動かすのは億劫だ。そんな状態のところにきなささんはゆっくりと体を倒してくる。
「あ、はぁ♪ん…ふぁ……はぁ♪」
満足げに呼吸をしながらきなささんはオレの体を抱きしめた。大きく実った二つの膨らみが胸板でいやらしく形を変える。少しばかり固さのある部分が擦れるのはたまらなく気持ちがいい。重なった肌の隙間には汗が滲んで不快なはずなのに体を離したいとは思えなかった。
幾分か呼吸を整えたきなささんは体を押し付けたままオレの顔を覗き込んできた。
「どうだよ、ゆうた…気持ちよかったか?」
「は、ぃ…」
その言葉にオレは素直に頷いた。正直言えば気持ちいいどころではなかったが。
「そうか♪」
オレの言葉に嬉しそうに笑うきなささん。その瞳に映るオレの顔はだらしないものになっているんだろう。だが気にかけられないほどに体は脱力感が支配し、絶頂の余韻で力が入らなくなっていた。
それはオレの上に倒れこんできたきなささんも同じだろう。いかに人外とはいえ感じるものは感じていたのだから。
だが、彼女はすぐさま体を起こしオレの顔を覗き込んできた。
「なら、もう一回」
「…え?」
「なんだよ。まだまだこれからだろ?」
ぎらつく八重歯が鋭く輝く。そこから滴る唾液が頬を濡らし近づいてきた舌で拭っていく。
いくら性欲お盛んな男子高校生とはいえ立て続けにされては辛いものがある。それ以前にこれだけ強烈な快感を連続して叩き込まれては本当に壊れてしまう。
「たった一回二回じゃたらねぇよ」
「待って、ください…ね…?」
いやらしく笑うきなささん。対してオレは自分の顔が引きつるのがわかった。
獣の本調子。これぞウシオニの本性であって、止められない本能というやつなんだろう。お年頃な高校男児の性欲すら軽く上回る獣欲というものだ。お盛んであろうが人間では太刀打ちできるはずがない。
「化け物を誘ったんだ、その責任ぐらいとれよな…♪」
気持ちいいのが嫌いではない。初めての行為に心躍らぬわけがない。だとしてもこの強烈な快感の渦へ叩き込まれるのは恐怖に似たものを感じてしまう。それに二度で既に体に力が入らないのでは気を失うのも時間の問題だろう。
「あ、あんまり激しくしないでくださいね…?」
「そりゃ無理な相談だ♪」
まるで女性みたいな一言にウシオニはいやらしく笑うと何度目かの口づけを交わす。そうして再び境内に淫らな音が響き渡っていくのだった。
―HAPPY END―
14/07/13 22:53更新 / ノワール・B・シュヴァルツ
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